説明

光学データ担体の傾きを補償する方法及び装置

本発明は、光ディスク又は光磁気ディスク(1)であって、前記光ディスク又は光磁気ディスクからのデータの読取り、及び/又は前記光ディスク又は光磁気ディスクへのデータの書込みのための機器内に配置される場合に未知の傾きを呈する光ディスク又は光磁気ディスク(1)の傾きを補償する方法及び装置に関する。各々が少なくとも特定のコマ量を補償することが出来る位相プロファイルを規定している複数のホログラムを含むホログラフィック光学素子(23)が、前記機器の光学読取り/書込みユニット(4)の光路中に配置される。前記ディスクの傾きの量又は前記傾きによってもたらされるコマの量が検出され(14、21)、検出された量の傾き又はコマを補償するために、前記ホログラフィック光学素子の前記複数のホログラムの中から、検出された量の傾き又はコマに対応する位相プロファイルを規定しているホログラムが選択され、アクセスされる。本発明は、所謂、LD、CD、R-CD、DVD、DVD+R、DVD+RW、DVD-RW、DVR (ブルーレイ)などのあらゆるタイプの光学データ担体に適用される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学データ担体の傾きを補償する方法、及び前記方法を実行する装置に関する。
【0002】
本発明は、光ディスクシステム又は光磁気ディスクシステムの分野に適用可能であり、所謂、LD(レーザディスク)、CD(コンパクトディスク(登録商標))、R-CD(記録可能なCD)、DVD(デジタルビデオディスク又はデジタル多用途ディスク)、及びDVD+R、DVD+RW、DVD-RW、DVR(ブルーレイ)といった書込み(書換え)可能な((re)inscribable)光ディスクなどのあらゆるタイプの光学データ担体に適用される。
【背景技術】
【0003】
ディスクドライブシステムは、ディスク状の記憶媒体に情報を記憶するためのもの、又はこのようなディスク状の記憶媒体から情報を読み取るためのものである。このようなシステムにおいては、ディスクは回転され、書込み/読取りヘッドは、回転しているディスクに対して半径方向に動かされる。
【0004】
光記憶ディスクは、情報が記憶され得る記憶空間の、連続的な螺旋の形態又は多数の同心円の形態のいずれかの少なくとも1つのトラックを有する。光ディスクは、製造中に情報が記録され、ユーザにはそのデータの読取りしかされ得ない読取り専用タイプであってもよい。光記憶ディスクはまた、ユーザによって情報が記憶され得る書込み可能なタイプであってもよい。
【0005】
光記憶ディスクの記憶空間に情報を書き込むために、又はディスクから情報を読み取るために、光ディスクドライブは、一方では、光ディスクを受け取り、回転させる回転手段を有し、他方では、光ビーム、一般的にはレーザビームを生成し、前記レーザビームで記憶トラックを走査する光学手段を有する。光ディスクの技術、一般に、光ディスクに情報が記憶され得る方法、及び光ディスクから光学データが読み取られ得る方法は、よく知られていることから、本願明細書でこの技術をより詳細に記載する必要はない。
【0006】
光ディスクを回転させるために、光ディスクドライブは、一般的には、光ディスクの中央部に係合するハブを駆動するモータを有する。通常、モータは、スピンドルモータとして実現され、モータ駆動ハブは、モータのスピンドル軸上に直に配設され得る。
【0007】
回転しているディスクを光学的に走査するために、光ディスクドライブは、光ビーム生成装置(一般的にはレーザダイオード)と、光ビームの焦点をディスク上の焦点スポット(focal spot)に合わせる対物レンズと、ディスクから反射された反射光を受け取り、電気的な検出器出力信号を生成する光検出器とを有する。
【0008】
動作中、光ビームは、ディスクに焦点を合わせられたままであるべきである。この目的のため、対物レンズは、軸方向に移動可能なように配設され、光ディスクドライブは、対物レンズの軸方向位置を制御するための焦点駆動手段(focal actuator means)を有する。更に、焦点スポットは、トラックと位置合わせされたままであるべきである、又は新たなトラックに対して適切な場所に配置されることが可能であるべきである。この目的のため、少なくとも対物レンズは、半径方向に移動可能なように取り付けられ、光ディスクドライブは、対物レンズの半径方向位置を制御するための半径方向駆動手段を有する。
