説明

光学フィルタ装置

【課題】性能の低下を抑制できる光学フィルタ装置を提供する。
【解決手段】光学フィルタ装置は、ギャップを介して対向する一対のミラーを有するエタロン素子と、ギャップを調整するために、駆動信号に応じて、ミラーを移動可能な駆動装置と、駆動装置に駆動信号を供給する供給装置と、エタロン素子を通過する光の光路上の少なくとも一部に配置され、特定波長の光を通過させる、エタロン素子とは別の波長選択素子と、エタロン素子及び波長選択素子を介した光を受光可能な位置に配置された受光装置と、受光装置の出力信号に基づいて、駆動信号を補正する補正装置とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エタロン素子を備える光学フィルタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
入射した光のうち目標波長の光を選択して射出する光学フィルタ装置として、エタロン素子を備える光学フィルタ装置が知られている。エタロン素子は、ギャップを介して対向する一対のミラーを有する。そのギャップが調整されることによって、エタロン素子から射出される光の波長が変化する。下記特許文献には、光学フィルタ装置に関する技術の一例が開示されている。
【特許文献1】特開2005−156329号公報
【特許文献2】特開2007−086517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ミラーを移動可能な駆動装置に駆動信号を供給してその駆動装置を駆動することによってギャップを調整する場合、目標ギャップとなるように駆動信号を供給したとしても、例えばエタロン素子の温度変化等、外的要因により、目標ギャップに調整されない可能性がある。その結果、目標波長の光が射出されない等、光学フィルタ装置の性能が低下する可能性がある。
【0004】
本発明は、性能の低下を抑制できる光学フィルタ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の態様に従えば、ギャップを介して対向する一対のミラーを有するエタロン素子と、前記ギャップを調整するために、駆動信号に応じて、前記ミラーを移動可能な駆動装置と、前記駆動装置に前記駆動信号を供給する供給装置と、前記エタロン素子を通過する光の光路上の少なくとも一部に配置され、特定波長の光を通過させる、前記エタロン素子とは別の波長選択素子と、前記エタロン素子及び前記波長選択素子を介した光を受光可能な位置に配置された受光装置と、前記受光装置の出力信号に基づいて、前記駆動信号を補正する補正装置と、を備える光学フィルタ装置が提供される。
【0006】
本発明の態様によれば、エタロン素子とは別の波長選択素子を配置し、エタロン素子及び波長選択素子を介した光を受光装置で受光し、その受光装置の出力信号に基づいて、駆動装置に供給する駆動信号を補正するようにしたので、例えばエタロン素子が温度変化しても、エタロン素子から目標波長の光が射出されるように、駆動信号を補正することができる。したがって、その駆動信号に基づいてギャップを調整することによって、エタロン素子から目標波長の光を射出させることができ、光学フィルタ装置の性能の低下を抑制できる。
【0007】
本発明の態様において、前記供給装置は、前記エタロン素子から射出される光が前記特定波長の光を含むように前記駆動信号を変更可能であり、前記補正装置は、前記受光装置が前記エタロン素子及び前記波長選択素子を介した光を受光したときの駆動信号に基づいて、前記駆動装置に供給する駆動信号と該駆動信号が供給されたときの前記エタロン素子から射出される光の波長との関係を導出する構成を採用できる。これにより、エタロン素子から目標波長の光を射出させることができ、光学フィルタ装置の性能の低下を抑制できる。
【0008】
本発明の態様において、前記波長選択素子は、前記特定波長が異なる複数の波長選択素子を含み、前記補正装置は、前記受光装置が前記エタロン素子及び前記複数の波長選択素子のそれぞれを介した光を受光したときの駆動信号に基づいて、前記関係を導出する構成を採用できる。これにより、複数の波長選択素子をそれぞれ介した複数の受光結果に基づいて、エタロン素子から目標波長の光を射出させるために駆動信号を正確に補正することができる。
【0009】
