説明

光半導体素子および光半導体素子の製造方法

【課題】発生する迷光の伝搬を抑えることができる光半導体素子および光半導体素子の製造方法を提供すること。
【解決手段】半導体レーザ2およびMZ干渉型光変調器4を分岐カプラ3、合波カプラ5および光導波路11〜16によって接続し、モノリシック集積した光半導体素子1であって、半導体レーザ2から発する動作光に対応するバンドギャップ波長に比して長いバンドギャップ波長をもつ吸収層6を、少なくとも合波カプラ5の出力端および光導波路16に隣接させて設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体レーザやマッハツェンダ(MZ)型干渉器などの複数の光半導体デバイスを光カプラおよび光導波路によって接続し、モノリシック集積した光半導体素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光変調器、光スイッチ、波長変換素子などの光制御デバイスと半導体レーザデバイスとを同一の半導体基板上にモノリシック集積した光半導体素子が提案され、半導体加工技術および集積技術の進展によって一部実用化されている。ここで、光変調器としては、電界吸収型とMZ型とがあるが、光伝送速度の高速化に伴い、変調時の波長変動(チャープ)を制御することができるMZ干渉型光変調器が注目されている。
【0003】
MZ干渉型光変調器は、1入力2出力の光カプラ、曲がり光導波路および制御用電極部(アーム)を有する2つの光導波路、2入力1出力の光カプラを有し、制御電圧によって一方のアームを伝搬する光の位相を反転することによって光のオンオフ動作が行われる。また、ここで用いられる光カプラは、マルチモード干渉(MMI)光カプラであり、このMMI光カプラは、光導波路内に励起される複数のモード間の干渉を用いて、1入力2出力(1×2)や1入力4出力(1×4)などの光合分波を実現する。
【0004】
【特許文献1】特開平5−2195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、半導体レーザとMZ干渉型光変調器とがモノリシック集積された光半導体素子は、少なくとも、4つの曲がり光導波路部と2つのMMIカプラと有し、この曲がり光導波路部では、光導波路の外側に漏れ出していく光成分が存在する。この光成分は、曲がり光導波路部の光損失になるとともに、伝搬する方向によっては、別の光導波路にカップリングし、消光比を劣化させる場合があるなどの問題があった。また、MMIカプラでも、出力ポートとは異なる位置から漏れ出していく光成分が存在する。たとえば、図23に示すように、前段のMZ干渉型光変調器に接続される2×1のMMIカプラ100は、各光導波路101,102から導波してくる光の位相が逆相であるオフ状態の場合に、入力された全ての光が出力側において漏れ出している。
【0006】
これらの漏れ出していく光成分は、いわゆる迷光となって光半導体素子内を伝搬し、光半導体素子からの出力光に結合される光ファイバに、この迷光が結合すると消光比などの劣化を招くという問題点があった。なお、これらの問題は、光半導体素子の製造時の誤差などによって、曲がり光導波路幅や、MMIカプラの素子長や素子幅が設計値とずれている場合、一層顕著になる。
【0007】
一方、MMIカプラは、合分波するポート数が増えれば増えるほど、迷光の影響が大きくなる。たとえば、複数n個の半導体レーザとMZ干渉型光変調器とがモノリシック集積された場合、n×2のMMIカプラが必要になるが、このポート数nの増大によって迷光の量も増大する。一般に、Pポート×QポートのMMIカプラである場合、漏れ出す迷光の量は、P≧Qのとき、(P−Q/P)で増大する。すなわち、集積するポート数が多いほど、迷光の量が大きくなる。特に、MMIカプラの分岐側中央から漏れる光は、対向する合波側のMMIカプラに直接結合するため、消光動作を大きく劣化させることになる。
【0008】
なお、波長変換素子などのように、さらに多くの半導体デバイスを集積化する場合においても迷光の問題が発生する。
【0009】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、発生する迷光の伝搬を抑えることができる光半導体素子および光半導体素子の製造方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1にかかる光半導体素子は、複数の光半導体デバイスを光カプラおよび光導波路によって接続し、モノリシック集積した光半導体素子であって、前記光カプラおよび前記光導波路を伝搬する動作光に対応するバンドギャップ波長に比して長いバンドギャップ波長をもつ吸収領域を前記光カプラあるいは前記光導波路に隣接して設けたことを特徴とする。