【0009】
より詳細には、光ディスクドライブは、ディスクドライブのフレームに対して移動可能に案内されるそり(sledge)を有する。前記フレームは、ディスクを回転させるスピンドルモータも担持する。そりの移動コースは、実質的に、ディスクに対して半径方向に配設され、そりは、実質的に内側トラック半径から外側トラック半径までの範囲に対応する範囲にわたって移動させられ得る。前記半径方向駆動手段は、例えば、リニアモータ、ステッパモータ又はウォームギアモータを有する制御可能なそり駆動装置を有する。
【0010】
そりの移動は、光学レンズのおおよその位置決めのためのものである。光学レンズの位置の微調整のために、光ディスクドライブは、前記そりに対して移動可能に取り付けられ、対物レンズを担持するレンズプラットフォーム(lens platform)を有する。プラットフォームのそりに対する移動範囲は相対的に小さいが、プラットフォームのそりに対する位置決め精度は、そりのフレームに対する位置決め精度より高い。
【0011】
多くのディスクドライブにおいては、対物レンズの向きは、固定される、即ち、該対物レンズの光軸は、ディスクの回転軸に対して平行に向けられる。幾つかのディスクドライブにおいては、対物レンズは、該対物レンズの光軸がディスクの回転軸と角度をなすことが出来るように回動可能に取り付けられる。通常、これは、プラットフォームをそりに対して回動可能にすることによって実施され得る。
【0012】
記録媒体の記憶容量を増大させることは、一般的な要求である。この要求を満たす1つの方法は、記憶密度を高めるものである。この目的のため、対物レンズが相対的に高い開口数(NA)を持つ光走査システムが開発されている。このような光学システムに伴う1つの問題は、光ディスクの傾きに対する感度の増大である。光ディスクの傾きは、焦点スポットの位置において、光ディスクの記憶層が光軸に対して厳密には垂直ではない状況と規定され得る。傾きは、光ディスクが全体として傾いていることに起因し得るが、通常、光ディスクが、反っており、例えば、平坦化された円蓋又は傘の形をしていることに起因し、結果として、傾き量は、ディスクにおける焦点スポットの位置に依存する。
【0013】
図1A及び1Bに示されているように、傾きは、半径方向成分と接線方向成分(tangential component)とを持ち得る。半径方向成分(半径方向傾き、図1A)は、読み取られるべきトラックに対して横方向に(即ち、半径方向Rに沿って)、且つデータ担体に対して横方向に置かれる面における偏差の成分βであり、接線方向成分(接線方向傾き、図1B)は、読み取られるべきトラックに対して平行に(即ち、接線方向Tに沿って)、且つデータ担体に対して横方向に置かれる面における偏差の成分αと規定される。
【0014】
図2A乃至2Cは、光ディスクに傾きがない場合、光ディスクに半径方向傾きがある場合、及び光ディスクに接線方向傾きがある場合のレーザビームを図示している。ディスクが傾いていない場合、光ビーム206は、図2Aに示されているようにトラック201に焦点を合わせられたままである。ディスクにコマ収差をもたらす半径方向傾き又は接線方向傾きがある場合、光ビームは、もはやトラック202及び203に焦点を合わせられず、半径方向傾きの場合には尾部(tail)204を持ち(図2B)、又は接線方向傾きの場合には尾部205を持つ(図2C)。
【0015】
結果として、短波長レーザダイオード及び高開口数対物レンズを使用する光ディスクシステムの場合は、ディスクの傾きを検出し、補正する必要がある。なぜなら、結果として生じるコマ収差は、読取り性能及び書込み性能を低下させ、傾きマージン(tilt margin)がより狭くなるからである。
【0016】
