説明

光学的情報記録再生方法及び装置

【課題】ユーザ領域を狭めることなく、再生信号のオフセット、振幅変動、および、再生信号の再生クロックのずれを示す誤差情報を得て、確度の高い多値記録の再生を行う。
【解決手段】光学的情報記録再生方法は、光スポットを用いて情報の記録再生を行う光学的情報媒体のトラック上に、仮想的に一定間隔のセルを設けて、そのセル毎にトラック方向の情報ピットの幅または情報ピットの面積を変え、再生信号の振幅を多段階にすることにより複数レベルの多値情報を記録及び/又は再生する。この光学的情報記録再生方法は、隣接するセルのレベルの組み合わせに対する再生値を学習によって求め、その再生値を基準値として記憶し、情報の再生に際して、再生クロックに従いサンプリングした再生信号のサンプル値と基準値との差から再生信号の誤差情報を検出し、その誤差情報に基づき再生信号及び/又は再生クロックの位相を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報ピットのレベルを3値以上の値を用いて記録或いは再生を行う光学的情報記録再生方法及び装置に係り、特に記録情報から再生信号と理想状態との誤差情報を検出する多値レベル記録再生方式における誤差情報検出方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光メモリ産業は拡大しつつあり、再生専用のCD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)から、金属薄膜や色素系記録材料を用いた追記型、更には光磁気材料や相変化材料を用いた書換え型まで開発されている。その応用も、民生からコンピュータの外部メモリへと拡大している。更に、記録容量の高密度化の研究開発が進められており、情報の記録再生に関わる光スポットを微小化する技術として、光源の波長は赤色(650nm)から、青紫色(405nm)になりつつある。また、対物レンズの開口数NA(Numerical Aperture)も、0.6や0.65から0.85へと高められようとしている。一方、同じ光スポットの大きさを用いて、より効率のよい多値記録再生技術も提案されている。
【0003】
例えば、本願発明者は、多値記録再生技術の方式として、次のような方法を提案している(特許文献1参照)。これによると、光学的情報記録媒体の情報トラック上に、情報ピットのトラック方向の幅と、その情報ピットの再生用光スポットに対するトラック方向のシフト量の組み合わせによって、多値情報を記録する。その多値記録した情報ピットを再生する際は、予め学習しておいた検出信号と光スポットから得られた検出信号との相関より多値情報を再生する。
【0004】
また、光ディスク分野の研究における国際学会であるISOM(International Symposium on Optical Memory)2003では、次のような発表がされている(非特許文献1参照)。これによると、青紫色の光源(405nm)と対物レンズの開口数NAが0.65の光学系を用いている。これにより、トラックピッチが0.46μmの光ディスクに対して、一つの情報ピットを記録する領域(以下、「セル」と記述する)のトラック方向の幅を0.26μmとし、8レベルの多値記録再生を行う。
【0005】
また、本出願人から、更に次のような提案がなされている(特許文献2参照)。これによると、青紫色の光源(405nm)と対物レンズの開口数NAが0.85の光学系を用い、光スポットを微小化して、ISOM2003で発表された多値方式に適応し、およそ30Gbit/inch程度の高密度化を行う。
【0006】
これによると、8レベルの情報ピットの選択は、例えば、図8に示すようにセルのトラック方向の幅を16等分し(16チャンネルビット)、それを利用して行う。即ち、レベル0は、何も情報ピットを記録しない。また、レベル1は2チャンネルビットの幅、レベル2は4チャンネルビットの幅、レベル3は6チャンネルビットの幅、レベル4は8チャンネルビットの幅とする。さらに、レベル5は10チャンネルビットの幅、レベル6は12チャンネルビットの幅、レベル7は14チャンネルビットの幅とする。
【0007】
図9は、光ディスク上のトラック20に対して、ランダムな情報ピット21を記録した時の模式図と、光スポット22の関係を示す。記憶容量を増やすためには、セルの大きさを小さくする必要があり、小さくすると図9に示すように光スポット22内に2〜3個のセルの情報ピット21が含まれることになる。つまり、再生の際に、隣接セルからの符号間干渉の影響を受け、再生信号が変動することが予想される。図において、矢印A方向が同様にトラック方向を示し、破線で区切られた領域が仮想的に設けられた、それぞれのセルである。
