説明

光ファイバ、及び光ファイバ製造方法

【課題】空孔による曲げ損失の抑制と、空孔への液体の進入防止とを同時に実現できて、適用範囲の広い光ファイバ、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】コア部21と、コア部21の周囲を取り囲むクラッド部22とを有し、且つ、光ファイバ10の長手方向に連続した3個以上の空孔24を、クラッド部22に有する光ファイバ10において、前記長手方向に不連続な複数の空泡25を含む空泡域23を、前記空孔23内の全体、若しくは一部に有する構造とする。また、光ファイバ製造方法は、光ファイバ母材に、当該光ファイバ母材の長手方向に連続した3個以上の空孔を設け、当該空孔内の全体、若しくは一部に発泡性ガラス材、若しくは多孔質ガラスを充填した後に、当該光ファイバ母材を線引きする構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光ファイバ、及び光ファイバ製造方法に関し、光通信分野、特にアクセス系の光ケーブルや光コード区間など光ケーブルや光コードのコンパクトな収容が求められる場合や、光ファイバ接続区間など信号伝送中の光ファイバに作業者が触れることの多い区間などに使用する光ファイバ、及びその製造方法に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバを曲げると、コア部を伝搬する信号光の一部が漏れて損失となる。この損失は曲げ損失と呼ばれる。一般家庭内に光ファイバを布設する場合、壁や机の角などでの急な光ファイバの曲がりにより、曲げ損失が発生する。また、光ケーブル接続点など多数の光ファイバが集約されている場所では、作業者が光ファイバに引っ掛かることなどにより誤って急に光ファイバを曲げることがあり、曲げ損失を急増させる。何れの場合も信号光が減衰して、良好な通信を行うことが出来ない。
【0003】
この課題を解決する手段として、クラッド部への信号光の広がりを抑制する空孔付きの光ファイバ構造が用いられている。この構造の代表的な例を図8に示す(特許文献1)。図8において、11はコア部、12はコア部11の周囲を取り囲むクラッド部、13はクラッド部12に設けられた空孔であり、本図では空孔13の数が6個の場合を示している。空孔13の数は3個以上あればよく、また空孔13の断面形状は図示例のような円形に限らず任意である。クラッド部12に設けた空孔13の屈折率は1であり、コア部11やクラッド部12の屈折率に比べ数10%以上小さい。
【0004】
単一モード光ファイバの中で通信光は屈折率が均一のクラッド部に相当量広がり、当該通信光の広がりが曲げ損失の主な要因となる。しかし、図8の単一モード光ファイバ10の構造では屈折率1の空孔13により通信光が閉じ込められ、空孔(13)の内接円A(図8中に破線で示す仮想的な円)より外部への通信光の広がりが著しく抑制される。この結果、空孔13を具備する光ファイバ10は、曲げ損失を最も低減できる光ファイバ構造として知られている。
【0005】
なお、上記のような空孔付きの光ファイバ構造が記載されている先行技術文献としては、例えば下記の特許文献1,2がある。また、後述する本発明の光ファイバ製造方法の実施形態で使用する発泡性水ガラスや多孔質ガラスは従来から知られており、これらが記載されている先行技術文献としては、例えば下記の非特許文献1,2がある。
【特許文献1】再公表特許W02004/092793号公報
【特許文献2】特開平2002−97034号公報
【非特許文献1】奥村 暢良、他4名、“発泡性水ガラスを利用した研削砥石の開発”、2004年度精密工学会春季大会学術講演会公演論文集、[2007年7月30日検索]、インターネット<URL:http://mbfc.iis.u-tokyo.ac.jp/B50.pdf>
【非特許文献2】“多孔質ガラス”、[2007年7月30日検索]、<URL:http://m-uo.com/research/porous.hyml>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の光ファイバ10の構造では空孔13に起因する課題がある。その一つが空孔13への液体の進入である。
