説明

光学材料、光学素子、光学系及び光ピックアップ装置

【課題】高い屈折率を示しながら複屈折性が小さく、射出成形等の加熱加工が可能である光学材料を提供する。
【解決手段】下記に示す一般式で表される光学材料。式中において、Rはm価の連結基を


表し、Zは、カルボニル基又はアミノ基を介してRとBとを結合させる2価以上の多価の連結基を表し、Mは、カルボニル基又はアミノ基を介してBに結合する置換基を表し、mは3以上の整数を表し、Bは、下記に示す一般式で表される。式中において、R〜R16


は、それぞれ独立して水素原子若しくは置換基を表し、nは1以上の整数を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極めて屈折率が高く複屈折性の低い光学材料であり、更に、射出成形をはじめとした加熱加工が可能であり、溶液に溶解させて薄膜形成することが可能である光学材料、その光学材料を用いた光学素子、光学系、及び光ピックアップ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子、例えば、カメラや携帯電話に用いられる撮像系、光ピックアップ装置の光学系、光通信用光学系に用いられる光学素子としては、ガラス製やプラスチック製の光学素子が用いられている。特に、熱可塑性樹脂製の光学素子を用いた場合、射出成形法により安価に製造することが可能である為、好ましく用いられている。
【0003】
一方、撮像装置や光ピックアップ装置等の小型化の要望に伴い、その光学系も小型化が強く要望されている。従って、集光作用、発散作用等の屈折力を有するレンズも薄型化が求められている。レンズを薄型化する為には、用いられる光学材料の屈折率を高くする、という方法が挙げられる。しかしながら、従来光学材料として用いられている熱可塑性樹脂には十分に高い屈折率を示すものはなかった。高屈折率の樹脂としては、例えば、ポリアラミド樹脂が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。ポリアラミド樹脂は、屈折率を1.7以上とすることができ、特に屈折率の高いものは2.0を超える場合もある。ところが、特許文献1に記載のポリアラミド樹脂は、複屈折性が高く、上記の如き光学素子として使用するには問題があった。また、活性光線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂の中には、熱可塑性樹脂に比べ、比較的高い屈折率を示すものがあるが、光学素子を成形する際に用いられている射出成形等の加熱成形法には適していなかった。
【非特許文献1】エイチ.ジー.ロジャース他(H.G. Rogers, et al.), 「Macromolecules」, 18, 1058(1985)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、高い屈折率を示しながら、複屈折性が小さい光学材料を提供することである。更には、射出成形等の加熱加工が可能である高屈折率の光学材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、特殊な構成を有するポリアラミド樹脂により上記の課題を解決しうることを見出した。すなわち、本発明は下記の構成を有する。
(1)
化1に示す一般式で表されることを特徴とする光学材料。
【化1】

但し、化1に示す式中において、Rはm価の連結基を表し、Zは、カルボニル基又はアミノ基を介してRとBとを結合させる2価以上の多価の連結基を表し、Mは、カルボニル基又はアミノ基を介してBに結合する置換基を表し、mは3以上の整数を表し、Bは、化2に示す一般式で表される。
【化2】

但し、化2に示す式中において、R〜R16は、それぞれ独立して水素原子若しくは置換基を表し、nは1以上の整数を表す。
【0006】
(2) R〜R16の少なくとも一つが、ハロゲン原子、-OCH、NO、CN及びCFからなる群より選ばれる置換基であることを特徴とする前記第1項に記載の光学材料。
【0007】
(3) R〜R16の少なくとも一つがハロゲン原子であることを特徴とする前記第2項に記載の光学材料。
【0008】
(4) R〜R16の少なくとも一つが臭素原子であることを特徴とする前記第3項に記載の光学材料。
【0009】
(5) 化1に示す一般式が化3に示す一般式で表されることを特徴とする前記第1〜4項の何れか1項に記載の光学材料。
【化3】

但し、化3に示す式中において、R17〜R20は、それぞれ独立して水素原子若しくは置換基を表す。
【0010】
(6) 化1に示す一般式が化4に示す一般式で表されることを特徴とする前記第1〜5項の何れか1項に記載の光学材料。
【化4】

但し、化4に示す式中において、pは1〜3の整数を表し、Nはp+1価の連結基を表し、Nは(m−p)+1価の連結基を表す。
【0011】
(7) 化1に示す一般式が化5に示す一般式で表されることを特徴とする前記第1〜6項の何れか1項に記載の光学材料。
【化5】

【0012】
(8)
前記第1〜7項の何れか1項に記載の光学材料からなる光学素子。
【0013】
(9)
屈折パワーを有することを特徴とする前記第8項に記載の光学素子。
【0014】
(10)前記第8又は9項に記載の光学素子を含む光学系。
【0015】
(11) 前記第10項に記載の光学系及び前記光学系に向けて光線を出射する少なくとも一つのレーザ光源を有することを特徴とする光ピックアップ装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高い屈折率を示しながら複屈折性が低く、射出成形等の加熱加工性に優れた光学材料を得ることができる。また、本発明の光学材料を用いた光学素子は薄型化が可能であり、当該光学素子を用いることによりコンパクトな光学系を製造することが可能であり、例えば、光ピックアップ装置等の光学装置を小型化することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の光学素子としては、化1に示す一般式を満たしている限り特に限定はない。
【化1】

