光ファイバ素線の製造方法、光ファイバ素線の製造装置
【課題】光ファイバ素線の製造において、冷却装置に導入する冷却ガスの紡糸線速の高速化に伴う使用量(流量)の増大を抑えることができ、光ファイバ裸線をコートする樹脂のコート径偏肉のばらつきが小さい光ファイバ素線を製造できる技術の開発。
【解決手段】光ファイバ母材2から溶融紡糸した光ファイバ裸線3を冷却する冷却装置5が、冷却筒52の下側に冷却筒52内に供給された冷却ガスGの流出を防ぐファイバ出口シール部53が設けられ、冷却ガスGが上昇流を形成して冷却筒52の上端からのみ流出する構成であり、製造安定範囲の最大線速をνD(m/min)としたとき冷却ガスの上昇流の流速VQ(m/min)が5.5×10−3×νD−2.5×10−1≦VQを満たすようにする光ファイバ素線の製造方法、製造装置を提供する。
【解決手段】光ファイバ母材2から溶融紡糸した光ファイバ裸線3を冷却する冷却装置5が、冷却筒52の下側に冷却筒52内に供給された冷却ガスGの流出を防ぐファイバ出口シール部53が設けられ、冷却ガスGが上昇流を形成して冷却筒52の上端からのみ流出する構成であり、製造安定範囲の最大線速をνD(m/min)としたとき冷却ガスの上昇流の流速VQ(m/min)が5.5×10−3×νD−2.5×10−1≦VQを満たすようにする光ファイバ素線の製造方法、製造装置を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ母材から溶融紡糸された光ファイバ裸線を冷却装置にて冷却し、次いでこの光ファイバ裸線に保護被覆層を形成するための液状樹脂材料を塗布し、前記液状樹脂材料を硬化して保護被覆層を形成する光ファイバ素線の製造方法、光ファイバ素線製造工程のうち線引き工程に使用される光ファイバ素線の製造装置に関し、特に高速線引きに適用して好適な光ファイバ素線の製造方法、光ファイバ素線の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ素線の紡糸工程(線引き工程)は一般に下記の手順で実施される(図12参照)。
(1)光ファイバ素線の原料となるガラス母材110を紡糸用加熱炉120にて2000℃以上の温度に加熱溶融する。
(2)溶融したガラスを高温状態で紡糸炉下部に引き出し、光ファイバ形状に引き伸ばす(ガラス母材110から光ファイバ裸線111を線引きする)。
(3)引き伸ばした高温状態の光ファイバ裸線111を冷却装置130によって適切温度に冷却する。
(4)冷却した光ファイバ裸線111にその保護のため樹脂コーティング装置140によって樹脂をコーティングした後、樹脂の種類に応じた手段(樹脂硬化装置150)によって光ファイバ裸線111に定着させ、光ファイバ素線112とする。
(5)光ファイバ素線112を巻き取り機160によって巻き取る。
【0003】
上述のような光ファイバ紡糸工程にあっては、光ファイバ素線の製造性を向上させるために、線引き速度(線速)の高速化が進められている。線速は光ファイバ裸線の外径を一定に保つために常時変動するが、線速が高速化するにしたがいその変動幅が大きくなる。線速の変動は、光ファイバ裸線が樹脂コーティング装置に入る前の温度(入線温度)を変動させる。光ファイバの特性に影響を与える樹脂のコーティング厚は入線温度によって変動するため、入線温度の変動を抑えて均一なコーティング厚を得るために、冷却装置の冷却能力を調整する必要がある。これに鑑みて例えば特許文献1記載の方法が開示されている。
上記特許文献1記載に開示されている方法は、図13に示すように、光ファイバ裸線220を冷却するための冷却装置210の冷却筒211内(具体的には冷却筒211の内側空間であり冷却装置210を上下に貫通する光ファイバ挿通孔212)に該冷却筒211内に通された前記光ファイバ裸線220を冷却するために導入する冷却ガスを、固定流量の冷却ガス231とこの固定流量の冷却ガス231よりも熱伝導率が低い可変流量の冷却ガス232とに分け、可変流量の冷却ガス232を制御することにより、一定のコーティング厚が得られるようにしたものである。なお、前記冷却筒211内に導入する固定流量冷却ガス231としては熱伝導率が高く安定しているHe(ヘリウムガス。以下同)又はHeと他のガスとの混合ガスが使用され、冷却能力を調整するための可変流量冷却ガス232としてはHeよりも熱伝導率が低いガスが使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3098232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1に記載の技術は、熱伝導率の高い固定流量の冷却ガス231と、熱伝導率の低い可変流量の冷却ガス232とを用いることにより、線速変動に伴い変動する光ファイバ裸線220の入線温度を制御し、一定のコート径が得られるものである。しかし、当該特許文献1記載の冷却装置210の構成では、冷却筒211の上下両端(図13における上下両端)が開放されているため、光ファイバ裸線220の送り移動に伴い光ファイバ裸線220に引きずられるようにして大気が冷却装置210の冷却筒211内部に侵入して冷却ガスのHe濃度を低下させるため、充分な冷却効率を引き出せていなかった。
そのため、紡糸線速が高速化すると、光ファイバ裸線の冷却に必要な冷却ガスの流量の増大により、冷却ガスによるファイバの線ぶれが発生し、コート径偏肉のばらつきが大きくなるという問題があった。また、光ファイバ裸線の線ぶれは光ファイバ裸線の外径測定の測定誤差要因や、光ファイバの強度不良の要因ともなるので、製造安定性上好ましくない。
【0006】
本発明は、前記課題に鑑みて、冷却装置に導入する冷却ガスの紡糸線速の高速化に伴う使用量(流量)の増大を抑えることができ、これにより冷却装置に通されている光ファイバ裸線の線ぶれを防止し、光ファイバ裸線をコートする樹脂のコート径偏肉のばらつきが小さい光ファイバ素線を製造できる光ファイバ素線の製造方法、光ファイバ素線の製造装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では以下の構成を提供する。
第1の発明は、加熱炉にて光ファイバ母材から溶融紡糸した光ファイバ裸線を冷却装置にて冷却し、次いでコーティング装置にて前記光ファイバ裸線に保護被覆層を形成するための液状樹脂材料を塗布し、硬化装置にて前記液状樹脂材料を硬化させて保護被覆層を形成することで光ファイバ素線を得る光ファイバ素線の製造方法であって、前記冷却装置として、前記光ファイバ裸線が上下方向に引き通される光ファイバ挿通孔と、前記光ファイバ裸線の冷却用の冷却ガスを前記光ファイバ挿通孔に導入するための冷却ガス導入ポートとを有する冷却筒を具備し、前記冷却筒の下端側に、前記光ファイバ裸線の通過を許容しかつ前記光ファイバ裸線の周囲をシールして前記冷却ガスの流出を防ぐファイバ出口シール部が設けられ、前記光ファイバ挿通孔内に供給された冷却ガスが前記冷却筒の上部からのみ流出可能であり前記冷却ガスが前記光ファイバ挿通孔内に上昇流を形成するものを採用し、前記冷却装置の前記光ファイバ挿通孔内の冷却ガスの上昇流の流速をVQ(m/min)、製造安定範囲の最大線速をνD(m/min)としたとき、5.5×10−3×νD−2.5×10−1≦Vを満たす冷却ガス流速で光ファイバ裸線を冷却することを特徴とする光ファイバ素線の製造方法を提供する。
第2の発明は、前記冷却ガスを前記冷却装置の前記光ファイバ挿通孔内に該光ファイバ挿通孔内を満たすに充分な流速で流入させた状態にて光ファイバ裸線を製造安定範囲の最大線速で紡糸し、前記光ファイバ裸線を前記保護被覆層の形成安定範囲の温度に冷却するために必要となる冷却長を把握し、この把握した冷却長を確保できる冷却装置を使用し前記光ファイバ挿通孔内の冷却ガスの上昇流に5.5×10−3×νD−2.5×10−1≦VQを満たす流速を確保した状態にて前記光ファイバ裸線を紡糸することを特徴とする第1の発明の光ファイバ素線の製造方法を提供する。
第3の発明は、前記流速VQが100m/min以下であることを特徴とする第1又は第2の光ファイバ素線の製造方法を提供する。
第4の発明は、前記冷却装置は、前記冷却ガス導入ポートが前記光ファイバ挿通孔の下端部に連通され、この冷却ガス導入ポートから前記光ファイバ挿通孔に導入して前記光ファイバ挿通孔内をその下端部から冷却筒の上部に向かって流した前記冷却ガスによって前記光ファイバ挿通孔内の光ファイバ裸線を冷却することを特徴とする第1〜3のいずれかの発明の光ファイバ素線の製造方法を提供する。
第5の発明は、前記冷却筒は、前記光ファイバ挿通孔に導入して前記光ファイバ挿通孔内をその下端部から冷却筒の上部に向かって流した前記冷却ガスが、前記冷却筒の上端部に開口する前記光ファイバ挿通孔の上端開口部のみから流出するように構成されていることを特徴とする第1〜4のいずれかの発明の光ファイバ素線の製造方法を提供する。
第6の発明は、前記ファイバ出口シール部が、前記冷却筒の下側に固定され前記冷却筒を通過した光ファイバ裸線が引き通されるケース部内に前記光ファイバ裸線の通過を許容しかつ前記光ファイバ裸線の周囲をシールして前記冷却ガスの流出を防ぐ液状封止材を収容したものであることを特徴とする第1〜5のいずれかの発明の光ファイバ素線の製造方法を提供する。
第7の発明は、前記液状封止材が保護被覆層を形成するための液状樹脂材料であり、前記ファイバ出口シール部が前記コーティング装置として機能するものであることを特徴とする第6の発明の光ファイバ素線の製造方法を提供する。
第8の発明は、紡糸線速が1000m/min以上であることを特徴とする第1〜7のいずれかの発明の光ファイバ素線の製造方法を提供する。
第9の発明は、光ファイバ母材を溶融して前記光ファイバ母材から光ファイバ裸線を紡糸するための加熱炉と、この加熱炉にて紡糸された光ファイバ裸線を冷却するための冷却装置と、この冷却装置にて冷却後の光ファイバ裸線に保護被覆層を形成するための液状樹脂材料を塗布するコーティング装置と、このコーティング装置にて前記光ファイバ裸線に塗布された液状樹脂材料を硬化させて前記保護被覆層を形成するための硬化装置とを具備し、前記冷却装置として、前記光ファイバ裸線が上下方向に引き通される光ファイバ挿通孔と、前記光ファイバ裸線の冷却用の冷却ガスを前記光ファイバ挿通孔に導入するための冷却ガス導入ポートとを有する冷却筒を具備し、前記冷却筒の下端側に、前記光ファイバ裸線の通過を許容しかつ前記光ファイバ裸線の周囲をシールして前記冷却ガスの流出を防ぐファイバ出口シール部が設けられ、前記光ファイバ挿通孔内に供給された冷却ガスが前記光ファイバ挿通孔の上端部からのみ流出可能であり前記冷却ガスが前記光ファイバ挿通孔内に上昇流を形成するものを採用し、前記冷却装置は、該冷却装置の前記光ファイバ挿通孔内の冷却ガスの流速をVQ(m/min)、製造安定範囲の最大線速をνD(m/min)としたとき、前記光ファイバ挿通孔内に上昇流を形成する前記冷却ガスに5.5×10−3×νD−2.5×10−1≦VQを満たす冷却ガス流速で光ファイバ裸線を冷却することを特徴とする光ファイバ素線の製造装置を提供する。
第10の発明は、前記冷却装置として、該冷却装置内を冷却ガスで満たすに充分な流速で冷却ガスを流入させた状態にて製造安定範囲の最大線速で紡糸するときに必要となる冷却長を確保したものを用いることを特徴とする第9の発明の光ファイバ素線の製造装置を提供する。
第11の発明は、前記流速VQが100m/min以下であることを特徴とする第9又は10の発明の光ファイバ素線の製造装置を提供する。
第12の発明は、前記冷却装置は、前記冷却ガス導入ポートが前記光ファイバ挿通孔の下端部に連通され、この冷却ガス導入ポートから前記光ファイバ挿通孔に導入して前記光ファイバ挿通孔内をその下端部から冷却筒の上部に向かって流した前記冷却ガスによって前記光ファイバ挿通孔内の光ファイバ裸線を冷却することを特徴とする第9〜11のいずれかの発明の光ファイバ素線の製造装置を提供する。
第13の発明は、前記冷却筒は、前記光ファイバ挿通孔に導入して前記光ファイバ挿通孔内をその下端部から冷却筒の上部に向かって流した前記冷却ガスが、前記冷却筒の上端部に開口する前記光ファイバ挿通孔の上端開口部のみから流出するように構成されていることを特徴とする第9〜12のいずれかの発明の光ファイバ素線の製造装置を提供する。
第14の発明は、前記ファイバ出口シール部が、前記冷却筒の下側に固定され前記冷却筒を通過した光ファイバ裸線が引き通されるケース部内に前記光ファイバ裸線の通過を許容しかつ前記光ファイバ裸線の周囲をシールして前記冷却ガスの流出を防ぐ液状封止材を収容したものであることを特徴とする第9〜13のいずれかの発明の光ファイバ素線の製造装置を提供する。
第15の発明は、前記液状封止材が保護被覆層を形成するための液状樹脂材料であり、前記ファイバ出口シール部が前記コーティング装置として機能するものであることを特徴とする第14の発明の光ファイバ素線の製造装置を提供する。
第16の発明は、1000m/min以上の紡糸線速にて使用されることを特徴とする第9〜15のいずれかの発明の光ファイバ素線の製造装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、冷却装置として、該冷却装置の冷却筒を上下に貫通する光ファイバ挿通孔の下端側に、前記光ファイバ裸線の通過を許容しかつ前記光ファイバ裸線の周囲をシールして前記冷却ガスの流出を防ぐファイバ出口シール部が設けられ、光ファイバ挿通孔内に導入した冷却ガスが光ファイバ挿通孔内に上昇流を形成し、光ファイバ挿通孔の上端部からのみ流出可能となっているものを採用する。これにより、光ファイバ母材から線引きされた光ファイバ裸線の送り移動に伴う光ファイバ挿通孔上端部(上端開口部)から光ファイバ挿通孔内への外気の流入を防止できるため、光ファイバ挿通孔内の冷却ガス濃度を高濃度に保つことができ、優れた冷却効率を確保できる。その結果、紡糸線速の高速化に伴う冷却ガスの使用量(流量)の増大を抑えることができ、これにより冷却装置に通されている光ファイバ裸線の線ぶれを防止でき、光ファイバ裸線をコートする樹脂のコート径偏肉のばらつきが小さい光ファイバ素線を製造できる。
【0009】
また、本発明では、前記光ファイバ挿通孔内に5.5×10−3×νD−2.5×10−1≦VQ(VQ:冷却装置の光ファイバ挿通孔内に冷却ガスが形成する上昇流の流速(m/min)、νD:製造安定範囲の最大線速(m/min))を満たす流速で前記光ファイバ挿通孔内を上昇する冷却ガスの上昇流を形成する。冷却装置内に冷却ガスが形成する上昇流の流速VQが、5.5×10−3×νD−2.5×10−1≦VQを満たす構成であれば、冷却ガスの上昇流の流速が低すぎる場合に光ファイバ母材に起因するファイバ径変動や外乱の影響で光ファイバ裸線をコートする樹脂(保護被覆層を形成する樹脂)のコート径偏肉のばらつきが大きくなる、といった不都合を防止することができ、前記コート径偏肉のばらつきが小さい光ファイバ素線を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る光ファイバ素線の製造装置を示す全体図である。
