説明

光機能材料

【課題】ルテニウム等の枯渇性がある原料を使わず、安定で、太陽エネルギーの変換効率の高い色素増感型の光電変換セル用の光電変換用増感色素を提供する。
【解決手段】下記一般式で示される光機能材料。
X−A−N(−R)−A−C(−R)=C(−R)−R
(式中、AおよびAは、二価の有機残基を表す。Rはアルキル基、アルケニル基、アリール基、または、ヘテロ環を示す。RおよびRは、水素原子、アルキル基、アリール基、または、複素環基を示す。Rは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、複素環基、ヘテロ原子を示す。Xは、酸性基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光機能材料に関する。当該光機能材料は、光電変換材料、光発光材料または光吸収材料などに使用で
きる。また、本発明は、この光機能材料を用いた光電変換材料、光電変換電極、およびこれを用いた光電変換セルに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電は単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池、テルル化カドミウムやセレン化インジウム銅などの化合物太陽電池が実用化、もしくは研究開発対象となっているが、普及させる上で製造コスト、原材料確保、エネルギーペイバックタイムが長い等の問題点を克服する必要がある。一方、大面積化や低価格を指向した有機材料を用いた太陽電池もこれまでに多く提案されているが変換効率が低く、耐久性も悪いという問題があった。
【0003】
こうした状況の中で、色素によって増感された半導体微多孔質体を用いた光電変換電極および光電変換セル、ならびにこれを作成するための材料および製造技術が開示された(非特許文献1および特許文献1参照)。開示された電池は、ルテニウム錯体色素によって分光増感された酸化チタン多孔質薄層を作用電極としヨウ素を主体とする電解質層および対電極から成る色素増感型の光電変換セルである。この方式の第一の利点は酸化チタン等の安価な酸化物半導体を用いるため、安価な光電変換素子を提供できる点であり、第二の利点は用いられるルテニウム錯体色素が可視光域に幅広く吸収を有していることから比較的高い変換効率が得られる点である。
【0004】
このような色素増感型光電変換セルの問題点のひとつとして、色素の原料にルテニウムを用いていることが挙げられる。ルテニウムはクラーク数が0.01ppmと白金やパラジウムに匹敵する量しか地球に現存せず、大量に使われると枯渇を免れない。さらにルテニウム錯体色素の価格も高価な物となり、光電変換セルの大量普及の妨げとなる。
【0005】
最近、色素増感型太陽電池における増感色素として、非ルテニウム錯体色素の研究が盛んに行なわれている。その例としてはクマリン系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素等があげられる。これらの有機色素はルテニウム錯体に比較して吸光係数が大きく、分子設計の自由度も大きいため、高い光電変換効率が期待されている。しかしながら、色素の光吸収領域がせまく、酸化チタンへの電荷の注入が非効率的である等の理由から、増感色素の改良が求められていた。
【0006】
有機増感色素の光電変換は、増感色素の末端のカルボン酸基で酸化チタン等の無機酸化物半導体表面に結着し、増感色素が光吸収することによって生じた励起電子をカルボン酸基を通して無機酸化物へ注入することにより、行われていると考えられている。このような有機増感色素の中で、比較的高い変換効率を有する化合物としては、フェニルスチルベン骨格を導入した環式アミン骨格(インドリン骨格やカルバゾール骨格)と末端のカルボン酸近傍のロダニン骨格からなる増感色素が開示されている(非特許文献2、特許文献2)。この増感色素では、フェニルスチルベン骨格を導入した環式アミン骨格が電子供与部位として、また末端のカルボン酸近傍のロダニン骨格が電子吸引部位として機能することにより、励起電子の無機酸化物への注入が効率的に行われ、比較的高い変換効率となった。
【0007】
しかし、環式アミン骨格であるインドリン骨格は多段階にわたる合成経路、経時安定性に問題があり、カルバゾール骨格においては、共役平面のねじれにより光吸収領域がせまくなるなどの欠点を有している。
【0008】
合成が容易な化合物かつ、耐久性の強い骨格構造を有し、さらに、安価で枯渇性の原料を使用せず、高い変換効率特性を有した光電変換セルを提供できる増感色素が求められていた。
【0009】
【非特許文献1】Nature(第353巻、第737−740頁、1991年)
【非特許文献2】Chem.commun.(第3036−3037頁、2003年)
【特許文献1】米国特許4927721号明細書
【特許文献2】特開2004‐200068号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的はルテニウム等の枯渇性原料を使用せず、耐久性の強い骨格構造を有し、安価で高い変換効率性能を有する色素増感型光電変換セル用の増感色素を提供することである。さらにはこの増感色素を無機半導体多孔質体表面に連結させた光電変換材料、および光電変換材料を導電性表面を有する透明基材の導電面に積層して成る光電変換電極、および光電変換電極を電解質層を介して導電性対極を組み合わせて成る光電変換セルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、下記一般式(1)で示される光機能材料に関する。
一般式(1)
【化1】

