説明

光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールの製造方法

【課題】光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールの工業的な製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明の製造方法は、以下の3工程から成る。


また、本発明の製造方法における鍵中間体として、新規物質である光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルを提供する。
本発明の製造方法では、パラジウム触媒の使用量を格段に低減することができ、且つ1回で反応を完結させることができるため、製造コストが安く、操作が簡便である。さらに、最終目的物が結晶化し、再結晶精製を行うことにより高純度品が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬中間体として重要な光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールは、医薬中間体として重要である(特許文献1および2)。これらの特許文献において、該化合物の製造方法が開示されている(スキーム1を参照;Bn、Me、Boc、*、THF、Pd(OH)2/C、EtOH、(Boc)2OおよびAqueous dioxaneは、それぞれベンジル基、メチル基、tert−ブトキシカルボニル基、不斉炭素、テトラヒドロフラン、炭素に担持された水酸化パラジウム、エタノール、2炭酸ジ−t−ブチル、ジオキサン水溶液を表す)。
【0003】
【化1】

【0004】
また、光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルは新規物質である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2003−516346号公報
【特許文献2】特表2008−503501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールの工業的な製造方法を提供することにある。そのためには、従来技術の問題点を解決する必要がある。
【0007】
特許文献1および2では、第2工程の脱ジベンジル化が工業的に採用され難いものであった。反応を完結させるためには、水素ガスの吸収が認められなくなった時点で新しいパラジウム触媒に置き換えて何度も同じ反応を繰り返す必要があり、操作が煩雑であった。特許文献1の実施例I 7では計2回、実施例I 13では計3回、同じ反応を繰り返す必要があり、結果的に高価なパラジウム触媒のトータル使用量も増加した(実施例I 7;6.5モル%、実施例I 13;7.6モル%)。特許文献2では1回で反応を完結させているが、パラジウム触媒の使用量が格段に多く[実施例18(工程D:脱保護);24.0モル%]、製造コストが高かった。
【0008】
また、最終目的物である光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールは高沸点の油状物質であるために、蒸留や再結晶等の大量規模でも実施容易な精製方法を採用することができず、医薬中間体として要求される高純度品を工業的に製造することが困難であった。特許文献2では、光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールの色調や物性に関して“淡褐色油状物として純粋な生成物を得た”との開示があるが、本発明で得られる該化合物の高純度品(白色結晶)とは甚だ異なっていた。
【0009】
この様に、操作が簡便で、製造コストが安く、且つ高純度品が得られる、光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールの工業的な製造方法が強く望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
先ず初めに、本発明者らは、スキーム1の第2工程の脱ジベンジル化が完結し難い現象を参考例1にて再現した。光学活性3−ジベンジルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノール(ジベンジル体)から光学活性3−ベンジルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノール(モノベンジル体)への変換は良好に進行するが、モノベンジル体から目的物である光学活性3−アミノ−2−フルオロ−1−プロパノールへの変換が極めて遅いことが判明した。この結果より、アミノ基(第2級または第1級)とヒドロキシル基を同時に有する2座配位性の化合物がパラジウム触媒の触媒毒として働く可能性がある。
【0011】
そこで、本発明者らは、この様な2座配位性の化合物を経ない製造方法について鋭意検討した結果、同じ出発原料を用いて反応工程の順序を入れ替えるだけで脱ジベンジル化が極めて良好に進行し、光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールが工業的に製造できることを見出した(スキーム2を参照;RおよびPdは、それぞれ炭素数1から6のアルキル基、パラジウム触媒を表す)。
【0012】
【化2】

【0013】
脱ジベンジル化を第1工程で行うことにより、パラジウム触媒の使用量を格段に低減することができ(1モル%以下)、且つ1回で反応を完結させることができる。この第1工程の脱ジベンジル化は、添加剤として酸を加えることにより反応が極めて円滑に進行することも見出した。また、脱ジベンジル化で得られる光学活性3−アミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルを酸との塩に誘導して塩精製を行うことにより該化合物の高純度品を得ることができる。この高純度品を次工程に供することで最終的に得られる光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールが結晶化し、再結晶精製を行うことにより最終目的物の高純度品が得られることを見出した。従来、油状物質と考えられていた最終目的物の光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールが結晶化する理由として、光学活性3−アミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルでの塩精製による高純度化以外に、tert−ブトキシカルボニル化で用いる2炭酸ジ−t−ブチルが最終目的物に全く残存せず純度を低下させないことも挙げられる。本発明の製造方法では第2工程でtert−ブトキシカルボニル化引き続いて第3工程でヒドリド還元を行うため、第2工程で未反応の2炭酸ジ−t−ブチルが残存しても第3工程の反応条件下で完全に分解されるためである(スキーム1の製造方法では最終工程でtert−ブトキシカルボニル化を行うため、この様な効果を期待することができない)。従って、本発明の製造方法において、反応工程の順序は極めて重要な意味を持つ。さらに、第2工程のtert−ブトキシカルボニル化は、添加剤として塩基を加えることにより反応が極めて円滑に進行することを見出した。次に、結晶として得られる最終目的物の光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールは融点が39℃と低く、必ずしも再結晶精製に好ましい物性ではないが、好適な再結晶溶媒を用いることにより高純度品が収率良く回収できることを見出した。最後に、本発明の製造方法における鍵中間体として、新規物質である光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルを提供する。
【0014】
当初、スキーム2に示す製造方法には、種々の副反応が予想された。例えば、第1工程で得られる光学活性3−アミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルのラクタム化や(ポリ)アミド化、第2工程で得られる光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルのラセミ化や3−tert−ブトキシカルボニルアミノアクリル酸エステルへの脱フッ化水素(電子求引性のアミノ保護基の導入によるα位およびβ位プロトンの酸性度が高くなることに由来)、第3工程で得られる光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールの光学純度の低下(光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルのヒドリド還元条件下でのラセミ化)等である。しかしながら、本発明で開示する反応条件を採用することにより、これらの副反応が殆ど起こらないことも明らかにした。
【0015】
すなわち、本発明は[発明1]から[発明5]を含み、光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールの工業的な製造方法を提供する。
[発明1]
一般式[1]
【0016】
【化3】

