説明

光学物品およびその製造方法

【課題】有機系の機能層の表面に十分な耐久性を備えた防汚層を形成できる光学物品の製造方法を提供する。
【解決手段】基材の上に直にまたは少なくとも1つの層を挟んで形成された有機系の機能層の表面に防汚層を形成する工程を有する。防汚層を形成する工程は、防汚層形成用組成物が塗布された転写用のシートの塗布面を機能層の表面に圧着および加熱する工程を含む。防汚層形成用組成物としては、ケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルを主成分として含むものを用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学レンズ、眼鏡レンズ、あるいは記録媒体などの光学物品であって、有機系の機能層と防汚層とを有する光学物品、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学レンズ、眼鏡レンズ、あるいは記録媒体などの光学物品には、反射防止層をはじめとして、ローパスフィルター、ハイパスフィルター、バンドフィルター等の光学フィルター、硬質膜など、特定の機能を持たせた機能層を備えたものがある。例えば、眼鏡などに用いられるレンズ、光ディスクなど、表面における光の反射が好ましくない製品については、反射を抑制するために、反射防止層が設けられている。
【0003】
そのような機能層を有する光学物品において、機能層が手垢、指紋、汗等で汚染されてしまうと、機能層の働きが損なわれるおそれがある。このため、光学物品では、多くの場合、機能層に重ねて撥水性の防汚層が設けられている。特許文献1には、有機系の反射防止層の最表面にフッ素系撥水膜を形成することが記載されている。
【特許文献1】特開2005−43572号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
反射防止層としては、屈折率の異なる多層の無機層から構成される無機系のものが知られている。また、反射防止層としては、有機ケイ素化合物とシリカ系微粒子とを含む有機系のものが検討されている。このような事情からも、有機系の機能層の表面に防汚層を形成する技術は、今後、重要となる。
【0005】
しかしながら、有機系の機能層の表面に防汚層を形成する場合、無機系の機能層の表面に防汚層を形成する場合と同様に塗布および焼成を行っても、耐久性(乾燥拭き性、耐アルカリ性)を得ることが難しいことが多い。これは、有機系の機能層は、表面が粗く、また、無機系の機能層と比べて表面の活性水素基の密度が低いことが一因であると考えられる。
【0006】
すなわち、表面の活性水素基の密度が低いと、有機系の機能層の成分と防汚層の成分との間で結合が形成され難い。このため、防汚層の水平方向の強度が低下し易くなり、耐久性が再現し難いと考えられる。したがって、有機系の機能層の表面に、より耐久性の良好な防汚層を形成する技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、基材の上に直にまたは少なくとも1つの層を挟んで形成された有機系の機能層の表面に防汚層を形成する工程を有する光学物品の製造方法である。この光学物品の製造方法において、防汚層を形成する工程は、防汚層形成用組成物が塗布された転写用のシートの塗布面を機能層の表面に圧着および加熱する工程を含む。
【0008】
この光学物品の製造方法によれば、防汚層形成用組成物が塗布された転写用のシートの塗布面を機能層の表面に圧着および加熱することにより、機能層の表面に防汚層を形成する。したがって、機能層の成分と防汚層の成分との間で結合を形成し難い組み合わせであっても、機能層の表面に防汚層を形成できる。このため、有機系の機能層のように、表面の活性水素基の密度が低い機能層であっても、機能層の表面に、より耐久性の高い、良好な防汚層を形成することができる。さらに、有機系の機能層は、無機系の機能層よりも耐
熱性が一般的に高く、転写をするために加熱しても機能層自体の機能を損なうことが少ない。
【0009】
この光学物品の製造方法において、圧着および加熱する工程では、転写用のシートに、300kPa〜700kPaの圧力を与えることが好ましい。転写用のシートに与える圧力が300kPa未満であると、有機系の機能層に転写される防汚層形成用組成物が十分ではなく、十分な拭き耐久性が得られ難い。一方、転写用のシートに与える圧力が700kPaを超えると、基材の変形が大きくなり、転写ムラが発生するおそれがある。
【0010】
また、この光学物品の製造方法において、圧着および加熱する工程では、5分〜60分間、機能層の表面温度を80℃〜220℃にすることが好ましい。機能層の表面温度は、100℃〜200℃にすることがさらに好ましい。加熱時間が5分未満であると、有機系の機能層に転写される防汚層形成用組成物が十分ではなく、十分な拭き耐久性が得られ難い。一方、加熱時間が60分を超えると、防汚層形成用組成物が基材の内部に拡散し、機能層の表面に防汚層が形成され難くなる。また、機能層の表面温度が80℃未満であると、有機系の機能層に転写される防汚層形成用組成物が十分ではなく、十分な拭き耐久性が得られ難い。一方、機能層の表面温度が220℃を超えると、基材が熱変形を起こしてしまう場合がある。
【0011】
有機系の機能層の一例は、有機系の反射防止層である。有機系の反射防止層の一例は、下記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物からなる成分と、下記(2)の成分とを含有するものである。
(1)R1m2nSiX14-n-m
ただし、上記の一般式(1)中、R1は重合可能な反応基を有する有機基、R2は炭素数1〜6の炭化水素基、X1は加水分解性基であり、mおよびnは、少なくとも一方は1であ
り、他方は0または1である。
(2)シリカ系微粒子
【0012】
上記一般式(1)で表される式中、R1は、重合可能な反応基を有する有機基であり、
例えば、ビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基、エポキシ基、メルカプト基、シアノ基、アミノ基等が挙げられる。上記一般式(1)で表される式中、R2は、炭素数