【0012】
(式中、AおよびAは、それぞれ独立に二価の有機残基を表す。
はアルキル基、アルケニル基、アリール基、または、複素環基を示し、これらは置換基を有していてもよい。
およびRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、または、複素環基を示し、これらは置換基を有していてもよい。また、RおよびRは、一体となって環を形成してもよい。
は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、複素環基、ヘテロ原子を示す。
Xは、酸性基を有する置換基を示す。)
【0013】
また、本発明は、Xが、カルボン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、ホスフィン酸基、ヒドロキシ基、ヒドロキサム酸基、ボロン酸基、および、スクアリン酸基の少なくともいずれかを含む置換基であることを特徴とする上記光機能材料に関する。
【0014】
また、本発明は、AおよびAは、それぞれ独立に、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、複素環基、ヘテロ原子またはこれらの組み合わせより選ばれ、これらは置換基を有していてもよいことを特徴とする上記光機能材料に関する。
【0015】
また、本発明は、AおよびAは、それぞれ独立に、CRと隣接する窒素原子とXとを共役系で結合させる置換基であることを特徴とする上記光機能材料に関する。
【0016】
また、本発明は、上記光機能材料を含んでなる光電変換用増感色素に関する。
【0017】
また、本発明は、さらに、1種以上の増感色素を含んでなる上記増感色素に関する。
【0018】
また、本発明は、上記増感色素と、無機半導体多孔質体とを連結させてなる光電変換材料に関する。
【0019】
また、本発明は、上記光電変換材料を透明電極に積層させてなる光電変換電極に関する。
【0020】
また、本発明は、上記光電変換電極、電解質層、および導電性対極を含んでなる光電変換セルに関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明において一般式(1)の増感色素を用い、枯渇性のない材料でかつ高い光電変換効率を有する光電変換セルを提供することができた。また、一般式(1)の増感色素は、非環式アミン骨格を用いているため、太陽光に対して幅広い波長領域で光電変換機能を発現でき、高効率な光電変換材料、光電変換電極および光電変換セルを作成することができた。さらに、光劣化や熱劣化等が起きにくく電池の長期安定性に高い効果が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、詳細にわたって本発明を説明する。
本発明の光機能材料は、一般式(1)で表される化合物であることを特徴とする。
本発明において光機能材料とは光を吸収することによって新たに増感効果、発熱効果、発色効果、退色効果、蓄光効果、相変化効果、光電変換効果、光磁気効果、光触媒効果、光変調効果、光記録効果、ラジカル発生効果等の機能を発現する材料、あるいは逆にこれらの効果を受けて発光機能を有する材料のことをさす。当該光機能材料は、例として光電変換材料、発光材料、光記録材料、画像形成材料、フォトクロミック材料、エレクトロルミネッセンス材料、光導電材料、二色性材料、ラジカル発生材料、酸発生材料、塩基発生材料、蓄光材料、非線形光学材料、第2高調波発生材料、第3高調波発生材料、感光材料、光吸収材料、近赤外吸収材料、フォトケミカルホールバーニング材料、光センシング材料、光マーキング材料、光化学治療用増感材料、光相変化記録材料、光焼結記録材料、光磁気記録材料、光線力学療法用色素、光触媒水分解用増感色素および光電変換用増感色素等に幅広く用いることができる。
【0023】
本明細書においては一般式(1)で表される光機能材料を主として光電変換用増感色素として用いるので、この材料を主として光電変換用増感色素あるいは増感色素として呼称するが、前記の幅広い応用を否定するものではない。
【0024】
色素増感型太陽電池の動作機構としては、太陽光を吸収した増感色素が光励起された後、励起状態の増感色素から酸化チタン等の無機半導体の伝導帯へ電子が注入される過程と、無機半導体に電子を注入して酸化された増感色素へ、ヨウ素をはじめとするレドックス系からの電子注入による還元からなる。
【0025】
したがって、光電変換用増感色素に必要な機能としては、色素が広い吸収領域を有して太陽光の発光を効率的に吸収できることや、酸化チタン等の無機半導体に効率よく電荷を注入できることが挙げられる。
【0026】
一般式(1)の増感色素は、下記の特徴を有する。
置換基を有してもよい炭素―炭素二重結合とAが結合した窒素原子が、電子供与性の置換基として、Aに電子注入する効果により色素の吸収領域を広域化する。また、Xに酸性の基もしくはその誘導体残基(本発明で言う酸性基)を配することで、基底状態でAに局在化している電子を、励起状態で酸化チタン等の無機半導体層の伝導体に効率よく注入できる。
すなわち、一般式(1)の構造をとることで、Aを中心として、ドナー(電子供与性の置換基)とアクセプター(酸性基)を効果的に配置することができるため、色素の吸収領域広域化を伴って、非常に効果的に、酸化チタン等の無機半導体へ電荷の注入が可能となる。
【0027】
一方で、従来の増感色素は、主に系色素やChem.commun.第3036−3037頁、2003年に記載されているような環式アミン骨格と炭素―炭素二重結合骨格を用いて変換効率が向上している。この手法を用いた場合、環式アミン骨格は熱安定性が低いことも懸念される。一般式(1)の増感色素では、環式アミン骨格を導入することなく、変換効率の向上が可能であり、上記の問題が解決できる。
【0028】
すなわち、一般式(1)の構造は、高い光電変換効率と高い安定性を達成しうる構造であることがいえる。
【0029】
次に、一般式(1)中の各置換基の説明をする。
【0030】
およびAは、それぞれ独立に、二価の有機残基である。より好ましくは、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、複素環基、ヘテロ原子またはこれらの組み合わせより選ばれ、これらは置換基を有していてもよい。
【0031】
好ましくは、Aは、共役系を用いてCRと隣接する窒素原子とを結合させる置換基である。また、Aは共役系を用いて隣接する窒素原子とXとを結合させる置換基である。共役系となるためには、アルケニレン基、アリーレン基、共役系を含む複素環基、または、これらの組み合わせから選ばれる必要がある。
【0032】
としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、複素環基があげられる。
【0033】
およびRは水素原子、アルキル基、アリール基、複素環基があげられる。
【0034】
は水素原子、アルキル基、アルコキシル基、アリール基、複素環基、ヘテロ原子があげられる。
【0035】
本発明でいうアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等の炭素数1〜30の置換もしくは未置換のアルキレン基があげられる。それぞれの炭素鎖に酸素、硫黄、窒素原子が挿入されていても良い。また、これらのアルキレン基はさらに置換基を有していても良い。
【0036】
本発明でいうアルケニレン基としては、例えば、前記した炭素数2以上のアルキル基に1個以上の二重結合を有するものが挙げられ、より具体的には、エチニレン基、1−プロペニレン基、イソプロペニレン基、2−ブテニレン基、1,3−ブタジエニレン基、2−ペンテニレン基、2−ヘキセニレン等が挙げられる。また、これらのアルケニレン基基はさらに置換基を有していても良い。
【0037】
本発明でいうアリーレン基としては、二価の芳香族炭化水素基のことであり、用いられる芳香族炭化水素は、特に制限はないが、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ナフタセン、ピレン、フェナンスレン、インデン、アズレン、ペリレン、フルオレンといった芳香環があげられる。また、これらのアリーレン基はさらに置換基を有していても良い。
【0038】
また、本発明でいう複素環基の複素環としては、特に制限はないが、例えば、フラン、チオフェン、ピロール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、イミダゾール、ピラゾール、フラザン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、インドール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、キノリン、カルバゾール、アクリジン、キサンテン、フェノチアジン、フェノキサジン、ピロリジン、ピロリン、イミダゾリン、イミダゾリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、キヌクリジン、ピラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロチオフェン等があげられる。これらの複素環は4級化されていてもよく、対イオンを有しても良い。この場合の対イオンは、特に制限はなく、一般的な陰イオンでよい。例としては、ハロゲンイオン、過塩素酸イオン、テトラフッ化ホウ素イオン、ヘキサフッ化リンイオン、水酸化物イオン、メタンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン等があげられる。また、対イオンを有さない場合は、分子内または分子間のカルボキシル基等の酸性基で中和されていても良い。
【0039】
本発明でいうヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等があげられる。
【0040】
本発明でいうアルキル基としては、炭素数1〜30の置換基を有しても良い直鎖、分岐及び環状の炭化水素基があげられる。また、これらのアルキル基はさらに置換基を有していても良い。
【0041】
本発明でいうアルケニル基としては、例えば、前記した炭素数2以上のアルキル基に1個以上の二重結合を有するものが挙げられ、より具体的には、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、イソプロペニル基、2−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、2−ペンテニル基、2−ヘキセニル基等が挙げられる。また、これらのアルケニル基はさらに置換基を有していても良い。
【0042】
本発明でいうアリール基は、一価の芳香族炭化水素基のことであり、用いられる芳香環は、特に制限はないが、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ナフタセン、ピレン、フェナンスレン、インデン、アズレン、ペリレン、フルオレンといった芳香環があげられる。また、これらのアリール基はさらに置換基を有していても良い。
【0043】
本発明でいうアルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、オクチルオキシ基、tert−オクチルオキシ基といった炭素数1〜20のアルコキシル基があげられる。また、これらのアルコキシル基はさらに置換基を有していても良い。
【0044】
として用いられる置換基の例を表1に、Aとして用いられる置換基の例を表2に(表中、Xは一般式(1)のXである。)、NR1として用いられる置換基の例を表3に、RC=として用いられる置換基の例を表4に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】

