説明

光学素子の製造方法及び光ピックアップ装置用の光学素子

【課題】反射防止膜の形成後においても、その反射防止膜の樹脂成形品への密着性を維持し、光利用効率が低下するのを抑制する。
【解決手段】NA≧0.8の対物レンズOBJの製造方法が開示されている。この製造方法は、シクロオレフィン樹脂を成形して光学面に光路差付与構造を有する成形品を形成する工程と、前記成形品を、その樹脂のガラス転移温度(JIS K7121に基づく示差走査熱量分析法により昇温速度10℃/minで測定された温度)より10℃以上低い温度でアニールする工程と、アニール後の前記成形品の前記光路差付与構造が設けられた光学面に反射防止膜を形成する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学素子の製造方法及び光ピックアップ装置用の光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
CDやDVDにおける光ピックアップ装置用の光学素子では、安価に作製できる等の点で、無機ガラスよりもプラスチックを材料として適用することが好ましい。そのようなプラスチック材料としては、低吸湿,高透過率,低複屈折などの特性に優れたシクロオレフィン樹脂が多用されている。
【0003】
シクロオレフィン樹脂から光学素子を製造する場合、その樹脂を射出成形するのが通常である。この様子を図示しながら説明すると、図7に示す通り、シクロオレフィン樹脂を一定の金型100に射出する。このとき、その樹脂は、ゲート102を通過してキャビティ104に流入し充填され、その後金型100を冷却して硬化される。ここで、キャビティ104に流入した樹脂は、キャビティ104の内壁106に沿いながら流動してキャビティ104中に充填され、そのままの状態で硬化されるから、硬化後の光学素子内部においては複屈折が発生するとともに応力(樹脂内部に生ずる抵抗力)がかかっている。そのため、使用環境下で応力が解消するとともに複屈折が変化することで、収差性能が変動する場合があった。そのような問題に対しては、硬化後の成形品に対し熱処理又は湿熱処理(アニール処理ともいう)を施すことにより、その応力を緩和することで光学性能の安定性を向上することができ、収差性能を向上させることができることが知られている(特許文献1参照)。
【0004】
一方、近年では、光情報記録媒体の大容量化のため、光による情報の記録や再生を高密度記録状態で実施できるよう、光ビームスポットの小径化、すなわちビームスポットを十分に絞り込む試みがなされている。ビームスポット径は使用光源の波長に比例し、光学素子の開口数(NA:Numerical Aperture)に反比例するため、光源波長の短波長化、光学素子の高NA化が進んでおり、従来用いられていた像側NA0.45の対物レンズを用い、波長780nm前後の光源で記録再生が行われるCDや、像側NA0.6の対物レンズを用い、波長650nm前後の光源で記録再生が行われるDVDに加え、最近では、像側側NAが0.8以上の光学系を用い、波長350〜450nmの光束を光情報記録媒体(Blu-ray Discと呼ばれる)に集光させる光ピックアップ装置用の光学素子が開発されている。
当該光学素子に対しては、波長405nm付近のレーザが使用されることが多いため、当然に耐光性が要求され、耐光性が改良されたシクロオレフィン樹脂の使用も試みられている(特許文献2参照)。
【0005】
ここで、最近の光ピックアップ装置では、1種類の光情報記録媒体の記録及び/または再生が行えるだけでは十分ではなく、従来のCD(波長780nm前後、NA0.45)やDVD(波長650nm前後、NA0.6)といった光情報記録媒体へも対応することが求められており、BD・CD・DVDのいずれに対しても情報の記録/再生をおこなうことができる、いわゆる互換性光ピックアップ装置用の光学素子も開発されている。
【0006】
この場合に、BDとCD・DVDとでは、その仕様(光源波長,開口数,記録媒体の透明保護基板厚さなど)が互いに異なるため、単一の対物レンズを用いて、3種類の光ディスクに対して適切に情報を記録/再生するためには、何らかの工夫が必要になる。例えば、特許文献3の技術では、対物レンズの光学面に各使用波長に光路差を付与するための微細構造を設けることでCD・DVDにも適した収差特性を得ることがおこなわれている。また、BD用光ピックアップ装置のような非常に高い光学性能を要求される光学装置においては、光学素子としてプラスチックレンズが用いられた場合においては、温度変化によりプラスチックレンズの屈折率が変化することに起因する収差の発生も無視できない場合があり、このような温度変化による収差変化を補正するために、光学素子上に光路差を付与する構造が設けられる場合もある。
【0007】
さらに、光源から出射されるレーザ光を効率よく利用するために、光ピックアップ装置の光学素子には、透過率を高める工夫がなされている。例えば、特許文献4の技術では、対物レンズなどの光学素子の光学面には反射防止膜が形成され、光の干渉を利用して光学面から反射する光の量を抑制するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−275393号公報
【特許文献2】特開2004−144954号公報
【特許文献3】特開2009−9674号公報
【特許文献4】特開2002−55207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、BDのような高密度光情報記録媒体用の光ピックアップ装置や、BDを含む複数の異なる光情報記録媒体に対応した光ピックアップ装置においては、透過率を高めるとともに各記録媒体への集光性能を付与するために、収差補正の為に各波長の光に位相差を付与する微細構造が設けられ、更に、微細構造上に反射防止膜が設けられる必要がある。
更に、BDのような高密度光情報記録媒体用の光ピックアップ装置においては、従来に比べて更に高い精度が求められる為、特許文献1の技術のように、樹脂硬化後の成形品に対し熱処理又は湿熱処理を施すことにより、応力を緩和して収差性能を向上させることが望まれていた。また、光学素子上に反射防止膜を設ける場合は、このような熱処理又は湿熱処理を施すことにより、反射防止膜を光学素子になじませることができ、接着性を向上できると考えられており、通常は、反射防止膜形成後の出荷前に熱処理が施されていた。
【0010】
しかしながら、従来技術に従って微細構造を有する光学素子を射出成形し、更に当該微細構造を有する光学面に反射防止膜を形成した光学素子に対して、従来のように熱処理又は湿熱処理を施して、BD等の高密度光情報記録媒体の記録再生に用いられる光学素子を製造した場合には、当該光学素子を使用した光ピックアップ装置を長時間使用した場合に、光利用効率が低下する、という新たな課題が発生した。また、このような問題は、反射防止膜を形成した後に従来の熱処理又は湿熱処理を施しても解消されなかった。
