説明

光硬化組成物の硬化方法、その塗膜、その塗膜で被覆された基材

【課題】本発明は、酸素による硬化阻害およびそれによる塗膜の耐汚染性等の低下を抑制しうる紫外線硬化型塗料組成物の硬化方法を提供することを目的とする。
【解決手段】基材上に(A)光硬化性樹脂と(B)光重合開始剤とを含む光硬化性塗料組成物を塗布し、不活性ガス雰囲気下で無電極UVランプを照射することにより硬化させる。不活性ガス中の酸素濃度が0.5体積%を超え、2〜4体積%と高くてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性塗料組成物からなる塗膜の硬化方法、その方法で形成された塗膜およびその塗膜で被覆された基材に関する。さらに詳しくは、本発明は、光硬化性塗料組成物に紫外線等を照射して硬化させる際の硬化速度ならびに得られる塗膜の性能(特に耐汚染性)を高め、かつコストを低減することが可能な、光硬化性塗料組成物からなる塗膜の硬化方法、その方法で形成された塗膜およびその塗膜で被覆された基材に関する。
【背景技術】
【0002】
床面は歩行により、あるいはごみや埃などの付着により汚染されやすい。一般住宅の洋間、廊下、台所などに使用される木質床材はUV塗料やウレタン塗料によって塗装されているが、特に台所では油、調味料、食物などによる床の汚染が生じやすい。また、スーパーマーケット、デパート、レストラン、自動車展示場などでは塩化ビニル(塩ビ)樹脂タイルや長尺床材などの塩ビ樹脂系の床材が使用されているが、床面をきれいに保つための頻繁な清掃が必要である。そこで、これらの手間を軽減するために、床面には耐汚染性が求められている。加えて、床面が滑りやすいことによる老人や子供の転倒事故が多発しており、床面にはノンスリップ性も求められている。
【0003】
床面の耐汚染性を高めるための従来技術としては、例えば床面に通常の紫外線硬化型塗料組成物を塗装した後、空気中で、出力が80〜120W/cmの有電極水銀ランプを用いて紫外線を照射して、該組成物を硬化させる方法が実用化されている(例えば、特開2
001−340799号公報:特許文献1、特開2003−171459号公報:特許文
献2、特開2003−290707号公報:特許文献3、特開平07−171491号公
報:特許文献4等)。しかし空気中で紫外線を照射すると、組成物表面層のラジカルが空気中の酸素によって安定化されるため、硬化阻害が生じて架橋密度が低下してしまい、塗膜の耐汚染性が不十分となる。
【0004】
上記の問題に対して、窒素や二酸化炭素などの不活性ガス雰囲気下で組成物に紫外線または電子線を照射して硬化させる方法が提案されている。この方法によれば、塗膜の硬化時間が短縮されると共に、架橋密度も高められ、耐汚染性の良好な塗膜を得ることができる。しかし、照射室内の酸素濃度が0.5%を超えると期待された架橋密度が得られず、
また樹脂の高い架橋密度を確保しようとして酸素濃度を0.5%以下の状態で保つためには大量の不活性ガスを必要とするため、この方法はコストが大幅に高くなる。
【0005】
また、通常の溶剤型塗料や紫外線硬化型塗料を塗装した後、上塗りとして超高硬度の紫外線硬化型ハードコート(塗膜)を形成可能な紫外線硬化型塗料を薄膜厚で塗装する方法も採用されている。しかし、この方法により塗装された基材は、耐汚染性や耐摩傷性は良好であるものの、塗膜が堅くてクラックを生じやすく、しかも滑りやすい。さらに、通常の表面保護用ワックスの付着性が劣るためワックスによる定期的なメインテナンスが出来ないという欠点があり、床材に対して用いるのは不適当である。
【0006】
あるいは、木質床材や塩ビ樹脂系床材に耐汚染性を付与するために、基材上にPET(ポリエチレンテレフタレート)やオレフィン系シートをラミネートする方法も提案されているが、シートの価格に加えて製造コストも高価である。
【0007】
以上のような状況の下、酸素による硬化阻害およびそれによる塗膜の対汚染性等の低下を抑制できる、紫外線硬化型塗料組成物の従来より優れた硬化方法が求められている。
なお、特許文献5(特表2003−507559号公報)には、1分子当たり二重結合
