説明

光学フィルムの製造方法、光学フィルム、偏光板及び表示装置

【課題】流延工程において、支持体と流延膜との密着性を向上させ、エアーの混入を抑制し、平面性に優れた、配向角偏差の少ない光学フィルムの製造方法、該製造方法で製造した光学フィルム、該光学フィルムを用いた偏光板及び表示装置を提供すること。
【解決手段】流延工程において、樹脂溶液を流延する前に、流延膜の幅方向両端部と接する支持体の表面の表面エネルギーが、流延膜の幅方向中央部と接する支持体の表面の表面エネルギーよりも高くなるように支持体の表面に活性化処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムの製造方法、光学フィルム、偏光板及び表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置は、その画質の向上や高精細化技術の向上により、テレビや大型モニターに使用されるようになってきており、特に、これら液晶表示装置の大型化や、効率生産によるコストダウン等の要望から、光学フィルムの広幅化、薄膜化、高速化が求められている。
【0003】
光学フィルムの製造方法としては、支持体上に、樹脂を含む溶液(以下、ドープとも言う。)を流延ダイから流延して流延膜を形成し、支持体上で流延膜中の溶剤をある程度、乾燥させた後、支持体上から流延膜を剥離して、乾燥し、その後巻き取る方法で光学フィルムを製造する溶液流延製膜法が用いられている。
【0004】
しかし、光学フィルムの製造速度の高速化、薄膜化、広幅化に伴って、支持体上に流延膜を形成する際に、支持体と流延膜との間にエアー(泡)が混入し、混入部がフィルム表面の平面性不良や膜厚不良を発生させる。また、増速に伴い減圧装置の減圧を下げていくことにより、同伴エアーとともに減圧装置外部雰囲気をも吸い込み、支持体から流延膜を流延する際に端部のバタツキを発生させる。このバタツキは、流延の際の幅手方向の支持体着地点の不均一を起こし、幅手で流延リボンの長さが異なり、そのためフィルムの配向角偏差大きくなって光学性能の低下原因となっている。
【0005】
このような問題に対して、特許文献1では、流延ダイから流延するドープと支持体との間に静電印加して流延膜と支持体との密着性を上げて、エアー混入を防止する方法が提案されている。
【0006】
また、特許文献2では、流延ダイの背面(支持体の搬送方向上流側)に減圧室を設けて流延膜が支持体に密着するようにしてエアーの混入を防止する方法が提案されている。しかし、特許文献2の減圧室を設ける方法では、流延膜の耳部(幅方向両端部)が、減圧室に向かう気流によりバタツキが発生し、その後の工程で搬送不良の原因となり、搬送方向の厚みムラが発生していた。減圧室を設けたときの耳部のバタツキの対策として、特許文献3では、流延ダイから流下した直後の流延膜の耳部に、溶媒を滴下して、耳部を揺れにくくすることでバタツキを防止する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4268286号公報
【特許文献2】特開2002−337174号公報
【特許文献3】特開2003−181857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の方法では、気化した溶剤が静電印加で爆発しないように流延ダイ周辺の酸素濃度を下げる必要があり、製造設備が大がかりとなると共に作業開始や途中での条件変更に時間がかかり作業効率が低下するという問題がある。また、特許文献3の方法では、近年のフィルムの薄膜化、製造速度の高速化に伴い、バタツキ抑制効果が小さくなり、耳部への滴下液量を多くしなければならない方向にある。滴下液量を多くすると、支持体上での耳部の乾燥が不十分となり、支持体からの剥離の際に剥離残りが生じ、膜厚不良や異物故障の原因となるという問題がある。
【0009】
従って、本発明の目的は、上記の問題点に鑑み、支持体上に流延膜を形成する際に、爆発の危険が無く、減圧による耳部のバタつきを抑制することによって、支持体と流延膜との密着性を向上させ、エアーの混入を抑制し、平面性に優れた、配向角偏差の少ない光学フィルムの製造方法、該製造方法で製造した光学フィルム、該光学フィルムを用いた偏光板及び表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の課題は、以下の手段により解決することができる。
【0011】
1.樹脂溶液を支持体の表面に流延して流延膜を形成する流延工程と、
前記支持体から前記流延膜を剥離する工程を有する光学フィルムの製造方法において、
前記樹脂溶液を流延する前に、前記流延膜の幅方向両端部と接する前記支持体の表面の表面エネルギーが、前記流延膜の幅方向中央部と接する前記支持体の表面の表面エネルギーよりも高くなるように前記支持体の表面に活性化処理を施すことを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【0012】
2.前記活性化処理が、大気圧プラズマ照射またはエキシマUV照射によることを特徴とする前記1に記載の光学フィルムの製造方法。
【0013】
3.前記活性化処理を施した後の、
前記流延膜の幅方向両端部と接する前記支持体の表面の表面エネルギーをγseとし、
前記流延膜の幅方向中央部と接する前記支持体の表面の表面エネルギーをγscとしたとき、その差Δγ(=γse−γsc)が、0.1〜60mN/mの範囲にあることを特徴とする前記1又は2に記載の光学フィルムの製造方法。
【0014】
4.前記流延膜の幅方向中央部と接する前記支持体の表面の表面エネルギーよりも高い表面エネルギーを有する前記支持体の表面と接する前記流延膜の幅方向両端部からのそれぞれの幅が、前記流延膜の幅をWrとして、0.05Wr〜0.25Wrの範囲であることを特徴とする前記1から3の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0015】
5.前記支持体は、エンドレスベルト、ドラムあるいはロールの何れかであることを特徴とする前記1から4の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0016】
6.前記1から5の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法で製造されたことを特徴とする光学フィルム。
【0017】
7.前記6に記載の光学フィルムを、少なくとも一方の面に有することを特徴とする偏光板。
【0018】
8.前記7に記載の偏光板を用いることを特徴とする表示装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法において、樹脂溶液を支持体上に流延する前に、流延膜の幅方向両端部と接する支持体の表面の表面エネルギーが、流延膜の幅方向中央部と接する支持体の表面の表面エネルギーよりも高くなるように支持体の表面に活性化処理を施すことで、流延工程におけるエアーの混入を防止しすることができる。これにより、支持体からフィルムを流延する際のフィルム端部バタツキも抑制されるので、フィルムの配向角偏差を少なくすることができ、平面性に優れた光学特性を有する光学フィルムを製造する製造方法、光学フィルム、偏光板及び表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明における溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法を実施する装置の第1の実施の形態を示す構成図である。
【図2】金属支持体の表面の活性化処理領域と、流延膜の両端部が重なる領域を説明するための平面図である。
【図3】本発明における溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法を実施する装置の第2の実施の形態を示す構成図である。
【図4】本実施の形態の光学フィルムの製造方法において使用する大気圧プラズマ装置の原理を説明するための説明図である。
【図5】本実施の形態の光学フィルムの製造方法において使用するエキシマUV装置の原理を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
つぎに、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
本実施の形態による光学フィルムの製造方法は、溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法であって、樹脂溶液(ドープ)を支持体上に流延して流延膜(ウェブ)を形成し、溶剤の一部を蒸発させた後に、支持体から剥離する工程を含み、樹脂溶液を流延する前に、流延膜の幅方向両端部と接する支持体の表面の表面エネルギーが、流延膜の幅方向中央部と接する支持体の表面の表面エネルギーよりも高くなるように支持体の表面に活性化処理を施し、該活性化処理を施した支持体の表面に樹脂溶液を流延するものである。
【0023】
本実施の形態による光学フィルムの製造方法によれば、樹脂溶液を流延する前に、流延膜の幅方向両端部と接する支持体の表面の表面エネルギーを高めるための活性化処理を支持体の表面に施すことにより、従来、フィルムの生産性を低下させていた流延時のウェブへのエアーの混入を防ぎ、また、流延時のバタツキを抑制することができた。
【0024】
また、流延時のバタツキを抑制することで、流延リボンの幅手の長さが均一となり、フィルムの配向角偏差を小さくすることができた。
【0025】
これは、流延膜の幅方向両端部と接する支持体の表面の表面エネルギーを高める活性化処理を施した後に、支持体上にドープを流延することで、流延膜の幅方向両端部と支持体表面との密着性(接液性)が、より向上したためであると考えられる。この場合、流延膜の幅方向両端部と接する支持体の表面の表面エネルギーと、流延膜の幅方向中央部と接する支持体の表面の表面エネルギーとが同じ表面エネルギーになるように活性化すると、流延リボン長さは短くなるが、減圧チャンバ端部流入風によるバタつきから生じる中央部と端部との流延リボン長さの差は変わらず配向角偏差を無くすまでには至らない。
【0026】
流延膜の幅方向両端部と接する支持体の表面の表面エネルギーを高めるための活性化処理としては、大気圧プラズマ照射またはエキシマUV照射により処理するのが好ましい。このような処理をすることで、流延膜の幅方向両端部と接する支持体の表面の表面エネルギーを適度に高めることができ好ましい。
【0027】
また、活性化処理を施した後の、流延膜の幅方向両端部と接する支持体の表面の表面エネルギーをγseとし、流延膜の幅方向中央部と接する前記支持体の表面の表面エネルギーをγscとしたとき、その差Δγ(=γse−γsc)が0.1〜60mN/mの範囲にあることが好ましい。このような範囲にすることで、支持体の両端部の密着性を向上させ、流延リボンの幅手長さを均一化し、高速・広幅生産下においてもより配向角偏差の小さい光学的に優れたフィルムを生産することができる。
【0028】
また、支持体の表面に樹脂溶液を流延した流延膜の幅をWrとした時、流延膜の幅方向中央部と接する支持体の表面の表面エネルギーより高い表面エネルギーを有する支持体の表面と接する流延膜の幅方向両端部からの幅が、それぞれ0.05Wr〜0.25Wrの範囲であることが好ましい。このような範囲にすることで、支持体の両端部での接液性を向上させると共に、支持体からの剥離をより安定して行うことができる。
【0029】
また、支持体の表面エネルギーの測定は、水、ニトロメタン及びヨウ化メチレンとの接触角を測定し、これらの値からヤング・フォークズの式を用いて算出することができる。具体的には、協和界面科学株式会社製の接触角計等を用いて測定することができる。
【0030】