【0008】
次に、この方式による再生信号の様子を知るために、光学シミュレーションを行った結果を説明する。
【0009】
図10は、光学シミュレーションに用いたパラメータを示している。トラックのピッチは0.32μm、光スポットの大きさは0.405μm(波長405nm、対物レンズの開口数:NA0.85)、セルの大きさは0.2μmである。
【0010】
図11は、図10に示すパラメータを用いた光学シミュレーションにより、図8に示したそれぞれのレベルに対して、与えた情報ピットの形状を示している。ここで、レベル0は何も情報ピットを記録しないものとする。
【0011】
図12は、連続する3つのセルに8種類のレベルを順次組み合わせて与え(全ての組み合わせは8x8x8=512通り)、光スポットを初めのセル(前のセル)中心から3つ目のセル(後ろのセル)中心まで移動させたときの再生信号(反射光量)を計算した。図12の下図では、3つのセルのレベルの組み合わせ(0、1、6)から(7、1、6)の8通りを例に取り示した(3つのセル以外は、すべて0レベルとしている)。図中の3本の実線の位置は、それぞれのセル中央に光スポットがある場合の再生信号(セル中央値)を示している。これから分かることは、このパラメータにおいては、真中のセルのセル中央値はレベル「1」に対応するものであるが、左側のセルのレベルが「0」から「7」に変化することで、同じ値を取らず、幅を持つことである。これが符号間干渉の影響である。
【0012】
図13は、3つの連続するセルに記録するレベルの全ての組み合わせにおいて、真中のセルのレベルを横軸に取り、それぞれの再生信号の振幅の分布を示したものである(ここでは、縦軸は再生信号の振幅を相対的に示している)。図中のAからHの分布が、それぞれレベル0から7に対応している。図から分かるように、隣接するレベルの再生信号の分布の重なりが多くなり、このままでは固定の閾値を用いたレベルの識別は困難である。そこで、一般的には、再生信号を波形等化のような信号処理を行って再生信号の分布の分離度を高めようとする。
【0013】
例えば、図14に示すような、3タップの波形等化を計算する。ここで、Tは、一つのセル中央から、隣のセル中央に光スポットが移動する時間、また、aは等化係数で、ここでは、a=‐V1/(1+V1)、V1=0.237として計算した。ここで、V1は、振幅1の孤立波形に対する隣のセルにおける振幅値である。
【0014】
図15にその結果を示した。同図でも、同様に縦軸は再生信号の振幅を相対的に示している。図中のA’からH’は、それぞれレベル0から7の分布に対応している。図から分かるように、固定の閾値でそれぞれの分布が分離できる。
【0015】
図16は、図15で示した結果を、横軸をサンプル数(1〜512)としてプロットしなおしたものである。同図は、3つの連続するセルのレベルをx、y、zとし、その再生信号をS(x,y,z)とし、図17に示すプログラムを用いてプロットした。この図は、計算で求めたものであり、前後セルからの符号間干渉の影響と光スポット形状がガウシャンで、均一でないことから生じる非線形の影響が示されている。実際の録再系では、さらに、媒体の蓄熱による熱干渉の影響、媒体感度の個体差の影響などがこの学習テーブルの結果として得られる。
【0016】
一般的な多値記録の再生アルゴリズムを適応すると、まず、あらかじめ図16で求めたような学習テーブルを学習データから求めておく。
【0017】
次に、ランダムデータを再生する。このとき、ランダムデータの再生信号より、それぞれのセルの中央値を固定の閾値で判断し、レベルを仮判定する。固定の閾値の選び方は、例えば、同じレベルの値を持つ中央セルの学習テーブルの値を平均し(つまり、図15で説明すると、A’からH’のそれぞれの分布の値を平均する)、それを各レベルの基準値とし、隣り合う、レベルの基準値の中間の値を閾値とする。
【0018】
続いて、仮判定した前後セルの値に従って、学習テーブルから、中央セルの再生値に従った、8通り(0レベルから7レベル)の基準値を抜き出す。その8通りの基準値と中央セルの再生値とを比べ、再生値に一番近い基準値のレベルを再生レベルとして判定しなおす。例えば、仮判定の結果、前後セルのレベルがそれぞれ、3レベル、5レベルだったとする。この場合、学習テーブルから、前後セルと中央セルのレベルの組み合わせが、(3、0、5)、(3、1、5)、(3、2、5)、(3、3、5)、(3、4、5)、(3、5、5)、(3、6、5)、(3、7、5)のものの値を抜き出すことになる。
【0019】