【0048】

【0049】
【表3】

【0050】

【0051】
【表4】

【0052】

【0053】
次に、Xは酸性基を有する置換基を示す。
【0054】
ここでいう、酸性基を有する置換基としては、特に制限はないが、例えば、カルボン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、ホスフィン酸基、ヒドロキシ基、ヒドロキサム酸基、ボロン酸基、および、スクアリン酸基などの酸性の基を含む置換基が挙げられる。
【0055】
すなわち、ここでいう酸性基を有する置換基としては、上記のカルボン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、ホスフィン酸基、ヒドロキシ基、ヒドロキサム酸基、ボロン酸基、および、スクアリン酸基などの酸性の基がXそのものであっても良いし、酸性の基以外の置換基にこれらの酸性の基が結合していて、全体としてXを形成していても良い。
【0056】
酸性基を有する置換基が含む酸性の基以外の置換基としては特に制限はないが、例えば、アルキル基、アリール基、複素環基、アルコキシル基、アシル基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、置換基を有しても良いアミノ基、置換基を有しても良いアミド基、アルコキシアルキル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基等が挙げられる。
また、アルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、オクチルオキシ基、tert−オクチルオキシ基といった炭素数1〜20のアルコキシル基があげられる。
【0057】
また、アシル基としては、アルキルカルボニル基、及び、アリールカルボニル基があげられ、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基、トルオイル基といった炭素数1〜20のアシル基があげられる。
【0058】
また、アリールオキシ基としては、フェノキシ基、4−tert−ブチルフェノキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基、9−アンスリルオキシ基といった炭素数6〜20のアリールオキシ基があげられる。
【0059】
また、アルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、tert−ブチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基といった炭素数1〜20のアルキルチオ基があげられる。
【0060】
また、アリールチオ基としては、フェニルチオ基、2−メチルフェニルチオ基、4−tert−ブチルフェニルチオ基といった炭素数6〜20のアリールチオ基があげられる。
【0061】
また、置換基を有しても良いアミノ基としては、特に制限はないが、アミノ基、モノ又はジアルキルアミノ基、モノ又はジアリールアミノ基等があげられ、例えば、N−メチルアミノ基、N−エチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N,N−ジイソプロピルアミノ基、N,N−ジブチルアミノ基、N−ベンジルアミノ基、N,N−ジベンジルアミノ基、N−フェニルアミノ基、N,N−ジフェニルアミノ基、N,N−ビス(m−トリル)アミノ基、N,N−ビス(p−トリル)アミノ基、N,N−ビス(p−ビフェニリル)アミノ基等があげられる。
【0062】
また、置換基を有しても良いアミド基としては、特に制限はないが、アミド基、アルキルアミド基、芳香族アミド基等があげられる。
【0063】
また、アルコキシアルキル基としては、メトキシメチル基、エトキシメチル基、イソプロポキシメチル基といった炭素数1〜20のアルコキシアルキル基があげられる。
【0064】
また、アルキルオキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基といった、炭素数1〜20のアルコキシカルボニル基が挙げられる。
【0065】
また、アリールオキシカルボニル基としては、フェノキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基といった、炭素数5〜30までのアリールオキシカルボニル基が挙げられる。
【0066】
Xとして用いられる酸性基を有する置換基の例を表5に示す。
【0067】
【表5】

