説明

光強度検出方法及び該方法を用いたセンシング方法、光強度検出装置及び該装置によって構成したセンシング装置

【課題】光学的変化を検出するに際して、指向性がなく広範囲へ広がる光を測定に用いることができると共に、信号のS/N比の向上を図ることができ、外力による変形を抑制することが可能となる、簡単な装置構成による光強度検出方法及び該方法を用いたセンシング方法、光強度検出装置及び該装置によって構成したセンシング装置を提供する。
【解決手段】電磁波に対し負の屈折率を示す屈折率周期構造503を用い、前記電磁波による入射光501,502を前記屈折率周期構造中を伝播させて前記屈折率周期構造外の集光点に集光させ、屈折率に変化をもたらす要因の差異により生じる前記集光点の位置ずれによって、光強度の変化を検出装置504で検出するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光強度検出方法及び該方法を用いたセンシング方法、光強度検出装置及び該装置によって構成したセンシング装置に関し、例えばこれらのセンシング方法及びセンシング装置により大気中の汚染物質や血液中の特定分子などの検出、微小な温度変化、生体遺伝子情報を読み取ることを可能としたセンサ技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、予防医学の重要性が増すにつれ、病気の有無や個人の体調をより簡便に素早く判定できる検査法が求められている。これらの要求を満たすため、例えば、化学や生化学などの分析を小さなワンチップ内で行う、μ−TAS(Total Analysis System)技術などが開発されている。このような検査技術には、微小かつ非常に検出精度のよいセンシング方法が必要になるので、現在様々な手法を用いたセンシング方法が考案されている。
上記のセンシングは、電気的変化、化学的変化、光学的変化など様々な変化を検出することで行われるが、その中で光を用いた検出は、光の持つ非接触性や非反応性から、より正確で、被検体への影響が比較的少ない方法として用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、蛍光測定を用いたセンシング法が開示されている。このセンシング法は、抗体を担持した担体と、蛍光標識された抗原を含む溶液との接触時に、抗原抗体反応により抗原が抗体に特異的に結合し、それに光源からの励起光を照射し、放射された蛍光を測定し抗原を検出する方法である。
また、非特許文献1には、抗体を担持されたフォトニック結晶に抗原を結合させ、その反射光のスペクトル変化を測定し検出する方法が開示されている。
また現在、負の屈折現象を用いて、光を回折限界以上に絞り、解像度を大きく向上させるスーパーレンズなどが提案されており、例えば、非特許文献2には、センサとしては用いられていないが、フォトニック結晶の負の屈折現象を利用し、平面集光レンズを作製した例が開示されている。
【特許文献1】特開2002−005935号公報
【非特許文献1】Adv. Mater. 2002, 14, p.1629 (2002)
【非特許文献2】Nature, 426, p.404 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した従来例における特許文献1の蛍光標識を用いたセンシングでは、検出対象物質と標識との相性があり、検出に適した標識を用いることのできない場合がある。また、これによる場合、信号成分である蛍光の発生効率を上げることが難しく、検出感度を上げるためには、強度の大きな励起光が必要となり、S/N比の大きな信号が得られにくいということがあった。
また、上記した従来例のフォトニック結晶を用いたバイオセンサでは、ポリスチレンなどの微小球を3次元状に積み上げて周期構造を構成し、それに検出対象物質を付着させ、周期構造へ照射した光の反射スペクトルを測定し、センシングを行っていた。しかし、このようなセンシング方法で用いられる、微小球をならべたフォトニック結晶の構造では、外力に対して容易に変形し、スペクトル変化が物質を検出したものか、構造の変形によるものか区別が難しく、その結果、物質の特定に任意性が残る恐れがあった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑み、光学的変化を検出するに際して、指向性がなく広範囲へ広がる光を測定に用いることができると共に、信号のS/N比の向上を図ることができ、外力による変形を抑制することが可能となる、簡単な装置構成による光強度検出方法及び該方法を用いたセンシング方法、光強度検出装置及び該装置によって構成したセンシング装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のように構成した光強度検出方法及び該方法を用いたセンシング方法、光強度検出装置及び該装置によって構成したセンシング装置を提供するものである。