1〜6の炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、ブチル基、ビニル基、フェニル基等が挙げられる。上記一般式(1)で表される式中、X1は、加水分解可能な官能基
であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基、ブロモ基等のハロゲン基、アシルオキシ基等が挙げられる。
【0013】
上記一般式(1)で表される成分(有機ケイ素化合物)の具体的な例としては、テトラメトキシシラン、ビニルトリアルコキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトシキ)シラン、アリルトリアルコキシシラン、アクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルジアルコキシメチルシラン、γ−グリシドオキシプロピルトリアルコキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリアルコキシシラン、メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、γ−アミノプロピルトリアルコキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン等が挙げられる。
【0014】
有機系の反射防止層の(2)の成分(シリカ系微粒子)の具体的な例は、平均粒径1nm〜100nmの微粒子のシリカを、例えば、水、アルコール系溶剤、もしくはその他の有機溶剤にコロイド状に分散させたシリカゾルである。
【0015】
このシリカ系微粒子は、内部空洞(隙間)を有するものが望ましい。内部空洞を有するシリカ系微粒子を用いることによって、反射防止層の屈折率を低下させることができる。また、光学物品がハードコート層を有する場合、このハードコート層との屈折率の差を大きくして、反射防止効果を高めることができる。シリカ系微粒子の内部空洞内にシリカよりも屈折率が低い気体または溶剤が包含されることによって、空洞のないシリカ系微粒子よりも屈折率が低減し、被膜の低屈折率化が達成される。
【0016】
なお、反射防止層を形成するための組成物は、一般式(1)で表される成分および(2)で表される成分の他に、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂等の各種樹脂や、これらの樹脂原料となるメタアクリレート類、アクリレート類、エポキシ類、ビニル類等の各種モノマーを含んでいても良い。これらの添加により、基材との密着性の向上、耐擦傷性の向上がはかれる。
【0017】
屈折率を低減する機能を有するものとしては、フッ素含有の各種ポリマー、またはフッ素含有の各種モノマーが挙げられる。したがって、反射防止層を形成するための組成物は、フッ素含有の各種ポリマー、またはフッ素含有の各種モノマーを含んでいてもよい。フッ素含有ポリマーは、フッ素含有ビニルモノマーを重合して得られるポリマーが好ましく、さらに他の成分と共重合可能な官能基を有するものが好ましい。
【0018】
反射防止層を形成するための組成物は、溶剤を含んでいてもよい。すなわち、反射防止層を形成するための組成物は、塗布液とするために、必要に応じ、溶剤に希釈して用いることができる。溶剤としては、水、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、芳香族類等の溶剤が挙げられる。
【0019】
さらに、反射防止層を形成するための組成物には、必要に応じて、少量の硬化触媒、界面活性剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、ヒンダートアミン・ヒンダートフェノール等の光安定剤、分散染料・油溶染料・蛍光染料・顔料等を添加し、コーティング液としての塗布性の向上や、硬化後の被膜性能を改良することもできる。
【0020】
転写用のシート(メディア)は、圧着および加熱する工程において、加熱温度に耐える程度の耐熱性が要求される。すなわち、転写用のシートは、80℃〜220℃程度の加熱温度に耐えるものであることが好ましい。また、レンズのように曲面を有する基材を用いる場合、転写用のシートは、同時に、曲面に追随して基材に密着できる程度の軟質性が要求される。この軟質性は、常温で有していなくても、圧着および加熱する工程において有していればよい。ある程度の可撓性の材料であれば、フィルム状(薄膜)として軟質性を付与することが可能であり、転写用のシートとして採用できる。
【0021】
転写用のシートの材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド等の熱可塑性樹脂、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂、シリコーンゴム・ネオプレンゴム・フッ素ゴム・EPM・EPDM等の合成ゴム等、ポリスチレン系、オレフィン系、ウレタン系、エステル系、アミド系の熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0022】
上述のような合成樹脂や合成ゴムは表面が撥水性であるため、転写用のシートの材料として上述のような合成樹脂や合成ゴムを用いた場合、防汚層形成用組成物を塗布する際に、防汚層形成用組成物がはじかれて塗膜を形成できないおそれがある。この場合、転写用のシートの表面(塗布面)に防汚層形成用組成物を吸収できる保持層を設けることが有効である。この保持層は、防汚層形成用組成物を吸収できればよく、水溶性である必要はない。しかしながら、繰り返し転写用のシートを使用するときには、洗浄により除去できるように水溶性であることが好ましい。
【0023】
