説明

光ファイバケーブルの製造方法

【課題】スロットロッドのSZ溝の軌跡の変動に追随して、テープ心線ユニットの収納状態を適切に制御できる光ファイバケーブルの製造方法を提供する。
【解決手段】光ファイバケーブルを製造する際、テープ心線ユニットを収納するテープ心線収納位置より長手方向上流側に配設された溝軌跡検出部で収納溝の軌跡を検出する。そして、溝軌跡検出部で検出された溝軌跡に基づいて、テープ心線ユニットが挿通されている整列ダイスをスロットロッドの周りで往復回転させることにより当該整列ダイスに挿通されたテープ心線ユニットと収納溝の位置合わせを行うとともに、整列ダイスを自転させることによりテープ心線ユニットに捻回を加える。さらに、溝軌跡検出部により溝軌跡の変動が検出されたときに、整列ダイスの自転量を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外周面に螺旋方向が交互に反転する収納溝を多条に形成されたスロットロッドに、複数枚の光ファイバテープ心線を積層した状態で収納する光ファイバケーブルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、外周面に螺旋方向が交互に反転する収納溝(以下、SZ溝)を多条に形成されたスロットロッドを備え、それぞれのSZ溝に光ファイバテープ心線(以下、テープ心線)を複数枚積層した状態で落とし込んで収納するSZテープスロット型光ファイバケーブル(以下、SZケーブル)が知られている。テープ心線には、例えば、2心、4心又は8心の光ファイバ素線を一括被覆して一体化したものが用いられる。なお、テープ心線を収納したスロットロッドの外周にはテープ又は紐等による押え巻きが施され、さらに樹脂製のシースで被覆される。
SZケーブルは、SZ溝の螺旋方向が1周以内で周期的に反転しているため、中間後分岐作業においてケーブルを切断することなく、テープ心線をめくるようにして容易に取り出すことができる。また、SZ溝内で心線移動を起こしにくい構造のため、架空布設に適している。
【0003】
SZケーブルのスロットロッドにテープ心線を収納する場合、一般に、スロットロッドの周りを反転角で往復回転する制御目板が利用される(例えば特許文献1)。特許文献1では、制御目板にテープ心線の積層体(以下、テープ心線ユニット)を挿通し、SZ溝の軌跡(周方向の変位)に応じて制御目板を回転させることにより、テープ心線ユニットの位置をSZ溝に一致させるようにしている。
SZ溝の軌跡は、例えば、SZ溝の周方向の変位に対応して回転する自由目板によって読み取られる。この自由目板で読み取ったSZ溝の軌跡に応じて、制御目板の回転を制御することにより、テープ心線ユニットをSZ溝に滑らかに落とし込むことができる。
【0004】
図6は、SZケーブルのスロットロッドの表面を示す図である。図6では、複数のSZ溝のうち1条だけを示している。図6に示すように、SZ溝111の螺旋方向が反転する部分を反転部、隣接する反転部の中間部分を回転部と称する。また、スロットロッド110の中心軸に直角な断面における1つのSZ溝111の形成範囲に相当する中心角φが反転角である。
【0005】
図6に示すスロットロッド110の表面を、反転部を通る直線lで切り開いて展開した図を図7に示す。図7では、SZ溝111の周方向の座標Sを、回転部の周方向の座標Scを基準(Sc=0)として示している。図7に示すように、SZ溝111の軌跡は、展開図において、おおよそ回転部を反転中心とする振幅−φ/2〜φ/2のサインカーブに近似できる。
すなわち、SZ溝111の周方向の座標Sは、下式(1)に示すように、SZ溝111の長手方向の座標Zの関数で表すことができる。式(1)より、自由目板で読み取ったSZ溝111の周方向の座標Sに基づいて、SZ溝111のどの部分が自由目板を通過しているか、すなわち自由目板の設置位置におけるZ座標が特定される。例えば、自由目板で読み取ったSZ溝111の周方向の座標Sが±φ/2であればSZ溝111の反転部が自由目板を通過していることとなり、自由目板で読み取ったSZ溝111の周方向の座標Sが0であればSZ溝111の回転部が自由目板を通過していることとなる。そして、自由目板と制御目板の設置間隔から、SZ溝111のどの部分が制御目板を通過しているかを算出できる。したがって、これに基づいて制御目板の回転を制御することで、制御目板を通過するテープ心線ユニットの位置をSZ溝に一致させることができる。
【0006】
【数1】

