説明

光ディスク装置及び再生パワー制御方法

【課題】様々な記録状態にある光ディスクに対し再生耐力を劣化させることなく再生を行うこと。
【解決手段】マイコン1は、測定される再生RF信号の品質を目標とする参照値と比較してレーザダイオード3の再生パワーを制御する。測定されるRF振幅レベルHenv,Lenvが参照値から変化したとき、測定される変調度Mと非対称性βがいずれも参照値から変化しない場合はレーザダイオードの再生パワーを調整し、測定される変調度Mと非対称性βのいずれかが参照値から変化した場合はレーザダイオードの再生パワーを調整しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光ディスクからデータを再生する光ディスク装置及び再生時に光ディスクに照射するレーザ光の再生パワーの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスク装置では光ディスクにレーザ光を照射してデータを再生する際、光ディスク上の既記録領域のデータを誤記録或いは誤消去しない程度のレーザパワーで照射して再生を行なう。レーザパワーを許容値を超えて照射すると、光ディスクからのデータの再生可能回数(以下、再生耐力と呼ぶ)が劣化する問題が生じる。再生時のレーザパワー(再生パワー)の最適化に関しては、再生時に得られるRF振幅レベルや歪み振幅レベルを検出し、これらの検出値が予め定められた適正値に維持されるよう、再生パワーの制御を行うのが一般的である(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−285540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
デジタルメディアの発展によりユーザの扱うデータ量は増加し、光ディスクのさらなる大容量化が求められている。その実現手段として、複数の記録層を有する光ディスク(以下、多層ディスクと称す)が開発され、3層或いは4層以上の記録層を有する多層ディスクが標準化されている。
【0005】
従来の光ディスク装置では、記録層に印加すべき光エネルギーの最適値はメディア(光ディスク)の種類で決まっており、再生時には必要なエネルギーに応じた再生パワーを供給して再生動作を行っている。しかしながら多層ディスクの場合には、再生対象となる記録層(以下、目的層と呼ぶ)より手前の層の記録状態(既記録/未記録)により途中の透過率やS/Nが変化するため、目的層に到達するレーザ光のエネルギーに変動が生じる。例えば10層などの超多層ディスクにおいて最奥層L0を再生する場合を想定すると、手前層L1〜L9の領域が全て既記録の状態と全て未記録の状態とでは、最奥層L0に到達するレーザ光のエネルギーが大きく変動してしまう。このような状況で、供給側から一定強度の再生パワーを供給して再生を行うと、目的層の受けるエネルギーが許容値を超え、光ディスクの再生耐力を劣化させてしまう恐れがある。
【0006】
前記特許文献1などに記載される技術は、再生時のRF振幅レベルや歪み振幅レベルの検出値が適正値となるように再生パワーを設定するものである。この方法は目的層の受けるレーザ光のエネルギーの大きさを反映したものではないため、照射エネルギーが許容値を超えて再生耐力の劣化を招く恐れがある。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、様々な記録状態にある光ディスクに対し再生耐力を劣化させることなく再生を行う光ディスク装置と再生パワーの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、光ディスクにレーザ光を照射してデータを再生する光ディスク装置において、レーザダイオードから出射されたレーザ光を光ディスクに照射し光ディスクからの反射光を検出する光ピックアップと、レーザダイオードを発光するための電流を供給するレーザドライバと、光ピックアップで検出した信号を処理してデータを再生する信号処理部と、装置全体の動作を制御するマイコンを備え、マイコンは、測定される再生RF信号の品質を目標とする参照値と比較してレーザダイオードの再生パワーを制御するものであって、測定されるRF振幅レベルが参照値から変化したとき、測定される変調度Mと非対称性βがいずれも参照値から変化しない場合はレーザダイオードの再生パワーを調整し、測定される変調度Mと非対称性βのいずれかが参照値から変化した場合はレーザダイオードの再生パワーを調整しない構成とする。
【0009】