光ディスクの半径方向傾きと接線方向傾きとの両方とも、各々傾きセンサにより配信される半径方向傾き信号及び接線方向傾き信号に基づく半径方向傾き補償及び接線方向傾き補償のために三次元アクチュエータ又は2つの駆動ユニットを用いる方法などによる既知の光学的/機械的な解決策によって補償され得る。このような既知の方法は、米国特許公報第US-A-4,608,680号に開示されている。しかしながら、この既知の方法では、この三次元アクチュエータ又はこれら2つの駆動ユニットの電子サーボ制御の調整が困難である。更に、この既知の方法は、特定の機械素子及び光学素子が必要とされることから、制約をもたらす。従って、対応する装置は、重要な大きさのものであり、損傷し易く、高価である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、光ディスク又は光磁気ディスクの傾きを補償する改善された方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
これは、請求項1に規定されているような方法を提供することによって、請求項4に規定されているような装置で、請求項10に規定されているようなホログラフィック光学素子を用いて達成される。
【0019】
ディスク状の光学データ担体からのデータの読取り、及び/又はディスク状の光学データ担体へのデータの書込みのための機器において、コマ収差及び/又は球面収差を補償するのに1つ又は複数のホログラフィック光学素子を使用することは、例えば、米国特許公報第US-6,084,843号、米国特許公報第US-6,130,872号及び米国特許公報第US-6,185,176号から既に知られている。しかしながら、これらの既知の機器においては、前記1つ又は複数のホログラフィック光学素子が、本発明が解決することを目的としている技術的問題とは異なる技術的問題を解決するために設計され、用いられている。
【0020】
より正確には、既知の機器において用いられている前記1つ又は複数のホログラフィック光学素子は、本発明の前記ホログラフィック光学素子が行なうように、光学データ読取り/書込み機器内に配置される光ディスクの未知の予測不可能な傾きのために生じるコマ収差を補償するよう設計される代わりに、前記機器において用いられる1つ又は複数の光源の軸外配置(off-axis position)のために生じる一定の、所定量のコマを除去し、DVDディスクのために最適化された対物レンズでCDを読み取る場合に生じる一定量の球面収差も除去し(米国特許公報第US-6,084,843号)、トラッキングサーボ制御の目的のために一定量の非点収差も生成する(米国特許公報第US-6,130,872号及び米国特許公報第US-6,185,176号)ために設計されている。
【0021】
ホログラフィック光学素子であって、前記ホログラフィック光学素子内に記録された多様なホログラムを持つホログラフィック光学素子を用いることも既知である(米国特許公報第US-5,487,060号)。各ホログラムは、選択的にアクセス可能であり、アクセス時に、光学データ記憶ディスクであって、前記光学データ記憶ディスク内に、光透過素子によって分離された複数のデータ面を基板上に持つ光学データ記憶ディスクに入射する光ビームに所定の特定量の球面収差を付与することが出来る。記録されるホログラムの数は、必要とされる異なる球面収差補正の数に対応する。前記必要とされる異なる球面収差補正の数自体は、前記ディスクの厚みの内部の異なる深さにあるデータ面の数に依存する。例えば、前記光ディスクが4組のデータ面を持つ場合、4つのホログラムが必要とされる。それ故、前記ディスクの前記データ面の中から選択された対応する特定のデータ面に前記光ビームの焦点が合わせられる場合に、異なる屈折率を持つ様々な材料又は媒体を通過する前記光ビームによって経験される球面収差を除去することが可能である。先と同様に、これは、本発明によって解決されるものとは異なる技術的問題に対する解決策である。
【0022】
本発明の他の有利な発展例は、従属項2、3、5及び6において見出され得る。
【0023】
本発明はまた、請求項7乃至9に規定されているような光ディスク又は光磁気ディスクからのデータの読取り、及び/又は光ディスク又は光磁気ディスクへのデータの書込みのための機器も提供する。
【0024】
本発明はまた、請求項10に規定されているようなホログラフィック光学素子も提供する。
【0025】
下記の実施例を参照して本発明のこれら及び他の側面を説明し、明らかにする。
【0026】