【0007】
ここで、テープ心線のテープ面がSZ溝の底面と平行になるようにテープ心線ユニットをSZ溝に収納すると、一見テープ心線ユニットの収納状態が安定しているように考えられるが、特に8心テープ心線のような幅方向と厚さ方向の剛性に大きな差がある場合は、回転部から反転部に向かうにしたがいテープ心線の捻れが大きくなり、歪みエネルギーが増大する。
このように、テープ心線に生じた歪みエネルギーが最小となっていなければ、SZケーブルに曲げ、捻回等の擾乱を加えた後、直線復帰させたときに、テープ心線は歪みエネルギーが最小となる状態に移行する。この状態移行により、回転部において一番上に位置するテープ心線の軌跡長が製造時よりも短くなり、SZ溝内で余って撓むこととなる。この撓みは、SZケーブルの使用環境の温度変化、曲げ、又は捻回が加えられたときに、伝送損失増加を招く要因となる。
【0008】
このため、SZケーブルの製造段階で、テープ心線ユニットを理想的な状態(テープ心線の歪みエネルギーが最小となる状態)でSZ溝に収納する必要がある。特許文献2では、自由目板でSZ溝の周方向の座標を読み取り、制御目板の回転を制御するとともに、この回転角に応じてテープ心線ユニットに適当な捻回を加えながらSZ溝に落とし込むことにより、テープ心線に生じる歪みエネルギーが最小となるようにしている。具体的には、図8に示すように、SZ溝111の回転部(S=0)ではテープ面と溝底面が平行となるようにテープ心線ユニット101を収納し(図8(a)参照)、反転部(S=−φ/2)ではテープ面と溝底面のなす角κが97〜138°となるようにテープ心線ユニット101に捻回を加えながら収納している(図8(b)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3330865号公報
【特許文献2】特開平11−183766号公報
【特許文献3】特開2003−29105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来は、SZ溝の軌跡をサインカーブに近似できることを前提として、制御目板の設置位置を通過するSZ溝の部分を推測し、これに基づいてテープ心線ユニットの捻回量を決定している。しかしながら、SZ溝の軌跡が、反転ピッチ以外の周期成分又は非周期的成分を含むために、サインカーブとならない、例えばSZ溝の軌跡の中心(回転部の周方向の位置)が変動する場合がある。
特許文献3に記載のSZケーブルでは、SZ溝における回転部の周方向の位置を、意図的に長手方向で周期的に変動させている(周期成分)。これにより、SZケーブルを曲げたときにテープ心線に生じる歪みを低減でき、SZケーブルのドラム巻き時におけるテープ心線の軌跡長の差を打ち消すことができるので、ドラム巻き時のケーブル特性が改善される。
また、スロットロッドの製造時に意図しない捻回が加わると、SZ溝における回転部の周方向の位置が長手方向で不連続に変動することとなる(非周期成分)。
【0011】
このように、SZ溝の軌跡が変動すると、自由目板で読み取った周方向の座標Sに対応するSZ溝の長手方向の座標Zがずれてしまう。例えば、自由目板で読み取ったSZ溝の周方向の座標Sが回転部に対応する値(図7の場合S=0)であっても、実際にはSZ溝の回転部が自由目板を通過していないことになる。
この場合、テープ心線ユニットを収納する際の捻回量を適切に制御することができない。例えば、一方の反転部では過捻回が加わり、他方の反転部では捻回が不足するという事象が発生する。つまり、SZ溝にテープ心線ユニットを収納するときに、テープ心線の歪みエネルギーが最小とならないため、結果としてSZケーブルにおいて伝送損失が増加するという不具合が生じる。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、スロットロッドの収納溝の軌跡の変動に追随して、テープ心線ユニットの収納状態を適切に制御できる光ファイバケーブルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明は、外周面に螺旋方向が交互に反転する収納溝を形成されたスロットロッドを走行させながら、複数枚の光ファイバテープ心線が積層されてなるテープ心線ユニットを、前記収納溝に所定の状態で落とし込んで収納する光ファイバケーブルの製造方法において、
前記テープ心線ユニットを収納するテープ心線収納位置より長手方向上流側に配設された溝軌跡検出部で前記収納溝の軌跡を検出し、