を少なくとも2個有する脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートプレポリマーの少なくとも1種と、反応性希釈剤を少なくとも1種含有する紫外線硬化塗料を対照支持体に塗布し、生じた未硬化塗膜を不活性雰囲気下で通常の有電極紫外線ランプより発する紫外線に暴露することにより硬化させる方法が記載されている。また、該塗料を木材に塗装すると、家庭化学薬品(例えばコーヒー、カラシまたは赤ワイン)に対する耐性が著しく改良されることも記載されている。しかしこの特許文献5には、床材において重要である硬化塗膜の耐クラック性については何ら記載も示唆もされていない。
【特許文献1】特開2001−340799号公報
【特許文献2】特開2003−171459号公報
【特許文献3】特開2003−290707号公報
【特許文献4】特開平07−171491号公報
【特許文献5】特表2003−507559号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、酸素による硬化阻害およびそれによる塗膜の耐汚染性等の低下を抑制しうる、紫外線硬化型塗料組成物の硬化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、基材上に(A)光硬化性樹脂と(B)光重合開始剤とを含む光硬化性塗料組成物を塗布し、不活性ガス雰囲気下で無電極UVランプを照射することにより硬化させることを特徴とする、光硬化性塗料組成物からなる塗膜の硬化方法である。
【0010】
上記光硬化性塗料組成物は、さらに、反応性希釈剤(C)を含有していることが好ましい。
上記光硬化性樹脂(A)は、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂およびポリエステルアクリレート樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種の光硬化性樹脂であることが好ましい。
【0011】
上記反応性希釈剤(C)が単官能性反応希釈剤(C1)と2官能性反応希釈剤(C2)と多官能性反応希釈剤(C3)との混合物であることが好ましく、これら3種類の反応性希釈剤の重量比は、(C1)1重量部に対して(C2)が1.5〜3.0重量部、(C3)が1.0〜2.5重量部の範囲であることが好ましい。
【0012】
上記不活性ガスとしては、窒素ガスまたは窒素含有ガスが好ましく、酸素濃度が4体積%以下の窒素/酸素混合ガスであることがさらに好ましい。
上記光重合開始剤(B)は、ベンゾフェノン類、アントラキノン類、チオキサントン類、アセトフェノン類、アシルフォスフィンオキサイド類およびメチルフェニルグリオキシエステル類からなる群から選ばれた光重合開始剤であることが好ましい。また、光硬化性樹脂(A)100重量部に対して、光重合開始剤(B)は1〜25重量部の範囲で使用することが好ましい。
【0013】
本発明では、基材上に予め、ステイン塗膜、下塗り塗膜、中塗り塗膜のいずれか1種以上がこの順序で形成されており、それらの塗膜のうちの最外層の塗膜上に上記光硬化性塗料組成物を塗布し、無電極UVランプを不活性ガス雰囲気下で照射することにより完全硬化させることが好ましい。
【0014】
また、基材上に予め、ステイン塗膜、下塗り塗膜、中塗り塗膜のいずれか1種以上がこの順序で塗布され、かつ高圧水銀ランプ、メタルハライドランプまたは無電極UVランプの照射が施されており、それらの塗膜のうちの最外層の塗膜上に上記光硬化性塗料組成物
を塗布し、無電極UVランプを不活性ガス雰囲気下で照射して完全硬化させることも好ましい。
【0015】
上記完全硬化用の無電極UVランプの照射は、1本または2本以上の無電極UVランプをコンベア上に所定距離離間して配設しておき、上記光硬化性塗料組成物が塗布された基材をコンベアに1〜150m/分の速度で搬送させることにより行うことが好ましい。
【0016】
光硬化性塗料組成物からなる未硬化の塗膜は、光硬化性塗料組成物が塗布された基材に、1本当たり24〜240W/cmの出力を有する無電極UVランプを積算光量が100〜3000mJ/cm2となる量で照射し、完全硬化させることが好ましい。
【0017】
本発明に係る光硬化塗膜は、上記方法で形成されることを特徴とする。
