説明

光学用カバーガラスの製造方法及び光学用カバーガラス

【課題】平板部と枠部とで囲まれた凹部をウェットエッチングで形成する際、アンダーカットの発生を小さくすることで、段差部のエッチングダレに起因する光ノイズを可及的に小さくし、これにより小型実装が可能な光学用カバーガラスを提供すること。
【解決手段】平板部とその下面縁部に一体的に構成された枠部とを備え、前記平板部と前記枠部とで囲まれた凹部をウェットエッチングで形成する、光学用カバーガラスの製造方法であって、前記ウェットエッチングは、前記凹部を形成する箇所以外にレジストを形成するレジスト形成工程と、エッチング液を接触させることにより非レジスト部をエッチングするエッチング工程とからなる化学研磨処理を複数回繰り返すものであり、少なくとも最後の化学研磨処理後に前記レジスト形成工程にて形成されたレジストを除去するレジスト除去工程を行うことを特徴とする光学用カバーガラスの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体撮像素子の前面に取り付けられる固体撮像素子パッケージ用カバーガラス、フォトセンサや距離センサの受発光部用カバーガラス等、光半導体素子の透光窓として使用される光学用カバーガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、CCDやCMOS等の固体撮像素子を搭載するデジタルスチルカメラやビデオカメラの小型化及び低価格化が急激に進展し、これに伴って搭載されるカメラモジュールをはじめとする光学機能部品も小型化が要求されている。また、これに限らず光半導体素子を備えた各種センサも同様に小型化が進展している。
【0003】
小型実装を目的とした固体撮像装置については、特開平7−202152号公報(特許文献1)に示す構成が提案されている。これは、固体撮像素子チップ上の受光エリアのみに、透明部材からなる平板部とその下面縁部に一体的に形成された枠部とで構成された気密封止部により、気密封止を行うものである。これにより、固体撮像素子を収納したパッケージの開口部に平板状のカバーガラスを接着する従来構成と比較し、固体撮像装置の小型化が可能であるとされている。
また、同じく小型等を目的としたセンサーチップについて、特開2006−128655号(特許文献2)に示す構成が提案されている。これには、回廊形状の凸部を一方の面に一体的に有する保護材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−202152号公報
【特許文献2】特開2006−128655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガラスなどの板状透明部材に気密封止部となる凹部を設けて平板部と枠部とが一体構成のカバーガラスを形成する場合、カバーガラスの透光面は光半導体素子に到達する光に影響を及ぼさないよう加工表面を平滑とする必要があり、その加工手段としてウェットエッチングを用いることが考えられる。
しかしながら、上記提案されたカバーガラス(保護材)について、凹部をウェットエッチングする際には、次のような課題がある。
本発明者は、ガラスからなる板状透明部材に対し、ウェットエッチングにより凹部を形成したところ、加工部と非加工部との境界である凹部外周の段差部にエッチングダレが発生した。そして、このエッチングダレが、光半導体素子に入射する光に悪影響を及ぼすものであることを確認した。エッチングダレは、エッチング工程においてレジストの真下にエッチングが進行するアンダーカットと呼ばれるものであり、凹部外周の段差部が凹部の底面から枠部の平坦面まで曲面形状で立ち上がる状態となる。そして、カバーガラスに光が入射する際、カバーガラスの前面から入射した光がこのエッチングダレにより意図しない方向に反射し、ノイズとして素子に入り込むおそれがある。また、エッチングダレが発生する部分は、エッチング工程においてエッチング液が滞留しやすい箇所であり、反応生成物が排出されず加工面に再付着することで表面が凹凸状態となり、これも光を乱反射させる要因となる。
