説明

光モジュールの製造方法

【課題】気密封止の作業性を向上させた光モジュールの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る光モジュールの製造方法は、光ファイバ3と、光ファイバ3を挿通させる光ファイバ挿通パイプ2とを備える光モジュール10を製造する方法であって、光ファイバ挿通パイプ2を気密封止する封止工程を含んでいる。上記封止工程は、該封止工程における環境雰囲気よりも熱伝導率が高く、かつ、誘導加熱したときの発熱量が該光ファイバ挿通パイプ2よりも小さい熱伝導部材5を、光ファイバ挿通パイプ2の側面に沿接させる接触工程と、熱伝導部材5が沿接している光ファイバ挿通パイプ2を誘導加熱する加熱工程と、光ファイバ挿通パイプ2に設けられた供給孔4に半田6を供給する供給工程とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバを備えた光モジュールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、光モジュールは、LDやLEDなどの発光素子、フォトダイオードなどの受光素子などが筐体内に収容され、当該発光素子や受光素子と光学的に結合した光ファイバが光ファイバ挿通パイプを介して上記筐体外に引き出された構造を有している。
【0003】
このような光モジュールに関して、光モジュール外に引き出された光ファイバを固定する方法が特許文献1に開示されている。特許文献1では、まず、側方に穴を設けられた光ファイバ挿通パイプを用意し、この光ファイバ挿通パイプに光ファイバの端部を挿入する。その後、上記穴に半田片を詰めてレーザ溶接または高周波誘導加熱により半田付けし、これによって光ファイバを固定している。この方法は、従来あった接着剤固定と異なり、経年劣化のおそれが無く、また短時間で作業可能であるため量産に適している。
【0004】
ところで、発光素子および受光素子は外部から侵入する湿気、埃等に大変弱く動作異常又は信頼性を著しく損ねることがある。したがって、光モジュールを製造する際には、発光素子と外部とを完全に遮断するために、光モジュールを気密封止することが必要不可欠となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−64608号公報(1990年3月5日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、光モジュールを好適に製造するために、光モジュールを気密封止する工程の作業性を向上させることに着目し、そのために特許文献1に記載された半田供給方法が有用であることに想到した。
【0007】
そこで、本発明者らは、光ファイバが挿通された光ファイバ挿通パイプを加熱し、光ファイバ挿通パイプに設けられた穴(以下、供給孔と称する)に半田を供給することによって、光ファイバ挿通パイプを気密封止する方法について鋭意検討した。その結果、単純に光ファイバ挿通パイプを加熱しただけでは、気密封止する工程の作業性において、以下のような問題があることを見出した。
【0008】
すなわち、光ファイバ挿通パイプをヒータによって直接加熱する場合には、光ファイバ挿通パイプを半田溶融温度までに上昇させるために時間がかかる。そのため、作業時間が増大するとともに、光ファイバ挿通パイプ長手方向に温度勾配が形成され、溶融した半田の光ファイバ挿通パイプ内の長手方向における濡れ広がりを均一にすることが難しい。また、発光素子が搭載される部分の温度上昇を抑えることも困難である。
【0009】
一方、光ファイバ挿通パイプを高周波誘導加熱する場合には、短時間で光ファイバ挿通パイプを半田溶融温度までに上昇させることができる。そのため、発光素子が搭載される部分の温度上昇を抑えることができる。しかし、誘導加熱による加熱では、発生する熱の分布を細かく制御することは困難であるため、溶融した半田の光ファイバ挿通パイプ内の濡れ広がりが均一にならない場合がある。
【0010】
また、ヒータによる加熱および誘導加熱の何れの場合であっても、光ファイバ挿通パイプの外部は、内部と同じか、それよりも熱くなっている。そのため、半田が外に漏れ出るおそれがあり、パイプ内部に選択的に半田を充填することが難しい。
