説明

光信号送受信システム、光波長多重伝送システム、光送受信装置、および光波長多重伝送方法

【課題】DWDM用の機器を用いるといった大きなコストアップを発生させることなく、例えば高速ビットレート環境など、分散耐力の幅が狭まる通信環境であっても光信号の劣化を発生させることなく、多重伝送による高速通信を行うことができるようにする。
【解決手段】波長多重する際に、同一の群遅延量を持つ波長の光信号を同一方向に伝送しないように波長を選択すること、または、同一の群遅延量を持つ波長の光信号が、互いに逆方向に伝送するように波長を選択する。さらに、各CWDM光送受信器から送出される光信号について、異なる複数のチャープを用いて各光信号の波長に応じたチャープ量に設定しておく(チャープ量に対応する強度変調器を備える)ことで、伝送路の性質に応じてその伝送路で用いられる全波長の分散範囲をカバーするために必要な送受信器の分散耐力を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散シフトファイバなどを用いて波長分割多重光信号を伝送するための光信号送受信システム、光波長多重伝送システム、光送受信装置、および光波長多重伝送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、波長多重の手段としてCWDM(Coarse Wavelength Division Multiplexing)技術を用いた装置が普及している。CWDMは多重する波長の間隔が20nmと広く、波長精度が中心波長±6.5nmで良いため、精密な波長制御を必要とせず安価にネットワークを構築できるというメリットがある。ここでは、伝送路種別に関わらず、CWDM技術を用いた装置が適用でき、かつ、将来の大容量化にスムーズにアップグレードできることが重要である。
【0003】
図9にCWDM波長配置とシングルモードファイバ(SMF:Single Mode Fiber)および分散シフトファイバ(DSF:Dispersion Shifted Fiber)の分散および群遅延量特性との関係を示す。
SMFの場合は零分散波長が1300nm帯にあるため、CWDMの波長は全て正分散となり、群遅延量が同一になることはない。一方、DSFの場合は零分散波長が1550nm帯にあるためCWDMの短波長側で負分散、長波長側で正分散となる。分散をD、群遅延量をA、波長をλとすると、下記の式(1)のように分散は群遅延量の波長微分で表すことができる。
D=dA/dλ ・・・(1)
【0004】
従って、伝送路の零分散波長を挟み、短波長側と長波長側で分散の絶対値が等しい波長は群遅延量が同一になる。群遅延量が同一の光信号を波長多重して伝送すると、FWM(四光波混合)、XPM(相互位相変調)等による非線形光学効果により伝送特性劣化が生じてしまう。
【0005】
図10に従来の光波長多重伝送システムの一例を示す。
図10(a)は、CWDM技術を用いた1区間を双方向伝送する光波長多重伝送システムを示している。符号1a、1bはCWDM光送受信器、符号2a、2bはCWDM波長光合分波器、符号3aは伝送路ファイバである。
CWDM光送受信器1aから出力された光信号はCWDM波長光合分波器2aで合波される。合波された光多重信号光は伝送路3aを伝送後、CWDM波長光合分波器2bで分波された後、CWDM光送受信器1bに入力される。一方、CWDM光送受信器1bから出力された光信号はCWDM波長光合分波器2bで合波される。合波された光多重信号光は伝送路3aを伝送後、CWDM波長光合分波器2aで分波された後、CWDM光送受信器1aに入力される。このようにして、双方向伝送を実現している。
【0006】
また、従来の光波長多重伝送システムで、片方向4波(双方向で8波)を波長多重したい場合は、波長グリッドが密なDWDM技術を用いて、以下の工夫が必要であった。
図10(b)は、DWDM技術を用いた1区間を双方向伝送する光波長多重伝送システムを示している。1c、1dはDWDM光送受信器、2c、2dはDWDM波長光合分波器、3bは伝送路ファイバである。DWDM光送受信器1cから出力された光信号はDWDM波長光合分波器2cで合波される。合波された光多重信号光は伝送路3bを伝送後、DWDM波長光合分波器2dで分波された後、DWDM光送受信器1dに入力される。一方、DWDM光送受信器1dから出力された光信号はDWDM波長光合分波器2dで合波される。合波された光多重信号光は伝送路3bを伝送後、DWDM波長光合分波器2cで分波された後、DWDM光送受信器1cに入力される。このようにして、双方向伝送を実現している。