本発明の態様において、前記関係を記憶する記憶装置を備え、前記補正装置は、前記記憶装置の記憶情報に基づいて、前記エタロン素子が目標波長の光を射出するように、前記駆動信号を補正可能である構成を採用できる。これにより、記憶装置の記憶情報に基づいて、エタロン素子から目標波長の光を射出させるために駆動信号を正確に補正することができる。
【0010】
本発明の態様において、前記波長選択素子は、前記エタロン素子と前記受光装置との間に配置される構成を採用できる。これにより、受光装置は、エタロン素子と波長選択素子とを介した光を良好に受光できる。
【0011】
本発明の態様において、前記駆動装置は、前記ミラーを支持し、第1部分及び前記1部分より薄い第2部分を有する基板を変形可能な駆動素子を含む構成を採用できる。これにより、駆動素子で基板を変形させて、ギャップを調整することができる。
【0012】
本発明の態様において、前記駆動素子は、前記基板に配置され、静電力を発生可能な電極を含む構成を採用できる。これにより、静電力を用いてギャップを精度良く調整できる。
【0013】
本発明の態様において、前記駆動信号は、前記電極に印加する電圧を含む構成を採用できる。これにより、電圧を変化させて、ギャップを精度良く調整できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。以下の説明においては、XYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部材の位置関係について説明する。水平面内の所定方向をX軸方向、水平面内においてX軸方向と直交する方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向のそれぞれに直交する方向(すなわち鉛直方向)をZ軸方向とする。
【0015】
図1は、本実施形態に係る光学フィルタ装置1の一例を示す概略構成図、図2は、光学フィルタ装置1の一部を拡大した側断面図、図3は、図2の平面図である。
【0016】
図1、図2、及び図3において、光学フィルタ装置1は、ギャップGを介して対向する一対のミラー2(2A、2B)を有するエタロン素子3と、ギャップGの大きさを調整するために、駆動信号に応じて、ミラー2を移動可能な駆動装置4と、駆動装置4に駆動信号を供給する供給装置5と、エタロン素子3を通過する光の光路上の少なくとも一部に配置され、特定波長を通過させる、エタロン素子3とは別の波長選択素子6と、エタロン素子3及び波長選択素子6を介した光を受光可能な位置に配置された受光装置7と、受光装置7の出力信号に基づいて、駆動信号を補正する制御装置8と、制御装置8に接続され、所定の情報を記憶可能な記憶装置8Rとを備えている。制御装置8は、例えばコンピュータシステムを含み、所定の演算処理を実行可能である。また、制御装置8は、光学フィルタ装置1全体の動作を制御可能である。
【0017】
本実施形態において、光学フィルタ装置1は、エタロン素子3の入射側に配置された第1光学系11、及びエタロン素子3の射出側に配置された第3光学系13を有する。光学フィルタ装置1は、物体Sの像を、第1光学系11、エタロン素子3、及び第3光学系13を介して、受光装置7の受光面に形成可能である。受光装置7は、例えばCCD等の受光素子を含み、物体Sの像を取得可能である。
【0018】
また、本実施形態において、光学フィルタ装置1は、光源10を備えている。光源10から射出された光は、第2光学系12により、エタロン素子3に導かれる。エタロン素子3を透過した光は、第3光学系13により、受光装置7に導かれる。
【0019】
エタロン素子3は、干渉作用により、入射した光のうち、所定波長の光(干渉光)を射出する。一方のミラー2Aと他方のミラー2Bとの間のギャップGに光が入射すると、干渉作用により、ギャップGの大きさに応じた波長の光だけがエタロン素子3より射出される。すなわち、エタロン素子3から射出される光の波長は、ギャップGの大きさに応じて変化する。
【0020】
図2に示すように、エタロン素子3は、一方のミラー2Aを支持する第1基板14と、他方のミラー2Bを支持する第2基板15とを有する。第1基板14は、第2基板15と対向する表面14Aを有する。第2基板15は、第1基板14と対向する表面15Aを有する。一方のミラー2Aは、第1基板14の表面14Aの一部に配置されている。他方のミラー2Bは、第2基板15の表面15Aの一部に配置されている。第1、第2基板14、15は、光透過性である。また、本実施形態において、第1、第2基板14、15は、絶縁性である。本実施形態において、第1、第2基板14、15は、例えばガラスで形成されている。第1、第2基板14、15は、例えばソーダガラス、結晶性ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、カリウムガラス、ホウケイ酸ガラス、ホウケイ酸ナトリウムガラス、無アルカリガラス等の各種ガラスで形成可能である。
