説明

光学素子成形方法

【課題】予備成形素材の形状偏差により生じる光学素子成形品の密度偏差や形状偏差等の異方性に伴う性能劣化を抑制可能な光学素子成形方法を提供する。
【解決手段】本発明のある観点によれば,レンズ形成面120とレンズ形成面の外縁に設けられたフランジ部110とからなり、フランジ部の一端にゲート部130を突出してなる予備成形素材100を射出成形する第1の工程と、ゲート部を含むフランジ部の一端を切除部112として切除するとともに、フランジ部の形状がレンズ形成面の光軸に対して軸対称となるようにフランジ部の他端を形状補償部114として切除する第2の工程と、第2の工程で成形された予備成形素材を加熱軟化した状態でプレス成形して光学素子成形品150を成形する第3の工程と、を含む光学素子成形方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学機器の小型軽量化および多機能化に伴い、光学系に用いられる様々な光学素子が開発されている。特に、DVD(Digital Versatile Disk)等、光学機器に用いられるピックアップレンズを始めとする、光ディスク用レンズを使用する製品では、光学素子の高開口数化が要求されている。さらに、「次世代DVD」規格とされるブルーレイディスク(大容量相変化光ディスク)では、高密度なデータ記録を実現するために短波長の青紫色レーザとともに高開口数レンズが用いられており、光学素子に対する高開口数化の要求は今後とも一層高まるものと予想されている。
【0003】
光学素子の成形方法としては、プリフォーム等の予備成形素材をプレス成形型上に載置して加熱軟化した状態でプレス成形することで、光学素子を成形する精密プレス成形が知られている。精密プレス成形により成形された光学素子のレンズ面は、研削、研磨等の後加工を必要とせず、所望の形状を高精度に成形可能であるため、特に非球面や微細パターンを有するレンズ面を高精度に成形できる点で優れている。
【0004】
予備成形素材は、例えば、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂等の合成樹脂材からなり、下記特許文献1に示されるように、レンズ形成面とレンズ形成面の外縁に設けられたフランジ部とを備えて射出成形される場合がある。予備成形素材の射出成形に際しては、まず、予備成形素材のレンズ形成面に要求される面形状を備えた射出成形型のキャビティ内に溶解素材が成形型側面のゲートを通じて注入・充填される。そして、キャビティ内の溶解素材が成形型から所定の型締力を作用された状態で冷却硬化されることで所定形状の予備成形素材が成形される。さらに、冷却硬化後の予備成形素材は、フランジ部を介してゲートに充填された素材(ゲート部)と一体化しているため、例えばニッパ等の切断手段を用いて切離される。ここで、予備成形素材は、例えば、ゲート部を含むフランジ部の一部が切除されて切離される。
【0005】
【特許文献1】特開2004−188972公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の光学素子成形方法においては、切離された予備成形素材がプレス成形型上に載置されて加熱軟化された状態でプレス成形されることで、光学素子成形品が成形されていた。しかし、切離しに際してゲート部を含むフランジ部の一部が切除されることで、プレス成形前の予備成形素材には形状偏差が生ずる場合がある。そして、かかる状態の予備成形素材がプレス成形されることで、プレス成形型から予備成形素材に作用するプレス圧力が不均一となり易い。これにより、プレス成形より得られた光学素子成形品では、熱塑性変形に伴う密度偏差や形状偏差が生じ易くなり、レンズ面の異方性に起因する収差が生ずることで、光学性能が劣るという問題が生じていた。特に、高開口数レンズの性能要求を満たす上では、レンズ面の曲率半径をより小さく(表面曲率を大きく)する必要があるため、レンズ面の異方性に起因する収差が顕著に生じることが問題となっていた。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、予備成形素材の形状偏差により生じる光学素子成形品の密度偏差や形状偏差等の異方性に伴う性能劣化を抑制可能な、新規かつ改良された光学素子成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点によれば、レンズ形成面とレンズ形成面の外縁に設けられたフランジ部とからなり、フランジ部の一端にゲート部を突出してなる予備成形素材を射出成形する第1の工程と、ゲート部を含むフランジ部の一端を切除部として切除するとともに、フランジ部の形状がレンズ形成面の光軸に対して軸対称となるようにフランジ部の他端を形状補償部として切除する第2の工程と、第2の工程で成形された予備成形素材を加熱軟化した状態でプレス成形して光学素子成形品を成形する第3の工程と、を含む光学素子成形方法が提供される。
