説明

光ディスク装置

【課題】片面に三つ以上の記録層を有する光ディスクが装置内に挿入された場合の起動時にトラッキング制御をON状態にできない事態に陥ることを防止することができる光ディスク装置を提供する。
【解決手段】片面に三つ以上の記録層を有する光ディスクが前記光ディスク装置に挿入された場合に、可動レンズ位置調整手段が、光ディスク装置の起動時に、球面収差補正用可動レンズの移動量にリミットを設けたトラッキングエラー信号を指標とする調整を行い、レーザ光が入射する側から最も遠い記録層での前記調整のリトライ上限回数を1以上に設定する(ステップS51及びステップS52参照)光ディスク装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスク装置に関し、特に片面に三つ以上の記録層を有する光ディスクに対応可能な光ディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
BD(Blu-ray Disc:登録商標)−DL(2層BD)に対応可能な従来の光ディスク装置では、BD−DLが装置内に挿入された場合の起動時に以下のような手順でBD−DLの各記録層での調整を実施している。
【0003】
まず光ディスクを回転させ、フォーカスサーチで光ディスクの記録層数を取得する。次に、装置の製造工程等で予め計測しているL0用設定値で球面収差補正を行った後、フォーカスエラー信号の自動利得制御(自動振幅調整)を行って、レーザ光が入射する側に遠い記録層L0にフォーカス制御を引き込む。それから、トラッキングエラー信号を指標にして球面収差補正の粗調整を行い、その後、トラッキングエラー信号に関する各種調整(バランス調整、オフセット調整、振幅調整等)を行い、トラッキングエラー信号の自動利得制御を行って、トラッキング制御を引き込む。さらにその後、RF信号を指標にして球面収差補正の精調整を行い、フォーカス制御のループゲイン調整と、トラッキング制御のループゲイン調整とを行う。
【0004】
その後、レーザ光が入射する側に近い記録層L1にフォーカスジャンプし、装置の製造工程等で予め計測しているL1用設定値で球面収差補正を行った後、L1にフォーカス制御を引き込む。それから、球面収差補正の粗調整を行い、その後、トラッキング制御を引き込む。さらにその後、球面収差補正の精調整を行い、フォーカス制御のループゲイン調整と、トラッキング制御のループゲイン調整とを行い、起動を終了する。この起動の終了により、BD−DLの再生が可能となる。
【0005】
このようにBD−DLが装置内に挿入された場合の起動動作では、記録層L0にフォーカス制御を引き込んで球面収差補正の粗調整が行われるのは、トラッキング制御がON状態になる前すなわちアドレス取得の前であるので、記録層L0にフォーカス制御を引き込むつもりが誤って記録層L1にフォーカス制御を引き込んでいても、光ディスク装置の制御手段がその誤りを直ちに検知することができなかった。
【0006】
したがって、記録層L0にフォーカス制御を引き込むつもりが誤って記録層L1にフォーカス制御を引き込んだ場合、記録層L0(実際にフォーカスされているのは記録層L1)での球面収差補正の粗調整において、記録層L1で球面収差が略最良になる位置にまで球面収差補正用可動レンズが移動し、その後、トラッキングエラー信号に関する各種調整が行われ、トラッキング制御がON状態になってアドレスを取得した段階で、光ディスク装置の制御手段は、誤って記録層L1にフォーカス制御を引き込んだことを検知でき、再度記録層L0にフォーカス制御を引き込むことを試みるようにしている。
【0007】
なお、正しく記録層L0にフォーカス制御を引き込んでいる場合に何らかの要因(例えば迷光など)で測定に誤りが生じて球面収差補正用可動レンズが移動し過ぎて、トラッキング制御をON状態にできない事態に陥ることを防止するために、記録層L0での球面収差補正の粗調整における球面収差補正用可動レンズの移動量にはリミットが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−230781号公報
【特許文献2】特許第4584172号公報
【特許文献3】特許第4258542号公報