ここで、一例として添付図面を参照して、本発明をより詳細に記載する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図3は、機器であって、データ担体1が、前記機器内に配置され、図示されていない支持体によって従来のようにして支持される機器を示している。このデータ担体1は、所謂、LD、CD、R-CD、DVD、DVD+R、DVD+RW、DVD-RW、DVRなどといった光ディスクであり得る。ディスク1は、図3において断面図で示されており、モータ2によって軸3を中心にして回転され得る。軸3は、通常互いに対して平行であるディスク1の上面1a及び下面1bに対して通常垂直に延在する。
【0028】
前記機器又は光ディスクプレーヤは、光ディスクの読取り専用に設計され得る、又は機器内に配置された光ディスクの書込みと読取りとの両方、及びことによると書換えのために設計され得る光学ユニット又はヘッド4を有する。図3に示されている例においては、光学ユニット4は、DVD+RWタイプの光ディスク用に設計されている。図示されているように、ユニット4は、基本的に、偏光ビームスプリッタ(PBS)7を介してディスク1の方に向けられるレーザ光ビーム6を生成するレーザダイオードなどのレーザ光源5と、コリメータレンズ8と、4分の1波長板9と、対物レンズ11とを有する。対物レンズ11は、入射光ビーム6の焦点をディスク1の内部のデータ面に合わせる。ディスク1は、該ディスク1内に形成される1つ以上のデータ面を持っていてもよく、1つ又は複数のデータ面は、ディスク1の上面1a及び下面1bに対して平行である。少なくとも光学ユニット4とディスク1との間の光路の光軸12は、通常、ディスク1に対して垂直、且つディスク1の回転軸3に対して平行であり、即ち、図3においてZによって示されている方向に対して平行である。
【0029】
ディスク1のデータ面によって反射された光6’は、対物レンズ11と、4分の1波長板9と、コリメータレンズ8とを通って、偏光ビームスプリッタ7に戻る。前記偏光ビームスプリッタ7は、光ビーム6’を反射し、2回反射された光ビーム6’’を光ビーム6’に対して直角に送り出す。2回反射された光ビーム6’’は、ビーム6’’の焦点を光検出器14の感光面に合わせるレンズ13を通される。
【0030】
光学ユニット4は、以下に説明されているような多数のアクチュエータによってそり15において移動可能に支持される。そり15は、矢印16によって示されている方向であって、図3においてXによって示されているディスク1の半径方向に対して平行である方向に沿った機器内での移動のための図示されていない適当なガイド上に取り付けられる。そり15の粗い半径方向の位置決めは、そりモータ17によって行なわれることができ、従って、ディスク1に対する光学ユニット4の粗い半径方向の位置決めも、そりモータ17によって行なわれることが出来る。
【0031】
上記のように、そり15は、多数のアクチュエータ、即ち、ディスク1に対する光学ユニット4の細かい半径方向の位置決め(トラッキング制御)のための第1アクチュエータ18と、焦点設定のために図3においてZによっても示されている軸3に対して平行な方向に光学ユニット4を動かすための第2アクチュエータ19とを担持する。光ビデオディスクプレーヤの場合には、時間軸補正サーボ制御(time base correction servocontrol)のために、方向X及びZに対して垂直な方向Yに、即ち、光ディスク1のトラックに対する接線方向に光学ユニット4を動かすための別のアクチュエータ(図示せず)も設けられる。
【0032】
光検出器14からの出力信号は、機器内に含まれる電子回路21に供給される。電子回路21は、光検出器14からの出力信号を処理し、前記出力信号から、適当なスピーカを介して音に変換されるべき、且つ/又は適当なモニタ22の画面上に画像として表示されるべきオーディオ、ビデオ及び/又は情報信号を得るための信号処理回路を有する。処理回路は、上記の様々なモータ及びアクチュエータ17乃至19を制御するための適当な制御信号も供給する。
【0033】
上記のように、光学ユニット4の対物レンズ11は、レーザ光ビームのディスク1における方向Zに沿った垂直入射のために設計されている。しかしながら、ディスクが、全体として又は局所的に、光軸12に対して傾いている場合には、それは、ディスクへのデータの適切な書込み、及び/又はディスクからのデータの適切な読取りのためには補償されなければならないコマをもたらす。
【0034】