本発明に係る塗膜付き基材は、上記方法で形成された光硬化塗膜にて基材の表面が被覆されていることを特徴とする。また、基材は木質床材または塩化ビニル床材であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、従来より酸素濃度の高い不活性ガス雰囲気下においても、得られる硬化塗膜の耐汚染性などが向上し、かつ、耐クラック性の良好な紫外線硬化型塗料の塗膜が形成された基材を製造することが可能になる。また、これにより、施工後のメインテナンスが良好な床材が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る光硬化性塗料組成物からなる塗膜の硬化方法、その方法で形成された塗膜およびその塗膜で被覆された基材について具体的に説明する。
<光硬化性塗料組成物>
本発明で使用される光硬化性塗料組成物は、光硬化性樹脂(A)と光重合開始剤(B)とを含む。通常、光硬化性樹脂と光励起しやすい光重合開始剤とは組み合わせて用いられ、紫外線による開始剤の開裂や水素移動でラジカルやカチオンの活性種が生成され、該活性種が樹脂に作用して重合または架橋反応が起こり、樹脂は極短時間のうちに硬化する。なお、このような光硬化性塗料組成物としては、溶剤型、無溶剤型のいずれも使用できるが、硬化反応を迅速に進行させることができる点、塗装作業性に優れ、環境汚染の恐れが少なく環境への対応面でも優れる点などから、本発明では無溶剤型塗料の方が望ましい。
【0020】
本発明で使用される光硬化性樹脂(A)は、電磁波中の紫外領域(200〜600nm、好ましくは200〜400nm)を利用して硬化可能な樹脂(プレポリマー、オリゴマーを含む。)であり、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する。このような樹脂のうち、本発明においては、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ポリエステルアクリレート樹脂などが好ましい。これらの光硬化性樹脂は単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
また、本発明では、反応性希釈剤(C)を用いる場合には、上記光硬化性樹脂(A)と反応性希釈剤(C)とを混合して使用することがより好ましい。
反応性希釈剤(C)は、アクリロイル基またはメタクリロイル基を1分子当たり1個または2個以上有する反応性モノマーであり、高粘度のオリゴマーを低粘度化する希釈剤の役割を果たすものである。
【0022】
本発明では、反応性希釈剤(C)として従来公知のものが使用できる。上記アクリロイル基またはメタクリロイル基を1分子当たり1個有する、単官能性反応希釈剤(C1)としては、例えば「ACMO」(商品名、興人(株))、「ライトアクリレート MTG-A」(商品
名、共栄社化学(株))が挙げられる。上記アクリロイル基またはメタクリロイル基を1
分子当たり2個有する、2官能性反応希釈剤(C2)としては、例えば「ビスコート 260」(商品名、大阪有機化学工業(株))、「ネオマー NA-305」(商品名、三洋化成工業(株))が挙げられる。上記アクリロイル基またはメタクリロイル基を1分子当たり3個以上
有する、多官能性反応希釈剤(C3)としては、例えば「ニューフロンティア TEICA」(商品名、第一工業製薬(株))、「アロニックス M-400」(商品名、東亜合成(株))が挙げられる。
【0023】
なお、単官能性反応希釈剤、2官能性反応希釈剤、3官能性以上の多官能性反応希釈剤は、それぞれ「単官能モノマー」、「2官能モノマー」、「多官能モノマー」と呼ばれることもある。
【0024】
本発明で用いられる反応性希釈剤(C)は、単官能性反応希釈剤(C1)、2官能性反応希釈剤(C2)および多官能性反応希釈剤(C3)の混合物であることが好ましい。この混合物における(C1)、(C2)および(C3)の重量比は、単官能性反応希釈剤(C1)1重量部に対して、2官能性反応希釈剤(C2)が1.5〜3.0重量部、多官能性反応希釈剤(C3)が1.0〜2.5重量部の範囲であることが、得られる硬化塗膜の耐汚染性および耐クラック性などの点から好ましい。
【0025】
本発明で使用される光重合開始剤(B)としては、ベンゾフェノン類、アントラキノン類、チオキサントン類、アセトフェノン類、アシルフォスフィンオキサイド類、メチルフェニルグリオキシエステル類が挙げられる。後述する実施例で用いられている「イルガキュアー184」は、上記アセトフェノン類に属する光重合開始剤である。なお、光重合開始
剤は、反応開始剤と呼ばれることもある。
【0026】