【0011】
また、請求項2にかかる光半導体素子は、上記の発明において、前記吸収領域は、前記光カプラあるいは前記光導波路から幅方向に広がり、かつ後段出力方向全面に渡って設けられることを特徴とする。
【0012】
また、請求項3にかかる光半導体素子は、上記の発明において、前記吸収領域は、前記光カプラの出力端側に設けたことを特徴とする。
【0013】
また、請求項4にかかる光半導体素子は、上記の発明において、前記光カプラが複数である場合、前段の光カプラの出力端から該前段の光カプラに接続される後段の光カプラの入力端の間に、前記吸収領域を設けることを特徴とする。
【0014】
また、請求項5にかかる光半導体素子は、上記の発明において、光分岐を行う光カプラと光合波を行う光カプラとの間に、前記吸収領域を設けたことを特徴とする。
【0015】
また、請求項6にかかる光半導体素子は、上記の発明において、2つの光カプラが複数の光導波路によって接続される場合、該2つの光カプラおよび該複数の光導波路によって囲まれる領域を前記吸収領域とすることを特徴とする。
【0016】
また、請求項7にかかる光半導体素子は、上記の発明において、前記光カプラが複数の出力端をもつマルチモード干渉光カプラである場合、該出力端間の光集中端に吸収用の光導波路を設けるとともに、前記出力端に接続される光導波路間に前記吸収領域を設けることを特徴とする。
【0017】
また、請求項8にかかる光半導体素子は、上記の発明において、前記吸収領域は、前記光半導体デバイス、前記光カプラおよび前記光導波路を除いた領域全面に設けたことを特徴とする。
【0018】
また、請求項9にかかる光半導体素子は、上記の発明において、前記光半導体デバイスは、半導体レーザデバイスおよび光制御機能デバイスであることを特徴とする。
【0019】
また、請求項10にかかる光半導体素子は、上記の発明において、前記半導体レーザデバイスは、1以上の分布帰還型半導体レーザであり、前記光制御機能デバイスは、マッハツェンダ型光干渉器であることを特徴とする。
【0020】
また、請求項11にかかる光半導体素子は、上記の発明において、前記光導波路は、半導体基板に平行な平面に形成されるリッジ型の光導波路構造を有し、かつリッジ幅に比して光導波路層の幅が広いことを特徴とする。
【0021】
また、請求項12にかかる光半導体素子は、上記の発明において、前記マッハツェンダ型光干渉器の各アームは、半導体基板に平行な平面に形成されるリッジ型の光導波路構造を有し、かつリッジ幅に比して光導波路層の幅が広いことを特徴とする。
【0022】
また、請求項13にかかる光半導体素子は、上記の発明において、前記吸収領域に隣接する光カプラあるいは前記吸収領域に隣接する光導波路は、リッジ型の光導波路構造を有し、かつリッジ幅に比して光導波路層が広いことを特徴とする。
【0023】
また、請求項14にかかる光半導体素子の製造方法は、複数の光半導体デバイスを光カプラおよび光導波路によって接続し、モノリシック集積した光半導体素子の製造方法であって、半導体基板に平行な平面内に、選択成長法によって、前記光カプラおよび前記光導波路を伝搬する動作光に対応するバンドギャップ波長に比して長いバンドギャップ波長をもつ吸収領域を前記光カプラあるいは前記光導波路に隣接して形成することを特徴とする。
【0024】
また、請求項15にかかる光半導体素子の製造方法は、複数の光半導体デバイスを光カプラおよび光導波路によって接続し、モノリシック集積した光半導体素子の製造方法であって、半導体基板に平行な平面内に、B/J再成長法によって、前記光カプラおよび前記光導波路を伝搬する動作光に対応するバンドギャップ波長に比して長いバンドギャップ波長をもつ吸収領域を前記光カプラあるいは前記光導波路に隣接して形成することを特徴とする。
【0025】
また、請求項16にかかる光半導体素子の製造方法は、上記の発明において、前記吸収領域は、前記光カプラあるいは前記光導波路から幅方向に広がり、かつ後段出力方向全面に渡って設けられることを特徴とする。
【0026】
また、請求項17にかかる光半導体素子の製造方法は、上記の発明において、前記吸収領域は、前記光カプラの出力端側に設けたことを特徴とする。
【0027】
また、請求項18にかかる光半導体素子の製造方法は、上記の発明において、前記光半導体デバイスは、半導体レーザデバイスおよび光制御機能デバイスであることを特徴とする。
【0028】