【0007】
光ファイバ10の一端が液体に接する場合、毛細管現象により液体が空孔13内に進入する。特に光ファイバ10の他端が開放状態である場合や、周囲の温度変化により空孔(13)内の圧力が変化する場合などには、光ファイバ10の一端から進入した液体は空孔13に沿って光ファイバ10の長手方向に連続的・断続的に進入する。実際に直径10μmの空孔13を6個設けた20m長の光ファイバ10を用意し、当該光ファイバ10の一端を水に漬けたところ、数日後に光ファイバ10の他端にまで水が到達した。このように空孔13が光ファイバ10の長手方向に連続していると、液体は当該空孔13に沿って伝わる。
【0008】
当該液体の屈折率がクラッド部12の屈折率より高い場合、空孔13内に進入した液体がコアの様に作用するため、当該進入部で透過光がコア部11から液体の入った空孔13に移るなどして減少し、大きな透過損失となる。一方、液体の屈折率がクラッド部12の屈折率と同等か小さい場合でも、前述した通信光の広がりを抑制する効果が減少するため、曲げ損失の抑制効果も減り、曲げ損失が増加する。
【0009】
以上述べた様に、光ファイバの長手方向に連続した空孔13を有する光ファイバ10は、当該空孔13内に液体が進入することから、光ファイバ端で空孔を封止して液体が進入しないよう加工することが一般的であった。しかし、この封止には精密な加工が必要であり、屋外や一般住宅では実施困難であることから、従来の空孔付き光ファイバ10は曲げ損失が小さいにも関わらず適用範囲が限られている。
【0010】
従って、本発明は上記の事情に鑑み、空孔による曲げ損失の抑制と、空孔への液体の進入防止とを同時に実現できて、適用範囲の広い光ファイバ、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する第1発明の光ファイバは、コア部とクラッド部とを有し、且つ、光ファイバの長手方向に連続した3個以上の空孔を、前記クラッド部に有する光ファイバにおいて、前記長手方向に不連続な複数の空泡を含む空泡域を、前記空孔内の全体、若しくは一部に有していることを特徴とする。
【0012】
また、第2発明の光ファイバ製造方法は、第1発明の光ファイバを製造する光ファイバ製造方法であって、
光ファイバ母材に、当該光ファイバ母材の長手方向に連続した3個以上の空孔を設け、
当該空孔内の全体、若しくは一部に発泡性ガラス材、若しくは多孔質ガラスを充填した後に、当該光ファイバ母材を線引きすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
第1発明の光ファイバによれば、コア部とクラッド部とを有し、且つ、光ファイバの長手方向に連続した3個以上の空孔を、クラッド部に有する光ファイバにおいて、前記長手方向に不連続な複数の空泡を含む空泡域を、前記空孔内の全体、若しくは一部に有していることを特徴とするため、光ファイバ端に液体が接した場合でも、当該液体は前記空泡に浸透するが、前記空泡が前記長手方向に不連続であることから、当該液体が伝わる長さは限定される。更に、前記空泡が小さい場合には、液体の浸透は殆ど発生しない。従って、本発明により、空孔(空泡域)による曲げ損失の抑制と、液体の空孔への進入防止とを同時に実現できることから、空孔の封止に係る加工が不要となり、屋外や一般住宅での利用が容易になる。また、メカニカルスプライスなど液体状、或いはゲル状の物質を含む接続技術も、空孔を封止すること無く利用できる効果を有する。
【0014】
第2発明の光ファイバ製造方法によれば、第1発明の光ファイバを製造する光ファイバ製造方法であって、光ファイバ母材に、当該光ファイバ母材の長手方向に連続した3個以上の空孔を設け、当該空孔内の全体、若しくは一部に発泡性ガラス材、若しくは多孔質ガラスを充填した後に、当該光ファイバ母材を線引きすることを特徴としており、光ファイバ母材の空孔内に発泡性ガラス材を挿入する方法と多孔質ガラスを充填する方法の両方法とも、空孔内に発泡性ガラス材又は多孔質ガラスを充填後の光ファイバ母材を線引きすることで、光ファイバの長手方向に不連続な複数の空泡を含む空泡域を、前記空孔内の全体、若しくは一部に容易に設けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態例に係る光ファイバの断面構造(空孔内の全体に空泡域を有する構造)の一例を示す概念図である。
