説明

光学材料、複屈折性光学部品、光波長板及びそれらの製造方法

【課題】 耐熱性、耐湿性、機械的強度、加工性に優れ、温度によって特性の変化することのない、複屈折性光学部品、特に光波長板を作製することのできる光学材料を提供すること。
【解決手段】 本発明の光学材料は、高分子成分を含む光学材料を製膜して得られる高分子薄膜の一軸延伸によって薄膜面内に生じる、下記式(1)で表わされる光学遅延(R)の変化率が、40℃におけるRを基準とした際に、温度20℃〜120℃の範囲で、−0.002%/℃を超え、0.002%/℃未満であるように調製されている。
R=ΔnXY×d (1)
(式中、Rは光学遅延を表わし、nXYは、薄膜の面内複屈折を表わし、dは薄膜の膜厚を表わす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学材料、複屈折性光学部品、光波長板及びそれらの製造方法に関する。特には、耐熱性、耐湿性、柔軟性、機械的強度、加工性に優れると共に、温度によって特性の変化することのない、複屈折性光学部品、特に光波長板を作製することのできる光学材料に関する。
また、本発明は、耐熱性、耐湿性、柔軟性、機械的強度、加工性に優れると共に、温度によって特性の変化することのない、光学遅延の温度依存性が極めて小さな複屈折性光学部品等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信の容量が拡大したことにより、通信コストを低減化するため、光通信システムの高度化が望まれている。光通信システムの高度化のための方法としては、光波長多重方式や光クロスコネクト方式が知られている。これらの方式において、その長距離伝送の部分では、従来から用いられてきた光ファイバや、近年研究開発が盛んな光ファイバアンプが用いられ、また、ノードの部分では、光信号を光のまま処理する光導波回路を用いられるようになっていいる。
【0003】
これらの新しいシステムは、既に実験室レベルでの動作確認が行なわれており、今後の実用化に向けて研究開発が着実に進められている。その中で、石英系の光導波路を用いた光導波回路は、光損失が少なく実用的な光受動部品として期待されている。しかし、その実用化に当たって、光導波回路の偏波依存性が最大の問題として指摘されている。この光導波回路の偏波依存性は、石英系の光導波路を用いて光導波回路を作製した場合に、光導波路の複屈折に起因した信号品質の低下成分と垂直偏波成分との位相ずれとして現れてくる。
【0004】
光導波回路の偏波依存性の起こる原因は、石英系の光導波路を作製する際に温度が1000℃を超えるためであり、基板であるシリコンと石英導波路との熱膨張率の差により生じた残留応力に起因している。この残留応力を排除するための技術として、非特許文献1には、アレイ型光導波路グレーティングによる波長多重回路において、光路の中間地点にポリイミドからなる1/2波長板を挿入することにより、光信号の出射端での水平偏波成分と垂直偏波成分の位相ずれを補償する方法が開示されている。該非特許文献1に記載のポリイミド光波長板として厚さが20μm以下の薄膜を用いることにより、過剰損失を0.3dB以下に抑制することができ、すでに実用化されている。また、この光波長板は、ポリイミド膜を一軸延伸させることにより作製され、耐熱性、耐湿性、柔軟性、機械的強度、加工性において優れた性能を有している。
【0005】
しかし、有機・無機に限らず、光学材料には、一般に熱による体積膨張やバンドギャップの温度依存性に起因する屈折率及び膜厚の温度変化が存在する。上記のポリイミドにより作製された光波長板もその光学特性には温度依存性が存在する。例えば、代表的な複屈折性光学部品である光波長板は、面内の複屈折(ΔnXY)に膜厚(d)を乗じた光学遅延(リターデション)を、透過光波長の1/2(この場合を1/2波長板と呼ぶ)あるいは1/4(この場合を1/4波長板と呼ぶ)となるように正確に制御する必要がある。
しかし、複屈折あるいは膜厚に温度依存性が存在する場合には、その積である光学遅延に温度依存性が現れ、本来の設定値からの変位(ズレ)が生ずる。この変位は光波長板により透過光の位相状態(偏光状態)の制御を不正確なものとし、ひいてはこの複屈折性光学部品を組み込んで作製されている光デバイスの特性が温度によって大きく変化する原因となる。このように、複屈折性光学材料の温度依存性の問題は、光デバイスの機能に重大な影響を与えてしまう。従って、上述した温度依存性を小さくすることにより、耐熱性、耐湿性、柔軟性、機械的強度、加工性に優れる複屈折性光学部品、中でも光波長板を開発することが望まれている。
【0006】
特に、光波長多重(WDM)伝送を可能とするアレイ導波路格子(AWG)等のプレーナ光波回路(PLC)の回路特性の偏波依存性解消のために、上述のように一軸延伸含フッ素ポリイミドから作製される薄膜光波長板が広く用いられている。一方、最近においては、多波長のWDM伝送を可能とするタンデム型AWGが開発され、光波長多重に用いられる波長域が広域化している。
【0007】