また、請求項19にかかる光半導体素子の製造方法は、上記の発明において、前記半導体レーザデバイスは、1以上の分布帰還型半導体レーザであり、前記光制御機能デバイスは、マッハツェンダ型光干渉器であることを特徴とする。
【0029】
また、請求項20にかかる光半導体素子の製造方法は、上記の発明において、前記光導波路は、半導体基板に平行な平面に形成されるリッジ型の光導波路構造を有し、かつリッジ幅に比して光導波路層の幅が広いことを特徴とする。
【0030】
また、請求項21にかかる光半導体素子の製造方法は、上記の発明において、前記マッハツェンダ型光干渉器の各アームは、半導体基板に平行な平面に形成されるリッジ型の光導波路構造を有し、かつリッジ幅に比して光導波路層の幅が広いことを特徴とする。
【0031】
また、請求項22にかかる光半導体素子の製造方法は、上記の発明において、前記吸収領域に隣接する光カプラあるいは前記吸収領域に隣接する光導波路は、リッジ型の光導波路構造を有し、かつリッジ幅に比して光導波路層が広いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
この発明にかかる光半導体素子および光半導体素子の製造方法では、光カプラおよび光導波路を伝搬する動作光に対応するバンドギャップ波長に比して長いバンドギャップ波長をもつ吸収領域を前記光カプラあるいは前記光導波路に隣接して設けているので、光カプラの出力端や光導波路から漏れ出す迷光を吸収し、この迷光が動作光と結合することによる消光比などの劣化を防止することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、この発明を実施するための最良の形態である光半導体素子および光半導体素子の製造方法について図面を参照して説明する。
【0034】
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1である光半導体素子の概要構成を示す図である。図1において、図1において、この光半導体素子1は、InPなどの半導体基板上に、半導体レーザ2、半導体レーザ2からの出力光を2分岐するMMIカプラによって実現される分岐カプラ3、分岐カプラ3によって分岐された光をそれぞれアーム4−1,4−2に伝搬させアーム4−1,4−2の一方あるいは双方の位相を変化させることによって光変調を行うMZ干渉型光変調器4、MZ干渉型光変調器4の各アーム4−1,4−2から出力された光を合波するMMIカプラによって実現される合波カプラ5が形成され、モノリシック集積されている。
【0035】
半導体レーザ2と分岐カプラ3との間は、光導波路11によって接続され、分岐カプラ3とアーム4−1,4−2との間は、それぞれ光導波路12,13によって接続され、アーム4−1,4−2と合波カプラ5との間は、それぞれ光導波路14,15によって接続され、合波カプラ5の出力側は、光導波路16に接続され、合波カプラ5によって合波された光は、この光導波路16を介して出力される。
【0036】
半導体レーザ2は、バンドギャップ波長が1550nmの量子井戸構造の活性層をもつDFBレーザであり、その発振波長は、1550nm近傍である。アーム4−1,4−2は、それぞれバンドギャップ波長1460nmの量子井戸構造の活性層によって光導波路が形成され、電極18,19への電圧印加によって屈折率変化が生じることによって導波する光の位相を変化させる。各光導波路11〜16は、バンドギャップ波長が1300nmの量子井戸構造の活性層によって形成される。
【0037】
ここで、半導体基板上の上述した半導体レーザ2,MZ干渉型光変調器4などがモノリシックに形成される平面であって、合波カプラ5の出力端側の全面に吸収層6が形成される。すなわち、光導波路14,15が接続される合波カプラ5の入力端を通り、光半導体素子1の長手方向であって光の出力方向に直交する線から、光出力方向の全面にわたって吸収層6が設けられる。もちろん、合波カプラ5および光導波路16の領域は除かれる。この吸収層6は、バンドギャップ波長1550nmの量子井戸構造の活性層によって形成され、この1550nm近傍から1550nm未満の光を吸収する。特に合波カプラ5と光導波路16とが接続される出力端から漏れ出る迷光を吸収し、光導波路16を導波する光に、迷光が混合して消光比が劣化するのを防止する。
【0038】