【特許文献4】特開2009−140573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
現在、片面に三つ以上の記録層を有する光ディスクとしては、2010年6月に策定されたBDXL規格に準拠したBDが存在している。
【0010】
例えば、BDXL規格に準拠したBD−QL(4層BD)が装置内に挿入された場合の起動動作では、レーザ光が入射する側に最も遠い記録層L0にフォーカス制御を引き込むつもりが誤ってレーザ光が入射する側に最も近い記録層L3にフォーカス制御を引き込んでしまう可能性がある。
【0011】
記録層L0での球面収差補正の粗調整における球面収差補正用可動レンズの移動量に関して設けられているリミットの現状値では、記録層L0にフォーカス制御を引き込むつもりが誤って記録層L3にフォーカス制御を引き込んだ場合に、記録層L0(実際にフォーカスされているのは記録層L3)での球面収差補正の粗調整において、記録層L3で球面収差が略最良になる位置からかなり離れた位置までしか球面収差補正用可動レンズを移動させることができず、トラッキングエラー信号に関する各種調整に大きなずれが生じ、トラッキング制御をON状態にできない事態に陥るおそれがあった。
【0012】
そこで、記録層L0での球面収差補正の粗調整における球面収差補正用可動レンズの移動量に関して設けられているリミットを現状よりも拡げる方策が考えられるが、当該リミットを拡げ過ぎると、正しく記録層L0にフォーカス制御を引き込んでいる場合に何らかの要因(例えば迷光など)で測定に誤りが生じて球面収差補正用可動レンズが移動し過ぎて、トラッキング制御をON状態にできない事態に陥るおそれがあった。
【0013】
尚、特許文献1〜5では、球面収差の補正に関連する技術が開示されているが、起動時の記録層L0での球面収差補正の粗調整における球面収差補正用可動レンズの移動量に関して設けられているリミットに関係する開示や示唆はない。
【0014】
本発明は、上記の状況に鑑み、片面に三つ以上の記録層を有する光ディスクが装置内に挿入された場合の起動時にトラッキング制御をON状態にできない事態に陥ることを防止することができる光ディスク装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために本発明に係る光ディスク装置は、光ディスクに光を照射すると共に、前記光ディスクからの戻り光を光検出器で検出する光ピックアップと、前記光検出器から出力される電気信号を処理してトラッキングエラー信号を生成するトラッキングエラー信号生成手段と、前記光ピックアップの光学系中に配置される球面収差補正用可動レンズの位置を調整制御する可動レンズ位置調整手段とを備え、片面に三つ以上の記録層を有する光ディスクに対応可能な光ディスク装置であって、前記片面に三つ以上の記録層を有する光ディスクが前記光ディスク装置に挿入された場合に、前記可動レンズ位置調整手段が、前記光ディスク装置の起動時に、前記球面収差補正用可動レンズの移動量にリミットを設けた前記トラッキングエラー信号を指標とする調整を行い、レーザ光が入射する側から最も遠い記録層での前記調整のリトライ上限回数を1以上に設定する構成(第1の構成)とする。
【0016】
このような構成によると、片面に三つ以上の記録層を有するBDが装置内に挿入され、レーザ光が入射する側から最も遠い記録層L0にフォーカス制御を引き込むつもりが誤ってレーザ光が入射する側に近い記録層(L1以外)にフォーカス制御を引き込んだ場合でも、レーザ光が入射する側から最も遠い記録層実際にフォーカスされているのはレーザ光が入射する側に近い記録層)での球面収差補正の粗調整において、レーザ光が入射する側に最も近い記録層で球面収差が略最良になる位置に前記球面収差補正用可動レンズを移動させることができるので、トラッキングエラー信号に関する各種調整に大きなずれが生じない。したがって、レーザ光が入射する側から最も遠い記録層にフォーカス制御を引き込むつもりが誤ってレーザ光が入射する側に最も近い記録層にフォーカス制御を引き込んだ場合に、トラッキング制御をON状態にできない事態に陥ることを防止することができる。
【0017】
