説明

光導波路型グルコースセンサ及び発色試薬固定化方法

【課題】検体、例えば体液中の極微量のグルコースを高感度かつ高精度で分析することが可能な光導波路型グルコースセンサ及び発色試薬固定化方法を提供する。
【解決手段】基板1と、基板1に接して設けられた第1光導波路層2と、第1光導波路層2に接して、第1光導波路層2の両端部部位に離間して設けられた入射側グレーティング3a及び出射側グレーティング3bと、第1光導波路層に接して、入射側グレーティング3a及び出射側グレーティング3bの間に設けられた、第1光導波路層より高屈折率を有する第2光導波路層4と、第2光導波路層に接して設けられた100nm以内の厚さの発色試薬固定化層8と、発色試薬固定化層8に接して設けられた酵素を含有する酵素固定化層9とを備える。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、グルコースセンサに関し、特に血液等の溶液中のグルコース濃度を測定するための光導波路型グルコースセンサ及び発色試薬固定化方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、特開平9−61346号公報には平面光導波路型グルコースセンサが開示されている。このグルコースセンサは、基板表面に一対のグレーティング(回折格子)を配置し、一方のグレーティングに光が入射され、もう一方のグレーティングから光が出射される。これらグレーティングに位置する基板表面に単一の光導波路層を形成し、さらにこの光導波路層上に分子認識機能および情報変換機能を有する膜を形成した構造を有する。
【0003】
このような構造のグルコースセンサにおいて、検体から抽出した血液等に含まれる生体分子を分子認識機能および情報交換機能を有する膜に接触した状態でレーザ光のような光をグレーティングを通して光導波路層に入射させ、エバネッセント波を発生させ、光導波路層上の膜による血液等に含まれる生体分子との反応に起因するエバネッセント波の変化量をグレーティングから出射される光を受光する受光素子により検出して、血液等に含まれる生体分子を分析する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来のグルコースセンサは光導波路層が単層で、ここで発生するエバネッセント波の変化量の検出には感度的に限界があり、また光導波路層上の膜構造から検体から抽出した血液等に含まれる極微量の生体分子分析には不向きであるという問題があった。
【0005】
本発明は、検体から抽出した、例えば体液中の極微量のグルコースを好感度かつ高精度で分析することが可能な光導波路型グルコースセンサ及び発色試薬固定化方法を提供しようとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明の第1の特徴は、基板と、基板に接して設けられた第1光導波路層と、第1光導波路層に接して、第1光導波路層の両端部部位に離間して設けられた入射側グレーティング及び出射側グレーティングと、第1光導波路層に接して、入射側グレーティング及び出射側グレーティングの間に設けられた、第1光導波路層より高屈折率を有する第2光導波路層と、第2光導波路層に接して設けられた50nm以上、500nm以下の厚さの発色試薬固定化層と、発色試薬固定化層に接して設けられた酵素を含有する酵素固定化層とを具備する光導波路型グルコースセンサを提供することである。
【0007】
本発明の第1の特徴によれば、溶液中の極微量のグルコースを高感度で分析することができる。
【0008】
本発明の第2の特徴は、少なくとも1つの第1のアミノ基をもつ発色試薬をトルエンで溶解し、発色試薬溶液を調製するステップと、発色試薬溶液を光導波路層表面に塗布するステップと、塗布した発色試薬溶液中のトルエンを揮発させ、発色試薬を光導波路層表面に吸着させるステップとを有する発色試薬固定化方法を提供することである。
【0009】
本発明の第2の特徴によれば、光導波路層表面に発色試薬を強固に固定することができる。また、光導波路層表面に吸着する発色試薬固定化層の厚さを100nm以内にすることができる。これにより、溶液中の極微量のグルコースを高感度で分析することが可能となる。
【0010】
【発明の実施の形態】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分は同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。従って、具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0011】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る光導波路型グルコースセンサは、図1に示すように、基板1と、基板1に接して設けられた第1光導波路層2と、第1光導波路層2の両端部付近に離間して設けられた入射側グレーティング3a及び出射側グレーティング3bと、第1光導波路層2に接して設けられ、入射側グレーティング3aと出射側グレーティング3bの間に位置する第1光導波路層2より高屈折率を有する第2光導波路層4と、第2光導波路層4に接して設けられた発色試薬を固定化した発色試薬固定化層8と、発色試薬固定化層8に接して設けられた酵素を含有する酵素固定化層9を備える。さらに、酵素固定化層9に接して設けられた多孔質膜10と、多孔質膜10に接して設けられたメッシュ状導電性薄膜と、入射側グレーティング3a及び出射側グレーティング3bを覆うように第1光導波路層2に接して設けられた保護膜5と、保護膜5をさらに覆うように接して設けられた迷光トラッピング層7とを備える。
