説明

光学素子の製造方法及び成形用型組立体

【課題】成形型の凹状の成形面とガラス素材との間に閉じた空間を形成する成形型において、形状精度の高い光学素子の成形方法を提供する。
【解決手段】対向配置された一対の上型及び下型18であって、それらの間にはガラス素材20が配置される該一対の上型及び下型18と、一対の上型及び下型18を嵌挿するスリーブとを有し、ガラス素材20は、加熱、軟化、加圧されて成形され、一対の上型及び下型18の少なくとも下型18に形成された凹状の成形面18aには、ガラス素材20と該成形面18aとの間に形成された閉じた空間22から気体を逃がす微細流路24が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対向配置された一対の成形型間に配置された成形素材を加熱軟化して加圧し光学素子を製造する光学素子の製造方法及び成形用型組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レンズの製造方法として、加熱軟化したガラス素材を金型でプレス成形する成形技術が採用されている。一方、データを記録したり読み取ったりする光ピックアップ装置に用いられるレンズでは、小型かつ高精度なものが求められている。
一方、球状のガラス素材(成形素材)を成形型で成形する場合、ガラス素材が成形型の成形面の曲率半径よりも大きいと、成形面とガラス素材との間に閉空間を形成してしまい、いわゆるガストラップを生じる。この場合、そのまま成形すると、成形面を転写することができない。
そこで、このガストラップを発生させないためには、例えば、ガラス素材が成形面の中央付近で点接触している状態が望ましい。
【0003】
しかしながら、ガラス素材が所望の体積であるという条件と、ガラス素材の曲率半径が所定の曲率半径よりも小さいという条件とを両立させようとすると、球形状に収まらず、異形の形状にする必要が生じ、コストアップにつながる。
また、ガストラップの問題は真空成形を行うことで回避できるが、これによると製造装置が大型化したり、サイクルタイムも延びるという不具合がある。
一方、特許文献1には、図1に示すように、成形用金型において、金型101を貫通する気体の逃げ穴102を成形面103の中央に設けた点が開示されている。さらに、気体の逃げ穴102の外気口に不図示の吸引装置を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−169093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、金型101の中央に貫通する逃げ穴102を設けており、この逃げ穴102からガスを吸引排出することで、ガストラップを防ぐことができるが、逃げ穴102にガラスが入り込むおそれがあるし、また、吸引のための設備や工程が増加するおそれがある。また、金型101に設けた逃げ穴102にガラスやゴミが詰まって作業性が悪くなる等の不具合が発生する。特に、金型101を連続的に循環させて成形を行う循環式成形機にあっては、金型101に設けた逃げ穴102が塞がるおそれが高くなる。さらに、金型101の中央に逃げ穴102があると、凸状の成形面を有する金型や、複雑な異形状の成形面を有する金型の場合、気体を逃がすことができないおそれもある。
【0006】
本発明は、斯かる課題を解決するためになされたもので、成形型の凹状の成形面と熱可塑性素材との間に形成された閉じた空間を外気と連通させることでガス抜きを促進し、形状精度の高い光学素子を得ることが可能な光学素子の製造方法及び成形用型組立体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光学素子の製造方法は、
対向配置された一対の成形型の少なくとも一方に形成された凹状の成形面であって、微細流路が形成された該成形面に熱可塑性素材を載置し、当該熱可塑性素材と前記成形面との間に閉じた空間を形成する工程と、
前記熱可塑性素材を加熱して軟化させる工程と、
前記一対の成形型を接近移動させて前記熱可塑性素材を加圧し、前記微細流路を介して前記閉じた空間から気体を逃がしつつ前記熱可塑性素材を成形する工程と、を有することを特徴とする。
また、本発明は、上記の光学素子の製造方法において、
前記微細流路は、微細な凹凸又は微細な溝からなる。
さらに、本発明は、上記の光学素子の製造方法において、
前記微細流路は、前記閉じた空間の加圧方向の距離が最も長い部分の成形面位置から、少なくとも前記成形面の外周部まで連続して形成されている。
【0008】
また、本発明は、
対向配置された一対の成形型であって、それらの間には熱可塑性素材が配置される該一対の成形型と、
前記一対の成形型を嵌挿するスリーブと、を有し、