【0017】
図1に示すように、本実施の形態例の光ファイバ20は、コア部21と、コア部21よりも小さい均一な屈折率を有するクラッド部22と、クラッド部22に設けられた空孔24と、これらの空孔24内に設けられた空泡域23とを有しており、前記コア部21及びクラッド部22により主たる光の導波構造が形成されている。
【0018】
クラッド部22はコア部21の周囲を取り囲んでいる。空孔24は光ファイバ20の長手方向(図1の紙面と直交する方向)に連続しており、コア部21の周囲を取り囲むようにしてクラッド部22に6個(3個以上であればよい)設けられている。そして、空泡域23は光ファイバ20の長手方向に不連続な複数の空泡25を有している。空孔24内の全体に設けられている。即ち、光ファイバ20の径方向において、空孔24内の全体に空泡域23が充填されている。光ファイバ20の長手方向においては空孔24内に空泡域23が、連続的に設けられていてもよく、断続的に設けられていてもよい。
【0019】
本実施の形態例の光ファイバ20によれば、光ファイバ20の長手方向に不連続な複数の空泡25を含む空泡域23を、空孔24内の全体に有していることを特徴としているため、光ファイバ20の端に液体が接した場合でも、当該液体は空泡25に浸透するが、空泡25が前記長手方向に不連続であることから、当該液体が伝わる長さは限定される。更に、空泡25が小さい場合には、液体の浸透は殆ど発生しない。従って、本第1の実施形態により、空孔24(空泡域23)による曲げ損失の抑制と、液体の空孔24への進入防止とを同時に実現できることから、空孔24の封止に係る加工が不要となり、屋外や一般住宅での利用が容易になる。また、メカニカルスプライスなど液体状、或いはゲル状の物質を含む接続技術も、空孔24を封止すること無く利用できる効果を有する。
【0020】
なお、空泡域23は空孔24内の一部に設けられていればよく、空孔24内の全体に設けられている必要は無い。但し、この場合、空泡域23は図1に示す空孔24の内接円B(図1中に破線で示す仮想的な円)の近傍(空孔24内の内側)に設けられていることが望ましい。
【0021】
図2は、本発明の他の実施の形態例に係る光ファイバの断面構造(空孔内の一部に空泡域を有する構造)の一例を示す概念図である。
【0022】
図2に示すように、本実施の形態例の光ファイバ30は、コア部31と、コア部31よりも小さい均一な屈折率を有するクラッド部32と、クラッド部32に設けられた空孔36と、これらの空孔36内に設けられた空泡域33とを有しており、前記コア部31及びクラッド部32により主たる光の導波構造が形成されている。
【0023】
クラッド部32はコア部31の周囲を取り囲んでいる。空孔36は光ファイバ30の長手方向(図2の紙面と直交する方向)に連続しており、コア部31の周囲を取り囲むようにしてクラッド部32に6個(3個以上であればよい)設けられている。そして、空泡域33は光ファイバ30の長手方向に不連続な複数の空泡35を有している。空孔36内の一部に設けられている。即ち、光ファイバ30の径方向において、空孔36内の一部に空泡域33が充填されている。また、空泡域33は図2に示す空孔36の内接円C(図2中に破線で示す仮想的な円)の近傍(空孔36内の内側)に設けられており、空孔36内の外側には空泡域33が未充填の領域(未充填域)34が存在している。なお、光ファイバ20の長手方向においては空孔36内に空泡域33が、連続的に設けられていてもよく、断続的に設けられていてもよい。
【0024】
本実施の形態例の光ファイバ30の様に、空孔36の内側(内接円Cの近傍)に空泡域33がある場合には、空孔36内の外側や中央部に未充填域34があって、この未充填域34の内部に液体が侵入しても、その屈折率が通信光の広がりに影響することは殆ど無く、透過損失/曲げ損失の変化は無い。