また、このような構成によると、前記調整における前記球面収差補正用可動レンズの移動量に関して設けられているリミットを拡げる必要がなくなるので、正しくレーザ光が入射する側から最も遠い記録層にフォーカス制御を引き込んでいる場合に何らかの要因(例えば迷光など)で測定に誤りが生じて前記球面収差補正用可動レンズが移動し過ぎて、トラッキング制御をON状態にできない事態に陥ることを防止することができる。
【0018】
また、レーザ光が入射する側から最も遠い記録層以外の記録での前記調整はアドレス取得後に実行され、記録層の誤りが発生しないため、上記第1の構成において、前記片面に三つ以上の記録層を有する光ディスクが前記光ディスク装置に挿入された場合に、前記可動レンズ位置調整手段が、レーザ光が入射する側から最も遠い記録層以外の記録での前記調整のリトライ上限回数を0に設定する構成(第2の構成)にすることが望ましい。
【0019】
また、レーザ光が入射する側から最も遠い記録層にフォーカス制御を引き込むつもりが誤ってレーザ光が入射する側に最も近い記録層にフォーカス制御を引き込んだ場合でもトラッキング制御をON状態にできない事態に陥ることを防止できるようにする観点から、上記第1または第2の構成において、前記リミットの絶対値とレーザ光が入射する側から最も遠い記録層での前記調整のリトライ上限回数との乗算値が、前記片面に三つ以上の記録層を有する光ディスクのうち最も記録層数が多い光ディスクのレーザ光が入射する側から最も遠い記録層とレーザ光が入射する側から最も近い記録層との規格上の最大距離以上である構成(第3の構成)にすることが望ましい。さらには、第3の構成中で、前記調整のリトライ上限回数が最小である構成を採用することがより望ましい。
【0020】
また、上記第1〜3のいずれかの構成において、BDXL規格に準拠したBDに対応可能であることが望ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る光ディスク装置によると、片面に三つ以上の記録層を有する光ディスクが装置内に挿入された場合の起動時にトラッキング制御をON状態にできない事態に陥ることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る光ディスク装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る光ディスク装置が備える光ピックアップの概略構成を示す図である。
【図3】光検出器の受光領域を示す図である。
【図4】トラッキングエラー信号生成回路の概略構成を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る光ディスク装置の起動動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明の一実施形態に係る光ディスク装置が実施する球面収差の粗調整の詳細を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態について図面を参照して以下に説明する。本発明の一実施形態に係る光ディスク装置の概略構成を図1に示す。
【0024】
本発明の一実施形態に係る光ディスク装置は、片面多層光ディスクに対応可能な光ディスク装置であって、光ピックアップ1と、RFアンプ31と、DSP(Digital Signal Processor)32と、再生処理回路33と、出力回路34と、CPU(Central Processing Unit)41と、ドライバ42と、表示部43と、操作部44と、送りモータ51と、スピンドルモータ52とを備えている。
【0025】
光ピックアップ1は、光ディスク2に光ビームを照射して、光ディスク2に記録された音声情報、映像情報等の各種情報の読み取りを行う。この光ピックアップ1は、波長780nm帯の赤外レーザビーム(CD(Compact Disc)用レーザビーム)、波長650nm帯の赤色レーザビーム(DVD(Digital Versatile Disc)用レーザビーム)、及び波長405nm帯の青色レーザビーム(BD用レーザビーム)を光ディスク2に照射することができる。なお、光ピックアップ1内部の詳細については後述する。
【0026】