【0017】
で示される光学活性3−ジベンジルアミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルをパラジウム触媒の存在下に水素ガス(H2)で脱ジベンジル化することにより(第1工程)、一般式[2]
【0018】
【化4】

【0019】
で示される光学活性3−アミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルに変換し、一般式[2]で示されるエステル体を2炭酸ジ−t−ブチル[(Boc)2O]でtert−ブトキシカルボニル(Boc)化することにより(第2工程)、一般式[3]
【0020】
【化5】

【0021】
で示される光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルに変換し、一般式[3]で示されるエステル体を水素化ホウ素リチウム(LiBH4)または水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)でヒドリド還元することにより(第3工程)、一般式[4]
【0022】
【化6】

【0023】
で示される光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールを製造する方法。
[式中、Rは炭素数1から6のアルキル基を表し、Bnはベンジル基を表し、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を表し、*は不斉炭素を表す]
[発明2]
発明1において、第1工程の脱ジベンジル化を添加剤として酸を加えて行い、さらに第2工程のtert−ブトキシカルボニル(Boc)化を添加剤として塩基を加えて行うことを特徴とする、発明1に記載の方法。
[発明3]
発明1または発明2において、第1工程で得られる光学活性3−アミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルを酸との塩に誘導して塩精製を行い、さらに第3工程で得られる光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールの再結晶精製を行うことを特徴とする、発明1または発明2に記載の方法。
[発明4]
発明3において、第3工程で得られる光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールの再結晶溶媒が脂肪族炭化水素系、芳香族炭化水素系またはこれらの混合溶媒であることを特徴とする、発明3に記載の方法。
[発明5]
一般式[3]
【0024】
【化7】