本発明は、再生時に光ディスクに照射するレーザ光の再生パワーの制御方法において、光ディスクから得られる再生RF信号の品質を測定するステップと、測定した品質を目標とする参照値と比較してレーザ光の再生パワーを制御するステップを備え、測定されるRF振幅レベルが参照値から変化したとき、測定される変調度Mと非対称性βがいずれも参照値から変化しない場合は再生パワーを調整し、測定される変調度Mと非対称性βのいずれかが参照値から変化した場合は再生パワーを調整しないよう制御する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、様々な記録状態にある光ディスクに対し再生耐力を劣化させることなく再生動作を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明にかかる光ディスク装置の一実施例を示すブロック構成図。
【図2】光ディスクから得られる再生信号波形の一例を示す図。
【図3】様々な記録状態の光ディスクに一定の再生パワーを照射した場合の再生特性を示す図。
【図4】様々な記録状態の光ディスクに再生パワーを制御して照射した場合の再生特性を示す図。
【図5】本実施例の動作に関連する光ディスクの記録領域を示す図。
【図6】本発明にかかる再生パワーの制御方法の一例を示すフローチャート。
【図7】再生品質の初期参照値の決定法の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例を図面を用いて説明する。
図1は、本発明にかかる光ディスク装置の一実施例を示すブロック構成図である。なお、本発明に直接関与しないブロックに関しては記載を省略している。
【0013】
本実施例の光ディスク装置は、大別してマイコン1、波形等化器11、信号処理器12、光ピックアップ13で構成される。光ピックアップ13は、レーザドライバ2、レーザダイオード3、ビームスプリッタ4、パワーモニタ5、1/4波長板6、対物レンズ7、偏光ビームスプリッタ9、光検出器(ディテクタ)10、自動パワー制御器(APC:Auto Power Control)14を有する。
【0014】
マイコン1は、図示しないATAPIなどのインターフェースを通じてPCなどのホスト装置と通信を行う。またマイコン1は装置全体の制御を行うが、その1つとしてレーザドライバ2に対し発光制御を行う。レーザドライバ2は、マイコン1の制御に応じてレーザダイオード3を駆動する電流を出力する。レーザダイオード3は、レーザドライバ2の駆動電流に応じた発光パワーでレーザ光を出射する。パワーモニタ5は、ビームスプリッタ4を介してレーザダイオード3の発光パワーを検出し、検出したパワーを電圧値に変換してAPC14に出力する。APC14は、レーザドライバ2の温度、経時変化等により駆動電流に対する出力パワー値が変動することを補正するため、出力パワーが一定になるよう帰還をかける。1/4波長板6は、ビームスプリッタ4を透過したレーザの位相を1/4波長ずらし偏光方向を変化させる。対物レンズ7は、レーザ光を光ディスク8の記録層に集光させる。なお、多層ディスクを再生する場合には、対物レンズ7を駆動制御することによりレーザ光の焦点を所望の記録層に切り替える。また、図1ではレーザダイオード3とパワーモニタ5を分離して搭載した例を示したが、パワーモニタをパッケージングし、検出したパワーをマイコン1に出力するレーザダイオードを用いても良い。その場合、光ピックアップの設計上、省スペース化や制御が容易になる。
【0015】
光ディスク8にて反射したレーザ光は、光ディスク8の情報を光の強度変化として保持している。再生を行う際には、光ディスク8にて反射したレーザ光を1/4波長板6にて偏光方向を変化させる。偏光ビームスプリッタ9にてレーザ光を反射させ、ディテクタ10に集光する。ディテクタ10は集光したレーザ光を検出し、レーザ光の強度に応じた信号を波形等化器11に出力する。波形等化器11は、ディテクタ10によって検出された信号波形に対して等化、増幅などの処理を行い、信号処理器12に出力する。信号処理器12は、波形等化器11によって出力された信号波形に対し、アナログ/デジタル変換、等化、デコードなどの信号処理を行い、デコードしたデータをマイコン1に出力する。
【0016】
本実施例においてマイコン1は、光ディスクから再生されるRF信号を評価することで、レーザダイオード3から出射する再生時のレーザパワーを適切なパワーとなるように制御を行う。しかもこの再生パワーの制御は、ユーザデータの再生動作と並行して行うようにしている。まず、波形等化器11によって出力された信号波形について、RF振幅の上レベルHenvと下レベルLenv、変調度M、及び非対称性βなどの再生品質を測定する。これらのパラメータについてその定義を説明する。