前記溝軌跡検出部で検出された前記溝軌跡に基づいて、前記テープ心線ユニットが挿通されている整列ダイスを前記スロットロッドの周りで往復回転させることにより当該整列ダイスに挿通された前記テープ心線ユニットと前記収納溝の位置合わせを行うとともに、前記整列ダイスを自転させることにより前記テープ心線ユニットに捻回を加え、
さらに、前記溝軌跡検出部により前記溝軌跡の変動が検出されたときに、前記整列ダイスの自転量を補正することを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の光ファイバケーブルの製造方法において、前記溝軌跡検出部が、前記スロットロッドの走行に伴う前記収納溝の周方向の変位に対応して回転する自由目板を有し、
前記自由目板の変位が、予め定められた補正上限又は補正下限を超えた場合に、前記溝軌跡に変動が生じたと判定し、
このときの溝軌跡の変動量に応じて、前記整列ダイスの自転量を補正することを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の光ファイバケーブルの製造方法において、前記整列ダイスが、遊星歯車を介して内歯車に接続されるとともに、前記スロットロッドの周りで往復回転する制御目板に自転可能に取り付けられ、
前記溝軌跡検出部で検出された前記溝軌跡に基づいて前記制御目板を回転させることにより前記整列ダイスを自公転させるとともに、このときの自転量を前記内歯車を回転させることにより制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スロットロッドの収納溝の軌跡が変動しても、この変動に追随して、収納するテープ心線ユニットの捻回量が補正されるので、収納溝にテープ心線ユニットを理想的な状態で収納することができる。したがって、光ファイバケーブルの伝送損失増加を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態に係るSZケーブルの構成を示す断面図である。
【図2】実施形態に係るSZケーブルのシースを一部除去した側面図である。
【図3】テープ心線ユニットをスロットロッドに収納する収納装置の一例を示す図である。
【図4】テープ心線整列部の詳細構成を示す図である。
【図5】SZ溝の軌跡が変動する場合の溝軌跡の一例を示す図である。
【図6】SZ溝の形成態様を示すスロットロッドの側面図である。
【図7】SZ溝の軌跡が変動しない場合の溝軌跡を示す図である。
【図8】テープ心線ユニットの理想的な収納状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本実施形態に係るSZケーブルの構成を示す断面図で、図2は一部のシースを除去した側面図である。
図1に示すように、SZケーブル100は、外周面に10条のSZ溝111が形成されたスロットロッド110と、それぞれのSZ溝111に積層状態で収納されたテープ心線ユニット101と、スロットロッド110の外周に形成された押え巻き103と、押え巻き103の外周に形成されたシース104とを備えて構成されている。
【0019】
テープ心線ユニット101は、例えば、8本の光ファイバ心線(裸ファイバの外周に軟質層と硬質層の2層からなる被覆を施したもの)を並列に配置し、紫外線硬化型樹脂で一括被覆してテープ状にしたテープ心線を10枚積層して構成される。テープ心線ユニット101は、スロットロッド110の対応するSZ溝111に沿って、歪みエネルギーが最小となるように収納される。
なお、図1では、SZ溝111の回転部の断面を示しているので、テープ心線ユニット101のテープ面と、SZ溝111の底面が平行となっている。
【0020】
スロットロッド110は、ポリエチレン等で構成されるロッド状部材であり、内部に鋼線、鋼撚り線又は繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)などで構成される抗張力体102を有している。スロットロッド110のSZ溝111は、長手方向に螺旋方向が交互に反転するように形成されている。SZ溝111の幅、深さ、断面形状、及び反転ピッチは、SZケーブル100に要求される特性や、スロットロッド110の外径などに応じて適宜設定される。
押え巻き103は例えば不織布テープで構成され、シース104は例えば黒色に着色されたポリエチレンで構成される。
【0021】
