説明

光学ガラスの製造方法

【課題】 酸化ビスマスを含有する高屈折率高分散領域の精密プレス用の光学ガラスであって、かつ、透過率にも優れた光学ガラスの製造方法を提供すること。
【解決手段】 酸化ビスマスを10質量%以上含有する原料混合物を熔解する原料熔解工程を含む光学ガラスの製造方法において、前記原料熔解工程を、非金属製坩堝又は非金属製器具を用いて行う光学ガラスの製造方法である。更に、原料熔解工程によって熔解生成したガラスを冷却せずにそのまま清澄及び均質化する均質化工程を有してもよく、原料熔解工程の後に、熔解した前記原料混合物を冷却してカレットを作製するカレット化工程と、このカレットを熔解する本熔解工程と、当該本熔解工程で溶解したカレットを再度冷却する冷却工程と、を有していてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化ビスマスを含有する光学ガラスの製造方法と、当該製造方法により製造される光学ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学系を使用する機器の高集積化、高機能化が急速に進められており、光学系に対する高精度化、軽量、小型化の要求がますます強まってきている。そのため、レンズ枚数の削減を図るため、高屈折率高分散ガラスを用いた非球面レンズを使用した光学設計が主流になりつつある。
【0003】
高屈折率高分散領域ガラスとして多くのガラスが開発されているが、その多くはNbを高濃度に含有した燐酸塩ガラスである。例えば、特許文献1、2には、P−Nb−WO−(KO,NaO,LiO)系のガラスが、特許文献3には、P−Nb−TiO−Bi−NaO系のガラスが開示されている。しかし、これらの光学ガラスは、Tgが低いとは言え、480℃を超えるものが多く、耐失透性が低くなるという欠点があった。
【0004】
また、Tgの低いガラスとして、Biを多量に含むガラスが開発されている。例えば、非特許文献1から5には、Bi−Ga−PbO系,Bi−Ga−(LiO,KO,CsO)系、Bi−GeO系が開示されている。しかし、これらのガラスは、480℃以下のTgを示すが、ガラスの吸収端が450nmよりも長波長側にあるため、可視領域における透過率が大幅に失われ、可視領域に高い透明性が要求される光学レンズとしては使用できないという問題点があった。
【0005】
また、ビスマスは白金材料と反応しやすいため、酸化ビスマスを多量に含むガラスの製造においては、原料の熔解に白金るつぼを使用した場合、ビスマスと白金で合金を作り、金属不純物の混入により、透過率が低下する等の問題点もあった。
【特許文献1】特開2003−321245号公報
【特許文献2】特開平8−157231号公報
【特許文献3】特開2003−300751号公報
【非特許文献1】Physics and Chemistry of Glasses, P119, Vol.27 No.3 June1986
【非特許文献2】American Ceramic Society, P.2315 , Vol.75, No.9, October 1992
【非特許文献3】American Ceramic Society, P.1017, Vol.77, No.4, October 1994
【非特許文献4】American Ceramic Society Bulletin, P.1543, Vol.71, No.10, October 1992
【非特許文献5】Glass Technology, P.106, Vol.28, No.2, April 1987
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上のような課題に鑑みてなされたものであり、酸化ビスマスを含有する高屈折率高分散領域の精密プレス用の光学ガラスであって、かつ、透過率にも優れた光学ガラスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、Biを含む原料混合物を熔解する工程において、非金属製坩堝等を使用することにより、透過率劣化を最小限に抑え、良好な光透過特性を持ったガラスを得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0008】
(1) 酸化ビスマスを10質量%以上含有する原料混合物を熔解する原料熔解工程を含む光学ガラスの製造方法において、前記原料熔解工程を、非金属製坩堝又は非金属製器具を用いて行う光学ガラスの製造方法。
