説明

光ファイバ素線の製造方法と製造装置

【課題】シリコーン樹脂を被覆材とした光ファイバ素線の作製において、被覆材の偏肉を改善すること。
【解決手段】光ファイバ裸線に対し、第1の塗布装置によって熱硬化型樹脂を塗布し、次いで第1の熱架橋炉によって熱硬化型樹脂を硬化させることで1層目の被覆層を形成する工程と、第2の塗布装置によって熱硬化型樹脂を塗布し、第2の熱架橋炉によって熱硬化型樹脂を硬化させることで2層目の被覆層を形成する工程とを有する光ファイバ素線の製造方法において、線速をV[cm/分]とすると、第1の塗布装置のダイス出口から第1の熱架橋炉までの距離L[cm]が、線速20000cm/分以下の範囲において、1≦L≦−0.0005×V+15.5なる関係式を満たすこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆材として熱硬化型樹脂を用いた光ファイバの紡糸工程において、熱硬化型樹脂と光ファイバ裸線との間の偏心量による偏肉(被覆層の最大厚と最小厚の比)を抑制することを可能とする光ファイバ素線の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光通信に用いられる石英ガラス製の光ファイバは、微小な傷による強度低下の防止や側圧による伝送損失の増加を防止することなどを目的として、石英ガラスの表面に保護用の被覆層が施されているのが一般的である。
【0003】
この被覆層を形成する材料には紫外線硬化型樹脂が使用されることが多いが、光ファイバ素線に耐熱性が要求される時などには、この被覆層に熱硬化型のシリコーン樹脂が使用されることが知られている。また、光ファイバ素線の被覆層は、2層コーティングであることが一般的である。そして、内側の被覆層(1層目の被覆層)には相対的に柔らかい樹脂を用い、外側の被覆層(2層目の被覆層)には相対的に堅い樹脂を用いることが公知である。
【0004】
2層コーティングの光ファイバ素線10は、図1に示すような光ファイバの紡糸装置1を用いて、光ファイバ母材2(プリフォームともいう)から製造されることが知られている。
まず、光ファイバ母材2は加熱炉3の内部で溶融され、光ファイバ裸線4として所定の外径に引き落とされる。次いで、光ファイバ裸線4は、冷却装置5において冷却される。次いで光ファイバ裸線4は、1層目の塗布装置6によってシリコーン樹脂を塗布され、次いで1層目の熱架橋炉7によって塗布された樹脂が硬化される。次いで同様に第2の塗布装置8によってシリコーン樹脂を塗布され、次いで第2の熱架橋炉9によって樹脂が硬化され、2層コーティングされた光ファイバ素線10となる。最後に、光ファイバ素線10は、ターンプーリー11を通過した後、巻取り機(図示せず)に巻き取られる。
【0005】
また、熱架橋炉7、9の内部にはアルゴンや窒素などの不活性ガスを流入させることが一般的である。熱架橋炉7、9の内部に酸素が多量に存在すると硬化時の発熱反応や酸化反応等によってシリコーン樹脂が燃えてしまう場合があるため、また、酸素にはシリコーン樹脂の硬化を妨げる働きもあるため、アルゴンガスや窒素ガスなどの不活性ガスを流入させることにより、熱架橋炉7、9の内部を酸素がほとんどない状態に維持している。
【0006】
光ファイバ素線10の製造においては、被覆層の最大厚と最小厚を均一化し、偏肉を1に近づけることが重要であり、これまでに各種検討が行われている。偏肉が悪いと、側圧特性が悪化(側圧により、損失が増加する)する現象が発生したり、最悪の場合は、被覆厚が薄い部分で被覆が破壊され、光ファイバ素線の強度不良が発生したりする問題がある。
【0007】
一般的に、シリコーン樹脂は紫外線硬化型樹脂と比較して、硬化速度が遅いため、シリコーン樹脂を被覆する光ファイバ素線においては、線引きされる線速は遅く設定されている。このように線速が遅い場合は、偏肉不良が発生する頻度は少なく、シリコーン樹脂を被覆する光ファイバ素線では偏肉が問題となることは少なかった。