【0011】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、気密封止の作業性を向上させた光モジュールの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る光モジュールの製造方法は、上記の課題を解決するために、光ファイバと、該光ファイバを挿通させる光ファイバ挿通パイプとを備えている光モジュールの製造方法であって、上記光ファイバ挿通パイプを気密封止する封止工程を含んでおり、上記封止工程は、該封止工程における環境雰囲気よりも熱伝導率が高く、かつ、誘導加熱したときの発熱量が該光ファイバ挿通パイプよりも小さい熱伝導部材を、該光ファイバ挿通パイプの側面に沿接させる接触工程と、該熱伝導部材が沿接している該光ファイバ挿通パイプを誘導加熱する加熱工程と、該光ファイバ挿通パイプに設けられた供給孔に半田を供給する供給工程とを含むことを特徴としている。
【0013】
上記加熱工程では、光ファイバ挿通パイプを誘導加熱することによって、当該光ファイバ挿通パイプの温度を半田溶融温度にまで上昇させる。これにより、供給孔に供給された半田は、光ファイバ挿通パイプの熱を受けて溶融し、供給孔を介して光ファイバ挿通パイプ内に供給される。その後、溶融して光ファイバ挿通パイプ内に供給された半田は、光ファイバ挿通パイプからの熱によってその溶融状態を維持しつつ、その濡れ性によって光ファイバ挿通パイプの内壁と光ファイバとの間に充填される。
【0014】
ここで、上記接触工程において、光ファイバ挿通パイプの側面に上記熱伝導部材を沿接させておくことにより、光ファイバ挿通パイプにおける温度分布を好適に制御して、溶融した半田の濡れ広がりを好適なものとすることができる。
【0015】
すなわち、誘導加熱された状態において、上記熱伝導部材は光ファイバ挿通パイプに比べて温度が低く、また、誘導加熱に起因する温度分布の偏りも小さい。そのため、上記熱伝導部材は、沿接している光ファイバ挿通パイプ側面上の領域の高温部から速やかに熱引きし、温度分布に応じて当該領域の低温部へ熱を与える。これにより、上記熱伝導部材が沿接している光ファイバ挿通パイプ側面上の領域の温度分布が均一化される。それゆえ、溶融した半田は、当該領域の内部において偏りなく濡れ広がり、好適に光ファイバ挿通パイプを気密封止することができる。
【0016】
また、外部から光ファイバ挿通パイプ内に半田を供給する供給孔の外縁部に上記熱伝導部材を沿接させれば、供給孔の外縁部において、パイプ外部の温度がパイプ内部よりも低くなり、半田が外に漏れ出ることを抑制して、パイプ内部に半田を選択的に充填することもできる。
【0017】
したがって、上記方法によれば、光ファイバ挿通パイプにおいて好適な温度分布を形成することにより半田充填による気密封止の作業性を向上させ、光モジュールを効率よく製造することができる。
【0018】
また、本発明に係る光モジュールの製造方法において、上記熱伝導部材は、銅、およびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも一つ以上の金属、当該金属を含んでなる合金、またはセラミックスからなることが好ましい。
【0019】
上記封止工程における環境雰囲気よりも熱伝導率が高く、かつ、誘導加熱したときの発熱量が該光ファイバ挿通パイプよりも小さい熱伝導部材は、銅、およびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも一つ以上の金属、当該金属を含んでなる合金、またはセラミックスから好適に形成することができる。
【0020】
また、本発明に係る光モジュールの製造方法では、上記光ファイバ挿通パイプの側面と上記熱伝導部材との接触部は、該側面の長手方向の全長に亘っていることが好ましい。
【0021】
上記方法によれば、熱伝導部材と光ファイバ挿通パイプの側面との接触部が、該側面の長手方向の全長に亘っているため、光ファイバ挿通パイプの全体に亘って温度分布を均一化することができる。これにより、溶融した半田は、光ファイバ挿通パイプの内部において偏りなく濡れ広がり、好適に光ファイバ挿通パイプを気密封止することができる。
【0022】
また、本発明に係る光モジュールの製造方法では、上記光ファイバ挿通パイプにおける上記供給孔の外縁部と、上記熱伝導部材とが接触しているものであってもよい。
【0023】
上記方法によれば、供給孔の外縁部において、上記熱伝導部材によって熱引きされることにより、パイプ外部の温度がパイプ内部よりも低くなる。そのため、供給孔内の半田は、内部から外部に向かうにつれ、流動性が低くなる。これにより、半田が供給孔の外に漏れ出ることを抑制して、パイプ内部に半田を選択的に充填することができる。