化1に示す式中において、Rは、m個の置換基を有する化合物を表し、Zは、カルボニル基又はアミノ基を介してRとBとを結合させる2価以上の多価の連結基を表し、Mは、カルボニル基又はアミノ基を介してBに結合する置換基を表し、mは3以上の整数を表し、Bは、化2に示す一般式で表される。
【化2】

但し、化2に示す式中において、R〜R16は、それぞれ独立して水素原子若しくは置換基を表し、nは1以上の整数を表す。
【0018】
化2に示す一般式において、R〜R16の少なくとも一つが、ハロゲン原子、-OCH、NO、CN及びCFからなる群より選ばれる置換基であることが好ましく、ハロゲン原子であることが特に好ましく、特に臭素原子であることがより好ましい。
【0019】
また、化1に示す一般式が、化3に示す一般式で表されることが好ましい。
【化3】

但し、化3に示す式中において、R17〜R20は、それぞれ独立して水素原子又は置換基を表す。
【0020】
化1に示す一般式が、化4に示す一般式で表されることも好ましい構成である。
【化4】

但し、化4に示す式中において、pは1〜3の整数を表し、Nはp+1価の連結基を表し、Nは(m−p)+1価の連結基を表す。
【0021】
化1に示す一般式が、化5に示す一般式で表されることも好ましい構成である。
【化5】

【0022】
また、化1に示す一般式中の置換基Mとしては、化6に示す一般式で表される、アラミド鎖が分岐した構造が好ましい構成である。
【化6】

但し、化6に示す式中において、Z’は、カルボニル基又はアミノ基を介してBに結合する3価以上の多価の連結基を表し、M’は、カルボニル基又はアミノ基を介してBに結合する置換基を表し、Iは2以上の整数を表し、Bは、化2に示す一般式で表されるアラミド鎖である。
また、M’が、化6に示す一般式と同様に、Bのアラミド鎖末端から更に分岐構造が広がった構造が繰り返される構成であることも好ましい。
【0023】
本発明の光学材料の好ましい例としては、図1に示す化合物(スター型ポリアラミド樹脂化合物−1)が挙げられる。
本発明の化合物の製造方法は、特に限定はないが、例えば、上記の化合物−1は、以下の方法により製造することができる。
【0024】
メカニカルスターラー、冷却管及び窒素導入管を装着した200mlの3つ首丸底フラスコに1.5gの塩化リチウムを添加し、ブンゼンバーナーで丸底フラスコの底を十分に焼いた。その後、フラスコ内を窒素で置換した。フラスコを室温まで放冷した後、2,2’−ジブロモ−4,4’−ジアミノビフェニル、0.552g(1.62mmol)、及び、図2に示す化合物I、0.912mg(1.20μmmol)を、窒素気流を流しフラスコ内を陽圧に保ちつつ仕込んだ。続いて、N−メチルピロリドン、15.6mL、及び、テトラメチル尿素、15.6mLを注射器でフラスコ内に仕込んだ。N−メチルピロリドン及びテトラメチル尿素は、使用直前に水素化カルシウムとともに蒸留して用いた。フラスコをオイルバスに浸漬し、系を40℃に昇温させ、仕込んだ化合物を完全に溶解させた。次に、フラスコを冷媒に浸漬し、系を−5℃まで冷却した。4,4’−ジクロロカルボニルビフェニル、0.451g(1.62mmol)を、窒素気流を流しフラスコ内を陽圧に保ちつつ仕込んだ。続いて、テトラメチル尿素、15.6mLを注射器でフラスコ内に仕込んだ。仕込んだ化合物が完全に溶解した後、さらに1時間、系内を0〜−5℃に保ち攪拌を継続した。その後、冷媒を取り去り30分程度で室温に戻し、さらに1時間半ほどかけて75℃まで昇温させた。75℃に系内を維持してさらに約20時間攪拌を続けた後、反応液を室温まで放冷し、激しく攪拌した大量の氷水中に滴下した。得られた沈殿は、濾過にて取り出し、大量の純水、大量のアセトン、大量のエチルエーテルの順で2回ずつ洗浄した。洗浄後の固体は、減圧下90℃で約20時間乾燥させ、スター型のポリアラミド樹脂化合物−1を得た。構造は、1HNMR及び13CNMRで確認した。
【実施例1】
【0025】
上述の製造方法により得られたスター型ポリアラミド樹脂化合物−1を、本発明光学材料1とした。
【0026】
[比較用光学材料1の製造]
リニア型のポリアラミド樹脂の合成
メカニカルスターラー、冷却管及び窒素導入管を装着した200mlの3つ首丸底フラスコに1.5gの塩化リチウムを添加し、ブンゼンバーナーで丸底フラスコの底を十分に焼いた。その後、フラスコ内を窒素で置換した。フラスコを室温まで放冷した後、2,2’−ジブロモ−4,4’−ジアミノビフェニル、0.552g(1.62mmol)を、窒素気流を流しフラスコ内を陽圧に保ちつつ仕込んだ。続いて、N−メチルピロリドン、15.6mL、及び、テトラメチル尿素、15.6mLを注射器でフラスコ内に仕込んだ。N−メチルピロリドン及びテトラメチル尿素は、使用直前に水素化カルシウムとともに蒸留して用いた。フラスコをオイルバスに浸漬し系を40℃に昇温させ、仕込んだ化合物を完全に溶解させた。次に、フラスコを冷媒に浸漬し、系を−5℃まで冷却した。4,4’−ジクロロカルボニルビフェニル、0.451g(1.62mmol)を、窒素気流を流しフラスコ内を陽圧に保ちつつ仕込んだ。続いて、テトラメチル尿素、15.6mLを注射器でフラスコ内に仕込んだ。仕込んだ化合物が完全に溶解した後、さらに1時間、系内を0〜−5℃に保ち攪拌を継続した。その後、冷媒を取り去り30分程度で室温に戻し、さらに1時間半ほどかけて75℃まで昇温させた。75℃に系内を維持してさらに約20時間攪拌を続けた後、反応液を室温まで放冷し、激しく攪拌した大量の氷水中に滴下した。得られた沈殿は、濾過にて取り出し、大量の純水、大量のアセトン、大量のエチルエーテルの順で2回ずつ洗浄した。洗浄後の固体は、減圧下90℃で約20時間乾燥させた。図3に示すリニア型のポリアラミド樹脂化合物Lを得て、これを比較用光学材料1とした。構造は、1HNMR及び13CNMRで確認した。
【0027】
[比較用光学材料2製造]
一般的な光学材料のうち、比較的高屈折率であるポリカーボネート樹脂(ユーピロン、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製)を比較用光学材料2とした。
【0028】
光学特性の評価
屈折率
本発明光学素子1の屈折率は、シリコン基板上に薄膜状に塗布して、フィルメジャーにより25℃、波長550nmの条件で測定した。
比較用光学素子1の屈折率の値は、上述の非特許文献1の記載に基く。
比較用光学素子2の屈折率の値は、ユーピロン技術資料(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社)の記載に基く。
複屈折
上記の本発明光学素子1、比較用光学材料1及び比較用光学材料2の複屈折をそれぞれ、溝尻光学工業所製の複屈折測定装置により25℃、波長550nmの条件でレタデーション値を測定した。
【0029】
結果を表1に示す。
【表1】