このため、本発明は、光学ユニット4の光路内に、例えば、コリメータレンズ8と4分の1波長板9との間に(以下ではHOEと呼ばれる)ホログラフィック光学素子23を設ける。HOE23は、対応する複数の位相プロファイル(phase profile)を規定している複数のホログラムを含み、各位相プロファイルは、機器内に配置されるディスクによって呈されそうな傾き量に対応する特定量のコマを補償することが出来る。HOE23は、例えば、約1000個以上のホログラムを含むかもしれない。
【0035】
「位相プロファイル」は、図4及び5を参照して以下のように規定され得る。図4は、一連の波面(一定位相面)を示している。黒い実線で示されている波面は、点Cに向って進んでいる球面波SWに対応する。これは、(それが点Cに焦点を合わせられた入射ビームと等しいという意味において理想的な)「理想的な」状況を表わしている。点線で示されている波面AW(異常波(Aberrated Wave))は、理想的な場合からの偏差を表わしている。この偏差は、「波面誤差」と呼ばれる。波面は一定位相面であるから、それは、実線(又は点線)の波面に対応する位相を修正することによって、実線の波面から点線の波面が得られる(又は逆の場合も同じ)ことを意味する。
【0036】
波面誤差を表わすのによく知られているZernickeの多項式を用いることを選ぶ場合には、最低次コマ収差(the lowest-order coma aberration)が偏差の原因である状況に対して、波面誤差は、
Z(ρ, φ)=A31(3ρ2-2ρ)cosφ、又は
Z(ρ, φ)=A31(3ρ2-2ρ)sinφ
と書かれる得ることが分かる。ここで、ρ及びφは、図5に示されているような波面の任意の点Mの極座標であり、A31は、誤差の振幅である。上記の多項式は、半径座標ρの関数として、理想的な場合からの位相偏差(位相プロファイル)を与える。例えば、ρ=1であるレンズの縁においては、波面誤差は、
Z(ρ=1, φ)=A31cosφ、又はZ(ρ=1, φ)=A31sinφ
である。
【0037】
従って、各々が特定量のコマに対応する、対応する複数の位相プロファイルを規定している複数の選択的にアクセス可能なホログラムを光路内に配置し、複数のホログラムの中から適切なホログラムを選択する(にアクセスする)ことによって、ディスク1により呈される傾き量によってもたらされるコマを補償又は除去するであろう量のコマを光ビームにもたらすことが可能である。
【0038】
本発明の或る実施例においては、機器内に現在配置されているディスク1によって呈されている傾き(半径方向傾き、接線方向傾き又は両方)の量が動的に検出される。これは、例えば、光検出器14を傾きセンサとしても用いることによって行なわれ得る。この場合には、光検出器14は、個々の出力信号を生成する4つのセグメント又は象限(quadrant)に分けられてもよく、これらの個々の出力信号は、電子回路21内に含まれる処理回路によって、米国特許公報第4,608,680号の明細書に記載されている傾き評価方法とかなり類似したやり方で該出力信号から半径方向傾き信号及び接線方向傾き信号を得るために処理され得る。より詳細には米国特許公報第4,608,680号の明細書を参照し得る。
【0039】
その場合、ディスク1によって呈されている傾きの量をこのように検出及び評価しているので、検出された量の傾きに対応する位相プロファイルを規定しているホログラムが、HOE23内に含まれているホログラムの中から選択され、検出された量の傾きを除去するのに用いられる。
【0040】
HOE23内に含まれているホログラムは、HOE23に記録されているので、前記ホログラムは、HOE23と光ビーム6の偏光方向との間の相対的な空間的関係を変更することによって選択的にアクセスされ得る。
【0041】
偏光ビームスプリッタ7から4分の1波長板9に向かう光ビーム6は、光軸12に対して垂直な一方向に直線偏光されるので、HOE23に記録されているホログラムの中の所望のホログラムにアクセスする1つの方法は、所望のホログラムにアクセスされるまで光軸12を中心にしてHOE23を回転させる適当な駆動手段24(図3)を機器に設けるものである。例えば、HOE23は、図6に示されているようにモータ27によって駆動され得る適当な小歯車又はウォーム26によって駆動係合される適当な歯(toothing)25を周辺端部に持つリング内に取り付けられる、透過ホログラフィック被覆(transmissive holographic coating)を持つ円形の平板又は基板として実現されてもよい。