【0024】
また、本発明に係る光モジュールの製造方法において、上記光モジュールは、上記光ファイバ挿通パイプよりも熱伝導率の高い底板を備えた筐体を備えており、上記光ファイバ挿通パイプは、該筐体の側面から延伸しており、上記供給孔は、上記光ファイバ挿通パイプの側面の該底板側に設けられており、上記熱伝導部材は、上記光ファイバ挿通パイプの側面の該底板とは反対側に接触しているものであってもよい。
【0025】
光モジュールが、光ファイバ挿通パイプよりも熱伝導率の高い底板を備えた筐体を備えており、光ファイバ挿通パイプが筐体の側面から延伸している場合、光ファイバ挿通パイプの側面の底板側は、底板によって熱引きされる。そこで、熱伝導部材を、光ファイバ挿通パイプの側面の底板とは反対側に接触させることにより、当該側面の底板とは反対側を熱伝導部材によって熱引きして、光ファイバ挿通パイプの側面の底板側と、底板とは反対側との間の温度差を小さくすることができる。それゆえ、半田をさらに偏りなく濡れ広げることができる。
【0026】
またこれにより、半田が光ファイバ挿通パイプの側面の底板とは反対側に偏ることが抑えられ、半田が光ファイバ挿通パイプの筐体側の端部まで到達したことを首尾よく視認し得るようになるため、気密封止の作業性を向上させることができる。
【0027】
また、本発明に係る光モジュールの製造方法では、上記熱伝導部材は、上記光ファイバが延伸する方向に向けて上記光ファイバ挿通パイプから突き出している突出部を備えており、該光モジュールの製造方法は、該突出部上に、上記光ファイバを封入する樹脂を形成する樹脂形成工程をさらに包含するものであってもよい。
【0028】
樹脂形成工程では、突出部上に光ファイバを封入する樹脂を形成する。突出部は光ファイバが延伸する方向に向けて光ファイバ挿通パイプから突き出しているため、樹脂形成工程を実施することにより、光ファイバの光ファイバ挿通パイプに挿通されていない部分を樹脂によって好適に保護することができる。
【0029】
なお、光ファイバを封入するための樹脂として、光ファイバよりも屈折率の低い樹脂を用いることにより、露出部分において光ファイバから光が漏れることを防ぐことができる。
【0030】
また、本発明に係る光モジュールは、光ファイバと、該光ファイバを挿通させる光ファイバ挿通パイプとを備えている光モジュールであって、該光ファイバ挿通パイプが、半田によって気密封止されており、該封止工程における環境雰囲気よりも熱伝導率が高く、かつ、誘導加熱したときの発熱量が該光ファイバ挿通パイプよりも小さい熱伝導部材が、該光ファイバ挿通パイプの側面に沿接していることを特徴としている。
【0031】
上記のような構成を有する光モジュールであれば、光ファイバ挿通パイプを半田により気密封止するとき、熱伝導部材により光ファイバ挿通パイプにおいて好適な温度分布が形成されるため、半田充填による気密封止の作業性が向上し、効率よく製造することができる。
【0032】
また、上記接触工程、上記供給工程および上記加熱工程を含む、光ファイバが挿通している光ファイバ挿通パイプを気密封止する封止方法もまた、本発明の範疇に含まれる。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係る方法は、光ファイバと、該光ファイバを挿通させる光ファイバ挿通パイプとを備えている光モジュールの製造方法であって、上記光ファイバ挿通パイプを気密封止する封止工程を含んでおり、上記封止工程は、該封止工程における環境雰囲気よりも熱伝導率が高く、かつ、誘導加熱したときの発熱量が該光ファイバ挿通パイプよりも小さい熱伝導部材を、該光ファイバ挿通パイプの側面に沿接させる接触工程と、該熱伝導部材と沿接している該光ファイバ挿通パイプを誘導加熱する加熱工程と、該光ファイバ挿通パイプに設けられた供給孔に半田を供給する供給工程とを含む。したがって、光ファイバ挿通パイプにおいて好適な温度分布を形成することができるため、半田充填による気密封止の作業性を向上させ、光モジュールを効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態に係る光モジュール製造方法における封止工程を説明するための光モジュールの断面図である。