光ピックアップ1により得られた音声情報、及び映像情報は、RFアンプ31、DSP32、再生処理回路33、及び出力回路34により音声及び映像に変換され、それぞれ不図示のスピーカ及びモニタから出力される。RFアンプ31は、光ピックアップ1からの音声信号や映像信号等を増幅する。DSP32及び再生処理回路33は、RFアンプ31からの信号に対して、再生のための各種情報処理(例えば映像処理等)を施す。出力回路34は、再生処理回路33からの信号を、不図示のスピーカ及びモニタに出力するためにD/A変換処理等を行う。
【0027】
また、DSP32は、光検出器20(図2参照)から出力される信号をもとに演算処理を行い、フォーカスエラー信号、フォーカスサーボ信号、トラッキングエラー信号等を生成する。
【0028】
CPU41は、操作部44からの情報を受け付けてDSP32に伝送すると共に、DSP32からの情報を表示部43に伝送する。
【0029】
ドライバ42は、DSP32からの指示に基づいて、送りモータ51及びスピンドルモータ52の動作を制御する。送りモータ51は、光ピックアップ1を光ディスク2の径方向に移動させる。スピンドルモータ52は、光ディスク2を回転方向に駆動する。
【0030】
また、ドライバ42は、DSP32からの指示に基づいて、ピックアップ装置1内のアクチュエータ21及びBEX(Beam Expander)モータ22(図2参照)の動作も制御する。
【0031】
次に、本発明の一実施形態に係る光ディスク装置が備える光ピックアップ1の概略構成を図2に示す。
【0032】
光ピックアップ1は、第一光源10aと、第二光源10bと、第一グレーティング11aと、第二グレーティング11bと、ダイクロプリズム12と、コリメートレンズ13と、ビームスプリッタ14と、立ち上げミラー15と、1/4波長板16と、コリメートレンズ17と、対物レンズ18と、検出レンズ19と、光検出器20と、アクチュエータ21と、BEXモータ22とを備えている。
【0033】
第一光源10aは、波長780nm帯の赤外レーザビーム(CD用レーザビーム)と、波長650nm帯の赤色レーザビーム(DVD用レーザビーム)とを出射できる2波長一体型LDである。第二光源10bは、405nm帯の青色レーザビーム(BD用レーザビーム)を出射できるLDである。
【0034】
第一グレーティング11aは、第一光源10aから出射されるレーザビームを回折し、回折光をダイクロプリズム12に出力する。第二グレーティング11bは、第二光源10bから出射されるレーザビームを回折し、回折光をダイクロプリズム12に出力する。
【0035】
ダイクロプリズム12は、第一グレーティング11aから出力された回折光を透過し、第二グレーティング11bから出力された回折光を反射する。そして、第一グレーティング11a及び第二グレーティング11bから出射される回折光の光軸を一致させる。ダイクロプリズム12において透過又は反射された回折光(レーザビーム)は、コリメートレンズ13に送られる。
【0036】
コレメータレンズ13は、ダイクロプリズム12から送られてくるレーザビームを平行光に変換する。コリメートレンズ13で平行光とされたレーザビームは、ビームスプリッタ14に送られる。
【0037】
ビームスプリッタ14は、入射するレーザビームを分離する光分離素子として機能し、コリメートレンズ13から送られてきた光ビームを透過して、光ディスク2側へと導くとともに、光ディスク2で反射された反射光を反射して光検出器20側へと導く。ビームスプリッタ14を透過したレーザビームは、立ち上げミラー15に送られる。
【0038】
立ち上げミラー15は、ビームスプリッタ14を透過してきた光ビームを反射して光ディスク2へと導く。立ち上げミラー15は、ビームスプリッタ14から送られてくるレーザビームの光軸に対して45°傾いた状態となっており、立ち上げミラー15で反射されたレーザビームの光軸は、光ディスク2の記録面と略直交する。
【0039】
1/4波長板16は、直線偏光を円偏光に変換し、円偏光を直線偏光に変換する機能を有し、立ち上げミラー15が反射した直線偏光のレーザビームを円偏光に変換してコリメートレンズ17に送り、光ディスク2から反射される円偏光のレーザビームを直線偏光に変換して、立ち上げミラー15に送る。
