説明

光学フィルムの製造方法

【課題】 延伸後に広範囲において着色や光学ムラが発生せず、かつ、延伸において高位相差・高複屈折率を発現する光学フィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】 重合体フィルムを、不活性ガス雰囲気下で、当該重合体のガラス転移温度−10℃〜+30℃の温度で延伸処理することを特徴とする、光学フィルムの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルムに好適な光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学フィルムは、透明性などの光学特性に優れることが求められるとともに、フィルムが均質で、着色等が少ないことが肝要である。製膜に用いる樹脂が劣化していると、樹脂が着色したり、樹脂中にゲルが発生し、得られたフィルムの表面に点状欠陥等が発生して光学ムラの原因となったりする。そのため、樹脂の劣化を防止する方法として、特定のガス透過量・異物量の容器を用いる方法や、酸素検知剤および/または水分検知剤を密封容器中に共存させる方法等の樹脂の保存方法が提案されている(特許文献1および2参照)。また、近年、液晶パネルの大型化などに伴って幅1m以上の広幅のフィルムを歩留まり良く製造することが求められており、特に、プラスチックフィルムを延伸することにより位相差を発現させて用いられる位相差フィルムは、広幅においても広範囲にわたり着色や光学ムラが発生せず、さらに延伸により高位相差・高複屈折率を発現する光学フィルムの製造方法が求められている。
【特許文献1】特開平7−206998号公報
【特許文献2】特開2001−192458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、延伸後に広範囲において着色や光学ムラが発生せず、かつ、延伸において高位相差・高複屈折率を発現する光学フィルムの製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、重合体フィルムを、不活性ガス雰囲気下で、当該重合体のガラス転移温度−10℃〜+30℃の温度で延伸処理することを特徴とする、光学フィルムの製造方法に関する。
本発明における重合体は、下記式(1)で表される化合物由来の構造単位を有する環状オレフィン系重合体であることが好ましい。
【0005】
【化1】

【0006】
(式(1)中、R1〜R4は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30の炭化水素基、またはその他の1価の有機基であり、それぞれ同一または異なっていても良い。また、R1〜R4 のうち任意の2つが互いに結合して、単環または多環構造を形成しても良い。mは0または正の整数であり、pは0または正の整数である。)
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、着色や光学ムラのない光学フィルムの製造方法を提供することができる。また、延伸において高位相差を発現し、位相差や光軸の安定した、光学的にムラのないフィルムの製造方法を提供することができる。本発明に係る光学フィルムは、光学的なムラが少なく、フィルムの歩留まりが良く、さらにヘイズ値が小さく透明性に優れており、これを用いた大画面の液晶ディスプレイなどは全面において歪みやムラのない高い性能を達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
<重合体>
本発明に用いられる重合体としては、フィルム形状での光線透過率が70%以上、好ましくは85%以上のものが好ましく用いられる。具体的には、透明エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート、環状オレフィン系重合体、ポリフェニレンエーテル系重合体、有機シロキサン系重合体などの高い透明性を有すると共に優れた耐熱性を有する重合体が好ましいものとして挙げられる。これらの中では、透明性および耐熱性に優れ、また吸湿(水)性が低くて得られる特定部材が吸湿(水)変形しにくいものとなる点から、環状オレフィン系重合体、ポリフェニレン系重合体および有機シロキサン系重合体が好ましく、特に好ましくは、上記式(1)で表される化合物(以下、「特定単量体」ともいう)由来の構造単位を有する環状オレフィン系重合体が挙げられる。本発明に用いる重合体は、単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができ、好ましくは、環状オレフィン系重合体を単独で、環状オレフィン系重合体を二種以上組み合わせて、または環状オレフィン系重合体と他の樹脂をそれぞれ一種以上組み合わせて用いることができる。
【0009】
本発明に好適に用いられる環状オレフィン系重合体としては、次のような(共)重合体が挙げられる。
(a)特定単量体と、必要に応じてシクロアルケンなど他のシクロオレフィンとの開環(共)重合体。
(b)上記(a)の開環(共)重合体の水素添加(共)重合体。
(c)特定単量体と、必要に応じて上記他のシクロオレフィン、α−オレフィン等との付加型(共)重合体およびその水素添加(共)重合体。
これらのうち、光学特性および加工性の点から、(b)開環(共)重合体の水素添加(共)重合体が特に好ましい。
【0010】
上記特定単量体の具体例としては、次のような化合物が挙げられるが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
