説明

光触媒の活性度評価・測定法とそのための装置

【課題】 従来の銀イオンの光還元法による光触媒評価・測定法は、極めて煩雑で時間、手間のかかる手法であった。本発明は、簡便で、少ない作業時間で測定が可能な銀イオンの光還元法による光触媒評価・測定法を提供する。
【解決手段】 銀イオン光還元法による光触媒活性度評価・測定方法において、銀イオンを含む水溶液を満たした光透過セル中に表面に光触媒を塗布担持した光透過性材料からなる担持体を立設して、浸漬し、セルの外側からこの担持体に向けて光触媒反応励起用波長光と光透過率測定用波長光とを一系統に統合して光を照射し、励起光によって光触媒塗布面において銀イオン還元反応を生じさせると同時に、測定光によって担持体を通過する光の透過率を測定し、検知しうるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚、防曇、殺菌、有害物質の分解等のさまざまな利用に供されている二酸化チタンを始めとする光触媒の活性度評価・測定法とそのための装置に関する。詳しくは、銀イオンの光還元反応を利用した光触媒の活性度評価・測定法とそのための装置に関する。さらに詳しくは、ガラス等の基体にコーティングされて使用される二酸化チタン等光触媒の活性化評価試験に使用される光触媒の活性度評価・測定法とそのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光触媒を利用した各種反応が活発に研究なされ、各種分野に盛んに利用されている。その中でも特に注目されている利用技術の中には、自然光も含めた各種光源によって光触媒を作用させ、空気中の汚れ物質やにおい物質、浮遊している各種菌、有害物質等の分解に使用したり、これによって空気をクリーンにしたり、あるいは、人手を介することなく窓ガラスや建物の外壁を汚れから護り、クリーンとする技術が注目されている。そのため様々な光触媒が提案、開発されているが、光触媒を有効に利用するシステムについても盛んに研究、開発が行われている。このような光触媒の研究開発、応用研究が盛んになるにつれ、光触媒の性能、とりわけ、触媒の活性度を正確に知り、評価することが重要となり、そのための基準が求められるようになってきた。そのため、光触媒の評価・測定法として、様々な試み、提案がなされ、且つ実施されている。
【0003】
一般に触媒活性は、光触媒も含め固体触媒の場合、その性能を評価するに当たっては固体触媒粉末の比表面積を測定し、触媒を実際の反応に即して各種データを収集し、反応率、反応速度等によって評価されることが行われている。例えば、光触媒の評価法として、触媒粉末をホルムアルデヒド等の気体と接触して光を照射し、ホルムアルデヒド濃度を検知、測定することによって、ホルムアルデヒドの分解度を知り、評価する測定法が実施されている。
【0004】
しかしながら、このような評価法は、極めて煩雑で手間のかかる評価法であるとともに、その使用する触媒が、粉末の状態で使用されるような場合ならまだしも、実際の使用条件とは異なり、粉末でない場合、例えば、光触媒がガラス等の基体表面に塗布、コーティングされて使用されるような場合、上記粉末法による測定方法を適用することは、触媒の使用実態に即しておらず問題である。
【0005】
すなわち、コーティングされた膜状の光触媒は、粉末状と比較して光触媒として働く有効な表面積は極端に小さく、光触媒活性測定に非常に高い感度と正確なデータが要求される場合において、このような粉末法を適用して測定し、評価することは、触媒の使用実態からかけ離れており、適正ではなく、コーティング膜の有する触媒活性度を正しく評価しているとは言いがたいし、得られた測定値は、触媒の使用実態を反映しておらず、感度的にも問題を抱え、この試験方法によって触媒を評価することは著しく困難で問題の多い手法である。
【0006】
そのため、コーティング膜のような形態に適した光触媒の活性度の評価・測定法としては、以下に示す2つの評価方法を挙げることができる。第1の評価・測定法は、メチレンブルー等の色素を使用した色素分解法である。この色素分解法は、色素を事前に光触媒材料の表面に塗布し、これに紫外光等の光触媒反応の励起光照射を実施しながら色素の吸光度の時間変化を記録することで光触媒活性の測定を実現する手法である(非特許文献1を参照のこと)。
【0007】
この第1の色素法による評価方法は、前記ホルムアルデヒド分解法である粉末法に比し
て、触媒の活性度測定条件、測定状況は、触媒表面の反応を捉えている点で実際の使用状況に対応しており、非常に有効な評価法であると言える。しかしながら、その測定プロセスを紹介すると、先ず、事前に色素の塗布および乾燥する工程が必須である。この色素塗布の膜の状態は、塗布工程や作業者の熟練度、温度・湿度等の環境条件によって非常に左右されやすく、常に一様な条件に設定することが難しく、再現性の点で十分とは言えないし、なにより手間のかかるものであった。
【0008】
第2の手法は、銀イオンの光還元を利用した評価方法である。この評価方法は、この出願前に発行された学術文献において紹介され、報告されている評価法である(非特許文献2参照のこと)。この評価法は、次ぎのように行われる。先ず、光触媒材料を硝酸銀水溶液中に挿入し、紫外光等の光触媒反応の励起光照射を実施する。水溶液中の銀イオンが光触媒作用によって光触媒材料表面に銀薄膜として堆積を始めるため銀薄膜の形成とともに試料の可視光線の透過率は減少する。一定時間光触媒反応の励起光照射を実施した後、硝酸銀水溶液中から試料を取り出して可視光透過率測定装置に移し、可視光を照射して可視光透過率を測定する。測定後、再び硝酸銀水溶液中に試料を挿入し、同様の操作、すなわち、紫外光等の光触媒反応の励起光照射と、可視光線の透過率測定というプロセスを繰り返し、径時変化を記録する。銀薄膜の形成とともに可視光線の透過率は減少するため可視光線の透過率低下の割合(速度)から光触媒活性が評価される。