【0021】
本実施形態において、第1基板14は、第1部分14C及び第1部分14Cより薄い第2部分14Dを有する。厚みが薄い第2部分14Dは、弾性(可撓性)を有し、変形可能(変位可能)である。第2部分14Dが設けられることによって、第1基板14は、僅かに変形可能である。以下の説明において、第2部分14Dを適宜、ダイヤフラム部14D、と称する。第1基板14が変形することによって、Z軸方向に関する第1基板14の表面14Aと第2基板15の表面15Aとの距離が変化する。第1基板14が変形することによって、表面14Aに配置されている一方のミラー2Aと、表面15Aに配置されている他方のミラー2BとのギャップGの大きさが変化する。
【0022】
以下の説明において、変形可能な第1基板14に支持されている一方のミラー2Aを適宜、可動ミラー2A、と称し、第2基板15に支持されている他方のミラー2Bを適宜、固定ミラー2B、と称する。
【0023】
本実施形態において、ミラー2(2A、2B)は、誘電体多層膜である。すなわち、ミラー2(2A、2B)は、高屈折率層と低屈折率層とが交互に複数積層された多層膜である。
【0024】
エタロン素子3を可視光領域、赤外光領域で用いる場合、高屈折率層を形成する材料として、例えばTiO、Ta、酸化ニオブ等が挙げられる。エタロン素子3を紫外光領域で用いる場合、高屈折率層を形成する材料として、例えばAl、HfO、ZrO、ThO等が挙げられる。低屈折率層を形成する材料として、例えばMgF、SiO等が挙げられる。高屈折率層及び低屈折率層の層数、厚さは、必要とする光学特性に応じて設定される。一般に、多層膜により反射膜を構成する場合、その光学特性を得るために必要な層数は12層以上であり、多層膜により反射防止膜を構成する場合、その光学特性に必要な層数は4層程度である。
【0025】
本実施形態においては、物体Sからの光、及び光源10から射出される光の少なくとも一方は、エタロン素子3の第1基板14を介して、ギャップGに入射する。可動ミラー2Aは、ギャップGに入射した光を、固定ミラー2Bとの間で複数回反射する。可動ミラー2Aは、固定ミラー2Bと協働して、ギャップGの大きさに応じた波長の光を干渉させる。エタロン素子3は、ギャップGの大きさに応じた波長の光を、射出面15Bより射出する。
【0026】
駆動装置4は、入力される駆動信号に応じて、ミラー2を相対移動する。本実施形態において、駆動装置4は、第1基板14を変形可能な駆動素子16を含む。上述のように、ダイヤフラム部14Dを含む第1基板14は、変形可能である。第1基板14を変形させることによって、可動ミラー2Aが移動する。可動ミラー2Aが移動することによって、ギャップGの大きさが変化する。すなわち、本実施形態においては、制御装置8は、駆動素子16を用いて第1基板14を変形して、その第1基板14に支持されている可動ミラー2Aを移動して、ギャップGの大きさを調整する。
【0027】
本実施形態において、駆動素子16は、第1、第2基板14、15に配置され、静電力を発生可能な電極16A、16Bを含む。一方の電極16Aは、第1基板14の表面14Aに配置され、他方の電極16Bは、第2基板15の表面15Aに配置される。一方の電極16Aと他方の電極16Bとは対向する。電極16Aは、表面14Aにおいて、可動ミラー2Aの周囲に配置されている。電極16Bは、表面15Aにおいて、固定ミラー2Bの周囲に配置されている。本実施形態において、表面14A、15Aとほぼ平行なXY平面内において、電極16A、16Bは、ほぼ円環状である。
【0028】
電極16A、16Bを形成する材料としては、導電性であれば特に限定されず、例えば、Cr、Al、Al合金、Ni、Zn、Tiなどの金属、カーボン、チタン等を分散した樹脂、多結晶シリコン(ポリシリコン)、アモルファスシリコン等のシリコン、窒化シリコン、ITOのような透明導電材料、Au等が挙げられる。
【0029】