【0025】
で示される光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロプロピオン酸エステル。
[式中、Rは炭素数1から6のアルキル基を表し、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を表し、*は不斉炭素を表す]
【発明の効果】
【0026】
本発明が従来技術に比べて有利な点を以下に述べる。
【0027】
本発明の製造方法では、パラジウム触媒の使用量を格段に低減することができ、且つ1回で反応を完結させることができるため、製造コストが安く、操作が簡便である。さらに、最終目的物が結晶化し、再結晶精製を行うことにより高純度品が得られる。
【0028】
この様に、本発明は従来技術の問題点を全て解決できる、光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールの工業的な製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールの製造方法について詳細に説明する。
【0030】
本発明の製造方法は、一般式[1]で示される光学活性3−ジベンジルアミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルをパラジウム触媒の存在下に水素ガスで脱ジベンジル化することにより一般式[2]で示される光学活性3−アミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルに変換する第1工程、一般式[2]で示されるエステル体を2炭酸ジ−t−ブチルでtert−ブトキシカルボニル化することにより一般式[3]で示される光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルに変換する第2工程および一般式[3]で示されるエステル体を水素化ホウ素リチウムまたは水素化ホウ素ナトリウムでヒドリド還元することにより一般式[4]で示される光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールに変換する第3工程から成る。
【0031】
最初に、第1工程の脱ジベンジル化について詳細に説明する。
【0032】
一般式[1]で示される光学活性3−ジベンジルアミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルのRは、炭素数1から6のアルキル基を表す。該アルキル基は、直鎖または枝分れの鎖式、または環式(炭素数が3以上の場合)を採ることができる。その中でもメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基およびn−ヘキシル基が好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基およびイソプロピル基が特に好ましい。
【0033】
一般式[1]で示される光学活性3−ジベンジルアミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルのBnは、ベンジル基を表す。
【0034】
一般式[1]で示される光学活性3−ジベンジルアミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルの*は、不斉炭素を表し、絶対配置はR体またはS体を採ることができ、光学純度は80%ee(エナンチオマー過剰率)以上を用いれば良く、90%ee以上が好ましく、95%ee以上が特に好ましい。
【0035】
一般式[1]で示される光学活性3−ジベンジルアミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルは、Journal of the American Chemical Society(米国),1982年,第104巻,p.5836−5837、国際公開2006/038872号パンフレット、国際公開2009/133789号パンフレット等を参考にして同様に製造することができる。
【0036】
パラジウム触媒としては、パラジウム黒、パラジウムスポンジ、パラジウム/活性炭、パラジウム/アルミナ、パラジウム/炭酸カルシウム、パラジウム/炭酸ストロンチウム、パラジウム/硫酸バリウム、水酸化パラジウム/活性炭、水酸化パラジウム/アルミナ、酢酸パラジウム、塩化パラジウム等が挙げられる。その中でもパラジウム/活性炭、パラジウム/アルミナ、水酸化パラジウム/活性炭および水酸化パラジウム/アルミナが好ましく、パラジウム/活性炭および水酸化パラジウム/活性炭が特に好ましい。これらのパラジウム触媒は単独または組み合わせて用いることができる。パラジウムまたは水酸化パラジウムを担体に担持させる場合の担持含量は、0.1から50重量%を用いれば良く、0.5から40重量%が好ましく、1から30重量%が特に好ましい。また、パラジウム触媒は含水品を用いることもできる。さらに、取り扱いの安全性を高めるためにまたは金属表面の酸化を防ぐために、水または不活性な液体中に保存したものを用いることもできる。最後に、後述の後処理において反応終了液から回収されるパラジウム触媒を再利用することもできる。
【0037】
パラジウム触媒の使用量は、一般式[1]で示される光学活性3−ジベンジルアミノ−2−フルオロプロピオン酸エステル1モルに対して0.05モル以下を用いれば良く、0.00001から0.03モルが好ましく、0.0001から0.01モルが特に好ましい。
【0038】
水素ガスの使用量は、一般式[1]で示される光学活性3−ジベンジルアミノ−2−フルオロプロピオン酸エステル1モルに対して2モル以上を用いれば良いが、過剰量が好ましく、加圧条件での過剰量が特に好ましい。
【0039】
水素ガスの加圧条件は、5MPa以下で行えば良く、0.005から4MPaが好ましく、0.01から3MPaが特に好ましい。従って、ステンレス鋼(SUS)またはガラス(グラスライニング)の様な材質でできた耐圧反応容器を用いることが好ましい。
【0040】
本工程は、添加剤として酸を加えることにより反応が極めて円滑に進行するため、本発明の好ましい態様である[発明2]の前半部を構成するものである。しかしながら、好適な反応条件を組み合わせて採用することにより、必ずしも添加剤を加える必要はない。
【0041】
添加剤としては、塩化水素、臭化水素、硫酸、硝酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸が挙げられる。その中でも塩化水素、臭化水素、硫酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸およびパラトルエンスルホン酸が好ましく、塩化水素、酢酸、トリフルオロ酢酸およびパラトルエンスルホン酸が特に好ましい。これらの酸は単独または組み合わせて用いることができる。
【0042】
添加剤を用いる場合の使用量は、一般式[1]で示される光学活性3−ジベンジルアミノ−2−フルオロプロピオン酸エステル1モルに対して0.1モル以上を用いれば良く、0.2から100モルが好ましく、0.3から50モルが特に好ましい。
【0043】
反応溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、1,4−ジオキサン等のエーテル系、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール等のアルコール系、水等が挙げられる。その中でもアルコール系が好ましく、メタノール、エタノール、n−プロパノールおよびイソプロパノールが特に好ましい。これらの反応溶媒は単独または組み合わせて用いることができる。
【0044】
反応溶媒の使用量は、一般式[1]で示される光学活性3−ジベンジルアミノ−2−フルオロプロピオン酸エステル1モルに対して0.05L(リットル)以上を用いれば良く、0.1から20Lが好ましく、0.15から10Lが特に好ましい。
【0045】
反応温度は、+150℃以下で行えば良く、−30から+100℃が好ましく、−20から+50℃が特に好ましい。
【0046】
反応時間は、48時間以内で行えば良いが、反応基質および反応条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、反応基質の減少が殆ど認められなくなる時点を終点とすることが好ましい。
【0047】
後処理は、反応終了液に対して有機合成における一般的な操作を行うことにより、目的とする一般式[2]で示される光学活性3−アミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルを得ることができる。好ましくは、反応終了液中のパラジウム触媒を濾過し、濾洗液を濃縮して残渣を得る操作が効果的である。この操作により、水溶性が高い目的物も収率良く回収することができる。目的物の2位の立体化学は本工程を通して保持され、光学純度の低下も認められない。また、必要に応じてカラムクロマトグラフィー等により精製することもできる。
【0048】
本工程で得られる光学活性3−アミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルは、酸との塩に誘導して塩精製を行うことにより高純度品を得ることができ、本発明の好ましい態様である[発明3]の前半部を構成するものである。実際の操作としては「酸との塩への誘導」と「塩精製」であるが、有機合成における一般的な操作として行うことができる[日本化学会編 第5版実験化学講座1(基礎編I 実験・情報の基礎、平成15年丸善発行)、4(基礎編IV 有機・高分子・生化学、平成15年丸善発行)、5(化学実験のための基礎技術、平成17年丸善発行)等を参考にして同様に行うことができる]。これらの操作は、必要に応じて後述の「酸との塩への誘導」または「塩精製」に用いる溶媒(それぞれ塩誘導溶媒、塩精製溶媒とする)を用いて行うことができる。
【0049】
「酸との塩への誘導」の具体的な操作としては、特に制限はないが、好ましくは反応終了液、濾洗液または濃縮残渣に酸を加えて行う。濃縮前に酸を加えることにより、沸点が低い目的物も塩として収率良く回収することができる。また、濃縮残渣に酸を加える場合は、塩誘導溶媒を用いて行うのが効果的である。さらに、必要に応じて任意の過程において活性炭処理、塩誘導溶媒の濃縮等を行うこともできる。
【0050】
酸としては、塩化水素、臭化水素、硫酸、硝酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、トリフルオロ酢酸、マンデル酸(R体、S体またはラセミ体)、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、リンゴ酸(D体、L体またはラセミ体)、酒石酸(D体、L体またはラセミ体)、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸が挙げられる。その中でも塩化水素、臭化水素、硫酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、シュウ酸、フマル酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、メタンスルホン酸およびパラトルエンスルホン酸が好ましく、塩化水素、酢酸、トリフルオロ酢酸、シュウ酸、フタル酸、酒石酸およびパラトルエンスルホン酸が特に好ましい。反応を極めて円滑に進行させるための添加剤の酸と「酸との塩への誘導」の酸を兼ね合わせることもでき、この場合には反応終了液中で既に塩に誘導されているものとして扱えば良い。
【0051】
酸の使用量は、一般式[2]で示される光学活性3−アミノ−2−フルオロプロピオン酸エステル1モルに対して0.35モル以上を用いれば良く、0.4から10モルが好ましく、0.45から5モルが特に好ましい。
【0052】
「塩精製」の具体的な操作としては、特に制限はないが、好ましくは“結晶での単離”、“単離結晶の洗浄”または“単離結晶の再結晶”により行う。「塩精製」は結晶化しない塩(例えば、油状物質、粘性液体、ケーキ、アモルファス等)に対しても適応することができ、後述の塩精製溶媒の内、貧溶媒を用いて不均一系で攪拌洗浄する方法や、富溶媒に溶解した後に貧溶媒を加えて分液(または分離)回収する方法等を採用することができる。しかしながら、結晶化する塩の方が精製効率は高く、特に“結晶での単離”や“単離結晶の洗浄”は操作が簡便な割に高純度品を得易いため好ましい。「塩精製」は、要求される精製度合いに応じて任意の操作を任意に組み合わせて行うことができる。また、同じ操作を繰り返すことによりさらに高い純度に精製することもできる。さらに、必要に応じて任意の過程において活性炭処理、塩精製溶媒の濃縮等を行うこともできる。「塩精製」においては、化学純度、光学純度またはこれら両方の純度を上げることができる。
【0053】
「酸との塩への誘導」または「塩精製」に用いる溶媒としては、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等の脂肪族炭化水素系、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、1,4−ジオキサン等のエーテル系、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド系、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール系、水等が挙げられる。その中でもn−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル、1,4−ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールおよび水が好ましく、n−ヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、キシレン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アセトン、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロパノールおよび水が特に好ましい。これらの塩誘導溶媒または塩精製溶媒は単独または組み合わせて用いることができる。また、反応溶媒、塩誘導溶媒と塩精製溶媒を兼ね合わせることもでき、その中でも任意の2つの溶媒を兼ね合わせることが好ましく、3つの溶媒を兼ね合わせることが特に好ましい。
【0054】
「酸との塩への誘導」または「塩精製」に用いる溶媒の使用量は、一般式[2]で示される光学活性3−アミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルまたは該化合物の塩1モルに対して0.05L以上を用いれば良く、0.07から20Lが好ましく、0.09から10Lが特に好ましい。
【0055】
“結晶での単離”または“単離結晶の再結晶”は、種結晶を加えることにより結晶が円滑に且つ効率良く析出する場合がある(好適な精製条件を組み合わせて採用することにより、必ずしも種結晶を加える必要はない)。
【0056】
種結晶を用いる場合の使用量は、一般式[2]で示される光学活性3−アミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルの塩1モルに対して0.00001モル以上を用いれば良く、0.0001から0.1モルが好ましく、0.0002から0.05モルが特に好ましい。
【0057】
「酸との塩への誘導」または「塩精製」の温度条件は、+150℃以下で行えば良く、−30から+125℃が好ましく、−20から+100℃が特に好ましい。“結晶での単離”または“単離結晶の再結晶”の場合は、徐々に降温または冷却して+15℃以下で熟成することが好ましい。
【0058】
「酸との塩への誘導」または「塩精製」の時間条件は、48時間以内で行えば良いが、塩基質および誘導または精製条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴等の分析手段により誘導または精製の進捗状況を追跡し、さらなる進捗が殆ど認められなくなる時点を終点とすることが好ましい。
【0059】
「酸との塩への誘導」で得られる塩の回収操作としては、特に制限はないが、好ましくは溶液のままでまたは濃縮した残渣の状態で「塩精製」に用いる。
【0060】
