説明

光ディスク装置

【課題】波面収差の補正を行う目的で液晶素子を備える光ディスク装置について、液晶素子の特性ぶれによらず安定して波面収差の補正を行える簡易な構成の光ディスク装置を提供する。
【解決手段】光ディスク装置は、波面収差の補正を行うために液晶素子を備えており、この液晶素子の駆動には、駆動電圧確認手段33、駆動電圧再設定手段34、液晶素子駆動手段35が関係する。液晶素子駆動手段35は液晶素子に駆動電圧を印加する。駆動電圧確認手段33は、液晶素子駆動手段35によって液晶素子23に印加されている駆動電圧、又は印加予定の駆動電圧が、その時点で適切か否かの判断を行う。駆動電圧再設定手段34は、駆動電圧確認手段33で不適切であると判断された場合に、液晶素子駆動手段35が設定する駆動電圧の値を再設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光記録媒体の情報の記録再生に用いられる光ディスク装置に関し、特に波面収差の補正のために液晶素子を搭載する光ディスク装置において、記録再生品質を良好に維持する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
コンパクトディスク(以下、CDという。)やデジタル多用途ディスク(以下、DVDという。)といった光記録媒体が普及している。更に、近年、光記録媒体の情報量を増やすために、光記録媒体の高密度化に関する研究が進められ、例えばブルーレイディスク(以下、BDという。)等の高密度化された光記録媒体も実用化されつつある。このような光記録媒体の記録再生は、光源から光ビームを光記録媒体に照射して情報の読み取りや記録を行う光ピックアップを備える光ディスク装置によって行われる。
【0003】
ところで、光記録媒体の種類が異なると、光記録媒体の記録面を保護する保護層の厚さが異なる場合がある。例えば、CD、DVD、BDの保護層の厚みは、順に1.2mm、0.6mm、0.1mmと異なる。このため、複数種類の光記録媒体に対応する光ディスク装置においては、光記録媒体によって保護層の厚みの違いによって生じる球面収差により、情報の記録再生品質が劣化するという問題が起こる場合がある。また、BD等の高密度化された光記録媒体に対応する光ピックアップ装置においては、開口数(NA)の大きな対物レンズを用いるのが一般的であるが、球面収差はNAの4乗に比例して増加するために、保護層のばらつきによって生じる球面収差の影響も無視できなくなる。
【0004】
更に、高密度の光記録媒体に対応するために、対物レンズの開口数を大きくして短波長の光ビームを用いると、情報の記録再生の際に光記録媒体が傾いて光記録媒体の法線方向に対する光ビームの入射角が傾いた場合に、コマ収差の影響が無視できなくなる。
【0005】
このため、球面収差やコマ収差等の波面収差を補正する目的で、光ディスク装置が備える光ピックアップの光学系中に液晶素子を配置し、液晶素子に印加する電圧を制御することで液晶素子を通過する光ビームの位相を制御し、波面収差の補正を行う光ディスク装置が、例えば特許文献1や特許文献2に示されるように、従来から知られている。
【0006】
しかし、波面収差の補正を行う目的で光ディスク装置に用いられる液晶素子は、温度変化に対して、その特性が変動する。このため、液晶素子の温度変化に対する特性変動を考慮して液晶素子に印加する駆動電圧を制御しない場合、液晶素子による球面収差やコマ収差といった波面収差の補正が十分に行われず、光ディスク装置による情報の記録再生品質の劣化が問題となる場合がある。
【0007】
図8は、液晶素子に印加される電圧と印加された電圧に従って発生する位相との関係について模式的に示したものである。また、図9は、液晶素子周囲の温度の違いによって、印加電圧と発生する位相の関係が異なる様子を模式的に示したものである。図8に示すように、液晶素子には、印加される電圧が変化しても発生する位相が変化しない領域(図中、破線の円で示す部分)がある。
【0008】
液晶素子を用いて波面収差の補正を行う場合、液晶素子には印加する電圧が異なる複数の領域が存在するのが一般的であるが、液晶素子の周囲温度が変化した場合、図9に示すように(図9では、液晶素子に3つの異なる印加電圧を印加する場合を示している)、液晶素子に印加する電圧の一部又は全部が、先に述べた印加電圧を変化させても位相差が発生しない領域に入ってしまう場合がある。この場合、特に、液晶素子による波面収差の補正が不十分となり、光ディスク装置による情報の記録再生品質の劣化がひどくなる傾向にある。