前記熱可塑性素材は、加熱、軟化、加圧されて成形され、
前記一対の成形型の少なくとも一方に形成された凹状の成形面には、前記熱可塑性素材と該成形面との間に形成された閉じた空間から気体を逃がす微細流路が形成されていることを特徴とする。
また、本発明は、上記の成形用型組立体において、
前記微細流路は、微細な凹凸又は微細な溝からなる。
さらに、本発明は、上記の成形用型組立体において、
前記微細流路は、前記閉じた空間の加圧方向の距離が最も長い部分の成形面位置から、少なくとも前記成形面の外周部まで連続して形成されている。
また、本発明は、上記の成形用型組立体において、
前記微細流路は、微細な凹凸からなり、
前記凹凸における隣り合う凸部を結ぶ最も長い直線の長さは、50μm以下であり、
前記凹部から前記凸部までの深さは、10μm以上50μm以下である。
さらに、本発明は、上記の成形用型組立体において、
前記微細流路は、微細な溝からなり、
前記溝の幅は、50μm以下であり、
前記溝の深さは、10μm以上50μm以下である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、成形型の成形面に微細凹凸部又は溝を設け、成形素材と成形面との間に形成された閉じた空間を外気と連通させることでガストラップを防止し、形状精度の高い光学素子を得ることが可能な光学素子の製造方法及び光学素子成形用型を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】従来例の金型の断面図である。
【図2】第1の実施の形態の光学素子の製造装置の断面図である。
【図3】型セットの断面図である。
【図4】ガラス素材の外観を示す図である。
【図5】下型の成形面に微細凹凸部を形成した実施の形態を示す図である。
【図6】下型の成形面が円錐状の場合の実施の形態を示す図である。
【図7A】微細凹凸部を、下型の成形面の中心から成形面の外側の平坦面にまで連続して形成した状態を示す図である。
【図7B】微細凹凸部を、下型の成形面の中心から成形面と平坦面との境にまで連続して形成した状態を示す図である。
【図8A】微細凹凸部を十字の帯状に設けた場合の平面図である。
【図8B】微細凹凸部の凹凸部の加工イメージを示す図である。
【図8C】微細凹凸部とガラス素材の転写イメージを示す図である。
【図9】微細凹凸部を半径方向に帯状に設けた場合の平面図である。
【図10A】放電加工により形成した微細凹凸部の平面図である。
【図10B】同上のA−B断面図である。
【図11】第2の実施の形態の循環式の成形機の断面図である。
【図12】第3の実施の形態の微細溝とガラス素材の転写イメージを示す図である。
【図13】成形面に複数の微細溝を形成した状態の平面図である。
【図14】第4の実施の形態の凹球状の成形面に球形のガラス素材を載置した状態を示す図である。
【図15】円錐面状の成形面に球形のガラス素材を載置した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態を説明する。
【0012】
[第1の実施の形態]
図2は、本実施の形態で用いる光学素子の製造装置10の断面図であり、図3は、内部にガラス素材20が収容された型セット16の断面図である。
なお、全実施の形態を通じて、固化した十分に粘度が高いガラス素材から光学素子を成形する場合について説明する。
図2において、光学素子の製造装置10は、周囲を筐体11で覆われた成形室12と、筐体11の天井に取付けられたエアシリンダ13とを有している。筐体11にはヒータ14が内蔵されている。また、エアシリンダ13の下端には、加圧プレート15が固定されている。この加圧プレート15は、エアシリンダ13の上下方向への駆動に伴い一体的に上下移動する。
成形室12内には、成形用型組立体としての型セット16が搬入されるようになっている。この成形室12内で、型セット16に収容された熱可塑性素材としてのガラス素材20は加熱された後、所定の形状に加圧成形される。
【0013】
図3に示すように、この型セット16は、上型17、下型18、及びスリーブ19を有している。上型17及び下型18は、スリーブ19の内部で、それぞれの成形面17a,18aが対向するようにスリーブ19の両端側から嵌挿されている。上型17は円柱状をなし、その先端部に凹球面状の成形面17aが形成されている。また、下型18も円柱状をなし、その先端部に凹球面状の成形面18aが形成されている。
なお、成形面17a、18aは凹球面状に限らず、凹非球面状であってもよい。また、少なくとも下型18の成形面18aが凹状を有するのは、この成形面18aと円柱状のガラス素材20の端面との間に閉じた空間22が形成されるためである。この点は、全ての実施の形態においても同様である。
【0014】