トリシクロ[4.3.0.12,5 ]−8−デセン、
トリシクロ[4.4.0.12,5 ]−3−ウンデセン、
テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
ペンタシクロ[6.5.1.13,6 .02,7 .09,13]−4−ペンタデセン、
5−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−n−プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−n−ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−n−プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−n−ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
5−エチリデンビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
5−フェニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−フェニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
5−フルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−ペンタフルオロエチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5−ジフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリス(フルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6,6−テトラフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6,6−テトラキス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5−ジフルオロ−6,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジフルオロ−5,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロ−5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フルオロ−5−ペンタフルオロエチル−6,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジフルオロ−5−ヘプタフルオロ−iso−プロピル−6−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−クロロ−5,6,6−トリフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジクロロ−5,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロ−6−トリフルオロメトキシビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロ−6−ヘプタフルオロプロポキシビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−フルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−フルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−ジフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−ペンタフルオロエチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8−ジフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9,9−テトラフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9,9−テトラキス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8−ジフルオロ−9,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジフルオロ−8,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロ−9−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロ−9−トリフルオロメトキシテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロ−9−ペンタフルオロプロポキシテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−フルオロ−8−ペンタフルオロエチル−9,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジフルオロ−8−ヘプタフルオロiso−プロピル−9−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−クロロ−8,9,9−トリフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジクロロ−8,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン
などを挙げることができる。
これらは、1種単独で、または2種以上を併用することができる。
【0011】
特定単量体のうち好ましいのは、上記式(1)中、R1およびRが水素原子または炭素数1〜10、さらに好ましくは1〜4、特に好ましくは1〜2の炭化水素基であり、R およびR が水素原子または一価の有機基であって、RおよびRの少なくとも一つは水素原子および炭化水素基以外の極性を有する極性基を示し、mは0〜3の整数、pは0〜3の整数であり、より好ましくはm+p=0〜4、さらに好ましくは0〜2、特に好ましくはm=1、p=0であるものである。m=1、p=0である特定単量体は、得られる環状オレフィン系重合体のガラス転移温度が高くかつ機械的強度も優れたものとなる点で好ましい。
上記特定単量体の極性基としては、カルボキシル基、水酸基、アルコキシカルボニル基、アリロキシカルボニル基、アミノ基、アミド基、シアノ基などが挙げられ、これら極性基はメチレン基などの連結基を介して結合していてもよい。また、カルボニル基、エーテル基、シリルエーテル基、チオエーテル基、イミノ基など極性を有する2価の有機基が連結基となって結合している炭化水素基なども極性基として挙げられる。これらの中では、カルボキシル基、水酸基、アルコキシカルボニル基またはアリロキシカルボニル基が好ましく、特にアルコキシカルボニル基またはアリロキシカルボニル基が好ましい。
【0012】
さらに、RおよびRの少なくとも一つが式−(CHCOORで表される極性基である単量体は、得られる環状オレフィン系重合体が高いガラス転移温度と低い吸湿性、各種材料との優れた密着性を有するものとなる点で好ましい。上記の特定の極性基にかかる式において、Rは炭素原子数1〜12、さらに好ましくは1〜4、特に好ましくは1〜2の炭化水素基、好ましくはアルキル基である。また、nは、通常、0〜5であるが、nの値が小さいものほど、得られる環状オレフィン系重合体のガラス転移温度が高くなるので好ましく、さらにnが0である特定単量体はその合成が容易である点で好ましい。
【0013】
また、上記式(1)において、R1またはRがアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜4のアルキル基、さらに好ましくは1〜2のアルキル基、特にメチル基であることが好ましく、特に、このアルキル基が上記の式−(CHCOORで表される特定の極性基が結合した炭素原子と同一の炭素原子に結合されていることが、得られる環状オレフィン系重合体の吸湿性を低くできる点で好ましい。
【0014】
【0015】
本発明で用いられる環状オレフィン系重合体は、上記特定単量体および必要に応じて他の単量体を、公知の方法により開環(共)重合または付加(共)重合し、必要に応じて水素添加することにより得られる。
本発明で用いられる環状オレフィン系重合体の好ましい分子量は、固有粘度〔η〕inhで0.2〜5dl/g、さらに好ましくは0.3〜3dl/g、特に好ましくは0.4〜1.5dl/gであり、テトラヒドロフランに溶解してゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は8,000〜100,000、さらに好ましくは10,000〜80,000、特に好ましくは12,000〜50,000であり、重量平均分子量(Mw)は20,000〜300,000、さらに好ましくは30,000〜250,000、特に好ましくは40,000〜200,000の範囲のものが好適である。また、分子量分布(Mn/Mw)は、好ましくは 2.0〜4.0、さらに好ましくは2.5〜3.7であり、さらに好ましくは2.8〜3.5である。
固有粘度〔η〕inh、数平均分子量および重量平均分子量が上記範囲にあることによって、環状オレフィン系重合体の耐熱性、耐水性、耐薬品性、機械的特性と、本発明の光学フィルムとしての成形加工性が良好となる。
【0016】
本発明に用いられる環状オレフィン系重合体のガラス転移温度(Tg)としては、通常、110℃以上、好ましくは110〜350℃、さらに好ましくは120〜250℃、特に好ましくは120〜200℃である。Tgが110℃未満の場合は、高温条件下での使用、あるいはコーティング、印刷などの二次加工により変形するので好ましくない。一方、Tgが350℃を超えると、成形加工が困難になり、また成形加工時の加熱温度を高くする必要が生じるため、熱によって樹脂が劣化する可能性が高くなる。
【0017】
以上の環状オレフィン系重合体には、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば特開平9−221577号公報、特開平10−287732号公報に記載されている、特定の炭化水素系樹脂、あるいは公知の熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、ゴム質重合体、有機微粒子、無機微粒子などを配合しても良い。
【0018】
また、本発明に用いる環状オレフィン系重合体には、本発明の効果を損なわない範囲において、耐熱劣化性や耐光性の改良のために公知の酸化防止剤や紫外線吸収剤などの添加剤を添加することができる。
【0019】
<フィルム成形>
本発明に用いられる重合体フィルムは、重合体を直接溶融成形することにより、あるいは溶媒に溶解してキャスティング(キャスト成形)することにより好適に成形することができる。