保持層を形成するのに適した材料としては、水溶性ポリマー、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリ(メタ)アクリル酸メチル等のポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ゼラチン、カゼイン、澱粉、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリアクリル酸ソーダ、アクリル系重合ラテックス等が挙げられ、これらの1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を併用して用いることもできる。保持層としては、この中でも、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールが好ましく用いられる。
【0024】
防汚層形成用組成物としては、パーフルオロポリエーテルを主成分として含むものを用いることができる。好ましくは、下記一般式(3)で表されるケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルを用いるとよい。
(3)−(RO)−
ただし、上記の一般式(3)中、Rは炭素数1〜3のパーフルオロアルキレン基である。
【0025】
上記一般式(3)で表される式中のRとしては、例えば、CF2、CF2CF2、CF2CF2CF2、CF(CF)CF2等が挙げられる。これらのケイ素非含有のパーフルオロ
ポリエーテルは、常温で液体であり、いわゆるフッ素オイルと称されるものである。
【0026】
ケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルの具体的な例としては、ダイキン工業株式会社製の商品名デムナムシリーズ、NOKクリューバー社製の商品名バリエルタシリーズ、旭硝子株式会社製の商品名フォンブリンシリーズ、デュポン社製の商品名KRYTOXシリーズ、ダウコーニング社製の商品名モリコートHF−30オイルなどが挙げられる。
【0027】
ケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルは、フッ素置換アルキル基を多く有するため、撥水性に優れるものの、反応基が無いため反応性が低く、機能層の成分との間で結合を形成し難い。このため、塗布により防汚層を生成する工程を有する製造方法では、防汚層形成用組成物として利用することが難しかった。これに対し、この光学物品の製造方法によれば、防汚層形成用組成物が塗布された転写用のシートの塗布面を機能層の表面に圧着および加熱することにより、機能層の表面に防汚層を形成する。したがって、機能層の成分と防汚層の成分との間の結合がそれほど期待できない防汚層形成用組成物であっても機能層の表面に十分な耐久性を備えた防汚層を形成できる。このため、ケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルを用いても、有機系の機能層の表面に防汚層を形成することができる。
【0028】
さらに、ケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルは、上述のように反応基が無いため、転写用のシートと化学反応を起こさない。すなわち、ケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルは、容易に転写用のシートから基材に転写することができる。したがって、この光学物品の製造方法において、ケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルは防汚層形成用組成物として好適である。
【0029】
本発明の他の態様は、基材と、基材の上に直にまたは少なくとも1つの層を挟んで形成された有機系の機能層と、機能層の表面に形成されたパーフルオロポリエーテルを主成分とする防汚層とを含む、光学物品である。この光学物品において、有機系の機能層の一例としては、反射防止層が挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下では、眼鏡用のプラスチックレンズ(光学物品)を製造する工程を例にとって説明する。
【0031】
(実施例1)
実施例1では、レンズ基材の上に、プライマー層、ハードコート層、反射防止層、および防汚層が順番に形成された、プラスチックレンズを光学物品として製造する。
【0032】
(1)プライマー組成物の調製
ステンレス製の容器内に、メタノール3700重量部、水250重量部、プロピレングリコールモノメチルエーテル1000重量部を投入し、十分に攪拌したのち、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、全固形分濃度20重量%、触媒化成工業株式会社製、商品名オプトレイク1120Z 8RU−25・G)2800重量部を加え、攪拌混合した。次いで、ポリエス
テル樹脂2200重量部を加えて攪拌混合した後、さらにシリコーン系界面活性剤(日本ユニカー株式会社製、商品名L−7604)2重量部を加えて一昼夜攪拌を続けた後、2μmのフィルターでろ過を行い、プライマー組成物を得た。
【0033】
(2)ハードコート組成物の調製
ステンレス製容器内にブチルセロソルブ1000重量部を取り、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1200重量部を加えて十分攪拌した後、0.1モル/リットル塩酸300重量部を添加して一昼夜攪拌を続け、シラン加水分解物を得た。このシラン加水分解物中にシリコーン系界面活性剤(日本ユニカー株式会社製、商品名L−7001)30重量部を加えて1時間攪拌した後、酸化チタン、酸化スズ、酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、触媒化成工業株式会社製、商品名オプトレイク1120Z 8RU−25、A17)7300重量部を加え2時間攪拌混合
した。次いで、エポキシ樹脂(ナガセケムテックス株式会社製、商品名デナコールEX−313)250重量部を加えて2時間攪拌した後、鉄(III)アセチルアセトナート20
重量部を加えて1時間攪拌し、2μmのフィルターでろ過を行い、ハードコート組成物を得た。
【0034】
(3)低屈折率膜コーティング組成物(反射防止層形成用組成物)の調製