SZケーブル100は、SZ溝111の螺旋方向が1周以内で周期的に反転しているため、中間後分岐作業においてケーブルを切断することなく、テープ心線をめくるようにして容易に取り出すことができる。また、SZ溝111内で心線移動を起こしにくい構造のため、架空布設に適している。
【0022】
図3は、SZケーブル100を製造する際にテープ心線ユニット101をスロットロッド110に収納する収納装置の一例を示す図である。また、図示を省略するが、SZケーブル100の製造装置は、図3に示す収納装置1の他、スロットロッド110を供給するスロットロッド供給装置、テープ心線ユニット101を構成する個々のテープ心線を供給するテープ心線供給装置、押え巻き103を形成する押え巻き形成装置、シース104を形成するシース形成装置、SZケーブル100を所定の張力で引き取る引取装置、SZケーブル100をドラムに巻回する巻取装置などを備えている。
【0023】
図3に示すように、収納装置1は、テープ心線収納位置(走行するスロットロッド110のSZ溝111にテープ心線ユニット101が落とし込まれる位置)より上流側に、スロットロッド110のSZ溝111の軌跡を検出する溝軌跡検出部10と、テープ心線ユニット101を所定のSZ溝111に所定の状態で収納させるテープ心線整列部20と、走行するテープ心線ユニット101がスロットロッド110にからまないようにテープ心線ユニット101の走行方向を規制するテープ心線規制部30とを備えている。
なお、図3では、1本のテープ心線ユニット101が収納される様子だけを示しているが、実際には10本のテープ心線ユニット101が、テープ心線規制部30、テープ心線整列部20及び溝軌跡検出部10を通過してスロットロッド110のSZ溝111に収納される。
【0024】
溝軌跡検出部10は、例えばスロットロッド110に形成されたSZ溝111の軌跡(周方向の変位)に対応して回転する円板状の自由目板11と、自由目板11の回転角θ11を検出するセンサ(図示略)とを備えて構成される。
【0025】
自由目板11は、中心にスロットロッド110を挿通させるロッド挿通孔を有し、その周囲にテープ心線ユニット101を挿通させるテープ心線挿通孔を有している。ロッド挿通孔の内周には、例えばSZ溝111の一つに係合する凸片(検出ピン)が形成されている。この凸片をSZ溝111に係合させることにより、スロットロッド110の走行に伴うSZ溝111の周方向の変位に対応して、自由目板11が回転する。SZ溝111の回転部が自由目板11を通過するときのSZ溝111の周方向の座標をSc、SZ溝111の反転角をφとすると、自由目板11は、Sc−φ/2〜Sc+φ/2の範囲で回転することとなる。
自由目板11の回転角θ11は、センサ(図示略)によって検出され、制御部40に入力される。制御部40は、自由目板11の回転角θ11に応じて、テープ心線整列部20及びテープ心線規制部30の制御目板の回転を制御する。
【0026】
以下において、自由目板11を通過するときのSZ溝111の周方向の座標を、溝座標Sと称する。また、特定のSZ溝111が自由目板11を通過する際、溝座標Sが12時の位置となるときを基準(S=0°)とし、このときの自由目板11の回転角θ11を0°とする。この自由目板11の回転角θ11が自由目板11の変位であり、溝座標Sとも同義である。
【0027】
テープ心線規制部30は、回転不能に固定された円板状の固定目板31と、自由目板11の回転角θ11に応じてスロットロッド110の周りで往復回転する円板状の制御目板32〜34とを備えて構成される。固定目板31及び制御目板32〜34は、中心にスロットロッド110を挿通させるロッド挿通孔を有し、その周囲にテープ心線ユニット101を挿通させるテープ心線挿通孔を有している。固定目板31及び制御目板32〜34は、それぞれ100mm程度の間隔で配置される。
【0028】
制御目板32〜34の反転角φ32〜φ34は、自由目板11の反転角(すなわちSZ溝111の反転角)φ11に基づいて、上流から下流に向けて徐々に大きくなるように、すなわちφ32<φ33<φ34=φ11となるように決定される。例えば、自由目板11の反転角φ11が270°(回転部が通過するときの溝座標Scを0°としたとき、反転部が通過するときの溝座標Sr+、Sr-が±135°)の場合、制御目板32の反転角φ32を90°、制御目板33の反転角φ33を180°、制御目板34の反転角φ34を270°(=φ11)とする。そして、テープ心線整列部20の整列ダイス21にテープ心線ユニット101が滑らから進入するように、制御目板32〜34の回転角θ32〜θ34が自由目板11の回転角θ11に応じて適正に制御される。