【0009】
本発明の光学ガラスの製造方法によれば、原料熔解工程を、非金属製坩堝又は非金属製器具を用いて行っている。したがって、原料熔解工程において、酸化ビスマスを含むガラスが、坩堝を侵食し、金属イオン又は金属粒子、特に白金イオン又は白金粒子の混入を防止することができる。また、ビスマスは白金と合金を作りやすく、金属合金の混入により、透過率が低下するが、本発明の製造方法によれば、非金属製坩堝又は非金属製器具を用いているため、金属不純物の混入を防止することができ、透過率の優れた光学ガラスを製造することができる。
【0010】
(2) 前記原料熔解工程によって熔解生成したガラスを、冷却せずにそのまま清澄及び均質化する均質化工程を更に有する(1)記載の光学ガラスの製造方法。
【0011】
この態様によれば、冷却せずにそのまま清澄及び均質化するため、冷却する工程を省略することができ、効率良く光学ガラスの製造を行うことができる。
【0012】
(3) 前記原料熔解工程の後に、熔解した前記原料混合物を冷却してカレットを作製するカレット化工程と、このカレットを熔解する本熔解工程と、当該本熔解工程で溶解したカレットを再度冷却する冷却工程と、を更に有する(1)記載の光学ガラスの製造方法。
【0013】
この態様によれば、熔解した原料混合物を冷却し、一度、カレットを作製する。このカレットを再度熔解し、光学ガラスの製造を行う。したがって、カレットを調整することにより、製造する光学ガラスの透過率を調整することができるため、所望の透過率を有する光学ガラスを容易に製造することができる。
【0014】
(4) 前記非金属製坩堝又は非金属製器具は、セラミックスまたはアモルファス製である(1)から(3)いずれか記載の光学ガラスの製造方法。
【0015】
この態様によれば、坩堝又は器具が、セラミックス製又はアモルファス製であり、非金属であるため、金属粒子、イオンの溶け込みが抑制され、透過率の劣化を防止することができる。また、セラミックス製又はアモルファス製の坩堝は、アルミナ製又は溶融石英(石英ガラス)製であることが好ましい。
【0016】
(5) 前記本熔解工程及び前記冷却工程を、金属製坩堝又は金属製器具を用いて行う(3)又は(4)記載の光学ガラスの製造方法、又は、(6) 前記金属製坩堝又は金属製器具は、白金製、白金合金製、金製、又は金合金製のいずれかである(5)記載の光学ガラスの製造方法。
【0017】
この態様によれば、本熔解工程及び冷却工程を、金属製坩堝又は金属製器具を用いて行うため、泡の混入を防止することが容易となり、すじ又は脈理等も防止することが容易となる。Bi系ガラスは金製又は金合金製の坩堝を使用することで、合金化反応を抑えることが可能である。熔解温度が高い場合には、金坩堝の融点(1063℃)を考慮し、白金、白金合金を用いることが好ましく、熔解温度が低い場合には、白金坩堝よりも金坩堝の方が合金になりにくいため、金又は金合金を用いることが好ましい。
【0018】
(7) 前記光学ガラスが質量%で、Bi:10%以上90%以下、B+SiO:0%を超え50%以下、RO+RnO:0%を超え50%以下(ただし、RはZn,Ba,Sr,Ca,Mgより選択される1種以上を示し、RnはLi,Na,K,Csより選択される1種以上を示す。)となるように、前記原料熔解工程において前記原料混合物を配合する(1)から(6)いずれか記載の光学ガラスの製造方法。
【0019】
この態様によれば、Biが10%以上90%以下であるため、光学ガラスのTgを低くすることが容易になり、さらには目的の高屈折率高分散のガラスを得ることが容易となる。また、B+SiOを50%以下とすることにより、屈折率の低下とTgの上昇を避け、安定性の良いガラスを得易くなる。RO+RnOは50%以下にすることにより、ガラスの安定性、溶融性について容易に向上させることができる。特にRO成分では、BaO、RnO成分ではLiOを含有させることで、ガラス安定性を容易に向上させることができる。また、RnOはTgを大幅に低下させる成分ではあるが、過剰に含有すると失透性が増加するため、RO+RnOで50%以下が好ましい。
【0020】
(8) 前記原料熔解工程において、溶融炉内の残存酸素濃度を1%以上にする(1)から(7)いずれか記載の光学ガラスの製造方法。
【0021】
この態様によれば、原料熔解工程において、溶融炉内の残存酸素濃度が1%以上であるため、溶融炉内が酸化雰囲気となっており、Biの還元による金属Biの析出を容易に防止することができる。さらに、ガラスが着色することも容易に防止することができる。