【図2】図1に示す封止工程に用いられる光ファイバ挿通パイプと熱伝導部材との接触部のバリエーションを示す部分拡大図である。
【図3】図1に示す封止工程に用いられる供給孔および熱伝導部材の変形例を説明するための断面図である。
【図4】図1に示す封止工程に用いられる熱伝導部材の変形例を説明するための断面図である。
【図5】図1に示す封止工程に用いられる熱伝導部材の他の変形例を説明するための斜視図である。
【図6】図1に示す封止工程に用いられる熱伝導部材のさらに他の変形例を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0036】
〔光モジュール10について〕
まず、本実施形態に係る光モジュール製造方法において、封止工程のために準備される光モジュール10について図1を参照して説明する。図1は、光モジュール10の断面図である。
【0037】
図1に示すように、光モジュール10は、発光素子12、筐体1、光ファイバ挿通パイプ2、および光ファイバ3を備える。
【0038】
筐体1は、発光素子12を収容および固定する機能を有する光素子パッケージであり、底板1aおよび側面1bを備えており、底板1a上に発光素子12が固定されている。
【0039】
光ファイバ挿通パイプ2は、筐体1の側面1bに設けられ、側面1bから底板1aに平行な方向に延伸している筒状のパイプであって、筐体1の内部および外部に向かって開口している。光ファイバ挿通パイプ2の材料は、後述する高周波誘導加熱により効果的に加熱される材料であることが好ましく、例えば、鉄、または、コバール、ステンレス等の鉄を含有する合金であり得る。また、光ファイバ挿通パイプ2には半田6用の供給孔4が設けられている。以下では、供給孔4が光ファイバ挿通パイプ2の側面に設けられている場合について説明するが、供給孔4は光ファイバ挿通パイプ2の先端の挿通孔であってもよい。
【0040】
光ファイバ3は、光ファイバ挿通パイプ2を介して筐体1内に挿通され、発光素子12と光軸調心を行われた上で光学的に接続されている。光ファイバ3は、マウント11によって筐体1内で保持されていてもよい。光ファイバ3としては、石英部が露出した光ファイバを好適に用いることができる。
【0041】
発光素子12としては、例えばLDチップなどを用いることができる。発光素子12は、外部から筐体1内に挿入されたリード13に、配線を介して接続されていてもよい。また、発光素子12は、発光素子12を支持するための支持板14上に設置されていてもよい。発光素子12が、LDチップである場合、支持板14は、LDサブマウントと呼ばれることもある。
【0042】
発光素子12の温度が上昇することを防ぐため、底板1aの下部にはヒートシンク(図示せず)が配置されている。また、底板1aの材料は、熱伝導率の高い材料であることが好ましく、例えば、銅等であり得る。なお、側面1bの材料は、上述したような高周波誘導加熱により加熱される材料であってもよい。
【0043】
なお、上述した各部材は、上記以外の形状、構造、大きさ等について特に制限はなく、光モジュール10の用途、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0044】
〔製造方法〕
本実施形態に係る光モジュールの製造方法は、上述した光モジュール10において、光ファイバ挿通パイプ2を気密封止する封止工程を含んでおり、上記封止工程は、当該封止工程における環境雰囲気よりも熱伝導率が高く、かつ、誘導加熱したときの発熱量が光ファイバ挿通パイプ2よりも小さい熱伝導部材5を光ファイバ挿通パイプ2の側面に沿接させる接触工程と、熱伝導部材5が沿接している光ファイバ挿通パイプ2を誘導加熱する加熱工程と、光ファイバ挿通パイプ2に設けられた供給孔4に半田6を供給する供給工程とを含めばよい。なお、封止工程における環境雰囲気としては、半田の酸化を防ぐため、例えば、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気、水素などの還元雰囲気、また不活性ガスおよび水素などの混合ガス雰囲気などを用いることが好ましい。供給工程において、半田6は、加熱された光ファイバ挿通パイプ2からの熱によって溶融し、供給孔4を介して光ファイバ挿通パイプ2内に供給され、光ファイバ挿通パイプ2を気密封止する。
【0045】
次に、上記封止工程に含まれる上記の各工程について図1を参照して説明する。
【0046】
〔接触工程〕
