説明

光リング共振器

【課題】安定した温度特性を有する光回路を実現する。
【解決手段】光リング共振器は、第1リングと第2リングと第3リングとを備えた平面導波路型光リング共振器であって、第2リングの光路上に配置された第1熱光学位相シフタと、第3リングの光路上に配置された第2熱光学位相シフタとを備える。第2リングの光路長は第1リングの光路長よりも長い。第3リングの光路長は第1リングの光路長よりも短い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光リング共振器の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
ブロードバンド時代を迎え、光ファイバの効率的な活用に向け、複数の光波長の通信が可能なWDM(Wavelength Division Mutiplexing)伝送システムの導入が進んでいる。最近では数十の光波長を多重化することにより、さらに高速な伝送を可能にするDWDM装置(高密度波長分割多重装置)の活用も拡がっている。これに伴い、各WDM伝送システムには、光波長毎に対応した光源が必要となってきている。高多重化に伴い、必要な光源の種類は飛躍的に増加している。
【0003】
更に最近では、任意波長を各ノードでAdd/DropするROADM(Reconfigurable optical add/drop multiplexers)の商用化が進行している。本システムを導入すれば、波長多重による伝送容量の拡大に加え、波長を変えることによる光路切り換えが可能となる。その結果、光ネットワークの自由度が飛躍的に高まる。
【0004】
上記のような波長多重通信システムでは、伝送容量の増大に伴ってチャンネル数が飛躍的に増大していることにより、制御が複雑化しているという側面もある。上記のシステムでは、数十個の光源をチャンネル毎に高度なレベルで個別制御することが求められる。それに加えて、低価格化・小型化も要求される。これらの要求を満たすためには、制御性の良い光素子を1チップに高密度に集積化することが必須となる。
【0005】
光リング共振器を直列接続して構成される可変波長フィルタを用いた波長可変レーザは、このような要件を満たすことができる光源デバイスである。波長可変レーザの開発では、シリコン基板上に成膜したガラスに光回路を形成するPLC(Planar Lightwave Circuit)技術をベースとして、シリコン基板上に様々な素子(熱光学位相シフタ、化合物半導体である半導体光増幅器や受光素子等)をハイブリッド実装して1チップに集積化してきた。
【0006】
PLC技術を用いた波長可変光源の参考例として特許文献1を挙げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−196554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、光機能のさらなる高密度集積化を進めることで課題が顕在化している。各素子から発生した熱の拡散や、パッケージへの熱放散の不均一性などにより、集積されたシリコン基板上に温度の不均一な分布が発生する。この温度分布により、極めて重要な光回路特性が温度変動で変化してしまう可能性がある。こうした現象により光デバイスの特性が劣化する可能性が高くなってきた。
【0009】
各素子を低消費電力化することでシリコン基板の温度の不均一な分布をある程度防ぐことができる。しかし、この方法でも充分でない場合が起こりつつある。今後さらにリング直径の小さい光回路の導入や、高密度ハイブリッド集積化および高機能化を図る上で、こうした温度分布による影響は無視できなくなってきた。
【0010】
レーザ光源に用いている光リング共振器回路において、リング間の温度分布が発生した場合にも安定したレーザ発振を実現することを可能とする技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下に、[発明を実施するための形態]で使用される番号を括弧付きで用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号は、[特許請求の範囲]の記載と[発明を実施するための形態]との対応関係を明らかにするために付加されたものである。ただし、それらの番号を、[特許請求の範囲]に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0012】
本発明による光リング共振器は、第1リングと第2リングと第3リングとを備えた平面導波路型光リング共振器であって、第2リングの光路上に配置された第1熱光学位相シフタと、第3リングの光路上に配置された第2熱光学位相シフタとを備える。第2リングの光路長は第1リングの光路長よりも長い。第3リングの光路長は第1リングの光路長よりも短い。
【0013】
上記の構成により、想定外の温度変化が第2リングと第3リングに発生したとしても、それぞれの利得差劣化が相乗されることがなく、より少ない利得差劣化で抑えることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、安定した温度特性を有する光回路を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、光リング共振器を有する波長可変光源を示す。
【図2】図2は可変波長フィルタの概念図である。
【図3】図3はリング共振器の透過スペクトルを示す。
【図4】図4はリング共振器の透過スペクトルを示す。
【図5】図5はリング共振器の透過スペクトルを示す。