【0022】
(9) 前記原料熔解工程において、ガラスを酸化させる酸化ガスを吹き込みながら前記原料混合物を熔解する(1)から(8)いずれか記載の光学ガラスの製造方法、又は、(10) 前記酸化ガスが酸素である(9)記載の光学ガラスの製造方法。
【0023】
この態様によれば、原料熔解工程において、酸化ガスを吹き込みながら熔解しているため、酸化ビスマス含有ガラスの溶融性を高めることができ、かつ着色も抑えることができる。また、酸化ガスは酸素であることが好ましい。
【0024】
(11) 前記原料混合物に酸化剤を1%以上含有させる(1)から(10)いずれか記載の光学ガラスの製造方法、又は、(12) 前記酸化剤は、Sb、硝酸塩、より選択される1種以上である(11)記載の光学ガラスの製造方法。
【0025】
この態様によれば、原料混合物に酸化剤が1%以上含有しているため、原料熔解時に溶融ガラスが酸化雰囲気となり、Biの還元による結晶の析出を防止することが容易となる。酸化剤としては、Sb、硝酸塩、より選択される一種以上であることが好ましい。硝酸塩は、Sr(NO、Ba(NOなどのアルカリ土類金属硝酸塩、KNO、NaNOなどのアルカリ金属硝酸塩が好ましい。
【0026】
(13) (1)から(12)いずれか記載の製造方法により作成される光学ガラスであって、当該光学ガラスの透過率が70%となる波長であるλ70が、550nm以下である光学ガラス、又は、(14) 前記λ70が520nm以下である(13)記載の光学ガラス。
【0027】
本発明の製造方法により光学ガラスを製造することによって、λ70が、550nm以下であり、更に好ましくは、520nm以下である光学ガラスを製造することが容易となる。光学ガラスのλ70が、550nm以下である場合は、カレットの状態でのλ70が、520nm以下であり、光学ガラスのλ70が、520nm以下である場合には、カレットの状態でのλ70が、490nm以下であることが好ましい。
【0028】
なお、本発明の透過率の測定に用いられる光学ガラスは、原料熔解工程によって熔解生成したガラス、又は、カレットを作製し、このカレットを熔解することにより生成したガラスを、清澄、攪拌し、均質化した後、金型に鋳込み徐冷して製造した光学ガラスを用いて測定したものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、従来の光学ガラスまたは酸化ビスマスを大量に含んだガラスにおいて、良好な光透過特性を持った光学ガラスを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
次に本発明の光学ガラスにおいて、具体的な実施態様について説明する。
【0031】
[ガラス組成]
本発明において好ましく製造することができる組成範囲について説明する。各成分は質量%にて表現する。なお、本願明細書中において質量%で表されるガラス組成は全て酸化物基準での質量%で表されたものである。ここで、「酸化物基準」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、硝酸塩等が溶融時にすべて分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の質量の総和を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0032】
酸化ビスマスを含有する光学ガラスとは、Biを10%以上含有するガラスであり、本発明における製造方法において最も効果的なBi量は、30%以上である。ただし、Biが90%を超えると、非金属製坩堝の侵食が激しくなるため、Bi含有量は90%以下とする。さらに好ましいBi含有量は88%以下であり、87%以下を含有させることが特に好ましい。
【0033】
+SiOは、液相温度を低くし、化学的耐久性を向上させるために、酸化ビスマス含有ガラスを光学ガラス用途に使用する場合に含有させる。B+SiO量は、0%を超えて含んでいることが好ましく、さらに好ましくはB+SiO量を1%以上、最も好ましくはB+SiO量を3%以上含んでいることが好ましい。また、B+SiO量が多すぎると本発明が目的とする高屈折率ガラスを得ることができない。そのため、B+SiO量は、好ましくは50%以下、より好ましくは45%以下さらに好ましくは、40%以下である。この範囲で製造することにより、液相温度を低くすることにより、安定したガラス製造を行うことが可能となる。
【0034】