【0009】
かかる光学素子成形方法によれば、第1の工程では、溶解素材がゲートを通じて射出成形型に注入・充填され、所定の型締力を作用された状態で冷却硬化されることで、予備成形素材が射出成形される。ここで、フランジ部の一端にはゲートに充填された素材(ゲート部)が一体化して突出している。第2の工程では、ゲート部を含むフランジ部の一端が切除部として切除されるとともに、フランジ部の他端が形状補償部として切除される。ここで、形状補償部は、フランジ部の形状がレンズ形成面の光軸に対して軸対称となるように形成される。第3の工程では、第2の工程で成形された予備成形素材が加熱軟化された状態でプレス成形され、光学素子成形品が成形される。よって、形状補償部が形成されることで、予備成形素材に生ずる形状偏差が抑制されるため、プレス成形型から予備成形素材に作用するプレス圧力が均一となり易くなる。これにより、プレス成形より得られた光学素子成形品では、熱塑性変形に伴う密度偏差や形状偏差等の異方性が生じ難くなり、レンズ面の異方性に起因して収差が生じることで光学性能に劣るという問題も生じ難くなる。
【0010】
本発明の第2の観点によれば、レンズ形成面とレンズ形成面の外縁に設けられたフランジ部とからなり、フランジ部の一端にゲート部を突出するとともに、フランジ部の他端に形状補償部を予め設けてなる予備成形素材を射出成形する第1の工程と、フランジ部の形状がレンズ形成面の光軸に対して軸対称となるように、フランジ部の一端においてゲート部およびフランジ部の少なくとも一部を切除部として切除する第2の工程と、第2の工程で成形された予備成形素材を加熱軟化した状態でプレス成形して光学素子成形品を成形する第3の工程と、を含む光学素子成形方法が提供される。
【0011】
かかる光学素子成形方法によれば、第1の工程では、溶解素材がゲートを通じて射出成形型に注入・充填され、所定の型締力を作用された状態で冷却硬化されることで、予備成形素材が射出成形される。ここで、フランジ部の一端にはゲートに充填された素材(ゲート部)が一体化して突出し、フランジ部の他端には形状補償部が予め設けられている。第2の工程では、ゲート部およびフランジ部の少なくとも一部が切除部として切除される。ここで、切除部は、フランジ部の形状がレンズ形成面の光軸に対して軸対称となるように形成される。第3の工程では、第2の工程で成形された予備成形素材が加熱軟化された状態でプレス成形され、光学素子成形品が成形される。よって、形状補償部が形成されることで、予備成形素材に生ずる形状偏差が抑制されるため、プレス成形型から予備成形素材に作用するプレス圧力が均一となり易くなる。これにより、プレス成形により得られた光学素子成形品では、熱塑性変形に伴う密度偏差や形状偏差等の異方性が生じ難くなり、レンズ面の異方性に起因して収差が生じることで光学性能に劣るという問題も生じ難くなる。また、形状補償部が射出成形により予め形成されるため、プレス成形に際してフランジ部の他端を切除する必要がない。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、予備成形素材の形状偏差により生じる光学素子成形品の密度偏差や形状偏差等の異方性に伴う性能劣化を抑制可能な、光学素子成形方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、添付した図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態に係る光学素子成形方法について説明する。
【0015】
本発明の第1の実施形態に係る光学素子成形方法によれば、まず、第1の工程では、レンズ形成面とレンズ形成面の外縁に設けられたフランジ部とからなり、フランジ部の一端にゲート部を突出してなる予備成形素材が射出成形される。つぎに、第2の工程では、ゲート部を含むフランジ部の一端が切除部として切除されるとともに、フランジ部の形状がレンズ形成面の光軸に対して軸対称となるようにフランジ部の他端が形状補償部として切除される。さらに、第3の工程では、第2の工程で成形された予備成形素材が加熱軟化された状態でプレス成形されることで光学素子成形品が成形される。
【0016】
なお、以下では「予備成形素材」を「プリフォーム」とも称する。プリフォームとは、成形素材を、例えば、球形、両凸曲面形、円板形または円柱形等の形状に予備成形したものである。通常、プリフォームは、精密プレス成形の容易性の観点より、得ようとする光学素子成形品(レンズ成形品)の形状に近い形状であることが望ましい。