ここで、図2〜図12を参照して、図1に示した光半導体素子1の製造方法について説明する。図2〜図5は、光半導体素子1の製造過程に伴う平面図であり、図6〜12は、光半導体素子1の製造過程に伴う断面図である。まず、図6に示すように、MOCVD結晶成長装置などを用いて、n−InP基板21上の全面に、バンドギャップ波長1550nmの量子井戸構造(InGaAsP/InGaAsP)をもつ半導体レーザ活性層22を成長させる。さらに、半導体レーザ活性層22の上層にInP層を形成する。この際、半導体レーザ2が形成される領域E1には、DFBレーザの波長選択を実現するため、回折格子22bを形成する。
【0039】
その後、図2および図7に示すように、半導体レーザ2が形成される領域E1および吸収層6が形成される領域E2をSiNx20aでマスクし、それ以外の領域E11をエッチングして除去し、選択成長法によって、バンドギャップ波長1460nmのMZ活性層23を成長させる。なお、選択成長法に代えて、B/J(butt joint)再成長法によってMZ活性層23を形成してもよい。
【0040】
さらに、図3および図8に示すように、領域E1,E2に加えてアーム4−1,4−2が形成される領域E3をSiNx20aでマスクし、それ以外の領域E12をエッチングして除去し、選択成長法によって、バンドギャップ波長1300nmの光導波路層24を成長させる。なお、選択成長法に代えて、B/J(butt joint)再成長法によってMZ活性層23を形成してもよい。
【0041】
その後、図9に示すように、形成した半導体レーザ活性層22,MZ活性層23,光導波路層24の上層全面にInP層25を形成し、さらにInP層25の上層全面にコンタクト層26を積層する。その後、図10に示すように、SiNx20cによってフォトマスクを形成し、光導波路パターンを転写し、光導波路パターン以外の部分を光導波路層24最上層の手前までドライエッチングし、ローメサ構造の光導波路を形成する。この光導波路パターンは、光導波路11〜16、半導体レーザ2、分岐カプラ3、アーム4−1,4−2、合波カプラ5、吸収層6の領域をいう。
【0042】
さらに、図11に示すように、たとえば電気的な接触が必要なアーム4−1,4−2に相当する部分を除いて絶縁層31を形成し、このアーム4−1,4−2の上面にコンタクト層32および電極面を形成するためのコンタクト層33を形成し、このコンタクト層33の上面に電極19を形成するとともに、n−InP層21の下面全体に電極30を形成する。この電極19,18と同様な電極が形成されるのは、半導体レーザ2であり、半導体レーザ2の電極17が形成される(図5参照)。
【0043】
なお、上述した光導波路は、ローメサ構造としたが、図12に示すように、ハイメサ構造としてもよい。このハイメサ構造の光導波路は、光導波路パターン以外の部分をMZ活性層23,光導波路層24の下部層、ここではn−InP層21に達するまでドライエッチングを行うことによって形成される。また、光導波路は、半導体、ポリマーなどで埋め込んだ埋め込みメサ構造としてもよい。
【0044】
このようにして形成された光半導体素子1では、曲がり光導波路である光導波路12〜15やMMIカプラである分岐カプラ3,合波カプラ5などから、光導波路以外の方向に漏れ出していく光成分である迷光が、光半導体素子1の出力端側に設けられた吸収層6によって吸収されるので、光導波路16を介して光ファイバに結合する迷光成分がなくなる。この光半導体素子1では、動作電圧3V時に消光比32dBが得られた。なお、吸収層6を設けない場合には、消光比27dBであった。
【0045】
この実施の形態1では、光半導体素子1の出力端側の合波カプラ5および光導波路16に隣接した吸収層6を設け、迷光を吸収するようにしているので、消光比の劣化を防止することができる。
【0046】
(実施の形態2)
つぎに、この発明の実施の形態2について説明する。上述した実施の形態1では、1の半導体レーザと1つのMZ干渉型光変調器とをモノリシック集積した光半導体素子であったが、この実施の形態2では、複数の半導体レーザと1つのMZ干渉型光変調器とをモノリシック集積したものを対象としている。
【0047】
図13は、この発明の実施の形態2である光半導体素子41の概要構成を示す図である。図13に示すように、この光半導体素子41は、分岐カプラ3以降の後段の構成は、図1に示した光半導体素子1と同じである。この光半導体素子41では、分岐カプラ3の前段に3つの半導体レーザ42−1〜42−3を有し、各半導体レーザ42−1〜42−3から選択的に出力されたレーザ光を3×1のMMIカプラ43によって1つの光導波路11に出力する。
【0048】