【0042】
他の例においては、所望のホログラムを選択する別の方法は、固定されたHOE23を持つ一方で、光ビーム6の偏光方向を回転させるものである。この場合には 、例えばコリメータレンズ8とHOE23との間に配置される円形の光透過2分の1波長板(図示せず)と、光軸12を中心にして円形の2分の1波長板を回転させ、それによって光軸12を中心にしてビームの偏光方向を回転させるための、図6の歯25、小歯車又はウォーム26、及びモータ27と同様の駆動手段とが機器に設けられ得る。
【0043】
どの素子、即ち、HOE23又は上記の円形の2分の1波長板が回転されようとも、以下のように、検出された傾き量を補償するための所望のホログラムにアクセスされ得る。例えば、セグメントに分けられた光検出器14の出力信号から得られる上記の傾き信号は、電子回路21内に含まれるマイクロプロセッサによって生成され得る。マイクロプロセッサ又は電子回路21はまた、ディスク傾き量がHOE23のホログラムと相関させられるルックアップテーブル又はマップを記憶するメモリも有し得る。前記相関は、例えば、ルックアップテーブル内のあらゆるディスク傾き量に、そのディスク傾き量によって生成されるコマを補償するのに適切なホログラムにアクセスすることを可能にするHOE23(又は2分の1波長板)の角度位置値が対応するようなものであり得る。従って、マイクロプロセッサは、ルックアップテーブルにおいて、検出されたディスク傾き量に基づいて、対応する角度位置値を見つけ出し、次いで、モータ27によるHOE23(又は2分の1波長板)の回転を、それがルックアップテーブルにおいて見つけ出された所望の角度位置に到達するまで制御することが出来る。正しい角度位置に到達したことをマイクロプロセッサがチェックすることを可能にするために、角度位置センサが、HOE23(又は2分の1波長板)に結合され、マイクロプロセッサに接続されてもよい。
【0044】
本発明の別の実施例においては、ホログラムは、HOE23(又は2分の1波長板)が段階的に第1方向に回転される場合には、前記HOEによって光ビームにもたらされるコマ補償量が増大されるが、HOE23(又は2分の1波長板)が逆方向に回転される場合には、前記コマ補償量が低減されるのようにして、HOE23に記録され得る。この場合には、検出される傾き量が、誤差信号として用いられてもよく、電子回路21又は該電子回路21内に含まれるマイクロプロセッサは、検出される傾き量を最小化するような方向に段階的にHOE23(又は2分の1波長板)の回転を制御し得る。
【0045】
本発明の更に別の実施例においては、ディスク1の傾き量を検出する代わりに、ディスクの傾きによって光ビームにもたらされるコマの量、又はコマに関する任意の他の物理量を検出し、評価してもよい。例えば、コマが、(クロストーク及び符号間干渉による)ジッタの量を増大させることは既知である。それ故、ジッタの量を測定し、測定されたジッタの量を、ジッタを最小化するであろう方向に、ジッタを最小化するであろう角度値によってHOE23(又は2分の1波長板)の回転を制御するための誤差信号として用いてもよい。しかしながら、このような方法は、データを含むディスクに対してしか機能しない。
【0046】
上記の実施例のいずれか1つと組み合わせて実施され得る本発明の更に別の実施例においては、本発明の機器が、複数のデータ面を持つ光ディスクの読取り/書込みをすることが出来る場合、HOE23に記録されるホログラムは、コマ収差と球面収差との両方を補償するよう設計され得る。この目的のため、HOE23に記録されるホログラム又は該ホログラムの少なくとも幾つかの各々は、
Z(ρ, φ)=A40(6ρ4-6ρ2+1)
と書かれ得る低次球面収差に対応するZernickeの多項式と、最低次コマ収差に対応する上記のZernickeの多項式との合計又は「重ね合わせ(superposition)」によって与えられる位相プロファイルを規定し得る。ここで、ρ及びφは、図5に関して上記で与えられている定義と同じ定義を持ち、A40は、球面収差のための波面誤差の振幅である。この場合には、HOE23に記録されているホログラムの中からの適切なホログラムの選択は、検出された傾きの量と、光ディスク内の選択されたデータ面に対応する既知の所定の球面収差とに基づいて行なわれ得る。ここで、先と同様に、このような選択は、例えば、ルックアップテーブルを用いることによって行なわれ得る。