【0017】
まず、本発明の実施形態に係る光学レンズ成形方法について説明する。図1は本実施形態に係るプリフォームの射出成形の概略を示し、図2は光学レンズ成形用の精密プレス成形装置の概略を示す。
【0018】
まず第1の工程では、例えば、図1に示すような射出成形装置400が用いられる。プリフォームの射出成形に用いられる射出成形装置400では、例えば、プリフォーム100のレンズ形成面120に要求される面形状を備えた射出成形型410のキャビティ412に、射出成形型410の側面に設けられたゲート414から溶解素材が注入(a)、充填される(b)。ここで、キャビティ412内の溶解素材には射出成形型410から所定の型締力およびゲート414からの充填圧力が作用するため、溶解素材を冷却硬化させることで所定形状のプリフォームが成形される。
【0019】
これにより、第1の工程では、例えば、図2に示すように、略凸状のレンズ形成面120とレンズ形成面120の外縁に設けられたフランジ部110とからなるプリフォーム100が成形される。プリフォーム100のレンズ形成面120は、レンズ形成面120の法線と光軸X−X’との間の角度が所定の角度θ1(例えば、60°)以上となるように成形され、すなわち、レンズ成形品150のレンズ面170のθ2と比して、曲率半径が小さく(表面曲率が大きく)、急なカーブの曲面をなしてもよい(図4(B)参照)。なお、第1の工程で成形されるプリフォーム100の形状は、冷却硬化後に収縮するため、その収縮量を補償するように予め設計された射出成形型310が一般に用いられる。
【0020】
つぎに、第2の工程では、詳細は後述するが、フランジ部110を介してゲート414に充填された素材(ゲート部130)と一体化しているプリフォーム100が、例えばニッパ等の切断手段を用いて切離される。
【0021】
さらに、第3の工程では、例えば、図2に示すような精密プレス成形装置300が用いられる。ここで、精密プレス成形装置300は、例えば、プレス成形型310、胴型320、支持部350および支持台340、ならびに、それらを収容する密閉管370、および密閉管370の外周に配設された熱電対380を含んで構成される。ここで、プレス成形型310は、一対の上型312および下型314からなり、少なくともいずれか一方に光学機能転写面が形成された光学機能転写部316が備えられ、プリフォーム100のフランジ部110を支持するフランジ支持部318を備えている。
【0022】
精密プレス成形装置300では、例えば、一対のプレス成形型310の間にプリフォーム100が載置され、密閉管370内を所定の気体構成の雰囲気に保った状態で、加熱装置の熱電対380等に通電して密閉管370内が加熱される。そして、プレス成形型310の内部温度を素材の屈伏点を上回る所定の温度、例えば、ガラス転移温度+略20℃に設定した状態で、プレス部材330を降下させて上型312を押下してプレス成形型310に配置されたプリフォーム100をプレス成形する。さらに、プレス成形の後、成形圧力を低下させてプリフォーム100をプレス成形型310に接触させた状態でプリフォーム素材のガラス転移温度を下回る所定の温度まで徐冷し、次いで室温まで急冷してプレス成形型310から脱型する。
【0023】
第3の工程では、例えば、プリフォーム100のレンズ形成面120の曲率半径R1より大きな曲率半径R2を有し、光学機能転写面が形成された光学機能転写部316を備えたプレス成形型310にプリフォーム100を載置して、プリフォーム100を加熱軟化した状態でプレス成形することで、プリフォーム100のレンズ形成面120に光学機能転写面を転写する。ここで、プレス成形型310の光学機能転写部316は、プレス成形型310に載置されたプリフォーム100のレンズ形成面120を、高精度の光学機能面を伴いつつ、レンズ成形品150のレンズ面170に要求される所望の形状に成形できるように、高い精度で面設計されている。
【0024】
ところで、従来の光学レンズ成形方法においては、切離されたプリフォーム200がプレス成形型310に載置されて加熱軟化された状態でプレス成形されることで、レンズ成形品250が成形されていた。しかし、切離しに際して、ゲート部230を含むフランジ部210の一部が切除されることで、プリフォーム200には形状偏差が生ずるため、かかる状態のプリフォーム200がプレス成形されると、プレス成形型310からプリフォーム200に作用するプレス圧力が不均一となり易い。これにより、プレス成形後のプリフォーム、すなわち、レンズ成形品250では、熱塑性変形に伴う密度偏差や形状偏差が生じ易くなり、レンズ面270の異方性に起因する収差が生ずることで、レンズ成形品250の光学性能が劣るという問題が生じていた。特に、高開口数レンズの性能要求を満たす上では、レンズ面270の曲率半径をより小さく(表面曲率を大きく)する必要があるため、レンズ面270の異方性に起因する収差が顕著に生じることが問題となっていた。