光硬化性樹脂(A)と光重合開始剤(B)との配合比は、塗布された未硬化塗膜の硬化速度などの点から、光重合性樹脂(A)100重量部に対して、光重合開始剤(B)が通常は1〜25重量部であり、好ましくは5〜20重量部である。
【0027】
本発明の光硬化性塗料組成物には、上記の成分以外に、体質顔料、消泡剤、レベリング剤、流動調整剤などの各種添加剤等が適宜含まれていてもよい。
上記各成分を含有する光硬化性塗料組成物は、従来の方法を用いて基材に塗布され、以下に説明する方法により硬化される。
【0028】
<硬化処理>
本発明に係る塗膜の硬化方法は、基材に塗布された光硬化性塗料組成物を、不活性ガス雰囲気下で無電極UVランプを照射することにより硬化させる。
【0029】
本発明で使用する無電極UVランプは、マグネトロンにて発生させたマイクロ波(例:2450MHz)のエネルギーにより、ランプ内部の水銀などの発光物質を励起してプラズマ状態とし、マイクロ波を光エネルギーに転換する方式で発光するものであり、従来の高圧水銀灯と異なりランプの内部に電極をもたない。なお、高圧水銀灯は一度ランプの電源を切ってしまうと再起動に時間がかかるが、無電極UVランプは容易に再起動可能であり、作業時間のロスを低減可能である。
【0030】
このような無電極UVランプとしては、上市されている「Fusion UV systems JAPAN KK」社製、商品名「MODEL VSP/I600」(光源部最大出力:240W/cm)、同「MODEL VSP/I250」(光源部最大出力:150W/cm)などが挙げられる。より具体的には、例えば、水銀スペクトルと同様に、200〜280nm域及び365nm付近に強い発光ピークをもつ「Hバルブ」、「Hバルブ」に比べ短波長域(200〜280nm)の発光出力
が平均15%程度アップした「Hプラスバルブ」、350〜400nm域に特に強い発光ピークをもつバルブで、UV到達深度がより大きく、UV硬化に適した「Dバルブ」、420nm域を中心に405〜425nm域に強い発光ピークをもつバルブで、酸化チタンを含んだホワイトベースコートなどの厚膜塗料やラミネート材料のUV硬化に適した「Vバルブ」、Vバルブよりもやや長波長域の400〜460nmに強い発光ピークを持つ「Qバルブ」、365〜369nm域及び406nm付近に発光ピーク出力をもち、耐候性が要求される外装コーティングなどの硬化に適した「Mバルブ」が挙げられる。
【0031】
バルブ(ランプ)の選択にあたっては、用いられる光硬化性塗料組成物の成分の種類、硬化条件、塗膜厚、基材の種類等を考慮して、好適な発光スペクトルのバルブを選択すればよい。本発明においては、これらのバルブのうち、200〜280nm域及び365nm付近に強い発光ピークを持つ「Hバルブ」および「Hプラスバルブ」が、硬化性能の点で好ましい。
【0032】
無電極UVランプを用いた未硬化の光硬化性塗料組成物塗膜の硬化処理は、例えば、出力が24〜240W/cmの無電極UVランプを1本または2本以上、基材表面に塗布された未硬化の光硬化性塗料組成物塗膜表面から5〜10cm程度離間させて配置し、1〜150m/分程度の速度で基材をベルトコンベア等にて搬送して、積算光量が100〜3000mJ/cm2となる量で照射することにより行われる。
【0033】
本発明に係る光硬化性塗料組成物からなる塗膜の硬化方法は、不活性ガス雰囲気下で行われる。不活性ガスとしては、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素およびアルゴン等の希ガス、ならびにこれらの混合気体が挙げられるが、特に窒素ガスまたは窒素含有ガスの使用が好ましい。また、本発明において、これらの不活性ガス中には酸素ガスが含まれていてもよい。該不活性ガス中の酸素濃度は、4体積%以下であることが好ましい。
【0034】
本発明では、例えば、用いられる不活性ガス中の酸素濃度が0.5体積%を越え、2〜
4体積%と高濃度であっても、すなわち、このような高濃度の酸素ガスと、残部量(すなわち、96〜98体積%)の不活性ガス(例:窒素ガス)とを含む混合ガスの存在下においても、無電極UVランプを照射して光硬化性塗料組成物中の光硬化性樹脂を硬化させることにより、耐汚染性および耐クラック性などの特性に優れた硬化塗膜を得ることが可能である。
【0035】
これに対して、従来の技術では、酸素濃度が0.5%を超える量(例:2〜4体積%)