上記接触工程においては、熱伝導部材5を、光ファイバ挿通パイプ2の側面に沿接させる。本明細書において、「熱伝導部材5が、光ファイバ挿通パイプ2の側面に沿接している」とは、熱伝導部材5が、光ファイバ挿通パイプ2の側面に沿って設置されるとともに、熱伝導部材5と、光ファイバ挿通パイプ2とが接触している状態を指す。この接触は、少なくとも後述する加熱工程および供給工程において保たれることが好ましい。熱伝導部材5は、後述するように、自らのバネ性により、光ファイバ挿通パイプ2の側面に固定されてもよいし、なんらかの支持体により、光ファイバ挿通パイプ2の側面に沿接するように支持されてもよい。
【0047】
なお、熱伝導部材5と光ファイバ挿通パイプ2の側面とは、互いの間で熱の伝導が起こり得るように接触(熱接触)されていればよい。図2は、光ファイバ挿通パイプ2と熱伝導部材5との接触部のバリエーションを示す部分拡大図である。熱伝導部材5と光ファイバ挿通パイプ2の側面との接触部は、図2(a)に示すように、該側面の長手方向の全長に亘っていることが好ましいが、他の形態であってもよい。
【0048】
例えば、光ファイバ挿通パイプ2の気密封止は、主に、供給孔4付近で溶融した半田6が筐体1側へ濡れ広がることによってなされるため、図2(b)に示すように、熱伝導部材5が、光ファイバ挿通パイプ2の供給孔4付近から筐体1側の端部まで沿接していれば、後述する供給工程において、この領域における半田6の濡れ広がりを好適なものとし、光ファイバ挿通パイプ2の気密封止を首尾よく行うことができる。
【0049】
また、光ファイバ挿通パイプ2の筐体1とは反対側の端部は、筐体1による熱引き等がなく、温度が上昇し易い。そのため、図2(c)に示すように、熱伝導部材5が、光ファイバ挿通パイプ2の供給孔4付近から筐体1側とは反対側の端部まで沿接していれば、後述する加熱工程において、当該端部において温度が過度に上昇することを抑制することができる。
【0050】
また、図2(d)に示すように、熱伝導部材5が、光ファイバ挿通パイプ2における供給孔4の外縁部に沿接していれば、熱伝導部材5により光ファイバ挿通パイプ2の表面から熱引きされることによって、当該外縁部において、光ファイバ挿通パイプ2の外部の温度が内部の温度よりも低くなる。そのため、供給孔4内の半田6は、内部から外部に向かうにつれ、流動性が低くなる。これにより、後述する供給工程において、半田6が供給孔4の外に漏れ出ることを抑制して、光ファイバ挿通パイプ2内部に半田6を選択的に充填することができる。
【0051】
なお、図2(a)〜(d)に示す接触状態の2つ以上が組み合わされていてもよい。また、熱伝導部材5の形状は、特に限定されず、例えば板状とすることができるが、光ファイバ挿通パイプ2の側面に沿う形状を有していることがより好ましく、例えば、筒または断面がC字形の筒の部分であり得る。熱伝導部材5の形状のその他の変形例については後述する。
【0052】
また、熱伝導部材5の厚さは、厚ければ厚いほど後述の温度分布の均一化効果が高いため好ましいが、0.1mm〜2mm程度あれば十分である。
【0053】
熱伝導部材5の材料としては、封止工程における環境雰囲気よりも熱伝導率が高く、かつ、誘導加熱したときの発熱量が光ファイバ挿通パイプ2よりも小さいものを用いることが好ましい。そのような熱伝導部材5としては、一般的に、高熱伝導率であり、かつ、誘導加熱され難い材料を用いることができ、例えば、銅、およびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも一つ以上の金属、銅合金、アルミニウム合金等の当該金属を含んでなる合金、またはセラミックスを用いることができる。セラミックスとしては、例えば、窒化アルミニウム(アルミナイトライド)、酸化アルミニウム(アルミナ)、二酸化ジルコニウム(ジルコニア)、ガラスなどを用いることができる。セラミックスは誘導加熱により全く発熱しないため、熱伝導率がそれほど高くないジルコニアやガラスを熱伝導部材として使用した場合でも、熱伝導部材を使用しない場合に比べて十分な熱引きの効果を有する。ただし、ゴム等は、誘導加熱されない材料ではあるが、半田溶融温度での耐熱性が確保できないため使用できない。
【0054】
上記接触工程では、熱伝導部材5は、後述する加熱工程において、光ファイバ挿通パイプ2における温度分布を調整するための部材として光モジュール10内に設置される。
【0055】
〔加熱工程〕
