説明

光学フィルム及びその製造方法

【課題】本発明は、特定温度で長時間滞留したり高温状態で長期間保持されても耐熱性に優れ、透明性の高い光学フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の目的は、2種類以上5種類以下のポリマーを含有する光学フィルムであって、前記2種類以上のポリマー中最も含有率の高いポリマーが、エチレン性不飽和基を複数有するモノマーを共重合成分としていることを特徴とする光学フィルムによって達成された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高温保存および高速製膜においても高い相溶性を維持できるポリマー混合物およびその混合物から作製された光学フィルムに関し、エチレン性不飽和基を複数有するモノマーを組成成分とするポリマーとセルロースエステルとのポリマー混合物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ等に用いられる光学フィルムは、高透明性、高耐熱性等が求められ、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、環状オレフィン系ポリマー等がこれらを満たすものとして広く用いられている。
【0003】
一方、個々の単一樹脂で全ての特性を満足するのは限界があり、添加剤の使用も通常行われているが、添加剤起因のブリードアウト等に悩まされるため、異種ポリマーのブレンドによる解決も試みられている。
【0004】
例えば特許文献1に見られるように、特定の分子量のアクリル樹脂と、特定の置換度のセルロースエステルが互いに相溶することを利用し、ある特性の光学フィルムを得る発明が開示されている。
【0005】
ポリマーブレンドはまずポリマー同士の相溶性または相容性が技術の鍵を握っている。光学フィルムは一般に高透明性が要求され、一方のポリマーが他方に微分散されている相容状態は許容されにくい。
【0006】
つまり異種のポリマー鎖が分子レベルで絡み合う相溶状態が望まれる。ただしこのような相溶状態を形成するポリマー同士の組み合わせは限られていて、その組み合わせを発見するために多大な苦労を要する。
【0007】
また一見相溶しているポリマーブレンドも、特定温度の溶融状態で長時間滞留したり、高温状態で長期間保持されることに対しては安定な相溶を保つことが難しく、ヘイズが高くなる傾向がある。
【0008】
特許文献2に示されるように、基本的には相溶しない異種ポリマーを高剪断加工によってナノレベルに分散して見かけ相溶しているようにする技術も開示されているが、高温長期間保存ではそれらも徐々に相平衡状態に向かい上記と同じ議論になる。
【0009】
特許文献3には、相溶性を確保するためアミド結合を側鎖に有するアクリル樹脂を可塑剤とするセルロースエステル組成物が開示されているが、樹脂の化学組成を変更する必要があり、光学フィルムとしての各種要求性能を取り崩す恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2009/047924号
【特許文献2】特開2005−313608号公報
【特許文献3】特許4138984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、特定温度で長時間滞留したり高温状態で長期間保持されても耐熱性に優れ、透明性の高い光学フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的は、下記によって達成された。
【0013】
1.2種類以上5種類以下のポリマーを含有する光学フィルムであって、前記2種類以上5種類以下のポリマー中最も含有率の高いポリマーが、エチレン性不飽和基を複数有するモノマーを共重合成分としていることを特徴とする光学フィルム。
【0014】
2.前記2種類以上5種類以下のポリマーの中、最も含有率の高いポリマー以外のポリマーの1種がセルロースエステルであることを特徴とする前記1に記載の光学フィルム。
【0015】
3.2種類以上5種類以下のポリマーを構成成分とする混合物であって、該2種類以上のポリマー中最も含有率の高いポリマーが、エチレン性不飽和基を複数有するモノマーを共重合成分とするものである混合物を、溶融流延することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【0016】
4.前記溶融流延の後に延伸工程を有し、その延伸倍率が縦方向および横方向の合計で4倍以上15倍以下であることを特徴とする前記3に記載の光学フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、特定温度で長時間滞留したり高温状態で長期間保持されても耐熱性に優れ、透明性の高い光学フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の光学フィルムは、2種類以上のポリマーを含有する光学フィルムであって、前記2種類以上のポリマー中最も含有率の高いポリマーが、エチレン性不飽和基を複数有するモノマーを共重合成分としていることを特徴とする。
<2種類以上のポリマー>
2種類以上のポリマーとは、モノマー組成の異なる複数のポリマーの混合物であることを意味し、2種類以上好ましくは、5種類以下のポリマーの混合物である。
【0019】
2種類以上のポリマーの中、光学フィルム中の含有率が最も高いポリマー(以下、ポリマーAともいう)は、エチレン性不飽和基を複数有するモノマーを共重合の成分とすることを特徴とする。
【0020】
エチレン性不飽和基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基が挙げられる。エチレン性不飽和基は、2個以上10個以下であることが好ましい。
【0021】
ポリマーAは、(メタ)アクリル系モノマー、ビニルエステル系モノマー、スチレン系モノマー等、通常のラジカル重合可能なモノマーからなるポリマーであれば特に制限はないが、(メタ)アクリル系モノマーが50モル%以上であることが好ましい。
【0022】
(メタ)アクリル系モノマーとしては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、ブチルアクリレート等の低級脂肪族の(メタ)アクリル酸エステルを好ましく使用することができる。
【0023】
その他、酢酸ビニル、N−置換アクリルアミド、スチレン等も共重合成分とすることができる。
【0024】
本発明のエチレン性不飽和基を複数有するモノマーとしては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリメチルプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられる。