【0009】
この点、特許文献2においては、液晶素子を備える光ディスク装置において、温度変化に対する液晶素子の特性変動の影響を受けないように、サーミスタ等の温度センサを光ディスク装置の中に配置し、この温度センサによって得られる液晶素子の周囲温度と、予め光ディスク装置が備えるメモリ等に格納されている液晶の位相特性や応答特性等の温度変動に対するデータと、を用いて、液晶素子を駆動する電圧を制御する技術が紹介されている。
【0010】
しかしながら、特許文献2に紹介されるように、予め液晶の位相特性や応答特性等の温度変動に対するデータを光ディスク装置に記憶させる構成の場合、複数種類の光記録媒体に対応する光ディスク装置を想定すると、予め大量のデータの収集を行う必要があり製造時の作業負担となる。また、液晶素子が有する液晶の特性は個体差を有しており、予め温度変動に対する液晶の特性として記憶させているデータを用いても十分に波面収差の補正をできない場合もあり、問題となる。
【特許文献1】特開2005−259180号公報
【特許文献2】特開2000−298862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上の点を鑑みて、本発明の目的は、波面収差の補正を行う目的で液晶素子を備える光ディスク装置について、液晶素子の特性ぶれによらず安定して波面収差の補正を行える簡易な構成の光ディスク装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明は、光源と、該光源から出射される光ビームを光記録媒体の記録面に集光し、前記記録面で反射された反射光を所定の受光位置まで導く光学系と、液晶と該液晶を挟む2つの透明電極とを有し、前記光学系中に配置されて波面収差の補正を行う液晶素子と、前記受光位置に配置されて前記反射光が有する光情報を電気信号へと変換する光検出手段と、前記透明電極と電気的に接続されて前記液晶素子に駆動電圧を印加する液晶素子駆動手段と、を備える光ディスク装置において、前記液晶素子駆動手段に、一定の関係を有する3種類の駆動電圧を順次印加するように指示し、それぞれの場合について、前記光検出手段で変換された前記電気信号を処理して得られる再生信号の特性と関連し、且つ前記液晶素子の特性変動と伴に変動する所定のパラメータの実測値を取得し、取得した3つの前記実測値と予め記憶されている所定の基準とを比較して、前記実測値の取得前に前記液晶素子駆動手段が印加していたか、又は印加する予定であった駆動電圧が適切であるかを確認する駆動電圧確認手段と、前記駆動電圧確認手段で前記駆動電圧が不適切であると判断された場合に、取得した3つの前記実測値と前記所定の基準との関係に基づいて前記駆動電圧を再設定する駆動電圧再設定手段と、を設けたことを特徴としている。
【0013】
また、本発明は、上記構成の光ディスク装置において、前記透明電極は、少なくとも一方が複数の領域に分割され、前記液晶素子駆動手段は、前記複数の領域のそれぞれについて印加する電圧を設定して前記駆動電圧を与え、前記3種類の駆動電圧は、前記実測値の取得を行う直前に、前記液晶素子駆動手段が前記液晶素子に印加していたか、又は印加する予定であった駆動電圧である第1の駆動電圧と、該第1の駆動電圧に一律に所定の値を加えた第2の駆動電圧と、前記第1の駆動電圧から一律に所定の値を差し引いた第3の駆動電圧であることを特徴としている。
【0014】
また、本発明は、上記構成の光ディスク装置において、前記駆動電圧確認手段は、取得した前記実測値のうちのいずれか一つでも前記所定の基準を満たさない場合には、前記駆動電圧が不適切であると判断することを特徴としている。
【0015】
また、本発明は、上記構成の光ディスク装置において、前記駆動電圧確認手段は、前記駆動電圧が適切であると判断した場合には、前記液晶素子駆動手段が印加する前記駆動電圧を前記第1の駆動電圧とすることを特徴としている。
【0016】
