説明

光ファイバ及び光ファイバ用ガラス母材の製造方法

【課題】光学クラッド部に含まれる塩素濃度を多くして光ファイバの伝送損失を低く抑えることができる光ファイバ及び光ファイバ用ガラス母材の製造方法を提供する。
【解決手段】光ファイバ1はコア2とクラッド5を含み、コア2はゲルマニウムを含まない石英ガラスからなり、クラッド5は、コア2の外周に位置する光学クラッド部3と、光学クラッド部3の外周に位置するジャケット部4を有し、光学クラッド部3は、フッ素を0.45質量%以上1.50質量%以下含有するとともに、塩素を平均濃度270ppm以上2000ppm以下含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアとクラッドが石英ガラスからなる光ファイバであって、ゲルマニウムを含まないコアとフッ素を含む光学クラッド部とを有する構造の光ファイバ及び光ファイバ用ガラス母材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石英ガラスの光ファイバを製造する工程では、ガラス微粒子堆積体を形成した後に脱水処理を行い、その後焼結して透明なガラスとすることが行われている。脱水、焼結の処理では、塩素を含むガスの雰囲気中でガラス微粒子堆積体を加熱することにより、光ファイバの伝送損失を低く抑えることができることが知られている。
【0003】
2層構造のクラッドを有する光ファイバの母材を製造する方法として、多孔質のコア原層の外周面に多孔質の第1クラッド原層が形成されてなる多孔質ガラス中間体を形成した後に、フッ素化合物が含まれていない塩素系ガス含有の雰囲気ガス中にその多孔質ガラス中間体を配置して焼結し、その焼結により作り出された透明ガラス中間体の外周面に多孔質の第2クラッド原層を形成し、その第2クラッド原層を脱水及び焼結して、透明な光ファイバ用ガラス母材とすることが知られている。そして、第1クラッド原層の脱水時より高い塩素濃度で第2クラッド原層を脱水し、第1クラッド原層の焼結時より高い塩素濃度で第2クラッド原層を焼結することで、第1クラッド部の外周の第2クラッド部に、コアの外周の第1クラッド部よりも高い濃度の塩素を含有させ、第2クラッド部の屈折率を第1クラッド部の屈折率よりも高くすることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、ガラスの屈折率を上昇させるために、多孔質ガラス体を脱水した後、不活性ガスと四塩化珪素の混合ガスからなるガス雰囲気中で透明ガラス化(焼結)を行うことが知られている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2では、2層構造のクラッドを有する光ファイバにおいて外側のクラッドの屈折率を内側のクラッドの屈折率よりも高くする為に、外側のクラッドとなる部分を焼結する際や、フッ素添加クラッド型母材のコアを焼結する際などに四塩化珪素を用いることが記載されている。また、コア材となる多孔質ガラス体を四塩化珪素を用いて脱水することも記載されている。
【0005】
また、分散シフト光ファイバ用母材を製造する方法において、純石英多孔質ガラス体を、塩素ガス含有雰囲気で脱水処理し、次に四フッ化珪素のみの雰囲気ガスを流しながら加熱してフッ素添加するとともに焼結することで、フッ素添加ガラスのクラッドとなる部分のガラスパイプを作製することが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−54995号公報
【特許文献2】特開平10−53423号公報
【特許文献3】特開昭64−87528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フッ素を含む石英ガラスの光学クラッド部を有する構造の光ファイバを製造する際、上記のように光ファイバ用ガラス母材の製造過程でフッ素添加パイプを作製し、コアロッドを挿入後コラプスする場合があるが、そのパイプを作製する際に、多孔質ガラス体を塩素で脱水した後にフッ素を添加すると、光ファイバの伝送損失が大きくなる現象が生じることが分かってきている。この際、残留する塩素濃度が低い(例えばEPMAの検出限界以下)ことも分かってきている。