ただし、シリコーン樹脂を被覆する光ファイバ素線においても、紡糸線速を上げることにより、製造コストの低減が可能になることから、高速化(100〜200m/分程度)の検討を行ったところ、偏肉が悪化してしまう問題が発生した。
【0008】
従来の偏肉の問題を解決する手法として、例えば特許文献1〜2に記載されたものがある。
特許文献1には、ダイス、およびニップルの配置、および寸法などを規定することにより、高い線速で光ファイバに樹脂を均一に塗布する装置が開示されている。
特許文献2には、光ファイバに対する被覆装置の傾斜角度を変化させることで、光ファイバの被覆層の異常が最小となるように、光ファイバが被覆装置内のダイス、ニップル穴内を通過する位置を調整し、偏肉を改善する装置が開示されている。
【特許文献1】特開平4−124048号公報
【特許文献2】特開2003−252653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の従来の技術を使用した光ファイバ素線の作製において、シリコーン樹脂を被覆材とした高速線引き(100〜200m/分程度)を行ったところ、被覆厚は均一にならず、偏肉を改善することはできなかった。
【0010】
上述した問題点を解決するために、鋭意研究を行った結果、シリコーン樹脂塗布直後の偏肉は良好であるが、シリコーン樹脂が塗布されてからボビンに巻き取られる間に偏肉が悪くなっていることが判明した。そして、シリコーン樹脂塗布後から硬化するまでの間に、ガラスに力が働き、シリコーン樹脂中でガラスが動いてしまっていることを突き止めた。ガラスには線引き方向に対して、垂直な力が働いていることになる。この力が発生するメカニズムは完全には解明できていないが、光ファイバ素線に最初に接触し、かつ光ファイバ素線の進行方向を曲げる部品(ターンプーリー)が影響していると考えられ、パスラインを曲げるときに生ずる遠心力が影響しているのではないかと考えられている。
【0011】
紫外線硬化型樹脂の場合、紫外線が被覆材中を通過する速度と硬化反応速度とを比較すると、圧倒的に紫外線が被覆材中を通過する速度のほうが速いことが知られている。従って、径方向の樹脂の硬化速度はほぼ均等となる。一方、熱硬化型樹脂の場合、被覆材中の熱の伝播速度と硬化反応速度とを比較すると、両者の違いはそれほど大きくないことが知られている。従って径方向の樹脂の硬化速度は均等ではない。よって早く硬化する箇所と遅く硬化する箇所ができてしまうことになる。紡糸線速が小さい場合には、径方向の硬化速度の不均一性問題は相対的に小さいものであり問題にはならない。しかし、紡糸線速が大きくなった場合には、径方向の効果速度の不均一問題は、相対的に大きくなり、問題になってくる。さらに、偏肉が大きい場合、早く硬化する箇所と遅く硬化する箇所の差が大きくなるので、径方向の硬化を極力均一にすることが重要なのは自明である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の光ファイバ素線の製造方法は、
光ファイバ裸線に対し、第1の塗布装置によって第1の熱硬化型樹脂を塗布し、次いで第1の熱架橋炉によって前記第1の熱硬化型樹脂を硬化させることで1層目の被覆層を形成する工程と、第2の塗布装置によって第2の熱硬化型樹脂を塗布し、第2の熱架橋炉によって前記第2の熱硬化型樹脂を硬化させることで2層目の被覆層を形成する工程とを有する光ファイバ素線の製造方法において、
線速をV[cm/分]とすると、前記第1の塗布装置のダイス出口から前記第1の熱架橋炉までの距離L[cm]が、線速20000cm/分以下の範囲において、1≦L≦−0.0005×V+15.5なる関係式を満たすことを特徴とする。
本発明の光ファイバ素線の製造方法において、前記第1の熱架橋炉の入口部分の酸素濃度は1%以下であることが好ましい。
本発明の光ファイバ素線の製造方法において、前記熱硬化型樹脂はシリコーン樹脂であることが好ましい。
