説明

光学用キャップ部品

【課題】光透過性ガラス部材と金属製シェルの封着に無鉛系封着ガラスを使用し、環境に配慮した材料構成とするとともに、金属製シェルの表面に金メッキ等を施した場合であっても、光透過性ガラス部材と金属製シェルの封着強度が高い光学用キャップ部品を提供する。
【解決手段】光透過性ガラス部材4と金属製シェル2がリン酸錫系封着ガラス3により封着されてなる光学用キャップ部品1であって、金属製シェルの表面に金薄膜を形成するとともに、金属製シェルの表面に施された金薄膜のAuと、リン酸錫系封着ガラスに含有されているSnにより形成された金属間化合物層を介して、光透過性ガラス部材と金属製シェルを封着することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
光透過性ガラス部材と金属製シェルがリン酸錫系封着ガラスにより封着されてなる光学用キャップ部品に関し、特に球レンズ部材と金属製シェルがリン酸錫系封着ガラスにより封着されてなる球レンズキャップ部品に関する。
【背景技術】
【0002】
光学用キャップ部品は、光通信や光センサー等に用いられる発光素子或いは受光素子等の光素子を覆うものであり、その内部を例えば気密状態に保持することにより、光素子に対する光の入出力を適正に行わせ得る構造となっている。この種の光学用キャップ部品としては、種々のものが提案され或いは実用化されているが、光透過性ガラス部材と金属製シェルが封着ガラスにより封着されてなる光学用キャップ部品が知られている。光学用キャップ部品の具体例として、例えば図3に示すような構成を備えたものが公知となっている。
【0003】
図3に示した光学用キャップ部品1は、円筒形状の側壁部5と、この側壁部5の先端に設けられ且つその中心部にレンズ保持孔を有する端壁部6とから構成された金属製シェル2と、この金属製シェル2のレンズ保持孔に低融点ガラス3で固着された光透過性ガラス部材(球レンズ部材)4とから構成されている。
【0004】
既述の通り、光学用キャップ部品において、光透過性ガラス部材と金属製シェルは封着ガラスにより封着される。封着ガラスによる封着は、一般的に光学用キャップ部品の製品特性を維持する目的のため、低温で行われるのが慣例である。具体的には、封着温度は、光透過性ガラス部材の軟化点以下および金属製シェルのキュリー点以下とされ、通常550℃以下の温度とされる。
【0005】
従来から使用されている封着ガラスは、550℃以下の温度で封着することができ、且つ金属製シェルとの接着性、濡れ性が良好な鉛硼酸系封着ガラスが使用されていた。例えば、特許文献1には、金属製シェル本体の開口を覆って、光透過性ガラス窓材を鉛硼酸系封着ガラスにより封着してなる光透過用ガラス窓付キャップ部品が開示されている。さらに、特許文献1に記載の鉛硼酸系封着ガラスは、鉛硼酸系ガラスと耐火性フィラーで構成される複合体であり、実施態様として重量%表示でPbO 37.5%、B23 3.5%、SiO2 1%、Al23 0.5%、TiO2 5%、ZrO2 2.5%、PbTiO3 50%の組成が開示されている。なお、PbTiO3は、低膨張特性を有する耐火性フィラーである。
【0006】
また、特許文献2には、金属製シェル本体に設けた開口部を低融点封着ガラスを介して光透過性ガラス窓材により気密に封止した光透過用ガラス窓付キャップ部品が開示されており、金属製シェルはニッケル、銅−ニッケル合金、銅およびニッケルを主成分とする合金によって形成され、低融点封着ガラスは鉛系封着ガラスを使用することが開示されている。特許文献2によれば、金属製シェル本体の素材中のNiと低融点封着ガラスに含まれるPbが金属間化合物(共晶合金とも称される)を形成することが開示されている。
【0007】
さらに、特許文献3には、金属製シェル本体に低融点封着ガラスを封着材として光透過性ガラス窓材が封着された半導体装置用キャップ部品が開示されており、鉛硼酸系封着ガラス以外の封着ガラスとして、鉛を含まないビスマス系封着ガラスを使用することが開示されている。特許文献3によると、金属製シェルの表面に形成されたパラジウムメッキのPdとビスマス系低融点封着ガラスに含まれるBiが金属間化合物を形成することが開示されている。
【0008】
ところで、光学用キャップ部品と他の金属部品等を金属はんだにより接合する際、金属製シェルに金メッキが形成されていると、その部品同士の接合強度を向上させることが可能となる。近年、この利点を享受するために、金属製シェルに金メッキを施すことが多くなっている。すなわち、金属製シェルの表面に金メッキを施すと、はんだの濡れ性が向上するとともに、金メッキに含有されているAuと金属はんだに含有されている成分により金属間化合物が形成され、金属部品同士の接合強度が向上する。特に、はんだ溶接に使用される金−錫はんだ等の無鉛はんだは、金属シェルに金メッキを施すと、濡れ性が大きく向上し、金属部品同士の接合強度がより一層向上することが知られている。
【特許文献1】特開平4−333264号公報
【特許文献2】特開平6−232283号公報
【特許文献3】特開2005−101481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、環境的観点から、ガラス材料として鉛を含有しない材料が求められている。封着ガラスとして広く鉛硼酸系封着ガラスが使用されてきた経緯から、鉛硼酸系封着ガラスを代替する無鉛系封着ガラスが強く要望されている。
【0010】