【0025】
なお、収差とは、光学系における理想的な結像からのズレを称する。例えば、理想的な結像とは、「点状物体は点像を作る」、「光軸に垂直な平面物体は平面の像を作る」、「光軸に垂直な平面上の図形はそれと相似な像の図形を作る」の3条件を満たす状態を称する。そして、収差には主にレンズの形状に起因する以下の5種類の単色収差、すなわち、球面収差、コマ収差、非点収差、像面湾曲、歪曲収差、と称されるザイデルの5収差が含まれる。ここで、収差は、開口数や視野の広さの階乗に比例して変動するため、特に、高開口数のレンズにおいて顕著に生じる。
【0026】
一方、本実施形態に係る光学レンズ成形方法は、切離しに際して、プレス成形前のプリフォーム100に生じた形状偏差を補償する工程(第2の工程)を含むことで、プレス成形後のプリフォーム150において熱塑性変形に伴う密度偏差や形状偏差の発生を抑制できることを特徴とする。
【0027】
図3は、本実施形態に係るプリフォームおよびプリフォームの成形方法(第1、2の工程)を示す図であり、図3(a)が射出成形されたプリフォームの形状、図3(b)〜(d)が成形方法を各々に示す。
【0028】
図3(a)に示すように、プリフォーム100は、レンズ形成面120とレンズ形成面120の外縁に設けられたフランジ部110とを含む。レンズ形成面120は、例えば円板状を呈し、レンズ成形品150においてレンズ面170として機能する部分であり、フランジ部110は、レンズ形成面120と一体形成され、レンズ成形品150自体を光学機器等のレンズ保持部等に装着するために用いられる。なお、図3(a)に示すプリフォーム100では、フランジ部110がレンズ形成面120の外縁に環状に形成されているが、例えば、外縁の一部に形成されるようにしてもよい。
【0029】
図3(a)に示すように、フランジ部110の外縁の一端には切除部112が形成されている。切除部112は、切離しに際して、ゲート部130とともにフランジ部110の一端が切除されることで形成される。ここで、切除部112は、図3(a)に示すように、フランジ部110の一端を光軸X−X’に対して斜めに切除することで形成されることが望ましい。これにより、切離されたプリフォーム100では、フランジ部110の上面または下面の形状が維持されているため、レンズ成形品150は、形状が維持されている部分を介してレンズ保持部等に装着されうる。
【0030】
また、図3(a)に示すように、フランジ部110の外縁の他端には形状補償部114が形成されている。形状補償部114は、フランジ部110の形状がレンズ形成面120の光軸X−X’に対して軸対称となるように、フランジ部110の他端が切除されることで形成される。
【0031】
プリフォーム100の成形に際しては、まず、図3(b)に示すように、フランジ部110に切除部112および形状補償部114を備えていない成形品が成形される。例えば、図1に示すように、プリフォーム100のレンズ形成面120に要求される面形状を備えた射出成形型410が準備され、溶解素材がゲート414から成形型410のキャビティ412に注入・充填されて型締された後に、冷却硬化されることで、プリフォーム100が成形される。冷却硬化後のプリフォーム100では、フランジ部110の外縁の一端にゲート部130が一体形成されている。
【0032】
そして、図3(c)に示すように、フランジ部110の一端が切除されることで、プリフォーム100が切離される。切離しに際しては、フランジ部110の一端の一部が例えばニッパ等の切断手段を用いてゲート部130とともに切除される。切離しにより、プリフォーム100のフランジ部110の一端には切除部112が形成される。
【0033】
さらに、図3(d)に示すように、フランジ部110の形状がレンズ形成面120の光軸X−X’に対して軸対称となるように、フランジ部110の他端が形状補償部114として切除される。なお、かかるプリフォーム100の成形方法においては、切除部112と形状補償部114とが同時に形成されるようにしてもよい。
【0034】
図4は、本実施形態に係るレンズ成形品の成形方法(第3の工程)を、従来の成形方法と対比して示す図であり、図4(A)が従来の成形方法、図4(B)が本実施形態に係る成形方法を各々に示す。
【0035】