【0007】
また、従来の光波長多重通信装置として、波長多重信号の光信号波長が、伝送路全体の平均零分散波長に対して全て短波長側もしくは長波長側となるようにすることで、四光波混合の発生を減少させるようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
また、零分散波長が1550nm付近にある分散シフトファイバを伝送路とする従来の波長分割多重型光伝送システムとして、波長多重される複数の信号光の内、波長が1450nmから1530nmの間にあるものと、1570nmから1650nmの間にあるものを逆方向に伝搬させるようにしたものがある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平7−336301号公報
【特許文献2】特開平11−17656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した従来のCWDMによる光波長多重伝送システムでは、伝送路ファイバ3aがDSFの場合は前述のようにファイバの零分散波長の前後に波長配置すると群遅延量が同一になり、非線形劣化を生じるので、これを回避するため、正分散領域(図10の例では4波長)のみを使用するなどの制限事項があった。
【0010】
また、上述した従来のDWDMによる光波長多重伝送システムとする場合、多重するDWDMの波長範囲は、図10のようにファイバの零分散波長を含まない範囲として群遅延量が同一にならないような工夫が必要である。さらに、光合分波器がDWDM専用となるため、CWDM装置との互換性がないばかりか高価となってしまうデメリットがあった。
【0011】
また、上述した従来の光波長多重伝送システムでは、伝送のビットレートが高速になるにつれて分散耐力の幅が狭まってしまうため、例えば10Gb/sなどの高速ビットレート環境では、分散耐力の幅を十分に確保することが困難となる虞があった。
【0012】
また、上述した特許文献1のものは、上述した従来のCWDMによる光波長多重伝送システムと同様に、平均零分散波長に対して全て短波長側もしくは長波長側の波長の光信号を多重伝送するという制限が加えられるものであった。
このため、特に上述のような高速ビットレート環境では、信号の劣化を発生させる虞があった。
【0013】
また、上述した特許文献2のものは、高速ビットレート環境で分散耐力の幅を十分に確保することについてまで考慮されたものではなかった。
【0014】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、DWDM用の機器を用いるといった大きなコストアップを発生させることなく、例えば高速ビットレート環境など、分散耐力の幅が狭まる通信環境であっても光信号の劣化を発生させることなく、多重伝送による高速通信を行うことができる光信号送受信システム、光波長多重伝送システム、光送受信装置、および光波長多重伝送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
かかる目的を達成するために、本発明の第1の態様としての光信号送受信システムは、伝送路を介して複数の波長の光信号を波長多重して伝送する光波長多重伝送システムに用いられ、上記伝送路に接続されて使用される光信号送受信システムであって、異なる複数のチャープを用いて、波長多重される各波長の送信光信号のチャープ量が設定されていることを特徴とする。
【0016】
複数の波長の光を送受信する光送受信手段と、上記光送受信手段から送出された光の波長に応じたチャープを与える、またはチャープを与えないようにすることで、上記光送受信手段から送出される各波長の光を異なる複数のチャープを用いて当該光の波長に応じたチャープ量とさせるチャープ設定手段と、を備えることが好ましい。
【0017】
上記伝送路を介して波長多重伝送される各光信号の波長は、当該伝送路として用いられる光ファイバにおける零分散波長を挟んで長波長側と短波長側に配置されることが好ましい。
【0018】
上記光送受信手段は、上記伝送路により同一方向に多重伝送される各光信号の群遅延量がすべて異なるように、当該光送受信手段により送受信される光の波長が選択されることが好ましい。
【0019】
上記光送受信手段は、同一の群遅延量を持つ光信号が上記伝送路中で互いに逆方向に伝送されるように、当該光送受信手段により送受信される光の波長が選択されることが好ましい。
【0020】
