説明

光モジュール

【課題】高温時に半導体レーザ等の発光素子に供給するバイアス電流の増加を抑制することができる光モジュールを提供する。
【解決手段】光モジュールは複数のレーザダイオードと導波路型合波器を備える。レーザダイオードは、素子温度が変化するとバイアス電流の閾値とスロープ効率が変化する特性を有している(A)。導波路型合波器は、制御温度範囲内において高温時の発振波長λ’に透過中心波長を合わせた分光特性を有している(B)。このため、外部への光出力を一定水準とすると、高温時に導波路型合波器の分光特性により光損失が最小化される分を考慮すると、高温時のバイアス電流を通常より低く設定(ΔIh低減)することができる(C)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、波長の異なる複数の光信号を1本の光ファイバで伝送することで、高速・大容量のデータ伝送を可能にする波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)伝送システムの先行技術がある(例えば、特許文献1参照。)。複数の光信号は、それぞれ異なる単波長光源器から出力され、合波器で合波(多重化)されて多波長光信号となる。また多波長光信号は受信側の分波器で分波され、複数の単波長光信号として受信される。
【0003】
上記の先行技術において、単波長光源器としては半導体レーザが用いられており、合波器や分波器としてはアレイ導波路型のものが用いられている。導波路型合波器には、波長域毎に光透過率が最大(したがって光損失が最小)となる透過中心波長がある。このため波長分割多重伝送システムの導波路型合波器には、各半導体レーザの発振波長に合わせて透過中心波長を配置した分光特性を設定することが一般的である。
【0004】
半導体レーザは、素子温度の変化によって発振波長がシフトしていくが、上記の先行技術では、予め合波器や分波器の透過帯域を発振波長のシフト幅以上に確保しておくとともに、常温時の透過中心波長を標準的なグリッド波長よりも長波長側にずらしている。これにより、素子温度の変化に伴う発振波長のシフトが生じた場合であっても、合波器や分波器の透過帯域幅内で波長シフトを許容することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−297559号公報(段落0027〜0029、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、半導体レーザは、素子温度に応じてバイアス電流の閾値とスロープ効率が変化する特性を有している。このため、半導体レーザを制御する温度範囲内で光出力を一定水準にするには、素子温度を加味したバイアス電流の制御が必要となる。半導体レーザの特性上、一般的には高温時ほど制御上でバイアス電流を増加させる必要がある。
【0007】
しかし、常温時の発振波長を基準として合波器の透過中心波長を設計していると、高温時に半導体レーザの発振波長が透過中心波長から大きくずれた場合、透過率の低下に伴う光損失を補うため、さらに制御上でバイアス電流を増加しなければならない。このような制御は、全ての単波長光源器について行う必要があるため、伝送システム全体として高温時の消費電力が大幅に増大する(4波多重なら増大幅も4倍になる)という問題がある。
【0008】
そこで本発明は、高温時に半導体レーザ等の発光素子に供給するバイアス電流の増加を抑制することができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は、バイアス電流の供給を受けて光信号を出力する、複数の発光素子と、複数の前記発光素子からの複数の前記光信号が入力され、複数の前記光信号を合波し、合波した前記光信号を出力する導波路型合波器と、前記発光素子近傍の温度を検出する温度検出器と、前記温度検出器で検出した温度に基づいて前記バイアス電流を制御する制御回路と、を備え、前記発光素子は、素子温度が高温側へ変化すると発振波長が長波長側へずれる特性を有するとともに、素子温度が高温側へ変化するとバイアス電流の閾値は高くなり、スロープ効率は低下する光出力特性を有し、前記導波路型合波器は、前記制御回路が前記バイアス電流を制御する温度範囲である制御温度範囲内において、高温時の発振波長で前記光信号の損失が最小となる分光特性を有し、前記制御回路は、前記導波路型合波器から出力される前記光信号の光出力が一定となるように、前記バイアス電流を制御する、光モジュールを一態様とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光モジュールによれば、高温時に発光素子に供給するバイアス電流の増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】波長多重伝送システムの構成を概略的に示す図である。