【0006】
これに対しエッチングダレの影響を小さくするため、凹部外周の段差部(エッチングダレ)と光半導体素子との距離を離すことが考えられるが、その場合カバーガラスの外形寸法を大きくする必要があり、小型実装が達成できなくなるおそれがある。また、凹部外周にエッチングダレが存在することで、固体撮像素子チップとの接合面である枠部の平坦部の幅が小さくなるため、この幅を確保するためカバーガラスの外形寸法を大きくする必要が生じ、同様に小型実装が達成できなくなるおそれがある。
特許文献1には、凹部の具体的な加工方法が記載されていない。特許文献2には、凹部の形成方法としていくつかの手段が開示されているものの、ウェットエッチングを用いた場合の上記課題やこれを解決するための具体的な加工方法等について一切の記載がない。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、平板部と枠部とを一体構成とした光学用カバーガラスにおいて凹部をウェットエッチングにて形成する際、アンダーカットの発生を極力小さくすることで、段差部のエッチングダレに起因する光ノイズを可及的に小さくし、これにより小型実装が可能な光学用カバーガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、ウェットエッチングの方法を工夫することで、アンダーカットの発生を小さくすることができることを見出した。
すなわち、本発明の光学用カバーガラスの製造方法は、平板部とその下面縁部に一体的に構成された枠部とを備え、前記平板部と前記枠部とで囲まれた凹部をウェットエッチングで形成する、光学用カバーガラスの製造方法であって、前記ウェットエッチングは、前記凹部を形成する箇所以外にレジストを形成するレジスト形成工程と、エッチング液を接触させることにより非レジスト部をエッチングするエッチング工程とからなる化学研磨処理を複数回繰り返すものであり、少なくとも最後の化学研磨処理後に前記レジスト形成工程にて形成されたレジストを除去するレジスト除去工程を行うことを特徴とする。
また、前記レジスト形成工程は、2回目以降において前記エッチング工程にて形成されたアンダーカットを含めてレジストを形成することを特徴とする。
また、最後の化学研磨処理以外の少なくともいずれか1つ以上の化学研磨処理後にレジスト除去工程を行うことを特徴とする。
また、最後の化学研磨処理以外の全ての化学研磨処理後にレジスト除去工程を行うことを特徴とする。
また、本発明の光学用カバーガラスは、平板部とその下面縁部に一体的に構成された枠部とを備え、前記平板部と前記枠部とで囲まれた凹部がウェットエッチングで形成された光学用カバーガラスであって、前記凹部の底面と前記枠部の平坦面とをつなぐ段差部の板面方向寸法(A)と凹部の深さ方向寸法(D)とが、0.7<A/D<1の関係であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、平板部と枠部とで囲まれた凹部をウェットエッチングで形成する際、アンダーカットの発生を小さくできるため、段差部のエッチングダレに起因する光ノイズを可及的に小さくでき、これにより小型実装が可能な光学用カバーガラスを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る光学用カバーガラスの実施形態の平面図及び断面図である。
【図2】平板状部材に対し凹部をウェットエッチングにて形成した場合の加工部の断面拡大図である。
【図3】本発明に係る光学用カバーガラスの製造方法の一実施形態のフロー図である。
【図4】従来の製造方法のウェットエッチングにより生じたアンダーカットを示す模式図である。
【図5】本発明に係る光学用カバーガラスの製造方法の一実施形態であり、2回目以降のレジスト形成工程を示す図である。
【図6】本発明の製造方法の一実施形態によりエッチング工程を複数回行った際に生じたアンダーカットを示す模式図である。