上型17は、スリーブ19の軸方向に摺動可能となっている。また、上型17の成形面17aと下型18の成形面18aとの間には、円柱状のガラス素材20が配置されている。このガラス素材20は、図4に示すように、その外周面20aが中心の光軸O−Oと一致した状態に加工されている。また、このガラス素材20の上端面20bと下端面20cは平坦面に加工されている。この円柱状のガラス素材20は、安価に入手可能な市販品が用いられる。
なお、上型17及び下型18は、タングステンカーバイド(WC)等の超硬合金を研削
・研磨して仕上げられている。
なお、図1では、単独プレスによる成形室について説明したが、これに限らず、例えば循環式の成形機を用いてもよい。これについては後述する(図11参照)。
【0015】
図5は、下型18の成形面18aに微細流路24を形成した場合の実施の形態を示す図である。微細流路24は、微細な凹凸からなり、以下、微細凹凸部24ともいう。
本実施の形態では、放電加工などで下型18の成形面18aに連続した微細凹凸部24を形成した。この微細凹凸部24は、型中心軸O−Oから成形面18aの外部にまで連続して形成されている。
なお、この微細凹凸部24の加工は、下型18の成形面18aの全体に形成してもよいし、一部に形成してもよい。また、本実施の形態では、下型18の成形面18aのみに微細凹凸部24を形成した場合について説明したが、これに限らず、例えば、上型17の成形面17aにも、同様の微細凹凸部24を形成してもよい。
【0016】
図5において、円柱状のガラス素材20を下型18の凹状の成形面18aに載置したとき、ガラス素材20の下端面20cと下型18の凹状の成形面18aとの間に閉じた空間22が形成される。
すなわち、このガラス素材20のフラットな下端面20cを、下型18の凹状の成形面18aの型中心軸O−Oに対し垂直な面で載置しようとすると、ガラス素材20の下端面20cの円形の稜線が凹状の成形面18aの途中で接触した状態で保持される。このため、凹状の成形面18aとガラス素材20の表面(下端面20c)との間にドーム状の閉じた空間22が形成される。
【0017】
そして、このままの状態で、ガラス素材20を加熱し加圧して成形すると、ガラス素材20は接触した稜線から変形を始める。このため、ガラス素材20の円形の稜線から外周部側の空間(開放された空間)は、上型17とスリーブ19との隙間から気体が抜け、軟化したガラスが充填される。
しかし、稜線から中心(型中心軸O−O)に向かって生じたドーム状の閉じた空間22は、ガストラップとなって成形品に残ってしまう。このため、閉じた空間22内の気体(ガス)を取り除く必要が生じる。そこで、本実施の形態では、下型18の成形面18aにガス抜き用の微細凹凸部24を形成した。
【0018】
この微細凹凸部24は、閉じた空間22内の気体を外気に逃がすために、成形工程の最後までガストラップが残ると思われる閉じた空間22の加圧方向の距離が最も長い部分の成形面位置から、少なくとも下型18の成形面18aの外周部(外縁)18cにまで連続して形成されている必要がある。
本実施の形態では、閉じた空間22の加圧方向の距離が最も長い部分(型中心軸O−Oの部分)と外気とを連通可能に、微細凹凸部24を連続して形成している。
なお、本実施の形態では、下型18の凹状の成形面18aとして、凹球面状の場合について説明したが、例えば、図6に示すように、下型18の成形面16aが円錐状の成形面の場合にも同様の微細凹凸部24を形成することができる。また、図6では、微細凹凸部24の図示は省略している。
【0019】
次に、図7Aは、微細凹凸部24を、下型18の成形面18aの中心から成形面18aの外側の平坦面18bにまで連続して形成した状態を示す図であり、図7Bは、微細凹凸部24を、下型18の成形面18aの中心から成形面18aと平坦面18bとの境界にまで連続して形成した状態を示す図である。
図7Aと図7Bのいずれの場合も、成形時にはガラス素材20を加圧することに伴い、微細凹凸部24を介して閉じた空間22内の気体を逃がしつつ、ガラス素材20は所望の形状に成形される。このように、ガス抜きを促進した状態で成形が行われるため、成形品
に転写されない部分は生じない。
さらに、図7Aの場合は、微細凹凸部24が、成形面18aの中心から外側にまで形成されているので、ガラス素材20が、成形面18aの外側の平坦面18bにまで充填された場合であっても、確実に閉じた空間22内の気体を逃がしながら成形することができる。
【0020】
次に、図8Aは、この微細凹凸部24を十字の帯状に設けた場合の平面図、図8Bは、微細凹凸部24の凹凸部の加工イメージ図、図8Cは、微細凹凸部24とガラス素材20の転写イメージ図である。