【0008】
上記のように、脱水及び焼結時に用いる塩素ガスの濃度を高めることで、透明ガラス化後の残留塩素濃度を高める方法が知られているが、これは屈折率を上げることを目的としており、伝送損失に着目したものではない。そして、フッ素添加パイプを作製する場合は、フッ素を添加することにより屈折率を下げているため、屈折率を上げる効果を持つ塩素ガスの濃度を高めることは困難である。
また、上記のように屈折率を上げるために四塩化珪素を用いて焼結を行うことも知られているが、その対象は、コア、2層のクラッドの外側クラッドを透明化する場合であり、フッ素を添加して屈折率を低くする内側クラッド(光学クラッド部)を対象とするものではない。
【0009】
本発明は、コアとクラッドが石英ガラスからなり、ゲルマニウムを含まないコアとフッ素を含む光学クラッド部とを有する光ファイバについて、光学クラッド部に含まれる塩素濃度を多くして光ファイバの伝送損失を低く抑えることができる光ファイバ及び光ファイバ用ガラス母材の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決することのできる本発明に係る光ファイバは、コアとクラッドからなる石英系の光ファイバであって、
前記コアはゲルマニウムを含まない石英ガラスからなり、
前記クラッドは、前記コアの外周に位置する光学クラッド部と、前記光学クラッド部の外周に位置するジャケット部を有し、
前記光学クラッド部は、フッ素を0.45質量%以上1.50質量%以下含有するとともに、塩素を平均濃度270ppm以上2000ppm以下含有することを特徴とする。
なお、「ゲルマニウムを含まない石英ガラス」とは、純シリカからなる石英ガラスであり、ゲルマニウムを含まないもの(その他の元素(K,Cl,Fなど)が微量含まれていても良い)を指す。
【0011】
本発明に係る光ファイバは、波長1550nmにおける伝送損失が、0.176dB/km以下であることが好ましい。
【0012】
本発明に係る光ファイバにおいて、前記光学クラッド部は、四塩化珪素を用いて脱水処理された石英ガラスであることが好ましい。
【0013】
上記課題を解決することのできる本発明に係る光ファイバ用ガラス母材の製造方法は、ゲルマニウムを含まない石英ガラスからなり光ファイバのコアとなるコア材を、中心部が穿孔されて光ファイバの光学クラッド部となるフッ素添加パイプ材の前記中心部に挿入して、前記コア材と前記フッ素添加パイプ材とを加熱一体化させ、その外周に光ファイバのジャケット部となるガラスを形成して光ファイバ用ガラス母材を製造する方法であって、
ガラス微粒子堆積体を四塩化珪素を用いて脱水処理し、その後フッ素添加ガスの雰囲気中で焼結した後、中心部を穿孔して前記フッ素添加パイプ材を形成し、
前記脱水処理は、前記ガラス微粒子堆積体の全ての部分において、脱水処理中の最高温度Tが1110℃以上であり、脱水作用が働く温度Teff以上になる時間の合計Δtが100分以上である条件を満たし、
形成した前記フッ素添加パイプ材を、フッ素を0.45質量%以上1.50質量%以下含有するとともに、塩素を平均濃度270ppm以上2000ppm以下含有するものとすることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る光ファイバ用ガラス母材の製造方法において、前記脱水処理時の前記ガラス微粒子堆積体の嵩密度が0.19g/cm以上0.6g/cm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光ファイバは、ゲルマニウムを含まないコアとフッ素を含む光学クラッド部とを有する石英ガラスの光ファイバであり、光学クラッド部のフッ素の含有量が0.45質量%以上1.50質量%以下である。このフッ素含有量により、ゲルマニウムを含まないコアに対して必要な比屈折率差が得られる。さらに、光学クラッド部が塩素を平均濃度270ppm以上2000ppm以下含有することにより、伝送損失が少ない光ファイバとすることができる。
