説明

光学フィルム、偏光板、液晶表示装置

【課題】性能の向上した偏光板、表示品位の向上した液晶表示装置を提供するための光学異方性の小さな光学フィルムを提供する。
【解決手段】セルロースアシレートが有する光学異方性を減少させる高分子添加剤を含有するセルロースアシレートに可塑効果のある化合物を含有する光学異方性の小さな光学フィルム、およびそれを用いた偏光板、液晶表示装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムおよびそれを用いた偏光板、液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースアシレートフィルム、特にその代表であるセルローストリアセテートフィルムは、その力学特性と透明性および、その光学的等方性すなわち低光学異方性から、液晶表示装置における偏光板の保護フィルムとして用いられている。さらに、富士写真フイルム株式会社から発売されているWVフィルム(ワイドビューフィルム:視野角拡大フィルム)のような光学的補償フィルムの支持体としても利用されている。また、CRTに代わり、省エネルギー,軽量でかつ場所をとらないことが特徴であることから、現在急速に市場に導入されている液晶テレビの反射防止膜(例えば富士写真フイルム株式会社製CVフィルム)の支持体としても利用されている。
【0003】
液晶表示装置は、液晶セル、偏光板等から構成される。偏光板は保護フィルム、偏光膜等から構成され、例えば、ポリビニルアルコールフィルムからなる偏光膜をヨウ素にて染色し、延伸を行い、その両面に保護フィルムを積層して得られる。透過型液晶表示装置では、この偏光板を液晶セルの両側に取り付け、さらには一枚以上の光学補償シートを配置することもある。反射型液晶表示装置では、反射板、液晶セル、光学補償シート、偏光板の順に配置する。液晶セルは、液晶性分子、それを封入するための二枚の基板および液晶性分子に電圧を加えるための電極層からなる。液晶セルは、液晶性分子の配向状態の違いで、ON・OFF表示を行い、透過および反射型いずれにも適用できる、TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、OCB(Optically Compensatory Bend)、VA(Vertically Aligned)、ECB(Electrically Controlled Birefringence)のような様々な表示モードが提案されている。
【0004】
光学補償フィルムは、画像着色を解消したり、視野角を拡大するために、様々な液晶表示装置で用いられている。光学補償フィルムとしては、延伸複屈折ポリマーフィルムが従来から使用されている。一方近年では、延伸複屈折フィルムからなる光学補償シートに代えて、セルローストリアセテートフィルムのような透明で低光学異方性の支持体上に低分子もしくは高分子液晶性分子から形成された光学異方性層を有する光学補償フィルムを使用することが多くなってきた。液晶性分子には多様な配向形態があるため、液晶性分子を用いることで、従来の延伸複屈折ポリマーフィルムでは得ることができない光学的性質を実現することができる。
【0005】
光学補償フィルムの光学的性質は、液晶セルの光学的性質、具体的には上記のような表示モードの違いに応じて決定する。液晶性分子を用いると、液晶セルの様々な表示モードに対応する様々な光学的性質を有する光学補償フィルムを製造することができる。液晶性分子を用いた光学補償フィルムでは、様々な表示モードに対応するものが提案されている。
【0006】
例えば、TNモード液晶セル用光学補償フィルムは、電圧印加により液晶分子がねじれ構造が解消しつつ基板面に傾斜した配向状態の光学補償を行い、黒表示時の斜め方向の光漏れ防止によるコントラストの視角特性を向上させる(特許文献1参照)。IPSモード液晶セル用光学補償フィルムは、電圧無印状態の黒表示時において、基板面に平行配向した液晶分子の光学補償および偏光板の直交透過率の視野角特性向上を兼ねている(特許文献2参照)。さらに、OCBモードの液晶セル用光学補償フィルムでは、電圧印加により液晶層中央部で垂直配向し、基板界面付近で傾斜配向した液晶層の光学補償を行い、黒表示の視野角特性を改善する(特許文献3参照)。VAモードの液晶セル用光学補償フィルムは、電圧無印加状態で液晶分子が基板面に対して垂直配向した状態の黒表示の視野角特性を改善する(特許文献4参照)。
【0007】
液晶セルの表示モードによって、また液晶セルの具体的な設計によって最適な光学補償フィルムは異なり、様々な仕様が検討され、製造されているが、セルロースアシレートフィルムを支持体として用いてその上に低分子、又は高分子液晶を配向させ設置する場合、セルロースアシレートフィルムにも光学補償機能を持たせた方が好ましい場合と低分子、高分子液晶層のみに光学補償機能を持たせた方が好ましい場合とがある。後者の場合には、セルロースアシレートフィルムの光学異方性が無いことが好ましい。
【0008】
一般に高分子樹脂材料の光学異方性の存在は、その原因を含めて広く知られており、以下に示すように、低光学異方性を実現する方法も種々考案されている。
(1)配向複屈折(光学異方性)の符号が互いに逆で、且つ完全に相溶する2種類の高分子樹脂をブレンドする方法(特許文献5参照)。
(2)芳香族PCと特定St系共重合体とを混合する方法(特許文献6参照)。
(3)主極率差が絶対値で50×10-25以上の正/負モノマーをランダム共重合、グラフト共重合、あるいはブロック共重合させる方法(特許文献7参照)。
(4)芳香族ビニルモノマーを主体としたポリマーとポリフェニレンエーテルとの混合物、ブロック共重合体、またはこれらの混合物(特許文献8参照)。
(5)MMAと3FMA(トリフルオロエチルメタクリレート)、あるいはMMAとBzMA(ベンジルメタクリレート)の共重合組成物(非特許文献1参照)。
(6)高分子樹脂マトリックスに、前記高分子樹脂材料が有する光学異方性を減少させる傾向の光学異方性を示す低分子物質を添加する方法(特許文献9参照)。
(7)高分子樹脂と、その結合鎖の配向方向と同じ方向に配向する微細な無機物質とを含み、この無機物質が有する光学異方性により前記配向した高分子樹脂における光学異方性を減少させることを特徴とする光学樹脂材料(特許文献10参照)。
