説明

光吸収材料及び光電変換素子

【課題】光電変換素子に適用されることで高い光電変換効率を発揮し得る光吸収材料を提供する。
【解決手段】
光吸収材料は、下記の式(1)で表される構造を有する。
X−Y …(1)
式(1)において、Xは光吸収部位を示し、Yは酸化状態または還元状態の少なくとも一方においてラジカルとなり且つ繰り返し酸化還元可能なラジカル部位を示し、かつ、X及びYの少なくとも一方が導電材料と化学的相互作用を示す官能基を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池などの光電変換素子に適用される光吸収材料及びこの光吸収材料を備える光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池などの光電変換素子はクリーンなエネルギー源として非常に期待されており、すでにpn接合型のシリコン系太陽電池が実用化されている。しかしながら、シリコン系太陽電池の作製のためには高純度の原材料が必要とされ、またシリコン系太陽電池の作製時には1000℃程度の高温プロセスや真空プロセスが必要とされる。このため、光電変換素子の製造コストの低減が大きな課題であった。
【0003】
このような状況下において、近年、固液界面に生じる電位勾配により電荷分離が生じる湿式太陽電池が注目を集めている。湿式太陽電池では、高純度の原材料の必要性や、高エネルギープロセスの必要性が、シリコン系太陽電池と較べると低くなる。
【0004】
特に近年、光を吸収する増感色素を担持する半導体電極を備える、いわゆる色素増感太陽電池に関する研究が盛んに行われている。色素増感太陽電池では、増感色素が、半導体電極のバンドギャップより長波長の可視光を吸収し、これにより生じた光励起電子が半導体電極に注入されることで、光電変換効率が向上する。
【0005】
従来の色素増感太陽電池では、半導体電極の表面に単層で担持された増感色素のみが半導体電極へ電子を注入する。これに対し、グレッツェルらは、特許第2664194号公報(特許文献1)に記載されているように、半導体電極として多孔質の酸化チタン電極を使用し、この酸化チタン電極に増感色素を担持させることで、増感色素と酸化チタン電極との間の界面の面積を著しく増大させることを提案した。多孔質の酸化チタン電極はゾル・ゲル法により作製される。この酸化チタン電極のポロシティーは約50%ほどであり、非常に実表面積が大きいナノ多孔性構造を有する。例えば、この酸化チタン電極の厚みが8μmであると、酸化チタン電極のラフネスファクター(投影面積に対する実表面積の割合)は約720にも達する。この酸化チタン電極による増感色素の担持量は、幾何学的な計算によると1.2×10−7mol/cmに達し、実に、最大吸収波長で入射光の約98%が吸収されることになる。
【0006】
このグレッツェル・セルとも呼ばれる新しい色素増感太陽電池では、上述の酸化チタン電極の多孔質化によって増感色素の担持量が飛躍的な増大したこと、並びに太陽光の吸収効率が高く且つ半導体への電子注入速度が著しく速い増感色素が開発されたことが、大きな特徴である。
【0007】
グレッツェルらは、色素増感太陽電池のための増感色素として、ビス(ビピリジル)Ru(II)錯体を開発した。このRu錯体は、シス−Xビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシレート)Ru(II)という構造を有する。XはCl−、CN−、又は、SCN−である。これらの増感色素について蛍光吸収、可視光吸収、電気化学的挙動及び光酸化還元的挙動に関する系統的な研究が行なわれた。これらの増感色素のうち、シス−(ジイソシアネート)−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシレート)Ru(II)は、色素増感太陽電池のための増感色素として格段に優れた性能を有することが示された。
【0008】
この増感色素による可視光の吸収は、金属から配位子への電荷移動遷移による。増感色素中の配位子のカルボキシル基は、酸化チタン電極の表面のTiイオンに直接配位することで、増感色素と酸化チタン電極との間に密接な電子的な接触を生じさせている。この電子的な接触により、増感色素から酸化チタンの伝導帯への電子の注入は1ピコ秒以下の極めて速い速度で起こり、この酸化チタンの伝導帯へ注入された電子の増感色素による再捕獲はマイクロ秒のオーダーの速度で起こるといわれている。この速度差が、光励起電子の移動の方向性を生み出し、電荷分離が極めて高い効率で生じる理由である。そして、これがpn接合面の電位勾配によって電荷分離が生じるpn接合型太陽電池との違いであり、グレッツェル・セルの本質的な特徴である。
【0009】
これまで色素増感型の光電変換素子においては、増感色素として、Ru錯体やメロシアニンなどが用いられていた(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第2664194号公報
【特許文献2】特許第4080288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、色素増感型の光電変換素子の性能は、従来のシリコン太陽電池に及ばず、不充分であった。その原因としては、光照射による分離した電荷の再結合が挙げられる。つまり酸化チタン電極中の光励起電子が、増感色素と反応し、或いはこの光励起電子が増感色素を還元するはずの電荷輸送層中の正孔と反応してしまい、そのために電荷が外部に取り出されなくなることが挙げられる。上記のRu錯体やメロシアニン色素には、その化学構造内に電子を渡す機能を果たすドナー部位や電子を受け取る役割を果たすアクセプター部位が存在し、これらの色素が用いられることで電荷の再結合が抑制されていたが、その効果は充分ではなかった。
【0012】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、光電変換素子に適用されることで高い光電変換効率を発揮し得る光吸収材料及びこの光吸収材料を備える光電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る光吸収材料は、下記の式(1)で表される構造を有するものである。
【0014】
X−Y …(1)
式(1)において、Xは光吸収部位を示し、Yは酸化状態または還元状態の少なくとも一方においてラジカルとなり且つ繰り返し酸化還元可能なラジカル部位を示し、かつ、X及びYの少なくとも一方が導電材料と化学的相互作用を示す官能基を有する。
【0015】
本発明では、前記式(1)のXまたはYにおける、導電材料と化学的相互作用を示す前記官能基が、リン酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、ピリジニウム基のうち、少なくともいずれか一つを含むことが好ましい。
【0016】
本発明では、前記式(1)におけるYが、Xに対する電子受容体であることが好ましい。
【0017】
本発明では、前記式(1)におけるYが、ビピリジニウム基、置換基を有するビピリジニウム基、ガルビノキシルラジカル基、及び、置換基を有するガルビノキシルラジカル基のうちから選ばれるいずれか1種以上を含むことが好ましい。
【0018】
本発明では、前記式(1)におけるXが、下記の一般式(A)、一般式(B)、又は、一般式(C)で示される構造を有することが好ましい。
【0019】
【化1】

【0020】
一般式(A)において、R’は、それぞれ独立に水素、カルボキシル基、スルホニル基、フェニル基、カルボキシフェニル基、スルホフェニル基、又は、ピリジニウム基であり、且つ少なくとも一つのR’がラジカル部位Yと結合する。Mは金属原子である。
【0021】
【化2】

【0022】
一般式(B)において、X,Xは、それぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環のうちの少なくとも一種を含む基であり、それぞれ置換基を有していてもよい。X及びXの少なくとも一つがラジカル部位Yと結合する。
【0023】
【化3】