【0012】
基板1は、例えばホウケイ酸ガラス等からなる。第1光導波路層2は、基板1より高い屈折率を有する材質からなる。入射側グレーティング3aと出射側グレーティング3bは、例えば酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、ガリウム砒素(GaAs)、インジウム錫酸化物(ITO)、酸化タルタル(Ta)またはポリイミド等の第1光導波路層2より高い屈折率を有する材質からなる。第2光導波路層4は、例えばTiO、ZnO、LiNbO、GaAs、ITO、Ta、酸化錫(SnO)またはポリイミド等からなり、外周が傾斜した形状をしている。発色試薬固定化層8は、例えば、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン等を含有する。酵素固定化層9は、酸化酵素として例えばグルコースオキシダーゼ(GOD)、酸化還元酵素としてペルオキシダーゼ(POD)、そしてα−D−グルコースをβ−D−グルコースに転換するためのムタロターゼ等を含有する。さらに、多孔質膜10は、例えば含水ゲル等からなる。メッシュ状導電性薄膜11は、例えばチタン薄膜等からなる。保護膜5は、例えばフッ素樹脂等からなる。そして、迷光トラッピング層7は、例えば液晶表示装置に用いられるブラックマトリックス(顔料入りレジスト)等からなる。
【0013】
なお、基板1の屈折率をn、第1光導波路層2の屈折率をn、入射側グレーティング3aと出射側グレーティング3bの屈折率をn、第2光導波路層4の屈折率をnおよび保護膜5の屈折率をn、とすると、それらの屈折率の大小関係は、n≧n>n>n>nとなる。
【0014】
次に、図1に示した光導波路型グルコースセンサの製造方法の一例を図2、図3を参照して説明する。
【0015】
(イ)まず、図2(a)に示すように、例えばホウケイ酸ガラスからなる基板1の表面を例えば380〜400℃の硝酸カリウム溶液塩等のイオン交換溶液に浸漬してカリウム、ナトリウム等の高屈折率元素をイオン交換することにより第1光導波路層2を形成する。その後、化学蒸着(CVD)法等を用いて、第1光導波路層2上に例えばTiO、ZnO、LiNbO、GaAs、ITO、Taまたはポリイミド等の第1光導波路層2より屈折率の高い材料の層12を形成する。
【0016】
(ロ)次に、図2(b)に示すように、第1光導波路層より屈折率の高い材料の層12をフォトエッチング技術等を用いてパターニングすることにより第1光導波路層2の中央付近に外周が傾斜した形状の第2光導波路層4を形成する。
【0017】
(ハ)次に、例えばCVD法等により、第1光導波路層2の全面に第1光導波路層より屈折率の高い材料の層12を再度形成する。その後、フォトエッチング技術等を用いて第1光導波路層2より屈折率の高い材料の層12をパターニングすることにより、図2(c)に示すように、第1光導波路層2の両端部付近表面上に2つの入射側グレーティング3aと出射側グレーティング3bを形成する。
【0018】
(ニ)次に、入射側グレーティング3aと出射側グレーティング3bおよび第2光導波路層4を含む第1光導波路層2上に、例えば感光性フッ素系樹脂のような入射側グレーティング3aと出射側グレーティング3bに比べて低屈折率を有する材料の被膜をスピン塗布する。つづいて、この被膜に露光、現像処理を施すことにより、図2(d)に示すように、第2光導波路層4の表面に対応する箇所に矩形状の開口部6を有する感光性フッ素系樹脂からなる保護膜5を形成する。
【0019】
(ホ)次に、CVD法や真空蒸着法等により、図3(e)に示すように、保護膜5の表面(開口部6の内面を除く)に例えば液晶表示装置に用いられるブラックマトリックスからなる迷光トラッピング層7を形成する。
【0020】
(ヘ)次に、図3(f)に示すように、保護膜5の開口部6から露出した第2光導波路層4表面部分に発色試薬を固定化することにより発色試薬固定化層8を形成する。具体的な発色試薬固定化層8の形成方法については、後で詳細に記述する。
【0021】
(ト)次に、図3(g)に示すように、保護膜5の開口部6から露出した発色試薬固定化層8表面部分に、例えばグルコースオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、ムタローゼ等を、下記式(1)に示す構造式の化合物のような脂質の膜で固定化することにより酵素固定化層9を形成する。
【化1】