【図6】図6はリング共振器の透過スペクトルを示す。
【図7】図7は利得差の温度差依存性を示す。
【図8】図8は利得差の温度差依存性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態における平面導波路型の光リング共振器は、例えば波長可変光源に適用される。図1は、波長可変光源の構成例を示す平面図である。波長可変光源10は光リング共振器20を有する。光リング共振器20は、PLC基板13上に形成され互いに異なる光路長を有するリング共振器21〜23が方向性結合器C及び導波路24、25を介して連結されることにより形成される。PLC基板13上には更に、入出側導波路11及び反射側導波路12が形成される。光リング共振器20の一端は、方向性結合器Cを介して入出側導波路11の一端に接続される。入出側導波路11の他端は、無反射膜(符号省略)を介してSOA(Semiconductor Optical Amplifier)の光入出力端に接続される。光リング共振器20の他端は、方向性結合器Cを介して反射側導波路12の一端に接続される。反射側導波路12の他端に接続された光導波路には高反射膜(反射ミラー)14が形成される。反射側導波路12中には、帯域制限用の非対称マッハツェンダ干渉計18が挿入される。
【0017】
光リング共振器20は、互いに異なる光路長を有するリング状導波路から成るリング共振器21〜23が光結合されることにより形成される光導波路型フィルタである。リング共振器22、23には、多重共振器の共振波長を変化させる膜状ヒータであるTO(Thermo−Optic)位相シフタ16、17がそれぞれ配置される。リング共振器21〜23はどのような順序で配置されてもよい。光リング共振器20によれば、全てのリング共振器21〜23が同時に共振する共振波長の光信号が最も透過され、リング共振器間のバーニア効果によって大きなFSR(Free Spectral Range)が得られる。バーニア効果とは、互いに共振器長が微妙に異なる複数の共振器を組み合わせて波長可変範囲を大きくする手法であり、それらの共振周波数の最小公倍数の周波数でそれぞれの共振周波数が重なる。このため、見かけ上FSRが各リングの最小公倍数の周波数になったように機能する。このため、単一の共振器よりもずっと容易に広い周波数での特性の制御を行うことができる。
【0018】
図2にFSRが約100GHzであるリング(第1リングR1〜第3リングR3)を3段直列接続した光リング共振器20によって形成される可変波長フィルタの概念図を示す。図1のように半導体光増幅器(SOA)15を光リング共振器20によって形成された可変波長フィルタに接続することで、半導体光増幅器から発せられた光が可変波長フィルタに入射し、3つのリングの状態に応じて特定の波長がフィルタで選択され、半導体光増幅器へ戻る。結果として、可変波長フィルタで選択された波長でレーザ発振する波長可変光源が形成される。各リングの状態は、TO位相シフタ16、17のような各リング導波路に形成された熱光学位相シフタで調整される。
【0019】
各リングはそれぞれ、ITU−Tグリッド波長にロックするための第1リング、発振可能帯域を選択する粗調用の第2リング、発振波長を狭い帯域で選択する微調用の第3リングからなる。第1リングは周波数の基準として機能し、図1のリング共振器21に対応する。第2リング、第3リングと図1のリング共振器22、23との対応は任意である。
【0020】
第1リングはWDM通信でよく用いられる100GHz周期の規格波長を選択するよう、FSRが100GHzに調整されたリングであり、共振波長の基準として機能する。図3にその透過スペクトルを示す。第2リングは第1リングと近い円周の長さを有し、最大の波長可変帯域幅を決めている。最大の波長可変帯域幅は第2リングと第1リングのバーニアFSRで決まる。例えば第1リングがFSR100GHz、第2リングがFSR99GHzである場合、その最小公倍数である9900GHzの周期がバーニアFSRとなる。バーニアFSR間隔毎に第1リングと第2リングの透過スペクトルの重なり方が同じ状態が再現されるため、これが最大の波長可変帯域幅となる。図4にその透過スペクトルを示す。
【0021】
ここではバーニアFSRの大きさを表す値としてM値を以下のように定義する。
=(1−FSR/FSR)^(−1)・・・式(1)
FSR:第1リングのFSR(基準)
FSR:第2リングのFSR
上記の例では、第1リングと第2リングの間のM値(M)は100となる。M値の意味するところは、第2リングの透過ピークが100個(=M値)毎に第1リングとの間で同じ状態が再現されるということである。
【0022】
ここで、第2リングのFSRを、リング導波路に形成された熱光学位相シフタで調整することを考える。第2リングのFSRは次式で計算される。
FSR=c/(neff×L)・・・式(2)
c:光速
eff:導波路の実効屈折率
:第2リングの円周
【0023】
熱光学位相シフタに電力を投入すると、導波路の実効屈折率が増加する。例えば、ここで用いているガラス導波路の場合、屈折率の温度係数dn/dTはおよそ+10−5/Kである。従って、導波路の温度を上昇させるとリングの円周が長くなりFSRが小さくなるよう変化する。基準である第1リングのFSRは100GHzに固定されているため、第1リングと第2リングの透過スペクトルの重なり方はこの温度変化に依存して状態が変わる。すなわち、温度を調整することで任意の周波数(波長)で透過ピークを重ねることができ、波長選択が可能となる。
【0024】