ステンレス製容器内に、下記式(A)に示すシラン化合物47.8重量部(0.08モル)に、メタノール312.4重量部を加え、さらに、エポキシ基含有有機化合物としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン4.7重量部(0.02モル)と、0.1N(0.1モル/L)の塩酸水溶液36重量部とを加え、これをよく混合した混合液を得た。この混合液を25℃の恒温槽で2時間攪拌して固形分10重量%のシリコーンレジンを得た。
(CH3O)3Si−C24−C612−C24−Si(OCH33・・・(A)
【0035】
このシリコーンレジンと、中空シリカ−イソプロパノール分散ゾル(触媒化成工業株式会社製、固形分濃度20重量%、平均一次粒子径35nm、外殻厚み8nm)をシリコーンレジン/中空シリカが固形分比70/30となるように配合し、プロピレングリコールモノメチルエーテル935部を加えて希釈し、固形分が3重量%である低屈折率膜コーティング組成物(反射防止層形成用組成物)を得た。
【0036】
(4)プライマー層およびハードコート層の形成工程
チオウレタン系プラスチックレンズ基材(セイコーエプソン株式会社製、商品名セイコースーパーソブリン生地、屈折率1.67)を準備した。そして、準備したレンズ基材をアルカリ処理(50℃に保たれた2.0規定水酸化カリウム水溶液に5分間浸漬した後に純水洗浄を行い、次いで25℃に保たれた0.5規定硫酸に1分間浸漬して中和する)し、純水洗浄及び乾燥、放冷を行った。そして、このレンズ基材を、(1)において調製したプライマー組成物中に浸漬し、引き上げ速度30cm/min.で引き上げて80℃で
20分焼成し、レンズ基材表面にプライマー層を形成した。さらに、プライマー層が形成されたレンズ基材を、(2)において調製したハードコート組成物中に浸漬し、引き上げ速度30cm/min.で引き上げて80℃で30分焼成し、プライマー層上にハードコート層を形成した。その後、125℃に設定したオーブン内で3時間加熱して、プライマー層とハードコート層が形成されたプラスチックレンズ基材を得た。形成されたプライマー層の膜厚は0.5μm、ハードコート層の膜厚は2.5μmであった。
【0037】
(5)有機系反射防止層形成工程
プライマー層とハードコート層が形成されたプラスチックレンズ基材を、プラズマ処理(大気プラズマ)した後、(3)において調製した低屈折率膜コーティング組成物中に浸漬し、引き上げ速度5cm/min.で引き上げて80℃で30分焼成した後、80℃に設定したオーブン内で2時間加熱して低屈折率膜からなる反射防止層を形成し、プライマー層とハードコート層、および反射防止層が形成されたプラスチックレンズ基材を得た。形成された反射防止層の膜厚は100nmであった。
【0038】
(6)防汚層形成工程
この防汚層を形成する工程では、塗布面に保持層を設けた転写用シートに保持層にケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルを塗布した後、乾燥する。これにより、転写用シートに保持層を介してケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルを保持させる。保持層が設けられていない転写用シートの塗布面にケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルを塗布した後、乾燥することにより、転写用シートに保持層を介さずにケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルを保持させることも可能である。
【0039】
<転写シート形成工程>
本例では、ポリエチレンテレフタレートフィルム(転写シート、メディア)にケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルを吸収できる保持層が設けられているものを用意した。
【0040】
具体的には、3重量%ポリビニルアルコール水溶液(株式会社クラレ製、クラレポバールPVA−217)をスプレーコート法で厚さ1mmのシリコンゴムシート(株式会社井内盛栄堂製)表面に塗布、硬化を行って保持層を形成した。スプレーは、イワタワイダー61(岩田塗装機株式会社製、ノズル径1mm)を用い、スプレー圧力は、300kPa、塗料吐出量100ml/min.で行った。塗布後、80℃で30分間焼成を行い、転写用シートを形成した。
【0041】
<塗布工程>
本例では、防汚層形成用組成物として、ケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルを用いた。ケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルとしては、平均分子量が1000〜10000、例えば、2000〜10000のものを用いることができる。本例では、ケイ素非含有のパーフルオロポリエーテル(デムナムシリ−ズ(S−20)(製品名、ダイキン工業株式会社製))をスピンコートにより上記転写用シートの保持層上に均一に塗布した。
【0042】
<転写工程(圧着および加熱する工程)>
次に、塗布工程後の転写用シートの、ケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルが塗装された面を、プライマー層、ハードコート層、および反射防止層が形成されたプラスチックレンズ基材(以下、ワークという)の表面に密着(圧着)させながら、少なくとも転写用シートを加熱して、ケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルをワークに移行させる転写工程を行う。
【0043】
レンズ基材の曲面には、球面、回転対称非球面、多焦点レンズやトーリック面等の非球
面、凸面、凹面等の多様な曲面が設けられている。そのため、転写用シートは、このような曲面との間に空気を介在させないように、転写用シートとワークとの間に圧力を加えて密着させる必要がある。この際、転写用シートとワークとを適当な方法により挟みこんで両側から力を加えても良く、一方から力を加えても良い。