図1は、本発明における溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法を実施する光学フィルム製造装置100の第1の実施の形態を示す構成図である。本第1の実施の形態においては、金属支持体として、エンドレスベルトを用いた場合を例示する。なお、本実施の形態は、以下に示す図面の構成に限定されるものではない。
【0031】
図1において、まず、ドープタンク1で、例えばセルロースエステル系樹脂を、良溶媒及び貧溶媒の混合溶媒に溶解し、これに可塑剤や紫外線吸収剤等の添加剤を添加してドープを調製する。
【0032】
ついで、ドープタンク1で調整されたドープを、送液ポンプ2を通して、導管によって流延ダイ3に送液し、例えば回転駆動式のエンドレスベルトよりなる金属支持体7上の流延位置に、流延ダイ3からドープ1aを流延する。
【0033】
流延ダイ3によるドープ1aの流延には、流延された流延膜(ウェブとも言う。)1bの膜厚をブレードで調節するドクターブレード法、あるいは逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等があるが、口金部分のスリット形状を調整でき、膜厚を均一にしやすい加圧ダイを用いる方法が好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があるが、何れも好ましく用いられる。
【0034】
流延ダイ3の支持体移動方向上流側には、金属支持体7表面の幅方向両端部の表面に表面エネルギーを高めるための活性化処理を施すための活性化処理装置200が配置されている。
【0035】
活性化処理装置200により、流延膜1bの幅方向両端部と接する金属支持体7の表面の表面エネルギーが、流延膜1bの幅方向中央部と接する金属支持体7の表面の表面エネルギーよりも高くなるように金属支持体7の表面に活性化処理を施す。
【0036】
図2は、金属支持体7の表面の表面エネルギーが高くなった領域である活性化処理領域と、流延膜1bの両端部が重なる領域を説明するため、図1の活性化処理装置200及び流延ダイ3の周辺を上部からみた平面図である。金属支持体7の幅方向両端部の表面に活性化処理装置200により、幅Wkの活性化領域を形成し、その後流延ダイ3により流延幅Wrの流延膜を形成する。この時、流延膜Wrの両端部Sと、Sから流延膜中央部へそれぞれWrkの幅が活性化領域Wkと重なっている。
【0037】
活性化領域Wkは、均一な表面エネルギーの値を示すように処理しても良いし、また、不均一な値になる処理でも良く、流延膜1bの幅方向両端部Sと接する金属支持体7の表面の表面エネルギーが、流延膜1bの幅方向中央部Tと接する金属支持体7の表面の表面エネルギーよりも高くなるように金属支持体7の表面に活性化処理を施せば良い。また、本実施形態では、支持体の両端部付近を活性化処理装置により活性化しているが、中央部付近を活性化処理装置で活性化しても良く、流延膜1bの幅方向両端部Sと接する金属支持体7の表面の表面エネルギーが、流延膜1bの幅方向中央部Tと接する金属支持体7の表面の表面エネルギーよりも高くなるようにすれば良い。
【0038】
また、流延ダイ3の上流側に減圧室を設けて、流延膜が支持体により密着するようにしても良い。
【0039】
ここで、ドープの固形分濃度が、15〜30質量%であるのが、好ましい。ドープの固形分濃度が、15質量%未満であれば、金属支持体7上で充分な乾燥ができず、剥離時にウェブの一部が金属支持体7上に残る恐れがあり、ベルト汚染につながるため、好ましくない。またドープの固形分濃度が30%を超えると、ドープ粘度が高くなり、ドープ調製工程でフィルター詰まりが早くなったり、金属支持体7上への流延時に圧力が高くなり、押し出せなくなるため、好ましくない。
【0040】
金属支持体7として回転駆動式のエンドレスベルトを具備する図示の光学フィルム製造装置では、金属支持体7は、前後一対のドラム5、5及び中間の複数のロール(図示略)により保持されている。
【0041】
回転駆動式のエンドレスベルトよりなる金属支持体7の両端巻回部のドラム5、5の一方、もしくは両方には、金属支持体7に張力を付与する図示しない駆動装置が設けられ、これによって金属支持体7は張力が掛けられて張った状態で使用される。
【0042】
金属支持体7の幅は1700〜2500mm、ドープの流延幅は1200〜2400mm、巻き取り後のフィルム9の幅は1100〜2500mmであるのが好ましい。これにより、金属支持体7を用いる製膜方法によって幅の広い液晶表示装置用光学フィルムを製造することができる。
【0043】
また、金属支持体7の移動速度は40〜200m/minであるのが、好ましい。
【0044】
金属支持体7として回転駆動式のエンドレスベルトを用いる場合には、製膜時のベルト温度は、一般的な温度範囲0℃〜溶剤の沸点未満の温度、混合溶剤では最も沸点の低い溶剤の沸点未満の温度で流延することができ、さらには5℃〜溶剤沸点−5℃の範囲が、より好ましい。このとき、周囲の雰囲気湿度は露点以上に制御する必要がある。
【0045】
上記のようにして金属支持体7表面に流延されたウェブ1bは、剥ぎ取りまでの間で乾燥が促進されることによっても強度が増加する。
【0046】
金属支持体7として回転駆動式のエンドレスベルトを用いる方式においては、ウェブ1bが金属支持体7から剥離ロール8によって剥離可能な膜強度となるまで、金属支持体7上で乾燥固化させる。従って、ウェブ1b中の残留溶媒量が150質量%以下まで乾燥させるのが好ましく、80〜120質量%が、より好ましい。また、金属支持体7からウェブ1bを剥離するときのウェブ温度は、0〜30℃が好ましい。また、ウェブ1bは、金属支持体7からの剥離直後に、金属支持体7に密着した面側からの溶媒蒸発で温度が一旦急速に下がり、雰囲気中の水蒸気や溶剤蒸気等揮発性成分がコンデンスしやすいため、剥離時のウェブ温度は5〜30℃がさらに好ましい。
【0047】
ここで、ウェブ1bの残留溶媒量は、下記の式で表わせる。
【0048】
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
式中、Mはウェブ1bの任意時点での質量、Nは質量Mのものを温度110℃で、3時間乾燥させたときの質量である。
【0049】
金属支持体7上に流延されたドープ1aにより形成されたウェブ1bを金属支持体7上で加熱し、金属支持体7から剥離ロール8によってウェブ1bが剥離可能になるまで溶媒を蒸発させる。
【0050】
溶媒を蒸発させるには、ウェブ1b側から風を吹かせる方法や、金属支持体7の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があり、適宜、単独であるいは組み合わせて用いればよい。
【0051】
金属支持体7に回転駆動式のエンドレスベルトを用いる方式においては、金属支持体7からウェブ1bを剥離ロール8によって剥離する際の剥離張力は、JISZ0237のような剥離力測定で得られる剥離力より大きな張力で剥がしているが、これは高速製膜時に、剥離張力をJIS測定法で得られた剥離力と同等にすると剥離位置が下流側に持っていかれたりする場合があるため、安定化のため高めで行っている。但し、工程で同じ剥離張力で製膜していても、JIS測定方法による剥離力が下がると、フィルムのクロスニコル透過率(CNT)のバラツキが大きく低減することも確かめられている。
【0052】
工程での剥離張力値としては、通常、50N/m〜250N/mで剥離が行われるが、従来よりも薄膜化されている本実施の形態により作製された光学フィルムでは、剥離の際にウェブ1bの残留溶媒量が多く、搬送方向に伸びやすいために、幅手方向にフィルムは縮みやすく、乾燥と縮みが重なると、端部がカールし、折れ込むことにより、シワが入りやすい。そのため、剥離できる最低張力〜170N/mで剥離することが好ましく、さらに好ましくは、最低張力〜140N/mで剥離することがよい。
【0053】
本実施の形態において、金属支持体7上でウェブ1bが剥離可能な膜強度となるまで乾燥固化させた後に、ウェブ1bを剥離ロール8によって剥離し、ついで、後述する延伸工程のテンター12においてウェブ1bを延伸してフィルム9とする。
【0054】
図3は、本発明における溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法を実施する光学フィルム製造装置100の第2の実施の形態を示す構成図でえる。本第2の実施の形態においては、金属支持体6として、例えば表面にハードクロムメッキ処理を施したステンレス鋼製の回転駆動式のドラムを用いた場合を例示する。
【0055】
なお、図3の光学フィルム製造装置100のその他の点は、上記図1の光学フィルム製造装置100の場合と同様であるので、図面において同一のものには、同一の符号を付し、説明は省略する。
【0056】
第1及び第2の実施の形態の光学フィルムの製造方法は、金属支持体6あるいは7の表面を、ドープ1aを流延する前に、図2に示した両端部において、大気圧プラズマ処理またはエキシマUV処理により金属支持体6あるいは7の表面に表面エネルギーを高める活性化処理を施し、その上にドープ1aを流延し、流延した流延膜(ドープ)1bの両端部が活性化処理を施した領域と重なるようにするものである。
【0057】
ここで、大気圧プラズマ処理またはエキシマUV処理による活性化処理を行う場所は、ドープ1aを金属支持体6あるいは7上に流延して製膜中の場合は、図1及び図3に符号「A」で示した区間で行う。すなわち、金属支持体6あるいは7からウェブ1bが剥離ロール8によって剥離され、その後に再び流延ダイ3からドープ1aが流延される間の、金属支持体6あるいは7の表面が、いわゆるむき出しになる区間に限られる。
【0058】
つぎに、第1及び第2の実施の形態において、表面エネルギーを高めるための活性化処理を行うための表面処理装置200の一例として、大気圧プラズマ処理に用いられる大気圧プラズマ装置20について、詳細に説明する。
【0059】
本実施の形態における大気圧プラズマ装置20は、対向する電極間に、高周波電圧を印加して放電させることにより、反応性ガスをプラズマ状態とし、金属支持体表面をこのプラズマ状態の反応性ガスに晒すことによって、金属支持体の表面に表面エネルギーの高い領域を形成させるものである。
【0060】
大気圧プラズマ装置には、被処理基板をはさむように対向配置された電極間に高周波電力を加えて、供給ガスをプラズマ化するダイレクト方式あるいはプラナー方式と呼ばれる方式と、反応性ガスを高周波電圧が加えられた電極の間を通して導入し、プラズマ化するリモート式あるいはダウンストリーム方式と呼ばれる方式とがあり、いずれの方式も本発明に使える。
【0061】
図4は、大気圧プラズマ装置20の原理を説明するための説明図である。
【0062】
図4において、a、bは大気圧プラズマ装置20の対向電極、gは反応ガス、dはプラズマの憤射供給を行う吹き出しスリットhから金属支持体s表面までの間隙、sは製膜の対象である金属支持体、hはプラズマの憤射供給を行う吹き出しスリットである。
【0063】
図4における大気圧プラズマ装置の簡単な構造として、高周波電圧が加えられた対向電極a、b間に、反応ガスgを導入、通過させてプラズマ化し、金属支持体s表面に噴射供給し、表面エネルギーを高める。
【0064】
本実施の形態においては、ハイパワーの電圧を印加して、均一なグロー放電状態を保つことができる電極a、bを大気圧プラズマ装置20に採用する必要がある。
【0065】
このような電極a、bとしては、金属母材上に誘電体を被覆したものであることが好ましい。少なくとも対向する印加電極とアース電極の片側に誘電体を被覆すること、さらに好ましくは、対向する印加電極とアース電極の両方に誘電体を被覆することである。誘電体としては、比誘電率が6〜45の無機物であることが好ましく、このような誘電体としては、アルミナ、窒化珪素等のセラミックス、あるいは、ケイ酸塩系ガラス、ホウ酸塩系ガラス等のガラスライニング材等が挙げられる。