【0025】
本発明のエチレン性不飽和基を複数有するモノマー(以下、架橋性モノマーともいう)は、ポリマー中1〜10000ppm(質量)共重合させることが好ましく、さらには、1〜500ppm共重合させることが好ましい。
【0026】
さらに、本発明のポリマーAは、基本とするポリマーの分子量分布が狭いものが好ましい。ここで基本とするとは、架橋していない状態でのポリマーをいう。
【0027】
相溶性のやや低いポリマーの混合物において、高温溶融状態ではポリマー鎖の運動エネルギーのため無秩序な相溶状態を保つことができるが、低温になるにつれポリマー鎖の運動が抑制され、安定な相平衡状態へ向かうことになる。逆にある程度低温になると、相平衡へ向かうための運動が抑制され、非平衡状態で状態が固定化される。つまり溶融状態のある温度域に長時間保たれると相分離しやすくヘイズ上昇しやすい。
【0028】
溶融製膜の中でこのような状態になりやすい工程は、高速製膜におけるキャストの部分である。高速製膜ではダイから押し出された溶融樹脂の空中冷却が殆どないため、キャストロール上に高温の樹脂が接地することになるが、それに対してロール回転速度が速く、すなわち冷却時間を十分にとれないため従来の冷却時よりも比較的高温状態を経過することになる。
【0029】
高温で長期間保持された場合もほぼ上記同様に相分離しやすくヘイズ上昇しやすい。
【0030】
本発明では、緩い架橋構造を持つことによりポリマー鎖の自由度を奪い相平衡へ向かう運動を抑制することで、相溶状態を維持することができていると推定している。
【0031】
分子量分布を制御する方法としては公知の方法を選択できる。架橋性モノマーを、極めて濃度の低い状態で反応させかつ全体の重合反応速度をゆっくりとする、架橋性モノマーを重合反応の途中で添加する等の方法を選択することができる。特に特許3845109号公報、同4107996号公報に記載のリビングラジカル重合は好ましく用いられる。
【0032】
なお、重合反応に際しては、一部3次元架橋する成分ができる場合もあり、正確な分子量分布の測定が困難であることから、架橋性モノマーを添加しない組成において重合反応を行い、数平均分子量Mnが5000〜500000、分子量分布Mw/Mnが1.1〜2.5となるような重合条件を採用した。
【0033】
本発明のポリマーAは、光学フィルムを構成するポリマーの中最も含有率が高いことを特徴とし、好ましくは光学フィルムの50〜100質量%を占める。
<2種類以上のポリマーの中、最も含有率の高いポリマーA以外のポリマー(以下、その他のポリマーという)>
本発明に用いるその他のポリマーとしては、ポリエチレン・ポリプロピレン・ポリスチレン・ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン樹脂、ナイロン6・ナイロン66などのポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート・ポリブチレンテレフタレート・ポリプロピレンテレフタレート・ポリブチレンサクシネート・ポリエチレンサクシネート・ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ(グリコール酸−乳酸)などのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリ酢酸ビニルおよびその鹸化物、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール、セルロースエステルなどの樹脂が挙げられる。
【0034】
またビニルモノマー単位から考えれば、ブタジエン、塩化ビニル、酢酸ビニル、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、エチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルピロリドンおよびビニルエーテルを共重合成分として含むビニル重合体、あるいはビニル共重合体を挙げることもできる。
【0035】
ビニル共重合体の例としては、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−塩化ビニリデン共重合体、アクリル酸エステル−スチレン共重合体、メタクリル酸エステル−アクリロニトリル共重合体、メタクリル酸エステル−塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル−スチレン共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、クロロビニルエーテル−アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル−ビニルピロリドン共重合体などが挙げられる。
【0036】
本発明のその他のポリマーとしては、耐熱性が高く強靱なポリマーを組み合わせることが好ましく、好ましいポリマーとしては、セルロースエステルを挙げることができる。
<セルロースエステル>
本発明のセルロースエステルは、特に透明性の観点から、アシル基の総置換度が2.0〜3.0、炭素数が3〜7のアシル基の置換度が0.5〜3.0であることが好ましい。即ち、本発明のセルロースエステルは炭素数が3〜7のアシル基により置換されたセルロースエステル樹脂であり、具体的には、プロピオニル、ブチリル等が好ましく用いられるが、特にプロピオニル基が好ましく用いられる。
【0037】
本発明のセルロースエステルのアシル置換度は、装置換度が2.0〜3.0であり、炭素数が3〜7のアシル基の置換度が0.5〜3.0であれば問題ないが、炭素数が3〜7以外のアシル基、即ち、アセチル基や炭素数が8以上のアシル基の置換度の総計が1.3以下とされることが好ましい。
【0038】
また、セルロースエステル)のアシル基の装置換度は、2.5〜3.0の範囲であることがさらに好ましい。
【0039】
本発明において前記アシル基は、脂肪族アシル基であっても、芳香族アシル基であってもよい。脂肪族アシル基の場合は、直鎖であっても分岐していても良く、さらに置換基を有してもよい。本発明におけるアシル基の炭素数は、アシル基の置換基を包含するものである。
【0040】
本発明のセルロースエステルとしては、特にセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートベンゾエート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレートから選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、即ち、炭素原子数3または4のアシル基を置換基として有するものが好ましい。
