説明

光ピックアップ用光学素子

【課題】質量の増大を招くことなく、温度による特性劣化を防止でき、良好な光学特性が安定して得られる光ピックアップ用光学素子を提供する。
【解決手段】光束を集束する対物レンズ1と、収差を補正する収差補正手段と、対物レンズ1および収差補正手段の相対的位置を固定するホルダとを有する光ピックアップ用光学素子であって、収差補正手段は、負のパワーを持つ収差補正素子3を含む複数の収差補正素子2,3を有し、ホルダは、少なくとも負のパワーを持つ収差補正素子3を保持する第1のホルダ32と、少なくとも対物レンズ1を保持する第2のホルダ31とを有し、対物レンズ1は、開口数が0.75以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的に情報の記録/再生を行う光ディスクドライブ装置に設けられる光ピックアップ用光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光ディスクドライブ装置では、その記録容量を増すために、波長780nmのレーザ光を使用したCDから、波長650nmのレーザ光を使用したDVD、さらに波長405nmのレーザ光を使用したディスクの採用というように、波長を短くすることによる高密度化が進められている。
【0003】
このような光ディスクドライブ装置では、過去の資産を生かすために、波長405nmのレーザ光を使用したディスク用の装置でも、波長650nmのレーザ光を使用したDVDや、波長780nmのレーザ光を使用したCDの記録再生ができることが望ましい。
【0004】
ところで、光ディスクドライブ装置には、レーザ光を記録媒体に照射して記録再生を行う光ピックアップが搭載されており、さらに、光ピックアップには、レーザ光を記録媒体に集光する対物レンズが取り付けられている。
【0005】
この光ピックアップや対物レンズは、設計上は、1つの波長専用として、複数個の光ピックアップや対物レンズを搭載することで、各種波長のディスクの記録再生に対応することが容易である。
【0006】
しかし、このように各波長に対応して光ピックアップを搭載すると、装置の小型化や、低価格化に不利であることから、1つの光ピックアップで複数の波長に対応することが求められている。光ピックアップに搭載される対物レンズについても、各波長に対応する複数の対物レンズを搭載して、それらを波長に応じて切り換えて使用するのではなく、一つの対物レンズで複数の波長に対応させることが求められている。
【0007】
ところが、波長が短くなると、各種収差に対する光学特性の許容量が減少して、一つの対物レンズのみで複数の波長に対応させることが困難になる。このため、光を集光する対物レンズ以外に、波長が異なることによって発生する収差を補正する収差補正素子が必要となる。しかも、この収差補正素子は、光ピックアップの光学性能を確保するために、その光軸を対物レンズの光軸と精度良く合わせる必要がある。
【0008】
一方、従来の光ピックアップとして、例えば、光ビームを光ディスクの信号記録面上に集光させる集束手段と、光ビームの常光成分および異常光成分のうち一方の成分を透過し、他方の成分を回折して収束させる偏光性ホログラム素子と、それらの相対位置を固定する保持手段とを備えるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
かかる特許文献1に開示の技術を適用し、偏光性ホログラム素子を収差補正素子に置き換えれば、収差補正素子と集束手段である対物レンズとの相対位置を、保持手段により精度良く保つことができ、良好な光学特性を確保することが可能となる。
【0010】
ところで、開口数を大きくするために、収差補正素子に負のパワーを持たせると収差補正が容易となり、光学特性上有利となる。また、負のパワーを持つ凹レンズによって、色収差補正も可能となる。しかし、負のパワーを持たせた場合、正のパワーを持たせた光学素子にくらべて、位置ずれなどの影響が大きくなる。
【0011】
また、収差補正素子と、集束手段である対物レンズとの保持手段であるホルダは、軽量化、低価格化のために合成樹脂で作られることが多いが、合成樹脂の線膨張係数が大きいため、温度によってそれに保持された収差補正素子と対物レンズとの距離や、収差補正素子が複数ある場合には、収差補正素子同士の距離が変化してしまうという問題がある。
【0012】
このため、先に述べたように、負のパワーを持つ収差補正素子の場合には、位置ずれの影響が大きく、短波長化や高開口数化による光学特性の許容量の減少とも相俟って、合成樹脂の温度による位置ずれにより、光学特性の劣化が許容できなくなるという問題がある。