【0066】
また、透明フィルム基材であるセルロースエステルフィルムを、電極間に載置あるいは電極間を搬送してプラズマに晒す場合には、透明フィルム基材を片方の電極に接して搬送できるロール電極仕様にするだけでなく、さらに、誘電体表面を研磨仕上げし、電極の表面粗さRmax(JIS B 0601)を10μm以下にすることで、誘電体の厚み、及び電極間のギャップを一定に保つことができ、放電状態を安定化できること、さらに熱収縮差や残留応力による歪やひび割れを無くし、かつポーラスで無い高精度の無機誘電体を被覆することで、大きく耐久性を向上させることができるため、好ましい。
【0067】
また、プラズマの噴射供給を行う吹き出しスリットhと金属支持体sの表面との間隙dは、0.5〜6mmが好ましく、さらには、1〜4mmがより好ましい。近づけすぎると、金属支持体(s)の表面に接触、損傷させる危険があり、離しすぎると、表面エネルギーを高める効果が弱くなる。
【0068】
また、反応ガスgには、窒素や酸素、アルゴン、ヘリウム等種々のものが利用可能であるが、環境面、排気の後処理、ランニングコストの観点から、窒素が好ましく、さらには窒素に微量の酸素を混合する好ましい。酸素の混合比率は、反応ガスgの体積に対して2体積%以下が望ましい。
【0069】
また、大気圧プラズマ装置20の外部より、金属支持体(s)の表面に前記の原料ガスを吹き付け、金属支持体(s)の表面に同伴させて大気圧プラズマ装置20の下まで送り込み、活性化処理を行っても良い。
【0070】
その場合、大気圧プラズマ装置20の周辺の原料ガス濃度は、500ppmから100,000ppmの範囲が好ましく、さらには、1000から50,000ppmがより好ましい。
【0071】
また、大気圧プラズマの原料ガスの風量は、プラズマ照射の有効幅1m当たり、2×10−2〜5m/minが望ましい。さらには、4×10−2〜2.5m/minがより好ましい。
【0072】
また、大気圧プラズマ装置20では、誘導電流あるいは放電による金属支持体(s)表面の粗面化等のダメージが懸念されるため、シールド機構を有する装置を用いるのが望ましい。特に、溶液流延製膜法による製膜では、金属支持体(s)表面のnmオーダーの傷でもフィルムにすべて転写してしまうため、このような対策を施した装置の使用が重要である。
【0073】
つぎに、第1及び第2の実施の形態において、表面の活性化処理を行うための表面処理装置200の一例として、エキシマUV処理に用いられるエキシマUV装置30について、詳細に説明する。
【0074】
図5は、エキシマUV装置(30)の原理を説明するための説明図である。
【0075】
図5において、uはエキシマUVランプ、qはエキシマUVランプuを覆う石英ガラス、pはパージガス、d2は石英ガラスqから金属支持体s表面までの間隙、sは金属支持体である。
【0076】
本実施の形態においては、図4に示すエキシマUVランプuを用いて、主として波長が172nmの紫外線を1〜3,000mJ/cmの光量で、金属支持体sに照射するものである。
【0077】
また、石英ガラスqと金属支持体sとの間隙d2は、近づけすぎると金属支持体sの表面に接触、損傷させる危険があり、離しすぎると、雰囲気中の酸素や水に、エキシマUVの高エネルギーが吸収されてしまい、金属支持体sの表面の活性化処理の効果が弱くなるため、0.5〜4mmが好ましく、さらには、1〜3mmがより好ましい。
【0078】
上述した大気圧プラズマ装置20やエキシマUV装置30等の、金属支持体sの表面の活性化処理ための表面処理装置200を、光学用途のフィルム製膜ラインに持ち込む場合には、クリーン度維持の対策が課題となる。特に、構造上、発塵したものをフィルム製膜ライン内に吐き出す構造の大気圧プラズマ装置20では、クリーン度維持の対策が重要である。
【0079】
図1において、ドープ1aを流延する金属支持体7は、例えばステンレス鋼(SUS316やSUS304)製のエンドレスベルトであり、図3において、ドープ1aを流延する金属支持体6は、例えばステンレス鋼製のドラムあるいはロールの表面にハードクロムメッキ処理を施したドラムである。本実施の形態では、表面を超鏡面に研磨した金属支持体6または7を用い、これらの表面側の図2に示す両端部に活性化処理を行うものである。
【0080】
本実施の形態の方法によれば、金属支持体の幅方向両端部の表面に表面エネルギーを高めるための活性化処理を施し、該活性化処理を施した支持体の幅方向両端部の表面に流延膜の幅方向両端部がかかるように樹脂溶液を流延することで、流延工程におけるエアーの混入を防止しすることができる。これにより、支持体からフィルムを流延する際の端部バタツキも抑制されるので、フィルムの配向角偏差を少なくすることができ、透明性、平面性に優れた光学特性を有する光学フィルムを製造することができる。また、安定した流延性を得られるので生産速度を上げることができて、フィルムの生産性を向上することができる。ひいては近年の偏光板用保護フィルム等の薄膜化、広幅化、及び高品質化の要求に応えることができる光学フィルムの製造方法、光学フィルム、偏光板及び表示装置を提供することができる。
【0081】
本発明において、光学フィルムの配向角偏差は、例えば王子計測機器株式会社製の位相差測定装置(商品名KOBRA−WR)を用い、例えばフィルム両端部から100mm、及びフィルム幅中央部の配向角を測定し、それらの最大値、最小値の差を偏差とした。
【0082】
本実施の形態において、光学フィルムを製造するためのドープ1aは、主材としてセルロースエステル樹脂等の樹脂を含み、これらに、可塑剤、リタデーション調整剤、紫外線吸収剤、微粒子、及び低分子量物質のうちの少なくとも1種以上の物質と、溶媒とを含むものである。
【0083】
以下、これらについて説明する。
【0084】
本実施の形態の光学フィルムの製造方法においては、フィルム材料として、種々の樹脂を用いることができるが、中でもセルロースエステルが好ましい。
【0085】
セルロースエステルは、セルロース由来の水酸基がアシル基等で置換されたセルロースエステルである。例えば、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレート等のセルロースアシレートや、脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテート等が挙げられる。中でも、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートが好ましい。本実施の形態の効果を阻害しない範囲であれば、その他の置換基が含まれていてもよい。
【0086】
セルローストリアセテートの例としては、アセチル基の置換度が2.0以上3.0以下であることが好ましい。置換度をこの範囲にすることで、良好な成形性が得られ、かつ所望の面内方向リタデーション(Ro)、及び厚み方向リタデーション(Rt)を得ることができる。アセチル基の置換度が、この範囲より低いと、位相差フィルムとしての耐湿熱性、特に湿熱下での寸法安定性に劣る場合があり、置換度が大きすぎると、必要なリタデーション特性が発現しなくなる場合がある。
【0087】
本実施の形態に用いられるセルロースエステルの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフ等を挙げることができる。また、それらから得られたセルロースエステルは、それぞれ任意の割合で混合使用することができる。
【0088】
本実施の形態において、セルロースエステルの数平均分子量は、60,000〜300,000の範囲が、得られるフィルムの機械的強度が強く好ましい。さらに70,000〜200,000が好ましい。
【0089】
本実施の形態において、セルロースエステルには、種々の添加剤を配合することができる。
【0090】
本実施の形態による光学フィルムの製造方法では、セルロースエステルと厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤とを含有するドープ組成物を用いるのが、好ましい。
【0091】
本実施の形態において、セルロースエステルフィルムの厚み方向リタデーション(Rt)を低減することが、IPS(In−Plane−Switching;面内応答)モードで動作する液晶表示装置の視野角拡大の意味において重要であるが、本実施の形態において、このような厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としては、下記のものが挙げられる。
【0092】
一般に、セルロースエステルフィルムのリタデーションは、セルロースエステル由来のリタデーションと、添加剤由来のリタデーションの和として現れる。従って、セルロースエステルのリタデーションを低減させるための添加剤とは、セルロースエステルの配向を乱し、かつ自身が配向しにくい及び/または分極率異方性が小さい添加剤が厚み方向リタデーション(Rt)を効果的に低下させる化合物である。従って、セルロースエステルの配向を乱すための添加剤としては、芳香族系化合物より、脂肪族系化合物が好ましい。
【0093】
ここで、具体的なリタデーション低減剤として、例えば、つぎの一般式(1)または(2)で表わされるポリエステルが挙げられる。
【0094】
一般式(1) B1−(G−A−)mG−B1
一般式(2) B2−(G−A−)nG−B2
上記式中、B1はモノカルボン酸成分を表わし、B2はモノアルコール成分を表わし、Gは2価のアルコール成分を表わし、Aは2塩基酸成分を表わし、これらによって合成されたことを表わす。B1、B2、G、及びAは、いずれも芳香環を含まないことが特徴である。m、nは、繰り返し数を表わす。
【0095】
B1で表わされるモノカルボン酸成分としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸等を用いることができる。
【0096】
好ましいモノカルボン酸の例としては、以下のようなものを挙げることができるが、本実施の形態はこれに限定されるものではない。
【0097】
肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることがさらに好ましく、炭素数1〜12であることが特に好ましい。酢酸を含有させると、セルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0098】
好ましいモノカルボン酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0099】
B2で表わされるモノアルコール成分としては、特に制限はなく、公知のアルコール類を用いることができる。例えば炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪族飽和アルコールまたは脂肪族不飽和アルコールを好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることがさらに好ましく、炭素数1〜12である
ことが特に好ましい。
【0100】
Gで表わされる2価のアルコール成分としては、以下のようなものを挙げることができるが、本実施の形態はこれに限定されるものではない。例えばエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,5−ペンチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等を挙げることができるが、これらのうち、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールが好ましく、さらに、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコールが好ましく用いられる。