【0024】
一般式(C)において、R’は、それぞれ独立に水素、カルボキシル基、スルホニル基、フェニル基、カルボキシフェニル基、スルホフェニル基、又は、ピリジニウム基であり、且つ少なくとも一つのR’がラジカル部位Yと結合する。
【0025】
本発明に係る光電変換素子は、上記の光吸収材料を備えるものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、光電変換素子に適用されることで高い光電変換効率を発揮し得る光吸収材料及びこの光吸収材料を備える光電変換素子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る光電変換素子の実施形態の一例を示す断面図である。
【図2】(a)及び(b)は、前記実施形態の機構の一例を示す概略図である。
【図3】従来の光電変換素子の機構を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本実施形態における光吸収材料は、下記の式(1)の構造を有する。この光吸収材料によって、高い光吸収性が発揮され、光電変換素子に優れた光電変換機能が付与される。
【0029】
X−Y …(1)
式(1)において、Xは光吸収部位を示す。光吸収部位とは、光を吸収することで励起して励起電子を生じる部位のことである。また、Yはラジカル部位を示す。ラジカル部位とは、酸化状態または還元状態の少なくとも一方においてラジカルとなり且つ繰り返し酸化還元可能な部位のことである。X及びYの少なくとも一方は、導電材料と化学的相互作用を示す官能基を有している。
【0030】
式(1)の光吸収材料は、有機色素(増感色素)に、ラジカルを生成する部位が結合したような構造を有する。このような構造は、光化学的又は電気化学的な酸化反応又は還元反応の少なくとも一つの過程で得られてもよい。
【0031】
光吸収部位Xは、光を吸収することで励起して励起電子を生じる部位であり、増感色素として機能する構造などにすることができる。
【0032】
光吸収部位Xの化学構造としては、例えば、書籍「最新太陽電池総覧」(情報技術協会)や「FPD・DSSC・光メモリーと機能性色素の最新技術と材料開発」((株)エヌ・ティー・エス)などに記載の[Ru(4,4’−ジカルボキシル−2、2’−ビピリジン)−(NCS)]などのルテニウム金属錯体(Ru金属錯体)や、ポルフィリン金属錯体などの錯体;会合性色素であるインドリン系、クマリン系、メロシアニン系、スクアジニウム系などの有機色素;フタロシアニン系、ジオキサジン系、アゾ系(溶性アゾ系・不溶性アゾ系)、スレン系、キクナドリン系など顔料;硫化カドミウム、硫化鉛、硫化銀などの硫化物半導体などの半導体超微粒子などが、挙げられる。光吸収部位Xが色素の分子構造を有する場合に、この光吸収部位Xがいわゆるドナー・アクセプター型の分子構造を有すれば、光励起時に光吸収部位X内で電荷が分離されるため、光電変換素子の開回路電圧や短絡電流の向上に有効である。
【0033】
光吸収部位Xが会合性色素の化学構造を有する場合、従来のルテニウム錯体が用いられる場合よりも5倍程度も特性(発光効率)に優れる光電変換素子が得られる。また、例えば光吸収部位Xが、特許第4080288号公報に開示されているような色素の構造を備える場合には、光吸収材料を備える光電変換素子において、光照射時にラジカル副反応が抑制される効果(光安定化効果)が期待される。
【0034】
光吸収部位Xは、下記の一般式(A)乃至(C)のいずれかで示される構造を有することが好ましい。光吸収部位Xがこられの構造を備える場合、光吸収部位Xが効率よく光を吸収し光励起することにより、光吸収部位Xとラジカル部Yとの酸化還元反応が速やかに進行する。
【0035】
【化4】

【0036】
一般式(A)において、R’は、それぞれ独立に水素、カルボキシル基、スルホニル基、フェニル基、カルボキシフェニル基、スルホフェニル基、又は、ピリジニウム基である。また、少なくとも一つのR’がラジカル部位Yと結合する。Mは金属原子である。構造式(A)に示す構造の安定化のためには、MはZnなどの遷移金属原子であることが好ましい。
【0037】
【化5】

【0038】
一般式(B)において、X,Xは、それぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環のうちの少なくとも一種を含む基であり、それぞれ置換基を有していてもよい。X及びXの少なくとも一つがラジカル部位Yと結合する。
【0039】
【化6】

【0040】
一般式(C)において、R’は、それぞれ独立に水素、カルボキシル基、スルホニル基、フェニル基、カルボキシフェニル基、スルホフェニル基、又は、ピリジニウム基である。また、少なくとも一つのR’がラジカル部位Yと結合する。
【0041】
一般式(A)に示すような構造を有する光吸収部位Xは、例えば下記[化7]に示す化合物を由来とすることができる。
【0042】
【化7】

【0043】
一般式(C)に示すような構造を有する光吸収部位Xは、例えば下記[化8]に示す化合物を由来とすることができる。
【0044】
【化8】

【0045】
ラジカル部位Yは、光吸収部位Xに対する電子受容体または電子供与体であり得る。
【0046】
式(1)に示す構造を有する光吸収材料において、ラジカル部位Yは、光吸収材料の光電変換過程で起こる光吸収部位Xの酸化又は還元反応を促進する。光吸収部位Xが光を吸収することによって励起すると、ラジカル部位Yと光吸収部位Xとの間で電荷が移動して光吸収部Xが還元或いは酸化されると共にラジカル部位Yが酸化或いは還元される。
【0047】
すなわち、ラジカル部位Yが光吸収部位Xに対する電子供与体である場合、光吸収部位Xが光を吸収することによって励起すると、ラジカル部位Yと光吸収部位Xとの間で電荷が移動して光吸収部Xが還元されると共にラジカル部位Yが酸化される。続いて、酸化されたラジカル部位Yから正孔が電荷輸送層などへ移動することでラジカル部位Yが還元されると共に、還元された光吸収部位Xから電子が電子輸送層などへ移動することで光吸収部位Xが酸化される。
【0048】
一方、ラジカル部位Yが光吸収部位Xに対する電子受容体である場合は、光吸収部位Xが光を吸収することによって励起すると、ラジカル部位Yと光吸収部位Xとの間で電荷が移動して光吸収部Xが酸化されると共にラジカル部位Yが還元される。続いて、酸化された光吸収部位Xから正孔が電荷輸送層などへ移動することで光吸収部位Xが還元されると共に、還元されたラジカル部位Yから電子が電子輸送層などへ移動することでラジカル部位Yが酸化される。
【0049】
このようにして、光吸収材料において高速の電荷分離が生じる。この高速の酸化還元反応は、光吸収部位Xとラジカル部位Yとが結合していること、並びにラジカル部位Yにおけるラジカル状態の電子が関与することに起因して生じる。光吸収部位Xにラジカル部位Yが結合していない場合、又は、ラジカル部位Yが系に存在しない場合では、光吸収部位Xの酸化還元反応は遅くなってしまう。この現象はパルスレーザを用いた分光測定などにより光吸収部位Xの酸化状態又は還元状態の吸光度の時間変化を調べることで確認することができる。
【0050】
ラジカル部位Yは、ラジカルを発生する活性部ではなく、安定なラジカルとなり得る部位であることが好ましい。ラジカル部位Yがラジカルである状態での、このラジカルの安定性及びラジカル量の目安に関しては、平衡状態において光吸収材料の1分子あたりのスピン濃度が1以上である状態が1秒以上継続することが好ましい。この場合、連続的に光が照射される条件下において、安定した酸化還元反応が起こる。酸化され或いは還元されたラジカル部位Yは正孔輸送層、または電子輸送層などにより元の状態にもどる。尚、光吸収材料1分子あたりのスピン濃度の上限は10000であることが好ましいが、これに限定されない。
【0051】
通常、1つの光吸収部位Xが光を吸収して発生した励起電子または正孔は、1つのラジカル部位Yへ移動し、このラジカル部位Yが還元又は酸化される。但し、光吸収材料がオリゴマー構造やポリマー構造を有するなどの比較的分子量が大きい材料であって、光吸収材料の1分子あたりのスピン濃度が2以上である場合は、前記過程により還元又は酸化されたラジカル部位Yから電子又は正孔が同じ分子中の別のラジカル部位Yへ自己電子交換反応により移動してもよい。これはいわゆる電荷ホッピング輸送と呼ばれる現象であり、スピン濃度が前記のような濃度であれば、効率よく電荷が移動する。この作用により、光吸収部位Xで生じる励起電子と正孔の分離が光励起直後に促進され、電荷の再結合が更に抑制され、結果的に光電変換素子の出力特性が向上する。尚、ラジカルのスピン濃度は電子スピン共鳴装置で定量される。
【0052】
光吸収材料では、光吸収部位Xにおけるπ電子共役構造がラジカル部位Yの不対電子にまで広がる場合は、吸収波長の範囲が広くなるために、光吸収材料の光吸収効率が向上し、光電変換素子の短絡電流が更に向上する。
【0053】
また、光吸収部位Xが有機材料である場合に、光吸収材料が、光吸収部位Xとラジカル部位Yとがπ共役するような構造を有すれば、光吸収材料の光吸収領域が長波長側に移動する観点から好ましい。
【0054】
光吸収材料は、ラジカル部位Yと光吸収部位Xとの間に介在する結合部位Aを有してもよい。その場合、例えば、光吸収材料の化学構造を「X−A−Y」(式(1)’)のように表すことができる。この式において、結合部位Aは必須でなく、光吸収部位Xとラジカル部位Yとが直接結合していてもよい。なお、「X−A−Y」は、「X−A」が「X」であると考えると「X−Y」となり、あるいは、「A−Y」が「Y」であると考えると「X−Y」となるので、いずれにしても「X−Y」の範疇に含まれる。
【0055】
結合部位Aとしては各種の2価の基が挙げられ、例えばメチレン、エチレン、プロパン−1,3−ジエニル、エチリデン、プロパン−2,2−ジイル、アルカンジイル、ベンジリデン、プロピレン、i−プロピレン、ブチレン、t−ブチレン、オクチレン、2−エチルへキシレン、2−メトキシエチレン、ベンジレン、トリフルオロメチレン、シアノメチレン、エトキシカルボニルメチレン、プロポキシエチレン、3−(1−オクチルピリジニウム−4−イル)プロピレン、3−(1−ブチル−3−メチルピリジニウム−4−イル)プロピレンなどの置換していても直鎖状でも分枝鎖状でもよい二価の飽和炭化水素類の基;ビニリデン、プロペン−1,3−ジイル、ブト−1−エン−1,4−ジイルなどの二価の不飽和炭化水素類の基;シクロヘキサンジイル、シクロヘキセンジイル、シクロヘキサジエンジイル、フェニレン、ナフタレン、ビフェニレンなど二価の環状炭化水素類の基;オキサリル、マロニル、サクシニル、グルタニル、アジポイル、アルカンジオイル、セバコイル、フマロイル、マレオイル、フタロイル、イソフタロイル、テレフタロイルなどケト基、二価アシル基、オキシ、オキシメチレノキシ、オキシカルボニルなどのエーテル基;エステル類;サルファンジイル、サルファニル、サルホニルなど硫黄を含む基;イミノ、ニトリロ、ヒドラゾ、アゾ、アジノ、ジアゾアミノ、ウリレン、アミドなど窒素を含む基;シランジイル、ジシラン−1,2−ジイルなど珪素を含む基;前記のような基の末端が置換した基;前記のような基が複合した基などを含むことが望ましい。
【0056】
光吸収材料では、光吸収部位X及びラジカル部位Yの少なくとも一方が導電材料と化学的相互作用を示す官能基を有する。それにより、導電材料によって構成される電極、電子輸送層及び正孔輸送層の少なくとも一つと強固な結合を形成することができる。強固な結合を形成する観点から、この導電材料と化学的相互作用を示す前記官能基は、リン酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、ピリジニウム基のうち、少なくともいずれか一つを含むことが好ましい。
【0057】
ラジカル部位Yが、光吸収部位Xに対する電子供与体である場合について説明する。
【0058】
この場合、光吸収部位Xが光励起すると、正孔が光吸収部位Xからラジカル部位Yへと速やかに移動することで、素早い電荷分離が起こる。
【0059】
光吸収部位Xに対する電子供与体となり得るラジカル部位Yの化学構造としては、特許第3687736号公報や特開2003−100360号公報に記載されているようなラジカルの構造が挙げられる。光吸収部位Xに対する電子供与体となるラジカル部位Yは、特にニトロキシドラジカル(−N−O・)を有することが好ましい。この場合、光励起した光吸収部位Xがラジカル部位Yによって、更に高速に還元される。
【0060】
ニトロキシドラジカル(−N−O・)を有するラジカル部位Yの構造の具体例として下記構造式(2)〜(5)に示す構造が挙げられる。式(2)〜(5)中のAは前述のラジカル部位Yと光吸収部位Xとの間に介在する結合部位を示しており、Aは存在しなくてもよい。
【0061】
【化9】