上記加熱工程においては、上記接触工程の後、熱伝導部材5が側面に沿接している光ファイバ挿通パイプ2を加熱する。
【0056】
光ファイバ挿通パイプ2の加熱に関しては、高周波誘導加熱装置を利用することが好ましい。高周波誘導加熱装置は、基本的に、AC電源及びワークコイルを備えており、被加工材料に渦電流を誘導して発熱せしめる装置である。高周波誘導加熱を利用すれば、被加工材料(本明細書では光ファイバ挿通パイプ2)を正確に短時間で加熱することができる。
【0057】
熱伝導部材5は、光ファイバ挿通パイプ2に比べ誘導加熱され難い材料から形成されており、好ましくは誘導加熱されない。そのため、誘導加熱された状態において、熱伝導部材5は光ファイバ挿通パイプ2に比べて温度が低く、また、誘導加熱に起因する温度分布の偏りも小さい。誘導加熱後の光ファイバ挿通パイプ2の側面における熱伝導部材5が沿接している領域の高温部から速やかに熱引きし、温度分布に応じて当該領域の低温部へ熱を与える。これにより、当該領域の温度分布を均一化することができる。それゆえ、後述する供給工程において、溶融した半田6は、光ファイバ挿通パイプ2の当該領域の内部において偏りなく濡れ広がり、好適に光ファイバ挿通パイプ2を気密封止することができる。
【0058】
なお、上記加熱工程では、光ファイバ挿通パイプ2の筐体1側の端部を局所的に加熱することが好ましい。なぜなら、発光素子12は熱に弱く、封止工程において発光素子12が150℃以上に加熱されることを避けるために、通常、筐体1の底板1aは、熱伝導性の高い材料から形成され、ヒートシンクなどの放熱材料に接した状態になっている。そのため、光ファイバ挿通パイプ2の底板1a側は、底板1aによって熱引きされる。そこで、光ファイバ挿通パイプ2の筐体1側の端部を重点的に加熱することにより、底板1aによる熱引きの影響を抑え、光ファイバ挿通パイプ2の温度分布をさらに均一化することができる。
【0059】
光ファイバ挿通パイプ2の局所的な加熱は、例えば、誘導加熱用のコイルを局所加熱用に設計することや、フェライトコアの使用等により、実施することができる。
【0060】
〔供給工程〕
上記供給工程では、上記加熱工程において加熱された光ファイバ挿通パイプ2に設けられた供給孔4に半田6を供給する。
【0061】
半田6としては、一般的で安価な糸半田等を利用することができる。半田6は、気密封止のために必要な一回分の量にカットされたものでもよいし、数回分の量を有するものでもよい。
【0062】
半田6の供給は、器具を用いて、または用いずに半田6を供給孔4上に移動させればよい。供給孔4に近づいた半田6は、上記加熱工程において加熱された光ファイバ挿通パイプ2からの熱を受けて溶融する。供給孔4に到達した半田6は、溶融しながら供給孔4を介して光ファイバ挿通パイプ2内に供給される。その後、溶融した半田6は、光ファイバ挿通パイプ2内で濡れ広がり、光ファイバ挿通パイプ2の内壁と光ファイバ3との間に充填される。なお、溶融した半田6の流動性は、高温部において高く、低温部において低くなる傾向にある。
【0063】
ここで、上述したように、光ファイバ挿通パイプ2の熱伝導部材5が沿接している領域では、温度分布が均一化されている。それゆえ、溶融した半田は当該領域の内部において偏りなく濡れ広がる。これによって、光ファイバ挿通パイプ2を作業性よく気密封止することができる。
【0064】
以上のように気密封止が行われることによって、光モジュール10が完成する。なお、気密封止が完了した後には、熱伝導部材5を光ファイバ挿通パイプ2から取り外してもよいが、熱伝導部材5を光ファイバ挿通パイプ2の側面に接触させたままでもよい。この場合、光モジュール10は、熱伝導部材5を備えているといえる。
【0065】
〔供給孔4および熱伝導部材5の配置の変形例〕
また、本発明に係る製造方法に用いられる供給孔4および熱伝導部材5の配置は、上述した構成に限られない。以下、供給孔4および熱伝導部材5の配置の変形例について説明する。
【0066】
図3は、供給孔4を光ファイバ挿通パイプ2の側面の下部(底板側)に設け、熱伝導部材5を当該側面の上部(底板とは反対側)に沿接させる場合を説明するための断面図である。このように、供給孔4は、光ファイバ挿通パイプ2の側面の鉛直方向下部に設けてもよい。
【0067】