図8Aのように、微細凹凸部24を十字の帯状に設けた場合、閉じた空間22(図7A等参照)内の気体を成形面18aの中心から外部に均等に逃がすことができる。さらに、図示しないが、この微細凹凸部24を、下型18の成形面18aの中心から成形面18aの外側の平坦面18bにまで連続して形成してもよい。
【0021】
この微細凹凸部24は、図8Bに示すように、多数の凹部24aと凸部24bとが連続的に形成されている。そして、閉じた空間22内の気体は、これら多数の凹部24aと凸部24bとの間の隙間を通って外気に逃げる。
この微細凹凸部24における隣り合う凸部を結ぶ最も長い直線の長さTは、図8Cに示すように、T=5μm以上で50μm以下が好ましい。長さTが50μmよりも大きくなると、凹部24aの幅が大きくなり過ぎてしまい、凹部24a内にガラス素材20が入り込んで気体の逃げ道を塞いでしまうためである。また、長さTが5μmよりも小さくなると、微細凹凸部24の望ましい深さ(10μm以上)を得るためには、加工が困難になってしまうためである。
また、微細凹凸部24の深さHについては、H=10μm以上で50μm以下が望ましい。深さHが10μmより小さくなると、凹部24aが浅くなり過ぎてしまい、凹部24a内にガラス素材20が入り込んで気体の逃げ道を塞いでしまうためである。また、深さHが50μmよりも大きくなると、微細凹凸部24の上記長さTを好ましい長さ(50μm以下)に抑えるためには、加工が困難になってしまうためである。
なお、本実験結果によれば、粘度の低いガラスであるS−FTL51((株)オハラ社製)のガラスを用いた場合、H=10μm〜14μmの深さの凹部24aに対し、4μm〜6μmのガラスの入り込みが認められたが、凹部24aが埋まることはなかった。
【0022】
図9は、微細凹凸部24を半径方向に帯状に設けた場合の平面図である。
本実施の形態では、この微細凹凸部24は、成形面18aの中心から成形面18aと平坦面18bとの境界にまで連続して形成されている。
このように、成形面18aには、少なくとも帯状の微細凹凸部24が1本だけ形成されていればよい。このような微細凹凸部24であっても、閉じた空間22内の気体を外部に逃がすことができる。
このことは、後述する図12の微細溝26についても同様であり、成形面18aに最低でも1本の微細溝26が形成されていればよい。
【0023】
図10Aは、放電加工により形成した微細凹凸部24の平面図、図10Bは、そのA−B断面図である。
放電加工により微細凹凸部24を形成する場合、均一な凹部24a及び凸部24bを得ることは困難で、形状も大きさも区々となる。図10Aの場合、微細凹凸部24における隣り合う凸部24bを結ぶ最も長い直線T1,T2,T3,T4の長さTのそれぞれは、上述したように、5μm以上50μm以下であることが好ましい。即ち、微細凹凸部24では、平面視において、凸部24bの外縁から5μm以上50μm以下の距離に、他の凸部24bの外縁が存在することが好ましい。凸部24bと他の凸部24bとの間には、凹部24aが設けられている。
【0024】
また、微細凹凸部24の深さH(図10B参照)は、上述したように、10μm以上50μm以下であることが好ましい。
なお、軟化したガラス素材20は、温度に応じた粘度を有しているため、細かな空間にまで入ることはできない。このため、軟化したガラス素材20が、微細凹凸部24の凸部24bから凹部24aへと移動しようとしても、途中で移動が止まってしまう。また、閉じた空間22内の気体は、この微細凹凸部24の間に生じた空間を通って外気に排出される。
【0025】
本実施の形態によれば、下型18の成形面18aに微細凹凸部24を設け、円柱形状のガラス素材20と成形面18aとの間に形成された閉じた空間22を外気と連通させることでガストラップを防止し、ガス抜きを促進して形状精度の高い光学素子を得ることができる。
また、成形品の表面は、微細凹凸部24が多少転写されることとなるが、成形後に研磨加工することで高精度な光学素子を得ることができる。さらに、粗面を必要とする照明系レンズなどではそのまま使用することができる。
また、本実施の形態によれば、安価な円柱形状のガラス素材20から、転写不良のない形状精度の高い光学素子を得ることができる。
【0026】
[第2の実施の形態]
図11は、本発明を循環式の成形機30に適用した場合の実施の形態を示している。
循環式成形機の構成を簡単に説明すると、この循環式の成形機30は、成形室33内に5つのステージ(搬入、加熱、加圧、徐冷、冷却)を有し、各ステージにおいて上下に対向する各一対の上加熱板31A〜31E及び下加熱板32A〜32Eと、これら上加熱板31A〜31E及び下加熱板32A〜32E間に移動して挟持される型セット16と、を備えている。
【0027】