【0101】
Aで表わされる2塩基酸(ジカルボン酸)成分としては、脂肪族2塩基酸、脂環式2塩基酸が好ましく、例えば脂肪族2塩基酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸等、特に、脂肪族カルボン酸としては、炭素数4〜12を有するもの、これらから選ばれる少なくとも1つのものを使用する。つまり、2種以上の2塩基酸を組み合わせて使用してよい。
【0102】
上記の一般式(1)または(2)における繰り返し数m、nは、1以上で170以下が好ましい。
【0103】
ポリエステルの質量平均分子量は、20,000以下が好ましく、10,000以下であることがさらに好ましい。特に質量平均分子量が500〜10,000のポリエステルは、セルロースエステルとの相溶性が良好で、製膜において蒸発も揮発も起こらない。
【0104】
ポリエステルの重縮合は常法によって行われる。例えば上記2塩基酸とグリコールの直接反応、上記の2塩基酸またはこれらのアルキルエステル類、例えば2塩基酸のメチルエステルとグリコール類とのポリエステル化反応またはエステル交換反応により熱溶融縮合法か、あるいはこれらの酸の酸クロライドとグリコールとの脱ハロゲン化水素反応の何れかの方法により用意に合成し得るが、質量平均分子量がさほど大きくないポリエステルは直接反応によるのが、好ましい。低分子量側に分布が高くあるポリエステルは、セルロースエステルとの相溶性が非常によく、フィルム形成後、透湿度も小さく、しかも透明性に富んだセルロースエステルフィルムを得ることができる。
【0105】
分子量の調節方法は、特に制限がなく、従来の方法を使用できる。例えば、重合条件にもよるが、1価の酸または1価のアルコールで分子末端を封鎖する方法により、これらの1価の酸またはアルコールの添加する量によりコントロールできる。この場合、1価の酸がポリマーの安定性から好ましい。例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸等を挙げることができるが、重縮合反応中には系外に溜去せず、停止して、このような1価の酸を反応系外に除去するときに溜去しやすいものが選ばれる。これらを混合使用しても良い。また、直接反応の場合には、反応中に溜去してくる水の量により反応を停止するタイミングを計ることよっても質量平均分子量を調節できる。その他、仕込むグリコールまたは2塩基酸のモル数を偏らせることよってもできるし、反応温度をコントロールしても調節できる。
【0106】
上記一般式(1)または(2)で表わされるポリエステルは、セルロースエステルに対し、1〜40質量%含有するのが好ましい。特に5〜15質量%含有するのが好ましい。
【0107】
本実施の形態において、厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としては、さらに下記のものが挙げられる。
【0108】
本実施の形態の光学フィルムの製造に使用するドープは、主に、セルロースエステル、リタデーション(Rt)を低減する添加剤としてのポリマー(エチレン性不飽和モノマーを重合して得られるポリマー、アクリル系ポリマー)、及び有機溶媒を含有する。
【0109】
本実施の形態において、厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としてのポリマーを合成するには、通常の重合では分子量のコントロールが難しく、分子量をあまり大きくしない方法でできるだけ分子量を揃えることのできる方法を用いることが望ましい。かかる重合方法としては、クメンペルオキシドやt−ブチルヒドロペルオキシドのような過酸化物重合開始剤を使用する方法、重合開始剤を通常の重合より多量に使用する方法、重合開始剤の他にメルカプト化合物や四塩化炭素等の連鎖移動剤を使用する方法、重合開始剤の他にベンゾキノンやジニトロベンゼンのような重合停止剤を使用する方法、さらに特開2000−128911号公報または特開2000−344823号公報にあるような一つのチオール基と2級の水酸基とを有する化合物、あるいは該化合物と有機金属化合物とを併用した重合触媒を用いて塊状重合する方法等を挙げることができ、何れも本実施の形態において好ましく用いられるが、特に、該公報に記載の方法が好ましい。
【0110】
本実施の形態において、有用な厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としてのポリマーを構成するモノマー単位としてのモノマーを下記に挙げるがこれに限定されない。
【0111】
エチレン性不飽和モノマーを重合して得られる厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としてのポリマーを構成するエチレン性不飽和モノマー単位としては、まず、ビニルエステルとして、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、オクチル酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等が挙げられる。
【0112】
つぎに、アクリル酸エステルとして、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェネチル、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸−p−ヒドロキシメチルフェニル、アクリル酸−p−(2−ヒドロキシエチル)フェニル等;メタクリル酸エステルとして、上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたものが挙げられる。
【0113】
さらに、不飽和酸として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸等を挙げることができる。
【0114】
上記モノマーで構成されるポリマーはコポリマーでもホモポリマーでもよく、ビニルエステルのホモポリマー、ビニルエステルのコポリマー、ビニルエステルとアクリル酸またはメタクリル酸エステルとのコポリマーが好ましい。
【0115】
本実施の形態において、アクリル系ポリマーという(単にアクリル系ポリマーという)のは、芳香環あるいはシクロヘキシル基を有するモノマー単位を有しないアクリル酸またはメタクリル酸アルキルエステルのホモポリマーまたはコポリマーを指す。
【0116】
芳香環及びシクロヘキシル基を有さないアクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−メトキシエチル)、アクリル酸(2−エトキシエチル)等、または上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたものを挙げることができる。
【0117】
アクリル系ポリマーは、上記モノマーのホモポリマーまたはコポリマーであるが、アクリル酸メチルエステルモノマー単位が30質量%以上を有していることが好ましく、また、メタクリル酸メチルエステルモノマー単位が40質量%以上有することが好ましい。特にアクリル酸メチルまたはメタクリル酸メチルのホモポリマーが好ましい。
【0118】
上述のエチレン性不飽和モノマーを重合して得られるポリマー、アクリル系ポリマーは、いずれもセルロースエステルとの相溶性に優れ、蒸発や揮発もなく生産性に優れ、偏光板用保護フィルムとしての保留性がよく、透湿度が小さく、寸法安定性に優れている。
【0119】
本実施の形態において、水酸基を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマーの場合はホモポリマーではなく、コポリマーの構成単位である。この場合、好ましくは、水酸基を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマー単位がアクリル系ポリマー中2〜20質量%含有することが好ましい。
【0120】
本実施の形態の光学フィルムの製造方法においては、ドープ組成物が、セルロースエステルと、厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としての質量平均分子量500以上3,000以下のアクリル系ポリマーとを含有することが好ましい。
【0121】
また、本実施の形態の光学フィルムの製造方法においては、ドープ組成物が、セルロースエステルと、厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としての質量平均分子量5,000以上30,000以下のアクリル系ポリマーとを含有するが好ましい。
【0122】
本実施の形態において、厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としてのポリマーの質量平均分子量が500以上3,000以下、あるいはまたポリマーの質量平均分子量が5,000以上30,000以下のものであれば、セルロースエステルとの相溶性が良好で、製膜中において蒸発も揮発も起こらない。また、製膜後のセルロースエステルフィルムの透明性が優れ、透湿度も極めて低く、偏光板用保護フィルムとして優れた性能を示す。
【0123】
本実施の形態において、厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤として、側鎖に水酸基を有するポリマーも好ましく用いることができる。水酸基を有するモノマー単位としては、前記したモノマーと同様であるが、アクリル酸またはメタクリル酸エステルが好ましく、例えば、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸−p−ヒドロキシメチルフェニル、アクリル酸−p−(2−ヒドロキシエチル)フェニル、またはこれらアクリル酸をメタクリル酸に置換したものを挙げることができ、好ましくは、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル及びメタクリル酸−2−ヒドロキシエチルである。ポリマー中に水酸基を有するアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルモノマー単位はポリマー中2〜20質量%含有することが好ましく、より好ましくは2〜10質量%である。
【0124】
前記のようなポリマーが上記の水酸基を有するモノマー単位を2〜20質量%含有したものは、勿論、セルロースエステルとの相溶性、保留性、寸法安定性が優れ、透湿度が小さいばかりでなく、偏光板用保護フィルムとしての偏光子との接着性に特に優れ、偏光板の耐久性が向上する効果を有している。
【0125】
また、本実施の形態においては、上記ポリマーの主鎖の少なくとも一方の末端に水酸基を有することが好ましい。主鎖末端に水酸基を有するようにする方法は、特に主鎖の末端に水酸基を有するようにする方法であれば限定ないが、アゾビス(2−ヒドロキシエチルブチレート)のような水酸基を有するラジカル重合開始剤を使用する方法、2−メルカプトエタノールのような水酸基を有する連鎖移動剤を使用する方法、水酸基を有する重合停止剤を使用する方法、リビングイオン重合により水酸基を末端に有するようにする方法、特開2000−128911号公報または特開2000−344823号公報にあるような一つのチオール基と2級の水酸基とを有する化合物、あるいは、該化合物と有機金属化合物を併用した重合触媒を用いて塊状重合する方法等により得ることができ、特に該公報に記載の方法が好ましい。この公報記載に関連する方法で作られたポリマーは、綜研化学社製のアクトフロー・シリーズとして市販されており、好ましく用いることができる。