例えば、最近、報告されたタンデム型AWGでは、1.525μm〜1.610μmの波長域が用いられている(非特許文献2)しかし、該非特許文献2に開示されたAWGの偏波依存性解消に用いられるポリイミド波長板の光学遅延(これは、面内複屈折ΔnXY×膜厚dで定義される)が使用中心波長である1.568μmの1/2に完全に合致していると仮定した場合でも、両端波長における光学遅延にはすでに2.7%のずれが生じており混信(クロストーク)の原因となっている。温度変化によりポリイミド波長板の光学遅延が中心波長の1/2からさらにずれた場合、両端波長のいずれか一方における光学遅延のずれは2.7%を超えることになり、混信の確率はさらに高くなる。現在、この光学遅延の温度変化とAWGの特性そのものの温度変化を抑止するために、ペルチェ素子を用いた精密な温度調整器が用いられているが、経済性や汎用性の観点から温度調整器は用いないことが好ましい。
【0008】
また、近い将来、このポリイミド波長板がより広い波長域とより広い温度域で使用されることが予想されることから、その光学遅延(ΔnXY)の温度依存性をできるだけ小さくするともに、光学遅延の温度依存性、波長依存性を精密に制御する技術が必要とされている。上記のAWGの使用温度域を20℃〜120℃と仮定した場合、ポリイミド波長板における光学遅延の1/2波長からのずれ(変位)に依存するクロストークを40dB以下に抑えるためには、計算上ポリイミド波長板の光学遅延の温度変化が−0.002%/℃を超え、0.002%/℃未満であることが必要となる。
【0009】
【非特許文献1】S.Andoほか、エレクトロニクスレターズ(Electron.Lett.)、第29巻、第24号、第2143〜2145頁(1993)
【非特許文献2】K.Takadaほか,IEEEフォトニクステクノロジーレターズ(Photon.Technol.Lett.)、第14巻,第648〜650頁(2002).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、ポリイミドを用いて製造された薄膜光波長板は耐熱性、耐湿性、柔軟性、機械的強度、加工性において優れたものであるが、光学遅延の温度変化に対する安定性に問題があった。従って、本発明の目的は、ポリイミド系複屈折材料の温度遅延性に関する問題を解消し、耐熱性、耐湿性、柔軟性、機械的強度、加工性に優れ、温度によって特性の変化することのない、複屈折性光学部品、特に光波長板を作製することのできる光学材料を提供することにある。
また、本発明の目的は、耐熱性、耐湿性、柔軟性、機械的強度、加工性に優れ、かつ光学遅延の温度依存性が極めて小さく、温度によって特性の変化することのない、複屈折性光学部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意検討を重ねた結果、特定の条件を満たす高分子成分を含む材料を用いることにより、上記目的を達成し得るという知見を得、本発明を完成するに至った。
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、高分子成分を含む光学材料を製膜して得られる高分子薄膜の一軸延伸によって薄膜面内に生じる、下記式(1)で表わされる光学遅延(R)の変化率が、40℃におけるRを基準とした際に、温度20℃〜120℃の範囲で、−0.002%/℃を超え、0.002%/℃未満であるように調製された光学材料。
【0012】
R=ΔnXY×d (1)
(式中、Rは光学遅延を表わし、nXYは、薄膜の面内複屈折を表わし、dは薄膜の膜厚を表わす。)
上記光学材料としては、ポリイミド成分を含む光学材料を製膜して得られる高分子薄膜の一軸延伸によって薄膜面内に生じる、上記式(1)で表される光学遅延(R)が正の温度依存性を示すポリイミド成分と、ポリイミド成分を含む光学材料を製膜して得られる高分子薄膜の一軸延伸によって薄膜面内に生じる、上記式(1)で表される光学遅延(R)が負の温度依存性を示すポリイミド成分との共重合体を含むものが挙げられる。
【0013】
また、本発明は、上記光学材料を用いて作製される複屈折性光学部品を提供する。
また、本発明は、上記光学材料を用いて作製される光波長板を提供する。
また、本発明は、上記光波長板を組み込んで作製される光デバイスを提供する。
【0014】
また、本発明は、ポリイミド成分を含む光学材料を製膜して得られる高分子薄膜の一軸延伸によって薄膜面内に生じる、上記式(1)で表わされる光学遅延(R)が正の温度依存性を示すポリイミド成分の前駆体と、ポリイミド成分を含む光学材料を製膜して得られる高分子薄膜の一軸延伸によって薄膜面内に生じる、上記式(1)で表わされる光学遅延(R)が負の温度依存性を示すポリイミド成分の前駆体とを含む溶液、又は上記前駆体からなる共重合体の溶液を調製する工程; 上記前駆体を含む溶液、又は共重合体の溶液を製膜し、乾燥することにより薄膜を形成する工程;及び上記薄膜を一軸方向に引張応力がかかる状態で加熱することにより、薄膜の面内に複屈折を生じさせ、薄膜面内に光学遅延を発生させる工程;を含むことを特徴とする、複屈折性光学部品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐熱性、耐湿性、柔軟性、機械的強度、加工性に優れると共に、温度によって特性の変化することのない、複屈折性光学部品、特に光波長板を作製することのできる光学材料が提供される。
また、本発明によれば、耐熱性、耐湿性、柔軟性、機械的強度、加工性に優れると共に、温度によって特性の変化することのない複屈折性光学部品が提供される。
