説明

光断層画像撮像装置及びその撮像方法

【課題】 簡単な構成で精度の高い偏光パラメータを取得し、偏光OCT画像を取得できる撮像装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 まず、本発明に係る撮像装置は、互いに異なる偏光方向である第一の光175−1及び第二の光175−2にそれぞれ対応する回折格子141への照射光の偏光方向を調整(例えば、偏光保持ファイバー134−5や134−6の出射端の相対角度を調整。)して回折格子141における該照射光の分光特性を互いに揃える。
そして、本発明に係る撮像装置は、互いに異なる偏光方向である第一の光175−1及び第二の光175−2にそれぞれ対応する上記調整部からの光を分光する回折格子141からの光に基づいて被検査物107の偏光情報を示す断層画像を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光断層画像撮像装置及びその撮像方法に関し、特に、眼科診療等に用いられるOCTにより断層画像を撮る光断層画像撮像装置及びその撮像方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多波長光波干渉を利用した光コヒーレンストモグラフィ(OCT:Optical Coherence Tomography)は、試料(特に眼底)の断層画像を高分解能に得る方法である。以下、このようなOCTにより断層画像を撮る装置をOCT装置と記す。
【0003】
近年、眼科用OCT装置において、眼底組織の形状をイメージングする通常のOCT画像に加えて、眼底組織の光学特性や動き等をイメージングする機能OCT画像の取得が試みられている。上記機能OCTの一つである偏光OCTは、眼底組織の光学特性の一つである偏光パラメータ(リターデーションとオリエンテーション)を用いてイメージングを行っている。偏光OCTは、偏光パラメータを利用して、偏光OCT画像を構成し、眼底組織の区別やセグメンテーションを行うことができる。偏光OCTは、試料を観察する測定光に円偏光あるいは偏光変調した光を用い、干渉光を2つの直交する直線偏光として分割して検出する構成をとる。
【0004】
2つの分光器および波長幅の広い光源を有する偏光OCTにより高分解能な偏光OCT画像を取得する技術が、非特許文献1に開示されている。これは、取得した偏光パラメータを用いて眼底組織のうち網膜色素上皮層が区別された断層画像を描出している。なお、網膜色素上皮層では偏光をランダム化させる偏光解消が起こることが知られている。ここで、非特許文献1の偏光OCTは、2つの異なる偏光方向(互いに直交する直線偏光)の干渉光に対して、2つの回折格子を用いている。
【0005】
また、2つの異なる偏光方向の干渉光を1つの分光器に入射して、2つの干渉光を検出する偏光OCTが、非特許文献2に開示されている。これにより、偏光OCTの小型化、制御の簡略化を図ることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“Polarization maintaining fiber based ultra−high resolution spectral domain polarization sensitive optical coherence tomography” Opt. Express 17, 22704 (2009)
【非特許文献2】“Autocalibration of spectral−domain optical coherence tomography spectrometers for in vivo quantitative retinal nerve fiber layer birefringence determination” J. Biomed. Opt., 12, 041205 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、一般に、分光器の一つである回折格子の回折効率は、偏光方向に依存する。このため、偏光方向の異なる光では、回折格子の分光特性(回折格子に対する入射光の偏光方向)が異なるため、回折格子の感度が異なる。これにより、偏光パラメータの算出精度に影響するため、非特許文献1及び2は改善の余地を残している。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、簡単な構成で精度の高い偏光パラメータを取得し、偏光OCT画像を取得できる光断層画像撮像装置及びその撮像方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る光断層画像撮像装置は、