【0020】
(A)溶融成形
本発明に用いられる重合体フィルムは、前記環状オレフィン系重合体等の重合体、または該重合体と上記他の成分との混合物を溶融成形することにより製造することができる。溶融成形方法としては、たとえば、射出成形、溶融押出成形あるいはブロー成形などを挙げることができる。
【0021】
(B)キャスティング
本発明に用いられる重合体フィルムは、前記環状オレフィン系重合体等の重合体および必要に応じて上記他の成分を溶媒に溶解した液状樹脂組成物を適切な基材の上にキャスティングして溶剤を除去することにより製造することもできる。たとえば、スチールベルト、スチールドラムあるいはポリエステルフィルム等の基材の上に、上記液状樹脂組成物を塗布して溶剤を乾燥させ、その後、基材から塗膜を剥離することにより、ノルボルネン系樹脂フィルムを得ることができる。
前記方法で得られた重合体フィルム中の残留溶剤量は可能な限り少ない方が好ましく、通常3重量%以下、好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは0.5重量%以下である。残留溶剤量が上記範囲にあると、フィルムの経時的な変形や特性変化が起こりにくく、所望の機能を有するフィルムを得ることができる。
【0022】
本発明で用いられる重合体フィルムの厚さは、特に限定されないが、通常5〜500μm、好ましくは10〜150μm、さらに好ましくは20〜100μmであることが望ましい。フィルムの厚さが上記範囲にあると、十分な強度のフィルムが得られ、また、複屈折性、透明性、外観性が良好なフィルムを得ることができる。
【0023】
<延伸処理>
本発明は、上記のようにして得られる重合体フィルムを、不活性ガス雰囲気下で、当該重合体のガラス転移温度−10℃〜+30℃の温度で延伸処理することを特徴とする。その場合の延伸処理方法としては、具体的には、公知の一軸延伸法又は二軸延伸法を挙げることができる。すなわち、テンター法による横一軸延伸法、ロール間圧縮延伸法、円周の異なる二組のロールを利用する縦一軸延伸法など、あるいは横一軸と縦一軸を組み合わせた二軸延伸法、インフレーション法による延伸法などを用いることができる。
一軸延伸法の場合、延伸速度は通常は1〜5,000%/分であり、好ましくは50〜1,000%/分であり、さらに好ましくは100〜1,000%/分であり、特に好ましくは100〜500%/分である。
二軸延伸法の場合、同時2方向に延伸を行う場合や一軸延伸後に最初の延伸方向と異なる方向に延伸する場合がある。この時、延伸後のフィルムの屈折率楕円体の形状を制御するための2つの延伸軸の交わり角度は、所望の特性により決定されるため特に限定はされないが、通常は120〜60度の範囲である。また、延伸速度は各延伸方向で同じであってもよく、異なっていてもよく、通常は1〜5,000%/分であり、好ましくは50〜1,000%/分であり、さらに好ましくは100〜1,000%/分であり、特に好ましくは100〜500%/分である。
【0024】
延伸処理温度は、重合体フィルムを構成する重合体のガラス転移温度(Tg)を基準として、Tg−10℃〜Tg+30℃、好ましくはTg−5℃〜Tg+25℃、さらに好ましくはTg℃〜Tg+20℃の範囲である。前記範囲内とすることで、位相差ムラの発生を抑えることが可能となり、また、屈折率楕円体の制御が容易になることから好ましい。また、不活性ガス雰囲気下で延伸する際に、重合体の熱酸化劣化が抑制され、着色や、分子量低下によるフィルム強度の低下が抑制されるため好ましい。また、重合体を複数含有する重合体フィルムを用いる場合は、示差走査熱量計(DSC)により、日本工業規格K7121に従って求めた補外ガラス転移開始温度(以下、単にガラス転移温度(Tg)という)を用いる。
【0025】
本発明においては、延伸処理を不活性ガス雰囲気下で行う。当該不活性ガスとしては、本発明で用いる重合体と反応しない気体であれば特に限定されず、窒素、二酸化炭素、アルゴンなどが挙げられるが、好ましくは窒素が用いられる。延伸時のフィルムを不活性ガス雰囲気下に置く方法としては、特に限定されないが、例えば、延伸ゾーンに対して不活性ガスをパージさせる方法や、延伸ゾーンを密閉し、当該密閉空間を減圧して不活性ガスを投入する投入する操作を1〜5回繰り返して空間内を不活性ガス置換する方法等が挙げられる。なお、当該不活性ガス雰囲気下での酸素濃度は、好ましくは1重量%以下である。
【0026】
延伸倍率は、所望の特性により決定されるため特に限定はされないが、通常は1.01〜10倍、好ましくは1.03〜5倍、さらに好ましくは1.03〜3倍である。延伸倍率が10倍以上であると、位相差の制御が困難になる場合がある。
【0027】
延伸したフィルムは、そのまま冷却してもよいが、Tg−20℃〜Tgの温度雰囲気下に少なくとも10秒以上、好ましくは30秒〜60分間、さらに好ましくは1分〜60分間保持してヒートセットすることが好ましい。これにより、透過光の位相差の経時変化が少なく安定した位相差フィルムが得られる。
【0028】
上記のようにして延伸したフィルムは、延伸により分子が配向し透過光に位相差を与えるようになるが、この位相差は、延伸倍率、延伸温度あるいはフィルムの厚さなどにより制御することができる。例えば、延伸前のフィルムの厚さが同じである場合、延伸倍率が大きいフィルムほど透過光の位相差の絶対値が大きくなる傾向があるので、延伸倍率を変更することによって所望の位相差を透過光に与える位相差フィルムを得ることができる。一方、延伸倍率が同じである場合、延伸前のフィルムの厚さが厚いほど透過光の位相差の絶対値が大きくなる傾向があるので、延伸前のフィルムの厚さを変更することによって所望の位相差を透過光に与える光学フィルムを得ることができる。また、上記延伸処理温度範囲においては、延伸温度が低いほど透過光の位相差の絶対値が大きくなる傾向があるので、延伸温度を変更することによって所望の位相差を透過光に与える光学フィルムを得ることができる。
