説明

光学フィルタを用いた撮像装置及び光学フィルタの取付方法

【課題】光学フィルタに長さを伴った傷があっても、それによって発生するフレアやゴーストを、特別の装置や回路を用いることなく、目立たないようにする。
【解決手段】 NDフィルタの基材表面の微小な凹凸部から成る傷の長手方向を、スミアSの発生方向と直交方向に合わせて配置すると、上下に発生するスミアSに対し、フレアFがスミアSに重なる画質を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビデオカメラ或いはスチルビデオカメラ等の撮像光学系に使用するに適した光学フィルタを用いた撮像装置及び光学フィルタの取付方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子カメラ、スキャナ、ビデオカメラ等の撮像装置では、電荷結合素子(CCD:Charge Coupled Device)に代表される撮像素子により、被写体の光学像を画像信号化して画像形成が行われる。これらの撮像装置では、被写体の中に非常に高い輝度を有する領域が存在するものを撮影すると、スミアと呼ばれるノイズの影響が撮影画像中に発生することがある。スミアは画像再現性や画質に大きな影響を与えるため、高品位な画像形成を実現するために補正等の操作を行って、その影響を減らす試みがなされてきた。
【0003】
スミアは太陽光やストロボ光、或いは照明光などの光源から出射する強い光や、鏡に強く反射した光が、撮像装置に入射する状態で撮影が行われたときに、電荷結合素子の受光領域に非常に強い光が入射することにより発生する。即ち、固体撮像素子面上に強い光が入射すると、受光領域で許容量を超える量の電荷が発生し、受光領域で収容し切れなかった余剰電荷が垂直転送ラインに入り込む。その結果、電荷結合素子の画素信号の転送方向に撮影画像上に筋状或いはゴースト状の画像不良が発生する。このようなスミアを防止する方法として、特許文献1においては、画像処理を行ってスミアを除去する技術が開示されている。
【0004】
一方、撮像レンズやフィルタ、レンズ鏡筒などの反射光に起因して発生するゴーストやフレアは、近年の撮像機器の高画質化に伴い大きな問題になってきている。これらのゴーストやフレアは、スミアに比べて高輝度領域で不規則な角度で発生するため制御が難しい。このようなゴーストやフレアを低減させるために、レンズの反射防止コーティングの改良や、レンズ鏡筒の内面の反射防止塗装などが施されている。
【0005】
他方で、撮像素子の感度が向上するに従い、絞り羽根と共働して作用するNDフィルタの重要性も増加している。撮像素子への光の透過率を低下し、被写体が高輝度でも絞りの開口を大きくする工夫がなされ、高輝度時絞りが非常に小さくなり、所謂ピンホールとなって光の回折で解像度が悪化することを防止している。
【0006】
しかし、NDフィルタに微小な傷などがある場合に、光線を反射させ、撮影画像内にゴーストやフレアを発生させ易い。このようなゴーストやフレアを防止するために、特許文献2においては、傷を減らしたフィルタの樹脂基材フィルムについての技術が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2003−174642号公報
【特許文献2】特開2002−254565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし特許文献2などにより、フィルタの傷に起因するゴーストやフレアを、フィルタの製造工程の改善で減らすことは可能であるが、皆無とすることは至難である。
【0009】
光学フィルタの基材フィルムとして、一般的に知られているPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムは延伸フィルムであり、チップ溶融に始まり、キャスティング縦延伸、横延伸、熱固定、巻き取り、スリットの工程を経て生産されている。この工程のうち、延伸する際にローラと擦り合ったり異物が付着していると、基材フィルムの表面にローラ走行方向(MD)と直交方向(TD)に傷が発生する場合がある。傷は基本的にロールの走行方向に発生するが、ロール中央部と端部など位置によっては走行方向を0°とした場合に±45°以内で角度のばらつきで発生することもある。これらの傷は1本が長さ数μmと微小であり、数本レベルではなく数10本レベルで部分的に密集して存在する傾向がある。
【0010】
1本の光線は屈折後も1本の光線であるのに対し、回折においては1本の光線が回折されると、複数の次数の回折光に光が分かれてしまう。例えば、光学系に回折光学素子を用いる場合には、使用波長領域の光束が設計次数に集中するように、格子構造を決定する必要がある。特定の次数に光が集中している場合では、それ以外の次数の回折光の強度は低いものとなり、強度が0の場合にはその回折光は存在しないものとなる。設計次数以外の回折次数を持つ光線は、設計次数の光線とは別な個所に結像するためフレアとなる。
【0011】
格子の段差部、つまり格子の山(谷)から、それと隣り合う格子の谷(山)までの部分を形成する傷Dにより、主に製造上の理由から、その傷Dが2次的な光源となって光が散乱し、格子の輪帯数と格子の深さに比例して増加する画面全体に被るフレアを発生する。
【0012】