すなわち、光強度検出方法は、電磁波に対し負の屈折率を示す屈折率周期構造を用い、前記電磁波による入射光を前記屈折率周期構造中を伝播させて前記屈折率周期構造外の集光点に集光させ、屈折率に変化をもたらす要因の差異により生じる前記集光点の位置ずれによって、光強度の変化を検出することを特徴としている。
また、本発明のセンシング方法は、上記した光強度検出方法を用い、外部環境条件の変化をセンシングするセンシング方法であって、屈折率に変化をもたらす要因として、前記屈折率周期構造に付着した流体中の物質または流体自体の温度変化等の外部環境条件の変化による差異を利用し、これらの外部環境条件の変化をセンシングすることを特徴としている。
また、本発明の光強度検出装置は、電磁波に対し負の屈折率を示す屈折率周期構造と、前記屈折率周期構造に対して電磁波を照射する光源手段と、前記屈折率周期構造中を透過した電磁波による光の強度を検出する光強度検出手段とを有し、前記光源手段から前記屈折率周期構造中を透過して前記屈折率周期構造外の集光点に集光した、屈折率に変化をもたらす要因の差異に基づく光の強度を、前記光強度検出手段によって検出することを特徴としている。
また、本発明のセンシング装置は、光強度の変化を検出する光強度検出手段を備え、該光強度検出手段により光強度の変化を検出して流体中の物質または流体自体の温度変化等の外部環境条件の変化をセンシングするセンシング装置であって、前記光強度検出手段が、上記した光強度検出装置によって構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、光学的変化を検出するに際して、指向性がなく広範囲へ広がる光を測定に用いることができると共に、信号のS/N比の向上を図ることができ、外力による変形を抑制することが可能となる、簡単な装置構成による光強度検出方法及び該方法を用いたセンシング方法、光強度検出装置及び該装置によって構成したセンシング装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明によれば、上記のように構成することで、上記した課題を達成することができるが、本発明の実施の形態における光強度検出装置及び該装置によって構成したセンシング装置は、具体的には、例えば電磁波に対する屈折率の周期構造と、前記屈折率周期構造に対する電磁波を照射する手段と、屈折率周期構造中を透過した電磁波を検出する手段とを有する構成とし、前記屈折率周期構造による負の屈折効果を受け伝搬した電磁波が、前記屈折率周期構造の屈折率変化により光路が変わることを利用して、光路変化を検出することにより屈折率の変化を検出するようにする。その際、流体中の検出対象物質のセンサ表面への付着、または流体自体の温度変化によるセンサ表面および内部における温度変化が、前記屈折率変化をもたらすことを利用することで、検出対象物質および温度変化を検出することが可能となる。
以下の説明において、前記屈折率の周期構造における屈折率変化をもたらす、流体中の検出対象物質のセンサ表面への付着、または流体自体の温度変化を、「外部環境条件の変化」と表現する。
【0009】
このようなセンシング手段によれば、蛍光標識などの標識を用いないため検出対象物質により標識を選択する必要がなく、どのような物質に対しても同条件で測定を行うことが可能である。さらに、前記屈折率周期構造の透過光を直接検出するため、強度の大きな励起光は必要としない。また、電磁波の負の屈折現象を用いることにより、光路変化を検出するため集光した光を用いることができ、かつ前記光源より前記屈折率周期構造側のあらゆる方向に照射される電磁波を検出に用いることができるので、信号のS/N比をよくすることができる。したがって、強度の大きな光源を用いずに、正確なセンシングを行うことが可能である。また、ここで用いられる屈折率周期構造は、微小球を3次元状に積み上げた構造以外の、2次元状の堅牢な板に周期的に中空構造を設けた構造も可能であり、外力による変形をはるかに少なくすることができる。
また、フォトニック結晶が集光レンズの役割を果たし、それ以外のレンズなどの部品を用いる必要がなく、装置自体を簡単な構成にできる。
【0010】
つぎに、上記した本実施の形態におけるセンシング装置(以下、センサと記す)の各構成について、更に詳しく説明する。
まず、上記したセンサの検出対象物質検知部に用いられるフォトニック結晶について説明する。