【0013】
本発明の光ファイバ素線の製造装置は、
光ファイバ裸線に対し、第1の熱硬化型樹脂を塗布する第1の塗布装置と、
前記第1の熱硬化型樹脂を硬化させる第1の熱架橋炉と、
第2の熱硬化型樹脂を塗布する第2の塗布装置と、
前記第2の熱硬化型樹脂を硬化させる第2の熱架橋炉とを備え、
線速をV[cm/分]とすると、前記第1の塗布装置のダイス出口から前記第1の熱架橋炉までの距離L[cm]が、線速20000cm/分以下の範囲において、1≦L≦−0.0005×V+15.5なる関係式を満たすことを特徴とする。
【0014】
光ファイバ素線の製造装置において、前記第1の熱架橋炉には、不活性ガスを供給するためのガス導入管が形成され、前記第1の熱架橋炉の入口部分の酸素濃度が1%以下に調整されていることが好ましい。
光ファイバ素線の製造装置において、前記熱硬化型樹脂はシリコーン樹脂であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光ファイバ素線の製造方法によれば、第1の塗布装置のダイス出口から第1の熱架橋炉までの距離をL[cm]、線速をV[cm/分]とすると、線速20000cm/分以下の範囲において、1≦L≦−0.0005×V+15.5なる関係式を満たすよう規定することによって、偏肉が良好である熱硬化型樹脂を被覆した光ファイバ素線を提供することが可能となる。
また、第1の熱架橋炉の入口部分の酸素濃度を1%以下とすることによっても、偏肉が良好である熱硬化型樹脂を被覆した光ファイバ素線を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明について詳細に説明する。図1は本発明に係る光ファイバ素線の製造方法の実施形態を示す図面である。
本発明の実施形態の製造装置(紡糸装置)1は、加熱炉3、冷却装置5、第1の塗布装置6、第1の熱架橋炉7、第2の塗布装置8、第2の熱架橋炉9、ターンプーリー11を備えて構成される。第1の熱架橋炉7および第2の熱架橋炉9の側面には、窒素ガスなどの不活性ガスを供給するためのガス導入管7a、9aが形成されている。また、第1の熱架橋炉7の入口部分には、入口部分の酸素濃度を測定するための、酸素測定装置(図示せず)が設けられている。
【0017】
次に光ファイバ素線の製造方法について説明する。
まず、光ファイバ母材2が、加熱炉3にて溶融変形され、光ファイバ裸線4として加熱炉3の出口から引き出される。次いで、光ファイバ裸線は、加熱炉3の下方に設置された冷却装置5において強制冷却される。次いで、冷却された光ファイバ裸線4には、冷却装置4の下方に設置された第1の塗布装置6において、シリコーン樹脂による保護被覆層が形成され、次いで第1の熱架橋炉7によってシリコーン樹脂が硬化される。同様に、第2の塗布装置8において、シリコーン樹脂による保護被覆層が形成され、第2の熱架橋炉9によってシリコーン樹脂が硬化される。
また、この間、熱架橋炉7、9の内部には、酸素によるシリコーン樹脂の硬化不良を防ぐため、アルゴンや窒素などの不活性ガスを、ガス導入管7a、9aより流入させている。不活性ガスの流量は、熱架橋炉の入口部分の酸素濃度によって自動調整される。例えば、酸素濃度が高い場合には不活性ガスの流量を増やすことで酸素濃度を低く調整している。
【0018】
このような構成の光ファイバ素線の紡糸装置1において、本発明では、1層目のシリコーン樹脂の硬化開始位置を規定することとした。すなわち、第1の塗布装置6のダイス出口から第1の熱架橋炉7までの距離L[cm]、線速をV[cm/分]とすると、線速20000cm/分以下の範囲において、1≦L≦−0.0005×V+15.5なる関係式を満たす範囲に規定した。
このように、第1の塗布装置6のダイス出口から第1の熱架橋炉7までの距離Lを規定することにより、偏肉が良好である熱硬化型樹脂を被覆した光ファイバ素線を提供することが可能となる。
【0019】
