説明

光導波路デバイス

【課題】 光回路の小型化を図る。
【解決手段】 基板上に形成されたクラッド層と、クラッド層に埋設されたコア部とからなる導波路により構成される光導波路デバイスにおいて、1以上の入力用光導波路301と、入力用光導波路301に接続された光分岐回路302と、光分岐回路302に接続され、各々の光導波路が位相調整手段303を含む光導波路アレイ304と、光導波路アレイ304に接続され、コア部が導波路より屈折率の低い複数の散乱点により画定されるピクセル形状部からなる光合波回路305とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路デバイスに関し、より詳細には、2次元的な屈折率分布に応じた多重散乱によりホログラフィックに波動を伝達させるホログラフィック波動伝達媒体を適用した光導波路デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
光通信分野においては、光の分岐、干渉を容易に実現できる光回路として、光導波路構造を利用した集積光部品が開発されてきた。光の波動としての性質を利用した集積光部品は、光導波路長の調整により光干渉計の作製を容易にしたり、半導体分野における回路加工技術を適用することにより、光部品の集積化が容易になる。
【0003】
このような光導波路構造は、光導波路中を伝搬する光を屈折率の空間的分布を利用して空間的な光閉じ込めを実現する「光閉じ込め構造」である。典型的な光導波路は、図1に示すように、基板101上に、屈折率Nクラッド層103と屈折率Nのコア部102とからなる2段階の屈折率分布を有する。また、屈折率Nの下部クラッド層、屈折率Nのコア部、および屈折率Nの上部クラッド層とからなる3段階の屈折率分布を有する光導波路が広く用いられている。従来の光導波路の利点は、2ないし3種類の材料から光導波路を作製することができるので、作製工程が簡便であることである。
【0004】
代表的な集積光部品として導波路型光スイッチが知られている。導波路型光スイッチには、(1)アナログ的に光を偏向して出力ポートを選択する偏向器を用いたもの、(2)回折格子により偏向して出力ポートを選択するもの、(3)2入力2出力の光スイッチングエレメントを多段接続したものなどが知られている。図2に、従来の多段接続光スイッチの一例を示す図である(例えば、非特許文献1参照)。2入力2出力の光スイッチングエレメント121を8段縦続接続して、8×8光スイッチを構成している。光スイッチングエレメント121は、例えば、方向性結合器型、マッハツェンダ型、非対称X型などの素子が知られている。
【0005】
【非特許文献1】T.Goh, et al., ”Low loss and high extinction ratio strictly nonblocking 16×16 thermooptic matrix switch on 6-in wafer using silica-based planar lightware circuit technology”, Lightwave Tech., J. of, vol.19, Issue 3, March 2001, pp.371-379
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の多段接続光スイッチで構成された8×8光スイッチは、64個の光スイッチングエレメントを接続しなければならず、回路が大規模化するという問題があった。また、光回路の小型化のためには、光を導波路中に強く閉じ込める必要がある。従って、光導波路は、極めて大きな屈折率差を有する必要がある。例えば、従来のステップインデクッス型の光導波路では、比屈折率差が0.1%よりも大きな値となるように、屈折率の空間的分布を有するように光導波路を設計する。このような大きな屈折率差を利用して光閉じ込めを行うと、回路構成の自由度が制限されてしまうという問題があった。
【0007】
さらに、光導波路中での屈折率差を、局所的な紫外線照射、熱光学効果または電気光学効果などにより実現しようとしても、得られる屈折率の変化量は高々0.1%程度である。光の伝搬方向を変化させる場合には、光導波路の光路にそって徐々に向きを変化させざるを得ず、光回路長は必然的に極めて長いものとなり、その結果として光回路の小型化が困難になる。