まず、従来のレンズ成形品250の成形方法について、図4(A)を参照しつつ説明する。図4(A)(a)には、例えば、図1に示すような射出成形装置400により成形されたプリフォーム200が示される。ここで、射出成形されたプリフォーム200は、切離しに際してフランジ部210の一端に切除部212が形成されることで、フランジ部210の両端の形状が異なるという形状偏差を伴っている。
【0036】
図4(A)(b)は、かかるプリフォーム200がプレス成形型310に載置されて、加熱軟化された状態でプレス成形される状況を示す。ここで、下型314の光学機能転写部316がプリフォーム200のレンズ形成面220の曲率半径より大きな曲率半径を有するため、プリフォーム200のレンズ形成面220と、下型314の光学機能転写部316との間には所定のクリアランスが確保されている。また、フランジ部220の両端と胴型320との間にも同様なクリアランスが確保されている。また、フランジ部220の下面は、下型314に形成されたフランジ支持部318の当接面に当接することで支持されている。
【0037】
かかる状態のプリフォーム200が、例えば、上型312によりプレスされると、プリフォーム200の上側の平坦面が上型312によりプレスされることになる。ここで、プリフォーム200および上型312の相互に接触する加圧面の平坦性、ならびに、プリフォーム200の配置精度および成形型310の設置精度等を含む成形精度が確保されており、かつ、プリフォーム200が切除部212の形成以外に起因する形状偏差を伴わなければ、プリフォーム200の加圧面には、均一なプレス圧Pが作用する。これにより、加熱軟化された状態のプリフォーム200では、プレス圧Pのプレス圧力による熱塑性変形が生ずる。
【0038】
図4(A)(b)には、プリフォーム200の各部分において想定される熱塑性変形の発生方向が概念的に示されている。レンズ形成面220では、光学機能転写部316との間のクリアランスを充填するような変形が生ずる。また、フランジ部210の両端は、フランジ支持部318の当接面と上型312との間で圧縮されることで、部材厚(軸X−X’方向の高さ)を減少させつつ、外縁側に拡張するような変形が生ずる。ここで、切除部212が形成されたフランジ部210の一端では、例えば、部材厚が小さい先端部において下向きの変形が生じ易くなる。一方、フランジ部210の他端では、部材厚が略同一であるため、フランジ部210の一端と同様な変化が生じ難い。しかし、例えば、フランジ部210の外縁側への拡張が胴型320との間で確保されているクリアランス内に収まらなくなれば、フランジ部210とレンズ形成面220との境界部分において、レンズ形成面220の他の部分と比して相対的に充填性の高い(高密度)領域Aが生ずることとなる。なお、上記説明は、密度偏差が発生する場合の一因を示すものに過ぎず、発生要因をかかる場合に限定するものではない。
【0039】
図4(A)(c)には、プレス成形による熱塑性変形が略完了した時点におけるプリフォーム200’が示される。プリフォーム200’は、成形型310からプレス圧力が外縁に作用することで、熱塑性変形が生じている。ここで、フランジ部210の両端の形状が異なるという、射出成形時の形状偏差に起因して、フランジ部210’とレンズ形成面220’との境界部分において、レンズ形成面220’の他の部分と比して相対的に充填性の高い(高密度)領域Aが生じている。
【0040】
図4(A)(d)には、プレス成形後のプリフォーム200’が成形型310から脱型されることで得られたレンズ成形品250が示される。かかる従来の成形方法により成形されたレンズ成形品250は、熱塑性変形に伴う密度偏差を伴うため、レンズ面270の異方性に起因する収差が生じてしまう。
【0041】
つぎに、本実施形態に係るレンズ成形品250の成形方法(第3の工程)について、図4(B)を参照しつつ説明する。なお、従来の成形方法と実質的に同一となる事項については、重複説明をさけるために説明を省略する。
【0042】
図4(B)(a)には、例えば、図1に示すような射出成形装置400により成形されたプリフォーム100が示される。ここで、本実施形態に係る射出成形されたプリフォーム100では、第2の工程により、切離しに際して、フランジ部110の一端に切除部112が形成されるとともに、フランジ部110の他端に形状補償部114が形成されることで、フランジ部110の両端の形状が略同一となり形状偏差が殆ど伴わない。
【0043】