【0011】
本発明者らが検討した結果、このような光利用効率の低下は、微細構造の変形により引き起こされていることが判明した。この微細形状の変形について更に検討した結果、このような現象は以下の理由により発生しているものと推測された。
【0012】
まず、樹脂を射出成形して微細構造を有する光学素子を形成した場合は、上述のように応力が残留することとなる。特に微細構造が表面に設けられた場合は、表面付近に応力のバラつきが発生する。
その微細構造上に無機化合物からなる反射防止膜が形成されることとなる。その場合に従来光ピックアップ装置で用いられていた光源よりもエネルギーの高い短波長のレーザ光が照射された場合、樹脂の応力緩和が進行することとなる。しかしながら、微細構造の表面は反射防止膜により固定されているため、内部応力の緩和による応力が反射防止膜との界面である微細構造付近に集中し、微細構造の変形を引き起こすものと考えられる。
従来のCD・DVDに対応可能な光学素子においても、複数の記録媒体に対応するために、回折構造等の微細構造が設けられる場合はあり、更に微細構造上に反射防止膜が設けられる場合はあったが、上述の問題は認識されていなかった。その理由としては、CDやDVDに対応可能な光ピックアップ装置は、対物レンズの像側NAが0.45や0.6程度であり、BDのような高密度記録媒体と比べて求められる精度が低いため、微細構造に多少の変形が発生しても実質的な性能に影響が殆どなかったことが挙げられる。また、CDやDVDにおいては、レーザ光の波長に関しても、波長780nm前後のレーザ光と波長650nm前後のレーザ光とが利用されているから、回折構造を付与して反射防止膜を形成しても、レーザ光のエネルギーによる応力緩和がさほど発生しなかったことが考えられる。そのため、CDやDVDに対応可能な光ピックアップ装置に用いられる光学素子の応力緩和のための熱処理又は湿熱処理処理は、反射防止膜の形成の前後のいずれでおこなっても、所期の目的は達成されていた。
【0013】
これに対し、BDに対応可能な光学素子では、レーザ光の波長がCDやDVDと比較して短波長となったことで、光のエネルギーが強くなり、樹脂に影響を与え易くなるとともに、NAも0.8以上となり高い精度が求められる為、微細な形状の変化に対しても、性能劣化が顕著となってしまうため、上述の問題が発生したものと考えられる。
【0014】
したがって、本発明の主な目的は、微細構造を設けた光学素子に反射防止膜を設けた場合においても、その反射防止膜の樹脂成形品への密着性を維持し、光利用効率が低下するのを抑制することができる光学素子の製造方法及び光ピックアップ装置用の光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
NA≧0.8の光学素子の製造方法において、
シクロオレフィン樹脂を成形して光学面に光路差付与構造を有する成形品を形成する工程と、
前記成形品を、その樹脂のガラス転移温度(JIS K7121に基づく示差走査熱量分析法により昇温速度10℃/minで測定された温度)より10℃以上低い温度でアニールする工程と、
アニール後の前記成形品の前記光路差付与構造が設けられた光学面に反射防止膜を形成する工程と、
を備えることを特徴とする光学素子の製造方法が提供される。
【0016】
本発明の他の態様によれば、
波長350〜450nmの光を受ける光学素子の製造方法において、
シクロオレフィン樹脂を成形して光学面に光路差付与構造を有する成形品を形成する工程と、
前記成形品を、その樹脂のガラス転移温度(JIS K7121に基づく示差走査熱量分析法により昇温速度10℃/minで測定された温度)より10℃以上低い温度でアニールする工程と、
アニール後の前記成形品の前記光路差付与構造が設けられた光学面に反射防止膜を形成する工程と、
を備えることを特徴とする光学素子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、反射防止膜を形成する前に、成形品を一定の温度範囲でアニールするから、反射防止膜の形成後においても、その反射防止膜の樹脂成形品への密着性を維持し、光利用効率が低下するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の好ましい実施形態にかかる光ピックアップ装置の概略構成を示す図面である。
【図2】本発明の好ましい実施形態にかかる対物レンズの概略構成を示す平面図である。
【図3】図2の対物レンズの一部(上部)の断面図である。
【図4】図2の対物レンズに形成される光路差付与構造の一例を示す一部拡大断面図である。
【図5】本発明の好ましい実施例にかかる対物レンズの光路差付与構造を模式的に示す断面図である。
【図6】図5の対物レンズのBD,DVD,CDに関する縦球面収差図である。
【図7】射出成形工程における金型中の樹脂の状態を概略的に示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0020】
図1は、異なる光ディスクであるBDとDVD・CDとに対して適切に情報の記録及び/又は再生を行うことができる本実施の形態の光ピックアップ装置PU1の構成を概略的に示す図である。
かかる光ピックアップ装置PU1は、光情報記録再生装置に搭載できる。
ここでは、第1光ディスクをBDとし、第2光ディスクをDVDとし、第3光ディスクをCDとする。
なお、本発明は、本実施の形態に限られるものではない。
【0021】
光ピックアップ装置PU1は、対物レンズOBJ、絞りST、コリメートレンズCL、偏光ダイクロイックプリズムPPS、BDに対して情報の記録/再生を行う場合に発光され波長405nmのレーザ光束(第一光束)を射出する第一半導体レーザLD1(第一光源)、BDの情報記録面RL1からの反射光束を受光する第一の受光素子PD1、レーザモジュールLM等を有する。
【0022】
レーザモジュールLMは、DVDに対して情報の記録/再生を行う場合に発光され波長658nmのレーザ光束(第二光束)を射出する第二半導体レーザEP1(第二光源)と、CDに対して情報の記録/再生を行う場合に発光され785nmのレーザ光束(第三光束)を射出する第三半導体レーザEP2(第三光源)と、DVDの情報記録面RL2からの反射光束を受光する第二の受光素子DS1と、CDの情報記録面RL3からの反射光束を受光する第三の受光素子DS2と、プリズムPSと、を有している。
【0023】
対物レンズOBJは光学素子の一例であり、図2及び図3に示されるように、対物レンズOBJには、光源側の非球面光学面に光軸を含む中央領域CNと、その周囲に配置された周辺領域MDと、更にその周囲に配置された最周辺領域OTとが、光軸を中心とする同心円状に形成されている。