上記チャープ設定手段は、上記伝送路におけるパワーペナルティが、上記光送受信手段により送受信される全波長について予め定められた値以下となるように、該光送受信手段から送出されるそれぞれの波長の光に対して与えるチャープ量を定められることが好ましい。
【0021】
波長多重される各波長の送信光信号のチャープ量は、上記伝送路における所要の分散耐力を確保できるように設定されることが好ましい。
【0022】
上記伝送路は、少なくとも分散シフトファイバを許容することが好ましい。
上記伝送路は、シングルモードファイバと分散シフトファイバとを許容することであってもよい。
【0023】
また、本発明の第2の態様としての光波長多重伝送システムは、本発明の第1の態様としての光信号送受信システムと、本発明の第1の態様としての光信号送受信システムとが、上記伝送路を介して接続されて構成されたことを特徴とする。
【0024】
また、本発明の第3の態様としての光送受信装置は、本発明の第1の態様としての光信号送受信システムにおける上記光送受信手段および上記チャープ設定手段として用いられることを特徴とする。
【0025】
また、本発明の第4の態様としての光波長多重伝送方法は、伝送路を介して複数の波長の光信号を波長多重伝送する光波長多重伝送方法であって、異なる複数のチャープを用いて、波長多重される各波長の送信光信号のチャープ量が設定されていることを特徴とする。
【0026】
また、本発明の第5の態様としての光波長多重伝送方法は、伝送路を介して複数の波長の光信号を波長多重伝送する光波長多重伝送方法であって、送出される光の波長に応じたチャープを与える、またはチャープを与えないようにすることで、伝送される各波長の光信号を異なる複数のチャープを用いて当該光信号の波長に応じたチャープ量とさせることを特徴とする。
【0027】
波長多重される各波長の送信光信号のチャープ量を、上記伝送路における所要の分散耐力を確保できるように設定することが好ましい。
【0028】
上記伝送路を介して波長多重伝送される各光信号の波長は、当該伝送路として用いられる光ファイバにおける零分散波長を挟んで長波長側と短波長側に配置されることが好ましい。
【0029】
上記伝送路を介して波長多重伝送される光信号は、同一方向に多重伝送される各光信号の群遅延量がすべて異なるように波長が選択されることが好ましい。
【0030】
上記伝送路を介して波長多重伝送される光信号は、同一の群遅延量を持つ光信号が該伝送路中で互いに逆方向に伝送されるように波長が選択されることが好ましい。
【0031】
上記伝送路におけるパワーペナルティが、当該伝送路を介して波長多重伝送される全波長について予め定められた値以下となるように、該伝送路を介して波長多重伝送されるそれぞれの波長の光信号に与えられるチャープ量が定められることが好ましい。
【発明の効果】
【0032】
以上のように、本発明によれば、DWDM用の機器を用いるといった大きなコストアップを発生させることなく、例えば高速ビットレート環境など、分散耐力の幅が狭まる通信環境であっても光信号の劣化を発生させることなく、多重伝送による高速通信を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
次に、本発明に係る光信号送受信システム、光波長多重伝送システム、光送受信装置、および光波長多重伝送方法を、CWDM技術を用いた光波長多重伝送システムに適用した一実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
本実施形態としての光波長多重伝送システムは、光波長多重伝送システムにおいて同一の群遅延量を持つ光信号を同一方向に伝送しないことで四光波混合(FWM)、相互位相変調(XPM)等による伝送特性劣化を抑制できると共に、複数のチャープを与えることで所要の分散耐力を確保できる特徴を有するものである。
【0034】
〔第1の実施形態〕
図1は、CWDM技術を用いた1区間を双方向伝送する本実施形態に係る光波長多重伝送システムを示している。
本光波長多重伝送システムは、図1に示すように、光信号送受信システム10と光信号送受信システム20とが、光ファイバによる伝送路30を介して接続されて構成される。この伝送路30は、1500nm帯に零分散波長を持つ分散シフトファイバ(DSF)と、1300nm帯に零分散波長を持つシングルモードファイバ(SMF)との両方を許容するものとする。
【0035】
