説明

光感受性基を有するβ−ベンジルオキシアスパラギン酸誘導体

本発明は、下記式(1)又は(2)で表される、光学活性L-スレオ-β-ベンジルオキシアスパラギン酸又はそのベンゼン環置換類縁体の光感受性誘導体に関する。この化合物は、光分解に拠り、L-グルタミン酸トランスポーターのグルタミン酸取り込み活性を抑制する機能を示す化合物を産生する。


式中、R1は水素原子、アミノ基、アシル基部分が置換されてもよい直鎖若しくは分岐低級脂肪族アシルアミノ基、環状脂肪族アシルアミノ基、又は芳香環上に置換基を有してもよい芳香族アシルアミノ基を表し;R2は水素原子、又はニトロベンゼン環上で2以上の水素原子を置換してもよい直鎖若しくは分岐低級脂肪族アルキルオキシ基を表し;R3は水素原子、メチル基、又はカルボキシル基を表し; R4及びR5は各々水素原子、水酸基、アルキル部分が置換されてもよい直鎖若しくは分岐低級アルキルオキシ基、アミノ基、直鎖若しくは分岐低級アルキル置換アミノ基、又はハロゲン原子を表す)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の属する技術分野:
本発明はL-グルタミン酸取り込み阻害に関し、さらに詳細にはL-グルタミン酸トランスポーターのグルタミン酸取り込み活性の抑制作用を有する化合物を光照射により生成することができる、下記式(1)
【0002】
【化1】

【0003】
(式中、R1は水素原子、アミノ基、アシル基部分が置換されてもよい直鎖若しくは分岐低級脂肪族アシルアミノ基、環状脂肪族アシルアミノ基、又は芳香環上に置換基を有してもよい芳香族アシルアミノ基を表し;R2は水素原子、又はニトロベンゼン環上で2以上の水素原子を置換してもよい直鎖若しくは分岐低級脂肪族アルキルオキシ基を表し;R3は水素原子、メチル基、又はカルボキシル基を表す。)
又は式(2)
【0004】
【化2】