【0062】
また、ラジカル部位Yはヒドラジルラジカルを含んでいてもよい。この場合も、光励起した光吸収部位Xがラジカル部位Yによって、更に高速に還元される。
【0063】
上記のような光吸収部位Xに対する電子供与体となり得るラジカル部位Yは、例えば、下記の[化10]及び[化11]に示す化合物のいずれか1つ以上を由来とすることができる。
【0064】
【化10】

【0065】
【化11】

【0066】
光吸収部位Xに対する電子供与体となり得るラジカル部位Yが基底状態でラジカルである場合には、熱力学的に安定化し、或いは反応速度論的に安定化していることが好ましい。前者の場合は、例えば共鳴効果により安定化が達成され、後者の場合は、例えばテトラメチル構造などによる立体効果により安定化が達成される。
【0067】
光吸収部位Xに対する電子供与体となるラジカル部位Yを備える光吸収材料の構造の例を、下記構造式(6)〜(13)に示す。
【0068】
【化12】

【0069】
式(7)においてnは0〜10の整数である。式(8)においてnは1〜20の整数である。
【0070】
【化13】

【0071】
式(9)及び式(11)においてAは前述の結合部位である。
【0072】
【化14】

【0073】
式(13)においてAは前述の結合部位である。
【0074】
ラジカル部位Yが、光吸収部位Xに対する電子受容体である場合について説明する。
【0075】
この場合、光吸収部位Xが光励起すると、電子が光吸収部位Xからラジカル部位Yへと速やかに移動することで、素早い電荷分離が起こる。
【0076】
光吸収部位Xに対する電子受容体となり得るラジカル部位Yは、ビピリジニウム基、置換基を有するビピリジニウム基、ガルビノキシルラジカル基、及び、置換基を有するガルビノキシルラジカル基のうちから選ばれるいずれか1種以上を含むことが好ましい。特にこのラジカル部位Yは、その化学構造の少なくとも一部として、下記[化15]に示す構造、又は、下記[化16]に示す構造を備えることが好ましい。
【0077】
【化15】

【0078】
【化16】

【0079】
ラジカル部位Yにおいては、上記のように、電子供与体と電子受容体の二種の場合が存在するが、このうち、ラジカル部位Yは、光吸収部位Xに対する電子受容体であることが好ましい。その場合、優れた光吸収特性を発揮し得る。
【0080】
光吸収部位Xに対する電子受容体となるラジカル部位Yを備える光吸収材料の構造の例を、下記構造式(14)〜(19)に示す。
【0081】
【化17】