上記したセンサには、検出対象物質検知部にフォトニック結晶が用いられるが、このフォトニック結晶とは、光、一般には電磁波に対する屈折率の周期構造を持つ機能材料である。屈折率の周期は、用いる光の波長程度となっている。前記屈折率の周期構造は、1次元から3次元のものまでがある。
図1にフォトニック結晶のフォトニックバンド構造を示す。
図1に示すように、フォトニック結晶は前記屈折率周期構造に応じて、光のエネルギーと波数の関係が定まるフォトニックバンド構造を形成する。色つきで示した、曲線が存在する領域101をフォトニックバンド、存在しない領域102をフォトニックバンドギャップと呼ぶ。
フォトニックバンド構造は、結晶構造を設計することにより制御できる。これにより結晶中の光の伝搬を制御できる。例えば、ある波長の光に対して実効的な屈折率を変化させ負としたり、群速度を極端に遅くしたりできる。また、フォトニックバンドギャップをつくることもでき、ギャップ中の周波数帯の光は結晶中に存在できない。本発明では、フォトニック結晶の負の屈折率現象を利用する。
【0011】
以上では光に対するフォトニック結晶の性質について述べたが、マイクロ波領域など、一般に電磁波であれば光の波長に応じて屈折率変化の周期を変えることにより、全く同じ性質が出る。ここでは、どのような電磁波を用いてもよいが、センサとしての用途上、フォトニック結晶の大きさはできるだけ小さいことが好ましく、それに伴い屈折率変化の周期も小さくなる。従って、用いる電磁波は波長10μm以下であることが好ましい。
【0012】
つぎに、負の屈折率の条件について説明する。
ここで、負の屈折とは、伝搬光の位相速度と群速度が反対となる状態をいう。そのような状態をとるのに必要な条件はすでに研究されており、例えば特開2000−66002号公報、非特許文献である「Phys. Rev. Lett. 65, 201104−1 (2002)」等においても、いくつかの条件が挙げられている。
図2は、正方格子フォトニック結晶の波数空間における等エネルギー面と、結晶中における入射光の負の屈折の様子を表す図である。
201は空気側における波数空間内の光の等エネルギー面、202は入射光の群速度ベクトル、203は結晶側における波数空間内での光の等エネルギー面、204は伝搬光の群速度ベクトル、205は結晶の第一ブリルアンゾーンである。206、207は保存しているkyと光の等エネルギー面との交点、208は2次元正方格子フォトニック結晶である。フォトニック結晶は構造材料に対して周期的に中空構造を有している。
スネルの法則によるy方向の波数ky(位相速度のy成分と平行)の保存および光子のエネルギー保存則から、図2では、ky=ky0と固定したとき、結晶側での等エネルギー面との交点における群速度が結晶中の光の群速度である。光の群速度は、等エネルギー面の勾配で与えられ、方向はエネルギー等高線に垂直となる。この場合、結晶側の等エネルギー面の勾配が負となっているため、交点206では図2のようにkyと結晶中の群速度は互いに反対である。実空間でみると、結晶中の光は屈折率が負となる方向に伝搬していることが分かる。なお交点207における群速度は、空気中の光と逆方向になっており、物理的には無意味な解である。
また、これ以外の外側の等エネルギー面とky=ky0との交点があったとき、その交点における群速度をもつ伝搬光も存在でき、透過光成分となる。透過光の屈折は負にはならないので、この場合、伝搬光は負の屈折側に従わない成分を含むことになる。交点が存在しない時は、透過成分はエバネッセント波となり結晶中で減衰する。
【0013】
以上により、光の屈折率が負になるときは、等エネルギー面の勾配が負であること、負の屈折をする伝搬光以外の透過光が存在しないこと、が条件となる。
特開2000−66002号公報によれば、このような条件を満たすのは、図3における色付きの領域301のように、フォトニックバンドにおいて、分散曲線の勾配が負で、なおかつそれ以外の分散曲線が存在しない場合(フォトニックバンドギャップが異方的に開いている場合)である。
この他に、透過光成分が全反射する場合も負の屈折効果が存在する。
以上のような性質は、フォトニック結晶に対して一般的に成り立つ性質である。従って、図2では正方格子の例を挙げ説明したが、上にあげた条件を満たしていれば、3角格子を始めとした他の構造の結晶でも当然成立する。さらに、2次元、3次元の結晶に関わらず成立する。
よって、フォトニック結晶により負の条件を示す構造を得るには、その設計に際して上記した負の屈折率の条件を満たすようにフォトニック結晶を作製すればよい。
【0014】
つぎに、本実施の形態におけるフォトニック結晶の構造について説明する。
図4に本実施の形態におけるフォトニック結晶の構造を示す。