一方、第3リングのFSRを90GHzに設定したとすると、第1リングと第3リングのバーニアFSRは900GHz、M値(M)は10である。第2リングに比べて1/10の周期で第1リングとの透過スペクトルの重なり方が同じ状態となるため、狭帯域の中で透過ピークの重なり方を制御することができる。従って、狭い範囲で波長選択を行うことができるようになる。このように第3リングは、微調整が可能なリングとしての役割を果たす。以上の設計は一例であり、必ずしも基準リング以外の各リングが粗調、微調と役割を分担しなくても、波長可変フィルタとしての効果は変わらないことを明記しておく。
【0025】
本設計において、MとMはそれぞれ正の値を用いている。すなわち、式(1)より、基準リングに対してFSRが小さい(円周が大きい)リングを用いている。この場合、第2リングおよび第3リングの熱光学位相シフタに電力を投入すると、第1リングの周波数の低い(波長の長い)ピークと順次重なるようにバーニア状態が変化する。
【0026】
このような設計においては、外気温度の変動やパッケージ温度の変動、半導体光増幅器の消費電力変更(レーザ光源の出力光強度変更)などによりシリコン基板上に温度勾配が発生すると、次の問題が生じる。基準リングである第1リングが一定温度制御されている条件下で第2リングおよび第3リングの温度が上昇したとすると、可変波長フィルタの特性が変化して別の波長との選択性(利得差)が減少し、レーザ発振特性が劣化する可能性がある。
【0027】
例えば、図5のように約194.1THzのピークが選択されている状態から、温度が第2リングで1度、第3リングで2度ずれた場合、図6のように波長選択性が劣化する。この例では、利得差が基準状態(図5)で9.77dBあったが、温度勾配発生により6.22dBまで劣化する(図6)。これにより、SMSR(Side−Mode Supression Ratio)の劣化等が懸念され、他チャンネルへの光クロストーク発生や、パワー変動等が発生してしまう。
【0028】
逆に、M値が負の値の場合、すなわち基準リングに対してFSRが大きい(円周が小さい)リングを用いた場合について考える。第2リングおよび第3リングの熱光学位相シフタに電力を投入すると、第1リングの周波数の高い(波長の短い)ピークと順次重なるようにバーニア状態が変化する。熱光学位相シフタに電力を投入すると屈折率が大きくなるという現象は同じでも、M値の符号によってバーニア状態の変化方向は周波数領域で逆になる。
【0029】
以上の議論から、第2リングと第3リングのM値をそれぞれ正の値と負の値(逆もまた可)となるよう設計する、すなわち第2リングの光路長が第1リングよりも長い場合には第3リングの光路長を第1リングよりも短く設計すると(逆も可)、次のような効果が得られる。図5〜図6で明らかなように波長選択性(利得差)の劣化はバーニア状態の変化方向と関係がある。そのため、利得差劣化が発生するピークが、第2リングと第3リングにおいて、選択されている第1リングのピーク周波数(波長)に対して正負逆の周波数方向となることがわかる。従って、想定外の温度変化が第2リングと第3リングに発生したとしても、それぞれの利得差劣化が相乗されることがなく、より少ない利得差劣化で抑えることができる。
【0030】
例えば、M値がM=80、M=9と両方が正の値となるよう設計した場合について考える。第1リングの温度が一定として、第2リングと第3リングにそれぞれ2℃までの温度変化を発生させた場合、隣接ピークでの利得差劣化は図7のように最大で3.7dBにもなる。初期の利得差がおよそ9dBであるから、デシベルレンジで40%以上もの利得差劣化が発生していることになる。この結果、SMSRが劣化するなど発振特性が劣化し、レーザ光源としての機能を果たせなくなる。
【0031】
一方、M値がM=80、M=−9と両方の符号が逆の値となるよう設計した場合、同様の条件化での隣接ピークの利得差劣化は図8のように最大で2.8dBに抑えることができる。初期の利得差は同様におよそ9dBであるから、デシベルレンジで30%程度の利得差劣化で収まり、従来の設計に対して大きなメリットがあることがわかる。
【0032】
以上述べた様に、本発明で示した光リング共振器回路の設計を用いることで、従来のレーザ発振初期特性を損なうことなく、外的要因による熱勾配や熱クロストークが原因の特性劣化を抑えることができ、安定した温度特性を有する光回路を実現することができる。
【符号の説明】
【0033】
10 波長可変光源
11 入出側導波路
12 反射側導波路
13 PLC基板
14 高反射膜
15 SOA
16、17 位相シフタ
18 非対称マッハツェンダ干渉計
20 光リング共振器
21〜23 リング共振器
24、25 導波路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1リングと第2リングと第3リングとを備えた平面導波路型光リング共振器であって、
前記第2リングの光路上に配置された第1熱光学位相シフタと、
前記第3リングの光路上に配置された第2熱光学位相シフタとを備え、
前記第2リングの光路長は前記第1リングの光路長よりも長く、
前記第3リングの光路長は前記第1リングの光路長よりも短い
光リング共振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−75767(P2011−75767A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226330(P2009−226330)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】