説明

光学素子及びその製造方法

【課題】光学素子の材料によらず優れた反射防止特性を有し、かつ耐摩耗性及び耐久性に優れた光学素子及びそれを少ない工程で簡単に製造する方法を提供する。
【解決手段】二次元周期の細孔構造を有する陽極酸化ポーラスアルミナを転写型とし、細孔構造を基材10の表面に転写してなり、細孔構造の逆パターンを有する複数の微細な円柱状凸部12aからなる二次元周期構造体12が基材10の表面に設けられており、円柱状凸部12aの周期が使用する光の波長以下である光学素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透過光学系に好適な光学素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透過光学系に用いる光学素子は、表面で光が反射するとゴーストやフレアが生じたり、光利用効率が低下したりするので、通常表面に反射防止処理が施されている。
【0003】
光学素子の反射防止処理としては、例えば、光学素子の表面に光学素子と入射媒質の中間の屈折率を有する反射防止膜を形成し、光学素子の表面における反射光と反射防止膜表面における反射光との干渉により反射を低減させる方法がある。単層構成の反射防止膜では、干渉による反射の低減効果は入射媒質、光学素子及び反射防止膜の屈折率により決まるので、入射媒質及び光学素子の屈折率が決まれば、反射防止膜の最適な屈折率が決まる。最適な屈折率を持った膜を選択することにより単層でも優れた反射防止効果が期待できる。しかし、現在、実際に反射防止膜として使用できる膜材料は限られており、光学素子の材料によっては最適な屈折率を有する反射防止膜材が得られない場合がある。その場合、良好な反射防止効果を得るためには反射防止膜を多層構造にする必要があるため、設計及び製造が難しく、コストもかかる。
【0004】
反射防止処理の別の方法として、光学素子の表面に入射光の波長より小さい周期を有する錐状の凹凸構造を形成し、入射媒質から光学素子にかけて屈折率を緩やかに変化させることにより、入射媒質と光学素子の界面での反射光を低減する方法が挙げられる。
【0005】
特開2001-272505号公報(特許文献1)は、ドットアレイ状の金属をマスクとして基板をエッチング処理することにより、微細な錘形状の凹凸構造を形成する方法を開示している。しかし、(i)高精度で高価な処理装置が必要であり、(ii)処理工程が精細で複雑であり、加工時間がかかり、(iii)曲面への加工が難しく、(iv) 錘形状の微細凹凸構造は耐摩耗性及び耐久性に劣るといった問題がある。
【0006】
特開2007-86283号公報(特許文献2)は、陽極酸化と孔径拡大化処理を組み合わせて深さ方向に曲線的に狭くなる細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナを作製し、これを鋳型として高分子材料の表面に突起の配列を形成する反射防止膜の製造方法を開示している。しかし、ポーラスアルミナの細孔および形成した突起を所望の形状に制御することが難しく、工程が複雑でコストがかかる。また、得られる突起の形状は円錐、角錐、釣鐘等の錐状となるので耐摩耗性及び耐久性に劣る。
【0007】
特開2005-156695号公報(特許文献3)は、陽極酸化と孔径拡大処理を組み合わせてテーパー形状の細孔を有するポーラスアルミナを形成し、それを転写して先細り形状の凹凸を有する反射防止構造を得る方法を開示している。しかし、ポーラスアルミナ細孔のテーパー形状および転写形成した先細り形状を制御することが難しく、工程が複雑でコストがかかる。また、凹凸が先細り形状であるため耐摩耗性及び耐久性に劣る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001-272505号公報
【特許文献2】特開2007-86283号公報
【特許文献3】特開2005-156695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って本発明の目的は、光学素子の材料によらず優れた反射防止特性を有し、かつ耐摩耗性及び耐久性に優れた光学素子及びそれを少ない工程で簡単に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、二次元周期の細孔構造を有する陽極酸化ポーラスアルミナを転写型として用いて複数の微細な円柱状凸部からなる二次元周期構造体を光学素子の基材表面又は基材表面に設けられた樹脂層に形成し、その実効屈折率及び高さにより基材表面の反射率を制御することにより、光学素子に優れた反射防止機能を少ない工程で簡単に付与することができることを発見し、本発明に想到した。
【0011】