図4には、401で示した構造材料からなるフォトニック結晶が示されている。この構造材料には、周期的に円柱状の中空構造402が形成され、これにより屈折率の周期構造が形成されている。この周期は結晶中を伝搬する光の波長程度の大きさである。周期的な中空構造は円柱状に限るものではなく、矩形や楕円等、任意の断面形状が適用可能であり、中空構造が周期的になっていればよい。また、ここではフォトニック結晶は、構造材料に中空構造を形成したものであるが、この関係が逆になった、円柱状の構造材料が周期的に形成されたものでも適用可能である。
【0015】
つぎに、本実施の形態におけるフォトニック結晶の構造材料の具体的な材料について説明する。
構造材料401の候補となる材料は、おもに誘電体と半導体である。誘電体ではAl23、SiO2、TiO2、ポリイミド、ポリシランなど、半導体では、Si、SiC、GaAs、InP、GaN、ZnS、などの材料例が挙げられる。また、Au、Ag、Cu、Wなどの金属材料を用いることも可能である。
【0016】
つぎに、本実施の形態におけるフォトニック結晶の、前記外部環境条件を検出する方法について説明する。
図5に、本実施の形態におけるセンサ部で屈折率変化を検出する原理を説明する概念図を示す。
図5において、501は検出に用いる光源、502は光源から出射する光を代表する光線、503はセンサ部であるフォトニック結晶、504はフォトニック結晶を透過した光の強度の測定装置である。
フォトニック結晶は光源から照射される光に対して、負の屈折率を持つように設計されている。光源から出射した光は、センサ部であるフォトニック結晶に入射し、負の屈折率により光線502のような軌跡で伝搬する。
一度結晶中で集光した後、広がった光が結晶の境界部で再び集光され、集光点に位置する光強度測定装置に入射し強度検出される。
光源から出射する光は、TEまたはTMどちらか一方の偏光であることが好ましい。
光源はレーザーのような指向性のある光でも、発光ダイオード、白熱灯、蛍光灯、タングステンランプ、ハロゲンランプなど、ほとんど指向性なく放射される点光源でもどちらでもよい。
ここで用いられるフォトニック結晶は、図5中における波数のx成分が正の値を持つ、すべての方向の光を結像させることができ、特に前述した指向性のない光を最大限の効率で検出に利用できる点が、本実施態様のフォトニック結晶を用いたことによる特徴である。
【0017】
つぎに、図6を用いてフォトニック結晶中の光の光路変化を検出する検出方法について説明する。図6において、601は光強度測定装置、602は光強度測定装置へ入射する光線である。
フォトニック結晶における屈折率が変化すると、その変化に応じて結晶を伝播する光路が変化する。それによって、図6(a)に示すように光の集光点の位置がずれ、光強度測定装置で検出する光の強度が変化する。すなわち、集光点では光の強度が大きく、その他の点では強度が小さい。本発明における光の入射条件では、集光点の位置ずれは図6(a)中の±x方向でおこる。
検出は光の強度変化により行ってもよいし、図6(b)に示すように、強度が一定になるように測定装置自体を移動させ、その移動量Δxを検出してもよい。
これら一連の変化が、フォトニック結晶における屈折率の変化に対して非常に敏感であることを特徴とする。これにより、前記屈折率の変化を精度よく検出することができる。
また、フォトニック結晶の屈折率変化は、センサ部であるフォトニック結晶の前記外部環境条件の変化により引き起こされるため、屈折率の変化を精度よく検出することにより、フォトニック結晶の外部環境条件の変化を精度よくセンシングすることができる。
また、ここではセンサ部であるフォトニック結晶が、同時に集光レンズの役割も果たしており、その他の集光レンズを一切必要とせず、装置構成を簡単にでき、コストも下げることができる。さらに、集光した光を検出することで強度を大きくすることができ、検出のS/N比を大きくすることができるのが、本実施態様のフォトニック結晶を用いたことによる特徴である。
【0018】
以下に、フォトニック結晶の前記外部環境条件の変化による屈折率の変化過程について説明する。なお、以下においては、検出対象物質を含む流体を「検査液」と表現する。
前記検出対象物質がセンサ表面へ付着すると、物質が付着した領域では屈折率が検出対象物質の屈折率となり、周囲の雰囲気とは屈折率が変化する。これによりセンサ部のフォトニック結晶全体の実効的な屈折率が変化する。また、前記屈折率変化は検査液の濃度に依存する。従って、前述したような光強度測定装置における検出光量の変化、または集光点の移動量の絶対値を評価することにより、検査液の濃度の評価も可能である。