測定光を照射した被検査物からの戻り光と、該測定光に対応する参照光とを合成した合成光を互いに異なる偏光方向である第一の光と第二の光とに分割する分割手段と、
前記第一及び第二の光にそれぞれ対応する回折格子への照射光の偏光方向を調整して該回折格子における該照射光の分光特性を互いに揃える調整手段と、
前記第一及び第二の光にそれぞれ対応する前記調整手段からの光を分光する前記回折格子からの光に基づいて前記被検査物の偏光情報を示す断層画像を取得する取得手段と、
を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る光断層画像撮像装置は、
測定光を照射した被検査物からの戻り光と、該測定光に対応する参照光とを合成した合成光を互いに異なる偏光方向である第一の光と第二の光とに分割する工程と、
前記第一及び第二の光にそれぞれ対応する回折格子への照射光の偏光方向を調整して該回折格子における該照射光の分光特性を互いに揃える工程と、
前記第一及び第二の光にそれぞれ対応する前記調整された光を分光する前記回折格子からの光に基づいて前記被検査物の偏光情報を示す断層画像を取得する工程と、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、偏光方向の異なる光に対して回折格子の分光特性(回折格子に対する入射光の偏光方向)を揃えることができる。これにより、簡単な構成で精度の高い偏光パラメータを取得し、偏光OCT画像を取得できる光断層画像撮像装置及びその撮像方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1におけるOCT装置の構成について説明する図である。
【図2】本発明の実施例1におけるOCT装置の断層画像の取得方法を説明する図である。
【図3】本発明の実施例2におけるOCT装置の検出系について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態に係る撮像装置について、図1を用いて説明する。なお、図1は本実施形態に係るOCT(特に偏光OCT)の装置構成を説明するための図である。
【0014】
まず、測定光106に基づく光(測定光路に45°傾けて設けられたλ/4板167−2を通過して得た円偏光の光。)を照射した被検査物107からの戻り光108と、測定光106に対応する参照光105に基づく光(参照光路に22.5°傾けて設けられたλ/4板167−1を通過して得た直線偏光の光。)とを合成した合成光142を互いに異なる偏光方向である第一の光175−1と第二の光175−2とに分割部136により分割する。
【0015】
次に、互いに異なる偏光方向である第一の光175−1及び第二の光175−2にそれぞれ対応する回折格子(例えば、透過型グレーティング141。)への照射光の偏光方向を調整する。例えば、第一の偏光保持ファイバー134−5の出射端と第二の偏光保持ファイバー134−6の出射端との相対角度を調整する。このとき、回折格子141における該照射光の分光特性(回折格子に対する入射光の偏光方向)を互いに揃える。ここで、上記調整の際、第一の光175−1と第二の光175−2の偏光方向を揃えて回折格子141に照射することが好ましい。
【0016】
そして、互いに異なる偏光方向である第一の光175−1及び第二の光175−2にそれぞれ対応する上記調整部からの光を分光する回折格子141からの光に基づいて被検査物107の偏光情報を示す断層画像(偏光OCT画像とも呼ぶ。)を取得する。
【0017】
これにより、回折格子に対する入射光の偏光方向を互いに揃えることができる。このため、回折格子の偏光依存性による回折効率の低下を抑制することができるので、簡単な構成で精度の高い偏光パラメータを取得し、偏光OCT画像を取得できる。
【0018】
ここで、第一及び第二の光にそれぞれ対応する回折格子141からの光をそれぞれ異なる領域で検出する検出部(ラインセンサ139)を有することが好ましい。これにより、複数の光を共通の検出部139で検出することができる。そして、第一及び第二の光にそれぞれ対応する検出部139の各領域からの出力に基づいて被検査物の偏光情報を示す断層画像を取得することができる。
【0019】
また、第一の光175−1に対応する調整部(例えば、上記ファイバーの出射端。)からの光の回折格子141における照射位置に、第二の光175−2に対応する該調整部からの光を照射することが好ましい。これにより、1つの回折格子で構成できるため、2つの回折格子を用いる装置よりも小型化できる。
【0020】
次に、本発明を実施するための形態を、以下の実施例により説明する。
【実施例】
【0021】
[実施例1]