また、本発明は、上記構成の光ディスク装置において、前記所定のパラメータは、前記電気信号を処理して得られるRF信号の振幅又はトラックエラー信号の振幅であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の第1の構成によれば、液晶素子の周囲の温度に対する特性変動や液晶の個体ばらつきといった液晶素子の特性ぶれを検知して、適切な値とすることが可能となる。更に、駆動電圧の再設定に当たって、液晶素子に一定の関係を有する3つの駆動電圧を印加した場合に得られる3つの実測値に基づいて再設定値を決定する構成のために、再設定値のどの程度にすればよいか判断がし易く、安定して、短時間で適切な駆動電圧を設定することが可能となる。また、予め入力きておくデータ量も多くなく、製造時の負担も小さい。
【0018】
また、本発明の第2の構成によれば、上記第1の構成の光ディスク装置において、液晶素子の特性ぶれを確認するに際して、液晶素子に印加する最適な駆動電圧値を複雑な処理をせずに得ることが可能となり、効率良く液晶素子駆動手段が印加する駆動電圧の制御が行える。
【0019】
また、本発明の第3の構成によれば、上記第1又は第2の構成の光ディスク装置において、取得された3つの値の全てを所定の範囲内とするように制御することで、より適切な駆動電圧値が設定されるために、液晶素子の特性が多少変動しても、即、液晶素子による波面収差の補正が不十分となる可能性が低くなる。
【0020】
また、本発明の第4の構成によれば、上記第3の構成の光ディスク装置において、適切な駆動電圧値を迅速に得ることができる。
【0021】
また、本発明の第5の構成によれば、上記第1から第4のいずれかの構成の光ディスク装置において、従来の光ディスク装置が備える信号を用いて液晶素子の特性ぶれの制御ができるために、光ディスク装置の構成が特に複雑となることもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明の内容を詳細に説明するが、ここで示す実施形態は一例であり、本発明はここに示す実施形態に限定されるものではない。
【0023】
図1は、本実施形態の光ディスク装置の構成を示すブロック図である。光ディスク装置1は、光記録媒体16の情報の再生、及び光記録媒体16への情報の記録を行うことができる。2は、スピンドルモータであり、光記録媒体16は、このスピンドルモータ2の上部に設けられるチャック部(図示せず)に着脱可能に保持される。そして、光記録媒体16の情報の記録再生を行う際に、スピンドルモータ2は光記録媒体16を連続回転する。スピンドルモータ2の回転制御は、スピンドルモータ制御部3によって行われる。
【0024】
4は、光ピックアップであり、光源から出射される光ビームを光記録媒体16に照射し、光記録媒体16への情報の書き込みと、光記録媒体16に記録されている情報の読み取りを可能とする。図2は、光ピックアップ4の光学系を示す概略図である。図2に示すように、光ピックアップ4においては、光源17、18を出射した光ビームは色合成プリズム19で光軸を同一とされ、コリメートレンズ20で平行光となり、ビームスプリッタ21を透過し、立ち上げミラー22で反射されてその光軸が光記録媒体16の記録面16aと略垂直とされ、液晶素子23を通過して対物レンズ24によって光記録媒体の情報が記録される記録面16aに集光される。
【0025】
光記録媒体16で反射された反射光は、対物レンズ24、液晶素子23の順に通過し、立ち上げミラー22で反射された後、更にビームスプリッタ21で反射されて集光レンズ25によって光検出器26の受光部(図示せず)に集光される。光検出器26は受光した光ビームが有する光情報を電気信号に変換する。なお、本実施形態における光源17は、CD及びDVD用の光ビームを出射する2波長一体型のレーザダイオードであり、光源18はBD用の光ビームを出射するレーザダイオードである。このため、光ディスク装置1は、CD、DVD、及びBDの記録再生が可能となっている。
【0026】
光ピックアップ4は3種類の異なる光記録媒体16に対応可能となっているが、前述のように、これら種類の異なる光記録媒体16はその保護層の厚みが異なり、本実施形態のように1つの対物レンズ24のみを備える光ピックアップ4では、球面収差が問題となる。このため、球面収差を補正するために液晶素子23が配置されている。
【0027】
図3は、光ピックアップ4が備える液晶素子23の構成を説明するための図で、図3(a)は、液晶素子23の構成を示した概略断面図で、図3(b)は、図3(a)の液晶素子23を上面から見た場合の平面図である。図3に示すように、液晶素子23は、液晶27と、液晶27を挟む2枚の透明電極28a、28bと、液晶27と透明電極28a、28bで形成される部分29を挟む2枚のガラス板30と、を備えている。