「塩精製」で得られる塩の回収操作としては、特に制限はないが、好ましくは結晶、油状物質、粘性液体、ケーキ、アモルファス等を濾過、分液または分離することにより高純度品が得られる。また、必要に応じて任意の過程において貧溶媒での洗浄、乾燥等を行うこともできる。高純度品として得られる一般式[2]で示される光学活性3−アミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルの塩は、塩のままでまたは遊離塩基に戻してから次工程のtert−ブトキシカルボニル化に供することができる。遊離塩基に戻す方法としては、特に制限はないが、好ましくは該塩を無機塩基の水溶液で中和して有機溶媒で抽出し、回収有機層を濃縮して残渣を得る操作が挙げられる。また、必要に応じて任意の過程において乾燥剤(例えば、無水硫酸ナトリウム、無水硫酸マグネシウム等)、真空ポンプ等で乾燥することもできる。この無機塩基は、後述の第2工程の添加剤として加える無機塩基の中から任意に選ぶことができる。この有機溶媒は、塩誘導溶媒または塩精製溶媒の中から無機塩基の水溶液と分液できるものを任意に選ぶことができる。しかしながら、塩のままで次工程に供する方が、操作が簡便で好ましい。
【0061】
次に、第2工程のtert−ブトキシカルボニル化について詳細に説明する。
【0062】
前工程において「酸との塩への誘導」と「塩精製」を行う場合は、一般式[2]で示される光学活性3−アミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルを塩のままで本工程に供することもできる。
【0063】
目的とする一般式[3]で示される光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルのBocは、tert−ブトキシカルボニル基を表す。
【0064】
2炭酸ジ−t−ブチルの使用量は、一般式[2]で示される光学活性3−アミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルまたは該化合物の塩1モルに対して0.7モル以上を用いれば良く、0.8から5モルが好ましく、0.9から3モルが特に好ましい。
【0065】
本工程は、添加剤として塩基を加えることにより反応が極めて円滑に進行するため、本発明の好ましい態様である[発明2]の後半部を構成するものである。しかしながら、好適な反応条件を組み合わせて採用することにより、必ずしも添加剤を加える必要はない。
【0066】
添加剤としては、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−ブチルアミン、ピリジン、2,6−ルチジン、2,4,6−コリジン、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エン(DBN)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン(DBU)等の有機塩基が挙げられる。その中でも炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、2,6−ルチジン、2,4,6−コリジン、4−ジメチルアミノピリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エンが好ましく、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、2,6−ルチジンおよび4−ジメチルアミノピリジンが特に好ましい。これらの塩基は単独または組み合わせて用いることができる。
【0067】
添加剤を用いる場合の使用量は、一般式[2]で示される光学活性3−アミノ−2−フルオロプロピオン酸エステル1モルに対して0.01モル以上を用いれば良く、0.03から5モルが好ましく、0.05から3モルが特に好ましい。一般式[2]で示される光学活性3−アミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルを塩のままで本工程に供する場合は、反応系内で遊離塩基に戻す必要があり、中和で消費される塩基を予め余分に加えて反応を行えば良い。この塩基は、反応を極めて円滑に進行させるための添加剤の塩基の中から任意に選ぶこともできるが、両者を同じ塩基に揃えて反応を行うことが好ましい。
【0068】
反応溶媒としては、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等の脂肪族炭化水素系、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、1,4−ジオキサン等のエーテル系、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系、水等が挙げられる。その中でもn−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル、1,4−ジオキサン、酢酸エチル、アセトニトリルおよび水が好ましく、n−ヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、キシレン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、酢酸エチル、アセトニトリルおよび水が特に好ましい。これらの反応溶媒は単独または組み合わせて用いることができる。また、水を用いる場合は、不均一系で反応を行うこともできる。
【0069】
反応溶媒の使用量は、一般式[2]で示される光学活性3−アミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルまたは該化合物の塩1モルに対して0.05L以上を用いれば良く、0.1から20Lが好ましく、0.15から10Lが特に好ましい。
【0070】
反応温度は、+150℃以下で行えば良く、−30から+125℃が好ましく、−20から+100℃が特に好ましい。
【0071】
反応時間は、48時間以内で行えば良いが、反応基質および反応条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、反応基質の減少が殆ど認められなくなる時点を終点とすることが好ましい。
【0072】
後処理は、反応終了液に対して有機合成における一般的な操作を行うことにより、目的とする一般式[3]で示される光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルを得ることができる。好ましくは、反応終了液を無機塩基の水溶液で洗浄し、回収有機層を濃縮して残渣を得る操作が効果的である。一般式[2]で示される光学活性3−アミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルに対する2炭酸ジ−t−ブチルの使用量を正確に1当量に制御しても、未反応の2炭酸ジ−t−ブチルが目的物に残存する。必要に応じて活性炭処理、カラムクロマトグラフィー等により精製することができる。また、目的物の2位の立体化学は本工程を通して保持され、光学純度の低下も認められない。
【0073】
最後に、第3工程のヒドリド還元について詳細に説明する。
【0074】
水素化ホウ素リチウムまたは水素化ホウ素ナトリウムの使用量は、一般式[3]で示される光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロプロピオン酸エステル1モルに対して0.35モル以上を用いれば良く、0.4から5モルが好ましく、0.45から3モルが特に好ましい。
【0075】
反応溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、1,4−ジオキサン等のエーテル系、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール系等が挙げられる。その中でもテトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル、1,4−ジオキサン、メタノール、エタノール、n−プロパノールおよびイソプロパノールが好ましく、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールが特に好ましい。これらの反応溶媒は単独または組み合わせて用いることができる。
【0076】
反応溶媒の使用量は、一般式[3]で示される光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロプロピオン酸エステル1モルに対して0.05L以上を用いれば良く、0.1から20Lが好ましく、0.15から10Lが特に好ましい。
【0077】
反応温度は、+150℃以下で行えば良く、−50から+125℃が好ましく、−40から+100℃が特に好ましい。
【0078】
反応時間は、48時間以内で行えば良いが、反応基質および反応条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、反応基質の減少が殆ど認められなくなる時点を終点とすることが好ましい。
【0079】
後処理は、反応終了液に対して有機合成における一般的な操作を行うことにより、目的とする一般式[4]で示される光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールを結晶として得ることができる。好ましくは、反応終了液に無機塩基の水溶液を加えて濃縮し、残渣に水を加えて有機溶媒で抽出し、回収有機層を水洗し、濃縮して残渣を得る操作が効果的である。未反応の2炭酸ジ−t−ブチルが残存する反応基質を用いても本工程の反応条件下で完全に分解されるため、目的物に2炭酸ジ−t−ブチルは全く残存しない。必要に応じて活性炭処理、カラムクロマトグラフィー等により精製することができる。また、目的物の2位の立体化学は本工程を通して保持され、光学純度の低下も認められない。
【0080】
本工程で得られる光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールは、再結晶精製を行うことにより高純度品を得ることができ、本発明の好ましい態様である[発明3]の後半部を構成するものである。実際の操作としては、有機合成における一般的な操作として行うことができる[日本化学会編 第5版実験化学講座1(基礎編I 実験・情報の基礎、平成15年丸善発行)、4(基礎編IV 有機・高分子・生化学、平成15年丸善発行)、5(化学実験のための基礎技術、平成17年丸善発行)等を参考にして同様に行うことができる]。再結晶精製を繰り返すことによりさらに高い純度に精製することができる。また、必要に応じて活性炭処理等を行うこともできる。再結晶精製においては、化学純度、光学純度またはこれら両方の純度を上げることができる。
【0081】
再結晶溶媒としては、n−ペンタン、シクロペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘプタン、n−オクタン、シクロオクタン等の脂肪族炭化水素系、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、1,4−ジオキサン等のエーテル系、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール系、水等が挙げられる。その中でも脂肪族炭化水素系、芳香族炭化水素系およびこれらの混合溶媒が好ましく、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、トルエン、エチルベンゼン、キシレンおよびこれらの混合溶媒が特に好ましい。本再結晶精製は、再結晶溶媒として脂肪族炭化水素系、芳香族炭化水素系またはこれらの混合溶媒を用いることにより高純度品を収率良く回収することができるため、本発明の好ましい態様である[発明4]を構成するものである。また、これらの再結晶溶媒は単独または組み合わせて用いることができる。
【0082】
再結晶溶媒の使用量は、一般式[4]で示される光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノール1モルに対して0.05L以上を用いれば良く、0.07から20Lが好ましく、0.09から10Lが特に好ましい。
【0083】
再結晶精製は、種結晶を加えることにより結晶が円滑に且つ効率良く析出する場合がある(好適な再結晶条件を組み合わせて採用することにより、必ずしも種結晶を加える必要はない)。
【0084】
種結晶を用いる場合の使用量は、一般式[4]で示される光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノール1モルに対して0.00001モル以上を用いれば良く、0.0001から0.1モルが好ましく、0.0002から0.05モルが特に好ましい。
【0085】
再結晶精製の温度条件は、+150℃以下で行えば良く、−30から+125℃が好ましく、−20から+100℃が特に好ましい。また、徐々に降温または冷却して+15℃以下で熟成することが好ましい。
【0086】
再結晶精製の時間条件は、48時間以内で行えば良いが、再結晶基質および精製条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴等の分析手段により精製の進捗状況を追跡し、さらなる進捗が殆ど認められなくなる時点を終点とすることが好ましい。
【0087】
再結晶精製で得られる高純度品の回収操作としては、特に制限はないが、好ましくは析出した結晶を濾過し、必要に応じて貧溶媒で洗浄し、30℃以下で乾燥することにより高純度品を得ることができる。
【0088】
本発明では、一般式[1]で示される光学活性3−ジベンジルアミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルをパラジウム触媒の存在下に水素ガスで脱ジベンジル化することにより(第1工程)、一般式[2]で示される光学活性3−アミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルに変換し、一般式[2]で示されるエステル体を2炭酸ジ−t−ブチルでtert−ブトキシカルボニル化することにより(第2工程)、一般式[3]で示される光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルに変換し、一般式[3]で示されるエステル体を水素化ホウ素リチウムまたは水素化ホウ素ナトリウムでヒドリド還元することにより(第3工程)、一般式[4]で示される光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールを製造することができる(態様1)。
【0089】
また、態様1において、第1工程の脱ジベンジル化を添加剤として酸を加えて行い、さらに第2工程のtert−ブトキシカルボニル化を添加剤として塩基を加えて行うことが好ましく、態様1に記載の光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールを収率良く得ることができる(態様2)。
【0090】
さらに、態様1または態様2において、第1工程で得られる光学活性3−アミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルを酸との塩に誘導して塩精製を行い、さらに第3工程で得られる光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールの再結晶精製を行うことが好ましく、態様1または態様2に記載の光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールの高純度品を得ることができる(態様3)。
【0091】
次に、態様3において、第3工程で得られる光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールの再結晶溶媒が脂肪族炭化水素系、芳香族炭化水素系またはこれらの混合溶媒であることが好ましく、態様3に記載の光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールの高純度品を収率良く回収することができる(態様4)。
【0092】
最後に、本発明の製造方法における鍵中間体として、新規物質である一般式[3]で示される光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルを提供する(態様5)。
[実施例]
実施例により本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0093】
L−セリンから国際公開2009/133789号パンフレットを参考にして同様に製造した、下記式
【0094】
【化8】

