説明

光学装置

【課題】
マクロ撮影時の像振れ補正において、迅速で、高精度な像振れ補正が可能な光学装置を提供する。
【解決手段】
3軸タイプの像振れ補正機構を有する光学装置において、像振れ補正制御手段が、角度振れ検出手段により検出する信号のうち、手振れの信号として補正レンズ群の目標位置算出に用いられる信号の周波数の下限を、マクロ撮影の場合とマクロ撮影以外の場合とで変更し、PID制御における演算によって、補正レンズ群の現在位置と、目標位置までの差分から、補正レンズ群移動手段の駆動量を算出する際に加えるゲインを、マクロ撮影の場合とマクロ撮影以外の場合とで変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、像振れ補正機構を有するカメラ用光学装置に関し、特に3軸タイプの像振れ補正機構を有し、マクロ撮影時に像振れ補正の効果を得ることを目的とした光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の撮像装置、とりわけ一眼レフカメラ、コンパクトカメラ、ビデオカメラにおいては、写真撮影における像振れを補正する機構が搭載されているものがある。
【0003】
写真撮影における像振れは、例えば撮影者の手振れ等に起因するカメラの振動によって結像面の像が動いてしまうことにより発生する。
【0004】
上記のような像振れを補正する補正機構には、レンズ側でレンズ光学系の一部のレンズ群を駆動して像振れ補正を行うレンズシフト式の像振れ補正機構と、カメラ側でイメージャーを駆動して像振れ補正を行うイメージャーシフト式の像振れ補正機構とがある。
【0005】
レンズシフト式の像振れ補正機構は、一般に、像振れを補正するために光軸と直交する方向に移動することで、結像位置をシフト可能なレンズ群(以下、補正レンズ群)と、カメラの振れを角速度として検出する角速度センサを有している。レンズシフト式の像振れ補正機構では、角速度センサの出力から像振れ量を算出し、その像振れ量に基づいて、その像振れを打ち消す方向に補正レンズ群を駆動制御することで結像位置を調整する。
【0006】
これに対して、イメージャーシフト式の像振れ補正機構は、カメラの振れを角速度として検出する角速度センサを有するが、結像位置をシフト可能な補正レンズ群を有さない。そのため、イメージャーシフト式の像振れ補正機構では、角速度センサの出力から像振れ量を算出し、その像振れ量に基づいて、その像振れを打ち消す方向にイメージャーを駆動制御することで結像位置を調整する。
【0007】
上記のとおり、レンズシフト式の像振れ補正機構もイメージャーシフト式の像振れ補正機構も、同様に結像位置を調整することにより像振れを補正しているが、イメージャーシフト式の像振れ補正機構では光学ファインダ像の像振れは補正できず、レンズ交換式の一眼レフカメラに用いるには不向きである。
【0008】
ここで、レンズシフト式の像振れ補正機構の仕組みについて詳しく説明する。
【0009】
補正レンズ群は、レンズ鏡筒内に配置されるレンズ光学系の少なくとも一枚のレンズであり、光軸と直交する面内において移動可能に保持されている。補正レンズ群を移動することで結像位置を一定に保つことができるため、撮影者は像振れの少ない画像が撮影できる。
【0010】
補正レンズ群を移動させるためのアクチュエータは、補正レンズ群を高速・高精度に移動すると共に、一定の位置に保持し続けるために、十分な推力と応答性を兼ね備えたものが用いられる。例えば、一般的に用いられるのはボイスコイルモータ(以下、VCM)である。
【0011】
通常、補正レンズ群を保持する鏡枠か、像振れ補正機構のユニット側にコイルが設けられ、対応する位置に永久磁石が設けられる。この一対となるコイルと永久磁石とが、一組のVCMとされる。VCMは補正レンズ群の外側に少なくとも二組以上配置され、補正レンズ群の移動を行う。
【0012】
補正レンズ群の現在位置を検出する位置センサは、アクチュエータに用いられるボイスコイルモータの磁束密度を検出するホール素子や、像振れ補正機構のユニット側に設けられ、補正レンズ群を保持する鏡枠に設けられた赤外発光ダイオードの発光を捉える光位置センサなどが用いられる。
【0013】
撮像装置に加わる撮影者の手振れを検出する振動センサは、角速度センサまたは加速度センサが用いられる。どちらのセンサを用いる場合も通常二つで一組の構成とし、ピッチ方向とヨー方向の振動を検出し、検出した信号を、撮像装置に加わる撮影者の手振れの情報として手振れ補正CPUに出力する。