【0082】
【化18】

【0083】
【化19】

【0084】
【化20】

【0085】
【化21】

【0086】
【化22】

【0087】
上記の各光吸収材料においては、導電材料と化学的相互作用を示す官能基(カルボキシル基、リン酸基、ピリジニウム基など)を有している。導電材料は、導電性を有する材料であれば限定されるものではない。この導電材料は、以下に説明する光電変換素子における、電極、電子輸送層及び正孔輸送層のいずれかに用いられる導電性材料であってよい。化学的相互作用は、化学的な結合であることが好ましく、例えば、共有結合、イオン結合、電気的結合、金属結合、水素結合、非共有結合(ファンデルワールス力など)、配位結合、π結合などであってよい。
【0088】
光電変換素子は、上記の光吸収材料が発光素子や太陽電池などの色素増感型等の光電変換素子に適用されることにより形成される。光電変換素子は、例えば、正孔や電子などを輸送するための電荷輸送材料や導電基板などから構成される。
【0089】
光電変換素子の好ましい形態は、上記の光吸収材料と、電子輸送層と、正孔輸送層とを備える。この場合において、光吸収材料が、電子輸送層と正孔輸送層とのうち少なくとも一方と結合していると、電荷の移動効率が更に向上する。光吸収材料と電子輸送層又は正孔輸送層との結合形態は特に制限されないが、酸化物半導体から形成された電子輸送層と光吸収材料とが結合する場合、電子輸送層との結合力を強くする観点から、例えばカルボキシル基、スルホ基、ホスホン基などの基を有する光吸収材料が好ましい。これらの基が電子輸送層と結合することで、光吸収材料と電子輸送層とが強固に結合することができる。有機半導体から形成された電子輸送層と光吸収材料とが結合する場合、例えば有機半導体に対する吸着性の高い官能基や、有機半導体と化学結合を生じる官能基などを有する光吸収材料が用いられる。官能基としては、リン酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、ピリジニウム基などであってもよい。
【0090】
図1は、光電変換素子1の一例を示す断面図であり、色素増感型太陽電池の一例を示している。この色素増感型太陽電池では、互いに対向するように配置された第一の電極5と第二の電極6との間に、電子輸送材料から形成される層(電子輸送層3)と、光吸収材料から形成される光吸収層2と、電荷輸送材料から形成される層(正孔輸送層4)とがこの順で積層されている。
【0091】
第一の電極5と第二の電極6とのうち、少なくとも一方は透光性を有する。第一の電極5と第二の電極6は、電荷を外部に取り出すための導電性を有している。透光性を有する電極は、透明であっても不透明であっても、あるいは半透明であってもよいが、特に透明であることが好ましい。第二の電極6が金属箔から形成される場合、第一の電極5は透光性のある材料から形成されることが好ましい。
【0092】
第一の電極5は、例えばガラスやフィルムなどから形成される基材を電子輸送層3とは反対側に備えていてもよい。この場合、第一の電極5は、例えば基材に積層された導電層を備える。導電層は基材の、電子輸送層3に対向する面上に積層される。第一の電極5は、光電変換素子1の正極として機能し得る。
【0093】
導電層は、例えばインジウム等の金属;炭素;インジウム−錫複合酸化物、アンチモンがドープされた酸化錫、フッ素がドープされた酸化錫等の導電性の金属酸化物;前記化合物が複合化した複合物などから形成される。また第一の電極5は前記のような化合物から形成される層と、この層をコートする酸化シリコン、酸化スズ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウムなどから形成される層とを備えてもよい。第一の電極5は、蒸着法、スパッタ法などのドライプロセスや、浸漬法、スプレー熱分解法、CVD法などのウエットプロセスなどで形成される。
【0094】
第二の電極6を通じて光電変換素子内に光が入射する場合、第一の電極5は、チタン、ニッケル、亜鉛、ステンレスなどの金属箔から形成されるフィルムを備えていてもよい。
【0095】
第二の電極6は、光電変換素子の負極として機能し得る。第二の基板電極6は、例えば金属のみから形成されてもよい。あるいは、第二の電極6は、フィルムと、このフィルムに積層された導電層とを備えてもよい。この導電層が、電荷輸送材料から形成される正孔輸送層4に接する。
【0096】
第二の電極6における導電層は、例えば第一の電極5における導電層と同じ材料から形成される。第二の電極6における導電層は、例えば白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等の金属;グラファイト、カーボンナノチューブ、白金を担持したカーボンなど炭素材料;インジウム−錫複合酸化物、アンチモンをドープした酸化錫、フッ素がドープされた酸化錫等の導電性の金属酸化物;ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンなど導電性高分子などから、形成される。特に、電荷輸送材料(正孔輸送材料)が電解質溶液である場合には、第二の電極6が白金、グラファイト、ポリエチレンジオキシチオフェンなどから形成されることが好ましい。
【0097】
第一の電極5及び第二の電極6の表面抵抗は、低い程よい。第一の電極5及び第二の電極6の表面抵抗は、200Ω/□以下であることが好ましく、50Ω/□以下であればより好ましい。第一の電極5及び第二の電極6の表面抵抗の範囲の下限に特に制限はないが、通常0.1Ω/□である。
【0098】
第一の電極5及び第二の電極6のうち少なくとも一方は、光透過率が高い程よい。光透過率の高い基板電極の光透過率は、50%以上であることが好ましく、80%以上であればより好ましい。
【0099】
第一の電極5及び第二の電極6における導電層の厚みは0.1〜10μmの範囲内であることが好ましい。この範囲内であれば、均一な厚みの導電層が容易に形成され、更に導電層の高い光透過性が維持される。
【0100】
電子輸送材料は、電子をキャリアとする材料であれば特に制限されることはない。電子輸送材料として使用される半導体材料としては、Cd、Zn、In、Pb、Mo、W、Sb、Bi、Cu、Hg、Ti、Ag、Mn、Fe、V、Sn、Zr、Sr、Ga、Si、Crなどの金属元素の酸化物;SrTiO、CaTiOなどのペロブスカイト構造を有する金属酸化物;CdS、ZnS、In、PbS、MoS、WS、Sb、Bi、ZnCdS、CuSなどの硫化物;CdSe、InSe、WSe、HgS、PbSe、CdTeなどの金属カルコゲナイド;GaAs、Si、Se、Cd、Zn、InP、AgBr、PbI、HgI、BiIなどが挙げられる。
【0101】
電子輸送材料は、前記のような半導体材料から選ばれる少なくとも一種以上を含む複合物であってもよい。このような複合物としては、例えば、CdS/TiO、CdS/AgI、AgS/AgI、CdS/ZnO、CdS/HgS、CdS/PbS、ZnO/ZnS、ZnO/ZnSe、CdS/HgS、CdS/CdSe、CdS/Te、CdSe/Te、ZnS/CdSe、ZnSe/CdSe、CdS/ZnS、TiO/Cd、CdS/CdSe/CdZnS、CdS/HgS/CdSなどが挙げられる。
【0102】
電子輸送材料は、ドーピングによってn型半導体となり得る、ポリチオフェンやポリアニリンなどの導電性高分子や酸化還元する側鎖を有した酸化還元ポリマやC60などであってもよい。
【0103】
電子輸送材料は、特開2008−280400号公報に開示されているような、n型半導体であり且つ安定した酸化還元挙動を示すポリラジカル化合物であってもよい。
【0104】
例えば、電子輸送材料が半導体材料である場合、光電変換素子の投影面積に対する光吸収材料の分子の密度は、出力特性の観点からは、光吸収材料の光吸収効率にもよるが、1×10−8〜1×10−6mol/cmの範囲内が好ましい。光吸収材料の密度が前記範囲より大きくしないことが好ましいのは、入射光に対する光吸収材料の量が多すぎて、作用しない光吸収材料の量が多くならないようにするためである。逆に、光吸収材料の密度が前記範囲より小さくしないことが好ましいのは、充分な量の光を光吸収材料によって吸収するためである。ただし、光電変換素子全体が透光性を有する、いわゆるシースルータイプの素子である場合には、光電変換素子に望まれる光透過率に応じて、光吸収材料の密度や絶対量が低減されてもよい。また、電子輸送材料から形成される層が多孔質であって、その投影面積に対する実効面積の割合が1以上であると、光電変換素子の光電変換効率が特に向上する。電子輸送層3の、投影面積に対する実効面積の割合の上限は特に制限されないが、100万以下であることが好ましい。
【0105】
電荷輸送材料(正孔輸送材料)としては、酸化還元対を生成する物質が挙げられる。このような電荷輸送材料として、ヨウ素(I/I)が一般的に用いられることが多いが、これに限られない。
【0106】
例えば電荷輸送材料が、特開2003−100360号公報に記載されているような、安定に酸化還元されるラジカル化合物であってもよい。この場合、特に光吸収材料におけるラジカル部位Yが電子供与体であると、酸化されたラジカル部位Yの還元反応が促進されてこの酸化されたラジカル部位Yが速やかに還元されるため、好ましい。
【0107】
電荷輸送材料は、電解質溶液であってもよい。電荷輸送材料において、電解質を溶解するために使用される溶媒は、酸化還元系構成物質を溶解し得る、イオン伝導性に優れた化合物であることが好ましい。溶媒は、水性溶媒、有機溶媒のいずれでもよいが、電解質溶液中で酸化還元系構成物質がより安定化するためには、有機溶媒が好ましい。
【0108】
有機溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物;酢酸メチル、プロピオン酸メチル、γ−ブチロラクトン等のエステル化合物;ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジオキソシラン、テトラヒドロフラン、2−メチル−テトラヒドロフラン等のエーテル化合物;3−メチル−2−オキサゾジリノン、2−メチルピロリドン等の複素環化合物;アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル化合物;スルフォラン、ジメチルスルフォキシド、ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性化合物などが挙げられる。これらの溶媒は一種のみが用いられ、或いは二種以上が併用される。有機溶媒として、特にエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物;γ−ブチロラクトン、3−メチル−2−オキサゾジリノン、2−メチルピロリドン等の複素環化合物;アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、吉草酸ニトリル等のニトリル化合物;エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンなどのポリオール化合物などが用いられることが好ましい。電荷輸送材料は、オイルゲル系、ポリフッ化ビニリデン系高分子化合物等の高分子マトリックス、液晶ゲル、アミノ酸誘導体などの低分子、シリカ粒子など無機粒子などを含有することで、ゲル化していてもよい。
【0109】
電荷輸送材料が揮発性の成分を含む場合には、電荷輸送材料が封止されることも有効である。また、ドーピングによりp型半導体となり得るならば、電荷輸送材料はポリチオフェンやポリアニリンなどの導電性高分子や、容易に酸化還元可能な側鎖を有するポリマなどであってもよい。この場合、電荷輸送材料で形成される層が固体またはゲル状態になるため液漏れが抑制され、このため光電変換素子の光電変換効率が長期間に亘って高く維持される。
【0110】
ラジカル部位Yの酸化還元電位と、正孔輸送材料又は電子輸送材料の酸化還元電位とは、電荷分離がスムーズに進行するように調整されることが好ましい。例えば、光吸収材料におけるラジカル部位Yが電子供与体である場合において、ラジカル部位Yの酸化還元電位よりも、正孔輸送材料の酸化還元電位が低い場合には、光吸収材料における電荷分離が更にスムーズに進行する。このような電位の調整は、例えばラジカル部位Yの構造が本明細書中に例示されているような構造である場合に、これらのラジカル部位Yに官能基が導入されるなどしてラジカル部位Yの分子構造が変化することで、比較的容易に達成される。
【0111】
このように構成される光電変換素子1では、光吸収部位Xが光を吸収することにより生じる光電変換過程において、ラジカル部位Yによって光吸収部位Xの酸化又は還元反応が促進されて、高速の電荷分離が生じると共に、電荷の再結合が抑制される。このため光電変換素子1の光電変換性が高くなる。
【0112】
この光電変換の機構は、例えば、図2に示される。
【0113】
ラジカル部位Yが光吸収部位Xに対する電子供与体である場合には、図2(a)に示される光電変換過程の挙動を示す。まず、光吸収層2において、光吸収部位Xが光を吸収し、励起した光吸収部位Xからラジカル部位Yへ正孔が移動することにより光吸収部位Xの還元反応が促進される。次に、正孔がラジカル部位Yへ移動することによりこのラジカル部位Yが酸化される。続いてラジカル部位Yが還元されると共に正孔がラジカル部位Yから正孔輸送層4へ移動する。一方、還元された光吸収部位Xから電子が電子輸送層3へ移動することで、光吸収部位Xが酸化される。これにより、電荷分離が促進されると共に電荷の再結合が抑制される。なお、図2(a)では、導電材料と化学的相互作用を示す官能基Zは、光吸収部位Xの一部であり、導電材又は電子輸送層3と化学的相互作用を有している形態を示している。
【0114】
ラジカル部位Yが光吸収部位Xに対する電子受容体である場合には、図2(b)に示される光電変換過程の挙動を示す。まず、光吸収層2において、光吸収部位Xが光を吸収し、励起した光吸収部位Xからラジカル部位Yへ電子が移動することにより光吸収部位Xの酸化反応が促進される。次に、電子がラジカル部位Yへ移動することによりこのラジカル部位Yが還元される。続いてラジカル部位Yが酸化されると共に電子がラジカル部位Yから電子輸送層3へ移動する。一方、酸化された光吸収部位Xから正孔が正孔輸送層4へ移動することで、光吸収部位Xが還元される。これにより、電荷分離が促進されると共に電荷の再結合が抑制される。なお、図2(b)では、導電材料と化学的相互作用を示す官能基Zは、ラジカル部位Yの一部であり、導電材又は電子輸送層3と化学的相互作用を有している形態を示している。
【0115】
なお、図3は従来例を示すものであり、光吸収材料が光吸収部位Xとラジカル部位Yとが結合された「X−Y」で表される式(1)のような構造を有していないので、電荷分離の促進が十分でない。
【0116】
ところで、図1の層構成の光電変換素子1にあっては、光吸収層2が電子輸送層3の機能を備える場合には、電子輸送層3が層として存在しなくてもよい。その場合、光吸収層2が電子輸送層3を兼ねることになる。あるいは、光吸収層2が正孔輸送層4の機能を備える場合には、正孔輸送層4が層として存在しなくてもよい。その場合、光吸収層2が正孔輸送層4を兼ねることになる。これらの場合も、実質的には、一対の電極の間に、電子輸送層3と光吸収層2と正孔輸送層4とを備えた光電変換素子1となる。
【実施例】
【0117】
[光吸収材料の製造]
光吸収材料の製造方法の具体例について説明する。なお、「o.n.」は「one night」(一晩)を意味し、「r.t.」は「room temperature」(室温)を意味する。
【0118】
(光吸収部位Xに対して電子供与体となるラジカル部位Yを有する光吸収材料)
(合成例1)
上記構造式(6)で示される光吸収材料は、下記の[スキーム1]及び[スキーム2]に示される工程により製造され、具体的には、次のようにして製造される。
【0119】
まず、[スキーム1]に示されるように、構造式(6)−1で示される化合物とジエチルエーテル(ether)とが−78℃で撹拌混合され、これにターシャリーブチルリチウムが加えられた後、−78℃で2時間撹拌混合され、続いて室温で1時間撹拌混合される。これにより得られた混合物に2−メチル−2−ニトロソプロパンが加えられた後、−78℃で2時間攪拌混合され、続いて室温で10時間撹拌混合されることで、構造式(6)−2で示される化合物が得られる(収率40〜50%)。
【0120】
次に、構造式(6)−2で示される化合物とN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)とイミダゾールとターシャルブチルジメチルシリルクロリドとが、室温で10時間撹拌混合されることで、構造式(6)−3で示される化合物が得られる(収率80〜90%)。
【0121】
次に、構造式(6)−3で示される化合物とテトラヒドロフランとが−78℃で攪拌混合された後、構造式(6)−aで示される化合物が加えられ、−78℃で2時間攪拌混合され、続いて室温で10時間撹拌混合される。これにより得られる混合物に、モノクロルアミンの飽和溶液、ジエチルエーテル及びテトラヒドロフラン、並びに10%塩酸水溶液が順次加えられ、室温で10分間撹拌混合されることで、構造式(6)−4で示される化合物が得られる(収率50−60%)。
【0122】
次に、構造式(6)−4で示される化合物と、構造式(6)−bで示される化合物と、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)と、ナトリウムターシャリブトキシドと、トリターシャリブチルホスフィンとトルエンとが混合され、一晩還流されることで、構造式(6)−5に示される化合物が得られる(収率50−60%)。
【0123】
次に、[スキーム2]に示されるように、構造式(6)−5で示される化合物と、構造式(6)−cで示される化合物と、酢酸アンモニウムと、酢酸とが混合され、3時間還流されることで、構造式(6)−6で示される化合物が得られる(収率80〜90%)。
【0124】
次に、構造式(6)−6で示される化合物と、フッ化テトラ−n−ブチルアンモニウム(TBAF)と、テトラヒドロフランとが、アルゴン雰囲気下で室温で5時間撹拌混合された後、酸化銀が加えられ、更にアルゴン雰囲気下で室温で2時間撹拌混合される。これにより、構造式(6)で示される化合物が得られる(収率95〜100%)。
【0125】
[スキーム1]
【0126】
【化23】