(8)高分子樹脂中に光の波長より小さい光学異方性補償用粒子を混入する方法。ここで該光学異方性補償用粒子は分極等方性または形状等方性粒体(特許文献11参照)。
【0009】
(1)の方法では完全に相溶させることは困難であり、2種のポリマーの屈折率の違いから可視光が散乱し、フィルムが白くなる。(2)ないし(5)の方法は、材料選択に制約を受け、又合成してみないと複屈折が十分相殺されるかどうかわからない、脆性等の力学物性が十分であるかどうかわからないという問題がある。又、コストが非常に高くなることから、工業的には実現が非常に困難である。(6)の方法は光学異方性を減少させる効果が十分でなく、該有機物質の添加量が多く必要であるため、泣出、白化の問題がある。(7)、(8)の方法は添加した粒子が凝集し、凝集物とマトリックスの屈折率差に起因すると考えられる散乱によってフィルムが白くなる。
すなわち、以上の方法はそれぞれそれなりの効果はあるが十分とは言えず、特に透明フィルムとしての特徴を失ったり、工業的に実施できなかったりする点で液晶表示用偏光板材料としては広範に利用することができなかった。
【0010】
これらの問題を解決するためにセルロースアシレートフィルムが有する光学異方性を相殺する傾向の光学異方性を示す有機物質が添加された低光学異方性のセルロースアシレートフィルムが開発されているが(特許文献12)、光学特性の波長依存性が大きく、さらに光学異方性を低下させるためにポリマー添加量を多くすると柔軟性を損なったり裁断時にクラックが発生したり、相溶性が不十分でヘイズが大きくなるという問題があった。
【0011】
光学的異方性を小さくする可塑剤として、(ジ)ペンタエリスリトールエステル類(特許文献13記載)、グリセロールエステル類(特許文献14記載)、ジグリセロールエステル類(特許文献15記載)、クエン酸エステル類(特許文献16記載)、置換フェニルリン酸エステル類(特許文献17記載)が提案されているが、これらの可塑剤のみでは所望とする十分小さなRthの値を得ることは出来なかった。
【特許文献1】特開平6−214116号公報
【特許文献2】特開平10−54982号公報
【特許文献3】米国特許第5805253号明細書
【特許文献4】特許第2866372号明細書
【特許文献5】米国特許4373065号明細書
【特許文献6】特開昭61−19656号公報
【特許文献7】特開昭61−108617号公報
【特許文献8】特開昭62−240901号公報
【特許文献9】特開平8−110402号公報
【特許文献10】特開平11−293116号公報
【特許文献11】特開2000−313816号公報
【特許文献12】特開2005−105140号公報
【特許文献13】特開平11−124445号公報
【特許文献14】特開平11−246704号公報
【特許文献15】特開2000−63560号公報
【特許文献16】特開平11−92574号公報
【特許文献17】特開平11−90946号公報
【非特許文献1】雑誌「光学」1991.2
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は前記諸問題に鑑みなされたものであって、上記の従来の各種方法のように透明性に劣ったり、製造上の制約のある方法ではなく、透明で低光学異方性の液晶表示用偏光板材料としての光学フィルムを工業的に安価に提供することを課題とする。特に液晶表示用偏光板材料として優れた特徴を有し、安価な透明高分子フィルムの代表であるセルロースアシレートフィルムの光学異方性をほぼ完全に相殺し、かつ取り扱い性が良好で液晶表示装置の視野角や色味変化等の表示品位が著しく改善されることに加え、相溶性を向上させることにより透明性が向上した偏光板用保護フィルム、光学補償フィルム用支持体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の課題は、下記(1)〜(9)により達成された。
(1)セルロースアシレートフィルムが有する光学異方性を減少させる高分子添加剤、可塑効果のある化合物、光学特性の波長分散を変化させる化合物を含有する光学フィルム。
(2)該高分子添加剤の平均分子量が3000以上、可塑効果のある化合物の分子量が3000以下である(1)に記載の光学フィルム。
(3)該光学特性の波長分散を変化させる化合物は紫外線領域に吸収を持つ化合物であることを特徴とする(1)ないし(2)に記載の光学フィルム。
(4)該セルロ−スアシレートのアシル基が炭素数2乃至4であり、全置換度が2.7乃至3.0であることを特徴とする(1)ないし(3)に記載の光学フィルム。
(5)該セルロ−スアシレートフィルムのガラス転移温度が100℃以上160℃未満であることを特徴とする(1)ないし(4)に記載の光学フィルム。
(6)波長630nmにおけるRe値が0nm以上20nm以下、好ましくは10nm以下、さらに好ましくは3nm以下であり、波長630nmにおけるRth値が−20nm以上10nm以下、好ましくは−10〜5nmであることを特徴とする(1)ないし(5)に記載の光学フィルム。
(7)波長400nmと700nmとのRth値が下記式(3)の関係であることを特徴とする(1)ないし(6)に記載の光学フィルム。
式(3) |Rth(700)−Rth(400)|≦25
(8)偏光子の少なくとも片面に(1)ないし(7)に記載の光学フィルムが設置されたことを特徴とする偏光板。
(9)(8)に記載の偏光板を用いた液晶表示装置。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[光学異方性を減少させる高分子添加剤]
本発明において、セルロースアシレートの光学異方性を減少させる傾向の光学異方性を示す高分子添加剤とは、セルロースアシレートが発現する光学異方性を減少させる、即ちセロビオース骨格に対して平行に配向し、自らの分子軸と垂直方向の屈折率が大きい化合物であり、そのような性質を有していれば特に限定はされないが、セルロースアシレートと親和性が高い負の固有複屈折を有する高分子が好ましい。好ましい高分子の例としては、スチレン系重合体、アクリル酸系重合体、メタアクリル酸系重合体、アクリロニトリル系重合体、メタアクリロニトリル系重合体が挙げられ、これらの共重合体も好ましい。また、アクリル酸系重合体、メタアクリル酸系重合体としては、アクリル酸あるいはメタアクリル酸のメチル、エチル、フェニル、ベンジルエステルなどの重合体が挙げられる。アクリル酸系重合体、メタクリル酸系重合体はセルロースアシレートと屈折率の値が近いので好ましい。