本実施形態に係るプリフォーム100が、例えば、上型312によりプレスされると、プリフォーム100の上側の平坦面が上型312によりプレスされることになる。ここで、プリフォーム100および上型312の相互に接触する加圧面の平坦性、ならびに、プリフォーム100の配置精度および成形型310の設置精度等を含む成形精度が確保されていれば、プリフォーム100が形状偏差を殆ど伴わないため、プリフォーム100の加圧面には、均一なプレス圧Pが作用する。これにより、加熱軟化された状態のプリフォーム100では、プレス圧Pに伴うプレス圧力による熱塑性変形が生ずる。
【0044】
図4(B)(b)には、プリフォーム100の各部分において想定される熱塑性変形の発生方向が概念的に示されている。レンズ形成面120では、光学機能転写部316との間のクリアランスを充填するような変形が生ずる。また、フランジ部110の両端は、フランジ支持部318の当接面と上型312との間で圧縮されることで、部材厚(軸X−X’方向の高さ)を減少させつつ、外縁側に拡張するような変形が生ずる。ここで、フランジ部110の両端では、形状偏差を伴わないため、均一な変化が生じ易くなる。これにより、従来の成形方法に関して説明されたように、フランジ部110とレンズ形成面120との境界部分において、レンズ形成面120の他の部分と比して相対的に充填性の高い(高密度)領域の発生が抑制されうる。
【0045】
図4(B)(c)には、プレス成形による熱塑性変形が略完了した時点におけるプリフォーム110’が示される。プリフォーム100’は、成形型310からプレス圧力が外縁に作用することで、熱塑性変形が生じている。ここで、射出成形後のプリフォーム100が形状偏差を殆ど伴わないため、プレス成形後のプリフォーム100’では、相対的に充填性を異にするような領域が生じてない。
【0046】
図4(B)(d)には、プレス成形後のプリフォーム100’が成形型310から脱型されることで得られたレンズ成形品150が示される。かかる本実施形態に係る成形方法により成形されたレンズ成形品150は、熱塑性変形に伴う密度偏差を殆ど伴わないため、レンズ面170の異方性に起因する収差の発生が抑制されうる。
【0047】
なお、上記では、レンズ面170の異方性がプレス成形時の熱塑性変形に伴う密度偏差により発生する場合について説明したが、異方性の発生要因は、密度偏差に限定されるものでない。例えば、切離しに際して、フランジ部110の一端が所定量以上に切除された場合について考えれば、プレス成形後のプリフォーム100’において、充填性の低い(低密度)領域が生じ、所望のレンズ形成面120’(レンズ面170)が形成されないことで、レンズ成形品150が形状偏差を伴ってしまうことも考えられる。そして、かかる場合においても、プレス成形前のプリフォーム100の形状偏差を可能な限り取除くことができれば、レンズ成形品150の形状偏差が抑制されうる。
【0048】
(第2の実施形態)
つぎに、本発明の第2の実施形態に係る光学素子成形方法について説明する。なお、例えば、図1に示されたプリフォームの射出成形の概略、図2に示された光学レンズ成形用の精密プレス成形装置の概略等、第1の実施形態と実質的に同一となる事項については、重複説明をさけるために説明を省略する。
【0049】
本発明の第2の実施形態に係る光学素子成形方法によれば、まず、第1の工程では、レンズ形成面とレンズ形成面の外縁に設けられたフランジ部とからなり、フランジ部の一端にゲート部を突出するとともに、フランジ部の他端に形状補償部を予め設けてなる予備成形素材が射出成形される。つぎに、第2の工程では、フランジ部の形状がレンズ形成面の光軸に対して軸対称となるように、フランジ部の一端においてゲート部およびフランジ部の少なくとも一部が切除部として切除される。さらに、第3の工程では、第2の工程で成形された予備成形素材が加熱軟化された状態でプレス成形されることで光学素子成形品が成形される。
【0050】
図5は、本実施形態に係るプリフォームおよびプリフォームの成形方法(第1、2の工程)の一例を示す図であり、図5(a)が射出成形されたプリフォームの形状、図5(b)〜(c)が成形方法を各々に示す。
【0051】
図5(a)において、プリフォーム100aは、前述した第1の実施形態に係るプリフォーム100と同様に、レンズ形成面120aの外縁にフランジ部110aが形成されて構成される。図5(a)に示すように、フランジ部110aの外縁の一端にはゲート部130aの一部がゲート残存部112aとして残存している。ゲート残存部112aは、切離しに際して、ゲート部130aの一端の一部が切除されずに残存されることで形成される。
【0052】
また、図5(a)に示すように、フランジ部100aの外縁の他端には凸状の形状補償部114aが形成されている。形状補償部114aは、フランジ部110aの形状がレンズ形成面120aの光軸X−X’に対して軸対称となるように、フランジ部110aの他端に突出して射出形成される。