【図2】図1の光ファイバ素線の製造装置の冷却装置の構造を示す断面図である。
【図3】図2に示す冷却装置を用いた場合の光ファイバ裸線の線速と冷却装置に必要となる冷却長Lとの関係を確認した結果を示すグラフである。
【図4】冷却装置内の冷却ガスの上昇流の流速が下限使用流速であるときの冷却装置の保冷温度依存性について測定した結果を示す図である。
【図5】光ファイバ裸線の線速(最大線速)に応じて冷却ガス流速(光ファイバ挿通孔内の冷却ガス(具体的にはヘリウムガス)の上昇流の流速)を設定したときの光ファイバ素線の保護被覆層の偏肉の測定結果を示すグラフであって、線速が1000m/min、1300m/min、1700m/min、2100m/min、2400m/minの場合の冷却ガス流速と偏肉との関係を示す。
【図6】光ファイバ裸線の線速(最大線速)に応じて冷却ガス流速(光ファイバ挿通孔内の冷却ガス(具体的にはヘリウムガス)の上昇流の流速)を設定したときの光ファイバ素線の保護被覆層の偏肉の測定結果を示すグラフであって、線速が2700m/min、の場合の冷却ガス流速と偏肉との関係を示す。
【図7】光ファイバ裸線の線速に対する冷却ガス流速(光ファイバ挿通孔内の冷却ガス(具体的にはヘリウムガス)の上昇流の流速)の設定例を示す図であって、実施例1〜3、比較例1〜3の設定例を示すグラフである。
【図8】光ファイバ裸線の線速に対する冷却ガス流速(光ファイバ挿通孔内の冷却ガス(具体的にはヘリウムガス)の上昇流の流速)の設定例を示す図であって、実施例4〜6の設定例を示すグラフである。
【図9】図7、図8に示すように光ファイバ裸線の線速に応じて冷却ガス流速(光ファイバ挿通孔内の冷却ガス(具体的にはヘリウムガス)の上昇流の流速)を設定したときの光ファイバ素線の保護被覆層の偏肉の測定結果を示すグラフである。
【図10】本発明に係る別態様を示す図であって、冷却筒の下側に、コーティング装置として機能するファイバ出口シール部を設けてなる冷却・コーティングユニットの構成を示す断面図である。
【図11】本発明に係る冷却装置の別態様を説明する図であって、(a)はファイバ出口シール部として、スリット付きフィルムを用いて構成されたフィルム接触シール部を適用した冷却装置を示す断面図、(b)はフィルム接触シール部の構成を示す平面図である。
【図12】従来例の光ファイバ素線の製造装置を示す全体図である。
【図13】図12の光ファイバ素線の製造装置の冷却筒の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施した光ファイバ素線の製造方法、光ファイバ素線の製造装置の1実施形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
図1は本発明に係る光ファイバ素線の製造装置1(以下、単に、製造装置とも言う)を示す全体図である。
図1に示すように、この製造装置1は、光ファイバ母材2を溶融して前記光ファイバ母材2から光ファイバ裸線3を紡糸するための加熱炉4と、この加熱炉4にて紡糸された光ファイバ裸線3を冷却するための冷却装置5と、この冷却装置5にて冷却された前記光ファイバ裸線3に保護被覆層を形成するための液状樹脂材料を塗布(コーティング)するコーティング装置6と、前記コーティング装置6にて前記光ファイバ裸線3に塗布された液状樹脂材料を硬化させて前記保護被覆層を形成するための硬化装置7と、この硬化装置7での前記保護被覆層の形成(液状樹脂材料の硬化)によって得られた光ファイバ素線8を巻き取る巻き取り機9とを具備して構成されている。
【0013】
図2は、冷却装置5の構造を示す断面図である。なお、図2において、上側を上、下側を下として説明する。
図2に示すように、前記冷却装置5は、前記加熱炉4にて光ファイバ母材2から線引きされた光ファイバ裸線3が引き通される光ファイバ挿通孔51が貫設された冷却筒52と、この冷却筒52の下端側に設けられたファイバ出口シール部53とを具備し、前記光ファイバ挿通孔51の軸心が上下方向となる向きで設置されている。光ファイバ裸線3は、冷却筒52の光ファイバ挿通孔51に上下に引き通される。
【0014】
前記冷却筒52には、光ファイバ挿通孔51に通された光ファイバ裸線3の冷却用の冷却ガスGを前記光ファイバ挿通孔51に導入するための冷却ガス導入ポート54が設けられている。この冷却ガス導入ポート54は、冷却筒52の外周壁52aに形成されたガス導入孔52bを介して前記光ファイバ挿通孔51の下端部(詳細には、光ファイバ挿通孔51の主孔部51a(後述)の下端部)に連通されている。
また、冷却筒52の外周壁52aの内部には図示しない冷媒通路が形成されている。冷却筒52には前記冷媒通路通路に冷媒を送入するための冷媒入口551と、冷媒通路内の冷媒の排水用の冷媒出口552とが設けられており、この冷却装置5は、冷媒通路に通水した冷媒によって、光ファイバ挿通孔51内の冷却ガスを冷却できるようになっている。
なお、冷却ガス導入ポート54、冷媒入口551、冷媒出口552は、冷却筒52の外周壁52aから外側(外周壁52aを介して光ファイバ挿通孔51とは反対側)に突設されている。
【0015】
冷却筒52は、その上端部に、光ファイバ裸線3外径に比べて若干大きい内径のファイバ通過孔511が形成された天板部56を有し、下端部に、光ファイバ裸線3外径に比べて若干大きい内径のファイバ通過孔512が形成された底板部57を有している。前記天板部56及び前記底板部57は、冷却筒52の外周壁52aの上下方向の端部の内側に設けられている。
なお、冷却ガス導入ポート54から導入された冷却ガスGを光ファイバ挿通孔51に導くガス導入孔52bは底板部57よりも上側にて光ファイバ挿通孔51と連通している。
【0016】
天板部56及び底板部57のファイバ通過孔511、512は光ファイバ挿通孔51の一部である。
光ファイバ挿通孔51は、冷却筒52の内側において天板部56及び底板部57の間に位置する部分である主孔部51aと、この主孔部51aに比べて断面積(冷却筒52(詳細には外周壁52a)の軸心に垂直の断面積)が小さいファイバ通過孔511、512とからなる。
天板部56のファイバ通過孔511と底板部57のファイバ通過孔512とは冷却筒52(詳細には外周壁52a)の軸心に沿う1直線上に位置している。光ファイバ裸線3は、主孔部51aと上下のファイバ通過孔511、512とに通して光ファイバ挿通孔51に引き通される。
【0017】
ファイバ出口シール部53は、前記光ファイバ裸線3の通過を許容しかつ前記光ファイバ裸線3の周囲をシールして光ファイバ挿通孔51内に導入された冷却ガスGの冷却装置5下端からの流出を防ぐものである。
図2に例示した冷却装置5において、前記ファイバ出口シール部53は、具体的には、前記冷却筒52の底板部57に固定された天板部531の下側にすり鉢状の貯液部532が設けられてなる容器状のケース部530内(内側空間53S)に液状封止材534を収容しており、前記天板部531の中央部に貫設されたファイバ入口孔533を介してケース部530内に前記冷却筒52から引き込まれた光ファイバ裸線3が、前記内側空間53S内の液状封止材534中を通過して、前記貯液部532の底部に貫設されたファイバ出口孔535から引き出されるようになっている。
このファイバ出口シール部53は、前記ファイバ入口孔533を冷却筒52の底板部57のファイバ通過孔512と連通させて設けられている。また、ファイバ出口シール部53と冷却筒52との間は気密性が確保されており、外気が流入しないようになっている。
【0018】
前記液状封止材534としては、光ファイバ裸線3に対する付着性が低く、紡糸に伴う光ファイバ裸線3の移動に追従しにくく、光ファイバ裸線3の移動(通過)時にその表面張力によってファイバ出口孔535から漏出せず、しかも、図2に示すように、光ファイバ裸線3の通過により、その液面がその外周から光ファイバ裸線3側に行くにしたがって下方となるように湾曲し全体としてすり鉢状に窪んだ形状(以下、メニスカス形状とも言う)となるものが採用される。液状封止材534は、ファイバ出口孔535からの冷却ガスGの漏出、ファイバ出口孔535からファイバ出口シール部53の内部、光ファイバ挿通孔51への外気の流入を阻止するために、ファイバ出口孔535を気密にシールする機能を果たす。ファイバ出口シール部53に引き通された光ファイバ裸線3は、液状封止材534中に通された部分の周囲が液状封止材534によって気密にシールされる。以下、このファイバ出口シール部53をメニスカスシール部とも言う。
【0019】
上述のような液状封止材534としては、例えば、ホットメルト接着剤等の液状の高分子材料を好適に用いることができる。また、液状封止材534としては、例えば、シリコーン樹脂等のゲル状材料であっても良い。
なお、ファイバ出口孔535は、光ファイバ裸線3の通過に伴う液状封止材534の漏出を生じにくくするために、光ファイバ裸線3の径に比べて僅かに大きい内径に形成される。
【0020】
ファイバ出口シール部53はファイバ入口孔534を除く全体に気密性が確保された構成であり、冷却筒52の下端からの冷却ガスGの流出を防ぐ機能を果たす。冷却装置5は、冷却ガス導入ポート54から光ファイバ挿通孔51に導入された冷却ガスGが冷却筒52の上端(光ファイバ挿通孔51の上端開口部。図示例では符号511のファイバ通過孔)のみから流出可能になっている。このため、冷却ガス導入ポート54から光ファイバ挿通孔51に導入された冷却ガスGは、光ファイバ挿通孔51の下端部から上端部に向かう上昇流を形成する。ファイバ出口シール部53によって、冷却装置5下端からの冷却ガスGの流出、冷却装置5下端から光ファイバ挿通孔51内への外気の流入が阻止されるため、光ファイバ挿通孔51に導入した冷却ガスは全て光ファイバ裸線3の冷却に寄与する。
また、冷却装置5について、光ファイバ挿通孔51における冷却ガス導入ポート54からの冷却ガスGの導入位置(ガス導入孔52bとの連通箇所)から光ファイバ挿通孔51の上端開口部までの距離を、以下、冷却長Lとも言う。
【0021】
この製造装置1を用いた光ファイバ素線9の製造(光ファイバ素線の製造方法)は、加熱炉4(図1参照)にて光ファイバ母材2から溶融紡糸した光ファイバ裸線3を冷却装置5にて冷却し、次いでコーティング装置6にて前記光ファイバ裸線3に保護被覆層を形成するための液状樹脂材料を塗布し、硬化装置7にて前記液状樹脂材料を硬化させて保護被覆層を形成することで光ファイバ素線8を得る。得られた光ファイバ素線8は巻き取り機9にて巻き取る。
硬化装置7は、コーティング装置6にて光ファイバ裸線3に塗布した液状樹脂材料の硬化条件に対応して液状樹脂材料を硬化させるための機構(硬化機構)を具備するものである。前記硬化機構としては、例えば、液状樹脂材料がエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂である場合は液状樹脂材料を加熱硬化するための加熱装置、液状樹脂材料が紫外線硬化性樹脂である場合は液状樹脂材料を紫外線照射によって硬化するための紫外線照射装置が採用される。
【0022】
ここで、冷却装置5(図2参照)にあっては、冷却ガス導入ポート54から光ファイバ挿通孔51に冷却ガスGを継続的に流入させて光ファイバ裸線3を冷却する。また、冷媒通路に冷媒を通して、光ファイバ挿通孔51内の冷却ガスGの昇温を抑える。
【0023】
図2に示すように、前記冷却装置5は、冷却ガス導入ポート54から光ファイバ挿通孔51に導入された冷却ガスGが光ファイバ挿通孔51内に上昇流を形成して冷却筒52の上端(光ファイバ挿通孔51の上端部)のみから流出する構成であるため、ファイバ挿通孔51の上端部から流出する冷却ガスの上昇流によって、光ファイバ母材2から線引き(紡糸)された光ファイバ裸線3の送り移動に伴う光ファイバ挿通孔51上端部(上端開口部)から光ファイバ挿通孔51内への外気の流入を防止できる。その結果、光ファイバ挿通孔51内の冷却ガス濃度を高濃度に保つことができ、優れた冷却効率を安定に確保できる。また、紡糸線速の高速化に伴う冷却ガスの使用量(流量)の増大を抑えることができるため、これにより冷却装置5に通されている光ファイバ裸線3の線ぶれを防止でき、光ファイバ裸線3をコートする樹脂(保護被覆層)のコート径偏肉のばらつきが小さい光ファイバ素線8を製造できる。
【0024】
なお、本発明に冷却装置の冷却筒としては、冷却筒52(光ファイバ挿通孔51)内に導入された冷却ガスGを冷却筒52の上部から流出させる冷却ガス流出孔が、冷却筒52の上端部のファイバ通過孔511のみである構成に限定されず、ファイバ通過孔511以外の孔(冷却ガス流出孔)を具備する構成も採用可能である。但し、光ファイバ裸線3の送り移動に伴う光ファイバ挿通孔51内への外気の流入を阻止する点で、ファイバ通過孔511からの冷却ガスの流出が生じる(ファイバ通過孔511が冷却ガス流出孔として機能する)ことは必須である。
【0025】
ところで、冷却装置4としては、製造装置1における光ファイバ素線8の製造時に想定される最大線速に対応して、コーティング装置6での光ファイバ裸線3への液状樹脂材料の塗布安定性(塗布によって光ファイバ裸線をコートする液状樹脂材料に所望の断面外形が安定に得られること)の確保に必要な冷却長Lを確保できるものを採用する。
ここで、製造装置1における光ファイバ素線8の製造時に想定される最大線速は、光ファイバ裸線3の光ファイバ母材2からの線引き、硬化装置7による液状樹脂材料の硬化及び光ファイバ裸線3に対する定着を安定に行える範囲の線速の上限値を指す。この線速の上限値を、以下、製造安定範囲の最大線速とも言う。
【0026】
次に、光ファイバ裸線3の冷却に必要とされる冷却装置5の冷却長Lの見積もり方法の一例を示す。
必要な冷却装置5の冷却長Lは、冷却装置の構造(内径や、内壁表面の形状)によって変化するが、ここで説明する冷却長Lの見積もり方法は、冷却可能な最大線速まで適用可能であり、冷却装置5の構造には依存しない。
【0027】
はじめに、製造装置1において任意の冷却長Lの冷却装置5を使用し、この冷却装置5の光ファイバ挿通孔51内に冷却ガスG(ここではヘリウムガス)を光ファイバ挿通孔51内全体を満たすに充分な流速(例えば130m/min)で流しておき、この状態で製造時に想定する最大線速(製造安定範囲の最大線速)に応じた冷却長を求めておく(把握しておく)。
製造安定範囲の最大線速に応じた冷却長の把握は、例えば、図2に示す構造の冷却筒52であって冷却長が互いに異なるものを複数用意し、冷却筒52とファイバ出口シール部53とを用いて組み立てた冷却装置を使用して光ファイバ裸線3の紡糸、光ファイバ素線の試験製造を行い、冷却装置5とコーティング装置6との間に設置した温度計によって冷却装置5を通過した光ファイバ裸線3の温度を計測し、冷却筒52を選択使用することで前記温度計による計測温度をコーティング装置における液状樹脂材料の塗布安定性を確保できる温度とすることができる冷却長を持つ冷却装置を選定する方法、後述する図3のグラフを利用して必要な冷却長を求める方法、等により行うことができる。
【0028】