【0013】
この問題を解決する方法として、例えば、ホルダを金属製として、温度による位置ずれを小さくすることが考えられる。しかし、この場合には、質量が大きくなって、ディスクの面振れや偏心によるトラックのずれなどに追従させる光ピックアップの可動部の共振周波数が低くなったり、駆動電流が増加したりするなど光ピックアップの性能が低くなることが懸念される。
【0014】
一方、合成樹脂からなるレンズホルダの温度による熱膨張変形によって対物レンズが傾くなどの不具合を防止するために、合成樹脂の成型時の湯流れに着目して、レンズホルダが対物レンズの光軸を通る平面で左右対称な形状に分けられるとき、その光軸を通る平面上に合成樹脂注入用のゲートを設けたレンズホルダも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平10−3690号公報
【特許文献2】特開平9−35296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記特許文献2に開示の技術によれば、光軸を通る左右対称な平面に関して、樹脂の流れが対称となるので、温度変化による熱膨張変形も対称となり、その結果、対物レンズの傾きなどを防ぐことができる。
【0017】
しかし、特許文献2に開示の技術を、対物レンズおよび収差補正素子を保持するホルダに適用した場合には、ホルダの熱膨張変形による対物レンズおよび収差補正素子の光軸の傾きは防止できても、収差補正素子と対物レンズとの距離や、収差補正素子が複数ある場合の収差補正素子同士の距離変化は防ぐことができないため、光学特性が劣化することになる。
【0018】
したがって、かかる事情に鑑みてなされた本発明の目的は、質量の増大を招くことなく、温度による特性劣化を防止でき、良好な光学特性が安定して得られる光ピックアップ用光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成する本発明に係る光ピックアップ用光学素子は、光束を集束する対物レンズと、収差を補正する収差補正手段と、上記対物レンズおよび上記収差補正手段の相対的位置を固定するホルダとを有する光ピックアップ用光学素子であって、
上記収差補正手段は、負のパワーを持つ収差補正素子を含む複数の収差補正素子を有し、
上記ホルダは、少なくとも上記負のパワーを持つ収差補正素子を保持する第1のホルダと、少なくとも上記対物レンズを保持する第2のホルダとを有し、
上記対物レンズは、開口数が0.75以上である、ことを特徴とするものである。
【0020】
上記負のパワーを持つ収差補正素子は、上記対物レンズに異なる波長の光が入射したときに発生する収差を補正するものである、のが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、光束を集束する対物レンズと、負のパワーを持つ収差補正素子を含む複数の収差補正素子を有する収差補正手段と、それらを固定するホルダとを有する光ピックアップ用光学素子として、質量の増大を招くことなく、温度による特性劣化を防止でき、良好な光学特性が安定して得られる光ピックアップ用光学素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明とともに開発した第1参考例に係る光ピックアップの一部上面図である。
【図2】一部を図1のA−A断面で示す光ピックアップの概念図である。
【図3】図1に示す光ピックアップに搭載した光ピックアップ用光学素子である光学素子部組を示す斜視図である。
【図4】同じく、分解斜視図である。
【図5】図1のA−A断面における光学素子部組の断面図である。
【図6】第1参考例における光学素子部組のホルダである鏡筒の製造方法を説明するための図である。
【図7】同じく、鏡筒の製造方法を説明するための図である。
【図8】本発明とともに開発した第1参考例に係る光ピックアップ用光学素子である光学素子部組の分解斜視図である。
【図9】本発明の第1実施の形態に係る光ピックアップ用光学素子である光学素子部組の断面図である。
【図10】同じく、第2実施の形態に係る光ピックアップ用光学素子である光学素子部組の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明を説明する。
【0024】
(第1参考例)
図1〜図7は本発明とともに開発した第1参考例に係る光ピックアップを示すもので、図1は光ピックアップの一部上面図、図2は一部を図1のA−A断面で示す光ピックアップの概念図、図3は光ピックアップ用光学素子である光学素子部組を示す斜視図、図4は同じく分解斜視図、図5は図1のA−A断面における光学素子部組の断面図、図6および図7はホルダである鏡筒の製造方法を説明するための図である。