【0040】
コリメートレンズ17は、BEXモータ22によって光軸方向(図2の上下方向)に移動可能となっている。コリメートレンズ17の移動に応じて、コリメートレンズ17から出射されるレーザビームの状態を発散光としたり、収束光としたりすることができる。そして、このようにコリメートレンズ17から出射されるレーザビームの状態を変更することで、球面収差の補正を行うことができる。コリメートレンズ17から出射されるレーザビームは、対物レンズ18に送られる。
【0041】
対物レンズ18は、コリメートレンズ17から送られてくるレーザビームを光ディスク2の記録面上に集光させる。また、対物レンズ18は後述するアクチュエータ21によって、例えば、図2の上下方向及び左右方向に移動可能とされており、フォーカスサーボ信号及びトラッキングサーボ信号に基づいてその位置が制御される。
【0042】
光ディスク2で反射された反射光は、対物レンズ18、コリメートレンズ17、1/4波長板16の順に通過し、立ち上げミラー15で反射された後、更にビームスプリッタ14で反射されて、検出レンズ19によって光検出器20上に設けられる受光素子へと集光される。
【0043】
光検出器20は、フォトダイオード等の受光素子を用いて受光した光情報を電気信号に変換して、DSP32(図1参照)に出力する。光検出器20は、図3に示すように、縦横に均等に四分割されたメイン受光領域A〜Dと、横に均等に二分割されたサブ受光領域E及びFと、横に均等に二分割されたサブ受光領域G及びHとを備えており、領域毎に個別に光電変換を行って電気信号を出力する。メイン受光領域A〜Dは0次回折光(メインビーム)を受光する領域であり、サブ受光領域E〜Hは1次回折光(サブビーム)を受光する領域である。DSP32は、領域Aの電気信号SAと領域Cの電気信号SCと加算したものから領域Bの電気信号SBと領域Dの電気信号SDと加算したものを引くことでフォーカスエラー信号を生成することができ、領域A〜Dの電気信号SA〜SDを加算することでフォーカスサム信号を生成することができる。また、DSP32はトラッキングエラー信号生成回路を有しており、当該トラッキングエラー信号生成回路は領域A〜Hの電気信号SA〜SHからトラッキングエラー信号を生成する。なお、トラッキングエラー信号生成回路の詳細については後述する。
【0044】
アクチュエータ21は、ドライバ42(図1参照)で生成され出力された対物レンズ駆動信号に従って、対物レンズ18を光ディスク2の径方向に移動させる。
【0045】
アクチュエータ21は、対物レンズ18を光ディスク2の記録面に沿う方向に移動させるトラッキング動作の他に、対物レンズ18から出射されるレーザビームの光軸が揺動するように対物レンズ18を傾動させるチルト動作や、対物レンズ18を光ディスク2に対して接近離反するように移動させるフォーカス動作も行うことができる。
【0046】
次に、DSP32が有するトラッキングエラー信号生成回路の概略構成を図4に示す。図4に示すトラッキングエラー信号生成回路は、可変利得アンプ61〜68と、加算器69〜72と、メイン差動アンプ73と、サブ差動アンプ74と、アッテネータ75及び76と、合成差動アンプ77とを備えている。また、図示はしていないが、DSP32が有するトラッキングエラー信号生成回路は、トラッキングエラー信号のバランスを調整するためのバランス調整回路、トラッキングエラー信号生成回路内の各信号のオフセットを調整するためのオフセット調整回路等も備えている。
【0047】
加算器69は、可変利得アンプ61によって増幅された電気信号SAと、可変利得アンプ62によって増幅された電気信号SBとを加算し、加算後の信号をメイン差動アンプ73の非反転入力端子に出力する。加算器70は、可変利得アンプ63によって増幅された電気信号SCと、可変利得アンプ64によって増幅された電気信号SDとを加算し、加算後の信号をメイン差動アンプ73の反転入力端子に出力する。メイン差動アンプ73は、加算器69及び70の出力信号からメインプッシュプル信号を生成してアッテネータ75に出力する。アッテネータ75はメインプッシュプル信号を減衰し、減衰後の信号を合成差動アンプ77の非反転入力端子に出力する。