【0041】
これらの中で特に好ましいセルロースエステルは、セルロースアセテートプロピオネートやセルロースプロピオネートである。
【0042】
アシル基で置換されていない部分は通常ヒドロキシル基(水酸基)として存在しているものである。これらは公知の方法で合成することができる。
【0043】
なお、アセチル基の置換度や他のアシル基の置換度は、ASTM−D817−96に規定の方法により求めたものである。
【0044】
本発明のセルロースエステルの重量平均分子量(Mw)は、特にポリマーAとの相溶性、脆性の改善の観点から75000以上であり、75000〜300000の範囲であることを要する。好ましくは、100000〜240000の範囲内であり、160000〜240000のものが特に好ましい。本発明では2種以上のセルロース樹脂を混合して用いることもできる。
【0045】
本発明のその他のポリマーは、光学フィルムを構成するポリマーの0〜49質量%を占めることが好ましい。
【0046】
平均分子量の測定方法は下記方法によることができる。
【0047】
(平均分子量測定方法)
平均分子量Mn、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した。測定条件は以下の通りである。
【0048】
溶媒:メチレンクロライド
カラム:Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ:L6000(日立製作所(株)製)
流量:1.0ml/min
校正曲線:標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=2,300,000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
<その他の添加剤>
本発明の光学フィルムは、2種類以上のポリマー以外に適宜、添加剤を含有することができる。
【0049】
〈可塑剤〉
可塑剤としては、フタル酸エステル系、脂肪酸エステル系、トリメリット酸エステル系、リン酸エステル系、ポリエステル系、あるいはエポキシ系等が挙げられる。この中で、ポリエステル系とフタル酸エステル系の可塑剤が好ましく用いられる。ポリエステル系可塑剤は、フタル酸ジオクチルなどのフタル酸エステル系の可塑剤に比べて非移行性や耐抽出性に優れるが、可塑化効果や相溶性にはやや劣る。
【0050】
ポリエステル系可塑剤は、一価ないし四価のカルボン酸と一価ないし六価のアルコールとの反応物であるが、主に二価カルボン酸とグリコールとを反応させて得られたものが用いられる。代表的な二価カルボン酸としては、グルタル酸、イタコン酸、アジピン酸、フタル酸、アゼライン酸、セバシン酸などが挙げられる。
【0051】
特に、アジピン酸、フタル酸などを用いると可塑化特性に優れたものが得られる。グリコールとしてはエチレン、プロピレン、1,3−ブチレン、1,4−ブチレン、1,6−ヘキサメチレン、ネオペンチレン、ジエチレン、トリエチレン、ジプロピレンなどのグリコールが挙げられる。これらの二価カルボン酸およびグリコールはそれぞれ単独で、あるいは混合して使用してもよい。
【0052】
このエステル系の可塑剤はエステル、オリゴエステル(スクロースオクタベンゾエート、モノペットSB第一工業製薬(株)製等も含む)、ポリエステルの型のいずれでもよく、分子量は100〜10000の範囲が良いが、好ましくは600〜3000の範囲が、可塑化効果が大きい。
【0053】
〈酸化防止剤〉
本発明では、酸化防止剤としては、通常知られているものを使用することができる。特に、ラクトン系、イオウ系、フェノール系、二重結合系、ヒンダードアミン系、リン系化合物のものを好ましく用いることができる。
【0054】
例えば、チバ・ジャパン株式会社から、“IrgafosXP40”、“IrgafosXP60”という商品名で市販されているものを含むものが好ましい。
【0055】
上記フェノール系化合物としては、2,6−ジアルキルフェノールの構造を有するものが好ましく、例えば、チバ・ジャパン株式会社、“Irganox1076”、“Irganox1010”、(株)ADEKA“アデカスタブAO−50”という商品名で市販されているものが好ましい。
【0056】
上記リン系化合物は、例えば、住友化学株式会社から、“SumilizerGP”、株式会社ADEKAから“ADK STAB PEP−24G”、“ADK STAB PEP−36”および“ADK STAB 3010”、チバ・ジャパン株式会社から“IRGAFOS P−EPQ”、堺化学工業株式会社から“GSY−P101”という商品名で市販されているものが好ましい。
【0057】
上記ヒンダードアミン系化合物は、例えば、チバ・ジャパン株式会社から、“Tinuvin144”および“Tinuvin770”、株式会社ADEKAから“ADK STAB LA−52”という商品名で市販されているものが好ましい。
【0058】
上記イオウ系化合物は、例えば、住友化学株式会社から、“Sumilizer TPL−R”および“Sumilizer TP−D”という商品名で市販されているものが好ましい。
【0059】
上記二重結合系化合物は、住友化学株式会社から、“Sumilizer GM”および“Sumilizer GS”という商品名で市販されているものが好ましい。
【0060】
さらに、酸捕捉剤として米国特許第4,137,201号明細書に記載されているような、エポキシ基を有する化合物を含有させることも可能である。
【0061】
これらの酸化防止剤等は、再生使用される際の工程に合わせて適宜添加する量が決められるが、一般には、フィルムの主原料である樹脂に対して、0.05〜20質量%、好ましくは0.1〜1質量%の範囲で添加される。
【0062】
これらの酸化防止剤は、一種のみを用いるよりも数種の異なった系の化合物を併用することで相乗効果を得ることができる。例えば、ラクトン系、リン系、フェノール系および二重結合系化合物の併用は好ましい。
【0063】
〈着色剤〉
本発明においては、着色剤を使用することが好ましい。着色剤と言うのは染料や顔料を意味するが、本発明では、液晶画面の色調を青色調にする効果またはイエローインデックスの調整、ヘイズの低減を有するものを指す。
【0064】
着色剤としては各種の染料、顔料が使用可能だが、アントラキノン染料、アゾ染料、フタロシアニン顔料などが有効である。
【0065】
〈紫外線吸収剤〉
本発明に用いられる紫外線吸収剤は特に限定されないが、例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体等が挙げられる。高分子型の紫外線吸収剤としてもよい。
【0066】
〈マット剤〉