【0030】
表1から明らかなように、本発明による光学材料は、高い屈折率を示しながら複屈折が低く、光学素子用の光学材料として適した性質を持つことが示された。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の光学材料の好ましい例として挙げられるスター型ポリアラミド樹脂化合物の構造を示す図である。
【図2】図1に示したスター型ポリアラミド樹脂化合物を製造するときに使用される化合物の構造を示す図である。
【図3】比較用光学材料の例として挙げられるリニア型ポリアラミド樹脂化合物の構造を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化1に示す一般式で表されることを特徴とする光学材料。
【化1】

但し、化1に示す式中において、Rはm価の連結基を表し、Zは、カルボニル基又はアミノ基を介してRとBとを結合させる2価以上の多価の連結基を表し、Mは、カルボニル基又はアミノ基を介してBに結合する置換基を表し、mは3以上の整数を表し、Bは、化2に示す一般式で表される。
【化2】

但し、化2に示す式中において、R〜R16は、それぞれ独立して水素原子若しくは置換基を表し、nは1以上の整数を表す。
【請求項2】
〜R16の少なくとも一つが、ハロゲン原子、-OCH、NO、CN及びCFからなる群より選ばれる置換基であることを特徴とする請求項1に記載の光学材料。
【請求項3】
〜R16の少なくとも一つがハロゲン原子であることを特徴とする請求項2に記載の光学材料。
【請求項4】
〜R16の少なくとも一つが臭素原子であることを特徴とする請求項3に記載の光学材料。
【請求項5】
化1に示す一般式が化3に示す一般式で表されることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の光学材料。
【化3】

但し、化3に示す式中において、R17〜R20は、それぞれ独立して水素原子若しくは置換基を表す。
【請求項6】
化1に示す一般式が化4に示す一般式で表されることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の光学材料。
【化4】

但し、化4に示す式中において、pは1〜3の整数を表し、Nはp+1価の連結基を表し、Nは(m−p)+1価の連結基を表す。
【請求項7】
化1に示す一般式が化5に示す一般式で表されることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の光学材料。
【化5】

【請求項8】
請求項1〜7の何れか1項に記載の光学材料からなる光学素子。
【請求項9】
屈折パワーを有することを特徴とする請求項8に記載の光学素子。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の光学素子を含む光学系。
【請求項11】
請求項10に記載の光学系及び前記光学系に向けて光線を出射する少なくとも一つのレーザ光源を有することを特徴とする光ピックアップ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−208251(P2008−208251A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−47373(P2007−47373)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】