【図7】本発明の光学用カバーガラスの製造方法によって複数の凹部を形成した平板状部材を示す図である。
【図8】実施例の製法で凹部を形成したガラスの凹部外周の段差部の断面写真である。
【図9】比較例の製法で凹部を形成したガラスの凹部外周の段差部の断面写真である。
【図10】本発明に係る光学用カバーガラスの製造方法の他の実施形態のフロー図である。
【図11】本発明の製造方法の他の実施形態によりエッチング工程を複数回行った際に生じたアンダーカットを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明に係る光学用カバーガラスの実施形態について説明する。図1は、本発明の光学用カバーガラス1を固体撮像素子チップ3に取り付けた場合の実施形態の(a)平面図及び(b)断面図である。
光学用カバーガラス1は、図1に示すとおり矩形板状の外観形状であって、光を透光する平板部1bと、その下面縁部に固体撮像素子チップなどとの接合部となる枠部1aとが一体的に構成されたものである。前記枠部1aは、前記平板部1bの下面縁部の全周にわたり形成されており、固体撮像素子チップと枠部1aとが接合されることで、前記平板部1bと前記枠部1aとで囲まれた凹部1cは、固体撮像素子チップ上に設けられた受光部である固体撮像素子に対応する領域を被覆し気密封止部を形成する。
【0012】
平板部1bと枠部1aとは一体的に構成され、平板部1bと枠部1aとで囲まれた凹部1cは、平板状部材をウェットエッチングすることで形成される。つまり、平板状部材に凹部1cを形成することで、枠部1aが同時に形成されることを意味する。ここで、枠部1bの平坦面1dは、固体撮像素子チップなどの他部材との接合面であり凹部1cの気密封止性を維持するため一定以上の接合幅が必要である。
ウェットエッチングにより平板状部材に凹部を形成すると、凹部の加工底部の平坦面1fと枠部の平坦面1dとをつなぐ段差部1eが曲面形状となるアンダーカット(以降、エッチングダレと称することがある)が生じる。そして、光学用カバーガラス1にエッチングダレが存在すると、光半導体素子への受光状態に悪影響を及ぼす可能性がある。具体的には、光学用カバーガラス1の前面から光が入射すると曲面形状の段差部1eにより、入射した光が意図しない方向に反射し、これが光ノイズとして光半導体素子に入り込むおそれがある。
【0013】
これに対し、本発明の光学用カバーガラス1においては、段差部1eの形状を見直すことで、エッチングダレの影響を可及的に小さくできる。図2は、ガラスからなる平板状部材にウェットエッチングにて凹部1cを形成した光学用カバーガラス1の段差部1e付近の断面拡大図を示したものである。そして、凹部1cの底部の平坦面1fと枠部の平坦面1dとをつなぐ曲面形状の段差部1eの板面方向寸法を(A)、凹部の深さ方向寸法を(D)とした場合、本発明の光学用カバーガラス1における両者の関係は、0.7<A/D<1とすることが特徴である。A/Dが0.7以下の場合、段差部1eは角度が立った急峻な状態となるものの、形成手段であるウェットエッチングに要するコストが高くなるため好ましくない。また、A/Dが1以上の場合、段差部1eのエッチングダレが大きく、これに起因する光ノイズが多くなるため好ましくない。また固体撮像素子チップ等の他部材との接合面である枠部の平坦面1dの幅が小さくなるため、この幅を確保するため光学用カバーガラス1の外形寸法を大きくする必要が生じるため好ましくない。本発明の光学用カバーガラス1は、段差部1eの形状を0.7<A/D<1とすることにより、低コストでエッチングダレの影響を小さくすることができ、光半導体素子を用いた装置に小型実装することが可能となる。
【0014】
光学用カバーガラス1の平板部1bは、凹部1cに気密封着される固体撮像素子などの光半導体素子の前面に位置する透光面である。そのため、光学用カバーガラス1は、光透過性が高く均質な材料からなることが好ましい。材料としては、ガラス、石英、サファイア、透明樹脂などが好ましく、特にガラスからなることが好ましい。