【0025】
図1および図2において、液晶ポリマーなどの合成樹脂からなるホルダ51には、対物レンズ1、収差補正手段である収差補正素子2,3、ホルダである鏡筒11、絞り部材14を有する光ピックアップ用光学素子である光学素子部組10が接着固定されている。この光学素子部組10に関しては、後で詳しく説明する。
【0026】
ホルダ51には、フォーカスコイル52a,52b、トラッキングコイル53a〜53dが接着されている。また、ホルダ51には、ベリリウム銅製の4本のワイヤバネ54a〜54d(54aは図示せず)の一端部も接着されている。さらに、ホルダ51に固定された基板55a,55bには、ワイヤバネ54a〜54dの一端とフォーカスコイル52a,52bおよびトラッキングコイル53a〜53dの端末とが接続されている(端末は図示せず)。
【0027】
ワイヤバネ54a〜54dの他端部はバネウケ56に接着され、これによりホルダ51はワイヤバネ54a〜54dを介して記録媒体59の垂直方向(Z方向)および半径方向(X方向)に移動可能に支持されていることになる。記録媒体59内の2点鎖線79は、カバーガラス0.1mmのときの記録面を示しており、対物レンズ1などの内部に示した2点鎖線80は、カバーガラス0.1mmのときの光束を示している。
【0028】
バネウケ56には、基板57が固定され、この基板57にワイヤバネ54a〜54dの他端が半田付けされている。ワイヤバネ54a〜54dは図示しないフレキシブル基板を介して、さらに外部の電気回路に接続される。バネウケ56は、鉄製のべース58の曲げ立ち上げ部61aに固定されている。曲げ立ち上げ部61a,61bには、磁界を発生させる磁石62a,62bも固定されている。以上、ベース58上に組み立てられた光学素子部組10を動かすための機構をレンズアクチュエータ60と呼ぶ。図2では、このレンズアクチュエータ60のみを図1のA−A断面で示し、その他の光学部品などについては、概念図として示している。
【0029】
次に、光学素子部組10について、図3〜図5を参照して詳細に説明する。
【0030】
鏡筒11は、例えばカーボン繊維30%入りの液晶ポリマーで製作されており、この鏡筒11には、図4および図5に示すように、対物レンズ1および収差補正素子2,3が接着固定されている。対物レンズ1は、ガラス製レンズからなっている。
【0031】
収差補正素子2は、合成樹脂製で、その両面6,7には輪帯形状の回折格子が形成されている。収差補正素子3は、同様に、合成樹脂製であるが、一方の面9に輪帯形状の回折格子が形成されており、他方の面8は負のパワーをもつ非球面形状の凹面となっている。ここで、面6,7および9の回折格子は、カバーバラス厚さ0.1mm、波長405nm、開口数0.85のディスクや、カバーガラス厚さ0.6mm、波長650nm、開口数0.6のDVD、あるいは、カバーガラス厚さ1.2mm、波長780nm、開口数0.45のCDに対応する光を、対物レンズ1に入射した際に発生する各種収差の補正を行っている。すなわち、波長の違いを利用して、回折格子により各波長で異なる空間を光が通るようにして、異なるカバーガラス厚に対応させると共に、球面収差や色収差を補正している。また、面8の負のパワーをもつ凹面は、これによって光束を広げ、収差の改善など、波長405nmのときの大きな開口数0.85への光学設計対応を容易にしている。
【0032】
図5に示すように、鏡筒11の対物レンズ1および収差補正素子2,3の固定部分には、対応する素子を接着する際に、余った接着剤が逃げる接着剤溜まり13a〜13cが設けられており、これにより接着剤が光学作用面などに広がってしまうのを防止している。
【0033】
鏡筒11は、先に述べたように、カーボン繊維30%入りの液晶ポリマーで製作される。本参考例では、金型を使った射出成形により製作されるが、この際、図7に示すように、ランナー26a,26bから鏡筒11のZ−端側面の2か所に設けられたサイドゲート27a,27bを経て樹脂が充填されて、鏡筒11が成形される。なお、図7では、鏡筒11は簡略化して描いてある。図1〜図6の凸12a,12bは、ゲートカット後のゲート残りを示している(以下、凸12a,12bをゲートとも称する)。図4および図5に示すように、ゲート12a,12bの位置関係は、光軸22に回転対称な2個となっている。また、ゲート12a,12bは、Z−方向の端面30に接して、XY方向側面に設けられている。
【0034】