【0005】
(式中、R1は水素原子、アミノ基、アシル基部分が置換されていてもよい直鎖若しくは分岐低級脂肪族アシルアミノ基、環状脂肪族アシルアミノ基、芳香環上に置換基を有してもよい芳香族アシルアミノ基を表し;R4及びR5は各々水素原子、水酸基、アルキル部分が置換されてもよい直鎖若しくは分岐低級アルキルオキシ基、アミノ基、直鎖若しくは分岐低級アルキル置換アミノ基、又はハロゲン原子を表す。)
で表される、光学活性L-スレオ-β-ベンジルオキシアスパラギン酸又はそのベンゼン環置換類縁体の光感受性誘導体に関する。
【0006】
これらの化合物は、L-グルタミン酸トランスポーターのグルタミン酸取り込み機構解明への糸口を探るために使用でき、てんかん、ハンチントン氏病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病などの神経障害、神経変異症等の治療の開発をおおいに発展させるであろうと期待される。
【従来技術】
【0007】
L-グルタミン酸はほ乳動物の中枢神経系における興奮性神経刺激の伝達物質であり、シナプス間での素早い神経伝達を引き起こすだけではなく、高次で複雑な生理的過程である記憶や学習にも関与していることが知られている。シナプス間での興奮性の神経伝達は、プレシナプスからのグルタミン酸の放出に始まり、神経末端やグリア細胞に存在する高親和性のグルタミン酸トランスポーターによるシナプス間隙からの素早いグルタミン酸の取り込みにより終焉する(Attwell, D. and Nicholls, D., TIPS 68-74, 1991; Danbolt, N. C. Prog. Neurobiol. 65, 1-105, 2001)。
【0008】
いくつかの遺伝的な神経変性疾患においては、患者の脳の一部にナトリウム依存性グルタミン酸取り込み活性の低下が報告されている(Rothstein, J. D. et al., N. Eng. J. Med 326, 1464-1468, 1992)。このため、グルタミン酸トランスポーターの機能の発現と阻害がこれらの疾患との関連で注目されている。1992年のナトリウム依存性高親和性グルタミン酸トランスポーターのcDNAのクローニングとともに、この分野での分子生物学的研究がなされるようになってきた。(Pines, G. et al., Nature 360, 464-467, 1992; Storck, T. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89, 10955-10959, 1992; Kanai, Y. et al., Nature 360, 467-471, 1992)。1994年にはヒトのグルタミン酸トランスポーター遺伝子もクローニングされ、EAAT1-5のサブタイプに分類された(Arriza, J. L. et al., J. Neurosci. 14, 5559-5569; Fairman, W. A. et al., nature, 375, 599-603, 1995; Arriza, J. L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94, 4155-4160, 1997)。
【0009】
トランスポーターの生理的な役割を調べるために、ノックアウトマウスを用いた解析がなされた例がある(Rothstein, J. D. et al., Neuron, 16, 675-686, 1996; Tanaka, K. et al., Science, 276, 1699-1702, 1997)。しかし、ノックアウトマウスは慢性的な機能欠如に対する解析は可能であっても、急性のトランスポーター不全の影響は調べることができず、また、あるタイプのトランスポーターを欠如させても他のトランスポーターの機能により補償されることが多いという事実により、解析に限界があった。この理由から、トランスポーターの医学的阻害は、トランスポーターの生理的役割の解明において不可欠である。
【0010】
本発明者らはβ炭素に置換基をもつβ−ヒドロキシアスパラギン酸誘導体が、すべてのEAAT1-5サブタイプに対して、取り込み阻害作用を示すことを報告している(Lebrun, B. et al., J. Biol. Chem. 272, 20336-20339, 1997; Shimamoto, K. et al., Mol. Pharmacol. 53, 195-201, 1998; Shigeri, Y. et al., J. Neurochem. 79, 297-302, 2001)。また、β炭素の置換基が嵩高い化合物は、すべてのサブタイプに対してブロッカーとして働き、グルタミン酸の取り込みのみならず、ヘテロエクスチェンジ型グルタミン酸漏出やナトリウムイオンの流入も阻害することを見いだしている(Chatton, J-Y. et al., Brain Res. 893, 46-52, 2001)。特にL-スレオ-β-ベンジルオキシアスパラギン酸(L-TBOA)は強いブロッカー作用を有し、グルタミン酸受容体に対する親和性は既存の阻害剤に比較して低いことから、グルタミン酸トランスポーター研究の標準物質となるに至っている。
【0011】
さらに、本発明者らはTBOAの構造に基づいて構造活性相関研究を行い、TBOAのベンゼン環上に置換基を有する化合物、とりわけ3-(4-トリフルオロメチルベンゾイル)アミノ誘導体(TFB-TBOA)や3-(4-メトキシベンゾイル)アミノ誘導体 (PMB-TBOA)がL-TBOAよりも強い阻害活性を示すことを見出している(特許出願 PCT-JP02-06286)。
【発明の開示】
【0012】
発明の概要:
グルタミン酸トランスポーターの基質輸送機構や生理的役割をより詳細に明らかにするためには、時間的・位置的に限定された条件でトランスポーターを阻害することが必要になる。しかしながら、細胞特異的な薬物投与や急激な薬物濃度の上昇といった条件の制御は、従来の薬物投与方法では困難であった。
【0013】
発明の詳細な説明:
近年、生理活性物質の活性部位を光感受性基で保護することにより活性を抑制しておき、必要な時に光照射によって脱保護して活性を再生させることができるようになってきた。このような物質はケージド化合物として知られる。この技術を用いれば、光照射のタイミングを見計らうことにより所望の期間中に急激な薬物濃度上昇を引き起こすことができる。また、光源としてレーザー光を用いることにより、特定の細胞のみに光照射し、細胞とその近傍のみを刺激することも可能である。例えばケージドグルタミン酸等が開発されている(Wilcox, M et al, J. Org. Chem., 55, 1585-1589, 1990; Furuta, T. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96, 1193-1200, 1999; Tsien, R. and Furuta, T. PCT-US99-27591, 1999)。グルタミン酸トランスポーター関連試薬では、アゴニストであるD-アスパラギン酸濃度を瞬時に上昇させトランスポーターを活性化した例はあるが(Grewer, C. et al., Biochemistry, 40, 232-240, 200)、トランスポーターの瞬間的な不活性化を達成した例はない。
【0014】
我々は、このケージド化の技術をトランスポーター阻害剤に応用することにより、位置・時間選択的な阻害が可能になると考え、ケージドグルタミン酸のようにエステル型で導入された光感受性基を有する化合物を合成した。光感受性保護基としては、ケージング基として汎用されているニトロベンジル型保護基(Wilcox, M et al, J. Org. Chem., 55, 1585-1589, 1990; Wieboldt, R. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 91, 8752, 1994; for review Gee, K. R. et al., Methods in enzymology, 291, 30-50, 1998)の他に、クマリルメチル型保護基(Eckardt, T. et al., J. Org. Chem., 67, 703-710, 2002; Hagen, V. et al., Angew. Chem. Int. Ed., 40, 1045-1048, 2001; Furuta, T. et al., J. Org. Chem., 60, 3953-3956, 1995; Furuta, T. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96, 1193-1200, 1999; Tsien, R. and Furuta, T., PCT WO 00/31558)が有効であることを見出した。特にクマリルメチル型保護基を有するTBOA誘導体は、ニトロベンジル型保護基に比べて光感受性が高かった(Takaoka, K. et al., Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters, in press)。しかし、エステル型で導入した光感受性基を有する化合物の場合、光感受性は高いものの、水溶液中で次第に分解する傾向がみられ、実用性に問題があった。そこで、光感受性保護基や結合位置の選択など種々検討の結果、TBOAもしくはベンゾイルアミド置換TBOAのα−アミノ基にカルバメート結合で光感受性基を導入することにより、水溶液中でも安定に保存できることを見出した。得られたカルバメート型化合物の光感受性はエステル型よりも低かったが、光感受性保護基上の置換基を導入することにより反応性が向上し、エステル型化合物とほぼ同等の高い反応性を得ることができた。本発明によって得られたケージド型グルタミン酸トランスポーター阻害剤は、光照射前には活性が1/300以下に抑制されていたが、光照射により速やかに阻害活性が回復することが示され、本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明は、UV光により活性発現を制御することができ、化学式(1)及び(2)で示される、光学活性β-ベンジルオキシアスパラギン酸又はそのベンゼン環置換類縁体のα-アミノ基上に光感受性保護基を有するニトロベンジル型光感受性化合物及びクマリン型光感受性化合物、並びにそれら塩である、グルタミン酸トランスポーターのケージド型ブロッカーを提供するものである。
【0016】
【化3】