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ホログラフィック波動伝達媒体を適用し、光回路の小型化を図ることができる光導波路デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、基板上に形成されたクラッド層と、該クラッド層に埋設されたコア部とからなる導波路により構成される光導波路デバイスにおいて、前記コア部は、前記導波路より屈折率の低い複数の散乱点により画定されるピクセル形状部と、位相調整手段を含む等幅部とを備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、基板上に形成されたクラッド層と、該クラッド層に埋設されたコア部とからなる導波路により構成される光導波路デバイスにおいて、Aを1以上の整数、BおよびCを2以上の整数とすると、A本の入力用光導波路と、該入力用光導波路に接続されたA入力B出力の光分岐手段と、該光分岐手段に接続され、各々の光導波路が位相調整手段を含むB本の光導波路アレイと、該光導波路アレイに接続され、前記コア部が前記導波路より屈折率の低い複数の散乱点により画定されるピクセル形状部からなるB入力C出力の光合波手段とを備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の前記光分岐手段は、前記コア部が前記導波路より屈折率の低い複数の散乱点により画定されるピクセル形状部からなることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の導波路型光デバイスにおいて、A、BおよびCが互いに等しいことを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の光導波路デバイスにおいて、前記基板は、シリコン基板、石英基板のいずれかであり、前記光導波路は、石英系光導波路であり、前記位相調整手段は、クラッド層上に形成された薄膜ヒータであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、ホログラフィック波動伝達媒体を適用して、位相調整手段と組み合わせることにより、光回路の小型化を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。本実施形態の光導波路デバイスは、ホログラフィック波動伝達媒体により導波光の光路を制御する。ホログラフィック波動伝達媒体は、導波路より屈折率の低い複数の散乱点により画定され、2次元的な屈折率分布に応じた多重散乱によりホログラフィックに波動を伝達させる。
【0016】
最初に、本願発明に用いる波動伝達媒体の基本的概念について説明する。ここでは、光回路へ適用することから、波動伝達媒体中を伝搬する「波動」は「光」である。なお、波動伝達媒体にかかる理論は、一般の波動方程式に基づいて、媒質の特性を指定するものであり、一般の波動においても原理的に成り立ち得るものである。波動伝達媒体は、コヒーレントな光のパターンを入力して所望の光のパターンを出力させるために、波動伝達媒体中を伝搬する順伝搬光と逆伝搬光の位相差が、波動伝達媒体中の何れの場所においても小さくなるように屈折率分布が決定される。屈折率分布に応じた局所的なレベルのホログラフィック制御を多重に繰り返すことにより、所望の光のパターンが出力される。
【0017】
図3を参照して、本実施形態にかかる波動伝達媒体の基本構造を説明する。図3(a)に示したように、光回路基板1の中に、波動伝達媒体により構成される光回路の設計領域1−1が存在する。光回路の一方の端面は、入力光3−1が入射する入射面2−1である。入力光3−1は、波動伝達媒体で構成された空間的な屈折率分布を有する光回路中を多重散乱しながら伝搬し、他方の端面である出射面2−2から出力光3−2として出力される。図3(a)中の座標zは、光の伝搬方向の座標(z=0が入射面、z=zが出射面)であり、座標xは、光の伝搬方向に対する横方向の座標である。なお、本実施形態では、波動伝達媒体は、誘電体からなるものと仮定し、空間的な屈折率分布は、波動伝達媒体を構成している誘電体の局所的な屈折率を後述する理論に基づいて設定することにより実現される。
【0018】
入力光3−1が形成している「場」(入力フィールド)は、光回路を構成する波動伝達媒体の屈折率の空間的分布に応じて変調され、出力光3−2の形成する「場」(出力フィールド)に変換される。換言すれば、本発明の波動伝達媒体は、その空間的な屈折率分布に応じて入力フィールドと出力フィールドとを相関づけるための(電磁)フィールド変換手段である。なお、これら入力フィールドおよび出力フィールドに対して、光回路中での伝搬方向(図中z軸方向)に垂直な断面(図中x軸に沿う断面)における光のフィールドを、その場所(x,z)における(順)伝搬像(伝搬フィールドあるいは伝搬光)と呼ぶ(図3(b)参照)。
【0019】