実施例1においては、本発明を適用したOCT装置について説明する。本実施例では、光源からの測定光を円偏光の状態で被検査物に照射し、被検査物に照射された測定光による戻り光を参照光と合波して干渉させる。さらに、その干渉光の強度を2つの直線偏光に分岐して測定し、被検査物の偏光断層画像を撮る光断層画像撮像装置、いわゆる偏光OCTが構成される。
【0022】
また、OCT装置は、偏光方向を揃えた干渉光を回折格子に入射することにより、回折効率を最適化し、より正確な偏光パラメータを取得できるように構成されることを特徴とする。
【0023】
<全体の概略構成>
図1を用いて、まず、本実施例におけるOCT装置の全体の概略構成について、具体的に説明する。本実施例のOCT装置100は、図1に示されるように、全体としてマイケルソン干渉系を構成し、多くの光路を光の偏光方向を保持できる偏光保持ファイバーを用いて構成される。
【0024】
図1において、光源101から出射された光は、偏光保持ファイバー134−1、光カプラー131を介して、参照光105と測定光106とに、90:10の割合で分割される。測定光106は、偏光保持ファイバー134−4、XYスキャナ119、レンズ120−1〜2等を介して、観察対象である被検眼107に導かれる。
【0025】
測定光106は、観察対象である被検眼107によって反射あるいは散乱された戻り光108となって戻され、光カプラー131によって、参照光路を経由した参照光105と合波される。
【0026】
参照光105と戻り光108とは合波された後、透過型グレーティング141によって波長毎に分光され、ラインカメラ139に入射される。ラインカメラ139は位置(波長)毎に光強度を電圧に変換し、その信号を用いて、パソコン125にて、被検眼107の断層画像が構成される。電動ステージ117、XYスキャナ119はドライバ部181を介し、パソコン125によって制御され、駆動される。
【0027】
<光源>
つぎに、光源101の周辺について説明する。
光源101は代表的な低コヒーレント光源であるSLD(Super Luminescent Diode)である。波長は830nm、バンド幅50nmである。ここで、バンド幅は、得られる断層画像の光軸方向の分解能に影響するため、重要なパラメータである。また、光源の種類は、ここではSLDを選択したが、低コヒーレント光が出射できればよく、ASE(Amplified Spontaneous Emission)光源等も用いることができる。また、波長は眼を測定することを鑑みると、近赤外光が適する。さらに波長は、得られる断層画像の横方向の分解能に影響するため、なるべく短波長であることが望ましく、ここでは830nmとする。観察対象の測定部位によっては、他の波長を選んでも良い。
【0028】
光源101から出射された光はシングルモードファイバー130、偏光コントローラ153、コネクター154、偏光保持ファイバー134−1を通して、光カプラー131に導かれる。偏光コントローラ153は出射された光の偏光の状態を調整する役割があり、ここではY軸方向(紙面に垂直)の直線偏光に調整される。
【0029】
<参照光路>
つぎに、参照光105の光路について説明する。
【0030】
光カプラー131にて分割された参照光105は偏光保持ファイバー134−2を通して、レンズ135−1に導かれ、ビーム径1mmの平行光になるよう、調整される。ここで、参照光105はY軸方向の直線偏光となっている。
【0031】
次に、参照光105は、λ/4板167−1(第一の変更部とも呼ぶ。)、分散補償ガラス115を通過し、参照ミラーであるミラー114に導かれる。参照光105の光路長は、測定光106の光路長と略同一に調整されているため、参照光105と測定光106とを干渉させることができる。次に、参照光105は、ミラー114にて反射され、再び光カプラー131に導かれる。
【0032】
ここで、λ/4板167−1はその進相軸をY軸方向に対して22.5°傾けて設置されている。参照光105は、λ/4板167−1を2回通過することでY軸方向に対して45°傾いた直線偏光となる。ここで、45°傾いた直線偏光は、X軸方向の直線偏光とY軸方向の直線偏光とを含む。
【0033】
さらに、参照光105が通過した分散補償用ガラス115は被検眼107とレンズ120−1〜2に測定光106が往復した時の分散を、参照光105に対して補償するものである。ここでは、日本人の平均的な眼球の直径として代表的な値を想定し、L=24mmとする。
【0034】
また、117−1は電動ステージであり、矢印で図示している方向に移動可能とすることができ、参照光105の光路長を調整可能に構成されている。また、電動ステージ117−1はパソコン125からドライバ部181内の電動ステージ駆動ドライバ183を介して制御することが可能に構成されている。
【0035】
<測定光路>
つぎに、測定光106の光路について説明する。