さらに、鏡筒11には、絞り16を持つ絞り部材14が接着固定されている。ゲート残りの凸12a,12bのために、絞り部材14には逃げ部15a,15bが設けられている。絞り部材14のZ−側の面17は、円錐側面形状となっている。これは、光学素子部組10に入射した光が絞り部材14にあたって、180度逆向きに来た向きに反射し、光学系に戻って、信号検出やレーザなどに悪影響を及ぼすのを防ぐためで、この円錐側面形状の面17により、来た向きと角度を持って反射させて、光が光学系に戻るのを防いでいる。
【0035】
次に、図2を参照して、光学素子部組10以外の光学系などについて、波長405nmのレーザ光を発光するレーザダイオード63から光学素子部組10までの光路に沿って説明する。
【0036】
レーザダイオード63からのレーザ光は、コリメータレンズ64に入射する。コリメータレンズ64は、入射するレーザ光が平行光として出射されるように、その光軸方向の位置が調整されている。コリメータレンズ64を通ったレーザ光は、そのレーザ光と波長650nmのレーザ光とを合成するダイクロイックプリズム65、さらにそれらのレーザ光と波長780nmのレーザ光とを合成するダイクロイックプリズム66を通って、1/4波長板68が接合された偏光ビームスプリッタ67に至る。レーザダイオード63から出射したレーザ光は、上記の経路をたどった後、平行光を若干収束させたり、発散させたりする凹レンズ69および凸レンズ70よりなるリレーレンズ系を通って、光学素子部組10に到達する。
【0037】
レーザダイオード63から出射したレーザ光の一部は、偏光ビームスプリッタ67で反射する。その反射光の進む位置には、フォトディテクタ71が配置されている。また、記録媒体からの戻り光は、偏光ビームスプリッタ67で反射し、集光レンズ72介してフォトディテクタ73に至る。
【0038】
レーザダイオード63の他に、波長650nmのレーザ光を発光するレーザダイオード74、波長780nmのレーザ光を発光するレーザダイオード76も配置されている。
【0039】
レーザダイオード74からの波長650nmのレーザ光は、コリメータレンズ75に入射する。コリメータレンズ75は、入射するレーザ光が平行光として出射されるように、その光軸方向の位置が調整されている。コリメータレンズ75を通ったレーザ光は、そのレーザ光と波長405nmのレーザ光とを合成するダイクロイックプリズム65に入射して反射する。それ以降は、波長405nmのレーザ光を同じ光路をたどって光学素子部組10に到達する。
【0040】
レーザダイオード76からの波長780nmのレーザ光は、3ビーム法によりトラッキングエラーを検出するために、グレーティング77を介してコリメータレンズ78に入射する。コリメータレンズ78は、入射するレーザ光が平行光として出射されるように、その光軸方向の位置が調整されている。コリメータレンズ78を通ったレーザ光は、そのレーザ光と波長405nmのレーザ光および波長650nmのレーザ光とを合成するダイクロイックプリズム66に入射して反射する。それ以降は、波長405nmのレーザ光を同じ光路をたどって光学素子部組10に到達する。
【0041】
なお、フォトディテクタ71およびフォトディテクタ73は、全ての波長で共用される。また、上述した光学素子の各々は、適切なホルダや取り付け板などを介して、図示しないハウジングに固定されている。
【0042】
次に、以上のように構成された本参考例について、その動作を説明する。
【0043】
波長405nmのレーザ光に対応する記録媒体59を使用するときには、レーザダイオード63を発光させる。レーザダイオード63より発せられたレーザ光は、コリメータレンズ64に入射して平行光にされ、ダイクロイックプリズム65,66、偏光ビームスプリッタ67、1/4波長板68、リレーレンズ69,70を経由して、光学素子部組10の収差補正素子3,2を通り、対物レンズ1によって記録媒体59上にスポットを形成する。
【0044】
偏光ビームスプリッタ67に入射したレーザ光は、その一部が反射されてフォトディテクタ71で受光され、その出力に基づいてレーザダイオード63の発光量の調整が行われる。
【0045】
記録媒体59からの反射光(戻り光)は、再び対物レンズ1を通り、往路とは逆の経路をたどって偏光ビームスプリッタ67に到達する。ここで、戻り光は反射して、集光レンズ72を経てフォトディテクタ73で受光され、その出力に基づいてフォーカスエラー、トラッキングエラーおよび記録信号の検出が行われる。また、さらに球面収差の検出も行われる。
【0046】