前記検出対象物質は、センサ表面に対し物理的に吸着してもよいし、検出対象物質と特異的に結合する物質をセンサ表面に担持させておき、前記検出対象物質との結合を利用して吸着させてもよい。前記検出対象物質と特異的に結合する物質を結合物質とする。センサの感度を上げるためには、検出対象物質の吸着密度が大きいことが好ましく、よって、検出対象物質と結合物質の特異吸着を利用する方が好ましい。
【0019】
前記検査液を直接センサ部に接触させることによりセンシングを行うが、その方法は少量の検査液をセンサ部に塗布し、検出対象物質を付着させてもよいし、検査液をセンサ部のフォトニック結晶の中空構造を通して流し付着させてもよい。ただし、付着する検出対象物質の密度を大きくするためには、検査液を一定時間連続に流す方法が望ましい。
センサ部のフォトニック結晶を通して検査液を流すためには、センサ部に接続する流路を設け、流路に検査液を導入することにより流す方法がある。
センサに対して流される流体の温度が変化すると、それに応じてフォトニック結晶の屈折率も変化する。これにより、これまで述べてきたものと同様の仕組みで結晶中を伝搬する光の光路が敏感に変化し、それを検出することにより温度変化を検出できる。
なお、本発明において、上記した検査液の流体には、液体および気体が含まれる。例えば、気体は粒子を運搬する場合は、屈折率、温度など液体と同様に変化するため、本発明が適用可能である。
【0020】
つぎに、上記した検査液の具体例について説明する。
検査液の例を挙げると、医療検査用としては、血液、尿、唾液、鼻咽頭液、リンパ液等の体液、糞便懸濁液上澄み液、細胞ホモジナイズ溶液上澄み液、DNAのPCR反応液等の処理液、人間の呼気、等が挙げられる。
また、環境測定用としては、地下水、河川水、湖沼水、土壌懸濁水上澄み液、スモッグ、自動車の排気ガス、工場排煙、新築家屋内の空気、等が挙げられる。
これらの媒質となる液体および気体は、本発明のセンサを用いて検出対象物質をセンシングする場合に、所望の光学的特性を伴わず、本発明のセンサの特徴を活かして検査液内の検出対象物質を検知することができるものであればいかなるものでもよい。
つぎに、上記した検出対象物質と結合物質の組み合わせについて説明する。
前記検出対象物質と結合物質の組み合わせには、抗原およびそれに対する抗体などがある。逆に抗体を検出したい場合は抗原を結合物質とする。さらに、DNAあるいはオリゴヌクレオチドに対してそれと相補的に結合するDNAあるいはオリゴヌクレオチドの場合もある。その他、酵素と基質、ホルモンとレセプタ、アビジンあるいはストレプトアビジンとビオチンのようなタンパクと低分子化合物との組み合わせ、レクチン(コンカナバリンA)とセロオリゴマーのようなタンパクと糖鎖のような組み合わせ、転写因子のようなたんぱく質と核酸DNAの組み合わせ等、を挙げることができる。
【実施例】
【0021】
以下に本発明の実施例について説明する。
以下の実施例は例示的なものであり、本発明において用いる光源の波長、フォトニック結晶の構造材料、大きさ、形状、などの諸条件は、以下の実施例1〜3により何ら限定されるものではない。
【0022】
[実施例1]
実施例1は、上記した本発明及びその実施の形態の構成を適用して、負の屈折現象を用いたセンサを構成したものである。
【0023】
図7に本実施例における、負屈折現象を用いたセンサの真上から見た模式図を示す。図7において、701は光源であるところの発光ダイオードまたはレーザーダイオード、702は光源からの出射光を代表する光線、703は偏光フィルタ、704はセンサ部となるフォトニック結晶素子、705は光検出装置であるところの光ディテクターを含む光検出部、706はセンサの支持基板である。
【0024】
センシング全体の過程を概観すると、光源から出射した光がセンサ部であるフォトニック結晶に入射し、センサの外部環境条件の変化に応じた透過光の光路の変化を光検出部で検出することにより、前記外部環境条件の変化を検出することができる。検出原理は、前述のとおりである。なお、外部環境条件の変化とは、前記屈折率の周期構造における屈折率変化をもたらす、検査液中の検出対象物質のセンサ表面への付着、または外部流体の温度変化のことを示す。
【0025】
以下、本実施例における各部品の役割をそれぞれ説明する。
まず、光源から照射される光は波長1.5μmの赤外光である。光源への電力の供給は、センサの支持基板内部にある電源からの不図示の配線により行われる。光源から照射される光はレーザーのような指向性の強い光でも、発光ダイオードのような指向性なく放射される光でもどちらでもよい。
また、前記の光源に接続した光ファイバの先端から放射される光も適用することができる。光源から出射した光は、偏光フィルタによりTM偏光のみがフォトニック結晶構造に照射され、結晶中を伝搬していく。
