光線力学的治療装置およびその使用方法
【課題】光線力学的治療するに当り、レーザー光の強度により血流量の低減状態が異なる点に着目し、レーザー光の強度を制御することにより、病変部を流れる血流量を調整し、血流量の増減に伴うPDT薬剤量の増減から、生体浅部の傷害を防止しつつ、病変部のみをより確実に治療でき、しかも患者の肉体的精神的な負担が少なく、より高い治療効果が得られる光線力学的治療装置と、その使用方法を提供する。
【解決手段】光線力学的治療するもので、病変部41よりも照射手段11側にある浅部42の血管を流れる血流量を低減させるように光のピーク強度を制御し、浅部42を温存しつつ深部の病変部41のみをより治療可能にしたことを特徴とする。
【解決手段】光線力学的治療するもので、病変部41よりも照射手段11側にある浅部42の血管を流れる血流量を低減させるように光のピーク強度を制御し、浅部42を温存しつつ深部の病変部41のみをより治療可能にしたことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の健常部である浅部を損傷させることなく保存しつつ、深部の病変部のみを治療し得る光線力学的治療装置と、その使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光線力学的治療(Photodynamic Therapy:PDT、光化学治療ともいう)は、早期癌の内視鏡下での治療の他、種々の治療への適用が検討されている。PDTとは、光感受性物質(以下、PDT薬剤)を静脈注射等の方法により投与し、治療対象である癌組織等の病変部に選択的に吸収・集積させた後、レーザー光等の光線を照射することにより病変部を処置する治療法である。
【0003】
PDT薬剤は、病変部へ選択的に集積する性質と、光が照射されることにより活性化する性質と、を有している。PDT薬剤の活性化とは、PDT薬剤周辺の酸素が一重項酸素(活性酸素)となることをいい、一重項酸素は、強い酸化力を発揮し、病変部の細胞を損傷させることができる。
【0004】
このような一重項酸素の特徴を利用するPDTは、次のようなメカニズムを有する。病変部に取り込まれたPDT薬剤を光線照射により励起すると、この励起された光増感剤のエネルギーは、病変部内に存在する酸素に移乗し、活性な一重項酸素(活性酸素)を生成し、この一重項酸素がその強力な酸化力により病変部の細胞を壊死させる。つまり、PDTにおいては、病変部にPDT薬剤と、PDT薬剤を励起させる励起光と、励起されたPDT薬剤により活性化される酸素が必要で、これら3者は、病変部の細胞を壊死させる一重項酸素を発生させて治療を行うに当って極めて重要なファクターである。
【0005】
PDTにおいて、PDT薬剤を生体深部にある病変部に集積させて励起光を照射すると、生体深部の病変部を治療でき、生体深部の治療にとって極めて有効な手段となるが、この治療時に浅部、つまり病変部よりも励起光を照射する照射手段側にある健常部、の細胞を損傷させることは好ましくなく、健常部の細胞を保存しつつ治療することが望ましい。また、治療にかかわる時間を短縮するため、PDT薬剤を投与した後に充分な集積時間を経ず、病変部と健常部との薬剤濃度差が少ない状況でも治療開始できることが好ましい。
【0006】
従来のこのような治療方法としては、例えば、レーザー光の焦点を病変部に合わせることによって、病変部のみにおいてPDT薬剤を活性化させるものがある(特許文献1参照)。
【0007】
しかし、この方法では、レーザー光の焦点がずれたり、レーザー光の強度や薬剤の濃度が変化すれば、健常部が損傷する虞があり、また、損傷した浅部の検出も困難である。
【0008】
そこで、本発明者らは、PDT薬剤や病変部の酸素濃度、さらにはレーザーのピーク強度等のパルスレーザー照射条件について鋭意検討を行った結果、照射するレーザー光のピーク強度を低強度から高強度に上げていくと、一定強度まではピーク強度が高くなるほどPDT治療効率(病変部組織の傷害度)も高くなるが、ピーク強度が高くなり過ぎると治療効率が逆に低下するという知見を得た。
【0009】
これは、病変部が健常部に覆われている疾患において、治療深度を調べ、レーザーのピーク強度を制御すると、浅部を傷害させず深部のみの治療に利用できることから、これを光線力学的治療装置などとして先に提案した(特許文献2参照)。
【0010】
また、この提案に係る光線力学的治療装置に関連し、PDT薬剤の活性化を検出する検出手段として、一重項酸素から発生する蛍光や、生体内で散乱され生体外に放出される光の光量、PDT薬剤の濃度、生体中の酸素分圧、あるいは生体の表面を透過した検査光などを使用することも可能であることから、これらについても提案した(特許文献3参照)。
【0011】
このような浅部を傷害させず深部のみの治療ができる、いわば「浅部温存現象」の原因としては、主として下記3つの効果減弱現象が考えられ、いずれも溶液系や細胞を用いた実験で実証されている。
【0012】
(1) 薬剤ブリーチング
発生した一重項酸素により光感受性物質が破壊される現象で、高強度パルス照射を受けた生体浅部では、急速に生じた一重項酸素で光感受性物質が破壊され治療効果が低下する。
【0013】
(2) 局所酸素枯渇
光感受性物質は、その近傍にある酸素を消費して一重項酸素を発生させ、この消費酸素の補給は周囲から拡散により供給されることから、高強度パルス照射を受けた生体浅部では、光感受性物質の近傍で局所的に酸素が枯渇し、周辺からの酸素補充が間に合わず治療効果が低下する。
【0014】
(3) 吸収飽和
光感受性物質が吸収できる光エネルギー量には制約がある(過飽和吸収現象)ことから、高強度パルス照射を受けた生体浅部では、これを上回る光エネルギーを投与されても効率的に取り込むことができず治療効果が低下する。
【0015】
しかし、これらの現象のみでは、InVIVO実験の結果で見られた「浅部において全く治療効果が得られない」という状況を説明することは困難である。
【0016】
特に、薄く小さい局部的な組織である浅部において、傷害の程度が低かった場合には回復するか否かは定かではなく、また、3つの現象の内、どれが支配的な要因であるかも定かではない。
【特許文献1】米国特許第5,829,448号
【特許文献2】WO 2004/112902 A1
【特許文献3】WO 2006/049132 A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記事情下において鋭意研究した結果得られた知見に基づきなされたものであり、光線力学的治療するに当り、レーザー光の強度により血流量の低減状態が異なる点に着目し、レーザー光の強度を制御することにより、生体浅部を流れる血流量を調整し、血流量の増減に伴うPDT薬剤量の増減から、生体浅部の傷害を防止しつつ、病変部のみをより確実に治療でき、しかも患者の肉体的精神的な負担が少なく、より高い治療効果が得られる光線力学的治療装置と、その使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る光線力学的治療装置は、光によって活性化する光感受性物質を用いて、生体の深部にある病変部を治療する光線力学的治療装置であって、前記光感受性物質を活性化する光を前記病変部に照射する照射手段と、前記病変部よりも前記照射手段側にある浅部の血管を流れる血流量を低減させるように前記光のピーク強度を制御する照射制御手段と、を有することを特徴とする。
【0019】
本発明に係る光線力学的治療装置の使用方法は、光を照射する照射手段と、血流を検出する検出手段とを有する光線力学的治療装置の使用方法であって、光感受性物質が予め投与された病変部に、前記照射手段により、前記光感受性物質が活性化可能な光を照射するステップと、前記病変部よりも前記照射手段側にある浅部における血流量を検出手段により検出するステップと、前記検出手段の検出結果に基づいて、前記浅部の血管の収縮を調節するために、照射制御手段により、前記照射手段により照射する前記光のピーク強度を調節するステップと、を有することを特徴とする。
【0020】
本発明に係る光線力学的治療方法は、所定範囲のピーク強度を有する光によって活性化し、該所定範囲外のピーク強度の光には活性化し難い光感受性物質を生体に投与するステップと、投与により生体深部の病変部に集積された前記光感受性物質を活性化可能な波長の光を、該病変部に向かってパルス照射するステップと、光をパルス照射する際に、高ピーク強度の光を照射し、前記病変部において前記所定範囲のピーク強度となった前記光により、前記光感受性物質を活性化させ、活性化した前記光感受性物質の作用により病変部を傷害するとともに、前記病変部より浅い浅部を流れる血流量を低下させて、該浅部を保存するステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、高強度パルスレーザー光の照射時には生体浅部での血管が攣縮して血流量が大幅に減少し、低強度パルスレーザー光の照射時には血管の攣縮が少なく前記血流量の減少も少ない点に着目したもので、請求項1、8に記載の発明では、光線力学的治療装置において、高強度パルスレーザー光を生体に照射することにより、病変部より浅部となる生体浅部では、流れる血流量を低下させ、PDT薬剤と酸素の供給を断ち、PDT薬剤による一重項酸素の発生を防止して組織を死滅させることなく保存することができ、生体深部では、前記高強度パルスレーザー光の減衰を利用し、血管が攣縮して血流量が低下することを防止し、継続的に供給されるPDT薬剤と酸素により病変部の組織を死滅させることができる。この結果、場所あるいは種別などが区々である種々の病変部でも、生体浅部を保存あるいは温存しつつ深部の病変部のみをより確実に治療できる。
【0022】
しかも、光線力学的治療装置において、照射手段により病変部にパルス照射する、PDT薬剤が活性化する光のピーク強度を照射制御手段により制御し、血管を流れる血流量を低減させるので、極めて精度よく光のピーク強度を制御し、血流量を低減でき、浅部温存現象をより確実なものとすることができ、治療効果もより高い優れたものにすることができる。
【0023】
また、従来のようにPDT薬剤が病変部と励起光を照射する照射手段側の健常部で濃度差が生じるまで待機する必要がなく、PDT薬剤が病変部に到達すれば、治療を開始できるため、可視光線の届かない暗室に長時間居なければならないということはなく、患者及び医療従事者のいずれにおいても、肉体的精神的な負担が大幅に軽減される。
【0024】
請求項2に記載の発明では、光感受性物質が、所定範囲のピーク強度を有する光によって活性化し、この所定範囲外のピーク強度の光には略活性化しない特性を有するので、所定範囲のピーク強度を有する光を照射するのみで、光感受性物質が一重項酸素を発生させ、組織を死滅させることができる。
【0025】
請求項3に記載の発明では、照射制御手段が、病変部よりも浅部の血流量を検出手段により検出し、この検出結果により制御手段が前記光のピーク強度を制御し、血管の収縮を調節するので、個々の患者に即した正確で確実な治療ができ、優れた治療効果を発揮できる。
【0026】
請求項4に記載の発明では、前記検出手段が、照射光と反射光との光量を測定して血流量を検出するので、血流量の検出が直接的できわめて精度の高いものとなり、個々の患者に即した正確で確実な治療ができ、より高い優れた治療効果を発揮できる。
【0027】
請求項5に記載の発明では、検出手段が、浅部の画像において血液に相当する色調の占める割合あるいは血管数から血流量を検出するので、血流量の検出が直接的できわめて精度の高いものとなり、より高い優れた治療効果を発揮できる。
【0028】
請求項6に記載の発明では、高強度パルスの照射を開始し、所定時間が経過した後に浅部の血管が攣縮する。この現象を利用し、この所定時間を制御手段により計測し、該所定時間前の血流量以下となるように照射する光のピーク強度を制御するので、不必要に高強度パルスを照射することがなく、浅部の血流量を検出がより確実になり、きわめて正確な治療が可能になる。
【0029】
請求項7に記載の発明では、光照射開始直後から初期血流抑制時間までの間に浅部の血管を流れる血流量を低減させ、前記初期血流抑制時間が経過した後光照射終了時までの間に浅部の血管の収縮を維持するように光のピーク強度を制御すれば、浅部を温存しつつ深部にある病変部の組織を死滅させ効果が向上することになり、治療効果がきわめて向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
(本発明の前提)
まず、本発明の前提である、PDTにおけるレーザー光の強度と血流量の変化に関する知見について概説する。前立腺癌細胞を皮下埋殖することで癌腫瘍を生じさせた、いわゆる担癌マウスによるInVIVO実験を行った。実験は、担癌マウスにPDT薬剤を適用し、1時間後に高強度のパルスレーザー光と、低強度のパルスレーザー光を癌腫瘍に照射した後、それぞれの場合の、生体表面(浅部)と、深部の血流量をレーザードップラー血流速計で血流速を測ることで測定した。
【0031】
実験結果は、生体表面の血流速は、高強度のパルスレーザー光照射時には、照射前よりも85%も低減し、浅部を目視観察すると、パルスレーザー光の照射部位の血管が消失していた。低強度のパルスレーザー光照射時には、照射前の血流速よりも31%程度しか低減せず、生体表面の血管も目視観察によりその存在が明確に判別できた。
【0032】
このような血管の収縮作用は、発生した一重項酸素による刺激と、高強度パルスレーザー光による刺激と、高強度パルス光により生じた熱刺激という3つの要因が影響することにより生じているものと考えられる。一過性の血栓により血流が低下したとも考えられるが、治療後に血流が再開することからすれば、攣縮による血流量低下の可能性が最も高い。
【0033】
一方、深部では、高強度のパルスレーザー光照射時も低強度のパルスレーザー光照射時も、レーザー光が生体組織により拡散現象を起こして拡散光となり、深部の血流量は照射前の血流量よりも低減しない。
【0034】