ここで、「フィールド」とは、一般に電磁場(電磁界)または電磁場のベクトルポテンシャル場を意味している。本実施形態における電磁場の制御は、光回路中に設けられた空間的な屈折率分布、すなわち誘電率の分布を変えることに相当する。誘電率はテンソルとして与えられるが、通常は偏光状態間の遷移はそれほど大きくないので、電磁場の1成分のみを対象としてスカラー波近似しても良い近似となる。そこで、本明細書では電磁場を複素スカラー波として扱う。なお、光の「状態」には、エネルギ状態(波長)と偏光状態とがあるため、「フィールド」を光の状態を表現するものとして用いる場合には、光の波長と偏光状態をも包含し得ることとなる。
【0020】
また、通常、伝搬光の増幅や減衰を生じさせない光回路では、屈折率の空間的分布を決めると、焦点以外の入力光3−1の像(入力フィールド)は、出力光3−2の像(出力フィールド)に対して一意的に定まる。このような、出射面2−2側から入射面2−1側へと向かう光のフィールドを、逆伝搬像(逆伝搬フィールドあるいは逆伝搬光)と呼ぶ(図3(c)参照)。このような逆伝搬像は、光回路中の場所ごとに定義することができる。すなわち、光回路中での任意の場所における光のフィールドを考えたとき、その場所を仮想的な「入力光」の出射点として考えれば、上記と同様に出力光3−2の像に対して、その場所での逆伝搬像を考えることができる。このように、光回路中の各場所ごとに逆伝搬像が定義できる。
【0021】
特に、単一の光回路において、出射フィールドが入射フィールドの伝搬フィールドとなっている場合には、光回路の任意の点で、伝搬フィールドと逆伝搬フィールドとは一致する。なお、フィールドは、一般的に、対象とする空間全体の上の関数であるが、「入射フィールド」または「出射フィールド」という場合は、入射面あるいは出射面におけるフィールドの断面を意味している。また、「フィールド分布」という場合でも、ある特定の断面に関して議論を行う場合には、その断面についてのフィールドの断面を意味している。
【0022】
屈折率分布の決定方法を説明するためには記号を用いるほうが見通しがよいので、各量を表すために以下のような記号を用いることとする。なお、対象とされる光(フィールド)は、単一状態の光には限定されないので、複数の状態の光が重畳された光を対象とされ得るべく、個々の状態の光にインデックスjを充てて一般的に表記する。
【0023】
・ψj(x):j番目の入射フィールド(複素ベクトル値関数であり、入射面において設定する強度分布および位相の分布、ならびに、波長および偏波により規定される。)
・φj(x):j番目の出射フィールド(複素ベクトル値関数であり、出射面において設定する強度分布および位相分布、ならびに、波長および偏波により規定される。)
なお、ψj(x)およびφj(x)は、回路中で強度増幅、波長変換、偏波変換が行われない限り、光強度の総和は同じ(あるいは無視できる程度の損失)であり、それらの波長も偏波も同じである。
・{ψj(x)、φj(x)}:入出力ペア(入出力のフィールドの組み。)
{ψj(x)、φj(x)}は、入射面および出射面における、強度分布および位相分布ならびに波長および偏波により規定される。
・{n}:屈折率分布(光回路設計領域全体の値の組。)
与えられた入射フィールドおよび出射フィールドに対して屈折率分布を1つ与えたときに光のフィールドが決まるので、q番目の繰り返し演算で与えられる屈折率分布全体に対するフィールドを考える必要がある。そこで、(x,z)を不定変数として、屈折率分布全体をn(x,z)と表しても良いが、場所(x,z)における屈折率の値n(x,z)と区別するために、屈折率分布全体に対しては{n}と表す。
・ncore:光導波路におけるコア部分のような、周囲の屈折率に対して高い屈折率の値を示す記号。
・nclad:光導波路におけるクラッド部分のような、ncoreに対して低い屈折率の値を示す記号。
・ψj(z,x,{n}):j番目の入射フィールドψj(x)を屈折率分布{n}中をzまで伝搬させたときの、場所(x,z)におけるフィールドの値。
・φj(z,x,{n}):j番目の出射フィールドφj(x)を屈折率分布{n}中をzまで逆伝搬させたときの、場所(x,z)におけるフィールドの値。
【0024】
本実施形態において、屈折率分布は、すべてのjについてψj(ze,x,{n})=φj(x)、またはそれに近い状態となるように{n}が与えられる。
【0025】
「入力ポート」および「出力ポート」とは、入射端面および出射端面におけるフィールドの集中した「領域」であり、例えば、その部分に光ファイバを接続することにより、光強度をファイバに伝搬できるような領域である。ここで、フィールドの強度分布および位相分布は、j番目のものとk番目のものとで異なるように設計可能であるので、入射端面および出射端面に複数のポートを設けることができる。さらに、入射フィールドと出射フィールドの組を考えた場合、その間の伝搬により発生する位相が、光の周波数によって異なるので、周波数が異なる光(すなわち波長の異なる光)については、位相を含めたフィールド形状が同じであるか直交しているかの如何にかかわらず、異なるポートとして設定することができる。