一方、光学用キャップ部品に使用される金属製シェルとして、ステンレスや鉄合金等の金属製シェルの表面に耐蝕性ニッケルメッキを施したものが使用されている。または、プレス加工によって加工した金属製シェルには、コバールや鉄合金等の金属製シェルの表面にニッケルメッキを施したものが使用されている。金属製シェルの表面にニッケルメッキを施した場合、鉛硼酸系封着ガラスに含まれるPbとニッケルメッキに含まれるNiによる共晶反応が進行し、鉛硼酸系封着ガラスとニッケルメッキの界面に金属間化合物層が形成される。
【0011】
既述の通り、光学用キャップ部品と他の金属部品等をはんだ溶接により接合する際、金属製シェルに金メッキが形成されていると、その部品同士の接合強度を向上させることが可能となる。しかし、金属製シェルに金メッキを施した場合、鉛硼酸系封着ガラスに含まれるPbと金メッキに含まれるAuによる共晶反応が生じ難く、とりわけ封着温度が550℃以下の場合、共晶反応が進行しない。したがって、金属製シェルに金メッキを施した場合、金属製シェルと鉛硼酸系封着ガラスの界面に金属間化合物層が形成されず、金属製シェルと鉛硼酸系封着ガラスの接合強度が著しく低下し、結果として光透過性ガラス部材と金属製シェルの封着強度が著しく低下し、光学用キャップ部品の製品特性が劣化する。特に、光学用キャップ部品の気密特性が劣化するため、光学用キャップ部品の信頼性が著しく損なわれる。なお、鉛硼酸系封着ガラスで封着を行う部位のみ金メッキを除去すれば、上記の問題は回避されるが、別途、金メッキを除去する工程を付加しなければならず、光学用キャップ部品の工数が多くなり、製造コストが高騰する。また、鉛硼酸系封着ガラスで封着すべき部位にマスク材および保護膜等を形成した上で金メッキを形成すれば、上記の問題は回避されるが、別途、マスク材等を形成する工程を付加しなければならず、光学用キャップ部品の工数が多くなり、製造コストが高騰する。
【0012】
特許文献1に記載の光透過用窓付きキャップ部品は、構成成分としてPbOを37.5%、PbTiO3を50%含む鉛硼酸系封着ガラスを使用しており、当然のことながら近年の無鉛化の要請を満たさない。同様にして、特許文献2に記載の光透過用ガラス窓付キャップ部品は、鉛硼酸系封着ガラスを使用している。さらに、鉛硼酸系封着ガラスに含まれるPbは、金メッキに含まれるAuと金属間化合物を形成しないため、金属製シェルと鉛硼酸系封着ガラスの接着強度が著しく低下し、結果として光学用キャップ部品における光透過性ガラス部材と金属製シェルの封着強度が著しく低下するといった上記の課題を到底解決することができない。
【0013】
特許文献3に記載の半導体装置用キャップ部品は、ビスマス系封着ガラスを使用しているため、近年の無鉛化の要請は満たしている。しかし、ビスマス系封着ガラスは、鉛硼酸系封着ガラスに比べ、高融点であり、光透過性ガラス部材と金属製シェルの封着強度や濡れ性を確保するには、封着温度を520〜530℃以上としなければならず、使用する光透過性ガラス部材と金属製シェルの材質に不当な制約が出るばかりでなく、用途によっては光学用キャップ部材の製品特性を劣化させる虞も否定できないことになる。さらに、鉛硼酸系封着ガラスと比較して、ビスマス系封着ガラスは還元され易い。したがって、ビスマス系封着ガラスは、金属製シェルの酸化を防ぐ目的で、還元性雰囲気で光透過性ガラス部材と金属製シェルの封着を行うと、ビスマスが金属に容易に還元され、封着ガラスとしての機能を発揮することができない。また、ビスマス系封着ガラスは、N2雰囲気等の中性雰囲気で光透過性ガラス部材と金属製シェルを封着する場合であっても、流動性および濡れ性が著しく低下し、封着温度を550℃より高い温度としなければ封着強度や濡れ性を確保できない。したがって、光学用キャップ部材の製造において、光透過性ガラス部材と金属製シェルの封着は、通常、金属製シェルの酸化を防ぐ目的で還元性雰囲気または中性雰囲気で行われている技術背景を考慮すると、上記デメリットは、製品特性に影響を及ぼし得る致命的な欠陥といえる。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、光透過性ガラス部材と金属製シェルの封着に無鉛系封着ガラスを使用し、環境に配慮した材料構成とするとともに、金属製シェルの表面に金メッキ等を施した場合であっても、金メッキ等と封着ガラスの界面に金属間化合物層が形成され、光透過性ガラス部材と金属製シェルの封着強度が高い光学用キャップ部品を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、種々検討を重ねた結果、光透過性ガラス部材と金属製シェルがリン酸錫系封着ガラスにより封着されてなる光学用キャップ部品であって、金属製シェルの表面に金薄膜を形成するとともに、金属製シェルの表面に施された金薄膜のAuと、リン酸錫系封着ガラスに含有されているSnにより形成された金属間化合物層を介して、光透過性ガラス部材と金属製シェルを封着することにより上記課題が解決することを見出し、本発明として提案するものである。
【0016】
リン酸錫系封着ガラスは、環境負荷が問題視されているPbOをガラス組成に含有していなくても低温封着が可能なガラス系である。また、リン酸錫系封着ガラスは、環境負荷が疑問視されているBi23をガラス組成に含有していなくても低温封着が可能なガラス系である。したがって、本発明の光学用キャップ部品で使用するリン酸錫系封着ガラスは、低温封着が可能であるばかりでなく、環境に与える負荷も少なく、有望なガラス系といえる。