これらの重合体の平均分子量としては、好ましくは3000以上、さらに好ましくは5000以上であり、ブリードアウトを避けるためには好ましくは20000以下、より好ましくは10000以下である。なお、平均分子量はGPCで求めたポリスチレン換算の質量平均分子量の値である。
連鎖移動しやすいトルエンやIPAなどの溶媒中での重合、βメルカプトプロピオン酸やチオグリセリンなどのチオールなどの連鎖移動剤の存在下での重合、モノマー/重合開始剤比が小さい状態での重合、またこれらの複合条件下での重合により、上記の分子量範囲のポリマーを得ることが出来る。
高分子の添加量は、セルロースアシレート100質量部に対して、5〜30質量部が好ましく、10〜25質量部がさらに好ましい。
【0015】
[可塑剤]
本発明に用いられる可塑効果のある化合物としては、リン酸エステル、カルボン酸エステル、アミド、エーテル、ウレタンなどの官能基を有する化合物が好ましい。これらの好ましい化合物の例としては以下のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
リン酸エステルとしては、トリフェニルホフェート、ビフェニルジフェニルホフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート、レゾルシノールビスジフェニルフォスフェート、1,3-フェニレンビスジキシレニルフォスフェート、ビスフェノールAビスジフェニルフォスフェートなどを挙げることが出来る。
カルボン酸エステルとしては、トリメチロールプロパントリベンゾエート、トリメチロールプロパントリシクロヘキシルカルボキシレート、ペンタエリスリトールテトラブチレート、グリセリントリブチレート、トリアセチン、トリブチリン、トリプロピオニンなどの多価アルコールのカルボン酸エステルやコハク酸ジブチル、アジピン酸ジフェニル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジアリール、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジ-2-メトキシエチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシルフタレート、トリメリット酸トリメチル、ピロメリット酸テトラエチルなどの飽和、不飽和多価カルボン酸エステル、メチルメタクリレートやエチルアクリレートのオリゴマーなどを挙げることができる。
またオキシ酸のエステルとして、クエン酸トリエチル、クエン酸アセチル・トリエチル、酒石酸ジブチル、ジアセチル酒石酸ジブチル、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレートなどのグリコール酸、サリチル酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸などのオキシ酸のエステルを挙げることが出来る。
アミドとしては、N-フェニル-ベンゼンカルボンアミド,N-フェニル-p-トルエンスルホンアミド、N-エチルトルエンスルホンアミドなどのカルボン酸アミドやスルホン酸アミドを挙げることが出来る。
その他、p-トルエンスルホン酸o-クレジルなどのようなスルホン酸エステル、トルエンジイソシアネートとエタノールやヘキシルアルコールなどのアルコールとの反応によるウレタンなどを挙げることが出来る。
ビスフェノールAのグリシジルエーテルなどのようなエーテルオリゴマーや、トルエンジイソシアネートと2価のアルコールと1価のアルコール混合物との反応によるウレタンオリゴマーなどの低分子量のオリゴマーも好ましい例として挙げられる。
その他、トリチルアルコールなども好ましい例として挙げられる。
これらの可塑効果を示す化合物の添加量は、セルロースアシレート100質量部に対して、5〜30質量部が好ましく、10〜25質量部がさらに好ましい。
可塑効果のある化合物の分子量は、好ましくは3000以下、より好ましくは、2000以下である。また、分子量が小さくなると加熱乾燥時の揮散量が増加するため、分子量は200以上が好ましい。
【0016】
[波長分散調整剤]
本発明のフィルムのRthを小さくすることが出来るが、セルロースアシレートのRthは波長により変化し、長波長側と短波長側の値が大きく異なる場合があり、波長400nmと700nmとのRth値が下記式(3)の関係であることが好ましい。
式(3) |Rth(700)−Rth(400)|≦25
光学特性の波長分散を変化させる化合物としては、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、シアノアクリレート、トリアジン骨格を主体とする化合物が好ましく、各種置換基で置換されても良い。以下に好ましい例を示すが、これらに限定されない。下記構造式中、Rは有機置換基、R’はH、OHあるいは有機置換基を示す。有機置換基としては炭素数1〜12のアルキル基、アリル基などが挙げられる。これらの化合物は200〜400nmの紫外領域に吸収があることが好ましく、可視領域には吸収が無いことが好ましい。
化合物1
【0017】
【化1】

【0018】
化合物2
【0019】
【化2】

【0020】
化合物3
【0021】
【化3】

【0022】
化合物4
【0023】
【化4】

【0024】
化合物1の例としては、2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−t−ブチル−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3−(3,4,5,6,テトラヒドロフタルアミド−メチル)−5−メチルフェニル]ベンゾトリアゾール、ベンゼンプロパン酸と3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシC7−9側鎖及び直鎖アルキルエステル、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェニル)−2H−ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