また、本発明の複屈折性光学部品は、温度に対して非常に安定なものであると共に、加工及び取扱が容易であり、耐熱性、耐湿性、柔軟性、機械的強度に優れたものである。また、光導波回路に、本発明の光波長板を挿入することによって、その機能及び性能を向上させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、まず本発明の光学材料について説明する。
本発明の光学材料は、高分子成分を含む光学材料を製膜して得られる高分子薄膜の一軸延伸によって薄膜面内に生じる、上記式(1)で表わされる光学遅延(R)の変化率が、温度20〜120℃の範囲で、−0.002%/℃を超え、0.002%/℃未満である。
本明細書において、光学遅延とは、平行ニコル回転法により測定した値を意味するものであり、具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0017】
また、光学遅延の変化率とは、20〜120℃の温度範囲で、上述のようにして光学遅延を測定し、上記温度範囲内における温度単位あたりにおける光学遅延の変化の度合いを示す。光学遅延の温度単位あたりの変化率が−0.002%/℃を超え、0.002%/℃未満である、すなわち、光学遅延の変化率の絶対値は、0.002%/℃未満であり、好ましくは0.001%/℃未満である。光学遅延の変化率が全くないことが最も好ましい。光学遅延の変化率が上記範囲をはずれると、得られる、光波長板等の複屈折光学部品の温度による特性の変化が大きくなり、好ましくない。
【0018】
上記光学材料としては、ポリイミド成分を含む光学材料を製膜して得られる高分子薄膜の一軸延伸によって薄膜面内に生じる、上記式(1)で表される光学遅延(R)が正の温度依存性を示すポリイミド成分と、ポリイミド成分を含む光学材料を製膜して得られる高分子薄膜の一軸延伸によって薄膜面内に生じる、上記式(1)で表される光学遅延(R)が負の温度依存性を示すポリイミド成分との共重合体を含む光学材料を用いることが好ましい。
【0019】
すなわち、上記光学材料としては、2種以上のポリイミド成分を含む共重合体を含む光学材料が好ましく用いられる。用いられるポリイミド成分の少なくとも1種は、そのポリイミド成分を含む光学材料を製膜して得られる高分子薄膜の一軸延伸によって薄膜面内に生じる、上記式(1)で表される光学遅延(R)が正の温度依存性を示すポリイミド成分(以下、本明細書において、単に「光学遅延が正の温度依存性を示すポリイミド成分」ともいう。)である。また、上記ポリイミド成分に加え、本発明においては、そのポリイミド成分を含む光学材料を製膜して得られる高分子薄膜の一軸延伸によって薄膜面内に生じる、上記式(1)で表される光学遅延(R)が負の温度依存性を示すポリイミド成分(以下、本明細書において、単に「光学遅延が負の温度依存性を示すポリイミド成分」ともいう。)を用いることが必要である。上記光学遅延が正の温度依存性を示すポリイミド成分、及び光学遅延が負の温度依存性を示すポリイミド成分としては、例えば、以下に湿すテトラカルボン酸又はその誘導体と、ジアミンとから製造されるポリアミド酸、ポリアミド酸塩、ポリアミド酸エステル化物が挙げられる。これらはポリイミドの前駆体であり、熱処理又は化学的な脱水処理によってポリイミドとすることができる。以下、それぞれのポリイミド成分について説明する。
【0020】
光学遅延が正の温度依存性を示すポリイミドとしては、例えば、ピロメリット酸二無水物(PMDA)と2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル(TFDB)とから合成されるポリイミド(PMDA/TFDBポリイミド)が挙げられる。このポリイミドは、下記式(2)で表わされる繰り返し単位を有するポリイミドである。
【0021】
【化1】

【0022】
上記式(2)で表わされる繰り返し単位を有するポリイミドは、膜厚20μm以下の薄膜において、負の熱膨張係数を示すことが松浦らにより報告されており(松浦 徹ほか、マクロモレキュールズ(Macromolecules)、第24巻、18号、第5001〜5005頁(1991))、同様に負の熱膨張係数を示すポリイミド薄膜は、光学遅延が正の温度依存性を示すと考えられる。なお、光学遅延が正の温度依存性を示すとは、高分子成分を含む材料を製膜して得られる高分子薄膜の一軸延伸によって薄膜面内に生じる、上記式(1)で表わされる光学遅延(R)が、温度の上昇によって大きくなることを意味するものとし、光学遅延が負の温度依存性を示すとは、上記と反対のことを意味する。
【0023】
一方、光学遅延が負の温度依存性を示すポリイミドとしては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)とオキシジアニリン(ODA)とから合成されるポリイミド(PMDA/ODAポリイミド)、及び3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸(BPDA)と1,4−ジアミノベンゼン(PDA)とから合成されるポリイミド(BPDA/PDAポリイミド)が挙げられる。PMDA/ODAポリイミドは、下記式(3)で表わされる繰り返し単位を有するポリイミドであり、BPDA/PDAポリイミドは、下記式(4)で表わされる繰り返し単位を有するポリイミドである。
【0024】
【化2】

【0025】
【化3】

【0026】