【0044】
例えば、注型成形型から得られた曲面を有するレンズ基材を用いた場合、転写用シートをワークに密着させる方法として、ワークと注型成形型との間に転写用シートを挟んで、転写用シートをワークに密着させる方法を採用することができる。また、ワークの表面に転写用シートを載置し、先端面形状がレンズ基材の曲面形状に対応した押圧部材であって、厚みのあるゴム、エラストマーあるいはゲル等の弾性素材で構成される押圧部材を、転写用シートに圧着させることにより、転写用シートをワークに密着させる方法も採用することができる。この場合、押圧部材の先端面の形状は、その先端面をワークに押し付けていく際に、最初にワークの中心部に当接し、この中心部から周辺に向かって漸次押圧するようにして、空気を排除できるようにすることが好ましい。
【0045】
シリコンゴム等の弾性を有する転写用シートであれば、張設した転写用シート(シリコンゴムシート)にワークを押し付ける方法を採用することができる。あるいは、流体により張りを与えた転写用シートにワークを押し付ける方法もある。さらに、例えば、球面を形成するように転写用シートを圧力流体で膨らませ、ワークに押し付けることにより、転写用シートをワークに密着させる方法もある。
【0046】
転写圧、すなわち、転写用シートとワークとの間に加える圧力は300kPa〜700kPa程度が適切である。転写圧が300kPa未満では、防汚層形成用組成物が十分にワークに転写されないため、十分な拭き耐久性等が得られない。転写圧が700kPaを超えると、レンズ基材の変形が大きくなり、転写ムラが発生する。
【0047】
このように転写用シートをワークに密着させながら、少なくとも転写用シートを加熱する。加熱雰囲気は、空気を排除できる真空中が好ましく、そのような環境では、例えば、赤外線などの電磁波で加熱する方法を採用することができる。一般的には、加熱炉中で空気を介在させて加熱する方法が採用される。流体で転写用シートに張りを与える方法では、加熱流体を用いることができる。また、上述したような押圧部材を加熱できるヒータを配置し、押圧部材を介して転写用シートを加熱することも可能である。
【0048】
加熱温度は、80〜220℃が好ましく、さらに好ましくは100〜200℃の範囲である。加熱時間は5分〜1時間程度である。加熱温度が高いほどケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルの昇華速度が速くなるが、転写用シートやプラスチックレンズ基材の材質の耐熱性を考慮して適切な温度を選定することが望ましい。
【0049】
加熱により、ケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルは転写用シート側から昇華し、有機系反射防止層の表層内部に浸透し、有機系反射防止層の表面に保持される。これによって、ワークの表面、すなわち、反射防止層の表面に、防汚層が形成される。転写工程後は、ワークから転写用シートを剥離する。
【0050】
図1に、転写用シートをワークの表面に圧着をおよび加熱して転写する様子をさらに具体的に示している。
【0051】
ワーク100は、プライマー層、ハードコート層、および反射防止層が形成されたプラスチックレンズ基材であり、上記(1)〜(5)の工程により製造されたものである。ワーク100を加熱炉などの加熱ゾーン110に配置し、防汚層形成用組成物が塗布された転写用シート120をワーク100の両面に当てる。さらに、転写用シート120の上に
押圧治具となる熱伝導性ゲル130を配置し、ワーク100の両面から加圧治具140を用いて加圧する。これによって、転写用シート120をワーク100の両面に隙間なく密着させた。この時の転写圧(転写用シートに加える圧力)は、300kPaであった。すなわち、ワークの反射防止層の表面は、ほぼ300kPaの圧力を受けていることになる。この状態で、反射防止層の表面温度が100℃となるように30分間加熱した。その後、表面に付着したポリマーを水で洗い流した。ワーク100の全面に、ケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルがムラなく転写されていた。
【0052】
このようにして、レンズ基材上に、プライマー層、ハードコート層、反射防止層、および防汚層が順番に形成されたプラスチックレンズを製造した。
【0053】
得られたプラスチックレンズに対し、以下で述べる試験を行い、各特性を評価した。それらの結果を纏めて図2に示した。評価方法およびその結果については以下に纏めて説明する。
【0054】
以下の実施例および比較例についても同様に、実施例1に準じて、レンズ基材の上に、プライマー層、ハードコート層、反射防止層、および防汚層が順番に形成されたプラスチックレンズを製造した。
【0055】
(実施例2)
ワーク100として、上記(1)〜(5)で得られたものを用いた。ワーク100を加熱ゾーン110に配置し、防汚層形成用組成物が塗布された転写用シート120をワーク100の両面に当て、更に転写用シート120の上から押圧治具としての熱伝導性ゲル130を介して両面から加圧治具140を用いて加圧することによって、転写用シート120をワーク100の両面に隙間なく密着させた。この時の転写圧は500kPaであった。この状態で、反射防止層の表面温度が80℃となるように60分間加熱した。その後、表面に付着したポリマーを水で洗い流した。ワーク100の全面に、ケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルがムラなく転写されていた。他の条件は、実施例1と同じである。
【0056】
(実施例3)
ワーク100として、上記(1)〜(5)で得られたものを用いた。ワーク100を加熱ゾーン110に配置し、防汚層形成用組成物が塗布された転写用シート120をワーク100の両面に当て、更に転写用シート120の上から押圧治具としての熱伝導性ゲル130を介して両面から加圧治具140を用いて加圧することによって、転写用シート120をワーク100の両面に隙間なく密着させた。この時の転写圧は500kPaであった。この状態で、反射防止層の表面温度が100℃となるように30分間加熱した。その後、表面に付着したポリマーを水で洗い流した。ワーク100の全面に、ケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルがムラなく転写されていた。他の条件は、実施例1と同じである。