ガラスとしては、従来から固体撮像素子パッケージ用カバーガラスとして用いられているホウケイ酸ガラスが高い耐候性及び耐ソラリゼーション性を備えている点から好ましい。光学用カバーガラス1に用いるホウケイ酸ガラスの具体的な組成としては、質量%で、SiO 58〜75%、Al 0.5〜15%、B 6〜20%、LiO 0〜7%、NaO 0〜15%、KO 0〜15%(ただし、LiO+NaO+KO 2〜20%)、ZrO 0.01%未満、SnO 0〜0.1%、Nb 0〜0.2%、(ただし、SnO+Nb 0.001〜0.2%)、Fe 0.0001〜0.005%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO、TiO、CeOを含有しないガラスや、質量%で、SiO 58〜75%、Al 0.5〜15%、B 6〜20%、LiO 0〜7%、NaO 0〜15%、KO 0〜15%(ただし、LiO+NaO+KO 2〜20%)、ZrO 0.01%未満、TiO 1〜5%、ZnO 1〜7%を含有し、実質的にAsを含有しないガラスが好ましい。
【0015】
また、光学用カバーガラス1の枠部1bは、その平坦部1dにおいて他部材と接合されるが、他部材がシリコンからなる場合、陽極接合で接合することが好ましい。このようにすることで、接合のために接着剤を用いることなく、ガラスと他部材とを強固に接合することが可能となる。このように陽極接合が可能な光学用カバーガラス1の具体的な組成としては、実質的にNaOを含有せず、かつモル%表示で、実質的に、SiO 56〜70%、Al 7〜17%、LiO 4〜8%、MgO 1〜11%、ZnO 4〜12%、LiO+MgO+ZnO 14〜23%、B 0〜9%及びCaO+BaO 0〜3%の範囲からなるガラスや、モル%表示で、実質的に、SiO 54〜68%、Al 8〜18%、B 2〜8%、MgO 1〜11%、CaO 0〜3%、BaO 0〜3%、ZnO 7〜15%、NaO 0.5〜4%、KO 0〜4%、NaO+KO 0.5〜6%からなり、室温から300℃までの範囲における平均熱膨張係数が、25〜40×10−7/℃の範囲であるガラスが好ましい。
【0016】
また、光半導体素子としてCCDやCMOSなどの固体撮像素子を用いる場合、これら固体撮像素子は、可視領域から1100nm付近の近赤外領域にわたる分光感度を有しており、デジタルスチルカメラに用いる場合、そのままでは良好な色再現性を得ることができないので、赤外線を吸収する近赤外線カットフィルタを用いる必要がある。本発明の光学用カバーガラスとして、赤外線を吸収する特定の物質が添加された近赤外線カットフィルタガラスを用いることにより、カバーガラスと近赤外線カットフィルタガラスの両者の機能を1つの部材で兼用することができるため、固体撮像装置の低コスト化が可能となる。光学用カバーガラス1に用いる近赤外線カットフィルタガラスの具体的な組成としては、モル%で、P 15〜40%、Al 15〜30%、SiO 0〜15%、B 0〜20%、 LiO 0〜15%、NaO 0〜25%、KO 0〜25%、ただし、LiO+NaO+KO 15〜40%、MgO+CaO+SrO+ZnO 1〜35%、CuO 0.1〜15%、を含有するリン酸塩系ガラスが好ましい。
【0017】
また、光半導体素子としてCCDやCMOSなどの固体撮像素子を用いる場合、これら固体撮像素子は、カバーガラスから放出されるα線により、ソフトエラーを生じるため、カバーガラスから放出するα線量を厳密に管理する必要がある。本発明の光学用カバーガラス1は、上記に挙げたガラス組成系全てにおいて、ガラスからのα線放出量は、0.05c/cm・h未満が好ましく、0.005c/cm・h未満が一層好ましく、0.0002c/cm・h未満がより一層好ましい。このようなガラスを得るため、ガラス原料において放射性同位元素の含有量が少ない高純度なガラス原料(例えば、Uの含有量が10ppb以下であり、かつThの含有量が20ppb以下)を利用する。好ましくは、何れの原料においても、α線放出量が0.1c/cm・h以下である。このようなガラス原料を調合してガラス原料調合物とすると、最終的にUの含有量が10ppb以下であり、Thの含有量が20ppb以下で、さらにα線放出量が0.05c/cm・h未満のガラスを得ることができる。