【0048】
加算器71は、可変利得アンプ65によって増幅された電気信号SEと、可変利得アンプ66によって増幅された電気信号SFとを加算し、加算後の信号をサブ差動アンプ74の非反転入力端子に出力する。加算器72は、可変利得アンプ67によって増幅された電気信号SGと、可変利得アンプ68によって増幅された電気信号SHとを加算し、加算後の信号をサブ差動アンプ74の反転入力端子に出力する。サブ差動アンプ74は、加算器71及び72の出力信号からサブプッシュプル信号を生成してアッテネータ76に出力する。アッテネータ76はサブプッシュプル信号を減衰し、減衰後の信号を合成差動アンプ77の反転入力端子に出力する。
【0049】
合成差動アンプ77は、アッテネータ75によって減衰されたメインプッシュプル信号と、アッテネータ76によって減衰されたサブプッシュプル信号からトラッキングエラー信号TEを生成する。
【0050】
以上のように構成された本発明の一実施形態に係る光ディスク装置は、光ディスク2が装置内に挿入されると、光ディスク2の種類を判別し、その判別結果がBDである場合に、図5に示すフロー動作の起動動作を行う。
【0051】
図5に示すフロー動作では、まずDSP32がフォーカスサーチで光ディスクの記録層数を取得する(ステップS10)。
【0052】
次に、装置の製造工程等で予め計測しているL0用設定値でBEXモータ22がコリメートレンズ17を移動させて球面収差補正を行い(ステップS20)、その後、DSP32は、フォーカスエラー信号の自動利得制御をON状態にし(ステップS30)、レーザ光が入射する側から最も遠い記録層L0にフォーカス制御を引き込んでフォーカス制御をON状態にする(ステップS40)。
【0053】
それから、DSP32は、トラッキングエラー信号を指標にして球面収差補正の粗調整を行う(ステップS50)。なお、ステップS50の詳細については後述する。ステップS50の処理終了後、トラッキングエラー信号の自動利得制御をON状態する(ステップS60)。なお、トラッキングエラー信号の自動利得制御がON状態である場合、DSP32は、トラッキングエラー信号の振幅レベルが所定のレベルになるように、光検出器20から出力される電気信号SA〜SHの総和の変化に応じて、アッテネータ75及び76の減衰量を調整する。また、ステップS60では、トラッキングエラー信号の各種調整も実施させる。ステップS60の処理は、記録層L0での球面収差の粗調整の直後にのみ実行され、それ以外の記録層での球面収差の粗調整の直後には実行されない。
【0054】
ステップS60に続くステップS70において、DSP32は、トラッキング制御を引き込んでトラッキング制御をON状態にする。その後、DSP32は、RFアンプ31から出力されるRF信号を指標にして球面収差補正の精調整を行う(ステップS80)。
【0055】
球面収差補正の精調整が終了すると、DSP32は、フォーカス制御のループゲイン調整と、トラッキング制御のループゲイン調整とを行う(ステップS90及びS100)。
【0056】
さらにその後、DSP32は、次の記録層が有るか否か、すなわち上述した各種調整を行っていない記録層が有るか否かを判定する(ステップS110)。
【0057】
次の記録層(直前に各種調整を行った記録層の次にレーザ光が入射する側から遠い記録層)が有れば(ステップS110のYES)、DSP32は、装置の製造工程等で予め計測している次の記録層用設定値でBEXモータ22がコリメートレンズ17を移動させて球面収差補正を行ってから、DSP32が次の記録層にフォーカスジャンプするようにドライバ42を介して光ピックアップ1を制御し(ステップS120)、その後、ステップS50に移行する。
【0058】
一方、次の記録層がなければ(ステップS110のNO)、全記録層での調整が終了しているため、装置内に挿入された光ディスク2がBDである場合の起動を終了する。なお、装置の製造工程等で予め計測している各記録層用設定値は、例えば、DSP32が内蔵している不揮発性メモリに予め記憶しておくとよい。
【0059】
上述したステップS50での球面収差補正の粗調整は、図6に示すフロー動作のようになる。
【0060】