【0025】
そして、本実施の形態例の光ファイバ30によれば、光ファイバ30の長手方向に不連続な複数の空泡35を含む空泡域33を、空孔36内の一部に有していることを特徴としているため、光ファイバ30の端に液体が接した場合でも、当該液体は空泡35に浸透するが、空泡35が前記長手方向に不連続であることから、当該液体が伝わる長さは限定される。更に、空泡35が小さい場合には、液体の浸透は殆ど発生しない。従って、本第2の実施形態により、空孔36(空泡域33)による曲げ損失の抑制と、液体の空孔36への進入防止とを同時に実現できることから、空孔36の封止に係る加工が不要となり、屋外や一般住宅での利用が容易になる。また、メカニカルスプライスなど液体状、或いはゲル状の物質を含む接続技術も、空孔36を封止すること無く利用できる効果を有する。
【0026】
なお、上記の如く空泡域33は空孔36内の内側にあることが望ましいが、必ずしもこれに限定するものではなく、空孔36内の外側に空泡域33がある場合でも、当該空泡域33によって液体の浸透を抑制する効果などを発揮することができるため、空孔36内に空泡域33を設けない場合に比べて有効である。
【0027】
次に、本発明の実施の形態例に係る空孔の一部、若しくは全体に空泡域を設ける二つの光ファイバ製造方法を説明する。
【0028】
第1の光ファイバ製造方法及び第2の光ファイバ製造方法の何れも、まず、光ファイバを線引きする前の母材(光ファイバ母材)を準備し、この光ファイバ母材に対し、コア部を取り囲むクラッド部にドリルなどの機械加工などにより空孔を設ける。
【0029】
そして、第1の光ファイバ製造方法は、当該光ファイバ母材の空孔内に発泡性ガラス材を充填するものである。発泡性ガラス材としては、発泡性水ガラス(非特許文献1)や、石灰とガラス粉末を混ぜたものなどを用いる。更には、発泡性ガラス材として、疎水性セラミクスや疎油性セラミクスなどの疎水性の物質や疎油性の物質を用いてもよい。疎水性や疎油性の物質を空孔内に充填した場合には、水走り(水の進入)やオイル走り(オイルの進入)をよりよく防止することができる。
【0030】
発泡性ガラス材は加熱などによって発泡するものでも、はじめから発泡しているものでもよい。また、発泡性ガラス材は、粉状のもの、粒状のもの、粉状又は粒状の材料を圧縮などで固めた固体状のもの、粉状又は粒状の材料を溶媒に混ぜたジェル状のものなど、空孔に充填できる適宜の状態のものを用いることができる。また発泡性ガラス材の別の例として、VAD法で製造されるスート(多孔質母材)も用いることができる。
【0031】
発泡性ガラス材を前記光ファイバ母材の空孔に充填した後に、当該光ファイバ母材を線引き(溶融延伸)するにより、光ファイバの長手方向に長円の空泡が形成される。
【0032】
第2の光ファイバ製造方法は、前記光ファイバ母材の空孔に多孔質ガラス(非特許文献2)を充填するものであり、例えば直径1μm以下の孔(空泡)を複数内部に含む多孔質ガラスを前記光ファイバ母材の空孔に充填する。
【0033】
多孔質ガラスを前記光ファイバ母材の空孔に充填した後に、当該光ファイバ母材を線引き(溶融延伸)することにより、光ファイバの長手方向に長円の空泡が形成される。
【0034】
これらの第1及び第2の光ファイバ製造方法によれば、光ファイバ母材に、当該光ファイバ母材の長手方向に連続した3個以上の空孔を設け、当該空孔内の全体、若しくは一部に発泡性ガラス材、若しくは多孔質ガラスを充填した後に、当該光ファイバ母材を線引きすることを特徴としており、光ファイバ母材の空孔内に発泡性ガラス材を挿入する方法と多孔質ガラスを挿入する方法の両方法とも、空孔内に発泡性ガラス材又は多孔質ガラスを充填後の光ファイバ母材を線引きすることで、光ファイバの長手方向に不連続な複数の空泡を含む空泡域を、前記空孔内の全体、若しくは一部に容易に設けることができる。
【0035】
(実施例)
次に本発明の実施例について説明する。本実施例では、図3〜図7に基づき、図1に示す光ファイバと同様の断面構造を有する光ファイバについて説明する。図3において、図1と同様の部分には同一の符号を付している。