【0029】
図3では、テープ心線規制部30を、1枚の固定目板31と3枚の制御目板32〜34で構成しているが、制御目板の枚数を4枚以上としてもよい。また、SZ溝111の軌跡が長手方向で変動することを想定し、この変動分を見越して制御目板32〜34の可動範囲は少なくとも±360°以上、好適には±540°以上確保されていることが望ましい。
【0030】
テープ心線整列部20は、図3、4に示すように、自転によりテープ心線ユニット101に捻回を加える整列ダイス21と、整列ダイス21を自転させる遊星歯車22と、整列ダイス21を公転させる制御目板23と、遊星歯車22を回転させて整列ダイス21の自転を制御する内歯車24とを備えて構成される。以下において、整列ダイス21の周方向の座標を、ダイス座標sと称する。
図4では、1つの整列ダイス21について、SZ溝111の回転部が通過するときの状態(12時の位置、ダイス座標s=sc=0°)と、反転部が通過するときの状態(ダイス座標s=sr+、sr-=±φ/2)を示している。実際には、SZ溝111に対応する数だけ、整列ダイス21が設けられている。
【0031】
制御目板23は、自由目板11の回転角θ11に応じて、すなわちSZ溝111の軌跡(周方向の変位)に対応してスロットロッド110の周りで往復回転する円板状部材であり、中心にスロットロッド110を挿通させるロッド挿通孔23aを有し、その周囲に整列ダイス21を取り付けるダイス取付孔を有している。整列ダイス21は、例えば金属やプラスチックなどで構成された円筒状の部材であり、テープ心線ユニット101を挿通可能な矩形状の挿通孔21aを有している。
制御目板23のダイス取付孔に整列ダイス21が自転可能に取り付けられる。また、整列ダイス21を制御目板23に取り付けたとき、制御目板23から突出する部分の外周面に、遊星歯車22が一体的に設けられる。この遊星歯車22には、内歯車24が噛合される。
【0032】
自由目板11を通過するときの溝座標S、すなわち自由目板11の回転角θ11に応じて制御目板23が回転すると、テープ心線ユニット101の位置がSZ溝111に一致するように、整列ダイス21がスロットロッド110の周りで公転する。すなわち、制御目板23の回転量(整列ダイス21の公転量)は、自由目板11の回転角θ11と、自由目板11と整列ダイス21の設置間隔に基づいて、整列ダイス21に挿通されたテープ心線ユニット101とSZ溝111の位置が合うように決定される。
【0033】
具体的には、自由目板11により読み取った溝座標Sから、SZ溝111のどの部分が自由目板11を通過しているかがわかるので、自由目板11と制御目板23の設置間隔から、SZ溝111のどの部分が制御目板23を通過しているかを算出できる。そして、算出結果に基づいて制御目板23の回転角θ23を制御することで、制御目板23(整列ダイス21)を通過するテープ心線ユニット101の位置、すなわちダイス座標sがSZ溝111に一致するように、整列ダイス21を公転させることができる。
【0034】
制御目板23の回転に伴い整列ダイス21が公転するとき、遊星歯車22が内歯車24に沿って制御目板23の回転方向と逆方向に回転(自転)する、すなわち遊星歯車22と一体的に構成された整列ダイス21が回転するので、テープ心線ユニット101に捻回が加えられる。このとき、内歯車24を回転させ、遊星歯車22を内歯車24の回転方向と同一方向に回転させることで、テープ心線ユニット101が所定の捻回量で捻回されるように制御することができる。
なお、上述した制御目板23の回転及び内歯車24の回転は、制御部40によって制御される。
【0035】
整列ダイス21の自転量(テープ心線ユニット101の捻回程度)は、整列ダイス21が公転したときのダイス座標s(制御目板23の回転角θ23)、SZ溝111の回転部が通過するときのダイス座標sc、及び遊星歯車22の歯数と内歯車24の歯数によって決定される。具体的には、整列ダイス21は、下式(2)で表される自転量t(rad)で回転される。
ここで、整列ダイス21が公転したときのダイス座標sは、自由目板11で読み取られた溝座標Sに基づいて算出された座標である。また、SZ溝111の回転部が通過するときのダイス座標scは、SZ溝111の反転部が自由目板11を通過する溝座標Sr+、Sr-に基づいて算出された反転中心となる座標であり、SZ溝111の回転部が自由目板11を通過するときの溝座標Scと同じである。