【0126】
上記の末端に水酸基を有するポリマー及び/または側鎖に水酸基を有するポリマーは、本実施の形態において、セルロースエステルに対するポリマーの相溶性、透明性を著しく向上する効果を有する。
【0127】
本実施の形態において、有用な厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としては、上記のほかにも、例えば特開2000−63560号公報記載のジグリセリン系多価アルコールと脂肪酸とのエステル化合物、特開2001−247717号公報記載のヘキソースの糖アルコールのエステルまたはエーテル化合物、特開2004−315613号公報記載のリン酸トリ脂肪族アルコールエステル化合物、特開2005−41911号公報記載の一般式(1)で表わされる化合物、特開2004−315605号公報記載のリン酸エステル化合物、特開2005−105139号公報記載のスチレンオリゴマー、及び特開2005−105140号公報記載のスチレン系モノマーの重合体が挙げられる。
【0128】
また、本実施の形態において、厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤は、以下の方法によっても見出すことができる。
【0129】
セルロースエステルを酢酸メチルとアセトンからなる混合有機溶媒に溶解したドープ処方をガラス板上に製膜し、120℃/15minで乾燥して膜厚80μmのセルロースエステルフィルムを作成する。このセルロースエステルフィルムの厚み方向のリタデーションを測定して、これをRt1とする。
【0130】
つぎに、セルロースエステルに、上記ポリマー添加剤を10質量%添加し、酢酸メチルとアセトンからなる混合有機溶媒で溶解して、ドープ処方を作成する。このドープ処方を、上記と同様にして、膜厚80μmのセルロースエステルフィルムを作成する。このセルロースエステルフィルムの厚み方向のリタデーションを測定して、これをRt2とする。
【0131】
そして、上記の2つのセルロースエステルフィルムの厚み方向のリタデーションの関係が、
Rt2<Rt1
であれば、セルロースエステルに添加したポリマー添加剤は、厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤であると言える。
【0132】
本実施の形態において、セルロースエステルの厚み方向リタデーション(Rt)は、−10nm〜+10nm、好ましくは−5nm〜+5nmである。ここで、セルロースエステルの厚み方向リタデーション(Rt)が−10nmより小さい場合、あるいはまた+10nmより大きい場合のいずれの場合にも、視野角が狭くなり、本実施の形態の効果が現れない。
【0133】
また、本実施の形態において、セルロースエステルの面内方向リタデーション(Ro)は、0nm〜+5nm、好ましくは0nm〜+2nm、さらに好ましくは0nm〜+1nm、特に好ましくは0nm程度である。ここで、面内方向リタデーション(Ro)が0nmより小さい場合、あるいはまた+5nmより大きい場合のいずれの場合にも、視野角が狭くなり、本実施の形態の効果が現れない。本実施の形態の光学フィルムでは、下記式で定義される面内方向リタデーション(Ro)が、温度23℃、湿度55%RHの条件下で30〜300nm、厚み方向リタデーション(Rt)が、温度23℃、湿度55%RHの条件下で70〜400nmであることが好ましい。
【0134】
上述した厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤の含有量は、セルロースエステル系樹脂に対して5〜25質量%含有させることが好ましい。厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤の含有量が5質量%未満であれば、フィルムの厚み方向リタデーション(Rt)を低減する効果が発現しないので、好ましくない。また厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤の含有量が25質量%を超えると、いわゆるブリードアウトが生じる等、フィルム中の安定性が低下するので、好ましくない。
【0135】
本実施の形態において、フィルムのリタデーション値は、自動複屈折率計KOBRA−21ADH(王子計測機器株式会社製)を用いて、温度23℃、湿度55%RHの環境下で、波長が590nmで、三次元屈折率測定を行い、得られた屈折率Nx、Ny、Nzから算出することができる。
【0136】
Ro=(Nx−Ny)×d
Rt=((Nx+Ny)/2−Nz)×d
(式中、Nx、Ny、Nzはそれぞれ屈折率楕円体の主軸x、y、z方向の屈折率(屈折率は波長590nmで測定)を表わし、かつ、Nx、Nyはフィルム面内方向の屈折率を、Nzはフィルムの厚み方向の屈折率を表わす。また、Nx≧Nyであり、dはフィルムの厚み(nm)を表わす。)
本実施の形態において、セルロースエステルフィルムは、遅相軸方向と製膜方向とのなす角度θ(ラジアン)と面内方向のリタデーション値(Ro)が下記の関係にあり、特に偏光板用保護フィルム等のセルロースエステルフィルムとして好ましく用いられる。
【0137】
P≦1−sin2(2θ)sin2(πRo/λ)
ここで、Pは0.9999以下であり、θはフィルム面内の遅相軸方向と製膜方向(フィルムの直尺方向)とのなす角度(°ラジアン)、λは上記Nx、Ny、Nz、θを求める三次元屈折率測定の際の光の波長590nm、πは円周率である。
【0138】
本実施の形態による光学フィルムの製造方法において、上記セルロース誘導体に対して良好な溶解性を有する有機溶媒を良溶媒といい、また溶解に主たる効果を示し、その中で大量に使用する有機溶媒を主(有機)溶媒または主たる(有機)溶媒という。
【0139】
良溶媒の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、γ−ブチロラクトン等のエステル類の他、メチルセロソルブ、ジメチルイミダゾリノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、スルホラン、ニトロエタン、塩化メチレン、アセト酢酸メチル等が挙げられるが、1,3−ジオキソラン、THF、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸メチル及び塩化メチレンが好ましい。
【0140】
ドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40質量%の炭素原子数1〜4のアルコールを含有させることが好ましい。上記アルコールは、ドープを金属支持体に流延した後、溶媒が蒸発し始めてアルコールの比率が多くなることで、ウェブをゲル化させ、ウェブを丈夫にして、金属支持体から剥離することを容易にするゲル化溶媒として用いられたり、これらの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒のセルロース誘導体の溶解を促進したりする役割もある。
【0141】
炭素原子数1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルを挙げることができる。これらのうち、ドープの安定性に優れ、沸点も比較的低く、乾燥性も良く、かつ毒性がないこと等からエタノールが好ましい。これらの有機溶媒は、単独ではセルロース誘導体に対して溶解性を有しておらず、貧溶媒という。
【0142】
このような条件を満たす好ましい高分子化合物であるセルロース誘導体を高濃度に溶解する溶剤として最も好ましい溶剤は、塩化メチレン:エタノールの比が95:5〜80:20の混合溶剤である。あるいは、酢酸メチル:エタノールの比が60:40〜95:5の混合溶媒も好ましく用いられる。
【0143】
本実施の形態におけるフィルムには、フィルムに加工性・柔軟性・防湿性を付与する可塑剤、フィルムに滑り性を付与する微粒子(マット剤)、紫外線吸収機能を付与する紫外線吸収剤、フィルムの劣化を防止する酸化防止剤等を含有させても良い。
【0144】
本実施の形態において使用する可塑剤としては、特に限定はないが、フィルムにヘイズを発生させたり、フィルムからブリードアウトあるいは揮発しないように、セルロース誘導体や加水分解重縮合が可能な反応性金属化合物の重縮合物と、水素結合等によって相互作用可能である官能基を有していることが好ましい。
【0145】
このような官能基としては、水酸基、エーテル基、カルボニル基、エステル基、カルボン酸残基、アミノ基、イミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、ニトロ基、スルホニル基、スルホン酸残基、ホスホニル基、ホスホン酸残基等が挙げられるが、好ましくはカルボニル基、エステル基、ホスホニル基である。
【0146】
このような可塑剤の例として、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、多価アルコールエステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤、カルボン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤等を好ましく用いることができるが、特に好ましくは多価アルコールエステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤等の非リン酸エステル系可塑剤である。
【0147】
多価アルコールエステルは、2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなり、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有することが好ましい。
【0148】
本実施の形態に用いられる多価アルコールは、つぎの一般式(3)で表される。
【0149】
一般式(3) R1−(OH)n
(ただし、R1はn価の有機基、nは2以上の正の整数を表す)
好ましい多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0150】
好ましい多価アルコールの例としては、アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることができる。特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
【0151】
本実施の形態の多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
【0152】
好ましいモノカルボン酸の例としては、以下のようなものを挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0153】
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数は1〜20であることがさらに好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有させると、セルロース誘導体との相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0154】
好ましい脂肪族モノカルボン酸の例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0155】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