第1熱架橋炉7の内部には窒素やアルゴンなどの不活性ガスを流入させているため、酸素はほとんどない状態であるが、第1の熱架橋炉7の入口部分では、光ファイバ素線の突入時に空気の巻き込みがあるため、ある程度酸素が存在している場合がある。
上述したように、熱架橋炉の内部に酸素が多量に存在すると、シリコーン樹脂が燃えてしまう場合や、酸素によってシリコーン樹脂の硬化が妨げられるなどの硬化不良が生じる。本発明の実施形態においては、このような硬化不良を防ぐために、第1の熱架橋炉7の入口部分の酸素濃度が1%以下とするように、窒素ガスなどの不活性ガスの流量を調整した。
このように、第1の熱架橋炉7の入口部分の酸素濃度を規定することにより、偏肉が良好である熱硬化型樹脂を被覆した光ファイバ素線を提供することが可能となる。
【0020】
なお、本発明では1層目のシリコーン樹脂の塗布についての製造方法を規定した。同様の方法で、2層目のシリコーン樹脂の塗布を行ったところ、偏肉に対して大きな影響は見られなかった。1層目と2層目の偏肉に対する影響度の違いについては、シリコーン樹脂とシリコーン樹脂を塗布される側の摩擦力が、1層目(シリコーン樹脂と石英ガラス)よりも、2層目(シリコーン樹脂同士)が大きいことにより、シリコーン樹脂とシリコーン樹脂を塗布される側との間の相対的な移動が少ないからであると考えられる。
【0021】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0022】
<実施例1>
被覆材にシリコーン樹脂を用いて、1層目の被覆径を250μm、2層目の被覆径を400μmとした光ファイバ素線の線引きを行った。線引きの線速は50、100、150、200m/分の条件にて行った。また、熱架橋炉内の酸素濃度は十分低い値となるように、ガス導入管より窒素などの不活性ガスを流入させた。この時、第1の熱架橋炉内部の上部入口部分の酸素濃度は100ppmであった。
第1の塗布装置のダイス出ロから第1の熱架橋炉の入口までの距離を0.5〜15cmの範囲で変化させ、この時の1層目の被覆層の被覆厚の最大厚と最小厚を測定し、偏肉を算出した。結果を表1および図2に示す。偏肉の値は1層目の被覆層の最大厚と最小厚の比で表記した。
【0023】
【表1】

【0024】
各条件とも、第1の塗布装置のダイス出口から第1の熱架橋炉まで距離がある一定値以下である場合は、1層目の偏肉は1.2以下となり、良好な状態であった。また、1層目の偏肉が1.2以下となる範囲では、被覆層全体の偏肉も1.2以下となり、良好な状態であった。
一方、第1の被覆装置のダイス出口から熱架橋炉までの距離を0.5cmとすると、ダイスの出口付近で硬化した樹脂が、そのままダイスの出口付近に残ってしまい、被覆異常を発生させてしまうことがあった。
【0025】
各線速で1層目の偏肉が1.2以下となる、第1の塗布装置のダイス出口から熱架橋炉までの距離と線速との関係を表2および図3に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
今回実験した線速の範囲(線速20000cm/分以下)では、線速とダイス出口から熱架橋炉までの距離とが、逆比例した関係となっていることがわかった。つまり、1層目の偏肉が1.2以下となる第1の塗布装置のダイス出口から熱架橋炉までの距離をL[cm]、線速をV[cm/分]とすると、L=−0.0005×V+15.5なる関係式を満たしている。
上述したように、Lを0.5cmとすると、被覆異常が発生するため、1層目の偏肉が1.2以下となる条件は、1≦L≦−0.0005×V+15.5であることがわかった。
【0028】
線速によって偏肉に影響が生じる原因は、前述した通り、光ファイバが曲げられる部分で発生している遠心力の影響、もしくは径方向硬化速度の不均一性が相対的に大きくなってしまうことであると考えられる。
【0029】
<実施例2>
偏肉については、紡糸時に、光ファイバを構成する石英ガラスにかかる張力や、被覆層を構成する樹脂の粘度からの影響もあると考えられる。