【0018】
次に、本発明に係る光学用カバーガラスの製造方法について説明する。図3は、本発明の光学用カバーガラスの製造方法の加工工程の一実施形態を示すフロー図である。本発明の光学用カバーガラスの製造方法は、平板部とその下面縁部に一体的に構成された枠部とを備え、前記平板部と前記枠部とで囲まれた凹部をウェットエッチングで形成するものであり、前記ウェットエッチングは、前記凹部を形成する箇所以外にレジストを形成するレジスト形成工程と、エッチング液を接触させることにより非レジスト部をエッチングするエッチング工程とからなる化学研磨処理を複数回繰り返すものであり、少なくとも最後の化学研磨処理後に前記レジスト形成工程にて形成されたレジストを除去するレジスト除去工程を行うものである。
【0019】
レジスト形成工程は図3(a)〜(b)及び(d)〜(e)に示すとおり、ガラスなどからなる平板状部材の透光面となる表面に、エッチング工程にて凹部を形成する前準備として、エッチング加工しない箇所を保護するレジストを形成する工程である。具体的には、平板状部材の被加工表面にレジストを塗布する。そして、平板状部材の凹部を形成しない箇所にレジストが残るよう露光し、現像する。なお、本発明の光学用カバーガラスに用いるガラスなどからなる平板状部材は、透光面となる表面が光学研磨されたものであることが好ましい。
【0020】
エッチング工程は図3(c)及び(f)に示すとおり、ウェットエッチングにより凹部を形成する工程である。エッチング工程においては、1回のエッチング工程で最終的な加工深さまで加工しない。例えば凹部を形成する化学研磨処理において、2回のエッチング工程を行う場合は、1回目のエッチング工程で最終的な加工深さの半分の量を加工し、2回目のエッチング工程にて残り半分を加工する。エッチング工程に用いるエッチング液は、材料により最適なものを用いることが好ましいが、例えばガラスからなる平板状部材の場合、フッ酸や塩酸、硫酸などを適宜含む酸性水溶液を用いる。
【0021】
レジスト除去工程は図3(g)に示すとおり、エッチング工程を終えた平板状部材を剥離液に浸漬することでレジストを除去する工程である。
【0022】
本発明の光学用カバーガラスの製造方法においては、上記レジスト形成工程とレジスト形成工程後に行われるエッチング工程とを化学研磨処理と定義し、この化学研磨処理を複数回繰り返すものであり、少なくとも最後の化学研磨処理後に前記レジスト形成工程にて形成されたレジストを除去するレジスト除去工程を行うことに特徴を有する。図3に示す実施形態においては、(a)〜(c)が1回目の化学研磨処理であり、(d)〜(f)が2回目の化学研磨処理である。また、(f)の工程終了後に、再度(d)〜(f)を3回目の化学研磨処理として行うこともできる。
【0023】
本発明の光学用カバーガラスの製造方法において、化学研磨処理を複数回繰り返す理由は、エッチング工程により形成される凹部外周の段差部に生じるエッチングダレを可及的に小さくするためである。
ガラスなど非晶質材料をウェットエッチングすると、エッチングは等方的に進行するため、図4に示すようにレジスト5の真下に回り込むようにエッチングが進行するアンダーカット4と呼ばれる現象が発生する。エッチングダレはこのアンダーカットによるものである。