本発明では、フィルムの滑り性を付与するためにマット剤を添加することが好ましい。
【0067】
本発明で用いられるマット剤としては、得られるフィルムの透明性を損なうことがなく、溶融時の耐熱性があれば無機化合物または有機化合物どちらでもよく、例えば、タルク、マイカ、ゼオライト、ケイソウ土、焼成珪成土、カオリン、セリサイト、ベントナイト、スメクタイト、クレー、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、ガラスフレーク、ミルドファイバー、ワラストナイト、窒化ホウ素、炭化ホウ素、ホウ化チタン、炭酸マグネシウム、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、アルミノ珪酸マグネシウム、アルミナ、シリカ、酸化亜鉛、二酸化チタン、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、炭化ケイ素、炭化アルミニウム、炭化チタン、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化チタン、ホワイトカーボンなどが挙げられる。これらのマット剤は、単独でも二種以上併用しても使用できる。
【0068】
粒径や形状(例えば針状と球状など)の異なる粒子を併用することで高度に透明性と滑り性を両立させることもできる。
【0069】
これらの中でも、セルロースエステルと屈折率が近いので透明性(ヘイズ)に優れる二酸化珪素が特に好ましく用いられる。
【0070】
二酸化珪素の具体例としては、アエロジル200V、アエロジルR972V、アエロジルR972、R974、R812、200、300、R202、OX50、TT600、NAX50(以上日本アエロジル(株)製)、シーホスターKEP−10、シーホスターKEP−30、シーホスターKEP−50(以上、株式会社日本触媒製)、サイロホービック100(富士シリシア製)、ニップシールE220A(日本シリカ工業製)、アドマファインSO(アドマテックス製)等の商品名を有する市販品などが好ましく使用できる。
【0071】
粒子の形状としては、不定形、針状、扁平、球状等特に制限なく使用できるが、特に球状の粒子を用いると得られるフィルムの透明性が良好にできるので好ましい。
【0072】
粒子の大きさは、可視光の波長に近いと光が散乱し、透明性が悪くなるので、可視光の波長より小さいことが好ましく、さらに可視光の波長の1/2以下であることが好ましい。粒子の大きさが小さすぎると滑り性が改善されない場合があるので、80nmから180nmの範囲であることが特に好ましい。
【0073】
なお、粒子の大きさとは、粒子が1次粒子の凝集体の場合は凝集体の大きさを意味する。また、粒子が球状でない場合は、その投影面積に相当する円の直径を意味する。
【0074】
〈粘度低下剤〉
本発明において、溶融粘度を低減する目的として、水素結合性溶媒を添加することができる。水素結合性溶媒とは、J.N.イスラエルアチビリ著、「分子間力と表面力」(近藤保、大島広行訳、マグロウヒル出版、1991年)に記載されるように、電気的に陰性な原子(酸素、窒素、フッ素、塩素)と電気的に陰性な原子と共有結合した水素原子間に生ずる、水素原子媒介「結合」を生ずることができるような有機溶媒、すなわち、結合モーメントが大きく、かつ水素を含む結合、例えば、O−H(酸素水素結合)、N−H(窒素水素結合)、F−H(フッ素水素結合)を含むことで近接した分子同士が配列できるような有機溶媒をいう。
【0075】
これらは、セルロース樹脂の分子間水素結合よりもセルロースとの間で強い水素結合を形成する能力を有するもので、本発明で行う溶融流延法においては、用いるセルロース樹脂単独のガラス転移温度よりも、水素結合性溶媒の添加によりセルロース樹脂組成物の溶融温度を低下することができる、または同じ溶融温度においてセルロース樹脂よりも水素結合性溶媒を含むセルロース樹脂組成物の溶融粘度を低下することができる。
【0076】
〈アクリル粒子〉
本発明の光学フィルムには、多層構造アクリル系粒状複合体を含有することができ、市販品の例としては、例えば、三菱レイヨン社製“メタブレン”、鐘淵化学工業社製“カネエース”、呉羽化学工業社製“パラロイド”、ロームアンドハース社製“アクリロイド”、ガンツ化成工業社製“スタフィロイド”およびクラレ社製“パラペットSA”などが挙げられ、これらは、単独ないし2種以上を用いることができる。
<光学フィルムの製造方法>
本発明の光学フィルムは、溶液流延製膜、溶融流延製膜方法のいずれも採用することができるが、より好ましい溶融流延方法について述べる。
(セルロースエステルを含む組成物をペレット化する工程)
溶融押出に用いる複数の原材料は、通常あらかじめ混錬してペレット化しておくことが好ましい。ペレット化は、公知の方法でよく、例えば、本発明のポリマーや、その他添加剤をフィーダーで押出機に供給し1軸や2軸の押出機を用いて混錬し、ダイからストランド状に押し出し、水冷または空冷し、カッティングすることでできる。
【0077】
原材料は、押出する前に乾燥しておくことが原材料の分解を防止する上で重要である。特にセルロースエステルは吸湿しやすいので、除湿熱風乾燥機や真空乾燥機で70〜140℃で3時間以上乾燥し、水分率を200ppm以下、さらに100ppm以下にしておくことが好ましい。
【0078】
添加剤は、押出機に供給する前に混合しておいてもよいし、それぞれ個別のフィーダーで供給してもよい。酸化防止剤等少量の添加剤は、均一に混合するため、事前に混合しておくことが好ましい。酸化防止剤の混合は、固体同士で混合してもよいし、必要により、酸化防止剤を溶剤に溶解しておき、ポリマーに含浸させて混合してもよく、あるいは噴霧して混合してもよい。
【0079】
真空ナウターミキサーなどが乾燥と混合を同時にできるので好ましい。また、フィーダー部やダイからの出口など空気と触れる場合は、除湿空気や除湿したNガスなどの雰囲気下にすることが好ましい。
【0080】
また、押出機への供給ホッパー等は保温しておくことが吸湿防止できるので好ましい。
【0081】
マット剤や紫外線吸収剤などは、得られたペレットにまぶしたり、フィルム製膜時に押出機中で添加してもよい。
【0082】
押出機は、せん断力を抑え、樹脂が劣化(分子量低下、着色、ゲル生成等)しないようになるべく低温で加工することが好ましい。例えば、2軸押出機の場合、深溝タイプのスクリューを用いて、同方向に回転させることが好ましい。混錬の均一性から、噛み合いタイプが好ましい。
【0083】
ニーダーディスクは、混錬性を向上できるが、せん断発熱に注意が必要であり、ニーダーディスクを用いなくても混合性は十分である。ベント孔からの吸引は必要に応じて行えばよく、低温であれば揮発成分はほとんど発生しないのでベント孔なしでもよい。
