説明

光導波路素子

【課題】
薄板化した主基板を伝播する信号光の光学的な特性劣化を抑制し、製品の光学特性を向上させることが可能な光導波路素子を提供すること。
【解決手段】
電気光学効果を有する厚さが30μm以下の基板に光導波路が形成された光導波路基板と、該光導波路基板が補強基板と接着剤層を介して接合されている光導波路素子において、該光導波路基板の該補強基板側の面上であって、該光導波路が形成された部分にバッファ層が形成され、
該バッファ層を覆うように該光導波路基板の該補強基板側に、光吸収膜が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路素子に関し、特に、電気光学効果を有する厚さが30μm以下の基板に光導波路が形成された光導波路基板と、該光導波路基板が補強基板と接着剤層を介して接合されている光導波路素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光導波路素子の中でも、光変調器は、変調帯域の広帯域化や駆動電圧の低減のため、光導波路が形成された主基板を、10μm程度まで薄板化し、電界効率の向上や速度整合条件を調整し、光変調器の変調性能の向上を図っている。また、このような薄く加工された基板を、安定的に製造プロセスで取り扱うことを可能とし、また製品としての機械的強度を確保するため、特許文献1に示すように、薄板化される主基板に、補強基板を接着させた構造を持つ光導波路素子が提案されている。
【0003】
図1は、従来の光導波路素子の断面図であり、光導波路が形成された主基板(光導波路基板)の上面には、信号電極や接地電極などから構成される制御電極が設けられ、主基板の下面には、接着剤層を介して補強基板が接続されている。
【0004】
このように光導波路が薄い主基板上に形成されている場合、光導波路の分岐部や結合部などから漏れた光波は、主基板内をスラブ導波路として伝搬し、後方の光導波路と干渉して、信号光の消光比の劣化や、信号光をモニターする受光素子で受光信号の位相差が発生するなどの問題を生じていた。このような問題は、主基板の厚みが100μm以上のものにおいては重大なものではない。これは、基板の厚み方向で、光導波路から離れる方向に漏れ光が進行し、光導波路と再結合する機会が少ないためである。
【0005】
薄板化された主基板を使用する光導波路素子において、光導波路の外側を伝播している光が後段の光導波路と干渉することの無いようにするため、特許文献2又は3に示すように、光導波路に三分岐光導波路を形成するなど、高次モード光を導出するための分岐導波路を信号光が伝搬する光導波路に接続する方法や、特許文献4又は5に示すように、光導波路の近傍に遮光手段や迷光除去手段を配置する方法などが提示されている。
【0006】
しかしながら、分岐導波路を別途設ける方法については、設計上のマージンが少なく、製造上の僅かなプロセス誤差により、満足する特性が得られないという問題がある。また、光導波路の近傍に遮光手段等を配置する方法は、遮光手段の設置場所が限られ、局所的な遮光手段では、十分に漏出光などを吸収できないなどの問題を生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−85789号公報
【特許文献2】特開2008−89875号公報
【特許文献3】特願2009−84344号(出願日:2009年3月31日)
【特許文献4】特開2006−301612号公報
【特許文献5】特開2006−276518号公報
【特許文献6】特開平6−289341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、薄板化した主基板を伝播する信号光の光学的な特性劣化を抑制し、製品の光学特性を向上させることが可能な光導波路素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、電気光学効果を有する厚さが30μm以下の基板に光導波路が形成された光導波路基板と、該光導波路基板が補強基板と接着剤層を介して接合されている光導波路素子において、該光導波路基板の該補強基板側の面上であって、該光導波路が形成された部分にバッファ層が形成され、該バッファ層を覆うように該光導波路基板の該補強基板側に、光吸収膜が形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の光導波路素子において、該光吸収膜が半導体膜又は浮遊金属膜のいずれかであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明により、電気光学効果を有する厚さが30μm以下の基板に光導波路が形成された光導波路基板と、該光導波路基板が補強基板と接着剤層を介して接合されている光導波路素子において、該光導波路基板の該補強基板側の面上であって、該光導波路が形成された部分にバッファ層が形成され、該バッファ層を覆うように該光導波路基板の該補強基板側に、光吸収膜が形成されているため、光吸収膜の配置場所を広くとることができ、光導波路基板の表面に配置した膜体だけで、効率良く漏出光を吸収することができる。このため、漏出光などの光導波路の外側を伝播する光が後段の光導波路に再結合することが抑制される。