本発明者はアンダーカットを小さくする手段について検討したところ、エッチング工程にて発生したアンダーカットに対してレジストを形成した上で再度エッチング工程を行った場合、従来の1回で最終的な加工深さまでエッチング加工した場合と比較してアンダーカットが小さくなることを見出した。つまり図5に示すとおり、1回目のエッチング工程にて生じたアンダーカットに対し(a)、次のレジスト形成工程にて、アンダーカットに対してレジストを形成することで(b)、2回目のエッチング工程にて生じるアンダーカットを小さくできる(c)。図4に、従来1回で最終的な加工深さまでエッチングした場合のアンダーカットを示す。そして図6に、1回目のエッチング工程により生じたアンダーカットと2回目のエッチング工程により生じたアンダーカットを示す。これらを対比すると、化学研磨処理を複数回繰り返すほど、エッチングダレは小さくなり光学用カバーガラスとしては好適なものが得られることがわかる。なお、光学用カバーガラスの製造方法としては、化学研磨処理が4回以上となると製造コストが高くなるため、得られる効果と経済性の観点から化学研磨処理は3回以下が好ましい。
【0024】
本発明の光学用カバーガラスの製造方法において、少なくとも最後の化学研磨処理後に前記レジスト形成工程にて形成されたレジストを除去するレジスト除去工程を行う理由は、最後の化学研磨処理後のレジスト除去工程以外のレジスト除去工程は省略することが可能であり、これにより低コストでのウェットエッチングが可能となるためである。
また、最後の化学研磨処理以外の化学研磨処理後のレジスト除去工程を行わないことにより、2回目以降の化学研磨処理のレジスト形成工程において、枠部1aの平坦面1dとアンダーカット4との境界部分である角部1gのレジスト膜厚を確実に確保することができる。これにより、前記角部1gの直線性がより良くなる。
具体的には、2回目以降の化学研磨処理後にレジストを形成すると、枠部1aの平坦面1d上のレジストが底部1cの平坦部1fに流れ込むため、レジスト液などの条件によっては、特に角部1gのレジスト膜厚が薄くなり、必要なレジスト膜厚が確保できないことがある。レジスト膜厚が薄くなると、エッチング工程において、この膜厚が薄い箇所にエッチング液が染み込み、本来エッチング加工すべきでない角部1gが局部的にエッチングされ、この部分の直線性が悪化するおそれがある。最後の化学研磨処理以外の化学研磨処理後のレジスト除去工程を省略することで、図11に示すように既に形成されたレジストの上にさらにレジストを形成することになるため、角部1gに形成されるレジストは膜厚が薄くなるおそれがなく、上記エッチング液の染み込みが起こり難い。なお、角部1gの直線性とは、光学用カバーガラスを平面視した際に角部1gが直線状に形成されているかをいう。直前の化学研磨処理にてレジスト除去工程を行った上で、角部1gのレジスト膜厚を十分に確保しようとすると、平坦部1fのレジスト膜厚が所望を超える膜厚となり、露光時の精度が低下し、平坦部1f外周の直線性が悪化するおそれがある。
レジスト除去工程は、省略することにより上記効果があるものの、最後の化学研磨処理以外の少なくともいずれか1つ以上の化学研磨処理後、もしくは最後の化学研磨処理以外の全ての化学研磨処理後に行ってもよい。化学研磨処理後にレジスト除去工程を行わない場合、前述のとおり既に形成されたレジストの上にさらにレジストを形成することになる。この場合、レジスト形成工程において、特にアンダーカットに形成するレジストの膜厚が大きくなることで露光不良や気泡混入など問題が発生するおそれがある。そのため、適宜のタイミングでレジスト除去工程を行うことで、上記問題が起こり難く、レジスト形成を確実に行うことができる。
図10は、本発明の光学用カバーガラスの製造方法の他の実施形態を示すフロー図である。この実施形態は、レジスト除去工程を全ての化学研磨処理後に行う点で、図3に示す実施形態と相違する。具体的には、図10において、化学研磨処理を2回行う場合は、(a)〜(c)が1回目の化学研磨処理であり、その後にレジスト除去工程(d)を行う。また、(e)〜(g)が2回目の化学研磨処理であり、その後にレジスト除去工程(h)を行う。また、化学研磨処理を3回行う場合は、(e)〜(g)が2回目の化学研磨処理であり、レジスト除去工程(h)を行った後に、(e)〜(g)を3回目の化学研磨処理として、次いでレジスト除去工程(h)を行う。
その他の実施形態としては、3回の化学研磨処理を行う場合は、1回目と3回目の化学研磨処理工程後にレジスト除去工程を行う、2回目と3回目の化学研磨処理工程後にレジスト除去工程を行うことも可能である。