フォーカスエラーが検出された場合は、フォーカスコイル52a,52bに電流を流すことによって、ホルダ51を記録媒体59に垂直な方向に駆動する。トラッキングエラーが検出された場合は、トラッキングコイル53a〜53dに電流を流すことによって、ホルダ51を記録媒体59のトラックを横切る方向に駆動する。記録媒体59がディスクの場合には、半径方向に駆動することになる。また、異なるトラックにアクセスする場合は、図示していない駆動手段によってハウジングごとホルダ51を記録媒体59のトラックを横切る方向に駆動する。以上のようにして、ホルダ51およびそれに固定された光学素子部組10はフォーカス制御、トラッキング制御、アクセス制御される。
【0047】
記録媒体59のカバーガラス厚のばらつきなどにより発生した球面収差が検出されたときには、リレーレンズ系を構成するレンズ69および/または70を駆動して球面収差を補正する。これは、レンズ69および/または70を動かすことで、光学素子部組10に入射する本来平行光である光の収束・発散具合を変更し、これによって変化する球面収差を利用するものである。
【0048】
上記構成において、光学素子部組10は、対物レンズ1と収差補正素子2との距離19よりも、収差補正素子2,3の距離18の方が、要求精度が厳しい。これは、収差補正素子3の面8が負のパワーをもっており、負のパワーを持つ面と次の光学作用面との距離のずれの影響が、正のパワーを持つ面や、パワーを持たない面と次の光学作用面との距離のずれよりも大きいためである。このため、軽量化や、低価格化を図るために、鏡筒11を合成樹脂で製作する場合には、合成樹脂は温度による線膨張係数が大きく、温度によって収差補正素子2,3の距離18が変化し、しかも、その変化は、カバーガラスが薄く、波長が短く、開口数が大きくなると、光学特性に対するマージンも減少するので、許容できなくなる。
【0049】
本参考例では、ゲート12a,12bの位置をZ−端の側面に設けているので、射出成型時の湯の流れは、図6に矢印28で示すように、Z−側の端では、XY平面方向に行き渡るためのXY平面に平行な方向の湯の流れとなるが、このZ−側の端を除くZ−側の領域20では、矢印29で示すように、全体がZ方向に平行にZ+方向に向かう流れとなる。
【0050】
ここで、合成樹脂の線膨張係数は、湯の流れ方向には小さく、直角方向には大きい。例えば、カーボンを30%含む液晶ポリマーでは、前者は、0.2×10−5/℃であるのに対し、後者は、5×10−5/℃と大きい。本参考例では、収差補正素子2,3の間の部分は、領域20にあり、この距離18に関わる線膨張係数は、0.2×10−5/℃となる。環境温度やフォーカスコイル52a,52b、トラッキングコイル53a〜53dが発生する熱によって、温度が30℃上昇したとしても、距離の変化は1mmに付き0.06μmと十分小さく無視できる。仮に、直角方向であった場合は、1mmにつき1.5μmと大きく変化することになり、問題となる。
【0051】
湯流れには、若干乱れが生じ、領域20でも完全にZ方向に平行とならない場合もある。この場合、0.2×10−5/℃と5×10−5/℃との中間の線膨張係数となるが、乱れが生じてもZ方向に平行な流れが基本であることから、0.2×10−5/℃に近い線膨張係数となり、距離の変化は無視できる程度のものとなる。
【0052】
なお、XY平面方向の温度による変化は、湯流れ方向に直角なので、大きくなる。しかし、XY平面方向に寸法が変化しても、受け面もXY平面に平行であるため、Z方向の位置ずれにはならない。また、鏡筒11は、XY平面方向に光軸22に対して対称な形状であり、光軸22に関して対称にXY平面方向に寸法が変化するため、光軸22の位置への影響は少なく問題ない。
【0053】
以上のように、ゲート12a,12bを、位置精度が厳しい負のパワーを持つ収差補正素子3のあるZ−端に設けることによって、温度による収差補正素子2,3の距離18の変化が抑えられている。
【0054】
なお、ゲート12a,12bから遠い領域21では、XY平面方向にゲート12a,12bから近い位置では湯がZ+方向に流れるが、遠い位置ではZ+方向の流れの湯より、近い位置でZ+端まで行った湯がZ−方向からまわってくるため、全体がZ方向に平行な湯の流れとはならない。さらに、この領域21内の遠い位置は、最後に充填される部分となるため、ガスがたまり、それが抜けていく過程でも、湯流れに乱れが生じることになる。このため、Z方向が湯流れに平行な方向とならないため、温度によるZ方向の距離の変化が大きくなってしまう。
【0055】
以上のように、本参考例では、ゲート12a,12bを光軸22に関して回転対称に設けているので、湯の流れが光軸に関して対称となり、領域20でのZ方向に平行でない向きへの乱れを抑えることができる。また、XY平面方向の膨張を対称にでき、光軸の動きも抑えることができる。