で含まれた不活性ガス雰囲気下では、期待されたような高い樹脂架橋密度が得られず、また、樹脂の架橋密度を高く維持するために酸素濃度を0.5%以下の状態で保とうとすると、大量の不活性ガスを必要としていたが、本発明によりかかる従来技術上の問題点が解決される。
【0036】
<積層塗膜の形成>
本発明では、必要に応じて基材の表面に予めステイン塗膜、下塗り塗膜、中塗り塗膜のいずれか1種以上をこの順序で塗布し、上記光硬化性塗料組成物をそれらの塗膜の最外層上に塗布してもよい。ステイン塗膜、下塗り塗膜および中塗り塗膜のすべてを塗設する場合、その積層順序は「基材/ステイン塗膜/下塗り塗膜/中塗り塗膜/光硬化性塗料組成物からなる塗膜」となる。また、いずれかの塗膜を除外・省略する場合には、この順序を保持しつつ塗装すればよく、例えば下塗り塗膜を除外・省略する場合は、「基材/ステイン塗膜/中塗り塗膜/光硬化性塗料組成物からなる塗膜」という積層順序になる。
【0037】
このステイン塗膜用塗料、下塗り塗膜用塗料、中塗り塗膜用塗料としては、溶剤型、無溶剤型のいずれも使用できるが、硬化反応が迅速に進行できる点、塗装作業性や環境への
対応に優れる点などから、本発明ではこれらの何れの塗料も無溶剤型であることが望ましい。また、上記塗料の塗付に際しては、ロールコーター、フローコーター、エアスプレー、エアレススプレー、刷毛など、公知のいずれの方法を用いてもよい。
【0038】
上記のように、基材上に予め、ステイン塗膜、下塗り塗膜、中塗り塗膜のいずれか1種以上を塗布する場合、これらの塗膜に空気中で高圧水銀ランプ、メタルハライドランプまたは無電極UVランプの照射を施して硬化させ、その後に、それらの塗膜の最外層上に光硬化性塗料組成物を塗布し、空気中で高圧水銀ランプ、メタルハライドランプまたは無電極UVランプの照射を施して半硬化させた後、連続して不活性ガス雰囲気下で無電極UVランプを照射し完全硬化させるようにしてもよい。特に低い光沢が要求される場合に、このような2段階の照射を採用することができる。
【0039】
なお、ステイン塗膜、下塗り塗膜および中塗り塗膜は基材が木質の場合に通常よく用いられ、基材が塩化ビニル樹脂の場合には一般的ではない。
【0040】
<硬化塗膜及び該塗膜付き基材>
本発明に係る光硬化塗膜は、上記の方法により形成されるものである。塗膜は、上記のように、例えば、「基材/ステイン塗膜/下塗り塗膜/中塗り塗膜/光硬化性塗料組成物からなる塗膜」の順序で形成されている。その場合の各層(塗膜)の厚みは、最終製品の種類や用途等により異なるため一概には決定されないが、例えば、乾燥膜厚で、ステイン塗膜:3〜10μm(厚)程度、下塗り塗膜:10〜30μm(厚)程度、中塗り塗膜10〜50μm(厚)程度、光硬化性塗料組成物からなる塗膜:10〜100μm(厚)程度である。
【0041】
本発明に係る塗膜付き基材は、上記の方法により形成された光硬化塗膜にて基材の表面が被覆されているものである。基材の種類は特に限定されないが、床材としての利用においては、木材、合板、集成材などの木質あるいは塩化ビニル系樹脂が好適である。
【0042】
[実施例]
以下、本発明について実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されるものではない。
【0043】
なお、実施例および比較例において使用した有電極紫外線ランプおよび無電極紫外線ランプ、ならびに窒素雰囲気での照射条件は、下記の通りである。
【0044】
有電極紫外線ランプ
照射装置 :アイグラフィック(株)製高圧水銀ランプ
出力 :120W/cm
照射距離 :15cm
照射線量 :100〜110MJ/cm2
【0045】
無電極紫外線ランプ
照射装置 :フュージョン社製無電極高圧水銀ランプ、Hバルブ
出力 :240W/cm
照射距離 :5.3cm
照射線量 ::170〜180MJ/cm2
【0046】
窒素中照射条件
それぞれの照射装置(紫外線ランプ)の下部に窒素ガスを吹き付けるようノズルを差込み、窒素ボンベから窒素を吹き込み、酸素濃度が所定の値に達した時点で未硬化の塗膜を
紫外線に暴露して硬化させた。
【0047】
また、実施例および比較例において使用した各種塗料の配合組成を示した表1〜9において、「配合」欄の単位はいずれも重量部である。
【実施例1】
【0048】
市販の幅30cm、長さ180cm、厚さ1.2cmのフロアー用突き板合板を幅30