一方、情報をサンプリングするための再生クロックは、一般には、記録情報中に所定間隔で挿入された所定パターンの再生により位相誤差情報を検出し、PLL(フェーズロックドループ)回路において生成される構成をとっている。
【0020】
図18に位相誤差検出用のパターン挿入例を示す。図中の(I)〜(Q)は、記録情報列を示す。(I)は、記録データ先頭に位置するPLL引き込み用パターンであり、これは多値記録の如何に関わらず採用する場合が多い。(J)は、前述した学習テーブルを得るための学習パターンである。(K)、(M)、(O)は、記録すべきユーザ情報であり、これはエラー訂正等の処理を施して生成したものである。(L)、(N)、(P)は、再生クロックの位相誤差検出用の記録パターンである。例えば、レベルスライスによる2値化処理によりエッジを抽出し、このエッジと再生クロックとの位相誤差情報を位相比較器により検出し、再生クロックのPLL処理に利用する。
【特許文献1】特開平5−128530号公報
【特許文献2】特開2006−236441号公報
【非特許文献1】ISOM2003(Write-once Disks for Multi-level Optical Recording:予稿集Fr−Po−04)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、多値信号の再生信号は、媒体の反射率ムラ等により大きな影響を受け、再生信号のオフセットや再生信号の振幅変動があると、再生信号を読み誤るという問題がある。それを解決するものとして、再生信号のオフセットおよび、振幅変動を読み取るための専用のマークを入れ、そのマークを読み取ることでオフセットおよび振幅変動を補正することもできるが、それでは、ユーザ領域が狭くなるという問題があった。
【0022】
また、再生信号の再生クロックの位相がずれてくると、同様に再生信号を読み誤るという問題があった。それを解決するものとして、位相誤差検出パターンを設け、位相誤差を検出する方法もあるが、同様にユーザ領域が狭くなるという問題があった。
【0023】
本発明の目的は、ユーザ領域を狭めることなく、再生信号のオフセット、振幅変動、および、再生信号の再生クロックのずれを示す誤差情報を得て、確度の高い多値記録の再生を行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的を達成するため、本発明に係る光学的情報記録再生方法は、光スポットを用いて情報の記録再生を行う光学的情報媒体のトラック上に、仮想的に一定間隔のセルを設けて、そのセル毎にトラック方向の情報ピットの幅または情報ピットの面積を変え、再生信号の振幅を多段階にすることにより複数レベルの多値情報を記録及び/又は再生する光学的情報記録再生方法において、隣接するセルのレベルの組み合わせに対する再生値を学習によって求め、その再生値を基準値として記憶し、情報の再生に際して、再生クロックに従いサンプリングした前記再生信号のサンプル値と前記基準値との差から前記再生信号の誤差情報を検出し、その誤差情報に基づき前記再生信号及び/又は前記再生クロックの位相を補正することを特徴とする。
【0025】
前記誤差情報は、前記再生信号のオフセットを示す情報であってもよい。この場合、前記基準値と前記サンプル値との差を一定の期間積算し、その積算値に従って前記再生信号のオフセットを判定し、そのオフセット量に基づいて前記再生信号のオフセットを補正してもよい。
【0026】
前記誤差情報は、前記再生信号の振幅変動を示す情報であってもよい。この場合、前記基準値と前記サンプル値との差を、前記再生信号の振幅が正の場合と負の場合に分けて一定の期間積算し、その両者の積算値に従って前記再生信号の振幅変動を判定し、その振幅変動量に基づいて前記再生信号の振幅変動を補正してもよい。
【0027】
前記誤差情報は、前記再生クロックの位相誤差を示す情報であってもよい。この場合、前記基準値と前記サンプル値との差を、前記再生信号の傾きが正の場合と負の場合に分けて一定の期間積算し、その両者の積算値に従って前記再生クロックの位相ずれを判定し、その位相ずれ量に基づいて前記再生クロックの位相を補正してもよい。
【0028】
本発明に係る光学的情報記録再生装置は、光スポットを用いて情報の記録再生を行う光学的情報媒体のトラック上に、仮想的に一定間隔のセルを設けて、そのセル毎にトラック方向の情報ピットの幅または情報ピットの面積を変え、再生信号の振幅を多段階にすることにより複数レベルの多値情報を記録及び/又は再生する光学的情報記録再生装置において、隣接するセルのレベルの組み合わせに対する再生値を学習によって求め、その再生値を基準値として記憶する記憶手段と、情報の再生に際して、再生クロックに従いサンプリングした前記再生信号のサンプル値と前記基準値との差から前記再生信号の誤差情報を検出し、その誤差情報に基づき前記再生信号及び/又は前記再生クロックの位相を補正する補正手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、ユーザ領域を狭めることなく、再生信号のオフセット、振幅変動、および再生クロックのずれを示す誤差情報を得ることができ、確度の高い多値記録の再生を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