なお、光ファイバ挿通孔51の前記冷却長Lに相当する部分は冷却装置5の内部構造によりその長手方向(冷却筒52の軸心方向。冷却長Lに沿う方向)において部分的に断面積(光ファイバ挿通孔51の軸心に垂直の断面積)が部分的に不揃いになっている箇所が存在する場合があるが、ここで示す流速は光ファイバ挿通孔51内における代表的流速、例えば光ファイバ挿通孔51の両端のファイバ通過孔511、512を結ぶ直線(冷却筒52に引き通した光ファイバ裸線3に重なる直線)の近傍を流れる冷却ガスGの流速を指す。以下、流速は、光ファイバ挿通孔51内を流れる冷却ガスGの代表的流速を意味するものとして使用する。
【0029】
ここで、図2に示す冷却装置を用いた場合の光ファイバ裸線3の線速と冷却装置5に必要となる冷却長Lとの関係を確認した結果を図3に示す。
この結果は、図2に示す構造の冷却筒52であって冷却長が互いに異なるものを複数用意し、各線速において冷却装置5の冷却長Lを変更して、冷却装置通過後の光ファイバ裸線の温度を放射温度計によって計測し、光ファイバ裸線の温度がコーティング装置における液状樹脂材料の塗布安定性を確保できる温度となったときの冷却長をプロットしたものである。なお、冷却長が互いに異なる冷却筒52に対してファイバ出口シール部53は変更せず共通のものを使用した。また、冷却ガスとしてヘリウムガスを用い、光ファイバ挿通孔51内全体を満たすに充分な流速(例えば130m/min)で流して、前記冷却長をプロットした。
【0030】
この図3に示した光ファイバ裸線3の線速と冷却装置5の冷却長Lとの関係から、製造時に想定する最大線速(製造安定範囲の最大線速)に応じた冷却長を求めることができる。そして、この冷却長を具備する冷却装置を用いた製造装置1にて光ファイバ裸線3を製造時に想定する最大線速で紡糸して冷却装置を通過した光ファイバ裸線3の温度を計測し、この計測温度がコーティング装置における液状樹脂材料の塗布安定性を確保できる温度範囲(保護被覆層の形成安定範囲の温度)となることを確認する。これにより、製造安定範囲の最大線速に応じた冷却長の把握を行える。
図3は、冷却装置内を流れる冷却ガスの代表的流速を用いて、線速との関係を明らかにしたものであるため、この図3を利用した冷却長の把握は、冷却装置の構造には依存しない。したがって、冷却装置内に流す冷却ガスの流速(代表的流速)に応じて、図3に示したような光ファイバ裸線3の線速と冷却装置5の冷却長Lとの関係を用いることで、製造安定範囲の最大線速に応じた冷却長の把握を行える。
但し、光ファイバ裸線3の線速と冷却装置5の冷却長Lとの関係は、冷媒通路への冷媒の導入による冷却装置の保冷温度に依存するので、光ファイバ裸線3の線速と冷却装置5の冷却長Lとの関係に基づいて行う製造安定範囲の最大線速に応じた冷却長の把握は、より詳しくは、冷却装置内に流す冷却ガスの流速(代表的流速)と冷却装置の保冷温度とに応じた光ファイバ裸線3の線速と冷却装置5の冷却長Lとの関係に基づいて行う。
【0031】
ところで、図3に示した光ファイバ裸線3の線速と冷却装置5の冷却長Lとの関係から、冷却装置5の光ファイバ挿通孔51(ここでは光ファイバ挿通孔51の内、特に、冷却長に相当する部分を指す)内への冷却ガスの導入によって形成する上昇流の流速としては、冷却装置5の光ファイバ挿通孔51を満たすに必要な下限使用流速が存在することが判明した。さらに、本発明者は、前記下限使用流速では、光ファイバ挿通孔51内への冷却ガスの導入に起因する線ぶれは発生しないが、光ファイバ母材に起因するファイバ径変動や外乱の影響を受けやすくなるため、偏肉のばらつきが大きくなることを見出した。
そこでさらに検討を進めた結果、光ファイバ裸線の線速(製造安定範囲の最大線速)をνD(m/min)としたとき、光ファイバ挿通孔内の冷却ガスの上昇流の流速VQ(m/min)が5.5×10−3×νD−2.5×10−1≦VQ(式1)を満たすようにすることで、偏肉のばらつきが小さくなることを見出した。
上記式1は、後述の実施例1の流速と線速の測定結果から最小二乗法によって算出した近似式である。冷却装置に使用する冷却ガスの流速は遅いほど冷却ガスを無駄にすることがないので、冷却ガスの流速は上記式1に基づいて可能な限り遅くすることが望ましい。
【0032】
図4は、この下限使用流速での冷却装置の保冷温度依存性について測定した結果を示す。図4から判るように、冷却装置の保冷温度を変化させても下限使用流速は殆ど変化することがない、このため、実用的な冷却装置保冷温度が−20℃〜30℃(冷却装置における光ファイバ挿通孔51の主孔部51a内面の温度)の範囲において下限使用流速は上記式1で規定できる。
なお、冷媒としては特に限定は無いが、保冷温度を0℃よりも高い温度とする場合は水等、0℃以下とする場合は例えばフッ素化炭化水素等のフッ素化合物、炭酸ガス、炭化水素、アンモニア等を用いることができる。
【0033】
また、前記冷却ガスの上昇流の流速VQ(m/min)は、VQ≦100を満たすようにする。流速VQが100(m/min)以下であれば、冷却ガスの流れによる光ファイバ裸線の線ぶれが生じることは無い。また、この範囲の流速であれば、図3に示したような光ファイバ裸線3の線速と冷却装置5の冷却長Lとの関係を確実に得ることができる。
【0034】
図5、図6は、光ファイバ裸線の線速(最大線速)に応じて冷却ガス流速(光ファイバ挿通孔内の冷却ガス(具体的にはヘリウムガス)の上昇流の流速。以下同)を設定したときの光ファイバ素線の保護被覆層の偏肉の測定結果を示す。
図5、図6において「最大線速」は、1000m/min、1300m/min、1700m/min、2100m/min、2400m/min、2700m/minの6通りである。図5,図6の測定結果は、冷却装置として、各最大線速に対応して、光ファイバ裸線を、コーティング装置における液状樹脂材料の塗布安定性を確保できる温度範囲(保護被覆層の形成安定範囲の温度)に冷却できる冷却長を持つものを採用している。換言すれば、図5、図6の各プロットは、冷却装置の冷却長に対応して、光ファイバ裸線をコーティング装置における液状樹脂材料の塗布安定性を確保できる温度範囲に冷却できる最大線速(製造安定範囲の最大線速)にて紡糸した結果を示している。
【0035】
図7、図8は、図5、図6の結果から、各線速(最大線速)に応じて偏肉の傾向が一致する流速が存在することに着目して、光ファイバ裸線の線速(最大線速)と冷却ガス流速との関係を纏めたものである。但し、図7、図8においては、光ファイバ裸線の線速(最大線速)を図7、図8に示す6通りよりも多く設定してその測定結果をプロットしている。
また、図9は、図5、図6の結果に基づいて各線速(最大線速)と偏肉との関係を纏めたものである。
【0036】
なお、図7及び図9に示す実施例1〜3、比較例1〜3における光ファイバ裸線の線速、Heガス流速の設定は後述の「検証試験」にて説明する実施例1〜3、比較例1〜3の光ファイバ裸線の線速、Heガス流速の設定に対応し、図8及び図9に示す実施例4〜6の光ファイバ裸線の線速、Heガス流速の設定は後述の「検証試験」にて説明する実施例4〜6の光ファイバ裸線の線速、Heガス流速の設定に対応する。「検証試験」にて実施例1〜6、比較例1〜3について説明している光ファイバ裸線線速に対するHeガス流速の設定の具体例は、図5、図6に示すように、各線速(最大線速)に応じて偏肉の傾向が一致する箇所における、各線速(最大線速)とこれに対応するHeガス流速とを指す。
【0037】
図9に示すように、既述の式1を満たしていない比較例1〜3については偏肉のばらつきが大きくなっているが、式1を満たす実施例1〜6については偏肉のばらつきが比較例1〜3に比べて小さくなっていることが判る。
【0038】
(検証試験)
以下、本発明について行った検証試験の実施例1〜6、比較例1〜3を説明する。
なお、以下の実施例1〜6、比較例1〜3の説明中、「線速」は「製造安定範囲の最大線速」を指す。
(実施例1)
光ファイバ素線の線引き工程において、線速を1000m/min、1300m/min、1700m/min、2100m/min、2400m/min、2700m/minの6通りとして線引きを行った。製造装置として、図1に例示したもの、すなわち図2に例示したメニスカスシール部53を具備する構成の冷却装置5を採用したものを用い、この冷却装置5に冷却ガスとしてHeガスを導入した。
Heガス流速は、光ファイバ裸線の線速(以下、単に線速とも言う)が1000m/minのとき5.27m/min、線速が1300m/minのとき6.92m/min、線速が1700m/minのとき9.3m/min、線速が2100m/minのとき11.5m/min、線速が2400m/minのとき12.97m/min、線速が2700m/minのとき14.8m/minとした。
この条件で各線速につきそれぞれ50本の線引きを行い、偏肉を測定した結果、偏肉のばらつきの標準偏差は1.1±0.05(図9参照)であった。
上記線速において既述の式1から算出されるHeガス流速は、線速が1000m/minのとき5.25m/min、線速が1300m/minのとき6.9m/min、線速が1700m/minのとき9.1m/min、線速が2100m/minのとき11.3m/min、線速が2400m/minのとき12.95m/min、線速が2700m/minのとき14.6m/minであり、上記式1の条件を満たしていた。また、本条件では光ファイバ裸線の線ぶれも生じなかった。
【0039】
(実施例2)
光ファイバ裸線線速に対するHeガス流速の設定以外は実施例1と同じにして線引き工程を行った。
Heガス流速は、線速が1000m/minのとき6.50m/min、線速が1300m/minのとき8.15m/min、線速が1700m/minのとき10.3m/min、線速が2100m/minのとき12.5m/min、線速が2400m/minのとき14.11m/min、線速が2700m/minのとき15.8m/minとした。
この条件で50本の線引きを行い、偏肉を測定した結果、偏肉のばらつきの標準偏差は1.08±0.045(図9参照)であった。Heガス流速は上記式1の条件を満たしていた。また、本条件では光ファイバ裸線の線ぶれも生じなかった。
【0040】
(実施例3)
光ファイバ裸線線速に対するHeガス流速の設定以外は実施例1と同じにして線引き工程を行った。
Heガス流速は、線速が1000m/minのとき7.77m/min、線速が1300m/minのとき9.42m/min、線速が1700m/minのとき11.6m/min、線速が2100m/minのとき13.8m/min、線速が2400m/minのとき15.4m/min、線速が2700m/minのとき17.1m/minとした。
この条件で50本の線引きを行い、偏肉を測定した結果、偏肉のばらつきの標準偏差は1.07±0.045(図9参照)であった。Heガス流速は上記式1の条件を満たしていた。また、本条件では光ファイバ裸線の線ぶれも生じなかった。
【0041】
(実施例4)
光ファイバ裸線線速に対するHeガス流速の設定以外は実施例1と同じにして線引き工程を行った。
1000m/minから2700m/minまでの線速の変化に対して、Heガス流速は20m/minで一定とした。
この条件で50本の線引きを行い、偏肉を測定した結果、偏肉のばらつきの標準偏差は1.07±0.045(図9参照)であった。Heガス流速は上記式1の条件を満たしていた。また、本条件では光ファイバ裸線の線ぶれも生じなかった。
【0042】
(実施例5)
光ファイバ裸線線速に対するHeガス流速の設定以外は実施例1と同じにして線引き工程を行った。
1000m/minから2700m/minまでの線速の変化に対して、Heガス流速は40m/minで一定とした。
この条件で50本の線引きを行い、偏肉を測定した結果、偏肉のばらつきの標準偏差は1.07±0.045(図9参照)であった。Heガス流速は上記式1の条件を満たしていた。また、本条件では光ファイバ裸線の線ぶれも生じなかった。
【0043】
(実施例6)
光ファイバ裸線線速に対するHeガス流速の設定以外は実施例1と同じにして線引き工程を行った。
1000m/minから2700m/minまでの線速の変化に対して、Heガス流速は70m/minで一定とした。
この条件で50本の線引きを行い、偏肉を測定した結果、偏肉のばらつきの標準偏差は1.07±0.045(図9参照)であった。Heガス流速は上記式1の条件を満たしていた。また、本条件では光ファイバ裸線の線ぶれも生じなかった。
【0044】
(比較例1)
光ファイバ裸線線速に対するHeガス流速の設定以外は実施例1と同じにして線引き工程を行った。
Heガス流速は、線速が1000m/minのとき2.55m/min、線速が1300m/minのとき4.27m/min、線速が1700m/minのとき6.46m/min、線速が2100m/minのとき8.66m/min、線速が2400m/minのとき10.30m/min、線速が2700m/minのとき11.95m/minとした。
この条件で50本の線引きを行い、偏肉を測定した結果、偏肉のばらつきの標準偏差は1.25±0.15(図9参照)となりばらつきが大きい結果となった。Heガス流速は上記式1の条件を満たしていなかった。また、本条件では光ファイバ裸線の線ぶれは生じなかった。
【0045】
(比較例2)
光ファイバ裸線線速に対するHeガス流速の設定以外は実施例1と同じにして線引き工程を行った。
Heガス流速は、線速が1000m/minのとき2.55m/min、線速が1300m/minのとき4.27m/min、線速が1700m/minのとき6.46m/min、線速が2100m/minのとき8.66m/min、線速が2400m/minのとき10.30m/min、線速が2700m/minのとき11.95m/minとした。
この条件で50本の線引きを行い、偏肉を測定した結果、偏肉のばらつきの標準偏差は1.25±0.15(図9参照)となりばらつきが大きい結果となった。Heガス流速は上記式1の条件を満たしていなかった。また、本条件では光ファイバ裸線の線ぶれは生じなかった。
【0046】
(比較例3)
光ファイバ裸線線速に対するHeガス流速の設定以外は実施例1と同じにして線引き工程を行った。
Heガス流速は、線速が1000m/minのとき3.82m/min、線速が1300m/minのとき5.54m/min、線速が1700m/minのとき7.73m/min、線速が2100m/minのとき9.93m/min、線速が2400m/minのとき11.58m/min、線速が2700m/minのとき13.22m/minとした。
この条件で50本の線引きを行い、偏肉を測定した結果、偏肉のばらつきの標準偏差は1.15±0.10(図9参照)であった。Heガス流速は上記式1の条件を満たしていなかった。また、本条件では光ファイバ裸線の線ぶれは生じなかった。
【0047】
(別実施形態1)
本発明は、図1に例示したように、コーティング装置6が冷却装置5から離隔させて設けられた構成の製造装置1を用いる構成に限定されず、例えば図10に示すように、冷却筒52の下側にコーティング装置として機能するメニスカスシール部53Aを設けた構成も含む。この場合、冷却装置は、光ファイバ裸線の冷却と冷却後の光ファイバ裸線への液状樹脂材料の塗布とを行えるものとなっている。以下、この実施形態に係る冷却装置を冷却・コーティングユニット50とも言う。