このように生体表面の血流量が、高強度のパルスレーザー光を照射することにより大幅に減少するということは、必然的に血流により移動するPDT薬剤、このPDT薬剤により生成される一重項酸素も減少し、枯渇することを意味する。これは、高強度のパルスレーザー光を生体表面に照射しても、生体表面でのPDTによる治療効果は得られず、細胞も壊死しないことにもなる。
【0035】
このような血流量の有無が一重項酸素の生成に影響する点に関し、実験により検証した。実験は、光感受性物質とタンパク質を溶解した水溶液を用い、血流停止状態を貯留した水溶液によりモデル化し、また、血流流通状態をフローセル内で連続的に流した溶液でモデル化し、それぞれに高強度のパルスレーザー光を照射し、PDT薬剤の励起により発生する一重項酸素が発する蛍光の状態を検証した。前者の貯留系では、照射開始20秒で薬剤からの蛍光が急減した。一方、後者のフロー系では、逆に一重項酸素蛍光が増大した。これは、血流が無くなると、PDT薬剤と酸素の供給が断たれ、治療効果を生じる一重項酸素が生成されないことを意味し、高強度パルスレーザー光の照射によるPDT薬剤量の低減現象が確認できた。
【0036】
かかる点からすれば、高強度パルス照射開始後、生体浅部の血管は収縮(攣縮)し、PDT薬剤と酸素の供給が断たれ、20秒程度の間で光線力学的効果が抑制されることになる。ここにおいて、レーザー光の照射を開始した直後から血流低減する状態となるまでの時間を、「初期血流抑制時間」と称する。
【0037】
一方、深部(病変部)に到達する高強度のパルスレーザー光は、生体の組織や血液などにより減衰されるので、深部での血管収縮は起こらず、長時間にわたって穏やかに一重項酸素を発生し続けることも判明した。
【0038】
さらに、高強度のパルスレーザー光により攣縮していた血管は、刺激がなくなった後しばらくすると拡張し、血行が再開されることも判明しており、この点から浅部組織は、死滅することなく保存される。
【0039】
この結果、高強度パルスレーザー光の照射により生体浅部での血管が攣縮して血流量が大幅に減少させると、浅部を温存しつつ深部の治療を行うことができる。
【0040】
図1は高強度パルスレーザー光の照射による浅部温存メカニズムに関する実験結果を集大成し、経時的に示した概略図であり、横軸に時間、縦軸に浅部と深部(病変部)それぞれの血流量、一重項酸素及び累積一重項酸素の量を定性的に示す。なお、図中の実線は浅部での状況を、破線は深部での状況をそれぞれ示す。また、高強度パルスレーザー光の照射開始時点においては、すでにPDT薬剤が投与されており、病変部を含む生体内にすでに分布しているものとする。
【0041】
第1段は、高強度パルスレーザー光の照射をONとOFFによりに示す。高強度パルスレーザー光を照射している状態が「ON」であり、照射を停止している状態が「OFF」である。高強度パルスレーザー光照射は、照射を開始し、所定時間経過後に照射を終了する。
【0042】
高強度パルスレーザー光の照射により、第2段に示すように、浅部の血流量には変化が生じる。浅部の血流量は、照射開始後、20秒にかけて初期流量が次第に低下し、略0まで低下するが、深部の血流量は、高強度パルスレーザー光が生体組織などにより拡散・吸収され、光の強度が低下するため、血流量に変化は生じない。なお、厳密に言えば、実験では、時間の経過に伴って血流量が次第に僅かに減少したが、ここでは説明を簡便にするため便宜的に一定の表示とする。
【0043】
第3段に示す一重項酸素生成量は、血流の影響を大きく受ける。浅部では、血流量が低下するために、新しいPDT薬剤と酸素の供給が断たれ、一重項酸素の生成量が血流の減少と共に急激に低下する。しかし、深部では、血流量の変化が無いため、定常的に一重項酸素が生成される。
【0044】
第4段に示す累積一重項酸素は、治療効果に直接影響を及ぼすものであるが、浅部では、照射開始後20秒程度の間で生成が低下するため、照射終了の段階でも累積した一重項酸素量は少量しかない。しかし、深部では、照射開始から終了までの全域に渡って一重項酸素の生成が続くため、累積した一重項酸素量は極めて多量となる。
【0045】
このようにして照射終了すると、浅部では、高強度パルスレーザー光の照射により閉塞されていた血管が次第に開通し、血流が再開する。再開に要する時間は個人により異なるが、浅部組織が壊死する前に血行が回復する。なお、この点に関する参考文献としては、Lasers in Medical Science誌2000年15巻:181-187頁に掲載された「Heat and Photolytic Nitric Oxide are essential factors for light-Induced vascular tension」(Matsuo H. 等著)がある。
【0046】
したがって、浅部では、血流の再開により細胞への酸素供給が再開され、浅部細胞は死滅することはなく、温存される。少量の一重項酸素により細胞が障害を受けていたとしても、回復可能である。一方、深部では、大量に発生した一重項酸素により細胞の障害が進んでおり、血流があったとしても回復せず細胞が死滅し、治療効果を達成する。
【0047】
上述したように本発明では、高強度パルスレーザー光を生体に照射すると、浅部では血流量の低下によりPDT薬剤と酸素の供給が断たれ、一重項酸素の生成が低減し、細胞の損傷を起こすことがなく、一方、深部では、高強度パルスレーザー光の拡散により血流量が低下せず、PDT薬剤と酸素が供給され、累積一重項酸素量が増大し、細胞を損傷させる。しかし、浅部温存効果は、高強度パルスレーザー光の照射に伴う浅部血流量の低下が大きく起因しているものの、この血流量低下現象と、先述した3つの「効果減弱現象」との相乗効果により生体浅部を温存した状態で深部(病変部)のみを治療できるものと考えられる。
【0048】
ここにおいて、光線力学的治療の作用として、バスキュラーシャットダウン効果が知られている。この効果は、一般的に病変部位に連なる血管がPDTの治療効果により凝固収縮して不可逆な収縮を生じたり、血栓が生じて血管が閉塞されることで、病変部位への栄養供給が停止する状態を指す。この場合、バスキュラーシャットダウン効果の部位に血流再開は見られない。この点、本発明における浅部の血流減少は、治療終了後に血流が再開する攣縮を引き起こしている点で相違するものである。
【0049】
かかる知見に基づく本発明の実施の形態を説明する。
(第1の実施の形態)
図2は第1の実施の形態に係る光線力学的治療装置の概略斜視図、図3は同光線力学的治療装置の概略構成を示すブロック図、図4はカテーテルの正面図、図5(A)〜(D)はカテーテルの先端部を示す図である。
【0050】
図2、3に示すように、光線力学的治療装置1は、病変部41にレーザー光をパルス照射する照射手段11と、照射手段11からの光のピーク強度を制御する照射制御手段20とを有している。なお、図2においては、照射手段11の先端部のみを拡大して示し、また、図2の符号「SW」はレーザー光照射用の足踏みスイッチである。
【0051】
照射手段11は、先端を生体内に挿入する細くて長尺な治療カテーテル10と、治療カテーテル10の先端部に設けられた光照射部13と、治療カテーテル10内を挿通して伸延され、一端が光照射部13に、他端が治療装置本体20aにそれぞれ接続され、光源21からの光を光照射部13まで導光する光ファイバFと、を有している。
【0052】
照射制御手段20は、浅部42の血流量を検出する検出手段23と、検出手段23の検出結果に基づいて、浅部42の血管の収縮を調節するように、照射手段11により照射する光のピーク強度を制御する制御部(制御手段)22と、光源21および検出手段23が接続された光分岐部24とを有している。
【0053】
さらに詳述する。照射手段11における治療カテーテル10は、治療する病変部41まで到達できるものであればよく、例えば、動脈硬化を治療する場合には血管用カテーテル、前立腺癌や前立腺肥大を治療する場合には尿道用カテーテルを用いる。
【0054】
治療カテーテル10の内部を挿通する光ファイバFは、光源21からの光のエネルギーを伝送できるものであればよく、特に限定されるものではないが、例えば、直径0.05〜0.6mm程度のものである。
【0055】
治療カテーテル10は、図4に示すように、治療装置本体20aと接続される基部12と、生体40に挿入する先端部に設けられた光照射部13と、光照射部13の近傍に設けられた造影マーカーM1と、中央付近に設けられた深度マーカーM2とを有している。
【0056】
治療カテーテル10全体を構成する材質は、軟性のカテーテルであれば高分子樹脂を用いて構成し、硬性のカテーテルであれば金属を主体として構成する。生体内への挿入に適切な強度の他材料であってもよく、また、治療カテーテル10の肉厚内のコイルばねあるいは軸方向に伸延する線材などを設け補強したものであってもよい。
【0057】
光照射部13は、光ファイバFにより導光されたレーザー光が治療カテーテル10自体により減衰されることなく照射できるように、光透過性のある材料、例えば、合成石英あるいはポリエチレンテレフタレートやポリカーボネートなどの透明性の高い樹脂等により形成している。
【0058】
造影マーカーM1は、X線視認性を高めるためのX線不透過マーカーであってもよく、MRI造影性を高めるマーカーであってもよいが、例えば、治療カテーテル10の外面にX線視認性のあるタングステン粉末を設けることにより形成する。これにより治療カテーテル10先端部の位置確認が容易にできる。深度マーカーM2は、造影マーカーM1と同様のものでよいが、軸方向に所定間隔で複数設け、治療カテーテル10を生体内に挿入する場合に使用するガイディングカテーテル(図7の符号「33」参照)の先端部分と、各深度マーカーM2との関係で挿入深さを知ることができる。
【0059】
なお、前立腺の治療を行なう場合には、光照射部13を組織と接触させる等の目的のために、また、動脈硬化の治療を行なう場合には、光線照射の際に病変部41において血流を閉止する必要があるため、治療カテーテル10の先端部付近に、液体や気体を内部に供給−排出することにより膨張収縮するバルーンを設けてもよい。ただし、このバルーンは、血液流を確保するために、血液還流(パーフュージョン)機能を備えていてもよい。
【0060】
治療カテーテル10の先端部は、図5に示すように、種々のものを採用することができる。図5(A)に示す先端部は、代表的な例であるが、光照射部13の直近位置に造影マーカーM1を設けたものである。
【0061】
図5(B)に示す先端部は、拡散光を照射する場合のもので、治療カテーテル10と同軸に設けられた光ファイバFを通った光が光拡散体14により拡散され、カテーテル外へ照射される。光拡散体14としては、合成石英やエポキシ樹脂などの透明性のある材料内にアルミナ粉末等の光拡散物質を分布させたものや、光ファイバFの周囲に微小なキズをつけることで拡散光を生じさせるものなどがある。
【0062】
図5(C)に示す先端部は、側射式のもので、図5(B)に示す拡散光方式のものよりもパルスレーザー光の強度を維持できるので、パルスレーザー光の出力を抑えることができる利点がある。パルスレーザー光を側射させる手段としては、例えば、光ファイバFの出力側先端に、光出射方向を規定するミラー15を設けたり、場合によっては、プリズムを設けるなどの手段がある。ミラー15としては、例えば、剛性石英基板や、金属板あるいはプラスチック部材への金属蒸着したものなどが使用できる。
【0063】
ここで、側方に照射されるパルスレーザー光が病変部41を照射する面積範囲は、周囲組織に熱の影響を及ぼさないようにする必要があるので、0.5cm2〜3cm2が好ましい。また、照射範囲が局所的で狭くても、病変部41の大きさに応じて治療カテーテル10を回転させるなどして、照射の向きを変えて病変部41に複数回照射を行えば、病変部41を完全に治療することができる。
【0064】
図5(D)に示す先端部は、穿刺用先端部16を備えたもので、X線造影下又は腹腔鏡・胸腔鏡によるラパロ下での利用では、手元部から目的の病変部41に向かって直進性を持って刺入できる。
【0065】
次に、照射制御手段20について説明する。まず、図3において、照射制御手段20おける光源21は、レーザー光を照射する部分である。レーザーとしては、半導体レーザー、色素レーザー、可変波長近赤外レーザーの二逓倍波等を好適に用いることができる。照射されるレーザー光は、連続もしくはパルスレーザー光線であってもよいが、連続照射する場合、ピーク強度を一定以上にすると照射部が加熱により変性するので、高ピーク強度照射による浅部保存治療にはあまり適さない。浅部保存治療を行う場合は、パルス光を用いるのが望ましい。パルスレーザー光のパルスとは、パルス幅が1ms以下のものをいう。
【0066】
制御部22は、病変部41の深度に従って、レーザー光の出力ピーク強度が病変部41で治療に適した所定範囲のピーク強度となるように、光源21から出力するレーザー光の出力ピーク強度を調整したり、繰り返し周波数等の光照射条件を制御する。
【0067】
検出手段23は、病変部41に向って照射されたレーザー光と戻り光とを分離する光分岐部24と、戻り光の光量を測定し、血流量を演算する血流量演算部(血流量演算手段)25とを有している。
【0068】
光分岐部24は、制御部22により調整された光源21からのレーザー光を光照射部13に導光する機能と、光照射部13からの戻り光を光量測定手段25に導光する機能とを有している。
【0069】
血流量演算部25は、光照射部13の近傍に設けられたセンサー26が検知した戻り光の光量から浅部42の血流量を演算し、制御部22に送信するように接続されている。
【0070】
照射したレーザー光は、血液にも吸収される性質があるので、戻り光の光量は、血流があると少なくなり、血流が減少すると増加する。この点を利用し、検出手段23は、図3に示すように、光照射部13の近傍に設けられたセンサー26が検知した戻り光の光量と、光照射部13から照射されたレーザー光の光量とを血流量演算部25において比較し、これに基づき浅部42の血流量を演算している。
【0071】