【図2】APC回路の構成例を概略的に示す図である。
【図3】導波路型合波器の構成例を概略的に示す図である。
【図4】導波路型合波器の分光特性を示す図である。
【図5】レーザダイオードの光出力特性(バイアス電流と光出力との関係)を示す図である。
【図6】温度毎に設定されるバイアス電流について、比較例と本実施形態とを対比して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0013】
図1は、波長多重伝送システムの構成を概略的に示す図である。本発明の光モジュールは、例えば図1に示される波長多重伝送システムに適用することができる。ただし、以下は1つの適用例として示すものであり、光モジュールの適用範囲は以下の適用例に限られるものではない。
【0014】
波長多重伝送システムは、例えば送信側の光トランシーバ10から4波長多重化した光信号を出力し、1芯の光ファイバ22を伝送路として光信号を伝送する。伝送区間が長距離に及ぶ場合、伝送路の途中には中継器24を設置することができ、中継器24は光増幅器24aで光信号を増幅しながら伝送する。伝送された光信号は、受信側の光トランシーバ40で4つの単波長光信号に分波される。なお、ここでは送信側、受信側としてそれぞれ簡略化しているが、双方の光トランシーバ10,40には、光送信機能と光受信機能とが合わせて装備されていてもよい。
【0015】
この適用例において、光モジュールは送信側の光トランシーバ10に内蔵されている。光トランシーバ10は、光源器12及び導波路型合波器20を備えている。光源器12は、複数の発光素子及びAPC回路(制御回路の一部)を含む。光モジュールは、複数の発光素子、制御回路、及び導波路型合波器から構成される。なお、光モジュールとしての実施形態については後述するものとし、ここでは光トランシーバ10の各構成要素について概略的に説明する。
【0016】
光源器12には、光モジュールを構成する発光素子として、例えば4つのレーザダイオード(LD:Laser Diode)12a〜12dが含まれている。これら4つのレーザダイオード12a〜12dは、バイアス電流の供給を受けて、それぞれ異なる波長(λ,λ,λ,λ)の光信号を出力する。
【0017】
また光源器12には、複数の発光素子及びAPC(Automatic Power Control)回路の他に、図示しない変調(駆動)回路を含む。APC回路は、レーザダイオード12a〜12dが発する後方の光出力をモニタし、出力誤差をフィードバックしてバイアス電流を制御する。また変調回路は、レーザダイオード12a〜12dに対し変調電流を供給して光を直接変調する。前方の変調された光は、光信号として導波路型合波器20へ入力される。
【0018】
導波路型合波器は、複数の発光素子からの複数の光信号が入力され、複数の光信号を合波し、合波した光信号を出力する。図1に示す導波路型合波器20は、4つの異なる波長λ,λ,λ,λの光信号を合波して出力する。なお、導波路型合波器20の具体的な構成や分光特性についてはさらに後述する。
【0019】
受信側の光トランシーバ40は、導波路型分波器30及び受光器32を備えている。導波路型分波器30は、光ファイバ22を通じて入力された多重化信号を4つの単波長λ,λ,λ,λの光信号に分波する。
【0020】
また受光器32には、例えば4つのフォトダイオード(PD:Photo Diode)32a〜32dが含まれており、これら4つのフォトダイオード32a〜32dは、それぞれ単波長λ,λ,λ,λに分波された光信号を電気信号に変換する。
【0021】
〔APC回路の構成例〕
図2は、光トランシーバ10に内蔵されたAPC回路50の構成例を概略的に示す図である。ここでは便宜上、光源器12に含まれる1つのレーザダイオード12aを対象として説明するが、その他の3つのレーザダイオード12b,12c,12dについても同様のAPC回路50が設けられている。
【0022】
APC回路50は、モニタ用のフォトダイオード(以下、「モニタPD」と言う。)52を有している。またAPC回路50は、差動増幅器54及び電流源56を有している。モニタPD52は、レーザダイオード12aが発する後方への光出力をモニタ(受光)し、モニタ電流Imtを発生させる。モニタ電流Imtは、グランドされた抵抗器(図示していない)でモニタ電圧Vmに変換され、このモニタ電圧Vmが差動増幅器54の反転入力端子に入力されている。
【0023】