【0014】
手振れ補正CPUは、振動センサの出力から像振れの影響を打ち消すのに必要な補正レンズ群の移動の目標位置を算出する。また、手振れ補正CPUは位置センサの出力から補正レンズ群の現在位置を特定する。
【0015】
更に、手振れ補正CPUは補正レンズ群の移動目標位置と補正レンズ群の現在位置との差分から、補正レンズ群の移動量を算出する。そして、手振れ補正CPUは決定された移動量に基づいて補正レンズ群を移動するよう、アクチュエータを制御し、補正レンズ群を移動する。
【0016】
レンズシフト式の像振れ補正機構は上記のように、振れの検出と、駆動量の算出と、振れ補正レンズ群の駆動動作を高速で繰り返し、像振れ補正を行っている。
【0017】
また、レンズシフト式の像振れ補正機構には補正レンズ群を駆動するアクチュエータを2つ備える2軸タイプの像振れ補正機構と、3つ備える3軸タイプの像振れ補正機構とがある。
【0018】
2軸タイプの像振れ補正機構では、補正レンズ群を駆動するアクチュエータが、光軸と垂直な平面上において、光軸を原点として直交する2軸上にそれぞれ配置される。
【0019】
一方、3軸タイプの像振れ補正機構では、補正レンズ群を駆動するアクチュエータが、光軸と垂直な平面上において、光軸を中心とした円周を略120度均等にする間隔で設定された3軸上にそれぞれ配置される。
【0020】
両者を比較すると、上記2軸タイプの像振れ補正機構は構成が簡易であるというメリットがあるが、3軸タイプの像振れ補正機構に比べ、アクチュエータが少なく、得られる推力が小さいという課題がある。
【0021】
一方、写真用カメラやビデオカメラ、そして電子スチルカメラ等の光学機器において近距離物体の撮影を主たる目的とした撮影レンズにマクロレンズと呼ばれるものがある。
【0022】
マクロレンズは一般的に、最大撮影倍率が2分の1倍以上であり、被写体を大きく撮影することができる。
【0023】
このようなマクロレンズにおいても像振れの補正の要請があり、以前より、手振れ補正の機能を持たせたマクロレンズが提案されている。
【0024】
例えば、引用文献1にはマクロ撮影を行う光学装置に、光学的な手振れ補正の機構を持たせた発明が記載されている。
【0025】
引用文献1に記載の発明では、振れ合成部において振れ変位演算部で算出された加速度センサ出力を基にした平行振れ変位量と角速度センサによる検出結果から求められた角度振れ変位量(ピッチ、ヨー方向)とから、補正レンズ群の駆動量(振れ補正量)を決定している。より具体的には、X方向の平行振れによる振れ変位量と、ヨー方向の角度振れによる像面上での振れ変位量とを合成し、かつY方向の平行振れによる振れ変位量とピッチ方向の角度振れによる像面上での振れ変位量とをそれぞれ合成する。そして、合成された振れ変位量から、補正レンズ群の駆動量および方向を決定し、かかる駆動量を用いて像振れの補正を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】特開2006−003439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
ところで、マクロ撮影時は、通常撮影時と比べ、像振れの影響を大きく受けるため、補正レンズ群を大きく動かす必要があることが一般に知られている。
【0028】
しかしながら、像振れを補正する補正レンズ群を光軸に対して直交する方向へ移動させる移動量は、十分小さいことが望ましい。
【0029】
なぜなら、補正レンズ群の移動量が大きければ大きいほど、像振れの迅速な補正が難しくなり、また、補正レンズ群が像振れ補正の精度が低くなる可動域の限界位置まで移動してしまう可能性も高くなり、高精度な像振れ補正の妨げとなるからである。
【0030】
引用文献1に記載の発明では、補正レンズ群の移動量や移動時間について検討されておらず、更に、推力不足の2軸タイプの像振れ補正機構を採用しており、マクロ撮影時には迅速で、高精度な像振れ補正が行えない場合があるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0031】