なお、図2及び図3の中央領域、周辺領域、最周辺領域の面積などの比率は正確には表されていない。
【0024】
対物レンズOBJの中央領域CNには第一光路差付与構造が設けられ、周辺領域MDには第二光路差付与構造が設けられている。最周辺領域OTは屈折面であってもよいし、最周辺領域OTに第三光路差付与構造が設けられていてもよい。中央領域CN、周辺領域MD、最周辺領域OTはそれぞれ隣接していることが好ましいが、間に僅かに隙間があっても良い。
【0025】
第一光路差付与構造は、対物レンズOBJの中央領域CNの面積の70%以上の領域に設けられていることが好ましく、90%以上がより好ましい。より好ましくは、第一光路差付与構造が、中央領域CNの全面に設けられていることである。
第二光路差付与構造は、対物レンズOBJの周辺領域MDの面積の70%以上の領域に設けられていることが好ましく、90%以上がより好ましい。より好ましくは、第二光路差付与構造が、周辺領域の全面に設けられていることである。
第三光路差付与構造は、対物レンズOBJの最周辺領域OTの面積の70%以上の領域に設けられていることが好ましく、90%以上がより好ましい。より好ましくは、第三光路差付与構造が、最周辺領域OTの全面に設けられていることである。
【0026】
なお、本明細書でいう光路差付与構造とは、入射光束に対して光路差を付加する構造の総称である。光路差付与構造には位相差を付与する位相差付与構造も含まれ、位相差付与構造には回折構造が含まれる。
光路差付与構造は、段差を有し、好ましくは段差を複数有する。この段差により入射光束に光路差及び/又は位相差が付加される。光路差付与構造により付加される光路差は、入射光束の波長の整数倍であっても良いし、入射光束の波長の非整数倍であっても良い。段差は、光軸垂直方向に周期的な間隔をもって配置されていてもよいし、光軸垂直方向に非周期的な間隔をもって配置されていてもよい。
【0027】
光路差付与構造は、光軸を中心とする同心円状の複数の輪帯を有することが好ましい。また、光路差付与構造は、様々な断面形状(光軸を含む面での断面形状)をとり得る。
最も一般的な光路差付与構造の断面形状としては、図4(a)に記載されるような、光路差付与構造の光軸を含む断面形状が鋸歯状である場合である。平面の光学素子に光路差付与構造を設けた場合に断面が階段状に見えるものも、非球面レンズ面等に同様の光路差付与構造を設けた場合は、図4(a)のような鋸歯状の断面形状と捉えることができる。従って、本明細書でいう鋸歯状の断面形状には、階段状の断面形状も含まれるものとする。
また、段差の向きの異なる鋸歯状の光路差付与構造を重畳することによって、図4(b)に示すようなバイナリ構造の光路差付与構造を得ることも可能である。
本明細書の第一光路差付与構造及び第二光路差付与構造は、その断面形状を異なる鋸歯状の光路差付与構造を重畳した構造としてもよいし、鋸歯状の光路差付与構造を重畳してできるバイナリ構造の光路差付与構造に、さらに鋸歯状の光路差付与構造を重畳した構造としてもよい。例えば、図4(c)は鋸歯状の構造とバイナリ構造を重畳した構造であり、図4(d)は細かい鋸歯状の構造と荒い鋸歯状の構造を重畳した構造である。
【0028】
また、対物レンズOBJの中央領域CNに設けられる第一光路差付与構造と、対物レンズOBJの周辺領域MDに設けられる第二光路差付与構造は、対物レンズOBJの異なる光学面に設けられていてもよいが、同一の光学面に設けられることが好ましい。同一の光学面に設けられることにより、製造時の偏芯誤差を少なくすることが可能となるため好ましい。また、第一光路差付与構造及び第二光路差付与構造は、対物レンズOBJの光ディスク側の面よりも、対物レンズOBJの光源側の面に設けられることが好ましい。
【0029】
以上の表面形状を呈する対物レンズOBJは、図3中の拡大図に示す通り、樹脂製の樹脂成形部10と反射防止膜20とで構成されており、反射防止膜20が樹脂成形部10のS1面10a(光入射面)上に形成された構成を有している。
なお、上記の光路差付与構造は樹脂成形部10そのものに形成された構造であり、これを反射防止膜20が覆っている。
【0030】
樹脂成形部10はシクロオレフィン樹脂で構成されている。
本発明で用いられているシクロオレフィン樹脂としては特に限定はないが、下記の樹脂が好適に用いられる。
【0031】
[好適なシクロオレフィン樹脂の一例]
下記式(1)で表される繰り返し単位〔1〕を含有する重合体ブロック〔A〕と、
下記式(1)で表される繰り返し単位〔1〕並びに下記式(2)で表される繰り返し単位〔2〕または/および下記式(3)で表される繰り返し単位〔3〕を含有する重合体ブロック〔B〕とを有し、
前記ブロック〔A〕中の繰り返し単位〔1〕のモル分率a(モル%)と、前記ブロック〔B〕中の繰り返し単位〔1〕のモル分率b(モル%)との関係がa>bであるブロック共重合体からなる。
【0032】
【化1】

【0033】
(式中、Rは水素原子、または炭素数1〜20のアルキル基を表し、R−R12はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、ヒドロキシル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、またはハロゲン基である。)
【0034】
【化2】

【0035】
(式中、R13は、水素原子、または炭素数1〜20のアルキル基を表す。)
【0036】
【化3】

【0037】
(式中、R14およびR15はそれぞれ独立に、水素原子、または炭素数1〜20のアルキル基を表す。)
【0038】
[好適なシクロオレフィン樹脂の別の例]
少なくとも炭素原子数2〜20のα−オレフィンと下記一般式(1)で表される環状オレフィンからなる単量体組成物とを付加重合させることにより得られる重合体(A)と、炭素原子数2〜20のα−オレフィンと下記一般式(2)で表される環状オレフィンからなる単量体組成物とを付加重合させることにより得られる重合体(B)とを含む樹脂組成物。
【0039】
【化4】

【0040】
〔式中、nは0または1であり、mは0または1以上の整数であり、qは0または1であり、R1〜R18、Ra及びRbは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子または炭化水素基であり、R15〜R18は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、括弧内の単環または多環が二重結合を有していてもよく、またR15とR16と、またはR17とR18とでアルキリデン基を形成していてもよい。〕
【0041】
(安定剤)