cm、長さ60cmに切断して試験用基板とした。この基板に、表1に示す配合の着色ステインをスポンジロールコーター、リバースロールコーター、ナチュラルロールコーターで連続して塗装した後、100℃の乾燥機で1分間加熱して乾燥させた。次いで、ナチュラルロールコーター、リバースロールコーター、ナチュラルロールコーターで、1m2
たりの塗布量が40gになるよう、表2に示す配合の下塗り塗料を塗装した。直ちに空気中で有電極紫外線ランプによる紫外線を照射して硬化させた後、表3に示す配合の中塗り塗料Aをナチュラルロールコーターで1m2当たりの塗布量が20gになるよう塗装した
。空気中で有電極紫外線ランプによる紫外線を照射して硬化させた後、360番研磨紙で表面を研磨して平滑にした。表面に付着した研磨粉を除去した後、表6に示す配合の上塗り塗料Cをナチュラルロールコーターで1m2当たりの塗布量が10gになるよう塗装し
た。酸素濃度0.5%の窒素ガス雰囲気中で無電極紫外線ランプによる紫外線を照射して
硬化させた後、24時間室温で放置して、後述する各種の試験に供した。
【実施例2】
【0049】
上塗り塗料の硬化を酸素濃度4%の窒素ガス雰囲気中で行うよう変更した以外は実施例1と同様の方法により、試験板作成した。
【実施例3】
【0050】
上塗り塗料を表7に示す配合の上塗り塗料Dに変更し、これを酸素濃度4%の窒素ガス雰囲気中で硬化させた以外は実施例1と同様の方法により、試験板作成した。
【実施例4】
【0051】
上塗り塗料を表8に示す配合の上塗り塗料Eに変更し、これを酸素濃度4%の窒素ガス雰囲気中で硬化させた以外は実施例1と同様の方法により、試験板作成した。
【実施例5】
【0052】
上塗り塗料を表9に示す配合の上塗り塗料Fに変更し、これを酸素濃度4%の窒素ガス雰囲気中で硬化させた以外は実施例1と同様の方法により、試験板作成した。
【0053】
[比較例1]
市販の幅30cm、長さ180cm、厚さ1.2cmのフロアー用突き板合板を幅30
cm、長さ60cmに切断して試験用基板とした。この基板に、表1に示す配合の着色ステインをスポンジロールコーター、リバースロールコーター、ナチュラルロールコーターで連続して塗装した後、100℃の乾燥機で1分間加熱して乾燥させた。次いで、ナチュラルロールコーター、リバースロールコーター、ナチュラルロールコーターで、1m2
たりの塗布量が40gになるよう、表2に示す配合の下塗り塗料を塗装した。直ちに空気中で有電極紫外線ランプによる紫外線を照射して硬化させた後、表3に示す配合の中塗り塗料Aをナチュラルロールコーターで1m2当たりの塗布量が20gになるよう塗装した
。空気中で有電極紫外線ランプによる紫外線を照射して硬化させた後、360番研磨紙で表面を研磨して平滑にした。表面に付着した研磨粉を除去した後、表4に示す配合の上塗り塗料Aをナチュラルロールコーターで1m2当たりの塗布量が10gになるよう塗装し
た。空気中で有電極紫外線ランプによる紫外線を照射して硬化させた後、24時間室温で放置して、後述する各種の試験に供した。
【0054】
[比較例2]
上塗り塗料を表5に示す配合の上塗り塗料Bに変更した以外は比較例1と同様の方法により、試験板を作成した。
【0055】
[比較例3]
上塗り塗料を表6に示す配合の上塗り塗料Cに変更した以外は比較例1と同様の方法により、試験板を作成した。
【0056】
[比較例4]
上塗り塗料を表7に示す配合の上塗り塗料Dに変更した以外は比較例1と同様の方法により、試験板を作成した。
【0057】
[比較例5]
上塗り塗料を表8に示す配合の上塗り塗料Eに変更した以外は比較例1と同様の方法により、試験板を作成した。
【0058】
[比較例6]
上塗り塗料の硬化を無電極紫外線ランプを用いて行うよう変更した以外は比較例1と同様の方法により、試験板を作成した。
【0059】
[比較例7]
上塗り塗料を表6に示す配合の上塗り塗料Cとし、これを無電極紫外線ランプを用いて硬化させるよう変更した以外は比較例1と同様の方法により、試験板を作成した。
【0060】
[比較例8]
上塗り塗料の硬化を酸素濃度4%の窒素ガス雰囲気中で行うよう変更した以外は比較例1と同様の方法により、試験板を作成した。
【0061】
[比較例9]
上塗り塗料を表6に示す配合の上塗り塗料Cとし、これを酸素濃度4%の窒素ガス雰囲気中で硬化させるよう変更した以外は比較例1と同様の方法により、試験板を作成した。