第1の発明は、像振れ補正のため、光軸と略直交する方向に移動可能な補正レンズ群と、前記補正レンズ群の位置を検出する補正レンズ群位置検出手段と、角度振れを検出する角度振れ検出手段と、前記補正レンズ群を移動する補正レンズ群移動手段と、フォーカシングのため、光軸方向に移動可能なフォーカスレンズ群と、前記フォーカスレンズ群の位置を検出するフォーカス位置検出手段と、前記角度振れ検出手段により検出された振れの信号から算出された前記補正レンズ群の目標位置と、前記補正レンズ群位置検出手段により検出された前記補正レンズ群の現在位置から、前記補正レンズ群の目標位置までの差分を算出し、PID制御により前記補正レンズ群移動手段を制御する像振れ補正制御手段とを備え、前記補正レンズ群移動手段と前記補正レンズ群位置検出手段は、光軸と垂直な平面上において光軸を中心とした円周を略120度均等にする間隔で設定された3軸上にそれぞれ配置され、前記補正レンズ群は3軸方向に駆動可能であり、マクロ撮影が可能な光学装置において、前記像振れ補正制御手段は、前記フォーカス位置検出手段により検出される前記フォーカスレンズ群の位置から、撮影がマクロ撮影であるか否かを判断し、前記像振れ補正制御手段は、前記角度振れ検出手段により検出される信号のうち、手振れの信号として前記補正レンズ群の目標位置算出に用いられる信号の周波数の下限を、マクロ撮影の場合とマクロ撮影以外の場合とで変更し、前記像振れ補正制御手段は、PID制御における演算によって、前記補正レンズ群の現在位置と、目標位置までの差分から、前記補正レンズ群移動手段の駆動量を算出する際に加えるゲインを、マクロ撮影の場合とマクロ撮影以外の場合とで変更することを特徴とする、光学装置とした。
【0032】
また、第2の発明は、前記周波数の下限はマクロ撮影の場合の下限より、マクロ撮影以外の場合の下限の方が低いことを特徴とする請求項1に記載の光学装置とした。
【0033】
また、第3の発明は、前記ゲインはマクロ撮影の場合のゲインより、マクロ撮影以外の場合のゲインの方が低いことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光学装置とした。
【0034】
また、第4の発明は、前記ゲインはマクロ撮影の場合2であり、マクロ撮影以外の場合1であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の光学装置とした。
【0035】
また、第5の発明は、前記光学装置は2分の1倍以上の撮影倍率で撮影が可能な光学装置であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の光学装置とした。
【0036】
また、第6の発明は、前記マクロ撮影は2分の1倍以上の撮影倍率であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の光学装置とした。
【発明の効果】
【0037】
本発明では、3軸タイプの像振れ補正機構を有する光学装置において、マクロ撮影時とマクロ撮影時以外、すなわち通常撮影時とで、角度振れ検出手段が検出する信号のうち、手振れの信号として補正レンズ群の目標位置算出に用いられる信号の周波数の下限値を変更し、更に、マクロ撮影時と通常撮影時とで、像振れ制御手段が補正レンズ群移動手段の駆動量を算出する際、加えるゲインを変更することとした。
【0038】
これにより、3軸タイプの像振れ補正機構を有する光学装置において、マクロ撮影時の像振れ補正の補正レンズ群の目標位置への追従性が向上し、また、補正レンズ群の移動量が小さくなることで可動範囲の端に補正レンズ群が位置しにくくなり、迅速で高精度な像振れ補正が可能な光学装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明を適用して構成された一眼レフカメラの要部構造と制御系の概略図
【図2】本発明の実施例1における像振れ補正のフローチャート
【図3】ジャイロ信号の0.5−10Hzの周波数帯域を使用したときの目標位置の例を示す模式図と、ジャイロ信号の0.3−0.5Hzの周波数帯域を使用したときの目標位置の例を示す模式図
【図4】図3のAとBとを加算した結果の模式図
【図5】補正レンズ群の目標位置への追従性を示す模式図
【図6】ジャイロ信号演算部の構成を示すブロック図
【図7】PID制御の構成を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1は本発明のレンズ位置検出装置を適用して構成された一眼レフカメラの要部構造と制御系の概略図である。同図において、1は撮像装置、2は該撮像装置1に装着可能な光学装置である。
【0041】
光学装置2には以下の装置が搭載されている。
【0042】