ここで、上述したように、Pポート×QポートのMMIカプラである場合、漏れ出す迷光の量は、P≧Qのとき、(P−Q/P)で増大し、集積するポート数が多いほど、迷光の量が大きくなる。したがって、少なくともMMIカプラ43の出力端面に隣接し、光導波路11および分岐カプラ3の入力端面に隣接させ、光半導体素子1の幅方向であって側面まで延ばした吸収層46をさらに設けている。この吸収層46は、吸収層6と同じ半導体レーザ活性層によって実現している。これによって、MMIカプラ43からの迷光が他の光導波路などに影響を及ぼすのを防止している。この光半導体素子41では、動作電圧3V時に消光比32dBが得られた。なお、吸収層6および吸収層46を設けない場合には、消光比20dBであった。
【0049】
この実施の形態2では、吸収層6に加えて吸収層46をさらに設け、極力、迷光の発生直後に、迷光を吸収するようにしているので、一層、迷光による消光比の劣化を防止できる。
【0050】
(実施の形態3)
つぎに、この発明の実施の形態3について説明する。この実施の形態3では、実施の形態2で示したMMIカプラ43と分岐カプラ3とを1つの3×2のMMIカプラ53によって実現している。
【0051】
図14は、この発明の実施の形態3である光半導体素子51の概要構成を示す図である。図14に示すように、この光半導体素子51は、図13に示したMMIカプラ43、光導波路11および分岐カプラ3を、1つの3×2のMMIカプラ53に置き換えている。さらに、このMMIカプラ53の出力端面とアーム4−1,4−2によって囲まれる領域に吸収層56を形成している。この吸収層56は、吸収層6と同じ半導体レーザ活性層によって実現している。この吸収層56を設けることによって、MMIカプラ53の出力端面から漏れ出る迷光を直ちに吸収し、他の光導波路などに影響を及ぼさないようにしている。この光半導体素子51では、動作電圧3V時に消光比32dBが得られた。なお、吸収層6および吸収層56を設けない場合には、消光比18dBであった。
【0052】
この実施の形態3では、MMIカプラ53の出力端に吸収層56を設け、極力、迷光の発生直後に、迷光を吸収するようにしているので、一層、迷光による消光比の劣化を防止できる。
【0053】
(実施の形態4)
つぎに、この発明の実施の形態4について説明する。この実施の形態4は、実施の形態3で示した吸収層56の領域に吸収光導波路65を設けるようにしている。
【0054】
図15は、この発明の実施の形態4である光半導体素子61の概要構成を示す図である。図15に示すように、この光半導体素子61は、図14に示した吸収層56の領域であってアーム4−1,4−2に平行な中央領域に、アーム4−1,4−2と同じMZ活性層によって実現される吸収光導波路65を形成している。また、吸収光導波路65を除いた吸収層56に対応する領域には、半導体レーザ活性層によって実現される吸収層66が形成される。これによって、吸収光導波路65に迷光を導き出し、この吸収光導波路65に隣接された吸収層66によって迷光を効率的に吸収するようにしている。3×2のMMIカプラ53では、設計上、2つの出力側ポートの中央部分に漏れ出力が集中するため、この部分から漏れる迷光を吸収光導波路65を用いて広域で効率よく吸収しようとするものである。この光半導体素子61では、動作電圧3V時に消光比32dBが得られた。なお、吸収層6、吸収層66および吸収光導波路65を設けない場合には、消光比18dBであった。
【0055】
この実施の形態4では、MMIカプラ53の出力端に吸収光導波路65および吸収層66を設け、極力、迷光の発生直後に、迷光を吸収するようにしているので、一層、迷光による消光比の劣化を防止できる。
【0056】
(実施の形態5)
つぎに、この発明の実施の形態5について説明する。この実施の形態5では、さらに導波する光のロスを小さくするため、リッジ幅に比して光導波路層の幅を広くしたリッジ型の光導波路構造としている。
【0057】
図16は、図11に対応したアーム4−1,4−2部分の断面を示す図である。図16の下部に示すように、この発明の実施の形態4である光半導体素子61の概要構成を示す図である。図15に示すように、メサ幅2bとMZ活性層の幅2wとほぼ同じであって導波する光がガウシアン分布である場合、図15の下部に示すように、光導波路を通る光は、メサ幅2bを超えて光導波路層24に染み出し、この染み出した光は光導波路層24によって吸収あるいは散乱してしまい、ロス領域C1,C2において光導波路を導波する光のロスになる。なお、図16では、MZ活性層の幅2wを、光のスポットサイズの2倍の幅とほぼ同じであるとしている。ここで、スポットサイズとは、光の中心点から光の電界振幅が中心値の1/eとなる点までの幅をいう。
【0058】