前記シクロオレフィン樹脂には、フェノール系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤、リン系安定剤及びイオウ系安定剤から選ばれた少なくとも1種の安定剤を添加することが好ましい。これらの安定剤を適宜選択し、脂環式炭化水素系共重合体に添加することで、例えば、400nmといった短波長の光を継続的に照射した場合の白濁や、屈折率の変動等の光学特性変動をより高度に抑制することができる。
【0042】
好ましいフェノール系安定剤としては、従来公知のものが使用でき、例えば、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,4−ジ−t−アミル−6−(1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル)フェニルアクリレートなどの特開昭63−179953号公報や特開平1−168643号公報に記載されるアクリレート系化合物;オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2′−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス(メチレン−3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニルプロピオネート))メタン[すなわち、ペンタエリスリメチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート))]、トリエチレングリコールビス(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート)などのアルキル置換フェノール系化合物;6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−2,4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、2−オクチルチオ−4,6−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−オキシアニリノ)−1,3,5−トリアジンなどのトリアジン基含有フェノール系化合物;などが挙げられる。
【0043】
また、好ましいヒンダードアミン系安定剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)スクシネート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(N−オクトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(N−ベンジルオキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(N−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−ブチルマロネート、ビス(1−アクロイル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)2,2−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−ブチルマロネート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)デカンジオエート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルメタクリレート、4−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−1−[2−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)エチル]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、2−メチル−2−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ−N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)プロピオンアミド、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート等が挙げられる。
【0044】
また、好ましいリン系安定剤としては、一般の樹脂工業で通常使用される物であれば格別な限定はなく、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドなどのモノホスファイト系化合物;4,4′−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシルホスファイト)、4,4′イソプロピリデン−ビス(フェニル−ジ−アルキル(C12〜C15)ホスファイト)などのジホスファイト系化合物などが挙げられる。これらの中でも、モノホスファイト系化合物が好ましく、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトなどが特に好ましい。
【0045】
また、好ましいイオウ系安定剤としては、例えば、ジラウリル3,3−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3′−チオジプロピピオネート、ジステアリル 3,3−チオジプロピオネート、ラウリルステアリル3,3−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス−(β−ラウリル−チオ)−プロピオネート、3,9−ビス(2−ドデシルチオエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどが挙げられる。
【0046】
これらの各安定剤の配合量は、本発明の目的を損なわれない範囲で適宜選択されるが、脂環式炭化水素系共重合体100質量部に対して通常0.01〜2質量部、好ましくは0.01〜1質量部である。
【0047】
(界面活性剤)
界面活性剤は、同一分子中に親水基と疎水基とを有する化合物である。界面活性剤は樹脂表面への水分の付着や上記表面からの水分の蒸発の速度を調節することで、樹脂組成物の白濁を防止する。
【0048】