【0017】
さらに、リン酸錫系封着ガラスは、還元性雰囲気による封着であっても流動性および濡れ性を損なうことがないばかりでなく、むしろ還元性雰囲気で封着すると、空気中雰囲気で封着する場合に比して流動性および濡れ性が向上する。これは、ガラス組成の主成分として含有している錫が四価(SnO2)で存在するよりも二価(SnO)で存在する方がガラスとして熱的に安定であることによる。すなわち、還元性雰囲気で封着する場合、SnOがSnO2に酸化され難く、SnOの存在比率が多くなり、結果としてガラスの熱的安定性が損なわれることなく、維持される。また、N2雰囲気等の中性雰囲気であってもSnOがSnO2に酸化され難いことに変わりはなく、SnOの存在比率が多くなり、結果としてガラスの熱的安定性が維持される。したがって、リン酸錫系封着ガラスを使用すると、還元性雰囲気または中性雰囲気でも良好に封着でき、金属製シェルの酸化を可及的に抑制することができるとともに、ビスマス系封着ガラスで認められる流動性および濡れ性が劣化するといった不具合が生じない。
【0018】
金属製シェルの表面に金メッキを施すと、はんだの濡れ性が向上し、金属部品同士の接合強度が向上する。特に、はんだ溶接に使用される金-錫はんだ等の無鉛はんだは、金属シェルに金メッキを施すと、濡れ性が大きく向上し、金属部品同士の接合強度がより一層向上することが知られている。さらに、封着ガラスとして、リン酸錫系封着ガラスを使用すると、封着の際、金薄膜に含まれるAuとリン酸錫系封着ガラスに含有されているSnの共晶反応が生じ、金属間化合物層が形成される。この金属間化合物層は、封着ガラスと金属シェルの封着強度の向上に顕著な寄与があり、結果として、光透過性ガラス部材と金属製シェルの封着強度を飛躍的に向上させるとともに、光学用キャップ部品の製品特性、信頼性を極めて向上させる。したがって、本発明の光学用キャップ部品は、光透過性ガラス部材と金属製シェルの封着強度と、光学用キャップ部品と他の金属部品の接合強度を一挙に高めることが可能となり、最終製品の信頼性向上に大きく寄与することが可能となる。なお、金薄膜に含まれるAuとリン酸錫系封着ガラスに含有されているSnにより金属間化合物層が形成されると、光学用キャップ部品の気密性、密着性が向上する点は言うまでもない。さらに、封着ガラスで封着を行う部位のみ金メッキを除去する工程を別途、付加する必要がないだけでなく、光学用キャップ部品の工数が短縮され、製造コストが飛躍的に低下する。また、封着ガラスで封着をすべき部位にマスク材および保護膜等を形成した上で金メッキを形成する必要もなく、別途、マスク材等を形成する工程を付加する必要もなくなり、光学用キャップ部品の工数が少なくなり、製造コストが飛躍的に低下する。
【0019】
具体的には、本発明の光学用キャップ部品は、光透過性ガラス部材と金属製シェルがリン酸錫系封着ガラスにより封着されてなる光学用キャップ部品であって、金属製シェルの表面に金薄膜が施され、金属製シェルの表面に施された金薄膜のAuと、リン酸錫系封着ガラスに含有されているSnにより形成された金属間化合物層を介して、光透過性ガラス部材と金属製シェルが封着されていることに特徴付けられる。ここで、本発明でいう「リン酸錫系封着ガラス」は、SnOとP25を必須的に含有するガラス系を指し、その含有量に制約はない。なお、本発明でいう「リン酸錫系封着ガラス」は、PbOを含有する態様を排除するものではないが、環境的観点からPbOを実質的に含有しないガラス組成とするのが好ましい。
【0020】
第二に、本発明の光学用キャップ部品は、金薄膜が金メッキであることに特徴付けられる。
【0021】
第三に、本発明の光学用キャップ部品は、金薄膜の平均膜厚が5〜7000nmであることに特徴付けられる。
【0022】
第四に、本発明の光学用キャップ部品は、金属間化合物層の平均厚みが5〜2000nmであることに特徴付けられる。
【0023】
第五に、本発明の光学用キャップ部品は、光透過性ガラス部材が球レンズ部材であることに特徴付けられる。
【0024】
第六に、本発明の光学用キャップ部品は、リン酸錫系封着ガラスがリン酸錫系ガラスと耐火性フィラーを含有し、リン酸錫系ガラスはSnOを40〜80モル%含有することに特徴付けられる。
【0025】
第七に、本発明の光学用キャップ部品は、リン酸錫系ガラスが下記酸化物基準のモル%表示で、SnO 45〜75%、B23 5〜30%、P25 10〜24%、ZnO 0〜20%、Al23 0〜7%、R2O 0〜10%(ただし、RはLi、Na、Kを指す)含有することに特徴付けられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0027】
リン酸錫系封着ガラスは、環境負荷が問題視されているPbOをガラス組成に含有していなくても低温封着が可能なガラス系である。また、リン酸錫系封着ガラスは、環境負荷が疑問視されているBi23をガラス組成に含有していなくても低温封着が可能なガラス系である。したがって、本発明の光学用キャップ部品に使用するリン酸錫系封着ガラスは、低温封着が可能であるばかりでなく、環境に与える負荷も少なく、有望なガラス系といえる。
【0028】
本発明において、金属製シェルの表面に施された金薄膜のAuと、リン酸錫系封着ガラスに含有されているSnにより金属間化合物層が形成される。AuとSnで金属間化合物が形成されるメカニズムは、詳細が明らかではないが、少なくとも封着温度が400℃以上であれば、AuとSnの金属間化合物が形成される。