【0056】
なお、ゲート12a,12bは、回転対称に設けなくても良い。この場合、Z方向への湯流れの程度は、若干悪くなるが、問題ない。また、本参考例では、ゲート12a,12bを、光軸方向に負のパワーを持つ収差補正素子3が存在する側の端面近傍で、端面30に接するように設けたが、必ずしもこのような形で設けなくても、光軸方向に負のパワーを持つ収差補正素子3が存在する側に設ければよい。但し、端面30に近いほど効果が大きく、光軸方向に負のパワーを持つ収差補正素子3が存在する側の端面30より光軸方向に1mmの範囲内であることが望ましく、本参考例のように、端面30に接していれば、より好ましい。
【0057】
また、負のパワーを持つ収差補正素子3は、凹面の非球面をもつレンズに限らず、球面であっても良いのは言うまでもない。また、レンズでなく、負のパワーを持つ回折格子であっても良い。回折格子の形態としては、例えば、ブレーズ形状の輪帯形状を持つものが考えられる。
【0058】
さらに、負のパワーを持つ収差補正素子3は、開口数を大きくしたときの収差補正に限らず、凸レンズである対物レンズ1と凹レンズとの組合せによって、レーザ光の波長変動による色収差を補正するようにしたり、あるいは対物レンズ1に異なる波長の光を入射したときの球面収差などの収差を補正したりするように構成することもできる。また、開口数についても、0.85でなく、0.65であっても良い。但し、開口数が大きいほど位置ずれの許容量が減り、特に0.75以上では許容量が少ないので、大きな効果が得られる。
【0059】
また、鏡筒11は、カーボン繊維入りの液晶ポリマーに限らず、ポリフェニリンサルファイドや、ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリイミドなどの合成樹脂であれば、同様の効果を得ることができる。さらに、樹脂に繊維を入れも、入れなくても良いが、剛性を高めるためには繊維入りとするのが望ましい。また、繊維入りの方が、湯流れの方向による線膨張係数の違いが大きく、温度による位置ずれを小さくできる効果も大きい。なお、繊維入りとする場合には、光学素子部組10が可動部であるホルダ51に搭載され、軽量で高剛性であることが望まれることから、カーボン繊維が向いているが、カーボン繊維以外にも、安価で剛性も高いガラス繊維やウイスカであっても良い。特に、ウイスカは、さまざまな種類があり、必要な特性に応じて選択することができる。
【0060】
本参考例に係る光学素子部組10を光ピックアップに搭載することにより、既に述べたように、温度による特性劣化を抑えた高性能な光ピックアップを実現することができる。
【0061】
(第2参考例)
図8は、本発明とともに開発した第2参考例に係る光ピックアップ用光学素子である光学素子部組の分解斜視図である。なお、第1参考例と同じ部分には、同一の番号を付してある。
【0062】
本参考例は、第1参考例と鏡筒11のゲートの位置が異なる。すなわち、第1参考例では、鏡筒11のZ−端の側面にサイドゲートが設けられていたが、本参考例では、Z−端の面に2個のピンゲート23a,23bが設けられている。なお、正確には、ピンゲート23a,23bは、Z−端の面25から若干凹とされた部分24a,24bに設けられている。これはゲートを作り易くするためである。ピンゲート23a,23bは、第1参考例と同様に、光軸22に回転対称な位置関係となっている。その他の構成および動作については、第1参考例とほぼ同じである。
【0063】
本参考例では、ピンゲート23a,23bがZ−端の面に設けられているので、射出成型時の湯流れをZ−端の付近でよりZ方向に平行にでき、第1参考例で述べた温度変化による収差補正素子2,3間の距離18の変動を抑える効果がより高くなる。
【0064】
(第1実施の形態)
図9は、本発明の第1実施の形態に係る光ピックアップ用光学素子である光学素子部組の断面図である。なお、第1参考例と同じ部分には、同一の番号を付してある。
【0065】
本実施の形態では、第1参考例と鏡筒の構成が異なる。すなわち、第1参考例では、1つの鏡筒11を有していたが、本実施の形態では、2つの鏡筒31,32を有しており、第1のホルダである鏡筒32に収差補正素子2,3が固定され、第2のホルダである鏡筒31に対物レンズ1と鏡筒32とが固定されている。対物レンズ1および収差補正素子2,3は、第1参考例と同様に接着固定され、それらの接着部には接着剤溜まり34a〜34cが設けられている。鏡筒32の鏡筒31への固定も接着で、その固定部には接着剤溜まり35が設けられている。鏡筒31,32は、ともに合成樹脂で製作されている。なお、絞り33は、鏡筒32に取り付けるのではなく、鏡筒32に一体に形成されている。その他の構成および動作については、第1参考例とほぼ同じである。