【0053】
プリフォーム100aの成形に際しては、まず、図5(b)に示すように、フランジ部110aの他端に凸状の形状補償部114aが予め設けられた成形品が成形される。例えば、プリフォーム110aのレンズ形成面120aに要求される面形状を備えた射出成形型310aが準備され、溶解素材がゲート414から成形型310aのキャビティ312aに注入・充填されて型締された後に、冷却硬化されることで、プリフォーム100aが成形される。ここで、成形型310aは、プリフォーム100aのレンズ形成面120aおよびフランジ部110aとともに、フランジ部110aの外縁の他端に凸状の形状補償部114aを形成させる部分を備えてなる。冷却硬化後のプリフォーム110aでは、フランジ部110aの外縁の一端にゲート部130aが一体形成されている。
【0054】
そして、図5(c)に示すように、フランジ部110aの一端においてゲート部130aの一部が切除されることで、プリフォーム100aが切離される。切離しに際しては、ゲート部130aの一端の一部が例えばニッパ等の切断手段を用いてゲート部130aの他部から切除される。切離しにより、プリフォーム100aのフランジ部110aの一端にはゲート残存部112aが形成される。ここで、ゲート残存部112aは、フランジ部110aの形状がレンズ形成面120aの光軸X−X’に対して軸対称となるように、ゲート部130aの一部が切除されることで形成される。
【0055】
図6は、本実施形態に係るプリフォームの成形方法(第1、2の工程)の他例を示す図であり、図6(a)が射出成形されたプリフォームの形状、図6(b)〜(c)が成形方法を各々に示す。なお、本例の成形方法によれば、図6(a)に示すように、図3(a)に示したプリフォームと同様なプリフォームが成形されうる。
【0056】
プリフォーム100bの成形に際しては、まず、図6(b)に示すように、フランジ部110bの他端に凹状の形状補償部114bが予め設けられた成形品が成形される。例えば、プリフォーム100bのレンズ形成面120bに要求される面形状を備えた射出成形型410bが準備され、溶解素材がゲート414bから成形型410bのキャビティ412bに注入・充填されて型締された後に、冷却硬化されることで、プリフォーム100bが成形される。ここで、成形型410bは、プリフォーム100bのレンズ形成面120bおよびフランジ部110bとともに、フランジ部110bの外縁の他端に凹状の形状補償部114bを形成させる部分を備えてなる。冷却硬化後のプリフォーム100bでは、フランジ部110bの外縁の一端にゲート部130bが一体形成されている。
【0057】
そして、図6(c)に示すように、フランジ部110bの一端においてゲート部414bとともにフランジ部110bの一部が切除されることで、プリフォーム100bが切離される。切離しに際しては、ゲート部130bとともにフランジ部110bの一端の一部が例えばニッパ等の切断手段を用いてフランジ部110bから切除される。切離しにより、プリフォーム100bのフランジ部110bの一端には切除部112bが形成される。ここで、切除部112bは、フランジ部110bの形状がレンズ形成面120bの光軸X−X’に対して軸対称となるように、ゲート部130bとともにフランジ部110bの一部が切除されることで形成される。
【0058】
なお、本実施形態に係るレンズ成形品150a、150bの成形方法(第3の工程)については、前述した第1の実施形態に係る成形方法と比して、フランジ部110a、110bに設けられたゲート残存部112aもしくは切除部112bおよび形状補償部114a、114bの構成を異にするものである。しかし、プレス成形時のプレス圧Pの作用状況および熱塑性変形時の現象等については、概念的に殆ど同様であるため、重複説明をさけるために説明を省略する。
【0059】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0060】
上記の実施形態では、切除部112、112bまたはゲート残存部112a、および形状補償部114、114a、114bがフランジ部110、110a、110bの一端および他端の1箇所に各々に形成される場合について説明したが、本発明の適用はかかる場合に限定されるものではない。すなわち、本発明は、フランジ部110、110a、110bがレンズ形成面120、120a、120bの光軸X−X’に対して軸対象となるように形成される範囲内において、例えば、切除部112、112bまたはゲート残存部112a、および形状補償部114、114a、114bがフランジ部110、110a、110bの一端および他端の2箇所以上に各々に形成される場合の成形方法としても適用されうる。