【0048】
前記冷却・コーティングユニット50のメニスカスシール部53Aにて使用する液状封止材は、既述の図2に例示した冷却装置5のメニスカスシール部53の液状封止材とは異なり、光ファイバ素線の保護被覆層を形成するための液状樹脂材料58を用いる。
また、前記メニスカスシール部53Aは、既述の図2に例示した冷却装置5のメニスカスシール部53のケース部10内側にその外側から液状封止材(液状樹脂材料58)を供給するための液供給ポート59を設けた構成のケース部530Aを具備し、貯液部532を光ファイバ裸線3の周囲に液状樹脂材料58を所望の厚さでコートするためのダイス部として機能させる構成とした点で、既述の図2に例示した冷却装置5のメニスカスシール部53と異なる。但し、貯液部532底部のファイバ出口孔535aは、光ファイバ裸線3に液状樹脂材料58を所望のコート厚でコートするべく、その軸心方向に垂直の断面外形が光ファイバ裸線3の外径に比べて僅かに大きく形成され、光ファイバ裸線3の送り移動によって、光ファイバ裸線3に液状樹脂材料58が所望のコート厚を以てコートされている樹脂材料コート済みファイバが引き出されるようになっている。
【0049】
液状樹脂材料58としては、光ファイバ裸線3に対する付着性が良好で、しかも、図10に示すように光ファイバ裸線3の通過によりメニスカス形状の液面を形成するものが採用される。この液状樹脂材料58は、紡糸に伴う光ファイバ裸線3の移動に追従して、所望のコート厚を確保して光ファイバ裸線3にコートされた状態でファイバ出口孔535から引き出されていく。
【0050】
この実施形態の製造装置は、冷却・コーティングユニット50を通過した光ファイバ裸線3を硬化装置7に引き込まれて、光ファイバ裸線3にコートされた液状樹脂材料58の硬化がなされるように構成される。冷却・コーティングユニット50と前記硬化装置7との間には、別途、コーティング装置を介在設置する必要が無い。
【0051】
(別実施形態2)
本発明に係る冷却装置5に設けられるファイバ出口シール部としては、光ファイバ裸線の通過を許容しかつ前記光ファイバ裸線の周囲をシールして冷却筒52下端からの冷却ガスの流出を防ぐ構成のものであれば良く、メニスカスシール部に限定されない。
例えば、図11(a)、(b)に示すように、可撓性の樹脂フィルム536を複数用い、これら樹脂フィルム536を光ファイバ裸線に接触させることで光ファイバ裸線の周囲をシールして、光ファイバ裸線の通過を許容しかつ冷却筒52下端からの冷却ガスの流出を防ぐように構成したファイバ出口シール部53Bも採用可能である。このファイバ出口シール部53Bを、以下、フィルム接触シール部とも言う。
【0052】
図11(a)、(b)に例示したフィルム接触シール部53Bは、一対のリング状固定部材537、538の間に、互いに重ね合わせた複数枚(図示例では2枚)の樹脂フィルム536を挟み込んだ構成になっている。なお、説明の便宜上、図11(a)、(b)において、2枚の樹脂フィルム536の内、上側(図11(a)において上側)の樹脂フィルム536に符号536A、下側(図11(a)において下側)の樹脂フィルム536に符号536Bを付している。
【0053】
図11(b)は、フィルム接触シール部53Bの構成を示す平面図(上側のリング状固定部材537側から見た図)である。但し、図11(b)は、複数の樹脂フィルム536A、536Bに光ファイバ裸線を通していない状態を示す。
図11(a)に示すように、一対のリング状固定部材537、538は、冷却筒52の下側にて、それぞれの内側空間の軸心を冷却筒52下端のファイバ通過孔512の軸心に一致させて上下に重ねるようにして設けられている。図11(b)に示すように、樹脂フィルム536A、536Bは円形に形成されており、その外周部が一対のリング状固定部材537、538の間に挟持されている。
【0054】
また、複数枚の樹脂フィルム536A、536Bには、それぞれ、一対のリング状固定部材537、538の軸心に重なる中心点536aから放射状に延在するスリット536bが複数形成されている。但し、このスリット536bは、樹脂フィルム536の外周部に達しないように形成されている。各樹脂フィルム536A、536Bは、スリット536bによって分割されて個々に弾性変形可能な複数の接触片部536cが外周部536bからその内側へ(中心点536aに向かって)張り出すように形成された構成になっている。
また、冷却筒52からの冷却ガスGの流出、外気の流入を阻止するために、樹脂フィルム536A、536Bのスリット536bの位置は前記中心点536aを中心とする軸回り方向(リング状固定部材537、538の周方向)において一致せず、互いにずらされている。
【0055】
図11(a)において一対のリング状固定部材537、538の内、上側に位置するリング状固定部材537と冷却筒52との間、一対のリング状固定部材537、538の間には、冷却筒52からの冷却ガスGの流出、外気の流入を阻止できる充分なシール性が確保されている。
【0056】
このフィルム接触シール部53Bには、冷却筒52から引き出された光ファイバ裸線3が引き込まれ、複数枚の樹脂フィルム536の中央部(具体的には中心点536a)を貫通させて引き通される。図11(a)に示すように、「フィルム接触シール部53Bに光ファイバ裸線3が引き通された状態において、各樹脂フィルム536A、536Bは一対のリング状固定部材537、538の間に挟み込まれた外周部536bから中央部側(すなわち光ファイバ裸線3側)に行くにしたがって下側となるように湾曲変形され、接触片部536cの先端部(外周部536bとは反対側の端部)が光ファイバ裸線3の外周と接触状態となる。互いに重ね合わされた複数枚の樹脂フィルム536は、互いに重なり合った状態を維持したまま、一枚のシートの如く一体的に湾曲変形する。このとき、樹脂フィルム536自体の可撓性、柔軟性により、各接触片部536cの先端部が光ファイバ裸線3の外周形状に追従するように変形する上、樹脂フィルム536自体の弾性復元力によって光ファイバ裸線3に対する接触片部536cの接触状態が安定に維持される。このため、複数枚の樹脂フィルム536A、536Bによって、前記光ファイバ裸線3の周囲をシールして冷却筒52下端からの冷却ガスの流出を防ぐことができる。また、このフィルム接触シール部53Bは、樹脂フィルム536の変形によって、光ファイバ裸線3の通過を許容することは言うまでも無い。
【0057】
なお、樹脂フィルム536の材質としては、例えば、シリコーン樹脂、四フッ化エチレン樹脂等を好適に用いることができる。シリコーン樹脂フィルム、四フッ化エチレン樹脂フィルムは、可撓性、柔軟性に優れ、また、表面の接触抵抗が小さい樹脂フィルムを容易に得ることができる点で、フィルム接触シール部53Bに用いて特に好適である。
また、この実施形態において、フィルム接触シール部に設ける樹脂フィルムの枚数は2枚に限定されず、3枚以上であっても良い。また、フィルム接触シール部は、1枚の樹脂フィルムのみで充分なシール性を確保できる場合は、複数枚の樹脂フィルムを重ね合わせることなく、樹脂フィルムを1枚のみ用いた構成とすることも可能である。
【符号の説明】
【0058】
1…光ファイバ素線製造装置、2…光ファイバ母材、3…光ファイバ裸線、4…加熱炉、5…冷却装置、50…冷却・コーティングユニット、51…光ファイバ挿通孔、511、512…ファイバ通過孔、52…冷却筒、52a…外周壁、52b…ガス導入孔、53、53A…ファイバ出口シール部(メニスカスシール部)、53B…ファイバ出口シール部(フィルム接触シール部)、530、530A…ケース部、531…天板部、532…貯液部、533…ファイバ入口孔、534…液状封止材、535、535a…ファイバ出口孔、536、536A、536B…樹脂フィルム、536a…中心点、536b…スリット、537、538…リング状部材、53S…内側空間、54…冷却ガス導入ポート、56…天板部、57…底板部、58…液状樹脂材料、59…液供給ポート、6…コーティング装置、7…硬化装置、8…光ファイバ素線、9…巻き取り機。
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ母材から溶融紡糸された光ファイバ裸線を冷却装置にて冷却し、次いでこの光ファイバ裸線に保護被覆層を形成するための液状樹脂材料を塗布し、前記液状樹脂材料を硬化して保護被覆層を形成する光ファイバ素線の製造方法、光ファイバ素線製造工程のうち線引き工程に使用される光ファイバ素線の製造装置に関し、特に高速線引きに適用して好適な光ファイバ素線の製造方法、光ファイバ素線の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ素線の紡糸工程(線引き工程)は一般に下記の手順で実施される(図12参照)。
(1)光ファイバ素線の原料となるガラス母材110を紡糸用加熱炉120にて2000℃以上の温度に加熱溶融する。
(2)溶融したガラスを高温状態で紡糸炉下部に引き出し、光ファイバ形状に引き伸ばす(ガラス母材110から光ファイバ裸線111を線引きする)。
(3)引き伸ばした高温状態の光ファイバ裸線111を冷却装置130によって適切温度に冷却する。
(4)冷却した光ファイバ裸線111にその保護のため樹脂コーティング装置140によって樹脂をコーティングした後、樹脂の種類に応じた手段(樹脂硬化装置150)によって光ファイバ裸線111に定着させ、光ファイバ素線112とする。
(5)光ファイバ素線112を巻き取り機160によって巻き取る。
【0003】
上述のような光ファイバ紡糸工程にあっては、光ファイバ素線の製造性を向上させるために、線引き速度(線速)の高速化が進められている。線速は光ファイバ裸線の外径を一定に保つために常時変動するが、線速が高速化するにしたがいその変動幅が大きくなる。線速の変動は、光ファイバ裸線が樹脂コーティング装置に入る前の温度(入線温度)を変動させる。光ファイバの特性に影響を与える樹脂のコーティング厚は入線温度によって変動するため、入線温度の変動を抑えて均一なコーティング厚を得るために、冷却装置の冷却能力を調整する必要がある。これに鑑みて例えば特許文献1記載の方法が開示されている。
上記特許文献1記載に開示されている方法は、図13に示すように、光ファイバ裸線220を冷却するための冷却装置210の冷却筒211内(具体的には冷却筒211の内側空間であり冷却装置210を上下に貫通する光ファイバ挿通孔212)に該冷却筒211内に通された前記光ファイバ裸線220を冷却するために導入する冷却ガスを、固定流量の冷却ガス231とこの固定流量の冷却ガス231よりも熱伝導率が低い可変流量の冷却ガス232とに分け、可変流量の冷却ガス232を制御することにより、一定のコーティング厚が得られるようにしたものである。なお、前記冷却筒211内に導入する固定流量冷却ガス231としては熱伝導率が高く安定しているHe(ヘリウムガス。以下同)又はHeと他のガスとの混合ガスが使用され、冷却能力を調整するための可変流量冷却ガス232としてはHeよりも熱伝導率が低いガスが使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3098232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1に記載の技術は、熱伝導率の高い固定流量の冷却ガス231と、熱伝導率の低い可変流量の冷却ガス232とを用いることにより、線速変動に伴い変動する光ファイバ裸線220の入線温度を制御し、一定のコート径が得られるものである。しかし、当該特許文献1記載の冷却装置210の構成では、冷却筒211の上下両端(図13における上下両端)が開放されているため、光ファイバ裸線220の送り移動に伴い光ファイバ裸線220に引きずられるようにして大気が冷却装置210の冷却筒211内部に侵入して冷却ガスのHe濃度を低下させるため、充分な冷却効率を引き出せていなかった。
そのため、紡糸線速が高速化すると、光ファイバ裸線の冷却に必要な冷却ガスの流量の増大により、冷却ガスによるファイバの線ぶれが発生し、コート径偏肉のばらつきが大きくなるという問題があった。また、光ファイバ裸線の線ぶれは光ファイバ裸線の外径測定の測定誤差要因や、光ファイバの強度不良の要因ともなるので、製造安定性上好ましくない。
【0006】
本発明は、前記課題に鑑みて、冷却装置に導入する冷却ガスの紡糸線速の高速化に伴う使用量(流量)の増大を抑えることができ、これにより冷却装置に通されている光ファイバ裸線の線ぶれを防止し、光ファイバ裸線をコートする樹脂のコート径偏肉のばらつきが小さい光ファイバ素線を製造できる光ファイバ素線の製造方法、光ファイバ素線の製造装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では以下の構成を提供する。
第1の発明は、加熱炉にて光ファイバ母材から溶融紡糸した光ファイバ裸線を冷却装置にて冷却し、次いでコーティング装置にて前記光ファイバ裸線に保護被覆層を形成するための液状樹脂材料を塗布し、硬化装置にて前記液状樹脂材料を硬化させて保護被覆層を形成することで光ファイバ素線を得る光ファイバ素線の製造方法であって、前記冷却装置として、前記光ファイバ裸線が上下方向に引き通される光ファイバ挿通孔と、前記光ファイバ裸線の冷却用の冷却ガスを前記光ファイバ挿通孔に導入するための冷却ガス導入ポートとを有する冷却筒を具備し、前記冷却筒の下端側に、前記光ファイバ裸線の通過を許容しかつ前記光ファイバ裸線の周囲をシールして前記冷却ガスの流出を防ぐファイバ出口シール部が設けられ、前記光ファイバ挿通孔内に供給された冷却ガスが前記冷却筒の上部からのみ流出可能であり前記冷却ガスが前記光ファイバ挿通孔内に上昇流を形成するものを採用し、前記冷却装置の前記光ファイバ挿通孔内の冷却ガスの上昇流の流速をVQ(m/min)、製造安定範囲の最大線速をνD(m/min)としたとき、5.5×10−3×νD−2.5×10−1≦Vを満たす冷却ガス流速で光ファイバ裸線を冷却することを特徴とする光ファイバ素線の製造方法を提供する。
第2の発明は、前記冷却ガスを前記冷却装置の前記光ファイバ挿通孔内に該光ファイバ挿通孔内を満たすに充分な流速で流入させた状態にて光ファイバ裸線を製造安定範囲の最大線速で紡糸し、前記光ファイバ裸線を前記保護被覆層の形成安定範囲の温度に冷却するために必要となる冷却長を把握し、この把握した冷却長を確保できる冷却装置を使用し前記光ファイバ挿通孔内の冷却ガスの上昇流に5.5×10−3×νD−2.5×10−1≦VQを満たす流速を確保した状態にて前記光ファイバ裸線を紡糸することを特徴とする第1の発明の光ファイバ素線の製造方法を提供する。
第3の発明は、前記流速VQが100m/min以下であることを特徴とする第1又は第2の光ファイバ素線の製造方法を提供する。
第4の発明は、前記冷却装置は、前記冷却ガス導入ポートが前記光ファイバ挿通孔の下端部に連通され、この冷却ガス導入ポートから前記光ファイバ挿通孔に導入して前記光ファイバ挿通孔内をその下端部から冷却筒の上部に向かって流した前記冷却ガスによって前記光ファイバ挿通孔内の光ファイバ裸線を冷却することを特徴とする第1〜3のいずれかの発明の光ファイバ素線の製造方法を提供する。