次に、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0031】
図1は、本実施形態による光学的情報記録再生装置の全体構成を示すブロック図である。同図に示す光学的情報記録再生装置1は、制御回路2、スピンドルモータ3、光ディスク4、光ヘッド5、光ヘッド制御回路6、情報記録回路7、情報再生回路8、スピンドルモータコントローラ9、及びインターフェースコントローラ10を有する。
【0032】
制御回路2は、外部のコンピュータ等の情報処理装置との情報の送受信を制御し、光ディスク4に対する情報の記録や再生を情報記録回路7と情報再生回路8を用いて制御し、また、その他の稼動部を制御する。
【0033】
スピンドルモータ3は、スピンドルモータコントローラ9により制御され、光ディスク4を回転駆動する。
【0034】
光ディスク4は、不図示の機構により光学的情報記録再生装置1に対して挿入または排出される光学的情報記録媒体である。光ディスク4は、トラックピッチが0.32μmのものとする。この場合、セル長を200nmとすると、およそ30Gbit/inch程度、セル長を160nmとすると、およそ36Gbit/inch程度の高密度化が狙える。
【0035】
光ヘッド5は、光ディスク4に光学的に情報を記録し、再生する。光ヘッド5に関しては、例えば、光源の波長λとして405nm、対物レンズの開口数NAとして0.85とすると、光スポットの大きさの値は、およそ405nmを得ることができる。
【0036】
光ヘッド制御回路6は、制御回路2による制御のもとで、光ヘッド5による光スポットの位置を制御するものであり、オートトラッキング制御、シーク動作の制御、オートフォーカシング制御を行う。
【0037】
情報記録回路7は、制御回路2による制御のもとで、光ヘッド5を介して光ディスク4への多値情報の記録を行う。
【0038】
情報再生回路8は、制御回路2による制御のもとで、光ヘッド5を介して光ディスク4からの多値情報の再生を行う。情報再生回路8は、後述するように本発明の記憶手段及び補正手段を搭載したものである。
【0039】
多値情報の記録は、従来例の図8等で示したものと同様に行う。即ち、光学的情報媒体である光ディスク4上のトラックに、仮想的に一定間隔のセルを設けて、そのセル毎にトラック方向の情報ピットの幅、または、情報ピットの面積を変え、再生信号の振幅を多段階にすることによる複数レベルの多値情報が得られるように行う。
【0040】
なお、光ディスク4の記録消去可能な記録材料としては、相変化材料以外にも光磁気材料が利用できる。この場合、上述した光学的情報記録再生装置1で光スポット以外に図示しない磁気ヘッドからの磁界との協調作業により、情報ピットの形状を変化させ、複数の再生レベルの情報ピットを形成する。
【0041】
次に、本実施形態の光学的情報記録再生装置1によりサンプル値と基準値の誤差情報を検出する場合を説明する。
【0042】
図2は、記録情報列の一例を示す。図中、(R)は、記録データ先頭に位置するPLL引き込み用パターンであり、これは多値記録の如何に関わらず採用する場合が多い。(S)は、図15で説明した、学習テーブルを得るための学習パターンである。(T)は、記録すべきユーザ情報であり、これはエラー訂正用のコードなどを付加して生成したものである。このように、本実施形態では、図17の従来例で示した位相誤差検出パターンを用いていない。ただし、この位相誤差パターンを入れたものでも、本発明は適応できる。
【0043】
まず、記録開始に当たり、PLLの引き込みに使用するパターン(R)を生成する。ここで、PLLの引き込みに使用するパターン(R)に関しては、従来行われているような、2値化により周波数及び位相誤差情報が得られ、PLLが掛けられるパターンが望ましい。例えば、多値の記録情報列とは関係なく、セル全体がマーク、或いは、セル内にマークが存在しないパターンの繰り返しでもよい。さらには、より高いSN比の再生信号を得るために、2つのセルを全てマーク、非マークの連続といったパターンでもよく、またさらにこれら組み合わせからなるパターンでもよい。もちろん、0レベルと7レベルの繰り返しであってもよい。