【0061】
また、上記の実施形態では、プリフォーム100、100a、100bがプレス成形型310の下型314に配置され、可動自在な上型312によってプレスされる場合について説明したが、本発明の適用はかかる場合に限定されるものではなく、例えば、可動自在な下型314または可動自在な上下型312、314によってプレスされる場合の成形方法としても適用されうる。
【0062】
また、上記の実施形態では、プレス成形型310の下型314の光学機能転写部316に形成された光学機能転写面がプリフォーム100、100a、100bのレンズ形成面120、120a、120bに転写される場合について説明したが、本発明の適用はかかる場合に限定されるものではない。すなわち、本発明は、例えば、上型212の光学機能転写部216’に形成された光学機能転写面、または上型212および下型214の両方の光学機能転写部216、216’に形成された光学機能転写面がプリフォーム100、100a、100bのレンズ形成面120、120a、120bに転写される場合の成形方法としても適用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施形態に係るプリフォームの射出成形の概略を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る光学レンズ成形用の精密プレス成形装置の概略を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るプリフォームおよびプリフォームの成形方法を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係るレンズ成形品の成形方法を、従来の成形方法と対比して示す図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係るプリフォームおよびプリフォームの成形方法の一例を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係るプリフォームおよびプリフォームの成形方法の他例を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
100、100a、100b プリフォーム
110、110a、110b フランジ部
112、112b 切除部
112a ゲート残存部
114、114a、114b 形状補償部
120、120a、120b レンズ形成面
130、130a、130b ゲート部
150、150a、150b レンズ成形品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形された予備成形素材をプレス成形する光学素子成形方法であって、
レンズ形成面と前記レンズ形成面の外縁に設けられたフランジ部とからなり、前記フランジ部の一端にゲート部を突出してなる前記予備成形素材を射出成形する第1の工程と、
前記ゲート部を含む前記フランジ部の一端を切除部として切除するとともに、前記フランジ部の形状が前記レンズ形成面の光軸に対して軸対称となるように前記フランジ部の他端を形状補償部として切除する第2の工程と、
前記第2の工程で成形された前記予備成形素材を加熱軟化した状態でプレス成形して前記光学素子成形品を成形する第3の工程と、
を含むことを特徴とする光学素子成形方法。
【請求項2】
射出成形された予備成形素材をプレス成形する光学素子成形方法であって、
レンズ形成面と前記レンズ形成面の外縁に設けられたフランジ部とからなり、前記フランジ部の一端にゲート部を突出するとともに、前記フランジ部の他端に形状補償部を予め設けてなる前記予備成形素材を射出成形する第1の工程と、
前記フランジ部の形状が前記レンズ形成面の光軸に対して軸対称となるように、前記フランジ部の一端において前記ゲート部および前記フランジ部の少なくとも一部を切除部として切除する第2の工程と、
前記第2の工程で成形された前記予備成形素材を加熱軟化した状態でプレス成形して前記光学素子成形品を成形する第3の工程と、
を含むことを特徴とする光学素子成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−331311(P2007−331311A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−168097(P2006−168097)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】