【0012】
また、光導波路と光吸収膜との間に、光の吸収を抑制するバッファ層が形成されているため、光導波路と光吸収膜との距離を適切に保持することができ、例えば信号光が光吸収膜に吸収されるのを抑制することも可能となる。さらに、バッファ層を光導波路とほぼ同じパターンで形成し、それを覆うように光吸収膜を光導波路基板に形成するだけで、光導波路に接触せず、かつ光導波路の近傍に配置された光吸収膜を設けることが可能となる。さらに、光吸収膜はバッファ層を覆うように、光導波路基板の全面に付けると、漏出光の大部分を吸収できる。
【0013】
請求項2に係る発明により、光吸収膜が半導体膜又は浮遊金属膜のいずれかであるため、簡便に光吸収膜を形成することができる。しかも、半導体膜の場合は、金属膜と比較し、信号電極の損失が少なく、大きなインピーダンス変化も抑制され、光導波路素子の光学特性の劣化を防止することができる。また、浮遊金属膜とすることで、制御電極が形成する電界分布に与える影響を最小限とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】従来の光導波路素子の断面構造を説明する図である。
【図2】本発明の光導波路素子の一実施例を説明する図である。
【図3】本発明の光導波路素子の他の実施例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の光導波路素子について、詳細に説明する。
本発明の光導波路素子は、図2又は3に示すように、電気光学効果を有する厚さが30μm以下の基板に光導波路が形成された光導波路基板と、該光導波路基板が補強基板と接着剤層を介して接合されている光導波路素子において、該光導波路基板の該補強基板側の面上であって、該光導波路が形成された部分にバッファ層が形成され、該バッファ層を覆うように該光導波路基板の該補強基板側に、光吸収膜が形成されていることを特徴とする。
【0016】
電気光学効果を有する材料としては、例えば、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、PLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)、及びこれらの組み合わせが利用可能である。特に、電気光学効果の高いニオブ酸リチウム(LN)結晶が好適に利用される。
【0017】
光導波路の形成方法としては、Tiなどを熱拡散法やプロトン交換法などで基板表面に拡散させることにより形成することができる。また、特許文献6のように、薄板1の表面に光導波路の形状に合わせてリッジを形成し、光導波路を構成することも可能である。さらに、リッジ型導波路と拡散導波路とを併用することも可能である。
【0018】
光変調器や光スイッチなどの光導波路素子の場合には、光導波路に電界を印加するため、信号電極や接地電極などからなる制御電極が、光導波路基板の表面などに形成される。制御電極は、Ti・Auの電極パターンの形成及び金メッキ方法などにより形成することが可能である。電気光学効果を有する材料は全て酸化物であり、その材料の酸素と電極材料が結合し、低誘電率層(酸化物層)が形成される。金(Au)は基本的に酸化し難い材料であるため、電極材料にはTi等の材料が含まれることが望ましい。
【0019】
光導波路素子を構成する主基板(光導波路基板)の薄板化方法は、数百μmの厚さを有する基板に上述した光導波路を形成し、基板の裏面を研磨して、30μm以下の厚みを有する薄板を作成する。その後薄板の表面に制御電極を作り込む。また、光導波路や制御電極などの作り込みを行った後に、基板の裏面を研磨することも可能である。なお、光導波路形成時の熱的衝撃や各種処理時の薄膜の取り扱いによる機械的衝撃などが加わると、薄板が破損する危険性もあるため、これらの熱的又は機械的衝撃が加わり易い工程は、基板を研磨して薄板化する前に行うことが好ましい。
【0020】