したがって、制御部22は、検出された光感受性物質または酸素濃度に基づいて、光源21に発生させる光のピーク強度や、繰り返し周波数等の光照射条件をリアルタイムに変更することができる。
【0072】
本実施形態で使用されるレーザー光やPDT薬剤の条件について説明する。
【0073】
病変部41に照射するレーザー光の波長は、600nmから800nmであり、用いるPDT薬剤の吸収波長に近い波長の光線を用いればよい。特に波長可変のオプティカルパラメトリックオッシレーター(OPO; Optical Parametric Oscillator)により発生するレーザー光線が望ましい。OPOにより発生する光線は波長を変えることができ、波長および光線の照射ピーク強度を変えることにより浅部から深部まで広く病変部を治療することができる。
【0074】
調整する病変部41での浅部42は、例えば、0.05mm〜10mm程度であり、深部は、それよりも深い部分をいう。
【0075】
レーザー光の照射条件は、病変部の大きさ、用いる光線種、PDT薬剤等に応じて適宜決定することができる。光線を照射してPDT治療を行う場合、パルスエネルギー密度(照射量、J/cm2)は、重要であるが、光線のピーク強度とパルス幅とを乗じて得られる。すなわち、パルスエネルギー密度=ピーク強度×パルス幅である。
【0076】
照射する光線のピーク強度において、高ピーク強度の範囲および低ピーク強度の範囲は限定されず、光線の種類、治療しようとする病変の深度等により適宜決定することができる。例示すれば、照射光線のピーク強度として、100mW/cm2〜5MW/cm2の範囲が挙げられ、総エネルギー密度として20〜500J/cm2以上を挙げることができる。高ピーク強度の光線のピーク強度としては、10kW/cm2以上〜パルス照射によって生体表面にプラズマが発生し始める閾値以下の範囲が挙げられる。好ましくは、高ピーク強度の光線のピーク強度は、100kW/cm2〜10Mw/cm2の範囲である。さらに好ましくは、高ピーク強度の光線のピーク強度は、200kW/cm2〜5Mw/cm2の範囲である。
【0077】
レーザー照射された部分では、局所的に消費された酸素が周囲組織から拡散供給されるのに一定の時間を要するため、レーザーの照射タイミングも酸素の供給と合わせる必要がある。このような照射レーザーの繰り返し周波数としては、1Hz〜1kHz程度が好ましい。
【0078】
ただし、後述のようにカテーテルを有する装置を用いて、病変部の近くに光線照射部をセットして照射する場合と、体外から光線を照射する場合とでも、高ピーク強度および低ピーク強度の範囲は異なることから、ここにおいては、例えば、PDT薬剤が浅部から深部まで集積した病変部に照射した場合に、表面から0.05mm〜10mm程度の浅部を傷害させることができるピーク強度の光線を低ピーク強度光線といい、それよりも深部を傷害させることができるピーク強度の光線を高ピーク強度の光線という。
【0079】
現在、実用化されているPDT治療に用いられているPDT薬剤は、吸収波長が630nmのポルフィマーナトリウム(PHE)であり、630nmのエキシマーダイレーザーと組み合わせて用いられている。しかし、エキシマーダイレーザーの光は生体組織での深達性が2〜3mm程度なので、表在性の癌の治療用に限定される。
【0080】
本発明の装置は、現在のPDTでは不可能な深部の病変部の治療も可能とするため、より深達性の大きい波長の長いレーザーも用いる。従って、用いるPDT薬剤も630nm付近に吸収波長を有する薬剤から、より長波長側に吸収波長を有する薬剤のいずれも用いることができる。この中でも650nm〜800nmに吸収波長を有する薬剤が望ましい。例えば、タルポルフィン(明治製菓株式会社の商品名:レザフィリン)(664nm)(mono−L−aspartyl chlolin e6,特許第2961074号公報)、mTHPC(652nm)クロリン系薬剤であるATX−S10(670nm)(Iminochlorin aspartic acid 誘導体、東洋薄荷工業株式会社、特開平6−80671号公報)、SnET2 (660nm) (tin etiopurpurin、ミラバント・メディカル・テクノロジーズ)、AlPcS (675nm) (chloro aluminium sulphonated phthalocyanine)、BPD−MA(690nm) (benzoporphyrin derivative monoacid ring A、QLT社)、Lu−tex (732nm) (Lutetium Texaphyrin)等が挙げられる(慣用名、吸収「ピーク」波長を示し、さらに一般名、入手先、文献を示してある)。
【0081】
また、これらの薬剤を混合して用いてもよい。吸収波長の異なる複数の薬剤が病変部に集積することにより、光線の波長、繰り返し周波数のみならず照射ピーク強度をも制御し、浅部から深部まで広く病変部を治療することが可能になる。
【0082】
これらの薬剤の投与は、薬剤をリン酸緩衝塩溶液等の適当な緩衝液に溶解させ、必要に応じて医薬的に許容できる添加物を添加する。添加物としては、有機溶媒等の溶解補助剤、酸、塩基等のpH調整剤、アスコルビン酸等の安定剤、グルコース等の賦形剤、塩化ナトリウム等の等張化剤などが挙げられる。
【0083】
投与方法は、特別なものに限定されない。静脈注射、筋肉注射、皮下注射、経口投与等により投与できる。投与量は、静脈注射等により全身投与する場合は、0.01〜100mg/kg体重、好ましくは1〜5mg/kg体重である。局所投与の場合は、例えば、数μg/ml〜数mg/mlに調製した薬剤を、数μl〜数mlだけ直接病変部に注入等により投与すればよい。
【0084】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0085】
図6は本実施形態の動作の流れを示すフローチャート、図7はカテーテルを使用して例示的に肺の腫瘍を病変部として治療している状態を示す概略図、図8(A)〜(D)はカテーテル先端部での治療状態を段階的に示す概略断面図である。なお、図8(A)において、白丸は肺胞を表し、黒い塊が病変部41である肺癌腫瘍組織を表す。この黒い塊が白い塊に変化しているのは、治療が完了したことを示す。
【0086】
図6に示す治療開始の段階では、すでにPDT薬剤が患者に投与され、病変部41を含む光照射部位に充分に拡散し、光照射部13が適切な照射位置に配置されている状態である。
【0087】
まず、制御部22に、初期治療条件が入力される(ステップS1)。初期治療条件とは、光照射部13に照射させるパルスレーザー光のピーク強度、周波数、トータル投与エネルギー、生体40に供給するPDT薬剤の濃度、あるいは光照射する領域、光照射する領域までに距離、照射時間などである。これらの条件は、予め生体40を診察して得られた状況、例えば、病変部41の位置などに基づいて決定される。詳細には、病変部41の深度が測定され、病変部41においてパルスレーザー光のピーク強度が、PDT薬剤を活性化させる所定範囲になるように、光照射部13により照射するパルス光の初期ピーク強度が決定される。
【0088】
PDT薬剤を注入し、所定時間(1時間程度)経過した後、図7に示すように、気管支内に気管支内チューブ32を挿入した状態で、ガイディングカテーテル33を挿入し、このガイディングカテーテル33をガイドとして治療カテーテル10を挿入する。そして、ガイディングカテーテル33の先端から、治療カテーテル10を突出し、病変部41近傍にある極細気管支肺まで挿入する(図8Aに示す状態)。
【0089】
本実施形態では、PDT薬剤が病変部41に吸収・集積されるまで待機する必要はなく、PDT薬剤を注入した後、1時間程度経過した後に治療を開始することができる。本発明に係るPDTでは、細胞内に取り込まれるPDT薬剤よりも血流により供給されるPDT薬剤の方が治療結果に大きな影響を及ぼすと考えられるからである。
【0090】
したがって、従来の通常のPDTのように、癌腫瘍などの目的病変部細胞と周囲の健常細胞とでPDT薬剤の濃度差が生じるまで長時間(48時間程度)、可視光線の当らない暗い場所で待つ必要がなく、患者に対する肉体的精神的な負担は大幅に軽減され、医療従事者にとっても大きなメリットとなり、医療経済性の面でも価値が高いものとなる。
【0091】
また、治療カテーテル10は、病変部41内に貫入する必要はなく、病変部41から0.5〜1cm程度離れた位置に配置された状態で良い。したがって、治療カテーテル10に、例えば、癌細胞が付着する虞はなく、治療後に治療カテーテル10を抜去する場合も、その経路に癌細胞を移動させ、癌の転移を生じさせる危険性もない。
【0092】
初期治療条件に基づいて、制御部22は、光源21を動作させ、光照射部13から病変部位に向かって高強度パルスレーザー光の照射を開始する(ステップS2)。
【0093】
高強度パルスレーザー光の照射開始から20秒間経過した段階で、検出手段23は、病変部41の浅部42における血流をモニターし、生体表面部位の血流量を判定する(ステップS3)。本実施形態では、照射したレーザー光の光量と、センサー26により検知された戻り光の光量とを血流量演算部25において比較し、この演算結果に基づき生体表面部位の血流量を判定している。
【0094】
判定により、温存すべき浅部42に血流が確認されるようであれば(ステップS4:YES)、パルスレーザー光の照射により、病変部41の浅部42において、PDT薬剤が活性化され、細胞が傷害を受ける虞があり、パルスレーザー光の強度が不足しているので、パルスレーザー光の強度を上昇する(ステップS5)。一方、血流が確認されない場合は、パルスレーザー光の照射により、病変部41の浅部42において、PDT薬剤が活性化せず、細胞が傷害を受ける虞がなく、正常なパルスレーザー光の照射であるため、パルスレーザー光の強度を維持する(ステップS6:NO)。
【0095】
このようにして高強度パルスレーザー光が照射されると、病変部41においては、PDT薬剤が活性化し、上述したメカニズムにより病変部41の細胞を傷害する。
【0096】
ただし、高強度パルスレーザー光と低強度パルスレーザー光とを適宜併用することもできる。図8(B)は、高強度パルスレーザー光の照射により深部の治療を行っている様子を示し、図8(C)は、低強度パルスレーザー光の照射により浅部42の治療を行っている様子を示す。
【0097】
高強度パルスレーザー光を照射すると、光出射部近傍(浅部42)の組織は、高強度パルスレーザー光によって血流量が減少し、治療効果が得られないが、図中斜線部で示した光出射部遠方(深部)の組織は治療効果が得られる。治療深さとしては、例えば、1〜3cmであり、図8(B)に示すように、直径6cm程度の球隔状の範囲が治療される。
【0098】
前述の高強度パルスレーザー光に引き続いて低強度パルスレーザー光または連続光(CW照射)を使用すると、光出射部近傍(浅部42)にある治療をやり残した浅部42の組織を、図8(C)に示すように治療できる。
【0099】
最後に、制御部22は、治療時間などの初期治療条件に基づいて、治療が終了したか否かを判断する(ステップS7)。治療が終了していない場合(ステップS7:NO)、ステップS2からの処理が繰り返される。治療が終了している場合(ステップS7
:YES)、光線力学的治療を終了する。
【0100】
このように、本実施形態に係るPDTでは、浅部を温存し、深部の病変部のみを治療できることになる。
【0101】
例えば、肺末梢に原発性肺癌が発見された場合、一般的な外科手術では、転移が疑われるリンパ節も一緒に切除する。この際リンパ節だけを切除することはできず、近傍の肺組織や気管支ごと切り取ることになる。肺が大きく切り取られると換気能力が大きく損なわれ、呼吸が苦しくなり、治療後の患者の生活の質が著しく低下する。
【0102】
また、浅部温存が不可能な通常のPDTでは、気道粘膜にできた癌腫瘍を内側から治療する。気管支は、内側から気道粘膜、気道壁、気管支軟骨等から構成されており、リンパ節は、その外側にある。通常のPDTで治療深度を深くし、リンパ節まで治療しようとすると、気管支構造を破壊する。治療後に浮腫が生じて気道狭窄を引き起こし呼吸が困難になるなどの課題が生じる。
【0103】
しかし、本実施形態に係るPDTでは、このような不具合が生じる虞はなく、浅部を確実に温存しつつ、深部にある病変部41のみを治療できることになる。
(第2の実施の形態)
前述した実施の形態は、光照射部13がレーザー光を照射し、生体40からの反射光を検知するものであるが、本実施の形態は、生体40の温度に基づき血流量を検出するものである。レーザー光を照射することにより血流量が低減すると、生体40の温度も変化する。したがって、レーザー光の照射前の生体40の温度と、照射後の生体40の温度とを測定して、制御部22において比較すると、生体浅部42の血流量を検出することができる。
【0104】
図9は第2の実施の形態に係るブロック図、図10はレーザー光照射時における生体表面付近と生体深部との温度測定結果を示すグラフで、(A)は高強度パルスレーザー光照射時のものを示し、(B)は低強度パルスレーザー光照射時のものを示しでいる。グラフ中、細線は腫瘍浅部42の温度変化を、太線は腫瘍深部の温度変化を表す。なお、先の図に示す部材と共通する部材には同一符号を付し、説明は省略する。
【0105】
まず、レーザー光を照射することにより血流量が低減すると、生体40の温度も変化する点に関し実験により検証した。実験は、マウスのInVIVO実験であり、治療中の生体40に熱電対を穿刺し温度を測定した。腫瘍浅部42は表層から200μm、腫瘍深部は表層から5mmの位置である。高強度パルスレーザー光と低強度パルスレーザー光は、下記の表1で示す値のものである。
【0106】
【表1】
【0107】
実験結果は、図10(A)(B)に示すものが得られた。この実験結果から明らかなように、高強度パルスレーザー光照射時には、生体表面付近が生体深部に比べて大きく温度上昇するのに対し、低強度パルスレーザー光照射時には、深さによる温度差の違いは少ない。これは、高強度パルスレーザー光照射時には、生体浅部で血流が低下し、血流による組織冷却の効果が失われて急激に温度上昇をした様子を示す。したがって、生体40の実温度を測定することにより浅部42における血流量をモニターすることができる。