【0084】
ペレットの色は、黄味の指標であるb*値が−5〜10の範囲にあることが好ましく、−1〜8の範囲にあることがさらに好ましく、−1〜5の範囲にあることがより好ましい。b*値は分光測色計CM−3700d(コニカミノルタセンシング(株)製)で、光源をD65(色温度6504K)を用い、視野角10°で測定することができる。
【0085】
以上のようにして得られたペレットを用いてフィルム製膜を行う。もちろんペレット化せず、原材料の粉末をそのままフィーダーで押出機に供給し、そのままフィルム製膜することも可能である。
(ペレット化したセルロースエステル組成物を、流動性を示す温度まで加熱溶融して溶融物を作製する工程)
除湿熱風や真空または減圧下で乾燥したポリマーを1軸や2軸タイプの押出し機を用いて、押し出す際の溶融温度を200〜300℃程度とし、リーフディスクタイプのフィルターなどでろ過し異物を除去し溶融物を作製する。
【0086】
(溶融物を流延、冷却しフィルム状物とする工程)
作製した溶融物をTダイから流延し、冷却ロール上で固化させフィルム状物をする。
【0087】
供給ホッパーから押出し機へ導入する際は真空下または減圧下や不活性ガス雰囲気下にして酸化分解等を防止することが好ましい。
【0088】
押し出し流量は、ギヤポンプを導入するなどして安定に行うことが好ましい。また、異物の除去に用いるフィルターは、ステンレス繊維焼結フィルターが好ましく用いられる。
【0089】
ステンレス繊維焼結フィルターは、ステンレス繊維体を複雑に絡み合った状態を作り出した上で圧縮し接触箇所を焼結し一体化したもので、その繊維の太さと圧縮量により密度を変え、ろ過精度を調整できる。
【0090】
ろ過精度を粗、密と連続的に複数回繰り返した多層体としたものが好ましい。また、ろ過精度を順次上げていく構成としたり、ろ過精度の粗、密を繰り返す方法をとることで、フィルターのろ過寿命が延び、異物やゲルなどの補足精度も向上できるので好ましい。
【0091】
ダイに傷や異物が付着するとスジ状の欠陥が発生する場合がある。このような欠陥のことをダイラインとも呼ぶが、ダイライン等の表面の欠陥を小さくするためには、押出機からダイまでの配管には樹脂の滞留部が極力少なくなるような構造にすることが好ましい。ダイの内部やリップにキズ等が極力無いものを用いることが好ましい。
【0092】
押出機やダイなどの溶融樹脂と接触する内面は、表面粗さを小さくしたり、表面エネルギーの低い材質を用いるなどして、溶融樹脂が付着し難い表面加工が施されていることが好ましい。具体的には、ハードクロムメッキやセラミック溶射したものを表面粗さ0.2S以下となるように研磨したものが挙げられる。
【0093】
可塑剤などの添加剤は、あらかじめ樹脂と混合しておいてもよいし、押出機の途中で練り込んでもよいが、均一に添加するために、スタチックミキサーなどの混合装置を用いることが好ましい。
【0094】
冷却ロールと弾性タッチロールでフィルム状物をニップする際のタッチロール側のフィルム温度はフィルムのTg以上Tg+110℃以下にすることが好ましい。このような目的で使用する弾性体表面を有するロールは、公知のロールが使用できる。
【0095】
冷却ロールからフィルム状物を剥離する際は、張力を制御してフィルム状物の変形を防止することが好ましい。
(延伸工程)
延伸工程はMD(搬送方向、製膜方向ともいう)延伸、TD(MD方向に垂直な方向、幅方向ともいう)延伸の順に行うことが好ましい。
【0096】
〈MD延伸工程〉
ここでは、MD延伸工程におけるロール延伸について、詳しく説明する。ロール延伸とは、低速ロール群と、高速ロール群の周速度差によってフィルムをMD延伸する方法である。
【0097】
ロール延伸の代表的な方式には、ヒーター加熱方式やオーブン加熱方式などがある。
【0098】
ヒーター加熱方式は、低速ロール群で予熱されたフィルムを、低速ロール群と高速ロール群の間に設置されたヒーターにより瞬時に延伸温度にまで昇温し、比較的短い延伸スパンで延伸するものであり、オーブン加熱方式は、低速ロール群と高速ロール群の間にオーブンを設置し、このオーブンの中に予熱、延伸、冷却工程が含まれ、比較的長い延伸スパンで延伸するものである。
【0099】
広幅の光学フィルムの作製には、幅収縮量を比較的小さく抑えられること、位相差の調整がしやすいことなどから、ヒーター加熱方式が好ましい。ここでは、ヒーター加熱方式について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0100】
フィルムは低速ロール群で予熱され、低速ロール群と高速ロール群の間に設けられたヒーターによって延伸温度まで急激に温められてMD延伸され、高速ロール群で冷却され、次工程へと搬送される。低速ロール群の予熱ロールの本数は、擦り傷の観点から少ない方が望ましいが、フィルムの予熱温度に応じて本数を選択すればよく、1本以上、20本以下、好ましくは2本以上、15本以下のロールを使用する。
【0101】
予熱ロール群の上限温度は、原則として予熱ロール間でMD延伸させないこと、粘着故障などが出ないことを考慮して、フィルムのガラス転移温度(Tg)以下、好ましくは(Tg−5)℃以下である。予熱ロール群による昇温速度は、熱膨張でシワが入らないことを考慮して、各ロールの入り側と出側でのフィルム温度差が80℃以下、好ましくは50℃以下となるようにするのが好ましい。
【0102】
高速ロール群の冷却ロールの本数は、冷却する温度に応じて本数を選択すればよく、1本以上、15本以下、好ましくは2本以上、10本以下のロールを使用する。冷却ロール群の上限温度は、急冷しすぎないことを考慮して、フィルムのガラス転移温度(Tg)以下、好ましくは(Tg−5)℃以下である。冷却ロール群による降温速度は、熱収縮でシワが入らないこと、各ロールの入り側と出側でのフィルム温度差が100℃以下となるようにするのが好ましく、70℃以下となることがより好ましい。
【0103】
予熱ロール群および冷却ロール群のロール径は、ロール強度、接触面積(伝熱・すべり)の観点から、100mmφ以上、400mmφ以下、好ましくは150mmφ以上、300mmφ以下である。特に、延伸ロール(ヒーターのすぐ上流・下流に位置するロール)は、実質延伸スパンSを短くするために、250mmφ以下が好ましい。
【0104】
ところで、フィルムが滑って傷ついたり、ロール間でMD延伸されることを防止するために、熱膨張や熱収縮に応じてドローをかける。ロールのドローは、隣り合うロール間で5%以下、好ましくは1%以下である。
【0105】
ここで、ロールのドローとは、低速側のロールの周速度V1と、高速側のロールの周速度V2の比で、(V2−V1)/V1のことである。予熱ロール群および冷却ロール群におけるロールの駆動は、上記ロールのドローを制御するために、それぞれが駆動ロールであることが好ましいが、一部であれば、補助駆動ロール、フリーロールを使用してもよい。