化合物2の例としては、2−ヒドロキシ−4−n−ヘクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメチトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メチトキシベンゾフェノン、などが挙げられる。
化合物3の例としては、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、(2−エチルヘキシル)−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、デシル−2−シアノ−3−(5−メトキシ−フェニル)アクリレートなどが挙げられる。
化合物4の例としては、2,4−ビス「2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル」−6−(2,4−ジブトキシフェニル)−1,3−5−トリアジン、2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−4,6−ビス−(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジンなどが挙げられる。
その他の化合物としては、フェニルサリシレート、トリルサリシレートなどのサリチル酸エステル、(2,4−ジ−t−ブチル)フェニル−(4−ヒドロキシ、3,5−ジ−t−ブチル)ベンゾエートなどのエステルなどの挙げられる。
ベンゾフェノン系、エステル系がより好ましい。
光学特性の波長分散を変化させる化合物を少なくとも1種、セルロースアシレート100質量部に対して0.1〜30質量%、より好ましくは0.2〜10質量%、さらに好ましくは0.5〜2質量%含むことによって光学フィルムのRthの波長分散を調整することができる。可視部の着色や|Rth(700)−Rth(400)|の値の観点から、添加量は上記範囲が好ましい。
【0025】
以下、本発明のセルロースアシレートフィルム、偏光板、液晶表示装置の一実施形態について順次説明する。
【0026】
1.セルロースアシレートフィルム
本発明のセルロースアシレートフィルムは主として偏光子の保護膜、光学補償フィルムの支持体として好適に用いられる。
【0027】
偏光子の保護膜としては、透明性、低光学異方性、適度な剛性といった物性が求められる。透過率は80%以上が好ましく、87%以上であることがさらに好ましい。ヘイズは2.0%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましい。屈折率は1.4乃至1.7であることが好ましい。
透過率、ヘイズは、ヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)を用いてJIS K−6714に従って測定できる。
屈折率は、アッベ屈折計(NAR−1T、株式会社アタゴ)を用いて測定できる。
【0028】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、具体的には発明協会公開技法2001−1745に記載されているセルロースアシレートを用いることが好ましい。
本発明に用いられるセルロースアシレートの原料綿は発明協会公開技法2001−1745等で公知の原料を用いることができる。また、セルロースアシレート素材は、木材化学180〜190頁(共立出版、右田他、1968年)等に公知の方法で合成することができる。セルロースアシレートの粘度平均重合度は200乃至700が好ましく250乃至500が更に好ましく250乃至350が最も好ましい。
粘度平均重合度は宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)に従い測定できる。粘度平均重合度の測定方法については、特開平9−95538号公報にも記載がある。
該セルロースアシレートのアシル基は特に制限は無いが、炭素数2〜4のものが好ましく、アセチル基、プロピオニル基を用いることが好ましく、特にアセチル基が好ましい。全アシル基の置換度は2.7乃至3.0が好ましく、2.8乃至2.95がさらに好ましい。全アシル基がアセチル基であるセルロースアセテートを用いる場合にはアセチル置換度が2.7乃至2.95が好ましく、2.8乃至2.95がさらに好ましく、2.84乃至2.92が最も好ましい。また、Re、Rthのばらつきが発生しにくいという観点から、6位のアシル基の置換度は0.9以上が好ましく用いられる。なお、本発明におけるアシル基の置換度はASTM D817に従って算出した値を採用する。
【0029】
本発明のセルロ−スアシレートフィルムのガラス転移温度は100℃以上160℃未満であることが好ましく、より好ましくは、120℃以上155℃未満である。ガラス転移温度はDSCや動的粘弾性の温度分散により測定することができる。
【0030】
本発明の光学フィルムは、波長630nmにおけるRe値が0nm以上20nm以下、好ましくは10nm以下、さらに好ましくは3nm以下であり、波長630nmにおけるRth値が10nm以下、好ましくは−20〜10nm、さらに好ましくは−10〜5nmである。
【0031】
本発明のセルロースアシレートフィルムはソルベントキャスト法により製造することが好ましい。Re、Rthのばらつきを低減する観点から、セルロースアシレート溶液の濃度は16質量%乃至30質量%が好ましく、18質量%乃至26質量%であることが望ましい。用いられる有機溶媒は特に限定されないが、塩素系溶剤、アルコール類、ケトン類、エステル類を混合したものが好ましく用いられる。塩素系溶剤としては、メチレンクロライド、クロロホルムが好ましい。アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、エステル類としては酢酸メチル、ケトン類としては、アセトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンが特に好ましく用いられる。
【0032】