【0028】
図3(b)に示すように、液晶素子23を構成する透明電極28aは同心円状の複数の領域32a〜32fに分割されている。一方、透明電極28aに対向する透明電極28bは分割されることなく、全体で一つの共通電極となっている。なお、透明電極28bも透明電極28aと同一の同心円状の複数の領域としても構わない。このように透明電極28a、28bを構成することにより、液晶素子23を通過する光ビームに対して、所望の位相差を発生することが可能となり、各種の光記録媒体16の情報の再生等を行う際に発生する球面収差を適切に補正することが可能となる。なお、透明電極28a、28bは、配線31によって後述する液晶素子制御部6(図1参照)に備えられる液晶素子駆動手段(液晶素子駆動回路)と電気的に接続されており、この液晶素子制御部6により透明電極28a、28bへ印加する駆動電圧がコントロールされる。
【0029】
このように構成される液晶素子23の作用について説明する。図4は、ある光記録媒体16を再生等する場合に発生する球面収差(図の実線)と、それを補正するために液晶素子23に発生させる位相差(図の破線)のパターンについて示したグラフである。なお、液晶素子23に発生させる位相差パターンについては、球面収差を打ち消す必要があるため、図4に示す位相差のパターンと逆位相となるパターンを発生させる必要があるが、図4では便宜的に逆位相のパターンとはしていない。また、図4において、横軸は、同心円状に分割される透明電極28aの中心Oからの距離で、横軸の下に示す数字は、透明電極28aの各領域番号(図3(b)参照)が対応する。
【0030】
透明電極28a、28bの各領域32a〜32fにそれぞれ所定の電圧を印加して、図4に示す位相差(図の破線)パターンと逆位相となる位相差パターンを各領域32a〜32fに発生させると、収差が光記録媒体16の再生等にとって問題とならないレベルまで補正され、適切な再生信号が得られる。なお、光記録媒体16の種類によって球面収差の発生量は異なるため、光記録媒体16の種類によって液晶素子23に発生させる位相差は異なり、透明電極28a、28bに印加する駆動電圧の値も異なってくる。
【0031】
図1に戻って、光ディスク装置1には信号処理部8が設けられており、この信号処理部8は、少なくともRF信号処理部9とトラックエラー信号処理部10とフォーカスエラー信号処理部11とを含んでいる。そして、光検出器26(図2参照)で変換された電気信号に基づいて、RF信号、トラックエラー信号(TE信号)、フォーカスエラー信号(FE信号)を生成する。RF信号はデータ復調部12でデータに復調され、インターフェース13を介してパソコン等の外部機器に出力される。
【0032】
TE信号及びFE信号は、アクチュエータ制御部7に出力される。アクチュエータ制御部7は、これらの信号に基づいて、光ピックアップ4が備える液晶素子23及び対物レンズ24(いずれも図2参照)が搭載される図示しないアクチュエータに駆動信号を供給する。駆動信号が供給されたアクチュエータは、信号に基づいて各部を作動させて、対物レンズ24を光軸と平行な方向に移動してフォーカスを合わせるフォーカシング制御や対物レンズ24を光記録媒体16の半径方向に移動して光ビームのスポット位置を光記録媒体16に形成されるトラック位置に合わせるトラッキング制御を行う。
【0033】
その他、レーザ制御部5は、光ピックアップ装置4に備えられる半導体レーザから成る光源17、18(図2参照)のレーザ出力を制御する。また、全体制御部14は、スピンドルモータ制御部3、レーザ制御部5、液晶素子制御部6、アクチュエータ制御部7、信号処理部8、データ復調部12、インターフェース13、及び制御に必要な情報を記憶する記憶部15等を制御して、装置全体のコントロールを行う。
【0034】
上述のように、本実施形態の光ディスク装置1は液晶素子23を備えるが、液晶素子23は、周囲の環境変化による特性変動や液晶特性の個体間のばらつきといった特性ぶれがある。このため、本実施形態においては、この液晶素子23の特性ぶれを補正できるように構成されている。以下、この点について詳細に説明する。
【0035】
図5は、液晶素子制御部9の構成について示したブロック図である。液晶素子制御部9には、駆動電圧確認手段33と、駆動電圧再設定手段34と、液晶素子駆動手段35と、が備えられる。以下、各手段について説明する。
【0036】