【0017】
図2は、光ディスクから得られる再生信号波形の一例を示す図である。ここでは、RF信号に含まれる低周波信号21と高周波信号22の2種類の信号を代表として示す。例えば低周波信号21は8T信号、高周波信号22は2T信号が相当する。
【0018】
マイコン1は、信号波形の基準レベル20をゼロレベル(GND)として低周波信号21の上レベル(トップレベル)Henvと下レベル(ボトムレベル)Lenv、高周波信号22の平均レベルCをそれぞれ検出する。そして、次の演算式に従って変調度Mと非対称性βを算出する。
M=(Henv−Lenv)/Henv
β={(Henv−C)−(C−Lenv)}/(Henv−Lenv)
変調度Mは低周波信号の上レベルに対する低周波信号振幅の占有割合を示すパラメータであり、非対称性βは低周波信号の上下レベルの非対称性を示すパラメータである。
なお、変調度Mと非対称性βの測定については、再生信号に含まれる信号の数に依存せず、例えばユーザデータの信号と同様2Tから9Tまでが存在する信号、あるいは8Tなどの単一周波数の繰り返し信号に対しても同様の方法で可能である。
【0019】
このようにして得られた各パラメータの値に対して、マイコン1は次のように再生パワーの制御を行う。測定したRF振幅レベルHenv、Lenvが目標値である場合は、レーザドライバ2に対し現在の電流出力を継続するよう発光制御を行う。一方RF振幅レベルHenv、Lenvが目標値から外れた場合には、Henv、Lenvが目標値となるようレーザドライバ2に対し電流出力を変更するよう発光制御を行う。ただし、RF振幅レベルHenv、Lenvが目標値から外れた場合であっても、変調度Mや非対称性βのいずれかに変化があった場合には、レーザドライバ2に対し電流出力を変更せず現在の電流出力を継続するよう発光制御を行う。これは、再生パワーを変更することで光ディスクの記録層に許容値を超えるエネルギーが照射され、光ディスクの再生耐力が劣化する恐れがあるからである。
【0020】
なお、RF振幅レベルHenv、Lenvが目標値であるか否かの判定方法として、再生動作中に所定時間(所定距離)前に測定した値を参照値(目標値)として保持し、参照値からの現在値の変化量を求め、その変化量が予め決めた閾値以上であるとき「変化あり」と判定して、レーザドライバ2に対し電流出力を変更させるようにしても良い。また、レーザドライバ2に対し電流出力を変更させる場合は、予め定めた微小量だけ電流出力を増減補正し、それによるRF振幅レベルHenv、Lenvの変化を見て不足していれば補正を繰り返すようにする。このように再生パワーを徐々に増減することで、光ディスクの再生耐力が劣化する危険性をより少なくすることができる。
【0021】
図3は、様々な記録状態の光ディスクに一定の再生パワーを照射した場合の再生特性を示す図である。ここでは光ディスクとして、既記録領域と未記録領域が混在する2層ディスクを例とする。これに一定の再生パワーPr(推奨値)を照射し、各照射位置にて得られる再生信号の品質(RF振幅レベルHenv,Lenv、変調度M、非対称性β)を示す。
【0022】
光ディスクはL0、L1の2層の記録層をもつ光ディスクであり、各記録層において符号101,102,103,104の領域は既記録領域を、符号105の領域(白色部)は未記録領域を示す。既記録領域のうち、領域101、104は同一条件で記録された領域、領域102は異なる条件で記録された領域、領域103はディスクの欠陥や傷・指紋または記録ミスの領域である。異なる記録条件とは、例えば記録速度の変化、記録機器の変化、温度等の環境変化である。
【0023】
再生対象(目的層)をL0層とし、一定の再生パワーPrのレーザ光を矢印の方向に走査する。ここに再生パワーPrは、予め定められているL0層に対する適正パワーの値である。図では、5か所の照射位置1〜5におけるそれぞれのレーザ光106〜110の集光状態と、L0層の受ける照射エネルギーErを示す。
【0024】
照射位置1では、レーザ光106はL1層の未記録領域105を透過して、L0層の既記録領域101に集光している。この状態を基準状態とし、この時に得られる再生品質(Henv,Lenv、M、β)と照射エネルギーErを基準値とする。
【0025】
照射位置2では、レーザ光107はL1層の既記録領域104を透過して、L0層の既記録領域101に集光している。この場合、L1層の透過率は未記録領域105より既記録領域104の方が大きいことから、L0層に集光されるレーザ光のエネルギーErは、照射位置1における基準値よりも増加する。それに伴いレーザ光の反射光量も増加することで、再生品質のうちRF振幅の上レベル(Henv)と下レベル(Lenv)が変動する。しかし、再生品質のうち変調度M、非対称性βは変わらない。なぜなら、Mやβは主に記録条件で決まる品質であり、再生パワーの大きさには依存しないからである。