そして、センサ部であるフォトニック結晶は、SOI(Silicon On Insulator)ウエハの厚さ1μmのSOI層(Si基板を下にしたとき最上面となるSi層)を用いて作製されている。フォトニック結晶は、面積約200μm×100μmであり、光源からの光に対して負の屈折率を持つように設計されている。この部分における前記外部環境条件の変化により、結晶中の光の光路が変化する。本実施例においては、構造材料の中に孔を形成したようなフォトニック結晶を用いているが、空気中に柱状構造を周期的に配置した2次元のフォトニック結晶を用いてももちろんかまわない。
【0026】
図8は本実施例における光検出部の模式図である。
図8において、801は光ファイバ、802は光ファイバに入射する光線、803はファイバを固定する支持具、804は光強度検出器である。
フォトニック結晶から出射した光は、光ファイバに入射し、ファイバ中を伝搬し、光強度検出器で測定される。光ファイバは光の集光点に支持具で固定できるようになっている。
センサ部の屈折率変化により、フォトニック結晶から出射する光の光路が変化し、集光点が移動すると、光とファイバの結合効率は急激に変化する。その変化はファイバのコアの径が小さい、シングルモードファイバを用いるときが特に急激である。センサ部であるフォトニック結晶は、前述したように波数のx成分が正の値を持つ、すべての方向の光を結像させることができる集光レンズとして働くため、その焦点深度は非常に小さくなる。よって、わずかな光路のずれによる集光点の移動に対しても、光の結合効率は敏感に反応することになる。
【0027】
屈折率変化の検出は、光強度検出器の測定値変化をモニターすることにより行う。また、常に光の結合効率が一定になるように支持具を集光点の位置に合わせて移動させ、その変化量をモニターしてもよい。この際、支持具の移動は電圧により体積が変化するピエゾ素子などを用い、その変化量を印加電圧の数値に読み替えモニターする方法が考えられる。
このような構成および作用により、本センサを用意すれば外部環境の変化を感度よく検出することができる。
【0028】
このように、フォトニック結晶の負の屈折現象を用いたセンサは、フォトニック結晶以外の素子や集光レンズを全く必要とせず、装置構成を図7のように簡単に、かつ小型にすることが可能である。従って、μ−TASなど、少量の検査液中の物質をワンチップ内で検出するシステムのセンサ部としても応用することができる。また、光源として発光ダイオードを用いても十分な光量が得られることから、レーザーなどを用いる装置よりも、コストを安価に仕上げることができる。このようなセンサを実現するためにはすべてが一体化したパッケージになっている必要はなく、発光部や受光部がフォトニック結晶を有するパッケージの部分と別になっていてもよい。この場合、受光部や発光部は繰り返し使うことができ、コストを抑えることができるというメリットがある。
【0029】
[実施例2]
実施例2は、上記した本発明及びその実施の形態の構成を適用して、負の屈折現象を用いたセンサを構成したものである。
図9に、本発明における実施例2のセンサの構成を示す。
901はフォトニック結晶欠陥共振器を用いた点光源デバイス、902は点光源からセンサと反対方向に放射された光を反射する半球面ミラー、903は点光源とセンサ部であるフォトニック結晶構造を一緒に形成した素子、904は光源から出射した光の光路を代表して描いた光線、905は偏光フィルタ、906は光検出部、907は装置の支持基板である。
点光源からは、平面素子内のすべての方向に光が放射される。センサ方向へ放射された光は、偏光フィルタによりTM偏光に規定され、センサ部のフォトニック結晶に入射する。センサ部の面積は実施例1と同様である。構造材料は、実施例1と同様SOIウエハのSOI層を用いている。また、半球面ミラーは焦点が点光源の位置に合うように設置されている。よってセンサと反対方向へ放射された光は半球面ミラーにより反射され、やはりセンサ部のフォトニック結晶に入射する。センサ部のフォトニック結晶へ光が入射した後の検出方式は、実施例1と同様である。
901のフォトニック結晶欠陥共振器を用いた点光源デバイスは図10のような構成になっている。1001は中空構造、1002はフォトニック結晶の構造材料、1003は点光源部である。
フォトニック結晶欠陥共振器は、大きさ50μm×50μmのフォトニック結晶によってなり、点光源部には、例えば各種半導体の多重量子井戸構造、量子ドット、各種レーザー色素、色素を結合させた液晶材料、有機、無機EL材料、蛍光材料などを活性層として導入している。