駆動電圧確認手段33は、後述する液晶素子駆動手段35によって液晶素子23に印加されている駆動電圧、又は印加予定の駆動電圧が、その時点で適切か否かの判断を行う。駆動電圧の適否の判断は、本実施形態においては、信号処理部8から得られるRF信号の振幅の大きさで判断する。RF信号の振幅は、球面収差の補正を行う液晶素子23の特性変動と伴に変動し、更に、光ディスク装置1が再生を行う場合の再生信号の特性と関連のある値であり、この値を基準に判断すれば、液晶素子23の特性変動によらず、光ディスク装置1の記録再生品質を安定させることが可能となるからである。なお、RF信号の振幅が大きい程、再生信号の特性は良くなる。
【0037】
また、本実施形態においては、RF信号の振幅で駆動電圧の適否を判断する構成としているが、これに限定される趣旨ではなく、本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。すなわち、駆動電圧の適否を判断するパラメータとしては、再生信号の特性と関連し、且つ液晶素子の特性変動と伴に変動するものであればいずれのパラメータでも良く、例えば、TE信号の振幅やジッタの最小値等をパラメータとしても構わない。
【0038】
また、駆動電圧確認手段33が、駆動電圧の適否の確認を行うタイミングは、特に限定されず、適宜行われる。例えば、起動時、光記録媒体16が入れ替えられた時、光ピックアップ4の温度変化があった時等に行われたり、所定の時間間隔で行われたりする。駆動電圧確認手段33は、液晶素子駆動手段35に対して駆動電圧の印加に関する指示を出力し、また、ここで確認した結果の情報を駆動電圧再設定手段34に出力する。
【0039】
駆動電圧再設定手段34は、駆動電圧確認手段33で、確認時点で液晶素子駆動手段35か液晶素子23に印加しているか、又は印加予定の駆動電圧が不適切であると判断された場合に、液晶素子駆動手段35が設定する駆動電圧の値を再設定する役割を果たす。駆動電圧再設定手段34は、再設定した駆動電圧に関する情報を液晶素子駆動手段35に出力する。
【0040】
液晶素子駆動手段35は、液晶素子23を構成する透明電極28a、28b(図3参照)と電気的に接続されており、記憶部15(図1参照)に記憶されている初期設定値、駆動電圧確認手段33の指示値、又は駆動電圧再設定手段34で再設定された設定値に従って、透明電極28a、28bに電圧を印加する。なお、透明電極28aは、複数の領域32a〜32fに分割されており、各領域に対してそれぞれ印加電圧が設定される。
【0041】
駆動電圧確認手段33と駆動電圧再設定手段34の存在により、液晶素子23の特性ぶれにかかわらず、液晶素子23を用いて球面収差の補正を適切に行うことが可能となるが、これについて、図6と図7とに示すフローチャートに従って詳細に説明する。なお、図6は、駆動電圧確認手段33の動作を示すフローチャートで、図7は、駆動電圧再設定手段34の動作を示すフローチャートである。
【0042】
所定のタイミングにより、駆動電圧確認手段33は、その時点で液晶素子駆動手段35が印加しているか、又は印加予定の駆動電圧(第1の駆動電圧)を液晶素子駆動手段35に印加するように指示する(ステップS1)。なお、既に第1の電圧が、印加されている場合には、この指示は必ずしも必要ない。液晶素子駆動手段35により第1の駆動電圧が印加された後、駆動電圧確認手段33は信号処理部8から得られるRF信号の振幅A1を取得し、これを記憶部15に記憶する(ステップS2)。
【0043】
続いて、駆動電圧確認手段33は、第1の駆動電圧に対して所定の値を加えた第2の駆動電圧を印加するように、液晶素子駆動手段35に指示する(ステップS3)。なお、正確には、ここでいう第2の駆動電圧とは、第1の駆動電圧として透明電極28aを分割して形成される複数の領域32a〜32fそれぞれに印加した電圧値に対して、一律に所定の値を加えて印加する電圧が対応する。また、各領域を一律に変更するのは、図9に示すように、印加電圧の変化に対して発生する位相がおよそ一定の割合で変化する領域においては、温度変動に伴って発生する位相が概ね一律に変動することを考慮したものである。液晶素子駆動手段35により第2の駆動電圧が印加された後、駆動電圧確認手段33は信号処理部8から得られるRF信号の振幅A2を取得し、これを記憶部15に記憶する(ステップS4)。
【0044】
