説明

光学用フィルムのフィルムロール

【課題】フィルムロール上の位置による熱収縮率の相違が少ない光学用フィルムのフィルムロールを提供する。
【解決手段】ポリエチレンテレフタレートからなる厚み35〜250μmの二軸延伸フィルムである光学用フィルムのフィルムロールであって、フィルムロール上の配向角の最大値が30〜50°、フィルムロールの端から巾方向に40cmごとに測定点を設けたときの各測定点での150℃30分間常圧放置時の巾方向熱収縮率の最大値TDMAXと最小値TDMINとの差が0.1%以下かつ同条件での縦方向熱収縮率の最大値MDMAXと最小値MDMINとの差が0.1%以下であることを特徴とする、光学用フィルムのフィルムロール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学用フィルムのフィルムロールに関する。
【背景技術】
【0002】
光学用フィルムはその表面にハードコート層を設けて用いられることが多い。このハードコートを設ける工程では、フィルムが100℃を超える高温に曝されるため、熱により収縮する。この収縮が均一でないと、フィルムの平坦性が失われて巻取り性が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−181996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、フィルムロール上の位置による熱収縮率の相違が少ない光学用フィルムのフィルムロールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明は、ポリエチレンテレフタレートからなる厚み35〜250μmの二軸延伸フィルムである光学用フィルムのフィルムロールであって、フィルムロール上の配向角の最大値が30〜50°、フィルムロールの端から巾方向に40cmごとに測定点を設けたときの各測定点での150℃30分間常圧放置時の巾方向熱収縮率の最大値TDMAXと最小値TDMINとの差が0.1%以下かつ同条件での縦方向熱収縮率の最大値MDMAXと最小値MDMINとの差が0.1%以下であることを特徴とする、光学用フィルムのフィルムロールである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、フィルムロール上の位置による熱収縮率の相違が少ない光学用フィルムのフィルムロールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例および比較例における延伸区間を表わす。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
[二軸延伸フィルム]
本発明における二軸延伸フィルムは、ポリエチレンテレフタレートからなる、厚み35〜250μm、好ましくは70〜225μmの二軸延伸フィルムである。厚みが35μm未満であると機械的強度が不足し、厚みが250μmを超えると光学用に適した高い透明性を得ることが難しくなり、取り扱い性が低下する。
【0009】
本発明におけるポリエチレンテレフタレートは、ポリエステルの全繰返し単位を基準にエチレンテレフタレート単位を95モル%以上、好ましくは98モル%以上の繰り返し単位とするポリエステルであり、共重合ポリエチレンテレフタレートを含む概念である。
【0010】
二軸延伸フィルムのポリエチレンテレフタレートが、共重合ポリエチレンテレフタレートである場合、共重合成分として、例えばイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジエチレングリコールを用いることができる。
本発明において最も好ましいポリエチレンテレフタレートは、ポリエチレンテレフタレートホモポリマーである。
【0011】
[配向角の最大値]
本発明における光学用フィルムのフィルムロールは、フィルムロール上の配向角の最大値が30〜50°である。換言すれば、フィルムの巾方向を基準方向0°としたときに、フィルムの配向が基準方向となす角の最大値が30〜50°である。配向角がこの範囲にないと光学用に適さない、傷の多いフィルムとなる。本発明の光学用フィルムのフィルムロールを製造するためには、光学用途に適するように、フィルムにキズをつけることなくフィルムを製造することが必要であり、そのためには未延伸フィルムを同時二軸延伸法で延伸して製造するする必要がある。同時二軸延伸法で得られる延伸フィルムは、逐次二軸延伸法で得られる延伸フィルムに比べて配向角が高く、全巾方向における配向角の最大値が30〜50°を示す。