【0095】
で示される(R)−3−ジベンジルアミノ−2−フルオロプロピオン酸メチル90.4g(ガスクロマトグラフィー純度88.4%、265mmolとする、1.00eq)のメタノール溶液(溶媒使用量300mL、0.9M)に、5%パラジウム炭素(含水率50%)6.38g(1.50mmol、0.00566eq)と酢酸36.0g(600mmol、2.26eq)を加え、水素ガスの圧力を0.9MPaに設定し、室温で終夜攪拌した。反応終了液の19F−NMRより変換率は100%であった。反応終了液をセライト濾過し、少量のメタノールで洗浄し、濾洗液に塩化水素ガス(HCl)13.0g(357mmol、1.35eq)を氷冷下で吹き込み、減圧濃縮した。残渣(粗結晶)にトルエン200mL(1.3M)を加え、氷冷下で攪拌洗浄し(不均一系)、結晶を濾過し、トルエン40mLで洗浄し、真空乾燥することにより、下記式
【0096】
【化9】

【0097】
で示される(R)−3−アミノ−2−フルオロプロピオン酸メチル塩酸塩(精製結晶)を28.8g得た。収率は69%であった。1H−NMRと19F−NMRを下に示す。
1H−NMR[基準物質;(CH34Si,重溶媒;CD3OD];δ ppm/3.44(m,1H),3.54(m,1H),3.85(s,3H),5.34(m,1H),アミノ基と塩酸のプロトンは帰属できず.
19F−NMR(基準物質;C66,重溶媒;CD3OD);δ ppm/−34.31(m,1F).
上記で得られた(R)−3−アミノ−2−フルオロプロピオン酸メチル塩酸塩(精製結晶)15.0g(95.2mmol、1.00eq)と2炭酸ジ−t−ブチル20.8g(95.3mmol、1.00eq)のトルエン溶液(溶媒使用量95mL、1.0M)に、トリエチルアミン11.6g(115mmol、1.21eq)を氷冷下で加え、室温で終夜攪拌した。反応終了液を炭酸カリウム水溶液[炭酸カリウム13.2g(95.5mmol、1.00eq)と水60mLから調製]で洗浄し、回収有機層を減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【0098】
【化10】