そこで、上記張力および粘度の偏肉に対する影響を調べるため、以下のような条件で光ファイバ素線の線引きを行った。線速を200m/分、第1の塗布装置のダイス出口から熱架橋炉までの距離を5cmとし、石英ガラスにかかる張力を実質的な製造範囲である100〜200gfで変化させ、樹脂の粘度を、やはり実質的な製造範囲である1000〜3000cpsで変化させて線引きを行い、偏肉を測定した。
その結果、すべての範囲において1層目の偏肉が1.2以下の値となり、石英ガラスにかかる張力および被覆層を構成する樹脂の粘度は、前記製造範囲では、偏肉への影響は小さいことを確認した。
【0030】
<実施例3>
第2の塗布装置のダイス出口から第2の熱架橋炉までの距離の、偏肉への影響を調べるため、以下のような条件で光ファイバ素線の線引きを行った。
線速を200m/分、第1の塗布装置のダイス出口から熱架橋炉までの距離を5cmとした条件とし、第2の塗布装置のダイス出口から第2の熱架橋炉までの距離を1〜15cmの範囲で変化させて線引きを行い、偏肉を測定した。
その結果、すべての範囲において2層コートの被覆全体の偏肉が1.2以下の値となり、前記製造範囲では偏肉への影響は小さいことを確認した。
【0031】
<実施例4>
次に、第1の熱架橋炉の入口部分での酸素濃度が、偏肉に与える影響を調べるための実験を行った。
被覆材にシリコーン樹脂を用いて、1層目の被覆径を250μm、2層目の被覆径を400μmとした光ファイバ素線の線引きを行った。線引きの線速は50、200m/分の条件にて行い、第1の塗布装置のダイス出口から熱架橋炉入口までの距離は線速50m/分の時は1cmおよび13cm、線速200m/分の時は1cmおよび5cmの条件にて行った。
【0032】
第1の熱架橋炉の入口部分での酸素濃度は、不活性ガスの流量を調整することで変化させ、この時の1層目被覆の偏肉を測定した。酸素濃度は0%〜3%まで変化させた。
結果を表3および図4に示す。偏肉の値は1層目の被覆層の最大厚と最小厚の比で表記した。
【0033】
【表3】

【0034】
各条件とも、酸素濃度が1%以下の条件の時は1層目の偏肉は1.2以下となり、良好な状態であった。また、1層目の偏肉が1.2以下となる範囲では、2層目の被覆を施した、2層コーティングの被覆全体の偏肉も1.2以下となり、良好な状態であった。
一方、酸素濃度が2%以上の条件の時では、偏肉は1.7以上となるなど、偏肉が悪くなった。
以上の結果より、1層目の偏肉が1.2以下となる条件は、第1の熱架橋炉の入口部分での酸素濃度が1%以下であることがわかった。
【0035】
<比較例1>
特許文献1を参考にし、特許文献内に規定されている設計のダイスを用いて、コーティング材にシリコーン樹脂を用いて、1層目の被覆径を250μm、2層目の被覆径を400μmとした光ファイバ素線の線引きを行った。線引きの線速は200m/分とした。なお、特許文献1の装置構成は、本願と略同じである。
【0036】
第1の塗布装置のダイス出口から熱架橋炉までの距離は10cmとした。第1の熱架橋炉の入口部分の酸素濃度は2%とした。この結果、線引きした光ファイバ素線の1層目被覆の偏肉は2.4、被覆全体の偏肉は1.8となり、偏肉が悪い結果となった。
【0037】
<比較例2>
特許文献2を参考にし、第1の塗布装置を傾斜させた条件で、コーティング材にシリコーン樹脂を用いて、1層目の被覆径を250μm、2層目の被覆径を400μmとした光ファイバ素線の線引きを行った。線引きの線速は200m/分とした。第1の熱架橋炉の入口部分の酸素濃度は1%とした。なお、特許文献2の装置構成は、本願と略同じであるが、光ファイバが被覆装置を通過する方向に垂直な面に対して傾斜させて被覆することができる被覆装置を備えている。
塗布装置を傾斜させる範囲は水平に対し、前後、左右に20分の角度で傾斜させた。1層目塗布装置のダイス出口から熱架橋炉までの距離は10cmとした。