光信号送受信システム10は、予め定められた波長の光信号を送受信するCWDM光送受信器(光送受信装置)11(11a〜11d)と、それぞれのCWDM光送受信器から送出された複数の波長の光信号を合波すると共にそれらCWDM光送受信器に対して送信される光信号を波長毎に分波するCWDM波長光合分波器12とを備えて構成される。
【0036】
光信号送受信システム20は、同様に、CWDM光送受信器21(21a〜21d)と、CWDM波長光合分波器22とを備えて構成される。
【0037】
CWDM光送受信器11,21は、図2に示すように、電気信号を予め定められた波長のデジタル光信号に変換して送出する電気/光変換部111と、受信したデジタル光信号を電気信号に変換する光/電気変換部112とを備えて構成される。
【0038】
電気/光変換部111は、図3に示すように、予め定められた波長のレーザ光を送出する光源151と、その光源151から送出されるレーザ光を変調して光デジタル信号とする強度変調器152と、強度変調器152による変調動作などを制御するドライブ回路153とを備えて構成される。
図3中、ドライブ回路153から強度変調器152に対する矢印は、電気的制御を示す。
【0039】
このように、本実施形態におけるCWDM光送受信器の構成として、光源151と光/電気変換部112とが、光を送受信する光送受信手段として機能し、強度変調器152とドライブ回路153とが、光源151からのレーザ光をそのレーザ光の波長に応じたチャープ量の光信号とさせるチャープ設定手段として機能する。
【0040】
本実施形態としての光波長多重伝送システムでは、同一方向に波長多重伝送する光信号の群遅延量がすべて異なるように波長を選択する。
例えば、多重化される波長の配置、および伝送路30(DSF)の波長分散特性が図4に示すものである場合、λ1〜λ4(負分散領域の波長)を波長多重して一方向(例えば上り方向)に伝送し、λ5〜λ8(零分散および正分散領域)を波長多重して逆方向(例えば下り方向)に伝送するようにする。
【0041】
光信号送受信システム10のCWDM光送受信器11a〜11dから出力された各波長の光信号λ1〜λ4は、CWDM波長光合分波器12で合波される。
合波された光多重信号光は伝送路30を伝送後、CWDM波長光合分波器22で分波された後、CWDM光送受信器21a〜21dに入力される。
【0042】
一方、光信号送受信システム20のCWDM光送受信器21a〜21dから出力された各波長の光信号λ5〜λ8は、CWDM波長光合分波器22で合波される。
合波された光多重信号光は伝送路30を伝送後、CWDM波長光合分波器12で分波された後、CWDM光送受信器11a〜11dに入力される。
【0043】
伝送路30にDSFを用いて、波長配置およびDSFの波長分散特性が図4に例示するものである場合、波長λ1〜λ4が負分散、λ5が零分散、λ6〜λ8が正分散となり、各波長の分散値は、例えば以下のようになるものとする。
λ1の分散値:−a ps/nm/km
λ2の分散値:−b ps/nm/km
λ3の分散値:−c ps/nm/km
λ4の分散値:−d ps/nm/km
λ5の分散値: 0 ps/nm/km
λ6の分散値: d ps/nm/km
λ7の分散値: c ps/nm/km
λ8の分散値: b ps/nm/km
【0044】
ここで、正分散領域の波長と負分散領域の波長の分散値の絶対値が等しい場合、すなわち上述した分散値の例では波長λ2とλ8、波長λ3とλ7、波長λ4とλ6の場合、群遅延量が同一になるため、従来の光波長多重伝送システムのように、同一方向に光信号を波長多重して伝送するとFWM、XPM等による非線形光学効果により伝送特性劣化が生じてしまう。
【0045】
そこで、本実施形態としての光波長多重伝送システムでは、図1に示すようにλ1〜λ4を波長多重して一方向に伝送し、λ5〜λ8を波長多重して逆方向に伝送するようにしている。
このため、同一方向に伝送する波長群の各波長の群遅延量はすべて異なることとなり、非線形光学効果による伝送特性劣化を抑制することができる。
【0046】
図5は、伝送路30にSMFまたはDSFを想定した場合の各波長の分散特性である。伝送路としてSMFとDSFの両方を許容するシステムの場合、各波長の取りうる分散値範囲は、SMF、DSFのどちらか一方のみを許容するシステムの分散値範囲より当然広くなる。例えば、図5の例では、
λ1の分散値範囲:−600ps/nm〜+1000ps/nm
λ8の分散値範囲:+300ps/nm〜+1600ps/nm
となる。上記の分散値範囲をとるような場合、全波長の分散をカバーするために必要なCWDM光送受信器の分散耐力は−600ps/nm〜+1600ps/nmとなる。