供給装置5は、電極16A、16Bに所定の電圧を印加可能な電源を含む。以下の説明において、供給装置5を適宜、電源5、と称する。電極16Aは、引き出し配線17A及び配線を介して、電源5と接続されている。電極16Bは、引き出し配線17B及び配線を介して、電源5と接続されている。電源5は、駆動信号として、電極16A、16Bに電圧を印加する。電源5により、電極16Aと電極16Bとの間に電位差が生じる。電源5の動作は、制御装置8に制御される。制御装置8は、電源5を制御して、電極16Aと電極16Bとの間の電位差を調整可能である。
【0030】
電極16A、16Bに電圧が印加されることにより、電極16Aと電極16Bとの間に、電圧(電位差)に応じた静電力が発生する。制御装置5は、電源5を制御して、電極16A、16Bに電圧を印加し、電極16Aと電極16Bとの間に静電力を発生させることによって、第1基板14を変形させることができる。第1基板14が変形することによって、ギャップGの大きさが調整される。
【0031】
上述のように、エタロン素子3から射出される光の波長は、ギャップGの大きさに応じて変化する。また、制御装置8は、電極16Aと電極16Bとの間の電位差を調整して、電極16Aと電極16Bとの間に発生する静電力を調整することによって、ギャップGの大きさを調整することができる。
【0032】
したがって、制御装置8は、電源5を制御して電圧を調整して、ギャップGの大きさを調整することによって、エタロン素子3から射出される光の波長を調整することができる。電源5は、エタロン素子3から射出される光が目標波長の光を含むように、電極16A、16Bに印加する電圧を変更可能である。
【0033】
なお、電極16A、16Bを複数設け、それら複数の電極16A、16BをXY平面内において複数の位置に配置し、各電極16A、16B間の電位差(静電力)をそれぞれ調整することによって、第2基板15に対して第1基板14を傾斜させることもできる。
【0034】
波長選択素子6は、入射した光のうち、特定波長の光のみを通過させるバンドパスフィルタである。バンドバスフィルタは、例えば多層膜を含む。本実施形態において、波長選択素子6は、エタロン素子3と受光装置7との間の光路上に配置されている。本実施形態においては、波長選択素子6は、エタロン素子3(第2基板15)の射出面15Bに配置されている。
【0035】
図3に示すように、本実施形態において、光源10から射出された光は、射出面15Bの第1エリア18を通過する。一方、物体Sからの光は、射出面15Bの第2エリア19を通過する。第2エリア19は、第1エリア18より小さい。本実施形態においては、波長選択素子6は、第1エリア18のエッジ近傍に配置されている。具体的には、波長選択素子6は、第2エリア19の外側であって、第2エリア19のエッジと第1エリア18のエッジとの間に配置されている。
【0036】
図3に示すように、本実施形態において、波長選択素子6は、第1波長λ1の光を透過させる第1波長選択素子6Aと、第1波長λ1と異なる第2波長λ2の光を透過させる第2波長選択素子6Bとを含む。
【0037】
受光装置7は、例えばCCD等の受光素子を含み、エタロン素子3及び波長選択素子6を介した光を受光可能な位置に配置されている。エタロン素子3より射出され、波長選択素子6を介した光は、第3光学系13を介して、受光装置7に導かれる。
【0038】
次に、上述の光学フィルタ装置1の動作の一例について説明する。上述のように、エタロン素子3から射出される光の波長は、ギャップGの大きさに応じて変化する。制御装置8は、エタロン素子3から目標波長の光が射出されるように、電源5を制御して、電極16A、16Bに所定の電圧を印加し、電極16Aと電極16Bとの間の静電力を調整して、ギャップGを調整する。
【0039】
本実施形態においては、電源16A、16Bに印加する電圧(電位差)と、その電圧に対応する、エタロン素子3から射出される光の波長との関係が予め求められる。その関係、すなわち印加される電圧に応じたエタロン素子3の光学特性は、同定実験、シミュレーションによって予め求めることができる。
【0040】
ここで、同定実験の一例について説明する。まず、エタロン素子3から射出される光が第1波長選択素子6Aを通過するように、制御装置8は、電極16A、16Bに印加する電圧を調整する。電圧が調整され、エタロン素子3から射出される光が第1波長λ1の光を含むことによって、受光装置7は、エタロン素子3及び第1波長選択素子6Aを介した、第1波長λ1の光を受光することができる。このときの電圧をV1とする。