【0108】
図9に示すように、本実施の形態では、光照射部13の近傍に温度センサー27を設け、温度センサー27が検知した生体表面の温度信号を制御部22に入力するようにしている。
【0109】
したがって、図10(A)(B)のグラフに示されている温度変化の状態を、予め制御部22に記憶させ、生体40から検出した温度と比較すれば、生体40の血流量を検出することができる。
(第3の実施の形態)
図11は第3の実施の形態に係るブロック図であり、先の図に示す部材と共通する部材には同一符号を付し、説明は省略する。
【0110】
本実施の形態の検出手段23Bは、超音波やレーザー光による画像診断により、生体深部方向にある血管の形状を認識するもので、この画像診断により血管分布数を血流量とし、制御部22に供するようにしたものである。
【0111】
内視鏡の分野では、光学フィルターを用いて血管を明瞭に描画する方法などが一般に知られている。この手法を用いて本実施の形態では、図11に示すように、内視鏡28を使用する。
【0112】
血管分布数の検出は、まず、光照射部13がパルスレーザー光照射のパルスの合間に病変部41の画像をカメラCにより撮像し、内視鏡28に設けた光学フィルター29を通して得られた画像情報を画像取得部(画像取得手段)30に導き、画像取得部30からの画像信号に基づいて血流量演算手段31が、内視鏡44の視野に占める血管分布数を求める演算を行い、得られた値を制御信号として制御部22にフィードバックし入力し、光照射部13が照射するパルス光を制御するようにしている。
【0113】
このようにすれば、生体40の画像から血管の分布状態を検出でき、得られた血管分布数から生体浅部42の血流量を検出することができる。
(第4の実施の形態)
前述した実施形態では、生体40の浅部42の血流量を検出するに当り、戻り光、生体40の温度の変化、画像診断による血管分布数を利用したものであるが、浅部42の色調を検出するものあるいは光ドップラーシフトにより血流速を検出するものであってもよい。
【0114】
まず、色調を検出するものについて説明する。レーザー光を照射することにより血流量が低減すると、画像診断の画像信号中に占める血液の色の信号量も変化するので、レーザー光の照射前後における血液の色の信号量変化を測定すれば、血流量を把握することができる。
【0115】
つまり、例えば、図9に示す温度センサー27を、色を感知するセンサーとし、レーザー光の照射前の血液の赤色量と、戻り光の赤色量を測定して、制御部22において比較すれば、生体浅部42の血流量を検出することができる。
【0116】
光ドップラーシフトにより検出するものについて説明する。前述した戻り光は、生体組織内の血流に応じて光の周波数が変化するので、戻り光の周波数の変化量を測定すれば、血流量を把握することができる。
【0117】
つまり、例えば、図9に示す温度センサー27を、周波数を検出するセンサーとし、光照射部13から照射されたレーザー光の周波数と、前記センサーが検出した戻り光の周波数とを比較すれば、生体浅部42の血流量を検出することができる。ただし、測定は、血管断面積が変わらない間に行うことが好ましい。血管断面積が変化すると、血流速、即ち血液量を把握することが困難になる。
【0118】
上述した実施の形態では、肺の治療に適用した場合であるが、本発明の適用は、肺や気管支に限定されるものではなく、尿道、血管、腸管、鼻腔、口腔、耳道、膣などの生体管腔、あるいは管腔の無い臓器の治療においても応用できる。
【0119】
また、本発明のレーザー照射装置による治療の対象となる病変部は、組織において細胞の異常増殖や粥腫を伴う疾患の病変部であり、該組織病変部を傷害することにより疾患の進行を停止させ治療および拡大の防止をすることが可能な病変部である。このような病変部を有する疾患として、癌腫、肉腫、良性腫瘍、粥腫を伴う動脈硬化等も挙げることができる。これらの疾患の発生部位に関しても限定されるものではなく、また進行度に関しても限定されるものではない。例えば癌腫の場合、表在性の早期癌から浸潤性の進行癌まで対象となる。これらの中でも病変部が組織深部まで存在している疾患が好ましくさらに、病変部を正常な部分が覆っている状態の疾患が好ましい。
【0120】
病変部を覆う正常な部分はその病変部と同じ組織とは限らず、本発明の装置を用いて病変部に光線を照射しようとした場合に、病変部と光線照射部分に他の組織が存在する場合も含む。
【0121】
このような疾患としては、上皮内の癌腫であって上皮表面は正常な癌腫、組織の内部に存在する非上皮性細胞(間質細胞:支持組織を構成する細胞)性肉腫であって上皮性細胞に覆われている肉腫、前立腺癌や前立腺肥大症のように、尿道内に装置の光線照射部を挿入した場合に、病変部(前立腺)と光線照射部の間に正常部分(尿道壁)がある疾患、アテローム性動脈硬化症のように、動脈内に装置の光線照射部を挿入した場合に、病変部(粥腫)と光線照射部の間に病変部(粥腫)を覆う正常部分(被膜)がある疾患等が挙げられる。
【0122】
また、上述した実施の形態では、光線力学的治療時にPDT薬剤のみを使用しているが、血流量に作用のある薬剤、例えば、血栓溶解剤(アスピリンなど)を投与することで、治療効果が向上することが期待される。血流量に作用のある薬剤を投与すると、治療部位における血管閉塞が妨げられて治療効果が向上させることができる。
【0123】
血管作用薬としては、以下のものがあげられる。
【0124】
(1)PDT治療時に、例えば、下記する抗血栓性の薬効のある薬物を併用すれば、血栓や塞栓、血流障害等の治療効果の向上が期待できる。
【0125】
アスピリン、塩酸チクロピジン、ワルファリンカリウム、ヘパリンナトリウム、ナサルプラーゼ、アルテプラーゼ、ウロキナーゼ、チソキナーゼ、アルガトロバン
また、アスピリンと同様のシクロオキシゲナーゼ (COX-1、COX-2) 活性を阻害する作用を持つ薬物として、サリチル酸、ジクロフェナク、インドメタシン、イブプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、ピロキシカム
(2)PDT治療時に、例えば、下記する血管拡張作用がある薬物を併用すれば、血管閉塞が妨げられている部位の治療効果の増減については言及できないが、パルスレーザー光照射継続中に病変部位への薬剤と酸素の供給を維持する効果を持つ可能性がある。
【0126】
塩酸トラゾリン、シロスタゾール、ベラプロストナトリウム、硫酸バメタン、塩酸ファスジル
本発明の前提として説明した部分に記載しているように、本発明の特徴である血管の収縮作用は、発生した一重項酸素による刺激と高強度パルス光による刺激と、高強度パルス光により生じた熱刺激の3つが要因となって生じている。したがって、PDT薬剤として、ポルフィリン誘導体やクローリン系物質等種々の薬剤が提案されている。例えば、ポルフィリン誘導体としては、特開平9−124652号公報、WO98/14453号公報、特開平4−330013号公報、特許第2961074号公報などがあり、光化学治療の適用対象疾患として各種の癌用としては、特公平7−53733号公報、特開平9−124652号公報などがあり、自己免疫性疾患用としては、WO99/07364号公報、WO98/19677号公報、WO98/14453号公報などがあり、動脈硬化症用としては、特許第3154742号公報、WO00/59505号公報等が報告されている。
【0127】
しかし、いずれの薬剤であっても上記の刺激が発生しており、本発明による治療を行うことができる。
【0128】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0129】
図12は、カテーテルを使用してマウスの肺癌を治療している状態を示す概略断面図である。
【0130】
病変部41が、例えば、肺の抹消部分にある場合は、治療用カテーテル10を使用してPDTを行う。初期治療条件として、波長664nmのパルスレーザー光のピーク強度を10mJ/cm2、繰り返し周波数を10Hz、トータル投与エネルギー100J/cm2とし、生体40に供給するPDT薬剤は、排泄性の高い第二世代光感受性物質レザフィリンを濃度2mg/kgで注入した。
【0131】
光源は、エキシマーダイレーザー(EDL−1、浜松ホトニクス社)を用いた。ローダミン640濃度0.5mM(溶媒エタノール)に、オオサジン740濃度0.5mMを添加し、レーザー色素の劣化を用いて発振波長667±3nm、パルス幅10nsの光源として使用した。
【0132】
PDT薬剤を注入し、1時間経過した後、気管支内に気管支内チューブ32を挿入した状態で、ガイディングカテーテル33を挿入した。このガイディングカテーテル33をガイドとして治療カテーテル10を挿入し、ガイディングカテーテル33の先端から、治療カテーテル10を突出し、病変部41近傍にある気管支まで到達させた。
【0133】
制御部22を作動し、光照射部13から病変部位に向かって、光のピーク強度が10mJ/cm2の高強度パルス光を、照射領域直径8mmで、100J/cm2照射した。
【0134】
施行48時間後、PDT効果を検証した。検証は、腫瘍を薄切りし、ホルマリン固定した後のHE染色像の観察により判断した。浅部42は厚さ0.3mm−0.5mmの温存部位が確認され、深部深さ5mmまでの治療深度を得ることができ、病変部41が死滅していることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明は、生体の健常部である浅部皮膜を損傷させることなく保存しつつ、深部の病変部のみを治療することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】高強度パルスレーザー光の照射による浅部温存メカニズムに関する実験結果を経時的に示す概略図である。
【図2】第1の実施の形態に係る光線力学的治療装置の概略斜視図である。
【図3】同光線力学的治療装置の概略構成を示すブロック図である。
【図4】カテーテルの正面図である。
【図5】(A)〜(D)はカテーテルの先端部を示す正面図である。
【図6】第1の実施形態の動作の流れを示すフローチャートである。
【図7】カテーテルを使用して肺の腫瘍を病変部として治療している状態を示す概略図である。
【図8】(A)〜(D)は、カテーテル先端部での治療状態を段階的に示す概略断面図である。
【図9】第2の実施の形態に係るブロック図である。
【図10】パルス照射時における生体表面付近と生体深部との温度測定結果を示すグラフで、(A)は高強度パルスレーザー光照射時のものを示し、(B)は低強度パルスレーザー光照射時のものを示している。
【図11】第3の実施の形態に係るブロック図である。
【図12】カテーテルを使用してマウスの肺癌を治療している状態を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0137】
1…光線力学的治療装置、
10…治療カテーテル、
11…照射手段、
13…光照射部、
20…照射制御手段、
21…光源、
22…制御部、
23…検出手段、
24…光分岐部、
25…血流量演算手段、
40…生体、
41…病変部、
42…浅部、
F…光ファイバ、
M1,M2…マーカー。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の健常部である浅部を損傷させることなく保存しつつ、深部の病変部のみを治療し得る光線力学的治療装置と、その使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光線力学的治療(Photodynamic Therapy:PDT、光化学治療ともいう)は、早期癌の内視鏡下での治療の他、種々の治療への適用が検討されている。PDTとは、光感受性物質(以下、PDT薬剤)を静脈注射等の方法により投与し、治療対象である癌組織等の病変部に選択的に吸収・集積させた後、レーザー光等の光線を照射することにより病変部を処置する治療法である。
【0003】
PDT薬剤は、病変部へ選択的に集積する性質と、光が照射されることにより活性化する性質と、を有している。PDT薬剤の活性化とは、PDT薬剤周辺の酸素が一重項酸素(活性酸素)となることをいい、一重項酸素は、強い酸化力を発揮し、病変部の細胞を損傷させることができる。
【0004】
このような一重項酸素の特徴を利用するPDTは、次のようなメカニズムを有する。病変部に取り込まれたPDT薬剤を光線照射により励起すると、この励起された光増感剤のエネルギーは、病変部内に存在する酸素に移乗し、活性な一重項酸素(活性酸素)を生成し、この一重項酸素がその強力な酸化力により病変部の細胞を壊死させる。つまり、PDTにおいては、病変部にPDT薬剤と、PDT薬剤を励起させる励起光と、励起されたPDT薬剤により活性化される酸素が必要で、これら3者は、病変部の細胞を壊死させる一重項酸素を発生させて治療を行うに当って極めて重要なファクターである。
【0005】
PDTにおいて、PDT薬剤を生体深部にある病変部に集積させて励起光を照射すると、生体深部の病変部を治療でき、生体深部の治療にとって極めて有効な手段となるが、この治療時に浅部、つまり病変部よりも励起光を照射する照射手段側にある健常部、の細胞を損傷させることは好ましくなく、健常部の細胞を保存しつつ治療することが望ましい。また、治療にかかわる時間を短縮するため、PDT薬剤を投与した後に充分な集積時間を経ず、病変部と健常部との薬剤濃度差が少ない状況でも治療開始できることが好ましい。
【0006】
従来のこのような治療方法としては、例えば、レーザー光の焦点を病変部に合わせることによって、病変部のみにおいてPDT薬剤を活性化させるものがある(特許文献1参照)。
【0007】
しかし、この方法では、レーザー光の焦点がずれたり、レーザー光の強度や薬剤の濃度が変化すれば、健常部が損傷する虞があり、また、損傷した浅部の検出も困難である。
【0008】