3は光学系、4は絞り装置、5はフォーカス時に移動するフォーカスレンズ群、6はPI、7はフォーカスレンズ群5を駆動するステッピングモータ、8はジャイロ、9は補正レンズ群、10は補正レンズ群を駆動するボイスコイルモータ(以下、VCM)、11は補正レンズ群の位置を検出するホール素子、12はレンズ内の各種アクチュエータやセンサの制御を行うレンズCPUである。
【0043】
また、レンズCPU12内には、ジャイロ8の情報を取得し、かかる情報を用いて補正レンズ群9を移動させる方向と距離の情報である目標位置を算出する目標算出部12aと、ホール素子11から補正レンズ群9の位置情報を取得し、かかる情報を用いてVCM10をフィードバック制御するPID制御部12bから成る、手振れ処理部12cが構成されている。
【0044】
また、ジャイロ8はレンズ鏡筒内に2つ備えられており、光学装置2のピッチ方向とヨー方向の回転を検知する。前述の通り、これらのジャイロセンサ8から検出された情報はレンズCPU12内の目標演算部12aに入力される。
【0045】
また、VCM10とホール素子11は、各々補正レンズ群9を保持する鏡枠に、光軸と垂直な平面上において、光軸を中心とした円周を120度均等にする間隔で設定された3軸上にそれぞれ配置されている。
【0046】
本実施例における補正レンズ群9は、光軸と垂直な平面上で移動自在とされている。これにより、3軸に沿った駆動を適切に組み合わせることによって、任意の位置に補正レンズ群9を移動させることが可能となる。
【0047】
一方、撮像装置1には以下の装置が搭載されている。
【0048】
13は昇降動可能なミラー、14は前記ミラー13を昇降動させるためのミラー駆動モータ、15は公知のペンタプリズム、16はファインダ接眼レンズ、17はSPD(シリコンフォトダイオード)等から成る公知の測光素子、18はCCDラインセンサ等から成る公知の測距素子、19はシャッター、20はフィルムカメラにおけるフィルムあるいはデジタルカメラにおける固体撮像素子が位置する撮像面、21は公知の液晶装置等から成る表示器、22は撮影者の押し込み動作によって撮影の信号を発信するレリーズボタン、23はカメラの露出モード等を切り替えるモードダイヤル、24は電源、25はカメラ本体1とレンズ鏡筒2とを接続するマウント26に設けられた電気接点27及び28を介してシリアル伝送線でレンズCPU12に接続されたカメラCPUである。該カメラCPU25はフォーカスレンズ群5の移動量を決定し、かかる移動量の情報に基づく焦点調整の指令をレンズCPU12に発信する。レンズCPU12はかかる焦点調整の指令を受け、フォーカスレンズ群を移動させる。また、カメラCPU25はその他、測光素子17や表示器21などの制御も行う。
【0049】
図2は実施例1の像振れ補正のフローチャートである。
【0050】
かかる図2を用いて、本発明の第1実施例の像振れ補正の動作について述べる。
【0051】
まず、ステップ#101において撮影者がファーストレリーズにより像振れ補正をONにする。
【0052】
次に、ステップ#102でフォーカスレンズ群5の位置を検出する。
【0053】
本実施例において、フォーカスレンズ群5の位置の検出をするためには、まずフォーカスリセットを行い、フォーカスレンズ群5をフォーカス基準位置に位置させる必要がある。
【0054】
フォーカスレンズ群5をフォーカス基準位置に位置させるため、まず、PI6はフォーカスレンズ群5の現在の位置情報を検出する。PI6は、フォーカスレンズ群5の基準位置に配置されており、かかる基準位置を基に、フォーカスレンズ群5の位置が検出される。
【0055】
本実施例では、撮影者が撮像装置1と光学装置2の電源をONにすると同時にフォーカスリセットが行われ、ステップ#102におけるフォーカスレンズ群5の位置検出に備える。
【0056】
本実施例におけるフォーカスリセットについて次に説明する。まず、PI6はフォーカスレンズ群5が基準位置を境に物体側、像面側のいずれに位置するかを検出する。次に、レンズCPU12はステッピングモータ7により、フォーカスレンズ群5を移動させる。
【0057】
このとき、フォーカスレンズ群5は、現在位置が物体側であれば像面側へ、像面側であれは物体側へと移動される。これにより、PI6は物体側から像面側へ、又は像面側から物体側へフォーカスレンズ群5の位置信号が切り替わる信号を検出する。このとき、PI6が切り替わり信号を検出した位置がフォーカス基準位置であり、かかるフォーカス基準位置にフォーカスレンズ群5が移動されることで、フォーカスリセットが完了となる。