上記式(3)で表わされる繰り返し単位を有するポリイミド、及び上記式(4)で表わされる繰り返し単位を有するポリイミドは、汎用のポリイミドであり、膜厚20μm以下の薄膜において、正の熱膨張係数を示すことが知られており、これら正の熱膨張係数を示すポリイミド薄膜は、光学遅延が負の温度依存性を有すると考えられる。
【0027】
上記ポリイミドの製造方法に特に制限はないが、例えば、それぞれを構成する酸二無水物と、ジアミン化合物とを重縮合して得られるポリアミド酸を、加熱閉環することによって製造することができる。加熱閉環する方法に特に制限はなく、従来公知の方法が用いられる。
なお、本発明の光学材料は、上述した、光学遅延が正の温度依存性を示すポリイミド成分と、光学遅延が負の温度依存性を示すポリイミド成分との共重合体を含むが、光学遅延が正の温度依存性を示すポリイミド成分と、光学遅延が負の温度依存性を示すポリイミド成分との混合比を調整して、光学遅延の変化率を調整することができる。いずれかのポリイミド成分の比率が大きすぎると、光学遅延の変化率の絶対値が大きくなり、得られる複屈折性光学部品の温度による特性の変化が大きくなり、好ましくない。
【0028】
次に、本発明の複屈折性光学部品、及び光波長板について説明する。本発明の複屈折性光学部品及び光波長板は、上述した本発明の光学材料を用いて作製される。複屈折性光学部品及び光波長板の作製方法については後述する。本発明の光波長板は、光デバイスを作製するために用いられる。すなわち、本発明の光デバイスは、本発明の光波長板を組み込んで作製されたものである。
【0029】
次に、本発明の複屈折性光学部品の製造方法について説明する。
本発明の複屈折性光学部品の製造方法は、ポリイミド成分を含む光学材料を製膜して得られる高分子薄膜の一軸延伸によって薄膜面内に生じる、下記式(1)で表わされる光学遅延(R)が正の温度依存性を示すポリイミド成分の前駆体と、ポリイミド成分を含む光学材料を製膜して得られる高分子薄膜の一軸延伸によって薄膜面内に生じる、下記式(1)で表わされる光学遅延(R)が負の温度依存性を示すポリイミド成分の前駆体を含む溶液、又は上記前駆体からなる共重合体の溶液を調製する工程;上記前駆体を含む溶液、又は共重合体の溶液を製膜し、乾燥することにより薄膜を形成する工程;及び上記薄膜を一軸方向に引張応力がかかる状態で加熱することにより、薄膜の面内に複屈折を生じさせ、薄膜面内に光学遅延を発生させる工程;を含むことを特徴とする。
R=ΔnXY×d (1)
(式中、Rは光学遅延を表わし、ΔnXYは、薄膜の面内複屈折を表わし、dは薄膜の膜厚を表わす。)
【0030】
本発明の複屈折性光学部品の製造方法においては、まず、ポリイミド成分を含む光学材料を製膜して得られる高分子薄膜の一軸延伸によって薄膜面内に生じる、上記式(1)で表わされる光学遅延(R)が正の温度依存性を示すポリイミド成分の前駆体と、ポリイミド成分を含む光学材料を製膜して得られる高分子薄膜の一軸延伸によって薄膜面内に生じる、下記式(1)で表わされる光学遅延(R)が負の温度依存性を示すポリイミド成分の前駆体とを含む溶液、又は上記前駆体からなる共重合体の溶液を調製する。光波長板などの複屈折性光学部品に用いることのできる、光学遅延を有するポリイミドの作製に用いられるテトラカルボン酸及びその誘導体としての酸無水物、酸塩化物、エステル化物等としては、基本的にどのようなものでも使用可能であると考えられる。しかし、光通信波長域において使用できる、膜厚が20μm以下であるポリイミド光波長板の実現に必要な 0.03を超える複屈折を、実用的な延伸倍率の延伸処理によって発現させるためには、テトラカルボン酸またはその誘導体とジアミンのいずれかまたはその双方が、主鎖骨格に回転可能な結合を持たないか、あるいは回転可能な結合を一つだけもつ直線性の高い構造であることが好ましい。例えば、ジアミンの主鎖骨格に回転可能な結合が2つ以上含まれる場合(エーテル基、チオエーテル基、メチレン基、スルホン基、カルボニル基、イソプロピリデン基、ヘキサフルオロイソプロピリデン基などが含まれる場合を指す)、テトラカルボン酸としては、主鎖骨格が1つのベンゼン環からなるピロメリット酸やそのベンゼン環に結合する2つの水素が他の有機置換基あるいはハロゲンに置換された誘導体、あるいは主鎖骨格がビフェニル構造である2,3,3’,4‘−ビフェニルテトラカルボン酸や、そのベンゼン環に結合する4つの水素が他の有機置換基あるいはハロゲンに置換された誘導体が好ましく用いられる。また、酸無水物の主鎖骨格に回転可能な結合が2つ以上含まれる場合、ジアミンとしては、主鎖骨格が1つのベンゼン環からなるジアミノベンゼンやそのベンゼン環に結合する4つの水素が他の有機置換基あるいはハロゲンに置換された誘導体、あるいは主鎖骨格がビフェニル構造であり、しかもそのベンゼン環に結合する水素の一部もしくは全部が他の有機置換基あるいはハロゲンに置換された誘導体が好ましい。但し、ビフェニル構造を主鎖骨格に持つジアミンを用いても、酸無水物の主鎖骨格が柔軟な場合には、0.03を超える複屈折を発現させることができない場合がある。従って、テトラカルボン酸またはその誘導体とジアミンの双方が、その主鎖骨格に回転可能な結合を持たないか、あるいは回転可能な結合を一つだけもつ直線性の高い構造のものが好ましく用いられる。