第5の発明は、前記冷却筒は、前記光ファイバ挿通孔に導入して前記光ファイバ挿通孔内をその下端部から冷却筒の上部に向かって流した前記冷却ガスが、前記冷却筒の上端部に開口する前記光ファイバ挿通孔の上端開口部のみから流出するように構成されていることを特徴とする第1〜4のいずれかの発明の光ファイバ素線の製造方法を提供する。
第6の発明は、前記ファイバ出口シール部が、前記冷却筒の下側に固定され前記冷却筒を通過した光ファイバ裸線が引き通されるケース部内に前記光ファイバ裸線の通過を許容しかつ前記光ファイバ裸線の周囲をシールして前記冷却ガスの流出を防ぐ液状封止材を収容したものであることを特徴とする第1〜5のいずれかの発明の光ファイバ素線の製造方法を提供する。
第7の発明は、前記液状封止材が保護被覆層を形成するための液状樹脂材料であり、前記ファイバ出口シール部が前記コーティング装置として機能するものであることを特徴とする第6の発明の光ファイバ素線の製造方法を提供する。
第8の発明は、紡糸線速が1000m/min以上であることを特徴とする第1〜7のいずれかの発明の光ファイバ素線の製造方法を提供する。
第9の発明は、光ファイバ母材を溶融して前記光ファイバ母材から光ファイバ裸線を紡糸するための加熱炉と、この加熱炉にて紡糸された光ファイバ裸線を冷却するための冷却装置と、この冷却装置にて冷却後の光ファイバ裸線に保護被覆層を形成するための液状樹脂材料を塗布するコーティング装置と、このコーティング装置にて前記光ファイバ裸線に塗布された液状樹脂材料を硬化させて前記保護被覆層を形成するための硬化装置とを具備し、前記冷却装置として、前記光ファイバ裸線が上下方向に引き通される光ファイバ挿通孔と、前記光ファイバ裸線の冷却用の冷却ガスを前記光ファイバ挿通孔に導入するための冷却ガス導入ポートとを有する冷却筒を具備し、前記冷却筒の下端側に、前記光ファイバ裸線の通過を許容しかつ前記光ファイバ裸線の周囲をシールして前記冷却ガスの流出を防ぐファイバ出口シール部が設けられ、前記光ファイバ挿通孔内に供給された冷却ガスが前記光ファイバ挿通孔の上端部からのみ流出可能であり前記冷却ガスが前記光ファイバ挿通孔内に上昇流を形成するものを採用し、前記冷却装置は、該冷却装置の前記光ファイバ挿通孔内の冷却ガスの流速をVQ(m/min)、製造安定範囲の最大線速をνD(m/min)としたとき、前記光ファイバ挿通孔内に上昇流を形成する前記冷却ガスに5.5×10−3×νD−2.5×10−1≦VQを満たす冷却ガス流速で光ファイバ裸線を冷却することを特徴とする光ファイバ素線の製造装置を提供する。
第10の発明は、前記冷却装置として、該冷却装置内を冷却ガスで満たすに充分な流速で冷却ガスを流入させた状態にて製造安定範囲の最大線速で紡糸するときに必要となる冷却長を確保したものを用いることを特徴とする第9の発明の光ファイバ素線の製造装置を提供する。
第11の発明は、前記流速VQが100m/min以下であることを特徴とする第9又は10の発明の光ファイバ素線の製造装置を提供する。
第12の発明は、前記冷却装置は、前記冷却ガス導入ポートが前記光ファイバ挿通孔の下端部に連通され、この冷却ガス導入ポートから前記光ファイバ挿通孔に導入して前記光ファイバ挿通孔内をその下端部から冷却筒の上部に向かって流した前記冷却ガスによって前記光ファイバ挿通孔内の光ファイバ裸線を冷却することを特徴とする第9〜11のいずれかの発明の光ファイバ素線の製造装置を提供する。
第13の発明は、前記冷却筒は、前記光ファイバ挿通孔に導入して前記光ファイバ挿通孔内をその下端部から冷却筒の上部に向かって流した前記冷却ガスが、前記冷却筒の上端部に開口する前記光ファイバ挿通孔の上端開口部のみから流出するように構成されていることを特徴とする第9〜12のいずれかの発明の光ファイバ素線の製造装置を提供する。
第14の発明は、前記ファイバ出口シール部が、前記冷却筒の下側に固定され前記冷却筒を通過した光ファイバ裸線が引き通されるケース部内に前記光ファイバ裸線の通過を許容しかつ前記光ファイバ裸線の周囲をシールして前記冷却ガスの流出を防ぐ液状封止材を収容したものであることを特徴とする第9〜13のいずれかの発明の光ファイバ素線の製造装置を提供する。
第15の発明は、前記液状封止材が保護被覆層を形成するための液状樹脂材料であり、前記ファイバ出口シール部が前記コーティング装置として機能するものであることを特徴とする第14の発明の光ファイバ素線の製造装置を提供する。
第16の発明は、1000m/min以上の紡糸線速にて使用されることを特徴とする第9〜15のいずれかの発明の光ファイバ素線の製造装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、冷却装置として、該冷却装置の冷却筒を上下に貫通する光ファイバ挿通孔の下端側に、前記光ファイバ裸線の通過を許容しかつ前記光ファイバ裸線の周囲をシールして前記冷却ガスの流出を防ぐファイバ出口シール部が設けられ、光ファイバ挿通孔内に導入した冷却ガスが光ファイバ挿通孔内に上昇流を形成し、光ファイバ挿通孔の上端部からのみ流出可能となっているものを採用する。これにより、光ファイバ母材から線引きされた光ファイバ裸線の送り移動に伴う光ファイバ挿通孔上端部(上端開口部)から光ファイバ挿通孔内への外気の流入を防止できるため、光ファイバ挿通孔内の冷却ガス濃度を高濃度に保つことができ、優れた冷却効率を確保できる。その結果、紡糸線速の高速化に伴う冷却ガスの使用量(流量)の増大を抑えることができ、これにより冷却装置に通されている光ファイバ裸線の線ぶれを防止でき、光ファイバ裸線をコートする樹脂のコート径偏肉のばらつきが小さい光ファイバ素線を製造できる。
【0009】
また、本発明では、前記光ファイバ挿通孔内に5.5×10−3×νD−2.5×10−1≦VQ(VQ:冷却装置の光ファイバ挿通孔内に冷却ガスが形成する上昇流の流速(m/min)、νD:製造安定範囲の最大線速(m/min))を満たす流速で前記光ファイバ挿通孔内を上昇する冷却ガスの上昇流を形成する。冷却装置内に冷却ガスが形成する上昇流の流速VQが、5.5×10−3×νD−2.5×10−1≦VQを満たす構成であれば、冷却ガスの上昇流の流速が低すぎる場合に光ファイバ母材に起因するファイバ径変動や外乱の影響で光ファイバ裸線をコートする樹脂(保護被覆層を形成する樹脂)のコート径偏肉のばらつきが大きくなる、といった不都合を防止することができ、前記コート径偏肉のばらつきが小さい光ファイバ素線を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る光ファイバ素線の製造装置を示す全体図である。
【図2】図1の光ファイバ素線の製造装置の冷却装置の構造を示す断面図である。
【図3】図2に示す冷却装置を用いた場合の光ファイバ裸線の線速と冷却装置に必要となる冷却長Lとの関係を確認した結果を示すグラフである。
【図4】冷却装置内の冷却ガスの上昇流の流速が下限使用流速であるときの冷却装置の保冷温度依存性について測定した結果を示す図である。
【図5】光ファイバ裸線の線速(最大線速)に応じて冷却ガス流速(光ファイバ挿通孔内の冷却ガス(具体的にはヘリウムガス)の上昇流の流速)を設定したときの光ファイバ素線の保護被覆層の偏肉の測定結果を示すグラフであって、線速が1000m/min、1300m/min、1700m/min、2100m/min、2400m/minの場合の冷却ガス流速と偏肉との関係を示す。
【図6】光ファイバ裸線の線速(最大線速)に応じて冷却ガス流速(光ファイバ挿通孔内の冷却ガス(具体的にはヘリウムガス)の上昇流の流速)を設定したときの光ファイバ素線の保護被覆層の偏肉の測定結果を示すグラフであって、線速が2700m/min、の場合の冷却ガス流速と偏肉との関係を示す。
【図7】光ファイバ裸線の線速に対する冷却ガス流速(光ファイバ挿通孔内の冷却ガス(具体的にはヘリウムガス)の上昇流の流速)の設定例を示す図であって、実施例1〜3、比較例1〜3の設定例を示すグラフである。
【図8】光ファイバ裸線の線速に対する冷却ガス流速(光ファイバ挿通孔内の冷却ガス(具体的にはヘリウムガス)の上昇流の流速)の設定例を示す図であって、実施例4〜6の設定例を示すグラフである。
【図9】図7、図8に示すように光ファイバ裸線の線速に応じて冷却ガス流速(光ファイバ挿通孔内の冷却ガス(具体的にはヘリウムガス)の上昇流の流速)を設定したときの光ファイバ素線の保護被覆層の偏肉の測定結果を示すグラフである。
【図10】本発明に係る別態様を示す図であって、冷却筒の下側に、コーティング装置として機能するファイバ出口シール部を設けてなる冷却・コーティングユニットの構成を示す断面図である。
【図11】本発明に係る冷却装置の別態様を説明する図であって、(a)はファイバ出口シール部として、スリット付きフィルムを用いて構成されたフィルム接触シール部を適用した冷却装置を示す断面図、(b)はフィルム接触シール部の構成を示す平面図である。
【図12】従来例の光ファイバ素線の製造装置を示す全体図である。
【図13】図12の光ファイバ素線の製造装置の冷却筒の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施した光ファイバ素線の製造方法、光ファイバ素線の製造装置の1実施形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
図1は本発明に係る光ファイバ素線の製造装置1(以下、単に、製造装置とも言う)を示す全体図である。
図1に示すように、この製造装置1は、光ファイバ母材2を溶融して前記光ファイバ母材2から光ファイバ裸線3を紡糸するための加熱炉4と、この加熱炉4にて紡糸された光ファイバ裸線3を冷却するための冷却装置5と、この冷却装置5にて冷却された前記光ファイバ裸線3に保護被覆層を形成するための液状樹脂材料を塗布(コーティング)するコーティング装置6と、前記コーティング装置6にて前記光ファイバ裸線3に塗布された液状樹脂材料を硬化させて前記保護被覆層を形成するための硬化装置7と、この硬化装置7での前記保護被覆層の形成(液状樹脂材料の硬化)によって得られた光ファイバ素線8を巻き取る巻き取り機9とを具備して構成されている。
【0013】
図2は、冷却装置5の構造を示す断面図である。なお、図2において、上側を上、下側を下として説明する。
図2に示すように、前記冷却装置5は、前記加熱炉4にて光ファイバ母材2から線引きされた光ファイバ裸線3が引き通される光ファイバ挿通孔51が貫設された冷却筒52と、この冷却筒52の下端側に設けられたファイバ出口シール部53とを具備し、前記光ファイバ挿通孔51の軸心が上下方向となる向きで設置されている。光ファイバ裸線3は、冷却筒52の光ファイバ挿通孔51に上下に引き通される。
【0014】
前記冷却筒52には、光ファイバ挿通孔51に通された光ファイバ裸線3の冷却用の冷却ガスGを前記光ファイバ挿通孔51に導入するための冷却ガス導入ポート54が設けられている。この冷却ガス導入ポート54は、冷却筒52の外周壁52aに形成されたガス導入孔52bを介して前記光ファイバ挿通孔51の下端部(詳細には、光ファイバ挿通孔51の主孔部51a(後述)の下端部)に連通されている。
また、冷却筒52の外周壁52aの内部には図示しない冷媒通路が形成されている。冷却筒52には前記冷媒通路通路に冷媒を送入するための冷媒入口551と、冷媒通路内の冷媒の排水用の冷媒出口552とが設けられており、この冷却装置5は、冷媒通路に通水した冷媒によって、光ファイバ挿通孔51内の冷却ガスを冷却できるようになっている。
なお、冷却ガス導入ポート54、冷媒入口551、冷媒出口552は、冷却筒52の外周壁52aから外側(外周壁52aを介して光ファイバ挿通孔51とは反対側)に突設されている。
【0015】
冷却筒52は、その上端部に、光ファイバ裸線3外径に比べて若干大きい内径のファイバ通過孔511が形成された天板部56を有し、下端部に、光ファイバ裸線3外径に比べて若干大きい内径のファイバ通過孔512が形成された底板部57を有している。前記天板部56及び前記底板部57は、冷却筒52の外周壁52aの上下方向の端部の内側に設けられている。
なお、冷却ガス導入ポート54から導入された冷却ガスGを光ファイバ挿通孔51に導くガス導入孔52bは底板部57よりも上側にて光ファイバ挿通孔51と連通している。
【0016】
天板部56及び底板部57のファイバ通過孔511、512は光ファイバ挿通孔51の一部である。
光ファイバ挿通孔51は、冷却筒52の内側において天板部56及び底板部57の間に位置する部分である主孔部51aと、この主孔部51aに比べて断面積(冷却筒52(詳細には外周壁52a)の軸心に垂直の断面積)が小さいファイバ通過孔511、512とからなる。
天板部56のファイバ通過孔511と底板部57のファイバ通過孔512とは冷却筒52(詳細には外周壁52a)の軸心に沿う1直線上に位置している。光ファイバ裸線3は、主孔部51aと上下のファイバ通過孔511、512とに通して光ファイバ挿通孔51に引き通される。
【0017】
ファイバ出口シール部53は、前記光ファイバ裸線3の通過を許容しかつ前記光ファイバ裸線3の周囲をシールして光ファイバ挿通孔51内に導入された冷却ガスGの冷却装置5下端からの流出を防ぐものである。
図2に例示した冷却装置5において、前記ファイバ出口シール部53は、具体的には、前記冷却筒52の底板部57に固定された天板部531の下側にすり鉢状の貯液部532が設けられてなる容器状のケース部530内(内側空間53S)に液状封止材534を収容しており、前記天板部531の中央部に貫設されたファイバ入口孔533を介してケース部530内に前記冷却筒52から引き込まれた光ファイバ裸線3が、前記内側空間53S内の液状封止材534中を通過して、前記貯液部532の底部に貫設されたファイバ出口孔535から引き出されるようになっている。
このファイバ出口シール部53は、前記ファイバ入口孔533を冷却筒52の底板部57のファイバ通過孔512と連通させて設けられている。また、ファイバ出口シール部53と冷却筒52との間は気密性が確保されており、外気が流入しないようになっている。
【0018】
前記液状封止材534としては、光ファイバ裸線3に対する付着性が低く、紡糸に伴う光ファイバ裸線3の移動に追従しにくく、光ファイバ裸線3の移動(通過)時にその表面張力によってファイバ出口孔535から漏出せず、しかも、図2に示すように、光ファイバ裸線3の通過により、その液面がその外周から光ファイバ裸線3側に行くにしたがって下方となるように湾曲し全体としてすり鉢状に窪んだ形状(以下、メニスカス形状とも言う)となるものが採用される。液状封止材534は、ファイバ出口孔535からの冷却ガスGの漏出、ファイバ出口孔535からファイバ出口シール部53の内部、光ファイバ挿通孔51への外気の流入を阻止するために、ファイバ出口孔535を気密にシールする機能を果たす。ファイバ出口シール部53に引き通された光ファイバ裸線3は、液状封止材534中に通された部分の周囲が液状封止材534によって気密にシールされる。以下、このファイバ出口シール部53をメニスカスシール部とも言う。