【0026】
このように、照射位置2において照射位置1と同一の再生パワーPrで再生を行うと、L0層の受けるレーザ光のエネルギーErが基準値よりも増加し、L0層の再生耐力が劣化する要因となる。よって多層ディスクでは、目的層の手前層が既記録か未記録かにより透過率やS/Nが変化するので、再生耐力を維持させるために再生パワーの調整が必要になる。
【0027】
照射位置3では、レーザ光108はL1層の未記録領域105を透過して、L0層の既記録領域102に集光している。L0層の受けるレーザ光のエネルギーErは、照射位置1における基準値に等しい。しかしL0層の既記録領域102は既記録領域101とは異なる条件で記録された領域である。記録条件が異なることで記録状態が変化しており、再生品質であるRFレベルHenv、Lenvだけでなく変調度Mも変化する(ここに非対称性βは、記録条件の最適化により照射位置1の基準値と同等値に設定されている)。つまりこの場合は、Henv、Lenvが変化するにもかかわらず、L0層の受けるレーザ光のエネルギーErは基準値のままであるから、L0層の再生耐力が劣化する恐れはない。
【0028】
照射位置4では、レーザ光109はL1層の未記録領域105を透過して、L0層の欠陥記録領域103に集光している。L0層の受けるレーザ光のエネルギーErは、照射位置1における基準値に等しい。欠陥記録領域103には欠陥や傷・指紋などが存在することで戻り光に変化が生じ、再生品質はHenv、Lenvとともに変調度Mや非対称性βも変化する。また、記録ミスなどの場合も、記録状態が変化し適切な記録が行われていないので、Henv・Lenv、M、βが変化する。この場合においても、Henv、Lenvが変化するにもかかわらず、L0層の受けるレーザ光のエネルギーErは基準値のままであるから、L0層の再生耐力が劣化する恐れはない。
【0029】
照射位置5は、照射位置2と照射位置3の記録状態が複合された場合である。この場合にはL0層の受けるレーザ光のエネルギーErは基準値を超えるので、照射位置2と同様に再生耐力を維持させるために再生パワーの調整が必要になる。
【0030】
このように、多層ディスクにおいて一定の再生パワーPrで再生を行っても、手前層を含めた記録状態の相違によって再生信号の品質が変化し、場合によっては目的層に照射するエネルギーが増加することで再生耐力の劣化に繋がる恐れがある。
そこで本実施例では、再生信号の品質に応じて再生耐力が劣化しないように再生パワーの制御を行う。
【0031】
図4は、様々な記録状態の光ディスクに再生パワーを制御して照射した場合の再生特性を示す図である。光ディスクは図3と同一の記録状態であり、図面内の表記も図3と同様である。照射位置1の状態を基準として、各照射位置2〜5での再生パワーの制御方法を説明する。
【0032】
図3で説明したように、照射位置2において一定の再生パワーPrで照射した場合、目的層であるL0層に集光されるレーザ光のエネルギーErは増大してしまう。これは手前層のL1層が透過率の大きい既記録領域104であるためで、再生品質であるRF振幅レベルHenv、Lenvの変化となって表れる。なお、L0層の記録状態は基準状態から変化していないので、変調度Mと非対称性βは変化しない。
【0033】
この場合には、L0層の照射エネルギーErを基準値に近付けるため再生パワーを調整する。具体的には、測定される再生品質Henv、Lenvの基準値からの変化に応じて、再生パワーPrを所定量αだけ段階的に増減させ、Henv、Lenvの測定値がほぼ基準値となるように制御する。図の例では測定値されたRF振幅(Henv−Lenv)は基準値よりも大きいので、再生パワーをPr−αに減少させている。これを繰り返し、RFレベルを基準値に近付ける。その結果L0層に照射されるレーザ光のエネルギーErは基準値に近付き、L0層の再生耐力の劣化を防止する。
【0034】
測定されたRF振幅(Henv−Lenv)が、基準値よりも逆に小さい場合もあり得る。その場合には、再生パワーをαずつ増加させてRFレベルを基準値に近付ければ、再生品質の向上を図ることができる。ただし再生パワーを増加させるときは、別途定めた許容値を超えないようにすることで、再生耐力性能を確保する。
【0035】