【0026】
ここで、電磁界は、実数ベクトル値の場で、かつ波長と偏光状態をパラメータとして有するが、その成分の値を一般な数学的取扱いが容易な複素数で表示し、電磁波の解を表記する。また、以下の計算においては、フィールド全体の強度は1に規格化されているものとする。図3(b)および図3(c)に示したように、j番目の入射フィールドψj(x)および出力フィールドφj(x)に対し、伝搬フィールドと逆伝搬フィールドとをそれぞれの場所の複素ベクトル値関数として、ψj(z,x,{n})およびφj(z,x,{n})と表記する。これらの関数の値は、屈折率分布{n}により変化するため、屈折率分布{n}がパラメータとなる。記号の定義により、ψj(x)=ψj(0,x,{n})、および、φj(x)=φj(ze,x,{n})となる。これらの関数の値は、入射フィールドψj(x)、出射フィールドφj(x)、および屈折率分布{n}が与えられれば、ビーム伝搬法などの公知の手法により容易に計算することができる。
【0027】
以下に、空間的な屈折率分布を決定するための一般的なアルゴリズムを説明する。図4に、波動伝達媒体の空間的な屈折率分布を決定するための計算手順を示す。この計算は、繰り返し実行されるので、繰り返し回数をqで表し、(q−1)番目まで計算が実行されているときのq番目の計算の様子が図示されている。(q−1)番目の計算によって得られた屈折率分布{nq-1}をもとに、各j番目の入射フィールドψj(x)および出射フィールドφj(x)について、伝搬フィールドと逆伝搬フィールドとを数値計算により求め、その結果を各々、ψj(z,x,{nq-1})およびφj(z,x,{nq-1})と表記する(ステップS220)。
【0028】
これらの結果をもとに、各場所(z,x)における屈折率n(z,x)を、次式により求める(ステップS240)。
n(z,x)=nq-1(z,x)−αΣjIm[φj(z,x,{nq-1})*・ψj(z,x,{nq-1})] ・・・(1)
ここで、右辺第2項中の記号「・」は、内積演算を意味し、Im[]は、[]内のフィールド内積演算結果の虚数成分を意味する。なお、記号「*」は複素共役である。係数αは、n(z,x)の数分の1以下の値をさらにフィールドの組の数で割った値であり、正の小さな値である。Σjは、インデックスjについて和をとるという意味である。
【0029】
ステップS220とS240とを繰り返し、伝搬フィールドの出射面における値ψj(ze,x,{n})と出射フィールドφj(x)との差の絶対値が、所望の誤差dよりも小さくなると(ステップS230:YES)計算が終了する。
【0030】
以上の計算では、屈折率分布の初期値{n}は適当に設定すればよいが、この初期値{n}が予想される屈折率分布に近ければ、それだけ計算の収束は早くなる(ステップS200)。また、各jについてφj(z,x,{nq-1})およびψj(z,x,{nq-1})を計算するにあたっては、パラレルに計算が可能な計算機の場合は、jごと(すなわち、φj(z,x,{nq-1})およびψj(z,x,{nq-1})ごと)に計算すればよいので、クラスタシステム等を利用して計算の効率化を図ることができる(ステップS220)。また、比較的少ないメモリで計算機が構成されている場合は、式(1)のインデックスjについての和の部分で、各qで適当なjを選び、その分のφj(z,x,{nq-1})およびψj(z,x,{nq-1})のみを計算して、以降の計算を繰り返すことも可能である(ステップS220)。
【0031】
以上の演算において、φj(z,x,{nq-1})の値とψj(z,x,{nq-1})の値とが近い場合には、式(1)中のIm[φj(z,x,{nq-1})*・ψj(z,x,{nq-1})]は位相差に対応する値となり、この値を減少させることで所望の出力を得ることが可能である。
【0032】
屈折率分布の決定は、波動伝達媒体に仮想的メッシュを定め、このメッシュによって画定される微小領域(ピクセル)の屈折率を、各ピクセルごとに決定することと言い換えることもできる。このような局所的な屈折率は、原理的には、その場所ごとに任意の(所望の)値とすることができる。最も単純な系は、低屈折率(n)を有するピクセルと高屈折率(n)を有するピクセルのみからなる系であり、これら2種のピクセルの空間的分布により全体的な屈折率分布が決定される。この場合、媒体中の低屈折率ピクセルが存在する場所を高屈折率ピクセルの空隙として観念したり、逆に、高屈折率ピクセルが存在する場所を低屈折率ピクセルの空隙として観念したりすることができる。すなわち、本発明の波動伝達媒体は、均一な屈折率を有する媒体中の所望の場所(ピクセル)を、これとは異なる屈折率のピクセルで置換したものと表現することができる。