【0047】
図6は、10Gb/sのビットレートでの伝送を行う場合に信号光を0チャープとマイナスチャープで変調した場合の分散耐力を示す。
0チャープの信号光は、図3に示す強度変調器152として、例えば対称構造を有したゼロチャープタイプのLiNbO3マッハツェンダー変調器(以下、LN変調器)、すなわちX−CutのLN変調器を用いることで実現できる。
マイナスチャープ(図6の例では−0.7)の信号光は、図3に示す強度変調器152として、例えば非対称構造を有したプリチャープタイプのLN変調器、すなわちZ−CutのLN変調器で変調することにより実現できる。
【0048】
どちらか一方のチャープのみとすることで図5の全波長の分散範囲、すなわちSMFとDSFの両方を許容するシステムのCWDM全波長における分散値範囲をカバーすることは困難であるが、図1のCWDM光送受信器11a,11bが0チャープの信号光を送出し、CWDM光送受信器11c,11d,21a〜21dがマイナスチャープ(図6の例では−0.7)の信号光を送出する構成とすることで、CWDM全波長(1471〜1611nm)についてパワーペナルティを1dB以下とすることができ、良好な10Gb/s伝送が可能となる。
【0049】
このように、伝送路におけるパワーペナルティが予め定められた値以下となるように、送出されるそれぞれの波長の光信号に対して設定するチャープ量(チャーピングパラメータ)を選択することで、CWDM全波長(1471〜1611nm)について、10Gb/sなどの高速ビットレートにおける光波長多重伝送を好適に実現することができる。
【0050】
より詳述すると、上述した本実施形態の構成例では、波長λ1の光信号を送出するCWDM光送受信器11aと、波長λ2の光信号を送出するCWDM光送受信器11bとが、強度変調器152としてX−CutのLN変調器を備え、波長λ3の光信号を送出するCWDM光送受信器11cと、波長λ4の光信号を送出するCWDM光送受信器11dと、波長λ5の光信号を送出するCWDM光送受信器21aと、波長λ6の光信号を送出するCWDM光送受信器21bと、波長λ7の光信号を送出するCWDM光送受信器21cと、波長λ8の光信号を送出するCWDM光送受信器21dとが、強度変調器152としてZ−CutのLN変調器を備えている。
【0051】
このように、本実施形態としての光波長多重伝送システムは、波長多重する際に、同一の群遅延量を持つ波長の光信号を同一方向に伝送しないように波長を選択すること、または、同一の群遅延量を持つ波長の光信号が、互いに逆方向に伝送するように波長を選択されることで、四光波混合(FWM)、相互位相変調(XPM)等による伝送特性劣化を抑制している。
さらに、異なる複数のチャープ(例えば0チャープと−0.7チャープの2つ)を用いて、波長多重される各波長の送信光信号のチャープ量が設定されていることで、伝送路としてSMFとDSFの両方を許容するシステムであっても、CWDMでの多重伝送に用いられる全波長(1471〜1611nm)について、伝送路におけるパワーペナルティを予め定められた値以下とすることができ、所要の分散耐力を確保できるようになっている。
【0052】
以上のように、本発明の第1の実施形態としての光波長多重伝送システムによれば、波長多重する際に、同一の群遅延量を持つ波長の光信号を同一方向に伝送しないように波長を選択すること、または、同一の群遅延量を持つ波長の光信号は、互いに逆方向に伝送するように波長を選択することにより、FWM、XPM等による伝送特性劣化を抑制することができる。
さらに、各CWDM光送受信器から送出される光信号について、異なる複数のチャープを用いて各光信号の波長に応じたチャープ量に設定しておく(チャープ量に対応する強度変調器を備える)ことで、伝送路の性質に応じてその伝送路で用いられる全波長の分散範囲をカバーするために必要な送受信器の分散耐力を確保することができる。
【0053】
このため、CWDM技術による光波長多重伝送システムについて、例えば高速ビットレート環境など、分散耐力の幅が狭まる通信環境であっても光信号の劣化を発生させることなく、多重伝送による高速通信を行うことができる。
【0054】
また、上述のようにして伝送路で用いられる全波長の分散範囲をカバーする分散耐力を確保できるため、例えば伝送路にSMFとDSFが混在する場合や、伝送路に用いられている光ファイバーの種類がSMFであるかDSFであるか不明な場合であっても、そうした光ファイバーの種類を気にする必要なく、本実施形態としての光信号送受信システムを用いることで、高速な光波長多重伝送を行う光波長多重伝送システムを容易に構成することができる。