【0058】
本実施例において、フォーカスレンズ群5の位置は、フォーカス基準位置からどれだけ離れているかで検出される。
【0059】
次に、ステップ#103において、レンズCPU12はかかるフォーカスレンズ群5の位置の情報から、マクロ撮影か否かを判断する。
【0060】
本実施例においては、レンズCPU12が、フォーカスレンズ群5の位置から、撮影距離を判断し、かかる撮影距離から撮影倍率を算出する。
【0061】
そして、本実施例においては、撮影倍率が2分の1倍以上であればマクロ撮影、2分の1倍未満であれば通常撮影と判断される。
【0062】
マクロ撮影であると判断された場合にはステップ#104に進み、レンズCPU12は手振れ周波数下限値を0.5Hzに設定する。
【0063】
また、マクロ撮影でないと判断された場合には、ステップ#106に進み、レンズCPU12は手振れ周波数下限値を0.3Hzに設定する。
【0064】
かかる手振れ周波数下限値とは、ジャイロ8が検出する光学装置2のピッチ方向とヨー方向の回転を示す信号のうち、手振れの信号として検出する信号の下限値である。つまり、かかる手振れ周波数下限値以下の周波数の信号は、後述する目標位置演算の際にハイパスフィルタ(HPF)によりカットされる。
【0065】
上記の通り、本実施例においては、マクロ撮影と通常撮影とで、ジャイロ8が検出する振動のうち、補正処理の対象となる手振れとして検出する振動の周波数下限値の設定を変更している。
【0066】
つまり、本実施例ではマクロ撮影時の手振れ周波数下限値が0.5Hzであり、通常撮影時の手振れ周波数下限値は0.3Hzであり、マクロ撮影時の方が手振れ周波数下限値が高く設定されている。
【0067】
これは、補正レンズ群を大きく動かす必要があるマクロ撮影において、広い周波数帯域で補正処理の対象となる手振れの信号を検出し、目標位置を算出する場合、算出される目標位置情報の振幅が大きくなる場合があり、補正レンズ群の移動量が著しく大きくなってしまう恐れがあるためである。これについて、図3と図4を用いて次に説明する。
【0068】
図3はジャイロ信号の0.5−10Hzの周波数帯域を使用したときの目標位置の例を示す模式図(以下図3A)と、ジャイロ信号の0.3−0.5Hzの周波数帯域を使用したときの目標位置の例を示す模式図(以下図3B)である。
【0069】
図4は、図3Aと図3Bを加算した結果の模式図である。つまり、図4は、ジャイロ信号の0.3−10Hzの周波数帯域を使用したときの目標位置の例を示す模式図である。
【0070】
また、上記からわかる通り、図3Aは図4で使用されている周波数帯域から図3Bで使用されている周波数帯域を制限した場合に算出される目標位置を示している。
【0071】
ここで、使用する周波数上限値が同じであり、周波数下限値が異なる図4と図3Aを比較する。
【0072】
図4と図3Aが示す通り、0.3−10Hzの範囲で補正処理の対象となる手振れの信号を検出し、目標位置を算出している図4の振幅cの方が0.5−10Hzの範囲で補正処理の対象となる手振れの信号を検出し、目標位置を算出している図3Aの振幅aよりも大きい。
【0073】
つまり、上記のように、広い周波数帯域で補正処理の対象となる手振れの信号を検出し、目標位置を算出する場合、算出される目標位置情報の振幅は大きくなり、かかる周波数帯域を一部制限して狭くすると、算出される目標位置情報の振幅は小さくなる。
【0074】
そこで、本実施例においては、補正レンズ群を大きく動かす必要があるマクロ撮影時に周波数下限値を変更して、使用する周波数範囲に制限を加える。これにより、目標位置情報の振幅が大きくなりすぎ、補正レンズ群の移動量が著しく大きくなってしまうことを防いでいる。
【0075】
そのため、本実施例では、マクロ撮影時の手振れ周波数下限値が0.5Hz、通常撮影時は0.3Hzとして、マクロ撮影時の方が手振れ周波数下限値が高くなるよう設定し、撮影に応じて設定を変更する構成としている。
【0076】
本実施例においてかかる処理は、具体的には、後述する目標算出部12a内のハイパスフィルタでのカットオフ周波数の設定を変更することによって行う。
【0077】
上記のような構成とすることで、手振れとして検出する信号が制御され、目標演算部12aがかかる信号から算出する、マクロ撮影時における、目標位置までの移動距離が大きくなりすぎないよう制限することができる。
【0078】