【0041】
次に、エタロン素子3から射出される光が第2波長選択素子6Bを通過するように、制御装置8は、電極16A、16Bに印加する電圧を調整する。電圧が調整され、エタロン素子3から射出される光が第2波長λ2の光を含むことによって、受光装置7は、エタロン素子3及び第2波長選択素子6Bを介した、第2波長λ2の光を受光することができる。このときの電圧をV2とする。
【0042】
図4は、同定実験の結果の一例を示す模式図である。横軸は、電極16A、16Bに印加する電圧であり、縦軸は、エタロン素子3から射出される光の波長である。図4に示すように、電極16A、16Bに電圧V1が印加されることによって、エタロン素子3は、第1波長λ1の光を射出する。また、電極16A、16Bに電圧V2が印加されることによって、エタロン素子3は、第2波長λ2の光を射出する。
【0043】
本実施形態においては、これらデータに基づいてフィッティング処理(補間処理)が行われる。これにより、図4のラインL1で示すような、電源16A、16Bに印加する電圧(電位差)と、その電圧に対応する、エタロン素子3から射出される光の波長との関係を求めることができる。なお、図4に示す例では、2つのデータに基づいてフィティング処理が行われるが、もちろん、3つ以上のデータを用いることができる。3つ以上のデータを用いてフィッティング処理を実行することによって、電源16A、16Bに印加する電圧(電位差)と、その電圧に対応する、エタロン素子3から射出される光の波長との関係を、より高精度に求めることができる。
【0044】
図4のラインL1で示すような、電源16A、16Bに印加する電圧(電位差)と、その電圧に対応する、エタロン素子3から射出される光の波長との関係は、記憶装置8Rに予め記憶される。
【0045】
制御装置8は、エタロン素子3から射出される光が目標波長の光となるように、記憶装置8Rの記憶情報(ラインL1)に基づいて、最適な電圧を求め、その電圧を電極16A、16Bに印加する。これにより、エタロン素子3は、入射した光のうち、目標波長の光を射出することができる。
【0046】
ところで、記憶装置8Rの記憶情報に基づいて、目標波長の光がエタロン素子3から射出されるように電極16A、16Bに電圧を印加したとしても、例えばエタロン素子3の温度変化等、外的要因により、エタロン素子3から目標波長の光が射出されない可能性がある。例えば、エタロン素子3の温度変化により、第1、第2基板14、15のヤング率が変化したり、電極16A、16B間で発生する静電力が変化したりして、記憶装置8Rの記憶情報に基づいて、目標波長の光がエタロン素子3から射出されるように電極16A、16Bに電圧を印加したとしても、目標ギャップに調整されず、エタロン素子3から目標波長の光が射出されない可能性がある。
【0047】
そこで、本実施形態においては、所定のタイミングで、電極16A、16Bに印加する電圧を補正する処理が実行される。次に、電圧を補正する補正方法について説明する。
【0048】
制御装置8は、光源10より光を射出する。光源10から射出された光は、レンズ12A及びハーフミラー12Bを含む第2光学系12を介して、エタロン素子3に照射される。エタロン素子3は、ギャップGの大きさに応じた波長の光を射出する。
【0049】
制御装置8は、エタロン素子3から射出される光が、波長選択素子6(6A、6B)の特定波長(λ1、λ2)の光を含むように、電極6A、6Bに印加する電圧を調整する。
【0050】
本実施形態においては、エタロン素子3から射出される光が第1波長選択素子6Aを通過するように、制御装置8は、電極16A、16Bに印加する電圧を調整する。電圧が調整され、エタロン素子3から射出される光が第1波長λ1の光を含むことによって、受光装置7は、エタロン素子3及び第1波長選択素子6Aを介した、第1波長λ1の光を受光することができる。このときの電圧をV1’とする。
【0051】
次に、エタロン素子3から射出される光が第2波長選択素子6Bを通過するように、制御装置8は、電極16A、16Bに印加する電圧を調整する。電圧が調整され、エタロン素子3から射出される光が第2波長λ2の光を含むことによって、受光装置7は、エタロン素子3及び第2波長選択素子6Bを介した、第2波長λ2の光を受光することができる。このときの電圧をV2’とする。