【0057】
(実施例4)
ワーク100として、上記(1)〜(5)で得られたものを用いた。ワーク100を加熱ゾーン110に配置し、防汚層形成用組成物が塗布された転写用シート120をワーク100の両面に当て、更に転写用シート120の上から押圧治具としての熱伝導性ゲル130を介して両面から加圧治具140を用いて加圧することによって、転写用シート120をワーク100の両面に隙間なく密着させた。この時の転写圧は500kPaであった。この状態で、反射防止層の表面温度が200℃となるように10分間加熱した。その後、表面に付着したポリマーを水で洗い流した。ワーク100の全面に、ケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルがムラなく転写されていた。他の条件は、実施例1と同じである。
【0058】
(実施例5)
ワーク100として、上記(1)〜(5)で得られたものを用いた。ワーク100を加熱ゾーン110に配置し、防汚層形成用組成物が塗布された転写用シート120をワーク100の両面に当て、更に転写用シート120の上から押圧治具としての熱伝導性ゲル130を介して両面から加圧治具140を用いて加圧することによって、転写用シート120をワーク100の両面に隙間なく密着させた。この時の転写圧は500kPaであった。この状態で、反射防止層の表面温度が220℃となるように10分間加熱した。その後、表面に付着したポリマーを水で洗い流した。ワーク100の全面に、ケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルがムラなく転写されていた。他の条件は、実施例1と同じである。
【0059】
(実施例6)
ワーク100として、上記(1)〜(5)で得られたものを用いた。ワーク100を加熱ゾーン110に配置し、防汚層形成用組成物が塗布された転写用シート120をワーク100の両面に当て、更に転写用シート120の上から押圧治具としての熱伝導性ゲル130を介して両面から加圧治具140を用いて加圧することによって、転写用シート120をワーク100の両面に隙間なく密着させた。この時の転写圧は700kPaであった。この状態で、反射防止層の表面温度が100℃となるように30分間加熱した。その後、表面に付着したポリマーを水で洗い流した。ワーク100の全面に、ケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルがムラなく転写されていた。他の条件は、実施例1と同じである。
【0060】
(比較例1)
ワーク100として、上記(1)〜(5)で得られたものを用いた。ワーク100を加熱ゾーン110に配置し、防汚層形成用組成物が塗布された転写用シート120をワーク100の両面に当て、更に転写用シート120の上から押圧治具としての熱伝導性ゲル130を介して両面から加圧治具140を用いて加圧することによって、転写用シート120をワーク100の両面に隙間なく密着させた。この時の転写圧は200kPaであった。この状態で、反射防止層の表面温度が100℃となるように30分間加熱した。その後、表面に付着したポリマーを水で洗い流した。他の条件は、実施例1と同じである。
【0061】
(比較例2)
ワーク100として、上記(1)〜(5)で得られたものを用いた。ワーク100を加熱ゾーン110に配置し、防汚層形成用組成物が塗布された転写用シート120をワーク100の両面に当て、更に転写用シート120の上から押圧治具としての熱伝導性ゲル130を介して両面から加圧治具140を用いて加圧することによって、転写用シート120をワーク100の両面に隙間なく密着させた。この時の転写圧は200kPaであった。この状態で、反射防止層の表面温度が230℃となるように10分間加熱した。その後、表面に付着したポリマーを水で洗い流した。他の条件は、実施例1と同じである。
【0062】
(比較例3)
ワーク100として、上記(1)〜(5)で得られたものを用いた。ワーク100を加熱ゾーン110に配置し、防汚層形成用組成物が塗布された転写用シート120をワーク100の両面に当て、更に転写用シート120の上から押圧治具としての熱伝導性ゲル130を介して両面から加圧治具140を用いて加圧することによって、転写用シート120をワーク100の両面に隙間なく密着させた。この時の転写圧は200kPaであった。この状態で、反射防止層の表面温度が230℃となるように4分間加熱した。その後、表面に付着したポリマーを水で洗い流した。他の条件は、実施例1と同じである。
【0063】
(比較例4)
ワーク100として、上記(1)〜(5)で得られたものを用いた。ワーク100を加熱ゾーン110に配置し、防汚層形成用組成物が塗布された転写用シート120をワーク100の両面に当て、更に転写用シート120の上から押圧治具としての熱伝導性ゲル130を介して両面から加圧治具140を用いて加圧することによって、転写用シート120をワーク100の両面に隙間なく密着させた。この時の転写圧は500kPaであった。この状態で、反射防止層の表面温度が70℃となるように60分間加熱した。その後、表面に付着したポリマーを水で洗い流した。他の条件は、実施例1と同じである。
【0064】
(比較例5)
ワーク100として、上記(1)〜(5)で得られたものを用いた。ワーク100を加熱ゾーン110に配置し、防汚層形成用組成物が塗布された転写用シート120をワーク100の両面に当て、更に転写用シート120の上から押圧治具としての熱伝導性ゲル130を介して両面から加圧治具140を用いて加圧することによって、転写用シート120をワーク100の両面に隙間なく密着させた。この時の転写圧は500kPaであった。この状態で、反射防止層の表面温度が230℃となるように4分間加熱した。その後、表面に付着したポリマーを水で洗い流した。他の条件は、実施例1と同じである。