【0022】
(チ)次に、保護膜5の開口部6から露出した酵素固定化層9上に、例えば有機モノマー、光反応開始剤およびデカン酸メチルのような貧溶媒を含む溶液をスピン塗布し、乾燥させ、光重合させた後、洗浄処理することにより、図3(h)に示すように、多孔質膜10を形成する。
【0023】
(リ)最後に、チタンアルコキシドを加水分解して原液を作り、これをスピン塗布し、乾燥後加熱して酸化チタン薄膜を得るゾルゲル方法等によって、図3(i)に示すように、メッシュ状導電性薄膜11を多孔質膜10上に形成する。そして、電界(例えばパルス状の電界)が印加されるように陽極に電極板101を配線した電源102の陰極を配線することにより図1に示す光導波路型グルコースセンサを製造する。
【0024】
次に、本発明の第1の実施の形態に係る発色試薬固定化方法について説明する。図1に示した光導波路型グルコースセンサにおいては、発色試薬固定化層8の発色試薬として、下記式(2)に示す構造式のようなアミノ基を有する3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンを使用する。
【化2】



【0025】
通常、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンは、水に溶けにくいためメチルアルコール等に溶解した発色試薬溶液を用いる。しかし、このメチルアルコールで溶解した発色試薬溶液を用いて第2光導波路層4上に固定化した場合、試料溶液に接触させた際に固定化した3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンが第2光導波路層4から遊離して溶出しやすい。この結果、エバネッセント波がしみ出す第2光導波路層4表面から約100nmの厚さの範囲から発色試薬が外れてしまうため、発色試薬の発色を十分に検出することができなくなる。そこで本発明の実施の形態では、第2光導波路層4表面上に3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンを強固に固定し、かつ発色試薬固定化層8を第2光導波路層4表面から50nm以上、500nm以下に設けるように形成する。好ましくは、50nm以上、100nm以下が望ましい。
【0026】
(イ)まず、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンをトルエンで溶解し、最終濃度が4mmol/l程度になるように発色試薬溶液を調製する。
【0027】
(ロ)次に、この発色試薬溶液を、保護膜5の開口部6から露出した第2光導波路層4表面部分にスピン塗布する。
【0028】
(ハ)最後に、乾燥させて発色試薬溶液中のトルエンを揮発させると、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンが第2光導波路層4表面に吸着し、発色試薬固定化層8を形成する。
【0029】
なお、発色試薬固定化層8の膜厚は、保護膜5の開口部6から露出した第2光導波路層4表面部分に塗布する面積及び塗布量によって決まる。例えば、塗布面積を4mm×7mm、塗布量を5μlとした場合、上述の発色試薬溶液を回転数500rpmでスピン塗布すると、発色試薬固定化層8の膜厚は100nm以内となる。
【0030】
このような発色試薬固定化方法によれば、第2光導波路層4表面に3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンを強固に固定することができる。また、第2光導波路層4表面に吸着する発色試薬固定化層8の厚さは、分子サイズレベル程度で100nm以内となる。
【0031】
次に、検体100のグルコースの測定方法について説明する。図1に示す光導波路型グルコースセンサのメッシュ状導電性薄膜11側に検体100、例えば人体の皮膚の一部を接触させ、さらに検体100の別の部位に電極板101を接触させる。ここで、多孔質膜10の上部に配置されたメッシュ状導電性薄膜11と電極板101の間に電源102から所望の電界(例えばパルス状電界)を印加すると、人体の皮膚下のグルコースを含む体液が多孔質膜10を通して酵素固定化層9に効率よく抽出される、いわゆる微浸襲作用がなされる。この体液中のグルコースは、酵素固定化層9でグルコースオキシダーゼ(GOD)等との酸化酵素反応により過酸化水素(H)を発生させる。さらに過酸化水素からペルオキシダーゼ(POD)等との酸化還元酵素反応によりラジカル酸素原子(O)が生成される。このラジカル酸素原子により発色試薬固定化層8で発色試薬を発色させる。この反応を模式すると(1)、(2)、(3)のようになる。
グルコース + 酸化酵素(GOD等)→ H ・・・・(1)
 + 酸化還元酵素(POD等)→ O   ・・・・(2)
 + 発色試薬 → 発色           ・・・・(3)
【0032】
上述の反応(2)において、ペルオキシダーゼ等の酸化還元酵素によりラジカル酸素原子を生成しているが、酸化還元酵素に代わって例えば白金(Pt)、エチレンジアミン4酢酸鉄(Fe−EDTA)等の金属触媒によりラジカル酸素原子を生成することも可能である。