尚、「液相温度」とは、一定の粒度で粉砕したガラス試料を白金板上にのせ、温度傾斜のついた炉内に30分間保持した後、取り出し、軟化したガラスの結晶の有無を顕微鏡にて観察し、結晶が認められない一番低い温度を表す。
【0035】
RO(R=Zn,Ba,Sr,Ca,Mg)は、高屈折率高分散領域の精密プレス用の光学ガラスを製造するために含有させる。RnO(Rn=Li,Na,K,Cs)はTgの降下、ガラスの溶融性向上のために含有させる。RO+RnO成分量は、0%を超えて含んでいることが好ましく、さらに好ましくは、RO+RnO成分量を1%以上である。また、RO+RnO成分量が50%を超えると液相温度が向上するため、RO+RnO成分量の上限を50%とすることが好ましい。さらに好ましくは、45%であり、最も好ましくは40%である。
【0036】
本発明においては、他の成分を本発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。ただし、Tiを除くV、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合においても、ガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じさせる。したがって、可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。
【0037】
Th成分は高屈折率化又はガラスとしての安定性の向上を目的として、Cd及びTl成分は低ガラス転移点(Tg)化を目的として含有させることができる。しかし、Pb、Th、Cd、Tl、Osの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあるため、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。したがって、環境上の影響を重視する場合には実質的に含まないことが好ましい。
【0038】
鉛成分は、ガラスを製造、加工、及び廃棄をする際に環境対策上の措置を講ずる必要があるため、コストが高くなり、本発明のガラスに鉛成分を含有させるべきでない。
【0039】
Asは、ガラスを溶融する際、泡切れ(脱泡性)良くするために使用される成分であるが、ガラスを製造、加工、及び廃棄をする際に環境対策上の措置を講ずる必要があるため、本発明のガラスにAsを含有させることは好ましくない。
【0040】
[製造方法]
次に、本発明の光学ガラスの製造方法について説明する。本発明の光学ガラスの製造方法は、酸化ビスマスを10質量%以上含有する原料混合物を熔解する原料熔解工程において、非金属製坩堝又は非金属製器具を用いて行う製造方法である。また、本発明においては、原料熔解工程によって熔解生成したガラスを冷却せずにそのまま清澄及び均質化する均質化工程を有してもよく、原料熔解工程の後に、熔解した前記原料混合物を冷却してカレットを作製するカレット化工程と、このカレットを熔解する本熔解工程と、当該本熔解工程で溶解したカレットを再度冷却する冷却工程と、を更に有していてもよい。
【0041】
酸化ビスマスを含有するガラスにおいて、原料熔解工程において、金属製坩堝または器具を使用すると、原料混合物が激しく金属製坩堝または器具と反応し、金属がガラスに溶け込む傾向にある。この金属の溶け込みにより、透過率が大幅に悪化し、本発明が目的とするガラスを得ることができない。従って、本発明が目的とするガラスを得る為には、原料混合物を溶解する工程において、金属製坩堝を使用せず、非金属性の坩堝を使用することが好ましい。この中でもセラミックス製又はアモルファス製の坩堝であることが好ましく、特にアルミナ製又は溶融石英(石英ガラス)製の坩堝であることが好ましい。さらに透過率が良いガラスを得たい場合は、純度が高い石英坩堝を使用することが最も好ましい。
【0042】
清澄および均質化させる工程においては、非金属坩堝および器具を使用すると、泡やすじ、脈理等が発生し、本発明が目的とするガラスを得ることができない。従って、清澄および均質化させる工程において白金、白金合金又は金あるいは金合金などの金属製坩堝を使用し熔解することが最も好ましい。特に溶解温度が高い場合は、白金、白金合金を用いることが好ましく、溶解温度が低い場合には、金もしくは金合金を用いることが最も好ましい。
【0043】
また、非金属器具としては、坩堝の代わりにガラスを溶融させるための器具であって、例えば、炉と一体化し原料を連続的に溶融させ、カレットを作製する管状器具、いわゆる傾斜管などを挙げることができる。