結果として、マクロ撮影時の手振れ補正において、可動範囲の端に補正レンズ群が位置しにくくなり、迅速で、高精度な手振れ補正が可能な光学装置を提供することができる。
【0079】
次に、マクロ撮影の場合はステップ#105において、PID制御のゲインを1に設定し、また、通常撮影の場合はステップ#107において、PID制御のゲインを2に設定する。
【0080】
本実施例においては、ゲイン1では等倍、ゲイン2では2倍になるように設定する。
【0081】
かかるゲインの変更によって影響を受ける、補正レンズ群の目標位置への追従性について、図5を用いて次に説明する。
【0082】
図5は上記の通り、補正レンズ群の目標位置への追従性を示す模式図であり、ゲインの違いにより生じる目標位置への追従性の差を示している。縦軸がレンズ位置であり、横軸が時間である。
【0083】
図5のうち、まず、補正レンズ群の目標位置の振幅が大きく、補正レンズ群を大きく動かす場合について検討する。
【0084】
補正レンズ群を大きく動かす場合、ゲイン1をかけてモータ出力を算出し、補正レンズ群を駆動した際、追従性が悪い。
【0085】
一方、ゲイン2をかけてモータ出力を算出し、補正レンズ群を駆動した際は、早い段階で目標位置に追従している。
【0086】
次に、補正レンズ群の目標位置の振幅が小さく、補正レンズ群を小さく動かす場合について検討する。
【0087】
また、補正レンズ群を小さく動かす場合、ゲイン2をかけてモータ出力を算出し、補正レンズ群を駆動した際は駆動が安定せず、目標位置への追従性が悪い。
【0088】
一方、ゲイン1をかけてモータ出力を算出し、補正レンズ群を駆動した際は、安定して目標位置に追従している。
【0089】
以上からわかる通り、振幅が大きい場合には、振幅が小さい場合に比べ、大きなゲインをかけてやることにより、目標位置への追従性をよくすることができる。
【0090】
そのため、本実施例においては、通常撮影の場合にはステップ#105でゲインを1に設定し、マクロ撮影の場合にはステップ#107でゲインを2に設定することとする。
【0091】
通常撮影であればステップ#105、マクロ撮影であればステップ#107を完了すると、ステップ#108の防振処理に進む。
【0092】
ステップ#108の防振処理について、図5と図6のブロック図を用いて説明する。
【0093】
ステップ#108の防振処理は、ジャイロ信号演算とPID制御から成る。
【0094】
図6はジャイロ信号演算部構成を示すブロック図であり、図7はPID制御の構成を示すブロック図である。
【0095】
本実施例の防振処理においては、まずジャイロ信号演算を行う。ジャイロ信号演算について次に説明する。
【0096】
ジャイロ信号演算ではまず、ジャイロ8が光学装置2の振れの検出信号を目標位置算出部12aに発信する。
【0097】
目標位置算出部12aに送られた振れの検出信号は、ハイパスフィルタ(以下、HPF)にかけられる。
【0098】
かかるHPFは、ステップ#104、ステップ#106で述べた通り、通常撮影かマクロ撮影かで異なる手振れ周波数下限値を設定する。詳しくは、通常撮影であればカットオフ周波数を0.3Hz、マクロ撮影であればカットオフ周波数を0.5Hzに設定する。
【0099】
HPFにかけられたジャイロ8の検出信号は、次に積分される。
【0100】
次に、積分結果にゲインをかける。これにより、補正レンズ群の目標位置が算出される。かかるゲインは焦点距離や被写体距離によって、レンズごとに予め設定されたものである。
【0101】
次に、本発明におけるPID制御について図6を用いて説明する。
【0102】
以上の処理によって補正レンズ群9の目標位置が算出されると、次に、PID制御部12bはかかる補正レンズ群9の目標位置と、ホール素子11の検出した補正レンズ群9の現在位置との差分からPID演算を行う。
【0103】
次に、PID演算の算出結果にゲインをかける。
【0104】
かかるゲインはステップ#105、ステップ#107で述べたとおり、通常撮影かマクロ撮影かで異なる。詳しくは、通常撮影であればゲインは1であり、マクロ撮影ではゲインは2である。
【0105】
かかるゲインをかけることにより、モータ出力が算出され、VCM10はこれにしたがって駆動制御される。
【0106】
これにより、補正レンズ群9は目標位置に駆動され、防振処理が完了する。
【0107】