【0127】
[スキーム2]
【0128】
【化24】

【0129】
(合成例2)
上記構造式(7)で示される光吸収材料は、下記の[スキーム3]及び[スキーム4]に示される工程により製造され、具体的には、次のようにして製造される。
【0130】
まず、[スキーム3]に示されるように、下記の構造式(7)−1で示される化合物と、構造式(7)−aで示される化合物と、炭酸カリウムと、アセトンとが混合され、一晩還流されることで、構造式(7)−2で示される化合物が得られる(収率95〜100%)。
【0131】
次に、上記の構造式(7)−2で示される化合物と、構造式(7)−bで示される化合物と、水酸化ナトリウムと、アセトンとが混合され、一晩還流されることで、下記構造式(7)−3で示される化合物が得られる(収率95〜100%)。
【0132】
次に、構造式(7)−3に示される化合物と、テトラヒドロフランとが、−78℃で撹拌混合される。これにより得られた混合物に構造式(7)−cに示される化合物が加えられ、−78℃で2時間混合され、続いて室温で10時間攪拌混合される。この混合物にさらにモノクロルアミンの飽和溶液と、ジエチルエーテル及びテトラヒドロフランと、10%塩酸水溶液とが順次加えられ、室温で10分間撹拌混合されることで、下記構造式(7)−4で示される化合物が得られる(収率50〜60%)。
【0133】
次に、[スキーム4]に示されるように、構造式(7)−4で示される化合物と、構造式(7)−dで示される化合物と、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)と、ナトリウムターシャリブトキシドと、トリターシャリブチルホスフィンと、トルエンとが混合され、一晩還流されることで、下記構造式(7)−5で示される化合物が得られる(収率50−60%)。
【0134】
次に、構造式(7)−5で示される化合物と、構造式(7)−eに示される化合物と、酢酸アンモニウムと、酢酸とが混合され、3時間還流されることで、下記構造式(7)−6で示される化合物が得られる。
【0135】
次に、構造式(7)−6で示される化合物と、フッ化テトラ−n−ブチルアンモニウムと、テトラヒドロフランとが、アルゴン雰囲気下において室温で5時間撹拌混合される。これにより得られる混合物に更に酸化銀が加えられた後、アルゴン雰囲気下において室温で2時間撹拌混合される。これにより、構造式(7)で示される化合物が得られる(収率95〜100%)。
【0136】
[スキーム3]
【0137】
【化25】