【0156】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができるが、特に安息香酸が好ましい。
【0157】
多価アルコールエステルの分子量は、特に制限はないが、300〜1,500であることが好ましく、350〜750であることが、さらに好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロース誘導体との相溶性の点では、小さい方が好ましい。
【0158】
多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は、全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
【0159】
グリコレート系可塑剤は、特に限定されないが、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有するグリコレート系可塑剤を、好ましく用いることができる。好ましいグリコレート系可塑剤としては、例えばブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート等を用いることができる。
【0160】
リン酸エステル系可塑剤では、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等、フタル酸エステル系可塑剤では、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等を用いることができるが、本実施の形態では、リン酸エステル系可塑剤を実質的に含有しないことが好ましい。
【0161】
ここで、「実質的に含有しない」とは、リン酸エステル系可塑剤の含有量が1質量%未満、好ましくは0.1質量%未満であり、特に好ましいのは添加されていないことである。これらの可塑剤は、単独あるいは2種以上混合して用いることができる。
【0162】
可塑剤の使用量は、1〜20質量%が好ましい。6〜16質量%がさらに好ましく、特に好ましくは8〜13質量%である。可塑剤の使用量が、セルロース誘導体に対して1質量%未満では、フィルムの透湿度を低減させる効果が少ないため、好ましくなく、20質量%を越えると、フィルムから可塑剤がブリードアウトし、フィルムの物性が劣化するため、好ましくない。
【0163】
本実施の形態におけるセルロース誘導体には、滑り性を付与するために、マット剤等の微粒子を添加するのが好ましい。微粒子としては、無機化合物の微粒子または有機化合物の微粒子が挙げられる。
【0164】
無機化合物の微粒子の例としては、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化錫等の微粒子が挙げられる。この中では、ケイ素原子を含有する化合物の微粒子であることが好ましく、特に二酸化ケイ素微粒子が好ましい。二酸化ケイ素微粒子としては、例えばアエロジル株式会社製のAEROSIL 200、200V、300、R972、R972V、R974、R202、R812、R805、OX50、TT600等が挙げられる。
【0165】
有機化合物の微粒子の例としては、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素化合物樹脂、ウレタン樹脂等の微粒子が挙げられる。
【0166】
微粒子の1次粒径は、特に限定されないが、最終的にフィルム中での平均粒径は、0.05〜5.0μm程度が好ましい。さらに好ましくは、0.1〜1.0μmである。
【0167】
微粒子の平均粒径は、セルロースエステルフィルムを電子顕微鏡や光学顕微鏡で観察した際に、フィルムの観察場所における、粒子の長軸方向の長さの平均値を指す。フィルム中で観察される粒子であれば、1次粒子であっても、1次粒子が凝集した2次粒子であってもよいが、通常観察される多くは2次粒子である。
【0168】
測定方法の一例としては、1つのフィルムにつき、ランダムに10箇所の垂直断面写真を撮影し、各断面写真について、長軸長さが0.05〜5μmの範囲にある100μm中の粒子個数をカウントする。このときカウントした粒子の長軸長さの平均値を求め、10箇所の平均値を平均した値を平均粒径とする。
【0169】
微粒子の場合は、1次粒径、溶媒に分散した後の粒径、フィルムに添加された後の粒径が変化する場合が多く、重要なのは、最終的にフィルム中で微粒子がセルロースエステルと複合し凝集して形成される粒径をコントロールすることである。
【0170】
ここで、微粒子の平均粒径が、5μmを超えた場合は、ヘイズの劣化等が見られたり、異物として巻き取り状態での故障を発生する原因にもなる。また、微粒子の平均粒径が、0.05μm未満の場合は、フィルムに滑り性を付与するのが難しくなる。
【0171】
上記の微粒子は、セルロースエステルに対して、0.04〜0.5質量%添加して使用される。好ましくは、0.05〜0.3質量%、さらに好ましくは0.05〜0.25質量%添加して使用される。微粒子の添加量が0.04質量%以下では、フィルム表面粗さが平滑になりすぎて、摩擦係数の上昇によりブロッキングを発生する。微粒子の添加量が0.5質量%を超えると、フィルム表面の摩擦係数が下がりすぎて、巻き取り時に巻きズレが発生したり、フィルムの透明度が低く、ヘイズが高くなるため、液晶表示装置用フィルムとしての価値を持たなくなるので、上記の範囲が必須である。
【0172】
微粒子の分散は、微粒子と溶剤とを混合した組成物を高圧分散装置で処理することが好ましい。本実施の形態で用いる高圧分散装置は、微粒子と溶媒を混合した組成物を、細管中に高速通過させることで、高剪断や高圧状態等特殊な条件を作りだす装置である。
【0173】
高圧分散装置で処理することにより、例えば、管径1〜2000μmの細管中で装置内部の最大圧力条件が980N/cm以上であることが好ましい。さらに好ましくは、装置内部の最大圧力条件が1960N/cm以上である。またその際、最高到達速度が100m/sec以上に達するもの、伝熱速度が4.1840×10J/hr以上に達するものが、好ましい。
【0174】
上記のような高圧分散装置としては、例えばMicrofluidics Corporation社製の超高圧ホモジナイザー(商品名マイクロフルイダイザー)あるいはナノマイザー社製ナノマイザーが挙げられ、他にもマントンゴーリン型高圧分散装置、例えばイズミフードマシナリ製ホモゲナイザー等が挙げられる。
【0175】
本実施の形態において、微粒子は、低級アルコール類を25〜100質量%含有する溶剤中で分散した後、セルロースエステル(セルロース誘導体)を溶剤に溶解したドープと混合し、該混合液を金属支持体上に流延し、乾燥して製膜することを特徴とするセルロースエステルフィルムを得る。
【0176】
ここで、低級アルコールの含有比率としては、好ましくは50〜100質量%、さらに好ましくは75〜100質量%である。
【0177】
また、低級アルコール類の例としては、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等が挙げられる。
【0178】
低級アルコール以外の溶媒としては、特に限定されないが、セルロースエステルの製膜時に用いられる溶剤を用いることが好ましい。
【0179】
微粒子は、溶媒中で1〜30質量%の濃度で分散される。これ以上の濃度で分散すると、粘度が急激に上昇し、好ましくない。分散液中の微粒子の濃度としては、好ましくは5〜25質量%、さらに好ましくは10〜20質量%である。
【0180】
フィルムの紫外線吸収機能は、液晶の劣化防止の観点から、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光学補償フィルム等の各種光学フィルムに付与されていることが好ましい。このような紫外線吸収機能は、紫外線を吸収する材料をセルロース誘導体中に含ませても良く、セルロース誘導体からなるフィルム上に紫外線吸収機能のある層を設けてもよい。
【0181】
本実施の形態において、使用し得る紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等を挙げることができるが、着色の少ないベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。また、特開平10−182621号公報、特開平8−337574号公報に記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号公報に記載の高分子紫外線吸収剤も好ましく用いられる。
【0182】
紫外線吸収剤としては、偏光子や液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、かつ液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。
【0183】
本実施の形態において有用な紫外線吸収剤の具体例としては、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0184】
また、紫外線吸収剤の市販品として、チヌビン(TINUVIN)109、チヌビン(TINUVIN)171、チヌビン(TINUVIN)326(何れもチバ・ジャパン社製)を、好ましく使用できる。
【0185】
また、本実施の形態において使用し得る紫外線吸収剤であるベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0186】
本実施の形態において、これらの紫外線吸収剤の配合量は、セルロースエステル(セルロース誘導体)に対して、0.01〜10質量%の範囲が好ましく、さらに0.1〜5質量%が好ましい。紫外線吸収剤の使用量が少なすぎると、紫外線吸収効果が不充分の場合があり、紫外線吸収剤の多すぎると、フィルムの透明性が劣化する場合があるので、好ましくない。紫外線吸収剤は熱安定性の高いものが好ましい。
【0187】
また、本実施の形態の光学フィルムに用いることのできる紫外線吸収剤は、特開平6−148430号公報及び特開2002−47357号公報に記載の高分子紫外線吸収剤(または紫外線吸収性ポリマー)を好ましく用いることができる。とりわけ特開平6−148430号公報に記載の一般式(1)、あるいは一般式(2)、あるいは特開2002−47357号公報に記載の一般式(3)67で表される高分子紫外線吸収剤が、好ましく用いられる。
【0188】
酸化防止剤は、一般に、劣化防止剤ともいわれるが、光学フィルムとしてのセルロースエステルフィルム中に含有させるのが好ましい。すなわち、液晶画像表示装置等が高湿高温の状態に置かれた場合には、光学フィルムとしてのセルロースエステルフィルムの劣化が起こる場合がある。酸化防止剤は、例えばフィルム中の残留溶媒中のハロゲンやリン酸系可塑剤のリン酸等によりフィルムが分解するのを遅らせたり、防いだりする役割を有するので、フィルム中に含有させるのが好ましい。
【0189】
このような酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等を挙げることができる。特に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。
【0190】
これらの化合物の添加量は、セルロース誘導体に対して質量割合で1ppm〜1.0質量%が好ましく、10〜1,000ppmがさらに好ましい。
【0191】
なお、図1と図3に示す光学フィルムの製造方法を実施する装置において、延伸工程は、液晶表示装置用フィルムの製造に際しては、ウェブ1bの両側縁部をクリップ等で固定して延伸するテンター方式が、フィルムの平面性や寸法安定性を向上させるために好ましい。
【0192】