本発明の光ファイバの製造方法によれば、光ファイバの光学クラッド部となるフッ素添加パイプ材を作製する際の脱水処理を、四塩化珪素を用いるとともに最高温度Tが1110℃以上、脱水作用を100分以上働かせる条件とすることで、フッ素添加パイプ材を、フッ素が0.45質量%以上1.50質量%以下含有するとともに、塩素が平均濃度270ppm以上2000ppm以下含有するものにできる。これにより、ゲルマニウムを含まないコアとフッ素を含む光学クラッド部とを有する構造で、伝送損失が少ない光ファイバを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る光ファイバの一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1に示した光ファイバの屈折率分布を示す模式図である。
【図3】光ファイバ用ガラス母材を製造する脱水工程を示す模式図である。
【図4】脱水処理中のガラス微粒子堆積体の温度変化の一例を示すグラフである。
【図5】脱水処理中のガラス微粒子堆積体の温度変化の一例を示すグラフである。
【図6】脱水処理中のガラス微粒子堆積体の温度変化の一例を示すグラフである。
【図7】光ファイバ用ガラス母材を製造する一工程を示す模式図である。
【図8】光学クラッド部の塩素濃度と伝送損失の良好率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る光ファイバの実施形態の例について、図面を参照しつつ説明する。
図1は本実施形態の光ファイバを光軸に垂直な面で切断したときの断面図であり、図2は図1の光ファイバの屈折率分布を示す模式図である。
【0018】
図1に示すように、光ファイバ1は、中心にコア2を有し、その外周にクラッド5を有する。クラッド5は、コア2の外周に位置する光学クラッド部3と、光学クラッド部3の外周に位置するジャケット部4を有する。コア2はゲルマニウムを含まない石英ガラスであり、実質的に純石英であるが、製造の過程で塩素等が微量だけ含まれていてもよい。
【0019】
図2に示すように、光ファイバ1において中心のコア2が最も屈折率が高く、その周囲のクラッド5は、コア2に対する比屈折率差Δnだけ屈折率が低い。
また、具体的な各部の大きさの一例としては、コア2の直径d1が9.6μm、光学クラッド部3の直径d2が48μm、ジャケット部4の直径d3が125μmである。コア2の直径や屈折率分布の形状を適宜設定することにより、光ファイバ1をシングルモードファイバとしたり、マルチモードファイバとすることができる。また、コア2を屈折率の異なる複数層から形成してもよい。
【0020】
光学クラッド部3は、クラッド5のうち、コア2に近い領域であり、光ファイバ1の光伝送特性に大きく関わる部分である。本実施形態の光学クラッド部3は、フッ素を0.45質量%以上1.50質量%以下含有するとともに、塩素を平均濃度270ppm以上2000ppm以下含有する石英ガラスからなる。光学クラッド部3はフッ素が添加されることでコア2に対して屈折率が小さくなるように調節されている。光学クラッド部3のフッ素含有量を0.45質量%以上1.50質量%以下とすることにより、コア2に対する比屈折率差Δnが0.15%〜0.50%とされている。例えば、光学クラッド部3のコア2に対する比屈折率差Δnは0.4%である。
【0021】
光学クラッド部3は、平均して塩素を270ppm以上含有する。これにより、光ファイバ1の伝送損失を小さくすることができる。例えば、光学クラッド部3の平均塩素濃度が270ppm以上であると、波長1550nmにおける光ファイバ1の伝送損失が0.176dB/km以下となる。また、光学クラッド部3の平均塩素濃度が2000ppmを超えると、塩素を含有することによる屈折率の上昇が無視できなくなり、その分だけフッ素含有量も増やす必要が生じる。
【0022】
また、光学クラッド部3においてコア2に近いほど塩素濃度が高くなっていてもよい。例えば、光学クラッド部3におけるコア2との境界から波長1550nmのMFD(モードフィールド径)の二倍の直径までの部分では、平均塩素濃度が300ppm以上3000ppm以下の範囲内となっていてもよい。通常のシングルモード光ファイバのMFDは10μm程度であるので、直径20μm程度の範囲がこれに相当する。
【0023】