【0044】
次に、8レベルの多値情報列の学習パターン(S)を生成し、PLLの引き込みパターンに続き、記録データを付加する。この学習パターンは、中心セルと前後のセルの組み合わせ8x8x8の512通り全てを記録するようにしてもよいし、また、あらかじめ計算から得られる学習テーブルを実際の記録再生系にあわせるために必要な数のデータであってもよい。
【0045】
最後に、送られてきた記録情報を、3ビットごとに8つのレベルに変換し、(ここで、変調やエラー訂正符号の付加等の処理を行う。)ユーザ情報(T)を生成し、記録情報列として付加する。
【0046】
以上のように生成されて記録情報列を受け、各多値レベルに対応した記録パルス列を用いて、光学的情報媒体である光ディスク4上の目標トラックに光ヘッド5を用いて多値情報を記録する。
【0047】
なお、ここでは、アドレス情報等の制御情報の記録については説明しなかったが、別に制御領域を設けて記録しても良いし、情報記録トラックの案内溝をウォブルさせることにより形成してもよい。
【0048】
次に、このように記録された多値情報を再生する手順を説明する。
【0049】
まず、光学的情報記録再生装置1は、情報の再生の命令を受けると、再生動作を開始する。これにより、前述したようにウォブル情報等からアドレス情報を再生し、光ディスク4の目標トラックをサーチする。そして、光ヘッド5を用いて情報記録単位の先頭にあるPLL引き込み領域(R)の再生を開始し、再生信号に同期した再生クロックを生成する。
【0050】
次に、再生信号に同期した再生クロックを用い、学習パターンを再生し、各記録パターンに対する再生信号レベルをサンプリングし、学習テーブルに格納する。なお、このときの再生クロックはPLL引き込みパターンにより、再生信号に同期した状態を維持しうるために、特に再生クロック位相制御を行う必要はない。つまり、PLL引き込みパターン再生後、位相誤差情報を“ゼロ”に設定し、PLL状態を保持することで十分な位相精度が得られる。
【0051】
次に、上記学習結果を基づき、再生信号から記録情報の再生を開始する。
【0052】
図3は、理想的な再生信号を示している。破線の位置がセルの中央に相当し、この位置で再生信号がサンプリングされる。実線の波形と破線の交わった値がサンプル値として得られる。黒丸は学習テーブル上の基準値である。また、ここでの縦軸は理想的な信号の最大振幅の中心値を0とした。以下の図4から図6の縦軸0の位置もこれと同じとする。
【0053】
図3の理想的な状態とは、つまり、再生信号のオフセット、振幅変動、および、再生クロックの位相ずれがない状態のことを言い、サンプル値と学習テーブルに格納されている基準値とは一致し、その差は0となる。
【0054】
図4において、実線の再生信号は理想的な再生信号より、正の方向にずれた場合を示している。つまり、正の側にオフセットが生じた場合である。振幅変動、再生クロックの位相誤差は生じていないものとする。図からも明らかなように、サンプル値は全て、基準値よりも正側にずれて得られる。つまり、サンプル値から基準値を引いた値は、全て正となる。逆に、破線の再生信号は、負の側にオフセットが生じた場合である。この場合は、逆にサンプル値から基準値を引いた値は全て負になることは容易にわかる。
【0055】
図5において、実線の再生信号は理想的な再生信号より、振幅が大きくなった場合を示している。オフセットと再生クロックの位相誤差は生じていないものとする。この場合は、縦軸0よりも大きな、4レベルから7レベルの、サンプル値から基準値を引いた値は全て正になるのに対し、縦軸0よりも小さな0レベルから3レベルのサンプル値から基準値を引いた値は全て負になる。逆に、破線の再生信号は、振幅が小さくなった場合である。この場合は、縦軸0よりも大きな、4レベルから7レベルのサンプル値から基準値を引いた値は全て負になるのに対し、縦軸0よりも小さな0レベルから3レベルのサンプル値から基準値を引いた値は全て正になる。
【0056】
さらに、図6において、実線の再生信号は再生クロックが正側にずれた場合を示している。再生信号のオフセット、振幅変動は生じていないものとする。この場合、再生信号の傾きが正だと、サンプル値から基準値を引いた値は正になり、再生信号の傾きが負だと、サンプル値から基準値を引いた値は負になる。逆に、破線の再生信号は、再生クロックが負側にずれた場合である。この場合は、再生信号の傾きが正だと、サンプル値から基準値を引いた値は負になり、再生信号の傾きが負だと、サンプル値から基準値を引いた値は正になる。
【0057】