また光トランシーバ10には、制御回路の一部としてMCU(Micro Control Unit)58が内蔵されているほか、温度検出器として温度センサ62が内蔵されている。このうちMCU58は図示しないプロセッサコアを有するほか、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)64や図示しないRAM(Random Access Memory)等の記憶素子、入出力ドライバ等を有している。
温度センサ62は、レーザダイオード12a近傍の温度を検出する。具体的には、温度センサ62はレーザダイオード12a近傍の温度に対応した検出電圧を出力する。温度センサ62は、例えば、レーザダイオード12a近傍の基板上に実装される。
【0024】
MCU58は、APC回路50とともに光モジュールの制御回路を構成しており、MCU58はAPC回路50に対してバイアス電流の目標値を指示(設定)している。差動増幅器54の非反転入力端子には、MCU58の1つの出力ポートが接続されており、MCU58は、APC回路50に対するバイアス電流の目標値を目標電圧Vtとして、差動増幅器54に印加する。これを受けて差動増幅器54は、目標電圧Vtに対するモニタ電圧Vmの誤差を増幅して電流源56に供給する。
【0025】
電流源56は、差動増幅器54の出力に基づいて、目標電圧Vtに対するモニタ電圧Vmの誤差がなくなるように、レーザダイオード12aに供給されるバイアス電流Ibsを制御する。これにより、レーザダイオード12aが発する前方の光出力が目標電圧Vtを基準とした出力で安定する。なお、レーザダイオード12aから発せられる前方の光出力(波長λ)は図示しないレンズ系を通じて導波路型合波器20に入力される。
【0026】
APC回路50によるバイアス電流Ibsの制御に際して、MCU58は温度センサ62の検出電圧から温度を判定し、判定した温度に基づいて目標電圧Vtを設定する。目標電圧Vtで設定されるバイアス電流目標値は、レーザダイオード12aが発する前方の光出力の目標値に対応する。
MCU58のEEPROM34には、温度毎のレーザダイオード12aの光出力特性(バイアス電流と光出力との関係)、温度毎のレーザダイオード12aの発振波長、導波路型合波器20の分光特性が記憶されている。MCU58は温度センサ62の検出電圧から現在の温度を判定すると、レーザダイオード12aの光出力特性、レーザダイオード12aの発振波長及び導波路型合波器20の分光特性を参照して、導波路型合波器20から出力される光出力が一定となるような目標電圧Vt(温度毎のバイアス電流目標値)を設定する。温度に対する目標電圧Vtの設定は、制御温度範囲(MCU58がバイアス電流を制御する温度範囲)内において、例えば、1°C刻みの温度毎に行う。制御温度範囲は、例えば、0°C〜85°Cである。以下、制御温度範囲内において、低温は0°C程度、常温は25°C程度、高温は85°C程度とする。なお、具体的な目標値の設定例についてはさらに後述する。
【0027】
また光源器12は、APC回路50の他に変調回路60を有している。変調回路60は、上記のようにレーザダイオード12aに供給される変調電流Imdの振幅を制御する。MCU58は、変調回路60に対して変調電流Imdの振幅値を出力し、これを受けて変調回路60は、レーザダイオード12aが発する前方への光出力を二値の光信号に変調する。
【0028】
〔導波路型合波器の構成例〕
図3は、導波路型合波器20の構成例を概略的に示す図である。
導波路型合波器20は、例えば3つのマッハツェンダ干渉計20a〜20cを多段に接続して構成されている。具体的には、光信号の入力段に2つのマッハツェンダ干渉計20b,20cが位置し、残る1つのマッハツェンダ干渉計20aが出力段に位置している。3つのマッハツェンダ干渉計20a〜20cは、いずれも構造的には同等(ただし分光特性は個別に異なる)の光導波路素子であるが、配置によって機能が異なる。
【0029】
入力段に位置する2つのマッハツェンダ干渉計20b,20cは、導波路型合波器20全体としての入力ポート200を形成している。入力ポート200には、第1ポート200a〜第4ポート200dまでの4つが含まれる。このうち第1ポート200a及び第2ポート200bが1つのマッハツェンダ干渉計20bで構成されており、第3ポート200c及び第4ポート200dがもう1つのマッハツェンダ干渉計20cで構成されている。
【0030】
4つある入力ポート200のうち、第1ポート200aには波長λの光信号が入力され、第2ポート200bには波長λの光信号が入力される。また第3ポート200cには波長λの光信号が入力され、第4ポート200dには波長λの光信号が入力されるものとなっている。なお、同一のマッハツェンダ干渉計20bに入力される2つの光信号(波長λ,λ)の間には、標準グリッドよりも大きい波長間隔が確保されている。同様に、同一のマッハツェンダ干渉計20cに入力される2つの光信号(波長λ,λ)の間にも、標準グリッドより大きい波長間隔が確保されているものとする。