セルロースアシレート溶液を調製するために、室温下でタンク中の溶剤を撹拌しながら上記セルロースアシレートを添加することで膨潤をまず行う。膨潤時間は10分以上であると不溶解物が残存しないため好ましい。また、溶剤の温度は0から40℃が好ましい。膨潤速度が低下せず、不溶解物が残存しないため0℃以上が好ましく、膨潤が急激に起こらず、中心部分が十分膨潤するため40℃以下好ましい。セルロースアシレートの溶解法は、冷却溶解法、高温溶解法のいずれか、あるいは両方を用いても良い。冷却溶解法、高温溶解法に関する具体的な方法は、発明協会公開技法2001−1745等に記載されている公知の方法を用いることができる。上記で得られたセルロースアシレート溶液は場合により、低い濃度で溶解した後に濃縮手段を用いて最適な濃度に濃縮する方法で調製することも好ましく行うことができる。
【0033】
ドープの調製工程において用途に応じた他の添加剤を加えることができる。それらの添加剤は、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、ヒンダードアミンなどの劣化防止剤、更には剥離剤、マット剤(酸化金属微粒子)等である。
【0034】
本発明のセルロースアシレートフィルムを製膜する方法及び設備は、従来セルローストリアセテートフィルム製造に供する溶液流延製膜方法及び溶液流延製膜装置が用いられる。溶解タンクから調製されたドープ(セルロースアシレート溶液)をストックタンクで一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製をする。ドープをドープ排出口から、高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の金属支持体(バンドやドラム)の上に均一に流延させ、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を金属支持体から剥離する。得られるウェブの両端をクリップで挟み、幅保持しながらテンターで搬送して乾燥し、続いて乾燥装置のロール群で搬送し乾燥を終了して巻き取り機で所定の長さに巻き取る。テンターとロール群の乾燥装置との組み合わせ、それぞれの温度およびそれぞれ時点の残留溶剤量はその目的により変化させることが出来る。
【0035】
本発明では所望のReにするために、テンターの出口の幅をテンター入口より拡張してフィルムを延伸することが出来る。延伸倍率は所望のReによって異なるが1.0乃至1.3倍が好ましく1.0乃至1.25倍がさらに好ましい。延伸時のフィルムの残留溶剤量は2質量%乃至35質量%が好ましく、2質量%乃至30質量%がさらに好ましい。残留溶剤量は、ツレシワが発生せず、フィルムが破断することがない点で2質量%以上が好ましく、延伸の効果が十分あり、Reの調整が可能である点で30質量%以下が好ましい。また、Reを調整するために搬送時のテンションをハンドリングに問題のない範囲で調整しても良い。
【0036】
本発明では、膜厚のばらつきを低減して光学異方性のばらつきを小さくするために、セルロースアシレート溶液を、金属支持体としての平滑なバンド上或いはドラム上に流延することが好ましく行われるが、複数のセルロースアシレート液を共流延しても良い。
【0037】
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造に係わる金属支持体上におけるドープの乾燥は、30乃至250℃で行うことが好ましく、40乃至180℃がさらに好ましく、40乃至140℃で行うことが最も好ましい。
【0038】
本発明の出来上がり(乾燥後)のセルロースアシレートフィルムの厚さは、20〜100μmの範囲であることが好ましく、更に20〜80μmの範囲が好ましく、特に30〜80μmの範囲が最も好ましい。フィルム厚さの調製は、所望の厚さになるように、ドープ中に含まれる固形分濃度、ダイの口金のスリット間隙、ダイからの押し出し圧力、金属支持体速度等を調節すればよい。また、厚みが50μm以下のトリアセチルセルロ−スフィルムを用いる場合には、特開2002-022961号に記載されているMD方向の破断伸度(23℃/60%RHの状態下)が0.75%以下のトリアセチルセルロ−スフィルムを用いることが好ましい。
セルロースアシレートフィルム中のCa、Fe、およびMg含有量を、特開平12-313766号に記載されている範囲としたり、フィルム両面でのATR分析による、1488cm-1付近の最大ピ−ク強度と1365cm-1付近の最大ピ−ク強度の比が、特開2002-258049号に記載されている範囲のトリアセチルセルロ−スフィルムを用いることも好ましい。
【0039】
(偏光板)
本発明のセルロースアシレートフィルムは偏光板の保護フィルムとして用いることが好ましい。一般的な偏光板は、偏光子およびその両側に配置された二枚の透明保護フィルムからなる。少なくとも一方の保護フィルムとして、本発明のセルロースアシレートフィルムを用いることができる。他方の保護フィルムは、通常のセルロースアセテートフィルムを用いてもよい。偏光子には、ヨウ素系偏光子、二色性染料を用いる染料系偏光子やポリエン系偏光子がある。ヨウ素系偏光子および染料系偏光子は、一般にポリビニルアルコール系フィルムを用いて製造する。本発明のセルロースアシレートフィルムを偏光板保護フィルムとして用いる場合、偏光板の作製方法は特に限定されず、一般的な方法で作製することができる。得られたセルロースアシレートフィルムあるいは通常のセルロースアセテートフィルムをアルカリ処理し、ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の両面あるいは片面ずつに完全ケン化ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号公報、特開平6−118232号公報に記載されているような易接着加工を施してもよい。保護フィルム処理面と偏光子を貼り合わせるのに使用される接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール系接着剤や、ブチルアクリレート等のビニル系ラテックス等が挙げられる。
本発明のセルロースアシレートフィルムの偏光子への貼り合せ方は、偏光子の吸収軸と本発明のセルロースアシレートフィルムの長手方向に貼り合せることが連続的に生産することが出来、好ましい。
【0040】
(光学補償フィルム)