即ち、本発明の光学素子及びその製造方法は以下の特徴を有している。
[1] 二次元周期の細孔構造を有する陽極酸化ポーラスアルミナを転写型とし、前記細孔構造を基材表面に転写してなり、前記細孔構造の逆パターンを有する複数の微細な円柱状凸部からなる二次元周期構造体が前記基材表面に設けられており、前記円柱状凸部の周期が使用する光の波長以下であることを特徴とする光学素子。
[2] 基材表面に樹脂層が形成された光学素子であって、二次元周期の細孔構造を有する陽極酸化ポーラスアルミナを転写型とし、前記細孔構造を前記樹脂層表面に転写してなり、前記細孔構造の逆パターンを有する複数の微細な円柱状凸部からなる二次元周期構造体が前記樹脂層表面に設けられており、前記円柱状凸部の周期が使用する光の波長以下であることを特徴とする光学素子。
[3] 上記[1]又は[2] に記載の光学素子において、前記円柱状凸部の周期が50〜1000 nmであることを特徴とする光学素子。
[4] 上記[1]〜[3] のいずれかに記載の光学素子において、0°入射光の波長領域400〜700 nmにおける平均反射率が2%以下であることを特徴とする光学素子。
[5] 上記[1]〜[4] のいずれかに記載の光学素子において、前記円柱状凸部の平均太さをD(nm)とし、前記円柱状凸部の平均周期をp(nm)としたとき、前記二次元周期構造体における前記円柱状凸部の体積占有率fが下記式(1):
f=πD2/(2×√3×p2) ・・・(1)
を満たすことを特徴とする光学素子。
[6] 上記[5] に記載の光学素子において、前記基材の屈折率をnmとし、入射媒質の屈折率をn0とし、前記二次元周期構造体の実効屈折率をnとしたとき、下記式(2):
n=fnm+(1―f)n0 ・・・(2)
を満たすことを特徴とする光学素子。
[7] 上記[5] に記載の光学素子において、前記基材の屈折率をnmとし、入射媒質の屈折率をn0とし、前記二次元周期構造体の実効屈折率をnとしたとき、下記式(3):
n=(fnm2+(1―f)n021/2 ・・・(3)
を満たすことを特徴とする光学素子。
[8] 上記[1]〜[7] のいずれかに記載の光学素子において、二次元周期構造体の実効屈折率をnとしたとき、下記式(4):
n=(n0nm)1/2 ・・・(4)
を満たすことを特徴とする光学素子。
[9] 上記[1]〜[8] のいずれかに記載の光学素子において、前記円柱状凸部の平均高さをh(nm)としたとき、使用波長λ(nm)の光に対して、下記式(5):
nh=λ/4 ・・・(5)
を満たすことを特徴とする光学素子。
[10] 上記[1]〜[8] のいずれかに記載の光学素子において、前記円柱状凸部の平均高さをh(nm)としたとき、使用波長λ1〜λ2(nm)の光において、下記式(6):
λ1/4≦nh≦λ2/4 ・・・(6)
を満たすことを特徴とする光学素子。
[11] 上記[1]〜[10] のいずれかに記載の光学素子において、前記二次元周期構造体の分光反射率特性の極小値を示す波長の少なくとも1つが使用する光の波長と一致することを特徴とする光学素子。
[12] 上記[1]〜[10] のいずれかに記載の光学素子において、前記二次元周期構造体の分光反射率特性の極小値を示す波長の少なくとも1つが約405 nmであることを特徴とする光学素子。
[13] 上記[1]〜[10] のいずれかに記載の光学素子において、前記二次元周期構造体の分光反射率特性の極小値を示す波長の少なくとも1つが約660 nmであることを特徴とする光学素子。
[14] 上記[1]〜[10] のいずれかに記載の光学素子において、前記二次元周期構造体の分光反射率特性の極小値を示す波長の少なくとも1つが約780 nmであることを特徴とする光学素子。
[15] 上記[1]〜[10] のいずれかに記載の光学素子において、使用波長λ1〜λ2(nm)の光に対して、前記二次元周期構造体の分光反射率特性の極小値を示す波長がλ1〜λ2(nm)の範囲にあることを特徴とする光学素子。
[16] 使用する光の波長以下の二次元周期の細孔構造を表面に有する陽極酸化ポーラスアルミナを転写型とし、前記細孔構造を基材表面に転写し、もって前記細孔構造の逆パターンを有する複数の微細な円柱状凸部からなる二次元周期構造体を基材表面に設ける光学素子の製造方法。
[17] 基材表面に樹脂層を形成し、使用する光の波長以下の二次元周期の細孔構造を表面に有する陽極酸化ポーラスアルミナを転写型とし、前記樹脂層に前記細孔構造を転写し、もって前記細孔構造の逆パターンを有する複数の微細な円柱状凸部からなる二次元周期構造体を前記樹脂層表面に設ける光学素子の製造方法。
