説明

光受信モジュール

【課題】光分岐素子を用いることなく半導体光増幅器への入力光信号のパワーをモニタし得る光受信モジュールを提供する。
【解決手段】光受信モジュールでは、半導体光増幅器が、入力光信号を増幅する。光受信器が、半導体光増幅器からの増幅光信号の大きさに応じた電気信号を発生する。第1の演算装置が、光受信器からの電気信号に基づいて、半導体光増幅器に与えるバイアス電流値と半導体光増幅器の温度を算出する。駆動装置が、第1の演算装置によって算出されたバイアス電流値及び温度を半導体光増幅器に対して設定する。記憶手段が、バイアス電流値と温度に対応する半導体光増幅器の利得と雑音指数のデータを記憶している。第2の演算装置は、記憶手段から駆動装置によって設定されるバイアス電流値及び温度に対応するデータを取得し、当該データと光受信器の電気信号とに基づいて、半導体光増幅器への入力光信号のパワーを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光受信モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記の非特許文献1には、100GBイーサネット(登録商標)用の光トランシーバの規格が記載されている。この光トランシーバは、互いに異なる波長の25Gbpsの四つの光信号を波長多重することにより100GBの光信号を伝送している。そのため、この光トランシーバは、四つの光送信サブアセンブリ(TOSA)及び四つの光受信サブアセンブリ(ROSA)を備えている。
【0003】
このような光トランシーバにより例えば40kmといった長距離伝送を行う場合には、光信号の伝送損失が生じ得る。したがって、ROSAに入力される光を増幅するために、光トランシーバには、半導体光増幅器が搭載されることがある。
【0004】
半導体光増幅器を搭載した光トランシーバでは、一般的に、ROSAの出力をモニタすることにより、半導体光増幅器のバイアス電流や温度を調整して、当該半導体光増幅器の増幅率(利得)を制御することが行われている。かかる技術については、例えば、下記の特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−98166号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Chris Cole 他、”100GBE−OPTICAL LAN TECHNOLOGIES”、IEEE Applications & Practice、2007年12月、第12頁〜第19頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した光トランシーバでは、半導体光増幅器によって増幅された後の光信号のパワーではなく、半導体光増幅器に入力される前の光信号のパワー、すなわち半導体光増幅器を含む光トランシーバに入力される光信号のパワーをモニタしたいという要求がある。
【0008】
この要求に対する一対策は、半導体光増幅器への入力光信号を光分岐素子で分岐し、分岐された光信号の一部を半導体光増幅器に与え、他の一部を光受信器によってモニタすることである。しかしながら、この対策には以下に述べる問題がある。即ち、光分岐素子により光信号が分岐されるので、半導体光増幅器に入力される光信号のパワーが減少する。半導体光増幅器に入力される光信号のパワーが減少すると、OSNR(Optical Sinal Noise Ratio)が劣化し、その結果、光電気変換により生成される信号品質も劣化する。この信号品質の劣化により、エラーフロアが引き起こされることもある。
【0009】
そこで、当技術分野においては、光分岐素子を用いることなく半導体光増幅器への入力光信号のパワーをモニタし得る光受信モジュールが要請されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面に係る光受信モジュールは、半導体光増幅器、光受信器、第1の演算装置、駆動装置、記憶手段、及び第2の演算装置を備えている。半導体光増幅器は、入力光信号を増幅する。光受信器は、半導体光増幅器に光学的に結合されている。光受信器は、増幅光信号の大きさに応じた電気信号を発生する。第1の演算装置は、光受信器によって発生される電気信号に基づいて、半導体光増幅器に与えるバイアス電流値と半導体光増幅器の温度(以下、SOA温度)を算出する。駆動装置は、半導体光増幅器を駆動する。駆動装置は、第1の演算装置によって算出されたバイアス電流値及び温度を半導体光増幅器に対して設定する。記憶手段は、バイアス電流値と温度に対応する半導体光増幅器の利得と雑音指数のデータを記憶している。第2の演算装置は、記憶手段から取得される上記のデータであって駆動装置によって設定されるバイアス電流値及び温度に対応する当該データと光受信器の電気信号とに基づいて、半導体光増幅器への入力光信号のパワーを算出する。