【0044】
また、酸化ビスマス含有ガラスは、原料混合物を溶融する工程において、溶融炉内の残存酸素濃度を1%以上にすることが好ましく、さらに好ましくは2%以上、特に好ましくは3%以上である。溶融炉内の残存酸素濃度が低すぎると、ガラスが着色する傾向にある。
【0045】
溶融炉内の残存酸素濃度を1%以上にするためには、溶融炉内に酸素を吹き込みながら溶融を行う方法、溶融炉内を酸素濃度1%以上の気体と置換し溶融を行う方法等を挙げることができるが、特に限定されない。
【0046】
また、本発明が目的とする透過率の良いガラスを得る為には、原料内に酸化剤を含有させることが効果的である。酸化剤としては酸化アンチモン、硝酸塩等などを挙げることができる。これらの含有割合として重量%で1%以上含有することが好ましく、さらに好ましくは2%以上、より好ましくは3%以上含有することが好ましい。
【0047】
また、原料混合物を熔解する工程において、ガラスを酸化させるガスを吹き込みながら原料混合物を熔解することもできる。ガラスを酸化させるガスを吹き込むことにより、酸化ビスマス含有ガラスの溶融性を高め、かつ着色も抑えることができる。
【0048】
ガスの吹き込み器具としては、石英もしくは、白金もしくは白金合金もしくは金もしくは金合金製の器具を使用し実施することが好ましい。さらに、液面に上昇してくる気泡を確認できるように吹き込み器具を配置することが好ましい。また、バブリングの強さは、周囲にガラスが飛散しない程度に調節することが好ましく、ガスの供給量は0.1l/min以上10l/min以下であることが好ましい。バブリングの時期は、原料混合物の投入が終了してから、キャストまでの時間が好ましく、必要に応じて攪拌などの均質化や清澄化を行うことが好ましい。
【0049】
ガラスを酸化させるガスとしては、特に限定されないが、例えば、酸素、ハロゲン化酸素などを用いることができる。
【0050】
[透過性]
酸化ビスマスを含有するガラスにおいて、原料混合物を溶解する工程に非金属性の坩堝を使用することによって、ガラスの透過率λ70を550nm以下に抑えることができる。より好ましい範囲は、ガラスの透過率λ70が530nm以下、最も好ましい範囲は、520nm以下である。
【実施例】
【0051】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
本発明の実施例1から8の光学ガラスは、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、燐酸塩等の通常の光学ガラス用原料を表1に示した組成の割合となるように秤量し、混合した。その後、原料を石英坩堝に投入し、粗溶融を行った。その後、冷却し、カレットの製造、カレットを白金坩堝に投入し、ガラス組成による溶融性に応じて700℃から1250℃において、1時間から5時間溶融、清澄、攪拌した後、金型に鋳込み徐冷して製造した。
【0053】
比較例1のガラスは、原料を白金坩堝に投入し、粗溶融を行った以外は、実施例1と同様のガラス組成、方法で製造した。
【0054】
本発明の光学ガラスの実施例1から8、比較例1の組成、原料混合物を溶解する工程で使用される坩堝及び器具の材質、カレットを熔解する工程で使用される坩堝の材質、ガラス原料中の酸化剤の割合及び、これらのガラスの屈折率(nd)、アッベ数(νd)、ガラス転移点(℃)、原料混合物をガラス状態に溶融する工程における溶融炉内の残存酸素濃度(%),透過率、カレットの透過率、原料混合物をガラス状態に溶融する工程において、酸素ガスを1.5時間バブリングしたときの有無を表1に示す。
【0055】
以上の様にして得られたガラスより、屈折率[nd]、アッベ数[νd]、ガラス転移点[Tg]、ガラスの透過率及び溶融時の炉内の酸素濃度を取得した。
【0056】
屈折率[nd]及びアッベ数[νd]については、徐冷降温速度を−25℃/Hrとして得られたガラスについて測定した。
【0057】
透過率測定については、日本光学硝子工業会規格JOGIS02に準じて行った。なお本発明においては、着色度ではなく透過率を示した。具体的には、厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJISZ8722に準じ、200〜800nmの分光透過率を測定した。(透過率70%時の波長)/(透過率5%時の波長)を示し、小数点第一位を四捨五入して求めた。
【0058】