【0029】
AuとSnの金属間化合物は、種々の組成が考えられるが、金属間化合物中のSnの割合が多くなるにつれ、金属間化合物の形成温度が低下する傾向があり、金属間化合物中のSnの含有割合は、20重量%以上が好ましい。また、金属間化合物におけるSnの含有割合を20重量%以上とするには、リン酸錫系ガラスに含まれるSnOの含有量を40モル%以上とすればよい。
【0030】
金属製シェルの表面に施された金薄膜のAuと、リン酸錫系封着ガラスに含有されているSnにより金属間化合物層が形成されると、光透過性ガラス部材と金属製シェルの封着強度が著しく向上する。また、封着の際、ガラス材質同士の相互反応等が期待できることを勘案すると、光透過性ガラス部材とリン酸錫系ガラスの接合強度は、一般的に高い。したがって、金属製シェルとリン酸錫系封着ガラスの接合強度が、光透過性ガラス部材と金属製シェルの封着強度に大きく影響を及ぼすことになるため、金属製シェルの表面に施された金薄膜のAuと、リン酸錫系封着ガラスに含有されているSnにより金属間化合物層を形成する意義は極めて大きい。なお、金薄膜に含まれるAuとリン酸錫系封着ガラスに含有されているSnにより金属間化合物層が形成されると、光学用キャップ部品の気密性、密着性が向上する点は言うまでもない。
【0031】
さらに、リン酸錫系封着ガラスは、還元性雰囲気による封着であっても流動性および濡れ性を損なうことがないばかりでなく、むしろ還元性雰囲気で封着すると、空気中雰囲気で封着する場合に比して流動性および濡れ性が向上する。これは、ガラス組成の主成分として含有している錫が四価(SnO2)で存在するよりも二価(SnO)で存在する方がガラスとして熱的に安定であることによる。すなわち、還元性雰囲気で封着する場合、SnOがSnO2に酸化され難く、SnOの存在比率が多くなり、結果としてガラスの熱的安定性が損なわれることなく、維持される。また、N2雰囲気等の中性雰囲気であってもSnOがSnO2に酸化され難いことに変わりはなく、SnOの存在比率が多くなり、結果としてガラスの熱的安定性が維持される。したがって、リン酸錫系封着ガラスを使用すると、還元性雰囲気または中性雰囲気でも良好に封着でき、金属製シェルの酸化を可及的に抑制することができるとともに、ビスマス系封着ガラスで認められる流動性および濡れ性が劣化するといった不具合が生じない。付言すれば、還元性雰囲気で封着しても、リン酸錫系封着ガラスに含まれるSnOが金属錫にまで還元される反応は生じ難い。
【0032】
金属製シェルの表面に金メッキを施すと、はんだの濡れ性が向上するとともに、金メッキに含有されているAuと金属はんだに含有されている成分により金属間化合物が形成され、金属部品同士の接合強度が向上する。特に、はんだ溶接に使用される金-錫はんだ等の無鉛はんだは、金属シェルに金メッキを施すと、濡れ性が大きく向上し、金属部品同士の接合強度がより一層向上することが知られている。さらに、封着ガラスとして、リン酸錫系封着ガラスを使用すると、封着の際、金薄膜に含まれるAuとリン酸錫系封着ガラスに含有されているSnの共晶反応が生じ、金属間化合物層が形成される。この金属間化合物層は、封着ガラスと金属シェルの封着強度の向上に顕著な寄与があり、結果として、光透過性ガラス部材と金属製シェルの封着強度を飛躍的に向上させるとともに、光学用キャップ部品の製品特性、信頼性を極めて向上させる。したがって、本発明の光学用キャップ部品は、光透過性ガラス部材と金属製シェルの封着強度と、光学用キャップ部品と他の金属部品の接合強度を一挙に高めることが可能となり、最終製品の信頼性向上に大きく寄与することが可能となる。
【0033】
光透過性ガラス部材は、種々のガラス部材を使用することができ、例えばBLC(熱膨張係数51×10-7/℃、日本電気硝子株式会社製)、LaSF015(74×10-7/℃)、BK−7(86×10-7/℃)等が使用可能である。
【0034】
金属製シェルは、種々の金属材料を使用することができ、例えばコバール(約45×10-7/℃)、42鉄ニッケル合金(65×10-7/℃)、50鉄ニッケル合金(90×10-7/℃)、ステンレス(120×10-7/℃)等が使用可能である。
【0035】
金薄膜は、その形成方法や形成形態に制約はなく、種々の方法により形成される。本発明において、金薄膜は、金メッキとするのが好ましい。金メッキは、バレルメッキによる電解メッキ等によって容易に形成することができ、金属製シェルの全面に安定した膜厚で金薄膜を形成することが可能である。また、金メッキを形成する前に、必要に応じて金属製シェルに下地メッキを施すことができ、例えばニッケルメッキを施すことが可能である。ニッケルメッキは、金属製シェルがFeを含有している場合、Feの拡散を防止できる等の耐蝕性等の効果を有している。
【0036】
また、本発明において、金薄膜は、金蒸着膜または金スパッタ膜であることが好ましい。金蒸着膜は周知の真空蒸着法によって容易に形成することができ、金スパッタ膜は周知のスパッタリング法によって容易に形成することができる。また、金薄膜は、上記の方法以外にイオンプレーティング法等の方法によっても形成することができる。
【0037】
また、本発明において、金薄膜の平均膜厚は5〜7000nmが好ましく、5〜3000nmとするのが更に好ましい。金薄膜の平均膜厚が5nmより小さいと、リン酸錫系封着ガラスに含まれるSnと金属間化合物層を形成しにくくなるとともに、形成される金属間化合物層の平均厚みが小さくなり、リン酸錫系ガラスと金属製シェルの接合強度が低下し、結果として、光透過性ガラス部材と金属製シェルの封着強度が低下し、光学用キャップ部品の製品特性が劣化する。金薄膜の平均膜厚が7000nmより大きいと、材料コストが上昇するため、光学用キャップ部品の製品コストが高騰する。