【0012】
[熱特性]
本発明における光学用フィルムは、フィルムロールの端から巾方向に40cmごとに測定点を設けたときの各測定点での150℃30分間常圧放置時の幅方向熱収縮率の最大値TDMAXと最小値TDMINとの差が0.1%以下、かつ同条件での縦方向熱収縮率の最大値MDMAXと最小値MDMINとの差が0.1%以下である。
【0013】
光学用フィルムは、そのうえにハードコートなどの加工層を設けて使用される。これらの加工層を設ける工程で、フィルムは70〜150℃の温度に曝され、その後、巻き取られる。TDMAXとTDMINとの差およびMDMAXとMDMINとの差について、上記の条件を満たさないフィルムであると、加工層を設ける工程でフィルムに熱に曝されたときに、フィルムの各方向での収縮が異なり、その結果、ロール状にまきとったときに、フィルムロールの形状が悪くなり、フィルムを再びフィルムロールから繰り出したときに、フィルムの平面性が損なわれ、最終製品が撓んでしまう。
【0014】
[塗布層]
本発明における光学用フィルムは、その少なくとも片面に、厚み50〜100nmの塗布層を備えることが好ましい。この塗布層があることによって、光学用フィルムのうえに設けられるハードコート層等の機能層との接着性や耐電防止性の機能を光学用フィルムに付与することができる。厚みが50nm未満であると接着性や耐電防止性の機能が不十分となり、100nmを超えるとフィルムの透明性が低下して光学用に適さない。
【0015】
[製造方法]
本発明の光学用フィルムのフィルロールは、縦方向の延伸倍率と巾方向の延伸倍率との差が小さい条件で二軸方向に延伸する必要があり、この延伸を同時二軸延伸法で行う。本発明のフィルムロールは、例えば、以下の方法で得ることができる。
【0016】
ポリエチレンテレフタレートを、Tm+10℃ないしTm+30℃(ただし、Tmはポリエチレンテレフタレートの融点)の温度で溶融し、押出して未延伸フィルムとし、該未延伸フィルムを同時に二軸方向にTgないしTg+10℃の温度(ただし、Tgはポリエチレンテレフタレートのガラス転移温度)で縦方向に3.0〜3.5倍、巾方向に3.5〜3.8倍で延伸することで二軸延伸フィルムとする。このようにして得られたフィルムを(Tg+60)〜Tmの温度で1〜60秒間、熱固定し、熱弛緩する。
【0017】
最大値TDMAXと最小値TDMINとの差が0.1%以下かつ同条件での縦方向熱収縮率の最大値MDMAXと最小値MDMINとの差が0.1%以下とするためには、巾方向の延伸倍率が縦方向の延伸倍率よりも高い条件で、延伸開始点で縦方向と巾方向が同時に延伸開始され、延伸終了点でも縦方向と巾方向の延伸が同時に延伸終了するように延伸すること、熱弛緩における縦弛緩率を横弛緩率に近い率まで高くすること、が有効である。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。また、本発明における評価は次に示す方法で行った。なお、縦方向はフィルム延伸時の機械軸方向であり、巾方向はこれに直交する方向である。
【0019】
(1)延伸倍率
同時二軸円延伸法で延伸するため、延伸倍率は以下のように定義される。
縦延伸倍率=テンター内縦延伸ゾーン出口でのクリップ速度/テンター内縦延伸ゾーン入口でのクリップ速度
巾延伸倍率=テンター内巾方向延伸ゾーン出口でのフィルム巾/テンター内巾方向延伸ゾーンの入口でのフィルム巾
【0020】
(2)延伸区間
表の延伸区間(1)、(2)、(3)は、図1に表わされる位置である。図1においてフィルムは左から右に移動する。
【0021】
(3)配向角
フィルムロールの全巾(TD方向)を10cmごとに、一辺がTD方向の軸と並行に、他の一辺がTD方向の軸と直角になるように一辺10cmの正方形の試料を切り出した。この試料を、TD方向を0°として、神崎製紙(株)製 MOA−2001Aマイクロ波分子配向計を用い透過マイクロ波強度を測定し、得られたチャートから配向角を求めた。
【0022】
(4)巾方向の熱収縮率の最大値・最小値・平均値(TDMAX・TDMIN・TDAVE
フィルムロールの全巾(TD方向)を、40cmごとに、一辺がTD方向の軸と並行に、他の一辺がTD方向の軸と直角になるように、TD方向の一辺40cm、MD方向の一辺2cmの長方形の試料を切り出した。各試料を150℃で30分間、常圧に放置し、放置後の試料の幅方向(TD方向)の熱収縮率を測定した。各試料のうち最も高い熱収縮率を示した試料の熱収縮率をTDMAX、最も低い熱収縮を示した試料の熱収縮率をTDMINとし、TDMAX−TDMINを算出し、巾方向の熱収縮率の最大値と最小値の差とした。各試料の熱収縮率の平均をTDAVEとした。なお、各試料の熱収縮率を測定するときの標点間隔は30cmとした。