界面活性剤の親水基としては、具体的には、ヒドロキシ基、炭素数1以上のヒドロキシアルキル基、ヒドロキシル基、カルボニル基、エステル基、アミノ基、アミド基、アンモニウム塩、チオール、スルホン酸塩、リン酸塩、ポリアルキレングリコール基などが挙げらる。ここで、アミノ基は1級、2級、3級のいずれであってもよい。界面活性剤の疎水基としては、具体的に炭素数6以上のアルキル基、炭素数6以上のアルキル基を有するシリル基、炭素数6以上のフルオロアルキル基などが挙げられる。ここで、炭素数6以上のアルキル基は置換基として芳香環を有していてもよい。アルキル基としては、具体的にヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデセニル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ミリスチル、ステアリル、ラウリル、パルミチル、シクロヘキシルなどが挙げられる。芳香環としてはフェニル基などが挙げられる。この界面活性剤は、上記のような親水基と疎水基とをそれぞれ同一分子中に少なくとも1個ずつ有していればよく、各基を2個以上有していてもよい。
【0049】
このような界面活性剤としては、より具体的には、例えば、ミリスチルジエタノールアミン、2−ヒドロキシエチル−2−ヒドロキシドデシルアミン、2−ヒドロキシエチル−2−ヒドロキシトリデシルアミン、2−ヒドロキシエチル−2−ヒドロキシテトラデシルアミン、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ジ−2−ヒドロキシエチル−2−ヒドロキシドデシルアミン、アルキル(炭素数8〜18)ベンジルジメチルアンモニウムクロライド、エチレンビスアルキル(炭素数8〜18)アミド、ステアリルジエタノールアミド、ラウリルジエタノールアミド、ミリスチルジエタノールアミド、パルミチルジエタノールアミド、などが挙げられる。これらのうちでも、ヒドロキシアルキル基を有するアミン化合物またはアミド化合物が好ましく用いられる。本発明では、これら化合物を2種以上組合わせて用いてもよい。
【0050】
界面活性剤は、脂環式炭化水素系重合体100質量部に対して0.01〜10質量部添加される。界面活性剤の添加量が0.01質量部を下回る場合、温度、湿度の変動に伴なう成形物の白濁を効果的に抑えることができない。一方、添加量が10質量部を超える場合、成形物の光透過率が低くなり、光ピックアップ装置への適用が困難となる。界面活性剤の添加量は脂環式炭化水素系重合体100質量部に対して0.05〜5質量部とすることが好ましく、0.3〜3質量部とすることが更に好ましい。
【0051】
(可塑剤)
可塑剤は共重合体のメルトインデックスを調節するため、必要に応じて添加される。
可塑剤としては、アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ビス(2−ブトキシエチル)、アゼライン酸ビス(2−エチルヘキシル)、ジプロピレングリコールジベンゾエート、クエン酸トリ−n−ブチル、クエン酸トリ−n−ブチルアセチル、エポキシ化大豆油、2−エチルヘキシルエポキシ化トール油、塩素化パラフィン、リン酸トリ−2−エチルヘキシル、リン酸トリクレジル、リン酸−t−ブチルフェニル、リン酸トリ−2−エチルヘキシルジフェニル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソヘキシル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジノニル、フタル酸ジウンデシル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジトリデシル、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジシクロヘキシル、セバシン酸ジ−2−エチルヘキシル、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル、Santicizer 278、Paraplex G40、Drapex 334F、Plastolein 9720、Mesamoll、DNODP−610、HB−40等の公知のものが適用可能である。可塑剤の選定及び添加量の決定は、共重合体の透過性や環境変化に対する耐性を損なわないことを条件に適宜行なわれる。
【0052】
これらの樹脂としては、屈折率nd=1.50〜1.55、アッベ数νd=50〜60のシクロオレフィン樹脂が好適に用いられ、具体的には、日本ゼオン社製のZEONEXや、三井化学社製のAPEL、TOPAS ADVANCED POLYMERS社製のTOPAS、JSR社製ARTONなどが挙げられる。
【0053】
反射防止膜20は単層構造を有してもよいし、複数層構造を有してもよい。
反射防止膜20は単層構造であっても反射防止機能を十分に発揮するが、2層以上の層から構成される複数層構造のほうが反射防止効果を高めることができる。
【0054】
本実施の形態では、反射防止膜20のうち少なくとも1層が無機化合物層(無機化合物から構成された層)であり、その無機化合物層はSi,Al,Zr,Ti,Ta,Ce,Hf,La,Geのうち少なくとも1つの元素を含有している。
【0055】
反射防止膜20を単層構造とする場合、その層はSiO,Al,ZrOなどで構成することができる。
【0056】
他方、反射防止膜20を複数層構造とする場合、好ましくは、屈折率1.7以上の高屈折率材料から構成された層と、屈折率1.7未満の低屈折率材料から構成された層とを、交互に積層し、全体で2〜10層構造とする。
高屈折率材料から構成された層としては、具体的にTa,TaとTiOとの混合物,ZrO,ZrOとTiOとの混合物,TiO,Nb,HfOなどで構成することができる。
低屈折率材料から構成された層としては、具体的にSiO,MgFなどで構成することができる。
【0057】
なお、反射防止膜20は樹脂成形部10のS2面10b(光出射面)上に形成されてもよい。
樹脂成形部10のS1面10aとS2面10bとに対する反射防止膜20の成膜例を下記に示す。表1中、「1層目」は最表面に形成した層であり、「7層目,10層目」は樹脂成形部10に対し直に成膜した層である。
【0058】
【表1】

【0059】
続いて、対物レンズOBJの製造方法について説明する。
【0060】
始めに、上記シクロオレフィン樹脂を一定の金型に対し射出成形し、S1面10aに上記光路差付与構造が形成された樹脂成形部10(成形品)を形成する。
【0061】
その後、樹脂成形部10をアニールする。
詳しくは、オーブンや恒温高湿槽、遠赤外線炉などを用いて、樹脂成形部10を、これら器具のなかに投入し、樹脂成形部10を構成する樹脂のガラス転移温度(Tg)より10℃以上低い温度で、好ましくは10〜50℃低い温度で、アニールする。アニール温度を樹脂のガラス転移温度より10℃以上低い温度とするのは、その温度範囲なら、樹脂成形部10の光路差付与構造を保持した状態で樹脂内部の応力を緩和することができるからである。
ここでいうガラス転移温度とは、JIS K7121に基づく示差走査熱量分析法により昇温速度10℃/minで測定された温度である。