そこで、本発明者らは、PDT薬剤や病変部の酸素濃度、さらにはレーザーのピーク強度等のパルスレーザー照射条件について鋭意検討を行った結果、照射するレーザー光のピーク強度を低強度から高強度に上げていくと、一定強度まではピーク強度が高くなるほどPDT治療効率(病変部組織の傷害度)も高くなるが、ピーク強度が高くなり過ぎると治療効率が逆に低下するという知見を得た。
【0009】
これは、病変部が健常部に覆われている疾患において、治療深度を調べ、レーザーのピーク強度を制御すると、浅部を傷害させず深部のみの治療に利用できることから、これを光線力学的治療装置などとして先に提案した(特許文献2参照)。
【0010】
また、この提案に係る光線力学的治療装置に関連し、PDT薬剤の活性化を検出する検出手段として、一重項酸素から発生する蛍光や、生体内で散乱され生体外に放出される光の光量、PDT薬剤の濃度、生体中の酸素分圧、あるいは生体の表面を透過した検査光などを使用することも可能であることから、これらについても提案した(特許文献3参照)。
【0011】
このような浅部を傷害させず深部のみの治療ができる、いわば「浅部温存現象」の原因としては、主として下記3つの効果減弱現象が考えられ、いずれも溶液系や細胞を用いた実験で実証されている。
【0012】
(1) 薬剤ブリーチング
発生した一重項酸素により光感受性物質が破壊される現象で、高強度パルス照射を受けた生体浅部では、急速に生じた一重項酸素で光感受性物質が破壊され治療効果が低下する。
【0013】
(2) 局所酸素枯渇
光感受性物質は、その近傍にある酸素を消費して一重項酸素を発生させ、この消費酸素の補給は周囲から拡散により供給されることから、高強度パルス照射を受けた生体浅部では、光感受性物質の近傍で局所的に酸素が枯渇し、周辺からの酸素補充が間に合わず治療効果が低下する。
【0014】
(3) 吸収飽和
光感受性物質が吸収できる光エネルギー量には制約がある(過飽和吸収現象)ことから、高強度パルス照射を受けた生体浅部では、これを上回る光エネルギーを投与されても効率的に取り込むことができず治療効果が低下する。
【0015】
しかし、これらの現象のみでは、InVIVO実験の結果で見られた「浅部において全く治療効果が得られない」という状況を説明することは困難である。
【0016】
特に、薄く小さい局部的な組織である浅部において、傷害の程度が低かった場合には回復するか否かは定かではなく、また、3つの現象の内、どれが支配的な要因であるかも定かではない。
【特許文献1】米国特許第5,829,448号
【特許文献2】WO 2004/112902 A1
【特許文献3】WO 2006/049132 A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記事情下において鋭意研究した結果得られた知見に基づきなされたものであり、光線力学的治療するに当り、レーザー光の強度により血流量の低減状態が異なる点に着目し、レーザー光の強度を制御することにより、生体浅部を流れる血流量を調整し、血流量の増減に伴うPDT薬剤量の増減から、生体浅部の傷害を防止しつつ、病変部のみをより確実に治療でき、しかも患者の肉体的精神的な負担が少なく、より高い治療効果が得られる光線力学的治療装置と、その使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る光線力学的治療装置は、光によって活性化する光感受性物質を用いて、生体の深部にある病変部を治療する光線力学的治療装置であって、前記光感受性物質を活性化する光を前記病変部に照射する照射手段と、前記病変部よりも前記照射手段側にある浅部の血管を流れる血流量を低減させるように前記光のピーク強度を制御する照射制御手段と、を有することを特徴とする。
【0019】
本発明に係る光線力学的治療装置の使用方法は、光を照射する照射手段と、血流を検出する検出手段とを有する光線力学的治療装置の使用方法であって、光感受性物質が予め投与された病変部に、前記照射手段により、前記光感受性物質が活性化可能な光を照射するステップと、前記病変部よりも前記照射手段側にある浅部における血流量を検出手段により検出するステップと、前記検出手段の検出結果に基づいて、前記浅部の血管の収縮を調節するために、照射制御手段により、前記照射手段により照射する前記光のピーク強度を調節するステップと、を有することを特徴とする。
【0020】
本発明に係る光線力学的治療方法は、所定範囲のピーク強度を有する光によって活性化し、該所定範囲外のピーク強度の光には活性化し難い光感受性物質を生体に投与するステップと、投与により生体深部の病変部に集積された前記光感受性物質を活性化可能な波長の光を、該病変部に向かってパルス照射するステップと、光をパルス照射する際に、高ピーク強度の光を照射し、前記病変部において前記所定範囲のピーク強度となった前記光により、前記光感受性物質を活性化させ、活性化した前記光感受性物質の作用により病変部を傷害するとともに、前記病変部より浅い浅部を流れる血流量を低下させて、該浅部を保存するステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、高強度パルスレーザー光の照射時には生体浅部での血管が攣縮して血流量が大幅に減少し、低強度パルスレーザー光の照射時には血管の攣縮が少なく前記血流量の減少も少ない点に着目したもので、請求項1、8に記載の発明では、光線力学的治療装置において、高強度パルスレーザー光を生体に照射することにより、病変部より浅部となる生体浅部では、流れる血流量を低下させ、PDT薬剤と酸素の供給を断ち、PDT薬剤による一重項酸素の発生を防止して組織を死滅させることなく保存することができ、生体深部では、前記高強度パルスレーザー光の減衰を利用し、血管が攣縮して血流量が低下することを防止し、継続的に供給されるPDT薬剤と酸素により病変部の組織を死滅させることができる。この結果、場所あるいは種別などが区々である種々の病変部でも、生体浅部を保存あるいは温存しつつ深部の病変部のみをより確実に治療できる。
【0022】
しかも、光線力学的治療装置において、照射手段により病変部にパルス照射する、PDT薬剤が活性化する光のピーク強度を照射制御手段により制御し、血管を流れる血流量を低減させるので、極めて精度よく光のピーク強度を制御し、血流量を低減でき、浅部温存現象をより確実なものとすることができ、治療効果もより高い優れたものにすることができる。
【0023】
また、従来のようにPDT薬剤が病変部と励起光を照射する照射手段側の健常部で濃度差が生じるまで待機する必要がなく、PDT薬剤が病変部に到達すれば、治療を開始できるため、可視光線の届かない暗室に長時間居なければならないということはなく、患者及び医療従事者のいずれにおいても、肉体的精神的な負担が大幅に軽減される。
【0024】
請求項2に記載の発明では、光感受性物質が、所定範囲のピーク強度を有する光によって活性化し、この所定範囲外のピーク強度の光には略活性化しない特性を有するので、所定範囲のピーク強度を有する光を照射するのみで、光感受性物質が一重項酸素を発生させ、組織を死滅させることができる。
【0025】
請求項3に記載の発明では、照射制御手段が、病変部よりも浅部の血流量を検出手段により検出し、この検出結果により制御手段が前記光のピーク強度を制御し、血管の収縮を調節するので、個々の患者に即した正確で確実な治療ができ、優れた治療効果を発揮できる。
【0026】
請求項4に記載の発明では、前記検出手段が、照射光と反射光との光量を測定して血流量を検出するので、血流量の検出が直接的できわめて精度の高いものとなり、個々の患者に即した正確で確実な治療ができ、より高い優れた治療効果を発揮できる。
【0027】
請求項5に記載の発明では、検出手段が、浅部の画像において血液に相当する色調の占める割合あるいは血管数から血流量を検出するので、血流量の検出が直接的できわめて精度の高いものとなり、より高い優れた治療効果を発揮できる。
【0028】
請求項6に記載の発明では、高強度パルスの照射を開始し、所定時間が経過した後に浅部の血管が攣縮する。この現象を利用し、この所定時間を制御手段により計測し、該所定時間前の血流量以下となるように照射する光のピーク強度を制御するので、不必要に高強度パルスを照射することがなく、浅部の血流量を検出がより確実になり、きわめて正確な治療が可能になる。
【0029】
請求項7に記載の発明では、光照射開始直後から初期血流抑制時間までの間に浅部の血管を流れる血流量を低減させ、前記初期血流抑制時間が経過した後光照射終了時までの間に浅部の血管の収縮を維持するように光のピーク強度を制御すれば、浅部を温存しつつ深部にある病変部の組織を死滅させ効果が向上することになり、治療効果がきわめて向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
(本発明の前提)
まず、本発明の前提である、PDTにおけるレーザー光の強度と血流量の変化に関する知見について概説する。前立腺癌細胞を皮下埋殖することで癌腫瘍を生じさせた、いわゆる担癌マウスによるInVIVO実験を行った。実験は、担癌マウスにPDT薬剤を適用し、1時間後に高強度のパルスレーザー光と、低強度のパルスレーザー光を癌腫瘍に照射した後、それぞれの場合の、生体表面(浅部)と、深部の血流量をレーザードップラー血流速計で血流速を測ることで測定した。
【0031】
実験結果は、生体表面の血流速は、高強度のパルスレーザー光照射時には、照射前よりも85%も低減し、浅部を目視観察すると、パルスレーザー光の照射部位の血管が消失していた。低強度のパルスレーザー光照射時には、照射前の血流速よりも31%程度しか低減せず、生体表面の血管も目視観察によりその存在が明確に判別できた。
【0032】
このような血管の収縮作用は、発生した一重項酸素による刺激と、高強度パルスレーザー光による刺激と、高強度パルス光により生じた熱刺激という3つの要因が影響することにより生じているものと考えられる。一過性の血栓により血流が低下したとも考えられるが、治療後に血流が再開することからすれば、攣縮による血流量低下の可能性が最も高い。
【0033】
一方、深部では、高強度のパルスレーザー光照射時も低強度のパルスレーザー光照射時も、レーザー光が生体組織により拡散現象を起こして拡散光となり、深部の血流量は照射前の血流量よりも低減しない。
【0034】
このように生体表面の血流量が、高強度のパルスレーザー光を照射することにより大幅に減少するということは、必然的に血流により移動するPDT薬剤、このPDT薬剤により生成される一重項酸素も減少し、枯渇することを意味する。これは、高強度のパルスレーザー光を生体表面に照射しても、生体表面でのPDTによる治療効果は得られず、細胞も壊死しないことにもなる。
【0035】
このような血流量の有無が一重項酸素の生成に影響する点に関し、実験により検証した。実験は、光感受性物質とタンパク質を溶解した水溶液を用い、血流停止状態を貯留した水溶液によりモデル化し、また、血流流通状態をフローセル内で連続的に流した溶液でモデル化し、それぞれに高強度のパルスレーザー光を照射し、PDT薬剤の励起により発生する一重項酸素が発する蛍光の状態を検証した。前者の貯留系では、照射開始20秒で薬剤からの蛍光が急減した。一方、後者のフロー系では、逆に一重項酸素蛍光が増大した。これは、血流が無くなると、PDT薬剤と酸素の供給が断たれ、治療効果を生じる一重項酸素が生成されないことを意味し、高強度パルスレーザー光の照射によるPDT薬剤量の低減現象が確認できた。
【0036】
かかる点からすれば、高強度パルス照射開始後、生体浅部の血管は収縮(攣縮)し、PDT薬剤と酸素の供給が断たれ、20秒程度の間で光線力学的効果が抑制されることになる。ここにおいて、レーザー光の照射を開始した直後から血流低減する状態となるまでの時間を、「初期血流抑制時間」と称する。
【0037】
一方、深部(病変部)に到達する高強度のパルスレーザー光は、生体の組織や血液などにより減衰されるので、深部での血管収縮は起こらず、長時間にわたって穏やかに一重項酸素を発生し続けることも判明した。
【0038】
さらに、高強度のパルスレーザー光により攣縮していた血管は、刺激がなくなった後しばらくすると拡張し、血行が再開されることも判明しており、この点から浅部組織は、死滅することなく保存される。
【0039】
この結果、高強度パルスレーザー光の照射により生体浅部での血管が攣縮して血流量が大幅に減少させると、浅部を温存しつつ深部の治療を行うことができる。
【0040】
図1は高強度パルスレーザー光の照射による浅部温存メカニズムに関する実験結果を集大成し、経時的に示した概略図であり、横軸に時間、縦軸に浅部と深部(病変部)それぞれの血流量、一重項酸素及び累積一重項酸素の量を定性的に示す。なお、図中の実線は浅部での状況を、破線は深部での状況をそれぞれ示す。また、高強度パルスレーザー光の照射開始時点においては、すでにPDT薬剤が投与されており、病変部を含む生体内にすでに分布しているものとする。
【0041】
第1段は、高強度パルスレーザー光の照射をONとOFFによりに示す。高強度パルスレーザー光を照射している状態が「ON」であり、照射を停止している状態が「OFF」である。高強度パルスレーザー光照射は、照射を開始し、所定時間経過後に照射を終了する。
【0042】
高強度パルスレーザー光の照射により、第2段に示すように、浅部の血流量には変化が生じる。浅部の血流量は、照射開始後、20秒にかけて初期流量が次第に低下し、略0まで低下するが、深部の血流量は、高強度パルスレーザー光が生体組織などにより拡散・吸収され、光の強度が低下するため、血流量に変化は生じない。なお、厳密に言えば、実験では、時間の経過に伴って血流量が次第に僅かに減少したが、ここでは説明を簡便にするため便宜的に一定の表示とする。
【0043】
第3段に示す一重項酸素生成量は、血流の影響を大きく受ける。浅部では、血流量が低下するために、新しいPDT薬剤と酸素の供給が断たれ、一重項酸素の生成量が血流の減少と共に急激に低下する。しかし、深部では、血流量の変化が無いため、定常的に一重項酸素が生成される。