【0055】
上述した本実施形態による各効果は、伝送速度が10Gb/s以上である場合に、相互位相変調(XPM)の影響が顕著になるので、特に有効である。
【0056】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
上述した第1の実施形態では、伝送路30としてDSFが用いられ、負分散領域の波長の数と正分散領域(零分散波長含む)の波長の数が同じである場合について例示しているため、正分散領域の波長と負分散領域の波長にグループ分けすることで、互いに伝送方向が逆になるように波長多重することができた。
この第2の実施形態は、伝送路31が図7に例示する分散特性、すなわちλ3とλ4の間に零分散波長があり、負分散領域の波長の数と正分散領域の波長の数が異なる場合について示すものである。
上述した第1の実施形態と同様のものについては説明を省略する。
【0057】
第2の実施形態としての光波長多重伝送システムは、図8に示すように、光信号送受信システム40と光信号送受信システム50とが、光ファイバによる伝送路31を介して接続されて構成される。
この伝送路31には、分散特性がDSFと異なる光ファイバが用いられているものとする。
【0058】
第2の実施形態では、図7に例示するように、各波長の分散値が以下のようになるものとする。
λ1の分散値:−g ps/nm/km
λ2の分散値:−h ps/nm/km
λ3の分散値:−i ps/nm/km
λ4の分散値: i ps/nm/km
λ5の分散値: h ps/nm/km
λ6の分散値: g ps/nm/km
λ7の分散値: f ps/nm/km
λ8の分散値: e ps/nm/km
【0059】
正分散領域の波長と負分散領域の波長の分散値の絶対値が等しいλ1とλ6、λ2とλ5、λ3とλ4は群遅延量が同一になる。
このため、第2の実施形態としての光波長多重伝送システムは、図8に示すように、λ1,λ2,λ3,λ7を波長多重して一方向に伝送し、λ4,λ5,λ6,λ8を波長多重して逆方向に伝送するように構成されている。
【0060】
また、CWDM光送受信器に用いられる強度変調器152については、上述した第1の実施形態と同様に、SMFとDSFの両方を許容するシステムのCWDM全波長における分散値範囲をカバーする分散耐力を確保できるように、図8に示すCWDM光送受信器11a,11bが0チャープの信号光を送出し、CWDM光送受信器11c,11d,21a〜21dがマイナスチャープ(図6の例では−0.7)の信号光を送出する構成としている。
このことにより、上述した第1の実施形態と同様に、CWDM全波長(1471〜1611nm)についてパワーペナルティを1dB以下とすることができ、良好な10Gb/s伝送が可能となる。
【0061】
このように、パワーペナルティが予め定められた値以下となるように、送出されるそれぞれの波長の光信号に対して設定するチャープ量(チャーピングパラメータ)を選択することで、CWDM全波長(1471〜1611nm)について、10Gb/sなどの高速ビットレートにおける光波長多重伝送を好適に実現することができる。
【0062】
より詳述すると、上述した第2の実施形態の構成例では、波長λ1の光信号を送出するCWDM光送受信器11aと、波長λ2の光信号を送出するCWDM光送受信器11bとが、強度変調器152としてX−CutのLN変調器を備え、波長λ3の光信号を送出するCWDM光送受信器11cと、波長λ7の光信号を送出するCWDM光送受信器11dと、波長λ4の光信号を送出するCWDM光送受信器21aと、波長λ5の光信号を送出するCWDM光送受信器21bと、波長λ6の光信号を送出するCWDM光送受信器21cと、波長λ8の光信号を送出するCWDM光送受信器21dとが、強度変調器152としてZ−CutのLN変調器を備えている。
【0063】
以上のように、本発明の第2の実施形態としての光波長多重伝送システムによれば、分散特性がDSFと異なる光ファイバが伝送路として用いられている場合など、伝送に用いられる光ファイバにおける負分散領域の波長の数と正分散領域の波長の数が異なるように波長多重伝送される場合であっても、上述した第1の実施形態で得られる効果と同様の効果を得ることができる。
【0064】
〔各実施形態について〕
なお、上述した各実施形態は本発明の好適な実施形態であり、本発明はこれに限定されることなく、本発明の技術的思想に基づいて種々変形して実施することが可能である。
