説明

光ファイバ上におけるカーボン・ナノチューブの選択的堆積

【課題】モード同期レーザーに有用な可飽和吸収体を提供する。
【解決手段】本願発明は、光ファイバの端面上にカーボン・ナノチューブを選択的に堆積させる。光ファイバの端面がカーボン・ナノチューブの分散液に暴露されると同時に、光が光ファイバを通して伝搬される。カーボン・ナノチューブは、光ファイバの発光コア上に選択的に堆積する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ・デバイスに関し、より具体的には、例えばモード同期レーザーに有用な可飽和吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
周期的に増幅される光伝送システムのビットレートおよびエラーのない伝送を向上させるため、受動型の可飽和吸収体は、レーザー・システムにおける使用について大規模に研究されてきた。各増幅段で光学信号が再生される。可飽和吸収体デバイスは、受動的な光再生のための単純で費用効率の高いデバイスである。そのようなデバイスの雑音抑圧能力は、より高出力の信号成分よりも蓄積され増幅された自然放出雑音を減衰することができ、それによって信号対雑音比を増加させる。
【0003】
実際の商業用途を目的として考慮される可飽和吸収体の1つの一般的分類は、半導体デバイスである。半導体可飽和吸収体デバイスは、比較的複雑で高価な製作方法を伴う。これはシステムに複雑さとコストを必要とする。さらに、それらは反射モードで動作する。伝送モードで動作する可飽和吸収体デバイスは、多くの用途、特に光ファイバ・システム内のインライン素子にとってより望ましい。伝送モードで動作する光可飽和吸収体は、この分野における近年の開発努力の中心であった。
【0004】
最近の研究により、カーボン・ナノチューブ、一般的に単層カーボン・ナノチューブ(SWNT)は、レーザー・ビームの光路内に置かれたときに有効な受動的可飽和吸収を示すことが分かっている。例えば、S.Y.Set外の「Laser Mode−Locking and Q−Switching Using a New Saturable Absorber Material Based on Carbon Nanotubes」(Journal of Lightwave Technology、Vol.22、2004、第51頁)、およびYamashita外の「Saturable absorbers incorporating carbon nanotubes directly synthesized onto substrates and fibers and their application to mode−locked fiber lasers」(Optic Letters、Vol.29、No.14、July 15、2004)を参照のこと。これらの文献は両方とも、参照により本明細書に組み込まれる。
【非特許文献1】S.Y.Set外、「Laser Mode−Locking and Q−Switching Using a New Saturable Absorber Material Based on Carbon Nanotubes」(Journal of Lightwave Technology、Vol.22、2004、第51頁)
【非特許文献2】Yamashita外、「Saturable absorbers incorporating carbon nanotubes directly synthesized onto substrates and fibers and their application to mode−locked fiber lasers」(Optic Letters、Vol.29、No.14、July 15、2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまで研究された、光ファイバ・ベースのSWNT可飽和吸収体デバイスを作成する技術は、主に、カーボン・ナノチューブで被覆される光ファイバの表面が金属触媒を用いて触媒され、カーボン・ナノチューブが触媒された表面上に成長するSWNT成長法である。この方法は本質的に触媒化学気相成長(CVD)法である。CVDおよび同様の成長法が有用であることが分かっているが、単純で費用効率の高い、光ファイバに基づくSWNT可飽和吸収体デバイスを製造する新しい手法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