【0029】
また、フィルムの位相差は、下記式(I)により表される。
R=Δn×d (I)
(但し、Rは位相差を示し、Δnは複屈折率を示し、dはフィルムの厚さを表す。)
本発明の製造方法は、同じ延伸倍率および延伸温度で延伸しても、従来の方法に比べて複屈折率の大きなフィルムが得られるという特徴を有する。これは、重合体の高温下での酸化劣化を不活性ガス雰囲気で行うことで抑制でき、分解による低分子化が起きないためと考えられる。従って、従来に比べて小さい延伸倍率、または高い延伸温度で延伸しても、従来と同様の位相差を発現させることができる。延伸倍率が高すぎたり、延伸温度が低すぎたりすると、得られる光学フィルムが表面平滑性に劣るものとなりやすく、また、光学ムラも出やすくなる。従って、上述した樹脂の異物を抑える効果に加えて、本発明によると、光学ムラのない表面平滑性に優れた光学フィルムが得られるという効果を有する。
【0030】
上記のように延伸して得た光学フィルムの厚さは、通常200μm以下、好ましくは100〜20μm、さらに好ましくは80〜20μmである。厚みを薄くすることで当該光学フィルムが使われる分野の製品に求める小型化、薄膜化に大きく応えることができる。ここで、光学フィルムの厚みをコントロールするためには、延伸前の重合体フィルムの厚さをコントロールしたり、延伸倍率をコントロールしたりすることによりなし得る。例えば、延伸前の重合体フィルムを薄くしたり、延伸倍率を比較的に大きくしたりすることで、より一層、得られた光学フィルムの厚さを薄くすることができる。
【0031】
<フィルム特性>
以上のようにして得られる光学フィルム(延伸フィルム)は、光学ムラが少なく、フィルム面積1000cm2 における位相差のムラが±3nm以下、好ましくは±1nm以下であり、延伸方向に対する光軸のずれが、±1°以下、好ましくは±0.5°以下である。
【0032】
また、本発明で得られる光学フィルムは、表面平滑性に優れるため、ASTM D1003に準じて測定した厚みが3mmにおけるヘイズ値が1%以下、好ましくは0.8%以下である。
また、フィルムの平均粗さRaは、0.2μm以下、好ましくは0.15μm以下、さらに好ましくは、0.1μm以下である。
【0033】
<光学フィルムの用途>
本発明で得られる光学フィルムは、偏光板の位相差フィルムとして特に好適に用いられる。当該偏光板は、PVA系フィルムなどからなる偏光子の少なくとも片面に、本発明で得られる光学フィルムを、PVA樹脂を主体とした水溶液からなる水系接着剤、極性基含有粘接着剤、光硬化性接着剤などを使用して貼り合わせ、必要に応じてこれを加熱または露光し、圧着して、偏光子と光学フィルムとを接着(積層)させることにより製造することができる。
上記偏光板は、2枚のガラス基板間に液晶が挟持されてなる液晶表示素子の少なくとも片面に貼り合わせて用いられ、液晶表示素子と該偏光板とを接着(積層)させることにより、液晶パネルを製造することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下において、特段の断りがない限り、部または%は重量基準である。
【0035】
なお、各種物性は、次のようにして測定あるいは評価した。
ガラス転移温度(Tg
重合体サンプルまたはフィルムサンプルについて、セイコーインスツルメンツ社製DSC6200を用いて、昇温速度を毎分20℃、窒素気流下で測定を行った。Tgは、微分示差走査熱量の最大ピーク温度(A点)および最大ピーク温度より−20℃の温度(B点)を示差走査熱量曲線上にプロットし、B点を起点とするベースライン上の接線とA点を起点とする接線との交点として求めた。
水素添加率
核磁気共鳴分光計(NMR)はBruker社製AVANCE500を用い、測定溶媒はd−クロロホルムで1H−NMRを測定した。5.1〜5.8ppmのビニレン基、3.7ppmのメトキシ基、0.6〜2.8ppmの脂肪族プロトンの積分値より、単量体の組成を算出後、水素添加率を算出した。
重量平均分子量
重合体サンプルまたはフィルムサンプルについて、東ソー株式会社製HLC―8020ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、テトラヒドロフラン(THF)溶媒で、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)を測定した。Mnは数平均分子量を表す。
固有粘度
サンプル(重合体またはフィルム)をクロロベンゼンに溶解して0.5g/dlの濃度の溶液とし、30℃の条件下、ウベローデ粘度計にて測定した。
残留溶媒量
フィルムサンプルをトルエンに溶解し、島津製作所製GC−14Bガスクロマトグラフィーを用いて測定した。
位相差、複屈折率、位相差ムラ、光軸ムラ
フィルムサンプルとして、光学フィルムの中心部を縦26cm×横12cmの312cmに切り取り、縦2cm間隔、横2cm間隔でそれぞれ位相差、複屈折率および光軸を、王子計器株式会社製、OPTICAL BIREFRINGENCE ANALYZER KOBRA−21ADHを用いて測定した。また、この結果を元に位相差ムラおよび光軸ムラを求めた。