【0036】
【数2】

【0037】
式(2)において、右辺第1項は、制御目板23が回転することに伴い整列ダイス21が回転(自転)する角度であり、第2項は内歯車24の回転により修正される角度である。比例定数αは、望ましくは、反転部におけるテープ心線ユニット101のテープ面と溝底面のなす角κが97°<κ<138°を満たすように設定される。
【0038】
式(2)より、SZ溝111の回転部が整列ダイス21を通過するとき(ダイス座標s=sc)は、自転量tが0となるので、テープ心線ユニット101に捻回は加えられない。したがって、テープ心線ユニット101は、テープ心線ユニット101のテープ面とSZ溝111の底面が平行となるようにSZ溝111に収納される。
一方、SZ溝111の反転部が整列ダイス21を通過するとき(ダイス座標s=sr+、sr-=sc±φ/2)は、自転量tが(m/n)・(±φ/2)+α・(±φ/2)となる。したがって、テープ心線ユニット101は、この分の捻回が加えられた状態でSZ溝111に収納されることとなる。
【0039】
このように、SZ溝111の軌跡が変動しなければ、数式2に従って整列ダイス21を自転させることで、テープ心線ユニット101を所望の状態でSZ溝111に収納することができる。しかし、SZ溝111の軌跡が変動すると、数式2に従う整列ダイス21の自転量では、テープ心線ユニット101を収納する際の捻回量が適切に制御されない。
【0040】
図5は、SZ溝111の軌跡が変動する場合の溝軌跡の一例を示す図である。図5に示すように、SZ溝111の軌跡が変動して、(n+1)番目のピッチにおける回転部の溝座標Sc2が、n番目のピッチにおける回転部の溝座標Sc1(=0)からプラス方向(時計回り)にΔSだけ変動した場合を考える。この場合、SZ溝111の軌跡は、溝座標Sc2=Sc1+ΔSを反転中心として−φ/2〜+φ/2の範囲となる。
【0041】
SZ溝111が変動した後に、SZ溝111の回転部が整列ダイス21を通過する際(ダイス座標s=Sc2=Sc1+ΔS)には、式(2)に従うと、自転量t=(m/n)・ΔS+α・ΔS≠0となるため、テープ心線ユニット101に捻回が加えられてしまい、テープ心線ユニット101のテープ面とSZ溝111の底面は平行とならない。その後、p/2ピッチごとに現れる回転部が整列ダイス21を通過する際も同様に、テープ心線ユニット101のテープ面とSZ溝111の底面は平行とならない。また、SZ溝111の一方の反転部が整列ダイス21を通過する際(ダイス座標s=Sr+=+φ/2+ΔS)には過捻回が加わり、他方の反転部が整列ダイス21を通過する際(ダイス座標s=Sr-=−φ/2+ΔS)には捻回が不足することとなる。
【0042】
そこで、本実施形態では、自由目板11により検出されたSZ溝111の軌跡に変動が生じたときに、式(2)で算出される整列ダイス21の自転量tを補正し、適正な自転量からのズレが最小限に抑制されるようにしている。
【0043】
具体的には、式(2)で算出された整列ダイス21の自転量tを補正するか否かを判定するためのしきい値として、補正上限SULと補正下限SLLを予め設定しておく。SZ溝111の軌跡が変動する前の補正上限をSUL1、補正下限をSLL1とすると、SZ溝111の一方の反転部が自由目板11を通過するときの溝座標Sr+(例えば回転部の溝座標Scが0°のとき+φ/2)が補正上限SUL1となり、他方の反転部が自由目板11を通過するときの座標Sr-(例えば回転部の座標Scが0°のとき−φ/2)が補正下限SLL1となる。そして、自由目板11で読み取った溝座標Sが補正上限SUL1を超えたとき、又は補正下限SLL1を下回ったときに、SZ溝111の軌跡が変動していると判定して、式(2)で算出された自転量tを補正する。SZ溝111の溝座標Sが補正上限SUL1を超えたときの補正量t’は、
t’=α(s−SUL1) ・・・(3)
で表される。つまり、自由目板11で読み取った溝座標Sが補正上限SUL1を超えたとき、整列ダイス21によってテープ心線ユニット101に過捻回が加えられていることになるので、その分を相殺する。自由目板11で読み取った溝座標Sが補正下限SLLを下回ったときも同様である。回転部の溝座標Scがマイナス方向(反時計回り)に変動した場合に、自由目板11で読み取った溝座標Sが補正下限SLLを下回ることになる。
【0044】