[18] 上記[16]又は[17] に記載の光学素子の製造方法において、前記陽極酸化ポーラスアルミナの細孔周期及び細孔径を制御することにより、前記円柱状凸部の周期、及び太さを制御し、もって二次元周期構造体の屈折率を制御することを特徴とする方法。
[19] 上記[16]〜[18] のいずれかに記載の光学素子の製造方法において、前記陽極酸化ポーラスアルミナの細孔周期、細孔深さ及び細孔径を制御することにより、前記円柱状凸部の周期、高さ及び太さを制御し、もって前記基材表面の分光反射率特性を制御することを特徴とする方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光学素子は、二次元周期の細孔構造を有する陽極酸化ポーラスアルミナを転写型として用いて複数の微細な円柱状凸部からなる二次元周期構造体を光学素子の基材表面又は基材表面に設けられた樹脂層に形成しているので、光学素子の材料及び種類によらず優れた反射防止特性を有し、かつ耐摩耗性及び耐久性に優れている。
【0013】
本発明の光学素子の製造方法によれば、光学素子の材料及び種類によらず、曲率の大きい光学素子に対しても優れた反射防止特性、耐摩耗性及び耐久性を少ない工程で簡単に付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第一の実施態様による光学素子を示す断面図である。
【図2(a)】本発明の第一の実施態様による光学素子を示す斜視図である。
【図2(b)】本発明の第一の実施態様による光学素子を示す上面図である。
【図3】本発明の第二の実施態様による光学素子を示す断面図である。
【図4】図1に示す光学素子の製造方法を示す図である。
【図5】図3に示す光学素子の製造方法を示す図である。
【図6】ポーラスアルミナを示すSEM写真である。
【図7】二次元周期構造体を示すSEM写真である。
【図8】実施例1の光学素子の反射率の分光特性を示すグラフである。
【図9】孔径拡大処理時間と円柱状凸部の太さとの関係を示すSEM写真である。
【図10】陽極酸化処理時間と円柱状凸部の高さとの関係を示すSEM写真である。
【図11】陽極酸化処理時の印加電圧と円柱状凸部の周期との関係を示すSEM写真である。
【図12】実施例2〜4の光学素子の反射率の分光特性を示すグラフである。
【図13】実施例5〜7の光学素子の反射率の分光特性を示すグラフである。
【図14】実施例8〜10の光学素子の反射率の分光特性を示すグラフである。
【図15】実施例11〜13の光学素子の反射率の分光特性を示すグラフである。
【図16】比較例1の光学素子の反射率の分光特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[1] 光学素子
本発明の第一の実施態様による光学素子1は、図1及び図2に示すように、基材部11と複数の微細な円柱状凸部12aが二次元周期で配置された二次元周期構造体12とを有する基材10からなる。円柱状凸部12aは、高さ方向に径がほぼ均一な円柱構造を有し、使用する光の波長以下の周期で配置されている。二次元周期構造体12は基材10の両面に設けても良い。
【0016】
円柱状凸部12aを使用する光の波長以下の周期で二次元配置すると、二次元周期構造体12は、入射媒質の屈折率と基材部11の屈折率との中間的な屈折率を有する反射防止膜として機能する。この屈折率を二次元周期構造体12の実効屈折率と呼ぶ。二次元周期構造体12の実効屈折率は、二次元周期構造体12における媒質と円柱状凸部12aとの体積比(円柱状凸部12aの体積占有率f)に相関する。円柱状凸部12aは構造の高さ方向の体積変化が無いので体積占有率も変化せず、結果、二次元周期構造体12の実効屈折率は高さ方向に均一となる。また、円柱状凸部12aが完全に均一な二次元周期性ではなく、多少のランダム性を持っていたとしても、その周期や径の分布が小さく平均的に見てほぼ均一な場合、二次元的に等しい体積占有率を有しているとみなすことができ、その実効屈折率も二次元的に均一であるとみなせる。すなわち、二次元周期構造体12は均一な実効屈折率を有する単層膜として機能する。またこのときの二次元平均的な体積占有率を考える場合、円柱状の構造体が理想的な二次元配置である六方細密に配置していること想定すれば良く、その周期は構造の平均的な周期を考えれば良い。
【0017】
円柱状凸部12aは円柱状であり構造の高さ方向の体積変化は無いことから、体積占有率は結果的に二次元的に六方細密で配置した円柱構造の断面積に比例することになる。よって、円柱状凸部12aの体積占有率fは、円柱状凸部12aの平均太さをD(nm)とし、円柱状凸部12aの平均周期をp(nm)としたとき、下記式(1):
f=πD2/(2×√3×p2) ・・・(1)
から求められる。
【0018】