更に続いて、駆動電圧確認手段33は、第1の駆動電圧から所定の値を差し引いた第3の駆動電圧を印加するように、液晶素子駆動手段35に指示する(ステップS5)。なお、正確には、ここでいう第3の駆動電圧とは、第1の駆動電圧として透明電極28aを分割して形成される複数の領域32a〜32fそれぞれに印加した電圧値から、一律に所定の値を差し引いて印加する電圧が対応する。また、一律に変更する点については、第2の駆動電圧の場合と同様の理由である。液晶素子駆動手段35により第3の駆動電圧が印加された後、駆動電圧確認手段33は信号処理部8から得られるRF信号の振幅A3を取得し、これを記憶部15に記憶する(ステップS6)。
【0045】
なお、第2の駆動電圧において、第1の駆動電圧に加えられる所定の値と、第3の駆動電圧において、第1の駆動電圧から差し引かれる所定の値は、同一でも別の値であっても構わない。ただし、同一の値の方が、駆動電圧の再設定値を決定する処理が容易となり好ましい。
【0046】
次に、駆動電圧確認手段33は、記憶部15に記憶された各RF信号の振幅A1〜A3について、予め記憶部15に記憶されている所定の基準と比較して、全ての値が所定の基準を満たすか否かを確認する(ステップS7)。なお、所定の基準については、光ディスク装置が対象とする光記録媒体の種類や、光ピックアップの光学系の設定等により様々な値となるが、少なくともRF信号を処理して得られる再生信号のレベルが、一定の品質水準を超えるように、事前に調査した結果を基に決められる。
【0047】
RF信号の振幅A1〜A3の全てが所定の基準を満たす場合には、駆動電圧確認手段33は、液晶素子駆動手段35に対して第1の駆動電圧を設定値とするように指示する(ステップS8)。なお、本実施形態においては、第1の駆動電圧を設定値とするように指示する構成としているが、これに限られる趣旨ではなく、A1とA2、A1とA3の差を参考にする等して、より最適な駆動電圧を算出する構成等としても構わない。
【0048】
一方、A1からA3のうちいずれか一つでも、所定の基準を満たさない場合には駆動電圧再設定手段34によって、駆動電圧の再設定値が決定される。以下、図7を主に参照しながら説明する。駆動電圧再設定手段34は、A1からA3のうちのいずれか2つが所定の基準を満たしているか否かを判断する(ステップS9)。以下では、まず、いずれか2つが所定の基準を満たす場合(ステップS10〜S19)について説明し、その後、いずれか2つが所定の基準を満たさない場合(ステップS20〜S22)について説明する。
【0049】
A1からA3のうちのいずれか2つが所定の基準を満たす場合には、A1〜A3のうちから最大値を見つける(ステップS10)。次に最大値がA1であるか否かが判断される(ステップS11)。最大値がA1の場合には、A1とA2との差(B1に相当)及びA1とA3との差(B2に相当)が順次求められる(ステップS12、S13)。B1とB2の大小が比較され、B1の方が大きい場合には、先に液晶素子駆動手段35の設定値を決めた時と比べて、液晶素子23の特性が、同一の電圧を印加した場合に大きな位相差を発生する方向に変動している(例えば、図9の状況が該当する。)と考えられるために、第1から第3の駆動電圧のうち最大の振幅A1が得られる第1の駆動電圧を低減する方向で再設定するように、駆動電圧再設定手段34は、液晶素子駆動手段35に指示する(ステップS15)。
【0050】
一方、B2の方が大きい場合には、ステップS15とは逆の状況であるために、駆動電圧再設定手段34は、液晶素子駆動手段35に、第1の駆動電圧を増加するように指示する(ステップS16)。なお、ステップS15、S16において、第1の駆動電圧を増減する値は小さな値で良く、この点について、B1、B2の大きさから再設定値を決定できるように構成しておくのが好ましい。
【0051】
次に、ステップS10において、A1が最大値でないと判断された場合について説明する。この場合には、まず最大値がA2であるか否かが判断される(ステップS17)。A2が最大値である場合には、第2の駆動電圧近傍の電圧を印加した場合が、RF信号の振幅が最大となると判断されるために、第2の駆動電圧を基に、駆動電圧再設定手段34は再設定値を決定して液晶素子駆動手段35に指示する(ステップS18)。一方、A3が最大値である場合には、A2が最大値である場合と同様に、第3の駆動電圧を基に、駆動電圧再設定手段34は再設定値を決定して液晶素子駆動手段35に指示する(ステップS19)。なお、ステップS17、S18で駆動電圧の再設定値を決定する場合においても、A1が最大値である場合と同様に、A2とA3との中間の値となるA1との差を基に再設定値を決定した方が、駆動電圧の再設定が迅速に行えるために好ましい。