【0065】
(比較例6)
ワーク100として、上記(1)〜(5)で得られたものを用いた。ワーク100を加熱ゾーン110に配置し、防汚層形成用組成物が塗布された転写用シート120をワーク100の両面に当て、更に転写用シート120の上から押圧治具としての熱伝導性ゲル130を介して両面から加圧治具140を用いて加圧することによって、転写用シート120をワーク100の両面に隙間なく密着させた。この時の転写圧は800kPaであった。この状態で、反射防止層の表面温度が70℃となるように4分間加熱した。その後、表面に付着したポリマーを水で洗い流した。他の条件は、実施例1と同じである。
【0066】
(比較例7)
ワーク100として、上記(1)〜(5)で得られたものを用いた。ワーク100を加熱ゾーン110に配置し、防汚層形成用組成物が塗布された転写用シート120をワーク100の両面に当て、更に転写用シート120の上から押圧治具としての熱伝導性ゲル130を介して両面から加圧治具140を用いて加圧することによって、転写用シート120をワーク100の両面に隙間なく密着させた。この時の転写圧は800kPaであった。この状態で、反射防止層の表面温度が80℃となるように60分間加熱した。その後、表面に付着したポリマーを水で洗い流した。他の条件は、実施例1と同じである。
【0067】
(比較例8)
ワーク100として、上記(1)〜(5)で得られたものを用いた。ワーク100を加熱ゾーン110に配置し、防汚層形成用組成物が塗布された転写用シート120をワーク100の両面に当て、更に転写用シート120の上から押圧治具としての熱伝導性ゲル130を介して両面から加圧治具140を用いて加圧することによって、転写用シート120をワーク100の両面に隙間なく密着させた。この時の転写圧は700kPaであった。この状態で、反射防止層の表面温度が100℃となるように70分間加熱した。その後、表面に付着したポリマーを水で洗い流した。他の条件は、実施例1と同じである。
【0068】
(比較例9)
ワーク100として、上記(1)〜(5)で得られたものを用いた。ワーク100を加熱ゾーン110に配置し、防汚層形成用組成物が塗布された転写用シート120をワーク100の両面に当て、更に転写用シート120の上から押圧治具としての熱伝導性ゲル130を介して両面から加圧治具140を用いて加圧することによって、転写用シート12
0をワーク100の両面に隙間なく密着させた。この時の転写圧は700kPaであった。この状態で、反射防止層の表面温度が100℃となるように4分間加熱した。その後、表面に付着したポリマーを水で洗い流した。他の条件は、実施例1と同じである。
【0069】
(評価)
上記の実施例1〜6および比較例1〜9で得られたプラスチックレンズについて、耐久性(耐アルカリ性、拭き耐久性)、撥水性に関する評価を行った。
【0070】
耐アルカリ性は、以下のように評価した。0.1Nに調整した水酸化ナトリウム水溶液中に試験片を2時間浸漬し、浸漬後の試験片を水でよく洗った。水を拭き取った後の外観評価を以下の基準で評価した。
「○」:剥がれが発生しない
「△」:0〜5mm2の剥がれが発生
「×」:5mm2以上の剥がれが発生
【0071】
拭き耐久性は、木綿布を用い、レンズの凸面を200gの荷重をかけながら3000回往復させた。目視でレンズ表面に入った傷の状態を以下のA〜Eの5水準の基準で評価した。
「A」:摩擦した範囲内に全く傷が認められなかった
「B」:上記範囲内に1〜5本の傷がついた
「C」:上記範囲内に6〜10本の傷がついた
「D」:上記範囲内に無数の傷がついた
「E」:表面が削られ、反射防止膜が無くなった
【0072】
撥水性は、霧吹きでレンズ表面に水を吹きかけた後、目視でレンズ表面の状態を以下の目視の基準で評価した。
「○」:レンズ表面の全域で水が玉状にはじかれた
「△」:レンズ表面の面積の1/2未満の領域で、水が玉状にはじかれずに広がった
「×」:レンズ表面の面積の1/2以上〜1の領域で、水が玉状にはじかれずに広がった
【0073】
(評価結果)
図2に、実施例1〜6および比較例1〜9で得られたそれぞれのプラスチックレンズにおける評価結果を纏めて示してある。
【0074】
実施例1〜6において製造されたプラスチックレンズは、耐アルカリ性および拭き耐久性の双方において、良好であった。また、実施例1〜6において製造されたプラスチックレンズは、撥水性も良好であった。実施例2は、若干拭き耐久性に劣るものの、許容できる範囲のものであった。これは、防汚層形成(転写)時における反射防止層の表面温度が若干低めであったためであると考えられる。実施例5もまた、若干拭き耐久性に劣るものの、許容できる範囲のものであった。これは、防汚層形成(転写)時における反射防止層の表面温度が若干高めであったためであると考えられる。
【0075】
比較例1において製造されたプラスチックレンズは、耐アルカリ性および拭き耐久性の双方において非常に劣ることがわかった。これは、転写シートに与える圧力が低すぎ、反射防止層の上に十分な量の防汚層形成用組成物を転写することができなかったためであると考えられる。
【0076】
比較例2において製造されたプラスチックレンズは、レンズ基材が熱変形したため、耐アルカリ性および拭き耐久性は評価不能であった。これは、防汚層形成(転写)時における反射防止層の表面温度(加熱温度)が高すぎたためであると考えられる。
【0077】
比較例3において製造されたプラスチックレンズは、レンズ基材が熱変形したため、耐アルカリ性および拭き耐久性は評価不能であった。これは、防汚層形成(転写)時における反射防止層の表面温度(加熱温度)が高すぎたためであると考えられる。
【0078】
比較例4において製造されたプラスチックレンズは、撥水性は良好であったものの、耐アルカリ性および拭き耐久性の双方において劣ることがわかった。これは、防汚層形成(転写)時における反射防止層の表面温度(加熱温度)が低かったためであると考えられる。
【0079】