【0062】
[比較例10]
上塗り塗料の硬化を酸素濃度0.5%の窒素ガス雰囲気中で行うよう変更した以外は比
較例1と同様の方法により、試験板を作成した。
【0063】
[比較例11]
上塗り塗料を表6に示す配合の上塗り塗料Cとし、これを酸素濃度0.5%の窒素ガス
雰囲気中で硬化させるよう変更した以外は比較例1と同様の方法により、試験板を作成した。
【0064】
[比較例12]
上塗り塗料を表8に示す配合の上塗り塗料Eとし、これを酸素濃度0.5%の窒素ガス
雰囲気中で硬化させるよう変更した以外は比較例1と同様の方法により、試験板を作成した。
【0065】
[比較例13]
上塗り塗料を表9に示す配合の上塗り塗料Fとし、これを酸素濃度0.5%の窒素ガス
雰囲気中で硬化させるよう変更した以外は比較例1と同様の方法により、試験板を作成し
た。
【0066】
[比較例14]
上塗り塗料の硬化を酸素濃度0.5%の窒素ガス雰囲気中で無電極紫外線ランプを用い
て行うよう変更した以外は比較例1と同様の方法により、試験板を作成した。
【0067】
[比較例15]
上塗り塗料の硬化を酸素濃度4%の窒素ガス雰囲気中で無電極紫外線ランプを用いて行うよう変更した以外は比較例1と同様の方法により、試験板を作成した。
【0068】
[比較例16]
上塗り塗料を表5に示す配合の上塗り塗料Bとし、これを酸素濃度4%の窒素ガス雰囲気中で無電極紫外線ランプを用いて硬化させるよう変更した以外は比較例1と同様の方法により、試験板を作成した。
【0069】
[比較例17]
上塗り塗料を表6に示す配合の上塗り塗料Cとし、これを酸素濃度8%の窒素ガス雰囲気中で無電極紫外線ランプを用いて硬化させるよう変更した以外は比較例1と同様の方法により、試験板を作成した。
【0070】
[試験例]
上記実施例1〜5および比較例1〜17から得られた木質床材塗装品について、耐汚染性、耐クラック性およびワックス適正の評価を、それぞれ下記の試験方法にて行った。その結果を表10に示す。
【0071】
耐汚染性:市販の毛染め液(ビゲン(株)製、ヘアカラー 7G)で幅10mmの線を引
き、4時間放置した。その後、溶剤または洗剤を布に含ませて拭き取り、試験片の表面に残った色の有無と濃さを観察した。毛染め液の色が全く拭き取れない場合を0点、完全に拭き取れて痕跡の残らない場合を10点として段階的に評価した。
【0072】
耐クラック性:各塗装板より15cm×15cmの試験片を切り出し、60℃乾燥機内に2時間放置した後、マイナス20℃の冷凍庫内に2時間放置した。この工程を2回繰り返した後、表面のクラックの有無を観察した。
【0073】
ワックス適性:市販の塗装床用ワックス『オール』(商品名、リンレイ(株))を表面に薄く塗りつけ、3時間放置した。セロハン粘着テープLP-24(商品名、ニチバン(株))
を表面に強く押し付けて十分に密着させた後、ゆっくりと剥がして、ワックス塗膜の剥離の有無を観察した。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
【表3】

【0077】
【表4】

【0078】
【表5】

【0079】
【表6】

【0080】
【表7】

【0081】
【表8】

【0082】
【表9】

【0083】
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に
(A)光硬化性樹脂と
(B)光重合開始剤と
を含む光硬化性塗料組成物を塗布し、不活性ガス雰囲気下で無電極UVランプを照射することにより硬化させることを特徴とする、光硬化性塗料組成物からなる塗膜の硬化方法。
【請求項2】
上記光硬化性塗料組成物が、さらに、反応性希釈剤(C)を含有していることを特徴とする請求項1に記載の光硬化性塗料組成物からなる塗膜の硬化方法。
【請求項3】
光硬化性樹脂(A)が、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂およびポリエステルアクリレート樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種の光硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の光硬化性塗料組成物からなる塗膜の硬化方法。
【請求項4】