一方、照射位置3と照射位置4においても、一定の再生パワーPrで照射した場合は測定されるRF振幅レベルHenv、Lenvが変化する。しかしその要因は、目的層であるL0層の記録状態の相違(記録条件、記録層の欠陥など)に基づくものであり、L0層の受けるレーザ光のエネルギーErは基準値に等しい。なおこの場合には、L0層の記録状態が基準状態から変化しているので、変調度Mと非対称性βの少なくとも一方が変化する。すなわち、RF振幅レベルHenv、Lenvが変化する場合であっても変調度Mと非対称性βの少なくとも一方が変化していれば、L0層に照射されるエネルギーErは基準値に等しい可能性が高い(例外として照射位置5の場合がある)。よって再生耐力の劣化はないものと判定し、再生パワーの調整は行わない。なぜなら、仮にRF振幅(Henv−Lenv)が基準値よりも小さかった場合、再生パワーをPr+αに増加させるとL0層の照射エネルギーErが基準値を超え、再生耐力を劣化させる恐れがある。
【0036】
照射位置5においては、変調度Mが基準値から変化しており、前記制御ルールに従えば再生パワーの調整は行わないことになる。しかしL0層の受けるエネルギーErは基準値を超えているので、再生パワーの調整(減少)が必要である。この問題に関しては、再生品質の比較相手を基準値ではなく、直前に再生した領域(照射位置2または照射位置3が相当する)の再生品質(参照値)とすることで、前記制御ルールを矛盾なく適用できる。参照値を用いた再生品質の比較については後述する。
【0037】
このように再生パワーの調整を、RF振幅レベルHenv、Lenvが変化するとともに、変調度Mと非対称性βのいずれも変化しない場合に限って実施することで、様々な記録状態における再生耐力の劣化を防止することができる。言い換えれば、RF振幅レベルHenv、Lenvの変化したとき、その要因が手前層の記録状態(未記録状態/既記録状態)である場合に限って、再生パワーの調整を行うべきである。従って、手前層を含む各記録層における既記録領域を示すアドレス情報を光ディスクの管理領域に格納しておき、測定された再生品質(Henv、Lenv、M、β)の値とともに既記録領域のアドレス情報を参照することで、再生パワーの制御をより確実に実行することができる。
【0038】
上記の実施例では光ディスクとして2層ディスクを例に説明したが、3層以上の記録層をもつ多層ディスクの場合も同様である。層数の増加とともに再生品質や照射エネルギーの変化量はさらに拡大するので、上記実施例で述べた再生パワーの制御はより効果的となる。
【0039】
図5は、本実施例の動作に関連する光ディスクの記録領域を示す図である。
光ディスク201の記録領域は複数の記録トラック202で構成され、各記録トラックはクラスタ203,204,205,206を単位に構成されている。そして、ディスク上のデータは、クラスタ単位で、内周側記録トラックから外周側記録トラックに向けて再生される。再生パワーの制御は次のように行う。再生したクラスタ毎に再生品質を測定し、目標とする参照値と比較して再生パワーの変更が必要かどうかを判定する。そしてNトラック分(Nは任意の整数)の再生品質を評価した後に、Nトラック後のクラスタにおいて再生パワーの補正を実施する。その結果、クラスタ203の測定結果に基づく補正はNトラック後のクラスタ205で、クラスタ204の測定結果に基づく補正はNトラック後のクラスタ206で反映される。このように、再生パワーの補正をNトラック後の位置で実施することで、再生動作を中断することがなくリアルタイム再生を可能にする。これは、同一クラスタを繰り返し再生することによる再生耐力の劣化を回避する意味でも有効である。
【0040】
図6は、本発明にかかる再生パワーの制御方法の一例を示すフローチャートである。以下の制御はマイコン1の指示により実行される。
S301において、再生品質の判定に用いる参照値の初期値を設定する。この初期値は基準状態で測定される当該ディスクの再生品質(Henv、Lenv、M、β)から決定する。具体的には図7にて後述する。
S302において、指定されたアドレスのクラスタから再生を開始する。S303において、トラック数のカウンタiをリセット(i=0)する。
【0041】
S304において、当該クラスタの変調度Mと非対称性βの平均値を測定し、参照値と比較する。それらの差が両方とも予め定めた閾値よりも小さければ、変化なしと判定しS305へ進む。いずれかの差が閾値よりも大きければ、変化ありと判定しS313へ進む。
S305において、当該クラスタのRF振幅レベルHenv、Lenvの平均値を測定し、参照値と比較する。それらの差が両方とも予め定めた閾値よりも小さければ、変化なしと判定しS313へ進む。いずれかの差が閾値よりも大きければ、変化ありと判定しS306へ進む。
【0042】