図5では、長手方向の座標がZiのとき、SZ溝111の溝座標S(Zi)が補正上限SUL1となり、直後の溝座標S(Zi+1)が補正上限SUL1を超える。つまり、この時点でSZ溝111の軌跡は、少なくともS(Zi+1)−SUL1だけ変動している。したがって、このときの整列ダイス21の自転量tを式(3)で算出された補正量t’で補正する。これにより、テープ心線ユニット101の収納状態が、理想的な状態に近づく。
そして、直前までの補正上限SUL1に、現時点での溝軌跡の変動量(S(Zi+1)−SUL1)を加えた値、すなわちS(Zi+1)を仮の補正上限SULとして設定する。また、直前までの補正下限SLL1に溝軌跡の変動量(S(Zi+1)−SUL)を加えた値を仮の補正下限SLLとして設定する。
【0045】
図5(b)に示すように、長手方向の座標がZi、Zi+1、・・・Zjの範囲では、SZ溝111の溝座標がS(Zi)、S(Zi+1)、・・・S(Zj)と増加するので、上述した補正により整列ダイス21の自転量を補正し、補正上限SUL及び補正下限SLLを仮設定する。
そして、長手方向の座標がZjを超えてZj+1、Zj+2・・・になると、このときのSZ溝111の溝座標Sは補正上限SULより小さくなる。したがって、このときの補正上限SUL=S(Zj)=SUL1+ΔSが、それ以降の整列ダイス21の自転量を調整するための新たな補正上限SUL2となり、補正下限SLL=SLL+(S(Zj)−SUL1)=SLL1+ΔSが、それ以降の整列ダイス21の自転量を調整するための新たな補正下限SUL2となる。また、式(2)においては、SZ溝111の回転部が通過するときのダイス座標(反転中心)scとして、変動後の反転中心(Sc+ΔS)が設定され、整列ダイス21の自転量が算出される。
【0046】
具体例として、ダイス座標の変位幅(振幅)が−137.5°〜137.5°で、回転部が通過するときのダイス座標(反転中心)が0°であるSZ溝111の軌跡が、その後反転中心が+15°変動して、振幅が−122.5°〜+152.5°となった場合について説明する。この場合、変動前の補正上限SUL1は+137.5°、補正下限SLL1は−137.5°に設定される。
SZ溝111の溝座標Sが+137.5°を超えて+152.5°に到達するまでは、溝座標Sが補正上限SUL1(仮設定されたものを含む)よりも大きくなる。したがって、この範囲では、上述した補正により整列ダイス21の自転量が補正されるとともに、補正上限SUL及び補正下限SLLが仮設定される。最終的に、新たな補正上限SUL2として+152.5°が設定され、新たな補正下限SLL2として−122.5°が設定されることとなる。
【0047】
このように、実施形態では、外周面に螺旋方向が交互に反転する収納溝(SZ溝111)を形成されたスロットロッド(110)を走行させながら、複数枚の光ファイバテープ心線が積層されてなるテープ心線ユニット(101)を、収納溝に所定の状態で落とし込んで収納する光ファイバケーブル(100)を製造する際に、テープ心線ユニットを収納するテープ心線収納位置より長手方向(走行方向)上流側に配設された溝軌跡検出部(10)で収納溝の軌跡を検出する。
そして、溝軌跡検出部で検出された溝軌跡(溝座標S)に基づいて、テープ心線ユニットが挿通されている整列ダイス(21)をスロットロッドの周りで往復回転(公転)させることにより当該整列ダイスに挿通されたテープ心線ユニットと収納溝の位置合わせを行うとともに、整列ダイスを自転させることによりテープ心線ユニットに捻回を加える。
さらに、溝軌跡検出部で検出された溝軌跡に変動が生じたときに、整列ダイスの自転量を補正する。
【0048】
本実施形態に係る製造方法によれば、スロットロッド110のSZ溝111の軌跡が変動しても、この変動に追随して、収納するテープ心線ユニット101の捻回量が補正されるので、SZ溝111にテープ心線ユニット101を理想的な状態で収納することができる。したがって、SZケーブル100の伝送損失増加を効果的に抑制することができる。
なお、実施形態では、SZ溝111の軌跡が局所的に変動する場合について説明したが、SZ溝111の軌跡が周期的に変動する場合にも対応できる。
【0049】
また、溝軌跡検出部(10)が、スロットロッド(110)の走行に伴う収納溝の周方向の変位(SZ溝111の溝座標S)に対応して回転する自由目板(11)を有し、自由目板の変位(自由目板11で読み取った溝座標S)が、予め定められた補正上限(SUL)又は補正下限(SLL)を超えた場合に、溝軌跡に変動が生じたと判定する。そして、このときの溝軌跡の変動量に応じて、整列ダイス(21)の自転量を補正する。