【0038】
金薄膜が金メッキである場合、金メッキの平均膜厚は5〜2000nmが好ましく、5〜500nmが更に好ましい。金メッキの平均膜厚が5nmより小さいと、リン酸錫系封着ガラスに含まれるSnと金属間化合物層を形成しにくくなるとともに、形成される金属間化合物層の平均厚みが小さくなり、リン酸錫系ガラスと金属製シェルの接合強度が低下し、結果として、光透過性ガラス部材と金属製シェルの封着強度が低下し、光学用キャップ部品の製品特性が劣化する。金メッキの平均膜厚が2000nmより大きいと、材料コストが上昇するため、光学用キャップ部品の製品コストが高騰する。
【0039】
本発明において、金属製シェルの表面に施された金薄膜のAuとリン酸錫系封着ガラスに含有されているSnにより形成された金属間化合物層の厚みは、5〜2000nmが好ましく、5〜1000nmとするのが更に好ましい。金属間化合物層の厚みが5nmより小さいと、リン酸錫系ガラスと金属製シェルの接合強度が低下し、結果として、光透過性ガラス部材と金属製シェルの封着強度が低下し、光学用キャップ部品の製品特性が劣化する。また、金属間化合物層の厚みを2000nmよりも厚くするには、金属製シェルの表面に施された金薄膜のAuとリン酸錫系封着ガラスに含有されているSnの共晶反応を十分に進行させなければならず、そのためには封着温度の上昇および封着工程の長時間化等といった製造効率の低下を伴う措置を講じる必要がある。
【0040】
本発明において、光透過性ガラス部材は、その形状が制約されるものではなく、例えば球レンズ、ロッドレンズ、扁平レンズ、非球面レンズ、窓板ガラス等を使用形態に応じて適宜選択することができる。特に、光透過性ガラス部材を球レンズ部材とすると、レンズに光学的な異方性がないことから、レンズを金属製シェルの開口部に実装する際の方位調整が不要となり、更には金属製シェルへの組み込みが容易となる。
【0041】
本発明において、リン酸錫系封着ガラスは、リン酸錫系ガラスと耐火性フィラーを含有し、リン酸錫系ガラスはSnOを40〜80モル%含有することが好ましい。軟化点が500℃以下のリン酸錫系ガラスは、通常70〜130×10-7/℃と高い熱膨張係数を有しており、光透過性ガラス部材と金属製シェルとの熱膨張係数差が大きく、耐火性フィラーを使用しないと光透過性ガラス部材と金属製シェルに不当な応力が残留し、光学用キャップ部材の製品特性に影響を及ぼし得る。リン酸錫系封着ガラスをリン酸錫系ガラスと耐火性フィラーとの複合体とすると、光透過性ガラス部材と金属製シェルとの熱膨張係数差を小さくすることができ、光透過性ガラス部材と金属製シェルに不当な応力が残留する事態を有効に回避できる。
【0042】
耐火性フィラーは、リン酸錫系ガラスに添加しても熱的安定性を低下させない程度に反応性が低いことが要求され、用途によっては熱膨張係数が低く、機械的強度が高いことが要求される。さらに、耐火性フィラーは、実質的に鉛を含有しないことが要請される。耐火性フィラーは、種々の材料が使用可能であるが、具体的には、コーディエライト、ジルコン、ジルコニア、チタン酸アルミニウム、石英、β−スポジュメン、ムライト、チタニア、石英ガラス、β−ユークリプタイト、β−石英固溶体、ウイレマイト、[AB2(MO43]の基本構造をもつ化合物、
A:Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cu、Ni、Mn等
B:Zr、Ti、Sn、Nb、Al、Sc、Y等
C:P、Si、W、Mo等
若しくはこれらの混合物を用途に応じて適宜選択し使用すればよい。特に、コーディエライト、NbZr(PO43は、低膨張であり、機械的強度にも優れ、リン酸錫系ガラスとの反応性も低いため、好ましい。
【0043】
リン酸錫系ガラスと耐火性フィラーの混合割合は、体積%表示でリン酸錫系ガラスを45〜95%、耐火性フィラーを5〜55%とするのが好ましい。耐火性フィラーの含有量が5体積%より少ないと、耐火性フィラーを添加しても、低膨張化や機械的強度の向上等の効果が殆ど得られない。また、耐火性フィラーの含有量が55%より多いと、融材であるリン酸錫系ガラスの含有量が少なくなるため、リン酸錫系封着ガラスの流動性が阻害されるとともに、リン酸錫系封着ガラスの濡れ性が乏しくなる。
【0044】
SnOは、ガラスを低融点にし、金薄膜に含まれるAuと金属間化合物層を形成するために必要な成分である。SnOが40モル%より小さいと、金薄膜に含まれるAuとリン酸錫系封着ガラスに含まれるSnにより形成される金属間化合物のSnの含有比率が低くなり、金属間化合物の形成温度が上昇し、その結果、形成される金属間化合物層の厚みが薄くなり、光透過性ガラス部材と金属製シェルの封着強度が低下する。SnOが80モル%より大きいと、ガラスが熱的に不安定になる。
【0045】
本発明において、リン酸錫系ガラスのガラス組成は、下記酸化物基準のモル%表示で、SnO 45〜75%、B23 5〜30%、P25 10〜24%、ZnO 0〜20%、Al23 0〜7%、R2O 0〜10%(ただし、RはLi、Na、Kを指す)含有することが好ましい。リン酸錫系ガラスのガラス組成を上記のように規定した理由を以下に示す。なお、以下の%表示は、特に限定のない場合、モル%を指す。