この光学クラッド部3は、ガラス微粒子堆積体を四塩化珪素を用いて脱水処理し、その後、フッ素を添加して焼結することにより、塩素とフッ素をそれぞれ上記の通り含有する石英ガラスとされている。
【0024】
ジャケット部4は、光学クラッド部3と同じ屈折率を有することが好ましく、光学クラッド部3と同程度のフッ素を含有する石英ガラスであるとよい。但し、ジャケット部4は光学クラッド部3と比較して光ファイバ1の光伝送特性に与える影響が小さいので、光学クラッド部3と異なる屈折率であってもよい。
【0025】
次に、このような光ファイバ1が線引きされる光ファイバ母材を製造する方法について説明する。
まず、光ファイバ1のコア2となるコア材を用意する。コア材は、ゲルマニウムを含まない石英ガラスからなる。コア材を作製するには、例えばVAD法により純シリカのガラス微粒子堆積体を作製し、それを塩素雰囲気で脱水及び焼結し、透明化した後、所望の外径となるように延伸する。
【0026】
また、光ファイバ1の光学クラッド部3となるフッ素添加パイプ材を用意する。フッ素添加パイプ材を作製するには、まず、例えばVAD法により純シリカのガラス微粒子堆積体を作製する。VAD法では、反応容器内に吊り下げた出発棒に対してガラス微粒子生成用バーナによりガラス微粒子を堆積させる。例えば、ガラス微粒子の堆積面を検出しながら、堆積面の位置が一定になるように出発棒を引き上げていくことで、出発棒の軸方向にガラス微粒子堆積体を成長させることができる。
【0027】
このようにして作製したガラス微粒子堆積体を、図3に示すように加熱炉17内で脱水処理する。この脱水処理では、ガラス微粒子堆積体16を収容する加熱炉17内を四塩化珪素(SiCl)のガスと不活性ガス(ヘリウム等)の雰囲気として、ガラス微粒子堆積体16の全体を加熱する。
【0028】
加熱炉17の形態として、長手方向の一部にヒータによる加熱領域を有する場合と、図3のように加熱炉内全体をヒータ18と炉心管19により略均一温度で加熱する均熱炉の場合がある。一部に加熱領域を有する加熱炉を用いる場合では、加熱炉内のヒータ近傍の加熱領域に対して、ガラス微粒子堆積体16を軸方向に移動させながらガラス微粒子堆積体16の全体を加熱する。図3のように均熱炉を用いる場合では、炉内に収容したガラス微粒子堆積体16を移動させずに加熱する。なお、図3の加熱炉17では、炉心管19の内側にガラス微粒子堆積体16を収容して加熱するが、その加熱空間には供給管20を通して雰囲気ガスを導入しつつ、排気管21を通して適宜雰囲気ガスを排気する。
【0029】
例えば、長手方向の一部に加熱領域を有する加熱炉を用いて、ガラス微粒子堆積体16を加熱炉の加熱領域に対して上から下へ軸方向に移動させて、ガラス微粒子堆積体16の下端から上端まで順に加熱する場合、ガラス微粒子堆積体16の任意の箇所A(図3参照)における脱水処理中の温度変化を模式的に表すと、図4のグラフに示すようになる。グラフの縦軸に示す温度Tは、脱水処理中の最高温度を示し、グラフの縦軸に示す温度Teffは、脱水作用が働く下限温度を示し、温度Teff以上の時間領域Δtで脱水が行われることを示す。温度Teffは、例えば1000℃である。この図4の例では、ガラス微粒子堆積体16の上から下への移動に伴って任意の箇所Aが加熱領域に入って温度Teff以上に加熱され、最高温度Tに達した後、加熱領域から外れて温度Teff以下に下がっていく。温度Teff以上になる時間はΔtである。
【0030】
また、ガラス微粒子堆積体16を加熱炉の加熱領域に対して上から下及び下から上へ軸方向に往復移動させて、ガラス微粒子堆積体16の下端から上端まで及び上端から下端まで順に加熱する場合、ガラス微粒子堆積体16の任意の箇所A(図3参照)における脱水処理中の温度変化を模式的に表すと、図5のグラフに示すようになる。この図5の例では、ガラス微粒子堆積体16の上から下への移動に伴って任意の箇所Aが加熱領域に入って温度Teff以上に加熱され、最高温度Tに達した後、加熱領域から外れて温度Teff以下に下がっていく。このときに温度Teff以上となる時間はΔtである。そして、ガラス微粒子堆積体16の上端が加熱領域で加熱された後、ガラス微粒子堆積体16の移動方向が反転して、ガラス微粒子堆積体16の下から上への移動に伴って任意の箇所Aが再度加熱領域に入って温度Teff以上に加熱され、最高温度Tに達した後、加熱領域から外れて温度Teff以下に下がっていく。このときに温度Teff以上となる時間はΔtである。すなわち、この例で温度Teff以上になる合計時間Δt=Δt+Δtである。