加えて、空気中の水分の吸収にともなう近赤外光の透過性低下を防ぐとともに、光透過性の高い領域を可視域の低波長側へ広げるためには、原料であるテトラカルボン酸またはその誘導体とジアミンのいずれか、またはその双方にフッ素原子が結合したものを用いることが好ましい。特にジアミンとして2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル(TFDB)を用いた場合には、大きな面内複屈折、高い光透過性、低い吸水率を持ったポリイミドフィルムを得ることができる。また、光通信波長を含む近赤外光に対する吸収損失を低減した光波長板を作製するためには、原料としてテトラカルボン酸またはその誘導体とジアミンのいずれか、またはその双方がアミノ基を除いてフッ素化されたものが好ましく用いられる。
ポリイミド成分の前駆体としては、テトラカルボン酸又はその誘導体、ジアミン等を原料として用いることができる。また、上記前駆体又は共重合体を溶解することのできる溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトンなどの極性有機溶媒があげられるが、ポリイミドの前駆体を溶解することのできる溶媒であれば、特に制限はない。
【0031】
本発明の複屈折性光学部品の製造方法において用いられる前駆体の具体例について以下に説明する。
光学遅延が正の温度依存性を示すポリイミド成分の前駆体としては、例えば、上記式(2)で表わされる繰り返し単位を有するポリイミドを得るための前駆体であるポリアミド酸、ポリアミド酸塩、ポリアミド酸エステル化物が用いられる。また、光学遅延が負の温度依存性を示すポリイミド成分の前駆体としては、例えば、上記式(3)又は(4)で表わされる繰り返し単位を有するポリイミドを得るための前駆体であるポリアミド酸、ポリアミド酸塩、ポリアミド酸エステル化物が用いられる。
【0032】
上記式(2)で表わされる繰り返し単位を有するポリイミドを得るための前駆体としては、例えば、ピロメリット酸二無水物(PMDA)及び2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル(TFDB)から合成されるポリアミド酸、またはそのポリアミド酸塩やポリアミド酸エステル化物が挙げられる。上記式(3)で表わされる繰り返し単位を有するポリイミドを得るための前駆体としては、例えば、ピロメリット酸二無水物(PMDA)及びオキシジアニリン(ODA)から合成されるポリアミド酸、またはそのポリアミド酸塩やポリアミド酸エステル化物が挙げられる。また、上記式(4)で表わされる繰り返し単位を有するポリイミドを得るための前駆体としては、例えば、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸(BPDA)及び1,4−ジアミノベンゼン(PDA)から合成されるポリアミド酸、またはそのポリアミド酸塩やポリアミド酸エステル化物が挙げられる。
【0033】
本発明の複屈折性光学部品の製造方法における、上記溶液の調製方法はポリイミド共重合体を得る一般的な方法でよい(例えば、松浦 徹ほか、マクロモレキュールズ(Macromolecules)、第26巻、3号、第419〜423頁(1993)に記載の方法が挙げられる。)。すなわち、ポリイミド前駆体を合成するための原料化合物であるテトラカルボン酸二無水物あるいはジアミンを所望の割合に秤量した後、粉末状態で混合し、それを順次、溶媒に加える方法、または、正の温度依存性を示すポリイミド成分、及び負の温度依存性を示すポリイミド成分の前駆体の溶液を別々に調製したのち、それらの重合反応が終結しないうちに混合し、十分な時間をかけて撹拌することによってアミド交換反応により共重合体を生成する方法等が用いられる。
【0034】
次いで、上記溶液を成膜し、乾燥することにより薄膜を形成する。具体的には、上記の溶液(以下、混合溶液という)をスピンコートやドクターナイフ等の方法、又はキャスト方を用いて製膜し、乾燥させて薄膜とする。スピンコート法及びキャスト法は、従来公知の方法によって実施可能である。製膜後の乾燥に際しては送風に加えて、加熱を行ってもよく、加熱を行い際の温度は室温(25℃)〜80℃程度でよい。なお、100℃を超える温度での乾燥は、ポリアミド酸におけるアミド結合の解裂(解重合反応)が活発化するため好ましくない。
【0035】
次いで、上述のようにして得られたポリイミド前駆体の薄膜を適当な大きさに切断し、一軸方向に引張応力がかかった状態で加熱し、薄膜の面内に複屈折を生じさせ、薄膜面内に光学遅延を発生させる。なお、本明細書において、「一軸方向に引張応力がかかった状態で加熱し」とは、(1)外部からの引張応力により延伸処理及び加熱イミド化を同時に行うこと、(2)一方向のみを金枠等に固定した状態で加熱する操作により薄膜の面内に生ずる自発的な引張応力により延伸処理を行うこと、及び(3)薄膜を一軸延伸した後に、その方向に固定した状態で、あるいは延伸応力を加えた状態で加熱することのいずれをも意味する。なお、一軸方向に延伸処理する方法は、空気中あるいは不活性気体中における一軸延伸、金属ロールへの接触等による乾式延伸、又は湿式延伸でもよいが、上記の2の方法が操作性や簡易性、光学遅延の制御性の観点から好ましい。
【0036】