【0019】
上述のような液状封止材534としては、例えば、ホットメルト接着剤等の液状の高分子材料を好適に用いることができる。また、液状封止材534としては、例えば、シリコーン樹脂等のゲル状材料であっても良い。
なお、ファイバ出口孔535は、光ファイバ裸線3の通過に伴う液状封止材534の漏出を生じにくくするために、光ファイバ裸線3の径に比べて僅かに大きい内径に形成される。
【0020】
ファイバ出口シール部53はファイバ入口孔534を除く全体に気密性が確保された構成であり、冷却筒52の下端からの冷却ガスGの流出を防ぐ機能を果たす。冷却装置5は、冷却ガス導入ポート54から光ファイバ挿通孔51に導入された冷却ガスGが冷却筒52の上端(光ファイバ挿通孔51の上端開口部。図示例では符号511のファイバ通過孔)のみから流出可能になっている。このため、冷却ガス導入ポート54から光ファイバ挿通孔51に導入された冷却ガスGは、光ファイバ挿通孔51の下端部から上端部に向かう上昇流を形成する。ファイバ出口シール部53によって、冷却装置5下端からの冷却ガスGの流出、冷却装置5下端から光ファイバ挿通孔51内への外気の流入が阻止されるため、光ファイバ挿通孔51に導入した冷却ガスは全て光ファイバ裸線3の冷却に寄与する。
また、冷却装置5について、光ファイバ挿通孔51における冷却ガス導入ポート54からの冷却ガスGの導入位置(ガス導入孔52bとの連通箇所)から光ファイバ挿通孔51の上端開口部までの距離を、以下、冷却長Lとも言う。
【0021】
この製造装置1を用いた光ファイバ素線9の製造(光ファイバ素線の製造方法)は、加熱炉4(図1参照)にて光ファイバ母材2から溶融紡糸した光ファイバ裸線3を冷却装置5にて冷却し、次いでコーティング装置6にて前記光ファイバ裸線3に保護被覆層を形成するための液状樹脂材料を塗布し、硬化装置7にて前記液状樹脂材料を硬化させて保護被覆層を形成することで光ファイバ素線8を得る。得られた光ファイバ素線8は巻き取り機9にて巻き取る。
硬化装置7は、コーティング装置6にて光ファイバ裸線3に塗布した液状樹脂材料の硬化条件に対応して液状樹脂材料を硬化させるための機構(硬化機構)を具備するものである。前記硬化機構としては、例えば、液状樹脂材料がエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂である場合は液状樹脂材料を加熱硬化するための加熱装置、液状樹脂材料が紫外線硬化性樹脂である場合は液状樹脂材料を紫外線照射によって硬化するための紫外線照射装置が採用される。
【0022】
ここで、冷却装置5(図2参照)にあっては、冷却ガス導入ポート54から光ファイバ挿通孔51に冷却ガスGを継続的に流入させて光ファイバ裸線3を冷却する。また、冷媒通路に冷媒を通して、光ファイバ挿通孔51内の冷却ガスGの昇温を抑える。
【0023】
図2に示すように、前記冷却装置5は、冷却ガス導入ポート54から光ファイバ挿通孔51に導入された冷却ガスGが光ファイバ挿通孔51内に上昇流を形成して冷却筒52の上端(光ファイバ挿通孔51の上端部)のみから流出する構成であるため、ファイバ挿通孔51の上端部から流出する冷却ガスの上昇流によって、光ファイバ母材2から線引き(紡糸)された光ファイバ裸線3の送り移動に伴う光ファイバ挿通孔51上端部(上端開口部)から光ファイバ挿通孔51内への外気の流入を防止できる。その結果、光ファイバ挿通孔51内の冷却ガス濃度を高濃度に保つことができ、優れた冷却効率を安定に確保できる。また、紡糸線速の高速化に伴う冷却ガスの使用量(流量)の増大を抑えることができるため、これにより冷却装置5に通されている光ファイバ裸線3の線ぶれを防止でき、光ファイバ裸線3をコートする樹脂(保護被覆層)のコート径偏肉のばらつきが小さい光ファイバ素線8を製造できる。
【0024】
なお、本発明に冷却装置の冷却筒としては、冷却筒52(光ファイバ挿通孔51)内に導入された冷却ガスGを冷却筒52の上部から流出させる冷却ガス流出孔が、冷却筒52の上端部のファイバ通過孔511のみである構成に限定されず、ファイバ通過孔511以外の孔(冷却ガス流出孔)を具備する構成も採用可能である。但し、光ファイバ裸線3の送り移動に伴う光ファイバ挿通孔51内への外気の流入を阻止する点で、ファイバ通過孔511からの冷却ガスの流出が生じる(ファイバ通過孔511が冷却ガス流出孔として機能する)ことは必須である。
【0025】
ところで、冷却装置4としては、製造装置1における光ファイバ素線8の製造時に想定される最大線速に対応して、コーティング装置6での光ファイバ裸線3への液状樹脂材料の塗布安定性(塗布によって光ファイバ裸線をコートする液状樹脂材料に所望の断面外形が安定に得られること)の確保に必要な冷却長Lを確保できるものを採用する。
ここで、製造装置1における光ファイバ素線8の製造時に想定される最大線速は、光ファイバ裸線3の光ファイバ母材2からの線引き、硬化装置7による液状樹脂材料の硬化及び光ファイバ裸線3に対する定着を安定に行える範囲の線速の上限値を指す。この線速の上限値を、以下、製造安定範囲の最大線速とも言う。
【0026】
次に、光ファイバ裸線3の冷却に必要とされる冷却装置5の冷却長Lの見積もり方法の一例を示す。
必要な冷却装置5の冷却長Lは、冷却装置の構造(内径や、内壁表面の形状)によって変化するが、ここで説明する冷却長Lの見積もり方法は、冷却可能な最大線速まで適用可能であり、冷却装置5の構造には依存しない。
【0027】
はじめに、製造装置1において任意の冷却長Lの冷却装置5を使用し、この冷却装置5の光ファイバ挿通孔51内に冷却ガスG(ここではヘリウムガス)を光ファイバ挿通孔51内全体を満たすに充分な流速(例えば130m/min)で流しておき、この状態で製造時に想定する最大線速(製造安定範囲の最大線速)に応じた冷却長を求めておく(把握しておく)。
製造安定範囲の最大線速に応じた冷却長の把握は、例えば、図2に示す構造の冷却筒52であって冷却長が互いに異なるものを複数用意し、冷却筒52とファイバ出口シール部53とを用いて組み立てた冷却装置を使用して光ファイバ裸線3の紡糸、光ファイバ素線の試験製造を行い、冷却装置5とコーティング装置6との間に設置した温度計によって冷却装置5を通過した光ファイバ裸線3の温度を計測し、冷却筒52を選択使用することで前記温度計による計測温度をコーティング装置における液状樹脂材料の塗布安定性を確保できる温度とすることができる冷却長を持つ冷却装置を選定する方法、後述する図3のグラフを利用して必要な冷却長を求める方法、等により行うことができる。
【0028】
なお、光ファイバ挿通孔51の前記冷却長Lに相当する部分は冷却装置5の内部構造によりその長手方向(冷却筒52の軸心方向。冷却長Lに沿う方向)において部分的に断面積(光ファイバ挿通孔51の軸心に垂直の断面積)が部分的に不揃いになっている箇所が存在する場合があるが、ここで示す流速は光ファイバ挿通孔51内における代表的流速、例えば光ファイバ挿通孔51の両端のファイバ通過孔511、512を結ぶ直線(冷却筒52に引き通した光ファイバ裸線3に重なる直線)の近傍を流れる冷却ガスGの流速を指す。以下、流速は、光ファイバ挿通孔51内を流れる冷却ガスGの代表的流速を意味するものとして使用する。
【0029】
ここで、図2に示す冷却装置を用いた場合の光ファイバ裸線3の線速と冷却装置5に必要となる冷却長Lとの関係を確認した結果を図3に示す。
この結果は、図2に示す構造の冷却筒52であって冷却長が互いに異なるものを複数用意し、各線速において冷却装置5の冷却長Lを変更して、冷却装置通過後の光ファイバ裸線の温度を放射温度計によって計測し、光ファイバ裸線の温度がコーティング装置における液状樹脂材料の塗布安定性を確保できる温度となったときの冷却長をプロットしたものである。なお、冷却長が互いに異なる冷却筒52に対してファイバ出口シール部53は変更せず共通のものを使用した。また、冷却ガスとしてヘリウムガスを用い、光ファイバ挿通孔51内全体を満たすに充分な流速(例えば130m/min)で流して、前記冷却長をプロットした。
【0030】
この図3に示した光ファイバ裸線3の線速と冷却装置5の冷却長Lとの関係から、製造時に想定する最大線速(製造安定範囲の最大線速)に応じた冷却長を求めることができる。そして、この冷却長を具備する冷却装置を用いた製造装置1にて光ファイバ裸線3を製造時に想定する最大線速で紡糸して冷却装置を通過した光ファイバ裸線3の温度を計測し、この計測温度がコーティング装置における液状樹脂材料の塗布安定性を確保できる温度範囲(保護被覆層の形成安定範囲の温度)となることを確認する。これにより、製造安定範囲の最大線速に応じた冷却長の把握を行える。
図3は、冷却装置内を流れる冷却ガスの代表的流速を用いて、線速との関係を明らかにしたものであるため、この図3を利用した冷却長の把握は、冷却装置の構造には依存しない。したがって、冷却装置内に流す冷却ガスの流速(代表的流速)に応じて、図3に示したような光ファイバ裸線3の線速と冷却装置5の冷却長Lとの関係を用いることで、製造安定範囲の最大線速に応じた冷却長の把握を行える。
但し、光ファイバ裸線3の線速と冷却装置5の冷却長Lとの関係は、冷媒通路への冷媒の導入による冷却装置の保冷温度に依存するので、光ファイバ裸線3の線速と冷却装置5の冷却長Lとの関係に基づいて行う製造安定範囲の最大線速に応じた冷却長の把握は、より詳しくは、冷却装置内に流す冷却ガスの流速(代表的流速)と冷却装置の保冷温度とに応じた光ファイバ裸線3の線速と冷却装置5の冷却長Lとの関係に基づいて行う。
【0031】
ところで、図3に示した光ファイバ裸線3の線速と冷却装置5の冷却長Lとの関係から、冷却装置5の光ファイバ挿通孔51(ここでは光ファイバ挿通孔51の内、特に、冷却長に相当する部分を指す)内への冷却ガスの導入によって形成する上昇流の流速としては、冷却装置5の光ファイバ挿通孔51を満たすに必要な下限使用流速が存在することが判明した。さらに、本発明者は、前記下限使用流速では、光ファイバ挿通孔51内への冷却ガスの導入に起因する線ぶれは発生しないが、光ファイバ母材に起因するファイバ径変動や外乱の影響を受けやすくなるため、偏肉のばらつきが大きくなることを見出した。
そこでさらに検討を進めた結果、光ファイバ裸線の線速(製造安定範囲の最大線速)をνD(m/min)としたとき、光ファイバ挿通孔内の冷却ガスの上昇流の流速VQ(m/min)が5.5×10−3×νD−2.5×10−1≦VQ(式1)を満たすようにすることで、偏肉のばらつきが小さくなることを見出した。
上記式1は、後述の実施例1の流速と線速の測定結果から最小二乗法によって算出した近似式である。冷却装置に使用する冷却ガスの流速は遅いほど冷却ガスを無駄にすることがないので、冷却ガスの流速は上記式1に基づいて可能な限り遅くすることが望ましい。
【0032】
図4は、この下限使用流速での冷却装置の保冷温度依存性について測定した結果を示す。図4から判るように、冷却装置の保冷温度を変化させても下限使用流速は殆ど変化することがない、このため、実用的な冷却装置保冷温度が−20℃〜30℃(冷却装置における光ファイバ挿通孔51の主孔部51a内面の温度)の範囲において下限使用流速は上記式1で規定できる。
なお、冷媒としては特に限定は無いが、保冷温度を0℃よりも高い温度とする場合は水等、0℃以下とする場合は例えばフッ素化炭化水素等のフッ素化合物、炭酸ガス、炭化水素、アンモニア等を用いることができる。
【0033】
また、前記冷却ガスの上昇流の流速VQ(m/min)は、VQ≦100を満たすようにする。流速VQが100(m/min)以下であれば、冷却ガスの流れによる光ファイバ裸線の線ぶれが生じることは無い。また、この範囲の流速であれば、図3に示したような光ファイバ裸線3の線速と冷却装置5の冷却長Lとの関係を確実に得ることができる。
【0034】
図5、図6は、光ファイバ裸線の線速(最大線速)に応じて冷却ガス流速(光ファイバ挿通孔内の冷却ガス(具体的にはヘリウムガス)の上昇流の流速。以下同)を設定したときの光ファイバ素線の保護被覆層の偏肉の測定結果を示す。
図5、図6において「最大線速」は、1000m/min、1300m/min、1700m/min、2100m/min、2400m/min、2700m/minの6通りである。図5,図6の測定結果は、冷却装置として、各最大線速に対応して、光ファイバ裸線を、コーティング装置における液状樹脂材料の塗布安定性を確保できる温度範囲(保護被覆層の形成安定範囲の温度)に冷却できる冷却長を持つものを採用している。換言すれば、図5、図6の各プロットは、冷却装置の冷却長に対応して、光ファイバ裸線をコーティング装置における液状樹脂材料の塗布安定性を確保できる温度範囲に冷却できる最大線速(製造安定範囲の最大線速)にて紡糸した結果を示している。
【0035】
図7、図8は、図5、図6の結果から、各線速(最大線速)に応じて偏肉の傾向が一致する流速が存在することに着目して、光ファイバ裸線の線速(最大線速)と冷却ガス流速との関係を纏めたものである。但し、図7、図8においては、光ファイバ裸線の線速(最大線速)を図7、図8に示す6通りよりも多く設定してその測定結果をプロットしている。
また、図9は、図5、図6の結果に基づいて各線速(最大線速)と偏肉との関係を纏めたものである。
【0036】
なお、図7及び図9に示す実施例1〜3、比較例1〜3における光ファイバ裸線の線速、Heガス流速の設定は後述の「検証試験」にて説明する実施例1〜3、比較例1〜3の光ファイバ裸線の線速、Heガス流速の設定に対応し、図8及び図9に示す実施例4〜6の光ファイバ裸線の線速、Heガス流速の設定は後述の「検証試験」にて説明する実施例4〜6の光ファイバ裸線の線速、Heガス流速の設定に対応する。「検証試験」にて実施例1〜6、比較例1〜3について説明している光ファイバ裸線線速に対するHeガス流速の設定の具体例は、図5、図6に示すように、各線速(最大線速)に応じて偏肉の傾向が一致する箇所における、各線速(最大線速)とこれに対応するHeガス流速とを指す。
【0037】
図9に示すように、既述の式1を満たしていない比較例1〜3については偏肉のばらつきが大きくなっているが、式1を満たす実施例1〜6については偏肉のばらつきが比較例1〜3に比べて小さくなっていることが判る。
【0038】
(検証試験)
以下、本発明について行った検証試験の実施例1〜6、比較例1〜3を説明する。
なお、以下の実施例1〜6、比較例1〜3の説明中、「線速」は「製造安定範囲の最大線速」を指す。
(実施例1)
光ファイバ素線の線引き工程において、線速を1000m/min、1300m/min、1700m/min、2100m/min、2400m/min、2700m/minの6通りとして線引きを行った。製造装置として、図1に例示したもの、すなわち図2に例示したメニスカスシール部53を具備する構成の冷却装置5を採用したものを用い、この冷却装置5に冷却ガスとしてHeガスを導入した。