【0031】
出力段に位置する1つのマッハツェンダ干渉計20aは、導波路型合波器20全体としての出力ポート210を形成している。マッハツェンダ干渉計20aと他の2つのマッハツェンダ干渉計20b,20cとは、それぞれ中間導波路200e,200fで接続されている。入力段のマッハツェンダ干渉計20bで合波された光信号(波長λ,λ)は、中間導波路200eを通じて出力段のマッハツェンダ干渉計20aに入力され、また、別の入力段のマッハツェンダ干渉計20cで合波された光信号(波長λ,λ)は、中間導波路200fを通じて出力段のマッハツェンダ干渉計20aに入力されている。
【0032】
出力段のマッハツェンダ干渉計20aは、入力された2つの光信号(波長λ,λが合波されたものと波長λ,λが合波されたもの)をさらに合波し、4波長多重化した光信号(波長λ〜λ)を出力ポート210から出力する。
【0033】
図4は、一実施形態の光モジュールに用いられる導波路型合波器20の分光特性を示す図である。導波路型合波器20は、短波長から長波長に向かって波長λ’,λ’,λ’,λ’の順に、光損失を極小化する各透過中心波長がほぼ一定間隔で配置された分光特性を有している。ここでは透過中心波長の間隔を一定としているが、波長間隔は一定でなくてもよい。なお図4中、波長毎の損失曲線を異なる線種で示している。
【0034】
ここで、レーザダイオード12a〜12d等の発光素子は、素子温度(発光素子の温度)が変化すると、発振波長のずれ(温度ドリフト)が生じる特性を有している。具体的に、発光素子は、素子温度が高温側へ変化すると発振波長が長波長側へずれる特性を有している。このとき本実施形態の光モジュールでは、制御温度範囲内において、高温時の発振波長λ’〜λ’に導波路型合波器20の透過中心波長を一致させた分光特性を採用している。したがって、高温時に導波路型合波器20での光損失(Lh)が最小となるが、常温時に得られる各波長λ〜λでは高温時より光損失(Ln)が大きくなり、低温時に得られる各波長λ”〜λ”では光損失(Lc)が最大となる。
【0035】
〔バイアス電流制御との関係〕
上記の温度ドリフト特性とは別に、レーザダイオード12a〜12d等の発光素子は、素子温度が変化するとバイアス電流の閾値やスロープ効率が変化する特性を有している。通常、バイアス電流の閾値(光出力が得られる電流値)は低温時で最も小さく、素子温度が高温側に向かって変化するほど高くなる。スロープ効率は、バイアス電流の変化に対する光出力の変化の比(出力変化幅/電流変化幅)であり、スロープ効率は低温時で最も高く、素子温度が高温側に向かって変化するほど低下する傾向にある。
【0036】
このためAPC回路50によるバイアス電流の制御では、ある一定水準の光出力を得ようとすると、高温時ほどバイアス電流の目標値を高く設定する必要がある。また、光出力が導波路型合波器20で減衰する点に鑑みると、仮に高温時の発振波長で光損失が大きくなる分光特性を採用していた場合、その分も見越してバイアス電流をさらに大きくしなければならなくなる。
【0037】
この点について本実施形態では、上記のように高温時の発振波長(λ’〜λ’)で光損失を最小化する分光特性を導波路型合波器20に持たせることにより、高温時のバイアス電流の増大を抑えることとした。
【0038】
〔検証例〕
以下、図5、図6を参照し、比較例との対比をもって本実施形態の有用性を検証する。図5は、レーザダイオードの光出力特性(バイアス電流と光出力との関係)を示す図である。図6は、温度毎に設定されるバイアス電流について、比較例と本実施形態とを対比して示した図である。
【0039】
〔光出力特性〕
図5のバイアス電流−光出力の特性図に示されているように、レーザダイオード12a〜12dは、低温時にバイアス電流の閾値が最も小さく、高温時で閾値が最大となる光出力特性を有している。一方、スロープ効率は低温時に最も高く(急勾配)、高温時で低下(緩勾配)する。
【0040】
このため、温度が低温から常温、そして高温までの範囲で変化する場合、全ての温度で一定水準の光出力(Ps)を得ようとすると、低温時には光出力特性上の動作ポイント(Tc0)でバイアス電流(Ic0)が目標値となるが、常温時には動作ポイント(Tn0)でバイアス電流(In0)が目標値となり、そして、高温時は動作ポイント(Th0)でバイアス電流(Ih0)が目標値となる。その結果、バイアス電流の各目標値を比較すると、
Ic0<In0<Ih0
となり、高温時にバイアス電流を最大に設定する必要があることが分かる。