【0099】
で示される(R)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロプロピオン酸メチル(油状物質)を21.4g得た(理論収量21.1g)。ガスクロマトグラフィー純度は94.7%(2炭酸ジ−t−ブチルが3.7%残存、2炭酸ジ−t−ブチルを除いた純度は98.4%)であった。1H−NMRと19F−NMRを下に示す。
1H−NMR[基準物質;(CH34Si,重溶媒;CDCl3];δ ppm/1.44(s,9H),3.65(m,2H),3.81(s,3H),4.90(br,1H),4.99(m,1H).
19F−NMR(基準物質;C66,重溶媒;CDCl3);δ ppm/−34.89(m,1F).
上記で得られた(R)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロプロピオン酸メチル(油状物質)20.9g(93.0mmolとする、1.00eq)のエタノール溶液(溶媒使用量70mL、1.3M)に、水素化ホウ素ナトリウム2.68g(70.8mmol、0.76eq)を氷冷下で加え、0℃で1時間攪拌し、さらに室温で4時間攪拌した。反応終了液に炭酸カリウム水溶液[炭酸カリウム13.0g(94.1mmol、1.01eq)と水100mLから調製]を加え、減圧濃縮した。残渣に水10mLを加え、酢酸エチル100mLで抽出し、回収有機層を水30mLで洗浄し、減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【0100】
【化11】