この型セット16は、第1の実施の形態で用いたものと同様に、上型17、下型18、スリーブ19を備えている。この型セット16には、球状のガラス素材20’が収容されている。
また、最初の搬入ステージを除く、上加熱板31B〜31E及び下加熱板32B〜32Eには、夫々不図示のカートリッジヒータが内蔵されている。さらに、加圧ステージには、上加熱板31Cを上下(対向)方向に駆動するエアシリンダ36が設けられている。このエアシリンダ36による上加熱板31Cの昇降動作により、型セット16の挟持、挟圧等の動作が行われる。
【0028】
こうして、型セット16は、搬入ステージから搬入され、順次、加熱ステージでガラス素材20’が所定温度に加熱され、加熱されたガラス素材20’が加圧ステージで所定量プレスされ、さらにプレス後の半成形品が徐冷ステージで徐冷され、最後に冷却ステージで冷却されて、成形品としての光学素子が得られる。
この循環式の成形機30に用いられる型セット16にも、下型18の成形面18aには微細凹凸部24を設けられている。この場合、下型18の成形面18aの曲率半径よりも、球状のガラス素材20’の半径が大きい場合、ガラス素材20’と成形面18aとの間に閉じた空間22が形成される。しかし、この場合も、成形面18aに形成された微細凹凸部24により、閉じた空間22内のガス抜きを促進することができる。
【0029】
本実施の形態によれば、循環式の成形機30を用いた場合においても、第1の実施の形態と同様に、下型18の成形面18aに微細凹凸部24を設け、球状のガラス素材20’と成形面18aとの間に形成された閉じた空間22を外気と連通させることでガストラップを防止し、ガス抜きを促進して形状精度の高い光学素子を得ることができる。
【0030】
[第3の実施の形態]
図12は、第3の実施の形態の微細流路26とガラス素材20の転写イメージを示す図である。また、図13は、成形面18aに複数の微細流路26を形成した状態の平面図である。なお、第1の実施の形態と同一又は相当する部材には同一の符号を付して説明する。
第1の実施の形態では、下型18の成形面18aに連続した微細凹凸部24を形成した場合について説明した。
しかし、本実施の形態では、図12に示すように、微細流路26は、下型18の成形面18aにガラスが入り込めない程度の微細な溝からなり、以下、微細溝26ともいう。微細溝26は、成形面18aの中心から放射状に形成されたものである。この微細溝26の溝幅をWで示し、深さをHで示している。図12では、軟化したガラス素材20の一部20dが、微細溝26に入り込もうとする様子が示されている。しかし、微細溝26の溝幅が小さく、かつガラス粘度により入り込むことはできない。
【0031】
この微細溝26は、1本でも複数本でもかまわないが、第1の実施の形態と同様に、閉じた空間22の加圧方向の距離が最も長い部分の成形面位置と外気とを連通可能に、凹状の成形面18aの外周部にまで連続して形成される必要がある。
例えば、図13においては、微細溝26は、成形面18aの中心から成形面18aと平坦面18bとの境界にまで連続して形成されている。さらに、図示しないが、この微細溝26を、下型18の成形面18aの中心から成形面18aの外側の平坦面18bにまで連続して形成してもよい。
この微細溝26の溝幅Wは、W=5μm以上で50μm以下が望ましい。また、深さHは、H=10μm以上で50μm以下が望ましい。微細凹凸部24の場合と同様に、あまりに大きな幅の溝や浅い溝である場合は、軟化したガラス素材20が入り込んで気体の逃げ道を塞いでしまうためである。
【0032】
本実施の形態によれば、下型18の成形面18aに微細溝26を設け、ガラス素材20と成形面18aとの間に形成された閉じた空間22を外気と連通させることでガストラップを防止し、形状精度の高い光学素子を得ることができる。
【0033】
[第4の実施の形態]
図14は、凹球状の成形面18aに球形のガラス素材20’を載置した状態を示す図であり、図15は、円錐面状の成形面18aに球形のガラス素材20’を載置した状態を示す図である。なお、第1の実施の形態と同一又は相当する部材には同一の符号を付して説明する。
本実施の形態では、熱可塑性素材として球形状のガラス素材20’を用いた点が第1の実施の形態と相違する。
【0034】
図14に示すように、球形状のガラス素材20’の半径が凹状の成形面18aの曲率半径よりも大きい場合は、ガラス素材20’と成形面18aとの間に、ドーム状ではないが、同様の閉じた空間22が形成される。
このため、球形状のガラス素材20’の場合にも、下型18の成形面18aに微細凹凸部24又は微細溝26を形成する必要がある。