【0011】
この光受信モジュールは、半導体光増幅器に対して設定するバイアス電流値とSOA温度に対応する半導体光増幅器の利得と雑音指数のデータと光受信器の電気信号とに基づいて、半導体光増幅器への入力光信号のパワーが計算される。したがって、光分岐素子を用いずに、半導体光増幅器への入力光信号のパワーをモニタし得る。
【0012】
一実施形態においては、半導体光増幅器への入力光信号は、互いに異なる波長を有する複数の光信号を含んでいてもよい。この形態においては、光受信モジュールは、上記の光受信器を含む複数の光受信器と、光分波器とを備え得る。光分波器は、半導体光増幅器と複数の光受信器に光学的に結合されている。光分波器は、半導体光増幅器からの複数の光信号を複数の光受信器にそれぞれ結合する。記憶手段は、複数の光信号の波長ごとに、バイアス電流値とSOA温度に対応する半導体光増幅器の利得と雑音指数のデータを記憶し得る。第2の演算装置は、複数の光信号の波長ごとに、記憶手段から取得されるデータであって駆動装置によって設定されるバイアス電流値及びSOA温度に対応する当該波長用のデータと、当該波長に対応する光受信器からの電気信号とに基づいて、半導体光増幅器への入力光信号のパワーを算出し得る。この形態の光受信モジュールによれば、光分岐素子を用いずに、半導体光増幅器への入力光信号のパワーを波長ごとにモニタし得る。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、光分岐素子を用いることなる半導体光増幅器への入力光信号のパワーをモニタし得る光受信モジュールが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】一実施形態に係る光トランシーバを示す図である。
【図2】一実施形態に係る光受信モジュールを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
【0016】
図1は、一実施形態に係る光トランシーバを示す図である。本発明の一実施形態の光受信モジュールは、図1に示す光トランシーバ10の一要素として実現され得る。一実施形態の光トランシーバ10は、互いに異なる四波長の光信号の波長多重通信を行うものあり、例えば25Gbpsの四つの光信号を用いて100Gbpsの光通信を実現し得る。
【0017】
図1に示すように、光トランシーバ10は、光送信モジュール12、及び、光受信モジュール14を備えている。光送信モジュール12は、光マルチプレクサ16、発光素子18a,18b,18c,18d、駆動回路20a,20b,20c,20d、及び、信号変換処理部22を備え得る。
【0018】
光マルチプレクサ16は、発光素子18a,18b,18c,18dによって発生された互いに波長の異なる四つの光信号を多重化する光合波器である。光マルチプレクサ16は、多重化した光信号を光ファイバF1に結合する。
【0019】
発光素子18a,18b,18c,18dは、例えば電界吸収型のレーザであり、それぞれ駆動回路20a,20b,20c,20dからの駆動電流又は駆動電圧を受けて、異なる波長の光信号を発生する。
【0020】
駆動回路20a,20b,20c,20dは、信号変換処理部22からの電気信号を受け駆動電流又は駆動電圧を出力する。信号変換処理部22は、上位のホストから受けた100Gbpsの信号を四つの25Gbpsの電気信号に変換し、当該四つの電気信号を駆動回路20a,20b,20c,20dにそれぞれ出力する。
【0021】
図2は、一実施形態に係る光受信モジュールを示す図である。図1及び図2に示すように、光受信モジュール14は、外部光ファイバF2から受けた光信号に基づいて電気信号を生成する。
【0022】
図2に示すように、光受信モジュール14は、半導体光増幅器30、光デマルチプレクサ32、光受信器34a,34b,34c,34d、信号変換処理部36、第1の演算装置40、駆動装置42、メモリ44、及び、第2の演算装置46を備え得る。
【0023】
半導体光増幅器30は、光ファイバF2に光学的に結合されている。半導体光増幅器30は、光ファイバF2から受けた光信号を増幅して、増幅した光信号を出力する。半導体光増幅器30の増幅率は、当該半導体光増幅器に与えられるバイアス電流とSOA温度によって調整される。また、本実施形態では、光ファイバF2からの信号光には、異なる波長の四つの光信号が含まれている。半導体光増幅器30の出力は、光デマルチプレクサ32に光学的に結合されている。