延伸工程のテンター12に入る直前のウェブ1bの残留溶媒量が、10〜35質量%であることが好ましい。
【0193】
本実施の形態において、延伸工程のテンター12におけるウェブ1bの延伸率が1.03〜2倍であり、1.05〜1.8倍であることが好ましく、さらに1.05〜1.6倍であることが望ましい。またテンター12における温風吹出しスリット口から吹き出す温風の温度が100〜200℃であり、110〜190℃であることが好ましく、さらに115〜185℃であることが望ましい。ここでは、テンター12による延伸後のウェブ1bを、フィルム9と呼ぶことにする。
【0194】
延伸工程のテンター12の前後、あるいはその一方には、乾燥装置(10)を設けることが好ましい。乾燥装置(10)内では、側面から見て千鳥配置せられた複数の搬送ロールによってフィルム9が蛇行せられ、その間にフィルム9が乾燥せられるものである。また、乾燥装置(10)でのフィルム搬送張力は、ドープの物性、剥離時及びフィルム搬送工程での残留溶媒量、乾燥温度等に影響を受けるが、乾燥時のフィルム搬送張力は、0.3〜3N/10mmであり、0.4〜2.7N/10mmが、より好ましい。
【0195】
なお、フィルム9を乾燥させる手段は、特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行う。簡便さの点から熱風で乾燥するのが好ましく、例えば乾燥装置(10)の天井の後寄り部分の温風入口から吹込まれる乾燥風(11a)によって乾燥され、乾燥装置(10)の底の前寄り部分の出口から排気風(11b)が排出せられることによって乾燥される。乾燥風(11a)の温度は40〜160℃が好ましく、50〜160℃が平面性、寸法安定性を良くするためさらに好ましい。
【0196】
これら流延から後乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下でもよい。この場合、乾燥雰囲気を、溶媒の爆発限界濃度を考慮して実施することは勿論のことである。
【0197】
搬送乾燥工程を終えた、例えばセルロースエステルフィルムに対し、巻き取り工程に導入する前段において、一般に、図示しないエンボス加工装置によりフィルムにエンボスを形成する加工が行われる。
【0198】
ここで、エンボスの高さh(μm)は、フィルム膜厚Tの0.05〜0.3倍の範囲、幅Wは、フィルム幅Lの0.005〜0.02倍の範囲に設定する。エンボスは、フィルムの両面に形成してもよい。この場合、エンボスの高さh1+h2(μm)は、フィルム膜厚Tの0.05〜0.3倍の範囲、幅Wはフィルム幅Lの0.005〜0.02倍の範囲に設定する。例えばフィルム膜厚40μmであるとき、エンボスの高さh1+h2(μm)は2〜12μmに設定する。エンボス幅は5〜30mmに設定する。
【0199】
乾燥が終了したフィルム9を巻き取り装置(13)によって巻き取り、光学フィルムの元巻を得るものである。乾燥を終了するフィルム9の残留溶媒量は、0.5質量%以下、好ましくは0.1質量%以下とすることにより寸法安定性の良好なフィルム9を得ることができる。
【0200】
フィルム9の巻き取り方法は、一般に使用されているワインダーを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等の張力をコントロールする方法があり、それらを使い分ければよい。
【0201】
巻き取りコア(巻芯)への、フィルム9の接合は、両面接着テープでも、片面接着テープでもどちらでも良い。
【0202】
本実施の形態による光学フィルムは、巻き取り後のフィルムの幅が、1100〜2500mmであることが好ましい。
【0203】
本実施の形態においては、セルロースエステルフィルムの乾燥後の膜厚は、液晶表示装置の薄型化の観点から、仕上がりフィルムとして、20〜150μmの範囲が好ましい。ここで、乾燥後とは、フィルム9中の残留溶媒量が0.5質量%以下の状態まで乾燥されたフィルムを言う。
【0204】
ここで、巻き取り後のセルロースエステルフィルムの膜厚が薄過ぎると、例えば偏光板用保護フィルムとしての必要な強度が得られない場合がある。フィルムの膜厚が厚過ぎると、従来のセルロースエステルフィルムに対して薄膜化の優位性がなくなる。膜厚の調節には、所望の厚さになるように、ドープ濃度、ポンプの送液量、流延ダイの口金のスリット間隙、流延ダイの押し出し圧力、金属支持体の移動速度等をコントロールするのがよい。また、膜厚を均一にする手段として、膜厚検出手段を用いて、プログラムされたフィードバック情報を上記各装置にフィードバックさせて調節するのが好ましい。
【0205】
溶液流延製膜法を通しての流延直後から乾燥までの工程において、乾燥装置内の雰囲気を、空気とするのもよいが、窒素ガスや炭酸ガス等の不活性ガス雰囲気で行ってもよい。ただ、乾燥雰囲気中の蒸発溶媒の爆発限界の危険性は常に考慮されなければならないことはもちろんである。
【0206】
本実施の形態において、セルロースエステルフィルムは、含水率としては0.1〜5%が好ましく、0.3〜4%がより好ましく、0.5〜2%であることがさらに好ましい。
【0207】
本実施の形態において、セルロースエステルフィルムは、透過率が90%以上であることが望ましく、さらに好ましくは92%以上であり、さらに好ましくは93%以上である。
【0208】
また、本実施の形態による光学フィルムの製造方法で製造されたセルロースエステルフィルムの機械方向(MD方向)の引張弾性率が、1,500MPa〜3,500MPa、機械方向に垂直な方向(TD方向)の引張弾性率が、3,000MPa〜4,500MPaであるのが好ましく、フィルムのTD方向弾性率/MD方向弾性率の比が、1.40〜1.90であるのが好ましい。
【0209】
ここで、光学フィルムのTD方向弾性率/MD方向弾性率の比が、1.40未満であれば、1,650mmを超える幅のフィルムの巻き取りでは中央部のたるみが大きくなり、巻芯のフィルムの貼り付きが多くなるため、好ましくない。また、フィルムのTD方向弾性率/MD方向弾性率の比が、1.90を超えると、偏向板での加熱後のそりが生じたり、液晶パネルに組み込んだ際にバックライトの熱によりバックライト側と表面側の偏光板の寸法変化の挙動が大きく異なることにより、コーナーにムラが生じるので、好ましくない。
【0210】
フィルムのMD方向、及びTD方向の引張弾性率の具体的な測定方法としては、例えばJISK7217の方法が挙げられる。
【0211】
すなわち、引っ張り試験器(ミネベア社製、TG−2KN)を用い、チャッキング圧:0.25MPa、標線間距離:100±10mmで、サンプルをセットし、引っ張り速度:100±10mm/分の速度で引っ張る。その結果、得られた引張応力−歪み曲線から、弾性率算出開始点を10N、終了点を30Nとし、その間に引いた接線を外挿し、弾性率を算出するものである。
【0212】
本実施の形態の方法により製造された光学フィルムは、液晶表示用部材、詳しくは偏光板用保護フィルムに用いられるのが好ましい。特に、透湿度と寸法安定性に対して共に厳しい要求のある偏光板用保護フィルムにおいて、本実施の形態の方法により製造された光学フィルムは好ましく用いられる。
【0213】
本実施の形態の光学フィルムからなる偏光板用保護フィルムを用いることにより、薄膜化とともに、耐久性及び寸法安定性、光学的等方性に優れた偏光板を提供することができる。
【0214】
ところで、偏光フィルムは、従来から使用されている、例えば、ポリビニルアルコールフィルムのような延伸配向可能なフィルムを、ヨウ素のような二色性染料で処理して縦延伸したものである。偏光フィルム自身では、十分な強度、耐久性がないので、一般的にはその両面に保護フィルムとしての異方性のないセルロースエステルフィルムを接着して偏光板としている。
【0215】
上記偏光板には、本実施の形態の方法により製造された光学フィルムを位相差フィルムとして貼り合わせて作製してもよいし、また本実施の形態の方法により製造された光学フィルムを位相差フィルムと保護フィルムとを兼ねて、直接偏光フィルムと貼り合わせて作製してもよい。貼り合わせる方法は、特に限定はないが、水溶性ポリマーの水溶液からなる接着剤により行うことができる。この水溶性ポリマー接着剤は完全ケン化型のポリビニルアルコール水溶液が好ましく用いられる。さらに、長手方向に延伸し、二色性染料処理した長尺の偏光フィルムと本実施の形態の方法により製造された長尺の位相差フィルムとを貼り合わせることによって長尺の偏光板を得ることができる。偏光板は、その片面または両面に感圧性接着剤層(例えば、アクリル系感圧性接着剤層等)を介して剥離性シートを積層した貼着型のもの(剥離性シートを剥すことにより、液晶セル等に容易に貼着することができる)としてもよい。
【0216】
このようにして得られた偏光板は、種々の表示装置に使用できる。特に電圧無印加時に液晶性分子が実質的に垂直配向しているVAモードや、電圧無印加時に液晶性分子が実質的に水平かつねじれ配向しているTNモードの液晶セルを用いた液晶表示装置に使用することが好ましい。
【0217】
ところで、偏光板は、一般的な方法で作製することができる。例えば、光学フィルムあるいはセルロースエステルフィルムをアルカリケン化処理し、ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素溶液中に浸漬、延伸して作製した偏光膜の両面に、完全ケン化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリケン化処理とは、水系接着剤の濡れを良くし、接着性を向上させるために、セルロースエステルフィルムを高温の強アルカリ液中に漬ける処理のことをいう。
【0218】
本実施の形態の方法により製造された光学フィルムには、ハードコート層、防眩層、反射防止層、防汚層、帯電防止層、導電層、光学異方層、液晶層、配向層、粘着層、接着層、下引き層等の各種機能層を付与することができる。これらの機能層は塗布あるいは蒸着、スパッタ、プラズマCVD、大気圧プラズマ処理等の方法で設けることができる。
【0219】
このようにして得られた偏光板が、液晶セルの片面または両面に設けられ、これを用いて、液晶表示装置が得られる。
【0220】
本実施の形態において、液晶表示装置は、棒状の液晶分子が一対のガラス基板に挟持された液晶セルと、液晶セルを挾むように配置された偏光膜及びその両側に配置された透明保護層からなる2枚の偏光板を持つものである。
【0221】
本実施の形態の方法により製造された光学フィルムからなる偏光板用保護フィルムを用いることにより、薄膜化とともに、耐久性及び寸法安定性、光学的等方性に優れた偏光板を提供することができる。さらに、この偏光板あるいは位相差フィルムを用いた液晶表示装置は、長期間に亘って安定した表示性能を維持することができる。
【0222】
本実施の形態の方法により製造された光学フィルムは、反射防止用フィルムあるいは光学補償フィルムの基材としても使用できる。
【実施例】
【0223】
以下、実施例により本実施の形態をさらに具体的に説明するが、これらに限定されるものではない。
【0224】
(実施例1〜9)
本実施例においては、図1の光学フィルムの製造装置を用い、また、活性化処理を行う装置として、大気圧プラズマ装置20を用いた。
(ドープの調製)
下記の素材を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、濾過した。濾過は、フィルタープレスによる濾過の後、金属焼結フィルター(捕捉粒子径=10ミクロン)を通過させた。なお、二酸化珪素微粒子(アエロジルR972V)は、エタノールに分散した後添加した。
【0225】
(ドープ組成)
セルローストリアセテート 100質量部
(Mn=148000、Mw=310000、Mw/Mn=2.1)
トリフェニルホスフェート 8質量部