これに対しスミアは、二次元的に配置された光電変換素子である電荷結合素子の受光面上に強い光が入射すると、受光領域で許容量を超える量の電荷が発生し、受光領域で収容し切れなかった余剰電荷が垂直転送ラインに入り込む。その結果、電荷結合素子の画素信号の転送方向に光の筋としてスミアが発生する。一般的な素子の配置においては、スミアは画像の上下方向に直線状の高輝度領域が線のように形成されることが知られている。
【0013】
樹脂基材の傷が1方向に存在したとすると、画面においては、フレアが発生する方向は傷の方向に対し略直交する方向、即ち縦方向に発生する。これは光線の屈折又は回折現象として説明ができる。
【0014】
例えば図8(a)に示すように、樹脂基材Pの表面の45°回転した角度方向に傷Dがあるフィルムから成る樹脂基材Pに、NDフィルタ膜を成膜して、このNDフィルタを光学絞り装置の絞り羽根に貼り付ける。
【0015】
この光学絞り装置を用いたカメラの本体レンズに向けて強い光を斜め上から照射し、そのときに画像に不必要な光が映り込む角度で判定する。結果として、(b)に示すように上下に発生するスミアSに対しフレアFは45°回転した方向に発生し、フレアF又はゴーストとして認識される画像となる。
【0016】
同様にして、樹脂基材Pの傷Dの角度を変えてゆくと、スミアSに対して異なる角度にフレアF又はゴーストが発生し、画像欠陥となる。
【0017】
本発明の目的は、或る長さを伴った傷が存在しても、それによって発生するフレアやゴーストを、特別の装置や回路を用いることなく、目立たないようにする光学フィルタを用いた撮像装置及び光学フィルタの取付方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するための本発明に係る光学フィルタを用いた撮像装置は、被写体像を形成する撮像光学系と、前記被写体像を撮像するために二次元的に配置された光電変換素子と、前記撮像光学系を通り前記光電変換素子に入射する光量を調節する光学フィルタとから成り、前記光学フィルタはその基材の表面に長さを持って存在する微小な凹凸部の長手方向が、前記光電変換素子の画像信号の転送によるスミアの発生方向と略直交するように取り付けたことを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る光学フィルタの取付方法は、被写体像を形成する撮像光学系と、前記被写体像を撮像するために二次元的に配置された光電変換素子とから成る撮像装置に、前記撮像光学系を通り前記光電変換素子に入射する光量を調節する光学フィルタを取り付ける場合において、前記光学フィルタはその基材の表面に長さを持って存在する微小な凹凸部の長手方向を、前記光電変換素子の画像信号の転送によるスミアの発生方向と略直交するように取り付けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る光学フィルタを用いた撮像装置及び光学フィルタの取付方法によれば、光電変換素子の特性に依存して発生するスミアの発生方向とゴーストやフレアが発生する方向が近似し、ゴーストやフレアが目立たなくなり、画像不良を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
図1はNDフィルタの膜構成の断面図であり、透明樹脂基材1上に11層のNDフィルタ膜2が成膜されている。NDフィルタ膜2の構成は1層目は誘電体膜であるAl23層、2層目は金属酸化膜であるTixy層というように、10層まで交互に積層され、最上層の11層目に反射防止膜であるMgF2が積層されている。このNDフィルタ3の光学特性の目標仕様は、透過率の平坦性は6%以下、反射率は3%以下となるような光学設計である。
【0022】
NDフィルタ3の基材に関しては、PET以外にもポリカーボネートやノルボルネン系樹脂、アラミド樹脂などの樹脂基材1が用いられる。樹脂基材1上に薄膜を成膜する方法に関しては、真空蒸着法、スパッタリング法、インクジェットプリンティング法などがあるが、本実施例では、膜厚を比較的に容易に制御でき、かつ可視域の波長域で散乱が非常に小さい真空蒸着法による成膜を行っている。
【0023】
図2は真空蒸着機におけるチャンバ内の断面図であり、チャンバ11内の基板12は蒸着傘13上に備え付けられ、この蒸着傘13と共に基板12が回転し、蒸着源14による蒸着により成膜が行われる。基板12には図3に示すように、成膜を実施する樹脂基材1が基板治具15により固定されている。
【0024】
成膜条件を基板設定温度130℃、成膜圧力8.40-4Paとし、蒸着源14から樹脂基材1までの距離が1200mmとしてチャンバ11により成膜を行う。
【0025】
樹脂基材1上にNDフィルタ膜2を形成したNDフィルタ3において、基材1の表面の微小な凹凸部から成る傷の長手方向を、スミアの発生方向と直交方向に配置する。
【0026】
その1つの方法としては、NDフィルタ膜2の成膜前に樹脂基材1の傷方向を判断し方向を一定にさせる方法がある。具体的には、基材は前述したような工程でロール状に作成されることが多く、傷の方向は同一ロールにおいてはほぼ同一となることを利用する。即ち、ロール状態で傷の方向を拡大鏡などで判断し、そこから基板1を切り出す際に、基板1の方向に対して傷が一定の方向となるようにする。