【0025】
本発明の光学用カバーガラスの製造方法において、図7に示すように前記化学研磨処理を用いて1枚の平板状部材に複数の凹部を形成することが可能である。複数の凹部が形成された平板状部材を複数の光半導体素子が設けられた光半導体素子チップ(基板)に接合し、平板状部材と光半導体素子チップが一体となった状態で小片に切断する。このようにすることで、光学用カバーガラスと固体撮像素子チップとの位置決め等を個別に行う必要がなく、効率的に固体撮像装置などの組み立てが可能となる。
その他、複数の凹部が形成された平板状部材を単体の光学用カバーガラスに切断した後、それを光半導体素子チップ(基板)に個別に接合することも可能である。
【0026】
次に、本発明の光学用カバーガラス及び製造方法の実施例及び比較例について説明する。実施例及び比較例では、平板状部材として、外形寸法100mm×100mm、厚さ1mmのホウケイ酸ガラス(AGCテクノグラス社製、FP−1ガラス)を適用した。この板状ガラスに、縦10個、横10個に配列した合計100個の凹部(大きさ6mm×5mm、深さ0.4mm)をウェットエッチングにて形成する。
【実施例】
【0027】
実施例における凹部の形成方法として、図10に示すフロー図において、化学研磨処理とレジスト除去工程を各2回ずつ((a)〜(h)のプロセス)行った。レジスト形成工程においては、レジストとして厚膜用ポジ型フォトレジスト(PMER P−LA900、東京応化工業社製)を膜厚50μm程度塗布し、エッチング加工を行う箇所のみレジストが除去できるよう露光、現像した。次いで、主成分としてフッ酸を5〜10質量%含有する酸性水溶液からなるエッチング液を用い、0.2mmの深さまでエッチング加工した。次いで、剥離液(PMER 剥離液PS、東京応化工業社製)に浸漬することでレジストを除去し洗浄を行った後、再度レジストを塗布し、マスクを形成した。2回目のレジスト形成工程において、1回目のエッチング工程にて形成された凹部の段差部のアンダーカットにもレジストを塗布・形成するようにした。そして、前述のエッチング液を用い、さらに0.2mm(1回目のエッチング工程との合計で0.4mm)の深さまでエッチング加工した。そして、レジストを除去して洗浄を行い、凹部が形成された光学用カバーガラスを得た。
【比較例】
【0028】
比較例における凹部の形成方法として、図10に示すフロー図のうち、化学研磨処理とレジスト除去工程を各1回ずつ((a)〜(d)のプロセス)行った。レジスト形成工程は、実施例と同様の方法で行い、実施例と同様のエッチング液を用い、0.4mmの深さまでエッチング加工した。次いで、実施例と同様の剥離液に浸漬することでレジストを除去し洗浄を行い、凹部が形成された光学用カバーガラスを得た。
【0029】
実施例及び比較例の製造方法にて得られた凹部が形成されたガラスをダイシング装置にて小片に切断し、エッチングにて形成された凹部外周の段差部の形成状態がわかるよう断面を写真撮影を行った。図8に実施例の製法で凹部を形成したガラスの断面写真、図9に比較例の製法で凹部を形成したガラスの断面写真を示す。
これら断面写真より実施例及び比較例のガラスの凹部の底部の平坦面と枠部の平坦面とをつなぐ段差部の板面方向寸法(A)と凹部の深さ方向寸法(D)及び、A/Dの関係を調べた。
実施例:A 0.39mm、D 0.40mm、A/D 0.975
比較例:A 0.61mm、D 0.40mm、A/D 1.525
この結果及び断面写真より、A/Dが1以上である比較例のガラスは、アンダーカットの影響によりエッチングダレが大きいのに対し、A/Dが1未満である実施例のガラスはアンダーカットの影響が最小限に抑えられていることにより、段差部が急峻な角度に形成されていることがわかる。
実施例の光学用カバーガラスの製造方法及び光学用カバーガラスによれば、これらを光半導体素子のカバーガラスとして用いた場合、凹部外周の段差部による光の乱反射等を起こさず、小型実装が可能となる。
【0030】