アニール時間はアニール温度が低温であれば長時間とし、逆に高温であれば短時間でも足りる。
【0062】
その後、公知の手法(真空蒸着やスパッタリングなど)により、樹脂成形部10のS1面10aに対し単層構造又は複数層構造の反射防止膜20を形成する。
【0063】
その後、反射防止膜20を形成した樹脂成形部10を、樹脂成形部10を構成する樹脂のガラス転移温度より30〜45℃低い温度でかつ40〜80%RHの相対湿度で、エージングする。ここでいうガラス転移温度も、アニール工程で示した温度と同様である。
【0064】
なお、本発明においては、「アニールまたはアニール工程」とは、樹脂成形部10の成形・硬化後であって反射防止膜20の形成前におこなう熱処理又は湿熱処理をいい、「エージングまたはエージング工程」とは、反射防止膜20の形成後におこなう熱処理又は湿熱処理をいう。
アニールは樹脂成形部10の樹脂の応力緩和を目的とするのに対し、エージングは反射防止膜20の樹脂成形部10に対する密着性の安定化を目的としており、アニールとエージングとではその処理のタイミングや所期の目的が異なっている。
【0065】
以上の処理により、対物レンズOBJを製造することができる。そしてこのような処理によれば、反射防止膜20を形成する前に、樹脂成形部10を一定の温度範囲でアニールするから、反射防止膜20の形成後においても、反射防止膜20の樹脂成形部10への密着性を維持し、光利用効率が低下するのを抑制することができる(下記実施例参照)。
【0066】
続いて、光ピックアップ装置PU1の動作について説明する。
【0067】
以上の構成を具備する光ピックアップ装置PU1では、青紫色半導体レーザLD1から射出された第一光束(例えばλ1=405nm)の発散光束は、偏光ダイクロイックプリズムPPSを透過し、コリメートレンズCLにより平行光束とされた後、図示しない1/4波長板により直線偏光から円偏光に変換され、絞りSTによりその光束径が規制され、対物レンズOBJによって厚さ0.0875mmの保護基板PL1を介して、BDの情報記録面RL1上に形成されるスポットとなる。
【0068】
情報記録面RL1上で情報ピットにより変調された反射光束は、再び対物レンズOBJ、絞りSTを透過した後、図示しない1/4波長板により円偏光から直線偏光に変換され、コリメートレンズCLにより収斂光束とされ、偏光ダイクロイックプリズムPPSを透過した後、第一の受光素子PD1の受光面上に収束する。そして、第一の受光素子PD1の出力信号を用いて、2軸アクチュエータACにより対物レンズOBJをフォーカシングやトラッキングさせることで、BDに記録された情報を読み取ることができる。
【0069】
赤色半導体レーザEP1から射出された第二光束(例えばλ2=658nm)の発散光束は、プリズムPSで反射された後、偏光ダイクロイックプリズムPPSにより反射され、コリメートレンズCLにより平行光束とされた後、図示しない1/4波長板により直線偏光から円偏光に変換され、対物レンズOBJに入射する。
ここで、対物レンズOBJの中央領域CNと周辺領域MDにより集光された(最周辺領域OTを通過した光束はフレア化され、スポット周辺部を形成する)光束は、厚さ0.6mmの保護基板PL2を介して、DVDの情報記録面RL2に形成されるスポットとなり、スポット中心部を形成する。
【0070】
情報記録面RL2上で情報ピットにより変調された反射光束は、再び対物レンズOBJ、絞りSTを透過した後、図示しない1/4波長板により円偏光から直線偏光に変換され、コリメートレンズCLにより収斂光束とされ、偏光ダイクロイックプリズムPPSにより反射された後、その後、プリズム内で2回反射された後、第二の受光素子DS1に収束する。そして、第二の受光素子DS1の出力信号を用いてDVDに記録された情報を読み取ることができる。
【0071】
赤外半導体レーザEP2から射出された第三光束(例えばλ3=785nm)の発散光束は、プリズムPSで反射された後、偏光ダイクロイックプリズムPPSにより反射され、コリメートレンズCLにより平行光束とされた後、図示しない1/4波長板により直線偏光から円偏光に変換され、対物レンズOBJに入射する。
ここで、対物レンズOBJの中央領域CNにより集光された(周辺領域MD及び最周辺領域OTを通過した光束はフレア化され、スポット周辺部を形成する)光束は、厚さ1.2mmの保護基板PL3を介して、CDの情報記録面RL3上に形成されるスポットとなる。
【0072】
情報記録面RL3上で情報ピットにより変調された反射光束は、再び対物レンズOBJ、絞りSTを透過した後、図示しない1/4波長板により円偏光から直線偏光に変換され、コリメートレンズCLにより収斂光束とされ、偏光ダイクロイックプリズムPPSにより反射された後、その後、プリズム内で2回反射された後、第三の受光素子DS2に収束する。そして、第三の受光素子DS2の出力信号を用いてCDに記録された情報を読み取ることができる。
【0073】
青紫色半導体レーザLD1から出射された第一光束が平行光束で対物レンズOBJに入射したときには、中央領域CNの第一光路差付与構造、周辺領域MDの第二光路差付与構造及び最周辺領域OTは、第一光束の球面収差を適正に補正し、保護基板の厚さt1のBDに対して適切に情報の記録及び/又は再生を行うことができる。
赤色半導体レーザEP1から出射された第二光束が平行光束で対物レンズOBJに入射したときには、中央領域CNの第一光路差付与構造、周辺領域MDの第二光路差付与構造は、BDとDVDの保護基板の厚さの差異及び第一光束と第二光束の波長の差異に起因して発生する第二光束の球面収差を適正に補正し、最周辺領域OTは第二光束をDVDの情報記録面上でフレアとするため、保護基板の厚さt2のDVDに対して適切に情報の記録及び/又は再生を行うことができる。
赤外半導体レーザEP2から出射された第三光束が平行光束で対物レンズOBJに入射したときには、中央領域CNの第一光路差付与構造は、BDとCDの保護基板の厚さの差異及び第一光束と第三光束の波長の差異に起因して発生する第三光束の球面収差を適正に補正し、周辺領域MDの第二光路差付与構造及び最周辺領域OTは第三光束をCDの情報記録面上でフレアとするため、保護基板の厚さt3のCDに対して適切に情報の記録及び/又は再生を行うことができる。また、中央領域CNの第一光路差付与構造は、記録再生に用いられる第三光束の必要光の集光スポットと、第三光束の不要光の集光スポットとを適正な距離だけ離し、それにより、CDを用いた際のトラッキング特性も良好にする。加えて、周辺領域MDの第二光路差付与構造は、第一光束及び第二光束に対して、レーザの製造誤差等の理由によって波長が基準波長からずれた際に、スフェロクロマティズム(色球面収差)を補正することができる。
【0074】