【0052】
次に、ステップS9において、A1からA3のうち2つが所定の基準を満たさないと判断された場合について説明する。この場合の状況としては、A2又はA3のいずれか1つが所定の基準を満たして、他の2つは所定の基準を満たさない場合か、A1からA3の全てが所定の基準を満たさない場合である。そして、いずれの場合も、A1からA3の大きさの順番は、A2、A1、A3、又はA3、A1、A2のいずれかのみである。このため、A2とA3のうちいずれが最大値かを判断し(ステップS20)、最大値となる場合の駆動電圧を基に、駆動電圧を再設定し、駆動電圧再設定手段34は液晶素子駆動手段35に指示することとなる(ステップS21、S22)。
【0053】
すなわち、A2が最大値であれば第2の駆動電圧より更に大きな駆動電圧に再設定され、A3が最大値であれば第3の駆動電圧より更に小さな駆動電圧に再設定される。ただし、第2又は第3の駆動電圧の増減する値の大きさは、A2又はA3のいずれか1つが所定の基準を満たして他の2つは所定の基準を満たさない場合と、A1からA3の全てが所定の基準を満たさない場合と、では異なるように設定される。
【0054】
以上のように、駆動電圧再設定手段34が液晶素子駆動手段35に駆動電圧の再設定が指示されると、駆動電圧確認手段33は、再設定された駆動電圧が適切か否かを再度判断し、第1から第3の駆動電圧の全てのRF信号の振幅(A1〜A3)が所定の基準を満たすまで、駆動電圧の再設定が繰り返される。
【0055】
このように駆動電圧確認手段33と駆動電圧再設定手段34とによって、液晶素子駆動手段35が印加する駆動電圧を制御することにより、液晶素子23の特性ぶれがあった場合でも、駆動電圧の修正方向及びその値の大きさについておおよその検討がつくために、安定して迅速に適切な駆動電圧の設定が可能となる。
【0056】
なお、以上には示した液晶素子駆動手段35が印加する駆動電圧の制御方法は一例でありこれに限定される趣旨ではなく、本発明の目的を逸脱しない範囲で変更可能である。特に、本実施形態においては、全てのRF信号の振幅が所定の基準を満たすことを要求する構成としているが、必ずしもこの構成に限定される趣旨ではなく、いずれか1つが所定の基準を満たせば良いとする構成等としても構わず、この場合においても、液晶素子23の特性ぶれによる光ディスク装置1の記録再生品質の劣化を防止することは可能である。
【0057】
ただし、全てが所定の基準を満たすように要求することにより、液晶素子駆動手段35が印加する駆動電圧の設定を光ディスク装置1の記録再生品質がより良好な状態となる設定値にすることが可能となり、温度変化等の環境変化によって液晶素子23の特性変動が発生して、光ディスク装置1の記録再生品質が許容範囲外となるまでのマージンを得ることができるので好ましい。
【0058】
以上に示した本実施形態の光ディスク装置1においては、液晶素子23は球面収差を補正するタイプのものであるが、本発明は球面収差を補正するタイプ以外の液晶素子を備える光ディスク装置に対しても適用可能であり、例えば、液晶素子がコマ収差や非点収差といった収差の補正を行う液晶素子を備える光ディスク装置の場合にも適用できる。
【0059】
その他、光ディスク装置1が記録再生可能な光記録媒体の種類や数についても、本実施形態の構成に限定される趣旨ではなく、もちろん種々の変更が可能である。更に、本実施形態においては、光ディスク装置1は記録再生可能な装置としたが、これに限定されず、例えば、再生のみを行う光ディスク装置等としても構わないのはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の光ディスク装置は、波面収差の補正を行うために液晶素子を備える光ディスク装置に適用可能であり、本発明によれば、液晶素子の特性ぶれが生じても記録再生品質を良好に維持することが可能な光ディスク装置を簡易な構成で実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】は、本実施形態の光ディスク装置の構成を示すブロック図である。
【図2】は、本実施形態の光ディスク装置が備える光ピックアップの光学系の概略図である。