【0038】
各条件で線引きした光ファイバ素線の1層目被覆の偏肉はいずれも1.7以上となり、偏肉が悪い結果となった。
【0039】
上述の実施例1〜4の結果によれば、線速が200m/分以下の範囲であれば、第1の塗布装置のダイス出口から第1の熱架橋炉までの距離L[cm]が1≦L≦−0.0005×V+15.5なる関係式を満たす場合であれば、偏肉が1.2以下となり、偏肉が良好することが可能である。また、第1の熱架橋炉の入口部分における酸素濃度が1%以下の条件においても、偏肉が1.2以下となり、偏肉が良好することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る実施形態の光ファイバ紡糸装置の概略図である。
【図2】ダイス出口から熱架橋炉までの距離と偏肉との関係を示す図である。
【図3】線速とダイス出口から熱架橋炉までの距離との関係を示す図である。
【図4】酸素濃度と偏肉との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1…光ファイバの製造装置(紡糸装置)、2…光ファイバ母材、3…加熱炉、4…光ファイバ裸線、5…冷却装置、6…第1の塗布装置、7…第1の熱架橋炉、7a…ガス導入管、8…第2の塗布装置、9…第2の熱架橋炉、9a…ガス導入管、10…光ファイバ素線、11…ターンプーリー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ裸線に対し、第1の塗布装置によって第1の熱硬化型樹脂を塗布し、次いで第1の熱架橋炉によって前記第1の熱硬化型樹脂を硬化させることで1層目の被覆層を形成する工程と、第2の塗布装置によって第2の熱硬化型樹脂を塗布し、第2の熱架橋炉によって前記第2の熱硬化型樹脂を硬化させることで2層目の被覆層を形成する工程とを有する光ファイバ素線の製造方法において、
線速をV[cm/分]とすると、前記第1の塗布装置のダイス出口から前記第1の熱架橋炉までの距離L[cm]が、線速20000cm/分以下の範囲において、1≦L≦−0.0005×V+15.5なる関係式を満たすことを特徴とする光ファイバ素線の製造方法。
【請求項2】
前記第1の熱架橋炉の入口部分の酸素濃度が1%以下であることを特徴とした請求項1に記載の光ファイバ素線の製造方法。
【請求項3】
前記第1および第2の熱硬化型樹脂はシリコーン樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバ素線の製造方法。
【請求項4】
光ファイバ裸線に対し、第1の熱硬化型樹脂を塗布する第1の塗布装置と、
前記第1の熱硬化型樹脂を硬化させる第1の熱架橋炉と、
第2の熱硬化型樹脂を塗布する第2の塗布装置と、
前記第2の熱硬化型樹脂を硬化させる第2の熱架橋炉とを備え、
線速をV[cm/分]とすると、前記第1の塗布装置のダイス出口から前記第1の熱架橋炉までの距離L[cm]が、線速20000cm/分以下の範囲において、1≦L≦−0.0005×V+15.5なる関係式を満たすように設定されてなることを特徴とする光ファイバ素線の製造装置。
【請求項5】
前記第1の熱架橋炉には、不活性ガスを供給するためのガス導入管が形成され、前記第1の熱架橋炉の入口部分の酸素濃度が1%以下に調整されていることを特徴とする請求項4に記載の光ファイバ素線の製造装置。
【請求項6】
前記第1および第2の熱硬化型樹脂はシリコーン樹脂であることを特徴とする請求項4または5に記載の光ファイバ素線の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−138043(P2010−138043A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−317450(P2008−317450)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】