【0044】
第4段に示す累積一重項酸素は、治療効果に直接影響を及ぼすものであるが、浅部では、照射開始後20秒程度の間で生成が低下するため、照射終了の段階でも累積した一重項酸素量は少量しかない。しかし、深部では、照射開始から終了までの全域に渡って一重項酸素の生成が続くため、累積した一重項酸素量は極めて多量となる。
【0045】
このようにして照射終了すると、浅部では、高強度パルスレーザー光の照射により閉塞されていた血管が次第に開通し、血流が再開する。再開に要する時間は個人により異なるが、浅部組織が壊死する前に血行が回復する。なお、この点に関する参考文献としては、Lasers in Medical Science誌2000年15巻:181-187頁に掲載された「Heat and Photolytic Nitric Oxide are essential factors for light-Induced vascular tension」(Matsuo H. 等著)がある。
【0046】
したがって、浅部では、血流の再開により細胞への酸素供給が再開され、浅部細胞は死滅することはなく、温存される。少量の一重項酸素により細胞が障害を受けていたとしても、回復可能である。一方、深部では、大量に発生した一重項酸素により細胞の障害が進んでおり、血流があったとしても回復せず細胞が死滅し、治療効果を達成する。
【0047】
上述したように本発明では、高強度パルスレーザー光を生体に照射すると、浅部では血流量の低下によりPDT薬剤と酸素の供給が断たれ、一重項酸素の生成が低減し、細胞の損傷を起こすことがなく、一方、深部では、高強度パルスレーザー光の拡散により血流量が低下せず、PDT薬剤と酸素が供給され、累積一重項酸素量が増大し、細胞を損傷させる。しかし、浅部温存効果は、高強度パルスレーザー光の照射に伴う浅部血流量の低下が大きく起因しているものの、この血流量低下現象と、先述した3つの「効果減弱現象」との相乗効果により生体浅部を温存した状態で深部(病変部)のみを治療できるものと考えられる。
【0048】
ここにおいて、光線力学的治療の作用として、バスキュラーシャットダウン効果が知られている。この効果は、一般的に病変部位に連なる血管がPDTの治療効果により凝固収縮して不可逆な収縮を生じたり、血栓が生じて血管が閉塞されることで、病変部位への栄養供給が停止する状態を指す。この場合、バスキュラーシャットダウン効果の部位に血流再開は見られない。この点、本発明における浅部の血流減少は、治療終了後に血流が再開する攣縮を引き起こしている点で相違するものである。
【0049】
かかる知見に基づく本発明の実施の形態を説明する。
(第1の実施の形態)
図2は第1の実施の形態に係る光線力学的治療装置の概略斜視図、図3は同光線力学的治療装置の概略構成を示すブロック図、図4はカテーテルの正面図、図5(A)〜(D)はカテーテルの先端部を示す図である。
【0050】
図2、3に示すように、光線力学的治療装置1は、病変部41にレーザー光をパルス照射する照射手段11と、照射手段11からの光のピーク強度を制御する照射制御手段20とを有している。なお、図2においては、照射手段11の先端部のみを拡大して示し、また、図2の符号「SW」はレーザー光照射用の足踏みスイッチである。
【0051】
照射手段11は、先端を生体内に挿入する細くて長尺な治療カテーテル10と、治療カテーテル10の先端部に設けられた光照射部13と、治療カテーテル10内を挿通して伸延され、一端が光照射部13に、他端が治療装置本体20aにそれぞれ接続され、光源21からの光を光照射部13まで導光する光ファイバFと、を有している。
【0052】
照射制御手段20は、浅部42の血流量を検出する検出手段23と、検出手段23の検出結果に基づいて、浅部42の血管の収縮を調節するように、照射手段11により照射する光のピーク強度を制御する制御部(制御手段)22と、光源21および検出手段23が接続された光分岐部24とを有している。
【0053】
さらに詳述する。照射手段11における治療カテーテル10は、治療する病変部41まで到達できるものであればよく、例えば、動脈硬化を治療する場合には血管用カテーテル、前立腺癌や前立腺肥大を治療する場合には尿道用カテーテルを用いる。
【0054】
治療カテーテル10の内部を挿通する光ファイバFは、光源21からの光のエネルギーを伝送できるものであればよく、特に限定されるものではないが、例えば、直径0.05〜0.6mm程度のものである。
【0055】
治療カテーテル10は、図4に示すように、治療装置本体20aと接続される基部12と、生体40に挿入する先端部に設けられた光照射部13と、光照射部13の近傍に設けられた造影マーカーM1と、中央付近に設けられた深度マーカーM2とを有している。
【0056】
治療カテーテル10全体を構成する材質は、軟性のカテーテルであれば高分子樹脂を用いて構成し、硬性のカテーテルであれば金属を主体として構成する。生体内への挿入に適切な強度の他材料であってもよく、また、治療カテーテル10の肉厚内のコイルばねあるいは軸方向に伸延する線材などを設け補強したものであってもよい。
【0057】
光照射部13は、光ファイバFにより導光されたレーザー光が治療カテーテル10自体により減衰されることなく照射できるように、光透過性のある材料、例えば、合成石英あるいはポリエチレンテレフタレートやポリカーボネートなどの透明性の高い樹脂等により形成している。
【0058】
造影マーカーM1は、X線視認性を高めるためのX線不透過マーカーであってもよく、MRI造影性を高めるマーカーであってもよいが、例えば、治療カテーテル10の外面にX線視認性のあるタングステン粉末を設けることにより形成する。これにより治療カテーテル10先端部の位置確認が容易にできる。深度マーカーM2は、造影マーカーM1と同様のものでよいが、軸方向に所定間隔で複数設け、治療カテーテル10を生体内に挿入する場合に使用するガイディングカテーテル(図7の符号「33」参照)の先端部分と、各深度マーカーM2との関係で挿入深さを知ることができる。
【0059】
なお、前立腺の治療を行なう場合には、光照射部13を組織と接触させる等の目的のために、また、動脈硬化の治療を行なう場合には、光線照射の際に病変部41において血流を閉止する必要があるため、治療カテーテル10の先端部付近に、液体や気体を内部に供給−排出することにより膨張収縮するバルーンを設けてもよい。ただし、このバルーンは、血液流を確保するために、血液還流(パーフュージョン)機能を備えていてもよい。
【0060】
治療カテーテル10の先端部は、図5に示すように、種々のものを採用することができる。図5(A)に示す先端部は、代表的な例であるが、光照射部13の直近位置に造影マーカーM1を設けたものである。
【0061】
図5(B)に示す先端部は、拡散光を照射する場合のもので、治療カテーテル10と同軸に設けられた光ファイバFを通った光が光拡散体14により拡散され、カテーテル外へ照射される。光拡散体14としては、合成石英やエポキシ樹脂などの透明性のある材料内にアルミナ粉末等の光拡散物質を分布させたものや、光ファイバFの周囲に微小なキズをつけることで拡散光を生じさせるものなどがある。
【0062】
図5(C)に示す先端部は、側射式のもので、図5(B)に示す拡散光方式のものよりもパルスレーザー光の強度を維持できるので、パルスレーザー光の出力を抑えることができる利点がある。パルスレーザー光を側射させる手段としては、例えば、光ファイバFの出力側先端に、光出射方向を規定するミラー15を設けたり、場合によっては、プリズムを設けるなどの手段がある。ミラー15としては、例えば、剛性石英基板や、金属板あるいはプラスチック部材への金属蒸着したものなどが使用できる。
【0063】
ここで、側方に照射されるパルスレーザー光が病変部41を照射する面積範囲は、周囲組織に熱の影響を及ぼさないようにする必要があるので、0.5cm2〜3cm2が好ましい。また、照射範囲が局所的で狭くても、病変部41の大きさに応じて治療カテーテル10を回転させるなどして、照射の向きを変えて病変部41に複数回照射を行えば、病変部41を完全に治療することができる。
【0064】
図5(D)に示す先端部は、穿刺用先端部16を備えたもので、X線造影下又は腹腔鏡・胸腔鏡によるラパロ下での利用では、手元部から目的の病変部41に向かって直進性を持って刺入できる。
【0065】
次に、照射制御手段20について説明する。まず、図3において、照射制御手段20おける光源21は、レーザー光を照射する部分である。レーザーとしては、半導体レーザー、色素レーザー、可変波長近赤外レーザーの二逓倍波等を好適に用いることができる。照射されるレーザー光は、連続もしくはパルスレーザー光線であってもよいが、連続照射する場合、ピーク強度を一定以上にすると照射部が加熱により変性するので、高ピーク強度照射による浅部保存治療にはあまり適さない。浅部保存治療を行う場合は、パルス光を用いるのが望ましい。パルスレーザー光のパルスとは、パルス幅が1ms以下のものをいう。
【0066】
制御部22は、病変部41の深度に従って、レーザー光の出力ピーク強度が病変部41で治療に適した所定範囲のピーク強度となるように、光源21から出力するレーザー光の出力ピーク強度を調整したり、繰り返し周波数等の光照射条件を制御する。
【0067】
検出手段23は、病変部41に向って照射されたレーザー光と戻り光とを分離する光分岐部24と、戻り光の光量を測定し、血流量を演算する血流量演算部(血流量演算手段)25とを有している。
【0068】
光分岐部24は、制御部22により調整された光源21からのレーザー光を光照射部13に導光する機能と、光照射部13からの戻り光を光量測定手段25に導光する機能とを有している。
【0069】
血流量演算部25は、光照射部13の近傍に設けられたセンサー26が検知した戻り光の光量から浅部42の血流量を演算し、制御部22に送信するように接続されている。
【0070】
照射したレーザー光は、血液にも吸収される性質があるので、戻り光の光量は、血流があると少なくなり、血流が減少すると増加する。この点を利用し、検出手段23は、図3に示すように、光照射部13の近傍に設けられたセンサー26が検知した戻り光の光量と、光照射部13から照射されたレーザー光の光量とを血流量演算部25において比較し、これに基づき浅部42の血流量を演算している。
【0071】
したがって、制御部22は、検出された光感受性物質または酸素濃度に基づいて、光源21に発生させる光のピーク強度や、繰り返し周波数等の光照射条件をリアルタイムに変更することができる。
【0072】
本実施形態で使用されるレーザー光やPDT薬剤の条件について説明する。
【0073】
病変部41に照射するレーザー光の波長は、600nmから800nmであり、用いるPDT薬剤の吸収波長に近い波長の光線を用いればよい。特に波長可変のオプティカルパラメトリックオッシレーター(OPO; Optical Parametric Oscillator)により発生するレーザー光線が望ましい。OPOにより発生する光線は波長を変えることができ、波長および光線の照射ピーク強度を変えることにより浅部から深部まで広く病変部を治療することができる。
【0074】
調整する病変部41での浅部42は、例えば、0.05mm〜10mm程度であり、深部は、それよりも深い部分をいう。
【0075】
レーザー光の照射条件は、病変部の大きさ、用いる光線種、PDT薬剤等に応じて適宜決定することができる。光線を照射してPDT治療を行う場合、パルスエネルギー密度(照射量、J/cm2)は、重要であるが、光線のピーク強度とパルス幅とを乗じて得られる。すなわち、パルスエネルギー密度=ピーク強度×パルス幅である。
【0076】
照射する光線のピーク強度において、高ピーク強度の範囲および低ピーク強度の範囲は限定されず、光線の種類、治療しようとする病変の深度等により適宜決定することができる。例示すれば、照射光線のピーク強度として、100mW/cm2〜5MW/cm2の範囲が挙げられ、総エネルギー密度として20〜500J/cm2以上を挙げることができる。高ピーク強度の光線のピーク強度としては、10kW/cm2以上〜パルス照射によって生体表面にプラズマが発生し始める閾値以下の範囲が挙げられる。好ましくは、高ピーク強度の光線のピーク強度は、100kW/cm2〜10Mw/cm2の範囲である。さらに好ましくは、高ピーク強度の光線のピーク強度は、200kW/cm2〜5Mw/cm2の範囲である。
【0077】
レーザー照射された部分では、局所的に消費された酸素が周囲組織から拡散供給されるのに一定の時間を要するため、レーザーの照射タイミングも酸素の供給と合わせる必要がある。このような照射レーザーの繰り返し周波数としては、1Hz〜1kHz程度が好ましい。
【0078】
ただし、後述のようにカテーテルを有する装置を用いて、病変部の近くに光線照射部をセットして照射する場合と、体外から光線を照射する場合とでも、高ピーク強度および低ピーク強度の範囲は異なることから、ここにおいては、例えば、PDT薬剤が浅部から深部まで集積した病変部に照射した場合に、表面から0.05mm〜10mm程度の浅部を傷害させることができるピーク強度の光線を低ピーク強度光線といい、それよりも深部を傷害させることができるピーク強度の光線を高ピーク強度の光線という。
【0079】
現在、実用化されているPDT治療に用いられているPDT薬剤は、吸収波長が630nmのポルフィマーナトリウム(PHE)であり、630nmのエキシマーダイレーザーと組み合わせて用いられている。しかし、エキシマーダイレーザーの光は生体組織での深達性が2〜3mm程度なので、表在性の癌の治療用に限定される。
【0080】