【0024】
光デマルチプレクサ32は、半導体光増幅器30から受けた増幅光信号を四つの光信号に波長分割する光分波器である。光デマルチプレクサ32からの四つの光信号は光受信器34a,34b,34c,34dにそれぞれ入力される。
【0025】
光受信器34a,34b,34c,34dはそれぞれ、入力された光信号に対して光電気変換を行い、当該光信号のパワーに応じた値の電気信号を出力する。光受信器34aは、フォトダイオード50a及びトランスインピーダンスアンプ52aを有し、光受信器34bは、フォトダイオード50b及びトランスインピーダンスアンプ52bを有し、光受信器34cは、フォトダイオード50c及びトランスインピーダンスアンプ52cを有し、光受信器34dは、フォトダイオード50d及びトランスインピーダンスアンプ52dを有し得る。フォトダイオード50a,50b,50c,50dはそれぞれ、入力された光信号のパワーに応じた光電流を生成する。トランスインピーダンスアンプ52a,52b,52c,52dは、入力される光電流を電気信号(電圧)に変換する。
【0026】
光受信器34a,34b,34c,34dからの電気信号はそれぞれ25Gbpsの電気信号で有り得る。信号変換処理部36は、光受信器34a,34b,34c,34dからの電気信号を受けて、100Gbpsの電気信号を生成する。信号変換処理部36は、生成した電気信号を外部のホストに対して出力する。
【0027】
第1の演算装置40は、駆動装置42が半導体光増幅器30に与えるべきバイアス電流及び半導体光増幅器30の温度を算出する。第1の演算装置40は、例えば、CPUといった任意の演算回路によって構成され得る。
【0028】
第1の演算装置40は、光受信器34a,34b,34c,34dの出力電気信号全てが、所定の上限値と下限値の間の値を有する場合には、バイアス電流値を変化させず所定の電流値に固定する。第1の演算装置40は、光受信器34a,34b,34c,34dの出力電気信号の何れかが所定の上限値を超える値を有する場合には、半導体光増幅器30の増幅率を下げるようバイアス電流値を所定量減少させるか、或いは、半導体光増幅器30の温度を所定量上昇させる。また、第1の演算装置40は、光受信器34a,34b,34c,34dの出力電気信号の何れかが所定の下限値より小さい値を有する場合には、バイアス電流値を所定量上昇させるか、或いは、半導体光増幅器30の温度を所定量下げる。さらに、第1の演算装置40は、バイアス電流が最大上限値を上回るか最小下限値を下回り、又は、半導体光増幅器30の温度が最大上限値を上回るか最小下限値を下回ると、バイアス電流値を所定の最小値に維持し、半導体光増幅器30の温度を所定の温度に設定する。このような制御により、第1の演算装置40は、半導体光増幅器30に与えられるべきバイアス電流及び温度を算出する。
【0029】
駆動装置42は、第1の演算装置40によって設定された値のバイアス電流を半導体光増幅器30に供給する。また、駆動装置42は、第1の演算装置40によって設定された値の温度に半導体光増幅器30の温度を設定する。例えば、駆動装置42は、半導体光増幅器30に取り付けられたペルチェ素子を用いて半導体光増幅器30の温度を設定する。
【0030】
メモリ44は、半導体光増幅器30のバイアス電流値及び温度に対応する半導体光増幅器30の増幅率(利得G)と雑音指数(NF)のデータを、波長毎に記憶している。即ち、波長をλとし、半導体光増幅器30のバイアス電流及び温度をそれぞれI及びTとすると、利得G及び雑音指数NFは、光信号の波長λ、半導体増幅器30のバイアス電流I、及び半導体増幅器30の温度Tの関数として予め定められ得る値を有しており、メモリ44は、G(λ,I,T)、NF(λ,I,T)のデータを記憶している。メモリ44は、G(λ,I,T)、NF(λ,I,T)をテーブル形式で記憶していてもよく、又は、関数の形態で記憶していてもよい。
【0031】
第2の演算装置46は、駆動装置42を介して半導体光増幅器30に与えられているバイアス電流値及びSOA温度を取得し、当該バイアス電流値及びSOA温度に対応する利得G(λ,I,T)及び雑音指数NF(λ,I,T)を、波長ごとにメモリ44から取得する。第2の演算装置46は、取得した利得G(λ,I,T)及び雑音指数NF(λ,I,T)と、光受信器34a,34b,34c,34dの出力電気信号を用いて、半導体光増幅器30への入力光信号のパワーを波長ごとに算出する。第2の演算装置46によって算出された入力光信号のパワーは、外部のホストに提供され得る。この第2の演算装置46は、例えば、CPUといった任意の演算回路によって構成され得る。