【0036】
図3は、本発明の実施例で用いる光ファイバの構造パラメータを示す図面である。図3において、21及び23は、それぞれコア部及び空泡域を表す。以下の実施例では、コア部21の直径、コア部21の中心から空泡域23までの距離、並びに空泡域23の直径を、それぞれ2a1、a2、並びに2a3として定義する。また、以下の実施例では、コア部21がクラッド部22に対し0.35%の比屈折率差を有するステップ型の屈折率分布を有するものとし、クラッド部22、及び空泡域23のガラス材の屈折率は純石英ガラスの屈折率とした。また、コア部21の直径2a1は9μmとした。
【0037】
図4は、従来の材料添加に基づくコア部及びクラッド部のみを有する光ファイバ、即ち本発明の空泡域の空泡が存在しない光ファイバにおける規格化電界強度とコア部の半径により規格化した規格化半径の関係を示す図である。図4の特性は波長1550nmにおける電界分布を示す。図4より、例えば、規格化半径が1.5の地点では、規格化電界強度は20%以下に減衰することがわかる。即ち、コア部21の中心から空泡域23までの距離a2をコア部21の半径a1の1.5倍とした場合、コア部21の中心から空泡域23までの距離a2、即ち、空泡域23の内接円Bの円周上では約20%の規格化電界強度が存在することとなる。
【0038】
図5は、コア部21の半径に対するコア部21の中心から空泡域23までの距離の比a2/a1に対する波長1550nmにおけるモードフィールド直径の関係を示す図である。図5より、コア部21の半径に対するコア部21の中心から空泡域23までの距離の比a2/a1が2以下の領域では、モードフィールド直径が急激に減少することがわかる。これは、空泡域23により電界分布のコア部の中心から空泡域23までのクラッド部22への閉じ込めが向上されることによるものである。また、図4より規格化半径が2の領域における従来の光ファイバにおける規格化電界強度は約8%となる。従って、本発明の光ファイバにおいて、コア部21の中心から空泡域23までの距離a2を、コア部21の中心から空泡域23までの領域で形成される電界分布の強度が8%以下となる領域に設定することにより、従来の光ファイバと同等のモードフィールド直径特性を保持することが可能となる。また逆にコア部21の中心から空泡域23までの距離a2を、コア部21の中心から空泡域23までの領域で形成される電界分布の強度が8%以上となる領域に設定することにより、電界分布のコア部21近傍への閉じ込めを向上することも可能となる。
【0039】
図6は、コア部21の半径に対するコア部21の中心から空泡域23までの距離の比a2/a1に対する波長1550nmにおける波長分散の関係を示す図である。図6より、コア部21の半径に対するコア部21の中心から空泡域23までの距離の比a2/a1が2.5以下の領域では波長分散が急激に増加することが分かる。これは、空泡域23による電界分布のコア部21の中心から空泡域23までのクラッド部22への閉じ込めが発生し、導波路分散特性が影響を受けることによるものである。また、図4より規格化半径が2.5の領域における従来の光ファイバにおける規格化電界強度は約3%となる。従って、本発明の光ファイバにおいて、コア部21の中心から空泡域23までの距離a2を、コア部21の中心から空泡域23までの領域で形成される電界分布の強度が3%以下となる領域に設定することにより、従来の光ファイバと同等の波長分散特性を保持することが可能となる。また逆に、コア部21の中心から空泡域23までの距離a2を、コア部21の中心から空泡域23までの領域で形成される電界分布の強度が3%以上となる領域に設定することにより、波長分散特性を可変することも可能となる。特に、波長1550nmにおける30ps/nm・km以上の波長分散特性は、従来の光ファイバでは屈折率変化の可変量に対する制約により実現不可能な特性であり、本発明の光ファイバにおける作用効果の一つとして考えられる。
【0040】