本発明の装置は、現在のPDTでは不可能な深部の病変部の治療も可能とするため、より深達性の大きい波長の長いレーザーも用いる。従って、用いるPDT薬剤も630nm付近に吸収波長を有する薬剤から、より長波長側に吸収波長を有する薬剤のいずれも用いることができる。この中でも650nm〜800nmに吸収波長を有する薬剤が望ましい。例えば、タルポルフィン(明治製菓株式会社の商品名:レザフィリン)(664nm)(mono−L−aspartyl chlolin e6,特許第2961074号公報)、mTHPC(652nm)クロリン系薬剤であるATX−S10(670nm)(Iminochlorin aspartic acid 誘導体、東洋薄荷工業株式会社、特開平6−80671号公報)、SnET2 (660nm) (tin etiopurpurin、ミラバント・メディカル・テクノロジーズ)、AlPcS (675nm) (chloro aluminium sulphonated phthalocyanine)、BPD−MA(690nm) (benzoporphyrin derivative monoacid ring A、QLT社)、Lu−tex (732nm) (Lutetium Texaphyrin)等が挙げられる(慣用名、吸収「ピーク」波長を示し、さらに一般名、入手先、文献を示してある)。
【0081】
また、これらの薬剤を混合して用いてもよい。吸収波長の異なる複数の薬剤が病変部に集積することにより、光線の波長、繰り返し周波数のみならず照射ピーク強度をも制御し、浅部から深部まで広く病変部を治療することが可能になる。
【0082】
これらの薬剤の投与は、薬剤をリン酸緩衝塩溶液等の適当な緩衝液に溶解させ、必要に応じて医薬的に許容できる添加物を添加する。添加物としては、有機溶媒等の溶解補助剤、酸、塩基等のpH調整剤、アスコルビン酸等の安定剤、グルコース等の賦形剤、塩化ナトリウム等の等張化剤などが挙げられる。
【0083】
投与方法は、特別なものに限定されない。静脈注射、筋肉注射、皮下注射、経口投与等により投与できる。投与量は、静脈注射等により全身投与する場合は、0.01〜100mg/kg体重、好ましくは1〜5mg/kg体重である。局所投与の場合は、例えば、数μg/ml〜数mg/mlに調製した薬剤を、数μl〜数mlだけ直接病変部に注入等により投与すればよい。
【0084】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0085】
図6は本実施形態の動作の流れを示すフローチャート、図7はカテーテルを使用して例示的に肺の腫瘍を病変部として治療している状態を示す概略図、図8(A)〜(D)はカテーテル先端部での治療状態を段階的に示す概略断面図である。なお、図8(A)において、白丸は肺胞を表し、黒い塊が病変部41である肺癌腫瘍組織を表す。この黒い塊が白い塊に変化しているのは、治療が完了したことを示す。
【0086】
図6に示す治療開始の段階では、すでにPDT薬剤が患者に投与され、病変部41を含む光照射部位に充分に拡散し、光照射部13が適切な照射位置に配置されている状態である。
【0087】
まず、制御部22に、初期治療条件が入力される(ステップS1)。初期治療条件とは、光照射部13に照射させるパルスレーザー光のピーク強度、周波数、トータル投与エネルギー、生体40に供給するPDT薬剤の濃度、あるいは光照射する領域、光照射する領域までに距離、照射時間などである。これらの条件は、予め生体40を診察して得られた状況、例えば、病変部41の位置などに基づいて決定される。詳細には、病変部41の深度が測定され、病変部41においてパルスレーザー光のピーク強度が、PDT薬剤を活性化させる所定範囲になるように、光照射部13により照射するパルス光の初期ピーク強度が決定される。
【0088】
PDT薬剤を注入し、所定時間(1時間程度)経過した後、図7に示すように、気管支内に気管支内チューブ32を挿入した状態で、ガイディングカテーテル33を挿入し、このガイディングカテーテル33をガイドとして治療カテーテル10を挿入する。そして、ガイディングカテーテル33の先端から、治療カテーテル10を突出し、病変部41近傍にある極細気管支肺まで挿入する(図8Aに示す状態)。
【0089】
本実施形態では、PDT薬剤が病変部41に吸収・集積されるまで待機する必要はなく、PDT薬剤を注入した後、1時間程度経過した後に治療を開始することができる。本発明に係るPDTでは、細胞内に取り込まれるPDT薬剤よりも血流により供給されるPDT薬剤の方が治療結果に大きな影響を及ぼすと考えられるからである。
【0090】
したがって、従来の通常のPDTのように、癌腫瘍などの目的病変部細胞と周囲の健常細胞とでPDT薬剤の濃度差が生じるまで長時間(48時間程度)、可視光線の当らない暗い場所で待つ必要がなく、患者に対する肉体的精神的な負担は大幅に軽減され、医療従事者にとっても大きなメリットとなり、医療経済性の面でも価値が高いものとなる。
【0091】
また、治療カテーテル10は、病変部41内に貫入する必要はなく、病変部41から0.5〜1cm程度離れた位置に配置された状態で良い。したがって、治療カテーテル10に、例えば、癌細胞が付着する虞はなく、治療後に治療カテーテル10を抜去する場合も、その経路に癌細胞を移動させ、癌の転移を生じさせる危険性もない。
【0092】
初期治療条件に基づいて、制御部22は、光源21を動作させ、光照射部13から病変部位に向かって高強度パルスレーザー光の照射を開始する(ステップS2)。
【0093】
高強度パルスレーザー光の照射開始から20秒間経過した段階で、検出手段23は、病変部41の浅部42における血流をモニターし、生体表面部位の血流量を判定する(ステップS3)。本実施形態では、照射したレーザー光の光量と、センサー26により検知された戻り光の光量とを血流量演算部25において比較し、この演算結果に基づき生体表面部位の血流量を判定している。
【0094】
判定により、温存すべき浅部42に血流が確認されるようであれば(ステップS4:YES)、パルスレーザー光の照射により、病変部41の浅部42において、PDT薬剤が活性化され、細胞が傷害を受ける虞があり、パルスレーザー光の強度が不足しているので、パルスレーザー光の強度を上昇する(ステップS5)。一方、血流が確認されない場合は、パルスレーザー光の照射により、病変部41の浅部42において、PDT薬剤が活性化せず、細胞が傷害を受ける虞がなく、正常なパルスレーザー光の照射であるため、パルスレーザー光の強度を維持する(ステップS6:NO)。
【0095】
このようにして高強度パルスレーザー光が照射されると、病変部41においては、PDT薬剤が活性化し、上述したメカニズムにより病変部41の細胞を傷害する。
【0096】
ただし、高強度パルスレーザー光と低強度パルスレーザー光とを適宜併用することもできる。図8(B)は、高強度パルスレーザー光の照射により深部の治療を行っている様子を示し、図8(C)は、低強度パルスレーザー光の照射により浅部42の治療を行っている様子を示す。
【0097】
高強度パルスレーザー光を照射すると、光出射部近傍(浅部42)の組織は、高強度パルスレーザー光によって血流量が減少し、治療効果が得られないが、図中斜線部で示した光出射部遠方(深部)の組織は治療効果が得られる。治療深さとしては、例えば、1〜3cmであり、図8(B)に示すように、直径6cm程度の球隔状の範囲が治療される。
【0098】
前述の高強度パルスレーザー光に引き続いて低強度パルスレーザー光または連続光(CW照射)を使用すると、光出射部近傍(浅部42)にある治療をやり残した浅部42の組織を、図8(C)に示すように治療できる。
【0099】
最後に、制御部22は、治療時間などの初期治療条件に基づいて、治療が終了したか否かを判断する(ステップS7)。治療が終了していない場合(ステップS7:NO)、ステップS2からの処理が繰り返される。治療が終了している場合(ステップS7
:YES)、光線力学的治療を終了する。
【0100】
このように、本実施形態に係るPDTでは、浅部を温存し、深部の病変部のみを治療できることになる。
【0101】
例えば、肺末梢に原発性肺癌が発見された場合、一般的な外科手術では、転移が疑われるリンパ節も一緒に切除する。この際リンパ節だけを切除することはできず、近傍の肺組織や気管支ごと切り取ることになる。肺が大きく切り取られると換気能力が大きく損なわれ、呼吸が苦しくなり、治療後の患者の生活の質が著しく低下する。
【0102】
また、浅部温存が不可能な通常のPDTでは、気道粘膜にできた癌腫瘍を内側から治療する。気管支は、内側から気道粘膜、気道壁、気管支軟骨等から構成されており、リンパ節は、その外側にある。通常のPDTで治療深度を深くし、リンパ節まで治療しようとすると、気管支構造を破壊する。治療後に浮腫が生じて気道狭窄を引き起こし呼吸が困難になるなどの課題が生じる。
【0103】
しかし、本実施形態に係るPDTでは、このような不具合が生じる虞はなく、浅部を確実に温存しつつ、深部にある病変部41のみを治療できることになる。
(第2の実施の形態)
前述した実施の形態は、光照射部13がレーザー光を照射し、生体40からの反射光を検知するものであるが、本実施の形態は、生体40の温度に基づき血流量を検出するものである。レーザー光を照射することにより血流量が低減すると、生体40の温度も変化する。したがって、レーザー光の照射前の生体40の温度と、照射後の生体40の温度とを測定して、制御部22において比較すると、生体浅部42の血流量を検出することができる。
【0104】
図9は第2の実施の形態に係るブロック図、図10はレーザー光照射時における生体表面付近と生体深部との温度測定結果を示すグラフで、(A)は高強度パルスレーザー光照射時のものを示し、(B)は低強度パルスレーザー光照射時のものを示しでいる。グラフ中、細線は腫瘍浅部42の温度変化を、太線は腫瘍深部の温度変化を表す。なお、先の図に示す部材と共通する部材には同一符号を付し、説明は省略する。
【0105】
まず、レーザー光を照射することにより血流量が低減すると、生体40の温度も変化する点に関し実験により検証した。実験は、マウスのInVIVO実験であり、治療中の生体40に熱電対を穿刺し温度を測定した。腫瘍浅部42は表層から200μm、腫瘍深部は表層から5mmの位置である。高強度パルスレーザー光と低強度パルスレーザー光は、下記の表1で示す値のものである。
【0106】
【表1】
【0107】
実験結果は、図10(A)(B)に示すものが得られた。この実験結果から明らかなように、高強度パルスレーザー光照射時には、生体表面付近が生体深部に比べて大きく温度上昇するのに対し、低強度パルスレーザー光照射時には、深さによる温度差の違いは少ない。これは、高強度パルスレーザー光照射時には、生体浅部で血流が低下し、血流による組織冷却の効果が失われて急激に温度上昇をした様子を示す。したがって、生体40の実温度を測定することにより浅部42における血流量をモニターすることができる。
【0108】
図9に示すように、本実施の形態では、光照射部13の近傍に温度センサー27を設け、温度センサー27が検知した生体表面の温度信号を制御部22に入力するようにしている。
【0109】
したがって、図10(A)(B)のグラフに示されている温度変化の状態を、予め制御部22に記憶させ、生体40から検出した温度と比較すれば、生体40の血流量を検出することができる。
(第3の実施の形態)
図11は第3の実施の形態に係るブロック図であり、先の図に示す部材と共通する部材には同一符号を付し、説明は省略する。
【0110】
本実施の形態の検出手段23Bは、超音波やレーザー光による画像診断により、生体深部方向にある血管の形状を認識するもので、この画像診断により血管分布数を血流量とし、制御部22に供するようにしたものである。
【0111】
内視鏡の分野では、光学フィルターを用いて血管を明瞭に描画する方法などが一般に知られている。この手法を用いて本実施の形態では、図11に示すように、内視鏡28を使用する。
【0112】
血管分布数の検出は、まず、光照射部13がパルスレーザー光照射のパルスの合間に病変部41の画像をカメラCにより撮像し、内視鏡28に設けた光学フィルター29を通して得られた画像情報を画像取得部(画像取得手段)30に導き、画像取得部30からの画像信号に基づいて血流量演算手段31が、内視鏡44の視野に占める血管分布数を求める演算を行い、得られた値を制御信号として制御部22にフィードバックし入力し、光照射部13が照射するパルス光を制御するようにしている。
【0113】
このようにすれば、生体40の画像から血管の分布状態を検出でき、得られた血管分布数から生体浅部42の血流量を検出することができる。
(第4の実施の形態)
前述した実施形態では、生体40の浅部42の血流量を検出するに当り、戻り光、生体40の温度の変化、画像診断による血管分布数を利用したものであるが、浅部42の色調を検出するものあるいは光ドップラーシフトにより血流速を検出するものであってもよい。
【0114】
まず、色調を検出するものについて説明する。レーザー光を照射することにより血流量が低減すると、画像診断の画像信号中に占める血液の色の信号量も変化するので、レーザー光の照射前後における血液の色の信号量変化を測定すれば、血流量を把握することができる。
【0115】
つまり、例えば、図9に示す温度センサー27を、色を感知するセンサーとし、レーザー光の照射前の血液の赤色量と、戻り光の赤色量を測定して、制御部22において比較すれば、生体浅部42の血流量を検出することができる。
【0116】
光ドップラーシフトにより検出するものについて説明する。前述した戻り光は、生体組織内の血流に応じて光の周波数が変化するので、戻り光の周波数の変化量を測定すれば、血流量を把握することができる。
【0117】
つまり、例えば、図9に示す温度センサー27を、周波数を検出するセンサーとし、光照射部13から照射されたレーザー光の周波数と、前記センサーが検出した戻り光の周波数とを比較すれば、生体浅部42の血流量を検出することができる。ただし、測定は、血管断面積が変わらない間に行うことが好ましい。血管断面積が変化すると、血流速、即ち血液量を把握することが困難になる。
【0118】
上述した実施の形態では、肺の治療に適用した場合であるが、本発明の適用は、肺や気管支に限定されるものではなく、尿道、血管、腸管、鼻腔、口腔、耳道、膣などの生体管腔、あるいは管腔の無い臓器の治療においても応用できる。
【0119】