【0032】
ここで、利得G(λ,I,T)、雑音指数NF(λ,I,T)、光受信器34a,34b,34c,34dの出力電気信号のパワーPout(λ)、及び、光信号のパワーPin(λ)は、下記式(1)によって特定される関係を有する。
【数1】


なお、Pout、Pinの単位はmWであり、NFは無単位である。光トランシーバへの全光入力パワーPtotal求める場合には、下記(2)式が用いられてもよい。
【数2】

【0033】
第2の演算装置46は、利得G(λ,I,T)、雑音指数NF(λ,I,T)、光受信器34a,34b,34c,34dの出力電気信号のパワーPout(λ)を用いて、上記式(1)に従って、光信号のパワーPin(λ)を波長ごとに算出する。
【0034】
このように、光受信モジュール14は、光分岐素子を用いることなく、半導体光増幅器30への入力光信号のパワーを求めることが可能である。また、モニタ用に別途の光分波器を用いることなく、半導体光増幅器30への入力光信号のパワーを波長ごとに求めることが可能である。
【0035】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。例えば、本発明の思想は、一以上の波長の一以上の光信号を用いて通信を行う光受信モジュール、及び当該光モジュールを搭載した光トランシーバにも適用され得る。
【符号の説明】
【0036】
10…光トランシーバ、12…光送信モジュール、14…光受信モジュール、30…半導体光増幅器、32…光デマルチプレクサ、34a,34b,34c,34d…光受信器、36…信号変換処理部、40…第1の演算装置、42…駆動装置、44…メモリ、46…第2の演算装置、50a,50b,50c,50d…フォトダイオード、52a,52b,52c,52d…トランスインピーダンスアンプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力光信号を増幅する半導体光増幅器と、
前記半導体光増幅器に光学的に結合された光受信器であって、半導体光増幅器からの増幅光信号の大きさに応じた電気信号を発生する該光受信器と、
前記光受信器によって発生される前記電気信号に基づいて、前記半導体光増幅器に与えるバイアス電流値と前記半導体光増幅器の温度を算出する第1の演算装置と、
前記半導体光増幅器を駆動する駆動装置であって、前記第1の演算装置によって算出された前記バイアス電流値及び前記温度を前記半導体光増幅器に対して設定する該駆動装置と、
前記バイアス電流値と前記温度に対応する前記半導体光増幅器の利得と雑音指数のデータを記憶する記憶手段と、
前記記憶手段から取得される前記データであって前記駆動装置によって設定される前記バイアス電流値及び前記温度に対応する該データと前記電気信号とに基づいて、前記半導体光増幅器への入力光信号のパワーを算出する第2の演算装置と、
を備える光受信モジュール。
【請求項2】
前記半導体光増幅器への入力光信号は、互いに異なる波長を有する複数の光信号を含んでおり、
前記光受信器を含む複数の光受信器と、
前記半導体光増幅器と前記複数の光受信器に光学的に結合された光分波器であって、前記半導体光増幅器からの複数の光信号を前記複数の光受信器にそれぞれ結合する該光分波器と、
を更に備え、
前記記憶手段は、前記複数の光信号の波長ごとに、前記バイアス電流値と前記半導体光増幅器の温度に対応する前記半導体光増幅器の前記利得と前記雑音指数の前記データを記憶しており、
前記第2の演算装置は、前記複数の光信号の波長ごとに、前記記憶手段から取得される前記データであって前記駆動装置によって設定される前記バイアス電流値及び前記半導体光増幅器の温度に対応する該波長用の前記データと、該波長に対応する前記光受信器からの電気信号とに基づいて、前記半導体光増幅器への入力光信号のパワーを算出する、
請求項1記載の光受信モジュール。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−165127(P2012−165127A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22972(P2011−22972)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】