【0052】
図5は、補正処理の結果の一例を示す模式図である。横軸は、電極16A、16Bに印加する電圧であり、縦軸は、エタロン素子3から射出される光の波長である。図5に示すように、電極16A、16Bに電圧V1’が印加されることによって、エタロン素子3は、第1波長λ1の光を射出する。また、電極16A、16Bに電圧V2’が印加されることによって、エタロン素子3は、第2波長λ2の光を射出する。
【0053】
制御装置8は、受光装置7がエタロン素子3及び第1、第2波長選択素子6A、6Bを介した光を受光したときの電圧V1’、V2’に基づいて、電極6A、6Bに印加する電圧と、その電圧が印加されたときのエタロン素子3から射出される光の波長との関係を導出する。
【0054】
すなわち、本実施形態においては、上述のデータに基づいてフィッティング処理(補間処理)が行われる。これにより、図5のラインL2で示すような、電源16A、16Bに印加する電圧(電位差)と、その電圧に対応する、エタロン素子3から射出される光の波長との関係を求めることができる。
【0055】
なお、図5に示す例では、透過可能な波長が異なる第1、第2波長選択素子6A、6Bそれぞれを介した光を受光したときの電圧V1’、V2’に基づいて、すなわち2つのデータに基づいてフィティング処理が行われるが、いずれか一方のデータに基づいてラインL2を導出することもできる。ラインL1は既知なので、例えば第1波長選択素子6Aを介した光を受光したときの電圧V1’に基づいて、電圧V1と電圧V1’と差に応じた量だけ、ラインL1をシフトすることにより、ラインL2を得ることができる。
【0056】
なお、もちろん3つ以上のデータを用いることができる。3つ以上のデータを用いてフィッティング処理を実行することによって、電源16A、16Bに印加する電圧(電位差)と、その電圧に対応する、エタロン素子3から射出される光の波長との関係を、より高精度に求めることができる。
【0057】
図5のラインL2で示すような、電源16A、16Bに印加する電圧(電位差)と、その電圧に対応する、エタロン素子3から射出される光の波長との関係は、記憶装置8Rに記憶される。
【0058】
制御装置8は、エタロン素子3が目標波長の光を射出するように、記憶装置8Rの記憶情報(ラインL2)に基づいて、最適な電圧を求め、その電圧を電極16A、16Bに印加する。これにより、エタロン素子3は、入射した光のうち、目標波長の光を射出することができる。
【0059】
以上のように補正処理が終了した後、制御装置8は、物体Sの像情報を取得する。物体Sの像情報を取得するとき、光源10は光を射出しない。物体Sから発生した光は、第1光学系11、エタロン素子3、及び第3光学系13を介して、受光装置7に入射する。受光装置7には、物体Sから発生する光のうち、目標波長の光だけが入射する。受光装置7の受光面には、物体Sから発生した光のうち、目標波長の光に基づく像が形成される。
【0060】
本実施形態においては、波長選択素子6は、物体Sから発生する光が通過する第2エリア19の外側に配置されているので、受光装置7には、波長選択素子6からの光は入射せず、物体Sの像のみが形成される。したがって、光学フィルタ装置1は、物体Sの像を良好に取得することができる。
【0061】
以上説明したように、本実施形態によれば、エタロン素子3とは別の波長選択素子6を配置し、エタロン素子3及び波長選択素子6を介した光を受光装置7で受光し、その受光装置7の出力信号に基づいて、電圧16A、16Bに印加する電圧を補正するようにしたので、例えばエタロン素子3が温度変化しても、エタロン素子3から目標波長の光が射出されるように、電圧を補正することができる。したがって、その電圧に基づいてギャップGを調整することによって、エタロン素子3から目標波長の光を射出させることができ、光学フィルタ装置1の性能の低下を抑制できる。
【0062】
なお、上述の実施形態においては、波長選択素子6が、エタロン素子3と受光装置7との間の光路上に配置されている場合を例にして説明したが、例えば光源10とエタロン素子3との間の光路上等、エタロン素子3の入射側に配置されていてもよい。
【0063】