【0033】
上述した屈折率分布決定のための演算内容を要約すると次のようになる。波動をホログラフィックに伝達させ得る媒体(光の場合には誘電体)に、入力ポートと出力ポートとを設け、入力ポートから入射した伝搬光のフィールド分布1(順伝搬光)と、入力ポートから入射した光信号が出力ポートから出力される際に期待される出力フィールドを出力ポート側から逆伝搬させた位相共役光のフィールド分布2(逆伝搬光)と、を数値計算により求める。フィールド分布1およびフィールド分布2を、伝搬光と逆伝搬光の各点(x,z)における位相差をなくすように、媒体中での空間的な屈折率分布を求める。なお、このような屈折率分布を得るための方法として最急降下法を採用すれば、各点の屈折率を変数として最急降下法により得られる方向に屈折率を変化させることにより、屈折率を式(1)のように変化させることで、2つのフィールド間の差を減少させることができる。このような波動伝達媒体を、入力ポートから入射した光を所望の出力ポートに出射させる光部品に応用すれば、媒体内で生じる伝搬波同士の多重散乱による干渉現象により、実効的な光路長が長くなり、緩やかな屈折率変化(分布)でも充分に高い光信号制御性を有する光回路を構成することができる。
【0034】
図5に、本発明の一実施形態にかかる偏向器を用いた光スイッチを示す。入力用光導波路301から入力された光信号は、光分岐回路302により波長ごとに、複数の光導波路からなる導波路アレイ304に出力される。導波路アレイ304には、おのおの光変調手段303が設けられている。光変調手段303は、電気光学効果、熱光学効果などにより、導波路中の屈折率を変えて、透過する光信号の位相を変える。導波路アレイ304から出力された信号は、波動伝達媒体により構成され、偏向器として機能する光合波回路305に入力され、所定の出力用導波路306から出力される。
【0035】
光合波回路305は、屈折率の低い複数の散乱点により画定されるピクセル形状部であり、上述したアルゴリズムを適用して、屈折率分布が計算されたホログラフィック波動伝達媒体である。約200回の繰り返しにより、図6に示した屈折率分布を有する光合波回路が得られる。ここで、図中の光回路設計領域1−1内の黒色部分は、コアに相当する高屈折率部(誘電体多重散乱部)1−11であり、黒色部以外の部分はクラッドに相当する低屈折率部1−12であり、導波路より屈折率の低い散乱点である。クラッドの屈折率は、石英ガラスの屈折率を想定し、コアの屈折率は、石英ガラスに対する比屈折率が0.75%だけ高い値を有する。光回路のサイズは縦200μm、横500mである。
【0036】
なお、メッシュの最小寸法は、光信号の波長1.55μmに対して、光散乱が生じる形状として十分に小さい値を仮定し、実際の設計において計算機メモリの消費を抑えるために、最小寸法を0.2μmとする。
【0037】
波動伝達媒体は、導波路アレイ304に接続される各々の入力ポートから入力された光信号を、光変調手段303の位相の組み合わせに応じて、所定の出力導波路306から出力するように設計されている。上述したアルゴリズムを用いることにより、位相の組み合わせ、すなわち入力の組み合わせに応じた、異なる向きの光ビーム、すなわち出力の組み合わせを実現することができる。また、上述したアルゴリズムを用いることにより、光ビームが出力導波路306に効率よく入射できるように、光合波回路305と出力導波路306の光学的結合も最適化することができる。このようにして、導波路アレイ304を透過する光信号を、各々の光変調手段303により位相を変化させることにより、所定の出力用導波路306に選択的に出力させることができる。
【0038】
図7に、本発明の一実施形態にかかる光合分岐回路を用いた光スイッチを示す。入力用光導波路401から入力された光信号は、光合分岐回路402により、複数の光導波路からなる導波路アレイ404に出力される。導波路アレイ404には、おのおの光変調手段403が設けられている。光変調手段403は、電気光学効果、熱光学効果などにより、導波路中の屈折率を変えて、透過する光信号の位相を変える。導波路アレイ404から出力された信号は、波動伝達媒体により構成され、光合分岐回路405に入力され、所定の出力用導波路406から出力される。
【0039】