【0031】
また、ガラス微粒子堆積体16を均熱炉内に収容して、ガラス微粒子堆積体16の全体を同時に加熱する場合、ガラス微粒子堆積体16の任意の箇所A(図3参照)における脱水処理中の温度変化を模式的に表すと、図6のグラフに示すようになる。この図6の例では、均熱炉内の温度の上昇に伴って任意の箇所Aの温度が上昇して温度Teff以上に加熱され、最高温度Tに達する。そのまま最高温度Tが維持されて、脱水が終了する。温度Teff以上になる時間はΔtである。なお、均熱炉での脱水処理では、脱水終了時に四塩化珪素ガスの供給を停止するため、温度がTeff以上であっても、これ以降は脱水反応が進まない。
【0032】
図4から図6に示した何れの例においても、四塩化珪素による脱水作用を十分に働かせるために、脱水処理中の最高温度Tを1110℃以上として、脱水作用が働く温度Teff以上になる時間の合計Δtを100分以上となるようにする。脱水作用が強い方が、塩素を多く残留させることができる。ガラス微粒子堆積体16を脱水した後、ガラス微粒子堆積体16をフッ素ガス(例えばSiF)雰囲気で加熱してフッ素を添加するとともに焼結して透明化するが、このような脱水条件を満たすことにより、フッ素を添加した透明ガラス体の平均塩素濃度を270ppm以上にすることができる。なお、脱水後のガラス微粒子堆積体16を、フッ素を添加して焼結する際には、例えば濃度5%程度のSiFをHeと混合させて流しながら1500℃に加熱してフッ素を添加し、同じ雰囲気のまま1600℃に加熱する。これにより、フッ素を0.45質量%以上1.50質量%以下含有させることができる。
【0033】
また、脱水処理時のガラス微粒子堆積体16の嵩密度は、0.19g/cm以上0.6g/cm以下であるとよい。嵩密度が0.19g/cmより小さいと、ガラス微粒子が柔らかいため脱水処理時等にガラス微粒子堆積体16が割れやすくなり、逆に嵩密度が0.6g/cmより大きいと、ガラス微粒子が堅く脱水材や添加剤が浸透しにくくなるため、脱水がされにくくなり、また、フッ素を添加しにくくなる。
【0034】
このようにして塩素とフッ素を含有させた透明ガラス体の、中心軸の部分を穿孔して、フッ素添加パイプ材とする。このフッ素添加パイプ材は、フッ素を0.45質量%以上1.50質量%以下含有するとともに、塩素を平均濃度270ppm以上2000ppm以下含有する石英ガラスからなる。
【0035】
図7に示すように、このフッ素添加パイプ材13の中心部の孔14に、コア材12を挿入する。その状態で、フッ素添加パイプ材13を加熱してロッドインコラプスによりコア材12とフッ素添加パイプ材13とを一体化する。これにより、光ファイバ1のコア2となる部分と光ファイバ1の光学クラッド部3となる部分を有する光ファイバ母材の中間体が形成される。
【0036】
そして、この中間体の外周に、光ファイバ1のジャケット部4となる部分のガラスを形成する。例えば、OVD法により純シリカのガラス微粒子を中間体の外周に堆積させ、径方向に堆積体を成長させる。それを加熱炉内で加熱し、脱水処理を行う。脱水処理では、加熱炉内を塩素を含むガス(塩素ガス、四塩化珪素ガス等)と不活性ガスの雰囲気とする。その後、フッ素ガス(例えばSiF)雰囲気で加熱してフッ素を添加するとともに焼結して透明化する。これにより、光ファイバ1のジャケット部4となるガラスが形成され、光ファイバ1のコア2となる部分、光学クラッド部3となる部分、ジャケット部4となる部分を有する光ファイバ用ガラス母材が得られる。
【0037】
そして、このようにして製造した光ファイバ用ガラス母材を、線引き装置によって線引きすることにより、ゲルマニウムを含まないコア2とフッ素を含む光学クラッド部3とを有する構造で、伝送損失が少ない上記の光ファイバ1を得ることができる。なお、このようにフッ素を含む光学クラッド部3に、ある程度の濃度で塩素が残留することにより伝送損失が低減されるメカニズムの詳細は不明ではあるが、塩素原子が、コアへの残留応力を緩和しているのではないか、とも推定される。