例えば、上述した各実施形態では、8波長の光信号を多重化する双方向波長多重伝送を例に説明しているが、8波長以外の波長多重であっても本発明は同様に適用可能である。
【0065】
また、上述した各実施形態では、CWDM光送受信器が強度変調器を備えて構成されることとして説明したが、光信号送受信システムとして機能させることができればこの構成に限定されず、例えば、光信号の送受信部分と強度変調器とが伝送路を介するなどにより別個に設けられて構成されてもよく、また、光信号の送信装置と受信装置とが別個に設けられた構成であってもよい。
【0066】
また、波長光合分波器を備える構成に替えて、各波長の光信号送信装置に対して合波器が設けられて波長多重伝送され、この波長多重伝送された光信号を、各波長の光信号受信装置に対して設けられた分波器が波長毎に分波する構成であっても、本発明は同様に実現することができる。
【0067】
また、上述した各実施形態では、CWDM光送受信器における光源151からのレーザ光を0チャープやマイナスチャープの光信号とするために、強度変調器152としてLiNbO3マッハツェンダー変調器を用いることとして説明したが、光源151から送出されるレーザ光に対して所定のチャープを与えたりチャープを与えないようにしたりできる変調器であればこのものに限定されず、伝送路の種類や与えるチャープなどに応じて各種の変調器を用いてよい。
また、CWDM光送受信器ごとに異なる種類の変調器を用いても、本発明は同様に実現することができる。
【0068】
また、上述した各実施形態としての光波長多重伝送システムは、CWDMにより、SMFとDSFを許容する伝送路30を用いて伝送を行うこととして説明しているが、零分散波長を挟んで長波長側と短波長側に配置された光信号を波長多重して伝送するシステムであればこのものに限定されず、例えばDSFによる伝送路を用いる構成であってもよい。
【0069】
また、上述した各実施形態では、CWDM技術を用いた1区間を双方向伝送する実施形態について説明したが、光ファイバと共に光信号増幅器などを含む伝送路を介した複数区間の伝送システムであっても、本発明に係る光波長多重伝送システムは同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の第1の実施形態としての光波長多重伝送システムの構成例を示すブロック図である。
【図2】該光波長多重伝送システムにおけるCWDM光送受信器の構成例を示すブロック図である。
【図3】該CWDM光送受信器の電気/光変換部111の構成例を示すブロック図である。
【図4】DSFを用いたときの各波長の分散特性を示す図である。
【図5】SMF/DSF伝送時のCWDMグリッド波長における分散を示す図である。
【図6】送出される光信号に与えるチャープを変えた場合の分散耐力を示す図である。
【図7】第2の実施形態における、分散特性がDSFと異なるファイバの各波長の分散特性を示す図である。
【図8】第2の実施形態としての光波長多重伝送システムの構成例を示すブロック図である。
【図9】CWDMグリッドと波長分散特性を示す図である。
【図10】従来の光波長多重伝送システムを説明する図である。
【符号の説明】
【0071】
10,20,40,50 光信号送受信システム
11(11a〜11d),12(12a〜12d) CWDM光送受信器(光送受信装置の一例)
12,22 CWDM波長光合分波器
30,31 伝送路
111 電気/光変換部
112 光/電気変換部
151 光源
152 強度変調器
153 ドライブ回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝送路を介して複数の波長の光信号を波長多重して伝送する光波長多重伝送システムに用いられ、前記伝送路に接続されて使用される光信号送受信システムであって、
異なる複数のチャープを用いて、波長多重される各波長の送信光信号のチャープ量が設定されていることを特徴とする光信号送受信システム。
【請求項2】
複数の波長の光を送受信する光送受信手段と、
前記光送受信手段から送出された光の波長に応じたチャープを与える、またはチャープを与えないようにすることで、前記光送受信手段から送出される各波長の光を異なる複数のチャープを用いて当該光の波長に応じたチャープ量とさせるチャープ設定手段と、を備えたことを特徴とする請求項1記載の光信号送受信システム。
【請求項3】
前記伝送路を介して波長多重伝送される各光信号の波長は、当該伝送路として用いられる光ファイバにおける零分散波長を挟んで長波長側と短波長側に配置されたことを特徴とする請求項2記載の光信号送受信システム。