【0138】
[スキーム4]
【0139】
【化26】

【0140】
ここで、[スキーム3]及び[スキーム4]において、Rにおけるnがn=3である場合の、構造式(7)−3、構造式(7)−4、構造式(7)−5、構造式(7)−6を以下に示す。また、併せて分子量を記載する。
【0141】
【化27】

【0142】
【化28】

【0143】
【化29】

【0144】
【化30】

【0145】
(合成例3)
上記構造式(8)で示される光吸収材料は、下記の[スキーム5]、[スキーム6]、[スキーム7]及び[スキーム8]に示される工程により製造され、具体的には、次のようにして製造される。
【0146】
まず、[スキーム5]に示されるように、構造式(8)−1で示される化合物と、ジエチルエーテル(ether)とが、−78℃で撹拌混合される。これにより得られた混合物に、ターシャリーブチルリチウムが加えられ、−78℃で2時間攪拌混合され、続いて室温で1時間攪拌混合される。次に、この混合物に2−メチル−2−ニトロソプロパンが加えられ、−78℃で2時間攪拌混合され、続いて室温で1時間攪拌混合されることで、構造式(8)−2で示される化合物が得られる(収率40〜50%)。
【0147】
次に、構造式(8)−2で示される化合物と、N,N−ジメチルホルムアミドと、イミダゾールと、ターシャルブチルジメチルシリルクロリドとが、室温で10時間攪拌混合されることで、構造式(8)−3で示される化合物が得られる(収率80〜90%)。
【0148】
次に、構造式(8)−3で示される化合物と、トルエンと、ナトリウムターシャリブトキシドと、ヨウ化銅と、ピペリジンとが撹拌混合され、更にアルゴン雰囲気下で5時間還流されることで、構造式(8)−Aで示される化合物が得られる(収率50〜60%)。
【0149】
また、[スキーム6]に示されるように、構造式(8)−4で示される化合物と、四塩化炭素と、N−ブロモサクシンイミドとが、室温で5時間攪拌混合されることで、構造式(8)−5で示される化合物が得られる(収率50〜60%)。
【0150】
次に、構造式(8)−5で示される化合物と、ジメチルエーテルとが、−78℃で攪拌混合される。これにより得られた混合物に、ターシャリーブチルリチウムが加えられた後、−78℃で2時間攪拌混合され、続いて室温で1時間攪拌混合される。次に、この混合物にホウ酸トリイソプロピルが加えられ、−78℃で2時間攪拌混合され、続いて室温で10時間攪拌混合されることで、構造式(8)−Bで示される化合物が得られる(収率40〜50%)。
【0151】
そして、[スキーム7]に示されるように、構造式(8)−Aで示される化合物と、構造式(8)−Bで示される化合物と、トルエンと、ナトリウムターシャリブトキシドと、テトラ(トリフェニルホスフィナト)パラジウムとが混合され、アルゴン雰囲気下で一晩還流されることで、構造式(8)−6で示される化合物が得られる。
【0152】
次に、構造式(8)−6で示される化合物と、2−シアノ酢酸と、アセトニトリル(AN)と、ピペリジンと、テトラ(トリフェニルホスフィナト)パラジウムとが混合され、アルゴン雰囲気下で5時間還流されることで、構造式(8)−Dで示される化合物が得られる(収率80〜90%)。
【0153】
次に、[スキーム8]に示されるように、構造式(8)−Dで示される化合物と、フッ化テトラ−n−ブチルアンモニウムと、テトラヒドロフランとが、アルゴン雰囲気下で室温で5時間攪拌混合される。これにより得られる混合物に、酸化銀が加えられ、アルゴン雰囲気下において室温で2時間攪拌混合される。これにより、構造式(8)で示される化合物が得られる(収率95〜100%)。
【0154】
[スキーム5]
【0155】
【化31】

【0156】
[スキーム6]
【0157】
【化32】

【0158】
[スキーム7]
【0159】
【化33】

【0160】
[スキーム8]
【0161】
【化34】

【0162】
(合成例4)
上記構造式(11)で示される化合物は、例えば、量子ドットと呼ばれる微粒子を安定フリーラジカルに結合することで製造される。量子ドットと呼ばれる微粒子は、「Chemistry Letters」 2007年,36巻,6号, 712頁、に記載されているような方法で作製される。量子ドットを安定フリーラジカルに結合する方法としては、「Journal of Morecular Catalysis A:Chemical」 1995年,101巻,P45頁、に記載されているような方法を用いることができる。
【0163】
(光吸収部位Xに対して電子受容体となるラジカル部位Yを有する光吸収材料)
(合成例5)
上記構造式(14)で示される光吸収材料は、下記の[スキーム9]に示される工程により製造され、具体的には、次のようにして製造される。
【0164】
まず、[スキーム9]に示されるように、4,4−ビピリジルがエタノールに加えられ、更に2−ブロモエチルアミンが加えられ、これにより得られた溶液が70℃で終夜撹枠混合されることで、構造式(14)−1で示される化合物の黄色固体が得られる(収率59%)。
【0165】
次に、テトラヒドロフラン(THF)/エタノール混合溶媒中に構造式(14)−1で示される化合物とDl31色素とが加えられ、更にエステル縮合剤(4−(4,6−ジメトキシー1,3,5−トリアジンー2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド;DMT−MM)、及び塩基(トリエチルアミン;TEA)が加えられる。これにより得られた溶液が室温で一時間放置されると、構造式(14)−2で示される化合物が生成する(収率70%)。
【0166】
次に、エタノール中に構造式(14)−2で示される化合物が加えられ、更にヨードメタンが過剰量加えられる。これにより得られた溶液が60℃で終夜放置された後、水で洗浄され、更に生成物がジエチルエーテル中で再沈殿される。これにより、構造式(14)で示される光吸収材料の赤褐色固体が得られる(収率65%)。
【0167】
この構造式(14)で示される光吸収材料はクロロホルム、アセトニトリル、メタノールに可溶であり、水に不溶である。構造式(14)で示される光吸収材料は、lH−NMRおよびFAB−Massより同定される。
【0168】
[スキーム9]
【0169】
【化35】

【0170】
(合成例5)
上記構造式(15)で示される光吸収材料は、下記の[スキーム10]に示される工程により製造され、具体的には、次のようにして製造される。
【0171】
まず、[スキーム10]に示されるように、シアノ酢酸がアセトニトリルに溶解され、更に1−カルボニルジイミダゾールが加えられることでカルボキシル基が活性化する。これに、更に[スキーム9]に示される反応により合成された構造式(14)−1に示されるビオロゲン誘導体が加えられて、アミド結合が構築され、構造式(15)−1で示される化合物が得られる。
【0172】
構造式(15)−1で示される化合物の生成は、FAB−Massにより確認される。この構造式(15)−1で示される化合物が、エタノール中に加えられ、更に塩基とD131色素とが加えられることで、構造式(15)−1で示される化合物とD131色素とが縮合し、構造式(15)で示される光吸収材料が得られる。
【0173】
[スキーム10]
【0174】
【化36】