S306において、当該クラスタの再生品質値(Henv、Lenv、M、β)を保存する。S307において、現在のトラック数iがNトラックに達しているかどうかを判定する。i<NであればS308へ進み、i=NであればS311へ進む。
S308において、次のクラスタは次のトラックかどうかを判定し、次のトラックであればS309にてトラック数iに1を加算する。S310において、次のクラスタを再生し、上記S304からの工程を繰り返す。Nトラック再生するとS311へ進む。
【0043】
S311において、上記再生したNトラック領域内に未記録の領域が存在するかどうかを判定する。もし未記録領域が存在すれば、再生領域からの反射光が変化(増加)して再生品質の測定値に変動を及ぼす。よってこの場合には再生パワーの補正を行わずにS313へ進む。
S312において、再生パワーPrを設定値αだけ補正(増減)する。増減量はHenv、Lenvの測定値と参照値の差の大きさから決めても良い。
S313において、Nトラック前までの再生品質(Henv、Lenv、M、β)の平均値を算出し、参照値を更新する。S314において、再生終了アドレスに達したかどうか判定する。達していなければ、S310へ戻り、次のクラスタからの再生を繰り返す。
【0044】
上記フローチャートによれば、クラスタ単位で再生品質の評価を行い、その結果をNトラック後のクラスタの再生時に再生パワー補正として反映させることができる。よって、リアルタイム再生動作の障害にならない。
なお、上記実施例では再生品質をクラスタ単位で評価するものとしたが、評価する区間はこれに限るものではない。また、再生パワーの補正を行う間隔であるNトラックについても、Nの値は適宜設定すればよい。
【0045】
上記フローチャートにおいて、再生品質が変化したかどうかの判定(S304、S305)を行うため、再生品質の測定値を参照値と比較している。この参照値は、再生パワーを補正した時点で直前の再生領域(Nトラック区間)から得られる再生品質の値をもとに更新している。すなわち参照値は固定値ではなく、再生動作中に変化する可変値としている。このように参照値を可変値とすることで、再生パワーの制御の精度を向上することができる。以下、その理由を説明する。
【0046】
前記図3、図4においては、再生品質を照射位置1で得られる基準値(固定値)と比較して説明した。この比較では、照射位置5の場合に矛盾が生じる。照射位置5は、手前層L1層が既記録状態(照射位置2)で、目的層L0層が異なる記録条件(照射位置3)となる複合状態を想定している。照射位置5ではL0層の照射エネルギーErが基準値を超えているにもかかわらず、変調度Mが基準値から変化してしまうので、基準値との比較では再生パワーの補正は行われないことになる。そこで、比較相手として、直前の記録状態に相当する照射位置2または照射位置3で得られる再生品質(参照値)と比較するようにした。照射位置2が先行していれば、照射位置5の変調度Mは照射位置2の参照値から変化していると判定し、照射位置2の再生パワー(補正済み)を照射位置5でも継続する。照射位置3が先行していれば、照射位置5の変調度Mが照射位置3の参照値から変化なしと判定し、照射位置3の再生パワーを補正(減少)して照射位置5に適用する。このように、複合状態である照射位置5においても矛盾のない制御が行える。よって、様々な記録状態にある光ディスクに対し再生耐力を劣化させることなく再生動作を行うことができる。
【0047】
上記フローチャートのS301において、再生を開始するときの参照値(初期参照値)は次のように決定する。
図7は、再生品質の初期参照値の決定法の一例を示す図である。当該ディスクの内周側及び外周側で手前層が未記録状態となる記録領域において、再生品質であるRF振幅レベルHenv、Lenv、変調度M、非対称性βを測定する(図中●で示す)。測定に用いる領域はドライブ領域やOPC領域などの管理領域が適しているが、記録済みのユーザデータ領域を参照してもよい。そして、再生を行う任意の半径位置においては線形補間方法により再生品質を算出し、初期参照値とする。補間法は、N次曲線による近似補間でもよい。指定アドレスからデータを再生開始する際には、この初期参照値と実際に測定された再生品質とを比較する。この初期参照値は補間による推定値のため、推定誤差を除くため比較判定では閾値を大きめに設定した方がよい。
なお、初期参照値の決定を簡略化するために、ディスク上の所定領域(再生開始アドレス位置など)において通常の再生パワーでの測定値をそのまま初期参照値としても良い。
【0048】
本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。また、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0049】