【0023】
(5)縦方向の熱収縮率の最大値・最小値・平均値(MDMAX・MDMIN・MDAVE
フィルムロールの全巾(TD方向)を、40cmごとに、一辺がTD方向の軸と並行に、他の一辺がTD方向の軸と直角になるように、TD方向の一辺2cm、MD方向の一辺40cmの長方形の試料を切り出した。各試料を150℃で30分間、常圧に放置し、放置後の試料の縦方向(MD方向)の熱収縮率を測定した。各試料のうち最も高い熱収縮率を示した試料の熱収縮率をMDMAX、最も低い熱収縮を示した試料の熱収縮率をMDMINとし、MDMAX−MDMINを算出し、縦方向の熱収縮率の最大値と最小値の差とした。各試料の熱収縮率の平均をMDAVEとした。なお、各試料の熱収縮率を測定するときの標点間隔は30cmとした。
【0024】
[実施例1]
溶融ポリエチレンテレフタレート([η]=0.63dl/g、Tg=78℃)をダイより押出し、常法により冷却ドラムで冷却して未延伸フィルムとし、次いでその両面に表1に示す組成からなる塗剤の濃度8重量%の水性塗液をロールコーターにて均一に塗布して塗布フィルムとした。この塗布フィルムを、引き続いて95℃で乾燥し、120℃で縦方向に図1に示す延伸区間(1)および(2)において3.2倍、巾方向に図1に示す延伸区間(1)および(2)において3.7倍で、縦方向と巾方向とを同時に延伸し、230℃で図1に示す熱固定区間で熱固定し、図1に示す冷却区間にて140〜190℃で製膜速度を1.4%遅くして縦方向に熱弛緩し(この数値を、縦弛緩率と称す。)、同時に巾方向のレール巾を1.7%狭くして、巾方向に1.7%弛緩してロール状に巻き取り、厚さ125μm、巾3.5m、長さ2000mの光学用フィルムのフィルムロールを得た。評価結果を表2に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
塗剤の各成分は次のとおりである。
ポリエステル1:
酸成分がテレフタル酸90モル%/イソフタル酸5モル%/5−ナトリウムスルホイソフタル酸5モル%、グリコール成分がエチレングリコール90モル%/ジエチレングリコール10モル%で構成されている(Tg=70℃、平均分子量15000)。なお、ポリエステル1は、特開平06−116487号公報の実施例1に記載の方法に準じて下記の通り製造した。すなわち、テレフタル酸ジメチル53部、イソフタル酸ジメチル3部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル5部、エチレングリコール36部、ジエチレングリコール3部を反応器に仕込み、これにテトラブトキシチタン0.05部を添加して窒素雰囲気下で温度を230℃にコントロールして加熱し、生成するメタノールを留去させてエステル交換反応を行った。次いで反応系の温度を徐々に255℃まで上昇させ系内を1mmHgの減圧にして重縮合反応を行い、ポリエステル1を得た。
【0027】
ポリエステル2:
酸成分が2,6−ナフタレンジカルボン酸75モル%/イソフタル酸20モル%/5−ナトリウムスルホイソフタル酸5モル%、グリコール成分がエチレングリコール90モル%/ジエチレングリコール10モル%で構成されている(Tg=80℃、平均分子量15000)。なお、ポリエステル2は下記の通り製造した。すなわち、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル51部、イソフタル酸ジメチル11部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル4部、エチレングリコール31部、ジエチレングリコール2部を反応器に仕込み、これにテトラブトキシチタン0.05部を添加して窒素雰囲気下で温度を230℃にコントロールして加熱し、生成するメタノールを留去させてエステル交換反応を行った。次いで攪拌器のモータートルクの高い重合釜で反応系の温度を徐々に255℃まで上昇させ系内を1mmHgの減圧にして重縮合反応を行い、固有粘度が0.56のポリエステル2を得た。このポリエステル25部をテトラヒドロフラン75部に溶解させ、得られた溶液に10000回転/分の高速攪拌下で水75部を滴下して乳白色の分散体を得、次いでこの分散体を20mmHgの減圧下で蒸留し、テトラヒドロフランを留去した。ポリエステル2の水分散体を得た。
【0028】
架橋剤:
メチルメタクリレート10モル%/2−イソプロペニル−2−オキサゾリン70モル%/ポリエチレンオキシド(n=10)メタクリレート5モル%/アクリルアミド15モル%で構成されている(Tg=100℃)。なお、架橋剤は、特開昭63−37167号公報の製造例1〜3に記載の方法に準じて下記の通り製造した。すなわち、四つ口フラスコに、イオン交換水302部を仕込んで窒素気流中で60℃まで昇温させ、次いで重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.5部、亜硫酸水素ナトリウム0.2部を添加し、さらに、メタクリル酸メチル7.8部、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン52.8部、ポリエチレンオキシド(n=10)メタクリル酸20.4部、アクリルアミド6.6部の混合物を3時間にわたり、液温が60〜70℃になるよう調整しながら滴下した。滴下終了後も同温度範囲に2時間保持しつつ、撹拌下に反応を継続させ、次いで冷却して固形分が25%の架橋剤の水分散体を得た。
【0029】
添加剤:
帯電防止剤(複合資材株式会社製 商品名エレカットL)
【0030】
【表2】

【0031】
[比較例1]
溶融ポリエチレンテレフタレート([η]=0.63dl/g、Tg=78℃)をダイより押出し、常法により冷却ドラムで冷却して未延伸フィルムとし、次いでその両面に表1に示す組成からなる塗剤の濃度8重量%の水性塗液をロールコーターで均一に塗布して塗布フィルムとした。この塗布フィルムを、引き続いて95℃で乾燥し、120℃で縦方向に図1に示す延伸区間(1)および(2)において3.2倍、巾方向に図1に示す延伸区間(1)および(2)において3.7倍で、縦方向と巾方向を同時に延伸し、230℃で図1に示す熱固定区間で熱固定し、図1に示す冷却区間にて140〜190℃で製膜速度を0.5%遅くして縦方向に熱弛緩し、同時に巾方向のレール巾を1.7%狭くして、1.7%巾方向に弛緩してロール状に巻き取り、厚さ125μm、巾3.5m、長さ2000mの光学用フィルムのフィルムロールを得た。評価結果を表2に示す。
【0032】
[比較例2]
溶融ポリエチレンテレフタレート([η]=0.63dl/g、Tg=78℃)をダイより押出し、常法により冷却ドラムで冷却して未延伸フィルムとし、次いでその両面に表1に示す組成からなる塗剤の濃度8重量%の水性塗液をロールコーターで均一に塗布して塗布フィルムとした。この塗布フィルムを、引き続いて95℃で乾燥し、120℃で縦方向に図1に示す延伸区間(1)および(2)において3.2倍、巾方向に図1に示す延伸区間(1)から(3)において3.7倍で縦方向と巾方向を同時に延伸し、230℃で図1に示す熱固定区間で熱固定し、図1に示す冷却区間にて140〜190℃で製膜速度を1.4%遅くして縦方向に熱弛緩し、同時に巾方向のレール巾を1.7%狭くして、1.7%巾方向に弛緩してロール状に巻き取り、厚さ125μm、巾3.5m、長さ2000mの光学用フィルムのフィルロールを得た。評価結果を表2に示す。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の光学用フィルムのフィルムロールは、光学用フィルムとして用いることができ、例えば液晶表示装置の光学部材の基材として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレートからなる厚み35〜250μmの二軸延伸フィルムである光学用フィルムのフィルムロールであって、フィルムロール上の配向角の最大値が30〜50°、フィルムロールの端から巾方向に40cmごとに測定点を設けたときの各測定点での150℃30分間常圧放置時の巾方向熱収縮率の最大値TDMAXと最小値TDMINとの差が0.1%以下かつ同条件での縦方向熱収縮率の最大値MDMAXと最小値MDMINとの差が0.1%以下であることを特徴とする、光学用フィルムのフィルムロール。
【請求項2】
光学用フィルムが、その少なくとも片面に厚み50〜100nmの塗布層を備える、請求項1記載のフィルムロール。

【図1】
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【公開番号】特開2010−253831(P2010−253831A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107768(P2009−107768)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】