【0175】
(合成例6)
上記構造式(16)で示される光吸収材料は、下記の[スキーム11]に示される工程により製造され、具体的には、次のようにして製造される。
【0176】
まず、[スキーム11]に示されるように、アセトン中に4,4−ビピリジルと1−クロロー2,4−ジニトロベンゼンが加えられ、これにより得られた溶液が12時間沸点還流されることで、沈殿物が得られる。この沈殿物がヘキサンにより洗浄され、更に真空乾燥されることで、構造式(16)−1で示される化合物の灰色粉末が得られる(収率79%)。
【0177】
次に、構造式(16)−1で示される化合物と1,4−フェニレンジアミンとがエタノール中に加えられ、これにより得られる溶液が窒素雰囲気下で12時間沸点還流される。次に、この溶液から溶媒が除去され、これにより得られる残渣がアセトンにより洗浄され、続いて真空乾燥されることにより、構造式(16)−2で示される化合物の褐色粉末が得られる(収率92%)。
【0178】
次に、構造式(16)−2で示される化合物がメタノール中に加えられ、これにより得られる溶液に更に、D131色素、縮合剤(DMT−MM)、及び塩基(トリエチルアミン(TEA))が加えられる。この溶液が室温で一時間放置されると、構造式(16)−3に示される化合物が得られる(収率92%)。
【0179】
次に、構造式(16)−3に示される化合物がエタノールに加えられ、これにより得られる溶液に更に過剰量のヨードメタンが加えられる。この溶液が終夜60℃に加熱された後、水で洗浄され、更に生成物がジエチルエーテル中で再沈殿される。これにより、構造式(16)で示される光吸収材料の赤褐色固体が得られる(収率65%)。
【0180】
[スキーム11]
【0181】
【化37】

【0182】
(合成例7)
上記構造式(17)で示される光吸収材料は、下記の[スキーム12]に示される工程により製造され、具体的には、次のようにして製造される。
【0183】
まず、[スキーム12]で示されるように、4−(メトキシカルボニル)フェニルボロン酸のリチオ化によるカップリング反応により、構造式(17)−1で示される化合物が生成する。
【0184】
次に、構造式(17)−1で示される化合物にPdCl(PPh、トリエチルアミン、4,4,5,5−テトラメチル、及び1,3,2−ジオキサボロランが加えられ、これにより得られた混合物が不活性雰囲気下、トルエン中で80℃で5時間撹枠される。そして、この混合物の分液及びHPLC精製によって、構造式(17)−2で示される化合物の燈色粉末が得られる。
【0185】
次に、構造式(17)−2で示される化合物とMD−22とがベンゼン/水混合溶媒中に加えられ、これにより得られた溶解に更にPd(PPh及びKCOが加えられ、この溶液が50℃で12時間放置されると、反応が進行する(鈴木カップリング)。そして、この溶液の分液及びHPLC精製によって、構造式(17)−3で示される化合物の赤燈色粉末が得られる。
【0186】
次に、構造式(17)−3で示される化合物を不活性雰囲気下でジクロロメタンに溶解し、水酸化ナトリウム飽和水溶液を滴下する。室温下、30分の撹拌により溶液は橙色から濃青色に変化し、フェリシアン化カリウムを添加後、さらに30分撹拌することで溶液は褐色となる。反応終了後、分液抽出(ジクロロメタン/水)することにより、構造式(17)で示される光吸収材料が得られる。
【0187】
[スキーム12]
【0188】
【化38】

【0189】
(合成例8)
ラジカル部位Yにリン酸基を導入した構造式(19)で示される光吸収材料の製造方法を[スキーム13]に示す。リン酸基は、電極などの導電材料と化学的に相互作用する官能基として機能する。
【0190】
[スキーム13]
【0191】
【化39】

【0192】
まず、[スキーム13]で示されるように、4,4’−ビピリジル(3.55g,22.7mmol)を出発物質として、2−ブロモエチルホスホン酸ジエチル(12.2g,49.9mmol)中50℃で12時間反応させ、沈殿物をエーテル洗浄し、再結晶精製を経て、黄白色固体の構造式(19)−1の化合物を得た(yield 34%)。
【0193】
次に、構造式(19)−1の化合物(4.5g,11.2mmol)と2−ブロモエチルアミン臭化水素酸塩(1.54g,7.5mmol)をエタノールに溶解し、16時間沸点還流後、再結晶精製により黄色固体の構造式(19)−2の化合物を得た(yield 27%)。
【0194】
次に、構造式(19)−2の化合物(570mg,0.94mmol)とD131(478mg,0.94mmol)、および、縮合剤として4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド(DMT−MM)(650mg,2.35mmol)、をTHF/HO混合溶媒に溶解し、4−メチルモルホリン(238mg,2.35mmol)を添加し遮光して、室温下で14時間反応させた。反応後、メタノールを加え、未反応のD131活性エステル体をメチルエステル化し、エーテル沈殿精製により未反応のD131を除去した。D131除去後の反応物に純水を加え、過剰量のヘキサフルオロリン酸アンモニウム(NHPF)(1.53g,9.4mmol)を加えて対イオン交換し、エーテル沈殿精製を経て赤褐色固体の構造式(19)−3の化合物を得た(yield 74%)。
【0195】
次に、構造式(19)−3の化合物(614mg,0.536mmol)をジクロロメタンに溶解し、過剰量のブロモトリメチルシラン(BrSiMe)(7.88g,51mmol)を添加した。反応後、メタノールにより未反応のBrSiMeを失活させ、エーテル沈殿精製、アセトン洗浄を経て、赤紫固体の構造式(19)の化合物を得た(yield 52%)。
【0196】
構造式(19)−1、構造式(19)−2、構造式(19)−3、及び、構造式(19)の各化合物について、H−NMR、13C−NMR、FAB−Massにより同定した。同定結果を下記に示す。
【0197】
構造式(19)−1の化合物:
1H-NMR (D2O, ppm): 9.06 (d, 2H, viologen-CH), 8.80 (dd,2H, viologen-CH), 8.49 (d, 2H, viologen-CH), 7.94 (dd, 2H, viologen-CH), 4.99(dt, 2H, N+CH2CH2P), 4.14 (q, 2H, POCH2CH3),4.13 (q, 2H, POCH2CH3), 2.18 (dt, 2H, N+CH2CH2P),1.25 (t, 6H, POCH2CH3). 13C-NMR (D2O,ppm): 154.8, 150.1, 145.3, 142.4, 126.2, 122.6, 64.0, 55.4, 26.0, 15.5. FAB-MS:found 321.4 [-Br-], calcd 321.3 [-Br-].
構造式(19)−2の化合物:
1H-NMR (D2O, ppm): 9.27 (d, 2H, viologen-CH), 9.24 (d, 2H,viologen-CH), 8.69 (d, 2H, viologen-CH), 8.66 (d, 2H, viologen-CH), 5.14 (t,2H, N+CH2CH2NH2), 5.07 (dt, 2H, N+CH2CH2P),4.17 (q, 2H, POCH2CH3), 4.15 (q, 2H, POCH2CH3),3.82 (t, 2H, N+CH2CH2NH2), 2.85(dt, 2H, N+CH2CH2P), 1.28 (t, 6H, POCH2CH3).13C-NMR (D2O, ppm): 151.1, 150.5, 146.3, 146.1, 127.7,127.2, 64.0, 58.4, 56.0, 39.2, 26.0, 15.6, FAB-MS: found 365.3 [-2Br-,HBr], calcd 365.4 [-2Br-, HBr].
構造式(19)−3の化合物:
1H-NMR (acetone-d6, ppm): 9.50 (d, 2H, viologen-CH), 9.49 (d, 2H,viologen-CH), 8.88 (d, 2H, viologen-CH), 8.87 (d, 2H, viologen-CH), 7.93 (s,1H, Ph), 7.88 (s, 1H, Ph), 7.79 (t, 1H, -CONH-), 7.64 (dd, 1H, Ph), 7.48-7.03(m, 15H, Ph), 6.92 (d, 1H, Ph), 5.20 (m, 2H, -N+CH2CH2P-),5.17 (t, 2H, -N+CH2CH2NH-), 5.05 (m, 1H, CH),4.17 (dt, 2H, -N+CH2CH2NH-), 4.11 (q, 2H,-POCH2-), 4.09 (q, 2H, -POCH2-), 3.88 (t, 1H, CH), 2.81(dt, 2H, -N+CH2CH2P-), 2.11 (m, 1H, CH),1.90-1.32 (m, 5H, CH), 1.26 (t, 6H, -POCH2CH3). 13C-NMR(acetone-d6, ppm): 164.0, 152.7, 152.1, 151.2, 150.9, 147.6, 144.1, 142.6,141.5, 140.2, 137.4, 135.1, 133.8, 131.5, 130.9, 129.8, 129.1, 128.5, 128.3,128.1, 128.0, 128.0, 127.9, 127.8, 127.5, 123.3, 121.3, 118.5, 108.1, 96.9,70.2, 62.9, 57.7, 45.3, 41.8, 36.0, 33.8, 30.6, 28.2, 27.1, 24.7, 16.7. FAB-MS:found 855.5 [M+], calcd 856.0 [M+].
構造式(19)の化合物:
1H-NMR (acetone-d6, ppm): 9.48 (d, 2H, viologen-CH), 9.36 (d, 2H,viologen-CH), 8.87 (d, 2H, viologen-CH), 8.83 (d, 2H, viologen-CH), 7.92 (s,1H, Ph), 7.88 (s, 1H, Ph), 7.74 (t, 1H, -CONH-), 7.64 (dd, 1H, Ph), 7.43-7.07(m, 15H, Ph), 6.92 (d, 1H, Ph), 5.17 (t, 2H, -N+CH2CH2NH-),5.05 (m, 1H, cyclopentane ring-CH), 4.73 (s, 3H, -CH3), 4.18 (m, 2H,-N+CH2CH2NH-), 3.89 (t, 1H, cyclopentanering-CH), 2.11 (m, 1H, cyclopentane ring-CH), 1.82 (m, 3H, cyclopentanering-CH), 1.68 (m, 1H, cyclopentane ring-CH), 1.42 (m, 1H, cyclopentanering-CH). 13C-NMR (acetone-d6, ppm): 163.9, 152.7, 152.2, 151.1,150.4, 147.9, 147.6, 144.1, 142.6, 141.5, 140.2, 137.5, 135.1, 133.8, 131.5,130.9, 129.8, 129.1, 128.5, 128.3, 128.1, 128.0, 127.9, 127.7, 127.5, 123.3,121.3, 118.5, 108.1, 96.8, 70.2, 62.8, 49.4, 45.3, 41.8, 36.0, 33.8, 30.3.FAB-MS: found 800.3 [-2PF6-], calcd 799.9 [-2PF6-].
以上のようにして、光吸収材料が製造され、化合物が同定された。
【0198】
なお、上記各光吸収材料の製造に用いられているD131は、下記[化40]の構造を有する化合物である。
【0199】
【化40】