また、光ファイバ挿通パイプ2の側面の下部は、底板1aに近く、光ファイバ挿通パイプ2の側面の上部は、底板1aから遠いことから、図2に示す構成では、上記加熱工程において、光ファイバ挿通パイプ2の筐体1側の端部における上下方向の温度分布を均一化することができる。
【0068】
すなわち、光ファイバ挿通パイプ2の筐体1側の端部では、底板1a側(下部)が底板1aによって熱引きされるが、光ファイバ挿通パイプ2の側面の底板1aとは反対側に熱伝導部材5が沿接することにより、底板1aとは反対側(上部)も熱伝導部材5によって熱引きされるため、下部と上部との温度差を低減することができる。そのため、光ファイバ挿通パイプ2の筐体1側の端部における半田6の濡れ広がりをさらに偏りのないものにすることができる。
【0069】
ここで、上記供給工程が終了したか否かは、例えば、筐体1内部側から、光ファイバ挿通パイプ2の上記端部まで半田6が到達しているか否かを視認することにより行い得る。上述したように、光ファイバ挿通パイプ2の筐体1側の端部における半田6の濡れ広がりをさらに偏りのないものにすることができれば、上記端部に半田6が到達することを正確に視認することができるため好ましい。
【0070】
〔熱伝導部材5の形状の変形例〕
また、本発明に係る製造方法に用いられる熱伝導部材5の形状は、上述した構成に限られない。以下、熱伝導部材5の形状の変形例について説明する。図4は、一変形例を示す断面図であり、図5は他の変形例を示す斜視図であり、図6はさらに他の変形例を示す断面図である。
【0071】
熱伝導部材5は、光ファイバ挿通パイプ2の側面の少なくとも一部に接触していればよいが、図4に示すように、熱伝導部材5が供給孔4に対応する孔が設けられた筒状の形状を有し、供給孔4以外の部分で光ファイバ挿通パイプ2の側面の全周囲に接していてもよい。これにより、上記加熱工程において、さらに光ファイバ挿通パイプ2の温度分布の均一化を図ることができる。
【0072】
また、図5に示すように、熱伝導部材5は、長手方向にスリットが設けられた筒状体であってもよい。このような形状の熱伝導部材5を用いることにより、熱伝導部材5本体のバネ性により、光ファイバ挿通パイプ2の側面に接触したまま固定させることができる。なお、上記スリットは、供給孔4を避けるように配置され得る。
【0073】
図6は、さらに他の変形例における熱伝導部材5の形状を示す図である。図6(a)は、熱伝導部材5の周辺を示す断面図であり、図6(b)は、熱伝導部材5の周辺を示す斜視図である。
【0074】
図6に示すように、本変形例において、熱伝導部材5は、光ファイバ3が延伸する方向(筐体1側とは反対の方向)に向けて光ファイバ挿通パイプ2から突き出している突出部5aを備えている。突出部5aは、後述する樹脂形成工程において、光ファイバ3の露出部分3bを封入する樹脂を形成するための土台として機能する。
【0075】
光ファイバ3は、光モジュール10から延伸した先ではファイバ被覆3aに被覆されているが、筐体1内および光ファイバ挿通パイプ2内を挿通している部位では石英部が露出した状態である。そして、図6に示すように、光ファイバ3では、光ファイバ挿通パイプ2を通過してから、ファイバ被覆3aにより被覆されるまでの区間が、石英部が露出している露出部分3bとなっている。
【0076】
本変形例では、上記封止工程は、露出部分3bを封入するように樹脂8を形成する樹脂形成工程をさらに包含する。これにより、露出部分3bを保護することができるほか、樹脂8として光ファイバ3(のクラッド層)よりも屈折率が低い樹脂を用いることにより、光ファイバ3から光が漏れることを防ぐことができる。
【0077】
上記樹脂形成工程では、突出部5a上に露出部分3bを封入するように樹脂8を形成する。突出部5aは、図6に示すように、光ファイバ挿通パイプ2から突き出しており、突出部5a上に樹脂8を形成することにより、好適に露出部分3bを封入することができる。樹脂8の形成は、例えば、突出部5a上に硬化前の樹脂8を塗布することによって行うことができる。
【0078】
熱伝導部材5は、図6(b)に示すように、C字型の断面を有する筒の部分であることが好ましく、図5に示すような、長手方向にスリットが設けられた筒状体であってもよい。このような形状の熱伝導部材5であれば、上述したような樹脂8を好適に形成および保持することができる。
【0079】