【0066】
このように、本実施の形態では、対物レンズ1は鏡筒31に保持し、収差補正素子2,3は鏡筒31とは別体の鏡筒32に保持するようにしたので、収差補正素子3の負のパワーを持つ面8と、それに向き合う収差補正素子2の面7との精度の厳しい距離18は、鏡筒32で決定されることになる。したがって、鏡筒32を小型化できると共に、その構造も単純化できるので、鏡筒32を成形するときの湯流れも単純化できて、Z方向に沿った湯流れ等にし易くなり、これにより温度による寸法の変化の影響を小さくできる。
【0067】
なお、鏡筒32を成形するゲートは、本実施の形態のように、鏡筒32が中央に光が通る穴があいている環状形状の場合には、端面36または端面37付近に設けることが望ましく、端面36または端面37から光軸22の方向(Z方向)に1mmの範囲内、より好ましくは、端面36または端面37に設けるのが良い。また、第1参考例および第2参考例で述べたように、光軸22に関して回転対称位置にゲートを設けるのが、より好ましい。
【0068】
また、鏡筒32は、収差補正素子2,3のみを保持し、大きさも小さいので、端面36または端面37のどちら側にゲートを設けても良いが、大きさが大きかったり、形状が複雑になったりしている場合は、第1参考例のように、負のパワーを持つ収差補正素子3のある側の端面36付近にゲートを設けることが望ましい。鏡筒32を構成する合成樹脂や、その中に入れる繊維などについては、第1参考例で述べたものと同様のものが考えられ、同様の効果が得られる。
【0069】
また、鏡筒32は、鏡筒31と同じ材質で成形しても良いし、鏡筒31よりも線膨張係数の小さい材質、例えばアルミニウムなどの金属製とすることもできる。このように、収差補正素子2,3を保持する鏡筒32を金属製とすれば、温度による距離18の変動をより抑えることができ、光学特性を良好にできると共に、鏡筒31,32の両方を金属製とする場合に比べて、光ピックアップの可動部の質量増を最小限に抑えることができるので、光ピックアップの共振特性など機械的性能劣化を抑えることができる。
【0070】
なお、鏡筒32を金属製とする場合には、好ましくは、鏡筒32を質量の大きい対物レンズ1のあるZ+側とは反対側のZ−側に配して、光学素子部組10の重心を、そのZ方向の中心付近にするためのバランサの役割を持たせても良い。すなわち、光学素子部組10が取り付けられるホルダ51は可動部であり、重心がZ方向の中心付近にあることが望ましいので、鏡筒32の質量を有効に用いてバランサの役割を持たせ、これによりバランサを別途付加した場合と、ホルダ51から見て質量をほぼ同じとすれば、バランサを別途設ける必要がなくなり、部品点数を削減することが可能になる。なお、光学素子部組10の重心は、Z方向の中心に正確に一致させなくても、中心から1mmの範囲内であれば問題ない。
【0071】
また、鏡筒32は、マグネシウム合金で製作することもできる。このようにすれば、マグネシウム合金は金属で、やはり線膨張係数が小さいので、温度による距離18の変化を抑えることができる。なお、マグネシウム合金は、金属でありながら軽量であることから、鏡筒31もマグネシウム合金で製作しても、質量の点では問題ないが、マグネシウム合金は高価であるので、コストダウンを図るうえでは、鏡筒32のみをマグネシウム合金で製作するのが好ましい。また、マグネシウム合金は加工が難しいので、鏡筒32のみをマグネシウム合金製とする方が、製作も容易となる。
【0072】
また、鏡筒32は、線膨張係数が比較的小さい合成樹脂で製作しても良い。このような特殊な特性を持つ樹脂は高価であり、鏡筒32のみに採用することで価格上昇を抑えることができる。
【0073】
本実施の形態では、収差補正素子2,3を保持する鏡筒32を、対物レンズ1を保持する鏡筒31とは別体することで、鏡筒32に対して、収差補正素子2はZ+側から、収差補正素子3はZ−側からと、両方向から固定することができる。ここで、第1参考例と比較すると、第1参考例では、収差補正素子2,3をともにZ−側から固定することになるため、奥に固定する収差補正素子2よりも外側の収差補正素子3の方が、XY平面方向に大きくなる。さらに、収差補正素子2,3の間や、収差補正素子3の外側にも、XY平面方向に収差補正素子2または3より小さい開口を持つ絞り16を一体に形成することはできないため、絞り16を有する絞り部材14を別に設ける必要がある。これに対し、本実施の形態では、2体の鏡筒31,32を備えるので、鏡筒全体は大型化するが、収差補正素子3を大きくしたり、絞りを別体としたりする必要がなくなるので、その点では小型化できる。したがって、2体の鏡筒31,32を設けても必ずしも大型化せず、場合によっては小型化が可能になる。また、奥まったところに収差補正素子2を固定する必要がなくなるので、作業性も向上する。