【0017】
【化4】

【0018】
光学活性β-ベンジルオキシアスパラギン酸及びそのベンゼン環置換類縁体としては、下記式(3)において示される化合物であり、式中、R1は水素、アミノ基、アシル基部分が置換されてもよい直鎖若しくは分岐低級脂肪族アシルアミノ基、環状脂肪族アシルアミノ基、又は芳香環上に置換基を有してもよい芳香族アシルアミノ基である。これらの基におけるアシル基部分は、C1〜C6炭素鎖長のものとすることができ、R1で示される直鎖若しくは分岐低級脂肪族アシルアミノ基のアシル基の例は、アセチル、プロピオニル、n-ブタノイル、sec-ブタノイル、n-ペンタノイル、ピバロイル、及びシクロヘキシルカルボニルを含む。アシル基はまた、アミノ、ヒドロキシル又はビオチニル基のような置換基を有してもよい。R1で示される芳香族アシルアミノ基の芳香族アシル基の例は、ベンゾイル、ナフトイル、ピリジルカルボニルを含む。芳香環は置換基を有していてもよい。芳香環上の置換基の例は、直鎖若しくは分岐アルキル、アリール、アルコキシル、ニトロ、シアノ、アミノ、アシルアミノ、カルボキシル、ハロゲン、ハロゲン化アルキル、ビオチニル、ビオチニルアルキルを含む。
【0019】
【化5】