【0036】
光カプラー131によって分割された測定光106は偏光保持ファイバー134−4を介して、レンズ135−4に導かれ、ビーム径1mmの平行光になるよう調整される。測定光106は、λ/4板167−2(第二の変更部とも呼ぶ。)を通過し、XYスキャナ119にて反射され、レンズ120−1〜2を通過し、被検眼107に入射される。
【0037】
ここで、λ/4板167−2はその進相軸をY軸方向に対して45°傾けて設置されている。測定光106は、λ/4板167−2を通過することで、円偏光となって被検眼107に入射される。ここで、円偏光は、X軸方向の直線偏光とY軸方向の直線偏光とを含み、互いに位相が90°ずれている。
【0038】
また、簡単のため、XYスキャナ119は一つのミラーとして記したが、実際にはXスキャン用ミラーとYスキャン用ミラーとの2枚のミラーが近接して配置され、網膜127上を光軸に垂直な方向にラスタースキャンするものである。また、測定光106の中心はXYスキャナ119のミラーの回転中心と一致するように調整されている。また、XYスキャナ119は、パソコン125からドライバ部181内の光スキャナ駆動ドライバ182を介して制御される。
【0039】
また、レンズ120−1〜2は網膜127を走査するための光学系であり、測定光106を角膜126の付近を支点として、網膜127をスキャンする役割がある。ここでは、レンズ120−1〜2の焦点距離は全て50mmである。ここでは、レンズ120−2は球面レンズを用いているが、被検眼107の光学収差(屈折異常)によっては、レンズ120−2にシリンドリカルレンズを用いてもよく、また、新たなレンズを測定光106の光路に追加してもよい。シリンドリカルレンズは、被検眼107が乱視の場合に有効である。
【0040】
また、117−2は電動ステージであり、矢印で図示している方向に移動することができ、付随するレンズ120−2の位置を、調整し、制御することができる。また、電動ステージ117−2はパソコン125からドライバ部181内の電動ステージ駆動ドライバ183を介して制御される。レンズ120−2の位置を調整することで、被検眼107の網膜127の所定の層に測定光106を集光し、観察することが可能になる。また、被検眼107が屈折異常を有している場合にも対応できる。
【0041】
測定光106は被検眼107に入射すると、網膜127からの反射や散乱により戻り光108となる。参照光105と戻り光108とは、光カプラー131にて合波され、さらに90:10に分割される。
【0042】
<測定系>
つぎに、本実施例のOCT装置における測定系の構成について説明する。
光カプラー131にて合波された光142は、偏光保持ファイバー134−3を通して、偏光カプラー136に導かれ、2つの互いに直交する直線偏光である分割光175−1〜2に分岐される。
【0043】
分割光175−1は、X軸方向(紙面に平行)の直線偏光であり、偏光保持ファイバー134−5(第一の偏光保持ファイバーとも呼ぶ。)を介して、レンズ135−3に入射される。ここで、偏光保持ファイバー134−5は、レンズ135−3に対して、Y軸方向(紙面に垂直)の直線偏光の状態で出射するように偏光保持ファイバー134−5の出射端が配置されている。
【0044】
また、分割光175−2は、Y軸方向の直線偏光であり、偏光保持ファイバー134−6(第二の偏光保持ファイバーとも呼ぶ。)を介して、レンズ135−3に入射される。ここで、偏光保持ファイバー134−6は、レンズ135−3に対して、Y軸方向の直線偏光の状態で出射するように偏光保持ファイバー134−6の出射端が配置されている。
【0045】
具体的には、偏光の向きが指定された偏光保持ファイバー134−5、134−6のそれぞれの端部を、上述のような偏光方向で分割光175−1、175−2が出射されるような向きに保持することで実現する。
【0046】
分割光175−1〜2は、透過型グレーティング141の同一の位置に異なる入射角で到達し、それぞれ波長毎に分光され、レンズ135−2で集光され、ラインカメラ139の別々の位置に到達する。ここで、分割光175−1〜2のそれぞれが透過型グレーティング141に対して、同様の偏光方向(ここではY軸方向の直線偏光)で入射することになる。そのため、透過型グレーティング141の回折効率の偏光依存を考慮する必要がなくなり、透過型グレーティング141に入射される偏光(ここではY軸方向の直線偏光)に最適化することができる。
【0047】
分割光175−1〜2のそれぞれは、ラインカメラ139にて光の強度が位置(波長)毎に検出される。具体的には、ラインカメラ139上には波長軸上のスペクトル領域の干渉縞が観察されることになる。
【0048】