ここで、メサ幅bに対するMZ活性層23の中心からの幅wの比をaとすると、MZ活性層内部に閉じ込められる光の割合h(a)2は、図17に示すように、幅比aを大きくすればするほど、1に近づくように変化する。図16に示した光導波路構造の場合、幅比a=1であり、このときのMZ活性層内部に閉じ込められる光の割合h(a)2は、0.71であり、29%の光が半導体レーザ活性層にしみ出し、ロスを受ける。また、幅比a=2とすることによってロスを受ける光の割合は1%となる。逆に、ロスを受ける光の割合を10%以下とするためには、幅比a=1.38以上とすればよい。
【0059】
したがって、図18に示すように、MZ活性層23に拡張部分23aを形成し、MZ活性層23の幅a・w=1.38とすることによって、ロス領域C21,C22でのロスを10%以下にすることができる。もちろん、MZ活性層23の幅a・w=2とすることによってロスを1%以下に低減することができる。
【0060】
図19は、図1に示した光半導体素子に、この実施の形態5の光導波路構造を適用した場合の構造を示す図である。図19に示すように、ローメサリッジ構造のアーム4−1,4−2のローメサリッジ構造のMZ活性層23に拡張部分23aを形成して、MZ活性層23を広げることによって、導波する光のロスを低減することができる。さらに、図19では、合成カプラ5および光導波路16の幅方向に、吸収層6が直接接続しないように、合成カプラ5および光導波路16の各メサ幅に比して広い光導波路層24aを形成し、この光導波路層24aに吸収層6が隣接して配置されるようにしている。これによって、合成カプラ5および光導波路16を通る光のロスを低減できるとともに、迷光による影響を防止することができる。
【0061】
また、図20は、図13に示した光半導体素子に、この実施の形態5の光導波路構造を適用した場合の構造を示す図である。図20に示すように、この光半導体素子は、図19に示した光半導体素子と同様に、アーム4−1,4−2に拡張部分23aを形成するとともに光導波路層24aを形成して、導波する光のロスを低減するようにしている。さらに、MMIカプラ43と分岐カプラ3との間を接続する光導波路11のローメサリッジ構造に対して、メサ幅に比して広い光導波路層24bを形成し、この光導波路層24bに吸収層46が隣接して配置されるようにしている。これによって光導波路11を通る光のロスを低減できるとともに、迷光による影響を防止することができる。
【0062】
また、図21は、図14に示した光半導体素子に、この実施の形態5の光導波路構造を適用した場合の構造を示す図である。図21に示すように、この光半導体素子は、図19に示した光半導体素子と同様に、アーム4−1,4−2に拡張部分23aを形成するとともに光導波路層24aを形成して、導波する光のロスを低減するようにしている。さらに、拡張部分23aと吸収層56との間に光導波路層24cが介在するように形成し、この光導波路層24cに吸収層56が隣接して配置されるようにしている。これによってアーム4−1,4−2を通る光のロスを低減できるとともに、迷光による影響を防止することができる。
【0063】
また、図22は、図15に示した吸収光導波路65を有する光半導体素子に、この実施の形態5の光導波路構造を適用した場合の構造を示す図である。図22に示すように、この光半導体素子は、図19に示した光半導体素子と同様に、アーム4−1,4−2に拡張部分23aを形成するとともに光導波路層24aを形成して、導波する光のロスを低減するようにしている。さらに、拡張部分23aと吸収層56との間に光導波路層24dが介在するように形成し、この光導波路層24dに吸収層56が隣接して配置されるようにしている。これによってアーム4−1,4−2を通る光のロスを低減できるとともに、迷光による影響を防止することができる。
【0064】
なお、上述した実施の形態1〜5では、モノリシック集積された半導体基板上に一部に吸収層を設けるようにしていたが、これに限らず、半導体素子2、分岐カプラ3、アーム4−1,4−2、合波カプラ5、光導波路11〜16などの機能部以外の領域全面に半導体レーザ活性層によって実現される吸収層を設けてもよい。さらに、吸収層は、半導体レーザ活性層に限らず、導波する動作光を吸収できればよく、この動作光のバンドギャップ波長を超えるバンドギャップ波長をもつ活性層であればよい。
【0065】
また、上述した実施の形態1〜5では、MMIカプラを用いた光半導体素子について説明したが、これに限らず、方向性結合器を用いた場合も同様に適用することができる。
【0066】