さらに、本発明のセルロースアシレートフィルムの片面に光学補償層を設けることも出来る。光学補償層は、配向層と光学異方性層をこの順に有したものが好ましい。
配向層は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログループを有する層の形成のような手段で設けることができる。さらに電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により配向機能が生じる配向層も知られているが、ポリマーのラビング処理により形成する配向層が特に好ましい。ラビング処理はポリマー層の表面を紙や布で一定方向に数回こすることにより好ましく実施される。偏光子の吸収軸方向とラビング方向は実質的に平行であることが好ましい。配向層に使用するポリマーの種類は、ポリイミド、ポリビニルアルコール、特開平9−152509号公報に記載された重合性基を有するポリマー等を好ましく使用することができる。配向層の厚さは0.01〜5μmであることが好ましく、0.05〜2μmであることがさらに好ましい。
光学異方性層は液晶性化合物を含有していることが好ましい。本発明に使用される液晶性化合物はディスコティック化合物(ディスコティック液晶)や棒状液晶性化合物であることが特に好ましい。
【0041】
(ディスコティック液晶性化合物)
本発明に使用可能なディスコティック液晶性化合物の例には、様々な文献(C.Destrade et al.,Mol.Crysr.Liq.Cryst.,vol.71,page 111(1981);日本化学会編、季刊化学総説、No.22、液晶の化学、第5章、第10章第2節(1994);B.Kohne et al.,Angew.Chem.Soc.Chem.Comm.,page 1794(1985);J.Zhang et al.,J.Am.Chem.Soc.,vol.116,page 2655(1994))に記載の化合物が含まれる。ディスコティック液晶分子は、トリフェニレン誘導体ように円盤状のコア部を有し、そこから放射状に側鎖が伸びた構造を有している。また、経時安定性を付与するため、熱、光等で反応する基をさらに導入することも好ましく行われる。上記ディスコティック液晶の好ましい例は特開平8−50206号公報に記載されている。
【0042】
(棒状液晶性化合物)
本発明において、使用可能な棒状液晶性化合物の例には、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が含まれる。以上のような低分子液晶性化合物だけではなく、高分子液晶性化合物も用いることができる。
ディスコティック液晶分子は、配向層付近ではラビング方向にプレチルト角を持ってほぼフィルム平面に平行に配向しており、反対の空気面側ではディスコティック液晶分子が面に垂直に近い形で立って配向している。ディスコティック液晶層全体としては、ハイブリッド配向を取っており、この層構造によってTNモードのTFT−LCDの視野角拡大を実現することができる。
上記光学異方性層は、一般に液晶化合物及び他の化合物(更に、例えば重合性モノマー、光重合開始剤)を溶剤に溶解した溶液を配向層上に塗布し、乾燥し、次いでネマティック相形成温度まで加熱した後、UV光の照射等により重合させ、さらに冷却することにより得られる。
【0043】
また、光学異方性層は、非液晶性化合物を溶媒中に溶解させ、支持体上に塗布し、加熱乾燥させて作製した非液晶性ポリマー層でも良い。この場合、非液晶性化合物は例えば、耐熱性、耐薬品性、透明性に優れ、剛性にも富むことから、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリアリールエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド等のポリマーを用いることができる。これらのポリマーは、いずれか一種類を単独で使用してもよいし、例えば、ポリアリールエーテルケトンとポリアミドとの混合物のように、異なる官能基を持つ2種以上の混合物として使用してもよい。このようなポリマーの中でも、高透明性、高配向性、高延伸性であることから、ポリイミドが好ましい。また、支持体としては、TACフィルムが好ましい。
また、非液晶層と支持体の積層体を、1.05倍にテンター横軸延伸し、支持体側を偏光子に貼合することも好ましい。
さらには、光学異方性層は、選択反射の波長域が350nm以下であるコレステリック液晶の配向固化層であっても良い。コレステリック液晶としては、例えば特開平3−67219号公報や特開平3−140921号公報、特開平5−61039号公報や特開平6−186534号公報、特開平9−133810号公報などに記載された、前記の選択反射特性を示す適宜なものを用いうる。配向固化層の安定性等の点より好ましく用いうるものは、例えばコレステリック液晶ポリマーやカイラル剤配合のネマティック液晶ポリマー、光や熱等による重合処理で斯かる液晶ポリマーを形成する化合物などからなるコレステリック液晶層を形成しうるものである。
この場合の光学異方性層は、例えば支持基材上にコレステリック液晶をコーティングする方法などにより形成することができる。その場合、位相差の制御等を目的に必要に応じて、同種又は異種のコレステリック液晶を重ね塗りする方式なども採ることができる。コーティング処理には、例えばグラビア方式やダイ方式、ディッピング方式などの適宜な方式を採ることができる。
前記において光学異方性層の形成に際しては、液晶を配向させるための手段が採られる。その配向手段については特に限定はなく、液晶化合物を配向させうる適宜な手段を採ることができる。その例としては、配向膜上に液晶をコーティングして配向させる方式があげられる。またその配向膜としては、ポリマー等の有機化合物からなるラビング処理膜や無機化合物の斜方蒸着膜、マイクログルーブを有する膜、あるいはω−トリコサン酸やジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチルの如き有機化合物のラングミュア・ブロジェット法によるLB膜を累積させた膜などがあげられる。さらに光の照射で配向機能が生じる配向膜などもあげられる。一方、延伸フィルム上に液晶をコーティングして配向させる方式(特開平3−9325号公報)、電場や磁場等の印加下に液晶を配向させる方式などもなどもあげられる。なお液晶の配向状態は、可及的に均一であることが好ましく、またその配向状態で固定された固化層であることが好ましい。