点光源の存在する部分は、中空構造がなく屈折率周期構造の周期が乱れた欠陥となっている。また点光源周囲のフォトニック結晶は、点光源から放射される光がフォトニックバンドギャップにおける周波数帯に入るよう、設計されている。前記活性層を不図示の外部光または電流注入により励起し光を放射すると、素子平面と平行方向では、光は欠陥に閉じ込められる。この欠陥が共振器となり、活性層における発光の効率を上げることができる。また、素子平面と垂直方向には、構造材料と外部空気の大きな屈折率差により光を閉じ込める。
実施例2のように、半球面ミラーを用いた構成をとることにより、素子平面内の全方向へ放射される光をすべて利用することができ、信号のS/N比を上げることができる。
実施例2のように、光源にフォトニック結晶共振器を用いた点光源を用い、センサ部と同一の素子に一括して造り込むことによって、光の閉じ込めがよくなり、外部の光源からセンサ部へ光を入射させる際に生じる入射損失がなくなる。以上の2点によっても、光源からの光を有効に使用することができ、信号のS/N比を上げることができる。また、センサ部と素子の一括製作によるコストの削減も期待できる。
【0030】
[実施例3]
実施例3は、上記した本発明及びその実施の形態の構成を適用して、負の屈折現象を用いたセンサを構成したものである。
図11に、本発明における実施例3のセンサの斜めからの立体図を示す。本実施例においては、センサ1101は図11に示したような構成のセンサであり、3層からなるガラス基板に挟まれた構造になっている。図11はμ−TASなどの一部分であり、流路とセンサ部よりなっている。前記のμ−TAS全体をここではセンサチップと呼ぶことにする。
1102は下層の基板であり、センサの検出部分が差し込まれている。1103は中間層を構成する基板であり、流路1104はフォトリソグラフィーで描いたパターンを、フッ酸エッチングにより転写し作製した。流路の断面積は200μm×100μmでセンサ部のフォトニック結晶の面積と等しい。中間層にはセンサのフォトニック結晶構造部分が位置し、流路を横切る形になっている。1105は上層の基板であり、センサの光源の部分が差し込まれ、また流路の蓋にもなっている。なお、1105は透明に描いてあるが、これは図をわかりやすく示すためで、実際にはセンサ1101は1105中に差し込まれている。
【0031】
センサチップの大きさは、3×5cm2、厚さは、上下の基板がそれぞれ1cm、中間の基板が5mmである。
センサチップの流路に、溶媒の中に抗原が分散された検査液を流すと、検査液はセンサ1101のフォトニック結晶の中空構造を通過する。センサ1101のフォトニック結晶には、検出対象物質である抗原と特異的に結合する抗体が坦持してある。検査液が中空構造を通過することで、坦持されている抗体と流体中の抗原が結合反応を起こし(抗原抗体反応)、フォトニック結晶に固定化される。抗原が固定化されたことにより、フォトニック結晶の屈折率が変化し、前述したように伝搬光の光路が変化する。
【0032】
これを測定することで、抗体を検出することができる。測定は、流路に検査液を流して抗原抗体反応が起こった後、一度流路およびフォトニック結晶を水などで洗い流して乾燥させてから行ってもよいし、洗い流さずそのまま乾燥させ行ってもよい。また、検査液が付着したまま乾燥させず測定を行うこともできる。
前記流路の両端は実際には流体を抽出して流路へ導入したり、流体を成分ごとに分離したりするような構造に結合されているが、ここではセンシングを行う部分のみを示した。
実施例3のセンサは、抗原を含んだ溶液を効率的にフォトニック結晶へ導入するための流路が付いているため、センシングを効率よく簡便に行うことができる。これは、病院や在宅における検査で、より簡単で迅速な検出が必要な場合に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態におけるフォトニック結晶のフォトニックバンド構造を示す図。
【図2】本発明の実施の形態におけるフォトニック結晶における負の屈折効果の原理を示す図。
【図3】本発明の実施の形態におけるフォトニックバンド中の負の屈折効果を示す波長帯域を表す図。
【図4】本発明の実施の形態におけるフォトニック結晶の2次元の周期構造の例を示す図。
【図5】本実施の形態におけるセンサ部で屈折率変化を検出する原理を説明する概念図。
【図6】本発明の実施の形態におけるフォトニック結晶中の光の光路変化を検出する検出方法を説明する図であり、(a)は光強度変化の測定による検出方法、(b)は光の集光点の移動量測定による検出方法を示す図。
【図7】本発明の実施例1におけるセンサの構成を示す図。
【図8】本発明の実施例1におけるセンサの光検出部の構成を示す図。
【図9】本発明の実施例2におけるセンサの構成を示す図。