二次元周期構造体12の実効屈折率nは、光学素子1の基材10の屈折率をnmとし、入射媒質の屈折率をn0としたとき、下記式(2):
n=fnm+(1―f)n0 ・・・(2)
から求めることができる。また二乗平均をとって、下記式(3):
n=(fnm2+(1―f)n021/2 ・・・(3)
から求めてもよい。
【0019】
式(1)と式(2)もしくは式(1)と式(3)が示すように、二次元周期構造体12の実効屈折率nは円柱状凸部12aの平均太さDと平均周期pの関数となっている。これらの式により、基材の屈折率nmと入射媒質の屈折率をn0に対して、実効屈折率nが所望の値となるような平均太さDと平均周期pの組み合わせを決めることができる。
【0020】
二次元周期構造体12の実効屈折率nは、下記式(4):
n=(n0nm)1/2 ・・・(4)
を満たすのが好ましい。二次元周期構造体12の実効屈折率nが式(4) を満たすとき、二次元周期構造体12と入射媒質との界面における反射光と二次元周期構造体12と基材部11との界面における反射光との干渉により、光学素子1の表面における入射光の分光反射率の極小値(ピーク反射率)を0にすることができる。二次元周期構造体12の実効屈折率nは必ずしも式(4) を満たす必要はないが、式(4)で規定される値に近いほど良好な反射防止効果を得られることができるため、できるだけ(n0nm)1/2に近い実効屈折率nを得られるように二次元周期構造体12の構造を制御することが望ましい。
【0021】
柱状凸部12aの平均周期pは、使用する光の波長に応じて適宜設定可能であるが、50〜1000 nmであるのが好ましく、100〜300 nmであるのがより好ましい。また円柱状凸部12aの平均周期pと使用する光の波長との比は0.1〜1.0であるのが好ましい。
【0022】
円柱状凸部12aの平均高さh(nm)は、実質的に光学素子1の基材部11の表面に形成された反射防止膜の厚さとみなすことができ、使用する光の波長をλ(nm)とすると、下記式(5):
h=λ/4n ・・・(5)
を満たすのが好ましい。また使用する光の波長がλ1(nm)からλ2(nm)の範囲内であるとき、下記式(6):
λ1/4≦nh≦λ2/4 ・・・(6)
を満たすのが好ましい。例えば、光学素子が使用する光が可視光(波長はおよそ400〜700 nm)である場合、100nm≦nh≦175nmを満たすのが好ましい。このように光学素子が使用する光の波長もしくは波長範囲に応じて、式(5)、式(6)を満たすように二次元周期構造体12の実効屈折率nおよび円柱状凸部12aの平均高さhを調整するのが好ましい。
【0023】
円柱状凸部12aの周期、高さ及び太さを制御することにより、その構造体の実効屈折率及び光学厚さを制御することができるため、従来の反射防止膜と比べて自由度があり、入射媒質及び基材の種類にかかわらず良好な反射防止特性が得られる。従来の錐状微細構造と異なり、構造体の屈折率境界における光波の反射及びそれらの干渉現象を積極的に利用することにより、簡単な構造で光学素子1の反射率を抑えることができる。0°入射光の波長領域400〜700 nmにおける平均反射率が2%以下であるのが好ましい。
【0024】
光学素子1の分光反射率の極小値(ピーク反射率)を示す波長の少なくとも一つを使用する光の波長と一致させるのが好ましい。それにより反射防止効果を効率的に利用できる。ピーク反射率を示す波長の少なくとも一つは、波長405 nm,660 nm又は780 nm付近であるのが好ましい。波長405 nmはBD、波長660 nmはDVD、波長780 nmはCDの光ピックアップ光学系で使用される光の波長に相当し、BD、DVD及びCDに使用される光学素子の表面にこのような構造体を形成することにより、非常に良好な反射防止特性が得られる。
使用する波長が幅を持つ場合、使用波長λ1〜λ2(nm)の光に対して、ピーク反射率を示す波長ををλ1〜λ2(nm)の範囲内に入るように調整するのが好ましい。
【0025】
本発明の第二の実施態様による光学素子1は、図3に示すように、基材10と、その表面に形成された樹脂層20とからなり、樹脂層20には複数の微細な円柱状凸部22aが二次元周期で配置された二次元周期構造体22が設けられている。なお説明のため、樹脂層20は実際より厚く図示されている。二次元周期構造体22の構成は第一の実施態様と同じで良い。
【0026】
樹脂層20は基材10とほぼ同じ屈折率を有するのが好ましい。樹脂層20の材料を基材10とほぼ同じ屈折率のものにすることにより、基材10と樹脂層20との境界面での光の反射を抑えることができる。
【0027】