【0046】
リン酸錫系ガラスのガラス組成を上記のように規制すると、鉛を含有しなくても低融点の封着ガラスを得ることができる。また、その耐水性は、ガラスの焼結体を50℃の純水中に48時間浸漬した後の重量減が1mg/cm2未満であり、結露の発生しやすい環境下でも、ガラス成分が溶け出す心配がなく、目的とする光学用キャップ部品の光学特性が維持される。
【0047】
上述の通り、SnOは、ガラスを低融点にし、金薄膜に含まれるAuと金属間化合物層を形成するために必要な成分であり、より好ましくは45〜75%、更に好ましくは50〜70%、最も好ましくは55〜65%である。
【0048】
23はガラスのネットワークを形成する成分であり、その含有量は5〜30%、好ましくは7〜27%である。B23が5%より少ないとガラスが不安定になり、結晶が析出して低温封着ができなくなり、30%よりも多いとガラスの粘度が増大して低温での封着が困難となる。
【0049】
25はガラス形成成分であり、また耐水性に作用する成分でもある。その含有量は10〜24%、好ましくは15〜23%である。P25が10%よりも少ないとガラスの粘度が増大して低温での封着が困難となり、24%よりも多いとガラス構造が不安定になり耐水性が悪化する。
【0050】
ZnOは粘度をあまり増大させることなくガラスの熱膨張係数を低くする性質を有するが、その含有量は0〜20%、好ましくは0〜18%である。ZnOが20%を超えるとガラスが失透しやすくなり、所定温度で封着できなくなる。
【0051】
Al23はガラスを安定化させるが、その含有量は0〜7%、好ましくは0〜4%である。Al23が7%より多いとガラスの粘度が増大して所定温度で封着できなくなる。
【0052】
2O(ただし、RはLi、Na、Kを指す)はガラスの軟化点を低下させる成分であるが、その含有量は0〜10%、好ましくは0〜5%、より好ましくは0〜3%である。R2Oが10%より多いと、ガラスが熱的に不安定となる。
【0053】
また上記の成分以外にも10%以下のSiO2、BaO、CaO、SrO、Fe23、CuO、V25、Ag2O、Co23、MoO3、WO3、Nb25、Ta25、CeO2、Ga23、Sb23、Bi23、F2やI2等のハロゲンを含有させることができる。
【0054】
以上のガラス組成を有するリン酸錫系ガラスは、ガラス転移点が350℃以下と低く、良好な流動性を示す非晶質ガラスである。また30〜250℃における熱膨張係数が70〜130×10-7/℃であり、加えて500℃以下の低温で封着することが可能である。
【0055】
リン酸錫系封着ガラスは、溶剤とバインダー等を含有したビークルを添加し、ペーストとしても良い。作製されたペーストは、ディスペンサー等を用いて金属製シェルに塗布され、後に封着工程に供される。また、リン酸錫系ガラスは、溶剤とバインダー等を添加し、スプレードライヤー等で顆粒とした後、乾式プレスし成形体とした上で焼成することで焼結体(タブレットとも称される)とすることができる。作製された焼結体は、金属製シェルに固定され、後に封着工程に供される。
【実施例】
【0056】
以下、実施例に基づき、本発明を詳細に説明する。
【0057】
モル%でSnO 60%、B23 15%、P25 20%、ZnO 4%、Al23 1%のガラス組成を有する試料をリン酸錫系ガラス試料Aとした。モル%でSnO 65%、P25 23%、B23 10%、Al23 1%、Na2O 1%のガラス組成を有する試料をリン酸錫系ガラス試料Bとした。重量%でPbO 75%、B23 12%、SiO2 2%、ZnO 10%、BaO 1%のガラス組成を有する試料を鉛硼酸系ガラス試料Cとした。
【0058】
まず上記の組成になるように原料を調合し、高純度のアルミナ磁性坩堝に入れて900℃で2時間溶融した。なお、リン酸錫系ガラス試料Aおよびリン酸錫系ガラス試料Bは、アルミナ磁性坩堝に蓋をした状態で溶融し、鉛硼酸系ガラス試料Cは、アルミナ磁性坩堝に蓋をせずに溶融した。次いでこれを薄板状に成形し、粉砕した後250メッシュの篩を通過させて平均粒径4μmのガラス粉末を得た。
【0059】
NbZr(PO43は、五酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、リン酸二水素アンモニウム、酸化マグネシウムを質量%で、Nb25 28%、ZrO2 26%、P25 45%、MgO 1%の組成になるように調合し、混合した後、1400℃で15時間焼成し、次いでこの焼成物を粉砕した後、これを350メッシュのステンレス篩を通過したものを用いた。
【0060】
コーディエライトは、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、光学石粉を2MgO・2Al23・5SiO2になるように調合し、混合した後、1400℃で10時間焼成し、次いでアルミナボールミルで粉砕し、250メッシュのステンレス篩を通過したものを用いた。
【0061】
チタン酸鉛は、リサージ及び酸化チタンをPbTiO3の化学量論比になるように混合した後、1150℃で2時間焼成し、粉砕後250メッシュのステンレスふるいを通過したものを用いた。
【0062】
得られたガラス粉末に耐火性フィラーを混合し、複合体粉末とした。リン酸錫系ガラス試料Aの粉末 75体積%、NbZr(PO43の粉末 25体積%の割合で混合し、リン酸錫系封着ガラスAとした。また、リン酸錫系ガラス試料Bの粉末 70体積%、コーディエライトの粉末 30体積%の割合で混合し、リン酸錫系封着ガラスBとした。さらに、鉛硼酸系ガラス試料Cの粉末 70体積%、チタン酸鉛の粉末 30体積%を混合し、鉛硼酸系封着ガラスCとした。