【0020】
ニトロベンジル型光感受性化合物は、一般式(1)で表され、式(3)で示される化合物のα-アミノ基にカルバメート結合によるo-ニトロベンジル誘導体の置換を有する化合物である。式(1)において、R1は式(3)のR1に等しく、R2は水素又は直鎖若しくは分岐低級脂肪族C1〜C6アルキルオキシであり、ニトロベンゼン環上に2つ以上置換していてもよい。R3は水素、メチル基、又はカルボキシルを表す。
【0021】
クマリン型光感受性化合物は、一般式(2)で表され、式(3)で示される化合物のα-アミノ基にカルバメートとしてクマリルメチル誘導体で置換された化合物である。式(2)において、R1は式(3)のR1に等しく、R4及びR5は各々水素、水酸基、アルキル部分が置換されてもよい直鎖若しくは分岐C1〜C6低級アルキルオキシ、アミノ、直鎖若しくは分岐低級アルキル置換アミノ、又はハロゲンを表す。直鎖若しくは分岐低級アルキル基の例としては、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、t-ブチルがあげられ、アルキル基の置換基の例は、カルボキシル、アミノ、ハロゲン、チオールを含む。
【0022】
本発明の化合物は従来法によって塩とすることができる。このような塩は、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等を含むが、これらの塩はいずれも本発明に含まれる。
【0023】
本発明の化合物は以下のようにして合成することができる。例えば、式(2)において、R1が水素、R4が水素、R5がカルボキシメトキシ基で表される化合物 (N-CMCMC-TBOA: 5a) 及びR1が水素、R4とR5がカルボキシメトキシ基で示される化合物(N-BCMCMC-TBOA:5b)の合成経路は下記の通りである(Scheme 1)。詳細には、保護化TBOA(1)を部分的に脱保護してフリーのα-アミノ基を有する化合物2を得て、これを対応するアルコール及びホスゲンから調製したクロロフォルメート(3a又は3b)と反応させることにより、保護化カルバメート(4)を得る。TFAのような強酸で脱保護した後、高性能液体クロマトグラフィーにて精製し、目的物(5a又は5b)を得る。
【0024】
【化6】

【0025】
また、式(2)の化合物において、R1が3-(4-トリフルオロメチルベンゾイル)アミノ基、R4とR5がカルボキシメトキシ基で示される化合物(N-BCMCMC-TFB-TBOA: 9)の合成経路は下記の通りである (Scheme 2)。詳細には、目的物(9)は、保護化TFB-TBOA(6)の部分的脱保護によりフリーとなったα-アミノ基を有する化合物7を用いる以外はScheme 1に示したものと同じ方法により得ることができる。式(2)において、R1が水素、3-(4-トリフルオロメチルベンゾイル)アミノ以外の化合物も、Scheme 1又はScheme 2と同じ方法で得ることができる。式(1)の化合物についても、化合物 2又は7との反応のため、ニトロベンジルアルコールから調整したクロロフォルメートを用いる同じ方法で調製できる。
【0026】
【化7】