【0033】
このような状態で、図1に示すように光源21(例えば波長650nmの半導体レーザ)および受光素子22をそれぞれグルコースセンサの基板1の裏面左側および右側に配置する。光源21からレーザ光を偏光フィルタ23を通してグルコースセンサの基板1裏面側に入射する。そのレーザ光は基板1を通して入射側グレーティング3aと第1光導波路層2の界面で屈折されて、その第1光導波路層2を伝播される。第1光導波路層2を伝播されるレーザ光は、この第1光導波路層2より高屈折率の第2光導波路層4との界面で2つのモード(TMモード、TEモード)に分割され、TMモードレーザ光は第1光導波路層2を、TEモードレーザ光は第2光導波路層4を伝播する。このとき、発色試薬固定化層8における発色試薬の発色に基づく変化(例えば吸光度変化)により、この発色試薬固定化層8直下の第2光導波路層4を伝播する光の強度が変化する。第1光導波路層2と第2光導波路層4を伝播した光は、受光素子22側端付近において第1光導波路層2と第2光導波路層4の界面で再び結合、干渉するため、第2光導波路層4を伝播する光の強度変化が増幅される。その結果、第2光導波路層4を伝播する光の極微な変化も偏光フィルタ24を通して受光素子22で検出される。
【0034】
したがって、光導波路を第1光導波路層2と第2光導波路層4により構成し、本発明の発色試薬固定化方法により、発色試薬固定化層8を第2光導波路層4上に接して100nm以内に設けることで、検体100(人体の皮膚下)から抽出されたグルコースと酵素との反応による発色試薬の発色に基づく第2光導波路層4を伝播する光の極微な変化を、第1光導波路層2と第2光導波路層4の界面で検出できる。このため、検体100から抽出された極微量のグルコースを一層高感度で分析することができる。
【0035】
また、図1に示すように入射側グレーティング3aと出射側グレーティング3bを含む第1光導波路層2上に保護膜5を設けることによって、第1光導波路層2および入射側グレーティング3aと出射側グレーティング3bに外部圧力が直接加わるのを防止できる。このため、第1光導波路層2および出射側グレーティング3bに外部圧力が直接加わることに伴う部材の屈折率変化によって、その第1光導波路層2を伝播する光が外部に漏れるのを防止できる。しかも、保護膜5を第1光導波路層2に比べて低屈折率材料で形成することによって、その第1光導波路層2を伝播する光を第1光導波路層2と保護膜5との界面で効果的に全反射させて第1光導波路層2内に封じ込めることができる。このため、第1光導波路層2から光が外部に漏れるのを防止できる。その結果、検体100中の極微量のグルコースをより高感度で分析することが可能となる。
【0036】
さらに、第1光導波路層2を伝播する光が保護膜5との界面から保護膜5側に漏れた場合、迷光トラッピング層7を保護膜5の表面(開口部6の内面を除く)に設けることによって、漏光を迷光トラッピング層7でトラップすることができる。すなわち、第1光導波路層2を伝播する光が保護膜5との界面から保護膜5側に漏れると、保護膜5表面と外界(空気)との屈折率の差により漏光は保護膜5表面で全反射して第2光導波路層4に迷光として入射されるため、前述した検体100中のグルコースの検出感度を低下させる。これに対し、迷光トラッピング層7を保護膜5の表面に設けることによって、漏光が保護膜5表面で全反射することなく迷光トラッピング層7でトラップできる。このため、漏光が第2光導波路層4に迷光として入射するのを防止でき、検体100中のグルコースをより高感度で分析することが可能となる。
【0037】
さらに、酵素固定化層9を多孔質膜10で覆うことによって、酵素固定化層9に検体100から抽出される溶液(例えば体液)中のグルコース以外の蛋白や血球等の不純物の影響を防止できる。つまり酵素固定化層9における酵素とグルコースの酵素反応および発色試薬固定化層8での発色試薬の発色反応に基づく変化による第2光導波路層4を伝播する光の強度変化に対して作用する外乱を低減できる。したがって、検体100から抽出された体液中の極微量のグルコースをより一層高感度で分析することが可能になる。
【0038】
(第1の実施の形態の変形例)
本発明の第1の実施の形態に係る光導波路型グルコースセンサの変形例として、図4に示すように電源102の陰極を導電性のある金属酸化物でできた第2光導波路層4に配線し、電源102の陽極に電極板101を配線する。このようにすることでメッシュ状導電性薄膜11は不要となる。そして多孔質膜10側に検体100、例えば人体の皮膚を接触させ、さらに検体100の別の部位に電極板101を接触させる。ここで、この多孔質膜10の下方に配置された導電性の第2光導波路層4と電極板101の間に電源102から所望の電界(例えばパルス状電界)を印加すると、浸襲作用により、検体100からグルコースを含む体液が多孔質膜10を通して酵素固定化層9に効率よく抽出される。
【0039】