以上、図4から図6に示したように、サンプル値から基準値を引いた値を、場合分けして、予め決めた一定期間(例えば、数セルから数十セルの期間)モニターし、積算する。こうすることで、再生信号のオフセットの変動、振幅変動、および、再生クロックのずれの誤差信号を個別に得ることができる。
【0058】
次に、図7のブロック図を用いて、具体的な実施形態を説明する。図7は、図1の光学的情報記録再生装置1の情報再生回路8の一実施例である。
【0059】
図7に示す情報再生回路8は、PLL制御回路12、再生信号サンプリング回路13、データ再生回路14、学習データ記憶部15、演算回路16、誤差信号記憶部17、及び誤差信号判定回路18を有する。このうち、学習データ記憶部15は、本発明の記憶手段の要部を構成し、演算回路16、誤差信号記憶部17、及び誤差信号判定回路18は、本発明の補正手段の要部を構成している。
【0060】
図7において、光ヘッド5により、読み取られた再生信号11は、PLL制御回路12と再生信号サンプリング回路13に入る。PLLの引き込みパターン(R)を読み込んでいる間に再生クロックの周波数と、位相をロックすると、再生クロックを再生信号サンプリング回路13に供給する。
【0061】
続いて、再生信号サンプリング回路13は、学習パターン(S)が入力してくると、PLL制御回路12から供給された再生クロックにより、学習パターンデータをサンプリングして、データ再生回路14に送る。データ再生回路14では、波形等化等の処理を行い、図16で示したような、3連続セルのレベルの組み合わせによる、符号間干渉の影響力を示したものとして、学習データを学習データ記憶部15に格納する。
【0062】
続いて、ユーザ情報(T)の再生が始まると、同様に、再生信号サンプリング回路13において、PLL制御回路12から供給される再生クロックを用いて、ユーザ情報をサンプリングし、データ再生回路14に送る。データ再生回路14では、学習データ記憶部15のデータに基づき、ユーザ情報の再生を行い、その後、符号の復号、エラー訂正等の処理を行った後、再生された再生データ19を制御回路2に送る。
【0063】
ユーザ情報の再生の際、決定された再生データレベルの値は、演算回路16に送られ、そこで学習データ記憶部15に格納されている基準値との差を計算する。計算された結果は、誤差信号記憶部17に送られる。誤差信号記憶部17では、図4から図6で説明した如く、場合分けして、計算された結果を積算する。例えば、20セルの計算結果を一時蓄えておき、その積算結果を保持するようにしておく。もちろん、一時蓄えておくセル数は、装置により、適切な数にする。
【0064】
積算されている値は、誤差信号判定回路18に送られ、そこで再生信号のオフセット量、再生信号の振幅変動量、再生クロックのずれ量をそれぞれ求める。
【0065】
即ち、誤差信号判定回路18は、再生信号のオフセットの変動を判定しそのオフセット量(補正値)を求めるため、サンプル値から基準値を引いた全ての値を一定期間積算する。その結果、積算した値が正の場合は、オフセットが正側に生じていることが分かり、その大きさは積算した値に比例したものとなる。逆に、積算した値が負の場合は、オフセットが負側に生じていることが分かり、その大きさは積算した値に比例したものとなる。
【0066】
また、誤差信号判定回路18は、再生信号の振幅変動を判定しその振幅変動量(補正値)を求めるため、サンプル値から基準値を引いた値のうち、基準値が正の場合の値を一定期間積算したものと、基準値が負の場合の値を一定期間積算したものとを用いる。その両者の積算値から、正の場合の積算値が正で、負の場合の積算値が負の場合は、振幅変動が正の側に生じていることが分かり、その大きさは積算した値に比例したものとなる。逆に、正の場合の積算値が負で、負の場合の積算値が正の場合は、振幅変動が負の側に生じていることが分かり、その大きさは積算した値に比例したものとなる。
【0067】
さらに、誤差信号判定回路18は、再生クロックのずれを判定しそのずれ量(補正値)を求めるため、サンプル値から基準値を引いた値のうち、再生信号の傾きが正の場合の値を一定期間積算したものと、その傾きが負の場合の値を一定期間積算したものを用いる。その両者の積算値から、再生信号の傾きが正の場合の積算値が正、その傾きが負の場合の積算値が負の場合、再生クロックのずれが正側に生じていることが分かり、そのずれ量は、積算した値に比例したものとなる。逆に、再生信号の傾きが正の場合の積算値が負、その傾きが負の場合の積算値が正の場合、再生クロックのずれが負側に生じていることが分かり、そのずれ量は、積算した値に比例したものとなる。特に、この再生クロックのずれをモニターする場合、傾きの大きさを予め決めた大きさ以上の値のみのを採用して積算するようにしてもよい。