【0027】
本発明の化合物は、MDCK (Madin-Darby Canine Kidney) 細胞に恒常的に発現させたヒトEAAT2での14Cラベル化グルタミン酸の取り込みにおいて、ケージド化されていない化合物によって示される阻害活性の1/300よりも低い阻害活性を示した。しかし、UVランプもしくはレーザー光を照射することにより、時間又は照射回数依存的に阻害活性を回復した。また高性能液体クロマトグラフィーを用いて、1ヶ月後の水溶液中の分解を調べたところ、分解物はほとんど検出されず、化学的な安定性が確認された。従って、本発明の化合物は、UV光により阻害活性を制御できる有用な阻害剤であり、これらを用いることによりトランスポーターの速度論的解析や部位特異的阻害による生理的意義の解析に用いることができる。
【0028】
以下に、実施により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
〔実施例1〕
(2S,3S)-3-benzyloxy-N-[7-(carboxymethoxy)coumarin-4-yl-methoxy]carbonyl-aspartate (N-CMCMC-TBOA:5a)の合成:
化合物1 (149 mg, 0.33 mmol)をCH2Cl2 (2 ml)に溶かし、氷浴で冷却しTFA (1 ml)を加え0℃で1時間撹拌した。飽和重曹水を加え、CHCl3で抽出した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物2を92 mg (収率79%)得た。
【0029】
次いで、CMCM-OH (3a) (176 mg, 0.7 mmol)をTHF (5 ml)に溶かしtrichloromethylchloroformate (0.17 ml, 1.4 mmol)を加え、2時間還流後、溶媒を留去した。残物をCH2Cl2 (2 ml)に溶かし、得られた溶液及びi-Pr2NEt (0.4 ml, 2.2 mmol)を、CH2Cl2 (2 ml)中の化合物2 (85 mg, 0.24 mmol)に加え、10分撹拌した。溶媒を留去し、残物をシリカゲルプレートで精製し、化合物4を84 mg (収率51%)得た。
【0030】
化合物4 (97 mg, 0.12 mmol)をCH2Cl2 (2 ml)に溶かし、氷浴で冷却し、TFA (0.5 ml)を加えた。混合物を0℃で1時間撹拌後、室温で4時間撹拌した。溶媒を留去し、残物をHPLCで精製し、N-CMCMC-TBOA (5a) を25 mg (収率42%)得た。
【0031】
1H-NMR (DMSO-d6)δ4.45(d, 1H, J = 12.0 Hz), 4.50 (d, 1H, J = 3.6 Hz), 4.62 (dd, 1H, J = 3.6, 10.0 Hz), 4.76 (d, 1H, J = 12.0 Hz), 5.25 (d, 1H, J = 16.4 Hz), 5.33 (d, 1H, J = 16.4 Hz), 6.4 (s, 1H), 6.95 (dd, 1H, J = 2.4, 9.2 Hz), 6.99 (d, 1H, J = 2.4 Hz), 7.28-7.60 (m, 5H), 7.61 (d, 1H, J = 9.2 Hz), 7.89 (d, 1H, J = 9.2 Hz). HRMS (FAB) m/z calcd for C24H22NO12(M+H)+516.1142, Found 516.1142。
【0032】
〔実施例2〕
(2S,3S)-3-benzyloxy-N-[6,7-bis(carboxymethoxy)coumarin-4-yl-methoxy]-carbonyl-aspartate (N-BCMCMC-TBOA:5b)の合成:
先と同様に得た化合物2から、アルコールとしてBCMCM-OH(3b)を用いる以外は実施例1と同様の方法で標記化合物5bを得た。
【0033】
1H-NMR (DMSO-d6)δ 4.44(d, 1H, J = 12.0 Hz), 4.49 (d, 1H, J = 3.2 Hz), 4.61 (dd, 1H, J = 3.2, 9.6 Hz), 4.75 (d, 1H, J = 12.0 Hz), 4.78 (s, 2H) 4.86 (s, 2H), 5.21 (d, 1H, J = 16.8 Hz), 5.31 (d, 1H, J = 16.8 HZ), 6.41 (s, 1H), 7.00 (s, 1H), 7.10 (s, 1H), 7.28-7.32 (m, 5H) 7.90 (d, 1H, J = 9.6 Hz). HRMS (FAB) m/z calcd for C26H24NO15(M+H)+590.1146, Found 590.1127. [α]25D-9.0°(c 0.32, DMSO)。
【0034】
〔実施例3〕
(2S,3S)-N-[6,7-bis(carboxymethoxy)coumarin-4-yl-methoxy]carbonyl-3-(4-trifluoromethylbenzoyl)aminobenzyloxy-aspartate (N-BCMCMC-TFB-TBOA:9)の合成:
化合物6 (149 mg, 0.23 mmol)をCH2Cl2 (2 ml)に溶かし、氷浴で冷却しTFA (1 ml)を加え、0℃で1時間撹拌した。飽和重曹水を加え、混合物をCHCl3で抽出した。抽出物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで生成し、化合物7を91 mg (収率74%)得た。
【0035】
次いで、BCMCM-OH (3b)(301 mg, 0.69 mmol)をTHF (4 ml)に溶かし、trichloromethylchloroformate (0.17 ml, 0.14 mmol)を加え、2時間還流し、溶媒を留去した。残物をCH2Cl2 (2 ml)に溶かし、得られた溶液及びi-Pr2NEt (1.3 ml, 1.7 mmol)を、化合物7 (91 mg, 0.17 mmol)をCH2Cl2 (2 ml)に溶かしたものに加え、10分撹拌した。溶媒を留去し、残物をシリカゲルプレートで精製し、化合物8を111 mg (収率64%)得た。