ガラス転移点[Tg]については、熱膨張測定機で昇温速度を8℃/minにして測定した。
【0059】
酸素濃度の測定は、ガラス熔融時に燃焼管理テスタ(光明理化学工業株式会社製 型番MX−512)により溶融時のガラス表面上の酸素濃度を測定した。
【0060】
なお、表中、「酸化剤の割合」とは、ガラス原料として用いたアルカリ金属硝酸塩等がガラス製造工程において、すべて分解され金属酸化物に変化すると仮定した場合に、酸化物基準のガラス組成全体に対する、アルカリ金属硝酸塩等から変化した金属酸化物の質量割合を示すものである。
【0061】
【表1】

【0062】
実施例においては、ガラス原料中の組成、原料混合物の熔解時の雰囲気、坩堝の材質を変更し、本発明の製造方法により製造した。また、比較例においては、原料熔解工程に用いられる坩堝を白金坩堝とし、製造した。本発明の製造方法で製造された酸化ビスマスを含有した光学ガラスは、一般的な金属坩堝で熔融した場合よりも、大幅な透過率の改善が見られた。本発明の製造方法により、酸化ビスマスを大量に含有した光学ガラスの透過率を大幅に改善することができることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ビスマスを10質量%以上含有する原料混合物を熔解する原料熔解工程を含む光学ガラスの製造方法において、
前記原料熔解工程を、非金属製坩堝又は非金属製器具を用いて行う光学ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記原料熔解工程によって熔解生成したガラスを、冷却せずにそのまま清澄及び均質化する均質化工程を更に有する請求項1記載の光学ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記原料熔解工程の後に、熔解した前記原料混合物を冷却してカレットを作製するカレット化工程と、このカレットを熔解する本熔解工程と、当該本熔解工程で溶解したカレットを再度冷却する冷却工程と、を更に有する請求項1記載の光学ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記非金属製坩堝又は非金属製器具は、セラミックスまたはアモルファス製である請求項1から3いずれか記載の光学ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記本熔解工程及び前記冷却工程を、金属製坩堝又は金属製器具を用いて行う請求項3又は4記載の光学ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記金属製坩堝又は金属製器具は、白金製、白金合金製、金製、又は金合金製のいずれかである請求項5記載の光学ガラスの製造方法。
【請求項7】
前記光学ガラスが質量%で、
Bi:10%以上90%以下
+SiO:0%を超え50%以下
RO+RnO:0%を超え50%以下
(ただし、RはZn,Ba,Sr,Ca,Mgより選択される1種以上を示し、RnはLi,Na,K,Csより選択される1種以上を示す。)
となるように、前記原料熔解工程において前記原料混合物を配合する請求項1から6いずれか記載の光学ガラスの製造方法。
【請求項8】
前記原料熔解工程において、溶融炉内の残存酸素濃度を1%以上にする請求項1から7いずれか記載の光学ガラスの製造方法。
【請求項9】
前記原料熔解工程において、ガラスを酸化させる酸化ガスを吹き込みながら前記原料混合物を熔解する請求項1から8いずれか記載の光学ガラスの製造方法。
【請求項10】
前記酸化ガスが酸素である請求項9記載の光学ガラスの製造方法。
【請求項11】
前記原料混合物に酸化剤を1%以上含有させる請求項1から10いずれか記載の光学ガラスの製造方法。
【請求項12】
前記酸化剤は、Sb、硝酸塩より選択される1種以上である請求項11記載の光学ガラスの製造方法。
【請求項13】
請求項1から12いずれか記載の製造方法により作成される光学ガラスであって、
当該光学ガラスの透過率が70%となる波長であるλ70が、550nm以下である光学ガラス。
【請求項14】
前記λ70が520nm以下である請求項13記載の光学ガラス。

【公開番号】特開2007−70156(P2007−70156A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−258532(P2005−258532)
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】