反応性希釈剤(C)が単官能性反応希釈剤(C1)と2官能性反応希釈剤(C2)と3官能性以上の多官能性反応希釈剤(C3)との混合物であることを特徴とする請求項2に記載の光硬化性塗料組成物からなる塗膜の硬化方法。
【請求項5】
反応性希釈剤(C)が、単官能性反応希釈剤(C1)と2官能性反応希釈剤(C2)と多官能性反応希釈剤(C3)との混合物であり、その重量比が上記成分(C1)1重量部に対して上記成分(C2)が1.5〜3.0重量部、上記成分(C3)が1.0〜2.5重量部の範囲であることを特徴とする請求項4に記載の光硬化性塗料組成物からなる塗膜の硬化方法。
【請求項6】
不活性ガスが窒素ガスまたは窒素含有ガスであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光硬化性塗料組成物からなる塗膜の硬化方法。
【請求項7】
不活性ガスが、酸素濃度が4体積%以下窒素/酸素混合ガスであることを特徴とする請求項6に記載の光硬化性塗料組成物からなる塗膜の硬化方法。
【請求項8】
光重合開始剤(B)がベンゾフェノン類、アントラキノン類、チオキサントン類、アセトフェノン類、アシルフォスフィンオキサイド類およびメチルフェニルグリオキシエステル類からなる群から選ばれた光重合開始剤であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の光硬化性塗料組成物からなる塗膜の硬化方法。
【請求項9】
光硬化性樹脂(A)100重量部に対して、光重合開始剤(B)を1〜25重量部の範囲で使用することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の光硬化性塗料組成物からなる塗膜の硬化方法。
【請求項10】
基材上に予め、ステイン塗膜、下塗り塗膜、中塗り塗膜のいずれか1種以上がこの順序で形成されており、それらの塗膜のうちの最外層の塗膜上に上記請求項1〜9のいずれかに記載の光硬化性塗料組成物を塗布し、無電極UVランプを不活性ガス雰囲気下で照射することにより完全硬化させることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の光硬化性塗料組成物からなる塗膜の硬化方法。
【請求項11】
無電極UVランプの照射が、1本または2本以上の無電極UVランプをコンベア上に所定距離離間して配設しておき、上記光硬化性塗料組成物が塗布された基材をコンベアに1〜150m/分の速度で搬送させることにより行うことを特徴とする請求項1〜10のい
ずれかに記載の光硬化性塗料組成物からなる塗膜の硬化方法。
【請求項12】
光硬化性塗料組成物が塗布された基材に、1本当たり24〜240W/cmの出力を有する無電極UVランプを積算光量が100〜3000mJ/cm2となる量で照射し、光
硬化性塗料組成物からなる塗膜を完全硬化させることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の光硬化性塗料組成物からなる塗膜の硬化方法。
【請求項13】
基材上に予め、ステイン塗膜、下塗り塗膜、中塗り塗膜のいずれか1種以上がこの順序で塗布され、かつ高圧水銀ランプ、メタルハライドランプまたは無電極UVランプの照射が施されており、それらの塗膜のうちの最外層の塗膜上に上記請求項1〜9のいずれかに記載の光硬化性塗料組成物を塗布し、無電極UVランプを不活性ガス雰囲気下で照射して完全硬化させることを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載の光硬化性塗料組成物からなる塗膜の硬化方法。
【請求項14】
請求項1〜13いずれかに記載された方法で形成された光硬化塗膜。
【請求項15】
請求項1〜13いずれかに記載された方法で形成された光硬化塗膜にて基材の表面が被覆されている塗膜付き基材。
【請求項16】
基材が木質床材または塩化ビニル床材である請求項15に記載の塗膜付き基材。

【公開番号】特開2007−209869(P2007−209869A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−30839(P2006−30839)
【出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【出願人】(390033628)中国塗料株式会社 (57)
【Fターム(参考)】