【0074】
(第2実施の形態)
図10は、本発明の第2実施の形態に係る光ピックアップ用光学素子である光学素子部組の断面図である。なお、第1参考例と同じ部分には、同一の番号を付してある。
【0075】
本実施の形態は、第1実施の形態と同じく、2体の鏡筒31,32を有しているが、収差補正素子2が鏡筒31に接着固定されている点で、第1実施の形態と異なっている。鏡筒32は、収差補正素子2を鏡筒31に固定した後、収差補正素子2のZ−方向の面39に当てつける形で鏡筒31に固定される。収差補正素子3は、鏡筒32に接着固定されるが、その接着は、鏡筒32を鏡筒31に接着する前でも後でも良い。対物レンズ1および収差補正素子2,3の接着固定部には、第1実施の形態と同様に、接着剤溜まり38a〜38cが鏡筒31,32に設けられている。その他の構成および動作については、第1参考例とほぼ同じである。
【0076】
本実施の形態では、負のパワーを持つ収差補正素子3を保持している鏡筒32が、収差補正素子3の負のパワーを持つ面8と向き合う面7を持つ収差補正素子2と接しているので、第1実施の形態と同様に、精度の厳しい距離18は鏡筒32で決定されることになり、第1実施の形態と同様に、温度による距離18の変動を小さくすることができる。また、本実施の形態では、鏡筒32は、負のパワーを持つ収差補正素子3のみを保持し、収差補正素子2とは接するだけで、収差補正素子2の保持部を持たないので、鏡筒32の構造を第1実施の形態より単純化でき、小型化も可能となる。これにより、第1実施の形態で述べた効果を、より顕著なものとすることができる。なお、本実施の形態でも、第1実施の形態で述べたような各種変形が可能である。
【0077】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、幾多の変形または変更が可能である。特に、収差補正素子については、その数が2個でなくても良く、また、回折格子などが両面に設けられていなくとも、片面だけであっても良い。また、収差補正素子の形状も、光軸に平行な方向から見て、円形でなくても良く、長方形などさまざまな形状が考えられる。
【符号の説明】
【0078】
1 対物レンズ
2,3 収差補正素子
6,7,8,9 面
10 光学素子部組
11 鏡筒
12a,12b ゲート
13a〜13c 接着剤溜まり
14 絞り部材
15a,15b 逃げ部
16 絞り
17 面
18,19 距離
22 光軸
23a,23b ピンゲート
30 端面
31,32 鏡筒
33 絞り
34a〜34c 接着剤溜まり
36,37 端面
38a〜38c 接着剤溜まり
39 面
60 レンズアクチュエータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光束を集束する対物レンズと、収差を補正する収差補正手段と、上記対物レンズおよび上記収差補正手段の相対的位置を固定するホルダとを有する光ピックアップ用光学素子であって、
上記収差補正手段は、負のパワーを持つ収差補正素子を含む複数の収差補正素子を有し、
上記ホルダは、少なくとも上記負のパワーを持つ収差補正素子を保持する第1のホルダと、少なくとも上記対物レンズを保持する第2のホルダとを有し、
上記対物レンズは、開口数が0.75以上である、ことを特徴とする光ピックアップ用光学素子。
【請求項2】
上記負のパワーを持つ収差補正素子は、上記対物レンズに異なる波長の光が入射したときに発生する収差を補正するものである、ことを特徴とする請求項1に記載の光ピックアップ用光学素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−129247(P2011−129247A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34877(P2011−34877)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【分割の表示】特願2009−132458(P2009−132458)の分割
【原出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】