さらに、上述した実施の形態では、半導体レーザおよびMZ干渉型光変調器を搭載した光半導体素子について説明したが、これに限らず、波長変換素子などの他の多くの半導体デバイスを集積化した場合についても同様に吸収層を形成することによって迷光による影響を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】この発明の実施の形態1にかかる光半導体素子の概要構成を示す図である。
【図2】図1に示した光半導体素子の製造過程を示す平面図である。
【図3】図1に示した光半導体素子の製造過程を示す平面図である。
【図4】図1に示した光半導体素子の製造過程を示す平面図である。
【図5】図1に示した光半導体素子の製造過程を示す平面図である。
【図6】図1に示した光半導体素子の製造過程を示す断面図である。
【図7】図1に示した光半導体素子の製造過程を示す断面図である。
【図8】図1に示した光半導体素子の製造過程を示す断面図である。
【図9】図1に示した光半導体素子の製造過程を示す断面図である。
【図10】図1に示した光半導体素子の製造過程を示す断面図である。
【図11】図1に示した光半導体素子の製造過程を示す断面図である。
【図12】図1に示した光半導体素子の製造過程を示す断面図である。
【図13】この発明の実施の形態2にかかる光半導体素子の概要構成を示す図である。
【図14】この発明の実施の形態3にかかる光半導体素子の概要構成を示す図である。
【図15】この発明の実施の形態4にかかる光半導体素子の概要構成を示す図である。
【図16】図11に対応したアーム部分の断面図である。
【図17】幅比に対する透過比の変化を示す図である。
【図18】メサ幅に比して広いMZ活性層を形成したアーム部分の断面図である。
【図19】図1に示した光半導体素子に、この発明の実施の形態5の光導波路構造を適用した場合の構造を示す図である。
【図20】図13に示した光半導体素子に、この発明の実施の形態5の光導波路構造を適用した場合の構造を示す図である。
【図21】図14に示した光半導体素子に、この発明の実施の形態5の光導波路構造を適用した場合の構造を示す図である。
【図22】図15に示した吸収光導波路65を有する光半導体素子に、この発明の実施の形態5の光導波路構造を適用した場合の構造を示す図である。
【図23】MMIカプラから漏れ出る迷光の状態を示す図である。
【符号の説明】
【0068】
1,41,51,61 光半導体素子
2,42−1〜42−3 半導体レーザ
3 分岐カプラ
4 MZ干渉型光変調器
4−1,4−2 アーム
5 合波カプラ
6,46,56,66 吸収層
11〜16 光導波路
17〜19,30,44−1〜44−3 電極
20a〜20c SiNx
21 n−InP基板
22 半導体レーザ活性層
22a,25 InP層
22b 回折格子
23 MZ活性層
23a 拡張部分
24,24a〜24d 光導波路層
26,32,33 コンタクト層
31 絶縁層
43,53 MMIカプラ
65 吸収光導波路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の光半導体デバイスを光カプラおよび光導波路によって接続し、モノリシック集積した光半導体素子であって、
前記光カプラおよび前記光導波路を伝搬する動作光に対応するバンドギャップ波長に比して長いバンドギャップ波長をもつ吸収領域を前記光カプラあるいは前記光導波路に隣接して設けたことを特徴とする光半導体素子。
【請求項2】
前記吸収領域は、前記光カプラあるいは前記光導波路から幅方向に広がり、かつ後段出力方向全面に渡って設けられることを特徴とする請求項1に記載の光半導体素子。
【請求項3】
前記吸収領域は、前記光カプラの出力端側に設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の光半導体素子。
【請求項4】
前記光カプラが複数である場合、前段の光カプラの出力端から該前段の光カプラに接続される後段の光カプラの入力端の間に、前記吸収領域を設けることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の光半導体素子。
【請求項5】
光分岐を行う光カプラと光合波を行う光カプラとの間に、前記吸収領域を設けたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の光半導体素子。
【請求項6】
2つの光カプラが複数の光導波路によって接続される場合、該2つの光カプラおよび該複数の光導波路によって囲まれる領域を前記吸収領域とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の光半導体素子。
【請求項7】