図6に示すフロー動作では、まずDSP32は、現在フォーカス制御に引き込んでいる記録層がL0であるか否かを判定する(ステップS51)。DSP32は、現在フォーカス制御に引き込んでいる記録層がL0であれば(ステップS51のYES)、リトライの上限回数を示すパラメータAをN(Nは任意の自然数)に設定してからステップS54に移行し、現在フォーカス制御に引き込んでいる記録層がL0でなければ(ステップS51のNO)、リトライ回数を示すパラメータAを0に設定してからステップS54に移行する。
【0061】
なお、上記のNは、本発明に係る光ディスク装置が対応可能な片面に三つ以上の記録層を有する光ディスク(本実施形態ではBD)のうち最も記録層数が多い光ディスクのレーザ光が入射する側から最も遠い記録層L0とレーザ光が入射する側から最も近い記録層との距離に基づいて設定するとよい。例えば、本発明に係る光ディスク装置が対応可能な片面に三つ以上の記録層を有する光ディスク(本実施形態ではBD)のうち最も記録層数が多い光ディスクがBD−QL(4層BD)である場合、記録層L0と記録層L3との距離46.5μmに基づいて、上記のNを設定するとよい。リミットの絶対値とNとの乗算値が記録層L0と記録層L3との距離の最大値以上であり、且つ、Nをできるだけ小さくすることが望ましい。4層BDの記録層L0と記録層L3との距離46.5μmは規格上5.0μmばらつくので、後述するステップS54でのリミットを例えば±10.3μmに設定すると、Nは5(10.3×N≧(46.5+5)を満たす最小のN)に設定することが望ましい。
【0062】
ステップS54において、DSP32は、調整実施回数を示すパラメータiを0に設定する。ステップS54に続くステップS55において、DSP32は、ドライバ42及びBEXモータ22を介して、コリメートレンズ17を移動させ、トラッキングエラー信号の振幅レベルが最大になるコリメートレンズ17の位置を探索する。球面収差補正の粗調整における球面収差補正用可動レンズの移動量にはリミットが設けられているので、上記の探索中、ステップS55の開始時点におけるコリメートレンズ17の位置からリミットがかかる位置までしかコリメートレンズ17を移動させることができない。
【0063】
ステップS55に続くステップS56において、DSP32は、探索した範囲内でトラッキングエラー信号の振幅レベルが最大になる位置にコリメートレンズ17を移動させる。
【0064】
ステップS56に続くステップS57において、DSP32は、ステップS56において移動させたコリメートレンズ17の位置がマイナス側(ステップS56の実行によりコリメートレンズ17がその実行前よりも光ディスク2から遠ざかる側)のリミットと一致するか否かを判定する。
【0065】
ステップS56において移動させたコリメートレンズ17の位置がマイナス側のリミットと一致していなければ(ステップS57のNO)、直ちに球面収差の粗調整を終了する。
【0066】
一方、ステップS56において移動させたコリメートレンズ17の位置がマイナス側のリミットと一致していれば(ステップS57のYES)、探索範囲を変更することでトラッキングエラー信号の振幅レベルがより大きくなる可能性があるので、DSP32は、パラメータiを1つインクリメントし(ステップS58)、そのパラメータiがパラメータAを越えていなければ(ステップS59のNO)、ステップS55に戻り、再度コリメータレンズの位置調整を実施し、ステップS58でインクリメントしたパラメータiがパラメータAを越えていれば(ステップS59のYES)、リトライの上限に達しているため、ステップS55に戻らないように、球面収差の粗調整を終了する。
【0067】
以上のような起動動作により、片面に三つ以上の記録層を有するBDが装置内に挿入され、記録層L0にフォーカス制御を引き込むつもりが誤ってレーザ光が入射する側に近い記録層(L1以外)にフォーカス制御を引き込んだ場合に、記録層L0(実際にフォーカスされているのはレーザ光が入射する側に近い記録層)での球面収差補正の粗調整において、レーザ光が入射する側に近い記録層で球面収差が略最良になる位置にコリメートレンズ17を移動させることができるので、トラッキングエラー信号に関する各種調整に大きなずれが生じない。したがって、記録層L0にフォーカス制御を引き込むつもりが誤ってレーザ光が入射する側に近い記録層にフォーカス制御を引き込んだ場合に、トラッキング制御をON状態にできない事態に陥ることを防止することができる。