【実施例】
【0038】
(光学クラッド部の塩素濃度と伝送損失について)
図1に示した光学クラッド部3に含まれる塩素の濃度と、光ファイバ1の伝送損失の関係を調べた。
光学クラッド部3はフッ素を0.45質量%以上1.50質量%以下含有する石英ガラスとして、塩素の平均残留濃度が異なる複数のサンプルを用意した。各サンプルで波長1550nmにおける光ファイバ1の伝送損失を調べ、伝送損失の良好率を算出した。その結果を図8に示す。なお、伝送損失の良好率は、波長1550nmにおける光ファイバ1の伝送損失が0.176dB/km以下である場合を良好として、良好率=(良好長/評価長)×100(%)と算出した。
【0039】
図8に示すように、塩素の平均残留濃度が200ppmまでは良好率がほぼ0%であり、270ppm前後で良好率が急激に変化し、270ppm以上では良好率が50%を越えてほぼ100%となることが判る。つまり、光学クラッド部3の平均塩素濃度が270ppm以上であると、波長1550nmにおける光ファイバ1の伝送損失が0.176dB/km以下となることが判る。
【0040】
(光学クラッド部となるガラス微粒子堆積体の脱水条件について)
図3に示したガラス微粒子堆積体16の脱水処理を行う際の最高温度Tと脱水作用が働く温度Teff以上になる時間の合計Δtを変更し、残留塩素濃度及び伝送損失との関係について調べた。
ガラス微粒子堆積体16の直径は100mm、ガラス微粒子堆積体16の長さは750mmとし、ヒータ長400mmの加熱炉を用いて、ガラス微粒子堆積体16を軸方向に移動させながら全体を加熱して、脱水処理を行った。脱水処理には四塩化珪素を用い、1.0リットル/分の流量で加熱炉内に供給した。脱水処理後、濃度5%程度のSiFをHeと混合させて流しながらフッ素を添加して焼結し、透明化させた。その透明ガラス体の残留塩素濃度を測定した。また、それを用いて光ファイバ用ガラス母材を作製し、線引きして光ファイバを作製して波長1550nmの伝送損失を測定した。これらの結果を表1に示す。なお、最高温度Tはガラス微粒子堆積体16の異なる測定点における最小の値を代表値として扱った。また、比較例4においては、脱水処理に四塩化珪素を用いず、塩素を2.0リットル/分の流量で加熱炉内に供給した。加熱炉温度は何れも1200℃であり、脱水作用が働く温度Teffは1000℃である。
【0041】
【表1】

【0042】
比較例1,2と実施例1では、加熱炉に対してガラス微粒子堆積体を一方方向にトラバースさせて脱水処理を行った。
比較例1は、トラバース速度が最も速く(30mm/分)、最高温度Tが1020℃であり、温度Teff以上になる時間Δtは30分だけであった。その結果、残留塩素濃度は140ppmと少なく、伝送損失の良好率は0%であった。
比較例2は、トラバース速度を20mm/分とし、最高温度Tが1120℃となった。温度Teff以上になる時間Δtは60分となったが、残留塩素濃度は240ppmであり、伝送損失の良好率は5%であった。
実施例3は、トラバース速度を10mm/分とし、最高温度Tが1180℃となった。温度Teff以上になる時間Δtは110分と長くなった。その結果、残留塩素濃度は350ppmまで増加し、伝送損失の良好率は100%であった。
【0043】
実施例2,3と比較例3では、加熱炉に対してガラス微粒子堆積体を往復でトラバースさせて脱水処理を行った。
比較例3は、トラバース速度が最も速く(30mm/分)、最高温度Tが1020℃であり、温度Teff以上になる時間Δtは60分であった。時間Δtは比較例1より長くなったが、残留塩素濃度は170ppmと少なく、伝送損失の良好率は0%であった。
実施例2は、トラバース速度を20mm/分とし、最高温度Tが1120℃となった。温度Teff以上になる時間Δtは120分であった。時間Δtは比較例2より長くなって、残留塩素濃度は300ppmとなり、伝送損失の良好率は92%であった。
実施例3は、トラバース速度を10mm/分とし、最高温度Tが1180℃となった。温度Teff以上になる時間Δtは220分であった。その結果、残留塩素濃度は420ppmまで増加し、伝送損失の良好率は100%であった。