樹脂層20の樹脂材料は、光学系に使用可能なものであれば特に限定されない。二次元周期構造体22を樹脂で形成することにより、適度な硬さと弾力性を有することができる。具体的には、アクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、ポリオールアクリレート系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂等が挙げられる。特に流動性及び形成性に優れた光硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂であるのが好ましく、中でも、紫外線硬化性樹脂が特に好ましい。
【0028】
光学素子1は本発明に用いることができるものであればこれらに限定されず、平板、プリズム、光学レンズ、回折素子、光学ローパスフィルタ、撮像素子のカバーガラス、赤外カットガラス等の種々のものを用いることができる。また、光学素子1の表面には、誘電体多層膜などのコートやフィルターが形成されていても良い。光学素子1の材料は用途に応じて適宜選択すればよく、無機物、無機化合物でも有機ポリマーでもよい。例えば光学素子1が平板、プリズム、光学レンズ、回折素子、撮像素子のカバーガラス等である場合、材料として各種無機ガラス(例えばシリカ、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラス等)や、透明ポリマー[例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂等のポリメタクリル酸エステル樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂等]等を用いることができる。また、光学素子1が撮像素子用の光学ローパスフィルタである場合、材料として複屈折性を有する水晶、ニオブ酸リチウム等の結晶材料が挙げられる。光学素子1の形状及び厚さは用途に応じて適宜選択すれば良い。
【0029】
[2] 光学素子の製造方法
(a) 陽極酸化ポーラスアルミナの製造
図4(a) に示すように、ガラス基板等の表面に真空蒸着法、スパッタリング法等により高純度のアルミ膜42を形成し、処理基板41を作製する。アルミ膜42の材料は、陽極酸化処理が可能なものであれば特に限定されないが、不純物を含むと陽極酸化処理時にポーラス構造に大きな欠陥が生じることから、できるだけ純度の高いアルミニウムを用いるのが好ましい。具体的には、純度99%以上のものを用いるのが好ましい。なお、処理基板41とアルミ膜42が共に高純度のアルミで構成されるような基板を作製しても構わない。
【0030】
処理基板41に陽極酸化処理を施すことにより、図4(b) に示すように、処理基板41のアルミ膜42を酸化させ、二次元周期の細孔構造を有するポーラスアルミナ43を形成する。陽極酸化に用いる電解質としてはシュウ酸、硫酸、リン酸等が挙げられる。陽極酸化処理の後、ポーラスアルミナの細孔径を所望の大きさに調整するため、リン酸等の酸に浸漬して細孔系を拡大する孔径拡大処理を行っても良い。得られたポーラスアルミナ43が形成された処理基板41をポーラスアルミナ転写型40とする。
【0031】
ポーラスアルミナ43の細孔の深さ及び周期は陽極酸化処理時の印加電圧、印加電流、処理時間、酸性電解液の酸の種類、濃度、温度、孔径拡大処理に用いる酸の種類や濃度、温度、処理時間等といった製造条件に相関する。そのため、これらの製造条件を調整することにより、ポーラスアルミナ43の細孔の深さ及び周期を制御することができる。例えば、陽極酸化時に印加する電圧を高くすると周期が大きくなり、陽極酸化の処理時間を長くすると細孔の深さが大きくなる。ポーラスアルミナ43の細孔径を調節する処理を行っても良く、例えば、リン酸等の酸に浸漬することにより細孔径を大きくすることができる。浸漬処理の時間を長くすると細孔径はより大きくなる。ポーラスアルミナ転写型40を転写して得られる円柱状凸部12aは、ポーラスアルミナ43の細孔の深さ、幅及び周期を反映するため、このようにポーラスアルミナ43の細孔の深さ、幅及び周期を制御することにより、円柱状凸部12aの高さ、径、周期を制御し、その結果、所望の実効屈折率及び高さを有する二次元周期構造体12が得られる。
【0032】
陽極酸化処理によりポーラスアルミナを一旦形成し、クロム酸及びリン酸の混酸等の剥離液に浸漬してポーラスアルミナを剥離した後、再び陽極酸化処理を行ってポーラスアルミナ43を形成しても良い。このような前処理を行うことにより、ポーラスアルミナ43の表面状態及び細孔の周期性を整えることができる。
【0033】
(b) 二次元周期構造体の形成