ヘイズ値
スガ試験機社製のヘイズメーター(HGM−2DP型)を用い、全光線透過率ならびにヘイズを測定した。
YI値(黄変度)
村上色彩技術研究所(株)製、X-rite8200を用いて測定した。
【0036】
<実施例>
下記式で表される8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン(DNM)81部、ノルボルネン(NB)9部、分子量調節剤の1−へキセン 10部、およびトルエン 150部を窒素置換した反応容器に仕込んで80℃に加熱した。これにトリエチルアルミニウム 0.005部、メタノール変性WCl6(無水メタノール:PhPOCl2:WCl6=103:630:427 重量比)0.005部を加えて45分反応させることにより重合体を得た。ガスクロマトクラフィーより算出したDNM,NBの反応率はそれぞれ、98%、100%であった。
得られた重合体の溶液をオートクレーブに入れ、さらにトルエンを200部加えた。次に、反応調整剤としてオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを1部と水素添加触媒であるRuHCl(CO)[P(C65)]3を0.006部添加し、窒素置を3回後、水素圧を8MPaにした。155℃まで過熱した後、水素ガスを反応器へ投入し、圧力を10MPaとした。その後、圧力を10MPaに保ったまま、165℃、3時間の反応を行った。反応終了後、1000重量部のメタノール溶液に沈殿させることにより水素添加物を得た。得られた水素添加物をトルエンおよびメタノールを用いて再沈殿精製して共重合体(1)を得た。
共重合体(1)をサンプルとして測定した重量平均分子量(Mw)=6.09×104、分子量分布(Mw/Mn)=2.8、固有粘度(ηinh)=0.51、ガラス転移温度(Tg)=137℃であった。また、Tg分布は25℃であった。DSC測定チャートを図1に示した。なお、1H−NMR測定により共重合体(1)の水素添加率を求めたところ、オレフィン性不飽和結合は99.9%以上水素添加されていた。
【0037】
【化2】

【0038】
共重合体(1)を塩化メチレンに溶解して濃度30%の溶液を調整し、係る溶液を平滑なガラス板にキャストして、130μm厚の重合体フィルムを得た。得られた重合体フィルムは真空乾燥機で0.5tor、80℃、12時間の条件で乾燥後、25℃まで冷却し、真空乾燥機を窒素置換して常圧に戻した。このときのフィルムの残留溶媒量は、0.5%以下であった。その後、重合体フィルムを窒素雰囲気下で25℃の恒温槽に5分間保存し、恒温槽中の窒素を3度入れ替えることにより、窒素置換を3回行った。その後、重合体フィルムをテンター内で、窒素気流下、Tg+10℃である147℃まで昇温させ、自由端一軸延伸法にて、延伸速度300%/min、延伸倍率1.5倍の延伸を行って、光学フィルム(1)を得た。その後、10分間かけて光学フィルム(1)を25℃まで冷却した。
【0039】
光学フィルム(1)をサンプルとして測定した重量平均分子量(Mw)=6.09×104、分子量分布(Mw/Mn)=2.8、固有粘度(ηinh)=0.51、ガラス転移温度(Tg)=137℃であり、重合体(1)をサンプルにしたものと変化がなかった。また、光学フィルム(1)は、厚み=85μm、位相差=343nm、複屈折率=0.00404、ヘイズ値=0.1、YI値=0.1であり、透明でかつ外観欠陥のないフィルムであることが確認できた。また、位相差ムラと光軸ムラを測定したところ、位相差ムラは±3nm、光軸ムラは±0.2度以下であった。
【0040】
<比較例>
実施例1において、空気下で延伸した以外は実施例1と同様に行い、光学フィルム(2)を得た。光学フィルム(2)をサンプルとして測定した重量平均分子量(Mw)=5.21×104、分子量分布(Mw/Mn)=2.9、固有粘度(ηinh)=0.48、ガラス転移温度(Tg)=135℃であり、重合体(1)をサンプルにしたものと変化した。また、光学フィルム(2)は、厚み=85μm、位相差=306nm、複屈折率=0.00360、ヘイズ値=0.2、YI値=0.3であり、位相差の低下と着色がやや起こっていた。また、位相差ムラと光軸ムラを測定したところ、位相差ムラは±3nm、光軸ムラは±0.2度以下であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体フィルムを、不活性ガス雰囲気下で、当該重合体のガラス転移温度−10℃〜+30℃の温度で延伸処理することを特徴とする、光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
重合体が下記式(1)で表される化合物由来の構造単位を有する環状オレフィン系重合体である、請求項1記載の光学フィルムの製造方法。
【化1】

(一般式(I)中、R1〜R4は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30の炭化水素基、またはその他の1価の有機基であり、それぞれ同一または異なっていても良い。また、R1〜R4 のうち任意の2つが互いに結合して、単環または多環構造を形成しても良い。mは0または正の整数であり、pは0または正の整数である。)

【公開番号】特開2008−242024(P2008−242024A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81676(P2007−81676)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】