【0063】
金属製シェルは、コバール材質のものを使用した。金属製シェルの表面に2μmのニッケルメッキを施した後、ニッケルメッキの表面上に3μm厚の金メッキを形成した。なお、ニッケルメッキおよび金メッキは、金属製シェルの全表面に形成した。
【0064】
球レンズ部材は、1.5mmφの球形状のものを使用した。
【0065】
さらに、リン酸錫系封着ガラスA、Bおよび鉛硼酸系封着ガラスCをビークルに混ぜてスラリ−とし、スプレ−ドライヤーにて顆粒状にし、これをプレスし成形体を得た。次にこれを焼成し焼結体とし、その後金属製シェル内にはめ込みその上から球レンズ部材を載せ、N2雰囲気で封着することにより、それぞれ球レンズキャップ部品A、B、Cとした。なお、封着は、ピーク温度480℃で30分保持することで行った。
【0066】
図1には、球レンズキャップ部品Aに係る金属製シェル2とリン酸錫系封着ガラスA 3aの界面の状態を模式的に示している。金属製シェル2には、ニッケルメッキ9が形成され、ニッケルメッキ9の表面に金メッキ8が形成されている。リン酸錫系ガラスA 3aと金メッキ8の界面には、金属間化合物層7が形成されている。
【0067】
図2には、球レンズキャップ部品Cに係る金属製シェル2と鉛硼酸系封着ガラスC 3cの界面の状態を模式的に示している。金属製シェル2には、ニッケルメッキ9が形成され、ニッケルメッキ9の表面に金メッキ8が形成されている。なお、鉛硼酸系封着ガラスC 3cと金メッキ8の界面には、金属間化合物層が形成されていない。
【0068】
上記方法で作製した各球レンズキャップ部品の各試料についてPCT(プレッシャークッカーテスト)、気密性、押し付け強度を評価した。
【0069】
PCTは、121℃湿度95%48時間の条件で行い、各球レンズキャップ部品に使用した封着ガラスに外観変化が認められなかったものを「良」、外観変化が認められたものを「不良」とした。その結果、リン酸錫系封着ガラスA、Bおよび鉛硼酸系封着ガラスCを用いた各球レンズキャップ部品は、すべて外観変化が認められず、評価「良」であり、耐水性が良好であった。
【0070】
気密性は、PCT試験後の各球レンズキャップ部品の評価サンプルを治具でHeリークディテクターに取り付け、Heガスを吹き付けてリーク速度を検定した結果が、1.0×10-8atm・cc/sec以下であるものを「良」とし、その値より大きいものを「不良」とした。その結果、リン酸錫系封着ガラスA、Bを用いた球レンズキャップ部品は、気密性が「良」であったが、鉛硼酸系封着ガラスCを用いた球レンズキャップ部品は、気密性が「不良」であった。その理由は、球レンズキャップ部品Aには、金メッキとリン酸錫系封着ガラスAの界面に1.5μmの金属間化合物層が形成されており、金メッキとリン酸錫系封着ガラスBの界面には、1.6μmの金属間化合物層が形成されていた。これらの金属間化合物が金属製シェルと封着ガラスの密着度を高め、結果として球レンズ部材と金属製シェルの密着度が上昇し、球レンズキャップ部品A、Bの気密性が良好であったと判断される。なお、金属間化合物層の厚みは、EPMA等の表面分析機器で容易に測定することができる。一方、球レンズキャップ部品Cには、金メッキと鉛硼酸系封着ガラスCの界面に金属間化合物層が形成されていなかった。球レンズキャップ部品Cは、金属間化合物層が形成されていないため、金属製シェルと封着ガラスの密着度が低くなり、結果として球レンズ部材と金属製シェルの密着度が低下し、気密性が不良であったと判断される。
【0071】
押し付け強度は、次のようにして測定した。各球レンズキャップ部品の球レンズ部材中心部に2.5mmφの棒を0.1mm/秒の速度で押し付けた後、球レンズ部材に負荷される荷重を測定した。次に、各球レンズキャップ部品について、Heリークディテクターで気密性を測定した。Heガスを吹き付けてリーク速度を検定した結果が、1.0×10-8atm・cc/secより大きな値になったときの荷重を押し付け強度とした。各球レンズキャップ部品の押し付け強度を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
球レンズキャップ部品Aは、押し付け強度が7.5kgfであり、十分に大きな値であった。また、球レンズキャップ部品Bは、押し付け強度が8.0kgfであり、十分に大きな値であった。一方、球レンズキャップ部品Cは、押し付け強度が1.5kgfであり、著しく小さかった。その理由は、球レンズキャップ部品Aには、金メッキとリン酸錫系封着ガラスAの界面に1.5μmの金属間化合物層が形成されており、球レンズキャップ部品Bには、1.6μmの金属間化合物層が形成されていた。これらの金属間化合物が金属製シェルと封着ガラスの接合強度を高め、結果として球レンズ部材と金属製シェルの封着強度が上昇し、球レンズキャップ部品の押し付け強度が高くなったと判断される。一方、球レンズキャップ部品Cには、金メッキと鉛硼酸系封着ガラスCの界面に金属間化合物層が形成されていなかった。球レンズキャップ部品Cは、金属間化合物層が形成されていないため、金属製シェルと封着ガラスの接合強度が低くなり、結果として球レンズ部材と金属製シェルの封着強度が低下し、押し付け強度が低くなったと判断される。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の光学用キャップ部品は、封着ガラスとしてリン酸錫系封着ガラスを使用する。リン酸錫系封着ガラスは、低温封着が可能であるばかりでなく、環境に与える負荷も少なく、有望なガラス系である。リン酸錫系封着ガラスを使用すると、還元性雰囲気または中性雰囲気でも良好に封着でき、金属製シェルの酸化を可及的に抑制することができるとともに、ビスマス系封着ガラスで認められる流動性および濡れ性が劣化するといった不具合も生じない。