【0041】
〔分光特性〕
図6中(A)に示されているように、比較例では、導波路型合波器の分光特性を、従来一般的な手法で常温時の発振波長λに合わせて透過中心波長を設定するものとする。この場合、常温時の光損失(Ln)が最小となっており、高温時の発振波長λ’及び低温時の発振波長λ”でそれぞれ光損失(Lh,Lc)は大きくなる。なお、常温時と高温時、又は低温時との間での分光特性による損失変化幅はΔLである。
一方、図6中(B)に示されているように、本実施形態の導波路型合波器20の分光特性は、例えば波長λを例に挙げると、高温時の発振波長λ’を透過中心波長に設定しているため、高温時の光損失(Lh)が最小となっている。この場合、常温時の発振波長λでは光損失(Ln)が高温時より大きくなり、低温時の発振波長λ”では光損失(Lc)は最も大きくなる。なお、常温と高温との間での分光特性による損失変化幅はΔLhであり、常温と低温との間での分光特性による損失変化幅はΔLcである。
【0042】
〔比較例のバイアス電流の設定〕
図6中(C)は、比較例において、図5に示す光出力特性を有するレーザダイオードの光信号を導波路型合波器に入力し、導波路型合波器から出力される光出力が一定となるようにバイアス電流を設定した場合の図である。
図6中(C)に示されているように、比較例では、常温時のバイアス電流の目標値(In2)を設定し、常温時の光出力(Pn)とする。一方、高温時及び低温時では、分光特性による損失変化幅ΔLを補償する光出力の増加量ΔPを得るため、常温時よりも光出力(Ph,Pc)を大きくする。制御温度範囲内において、常温時の光出力(Pn)が最小となる。
【0043】
ここで、常温時には光出力(Pn)の動作ポイント(Tn2)を適用し、低温時には光出力(Pc)の動作ポイント(Tc2)を適用し、高温時には光出力(Ph=Pc>Pn)の動作ポイント(Th2)を適用するため、高温時の動作ポイント(Th2)が大きく右方向(電流大)に移行してしまう。しかも高温時は、バイアス電流−光出力特性の傾斜が緩いため、常温時より光出力を増加しようとすると、より多くのバイアス電流が必要となってしまう。このため、高温時で特にバイアス電流(Ih2)が大幅に増大し、4つのレーザダイオード12a〜12dを足し合わせると、光トランシーバ10全体としての消費電力が極端に大きくなってしまうという問題がある。
【0044】
〔本実施形態のバイアス電流の設定〕
図6中(D)は、本実施形態において、図5に示す光出力特性を有するレーザダイオードの光信号を導波路型合波器20に入力し、導波路型合波器20から出力される光出力が一定となるようにバイアス電流を設定した場合の図である。
図6中(D)に示されているように、本実施形態では、高温時のバイアス電流の目標値(Ih1)を設定し、高温時の光出力(Ph)とする。ここで、本実施形態の高温時の光出力(Ph)は、比較例の常温時の光出力(Pn)と同じである。一方、常温時では、分光特性による損失変化幅ΔLhを補償する光出力の増加量ΔPhを得るため、高温時よりも光出力(Pn)を大きくする。さらに、低温時では、分光特性による損失変化幅ΔLcを補償する光出力の増加量ΔPcを得るため、常温時よりも光出力(Pc)を大きくする。制御温度範囲内において、高温時の光出力(Ph)が最小となる。
【0045】
〔本実施形態と比較例との対比〕
本実施形態では図6中(B)に示される分光特性を用いるため、比較例よりも高温時の光出力(Ph)を低くすることができ、図6中(D)に示すように、高温時の動作ポイントを、比較例の動作ポイント(Th2)から本実施形態の動作ポイント(Th1)に左方向へ移行させることができる。これにより、高温時のバイアス電流を、比較例に比べΔIh(=Ih2−Ih1)分だけ低減できる。特に高温時は、低温時や常温時よりもバイアス電流−光出力特性の傾斜が緩いため、比較例の動作ポイント(Th2)から本実施形態の動作ポイント(Th1)に移行させたときのバイアス電流の減少(ΔIh)は他の温度に比較して大きい。このようなバイアス電流の低減効果は4つのレーザダイオード12a〜12dについて有効であるため、光トランシーバ10全体としての消費電力は比較例より大幅に少ない。
【0046】
なお、常温時と低温時については、動作ポイント(Tn1,Tc1)の光出力(Pn,Pc)は、比較例の動作ポイント(Tn2,Tc2)の光出力(Pn,Pc)よりも大きくなり、その分だけバイアス電流の目標値は大きくなるが、高温時に比較するとバイアス電流−光出力の傾斜が急であるため、全体的なバイアス電流の増加分は低く抑えられる。このため、比較例のように高温時のバイアス電流を大きく増加させる手法よりも、本実施形態の手法の方が、バイアス電流の増加を抑制する効果は大きい。
【0047】