検出された光の強度は、フレームグラバー140を用いてパソコン125に取り込まれ、データ処理を行い断層画像を形成し、不図示の表示画面に表示される。
【0049】
ここでは、ラインカメラ139は2048画素を有し、分割光175−1〜2のそれぞれの波長毎(1024分割)の強度を得ることができる。
【0050】
本実施例では、分割光175−1〜2のそれぞれがY軸方向の直線偏光が透過型グレーティング141に対して入射するように構成したが、分割光175−1〜2のそれぞれの偏光方向がそろっていればよく、偏光の方向等は何れであってもよい。
【0051】
<断層画像の取得方法>
つぎに、OCT装置を用いた断層画像の取得方法について図2(a)〜(c)を用いて説明する。
【0052】
OCT装置100は、XYスキャナ119を制御し、ラインカメラ139で干渉縞を取得することで、網膜127の断層画像を取得することができる。ここでは、特に眼底組織の光学特性の一つである偏光パラメータを用いて断層画像を構成する偏光OCT画像(光軸に平行な面、XZ平面)の取得方法について説明する。
【0053】
図2(a)は被検眼107の模式図であり、OCT装置100によって観察されている様子を示している。図2(a)に示すように、測定光106は角膜126を通して、網膜127に入射すると様々な位置における反射や散乱により戻り光108となり、それぞれの位置での時間遅延を伴って、ラインカメラ139に到達する。
【0054】
ここで、参照光路の光路長と測定光路の光路長とがある程度近い場合に、ラインカメラ139にて、画素ピッチに対してサンプリング可能な干渉縞が光源101の波長幅に対応して検出される。上述のように、ラインカメラ139では、波長軸上のスペクトル領域の干渉縞が偏光毎に並列に取得される。
【0055】
次に、波長軸上の情報である干渉縞を、ラインカメラ139と透過型グレーティング141との特性を考慮して、光周波数軸の干渉縞に変換する。さらに、変換された光周波数軸の干渉縞を逆フーリエ変換することで、深さ方向の情報が得られる。
【0056】
さらに、図2(b)に示すように、XYスキャナ119を駆動しながら、干渉縞を検知すれば、各X軸の位置毎に干渉縞が得られ、つまり、各X軸の位置毎の深さ方向の情報を得ることができる。
【0057】
ここで、分割光175−1〜2の干渉信号の振幅のそれぞれをA、Aとすると通常のOCT画像である強度OCT画像を構成する反射率Rは式(1)で表わすことができる。ここでは、非特許文献1を引用している。
R∝A+ A (1)
さらに、偏光OCT画像を構成する偏光パラメータであるリターデーションδとオリエンテーションθとは、それぞれ式(2)と式(3)とで表わすことができる。
δ=arctan[A/A] (2)
θ=(180−ΔΦ)/2 (3)
ここでΦは分割光175−1〜2の位相を示し、ΔΦはAとAとの位相差であり、ΔΦ=Φ−Φである。
【0058】
結果として、式(1)を用いると、XZ面での戻り光108の強度の2次元分布が得られ、それはすなわち断層画像132である(図2(c))。本来は、断層画像132は上記説明したように、戻り光108の強度をアレイ状に並べたものであり、例えばこの強度をグレースケールに当てはめて、表示されるものである。ここでは得られた断層画像の境界のみ強調して表示している。ここで、146は色素上皮層、147は内境界膜である。
【0059】
また、式(2)や式(3)を用いると、XZ面での戻り光の偏光方向の2次元分布が得られ、それは偏光OCT画像である。特に、式(2)を用いると偏光間の相対的な位相遅れが描出されるリターデーション像が得られる。また、式(3)を用いると偏光の方向変化を示すオリエンテーション像が得られる。偏光OCT画像を構成することで、眼底組織の微小な変化や、複屈折が大きいとされる線維構造の変化を描出することが可能になる。
【0060】
さらに、偏光OCT画像の構成には、式(2)〜(3)からわかるように、干渉光の振幅と位相から計算されるため、それらを正確に安定して同時に検出することが重要となってくる。
【0061】
以上のように、測定光と参照光とを合波した干渉光を偏光毎に2つの分割光に分割し、その2つの分割光を、偏光方向を同一に揃えた状態で回折格子に入射することで、2つの分割光に対する回折格子の効率の偏光依存を考慮する必要がなくなる。結果として、回折格子の効率をある所定の偏光のみに合わせることができ、回折格子の設計を最適化しやすくなる。結果として、OCT装置としての測定感度を最適化しやすくなる。また、2つの分割光に対する測定感度を同一にしやすくなり、より精度の高い偏光パラメータの取得が可能になる。また、測定感度の差による偽信号を防ぐことが可能になる。
【0062】
また、2つの分割光を偏光保持ファイバーに導光し、2つの分割光の偏光方向が同一になるように、偏光保持ファイバーを回折格子に対して配置することで、簡単に2つの分割光の偏光方向を揃えることができる。