製膜されたポリイミドの前駆体は、上記の加熱処理によって閉環しポリイミドに変換される。この場合の加熱処理の温度は、閉環反応がほぼ終了する温度(約200℃)よりも十分に高い方が好ましい。なお、本発明において用いられる光学材料は、光学遅延が正の温度依存性を示すポリイミド成分、及び光学遅延が負の温度依存性を示すポリイミド成分からなることを特徴としているが、同様に、光学遅延が正の温度依存性を示すポリイミドと、光学遅延が負の温度依存性を示すポリイミドの混合(ブレンド)物であっても同様の特性の達成が可能と考えられる。但し、別々に調製されて重合反応が終了した2種のポリアミド酸溶液を混合したのち製膜し、熱イミド化して得られた試料は、前駆体の合成時に原料化合物を混合して調製されたポリイミド共重合体に比べて光透過性に劣ることが報告されている(松浦 徹ほか、マクロモレキュールズ(Macromolecules)、第26巻、3号、第419〜423頁(1993))。このことから、ポリイミド前駆体はブレンド物よりも共重合体がより好ましい。
【0037】
なお、本発明の光波長板を代表とする複屈折性光学部品の製造方法は、少なくとも2種のポリイミド成分を含有しており、第一のポリイミド成分の光学遅延が正の温度依存性を示し、かつ第二のポリイミド成分の光学遅延が負の温度依存性を示す。すなわち、上述した、正の温度依存性を示すポリイミド成分、及び負の温度依存性を示すポリイミド成分の2種のポリイミド成分を含有する。ここで、光学遅延が正の温度依存性を示すポリイミド成分、及び光学遅延が負の温度依存性を示すポリイミド成分は、それぞれ単一のポリイミド成分である必要はなく、上記の条件を満たせば複数のポリイミド成分からなっていてもよい。また、ポリイミド以外の成分をその一部に含んでいても良い。なお、一軸延伸ポリイミド薄膜における光学遅延の制御する方法としては、例えば、以下のような方法が挙げられる。例えば、中川ら、ジャーナルオブアプライドポリマーサイエンス(Journal of Applied Polymer Science)、第41巻、2049〜2058頁、1990年に記述されている方法が挙げられる。すなわち、PMDAと4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)とから合成されるポリアミド酸のフィルムの両端に引っ張り応力をかけながら 160℃まで加熱(熱イミド化)し、次いで、引っ張り応力を解除してさらに350℃まで熱処理する方法である。この方法によれば、最大で 83%の延伸が可能であり、30%以上の延伸処理を施した場合に、約 0.18(波長 0.63μm)と大きな面内複屈折をもつポリイミドフィルムが得られている。また、例えば、安藤慎治らポリマーズ フォア アドバンスト テクノロジーズ(Polymers for Advanced Technologies)、第10巻、3号、第169〜178頁、および同誌12巻、5号、第319〜331頁に記述されている一般的な方法も用いられる。すなわち、(1) ポリアミド酸フィルムを一軸延伸した後、金属枠等で一軸あるいは二軸方向を固定した状態で熱イミド化する方法、(2) ポリアミド酸フィルムに一軸方向の引っ張り応力をかけたまま熱イミドを行うことにより、延伸及びイミド化を同時に行う方法、(3) ポリアミド酸フィルムを一軸方向のみ金属枠等で固定して熱イミドを行うことにより、その過程で起こるイミド化によるフィルム収縮と溶媒の蒸発を利用して延伸とイミド化を同時に行う方法、(4) ポリアミド酸の溶液を面内に熱膨張率異方性を有する基板に塗布し、そのまま熱イミド化することにより、その過程で起こる基板の熱膨張の異方性を利用して延伸とイミド化を行う方法である。ここで、延伸処理を熱イミド化処理と同時に行うことは、大きな面内複屈折を得るために有効であるが、すでにイミド化が終了した面内複屈折を持たないポリイミドフィルムに対して延伸処理を施すことは、得られる面内複屈折が前記の方法に比べて小さいことから効果的でない。しかし、(5) イミド化が終了しておりしかも目的の値に近い光学遅延ンをもつポリイミドフィルムに対して、300℃以上の高温下で再度延伸処理を施す方法、及び(6) 同様のポリイミドフィルムに対して、300℃以上の高温下、応力をかけない状態で熱処理を施す方法は、光学遅延のさらに精密な調整方法として有効である。(6)の方法は、剛直な構造を持つポリイミドが高温下で自発的に配向し、複屈折が増大する現象を利用している。なお、これらの方法を用いる場合には、ポリイミドフィルムの光学遅延を外部から検知しながら、その延伸条件や温度条件を調節することが望ましい。
ポリアミド酸フィルムの室温付近における一軸延伸の方法としては、ポリアミド酸溶液を基板に塗布し、溶媒をある程度乾燥させた後に、フィルムを基板から剥離して延伸を行なう方法の他に、延伸が容易な高分子(例えばポリビニールアルコールやポリカーボネートなど)のフィルム上にポリアミド酸溶液を塗布し、溶媒をある程度乾燥させた後で、ポリアミド酸を基板ごと延伸しその後に剥離する方法や、基板から剥離したポリアミド酸のフィルムを良溶媒と貧溶媒からなる混合溶媒に浸漬し、膨潤がある程度進んだ後で延伸する方法が利用可能である。室温付近におけるポリアミド酸の一軸延伸あるいは高温におけるポリイミドフィルムの一軸延伸についてはこれら以外の方法も考えられ、ポリアミド酸あるいはポリイミドの分子鎖が結果として一軸方向に配向していれば、どのような方法でも使用することができる。例えば、ポリアミド酸の溶液を耐熱性プラスチックや金属の基板に塗布し、溶媒をある程度乾燥させたのちに基板ごと曲げて応力をかけ延伸させたまま熱イミド化する方法や、ロール延伸機、テンター延伸機等を用いた通常の延伸操作も有効と考えられる。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例を記載して、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