第1の実施の形態で記述したグルコースの測定法法と同様に、抽出された体液中のグルコースは酵素反応を起こし、この酵素反応によるラジカル酸素原子により酵素固定化層9直下の発色試薬固定化層8の発色試薬を発色させる。そして発色に基づく第2光導波路層4を伝播する光の極微な変化を偏光フィルタ24を通して受光素子22で検出することが可能である。したがって検体100から抽出された体液中の極微量のグルコースを高感度で分析することができる。
【0040】
(その他の実施の形態)
ここで、図1と図4は、微浸襲作用を利用して体液を抽出する場合について示しているが、本発明のその他の実施の形態として、検体100への電界の印加に代えて、検体100への穿刺等によって得られる血液等を直接メッシュ状導電性薄膜11または多孔質膜10上から滴下して分析することも可能であることは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【0041】
【発明の効果】
本発明によれば、検体100から抽出される、例えば体液中の極微量のグルコースを高感度かつ高精度で分析することが可能な光導波路型グルコースセンサと、光導波路型グルコースセンサの第2光導波路層4に接して100nm以内の厚さに発色試薬固定化層8を固定化する発色試薬固定化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る光導波路型グルコースセンサを示す断面図である。
【図2】図1の光導波路型グルコースセンサの製造工程を示す工程断面図である(その1)。
【図3】図1の光導波路型グルコースセンサの製造工程を示す工程断面図である(その2)。
【図4】本発明の第1の実施の形態の変形例に係る光導波路型グルコースセンサを示す断面図である。
【符号の説明】
1 基板
2 第1光導波路層
3a 入射側グレーティング
3b 出射側グレーティング
4 第2光導波路層
5 保護膜
6 開口部
7 迷光トラッピング層
8 発色試薬固定化層
9 酵素固定化層
10 多孔質膜
11 メッシュ状導電性薄膜
12 第1光導波路層より屈折率の高い層
21 光源
22 受光素子
23,24 偏光フィルタ
100 検出器
101 電極板
102 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板に接して設けられた第1光導波路層と、
前記第1光導波路層に接して、前記第1光導波路層の両端部部位に離間して設けられた入射側グレーティング及び出射側グレーティングと、
前記第1光導波路層に接して、前記入射側グレーティング及び前記出射側グレーティングの間に設けられた、前記第1光導波路層より高屈折率を有する第2光導波路層と、
前記第2光導波路層に接して設けられた50nm以上、500nm以下の厚さの発色試薬固定化層と、
前記発色試薬固定化層に接して設けられた酵素を含有する酵素固定化層
とを具備することを特徴とする光導波路型グルコースセンサ。
【請求項2】
前記酵素固定化層の上部に設けられた、メッシュ状導電性薄膜と、
前記メッシュ状導電性薄膜を陰極に配線し、電極板を陽極に配線した電源
とを更に具備することを特徴とする請求項1に記載の光導波路型グルコースセンサ。
【請求項3】
導電性材料からなる前記第2光導波路層と、
前記第2光導波路層を陰極に配線し、電極板を陽極に配線した電源
とを更に具備することを特徴とする請求項1に記載の光導波路型グルコースセンサ。
【請求項4】
前記発色試薬が、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光導波路型グルコースセンサ。
【請求項5】
前記酵素にグルコースオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ又はムタロターゼを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光導波路型グルコースセンサ。
【請求項6】
少なくとも1つの第1のアミノ基をもつ発色試薬をトルエンで溶解し、発色試薬溶液を調製するステップと、
前記発色試薬溶液を光導波路層表面に塗布するステップと、
前記塗布した発色試薬溶液中のトルエンを揮発させ、前記発色試薬を前記光導波路層表面に吸着させるステップ
とを有することを特徴とする発色試薬固定化方法。
【請求項7】
前記発色試薬が、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンであることを特徴とする請求項6に記載の発色試薬固定化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2004−93528(P2004−93528A)
【公開日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−258650(P2002−258650)
【出願日】平成14年9月4日(2002.9.4)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】