前記光カプラが複数の出力端をもつマルチモード干渉光カプラである場合、該出力端間の光集中端に吸収用の光導波路を設けるとともに、前記出力端に接続される光導波路間に前記吸収領域を設けることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の光半導体素子。
【請求項8】
前記吸収領域は、前記光半導体デバイス、前記光カプラおよび前記光導波路を除いた領域全面に設けたことを特徴とする請求項1に記載の光半導体素子。
【請求項9】
前記光半導体デバイスは、半導体レーザデバイスおよび光制御機能デバイスであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一つに記載の光半導体素子。
【請求項10】
前記半導体レーザデバイスは、1以上の分布帰還型半導体レーザであり、
前記光制御機能デバイスは、マッハツェンダ型光干渉器であることを特徴とする請求項9に記載の光半導体素子。
【請求項11】
前記光導波路は、半導体基板に平行な平面に形成されるリッジ型の光導波路構造を有し、かつリッジ幅に比して光導波路層の幅が広いことを特徴とする請求項1〜10のいずれか一つに記載の光半導体素子。
【請求項12】
前記マッハツェンダ型光干渉器の各アームは、半導体基板に平行な平面に形成されるリッジ型の光導波路構造を有し、かつリッジ幅に比して光導波路層の幅が広いことを特徴とする請求項10または11に記載の光半導体素子。
【請求項13】
前記吸収領域に隣接する光カプラあるいは前記吸収領域に隣接する光導波路は、リッジ型の光導波路構造を有し、かつリッジ幅に比して光導波路層が広いことを特徴とする請求項1〜12のいずれか一つに記載の光半導体素子。
【請求項14】
複数の光半導体デバイスを光カプラおよび光導波路によって接続し、モノリシック集積した光半導体素子の製造方法であって、
半導体基板に平行な平面内に、選択成長法によって、前記光カプラおよび前記光導波路を伝搬する動作光に対応するバンドギャップ波長に比して長いバンドギャップ波長をもつ吸収領域を前記光カプラあるいは前記光導波路に隣接して形成することを特徴とする光半導体素子の製造方法。
【請求項15】
複数の光半導体デバイスを光カプラおよび光導波路によって接続し、モノリシック集積した光半導体素子の製造方法であって、
半導体基板に平行な平面内に、B/J再成長法によって、前記光カプラおよび前記光導波路を伝搬する動作光に対応するバンドギャップ波長に比して長いバンドギャップ波長をもつ吸収領域を前記光カプラあるいは前記光導波路に隣接して形成することを特徴とする光半導体素子の製造方法。
【請求項16】
前記吸収領域は、前記光カプラあるいは前記光導波路から幅方向に広がり、かつ後段出力方向全面に渡って設けられることを特徴とする請求項14または15に記載の光半導体素子の製造方法。
【請求項17】
前記吸収領域は、前記光カプラの出力端側に設けたことを特徴とする請求項14〜16のいずれか一つに記載の光半導体素子の製造方法。
【請求項18】
前記光半導体デバイスは、半導体レーザデバイスおよび光制御機能デバイスであることを特徴とする請求項14〜17のいずれか一つに記載の光半導体素子の製造方法。
【請求項19】
前記半導体レーザデバイスは、1以上の分布帰還型半導体レーザであり、
前記光制御機能デバイスは、マッハツェンダ型光干渉器であることを特徴とする請求項18に記載の光半導体素子の製造方法。
【請求項20】
前記光導波路は、半導体基板に平行な平面に形成されるリッジ型の光導波路構造を有し、かつリッジ幅に比して光導波路層の幅が広いことを特徴とする請求項14〜19のいずれか一つに記載の光半導体素子の製造方法。
【請求項21】
前記マッハツェンダ型光干渉器の各アームは、半導体基板に平行な平面に形成されるリッジ型の光導波路構造を有し、かつリッジ幅に比して光導波路層の幅が広いことを特徴とする請求項19または20に記載の光半導体素子の製造方法。
【請求項22】
前記吸収領域に隣接する光カプラあるいは前記吸収領域に隣接する光導波路は、リッジ型の光導波路構造を有し、かつリッジ幅に比して光導波路層が広いことを特徴とする請求項14〜21のいずれか一つに記載の光半導体素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate


【公開番号】特開2007−94336(P2007−94336A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−288671(P2005−288671)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】