光学素子1の基材10に二次元周期構造体12を形成する方法としては、図4(c)〜(f) に示すように、ポーラスアルミナ転写型40に光学素子1の基材10を接触させ、基材10が軟化する温度まで加熱しつつ押圧することにより、基材10にポーラスアルミナ43の二次元周期の細孔構造を転写する方法(熱転写法、ホットエンボス法、熱インプリント法等)が挙げられる。また他の転写方法としては、射出成形用の金型にポーラスアルミナ転写型40を形成し、金型中に溶融した樹脂を射出して硬化させることにより、光学素子1を成型すると同時に表面に二次元周期の細孔構造の転写を行なう方法(射出成形法)、表面にポーラスアルミナ転写型40を形成した金型の中に熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂等の流動性の高い樹脂を注入し加熱や光照射を行なって硬化させることにより、光学素子1の成型と同時に転写する方法(キャスティング法)、ポーラスアルミナ転写型40と基材10とを接触させ、その隙間に流動性の高い熱硬化性樹脂を挿入し加熱を行なって硬化させたり、光硬化性樹脂を挿入し光照射を行なって硬化させたりすることにより、光学素子1の表面に構造を転写する方法(特に紫外線硬化型の樹脂を用いた手法をUVインプリント法と呼ぶ)等が挙げられる。
【実施例】
【0034】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
実施例1
直径30 mmのガラス平面基板41上に純度99.99%のアルミ膜42を約1μm成膜した。このガラス平面基板41を17℃の0.3 Mシュウ酸電解質に浸漬し、陽極に電圧60Vを31秒間印加し、ガラス平面基板41の表面にポーラスアルミナを形成した。このガラス平面基板41をクロム酸及びリン酸の混酸の剥離液に浸漬しポーラスアルミナを剥離した。再び同じ条件でガラス平面基板41の表面にポーラスアルミナ43を形成した。その後、30℃の5wt%リン酸に30分間浸漬して孔径拡大処理を行ないポーラスアルミナ43の細孔径を拡大した。ポーラスアルミナ43が形成されたガラス平面基板41を純水により洗浄した後、乾燥させ、ポーラスアルミナ転写型40を作製した。図6(a) 及び(b) に示すように、ポーラスアルミナ43の表面には約150 nmの二次元周期で細孔が形成されていた。
【0036】
ポーラスアルミナ転写型40を離型剤(DURASURF HD-1101, 株式会社ハーベス製)に浸漬し、一定速度で引き上げた後、乾燥させることにより、ポーラスアルミナ43の細孔に離型剤を塗布した。ポーラスアルミナ43の表面に紫外線硬化樹脂(PAK-01, 東洋合成工業株式会社製)を塗布し、その上に光学ガラスBK7(屈折率1.52)製の平板を設置して圧力0.5MPaで押圧しながら、両者を密着させた状態で紫外線を照射した。紫外線硬化樹脂はBK7ガラスとほぼ同じ屈折率(1.52)を有する。
【0037】
紫外線硬化樹脂が硬化した後、ポーラスアルミナ転写型40から離型させ、図7(a) 及び(b) に示す二次元周期構造体12を有する光学素子1が得られた。二次元周期構造体12の円柱状凸部12aは、直径が約70 nmであり、高さが約105 nmであり、約150 nmの二次元周期で形成されていた。
【0038】
実施例1の光学素子1の分光反射率特性を図8に示す。400〜700 nmの可視光領域で反射率が1%以下であり、良好な反射防止効果が得られていることが分かる。分光反射率の極小値(ピーク反射率)は波長520 nm付近で約0%であった。入射媒質を空気(屈折率n0=1)とし、このピーク反射率を示す波長(ピーク波長)における二次元周期構造体12の実効屈折率nを計算したところ、約1.23であった。
【0039】
実施例2〜13
陽極酸化の印加電圧及び処理時間とガラス平面基板41の孔径拡大のためのリン酸への浸漬時間を表1に示す値に変更した以外は、実施例1と同じ方法で光学素子1を作製した。ポーラスアルミナ転写型40及び光学素子1の特性を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1(続き)

【0042】
実施例2〜4はポーラスアルミナ43の製造条件の孔径拡大のためのリン酸への浸漬時間を変更し、実施例8〜10及び実施例11〜13はそれぞれ陽極酸化処理時間を変更している。表1から分かるように、リン酸への浸漬時間を大きくすると円柱状凸部12aが太くなり(図9)、陽極酸化処理時間を大きくすると円柱状凸部12aが高くなった(図10)。
【0043】
ピーク反射率の値は円柱状凸部12aが細くなるほど低下し、円柱状凸部12aの太さが70 nmのときピーク反射率は約0%となった。ピーク反射率から推定した実効屈折率も円柱状凸部12aが細くなるにつれて小さくなっており、円柱状凸部12aの太さを制御することで二次元周期構造体12の実効屈折率が制御可能であることが分かる。実施例2の二次元周期構造体の実効屈折率は約1.23であり、入射媒質である空気の屈折率n0(1.00)と基板の屈折率(1.52)の積の平方根(1.23)に相当している。このように二次元周期構造体12の実効屈折率がn=(n0nm)1/2に近づくほどピーク反射率は低下し、n=(n0nm)1/2を満足したときピーク反射率を約0%となるため良好な反射防止防止特性が得られることがわかる。