以上の通り、本発明の実施例1では、3軸タイプの像振れ補正機構を有する光学装置において、通常撮影とマクロ撮影とで、手振れの信号として補正レンズ群の目標位置算出に用いられる信号の周波数の下限値を変更し、更に、通常撮影とマクロ撮影とでモータ出力を算出する際にかけるゲインを変更することで、マクロ撮影時の像振れ補正において、補正レンズ群の目標位置への追従性が向上し、また、補正レンズ群の移動量が小さくなることで可動範囲の端に補正レンズ群が位置しにくくなり、迅速で高精度な像振れ補正が可能な光学装置を提供することができる。
【0108】
また、本実施例ではレンズ交換可能なデジタルカメラを想定しているが、例えば光学装置が一体となったカメラにおいても同様に本発明を実施することができる。
【符号の説明】
【0109】
1 撮像装置
2 光学装置
3 光学系
4 絞り装置
5 フォーカスレンズ群
6 PI
7 ステッピングモータ
8 ジャイロ
9 補正レンズ群
10 VCM
11 ホール素子
12 レンズCPU
13 ミラー
14 ミラー駆動モータ
15 ペンタプリズム
16 ファインダ接眼レンズ
17 測光素子
18 測距素子
19 シャッター
20 撮像面
21 表示器
22 レリーズボタン
23 モードダイヤル
24 電源
25 カメラCPU
26 マウント
27 電気接点
28 電気接点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
像振れ補正のため、光軸と略直交する方向に移動可能な補正レンズ群と、
前記補正レンズ群の位置を検出する補正レンズ群位置検出手段と、
角度振れを検出する角度振れ検出手段と、
前記補正レンズ群を移動する補正レンズ群移動手段と、
フォーカシングのため、光軸方向に移動可能なフォーカスレンズ群と、
前記フォーカスレンズ群の位置を検出するフォーカス位置検出手段と、
前記角度振れ検出手段により検出された振れの信号から算出された前記補正レンズ群の目標位置と、前記補正レンズ群位置検出手段により検出された前記補正レンズ群の現在位置から、前記補正レンズ群の目標位置までの差分を算出し、PID制御により前記補正レンズ群移動手段を制御する像振れ補正制御手段とを備え、
前記補正レンズ群移動手段と前記補正レンズ群位置検出手段は、光軸と垂直な平面上において光軸を中心とした円周を略120度均等にする間隔で設定された3軸上にそれぞれ配置され、
前記補正レンズ群は3軸方向に駆動可能であり、
マクロ撮影が可能な光学装置において、
前記像振れ補正制御手段は、前記フォーカス位置検出手段により検出される前記フォーカスレンズ群の位置から、撮影がマクロ撮影であるか否かを判断し、
前記像振れ補正制御手段は、前記角度振れ検出手段により検出される信号のうち、手振れの信号として前記補正レンズ群の目標位置算出に用いられる信号の周波数の下限を、マクロ撮影の場合とマクロ撮影以外の場合とで変更し、
前記像振れ補正制御手段は、PID制御における演算によって、前記補正レンズ群の現在位置と、目標位置までの差分から、前記補正レンズ群移動手段の駆動量を算出する際に加えるゲインを、マクロ撮影の場合とマクロ撮影以外の場合とで変更する
ことを特徴とする、光学装置。
【請求項2】
前記周波数の下限はマクロ撮影の場合の下限より、マクロ撮影以外の場合の下限の方が低いことを特徴とする請求項1に記載の光学装置。
【請求項3】
前記ゲインはマクロ撮影の場合のゲインより、マクロ撮影以外の場合のゲインの方が低いことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光学装置。
【請求項4】
前記ゲインはマクロ撮影の場合2であり、マクロ撮影以外の場合1であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の光学装置。
【請求項5】
前記光学装置は2分の1倍以上の撮影倍率で撮影が可能な光学装置であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の光学装置。
【請求項6】
前記マクロ撮影は2分の1倍以上の撮影倍率であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−3325(P2013−3325A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133792(P2011−133792)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000131326)株式会社シグマ (167)
【Fターム(参考)】