【0068】

【0069】

【0070】
表5に示した酸性基を有する置換基の酸性の基は、カウンターカチオンとして水素イオンを有した形で示したが、酸性の基はその誘導体残基であってもよい。誘導体残基としては特に制限はないが、例えば、エステル体やアミド体、陽イオンをカウンターイオンとする塩が挙げられる。
【0071】
エステル体である誘導体残基としては、上記の酸性の基とエステル体を形成したものであれば特に制限はないが、例としては、アルキルエステル残基、アリールエステル残基、アルコキシアルキルエステル残基、アシルエステル残基、アルキルシリルエステル残基、アリールシリルエステル残基等があげられる。
【0072】
エステル体である誘導体残基のうち、好ましいものとしては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t‐ブチル基、ベンジル基といった炭素数1‐20のアルキル基が付加した形のアルキルエステル残基や、
フェニル基、トリル基といったアリール基が付加した形のアリールエステル残基や、
フェナシル基といったアリール基が付加した形のアリールエステル残基や、
メトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基といったアルコキシアルキル基が付加した形のアルコキシアルキルエステル残基や、
トリメチルシリル基、t‐ブチルジメチルシリル基、フェニルジメチルシリル基といったシリル基が付加した形のシリルエステル残基等が挙げられる。
【0073】
酸性の基のアミド体である誘導体残基しては、上記の酸性の基とアミドを形成したものであれば特に制限はないが、例としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ピロリジニル基、ピペリジニル基、7−ニトロインドリル基、8−ニトロテトラヒドロキノリル基等が付加した形のアミド残基あげられる。
【0074】
酸性の基と塩を形成した誘導体残基の場合の陽イオンとしては、上記の酸性の基と塩を形成する陽イオンであれば特に制限はないが、たとえば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等の金属イオンやテトラブチルアンモニウム、ピリジニウム、イミダゾリウム等の4級アンモニウムイオンがあげられる。
【0075】
次に一般式(1)で表される本発明の光機能材料の具体例を(1)から(407)に示すが、これらに限定されるものではない。
【0076】
【表6】