光合分岐回路402および光合分岐回路405は、屈折率の低い複数の散乱点により画定されるピクセル形状部であり、上述したアルゴリズムを適用して、屈折率分布が計算されたホログラフィック波動伝達媒体である。図8に、光合分岐回路に適用される波動伝達媒体の屈折率分布を示す。ここで、図中の光回路設計領域1−1内の黒色部分は、コアに相当する高屈折率部(誘電体多重散乱部)1−11であり、黒色部以外の部分はクラッドに相当する低屈折率部1−12であり、導波路より屈折率の低い散乱点である。クラッドの屈折率は、石英ガラスの屈折率を想定し、コアの屈折率は、石英ガラスに対する比屈折率が0.75%だけ高い値を有する。光回路のサイズは、縦200μm、横500mである。
【0040】
光合分岐回路402である波動伝達媒体は、入力用光導波路401から入力された光信号を、導波路アレイ404に出力するように設計されている。光合分岐回路405である波動伝達媒体は、導波路アレイ404に入力された光信号を、位相に応じて、所定の出力導波路406から出力するように設計されている。光合分岐回路402および光合分岐回路405は、上述したアルゴリズムを用いることにより、小型で低損失の光スイッチを実現することができる。一方、光変調手段403において電気光学効果、熱光学効果などにより、導波路中の屈折率を変えて、透過する光信号の位相を変える。上述したアルゴリズムで求められる波動伝達媒体よりも、集中定数的に、変調を加える従来の導波路の方が、効率よく変調することができる。従って、従来と比較しても、全体として小型で低損失の光スイッチを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】従来の光導波路構造の一例を示す断面図である。
【図2】従来の多段接続光スイッチの一例を示す図である。
【図3】波動伝達媒体の基本構造を説明するための図である。
【図4】波動伝達媒体の空間的な屈折率分布を決定するための計算手順を示すフローチャートである。
【図5】本発明の一実施形態にかかる偏向器を用いた光スイッチを示す図である。
【図6】光合波回路に適用される波動伝達媒体の屈折率分布を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態にかかる光合分岐回路を用いた光スイッチを示す図である。
【図8】光合分岐回路に適用される波動伝達媒体の屈折率分布を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1−1 光回路設計領域
1−2 基板
1−11 高屈折率部
1−12 低屈折率部
2−1 入射面
2−2,2−3 出射面
301,401 入力用光導波路
302 光分岐回路
303,403 光変調手段
304,404 導波路アレイ
305 光合波回路
306,406 出力用導波路
402,405 光合分岐回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成されたクラッド層と、該クラッド層に埋設されたコア部とからなる導波路により構成される光導波路デバイスにおいて、前記コア部は、
前記導波路より屈折率の低い複数の散乱点により画定されるピクセル形状部と、
位相調整手段を含む等幅部と
を備えたことを特徴とする光導波路デバイス。
【請求項2】
基板上に形成されたクラッド層と、該クラッド層に埋設されたコア部とからなる導波路により構成される光導波路デバイスにおいて、Aを1以上の整数、BおよびCを2以上の整数とすると、
A本の入力用光導波路と、
該入力用光導波路に接続されたA入力B出力の光分岐手段と、
該光分岐手段に接続され、各々の光導波路が位相調整手段を含むB本の光導波路アレイと、
該光導波路アレイに接続され、前記コア部が前記導波路より屈折率の低い複数の散乱点により画定されるピクセル形状部からなるB入力C出力の光合波手段と
を備えたことを特徴とする光導波路デバイス。
【請求項3】
前記光分岐手段は、前記コア部が前記導波路より屈折率の低い複数の散乱点により画定されるピクセル形状部からなることを特徴とする請求項2に記載の光導波路デバイス。
【請求項4】
A、BおよびCが互いに等しいことを特徴とする請求項3に記載の導波路型光デバイス。
【請求項5】
前記基板は、シリコン基板、石英基板のいずれかであり、
前記光導波路は、石英系光導波路であり、
前記位相調整手段は、クラッド層上に形成された薄膜ヒータであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の光導波路デバイス。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−18120(P2006−18120A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−197314(P2004−197314)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】