【0044】
塩素ガスを用いた比較例4では、他の条件を良好率は100%であった実施例1と同じにして脱水処理を行った。その結果、残留塩素濃度は140ppmと少なく、伝送損失の良好率は0%であった。
【0045】
このように、四塩化珪素を用いて脱水し、そのときの最高温度Tが1180℃、温度Teff以上になる時間Δtが110分以上である実施例1及び実施例3は、残留塩素濃度が高くなって伝送損失の良好率を100%にできることが判った。
【0046】
また、上記実施例1〜3及び比較例1〜4ではガラス微粒子堆積体の直径は100mmであったが、これを150mmとして、他の条件を実施例3と同じとして脱水処理を行った。その結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
このように、上記の実施例3と比較して、ガラス微粒子堆積体の直径が大きい実施例4は、最高温度Tが低くなり、温度Teff以上になる時間Δtが短くなっており、そのために残留塩素濃度及び伝送損失の良好率が下がった。ガラス微粒子堆積体の直径が大きくなるほど、加熱炉の温度を上げるか、トラバース速度を遅くするなどして、最高温度T、温度Teff以上になる時間Δtが下がらないように維持する必要があることがわかる。
【符号の説明】
【0049】
1:光ファイバ、2:コア、3:光学クラッド部、4:ジャケット部、5:クラッド、12:コア材、13:フッ素添加パイプ材、16:ガラス微粒子堆積体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアとクラッドからなる石英系の光ファイバであって、
前記コアはゲルマニウムを含まない石英ガラスからなり、
前記クラッドは、前記コアの外周に位置する光学クラッド部と、前記光学クラッド部の外周に位置するジャケット部を有し、
前記光学クラッド部は、フッ素を0.45質量%以上1.50質量%以下含有するとともに、塩素を平均濃度270ppm以上2000ppm以下含有することを特徴とする光ファイバ。
【請求項2】
波長1550nmにおける伝送損失が、0.176dB/km以下であることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
前記光学クラッド部は、四塩化珪素を用いて脱水処理された石英ガラスであることを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバ。
【請求項4】
ゲルマニウムを含まない石英ガラスからなり光ファイバのコアとなるコア材を、中心部が穿孔されて光ファイバの光学クラッド部となるフッ素添加パイプ材の前記中心部に挿入して、前記コア材と前記フッ素添加パイプ材とを加熱一体化させ、その外周に光ファイバのジャケット部となるガラスを形成して光ファイバ用ガラス母材を製造する方法であって、
ガラス微粒子堆積体を四塩化珪素を用いて脱水処理し、その後フッ素添加ガスの雰囲気中で焼結した後、中心部を穿孔して前記フッ素添加パイプ材を形成し、
前記脱水処理は、前記ガラス微粒子堆積体の全ての部分において、脱水処理中の最高温度Tが1110℃以上であり、脱水作用が働く温度Teff以上になる時間の合計Δtが100分以上である条件を満たし、
形成した前記フッ素添加パイプ材を、フッ素を0.45質量%以上1.50質量%以下含有するとともに、塩素を平均濃度270ppm以上2000ppm以下含有するものとすることを特徴とする光ファイバ用ガラス母材の製造方法。
【請求項5】
前記脱水処理時の前記ガラス微粒子堆積体の嵩密度が0.19g/cm以上0.6g/cm以下であることを特徴とする請求項4に記載の光ファイバ用ガラス母材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−86999(P2012−86999A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233929(P2010−233929)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】