1…マイコン、2…レーザドライバ、3…レーザダイオード、5…パワーモニタ、7…対物レンズ、8…光ディスク、10…光検出器(ディテクタ)、11…波形等化器、12…信号処理器、13…光ピックアップ、21…低周波信号、22…高周波信号、101,104…既記録領域、102…既記録領域(異なる記録条件)、103…欠陥領域、105…未記録領域、106〜110…各照射位置のレーザ光、202…記録トラック、203〜206…クラスタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ディスクにレーザ光を照射してデータを再生する光ディスク装置において、
レーザダイオードから出射されたレーザ光を前記光ディスクに照射し該光ディスクからの反射光を検出する光ピックアップと、
前記レーザダイオードを発光するための電流を供給するレーザドライバと、
前記光ピックアップで検出した信号を処理してデータを再生する信号処理部と、
装置全体の動作を制御するマイコンを備え、
該マイコンは、測定される再生RF信号の品質を目標とする参照値と比較して前記レーザダイオードの再生パワーを制御するものであって、
測定されるRF振幅レベルが参照値から変化したとき、測定される変調度Mと非対称性βがいずれも参照値から変化しない場合は前記レーザダイオードの再生パワーを調整し、測定される変調度Mと非対称性βのいずれかが参照値から変化した場合は前記レーザダイオードの再生パワーを調整しないことを特徴とする光ディスク装置。
【請求項2】
複数の記録層を有する光ディスクにレーザ光を照射してデータを再生する光ディスク装置において、
レーザダイオードから出射されたレーザ光を前記光ディスクに照射し該光ディスクからの反射光を検出する光ピックアップと、
前記レーザダイオードを発光するための電流を供給するレーザドライバと、
前記光ピックアップで検出した信号を処理してデータを再生する信号処理部と、
装置全体の動作を制御するマイコンを備え、
該マイコンは、測定される再生RF信号の品質を目標とする参照値と比較して前記レーザダイオードの再生パワーを制御するものであって、
測定されるRF振幅レベルが参照値から変化したとき、再生位置における手前の記録層がデータの記録されている既記録状態であれば前記レーザダイオードの再生パワーを調整し、手前の記録層がデータの記録されていない未記録状態であれば前記レーザダイオードの再生パワーを調整しないことを特徴とする光ディスク装置。
【請求項3】
請求項2に記載の光ディスク装置において、
前記光ディスクに、データが記録されている領域を示すアドレス情報が格納されている場合、該格納されているアドレス情報を参照して再生位置における手前の記録層が既記録状態か未記録状態かを判定することを特徴とする光ディスク装置。
【請求項4】
再生時に光ディスクに照射するレーザ光の再生パワーの制御方法において、
前記光ディスクから得られる再生RF信号の品質を測定するステップと、
測定した品質を目標とする参照値と比較してレーザ光の再生パワーを制御するステップを備え、
測定されるRF振幅レベルが参照値から変化したとき、測定される変調度Mと非対称性βがいずれも参照値から変化しない場合は再生パワーを調整し、測定される変調度Mと非対称性βのいずれかが参照値から変化した場合は再生パワーを調整しないことを特徴とする再生パワーの制御方法。
【請求項5】
請求項4に記載の再生パワーの制御方法において、
前記光ディスクにおける前記再生品質の測定をクラスタ単位で行い、前記再生パワーの調整はNトラック後(Nは任意の整数)のクラスタの再生時に実行することを特徴とする再生パワーの制御方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の再生パワーの制御方法において、
前記参照値は、再生パワーを調整した直前の再生領域から得られる再生品質の値をもとに更新することを特徴とする再生パワーの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−128893(P2012−128893A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276925(P2010−276925)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(501009849)株式会社日立エルジーデータストレージ (646)
【出願人】(509189444)日立コンシューマエレクトロニクス株式会社 (998)
【Fターム(参考)】