なお、上述の実施形態においては、第1、第2基板14、15を移動するための駆動装置が、第1、第2基板14、15に配置され、静電力を発生可能な電極16A、16Bを含む場合を例にして説明したが、例えば第2基板15の表面15Aに、ローレンツ力で駆動するモータ(例えばボイスコイルモータ)の固定子を配置し、第1基板14の表面14Aに可動子を配置して、ローレンツ力によって、第1、第2基板14、15に配置されているミラー2を移動するようにしてもよい。
【0064】
なお、上述の実施形態においては、エタロン素子3及び波長選択素子6を介した光が受光装置7に受光されるように、受光装置7の受光結果に基づいて、制御装置8が電極16、16Bに印加する電圧を調整しているが、例えば作業者が電圧を調整してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本実施形態に係る光学フィルタ装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】本実施形態に係る光学フィルタ装置の一部を拡大した側断面図である。
【図3】図2の平面図である。
【図4】電極に印加する電圧と、その電圧が印加されたときのエタロン素子から射出される光の波長との関係の一例を示す図である。
【図5】補正処理後における、電極に印加する電圧と、その電圧が印加されたときのエタロン素子から射出される光の波長との関係の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0066】
1…光学フィルタ装置、2…ミラー、2A…可動ミラー、2B…固定ミラー、3…エタロン素子、4…駆動装置、5…供給装置、6…波長選択素子、6A…第1波長選択素子、6B…第2波長選択素子、7…受光装置、8…制御装置、8R…記憶装置、14…第1基板、14C…第1部分、14D…第2部分、15…第2基板、16A…電極、16B…電極、G…ギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギャップを介して対向する一対のミラーを有するエタロン素子と、
前記ギャップを調整するために、駆動信号に応じて、前記ミラーを移動可能な駆動装置と、
前記駆動装置に前記駆動信号を供給する供給装置と、
前記エタロン素子を通過する光の光路上の少なくとも一部に配置され、特定波長の光を通過させる、前記エタロン素子とは別の波長選択素子と、
前記エタロン素子及び前記波長選択素子を介した光を受光可能な位置に配置された受光装置と、
前記受光装置の出力信号に基づいて、前記駆動信号を補正する補正装置と、を備える光学フィルタ装置。
【請求項2】
前記供給装置は、前記エタロン素子から射出される光が前記特定波長の光を含むように前記駆動信号を変更可能であり、
前記補正装置は、前記受光装置が前記エタロン素子及び前記波長選択素子を介した光を受光したときの駆動信号に基づいて、前記駆動装置に供給する駆動信号と該駆動信号が供給されたときの前記エタロン素子から射出される光の波長との関係を導出する請求項1記載の光学フィルタ装置。
【請求項3】
前記波長選択素子は、前記特定波長が異なる複数の波長選択素子を含み、
前記補正装置は、前記受光装置が前記エタロン素子及び前記複数の波長選択素子のそれぞれを介した光を受光したときの駆動信号に基づいて、前記関係を導出する請求項2記載の光学フィルタ装置。
【請求項4】
前記関係を記憶する記憶装置を備え、
前記補正装置は、前記記憶装置の記憶情報に基づいて、前記エタロン素子が目標波長の光を射出するように、前記駆動信号を補正可能である請求項3記載の光学フィルタ装置。
【請求項5】
前記波長選択素子は、前記エタロン素子と前記受光装置との間に配置される請求項1〜4のいずれか一項記載の光学フィルタ装置。
【請求項6】
前記駆動装置は、前記ミラーを支持し、第1部分及び前記1部分より薄い第2部分を有する基板を変形可能な駆動素子を含む請求項1〜5のいずれか一項記載の光学フィルタ装置。
【請求項7】
前記駆動素子は、前記基板に配置され、静電力を発生可能な電極を含む請求項6記載の光学フィルタ装置。
【請求項8】
前記駆動信号は、前記電極に印加する電圧を含む請求項7記載の光学フィルタ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−244498(P2009−244498A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89631(P2008−89631)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】