カーボン・ナノチューブの選択的堆積は、擬光分解効果(pseudo−photolytic effect)を使用して達成できることが見出されている。カーボン・ナノチューブは、照明される表面上に選択的に堆積することが分かっている。この現象は、光ファイバを通して光を伝送すると同時に被覆プロセスを行うことによって、光ファイバのコアがカーボン・ナノチューブで選択的に被覆されてもよい、光ファイバ可飽和吸収体デバイスに直接適用可能である。この本来の選択的被覆方法(in situ selective coating method)は、単純かつ多用途である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
カーボン・ナノチューブを光ファイバの端面上に堆積させることにより、例えばモード同期レーザーに有用な、可飽和吸収体素子が作成される。これを達成する方法が図1〜3に示される。図面中の図は縮尺どおりに描かれていない。図1では、光ファイバ11は、最初に、金属塩溶液13を保持している容器14にファイバを浸漬させることにより、金属触媒で被覆される。図2は、金属塩が酸化して金属酸化物を形成する、電気炉15内に配置された被覆された光ファイバを示す。続いて、炉は排気され、CVDによってカーボン・ナノチューブが触媒された表面上に成長する。この方法の結果は図3に示され、光ファイバの端面を被覆しているカーボン・ナノチューブ22が示されている。図1〜3はまた、光ファイバ11内のコア12を示す。良く知られているように、光ファイバは、光ファイバの使用中に光信号を伝送するコアを含む。この機構の重要性は以下で明白になるであろう。
【0008】
別の被覆手順は、最初にカーボン・ナノチューブが形成され、次に溶液中に分散される堆積法である。分散液の液体キャリアは、様々な液体、例えば、水、アルコール、エーテル、ケトンなどのいずれかであってもよい。乾燥が容易であるため、揮発性の液体が好ましいことがある。被覆される表面が分散液中に浸漬され、または分散液が被覆される表面に塗布され、分散液中のキャリア液体が乾燥されて、カーボン・ナノチューブの薄いコーティングが表面上に残る。分散溶液に複数回浸漬させるか、または複数回被覆することにより、カーボン・ナノチューブのより厚い複数層を形成することができる。状況によっては、単一の被覆工程によって、少数の堆積されたカーボン・ナノチューブのみがもたらされることがある。したがって、有用なカーボン・ナノチューブ層を得るため、複数回の被覆が必要なことがある。
【0009】
これらの堆積方法に有用なカーボン・ナノチューブは、Nd:YAGレーザーからの高エネルギーのレーザー・パルスを使用して、500Torrのアルゴン・ガスで充填された石英管内に配置された、金属触媒を用いて触媒されたカーボン目標物をアブレート(ablate)する、レーザー・アブレーション法によって作成されてもよい。石英管は電気炉内で加熱される。触媒を用いて、直径約1nmのSWNTが成長されてもよい。SWNTを作成するための様々な代替手法が利用可能である。SWNTを作成する方法は本発明の一部を形成しない。
【0010】
本発明の選択的堆積方法は、図4および5によって示される。図4では、端部が容器34内に沈められた光ファイバ31が示される。容器は、カーボン・ナノチューブ分散液35で充填されている。光ファイバ31は、光ファイバ内で光を案内することができる光コア32を含む。光ファイバの端面37は、劈開面または研磨面であってもよい。光ファイバは、この図では、光ファイバ・コーティングを有さず、すなわち通常のプラスチック・コーティングが除去された状態で示される。この方法は、上述のやり方で、被覆された光ファイバに対して行うこともできる。後者の場合、分散液用に選択された液体は、コーティング材料に対して無害であろう。
【0011】
本発明によれば、堆積工程の間、光は光ファイバ・コア32によって運ばれる。図4では、レーザー36からコアに入り、端面37でコアを出る光が示される。光ファイバの端面のコア部分を照明することでカーボン・ナノチューブが引き付けられ、カーボン・ナノチューブがコア表面上に選択的に堆積することが分かっている。これは図5に示され、光ファイバ31のコア32上に選択的に堆積されたカーボン・ナノチューブ42が示されている。比較試験により、照明を行わなかった場合、光ファイバの端面上におけるカーボン・ナノチューブの堆積が非常に制限されることが分かる。
【0012】
浸漬方法は、様々な手順によって行われてもよい。図4は、光がファイバを通って伝搬している状態で、カーボン・ナノチューブ分散液に沈められたファイバを示す。被覆方法はまた、ファイバをカーボン・ナノチューブ分散液に浸漬させ、ファイバを引き抜くことによって行われてもよい。これにより、光ファイバの端面上に分散液のビード(bead)が得られる。次に、光が、光ファイバを通して導入されてもよく、その結果、光ファイバのコア部分上にカーボン・ナノチューブの選択的堆積が得られる。したがって、「浸漬」は、浸漬し除去することと、沈めることとを包含するものとする。
【0013】