【0077】

【0078】

【0079】

【0080】

【0081】

【0082】

【0083】

【0084】
【表7】

【0085】

【0086】
また、本発明の光電変換用増感色素を酸化チタン等の無機酸化物半導体に吸着させて使用する場合には、酸性の基もしくはその誘導体残基は、4級アンモニウム塩や水素イオンがカウンターカチオンであることが好ましいが、これら以外であっても何ら問題なく使用することができる。例えば、酸性の基の誘導体残基がエステル体の場合には、エステル体を無機半導体に吸着させる時に、適当な触媒等を用いて系中で加水分解をしながら吸着させることもできる。
【0087】
本発明に係る光電変換用増感色素は、上記の本発明に係る光機能材料の1種以上を含むものであるが、一般式(1)等の光機能材料がカバーしきれない領域の太陽光吸収を補うために、1種以上の他の光機能材料を併せて含むことができる。つまり、一般式(1)等で表される増感色素を単独で、または複数種を組み合わせて用いるほか、1種以上の他の増感色素と組み合わせて用いることができる。本発明に係る光電変換用増感色素を他の増感色素と組み合わせる場合の両者の配合比は、特に限定はされないが、本発明にかかる光電変換用増感色素1モルに対し、他の増感色素を0.01〜100モルとすることが好ましく、0.1〜10モルとすることがより好ましい。
【0088】
他の増感色素としては、たとえば、アゾ系色素、キナクリドン系色素、ジケトピロロピロール系色素、スクワリリウム系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、トリフェニルメタン系色素、キサンテン系色素、ポルフィリン系色素、クロロフィル系色素、ルテニウム錯体系色素、インジゴ系色素、ペリレン系色素、ジオキサジン系色素、アントラキノン系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、およびそれらの誘導体が挙げられる。
【0089】
これらの増感色素は、その構造中に、無機半導体表面に連結することができるような官能基を有していることが望ましい。その理由としては、光励起された色素の励起電子を無機半導体の伝導帯に迅速に伝えることができることが挙げられる。ここでいう官能基としては、カルボキシル基、ヒドロキシ基、ヒドロキサム酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、および、ボロン酸基等が挙げられるが、無機半導体表面に増感色素を連結し、色素の励起電子を無機半導体の伝導帯に迅速に伝える役割を有する置換基であれば、これらに限定はされない。
【0090】
以下に、上述の本発明に係る光電変換用増感色素を用いて得られる本発明に係る光電変換材料、光電変換電極、および光電変換セルについて、増感色素以外の材料を含めて説明する。
【0091】
1.光電変換材料
上述の光電変換用増感色素を、連結基を介して無機半導体表面に連結することによって、無機半導体が増感された光電変換材料、すなわち、無機半導体と、この無機半導体に連結された増感色素とを含む光電変換材料が得られる。ここで、連結とは、無機半導体と増感色素が化学的あるいは物理的に結合していることを意味し、たとえば両者が吸着により結合していることも含んでいる。また、本明細書では、連結基、アンカー基、吸着基は、いずれも、同等の機能を有する基を表す語として用いられている。
【0092】
(無機半導体)
無機半導体は一般に、一部の領域の光に対して光電変換機能を有しているが、この表面に増感色素を連結することによって、可視光および/または近赤外光領域までの光電変換が可能となる。無機半導体の材質としては、主に無機酸化物が用いられるが、増感色素を連結することによって光電変換機能を有する無機半導体であれば、これに限らない。
【0093】
たとえば、無機酸化物ではない無機半導体としては、シリコン、ゲルマニウム、III族‐V族系半導体、金属カルコゲニド等が挙げられる。
【0094】
無機酸化物半導体としては、酸化チタン、酸化スズ、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化ニオブ、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化ストロンチウム、酸化タンタル、酸化アンチモン、酸化ランタノイド、酸化イットリウム、酸化バナジウム等を挙げることができるが、表面に増感色素を連結することによって可視光および/または近赤外光領域までの光電変換が可能となるものであれば、これらに限定されない。無機酸化物半導体の表面が増感色素によって増感されるためには、無機酸化物の伝導帯が増感色素の光励起順位から電子を受け取りやすい位置に存在することが望ましい。このため、無機酸化物半導体のなかでも、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニオブ等が特に好ましく用いられる。さらに、価格や環境衛生性等の点からは、酸化チタンが特に好ましく用いられる。
【0095】
これらの無機半導体は、上述したなかから一種を用いるほか、複数種を選択して組み合わせて用いることもできる。
【0096】
(無機半導体の多孔質化)
上記の無機半導体は、多孔質化して、無機半導体多孔質体として使用することが好ましい。無機半導体多孔質体は、多量の増感色素をその表面に連結し、高効率な光電変換能力を有することができるように、多孔質化による広い表面積を有しているからである。多孔質化の方法としては、粒子径が数ナノメートルから数十ナノメートルの、酸化チタン等の無機酸化物粒子をペースト化した後に焼結する方法が広く知られているが、多孔質化して広い表面積が得られる方法であればこれに限られない。
【0097】
無機酸化物粒子のペースト化方法、無機半導体多孔質体の好ましい膜厚および無機半導体多孔質体表面への増感色素の連結方法等については、後述する。
【0098】
2.光電変換電極
上記光電変換材料を透明電極上に積層することによって、光電変換電極、すなわち、透明電極とこの透明電極上に積層された光電変換材料を含む光電変換電極が形成される。透明電極は、通常、透明基材の表面に形成される導電層であり、つまり、導電性表面を有する透明基材の導電面を意味する。
【0099】
(導電性表面)
用いられる導電性表面(透明電極)としては、太陽光の可視から近赤外領域に対して光吸収が少ない導電材料なら特に限定されないが、ITO(インジウム−スズ酸化物)、酸化スズ(フッ素等がドープされたものを含む)、酸化亜鉛等の導電性の良好な金属酸化物が好適である。基板(導電性表面を有する透明基材)のシート抵抗(表面抵抗)はできるだけ低いほうが好ましく、具体的には20Ω/□(Ω/sq.)以下であることが好ましいので、導電層はそれに応じた厚みを有していることが好ましい。
【0100】
(透明基材)
用いられる透明基材としては、太陽光の可視から近赤外領域に対して光吸収が少ない材料であれば特に限定されない。石英、並ガラス、BK7、鉛ガラス等のガラス基材;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリビニルブチラート、ポリプロピレン、テトラアセチルセルロース、シンジオクタチックポリスチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリスルフォン、ポリエステルスルフォン、ポリエーテルイミド、環状ポリオレフィン、ブロム化フェノキシ、塩化ビニル等の樹脂基材等を用いることができる。
【0101】
(積層方法)
導電性表面を有する透明基材の導電面に光電変換材料を積層する方法としては、たとえば、導電面にペースト化した無機酸化物粒子を塗布後、乾燥または焼結させて無機酸化物半導体多孔質体を形成し、これを透明基材ごと、増感色素を溶解させた溶液中に浸すことにより、無機酸化物半導体の多孔質表面と増感色素のアンカー基の親和性を利用して、増感色素をその多孔質表面に結合させる方法が、一般的方法として挙げられるが、この方法に限定されることはない。
【0102】
無機酸化物粒子をペースト化させるには、無機酸化物粒子を水または適当な有機溶剤中に分散させればよい。均質で表面積が大きい無機多孔質体として積層させるには、分散性の良いペーストを調製することが大切なので、必要に応じて、硝酸やアセチルアセトン等の酸やポリエチレングリコール、トリトンX−100等の分散剤をペースト成分に混合し、ペイントシェーカー等を用いてペースト化することが好ましい。
【0103】
ペーストを透明基材の導電面に塗布する方法としては、スピンコーターによる塗布方法やスクリーン印刷法、スキージを用いた塗布方法、ディップ法、吹き付け法、ローラー法等が用いられる。塗布された無機酸化物ペーストは、乾燥または焼成によりペースト中の揮発成分が除去されて、透明基材の導電面上に、無機酸化物半導体多孔質体を形成する。乾燥または焼成の条件としては、たとえば400〜500℃の温度で30分〜1時間程度の熱エネルギーを与える方法が一般的であるが、透明基材の導電面に密着性を有し、太陽光照射時に良好な起電力が得られる乾燥または焼成方法である限り、これに限定されることはない。
【0104】
増感色素を溶解させた溶液を作るためには、溶剤として、エタノール、ベンジルアルコールなどのアルコール系溶剤;アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル系溶剤;クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン等のハロゲン系溶剤;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;炭酸ジエチル、炭酸プロピレン等の炭酸エステル系溶剤;ヘキサン、オクタン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、1,3‐ジメチルイミダゾリノン、Nメチルピロリドン、水等を用いることができるが、これらに限られない。溶液の濃度は、特に限定はされないが、0.01〜10mmol/L程度であることが好ましい。
【0105】
増感色素を溶解させた溶液中への無機半導体多孔質体の浸漬条件は、特に限定はされず、望ましい光電変換効率が得られるように適宜設定すればよいが、一般に、1〜60時間程度、室温〜80℃程度であることが好ましい。
【0106】
透明基材の導電面上に形成される無機半導体多孔質体の膜厚は、0.5〜200μm程度であることが望ましい。膜厚がこの範囲未満であると、有効な変換効率が得られない恐れがある。一方、膜厚がこの範囲より厚い場合は、成膜時に割れや剥がれが生じるなど、膜の作成が困難になるとともに、無機半導体多孔質体表層と導電面との距離が長くなるために発生電荷が導電面に有効に伝えられなくなって、良好な変換効率が得られにくくなる恐れがある。
【0107】
3.光電変換セル
以上のようにして得られる光電変換電極を、電解質層を介して導電性対極を組み合わせることによって光電変換セル、すなわち、光電変換電極と、電解質層と、導電性対極とを含む光電変換セルを形成することができる。
【0108】
(電解質層)
電解質層は、電解質、媒体、および添加物を含んで構成されることが好ましい。ここで、電解質としては、Iとヨウ化物(例としてLiI、NaI、KI、CsI、MgI、CaI、CuI、テトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイド等)の混合物、Brと臭化物(例としてLiBr等)の混合物、有機溶融塩化合物等を用いることができるが、この限りではない。ここでいう有機溶融塩化合物とは、有機カチオンと無機または有機アニオンからなるイオン対化合物であって、融点が室温以下であるものを指す。
【0109】
具体的に有機溶融塩化合物を構成する有機カチオンとしては、芳香族系カチオン類として、たとえば、N−メチル−N’−エチルイミダゾリウムカチオン、N−メチル−N’−n−プロピルイミダゾリウムカチオン、N−メチル−N’−n−ヘキシルイミダゾリウムカチオン等のN−アルキル−N’−アルキルイミダゾリウムカチオン類;N−ヘキシルピリジニウムカチオン、N−ブチルピリジニウムカチオン等のN−アルキルピリジニウムカチオン類が挙げられる。脂肪族カチオン類として、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウムカチオン等の脂肪族系カチオン類、N,N−メチルピロリジニウム等の環状脂肪族カチオン類が挙げられる。
有機溶融塩化合物を構成する無機または有機アニオンとしては、たとえば、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオン、六フッ化リンイオン、四フッ化ホウ素イオン、三フッ化メタンスルホン酸塩、過塩素酸イオン、次塩素酸イオン、塩素酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン等の無機アニオン類;ビス(トリフロロメチルスルホニル)イミド等のアミド、イミド系アニオン類が挙げられる。
有機溶融塩のその他の例としては、Inorganic Chemistry、35巻、1168〜1178頁、1996年に記載のものが挙げられる。
【0110】
以上に挙げたヨウ化物、臭化物等は、単独で、または複数種を組み合わせて用いることができる。なかでも、Iとヨウ化物の組み合わせ、たとえばIとLiI、ピリジニウムヨーダイド、またはイミダゾリウムヨーダイド等を混合した電解質が好ましく用いられるが、これらに限定されることはない。
【0111】
好ましい電解質濃度は、媒体中にIが0.01〜0.5Mであり、ヨウ化物および/または臭化物等(複数種の場合はそれらの混合物)が0.1〜15M以下である。
電解質層に用いられる媒体は、良好なイオン伝導性を発現できる化合物であることが望ましい。液状の媒体としては、ジオキサン、ジエチルエーテルなどのエーテル化合物;エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテルなどの鎖状エーテル類;メタノール、エタノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルなどのアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類;アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル化合物;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート化合物;3−メチル−2−オキサゾリジノンなどの複素環化合物;ジメチルスルホキシド、スルホランなど非プロトン極性物質、水などを用いることができる。これらは単独で、または複数種を組み合わせて用いられる。
【0112】
固体状(ゲル状を含む)の媒体を用いる目的で、液状媒体にポリマーを含ませることもできる。この場合、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーを上記液状媒体中に添加したり、エチレン性不飽和基を有した多官能性モノマーを上記液状媒体中で重合させたりして、媒体を固体状にすることができる。
【0113】
電解質層としてはこの他、CuI、CuSCN(これらの化合物は液状媒体を必要としないp型半導体であり電解質として作用する。)等やNature、395巻、583〜585頁(1998年10月8日)記載の2,2',7,7'‐テトラキス(N, N‐ジ‐p‐メトキシフェニルアミン)‐9,9'‐スピロビフルオレンのような正孔輸送材料を用いることができる。
【0114】
電解質層には、光電変換セルの耐久性や電気的出力を向上させることを目的として各種添加物を加えることもできる。たとえば、耐久性向上を目的としてヨウ化マグネシウム等の無機塩類を添加してもよいし、出力向上を目的としてt-ブチルピリジン、2-ピコリン、2,6-ルチジン等のアミン類;デオキシコール酸等のステロイド類;グルコース、グルコサミン、グルクロン酸等の単糖類およびそれらの糖アルコール類;マルトース等の二糖類;ラフィノース等の直鎖状オリゴ糖類;シクロデキストリン等の環状オリゴ糖類;ラクトオリゴ糖等の加水分解オリゴ糖類、を添加することもできる。
これら添加剤と上述の増感色素を併用することで、本発明の効果をより効果的に引き出すことができる。
【0115】
形成される電解質層の厚みは、特に限定されないが、導電性対極と色素の吸着した無機半導体層とが直接接触しないような最小の厚みとすることが好ましい。具体的には、0.1〜100μm程度であることが好ましい。
【0116】
(導電性対極)
導電性対極は、光電変換セルの正極として機能するものである。対極に用いられる導電性の材料としては、金属(白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等)、金属酸化物(ITO(インジウム‐スズ酸化物)、酸化スズ(フッ素等がドープされた物を含む)、酸化亜鉛等)、または炭素等が挙げられる。対極の膜厚は、特に制限はないが、5nm以上10μm以下であることが好ましい。
【0117】
(組み立て方)
上記光電変換電極と導電性対極を、電解質層を介して組み合わせることによって、光電変換セルを形成する。必要に応じて、電解質層の漏れや揮発を防ぐために、光電変換セルの周囲に封止を行う。封止には、熱可塑性樹脂、光硬化性樹脂、ガラスフリット等を封止材料として用いることができる。光電変換セルは、必要に応じて、小面積の光電変換セルを連結させて作ることができる。たとえば、光電変換セルを直列に組み合わせることによって、起電圧を高くすることができる。
【実施例】
【0118】
以下に実施例を具体的に示すが本発明は以下に限定されるものではない。はじめに、実施例に先立って本発明の光電変換用増感色素の合成例を述べる。
【0119】
合成例1
化合物(9)の合成方法
【化2】