Heガス流速は、光ファイバ裸線の線速(以下、単に線速とも言う)が1000m/minのとき5.27m/min、線速が1300m/minのとき6.92m/min、線速が1700m/minのとき9.3m/min、線速が2100m/minのとき11.5m/min、線速が2400m/minのとき12.97m/min、線速が2700m/minのとき14.8m/minとした。
この条件で各線速につきそれぞれ50本の線引きを行い、偏肉を測定した結果、偏肉のばらつきの標準偏差は1.1±0.05(図9参照)であった。
上記線速において既述の式1から算出されるHeガス流速は、線速が1000m/minのとき5.25m/min、線速が1300m/minのとき6.9m/min、線速が1700m/minのとき9.1m/min、線速が2100m/minのとき11.3m/min、線速が2400m/minのとき12.95m/min、線速が2700m/minのとき14.6m/minであり、上記式1の条件を満たしていた。また、本条件では光ファイバ裸線の線ぶれも生じなかった。
【0039】
(実施例2)
光ファイバ裸線線速に対するHeガス流速の設定以外は実施例1と同じにして線引き工程を行った。
Heガス流速は、線速が1000m/minのとき6.50m/min、線速が1300m/minのとき8.15m/min、線速が1700m/minのとき10.3m/min、線速が2100m/minのとき12.5m/min、線速が2400m/minのとき14.11m/min、線速が2700m/minのとき15.8m/minとした。
この条件で50本の線引きを行い、偏肉を測定した結果、偏肉のばらつきの標準偏差は1.08±0.045(図9参照)であった。Heガス流速は上記式1の条件を満たしていた。また、本条件では光ファイバ裸線の線ぶれも生じなかった。
【0040】
(実施例3)
光ファイバ裸線線速に対するHeガス流速の設定以外は実施例1と同じにして線引き工程を行った。
Heガス流速は、線速が1000m/minのとき7.77m/min、線速が1300m/minのとき9.42m/min、線速が1700m/minのとき11.6m/min、線速が2100m/minのとき13.8m/min、線速が2400m/minのとき15.4m/min、線速が2700m/minのとき17.1m/minとした。
この条件で50本の線引きを行い、偏肉を測定した結果、偏肉のばらつきの標準偏差は1.07±0.045(図9参照)であった。Heガス流速は上記式1の条件を満たしていた。また、本条件では光ファイバ裸線の線ぶれも生じなかった。
【0041】
(実施例4)
光ファイバ裸線線速に対するHeガス流速の設定以外は実施例1と同じにして線引き工程を行った。
1000m/minから2700m/minまでの線速の変化に対して、Heガス流速は20m/minで一定とした。
この条件で50本の線引きを行い、偏肉を測定した結果、偏肉のばらつきの標準偏差は1.07±0.045(図9参照)であった。Heガス流速は上記式1の条件を満たしていた。また、本条件では光ファイバ裸線の線ぶれも生じなかった。
【0042】
(実施例5)
光ファイバ裸線線速に対するHeガス流速の設定以外は実施例1と同じにして線引き工程を行った。
1000m/minから2700m/minまでの線速の変化に対して、Heガス流速は40m/minで一定とした。
この条件で50本の線引きを行い、偏肉を測定した結果、偏肉のばらつきの標準偏差は1.07±0.045(図9参照)であった。Heガス流速は上記式1の条件を満たしていた。また、本条件では光ファイバ裸線の線ぶれも生じなかった。
【0043】
(実施例6)
光ファイバ裸線線速に対するHeガス流速の設定以外は実施例1と同じにして線引き工程を行った。
1000m/minから2700m/minまでの線速の変化に対して、Heガス流速は70m/minで一定とした。
この条件で50本の線引きを行い、偏肉を測定した結果、偏肉のばらつきの標準偏差は1.07±0.045(図9参照)であった。Heガス流速は上記式1の条件を満たしていた。また、本条件では光ファイバ裸線の線ぶれも生じなかった。
【0044】
(比較例1)
光ファイバ裸線線速に対するHeガス流速の設定以外は実施例1と同じにして線引き工程を行った。
Heガス流速は、線速が1000m/minのとき2.55m/min、線速が1300m/minのとき4.27m/min、線速が1700m/minのとき6.46m/min、線速が2100m/minのとき8.66m/min、線速が2400m/minのとき10.30m/min、線速が2700m/minのとき11.95m/minとした。
この条件で50本の線引きを行い、偏肉を測定した結果、偏肉のばらつきの標準偏差は1.25±0.15(図9参照)となりばらつきが大きい結果となった。Heガス流速は上記式1の条件を満たしていなかった。また、本条件では光ファイバ裸線の線ぶれは生じなかった。
【0045】
(比較例2)
光ファイバ裸線線速に対するHeガス流速の設定以外は実施例1と同じにして線引き工程を行った。
Heガス流速は、線速が1000m/minのとき2.55m/min、線速が1300m/minのとき4.27m/min、線速が1700m/minのとき6.46m/min、線速が2100m/minのとき8.66m/min、線速が2400m/minのとき10.30m/min、線速が2700m/minのとき11.95m/minとした。
この条件で50本の線引きを行い、偏肉を測定した結果、偏肉のばらつきの標準偏差は1.25±0.15(図9参照)となりばらつきが大きい結果となった。Heガス流速は上記式1の条件を満たしていなかった。また、本条件では光ファイバ裸線の線ぶれは生じなかった。
【0046】
(比較例3)
光ファイバ裸線線速に対するHeガス流速の設定以外は実施例1と同じにして線引き工程を行った。
Heガス流速は、線速が1000m/minのとき3.82m/min、線速が1300m/minのとき5.54m/min、線速が1700m/minのとき7.73m/min、線速が2100m/minのとき9.93m/min、線速が2400m/minのとき11.58m/min、線速が2700m/minのとき13.22m/minとした。
この条件で50本の線引きを行い、偏肉を測定した結果、偏肉のばらつきの標準偏差は1.15±0.10(図9参照)であった。Heガス流速は上記式1の条件を満たしていなかった。また、本条件では光ファイバ裸線の線ぶれは生じなかった。
【0047】
(別実施形態1)
本発明は、図1に例示したように、コーティング装置6が冷却装置5から離隔させて設けられた構成の製造装置1を用いる構成に限定されず、例えば図10に示すように、冷却筒52の下側にコーティング装置として機能するメニスカスシール部53Aを設けた構成も含む。この場合、冷却装置は、光ファイバ裸線の冷却と冷却後の光ファイバ裸線への液状樹脂材料の塗布とを行えるものとなっている。以下、この実施形態に係る冷却装置を冷却・コーティングユニット50とも言う。
【0048】
前記冷却・コーティングユニット50のメニスカスシール部53Aにて使用する液状封止材は、既述の図2に例示した冷却装置5のメニスカスシール部53の液状封止材とは異なり、光ファイバ素線の保護被覆層を形成するための液状樹脂材料58を用いる。
また、前記メニスカスシール部53Aは、既述の図2に例示した冷却装置5のメニスカスシール部53のケース部10内側にその外側から液状封止材(液状樹脂材料58)を供給するための液供給ポート59を設けた構成のケース部530Aを具備し、貯液部532を光ファイバ裸線3の周囲に液状樹脂材料58を所望の厚さでコートするためのダイス部として機能させる構成とした点で、既述の図2に例示した冷却装置5のメニスカスシール部53と異なる。但し、貯液部532底部のファイバ出口孔535aは、光ファイバ裸線3に液状樹脂材料58を所望のコート厚でコートするべく、その軸心方向に垂直の断面外形が光ファイバ裸線3の外径に比べて僅かに大きく形成され、光ファイバ裸線3の送り移動によって、光ファイバ裸線3に液状樹脂材料58が所望のコート厚を以てコートされている樹脂材料コート済みファイバが引き出されるようになっている。
【0049】
液状樹脂材料58としては、光ファイバ裸線3に対する付着性が良好で、しかも、図10に示すように光ファイバ裸線3の通過によりメニスカス形状の液面を形成するものが採用される。この液状樹脂材料58は、紡糸に伴う光ファイバ裸線3の移動に追従して、所望のコート厚を確保して光ファイバ裸線3にコートされた状態でファイバ出口孔535から引き出されていく。
【0050】
この実施形態の製造装置は、冷却・コーティングユニット50を通過した光ファイバ裸線3を硬化装置7に引き込まれて、光ファイバ裸線3にコートされた液状樹脂材料58の硬化がなされるように構成される。冷却・コーティングユニット50と前記硬化装置7との間には、別途、コーティング装置を介在設置する必要が無い。
【0051】
(別実施形態2)
本発明に係る冷却装置5に設けられるファイバ出口シール部としては、光ファイバ裸線の通過を許容しかつ前記光ファイバ裸線の周囲をシールして冷却筒52下端からの冷却ガスの流出を防ぐ構成のものであれば良く、メニスカスシール部に限定されない。
例えば、図11(a)、(b)に示すように、可撓性の樹脂フィルム536を複数用い、これら樹脂フィルム536を光ファイバ裸線に接触させることで光ファイバ裸線の周囲をシールして、光ファイバ裸線の通過を許容しかつ冷却筒52下端からの冷却ガスの流出を防ぐように構成したファイバ出口シール部53Bも採用可能である。このファイバ出口シール部53Bを、以下、フィルム接触シール部とも言う。
【0052】
図11(a)、(b)に例示したフィルム接触シール部53Bは、一対のリング状固定部材537、538の間に、互いに重ね合わせた複数枚(図示例では2枚)の樹脂フィルム536を挟み込んだ構成になっている。なお、説明の便宜上、図11(a)、(b)において、2枚の樹脂フィルム536の内、上側(図11(a)において上側)の樹脂フィルム536に符号536A、下側(図11(a)において下側)の樹脂フィルム536に符号536Bを付している。
【0053】
図11(b)は、フィルム接触シール部53Bの構成を示す平面図(上側のリング状固定部材537側から見た図)である。但し、図11(b)は、複数の樹脂フィルム536A、536Bに光ファイバ裸線を通していない状態を示す。
図11(a)に示すように、一対のリング状固定部材537、538は、冷却筒52の下側にて、それぞれの内側空間の軸心を冷却筒52下端のファイバ通過孔512の軸心に一致させて上下に重ねるようにして設けられている。図11(b)に示すように、樹脂フィルム536A、536Bは円形に形成されており、その外周部が一対のリング状固定部材537、538の間に挟持されている。
【0054】
また、複数枚の樹脂フィルム536A、536Bには、それぞれ、一対のリング状固定部材537、538の軸心に重なる中心点536aから放射状に延在するスリット536bが複数形成されている。但し、このスリット536bは、樹脂フィルム536の外周部に達しないように形成されている。各樹脂フィルム536A、536Bは、スリット536bによって分割されて個々に弾性変形可能な複数の接触片部536cが外周部536bからその内側へ(中心点536aに向かって)張り出すように形成された構成になっている。
また、冷却筒52からの冷却ガスGの流出、外気の流入を阻止するために、樹脂フィルム536A、536Bのスリット536bの位置は前記中心点536aを中心とする軸回り方向(リング状固定部材537、538の周方向)において一致せず、互いにずらされている。
【0055】
図11(a)において一対のリング状固定部材537、538の内、上側に位置するリング状固定部材537と冷却筒52との間、一対のリング状固定部材537、538の間には、冷却筒52からの冷却ガスGの流出、外気の流入を阻止できる充分なシール性が確保されている。
【0056】
このフィルム接触シール部53Bには、冷却筒52から引き出された光ファイバ裸線3が引き込まれ、複数枚の樹脂フィルム536の中央部(具体的には中心点536a)を貫通させて引き通される。図11(a)に示すように、「フィルム接触シール部53Bに光ファイバ裸線3が引き通された状態において、各樹脂フィルム536A、536Bは一対のリング状固定部材537、538の間に挟み込まれた外周部536bから中央部側(すなわち光ファイバ裸線3側)に行くにしたがって下側となるように湾曲変形され、接触片部536cの先端部(外周部536bとは反対側の端部)が光ファイバ裸線3の外周と接触状態となる。互いに重ね合わされた複数枚の樹脂フィルム536は、互いに重なり合った状態を維持したまま、一枚のシートの如く一体的に湾曲変形する。このとき、樹脂フィルム536自体の可撓性、柔軟性により、各接触片部536cの先端部が光ファイバ裸線3の外周形状に追従するように変形する上、樹脂フィルム536自体の弾性復元力によって光ファイバ裸線3に対する接触片部536cの接触状態が安定に維持される。このため、複数枚の樹脂フィルム536A、536Bによって、前記光ファイバ裸線3の周囲をシールして冷却筒52下端からの冷却ガスの流出を防ぐことができる。また、このフィルム接触シール部53Bは、樹脂フィルム536の変形によって、光ファイバ裸線3の通過を許容することは言うまでも無い。
【0057】
なお、樹脂フィルム536の材質としては、例えば、シリコーン樹脂、四フッ化エチレン樹脂等を好適に用いることができる。シリコーン樹脂フィルム、四フッ化エチレン樹脂フィルムは、可撓性、柔軟性に優れ、また、表面の接触抵抗が小さい樹脂フィルムを容易に得ることができる点で、フィルム接触シール部53Bに用いて特に好適である。
また、この実施形態において、フィルム接触シール部に設ける樹脂フィルムの枚数は2枚に限定されず、3枚以上であっても良い。また、フィルム接触シール部は、1枚の樹脂フィルムのみで充分なシール性を確保できる場合は、複数枚の樹脂フィルムを重ね合わせることなく、樹脂フィルムを1枚のみ用いた構成とすることも可能である。
【符号の説明】
【0058】
1…光ファイバ素線製造装置、2…光ファイバ母材、3…光ファイバ裸線、4…加熱炉、5…冷却装置、50…冷却・コーティングユニット、51…光ファイバ挿通孔、511、512…ファイバ通過孔、52…冷却筒、52a…外周壁、52b…ガス導入孔、53、53A…ファイバ出口シール部(メニスカスシール部)、53B…ファイバ出口シール部(フィルム接触シール部)、530、530A…ケース部、531…天板部、532…貯液部、533…ファイバ入口孔、534…液状封止材、535、535a…ファイバ出口孔、536、536A、536B…樹脂フィルム、536a…中心点、536b…スリット、537、538…リング状部材、53S…内側空間、54…冷却ガス導入ポート、56…天板部、57…底板部、58…液状樹脂材料、59…液供給ポート、6…コーティング装置、7…硬化装置、8…光ファイバ素線、9…巻き取り機。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱炉にて光ファイバ母材から溶融紡糸した光ファイバ裸線を冷却装置にて冷却し、次いでコーティング装置にて前記光ファイバ裸線に保護被覆層を形成するための液状樹脂材料を塗布し、硬化装置にて前記液状樹脂材料を硬化させて保護被覆層を形成することで光ファイバ素線を得る光ファイバ素線の製造方法であって、