MCU58のEEPROM64には、導波路型合波器20の分光特性、温度毎の各レーザダイオード12a〜12dの光出力特性、温度毎の各レーザダイオード12a〜12dの発信波長に基づいて、導波路型合波器20から出力される光信号の光出力が一定となるようなバイアス電流の目標値を制御温度範囲内において温度毎に設定したマップを記憶しておくことができる。MCU58は、温度センサ62の検出電圧からリアルタイムに判定した温度に基づいてマップを参照し、APC回路50に指示するバイアス電流の目標値を設定することにより、バイアス電流を動的に制御することができる。これにより、温度が頻繁に変化した場合であっても、直ちにバイアス電流の目標値を増減させることができる。
【0048】
以上のように本実施形態の光モジュールによれば、高温時にレーザダイオード12a〜12dのバイアス電流の増加を抑制できる。結果として、光トランシーバ10全体としての消費電力を低減することができる。
【0049】
本発明は上述した一実施形態に制約されることなく、種々の変形を伴って実施することができる。例えば、光モジュールは、4波長よりチャンネル数が多い(例えば10チャンネル)導波路型合波器20を有していてもよい。この場合であっても、一実施形態で挙げた分光特性を適用することにより、チャンネル毎に高温時のバイアス電流の増加を抑制することができる。
【0050】
また、各実施形態で挙げた温度や発振波長、透過中心波長等の値は好ましい例示であり、本発明の実施に際して個々の値を適宜に変更できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0051】
10,40 光トランシーバ
12a,12b,12c,12d レーザダイオード
20 導波路型合波器
20a,20b,20c マッハツェンダ干渉計
22 光ファイバ
30 導波路型分波器
50 APC回路
52 モニタPD
54 差動増幅器
56 電流源
58 MCU
62 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイアス電流の供給を受けて光信号を出力する、複数の発光素子と、
複数の前記発光素子からの複数の前記光信号が入力され、複数の前記光信号を合波し、合波した前記光信号を出力する導波路型合波器と、
前記発光素子近傍の温度を検出する温度検出器と、
前記温度検出器で検出した温度に基づいて前記バイアス電流を制御する制御回路と、
を備え、
前記発光素子は、素子温度が高温側へ変化すると発振波長が長波長側へずれる特性を有するとともに、素子温度が高温側へ変化するとバイアス電流の閾値は高くなり、スロープ効率は低下する光出力特性を有し、
前記導波路型合波器は、前記制御回路が前記バイアス電流を制御する温度範囲である制御温度範囲内において、高温時の発振波長で前記光信号の損失が最小となる分光特性を有し、
前記制御回路は、前記導波路型合波器から出力される前記光信号の光出力が一定となるように、前記バイアス電流を制御する、
光モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載の光モジュールにおいて、
前記導波路型合波器は、前記制御温度範囲内において、温度が低温側へ変化すると、前記光信号の損失が増加する前記分光特性を有し、
前記制御回路は、前記制御温度範囲内において、高温時の前記発光素子の光出力を低くし、温度が低温側へ変化すると、前記導波路型合波器から出力される前記光信号の光出力が一定となるよう前記発光素子の光出力を増加させるように、前記バイアス電流を制御する、
光モジュール。
【請求項3】
請求項2に記載の光モジュールにおいて、
前記制御回路は、
前記導波路型合波器から出力される前記光信号の光出力が一定となるような前記バイアス電流の目標値を前記制御温度範囲内において温度毎に設定したマップを記憶しており、前記温度検出器で検出した温度に基づいて前記マップを参照し、前記バイアス電流の目標値を設定することにより、前記バイアス電流を制御する
光モジュール。
【請求項4】
請求項1から3いずれかに記載の光モジュールにおいて、
前記導波路型合波器は、多段に接続したマッハツェンダ干渉計から構成される、
光モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−41959(P2013−41959A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177457(P2011−177457)
【出願日】平成23年8月15日(2011.8.15)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】