【0200】
[光電変換素子の作製]
(実施例1)
合成例1によって得た構造式(6)で示される光吸収材料を用い、図1の層構成の光電変換素子を作製した。
【0201】
まず、厚み1mmの導電性ガラス基板(旭硝子株式会社製、表面抵抗10Ω/□)の上に、フッ素ドープSnOの層を形成することで、第一の電極5を得た。
【0202】
次に、5mlのN,N−ジメチルホルムアミド中に、構造式(6)で示される光吸収材料を10mg加えて溶解させ、得られた溶液を第一の電極5の表面にドロップキャスト法により塗布することで、厚み50nmの光吸収材料の膜(光吸収層2)を形成した。この光吸収層2は、電子輸送層3の機能を備えるものである。そして、第一の電極5表面の光吸収材料の膜を、その外縁部分のみ削り取った。第一の電極5表面の、光吸収材料の膜が部分的に削り取られた箇所に、封止材(熱溶融性接着剤、三井・デュポン ポリケミカル株式会社製の商品名バイネル)を、光吸収材料の膜の残存部分を囲むように配置した。更に、ダイヤモンドドリルにより、第一の電極5と光吸収層2の中央部分を貫通する注入用の孔をあけた。
【0203】
また、第二の電極6として白金板を用意した。この第二の電極6と第一の電極5とを、両者の間に光吸収層2が配置されるように対向させ、両者の間の空間が封止材で取り囲まれるようにした。続いて、第一の電極5と第二の電極6とを加熱しながら加圧することで、封止材を介して両者を貼り合わせた。
【0204】
次に、1mlのアセトニトリルに、0.1モルの2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO)と、1.6モルのN−メチルベンズイミダゾールとをそれぞれ加えて溶解させることで、電解質溶液を調製した。この電解質溶液を、注入用の孔から第二の電極6と光吸収層2との間の空間に注入して正孔輸送層4を形成した後、注入用の孔を紫外線硬化性樹脂で塞いだ。
【0205】
これより、光電変換素子1を得た。
【0206】
実施例1の光電気素子の光照射下(条件:200Lx)での開放電圧は600mVであり、光を遮断すると出力電圧は次第に0mVへと収束した。さらに再び光照射すると開回路電圧は600mVへと収束した。この光応答挙動は繰り返し安定して発現した。
【0207】
(実施例2)
光吸収材料として構造式(6)の化合物の代わりに構造式(19)の化合物を用いた以外は実施例1と同様にして光電気素子を作製した。実施例2の光電気素子の光照射下(条件:200Lx)での開放電圧は650mVであり、光を遮断すると出力電圧は次第に0mVへと収束した。さらに再び光照射すると開回路電圧は650mVへと収束した。この光応答挙動は繰り返し安定して発現した。
【0208】
(比較例1)
実施例1と同様にして、第一の電極5を得た。
【0209】
次に、5mlのN,N−ジメチルホルムアミド中に、三菱製紙株式会社製のD131色素を5mg、及び、ビオロゲンを5mg加えて溶解させ、得られた溶液を第一の電極5の表面にドロップキャスト法により塗布することで、厚み50nmの膜(光吸収層2)を形成した。それ以外は、実施例1と同様にして、光電変換素子を得た。
【0210】
比較例1の光電気素子の光照射下(条件:200Lx)での開放電圧は50mVであり、光を遮断すると出力電圧は次第に0mVへと収束した。さらに再び光照射すると開回路電圧は50mVへと収束した。この光応答挙動は繰り返して安定して発現した。
【0211】
(実施例3)
構造式(6)で示される光吸収材料に代えて、合成例6によって得た構造式(16)で示される光吸収材料を使用し、それ以外は、実施例1と同様にして、光電気素子を作製した。
【0212】
実施例3の光電気素子の光照射下(条件:200Lx)での開放電圧は480mVであり、光を遮断すると出力電圧は次第に0mVへと収束した。さらに再び光照射すると開回路電圧は480mVへと収束した。この光応答挙動は繰り返して安定して発現した。
【符号の説明】
【0213】
1 光電変換素子
2 光吸収層
3 電子輸送層
4 正孔輸送層
5 第一の電極
6 第二の電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)で表される構造を有する、光吸収材料。
X−Y …(1)
式(1)において、Xは光吸収部位を示し、Yは酸化状態または還元状態の少なくとも一方においてラジカルとなり且つ繰り返し酸化還元可能なラジカル部位を示し、かつ、X及びYの少なくとも一方が導電材料と化学的相互作用を示す官能基を有する。
【請求項2】
前記式(1)のXまたはYにおける、導電材料と化学的相互作用を示す前記官能基が、リン酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、ピリジニウム基のうち、少なくともいずれか一つを含む、請求項1に記載の光吸収材料。
【請求項3】
前記式(1)におけるYが、Xに対する電子受容体である、請求項1又は2に記載の光吸収材料。
【請求項4】
前記式(1)におけるYが、ビピリジニウム基、置換基を有するビピリジニウム基、ガルビノキシルラジカル基、及び、置換基を有するガルビノキシルラジカル基のうちから選ばれるいずれか1種以上を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の光吸収材料。
【請求項5】
前記式(1)におけるXが、下記の一般式(A)、一般式(B)、又は、一般式(C)で示される構造を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の光吸収材料。
【化1】

一般式(A)において、R’は、それぞれ独立に水素、カルボキシル基、スルホニル基、フェニル基、カルボキシフェニル基、スルホフェニル基、又は、ピリジニウム基であり、且つ少なくとも一つのR’がラジカル部位Yと結合する。Mは金属原子である。
【化2】

一般式(B)において、X,Xは、それぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環のうちの少なくとも一種を含む基であり、それぞれ置換基を有していてもよい。X及びXの少なくとも一つがラジカル部位Yと結合する。
【化3】

一般式(C)において、R’は、それぞれ独立に水素、カルボキシル基、スルホニル基、フェニル基、カルボキシフェニル基、スルホフェニル基、又は、ピリジニウム基であり、且つ少なくとも一つのR’がラジカル部位Yと結合する。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の光吸収材料を備える光電変換素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−190666(P2012−190666A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53587(P2011−53587)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】