比較例5において製造されたプラスチックレンズは、レンズ基材が熱変形したため、耐アルカリ性および拭き耐久性は評価不能であった。これは、防汚層形成(転写)時における反射防止層の表面温度(加熱温度)が高すぎたためであると考えられる。
【0080】
比較例6において製造されたプラスチックレンズは、レンズ表面に転写ムラが目視ではっきり確認できる程度となったため、耐アルカリ性および拭き耐久性は評価不能であった。また、撥水性も劣っていた。これは、転写圧が高すぎたためであると考えられる。
【0081】
比較例7において製造されたプラスチックレンズは、レンズ表面に転写ムラが目視ではっきり確認できる程度となったため、耐アルカリ性および拭き耐久性は評価不能であった。また、撥水性も劣っていた。これは、転写圧が高すぎたためであると考えられる。
【0082】
比較例8において製造されたプラスチックレンズは、撥水性は良好であったものの、耐アルカリ性および拭き耐久性の双方において劣ることがわかった。これは、加熱時間が長く、防汚層形成用組成物がワーク内部に拡散し、反射防止層の表面に良好に防汚層が形成されなかったためであると考えられる。
【0083】
比較例9において製造されたプラスチックレンズは、撥水性は良好であったものの、耐アルカリ性および拭き耐久性の双方において劣ることがわかった。これは、加熱時間が短く、反射防止層の表面に防汚層を十分に転写することができなかったためであると考えられる。
【0084】
上記の結果より、本実施形態によれば、ケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルが塗布された転写用のシートの塗布面を有機系の反射防止層の表面に圧着および加熱することにより、有機系の反射防止層の表面に、ケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルを主成分とする防汚層であって、十分な耐久性を備えた防汚層を形成できることがわかった。
【0085】
また、圧着および加熱する工程では、5分〜60分間加熱することが好ましいことがわかった。さらに、圧着および加熱する工程では、転写用のシートに、300kPa〜700kPaの圧力を与えることが好ましいことがわかった。このようにすることにより、耐久性および撥水性の良好なプラスチックレンズ(光学物品)を得ることができる。
【0086】
さらに、圧着および加熱する工程では、反射防止層の表面温度は80℃〜220℃にすることが好ましいことがわかった。反射防止層の表面温度を80℃〜220℃にすることにより、良好な耐久性を備えた防汚層が得られる。さらに好ましくは、反射防止層の表面温度は100℃〜200℃にするとよいことがわかった。反射防止層の表面温度を100℃〜200℃とすることにより、防汚層の耐久性をさらに向上させることができる。また、これらの温度範囲であれば、レンズ基材および/または機能層(プライマー層、ハードコート層、有機系の反射防止層)に熱的な影響を与えずに済み、レンズ基材および各機能層の機能を損なうことなく、耐久性の高い防汚層を形成できる。
【0087】
なお、上記では、基材がプラスチックレンズのものを例にとって説明しているが、基材はガラスレンズであっても同様の効果を得ることができる。有機系の機能層の上に防汚層を備えた光学物品は、眼鏡レンズに限らず、カメラ用などの多種多様なレンズ、画像表示装置の光学系の素子、プリズム、光ファイバー、情報記録媒体用の素子、フィルター、さらには、DVD等などの記録媒体、窓用のガラスなど多種多様なものが含まれる。
【0088】
また、上述では機能層として反射防止層を例にとって説明しているが、機能層は、反射防止層に限定されるものではなく、ローパスフィルター、ハイパスフィルター、バンドフィルター等の光学フィルター、硬質膜など、特定の機能を持たせた層とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】転写用シートをレンズ表面に密着させて転写させる方法を説明するための図。
【図2】防汚層の製造条件と評価結果を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の上に直にまたは少なくとも1つの層を挟んで形成された有機系の機能層の表面に防汚層を形成する工程を有する光学物品の製造方法であって、
前記防汚層を形成する工程は、防汚層形成用組成物が塗布された転写用のシートの塗布面を前記機能層の表面に圧着および加熱する工程を含む、光学物品の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記圧着および加熱する工程では、前記転写用のシートに、300kPa〜700kPaの圧力を与える、光学物品の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2において、前記圧着および加熱する工程では、5分〜60分間、前記機能層の表面温度を80℃〜220℃にする、光学物品の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、前記防汚層形成用組成物は、パーフルオロポリエーテルを主成分として含む、光学物品の製造方法。
【請求項5】
請求項4において、前記防汚層形成用組成物は、ケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルを主成分として含む、光学物品の製造方法。
【請求項6】
基材と、前記基材の上に直にまたは少なくとも1つの層を挟んで形成された有機系の機能層と、前記機能層の表面に形成されたパーフルオロポリエーテルを主成分とする防汚層とを含む、光学物品。
【請求項7】
請求項6において、前記有機系の機能層は、反射防止層である、光学物品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−107435(P2008−107435A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288369(P2006−288369)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】