エチルフタリルエチルグリコレート 2質量部
メチレンクロライド 440質量部
エタノール 40質量部
チヌビン109(チバ・ジャパン(株)製) 0.5質量部
チヌビン171(チバ・ジャパン(株)製) 0.5質量部
アエロジル972V(日本アエロジル株式会社製) 0.2質量部
(金属支持体)
上記のドープ1aを流延する金属支持体としては、ステンレス(SUS316)製で、超鏡面に研磨されたエンドレスベルトを用いた。
(活性化処理)
金属支持体の表面には、後述する実施例1〜9の活性化処理を施した。活性化処理は、ドープ1aを支持体上に流延する前に、事前に図1の区間Aで処理した。金属支持体表面に、活性化処理を施すときの金属支持体温度は10℃に調整した。
【0226】
活性化処理装置としては、大気圧プラズマ装置20を用いた。大気圧プラズマ装置20の、吹き出しスリットhから金属支持体7の表面までの間隙dを2mmとした条件にて、金属支持体7を搬送させながら大気圧プラズマ装置20の下を通過させて金属支持体の表面の活性化処理を行った。大気圧プラズマ装置20の出力を調整して、活性化処理をしていないフィルム中央部と接する支持体の表面(図2のT参照。)と、活性化処理をしたフィルム端部と接する支持体の表面(図2のS参照。)との表面エネルギーの差が表1に示す値となるように調整した。また、大気圧プラズマ装置による表面エネルギーの高い活性化領域Wkと流延膜の両端部側で重なる幅Wrkが、表1になるようにし、実施例1〜9の光学フィルムの製造条件とした。また、活性化領域Wk内の表面エネルギーは、同じ値の均一な表面エネルギーになるようにした。
(セルロースエステルフィルムの作製)
上述したドープ1aを用いて、以下のようにしてそれぞれ膜厚30μmのセルロースエステルフィルムを作製した。
【0227】
濾過したドープ1aを、ドープ温度35℃で、上述した実施例1〜6に示した条件で表面処理を施したSUS316製のエンドレスベルトからなる金属支持体7上にコートハンガーダイより均一に流延した。ウェブ1bを乾燥させるための風の温度は、30℃で一定とした。
【0228】
金属支持体7から剥離した後、90℃の雰囲気でロール搬送しながら乾燥させ、テンター12で、残留溶媒量10%のとき100℃の雰囲気内で幅方向に1.06倍延伸した後、幅保持を解放して、ロール搬送しながら125℃の乾燥ゾーンで乾燥を終了させ、膜厚30μm、幅2400mm、長さ6000mの実施例1〜9のセルロースエステルフィルムを作製した。
(比較例1)
比較例1として、実施例4において大気圧プラズマ処理装置による活性化処理を行わなかった他は、実施例4と同様にしてセルロースエステルフィルムを製造した。
(比較例2)
比較例2としては、実施例4において大気圧プラズマ処理装置による活性化処理の幅を金属支持体の幅全域に施し、流延膜と重なる部分の幅Wrk=Wr/2とした他は、実施例4と同様にしてセルロースエステルフィルムを製造した。
(比較例3)
比較例3としては、実施例4において大気圧プラズマ処理装置による活性化処理の幅を金属支持体の中央部分に施し、両端部には施さず、流延膜の中央分部の幅Wr/3が重なるようにした他は、実施例4と同様にしてセルロースエステルフィルムを製造した。
(評価)
実施例1〜9及び比較例1〜3のフィルムの泡の混入評価を、フィルムの全長、全幅に対して、流延ダイ3からドープを流下して剥離するまでの間で、100μm以上の泡を光学的検知して評価した。1つでも検知した場合には泡の混入有りとした。また、実施例1〜9及び比較例1〜3のフィルムの変更角偏差をフィルム巻き初めから100mmのところの全幅について、王子計測機器株式会社製の位相差測定装置(商品名KOBRA−WR)を用い測定し、最大値、最小値の差を偏差とした。これらの評価結果を表1に示し、総合評価をした。総合評価は、泡の発生が認められないもので、且つ配向角偏差が0.3°以下のものをレベル4、0.3°を越え0.8°以下のものをレベル3、0.8°を越え〜1.5°以下のものをレベル2、1.5°を越えるものをレベル1とした。泡の混入があったものをレベル0とした。レベル1以下は製品として使用できるレベルではない。
【0229】
【表1】

【0230】
表1の結果から、実施例1〜9と比較例1〜3を比べると、樹脂溶液を流延する前に、流延膜の幅方向両端部と接する支持体の表面の表面エネルギーが、流延膜の幅方向中央部と接する支持体の表面の表面エネルギーよりも高くなるように支持体の表面に活性化処理を施すことにより、泡の混入を防止することができ、また、配向角偏差が小さく、光学的なムラの少ない光学フィルムを製造できることが判る。また、実施例1〜3、9を比較すると、流延膜の幅方向両端部と接する支持体の表面の表面エネルギーが、流延膜の幅方向中央部と接する支持体の表面の表面エネルギーより0.1〜60mN/mの範囲高いことが好ましいことが判る。さらに、実施例4〜8を比較すると、流延膜の幅方向中央部と接する支持体の表面の表面エネルギーよりも高い表面エネルギーを有する支持体の表面と接する流延膜の幅方向両端部からのそれぞれの幅が、流延膜の幅をWrとして、0.05Wr〜0.25Wrの範囲であることが好ましいことが判る。
【0231】
(偏光板の作製)
ついで、下記工程1〜5に従って、偏光膜と光学フィルムとを貼り合わせて偏光板を作製した。
【0232】
工程1:実施例1で作製した長尺の光学フィルムを、2×10mol/mの水酸化ナトリウム溶液に50℃で90秒間浸漬し、次いで水洗、乾燥させた。実施例1で作製した光学フィルムには予め片面に反射防止膜を設けてあり、その面には再剥離可能な保護フィルム(ポリエチレンテレフタレート製)を張り付けて保護した。
【0233】
同様に、長尺のセルロースエステルフィルム(光学フィルムの基材として用いたもの)を2×10mol/mの水酸化ナトリウム溶液に50℃で90秒間浸漬し、次いで水洗、乾燥させた。
【0234】
工程2:前述の長尺の偏光膜を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1〜2秒間浸漬した。
【0235】
工程3:工程2で偏光膜に付着した過剰の接着剤を軽く取り除き、それを工程1でアルカリ処理した光学フィルムとセルロースエステルフィルムで挟み込んで、積層配置した。
【0236】
工程4:2つの回転するローラにて20〜30N/cmの圧力で約2m/minの速度で張り合わせた。このとき気泡が入らないように注意して実施した。
【0237】
工程5:80℃の乾燥機中にて工程4で作製した試料を2分間乾燥処理し、実施例1の偏光板を作製した。
【0238】
同様にして、実施例2〜9及び比較例1〜3で作製した長尺の光学フィルムを用いて、本実施の形態の実施例2〜9の偏光板及び比較例1〜3の偏光板を作製した。
【0239】
(液晶表示パネルの作製)
市販の液晶表示パネル(NEC社製カラー液晶ディスプレイ、MultiSync、LCD1525J、型名LA−1529HM)の最表面の偏光板を注意深く剥離し、上述した実施例1〜9の偏光板及び比較例1、2の偏光板を、偏光方向を合わせて張り付けて、液晶表示パネルを作製した。
【0240】
(偏光板の目視評価)
このようにして作製したそれぞれの液晶表示パネルについて、複数の評価者で目視にて、正面及び斜めから見たときの白っぽく見えるムラを観察して、偏光板の評価とした。実施例1〜9のパネルでは、ムラは認められなかったが、比較例1〜3では、ムラが認められた。
【0241】
以上に述べたように、本発明によれば、溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法において、樹脂溶液を流延する前に、流延膜の幅方向両端部と接する支持体の表面の表面エネルギーが、流延膜の幅方向中央部と接する支持体の表面の表面エネルギーよりも高くなるように支持体の表面に活性化処理を施すことで、流延工程におけるエアー(泡)の混入を抑制できると共に、エアー混入による流延時のフィルムのバタツキを低減することができ、光学フィルムの配向角偏差を小さくすることができる。また、平面性に優れた光学特性を有する光学フィルムを製造することができる。これにより、偏光板用保護フィルム等の薄膜化、広幅化及び高品質化の要求に応えることができる光学フィルムの製造方法、光学フィルム、偏光板及び表示装置を提供することができる。
【0242】
尚、本発明に係る光学フィルムの製造方法、光学フィルム、偏光板及び表示装置を構成する各構成の細部構成及び細部動作に関しては、本発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0243】
1 ドープタンク
1a ドープ(樹脂溶液)
1b ウェブ(流延膜)
2 送液ポンプ
3 流延ダイ
4 減圧チャンバ
5 ドラム
6 金属支持体(ドラム)
7 金属支持体(エンドレスベルト)
8 剥離ロール
9 フィルム
10 乾燥装置
11 乾燥風
12 テンター
13 巻き取り装置
20 大気圧プラズマ装置
30 エキシマUV装置
100 光学フィルム製造装置
200 表面処理装置
A 膜形成処理する区間
a、b 電極
g 反応ガス
d 吹き出しスリットと金属支持体表面との間隙
h 吹き出しスリット
s 金属支持体
p パージガス
r 反射板
u エキシマUVランプ
d2 石英ガラスと金属支持体表面との間隙
q 石英ガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂溶液を支持体の表面に流延して流延膜を形成する流延工程と、
前記支持体から前記流延膜を剥離する工程を有する光学フィルムの製造方法において、
前記樹脂溶液を流延する前に、前記流延膜の幅方向両端部と接する前記支持体の表面の表面エネルギーが、前記流延膜の幅方向中央部と接する前記支持体の表面の表面エネルギーよりも高くなるように前記支持体の表面に活性化処理を施すことを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記活性化処理が、大気圧プラズマ照射またはエキシマUV照射によることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記活性化処理を施した後の、
前記流延膜の幅方向両端部と接する前記支持体の表面の表面エネルギーをγseとし、
前記流延膜の幅方向中央部と接する前記支持体の表面の表面エネルギーをγscとしたとき、その差Δγ(=γse−γsc)が、0.1〜60mN/mの範囲にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記流延膜の幅方向中央部と接する前記支持体の表面の表面エネルギーよりも高い表面エネルギーを有する前記支持体の表面と接する前記流延膜の幅方向両端部からのそれぞれの幅が、前記流延膜の幅をWrとして、0.05Wr〜0.25Wrの範囲であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記支持体は、エンドレスベルト、ドラムあるいはロールの何れかであることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法で製造されたことを特徴とする光学フィルム。
【請求項7】
請求項6に記載の光学フィルムを、少なくとも一方の面に有することを特徴とする偏光板。
【請求項8】
請求項7に記載の偏光板を用いることを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−115969(P2011−115969A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273317(P2009−273317)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】