【0101】
で示される(R)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノール(白色結晶)を17.7g得た。(R)−3−アミノ−2−フルオロプロピオン酸メチル塩酸塩(精製結晶)からの2工程のトータル収率は98%であった。ガスクロマトグラフィー純度は97.3%(2炭酸ジ−t−ブチルは未検出)であった。1H−NMRと19F−NMRを下に示す。
1H−NMR[基準物質;(CH34Si,重溶媒;CDCl3];δ ppm/1.46(s,9H),3.11(br,1H),3.48(m,2H),3.70(m,2H),4.59(m,1H),4.90(br,1H).
19F−NMR(基準物質;C66,重溶媒;CDCl3);δ ppm/−34.22(m,1F).
上記で得られた(R)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノール(白色結晶)17.5g(90.6mmol)にトルエン26mL(3.5M、1.5mL/g)を加え、30℃で溶解し、さらにn−ヘプタン9mL(10M、0.5mL/g)を加え、10℃まで冷却し、種結晶を加え、0℃で熟成した。析出した結晶を濾過し、予め冷却したn−ヘプタン10mLで洗浄し、室温(25℃)で真空乾燥することにより、上記式で示される(R)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノール(白色結晶)の高純度品を13.9g得た。回収率は79%であった。融点は39℃であった。ガスクロマトグラフィー純度は99.5%であった。キラルガスクロマトグラフィー(Mosher’s酸エステルに誘導後)による光学純度は100%eeであった。さらに、トルエンとn−ヘプタンの混合溶媒を用いて同様の再結晶精製を繰り返すことにより(2回目再結晶)、ガスクロマトグラフィー純度が99.9%に向上した(回収率93%、光学純度100%ee)。
【実施例2】
【0102】
D−セリンから国際公開2009/133789号パンフレットを参考にして同様に製造した、下記式
【0103】
【化12】