【0075】
また、本発明の光学用キャップ部品は、金属製シェルの表面に金メッキを形成している。金属製シェルの表面に金メッキを施すと、はんだの濡れ性が向上し、金属部品同士の接合強度が向上する。特に、はんだ溶接に使用される金-錫はんだ等の無鉛はんだは、金属シェルに金メッキを施すと、濡れ性が大きく向上し、金属部品同士の接合強度がより一層向上する。さらに、封着ガラスとして、リン酸錫系封着ガラスを使用すると、封着の際、金薄膜に含まれるAuとリン酸錫系封着ガラスに含有されているSnの共晶反応が生じ、金属間化合物層が形成される。この金属間化合物層は、封着ガラスと金属シェルの封着強度の向上に顕著な寄与があり、結果として、光透過性ガラス部材と金属製シェルの封着強度を飛躍的に向上させるとともに、光学用キャップ部品の製品特性、信頼性を極めて向上させる。したがって、本発明の光学用キャップ部品は、光透過性ガラス部材と金属製シェルの封着強度と、光学用キャップ部品と他の金属部品の接合強度を一挙に高めることが可能となり、最終製品の信頼性向上に大きく寄与することが可能となる。
【0076】
その上、封着ガラスとしてリン酸錫系封着ガラス、金属はんだとして金−錫はんだを使用しても、最終製品として高度な信頼性を達成することができ、加えて最終製品全体としての無鉛化を達成することが可能となる。さらに、はんだ溶接を行う部位のみ金メッキを除去する工程を別途、付加する必要がなく、その結果、光学用キャップ部品の工数が短縮され、製造コストが飛躍的に低下する。また、はんだ溶接をすべき部位にマスク材および保護膜等を形成した上で金メッキを形成する必要もなく、別途、マスク材等を形成する工程を付加する必要もなくなり、光学用キャップ部品の工数が少なくなり、製造コストが飛躍的に低下する。
【0077】
なお、本発明の光学用キャップ部材は、光透過性ガラス部材に板ガラスを使用することで、レーザダイオード、CCD、光学センサー等の光学用キャップ部品に使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の光学用キャップ部材に係る金属製シェルとリン酸錫系封着ガラスの界面の説明図である。
【図2】従来の光学用キャップ部材に係る金属製シェルと鉛硼酸系封着ガラスの界面の説明図である。
【図3】光学用キャップ部品の構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0079】
1 光学用キャップ部材
2 金属製シェル
3 封着ガラス
3a リン酸錫系封着ガラス
4 光透過性ガラス部材(球レンズ部材)
7 金属間化合物層
8 金メッキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性ガラス部材と金属製シェルがリン酸錫系封着ガラスにより封着されてなる光学用キャップ部品であって、
金属製シェルの表面に金薄膜が施され、
金属製シェルの表面に施された金薄膜のAuと、リン酸錫系封着ガラスに含有されているSnにより形成された金属間化合物層を介して、光透過性ガラス部材と金属製シェルが封着されていることを特徴とする光学用キャップ部品。
【請求項2】
前記金薄膜が金メッキであることを特徴とする請求項1に記載の光学用キャップ部品。
【請求項3】
前記金薄膜の平均膜厚が5〜7000nmであることを特徴とする請求項1または2に記載の光学用キャップ部品。
【請求項4】
前記金属間化合物層の平均厚みが5〜2000nmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学用キャップ部品。
【請求項5】
前記光透過性ガラス部材が球レンズ部材であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光学用キャップ部品。
【請求項6】
前記リン酸錫系封着ガラスがリン酸錫系ガラスと耐火性フィラーを含有し、前記リン酸錫系ガラスはSnOを40〜80モル%含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光学用キャップ部品。
【請求項7】
前記リン酸錫系ガラスが下記酸化物基準のモル%表示で、SnO 45〜75%、B23 5〜30%、P25 10〜24%、ZnO 0〜20%、Al23 0〜7%、R2O 0〜10%(ただし、RはLi、Na、Kを指す)含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の光学用キャップ部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−165551(P2007−165551A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−359288(P2005−359288)
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】