【図10】本発明の実施例2におけるフォトニック結晶共振器を有した光源部を示す図。
【図11】本発明の実施例3におけるセンサ装置の流路を含んだ検出部の立体図。
【符号の説明】
【0034】
101:フォトニックバンド
102:フォトニックバンドギャップ
201:空気側における波数空間内の光の等エネルギー面
202:入射光の群速度ベクトル
203:結晶側における波数空間内の等エネルギー面
204:伝搬光の群速度ベクトル
205:結晶の第一ブリルアンゾーン
206:ky=kyoと光の等エネルギー面の交点。物理的に意味のある解
207:ky=kyoと光の等エネルギー面の交点。物理的に意味のない解
208:2次元正方格子フォトニック結晶
301:負の屈折率を有する光の波長域
401:構造材料
402:中空構造
501:光源
502:光源からの出射光線
503:フォトニック結晶構造
504:光強度測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波に対し負の屈折率を示す屈折率周期構造を用い、前記電磁波による入射光を前記屈折率周期構造中を伝播させて前記屈折率周期構造外の集光点に集光させ、屈折率に変化をもたらす要因の差異により生じる前記集光点の位置ずれによって、光強度の変化を検出することを特徴とする光強度検出方法。
【請求項2】
前記入射光は、光源から照射される指向性のある光、または指向性のない光が用いられることを特徴とする請求項1に記載の光強度検出方法。
【請求項3】
前記屈折率周期構造に、2次元または3次元のフォトニック結晶が用いられることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光強度検出方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の光強度検出方法を用い、外部環境条件の変化をセンシングするセンシング方法であって、
屈折率に変化をもたらす要因として、前記屈折率周期構造に付着した流体中の物質または流体自体の温度変化等の外部環境条件の変化による差異を利用し、これらの外部環境条件の変化をセンシングすることを特徴とするセンシング方法。
【請求項5】
前記物質の前記屈折率周期構造への付着が、前記流体の前記屈折率周期構造表面への塗布により、または前記流体を前記屈折率周期構造中に流すことにより、行われることを特徴とする請求項4に記載のセンシング方法。
【請求項6】
前記物質の前記屈折率周期構造表面への付着が、前記屈折率周期構造表面への物理的吸着、または前記屈折率周期構造表面に担持させた結合物質との特異的結合によることを特徴とする請求項5に記載のセンシング方法。
【請求項7】
電磁波に対し負の屈折率を示す屈折率周期構造と、前記屈折率周期構造に対して電磁波を照射する光源手段と、前記屈折率周期構造中を透過した電磁波による光の強度を検出する光強度検出手段とを有し、前記光源手段から前記屈折率周期構造中を透過して前記屈折率周期構造外の集光点に集光した、屈折率に変化をもたらす要因の差異に基づく光の強度を、前記光強度検出手段によって検出することを特徴とする光強度検出装置。
【請求項8】
前記光強度検出手段は、前記集光点に集光した光をファイバを介して検出することを特徴とする請求項7に記載の光強度検出装置。
【請求項9】
前記光源手段が、点光源デバイスと、点光源デバイスから前記屈折率周期構造と反対方向に放射された光を前記屈折率周期構造方向に反射する半球面ミラーと、を備えていることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の光強度検出装置。
【請求項10】
光強度の変化を検出する光強度検出手段を備え、該光強度検出手段により光強度の変化を検出して流体中の物質または流体自体の温度変化等の外部環境条件の変化をセンシングするセンシング装置であって、前記光強度検出手段が、請求項7〜9のいずれか1項に記載の光強度検出装置によって構成されていることを特徴とするセンシング装置。
【請求項11】
前記流体を流すための流路を有し、前記屈折率周期構造が前記流路の少なくとも一部に配置されていることを特徴とする請求項10に記載のセンシング装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2006−112985(P2006−112985A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−302383(P2004−302383)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】