【0068】
誤差信号判定回路18で求めた補正値のうち、再生クロックのずれ量に関する補正値は、PLL制御回路12に送られる。これにより、再生クロックの位相ずれが補正される。補正後の値は、再生信号サンプリング回路13に送られる。こうすることで、順次、再生データに従って再生クロックの位相ずれを補正しながら、再生を進めることができる。
【0069】
また、再生信号のオフセット量と振幅変動量に関する補正値は、再生信号サンプリング回路13に送られる。これにより、サンプリングした値のオフセットと振幅が補正される。補正後の値は、データ再生回路14に送られる。こうすることで、再生信号のオフセット変動と振幅変動を補正しながら、再生を進めることができる。
【0070】
以上説明したように、本実施形態によれば、サンプル値と基準値の差から、再生信号のオフセットの変動、振幅変動、および、再生クロックのずれを補正することで、再生確度を向上することができる。
【0071】
なお、代表的に例示した上記実施形態の光学的情報記録再生装置1及びその情報再生回路8は、図1及び図7に示すブロック図の構成に限定されるものではなく、本発明の各手段の機能を実現可能なものであれば、いずれのものでも適用可能である。例えば、各ブロックの機能毎に回路を独立して構成したものでも、複数の機能を1つの回路にまとめて一体的に構成したものでも、いずれのものであってもよい。また、各機能の少なくとも一部は、プログラムを用いたコンピュータ処理により実現するものであってもよい。この場合のプログラムは、本発明の権利範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、情報ピットのレベルを3値以上の値を用いて記録或いは再生を行う光学的情報記録再生方法及び装置の用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の一実施形態に係る光学的情報記録再生装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る光学的情報記録再生装置による学習方法によって得られた学習テーブルを示す図である。
【図3】理想的な再生信号を説明する図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る光学的情報記録再生装置によるオフセットが生じた場合の誤差信号を得る方式を説明する図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る光学的情報記録再生装置による振幅変動が生じた場合の誤差信号を得る方式を説明する図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る光学的情報記録再生装置による再生クロックのずれが生じた場合の誤差信号を得る方式を説明する図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る光学的情報記録再生装置で用いる情報再生回路の内部構成を示すブロック図である。
【図8】多値情報ピットのレベルの違いによるトラック方向の幅を説明する図である。
【図9】トラックに対してランダムな情報ピットを記録した時の模式図と光スポットの関係を示す図である。
【図10】光学シミュレーションのパラメータを説明する図である。
【図11】光学シミュレーションで与えた情報ピットの形状を説明する図である。
【図12】光学シミュレーションの計算結果で、連続する3つのセルに書かれた情報ピットの組合せに対する再生信号を説明する図である。
【図13】セル中央値の振幅分布を示す図である。
【図14】3タップの波形等化を説明する図である。
【図15】波形等化後のセル中央値の振幅分布を示す図である。
【図16】計算より求めた学習データを示す図である。
【図17】図16で用いたプログラムを示す図である。
【図18】従来のデータ列を説明する図である。
【符号の説明】
【0074】
1 光学的情報記録再生装置
2 制御回路
3 スピンドルモータ
4 光ディスク
5 光ヘッド
6 光ヘッド制御回路
7 情報記録回路
8 情報再生回路
9 スピンドルモータコントローラ
10 インターフェースコントローラ
12 PLL制御回路
13 再生信号サンプリング回路
14 データ再生回路
15 学習データ記憶部
16 演算回路
17 誤差信号記憶部
18 誤差信号判定回路
20 トラック、
21 情報ピット