【請求項4】
前記光送受信手段は、前記伝送路により同一方向に多重伝送される各光信号の群遅延量がすべて異なるように、当該光送受信手段により送受信される光の波長が選択されたことを特徴とする請求項2または3記載の光信号送受信システム。
【請求項5】
前記光送受信手段は、同一の群遅延量を持つ光信号が前記伝送路中で互いに逆方向に伝送されるように、当該光送受信手段により送受信される光の波長が選択されたことを特徴とする請求項2から4の何れか1項に記載の光信号送受信システム。
【請求項6】
前記チャープ設定手段は、前記伝送路におけるパワーペナルティが、前記光送受信手段により送受信される全波長について予め定められた値以下となるように、該光送受信手段から送出されるそれぞれの波長の光に対して与えるチャープ量を定められたことを特徴とする請求項2から5の何れか1項に記載の光信号送受信システム。
【請求項7】
波長多重される各波長の送信光信号のチャープ量は、前記伝送路における所要の分散耐力を確保できるように設定されたことを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の光信号送受信システム。
【請求項8】
前記伝送路は、少なくとも分散シフトファイバを許容することを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の光信号送受信システム。
【請求項9】
前記伝送路は、シングルモードファイバと分散シフトファイバとを許容することを特徴とする請求項1から8の何れか1項に記載の光信号送受信システム。
【請求項10】
請求項1から9の何れか1項に記載の光信号送受信システムと、請求項1から9の何れか1項に記載の光信号送受信システムとが、前記伝送路を介して接続されて構成されたことを特徴とする光波長多重伝送システム。
【請求項11】
請求項1から9の何れか1項に記載の光信号送受信システムにおける前記光送受信手段および前記チャープ設定手段として用いられることを特徴とする光送受信装置。
【請求項12】
伝送路を介して複数の波長の光信号を波長多重伝送する光波長多重伝送方法であって、
異なる複数のチャープを用いて、波長多重される各波長の送信光信号のチャープ量が設定されていることを特徴とする光波長多重伝送方法。
【請求項13】
伝送路を介して複数の波長の光信号を波長多重伝送する光波長多重伝送方法であって、
送出される光の波長に応じたチャープを与える、またはチャープを与えないようにすることで、伝送される各波長の光信号を異なる複数のチャープを用いて当該光信号の波長に応じたチャープ量とさせることを特徴とする光波長多重伝送方法。
【請求項14】
波長多重される各波長の送信光信号のチャープ量を、前記伝送路における所要の分散耐力を確保できるように設定することを特徴とする請求項12または13記載の光波長多重伝送方法。
【請求項15】
前記伝送路を介して波長多重伝送される各光信号の波長は、当該伝送路として用いられる光ファイバにおける零分散波長を挟んで長波長側と短波長側に配置されたことを特徴とする請求項12から14の何れか1項に記載の光波長多重伝送方法。
【請求項16】
前記伝送路を介して波長多重伝送される光信号は、同一方向に多重伝送される各光信号の群遅延量がすべて異なるように波長が選択されたことを特徴とする請求項12から15の何れか1項に記載の光波長多重伝送方法。
【請求項17】
前記伝送路を介して波長多重伝送される光信号は、同一の群遅延量を持つ光信号が該伝送路中で互いに逆方向に伝送されるように波長が選択されたことを特徴とする請求項12から16の何れか1項に記載の光波長多重伝送方法。
【請求項18】
前記伝送路におけるパワーペナルティが、当該伝送路を介して波長多重伝送される全波長について予め定められた値以下となるように、該伝送路を介して波長多重伝送されるそれぞれの波長の光信号に与えられるチャープ量が定められることを特徴とする請求項12から17の何れか1項に記載の光波長多重伝送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−142855(P2007−142855A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−334498(P2005−334498)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】