本発明の方法を実証するため、0.001グラムのカーボン・ナノチューブを12ccのエタノール中に分散させ、その混合物を超音波で分散させた。対照実験として、光ファイバの劈開端部を分散液に浸漬させ、引き抜いた。分散液のビードが光ファイバの端面上に残った。次に、液体を乾燥させた。光ファイバの端面を調べたところ、端面に付着したナノチューブはほとんど見られなかった。端面に付着したわずかなナノチューブは不規則に分布していた。
【0014】
光ファイバの端面に分散液のビードが付着した状態で浸漬させた後に、980nmの光学放射を光ファイバのコアを通して伝送したことを除いて、上述した手順を繰り返した。結果は図5に示され、多量のカーボン・ナノチューブが、光ファイバの端面のコア部分上に選択的に堆積されている。端面のクラッディング部分は本質的に被覆されないままである。
【0015】
可飽和吸収体としてのその有効性を実証するため、カーボン・ナノチューブが選択的に堆積された光ファイバを、リング・レーザー機構に組み込んだ。リング・レーザー機構は図6に示され、利得部は、980nmのポンプ63によってエルビウム添加ファイバ部61に送り込まれる。利得部は、スプライス62において、アイソレータ65および70/30スプリッタ68に接続される。出力は、ピグテール67においてリングを出る。FC/APCコネクタの間に上述の光ファイバを含む可飽和吸収体素子は、符号64で示される。
【0016】
図7は、図6のリング・レーザーから得られた出力スペクトルを示す。スペクトルは、ピーク信号が約1558nmのところにあるモード同期スペクトルを示す。
【0017】
レーザーと上述の可飽和吸収体との組み合わせは、可飽和吸収体が、カーボン・ナノチューブで選択的に被覆されたコアを有する光ファイバを含む、有用な光学サブアセンブリを構成する。この光学サブアセンブリでは、可飽和吸収体は、レーザーに直接接続されてもよく、または中間要素を介してレーザーに接続されてもよい。
【0018】
代替の実施形態では、光ファイバは、コネクタの一部分、例えばFCコネクタの雄部分で終端する。この場合、コネクタに入れられた光ファイバ・コアの端面は、カーボン・ナノチューブで被覆される。これは、インライン(in−line:一列)の可飽和吸収体を形成する便利な方法である。この実施形態は図8および9に示される。図8は、ガラス・ファイバ72および光ファイバ・コーティング71を含む、光コネクタ74内で終端した光ファイバ70を示す。コネクタの詳細は本発明には関連しない。コネクタは、任意の適切なタイプ、例えば、FC、FC/APCであってもよい。コネクタの端部は、カーボン・ナノチューブ分散液75に浸漬される。レーザー76からの光が光ファイバを通して伝搬され、その結果、端面78上にカーボン・ナノチューブが選択的に堆積される。コネクタの端面は図9に示される。コネクタ74は、光ファイバ71の端部を取り囲む。光ファイバのコアは符号79で示され、カーボン・ナノチューブで選択的に被覆されている。
【0019】
図8によって示される方法の浸漬工程は、上述の浸漬工程か、または任意の適切な代替工程のどちらかであってもよいことが、当業者には明らかであろう。重要なのは、被覆されている物品の端面が分散液に暴露されることのみである。
【0020】
本発明を実証するために使用された光ファイバは、シリカ・ベースの光ファイバであった。これらは、一般的には、90%を超えるシリカを含み、光導体を形成するのに適したドーピングを有する。
【0021】
本発明の選択的被覆方法では、コーティング材料の空間的位置は光ファイバを通って伝搬する光によって決まる。上述の方法において堆積される材料はカーボン・ナノチューブを含むが、他の材料が、同様のやり方で、光ファイバの照明される領域に選択的に適用されてもよい。
【0022】
同様に、他の素子が、指定された光メカニズムを使用して選択的に被覆されてもよい。
レーザーの発光面が、上述のやり方でナノチューブで被覆されてもよい。発光ダイオードも選択的に被覆されてもよい。それぞれの場合において、素子の発光面のその部分、すなわち照明された部分のみが、カーボン・ナノチューブで被覆される。本発明を規定するため、発光素子という用語は、レーザー、発光ダイオード、および、光がそれを通って伝搬する光ファイバを包含するものとする。
【0023】
本発明の様々な追加の変更が当業者には想起されるであろう。当該分野がそれによって進歩してきた原理およびそれらの等価物に基本的に依存する、本明細書の特定の教示からのすべての逸脱は、上述され請求される本発明の範囲内にあるものと適切に見なされる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】光ファイバの端部をカーボン・ナノチューブで被覆する従来技術の方法を示す図である。
【図2】光ファイバの端部をカーボン・ナノチューブで被覆する従来技術の方法を示す図である。