本実施例では、以下の方法で光学遅延の温度依存性の評価を行った。
(1)温度制御
試料の温度制御はホットステージ(Mettler Toledo:FP82HT)を用いて行なった。
(2)光学遅延測定
光学遅延測定は平行ニコル回転法を用いて評価を行なった。平行ニコル回転法は、平行ニコル状態に保った2個の偏光子の間に試料を保持し、単一波長の光を透過させながら2個の偏光子を同期回転させたときの回転角及び透過光強度の関係から、試料の光学遅延及び主屈折率の方向を求める方法である。入射光は偏光子で直線偏光とされた後、試料を透過し、検光子に到達する。偏光子と検光子の主軸角は予め一致させてある。ジョーンズ行列による偏光状態解析から定式化されるように、透過光強度は試料の主軸角と位相回転角に依存して変化する関数となり、実測から得られた出射光の回転角依存性を理論式にフィッティングすることによって主軸角と位相回転角を得ることができる。測定は近赤外の1543nmの波長で行い、光源としてはアドバンテスト社製、「TQ8143レーザーダイオード」を用い、オプティカルパワーメーターとしては、Nweport Model-835を用い、全ての光学測定機器のコントロールは光機社製、「Mili−5」で行った。
【0039】
実施例1
光学遅延が正の温度依存性を示すポリイミドである、ピロメリット酸二無水物(PMDA)と2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル(TFDB)とから合成されるポリイミド(PMDA/TFDB)と、光学遅延が負の温度依存性を示すポリイミドである、PMDAと4,4’-ジフェニルエーテル(ODA)とから合成されるポリイミド(PMDA/ODA)とのランダム共重合前駆体をN,N−ジメチルアセトアミド溶液において合成した。
【0040】
ランダム共重合体の合成は、N,N−ジメチルアセトアミド溶液11.45gにTFDBを0.6690g(1.0445mmol)加え、次いでODAを0.4183g(2.089mmol)加えた後、PMDAを0.6835g(3.1336mmol)加えて氷冷しつつ30分間撹拌を行った。次いで、室温(25℃)で24時間、1.5rpmで撹拌した。なお、TFDBとODAの混合モル比は1:2である。
【0041】
次いで、上記のポリアミド酸溶液を直径が約10cmのシリコンウェハにスピンコート法により塗布し、窒素雰囲気下70℃で2時間乾燥させ、ウェハから薄膜をはく離できる程度に溶媒を蒸発させた。ウェハからはく離した薄膜を縦0.7cm、横2cmの短冊状に切り出し、熱機械分析装置を用いて大気中にて薄膜の長手方向の両端に引張応力55gをかけながら一軸延伸を行い、同時に加熱処理を行った。加熱処理は10℃/分の昇温速度で最高温度443℃まで昇温し、その後443℃で薄膜を1時間保持することにより行い、本発明の複屈折性光学部品を得た。
【0042】
上述のようにして得られた複屈折性光学部品について、20℃〜180℃の範囲で光学遅延の測定を行った。測定結果を図1に示す。図1は、得られた試料について、20℃〜180℃の温度領域において測定を行なった結果を表すグラフであり、40℃における測定値を100とした場合の光学遅延の変化量を示している。グラフの横軸は温度であり、縦軸は、40℃における光学遅延の測定値を基準とした場合の光学遅延の変化の割合(%)を示す。なお、比較として、PMDA/TFDBポリイミド、及びPMDA/ODAポリイミドについても同様に測定を行った。図1から明らかなようにPMDA/TFDBポリイミドは、温度が上昇するに従って光学遅延の値が増加した。すなわち、PMDA/TFDBポリイミドは正の温度依存性を示すことがわかる。これに対し、PMDA/ODAポリイミドは、温度が上昇するに従って光学遅延の値が減少した。すなわち、PMDA/ODAポリイミドは負の温度依存性を示すことがわかる。また、上述のようにして得られたランダム共重合体により得られたポリイミド共重合体を用いて得られた複屈折性光学部品においてはホモポリマーの温度依存性が相殺されて、40℃における光学遅延を基準とした場合の温度による光学遅延の変化率は−0.0012%/℃であった。図1から明らかなように、この値は、PMDA/TFDBポリイミド及びPMDA/ODAポリイミドと比較して、非常に小さな値であった。
【0043】
実施例2
光学遅延が正の温度依存性を示すポリイミド(PMDA/TFDB)と、光学遅延が負の温度依存性を示す、3,4,3’,4’-ビフェニル酸テトラカルボン酸二無水物(BPDA)とp−フェニレンジアミン(PDA)から合成されるポリイミド(BPDA/PDA)のランダム共重合前駆体をN,N−ジメチルアセトアミド溶液において合成した。合成は、N,N−ジメチルアセトアミド溶液10.57gにTFDBを0.6545g(1.022mmol)、次いでODAを0.2046g(1.022mmol)加えた後、PMDAに比べて反応性が低いことが知られているBPDAを0.3007g(1.022mmol)を加えて10分間氷冷しつつ撹拌を行った。その後、PMDAを0.2229g(1.022mmol)を加え、さらに10分間氷冷しつつ撹拌を行った。次いで室温で24時間、1.5rpmで撹拌した。なお、PMDAとBPDAとの混合比、TFDBとODAとの混合モル比はそれぞれ1:1であった。