これらの光学補償フィルムを、光学補償層を設けた側の反対側に偏光子を設けた上記の偏光板保護フィルムの片面とすることも可能である。
【0044】
作製した偏光板は、液晶表示装置の液晶セルに粘着剤などを介して張り合わせて用いられる。本発明のセルロースアシレートフィルムは、偏光板の液晶セル側の保護フィルムとして配置されていることが好ましい。
液晶セルの両側あるいは片側に用いることが出来、それぞれ光学特性の異なる組み合わせで用いることも可能である。
光学異方性の小さな本発明のセルロースアシレートフィルムは、特にIPSモードの液晶セルに好ましく用いられ、液晶セルの両側に設置されることが好ましい。また、光学補償層を設けたセルロースアシレートフィルムはVAモードやOCBモードに用いられる。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下の具体例に制限されるものではない。
【0046】
[実施例1]
(セルロースアシレート溶液の調製)
表1に示すような各種セルロースアシレートを用い、下記の組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、セルロースアシレート溶液を調製した。
【0047】
(セルロースアシレート溶液組成)
セルロースアシレート 100.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 400.0質量部
メタノール(第2溶媒) 60.0質量部
【0048】
光学的異方性を低下する化合物、可塑剤および波長分散調整剤については下記表1に示すものを表1に示す添加量になるように調整し、ミキシングタンクに投入し、攪拌して、各成分を溶解したものを上記セルロースアシレート溶液に混合し、それを、さらに固形分濃度が20質量%になるように調整したものをドープとした。
【0049】
(セルロースアシレートドープを用いた透明フィルムの作製)
上記セルロースアシレートドープを濾過後、バンド流延機を用いて流延した。残留溶剤量30%でフィルムをバンドから剥離し、テンター延伸、140℃で残留溶剤量が0.2質量%以下になるように乾燥させ、冷却、巻き取り、比較試料101、102、104、106、108〜110、112、113および本発明の透明フィルム試料103、105、107、111、114を作製した。作製したフィルムの膜厚は最終的に78〜82μmであった。
例115は114と同じ内容で、最終膜厚が42μmになる流延量を調整して作製した。
【0050】
【表1】

【0051】
表1中、PStはポリスチレン、PMMAはポリメタクリル酸メチル、TPPはリン酸トリフェニル、BDPはビフェニルジフェニルホスフェートを表す。
表1中の波長分散調整剤としては、下記構造の化合物を用いた。
ベンゾフェノン誘導体
【0052】
【化5】

【0053】
トリアゾール誘導体
【0054】
【化6】

【0055】
トリアジン誘導体
【0056】
【化7】

【0057】
(1−11)評価と結果
(1)フィルム透明性、泣出し性
ヘイズメーターを用いてヘイズ値、透過率測定器を用いて透明度を測定して評価した。
【0058】
(2)フィルムの光学特性
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。Re(λ)はKOBRA 21ADHまたはWR(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。
測定されるフィルムが1軸または2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレタデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレタデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレタデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレタデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(1)及び式(2)よりRthを算出することもできる。
【0059】
【数1】

【0060】
---式(1)
注記:
上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレタデーション値をあらわす。
式(1)におけるnxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表す。dはフィルムの膜厚を表す。
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d −−−式(2)
測定されるフィルムが1軸や2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレタデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
上記の測定において、平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHまたはWRはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx,ny,nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
ΔRthは下記式で定義される。
式(3) ΔRth=|Rth(700)−Rth(400)|
【0061】
(3)フィルムのガラス転移温度(Tg)
フィルム試料5mm×30mmを、25℃60%RHで2時間以上調湿した後に動的粘弾性測定装置(DVA−225(アイティー計測制御株式会社製))で、つかみ間距離20mm、昇温速度2℃/分、周波数1Hzで測定した時の動的貯蔵弾性率の温度依存性曲線における低温度側から高温度側に延長した直線と動的貯蔵弾性率が急激に低下した後の直線部分の勾配として接線との交点の温度をガラス転移温度として求めた。
(4)フィルムのヘイズ