【図3】光ファイバの端部をカーボン・ナノチューブで被覆する従来技術の方法を示す図である。
【図4】本発明の方法を使用した、光ファイバの端部上へのカーボン・ナノチューブの選択的な堆積を示す図である。
【図5】本発明の方法を使用した、光ファイバの端部上へのカーボン・ナノチューブの選択的な堆積を示す図である。
【図6】本発明の方法によって選択的に被覆された光ファイバの、リング・レーザーへの適用を示す図である。
【図7】本発明の方法によって選択的に被覆された光ファイバの、リング・レーザーへの適用を示す図である。
【図8】光ファイバがコネクタ付きである代替実施形態を示す図である。
【図9】光ファイバがコネクタ付きである代替実施形態を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバの端面をコーティング材料で選択的に被覆する方法であって、前記光ファイバの端面を前記コーティング材料を含む液体に暴露すると同時に、前記光ファイバを通して光を伝搬させる工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記光ファイバがコアおよびクラッディングを含み、前記コーティング材料が前記コアを選択的に被覆する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記コーティング材料がカーボンナノ粒子を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記コーティング材料がカーボンナノチューブを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記液体が液体中にカーボンナノチューブを分散させたものである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記液体が、水、アルコール、エーテル、およびケトンから本質的になる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記光がレーザー光である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記レーザー光が約980nmの波長を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記光ファイバが光ファイバコネクタによって終端し、前記光ファイバコネクタが前記液体に暴露される、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
発光素子の端面をカーボンナノチューブで選択的に被覆する方法であって、前記発光素子の端面をコーティング材料を含む液体に暴露すると同時に、前記発光素子から光を放射させ、それによって前記発光素子の端面の照明された部分を被覆する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
前記発光素子が、レーザー、発光ダイオード、および光を伝搬する光ファイバからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
光ファイバによってモード同期素子に結合されたレーザーを含む光ファイバサブシステムであって、前記モード同期素子が端面を有する光ファイバを含み、前記端面が、コア部分、クラッディング部分、およびカーボンナノチューブのコーティングを含み、前記カーボンナノチューブのコーティングが、前記コア部分を被覆するが前記クラッディング部分は被覆しないことを特徴とする光ファイバサブシステム。
【請求項13】
前記光ファイバの前記端面が光ファイバコネクタによって取り囲まれる、請求項12に記載の光ファイバサブシステム。
【請求項14】
コア部分およびクラッディング部分を有する素子を含み、カーボンナノチューブのコーティングが、前記コア部分を被覆するが前記クラッディング部分は被覆しない、光ファイバサブシステム。
【請求項15】
前記素子が光ファイバである、請求項14に記載のサブシステム。
【請求項16】
前記素子が光ファイバ結合デバイスである、請求項14に記載のサブシステム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−112163(P2008−112163A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−278259(P2007−278259)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(302003314)フルカワ エレクトリック ノース アメリカ インコーポレーテッド (75)
【Fターム(参考)】