【0044】
実施例5及び図11から分かるように、陽極酸化処理時の印加電圧を40Vに下げると、ポーラスアルミナ43の細孔周期が約100 nmに低下し、それに伴い円柱状凸部12aの周期も約100 nmに低下した。このように陽極酸化処理時の印加電圧により細孔周期を制御できることがわかる。実施例5〜7と実施例2〜4とはそれぞれ円柱状凸部12aの周期及び太さが異なるが、円柱状凸部12aの体積占有率はほぼ同じ値で対応しており、図12及び13に示すように、二次元周期構造体12の実効屈折率および分光反射率特性もほぼ同じであった。
【0045】
実施例8〜10では、図14に示すように、ピーク反射率は約0%と一定であったが、ピーク波長は円柱状凸部12aが高くなるほど長波長側に移動する傾向が見られた。このように、ポーラスアルミナの細孔の深さによって円柱状凸部12aの高さを変化させることによりピーク波長を制御することができる。
【0046】
実施例11〜13では、図15に示すように、405nm、660nm及び780nmのピーク波長でピーク反射率値がほぼ0%になるように、円柱状凸部12aの周期、高さ及び太さを調整したところ、表1に示すように所望の特性が得られた。
【0047】
実施例1〜10においては、分光反射率の極小ピーク波長が400〜700 nmの領域にあり、可視光の全領域で良好な反射防止特性が得られた。このように、円柱状凸部12aの周期、高さ及び太さを制御することにより、使用する波長領域が幅を持っている場合でも良好な反射防止特性が得られることが分かった。
【0048】
比較例1
実施例1と同じガラス平面基板41を用いて、二次元周期構造体12を形成せずに反射率を測定したところ、4.27%だった。比較例1の光学素子1の分光反射率特性を図16に示す。
【0049】
二次元周期構造体12の機械的強度を確認するため、実施例1の表面をシルボン紙を用いて拭き取りを実施した。拭き取り前後での反射率の変化はほとんどなく、二次元周期構造体12は100〜200 nm程度の非常に微細な構造にもかかわらず機械的強度が高いことがわかる。また、シルボン紙に溶剤(エタノール)を付けて拭き取りを実施した場合においても、拭き取り前後での反射率の変化はほとんどなかった。
【符号の説明】
【0050】
1・・・光学素子
10・・・基材
11・・・基材部
12・・・二次元周期構造体
12a・・・円柱状凸部
20・・・樹脂層
40・・・ポーラスアルミナ転写型
41・・・処理基板
42・・・アルミ膜
43・・・ポーラスアルミナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次元周期の細孔構造を有する陽極酸化ポーラスアルミナを転写型とし、前記細孔構造を基材表面に転写してなり、前記細孔構造の逆パターンを有する複数の微細な円柱状凸部からなる二次元周期構造体が前記基材表面に設けられており、前記円柱状凸部の周期が使用する光の波長以下であることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
基材表面に樹脂層が形成された光学素子であって、二次元周期の細孔構造を有する陽極酸化ポーラスアルミナを転写型とし、前記細孔構造を前記樹脂層表面に転写してなり、前記細孔構造の逆パターンを有する複数の微細な円柱状凸部からなる二次元周期構造体が前記樹脂層表面に設けられており、前記円柱状凸部の周期が使用する光の波長以下であることを特徴とする光学素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光学素子において、前記円柱状凸部の周期が50〜1000 nmであることを特徴とする光学素子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の光学素子において、0°入射光の波長領域400〜700 nmにおける平均反射率が2%以下であることを特徴とする光学素子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の光学素子において、前記円柱状凸部の平均太さをD(nm)とし、前記円柱状凸部の平均周期をp(nm)としたとき、前記二次元周期構造体における前記円柱状凸部の体積占有率fが下記式(1):
f=πD2/(2×√3×p2) ・・・(1)
を満たすことを特徴とする光学素子。