【0044】
次いで、加熱処理を、10℃/分の昇温速度で最高温度405℃まで昇温し、その後405℃で1時間保持した以外は実施例1と同様に操作を行い、本発明の複屈折性光学部品を得た。
得られた複屈折性光学部品について、20℃〜180℃の範囲で光学遅延の測定を行った。測定結果を図2に示す。図2は、得られた試料について、20℃〜180℃の温度領域において測定を行なった結果を表すグラフであり、40℃における測定値を100とした場合の光学遅延の変化量を示している。グラフの横軸は温度であり、縦軸は光学遅延の値を示す。なお、比較として、PMDA/TFDBポリイミド、及びBPDA/PDAポリイミドについても同様に測定を行った。図2から明らかなように、PMDA/TFDBポリイミドは、温度が上昇するに従って光学遅延の値が増加した。すなわち、PMDA/TFDBポリイミドは正の温度依存性を示すことがわかる。これに対し、BPDA/PDAポリイミドは、温度が上昇するに従って光学遅延の値が減少した。すなわち、BPDA/PDAポリイミドは負の温度依存性を示すことがわかる。また、上述のようにして得られたランダム共重合体により得られたポリイミド共重合体を用いて得られた複屈折性光学部品においてはホモポリマーの温度依存性が相殺されて、40℃における光学遅延を基準とした場合の温度による光学遅延の変化率は+0.0005%/℃であった。図2から明らかなように、この値は、PMDA/TFDBポリイミド及びBPDA/PDAポリイミドと比較して、非常に小さな値であった。
【0045】
実施例1及び実施例2で得られた複屈折性光学部品は、光学遅延の温度による変化率が非常に小さく、温度によって特性の変化しないものである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施例1で得られた試料について、20℃〜180℃の温度領域において測定を行なった結果を表すグラフである。
【図2】実施例2で得られた試料について、20℃〜180℃の温度領域において測定を行なった結果を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子成分を含む光学材料を製膜して得られる高分子薄膜の一軸延伸によって薄膜面内に生じる、下記式(1)で表わされる光学遅延(R)の変化率が、40℃におけるRを基準とした際に、温度20℃〜120℃の範囲で、−0.002%/℃を超え、0.002%/℃未満であるように調製された光学材料。
R=ΔnXY×d (1)
(式中、Rは光学遅延を表わし、nXYは、薄膜の面内複屈折を表わし、dは薄膜の膜厚を表わす。)
【請求項2】
ポリイミド成分を含む光学材料を製膜して得られる高分子薄膜の一軸延伸によって薄膜面内に生じる、下記式(1)で表される光学遅延(R)が正の温度依存性を示すポリイミド成分と、ポリイミド成分を含む光学材料を製膜して得られる高分子薄膜の一軸延伸によって薄膜面内に生じる、下記式(1)で表される光学遅延(R)が負の温度依存性を示すポリイミド成分との共重合体を含む、請求項1に記載の光学材料。
R=ΔnXY×d (1)
(式中、Rは光学遅延を表わし、ΔnXYは、薄膜の面内複屈折を表わし、dは薄膜の膜厚を表わす。)
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光学材料を用いて作製される複屈折性光学部品。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の光学材料を用いて作製される光波長板。
【請求項5】
請求項4に記載の光波長板を組み込んで作製される光デバイス。
【請求項6】
ポリイミド成分を含む光学材料を製膜して得られる高分子薄膜の一軸延伸によって薄膜面内に生じる、下記式(1)で表わされる光学遅延(R)が正の温度依存性を示すポリイミド成分の前駆体と、
ポリイミド成分を含む光学材料を製膜して得られる高分子薄膜の一軸延伸によって薄膜面内に生じる、下記式(1)で表わされる光学遅延(R)が負の温度依存性を示すポリイミド成分の前駆体とを含む溶液、
又は上記前駆体からなる共重合体の溶液を調製する工程;
上記前駆体を含む溶液、又は共重合体の溶液を製膜し、乾燥することにより薄膜を形成する工程;及び
上記薄膜を一軸方向に引張応力がかかる状態で加熱することにより、薄膜の面内に複屈折を生じさせ、薄膜面内に光学遅延を発生させる工程;
を含むことを特徴とする、複屈折性光学部品の製造方法。
R=ΔnXY×d (1)
(式中、Rは光学遅延を表わし、ΔnXYは、薄膜の面内複屈折を表わし、dは薄膜の膜厚を表わす。)

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−312681(P2006−312681A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−135929(P2005−135929)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】