【0104】
で示される(S)−3−ジベンジルアミノ−2−フルオロプロピオン酸メチルを出発原料に用いて、実施例1を参考にして同様に製造することにより、下記式
【0105】
【化13】

【0106】
で示される(S)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールを製造することができた。得られた最終目的物の色調、物性、収量、トータル収率、ガスクロマトグラフィー純度、1H−NMRおよび19F−NMRは、実施例1と同等であった(不斉炭素の絶対配置以外)。また、再結晶精製における色調、物性、回収量、回収率、融点、ガスクロマトグラフィー純度および光学純度も、実施例1と同等であった。さらに、2回目再結晶におけるガスクロマトグラフィー純度、回収率および光学純度も、実施例1と同等であった。
[参考例1]
L−セリンから特許文献1を参考にして同様に製造した、下記式
【0107】
【化14】

【0108】
で示される(R)−3−ジベンジルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノール70.0g(ガスクロマトグラフィー純度94.5%、242mmolとする、1.00eq)のメタノール溶液(溶媒使用量256mL、0.9M)に、5%パラジウム炭素(含水率50%)7.27g(1.71mmol、0.00707eq)と酢酸46.1g(768mmol、3.17eq)を加え、水素ガスの圧力を0.9MPaに設定し、19F−NMRにより反応の進行状況を追跡した。次の各反応チェックにおける反応混合液の組成比(ジベンジル体:モノベンジル体:目的物)をテーブル1に纏めた。“室温での終夜攪拌後”を反応チェック(1)、“さらに50℃での終夜攪拌後”を反応チェック(2)とした。この段階で反応混合液をセライト濾過し、濾液の7割(169mmolとする、1.00eq)に、新しい5%パラジウム炭素(含水率50%)5.09g[1.20mmol、0.00710eq(トータル使用量0.01417eq)]を再び加え、水素ガスの圧力を0.9MPaに設定した。“室温での3時間攪拌後”を反応チェック(3)、“さらに室温での終夜攪拌後”を反応チェック(4)とした。
【0109】
【化15】

【0110】
反応チェックにおける反応混合液の19F−NMR(基準物質;C66,重溶媒;CD3OD)を下に示す。
【0111】
上記式で示される(R)−3−ジベンジルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノール(ジベンジル体);δ ppm/−25.51(m,1F).
下記式
【0112】
【化16】

【0113】
で示される(R)−3−ベンジルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノール(モノベンジル体);δ ppm/−29.72(m,1F).
下記式
【0114】
【化17】

【0115】
で示される(R)−3−アミノ−2−フルオロ−1−プロパノール(目的物);δ ppm/−32.38(m,1F).

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[1]
【化1】

で示される光学活性3−ジベンジルアミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルをパラジウム触媒の存在下に水素ガス(H2)で脱ジベンジル化することにより(第1工程)、一般式[2]
【化2】

で示される光学活性3−アミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルに変換し、一般式[2]で示されるエステル体を2炭酸ジ−t−ブチル[(Boc)2O]でtert−ブトキシカルボニル(Boc)化することにより(第2工程)、一般式[3]
【化3】

で示される光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルに変換し、一般式[3]で示されるエステル体を水素化ホウ素リチウム(LiBH4)または水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)でヒドリド還元することにより(第3工程)、一般式[4]
【化4】

で示される光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールを製造する方法。
[式中、Rは炭素数1から6のアルキル基を表し、Bnはベンジル基を表し、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を表し、*は不斉炭素を表す]
【請求項2】
請求項1において、第1工程の脱ジベンジル化を添加剤として酸を加えて行い、さらに第2工程のtert−ブトキシカルボニル(Boc)化を添加剤として塩基を加えて行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、第1工程で得られる光学活性3−アミノ−2−フルオロプロピオン酸エステルを酸との塩に誘導して塩精製を行い、さらに第3工程で得られる光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールの再結晶精製を行うことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
請求項3において、第3工程で得られる光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロ−1−プロパノールの再結晶溶媒が脂肪族炭化水素系、芳香族炭化水素系またはこれらの混合溶媒であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
一般式[3]
【化5】

で示される光学活性3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−フルオロプロピオン酸エステル。
[式中、Rは炭素数1から6のアルキル基を表し、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を表し、*は不斉炭素を表す]

【公開番号】特開2011−105648(P2011−105648A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262562(P2009−262562)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】