また、他の実施例における凹部の形成方法として、図3に示すフロー図において化学研磨処理を2回とレジスト除去工程を1回((a)〜(g)のプロセス)行った。レジスト形成工程等の各工程は、前述の実施例と同様の方法で行った。この実施例で得られたガラスは、角部1gが局部的にエッチングされることはなく、角部1gの直線性に問題はなかった。また、凹部の深さ方向寸法(D)を0.4mmまで加工した際、ガラスの凹部の底部の平坦面と枠部の平坦面とをつなぐ段差部の板面方向寸法(A)と凹部の深さ方向寸法(D)及び、A/Dの関係は、前述の実施例とほぼ同等であった。
【0031】
上記においては、光半導体素子として固体撮像素子を用いた場合について説明したが、本発明の光学用カバーガラスはこれに限らず、フォトセンサや距離センサの受発光部用カバーガラス、カメラなどの撮像装置のファインダー部の保護ガラス、その他の用途に好適に用いることができる。
また、光学用カバーガラスの外形形状や凹部形状は、実施例で示した矩形状に限らず、円形や多角形状など、光半導体素子や取り付け部の形状に合わせた適宜の形状や寸法にすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、凹部の段差部に起因する光ノイズを可及的に小さくでき、これにより小型実装が可能な光学用カバーガラスを提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0033】
1…光学用カバーガラス、1a…枠部、1b…平板部、1c…凹部、1d…枠部の平坦面、1e…段差部、1f…底部の平坦面、1g…角部、2…固体撮像素子、3…固体撮像素子チップ、4…アンダーカット(エッチングダレ)、5…レジスト、10…固体撮像装置、100…複数の凹部が形成された平板状部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板部とその下面縁部に一体的に構成された枠部とを備え、前記平板部と前記枠部とで囲まれた凹部をウェットエッチングで形成する、光学用カバーガラスの製造方法であって、
前記ウェットエッチングは、前記凹部を形成する箇所以外にレジストを形成するレジスト形成工程と、エッチング液を接触させることにより非レジスト部をエッチングするエッチング工程とからなる化学研磨処理を複数回繰り返すものであり、少なくとも最後の化学研磨処理後に前記レジスト形成工程にて形成されたレジストを除去するレジスト除去工程を行うことを特徴とする光学用カバーガラスの製造方法。
【請求項2】
前記レジスト形成工程は、2回目以降において前記エッチング工程にて形成されたアンダーカットを含めてレジストを形成することを特徴とする請求項1に記載の光学用カバーガラスの製造方法。
【請求項3】
最後の化学研磨処理以外の少なくともいずれか1つ以上の化学研磨処理後にレジスト除去工程を行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光学用カバーガラスの製造方法。
【請求項4】
最後の化学研磨処理以外の全ての化学研磨処理後にレジスト除去工程を行うことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の光学用カバーガラスの製造方法。
【請求項5】
平板部とその下面縁部に一体的に構成された枠部とを備え、前記平板部と前記枠部とで囲まれた凹部がウェットエッチングで形成された光学用カバーガラスであって、
前記凹部の底面と前記枠部の平坦面とをつなぐ段差部の板面方向寸法(A)と
凹部の深さ方向寸法(D)とが、0.7<A/D<1の関係であることを特徴とする光学用カバーガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−37694(P2011−37694A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53326(P2010−53326)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】