また、本発明のレーザー照射装置による治療の対象となる病変部は、組織において細胞の異常増殖や粥腫を伴う疾患の病変部であり、該組織病変部を傷害することにより疾患の進行を停止させ治療および拡大の防止をすることが可能な病変部である。このような病変部を有する疾患として、癌腫、肉腫、良性腫瘍、粥腫を伴う動脈硬化等も挙げることができる。これらの疾患の発生部位に関しても限定されるものではなく、また進行度に関しても限定されるものではない。例えば癌腫の場合、表在性の早期癌から浸潤性の進行癌まで対象となる。これらの中でも病変部が組織深部まで存在している疾患が好ましくさらに、病変部を正常な部分が覆っている状態の疾患が好ましい。
【0120】
病変部を覆う正常な部分はその病変部と同じ組織とは限らず、本発明の装置を用いて病変部に光線を照射しようとした場合に、病変部と光線照射部分に他の組織が存在する場合も含む。
【0121】
このような疾患としては、上皮内の癌腫であって上皮表面は正常な癌腫、組織の内部に存在する非上皮性細胞(間質細胞:支持組織を構成する細胞)性肉腫であって上皮性細胞に覆われている肉腫、前立腺癌や前立腺肥大症のように、尿道内に装置の光線照射部を挿入した場合に、病変部(前立腺)と光線照射部の間に正常部分(尿道壁)がある疾患、アテローム性動脈硬化症のように、動脈内に装置の光線照射部を挿入した場合に、病変部(粥腫)と光線照射部の間に病変部(粥腫)を覆う正常部分(被膜)がある疾患等が挙げられる。
【0122】
また、上述した実施の形態では、光線力学的治療時にPDT薬剤のみを使用しているが、血流量に作用のある薬剤、例えば、血栓溶解剤(アスピリンなど)を投与することで、治療効果が向上することが期待される。血流量に作用のある薬剤を投与すると、治療部位における血管閉塞が妨げられて治療効果が向上させることができる。
【0123】
血管作用薬としては、以下のものがあげられる。
【0124】
(1)PDT治療時に、例えば、下記する抗血栓性の薬効のある薬物を併用すれば、血栓や塞栓、血流障害等の治療効果の向上が期待できる。
【0125】
アスピリン、塩酸チクロピジン、ワルファリンカリウム、ヘパリンナトリウム、ナサルプラーゼ、アルテプラーゼ、ウロキナーゼ、チソキナーゼ、アルガトロバン
また、アスピリンと同様のシクロオキシゲナーゼ (COX-1、COX-2) 活性を阻害する作用を持つ薬物として、サリチル酸、ジクロフェナク、インドメタシン、イブプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、ピロキシカム
(2)PDT治療時に、例えば、下記する血管拡張作用がある薬物を併用すれば、血管閉塞が妨げられている部位の治療効果の増減については言及できないが、パルスレーザー光照射継続中に病変部位への薬剤と酸素の供給を維持する効果を持つ可能性がある。
【0126】
塩酸トラゾリン、シロスタゾール、ベラプロストナトリウム、硫酸バメタン、塩酸ファスジル
本発明の前提として説明した部分に記載しているように、本発明の特徴である血管の収縮作用は、発生した一重項酸素による刺激と高強度パルス光による刺激と、高強度パルス光により生じた熱刺激の3つが要因となって生じている。したがって、PDT薬剤として、ポルフィリン誘導体やクローリン系物質等種々の薬剤が提案されている。例えば、ポルフィリン誘導体としては、特開平9−124652号公報、WO98/14453号公報、特開平4−330013号公報、特許第2961074号公報などがあり、光化学治療の適用対象疾患として各種の癌用としては、特公平7−53733号公報、特開平9−124652号公報などがあり、自己免疫性疾患用としては、WO99/07364号公報、WO98/19677号公報、WO98/14453号公報などがあり、動脈硬化症用としては、特許第3154742号公報、WO00/59505号公報等が報告されている。
【0127】
しかし、いずれの薬剤であっても上記の刺激が発生しており、本発明による治療を行うことができる。
【0128】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0129】
図12は、カテーテルを使用してマウスの肺癌を治療している状態を示す概略断面図である。
【0130】
病変部41が、例えば、肺の抹消部分にある場合は、治療用カテーテル10を使用してPDTを行う。初期治療条件として、波長664nmのパルスレーザー光のピーク強度を10mJ/cm2、繰り返し周波数を10Hz、トータル投与エネルギー100J/cm2とし、生体40に供給するPDT薬剤は、排泄性の高い第二世代光感受性物質レザフィリンを濃度2mg/kgで注入した。
【0131】
光源は、エキシマーダイレーザー(EDL−1、浜松ホトニクス社)を用いた。ローダミン640濃度0.5mM(溶媒エタノール)に、オオサジン740濃度0.5mMを添加し、レーザー色素の劣化を用いて発振波長667±3nm、パルス幅10nsの光源として使用した。
【0132】
PDT薬剤を注入し、1時間経過した後、気管支内に気管支内チューブ32を挿入した状態で、ガイディングカテーテル33を挿入した。このガイディングカテーテル33をガイドとして治療カテーテル10を挿入し、ガイディングカテーテル33の先端から、治療カテーテル10を突出し、病変部41近傍にある気管支まで到達させた。
【0133】
制御部22を作動し、光照射部13から病変部位に向かって、光のピーク強度が10mJ/cm2の高強度パルス光を、照射領域直径8mmで、100J/cm2照射した。
【0134】
施行48時間後、PDT効果を検証した。検証は、腫瘍を薄切りし、ホルマリン固定した後のHE染色像の観察により判断した。浅部42は厚さ0.3mm−0.5mmの温存部位が確認され、深部深さ5mmまでの治療深度を得ることができ、病変部41が死滅していることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明は、生体の健常部である浅部皮膜を損傷させることなく保存しつつ、深部の病変部のみを治療することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】高強度パルスレーザー光の照射による浅部温存メカニズムに関する実験結果を経時的に示す概略図である。
【図2】第1の実施の形態に係る光線力学的治療装置の概略斜視図である。
【図3】同光線力学的治療装置の概略構成を示すブロック図である。
【図4】カテーテルの正面図である。
【図5】(A)〜(D)はカテーテルの先端部を示す正面図である。
【図6】第1の実施形態の動作の流れを示すフローチャートである。
【図7】カテーテルを使用して肺の腫瘍を病変部として治療している状態を示す概略図である。
【図8】(A)〜(D)は、カテーテル先端部での治療状態を段階的に示す概略断面図である。
【図9】第2の実施の形態に係るブロック図である。
【図10】パルス照射時における生体表面付近と生体深部との温度測定結果を示すグラフで、(A)は高強度パルスレーザー光照射時のものを示し、(B)は低強度パルスレーザー光照射時のものを示している。
【図11】第3の実施の形態に係るブロック図である。
【図12】カテーテルを使用してマウスの肺癌を治療している状態を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0137】
1…光線力学的治療装置、
10…治療カテーテル、
11…照射手段、
13…光照射部、
20…照射制御手段、
21…光源、
22…制御部、
23…検出手段、
24…光分岐部、
25…血流量演算手段、
40…生体、
41…病変部、
42…浅部、
F…光ファイバ、
M1,M2…マーカー。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光によって活性化する光感受性物質を用いて、生体の深部にある病変部を治療する光線力学的治療装置であって、
前記光感受性物質を活性化する光を前記病変部に照射する照射手段と、
前記病変部よりも前記照射手段側にある浅部の血管を流れる血流量を低減させるように前記光のピーク強度を制御する照射制御手段と、
を有する光線力学的治療装置。
【請求項2】
前記光感受性物質は、所定範囲のピーク強度を有する光によって活性化し、前記所定範囲外のピーク強度の光には活性化し難い特性を有することを特徴とする請求項1に記載の光線力学的治療装置。
【請求項3】
前記照射制御手段は、前記浅部の血流量を検出する検出手段と、該検出手段の検出結果に基づいて、前記浅部の血管の収縮を調節するように、前記照射手段により照射する前記光のピーク強度を制御する制御手段と、を有する請求項1又は2に記載の光線力学的治療装置。
【請求項4】
前記検出手段は、前記照射手段が照射する光と、該光が前記生体から反射してきた戻り光とを分離する光分岐部と、前記戻り光の光量を測定し、該戻り光の光量から血流量を演算する血流量演算手段と、を有する請求項3に記載の光線力学的治療装置。
【請求項5】
前記検出手段は、前記浅部の画像を取得する画像取得手段と、前記画像において血液に相当する色調の占める割合又は前記画像に含まれる血管数に基づいて、血流量を演算する血流量演算手段と、を有する請求項3又は4に記載の光線力学的治療装置。
【請求項6】
前記制御手段は、所定時間を計測し、該所定時間以後の前記血流量が、前記所定時間以前の血流量以下となるように、前記照射手段により照射する前記光のピーク強度を制御する請求項3〜5のいずれかに記載の光線力学的治療装置。
【請求項7】
前記制御手段は、光照射開始直後から初期血流抑制時間までの間に前記浅部の血管を流れる血流量を低減させ、前記初期血流抑制時間が経過した後光照射終了時までの間に前記浅部の血管の収縮を維持するように前記光のピーク強度を制御することを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の光線力学的治療装置。
【請求項8】
光を照射する照射手段と、血流を検出する検出手段とを有する光線力学的治療装置の使用方法であって、
光感受性物質が予め投与された病変部に、前記照射手段により、前記光感受性物質が活性化可能な光を照射するステップと、
前記病変部よりも前記照射手段側にある浅部における血流量を検出手段により検出するステップと、
前記検出手段の検出結果に基づいて、前記浅部の血管の収縮を調節するために、照射制御手段により、前記照射手段により照射する前記光のピーク強度を調節するステップと、
を有することを特徴とする光線力学的治療装置の使用方法。
【請求項1】
光によって活性化する光感受性物質を用いて、生体の深部にある病変部を治療する光線力学的治療装置であって、
前記光感受性物質を活性化する光を前記病変部に照射する照射手段と、
前記病変部よりも前記照射手段側にある浅部の血管を流れる血流量を低減させるように前記光のピーク強度を制御する照射制御手段と、
を有する光線力学的治療装置。
【請求項2】
前記光感受性物質は、所定範囲のピーク強度を有する光によって活性化し、前記所定範囲外のピーク強度の光には活性化し難い特性を有することを特徴とする請求項1に記載の光線力学的治療装置。
【請求項3】
前記照射制御手段は、前記浅部の血流量を検出する検出手段と、該検出手段の検出結果に基づいて、前記浅部の血管の収縮を調節するように、前記照射手段により照射する前記光のピーク強度を制御する制御手段と、を有する請求項1又は2に記載の光線力学的治療装置。
【請求項4】
前記検出手段は、前記照射手段が照射する光と、該光が前記生体から反射してきた戻り光とを分離する光分岐部と、前記戻り光の光量を測定し、該戻り光の光量から血流量を演算する血流量演算手段と、を有する請求項3に記載の光線力学的治療装置。
【請求項5】
前記検出手段は、前記浅部の画像を取得する画像取得手段と、前記画像において血液に相当する色調の占める割合又は前記画像に含まれる血管数に基づいて、血流量を演算する血流量演算手段と、を有する請求項3又は4に記載の光線力学的治療装置。
【請求項6】
前記制御手段は、所定時間を計測し、該所定時間以後の前記血流量が、前記所定時間以前の血流量以下となるように、前記照射手段により照射する前記光のピーク強度を制御する請求項3〜5のいずれかに記載の光線力学的治療装置。
【請求項7】
前記制御手段は、光照射開始直後から初期血流抑制時間までの間に前記浅部の血管を流れる血流量を低減させ、前記初期血流抑制時間が経過した後光照射終了時までの間に前記浅部の血管の収縮を維持するように前記光のピーク強度を制御することを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の光線力学的治療装置。
【請求項8】
光を照射する照射手段と、血流を検出する検出手段とを有する光線力学的治療装置の使用方法であって、
光感受性物質が予め投与された病変部に、前記照射手段により、前記光感受性物質が活性化可能な光を照射するステップと、
前記病変部よりも前記照射手段側にある浅部における血流量を検出手段により検出するステップと、
前記検出手段の検出結果に基づいて、前記浅部の血管の収縮を調節するために、照射制御手段により、前記照射手段により照射する前記光のピーク強度を調節するステップと、
を有することを特徴とする光線力学的治療装置の使用方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
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【図4】
【図5】
【図6】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−148951(P2008−148951A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−340569(P2006−340569)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】
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