【0106】
減速機には遊星ローラーやロールギアなどが好適に用いられる。またダイレクトドライブ方式を使用することもでき、これらはシステムに応じて適宜選択すればよい。
【0107】
予熱ロール群および冷却ロール群におけるロール表面粗度は、目的に応じてロール材質および粗度を変更すれば良い。
【0108】
例えば、高温でフィルムに接触するロールやすべり防止のためには、表面粗度0.5S以下、好ましくは0.2S以下の鏡面ロールを使用し、張力カットや張り付き防止のためには、表面粗度1.0S以上の表面の粗いロールを使用するのが好ましい。
【0109】
予熱ロール群および冷却ロール群におけるロール表面材質は、例えばハードクロム(H−Cr)、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化クロム等やこれらの複合物を表面加工したセラミックス、シリコン、フッ素、クロロブレン等のゴム、テフロン(登録商標)等の樹脂を使用する。
【0110】
予熱ロール群および冷却ロール群におけるロールの配置・間隔は、ロール間でのMD延伸防止、フィルムの放冷防止のため、狭い方が良い。各ロール間で、ロール剥離から次のロールに着地するまでの距離は、200mm以下、好ましくは100mm以下である。
【0111】
ニップロールの材質は、弾性変形しやすいシリコンゴム、フッ素ゴム、クロロブレンゴム等のゴムロールや、フッ素樹脂等の樹脂ロールが好適に用いられる。ニップロールの位置は、フィルムが剥離/着地する位置で押さえることが好ましい。また、ニップロールの圧力は、フィルムを圧着できること、フィルムにキズがつかないことなどの観点から、0.1〜50N/mm、好ましくは0.5〜20N/mmである。
【0112】
また、ニップロールはフィルムのキズ防止のためフィルム端部だけをニップしてもよく、幅収縮抑制の観点からロールを太鼓型にしたり、フィルム幅手方向に対してある角度をもって配置しても良い。
【0113】
つぎに、ヒーターの種類としては、クリーン、高効率、省スペースであることなどから、例えば、赤外線ヒーター、ハロゲンランプヒーター、セラミックヒーターなど放射型熱源が望ましく、樹脂の吸収特性に応じて選択すればよい。
【0114】
ヒーターの本数は、ヒーター能力、MD延伸・予熱温度、搬送速度、膜厚、熱伝導率などから計算すれば良く、通常、1〜12本、好ましくは1〜8本使用する。ヒーターの高さは、効率アップのため、フィルムに接触しない範囲で、なるべくフィルムの近くであるのが、好ましい。例えば5〜100mm、好ましくは10〜50mmである。ヒーターの出力は、延伸温度、昇温速度などを考慮して、適宜出力値を調整すればよい。
【0115】
MD延伸速度は、3000以上%/min、75000%/min以下であり、好ましくは5000以上、50000%/min以下である。ここで、MD延伸速度(%/min)は、つぎのようにして定義される。
【0116】
すなわち、低速側延伸ロールの周速度をV1、高速側延伸ロールの周速度をV2、実質延伸スパンをSとすると、下記初期で表わされる。
【0117】
MD延伸速度(%/min)=〔(V2−V1)/S〕×100
また、MD延伸ロールの間隔は、フィルムがロールに保持されていない区間は短いほど幅収縮が抑えられる。ここで、ロールの中心同士の間の距離が、400mm以下、好ましくは300mm以下である。
【0118】
MD延伸ゾーンにおける予熱・延伸・冷却ロールのクリーニング装置は、1本でも複数本でも良く、インラインあるいはオフラインに設けても良いし、場合によっては、設置しなくてもよい。
【0119】
清掃手段としては、不織布を押し付けて汚れを拭き取る方法など、公知のロール清掃手段が好適に用いられる。
【0120】
〈TD延伸工程〉
MD延伸の後、テンター延伸{フィルムの両端をチャックで把持しこれを幅方向(搬送方向と直角方向)に広げて延伸}等によりTD延伸を行うことができる。
〈延伸条件〉
フィルムの延伸は、幅方向で制御された均一な温度分布下で行うことが好ましい。好ましくは±2℃以内、さらに好ましくは±1℃以内、特に好ましくは±0.5℃以内である。延伸時の温度はTg−20℃からTg+40℃の範囲で行うことが好ましい。
【0121】
延伸倍率はMD・TD方向の合計として4倍以上15倍以下に延伸することが好ましい。各方向の延伸倍率は、それぞれ1.1〜4倍であることが好ましい。
【0122】
なお、単に延伸倍率と記載した場合の合計の意味は、例えばMD方向に1.4倍延伸し、TD方向に1.5倍延伸したとき、1.4×1.5=2.1倍と計算する。
【0123】
一般に2種以上の樹脂からなる光学フィルムは大きな変形と高温保持によって微細な相分離状態になりやすく、延伸後のヘイズが高くなる傾向がある。本発明のポリマーブレンドによれば、高倍率の延伸を行ってもヘイズ上昇を抑制できる。
【0124】
〈延伸工程の後工程(含む、巻き取り工程)〉
上記の方法で作製したフィルムにおいて、可塑剤等の凝結物がヘイズ故障とならない程度に減少した後は、レターデーション調整や寸法変化率を小さくする目的で、フィルムをMD方向やTD方向に収縮させることが好ましい。
【0125】
MD方向に収縮するには、例えば、幅延伸を一時クリップアウトさせてMD方向に弛緩させる、または横延伸機の隣り合うクリップの間隔を徐々に狭くすることによりフィルムを収縮させるという方法がある。
【0126】
後者の方法は一般の同時二軸延伸機を用いて、縦方向の隣り合うクリップの間隔を、例えばパンタグラフ方式やリニアドライブ方式でクリップ部分を駆動して滑らかに徐々に狭くする方法によって行うことができる。
【0127】
必要により任意の方向(斜め方向)の延伸と組み合わせてもよい。
【0128】
巻き取る前に、製品となる幅に端部をスリットして裁ち落とし、巻き中の貼り付きやすり傷防止のために、ナール加工(エンボッシング加工)を両端に施してもよい。ナール加工の方法は凸凹のパターンを側面に有する金属リングを加熱や加圧により加工することができる。
【0129】
なお、フィルム両端部のクリップの把持部分は通常、フィルムが変形しており製品として使用できないので切除されて、原材料として再利用される。
<光学フィルム>
本発明の光学フィルムは、液晶表示装置に使用する偏光板保護フィルムとして利用する光学フィルムであることが好ましい。
<偏光板>
本発明の光学フィルムは、偏光子を2枚の偏光板保護フィルムで挟んだ構造を有する偏光板の、偏光板保護フィルムとして使用することができる。
【0130】