【0036】
化合物8 (111 mg, 0.11 mmol)をCH2Cl2 (4 ml)に溶かし、氷浴で冷却し、TFA (2 ml)を加えた。0℃で1時間撹拌後、室温で4時間撹拌した。溶媒を留去し、残物をHPLCで精製し、N-BCMCMC-TFB-TBOA (9) を42 mg (収率49%)得た。
【0037】
1H-NMR (DMSO-d6)δ 4.46(d, 1H, J = 11.6 Hz), 4.52 (d, 1H, J = 3.2 Hz), 4.63 (dd, 1H, J = 3.6, 9.6 Hz), 4.75 (d, 1H, J = 11.6 Hz), 4.79 (s, 2H) 4.87 (s, 2H), 5.23 (d, 1H, J = 16.8 Hz), 5.32 (d, 1H, J = 16.8 Hz), 6.44 (s, 1H), 7.02 (s, 1H), 7.11 (s, 1H), 7.16 (d, 1H, J = 7.16 Hz), 7.34 (t , 1H, J = 7.2 Hz), 7.70 (d, 2H, J = 6.4 Hz), 7.86-7.91 (m, 3H), 8.14 (2H, d, J = 8.8 Hz). HRMS (FAB) m/z calcd for C34H28F3N2O16 (M+H)+ 777.1391, Found 777.1395. [α]25D +92.7° (c 0.65, DMSO)。
【0038】
活性評価:
光分解は文献記載の方法 (Takaoka, K. et al., Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters, in press) に準じて行い、得られた試料をHPLC、又はグルタミン酸取り込み阻害活性試験で定量した。
【0039】
UVランプによる光分解:
ケージド阻害剤はPBS(+)溶液[140 mM NaCl, 5 mM KCl, 8 mM Na2HPO4, 1.5 mM KH2PO4, 1 mM CaCl2, 1 mM MgCl2, pH 7.4]に100μMになるように溶解し、300μLを光路1mmの石英キュベットに入れ、UVランプ(Spectronics Co.製、Spectroline ENF-260C/J型)から10 cm離した場所に設置し、黒い箱をかぶせて室温にて365 nmのUV光を1〜120分間照射した。この条件での光エネルギーは照射10分間で約0.5 J/cm2であった。照射したサンプルは、HPLCによる定量に供した。
【0040】
HPLCによる光分解速度の測定:
所定の時間UV照射した試料をHPLC [カラム:SP-120-5-ODS-AP (Daiso CO.); 溶出液CH3CN: H2O:TFA = 32 : 68 : 0.1、又はCH3CN: H2O:TFA = 32 : 68 : 0.1〜50 : 50 : 0.1へのグラディエント溶出]で分析し、標準物質(3’, 4’-dimethoxyacetophenone, 10μM)との254nmにおけるUV吸収の比から濃度を求めた。照射前の濃度に対する%を求めてグラフに表し、半減期を求めた。半減期は、N-CMCMC-L-TBOA (5a)が19分、N-BCMCMC-TBOA (5b)が7.8分、N-BCMCMC-TFB-TBOA(9)が6.7分であった。
【0041】
レーザー光による光分解:
ケージド阻害剤はPBS(+)溶液に100μMになるように溶解し、100μLを光路1mmの石英キュベットに入れ、355 nmのYAGレーザービーム[Continuum製、SureLite II型]を1〜128回照射した。1回あたりの照射時間は8ナノ秒であり、エネルギーは約40 mJであった。照射したサンプルは、MDCK細胞を用いたグルタミン酸取り込み阻害実験に供した。
【0042】
グルタミン酸取り込み阻害実験:
公知の方法(Shimamoto, K. et al., Mol. Pharmacol. 53, 195-201, 1998; Bioorg. Med. Chem. Lett. 10, 2407-2410, 2000)に従い、恒常的にMDCK (Madin-Darby Canine Kidney) 細胞に発現させたヒトEAAT2において[14C]グルタミン酸の取り込み阻害作用を測定した。グルタミン酸取り込み活性は、1μMのL-[14C]グルタミン酸と所定の濃度の試料を加えて12分間インキュベートした後、細胞を溶解して、取り込まれた放射活性を液体シンチレーターにより測定した。取り込み量は化合物が無い(緩衝液のみ)場合を100%とし、ナトリウムフリー溶液での取り込みの場合を0%とした%で表示し、グラフに示した。
【0043】
安定性評価:
光照射前の試料のPBS(+)溶液 (1μM)とDMSO溶液 (1μM)を各々室温、0°、-20°の暗所で1ヶ月保存した後、HPLCにて分解物を検出した。いずれの試料でも、分解物は検出されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は UVランプで光分解したときのケージド化合物の減衰を示すグラフである。
【図2】図2はレーザー光照射前後でのN-BCMCMC-TFB-TBOAのグルタミン酸取り込み阻害活性を示すグラフである。
【図3】図3は水溶液中で1ヶ月保存後のケージド化合物のHPLCプロフィールを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される、L-スレオ-β-ベンジルオキシアスパラギン酸又はそのベンゼン環置換類縁体のα-アミノ基の窒素原子へカルバメート結合で連結された置換o-ニトロベンジル基を有する化合物
【化1】