【0027】
また、NDフィルタ膜2の成膜後においては、樹脂基材1の傷方向を判断し、製品形状を形成するプレス機等により、傷方向に合わせて切断形状を角度調整する方法がある。また、切断形状の角度調整が不可能な場合には、製品を円形など角度調整可能な形状にすることで、絞り羽根に貼り付けの際に調整することが可能である。
【0028】
図4はNDフィルタ3を使用する撮影光学系の構成図を示し、光軸上にレンズ21、可変の開口部を有する光量絞り装置22、レンズ23〜25、ローパスフィルタ26、CCD等から成る固体撮像素子27が順次に配列されている。
【0029】
図5に示すように、樹脂基材1の表面の傷Dの角度が横方向である透明樹脂基材1に、NDフィルタ膜2を成膜したNDフィルタ3が光量絞り装置22に貼り付けられている。光量絞り装置22においては、絞り羽根支持板28に一対の絞り羽根29a、29bが可動に取り付けられており、絞り羽根29aには開口部を通過する光量を調節するためのNDフィルタ3が接着されている。このNDフィルタ3が有する傷の長手方向は、固体撮像素子27から生ずるスミアの発生方向と略直交となるようにされている。
【0030】
なお、撮像光学系に対するNDフィルタ3の取付手段は、固体撮像素子27に至る光路上に、NDフィルタ3が単体で出入りするような構成でもよい。
【0031】
ゴーストやフレアを評価するために、図6に示すように、ビデオカメラやデジタルスチルカメラの本体レンズ31に、高輝度のハロゲンランプ32を斜め上から照射し、そのときのスミアとゴースト、フレアの角度で判定を行う。なお、その判定はスミアSの発生方向が画像の上下方向になる固体撮像素子27を用いる。
【0032】
本体レンズ31に向けてハロゲンランプ32を斜め上から照射し、そのときに画像に不必要な光が映り込む角度で判定すると、図7に示すように上下に発生するスミアSに対し、フレアFがスミアSに重なる画質を得ることができる。
【0033】
従って、前述したように樹脂基材1の傷Dの長手方向をスミアSの発生方向と略直交方向に合わせると、フレアF又はゴーストの方向をスミアSと同様の方向とすることができる。スミアSとフレアF又はゴーストは殆どの場合に、別の個所に発生することはなく重なって発生する。
【0034】
このような特性を兼ね備えたND光量絞りユニットを、光電変換素子上に被写体像を形成するタイプの撮影装置に適用することにより、良好な性能の光量絞り装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】NDフィルタの膜構成図である。
【図2】真空蒸着機の構成図である。
【図3】基板治具の説明図である。
【図4】撮影光学系の構成図である。
【図5】基材上の傷の方向の説明図である。
【図6】フレア判定評価構成図である。
【図7】画面上のフレアとスミアの説明図である。
【図8】NDフィルタの傷方向と画像内のスミア対フレアの関係図である。
【符号の説明】
【0036】
1 樹脂基材
2 NDフィルタ膜
3 NDフィルタ
11 チャンバ
15 基板治具
27 固体撮像素子
29 絞り羽根
D 傷
S スミア
F フレア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体像を形成する撮像光学系と、前記被写体像を撮像するために二次元的に配置された光電変換素子と、前記撮像光学系を通り前記光電変換素子に入射する光量を調節する光学フィルタとから成り、前記光学フィルタはその基材の表面に長さを持って存在する微小な凹凸部の長手方向が、前記光電変換素子の画像信号の転送によるスミアの発生方向と略直交するように取り付けたことを特徴とする光学フィルタを用いた撮像装置。
【請求項2】
光量絞り手段を設け、前記光学フィルタを前記光量絞り手段に取り付けたことを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタを用いた撮像装置。
【請求項3】
前記光学フィルタは樹脂基材に誘電体膜と金属酸化膜を成膜したNDフィルタであることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学フィルタを用いた撮像装置。
【請求項4】
被写体像を形成する撮像光学系と、前記被写体像を撮像するために二次元的に配置された光電変換素子とから成る撮像装置に、前記撮像光学系を通り前記光電変換素子に入射する光量を調節する光学フィルタを取り付ける場合において、前記光学フィルタはその基材の表面に長さを持って存在する微小な凹凸部の長手方向を、前記光電変換素子の画像信号の転送によるスミアの発生方向と略直交するように取り付けることを特徴とする光学フィルタの取付方法。
【請求項5】
前記光学フィルタは光量絞り手段に取り付けることを特徴とする請求項4に記載の光学フィルタの取付方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−66308(P2010−66308A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−229987(P2008−229987)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【Fターム(参考)】