偏光板は一般的な方法で作製することができる。本発明のセルロースエステルフィルムをアルカリ鹸化処理し、処理したフィルムを、ヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の少なくとも一方の面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせることが好ましい。
【0131】
本発明の偏光子としては、ポリビニルアルコール系偏光子であって、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがある。
【0132】
偏光子は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられている。
【0133】
該偏光子の面上に、本発明のセルロースエステルフィルムの片面を貼り合わせて偏光板を形成する。好ましくは完全鹸化ポリビニルアルコール等を主成分とする水系の接着剤によって貼り合わせる。
【0134】
本発明に従い溶融流延製膜方法により製造される長尺状セルロースエステルフィルムは、長尺状の偏光子(偏光フィルム)とアルカリケン化処理を施して貼合することができるため、特に100m以上の長尺で生産的効果が得られ、1500m、2500m、5000mとより長尺化する程偏光板製造の生産的効果が高まる。
<液晶表示装置>
本発明の光学フィルムを含む偏光板は、通常の偏光板と比較して高い表示品質を発現させることができる。
【0135】
本発明の偏光板は、MVA(Multi−domain Vertical Alignment)モード、PVA(Patterned Vertical Alignment)モード、CPA(Continuous Pinwheel Alignment)モード、OCB(Optical Compensated Bend)モード、IPS(In−Plane Switching)モード等に用いることができる。
【0136】
液晶表示装置はカラー化および動画表示用の装置として応用され、本発明により表示品質が改良され、コントラストの改善や偏光板の耐性が向上したことにより、疲れにくく忠実な動画像表示が可能となる。
【0137】
光学フィルムの場合、該フィルムの厚さは、10〜500μmが好ましい。特に、下限は20μm以上、好ましくは30μm以上である。上限は150μm以下、好ましくは120μm以下である。
【0138】
特に好ましい範囲は25以上〜90μmである。フィルムが厚いと、偏光板加工後の偏光板が厚くなり過ぎ、ノート型パソコンやモバイル型電子機器に用いる液晶表示においては、特に薄型軽量の目的に適さなくなる。
【0139】
一方、フィルムが薄いと、フィルムの透湿性が高くなり、偏光子を湿度から保護する能力が低下する傾向がある。
【実施例】
【0140】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<合成、重合例>
合成例1(2−メチル−2−メチルテラニル−プロピオニトリルの合成)
金属テルル〔Aldrich(株)製、商品名:Tellurium(−40mesh)〕6.38g(50mmol)をTHF50mlに懸濁させ、これにメチルリチウム(関東化学(株)製、ジエチルエーテル溶液)52.9ml(1.04Mジエチルエーテル溶液、55mmol)を、室温でゆっくり滴下した(10分間)。
【0141】
この反応溶液を金属テルルが完全に消失するまで撹拌した(20分間)。この反応溶液に、2−ブロモ−2−メチル−プロピオニトリル10.4g(70mmol)を室温で加え、2時間撹拌した。反応終了後、減圧下で溶媒を濃縮し、続いて減圧蒸留して、赤色油状物4.10g(収率39%)を得た。
合成例2(ジメチルジテルリド)
金属テルル〔Aldrich製、商品名:Tellurium(−40mesh)〕3.19g(25mmol)をTHF25mlに懸濁させ、メチルリチウム(関東化学(株)製、ジエチルエーテル溶液)25ml(28.5mmol)を0℃でゆっくり加えた(10分間)。
【0142】
この反応溶液を金属テルルが完全に消失するまで撹拌した(10分間)。この反応溶液に、塩化アンモニウム溶液20mlを室温で加え、1時間撹拌した。有機層を分離し、水層をジエチルエーテルで3回抽出した。
【0143】
集めた有機層を芒硝で乾燥後、減圧濃縮し、黒紫色油状物2.69g(9.4mmol:収率75%)を得た。
参考重合例1
窒素置換したグローブボックス内で、メチルメタクリレート0.95g(9.5mmol)、メチルアクリレート0.043g(0.5mmol)とを合成例1で製造した化合物21.1mg(0.10mmol)とAIBN(大塚化学(株)製、商品名:AIBN)16.4mg(0.10mmol)と合成例2で製造した化合物28.5mg(0.10mmol)を50℃で3時間撹拌した。
【0144】
反応終了後、クロロホルム5mlに溶解した後、その溶液を撹拌しているヘキサン200ml中に注いだ。沈殿したポリマーを室温で吸引ろ過、乾燥することによりポリメチルメタクリレート0.977gを得た。Mn=32000、Mw/Mn=1.18であった。
合成例3(エチル−2−メチル−2−メチルテラニル−プロピオネート)
金属テルル(合成例1と同じ)6.38g(50mmol)をTHF50mlに懸濁させ、これにメチルリチウム(合成例1と同じ)52.9ml(1.04Mジエチルエーテル溶液、55mmol)を、室温でゆっくり滴下した(10分間)。この反応溶液を金属テルルが完全に消失するまで撹拌した(20分間)。
【0145】
この反応溶液に、エチル−2−ブロモ−イソブチレート10.7g(55mmol)を室温で加え、2時間撹拌した。反応終了後、減圧下で溶媒を濃縮し、続いて減圧蒸留して、黄色油状物6.53g(収率51%)を得た。
参考重合例2
窒素置換したグローブボックス内で、メチルメタクリレート20.02g(200mmol)と合成例3で製造したエチル−2−メチル−2−メチルテラニル−プロピオネート26.0mg(0.10mmol)とAIBN(大塚化学(株)製、商品名:AIBN)16.4mg(0.10mmol)と合成例2で製造したジメチルジテルリド28.5mg(0.10mmol)を室温で撹拌し、均一の溶液とした。
【0146】
そこに、メチルメタクリレート101.6g(1001mmol)を加え、室温で撹拌した。その後、60℃で3時間撹拌した。反応終了後、クロロホルム1000mlに溶解した後、その溶液を撹拌しているヘキサン4000ml中に注いだ。沈殿したポリマーを室温で吸引ろ過、乾燥することによりポリメチルメタクリレートを得た。Mn=148000、Mw/Mn=1.22であった。
【0147】
本発明の2種類以上のポリマー中最も含有率の高いポリマーAを作製するにあたっては、上記参考重合例1および2の方法の用い、架橋性モノマーを重合開始から1.5時間のところで、添加する方法を採用した。
【0148】