【0063】
また、2つの分割光を回折格子の同一の位置に入射させることで、回折格子のスペースを有効に活用することができる。
【0064】
また、2つの分割光を一つのラインカメラに入射して、その強度を測定するように構成することで、簡単な構成で偏光OCTを構成することができる。
【0065】
[実施例2]
実施例2においては、本発明を適用したOCT装置について説明する。本実施例では、いわゆる偏光OCTが構成され、干渉光の測定を行う測定系以外は実施例1と同様の構成をとっている。よって、同様の構成の部分は省略し、測定系についてのみ説明する。
【0066】
<測定系>
本実施例のOCT装置における測定系の構成について図3を用いて説明する。
光カプラー131にて合波された光142は、偏光保持ファイバー134−3を通して、レンズ135−5に導かれ、ウォラストンプリズム166に到達する。合波された光142は、ウォラストンプリズム166によって、XZ平面方向(紙面に平行)の直線偏光である分割光175−1と、Y軸方向(紙面に垂直)の直線偏光である分割光175−2とに分割される。
【0067】
分割光175−1は、レンズ135−6を通って集光され、λ/2板168に入射される。ここで、分割光175−1はλ/2板168によって、偏光方向が90°回転し、Y軸方向の直線偏光となる。
【0068】
また、分割光175−2は、レンズ135−6を通って集光され、光路補償板169に入射される。なお、光路補償板169は前述のλ/2板168に対して、光路長あるいは分散を補償するものである。
【0069】
さらに、分割光175−1〜2は、レンズ135−7に入射され、平行光の状態で、透過型グレーティング141に到達し、それぞれ波長毎に分光され、レンズ135−2で集光され、ラインカメラ139の別々の位置に到達する。ここで、分割光175−1〜2のそれぞれが透過型グレーティング141に対して、同様の偏光方向(ここではY軸方向の直線偏光)で入射することになる。そのため、透過型グレーティング141の回折効率の偏光依存を考慮する必要がなくなり、透過型グレーティング141に入射される偏光(ここではY軸方向の直線偏光)に最適化することができる。
【0070】
分割光175−1〜2のそれぞれは、ラインカメラ139にて光の強度が位置(波長)毎に検出される。具体的には、ラインカメラ139上には波長軸上のスペクトル領域の干渉縞が観察されることになる。
【0071】
検出された光の強度は、フレームグラバー140を用いてパソコン125に取り込まれ、データ処理を行い断層画像を形成し、不図示の表示画面に表示される。
【0072】
こでは、ラインカメラ139は2048画素を有し、分割光175−1〜2のそれぞれの波長毎(1024分割)の強度を得ることができる。
【0073】
本実施例では、分割光175−1〜2のそれぞれがY軸方向の直線偏光が透過型グレーティング141に対して入射するように構成したが、分割光175−1〜2のそれぞれの偏光方向がそろっていればよく、偏光の方向等は何れであってもよい。
【0074】
以上のように、ウォラストンプリズムを用いて、干渉光を2つの分割光に分割し、一方の分割光の光路にλ/2板を、もう一方の光路に補償板をそれぞれ有することで、高精度に2つの分割光の偏光方向を揃えることができる。ここでは、偏光ビームスプリッタとしてウォラストンプリズムを用いたが、干渉光を偏光毎に分割できればよく、サバール板やグラン―トムソンプリズムを用いてもよい。
【0075】
(その他の実施例)
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。
【符号の説明】
【0076】
101 光源
105 参照光
106 測定光
107 被検眼
108 戻り光
114 ミラー
115 分散補償用ガラス
117 電動ステージ
119 XYスキャナ
125 パソコン
126 角膜
127 網膜
134 偏光保持ファイバー
135 レンズ
136 偏光ファイバーカプラー
139 ラインカメラ
154 コネクター
166 ウォラストンプリズム
167 λ/4板
168 λ/2板
169 光路補償板
175 分割光
181 ドライバ部
182 光スキャナ駆動ドライバ
183 電動ステージ駆動ドライバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定光を照射した被検査物からの戻り光と、該測定光に対応する参照光とを合成した合成光を互いに異なる偏光方向である第一の光と第二の光とに分割する分割手段と、
前記第一及び第二の光にそれぞれ対応する回折格子への照射光の偏光方向を調整して該回折格子における該照射光の分光特性を互いに揃える調整手段と、