【0120】
4−ブロモベンジルージエチルホスホン酸(10.0g、33mmol)、ベンゾフェノン(6.0g、33mmol)、15−クラウンー5(0.2ml、1mmol)、と溶媒としてTHF30mlを加えた。その後水素化ナトリウム(69mmol、1.7g)をTHF20mlに懸濁させた液を滴下し、室温にて8時間攪拌した。反応液をジエチルエーテルにて抽出し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液ヘキサン)にて単離精製し、化合物(I)を7.0g(収率65%)得た。次に得られた(I)40g(12.0mmol)と4−n−ブチルーアニリン2.0g(12.0mmol)、酢酸パラジウム67mg、トリス‐tert‐ブチルホスフィン240mg、炭酸カリウム1.8gを乾燥トルエン40ml中、窒素気流下8時間還流させた。反応終了後、反応液から不溶分をろ過して、溶媒を減圧留去した後、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製(溶離液トルエン、ヘキサン)して、(II)を20.8g(収率87.5%)で得た。次に得られ(II)800mg(2.0mmol)と2−(ブロモフェニル)1,3−ジオソラン0.5g(2.3mmol)、酢酸パラジウム 9mg、トリス‐tert‐ブチルホスフィン0.04g、ナトリウム‐tert‐ブトキシド340mgを乾燥キシレン10ml中、窒素気流下4時間還流させた。反応終了後、反応液から不溶分をろ過して、溶媒を減圧留去した後、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製(溶離液ヘキサン、酢酸エチル)して、(III)を2.2g(収率84%)得た。得られた(III)0.4g(0.8mmol)とシアノ酢酸エチル0.1g(0.9mmol)をTHF2mlとエタノール5mlに溶解し、ピペリジン3滴を加えて2時間攪拌した。析出した固体をろ別し、アルコールで洗浄すると、(IV)0.4g(収率89%)が得られた。(IV)0.3gをTHFと水酸化ナトリウム水溶液で処理して加水分解すると、目的物(9)90mg(収率30%)が得られた。マススペクトル、NMRスペクトルにより、化合物(9)の構造を確認した。
【0121】
合成例2
化合物(10)の合成方法
【化3】