(式中、R1は水素原子、アミノ基、アシル基部分が置換されてもよい直鎖若しくは分岐低級脂肪族アシルアミノ基、環状脂肪族アシルアミノ基、又は芳香環上に置換基を有してもよい芳香族アシルアミノ基を表し;R2は水素原子、又はニトロベンゼン環上で2以上の水素原子を置換してもよい直鎖若しくは分岐低級脂肪族アルキルオキシ基を表し;R3は水素原子、メチル基、又はカルボキシル基を表す。) 。
【請求項2】
下記式(2)で表される、L-スレオ-β-ベンジルオキシアスパラギン酸又はそのベンゼン環置換類縁体のα-アミノ基の窒素原子へカルバメート結合で連結された置換クマリルメチル基を有する化合物
【化2】

(式中、R1は水素原子、アミノ基、アシル基部分が置換されていてもよい直鎖若しくは分岐低級脂肪族アシルアミノ基、環状脂肪族アシルアミノ基、芳香環上に置換基を有してもよい芳香族アシルアミノ基を表し;R4及びR5は各々水素原子、水酸基、アルキル部分が置換されてもよい直鎖若しくは分岐低級アルキルオキシ基、アミノ基、直鎖若しくは分岐低級アルキル置換アミノ基、又はハロゲン原子を表す。)。
【請求項3】
式(2)においてR1が水素原子であり、R4及びR5が各々水素原子、メトキシ基又はカルボキシメトキシ基である、請求項2の化合物。
【請求項4】
式(2)においてR1が3-(4-トリフルオロメチルベンゾイル)アミノ基又は3-(4-メトキシベンゾイル)アミノ基であり、R4及びR5が各々メトキシ基又はカルボキシメトキシ基である、請求項2の化合物。
【請求項5】
請求項1に定義された式(1)の化合物又は請求項2に定義された式(1)の化合物の光分解方法であって、該化合物が、光照射を受けて対応するL-スレオ-β-ベンジルオキシアスパラギン酸類縁体をグルタミン酸取り込み阻害剤として産生する、前記方法。
【請求項6】
光がUV光又はレーザー光である、請求項5の方法。
【請求項7】
光照射が0.0001〜100 J/cm2、好ましくは0.001〜10 J/cm2の強度で処される、請求項5又は6の方法

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2006−525952(P2006−525952A)
【公表日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−500239(P2005−500239)
【出願日】平成15年5月30日(2003.5.30)
【国際出願番号】PCT/JP2003/006876
【国際公開番号】WO2004/106286
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】