なお、図4〜図6に示した変形例では、何れも、熱伝導部材5が供給孔4の外縁部に沿接しているため、上述したように、供給工程において、半田6が供給孔4の外に漏れ出ることを抑制して、光ファイバ挿通パイプ2内部に半田6を選択的に充填することができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、例えば光通信システムに用いる光モジュールの製造方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 筐体
1a 底板
1b 側面
2 光ファイバ挿通パイプ
3 光ファイバ
4 供給孔
5 熱伝導部材
5a 突出部
6 半田
8 樹脂
10 光モジュール
12 発光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバと、該光ファイバを挿通させる光ファイバ挿通パイプとを備えている光モジュールの製造方法であって、上記光ファイバ挿通パイプを気密封止する封止工程を含んでおり、
上記封止工程は、
該封止工程における環境雰囲気よりも熱伝導率が高く、かつ、誘導加熱したときの発熱量が該光ファイバ挿通パイプよりも小さい熱伝導部材を、該光ファイバ挿通パイプの側面に沿接させる接触工程と、
該熱伝導部材が沿接している該光ファイバ挿通パイプを誘導加熱する加熱工程と、
該光ファイバ挿通パイプに設けられた供給孔に半田を供給する供給工程とを含むことを特徴とする光モジュールの製造方法。
【請求項2】
上記熱伝導部材は、銅、およびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも一つ以上の金属、当該金属を含んでなる合金、またはセラミックスからなることを特徴とする請求項1に記載の光モジュールの製造方法。
【請求項3】
上記光ファイバ挿通パイプの側面と上記熱伝導部材との接触部は、該側面の長手方向の全長に亘っていることを特徴とする請求項1または2に記載の光モジュールの製造方法。
【請求項4】
上記光ファイバ挿通パイプにおける上記供給孔の外縁部と、上記熱伝導部材とが接触していることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の光モジュールの製造方法。
【請求項5】
上記光モジュールは、上記光ファイバ挿通パイプよりも熱伝導率の高い底板を備えた筐体を備えており、
上記光ファイバ挿通パイプは、該筐体の側面から延伸しており、
上記供給孔は、上記光ファイバ挿通パイプの側面の該底板側に設けられており、
上記熱伝導部材は、上記光ファイバ挿通パイプの側面の該底板とは反対側に沿接していることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の光モジュールの製造方法。
【請求項6】
上記熱伝導部材は、上記光ファイバが延伸する方向に向けて上記光ファイバ挿通パイプから突き出している突出部を備えており、
該突出部上に、上記光ファイバを封入する樹脂を形成する樹脂形成工程をさらに包含することを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の光モジュールの製造方法。
【請求項7】
光ファイバと、該光ファイバを挿通させる光ファイバ挿通パイプとを備えている光モジュールであって、
該光ファイバ挿通パイプが、半田によって気密封止されており、
該封止工程における環境雰囲気よりも熱伝導率が高く、かつ、誘導加熱したときの発熱量が該光ファイバ挿通パイプよりも小さい熱伝導部材が、該光ファイバ挿通パイプの側面に沿接していることを特徴とする光モジュール。
【請求項8】
光ファイバが挿通している光ファイバ挿通パイプ気密封止する封止方法であって、
該封止工程における環境雰囲気よりも熱伝導率が高く、かつ、誘導加熱したときの発熱量が該光ファイバ挿通パイプよりも小さい熱伝導部材が、該光ファイバ挿通パイプの側面に沿接させる接触工程と、
該熱伝導部材が沿接している該光ファイバ挿通パイプを誘導加熱する加熱工程と、
該光ファイバ挿通パイプに設けられた供給孔に半田を供給する供給工程とを含むことを特徴とする封止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−253091(P2011−253091A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127674(P2010−127674)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】