【0122】
(III)0.4g(0.8mmol)とシアノメチルホスホン酸ジエチル0.16g(0.9mmol)をTHF2mlとエタノール5mlに溶解し、ピペリジン3滴を加えて7時間攪拌した。析出した固体をろ別し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液トルエン/酢酸エチル)にて単離精製し、 (IV)0.3g(収率56%)が得られた。(IV)0.2g(0.4mmol)をアセトニトリル中で加水分解し、得られた固体をアルコールから再結晶すると、(III)0.2gを得た。(収率68%)マススペクトル、NMRスペクトルにより、化合物(10)の構造を確認した。
【0123】
次に、光電変換用増感色素の評価方法として、増感色素を用いて光電変換セルを組み立て、光電変換セルの変換効率を測定する方法について、光電変換セルの試験サンプルを表した図1を参照しつつ説明する。
【0124】
透明電極
フッ素ドープ型酸化スズ層(透明電極層)付ガラス基板3(旭ガラス社製、タイプU−TCO)を使用した。
【0125】
導電性対極
フッ素ドープ型酸化スズ層付ガラス基板3(旭ガラス社製、タイプU−TCO)の導電層上に、スパッタリング法により白金層(白金電極層)(厚み150nm)を積層した導電性対極4を用いた。
【0126】
酸化チタンペーストの調製
下記の処方でジルコニアビーズと混合し、ペイントシェーカーを用いて分散して酸化チタンペーストを得た(「部」は重量部をあらわす)。
酸化チタン(日本アエロジル社製 P25 粒子径21nm) 6 部
水(硝酸添加でpH2に調整) 14 部
アセチルアセトン 0.6 部
界面活性剤(ICN社製 TritonX−100) 0.04 部
PEG‐#500,000 0.3 部
【0127】
酸化チタン多孔質層の作成
透明電極の導電面(透明電極層3)に厚さ60μmのメンディングテープを張り、1cm角のテープを除去することでマスクを作り、空いた部分に上記酸化チタンペーストを数滴たらした後に、スキージで余分なペーストを除去した。風乾後、全てのマスクを除去し、450℃のオーブンで1時間焼成して、有効面積1cm2の酸化チタン多孔質層を有する酸化チタン電極を得た。
【0128】
増感色素の吸着
光電変換用増感色素をテトラヒドロフラン:アセトニトリル=1:1(体積比)に溶解(濃度0.6mmol/L)し、メンブランフィルターで不溶分を除去し、この色素溶液に上記酸化チタン電極を浸し、室温で24時間放置した。浸漬時間は、実際にセルを作成して変換効率を求め、その変換効率が最大となるように設定した。
着色した電極表面を、溶解に使用した溶剤およびアルコールで洗浄した後、4‐t‐ブチルピリジンの2mol%アルコール溶液に30分浸した後、乾燥させて、増感色素の吸着した酸化チタン多孔質層1を有する光電変換電極を得た。
【0129】
電解質溶液の調製
下記処方の電解質溶液を調製した。溶媒にはメトキシアセトニトリルを用いた。
LiI 0.1M
0.05M
4‐t‐ブチルピリジン 0.5M
1‐プロピル‐2,3‐ジメチルイミダゾリウムヨージド 0.6M
【0130】
光電変換セルの組み立て
図1に示すように、光電変換セルの試験サンプルを組み立てた。すなわち、上記のようにして光電変換用増感色素を吸着させた酸化チタン多孔質層1が形成された上記透明電極(フッ素ドープ型酸化スズ層付ガラス基板3)と、フッ素ドープ型酸化スズ層付ガラス基板の導電層上に白金層が積層された導電性対極4とを、樹脂フィルム製スペーサー6(三井・デュポンポリケミカル社製「ハイミラン」フィルム(25μm厚))を挟んで固定し、その空隙に上記電解質溶液を注入して電解質溶液層2を形成した。ガラス基板3及び白金対極層には、それぞれ変換効率測定用の導線7を固定した。
【0131】
変換効率の測定方法
ORIEL社製ソーラーシュミレーター(#8116)をエアマスフィルターと組み合わせ、光量計で100mW/cm2 の光量に調整して測定用光源とし、光電変換セルの試験サンプルに光照射をしながら、KEITHLEY MODEL2400ソースメーターを使用してI‐Vカーブ特性を測定した。変換効率ηは、I‐Vカーブ特性測定から得られたVoc(開放電圧値)、Isc(短絡電流値)、ff(フィルファクター値)を用いて下記式により算出した。
【0132】
【化4】