前記第一及び第二の光にそれぞれ対応する前記調整手段からの光を分光する前記回折格子と、
前記第一及び第二の光にそれぞれ対応する前記回折格子からの光を検出する検出手段と、
前記第一及び第二の光にそれぞれ対応する前記検出手段からの出力に基づいて前記被検査物の偏光情報を示す断層画像を取得する取得手段と、
を有することを特徴とする光断層画像撮像装置。
【請求項2】
前記調整手段が、
前記第一の光を導光する第一の偏光保持ファイバーと、
前記第二の光を導光する第二の偏光保持ファイバーと、を有し、
前記第一及び第二の偏光保持ファイバーの出射端の相対角度を調整して前記第一及び第二の光の偏光方向を揃えて前記回折格子に照射することを特徴とする請求項1に記載の光断層画像撮像装置。
【請求項3】
前記調整手段が、
前記第一の光の光路に設けられ、該第一の光の偏光方向を回転して前記第二の光の偏光方向に揃える回転手段と、
前記第二の光の光路に設けられ、前記回転手段で生じる前記第一の光の分散を補償する補償手段と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の光断層画像撮像装置。
【請求項4】
前記調整手段が、前記第一の光に対応する光の前記回折格子における照射位置に、前記第二の光に対応する光を照射することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光断層画像撮像装置。
【請求項5】
前記検出手段が、前記第一及び第二の光にそれぞれ対応する前記回折格子からの光をそれぞれ異なる領域で検出することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光断層画像撮像装置。
【請求項6】
前記参照光の光路に設けられ、該参照光の偏光方向を変更する第一の変更手段と、
前記測定光の光路に設けられ、該測定光の偏光方向を変更する第二の変更手段と、
を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光断層画像撮像装置。
【請求項7】
前記第一の変更手段が、前記参照光を直線偏光に変更し、
前記第二の変更手段が、前記測定光を円偏光に変更することを特徴とする請求項6に記載の光断層画像撮像装置。
【請求項8】
測定光を照射した被検査物からの戻り光と、該測定光に対応する参照光とを合成した合成光を互いに異なる偏光方向である第一の光と第二の光とに分割する工程と、
前記第一及び第二の光にそれぞれ対応する回折格子への照射光の偏光方向を調整して該回折格子における該照射光の分光特性を互いに揃える工程と、
前記第一及び第二の光にそれぞれ対応する前記調整された光を分光する前記回折格子からの光に基づいて前記被検査物の偏光情報を示す断層画像を取得する工程と、
を含むことを特徴とする光断層画像撮像方法。
【請求項9】
前記調整工程が、前記第一及び第二の光の偏光方向を揃えて前記回折格子に照射する工程を含むことを特徴とする請求項8に記載の光断層画像撮像方法。
【請求項10】
測定光を照射した被検査物からの戻り光と、該測定光に対応する参照光とを合成した合成光を互いに異なる偏光方向である第一の光と第二の光とに分割する分割手段と、
前記第一及び第二の光にそれぞれ対応する回折格子への照射光の偏光方向を調整して該回折格子における該照射光の分光特性を互いに揃える調整手段と、
前記第一及び第二の光にそれぞれ対応する前記調整手段からの光を分光する前記回折格子からの光に基づいて前記被検査物の偏光情報を示す断層画像を取得する取得手段と、
を有することを特徴とする光断層画像撮像装置。
【請求項11】
前記調整手段が、前記第一及び第二の光の偏光方向を揃えて前記回折格子に照射することを特徴とする請求項10に記載の光断層画像撮像装置。
【請求項12】
光源からの光を測定光と参照光とに分割し、被検査物である被検眼に照射された該測定光による戻り光と、参照光路を経由した該参照光とを合波した干渉光を回折格子により分光し、該分光された光の強度により前記被検査物の断層画像を得る撮像装置であって、
前記干渉光を異なる偏光方向の第一の光と第二の光とに分割する分割手段と、
前記回折格子へ入射される前記第一の光と前記第二の光との偏光方向を揃える手段と、
を有することを特徴とする光断層画像撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−18129(P2012−18129A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156919(P2010−156919)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】