【0047】
本発明は、当業者には思い付き得る、特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲から外れない様々な変更、修正及び改善を伴って実施され得ることを理解されたい。
【0048】
例えば、HOEに記録されているホログラムの中の所望のホログラムにアクセスするためのHOE23と光ビーム6の偏光方向との間の相対的な空間的関係の変更は、光軸12(又はZ軸)を中心にしてHOE23を回転させる代わりに、X軸又はY軸に対して平行な軸を中心にしてHOE23を回転させることによって行なわれ得る。
【0049】
また、透過ホログラフィック被覆を持つ平板又は基板で作成されたHOEを使用する代わりに、反射ホログラフィック被覆を持つ基板で作成されたHOEを使用し得る。
【0050】
更に、無偏光ビームスプリッタも使用し得るので、本発明を実施するのに偏光ビームスプリッタを使用することが絶対必要というわけではない。しかしながら、偏光ビームスプリッタは、より良好な光路効率を持つので好ましい。
【0051】
「有する」又は「含む」という動詞及びその語形変化の使用は、請求項に記載されている素子又はステップ以外の素子又はステップの存在を除外しない。更に、素子又はステップの単数形表記は、このような素子又はステップの複数の存在を除外しない。本発明は、ハードウェアによっても、ソフトウェアによっても実施され得る。必ずしも、請求項に記載されているどの「手段」もみな、機器内のハードウェアの別個の素子に対応するとは限らないであろう。同一品目のハードウェアが幾つかの「手段」を含んでいてもよい。特許請求の範囲における括弧内の如何なる参照符号も特許請求の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1A】光学データ担体における半径方向傾きを図示する。
【図1B】光学データ担体における接線方向傾きを図示する。
【図2A】光学データ担体におけるコマ収差のない光学スポットを図示する。
【図2B】光学データ担体における半径方向コマ収差を持つ光学スポットを図示する。
【図2C】光学データ担体における接線方向コマ収差を持つ光学スポットを図示する。
【図3】本発明による機器ブロック図であって、前記機器内の光路の概略的なレイアウトを備えるブロック図である。
【図4】一連の波面であって、前記波面のうちの1つが収差のための歪みを呈している一連の波面を示す。
【図5】コマ収差を計算するために考慮に入れられるパラメータを規定するのに有用な円形光学素子の概略的な斜視図である。
【図6】本発明の方法を実行するのに用いられ得るホログラフィック光学素子の概略的な斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ディスク又は光磁気ディスクであって、前記光ディスク又は光磁気ディスクからのデータの読取り、及び/又は前記光ディスク又は光磁気ディスクへのデータの書込みのための機器内に配置される場合に未知の傾きを呈する光ディスク又は光磁気ディスクの傾きを補償する方法であって、
a) 前記ディスクの前記傾きと、前記傾きに起因するコマ収差と、前記コマ収差に関する物理量とを有する集合のうちの1つの要素の量を検出するステップと、
b) 各々が少なくとも特定のコマ量を補償することが出来る位相プロファイルを規定している複数のホログラムを含むホログラフィック光学素子を、前記機器の光学読取り/書込みユニットの光路中に設けるステップと、
c) ステップa)において検出された傾き又はコマの量に対応する位相プロファイルを規定しているホログラムを前記複数のホログラムの中から選択するステップと、
d) 検出された量の傾き又はコマを補償するために、選択された前記ホログラムを使用するステップとを有する方法。
【請求項2】