【図3】は、本実施形態の光ディスク装置が備える液晶素子の構成を説明するための説明図である。
【図4】は、球面収差とそれを補正するために液晶素子に発生させる位相差のパターンについて示したグラフである。
【図5】は、本実施形態の光ディスク装置の液晶素子制御部の構成を示したブロック図である。
【図6】は、本実施形態の光ディスク装置が備える駆動電圧確認手段の動作を示すフローチャートである。
【図7】は、本実施形態の光ディスク装置が備える駆動電圧再設定手段の動作を示すフローチャートである。
【図8】は、液晶素子に印加する印加電圧と発生する位相の関係を模式的に示したグラフである。
【図9】は、液晶素子の周囲の温度の違いによって、印加電圧と発生する位相の関係が異なる様子を模式的に示したグラフである。
【符号の説明】
【0062】
1 光ディスク装置
16 光記録媒体
16a 記録面
17、18 光源
23 液晶素子
26 光検出器(光検出手段)
27 液晶
28a、28b 透明電極
33 駆動電圧確認手段
34 駆動電圧再設定手段
35 液晶素子駆動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
該光源から出射される光ビームを光記録媒体の記録面に集光し、前記記録面で反射された反射光を所定の受光位置まで導く光学系と、
液晶と該液晶を挟む2つの透明電極とを有し、前記光学系中に配置されて波面収差の補正を行う液晶素子と、
前記受光位置に配置されて前記反射光が有する光情報を電気信号へと変換する光検出手段と、
前記透明電極と電気的に接続されて前記液晶素子に駆動電圧を印加する液晶素子駆動手段と、を備える光ディスク装置において、
前記液晶素子駆動手段に、一定の関係を有する3種類の駆動電圧を順次印加するように指示し、それぞれの場合について、前記光検出手段で変換された前記電気信号を処理して得られる再生信号の特性と関連し、且つ前記液晶素子の特性変動と伴に変動する所定のパラメータの実測値を取得し、取得した3つの前記実測値と予め記憶されている所定の基準とを比較して、前記実測値の取得前に前記液晶素子駆動手段が印加していたか、又は印加する予定であった駆動電圧が適切であるかを確認する駆動電圧確認手段と、
前記駆動電圧確認手段で前記駆動電圧が不適切であると判断された場合に、取得した3つの前記実測値と前記所定の基準との関係に基づいて前記駆動電圧を再設定する駆動電圧再設定手段と、を設けたことを特徴とする光ディスク装置。
【請求項2】
前記透明電極は、少なくとも一方が複数の領域に分割され、
前記液晶素子駆動手段は、前記複数の領域のそれぞれについて印加する電圧を設定して前記駆動電圧を与え、
前記3種類の駆動電圧は、前記実測値の取得を行う直前に、前記液晶素子駆動手段が前記液晶素子に印加していたか、又は印加する予定であった駆動電圧である第1の駆動電圧と、該第1の駆動電圧に一律に所定の値を加えた第2の駆動電圧と、前記第1の駆動電圧から一律に所定の値を差し引いた第3の駆動電圧であることを特徴とする請求項1に記載の光ディスク装置。
【請求項3】
前記駆動電圧確認手段は、取得した前記実測値のうちのいずれか一つでも前記所定の基準を満たさない場合には、前記駆動電圧が不適切であると判断することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光ディスク装置。
【請求項4】
前記駆動電圧確認手段は、前記駆動電圧が適切であると判断した場合には、前記液晶素子駆動手段が印加する前記駆動電圧を前記第1の駆動電圧とすることを特徴とする請求項3に記載の光ディスク装置。
【請求項5】
前記所定のパラメータは、前記電気信号を処理して得られるRF信号の振幅又はトラックエラー信号の振幅であることを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載の光ディスク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−234158(P2007−234158A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−56330(P2006−56330)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(000201113)船井電機株式会社 (7,855)
【Fターム(参考)】