【請求項6】
請求項5に記載の光学素子において、前記基材の屈折率をnmとし、入射媒質の屈折率をn0とし、前記二次元周期構造体の実効屈折率をnとしたとき、下記式(2):
n=fnm+(1―f)n0 ・・・(2)
を満たすことを特徴とする光学素子。
【請求項7】
請求項5に記載の光学素子において、前記基材の屈折率をnmとし、入射媒質の屈折率をn0とし、前記二次元周期構造体の実効屈折率をnとしたとき、下記式(3):
n=(fnm2+(1―f)n021/2 ・・・(3)
を満たすことを特徴とする光学素子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の光学素子において、二次元周期構造体の実効屈折率をnとしたとき、下記式(4):
n=(n0nm)1/2 ・・・(4)
を満たすことを特徴とする光学素子。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の光学素子において、前記円柱状凸部の平均高さをh(nm)としたとき、使用波長λ(nm)の光に対して、下記式(5):
nh=λ/4 ・・・(5)
を満たすことを特徴とする光学素子。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の光学素子において、前記円柱状凸部の平均高さをh(nm)としたとき、使用波長λ1〜λ2(nm)の光において、下記式(6):
λ1/4≦nh≦λ2/4 ・・・(6)
を満たすことを特徴とする光学素子。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の光学素子において、前記二次元周期構造体の分光反射率特性の極小値を示す波長の少なくとも1つが使用する光の波長と一致することを特徴とする光学素子。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載の光学素子において、前記二次元周期構造体の分光反射率特性の極小値を示す波長の少なくとも1つが約405 nmであることを特徴とする光学素子。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれかに記載の光学素子において、前記二次元周期構造体の分光反射率特性の極小値を示す波長の少なくとも1つが約660 nmであることを特徴とする光学素子。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれかに記載の光学素子において、前記二次元周期構造体の分光反射率特性の極小値を示す波長の少なくとも1つが約780 nmであることを特徴とする光学素子。
【請求項15】
請求項1〜10のいずれかに記載の光学素子において、使用波長λ1〜λ2(nm)の光に対して、前記二次元周期構造体の分光反射率特性の極小値を示す波長がλ1〜λ2(nm)の範囲にあることを特徴とする光学素子。
【請求項16】
使用する光の波長以下の二次元周期の細孔構造を表面に有する陽極酸化ポーラスアルミナを転写型とし、前記細孔構造を基材表面に転写し、もって前記細孔構造の逆パターンを有する複数の微細な円柱状凸部からなる二次元周期構造体を基材表面に設ける光学素子の製造方法。
【請求項17】
基材表面に樹脂層を形成し、使用する光の波長以下の二次元周期の細孔構造を表面に有する陽極酸化ポーラスアルミナを転写型とし、前記樹脂層に前記細孔構造を転写し、もって前記細孔構造の逆パターンを有する複数の微細な円柱状凸部からなる二次元周期構造体を前記樹脂層表面に設ける光学素子の製造方法。
【請求項18】
請求項16又は17に記載の光学素子の製造方法において、前記陽極酸化ポーラスアルミナの細孔周期及び細孔径を制御することにより、前記円柱状凸部の周期、及び太さを制御し、もって二次元周期構造体の屈折率を制御することを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項16〜18のいずれかに記載の光学素子の製造方法において、前記陽極酸化ポーラスアルミナの細孔周期、細孔深さ及び細孔径を制御することにより、前記円柱状凸部の周期、高さ及び太さを制御し、もって前記基材表面の分光反射率特性を制御することを特徴とする方法。

【図1】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−237469(P2011−237469A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105945(P2010−105945)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】