また、本発明における凹状の成形面(例えば下型18の成形面18a)は、球形状でなくてもよく、例えば、非球面形状や、1又は複数の溝を有する形状等であってもよい。成形面18aが非球面形状等であっても、ガラス素材20’と成形面18aとの間に閉じた空間22が発生するような形状であれば、微細凹凸部24又は微細溝26を形成することが有効であるためである。なお、図14では、微細凹凸部24又は微細溝26の図示は省略している。
【0035】
図15は、下型18の成形面18aが円錐状である場合を示しており、この場合も、ガラス素材20’と成形面18aとの間に閉じた空間22が発生する。なお、図15でも、微細凹凸部24又は微細溝26の図示は省略している。
【0036】
本実施の形態によれば、下型18の成形面18aに微細凹凸部24又は微細溝26を設け、球形状のガラス素材20’と成形面18aとの間に形成された閉じた空間22を外気と連通させることでガストラップを防止し、形状精度の高い光学素子を得ることができる。
また、成形品の表面は、微細凹凸部24が多少転写されることとなるが、成形後に研磨加工することで高精度な光学素子を得ることができる。さらに、粗面を必要とする照明系レンズなどではそのまま使用することができる。
【符号の説明】
【0037】
10 光学素子の製造装置
11 筐体
12 成形室
13 エアシリンダ
14 ヒータ
15 加圧プレート
16 型セット
17 上型
17a 成形面
18 下型
18a 成形面
19 スリーブ
20 ガラス素材
20a 側面
20b 上端面
20c 下端面
20d ガラス素材の一部
20’ 球状のガラス素材
22 閉じた空間
24 微細凹凸部
24a 凹部
24b 凸部
26 微細溝
30 循環式成形機
31(31A〜31E) 上加熱板
32(32A〜32E) 下加熱板
33 成形室
36 エアシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置された一対の成形型の少なくとも一方に形成された凹状の成形面であって、微細流路が形成された該成形面に熱可塑性素材を載置し、当該熱可塑性素材と前記成形面との間に閉じた空間を形成する工程と、
前記熱可塑性素材を加熱して軟化させる工程と、
前記一対の成形型を接近移動させて前記熱可塑性素材を加圧し、前記微細流路を介して前記閉じた空間から気体を逃がしつつ前記熱可塑性素材を成形する工程と、を有する、光学素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光学素子の製造方法において、
前記微細流路は、微細な凹凸又は微細な溝からなる、光学素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光学素子の製造方法において、
前記微細流路は、前記閉じた空間の加圧方向の距離が最も長い部分の成形面位置から、少なくとも前記成形面の外周部まで連続して形成されている、光学素子の製造方法。
【請求項4】
対向配置された一対の成形型であって、それらの間には熱可塑性素材が配置される該一対の成形型と、
前記一対の成形型を嵌挿するスリーブと、を有し、
前記熱可塑性素材は、加熱、軟化、加圧されて成形され、
前記一対の成形型の少なくとも一方に形成された凹状の成形面には、前記熱可塑性素材と該成形面との間に形成された閉じた空間から気体を逃がす微細流路が形成されている、成形用型組立体。
【請求項5】
請求項4に記載の成形用型組立体において、
前記微細流路は、微細な凹凸又は微細な溝からなる、成形用型組立体。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の成形用型組立体において、
前記微細流路は、前記閉じた空間の加圧方向の距離が最も長い部分の成形面位置から、少なくとも前記成形面の外周部まで連続して形成されている、成形用型組立体。
【請求項7】
請求項5に記載の成形用型組立体において、
前記微細流路は、微細な凹凸からなり、
前記凹凸における隣り合う凸部を結ぶ最も長い直線の長さは、50μm以下であり、
前記凹部から前記凸部までの深さは、10μm以上50μm以下である、成形用型組立体。
【請求項8】
請求項5に記載の成形用型組立体において、
前記微細流路は、微細な溝からなり、
前記溝の幅は、50μm以下であり、
前記溝の深さは、10μm以上50μm以下である、成形用型組立体。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図2】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−184211(P2011−184211A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48009(P2010−48009)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】