使用したモノマーは、下記の通りである。
MMA:メチルメタクリレート
MA:メチルアクリレート
ACMO:アクリロイルモルホリン
VP:ビニルプロリドン
使用した架橋性モノマーは、下記のB1〜B3の通りである。なお、架橋性モノマーは、主たるモノマー組成成分を100モル%としたときの質量ppmで追加的に使用したものとして表す。
B1:ジビニルベンゼン
B2:ポリエチレングリコールジアクリレート(平均分子量400)
B3:エチレングリコールジアクリレート
作製したポリマーを表1に記す。
【0149】
【表1】

【0150】
上記作製したポリマーを使用して、光学フィルムを下記の通り作製した。
【0151】
使用したセルロースエステルは、下記の通りである。
C1:CAP482−20 イーストマンケミカル(株)製
C2:アセチル基置換度1.65、プロピオニル基置換度1.20、Mw13万のセルセルロースアセテートプロピオネート
C3:アセチル基置換度2.10、Mw10万のセルロースアセテート
<光学フィルム1〜5の作製>
80℃で6時間乾燥した、ポリマーA1の70質量部、C1(水分率200ppm)の30質量部、リン系化合物としてPEP−36(株式会社ADEKA)0.01質量部、Irganox1010(チバ・ジャパン株式会社製)0.5質量部、SumilizerGS(住友化学株式会社製)0.24質量部、アエロジルR972V(日本アエロジル(株)製)0.1質量部を真空ナウターミキサーで80℃、1Torrで3時間混合しながら、さらに乾燥した。
【0152】
得られた混合物を、2軸式押出機を用いて235℃で溶融混合しペレット化した。セルロースエステルフィルムの製膜は図1に示す製造装置で行った。
【0153】
ペレット(水分率50ppm)を、1軸押出機を用いてTダイから表面温度が90℃の第1冷却ロール上に溶融温度240℃でフィルム状に溶融押し出し、厚さ120μmのキャストフィルムを得た。この際第1冷却ロール上でフィルムを2mm厚の金属表面を有する弾性タッチロールで押圧した。
【0154】
同様にして、表2に記載の光学フィルム2〜5を作製した。なお、通常の製膜条件であったため、溶融粘度は測定していない。
<光学フィルム6〜11の作製>
80℃で6時間乾燥した、ポリマーA5の70質量部、C1(水分率200ppm)の30質量部、リン系化合物としてPEP−36(株式会社ADEKA)0.01質量部、Irganox1010(チバ・ジャパン株式会社製)0.5質量部、SumilizerGS(住友化学株式会社製)0.24質量部、アエロジルR972V(日本アエロジル(株)製)0.1質量部を真空ナウターミキサーで80℃、1Torrで3時間混合しながら、さらに乾燥した。
【0155】
得られた混合物を、2軸式押出機を用いて235℃で溶融混合しペレット化した。セルロースエステルフィルムの製膜は図1に示す製造装置で行った。
【0156】
ペレット(水分率50ppm)を、1軸押出機を用いてTダイから表面温度が90℃の第1冷却ロール上に溶融温度240℃でフィルム状に溶融押し出し、厚さ120μmのキャストフィルムを得た。この際第1冷却ロール上でフィルムを2mm厚の金属表面を有する弾性タッチロールで押圧した。この時点での未延伸フィルムを一部採取し、高温保存評価に使用した。また、押出流量・流延速度を3倍にして同一膜厚のキャストフィルムを作製し高速製膜評価に使用した。
(MD延伸工程)
赤外線ヒータ下二つのロールの周速差によりMD延伸を行った。延伸温度は150℃、延伸倍率は2.0倍である。
(TD延伸工程)
得られたフィルムを予熱ゾーン、延伸ゾーン、保持ゾーン、冷却ゾーン(各ゾーン間には各ゾーン間の断熱を確実にするためのニュートラルゾーンも有する)を有するテンターに導入し、幅手方向に140℃で2.0倍に延伸した後、120℃まで冷却し、120℃を維持し熱処理を行った。
【0157】
その後、クリップ把持部を裁ち落として、膜厚40μm、フィルム幅2300mmの光学フィルム6を得た。
【0158】
同様にして、表2に記載の光学フィルム7〜11を作製した。
【0159】
【表2】

【0160】
なお、溶融粘度(Pa・s)はコーンプレート型回転式レオメータによって、測定温度240℃、ひずみ量5%、角速度100rad/secの条件で測定した。
【0161】
作製した光学フィルムについて、下記の評価を行った。結果を表3に示す。
<ヘイズ評価>
得られたフィルムをそれぞれの条件において、JISK−6714に従いヘイズメーター(1001DP型、日本電色工業(株)製)を用いて測定し、透明性の指標とした。断りの無い限り、測定条件は、23℃55%RHの雰囲気下である。
(即)
光学フィルム1〜5および光学フィルム6〜11の未延伸のものを、そのままの状態で測定した。
(高温保存後:未延伸)
光学フィルム1〜5および光学フィルム6〜11の未延伸のものを、75℃で2ヶ月間保存した後に測定した。
(高速製膜)
光学フィルム6〜11に対し高速製膜を実施したものについて測定した。
(延伸後)
光学フィルム6〜11の延伸後のフィルムについて測定した。
【0162】
【表3】

【0163】
表3から明らかなように、本発明は、耐熱性、透明性に優れていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上5種類以下のポリマーを含有する光学フィルムであって、前記2種類以上5種類以下のポリマー中最も含有率の高いポリマーが、エチレン性不飽和基を複数有するモノマーを共重合成分としていることを特徴とする光学フィルム。
【請求項2】
前記2種類以上5種類以下のポリマーの中、最も含有率の高いポリマー以外のポリマーの1種がセルロースエステルであることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
2種類以上5種類以下のポリマーを構成成分とする混合物であって、該2種類以上のポリマー中最も含有率の高いポリマーが、エチレン性不飽和基を複数有するモノマーを共重合成分とするものである混合物を、溶融流延することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記溶融流延の後に延伸工程を有し、その延伸倍率が縦方向および横方向の合計で4倍以上15倍以下であることを特徴とする請求項3に記載の光学フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2011−225691(P2011−225691A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95756(P2010−95756)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】