なお、本実施形態では、対物レンズOBJに対し光路差付与構造,反射防止膜20を形成した例を示したが、対物レンズOBJに代えて又は加えて、コリメータレンズCLに対しても、本実施形態にかかる光路差付与構造,反射防止膜20を形成してもよい。もちろん、これら対物レンズOBJ,コリメータレンズCLは光学素子の単なる一例にすぎず、これ以外の光学素子においても、本実施形態にかかる光路差付与構造,反射防止膜20を形成することができる。
【0075】
さらに、本実施形態では、BD,DVD,CDに対応可能ないわゆる互換性対物レンズOBJに対し光路差付与構造,反射防止膜20を形成した例を示したが、BDに対応可能なレンズであればいずれのレンズ(単にBDにのみ対応可能な光ピックアップ装置用の対物レンズを含む。)に対しても、本実施形態にかかる光路差付与構造,反射防止膜20を形成することができる。
【実施例】
【0076】
(1)サンプルの作製
シクロオレフィン樹脂として日本ゼオン社製ゼオネックス350R(Tg=122℃)を選択し、これを射出成形して複数の対物レンズを作製した。
【0077】
本実施例においては、対物レンズは単玉のレンズであり、光学面の中央領域CNの全面には、第一光路差付与構造が形成されている。光学面の周辺領域MDの全面には、第二光路差付与構造が形成されている。光学面の最周辺領域OTの全面には、第三光路差付与構造が設けられている。
【0078】
第一光路差付与構造は、第一基礎構造、第二基礎構造に加えて、第三基礎構造が重畳された構造となっており、二種類の鋸歯状の回折構造とバイナリ構造とが重畳された形状となっている。断面形状は、図5においてCNと示されている部分として示されている。
鋸歯状の回折構造である第三基礎構造は、第1光束の10次の回折光の光量を他のいかなる次数(0次即ち透過光も含む)の回折光の光量よりも大きくし、第2光束の6次の回折光の光量を他のいかなる次数(0次即ち透過光も含む)の回折光の光量よりも大きくし、第3光束の5次の回折光の光量を他のいかなる次数(0次即ち透過光も含む)の回折光量よりも大きくするように設計されている。
第一基礎構造の光軸方向の段差量は、第1光束に対して第1波長の略2波長分の光路差を与え、第2光束に対して第2波長の略1.2波長分の光路差を与え、第3光束に対して第3波長の略1波長分の光路差を与えるような段差量である。
第二基礎構造の光軸方向の段差量は、第1光束に対して第1波長の略5波長分の光路差を与え、第2光束に対して第2波長の略3波長分の光路差を与え、第3光束に対して第3波長の略2.5波長分の光路差を与えるような段差量である。
第三基礎構造の光軸方向の段差量は、第1光束に対して第1波長の略10波長分の光路差を与え、第2光束に対して第2波長の略6波長分の光路差を与え、第3光束に対して第3波長の略5波長分の光路差を与えるような段差量である。
尚、第三基礎構造は、第一基礎構造及び第二基礎構造とは基準となる母非球面が異なる。
【0079】
第二光路差付与構造は、図5のMDとして示されているように、第一基礎構造と第四基礎構造を重畳した構造となっており、二種類の鋸歯状の回折構造が重畳された形状となっている。
第四基礎構造の光軸方向の段差量は、第1光束に対して第1波長の略5波長分の光路差を与え、第2光束に対して第2波長の略3波長分の光路差を与え、第3光束に対して第3波長の略2.5波長分の光路差を与えるような段差量である。
尚、第四基礎構造は、第一基礎構造とは基準となる母非球面が異なる。また、第一光路差付与構造における第三基礎構造と第二光路差付与構造における第四基礎構造は連続して設けられている。第一光路差付与構造における第三基礎構造は、光軸から離れるに従ってその深さが深くなっていき、第一光路差付与構造と第二光路差付与構造との境から、今度は、第二光路差付与構造における第四基礎構造は、光軸から離れるに従って、その深さが浅くなっていく構造となっている。
【0080】
第三光路差付与構造は、図5のOTとして示されているように、第四基礎構造のみを有する構造となっており、一種類の鋸歯状の回折構造のみを有する形状となっている。第三光路差付与構造における第四基礎構造は、光軸と直交する方向に光軸から離れるにつれて、光学素子の内側に入り込んでいき、あるところを境に、光軸から離れるにつれて、光学素子の外側へと向かうような構造ではない。
【0081】
以下の表2〜表5に、本実施例のレンズデータを示す。
なお、これ以降において、10のべき乗数(例えば、2.5×10−3)を、E(例えば、2.5E−3)を用いて表すものとする。
【0082】
対物レンズの光学面は、それぞれ数1式に、表に示す係数を代入した数式で規定される、光軸の周りに軸対称な非球面に形成されている。
【0083】
【数1】

【0084】
ここで、X(h)は光軸方向の軸(光の進行方向を正とする)、eは円錐係数、A2iは非球面係数、hは光軸からの高さである。
【0085】
また、回折構造により各波長の光束に対して与えられる光路長は、数2式の光路差関数に、表に示す係数を代入した数式で規定される。
【0086】
【数2】

【0087】
尚、λは入射光束の波長、λBは設計波長(ブレーズ化波長)、dorは回折次数、C2iは光路差関数の係数である。
【0088】
また、図6(a),図6(b),図6(c)において、本実施例の縦球面収差図を示す。縦球面収差図の縦軸の1.0は、BDにおいては、NA0.85またはΦ3.74mmを表し、DVDにおいては、NA0.6より僅かに大きな値、または、2.70mmより僅かに大きな値を表し、CDにおいては、NA0.45より僅かに大きな値または、Φ2.37mmより僅かに大きな値を表す。
なお、本実施例において、L=0.60mmである。したがって、L/f=0.60/2.53=0.237である。
f[mm]は第一光路差付与構造を通過し、第一ベストフォーカス(第一光路差付与構造を通過した第3光束によって、第3光束が形成するスポットのスポット径が最も小さくなるフォーカス)を形成する第3光束の焦点距離を指し、L[mm]は前記第一ベストフォーカスと第二ベストフォーカス(第3光束が形成するスポットのスポット径が前記第一ベストフォーカスの次に小さくなるフォーカス)の間の距離を指す。
【0089】
本実施例の第一光路差付与構造における全ての輪帯は、段差量が3.62〜4.23μmのグループと、段差量が2.22〜2.56μmのグループに分けられる。尚、λBは405nmである。λB’は390nm〜400nmの任意の値とする。従って、本実施例の第一光路差付与構造における全ての輪帯の段差量が、dCとdDのいずれかを満たすことになる。また、第一光路差付与構造における全ての輪帯のピッチ幅は、5.3〜110μmの範囲に含まれる。また、第一光路差付与構造における全ての輪帯の(段差量/ピッチ幅)の値は、0.8以下である。
【0090】
【表2】

【0091】
【表3】

【0092】
【表4】

【0093】