22 光スポット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光スポットを用いて情報の記録再生を行う光学的情報媒体のトラック上に、仮想的に一定間隔のセルを設けて、そのセル毎にトラック方向の情報ピットの幅または情報ピットの面積を変え、再生信号の振幅を多段階にすることにより複数レベルの多値情報を記録及び/又は再生する光学的情報記録再生方法において、
隣接するセルのレベルの組み合わせに対する再生値を学習によって求め、その再生値を基準値として記憶し、
情報の再生に際して、再生クロックに従いサンプリングした前記再生信号のサンプル値と前記基準値との差から前記再生信号の誤差情報を検出し、その誤差情報に基づき前記再生信号及び/又は前記再生クロックの位相を補正することを特徴とする光学的情報記録再生方法。
【請求項2】
前記誤差情報は、前記再生信号のオフセットを示す情報であることを特徴とする請求項1記載の光学的情報記録再生方法。
【請求項3】
前記誤差情報は、前記再生信号の振幅変動を示す情報であることを特徴とする請求項1記載の光学的情報記録再生方法。
【請求項4】
前記誤差情報は、前記再生クロックの位相誤差を示す情報であることを特徴とする請求項1記載の光学的情報記録再生方法。
【請求項5】
前記基準値と前記サンプル値との差を一定の期間積算し、その積算値に従って前記再生信号のオフセットを判定し、そのオフセット量に基づいて前記再生信号のオフセットを補正することを特徴とする請求項2記載の光学的情報記録再生方法。
【請求項6】
前記基準値と前記サンプル値との差を、前記再生信号の振幅が正の場合と負の場合に分けて一定の期間積算し、その両者の積算値に従って前記再生信号の振幅変動を判定し、その振幅変動量に基づいて前記再生信号の振幅変動を補正することを特徴とする請求項3記載の光学的情報記録再生方法。
【請求項7】
前記基準値と前記サンプル値との差を、前記再生信号の傾きが正の場合と負の場合に分けて一定の期間積算し、その両者の積算値に従って前記再生クロックの位相ずれを判定し、その位相ずれ量に基づいて前記再生クロックの位相を補正することを特徴とする請求項4記載の光学的情報記録再生方法。
【請求項8】
光スポットを用いて情報の記録再生を行う光学的情報媒体のトラック上に、仮想的に一定間隔のセルを設けて、そのセル毎にトラック方向の情報ピットの幅または情報ピットの面積を変え、再生信号の振幅を多段階にすることにより複数レベルの多値情報を記録及び/又は再生する光学的情報記録再生装置において、
隣接するセルのレベルの組み合わせに対する再生値を学習によって求め、その再生値を基準値として記憶する記憶手段と、
情報の再生に際して、再生クロックに従いサンプリングした前記再生信号のサンプル値と前記基準値との差から前記再生信号の誤差情報を検出し、その誤差情報に基づき前記再生信号及び/又は前記再生クロックの位相を補正する補正手段とを有することを特徴とする光学的情報記録再生装置。
【請求項9】
前記誤差情報は、前記再生信号のオフセットを示す情報であることを特徴とする請求項8記載の光学的情報記録再生装置。
【請求項10】
前記誤差情報は、前記再生信号の振幅変動を示す情報であることを特徴とする請求項8記載の光学的情報記録再生装置。
【請求項11】
前記誤差情報は、前記再生クロックの位相誤差を示す情報であることを特徴とする請求項8記載の光学的情報記録再生装置。
【請求項12】
前記補正手段は、前記基準値と前記サンプル値との差を一定の期間積算し、その積算値に従って前記再生信号のオフセットを判定し、そのオフセット量に基づいて前記再生信号のオフセットを補正することを特徴とする請求項9記載の光学的情報記録再生装置。
【請求項13】
前記補正手段は、前記基準値と前記サンプル値との差を、前記再生信号の振幅が正の場合と負の場合に分けて一定の期間積算し、その両者の積算値に従って前記再生信号の振幅変動を判定し、その振幅変動量に基づいて前記再生信号の振幅変動を補正することを特徴とする請求項10記載の光学的情報記録再生装置。
【請求項14】
前記補正手段は、前記基準値と前記サンプル値との差を、前記再生信号の傾きが正の場合と負の場合に分けて一定の期間積算し、その両者の積算値に従って前記再生クロックの位相ずれ量を判定し、その位相ずれ量に基づいて前記再生クロックの位相を補正することを特徴とする請求項11記載の光学的情報記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2008−257801(P2008−257801A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−99464(P2007−99464)
【出願日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】