これにより、SZ溝111の軌跡が変動したことを容易に判定できるとともに、収納するテープ心線ユニット101に適切な捻回を加えることができる。
【0050】
さらに、整列ダイス(21)が、遊星歯車(22)を介して内歯車(24)に接続されるとともに、スロットロッド(110)の周りで往復回転する制御目板(23)に自転可能に取り付けられている。そして、溝軌跡検出部(10)で検出された溝軌跡(SZ溝111の溝座標S)に基づいて制御目板を回転させることにより整列ダイスを自公転させるとともに、このときの自転量を内歯車を回転させることにより制御する。
これにより、自由目板11で読み取ったSZ溝111の溝座標Sに応じて、整列ダイス21の自転量を簡単に制御することができる。
【0051】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
例えば、実施形態では、溝軌跡検出部10(自由目板11)をテープ心線整列部20(整列ダイス21)の下流側に配置した場合について説明したが、溝軌跡検出部10(自由目板11)をテープ心線整列部20の上流側に配置するようにしてもよい。この場合、テープ心線整列部20を通過する前に、SZ溝111の変動が検出されるので、整列ダイス21の自転量をより的確に制御することができる。
また、本発明を適用しうる光ファイバケーブルの構成(例えば、SZ溝の条数、テープ心線ユニットの積層枚数など)は、実施形態で例示したものに限定されない。
【0052】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0053】
1 収納装置
10 溝軌跡検出部
11 自由目板
20 テープ心線整列部
21 整列ダイス
22 遊星歯車
23 制御目板
24 内歯車
30 テープ心線規制部
31 固定目板
32〜34 制御目板
40 制御部
100 SZケーブル
101 テープ心線ユニット
111 SZ溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋方向が交互に反転する収納溝を形成されたスロットロッドを走行させながら、複数枚の光ファイバテープ心線が積層されてなるテープ心線ユニットを、前記収納溝に所定の状態で落とし込んで収納する光ファイバケーブルの製造方法において、
前記テープ心線ユニットを収納するテープ心線収納位置より長手方向上流側に配設された溝軌跡検出部で前記収納溝の軌跡を検出し、
前記溝軌跡検出部で検出された前記溝軌跡に基づいて、前記テープ心線ユニットが挿通されている整列ダイスを前記スロットロッドの周りで往復回転させることにより当該整列ダイスに挿通された前記テープ心線ユニットと前記収納溝の位置合わせを行うとともに、前記整列ダイスを自転させることにより前記テープ心線ユニットに捻回を加え、
さらに、前記溝軌跡検出部により前記溝軌跡の変動が検出されたときに、前記整列ダイスの自転量を補正することを特徴とする光ファイバケーブルの製造方法。
【請求項2】
前記溝軌跡検出部が、前記スロットロッドの走行に伴う前記収納溝の周方向の変位に対応して回転する自由目板を有し、
前記自由目板の変位が、予め定められた補正上限又は補正下限を超えた場合に、前記溝軌跡に変動が生じたと判定し、
このときの溝軌跡の変動量に応じて、前記整列ダイスの自転量を補正することを特徴とする請求項1に記載の光ファイバケーブルの製造方法。
【請求項3】
前記整列ダイスが、遊星歯車を介して内歯車に接続されるとともに、前記スロットロッドの周りで往復回転する制御目板に自転可能に取り付けられ、
前記溝軌跡検出部で検出された前記溝軌跡に基づいて前記制御目板を回転させることにより前記整列ダイスを自公転させるとともに、このときの自転量を前記内歯車を回転させることにより制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の光ファイバケーブルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−145736(P2012−145736A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3696(P2011−3696)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】