【表5】

【0094】
その後、オーブン,恒温恒湿槽,遠赤外線照射装置のいずれかを使用し、各対物レンズを表6の条件(温度,湿度,時間)でアニールした。
その後、各対物レンズのS1面(光入射面)に対し、真空蒸着法により表1に記載の7層の膜を積層して反射防止膜を形成した。
その後、再度オーブン,恒温恒湿槽,遠赤外線照射装置のいずれかを使用し、反射防止膜形成後の各対物レンズを表6の条件(温度,湿度,時間)でエージングした。
【0095】
以上の処理を施した各対物レンズを、アニール処理,エージング処理の条件に応じて「サンプル1〜13」とした。
【0096】
(2)サンプルの評価
各サンプル1〜13に対し、S2面(光出射面)での光束のピーク強度が100mW/mmとなるように、波長405nmのレーザを336時間照射した。
【0097】
(2.1)耐拭き性の評価
IPA(イソプロパノール)を含浸させた綿棒を、各サンプル1〜13の反射防止膜上で10gfの荷重を加えながら繰り返し往復させ、反射防止膜の耐拭き性を評価した。その評価結果を表6に示す。表6中、○,△,×の基準は下記の通りである。
「○」…50回往復させても膜の剥離は発生せず十分な実用性を備える
「△」…20回往復させても膜の剥離は発生せず実用面では許容範囲内である
「×」…20回往復させると膜の剥離が発生し実用性に欠ける
【0098】
(2.2)光利用効率の測定
各サンプル1〜13において、レーザ照射前後で光束のφ(スポット径)mmを測定し、その測定値の差からレーザ照射前後での光利用効率(光透過率,%)を算出した。その算出結果を表6に示す。表6中、○,×の基準は下記の通りである。
「○」…光利用効率が90%以上であり十分な実用性を備える
「×」…光利用効率が85%未満であり実用性に欠ける
【0099】
【表6】

【0100】
(3)まとめ
サンプル1〜4,6〜10とサンプル11〜13との比較からわかるように、アニールしたサンプル1〜4,6〜10はレーザ照射試験後の耐拭き性,光利用効率の両面で実用可能なレベルにあるのに対し、アニールしなかったサンプル11〜13は実用性に欠けるレベルにあった。
サンプル1〜4,6〜10とサンプル5との比較からわかるように、アニールしたサンプルの中でも、Tg−10℃(=112℃)以下の温度でアニールしたサンプル1〜4,6〜10は耐拭き性,光利用効率の両面で実用可能なレベルにあるのに対し、その温度を上回る温度でアニールしたサンプル5はアニールの時点で樹脂成形部の微細構造が変形し、耐拭き性,光利用効率の両面で実用性に欠けるレベルにあった。
以上から、Tg−10℃(=112℃)以下の温度でアニールすることが耐拭き性,光利用効率の両面で有用であることがわかった。
【0101】
さらに、サンプル1〜4,6,8,9とサンプル7との比較からわかるように、反射防止膜形成後においてはエージングしなくても耐拭き性,光利用効率の両面で実用可能なレベルにあったが、エージングした1〜4,6,8,9は耐拭き性に優れており、反射防止膜形成後のエージングは特に耐拭き性の面で有用であることがわかった。
サンプル1〜4,6,7,9,10とサンプル8との比較からわかるように、水分存在下でアニールしても耐拭き性,光利用効率の面で実用可能なレベルにあり、水分存在下におけるアニールも有用であることがわかった。
サンプル1〜4,6〜8,10とサンプル9との比較からわかるように、遠赤外線照射装置を用いても耐拭き性,光利用効率の両面で実用可能なレベルにあり、遠赤外線によるアニールも有用であることがわかった。
【符号の説明】
【0102】
AC 2軸アクチュエータ
CL コリメートレンズ
CN 中央領域
DS1 第二の受光素子
DS2 第三の受光素子
EP1 第二半導体レーザ
EP2 第三半導体レーザ
LD1 第一半導体レーザ
LM レーザモジュール
MD 周辺領域
OBJ 対物レンズ
OT 最周辺領域
PD1 第一の受光素子
PL1 保護基板(BD)
PL2 保護基板(DVD)
PL3 保護基板(CD)
PPS 偏光ダイクロイックプリズム
PS プリズム
PU1 光ピックアップ装置
RL1 情報記録面(BD)
RL2 情報記録面(DVD)
RL3 情報記録面(CD)
ST 絞り
10 樹脂成形部
10a S1面(光入射面)
10b S2面(光出射面)
20 反射防止膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NA≧0.8の光学素子の製造方法において、
シクロオレフィン樹脂を成形して光学面に光路差付与構造を有する成形品を形成する工程と、
前記成形品を、その樹脂のガラス転移温度(JIS K7121に基づく示差走査熱量分析法により昇温速度10℃/minで測定された温度)より10℃以上低い温度でアニールする工程と、
アニール後の前記成形品の前記光路差付与構造が設けられた光学面に反射防止膜を形成する工程と、
を備えることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項2】
波長350〜450nmの光を受ける光学素子の製造方法において、
シクロオレフィン樹脂を成形して光学面に光路差付与構造を有する成形品を形成する工程と、
前記成形品を、その樹脂のガラス転移温度(JIS K7121に基づく示差走査熱量分析法により昇温速度10℃/minで測定された温度)より10℃以上低い温度でアニールする工程と、
アニール後の前記成形品の前記光路差付与構造が設けられた光学面に反射防止膜を形成する工程と、
を備えることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光学素子の製造方法において、
前記成形品をアニールする工程では、前記ガラス転移温度より10〜50℃低い温度でアニールすることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学素子の製造方法において、
前記光学素子が対物レンズであることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学素子の製造方法において、
前記光学素子がコリメータであることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学素子の製造方法により製造されたことを特徴とする光ピックアップ装置用の光学素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−271372(P2010−271372A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120800(P2009−120800)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】