図7は、コア部21の半径に対する空泡域23の半径の比a3/a1に対する波長1550nmにおける曲げ損失の関係を示す図である。図7において、縦軸は半径5mmの曲げを10ターン加えた場合の損失増加量を示す。図7中の実線は、空泡域23における空泡25の割合Pがそれぞれ20%、40%、60%における曲げ損失特性を表す。ここで、空泡25の直径は、空泡域23の直径に対して非常に小さく、且つ空泡域23にランダムに配置されるものと仮定した。図7において、いずれの空泡域23における空泡25の割合Pにおいても、曲げ損失はコア部21の半径に対する空泡域23の半径の比a3/a1、即ち、空泡域23の半径の増加に伴い低減されることがわかる。また、空泡域23における空泡25の割合Pが増大するほど、良好な曲げ損失特性を得られることがわかる。これは、本発明の光ファイバにおいて、空泡域23が拡大、及び空泡量が増加することにより、クラッド部22の実効的な屈折率が低減し、電界分布のコア部21の中心から空泡域23までのクラッド部22への閉じ込めが向上されることによるもので、その作用効果は空泡25及び空泡域23の形状や個数に依存しない。また、当該作用効果は光ファイバ長手方向、若しくは断面内における局所的な空泡25、及び空泡域23の不均一性にも依存しない。図7より、空泡域23の空泡25の割合Pが40%の場合、コア部21の半径に対する空泡域23の半径の比a3/a1を1.5以上とすることにより、従来の光ファイバに比べて曲げ損失を10分の1に改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施の形態例に係る光ファイバの断面構造(空孔内の全体に空泡域を有する構造)の一例を示す概念図である。
【図2】本発明の他の実施の形態例に係る光ファイバの断面構造(空孔内の一部に空泡域を有する構造)の一例を示す概念図である。
【図3】本発明の実施例で用いる光ファイバの構造パラメータを示す図面である。
【図4】規格化電界強度とコア部の半径に対する規格化半径の関係を示す図である。
【図5】コア部の半径に対するコア部の中心から空泡域までの距離の比a2/a1に対する波長1550nmにおけるモードフィールド直径の関係を示す図である。
【図6】コア部の半径に対するコア部の中心から空泡域までの距離の比a2/a1に対する波長1550nmにおける波長分散の関係を示す図である。
【図7】コア部の半径に対する空泡域の半径の比a3/a1に対する波長1550nmにおける曲げ損失の関係を示す図である。
【図8】従来技術に係る空孔を有する光ファイバの断面構造を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
10 光ファイバ
11 コア部
12 クラッド部
13 空孔
20 光ファイバ
21 コア部
22 クラッド部
23 空泡域
24 空孔
25 空泡
30 光ファイバ
31 コア部
32 クラッド部
33 空泡域
34 未充填域
35 空泡
36 空孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部とクラッド部とを有し、且つ、光ファイバの長手方向に連続した3個以上の空孔を、前記クラッド部に有する光ファイバにおいて、
前記長手方向に不連続な複数の空泡を含む空泡域を、前記空孔内の全体、若しくは一部に有していることを特徴とする光ファイバ。
【請求項2】
光ファイバ母材に、当該光ファイバ母材の長手方向に連続した3個以上の空孔を設け、
当該空孔内の全体、若しくは一部に発泡性ガラス材、若しくは多孔質ガラスを充填した後に、当該光ファイバ母材を線引きすることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバを製造する光ファイバ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−69237(P2009−69237A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234924(P2007−234924)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】