前記選択するステップが、前記ホログラフィック光学素子と、前記光学読取り/書込みユニットにおける前記ホログラフィック光学素子に当たる光ビームの偏光方向との間の相対的な空間的関係を変更することによって行なわれる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ホログラフィック光学素子を回転させることによって前記相対的な空間的関係が変更される請求項2に記載の方法。
【請求項4】
光ディスク又は光磁気ディスクであって、前記光ディスク又は光磁気ディスクからのデータの読取り、及び/又は前記光ディスク又は光磁気ディスクへのデータの書込みのための機器内に配置される場合に未知の傾きを呈する光ディスク又は光磁気ディスクの傾きを補償する装置であって、
a) 前記ディスクの前記傾きと、前記傾きに起因するコマ収差と、前記コマ収差に関する物理量とを有する集合のうちの1つの要素の量を検出する手段と、
b) 前記機器の光学読取り/書込みユニットの光路中に配置されるホログラフィック光学素子であって、各々が少なくとも特定のコマ量を補償することが出来る位相プロファイルを規定している複数のホログラムを含むホログラフィック光学素子と、
c) 前記検出手段によって検出された、補償されるべきである傾き又はコマの量に対応する位相プロファイルを規定しているホログラムを前記複数のホログラムの中から選択する手段とを有する装置。
【請求項5】
前記選択手段が、前記ホログラフィック光学素子と、前記ホログラフィック光学素子に当たる光ビームの偏光方向との間の相対的な空間的関係を変更する手段を有する請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記変更手段が、前記ホログラフィック光学素子を回転させる手段を有する請求項5に記載の装置。
【請求項7】
光ディスク又は光磁気ディスクからのデータの読取り、及び/又は光ディスク又は光磁気ディスクへのデータの書込みのための機器であり、
a) 前記機器内に配置された光ディスク又は光磁気ディスクからのデータの読取り、及び/又は光ディスク又は光磁気ディスクへのデータの書込みをすることが出来る光学ユニットと、
b) 前記ディスクの傾きを補償する手段とを有する機器であって、前記補償手段が、
b1) 前記ディスクの前記傾きと、前記傾きに起因するコマ収差と、前記コマ収差に関する物理量とを有する集合のうちの1つの要素の量を検出する手段と、
b2) 前記機器の前記光学読取り/書込みユニットの光路中に配置されるホログラフィック光学素子であって、各々が少なくとも特定のコマ量を補償することが出来る位相プロファイルを規定している複数のホログラムを含むホログラフィック光学素子と、
b3) 前記検出手段によって検出された、補償されるべきである傾き又はコマの量に対応する位相プロファイルを規定しているホログラムを前記複数のホログラムの中から選択する手段とを有する機器。
【請求項8】
前記選択手段が、前記ホログラフィック光学素子と、前記ホログラフィック光学素子に当たる光ビームの偏光方向との間の相対的な空間的関係を変更する手段を有する請求項7に記載の機器。
【請求項9】
前記変更手段が、前記ホログラフィック光学素子を回転させる手段を有する請求項8に記載の機器。
【請求項10】
機器であって、前記機器内に配置される少なくとも1つの光ディスク又は光磁気ディスクからのデータの読取り、及び/又は少なくとも1つの光ディスク又は光磁気ディスクへのデータの書込みのための機器用のホログラフィック光学素子であって、前記ディスクが、前記機器内に配置される場合に未知の傾きを呈し、前記ホログラフィック光学素子が、対応する複数の位相プロファイルを規定している複数のホログラムを含む基板を有し、各位相プロファイルが、前記機器内に配置されるディスクによって呈されそうな傾き量に対応する特定量のコマを補償することが出来るホログラフィック光学素子。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−508644(P2007−508644A)
【公表日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530745(P2006−530745)
【出願日】平成16年10月1日(2004.10.1)
【国際出願番号】PCT/IB2004/003240
【国際公開番号】WO2005/036540
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】