前記冷却装置として、前記光ファイバ裸線が上下方向に引き通される光ファイバ挿通孔と、前記光ファイバ裸線の冷却用の冷却ガスを前記光ファイバ挿通孔に導入するための冷却ガス導入ポートとを有する冷却筒を具備し、前記冷却筒の下端側に、前記光ファイバ裸線の通過を許容しかつ前記光ファイバ裸線の周囲をシールして前記冷却ガスの流出を防ぐファイバ出口シール部が設けられ、前記光ファイバ挿通孔内に供給された冷却ガスが前記冷却筒の上部からのみ流出可能であり前記冷却ガスが前記光ファイバ挿通孔内に上昇流を形成するものを採用し、
前記冷却装置の前記光ファイバ挿通孔内の冷却ガスの上昇流の流速をVQ(m/min)、製造安定範囲の最大線速をνD(m/min)としたとき、5.5×10−3×νD−2.5×10−1≦VQを満たす冷却ガス流速で光ファイバ裸線を冷却することを特徴とする光ファイバ素線の製造方法。
【請求項2】
前記冷却ガスを前記冷却装置の前記光ファイバ挿通孔内に該光ファイバ挿通孔内を満たすに充分な流速で流入させた状態にて光ファイバ裸線を製造安定範囲の最大線速で紡糸し、前記光ファイバ裸線を前記保護被覆層の形成安定範囲の温度に冷却するために必要となる冷却長を把握し、この把握した冷却長を確保できる冷却装置を使用し前記光ファイバ挿通孔内の冷却ガスの上昇流に5.5×10−3×νD−2.5×10−1≦VQを満たす流速を確保した状態にて前記光ファイバ裸線を紡糸することを特徴とする請求項1記載の光ファイバ素線の製造方法。
【請求項3】
前記流速VQが100m/min以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の光ファイバ素線の製造方法。
【請求項4】
前記冷却装置は、前記冷却ガス導入ポートが前記光ファイバ挿通孔の下端部に連通され、この冷却ガス導入ポートから前記光ファイバ挿通孔に導入して前記光ファイバ挿通孔内をその下端部から冷却筒の上部に向かって流した前記冷却ガスによって前記光ファイバ挿通孔内の光ファイバ裸線を冷却することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光ファイバ素線の製造方法。
【請求項5】
前記冷却筒は、前記光ファイバ挿通孔に導入して前記光ファイバ挿通孔内をその下端部から冷却筒の上部に向かって流した前記冷却ガスが、前記冷却筒の上端部に開口する前記光ファイバ挿通孔の上端開口部のみから流出するように構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光ファイバ素線の製造方法。
【請求項6】
前記ファイバ出口シール部が、前記冷却筒の下側に固定され前記冷却筒を通過した光ファイバ裸線が引き通されるケース部内に前記光ファイバ裸線の通過を許容しかつ前記光ファイバ裸線の周囲をシールして前記冷却ガスの流出を防ぐ液状封止材を収容したものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光ファイバ素線の製造方法。
【請求項7】
前記液状封止材が保護被覆層を形成するための液状樹脂材料であり、前記ファイバ出口シール部が前記コーティング装置として機能するものであることを特徴とする請求項6記載の光ファイバ素線の製造方法。
【請求項8】
紡糸線速が1000m/min以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の光ファイバ素線の製造方法。
【請求項9】
光ファイバ母材を溶融して前記光ファイバ母材から光ファイバ裸線を紡糸するための加熱炉と、この加熱炉にて紡糸された光ファイバ裸線を冷却するための冷却装置と、この冷却装置にて冷却後の光ファイバ裸線に保護被覆層を形成するための液状樹脂材料を塗布するコーティング装置と、このコーティング装置にて前記光ファイバ裸線に塗布された液状樹脂材料を硬化させて前記保護被覆層を形成するための硬化装置とを具備し、
前記冷却装置として、前記光ファイバ裸線が上下方向に引き通される光ファイバ挿通孔と、前記光ファイバ裸線の冷却用の冷却ガスを前記光ファイバ挿通孔に導入するための冷却ガス導入ポートとを有する冷却筒を具備し、前記冷却筒の下端側に、前記光ファイバ裸線の通過を許容しかつ前記光ファイバ裸線の周囲をシールして前記冷却ガスの流出を防ぐファイバ出口シール部が設けられ、前記光ファイバ挿通孔内に供給された冷却ガスが前記冷却筒の上部からのみ流出可能であり前記冷却ガスが前記光ファイバ挿通孔内に上昇流を形成するものを採用し、
前記冷却装置は、該冷却装置の前記光ファイバ挿通孔内の冷却ガスの流速をVQ(m/min)、製造安定範囲の最大線速をνD(m/min)としたとき、前記光ファイバ挿通孔内に上昇流を形成する前記冷却ガスに5.5×10−3×νD−2.5×10−1≦VQを満たす冷却ガス流速で光ファイバ裸線を冷却することを特徴とする光ファイバ素線の製造装置。
【請求項10】
前記冷却装置として、該冷却装置内を冷却ガスで満たすに充分な流速で冷却ガスを流入させた状態にて製造安定範囲の最大線速で紡糸するときに必要となる冷却長を確保したものを用いることを特徴とする請求項9記載の光ファイバ素線の製造装置。
【請求項11】
前記流速VQが100m/min以下であることを特徴とする請求項9又は10記載の光ファイバ素線の製造装置。
【請求項12】
前記冷却装置は、前記冷却ガス導入ポートが前記光ファイバ挿通孔の下端部に連通され、この冷却ガス導入ポートから前記光ファイバ挿通孔に導入して前記光ファイバ挿通孔内をその下端部から冷却筒の上部に向かって流した前記冷却ガスによって前記光ファイバ挿通孔内の光ファイバ裸線を冷却することを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の光ファイバ素線の製造装置。
【請求項13】
前記冷却筒は、前記光ファイバ挿通孔に導入して前記光ファイバ挿通孔内をその下端部から冷却筒の上部に向かって流した前記冷却ガスが、前記冷却筒の上端部に開口する前記光ファイバ挿通孔の上端開口部のみから流出するように構成されていることを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載の光ファイバ素線の製造装置。
【請求項14】
前記ファイバ出口シール部が、前記冷却筒の下側に固定され前記冷却筒を通過した光ファイバ裸線が引き通されるケース部内に前記光ファイバ裸線の通過を許容しかつ前記光ファイバ裸線の周囲をシールして前記冷却ガスの流出を防ぐ液状封止材を収容したものであることを特徴とする請求項9〜13のいずれかに記載の光ファイバ素線の製造装置。
【請求項15】
前記液状封止材が保護被覆層を形成するための液状樹脂材料であり、前記ファイバ出口シール部が前記コーティング装置として機能するものであることを特徴とする請求項14記載の光ファイバ素線の製造装置。
【請求項16】
1000m/min以上の紡糸線速にて使用されることを特徴とする請求項9〜15のいずれかに記載の光ファイバ素線の製造装置。
【請求項1】
加熱炉にて光ファイバ母材から溶融紡糸した光ファイバ裸線を冷却装置にて冷却し、次いでコーティング装置にて前記光ファイバ裸線に保護被覆層を形成するための液状樹脂材料を塗布し、硬化装置にて前記液状樹脂材料を硬化させて保護被覆層を形成することで光ファイバ素線を得る光ファイバ素線の製造方法であって、
前記冷却装置として、前記光ファイバ裸線が上下方向に引き通される光ファイバ挿通孔と、前記光ファイバ裸線の冷却用の冷却ガスを前記光ファイバ挿通孔に導入するための冷却ガス導入ポートとを有する冷却筒を具備し、前記冷却筒の下端側に、前記光ファイバ裸線の通過を許容しかつ前記光ファイバ裸線の周囲をシールして前記冷却ガスの流出を防ぐファイバ出口シール部が設けられ、前記光ファイバ挿通孔内に供給された冷却ガスが前記冷却筒の上部からのみ流出可能であり前記冷却ガスが前記光ファイバ挿通孔内に上昇流を形成するものを採用し、
前記冷却装置の前記光ファイバ挿通孔内の冷却ガスの上昇流の流速をVQ(m/min)、製造安定範囲の最大線速をνD(m/min)としたとき、5.5×10−3×νD−2.5×10−1≦VQを満たす冷却ガス流速で光ファイバ裸線を冷却することを特徴とする光ファイバ素線の製造方法。
【請求項2】
前記冷却ガスを前記冷却装置の前記光ファイバ挿通孔内に該光ファイバ挿通孔内を満たすに充分な流速で流入させた状態にて光ファイバ裸線を製造安定範囲の最大線速で紡糸し、前記光ファイバ裸線を前記保護被覆層の形成安定範囲の温度に冷却するために必要となる冷却長を把握し、この把握した冷却長を確保できる冷却装置を使用し前記光ファイバ挿通孔内の冷却ガスの上昇流に5.5×10−3×νD−2.5×10−1≦VQを満たす流速を確保した状態にて前記光ファイバ裸線を紡糸することを特徴とする請求項1記載の光ファイバ素線の製造方法。
【請求項3】
前記流速VQが100m/min以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の光ファイバ素線の製造方法。
【請求項4】
前記冷却装置は、前記冷却ガス導入ポートが前記光ファイバ挿通孔の下端部に連通され、この冷却ガス導入ポートから前記光ファイバ挿通孔に導入して前記光ファイバ挿通孔内をその下端部から冷却筒の上部に向かって流した前記冷却ガスによって前記光ファイバ挿通孔内の光ファイバ裸線を冷却することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光ファイバ素線の製造方法。
【請求項5】
前記冷却筒は、前記光ファイバ挿通孔に導入して前記光ファイバ挿通孔内をその下端部から冷却筒の上部に向かって流した前記冷却ガスが、前記冷却筒の上端部に開口する前記光ファイバ挿通孔の上端開口部のみから流出するように構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光ファイバ素線の製造方法。
【請求項6】
前記ファイバ出口シール部が、前記冷却筒の下側に固定され前記冷却筒を通過した光ファイバ裸線が引き通されるケース部内に前記光ファイバ裸線の通過を許容しかつ前記光ファイバ裸線の周囲をシールして前記冷却ガスの流出を防ぐ液状封止材を収容したものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光ファイバ素線の製造方法。
【請求項7】
前記液状封止材が保護被覆層を形成するための液状樹脂材料であり、前記ファイバ出口シール部が前記コーティング装置として機能するものであることを特徴とする請求項6記載の光ファイバ素線の製造方法。
【請求項8】
紡糸線速が1000m/min以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の光ファイバ素線の製造方法。
【請求項9】
光ファイバ母材を溶融して前記光ファイバ母材から光ファイバ裸線を紡糸するための加熱炉と、この加熱炉にて紡糸された光ファイバ裸線を冷却するための冷却装置と、この冷却装置にて冷却後の光ファイバ裸線に保護被覆層を形成するための液状樹脂材料を塗布するコーティング装置と、このコーティング装置にて前記光ファイバ裸線に塗布された液状樹脂材料を硬化させて前記保護被覆層を形成するための硬化装置とを具備し、
前記冷却装置として、前記光ファイバ裸線が上下方向に引き通される光ファイバ挿通孔と、前記光ファイバ裸線の冷却用の冷却ガスを前記光ファイバ挿通孔に導入するための冷却ガス導入ポートとを有する冷却筒を具備し、前記冷却筒の下端側に、前記光ファイバ裸線の通過を許容しかつ前記光ファイバ裸線の周囲をシールして前記冷却ガスの流出を防ぐファイバ出口シール部が設けられ、前記光ファイバ挿通孔内に供給された冷却ガスが前記冷却筒の上部からのみ流出可能であり前記冷却ガスが前記光ファイバ挿通孔内に上昇流を形成するものを採用し、
前記冷却装置は、該冷却装置の前記光ファイバ挿通孔内の冷却ガスの流速をVQ(m/min)、製造安定範囲の最大線速をνD(m/min)としたとき、前記光ファイバ挿通孔内に上昇流を形成する前記冷却ガスに5.5×10−3×νD−2.5×10−1≦VQを満たす冷却ガス流速で光ファイバ裸線を冷却することを特徴とする光ファイバ素線の製造装置。
【請求項10】
前記冷却装置として、該冷却装置内を冷却ガスで満たすに充分な流速で冷却ガスを流入させた状態にて製造安定範囲の最大線速で紡糸するときに必要となる冷却長を確保したものを用いることを特徴とする請求項9記載の光ファイバ素線の製造装置。
【請求項11】
前記流速VQが100m/min以下であることを特徴とする請求項9又は10記載の光ファイバ素線の製造装置。
【請求項12】
前記冷却装置は、前記冷却ガス導入ポートが前記光ファイバ挿通孔の下端部に連通され、この冷却ガス導入ポートから前記光ファイバ挿通孔に導入して前記光ファイバ挿通孔内をその下端部から冷却筒の上部に向かって流した前記冷却ガスによって前記光ファイバ挿通孔内の光ファイバ裸線を冷却することを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の光ファイバ素線の製造装置。
【請求項13】
前記冷却筒は、前記光ファイバ挿通孔に導入して前記光ファイバ挿通孔内をその下端部から冷却筒の上部に向かって流した前記冷却ガスが、前記冷却筒の上端部に開口する前記光ファイバ挿通孔の上端開口部のみから流出するように構成されていることを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載の光ファイバ素線の製造装置。
【請求項14】
前記ファイバ出口シール部が、前記冷却筒の下側に固定され前記冷却筒を通過した光ファイバ裸線が引き通されるケース部内に前記光ファイバ裸線の通過を許容しかつ前記光ファイバ裸線の周囲をシールして前記冷却ガスの流出を防ぐ液状封止材を収容したものであることを特徴とする請求項9〜13のいずれかに記載の光ファイバ素線の製造装置。
【請求項15】
前記液状封止材が保護被覆層を形成するための液状樹脂材料であり、前記ファイバ出口シール部が前記コーティング装置として機能するものであることを特徴とする請求項14記載の光ファイバ素線の製造装置。
【請求項16】
1000m/min以上の紡糸線速にて使用されることを特徴とする請求項9〜15のいずれかに記載の光ファイバ素線の製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−222197(P2010−222197A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−72640(P2009−72640)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】
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