【0068】
また、以上のような起動動作により、球面収差補正の粗調整におけるコリメートレンズ17の移動量に関して設けられているリミットを拡げる必要がなくなるので、正しく記録層L0にフォーカス制御を引き込んでいる場合に何らかの要因(例えば迷光など)で測定に誤りが生じてコリメートレンズ17が移動し過ぎて、トラッキング制御をON状態にできない事態に陥ることを防止することができる。
【0069】
なお、本実施形態では、前記光ピックアップの光学系中に配置される球面収差補正用可動レンズとしてコリメートレンズを用いたが、本発明はこれに限定されることはなく、例えば、球面収差補正用可動レンズがビームエキスパンダを構成する複数のレンズの一部であるような光ディスク装置等にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 光ピックアップ
2 光ディスク
10a 第一光源
10b 第二光源
11a 第一グレーティング
11b 第二グレーティング
12 ダイクロプリズム
13 コリメートレンズ
14 ビームスプリッタ
15 立ち上げミラー
16 1/4波長板
17 コリメートレンズ
18 対物レンズ
19 検出レンズ
20 光検出器
21 アクチュエータ
22 BEXモータ
31 RFアンプ
32 DSP
33 再生処理回路
34 出力回路
41 CPU
42 ドライバ
43 表示部
44 操作部
51 送りモータ
52 スピンドルモータ
61〜68 可変利得アンプ
69〜72 加算器
73 メイン差動アンプ
74 サブ差動アンプ
75、76 アッテネータ
77 合成差動アンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ディスクに光を照射すると共に、前記光ディスクからの戻り光を光検出器で検出する光ピックアップと、
前記光検出器から出力される電気信号を処理してトラッキングエラー信号を生成するトラッキングエラー信号生成手段と、
前記光ピックアップの光学系中に配置される球面収差補正用可動レンズの位置を調整制御する可動レンズ位置調整手段とを備え、片面に三つ以上の記録層を有する光ディスクに対応可能な光ディスク装置であって、
前記片面に三つ以上の記録層を有する光ディスクが前記光ディスク装置に挿入された場合に、
前記可動レンズ位置調整手段が、前記光ディスク装置の起動時に、前記球面収差補正用可動レンズの移動量にリミットを設けた前記トラッキングエラー信号を指標とする調整を行い、レーザ光が入射する側から最も遠い記録層での前記調整のリトライ上限回数を1以上に設定することを特徴とする光ディスク装置。
【請求項2】
前記片面に三つ以上の記録層を有する光ディスクが前記光ディスク装置に挿入された場合に、
前記可動レンズ位置調整手段が、レーザ光が入射する側から最も遠い記録層以外の記録での前記調整のリトライ上限回数を0に設定する請求項1に記載の光ディスク装置。
【請求項3】
前記リミットの絶対値とレーザ光が入射する側から最も遠い記録層での前記調整のリトライ上限回数との乗算値が、
前記片面に三つ以上の記録層を有する光ディスクのうち最も記録層数が多い光ディスクのレーザ光が入射する側から最も遠い記録層とレーザ光が入射する側から最も近い記録層との規格上の最大距離以上である請求項1または請求項2に記載の光ディスク装置。
【請求項4】
BDXL規格に準拠したBDに対応可能である請求項1〜3のいずれか1項に記載の光ディスク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−256384(P2012−256384A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127525(P2011−127525)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000201113)船井電機株式会社 (7,855)
【Fターム(参考)】