ヘイズの測定は、本発明のセルロースアシレートフィルムを、25℃60%RHでヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)を用いてJIS K−6714に従って測定した。
(5)脆性の評価
トムソン打抜機の18cm×16cmのゴム製マット上に、フィルムサンプルを5枚重ねて置いて打ち抜き、4隅から内側に入る最も長いクラックの長さを測定し、打ち抜き加工適性で脆性を評価した。2mm以下を○、3mm以上を×で示す。
【0062】
【表2】

【0063】
表2に示すように、本発明のセルロースアシレートフィルムは、光学的な均一性を満足しており、かつ、Tgが高すぎず、取り扱い性も良好(脆くなくしなやか)であることがわかる。
【0064】
[実施例2]
試料101、105、114、115を保護膜として用いて偏光板、液晶表示装置を作製した(図1)。即ち、観察方向(上)から上側偏光板(保護膜:H1、偏光子:P1、保護膜:A1)、液晶セル(位相差フィルムA:L1、液晶層:L2、位相差フィルムB:L3)、下偏光板(保護膜:A2、偏光子:P2、保護膜:H2)を積層し、さらにバックライト光源(不図示)を配置した。
【0065】
<保護フィルム H1、2>
市販のセルロースアセテートフィルム(フジタックTD80UF、富士写真フイルム(株)製)を保護フィルムH1、2とした。
<偏光フィルム>
延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させた偏光フィルムを製作し、採用した。
【0066】
(偏光板の作製)
前記の透明フィルム試料101、105、114、115を、1.5規定の水酸化ナトリウム水溶液に、55℃で2分間浸漬し、室温の水洗浴槽中で洗浄し、30℃で0.1規定の硫酸を用いて中和した。再度、室温の水洗浴槽中で洗浄し、さらに100℃の温風で乾燥した。
続いて、厚さ80μmのロール状ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素水溶液中で連続して5倍に延伸し、乾燥して厚さ20μmの偏光膜を、ポリビニルアルコール(クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、前記のアルカリケン化した透明フィルム試料と保護フィルムとで偏光膜を間にして貼り合わせ、偏光板を作製した。
<IPSモード液晶セルの作製>
一枚のガラス基板上に、隣接する電極間の距離が20μmとなるように電極を配設し、その上にポリイミド膜を配向膜として設け、ラビング処理を行なった。別に用意した一枚のガラス基板の一方の表面にポリイミド膜を設け、ラビング処理を行なって配向膜とした。二枚のガラス基板を、配向膜同士を対向させて、基板の間隔(ギャップ;d1)を3.9μmとし、二枚のガラス基板のラビング方向が平行となるようにして重ねて貼り合わせ、次いで屈折率異方性(Δn)が0.0769および誘電率異方性(Δε)が正の4.5であるネマティック液晶組成物を封入した。液晶層のd1・Δnの値は300nmであった。
【0067】
(液晶表示装置)
作製した偏光板を、IPSモード液晶セルの両側に本発明のフィルムが液晶セル側に配置されるように粘着剤で積層した。視認側の偏光板は電圧無印加時に液晶セル内の液晶組成物の異常光屈折率方向と偏光板の吸収軸が直交するように積層した。またバックライト側の偏光板の吸収軸は視認側の偏光板の吸収軸と直行するように配置した。
【0068】
(評価)
このIPSパネルの黒表示の斜め45°方向での漏れ光と、色味の変化を観察した。保護膜A1に、105、112を用いた表示装置は、101を用いた表示装置に比較して漏れ光が小さいこと、斜めから見たときの色味の変化が小さいことが一目で確認できた。これは保護フィルムのReとRth値が小さいことによる効果である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の液晶表示装置の好ましい実施形態を模式的に示す概略図である。
【符号の説明】
【0070】
H1、H2 保護膜
P1、P2 偏光子
A1、A2 保護膜
L1 位相差フィルムA
L2 液晶層
L3 位相差フィルムB

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースアシレートが有する光学異方性を減少させる高分子添加剤、可塑効果のある化合物、光学特性の波長分散を変化させる化合物を含有するセルロースアシレートを含む光学フィルム。
【請求項2】
該高分子量添加剤の平均分子量が3000以上、可塑効果のある化合物の分子量が3000以下である請求項1記載の光学フィルム。
【請求項3】
該光学特性の波長分散を変化させる化合物は紫外線領域に吸収を持つ化合物であることを特徴とする請求項1ないし2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
該セルロ−スアシレートのアシル基が炭素数2乃至4であり、全置換度が2.7乃至3.0であることを特徴とする請求項1ないし3に記載の光学フィルム。
【請求項5】
該セルロ−スアシレートフィルムのガラス転移温度が100℃以上160℃未満であることを特徴とする請求項1ないし4に記載の光学フィルム。
【請求項6】
波長630nmにおけるRe値が0nm以上20nm以下、波長630nmにおけるRth値が−20nm以上10nm以下であることを特徴とする請求項1ないし5に記載の光学フィルム。
【請求項7】
波長400nmと700nmとのRth値が下記式(3)の関係であることを特徴とする請求項1ないし6に記載の光学フィルム。
式(3) |Rth(700)−Rth(400)|≦25
【請求項8】
偏光子の少なくとも片面に請求項1ないし7に記載の光学フィルムが設置されたことを特徴とする偏光板。
【請求項9】
請求項8に記載の偏光板を用いた液晶表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−52041(P2008−52041A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−228036(P2006−228036)
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】