【0133】
化合物(A)、(B)と比較例 Ru色素(C)、WO 02/11213号パンフレットに記載の化合物(D)を用いてセルを組み立て評価を行なった。また、作成セルを樹脂フィルム(三井・デュポンポリケミカル社製「ハイミラン」フィルム(25μm厚))とエポキシ樹脂型接着剤にて封止して寿命測定を行った。
【0134】
【化5】

【0135】

【0136】
表に増感色素である化合物(A)と本発明の増感色素である化合物(9)を用いたセルの光暴露による簡易寿命測定の結果を表8に示す。
【0137】
【表8】

【0138】
上記の結果から明らかなように、本発明の増感色素である化合物(9)および(10)は光劣化をほとんど起こさない安定な増感色素として機能することが分かった。
【0139】
次に、本発明の増感色素である化合物(339)と増感色素である化合物(B)の1*10-5 mol/lエタノール溶液の吸収スペクトル波長lmaxと酸化チタン電極に吸着させたセルの評価結果を表9に示す。
【0140】
【表9】

【0141】
上記結果のように、本発明の増感色素(339)は吸収波長の長波長化により、変換効率の増加が実現できた。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】図1は、光電変換セル試験サンプルを表す。
【符号の説明】
【0143】
1.酸化チタン多孔質層(光電変換用増感色素が吸着済)
2.電解質溶液層
3.透明電極層(フッ素ドープ型酸化スズ)
4.Pt電極層
5.ガラス基盤
6.樹脂フィルム製スペーサー
7.変換効率測定用導線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される光機能材料。
一般式(1)
【化1】



(式中、AおよびAは、それぞれ独立に二価の有機残基を表す。
はアルキル基、アルケニル基、アリール基、または、ヘテロ環を示し、これらは置換基を有していてもよい。
およびRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、または、複素環基を示し、これらは置換基を有していてもよい。また、RおよびRは、一体となって環を形成してもよい。
は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、複素環基、または、ヘテロ原子を示す。
Xは、酸性基を有する置換基を示す。)
【請求項2】
Xが、カルボン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、ホスフィン酸基、ヒドロキシ基、ヒドロキサム酸基、ボロン酸基、および、スクアリン酸基の少なくともいずれかを含む置換基であることを特徴とする請求項1記載の光機能材料。
【請求項3】
およびAは、それぞれ独立に、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、複素環基、ヘテロ原子またはこれらの組み合わせより選ばれ、これらは置換基を有していてもよいことを特徴とする請求項1または2記載の光機能材料。
【請求項4】
およびAは、それぞれ独立に、CRと隣接する窒素原子とXとを共役系で結合させる置換基であることを特徴とする請求項1または2記載の光機能材料。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載の光機能材料を含んでなる光電変換用増感色素。
【請求項6】
さらに、1種以上の増感色素を含んでなる請求項5記載の増感色素。
【請求項7】
請求項5または6記載の増感色素と、無機半導体多孔質体とを連結させてなる光電変換材料。
【請求項8】
請求項7記載の光電変換材料を透明電極に積層させてなる光電変換電極。
【請求項9】
請求項8記載の光電変換電極、電解質層、および導電性対極を含んでなる光電変換セル。

【図1】
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【公開番号】特開2007−84684(P2007−84684A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−275054(P2005−275054)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】