図2又は3に示すように、薄板化された光導波路基板を補強するため、補強基板が接着剤層を介して光導波路基板に接合されている。補強基板に使用される材料としては、種々のものが利用可能であり、例えば、薄板化される主基板と同様の材料を使用する他に、石英、ガラス、アルミナなどのように薄板より低誘電率の材料を使用したり、または、特許文献6のように薄板と異なる結晶方位を有する材料を使用することも可能である。ただし、線膨張係数が薄板と同等である材料を選定することが、温度変化に対する光変調素子の変調特性を安定させる上で好ましい。仮に、同等の材料の選定が困難である場合には、薄板と補強板とを接合する接着剤に、薄板と同等な線膨張係数を有する材料を選定する。
【0021】
光導波路基板と補強基板との接合には、接着剤層として、エポキシ系接着剤、熱硬化型接着剤、紫外線硬化性接着剤、半田ガラス、熱硬化性、光硬化性あるいは光増粘性の樹脂接着剤シートなど、種々の接着材料を使用することが可能である。
【0022】
本発明の光導波路素子の特徴は、光導波路基板の補強基板側の面に光吸収膜を形成することであり、光吸収膜としては、SiやSiNなどの半導体膜や、AlやAuなどの浮遊金属膜が使用可能である。特に、光吸収膜を設ける前の従来の光導波路素子と比較して、光学特性の変化を少なくするためには、光吸収膜として半導体膜を使用することが好ましい。また金属膜は浮遊させることで、制御電極が形成する電場に与える影響を最小限とすることが可能となる。
【0023】
半導体膜は、金属膜より光吸収機能が低いため、光導波路基板の面においては、金属膜より、より広い領域に配置することが必要である。また、特定の箇所に離散的に金属膜を設けるような配置パターンではなく、図1に示すように、光導波路基板の全面に渡って光吸収膜である半導体膜を配置することが好ましい。
【0024】
本発明では、光導波路近傍の裏面にも、半導体膜や浮遊金属膜などの光吸収膜を形成すると、光導波路を伝播する信号光も吸収し、光導波路の損失が増加することとなる。この問題を防ぐため、光導波路と光吸収膜との間に、光の吸収を抑制するバッファ層が形成することが好ましい。バッファ層には、信号光を吸収しないSiOなど、屈折率の小さい誘電体を用いることができる。なお、浮遊金属膜が導波光を吸収することを防ぐためには、バッファ層の厚みは0.6μm以上必要である。
【0025】
なお、図3に示すように、バッファ層を用いず、光導波路の下側などを避けるように、光吸収膜をパターニングして形成することも可能である。このような場合には、接着剤層に、屈折率の低い材料を使用することが重要である。
【0026】
主基板(光導波路基板)及び補強基板として、ニオブ酸リチウム(LN)基板を用い、屈折率が1.5程度の接着剤を用いて変調器を作製した場合について、本発明の光導波路素子の効果を検証した。
【0027】
主基板となるLNの裏面の光導波路近傍のみに、SiOの誘電体膜をバッファ層として成膜する。このときのバッファ層の厚さは、0.6μmとし、この後、主基板の裏面全面に、光吸収膜として、Siの半導体膜を形成した。この膜の厚さについては、主基板内を伝搬する不要光を充分に吸収できる厚さに設定した。
【0028】
本発明の光導波路素子と光吸収膜を形成していない従来品とについて、光変調器の消光比、及びモニタPDの位相差特性を測定したところ、いずれも本発明品の方が良好であることを確認した。特に、消光比については、25dB以上が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0029】
以上説明したように、本発明によれば、薄板化した主基板を伝播する信号光の光学的な特性劣化を抑制し、製品の光学特性を向上させることが可能な光導波路素子を提供することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有する厚さが30μm以下の基板に光導波路が形成された光導波路基板と、該光導波路基板が補強基板と接着剤層を介して接合されている光導波路素子において、
該光導波路基板の該補強基板側の面上であって、該光導波路が形成された部分にバッファ層が形成され、
該バッファ層を覆うように該光導波路基板の該補強基板側に、光吸収膜が形成されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光導波路素子において、該光吸収膜が半導体膜又は浮遊金属膜のいずれかであることを特徴とする光導波路素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−78507(P2012−78507A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222695(P2010−222695)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】