【0009】
この後者の評価方法は、前述第1の手法のような塗布工程等の条件を一様に維持管理し、常に再現性に富んだ一定条件に管理することの困難な色素法とは異なり、基本的には、水の純度と硝酸銀濃度の管理のみで済み、非常に管理が容易で再現性の良い、優れた方法である。さらに、この後者の手法は、感度が高く、試料ごとの微妙な活性の強弱の検出や光触媒活性の検出限界が低く感度が高いことも長所としてあげられる。しかしながら、そのプロセスは、複数の異なる操作を繰り返すことが必要とし、そのため、一試料の測定に極めて多くの時間と手間を要する点で、かならずしも簡便な手法とは言えず、問題のある手法である。
【0010】
すなわち上記に示した「硝酸銀水溶液中に試料を挿入し、紫外光等の光触媒反応の励起光照射を一定時間実施する」という工程と、「硝酸銀水溶液中から試料を取り出して可視光透過率測定装置によって可視光透過率を測定する」工程とを、何度も繰り返し実施することが必要である。また、この2工程の繰り返し作業は作業者が常時つきっきりで作業をする必要があるため一試料の測定のためにかかる手間は非常に大きく、高感度かつ信頼性の高いデータを供給できる手法ではあるものの、簡便な手法とはとてもいえないものであった。
【0011】
【非特許文献1】「工業材料Vol.46No.5」、(1998年)、高見和之、中曽根隆義、橋本和仁、藤嶋昭著、日刊工業新聞社発行、102頁〜105頁)
【非特許文献2】S.Nishimoto,B.Ohtani,H.Kajiwara,T.Kagiya,J.Chem.Soc.,Faraday Trans.,179,2685(1983)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記説明したように、銀イオンの光還元法による光触媒の活性度評価・測定法は、ガラス等の基体上へ塗布、あるいはコーティングして使用する二酸化チタンからなる膜状光触媒の活性化評価法としては、感度がよいこと、分析者の技能に左右されず、再現性が良く評価可能であることから極めて有効な評価手段であるが、「硝酸銀水溶液に試料を挿入し
、紫外光等の光触媒反応の励起光照射を一定時間実施する工程」に引き続き、「硝酸銀水溶液から試料を取り出して可視光透過率測定装置に移して可視光透過率を測定する工程」を、交互に数十回繰り返して行っていた。すなわち、この作業は非常に手間がかかり、効率的にも劣り、せっかくの測定上の優位性もこの作業の煩雑さによって相殺され、この手法による評価法の発展を妨げていた原因の一つと考えられる。本発明は、銀イオンの光還元法のプロセス法の長所に着目し、この手法による評価法を実施するに当たり、長所はそのままにして、一試料あたりに必要とされる作業工程を短縮し、従来の銀イオンの光還元法はもとより競合する他の光触媒活性測定手法よりも簡便で、少ない作業時間で正確な測定が可能な手法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そのため、従来の銀イオンの光還元法による基本的事項はそのまま生かしながら、その分析に要する手間を極力削減することができないかを鋭意検討した。その結果、銀イオン光還元法による光触媒の活性度評価試験方法において、従来は、独立して時期をずらせて行っていた、光反応を励起する励起光照射と、その励起光照射による反応後に行う、光透過率を求める可視光照射とを、別々に実施するのではなく、一度に一挙に照射して、照射光によって光触媒反応と光透過率測定作業とをその場で行うことを思いつき、開発を進めた。
【0014】
そのため、光触媒反応を励起させる光と光透過率を測定するための光とを試料に一度に照射してみたところ、光反応を生じさせると共に試料を反応溶液中においたまま光透過率測定を行いうることにも成功した。すなわち、光触媒反応を励起する光による光触媒反応、すなわち、銀イオンを還元して触媒層状に銀層を析出させる反応と同時に、セルおよび試料を透過する可視光の透過率を測定する作業とを一度に済ましてしまうことができる手法を開発すること、この光照射と光透過率測定作業を時間ごとに繰り返すだけで済む、試料をいちいち取り出したり、その都度光源の切換をしたりといった煩雑さから解放され、容易に自動化して光触媒活性度を評価・測定することのできる評価・測定法を開発することに成功した。
【0015】
すなわち、従来法のように試料を、光触媒反応を行う溶液中において光反応を行い、その後、試料を取り出して別の手段に移し、そこで光の透過率を測定していた、いちいち試料を取り出したり、入れたり、あるいは、光反応を励起する光と透過率を測定する光とを切換えて別々に照射したり、測定したりといった煩雑な作業を要することのない、試料は同一容器にてそのままして、取り出すことなく、光照射、透過率測定を基本的に行うだけですむ、極めて簡素化した光触媒活性度評価・測定方法を開発するのに成功したものである。
【0016】
すなわち、従来法では、光反応を励起する励起光照射と、その後に行う光透過率を求める可視光照射の2系統の光源による、別々のタイミングによる手間のかかる光照射処理を、統合した光だけで光触媒反応を生じさせると同時に、透過率を測定しうるようにしたもので、作業を簡素化して光触媒の活性度を評価・測定することに成功したものである。本発明は、上記知見と一連の成功に基づいてなされたものであり、その構成は、以下(1)から(12)に記載の通りである。
【0017】
(1) 銀イオン光還元法による光触媒活性度評価・測定方法において、銀イオンを含む水溶液を満たした光透過セル中に表面に光触媒を塗布担持した光透過性材料からなる担持体を立設して、浸漬し、セルの外側からこの担持体に向けて光触媒反応励起用波長光と光透過率測定用波長光とを一系統に統合して光を照射し、励起光によって光触媒塗布面において銀イオン還元反応を生じさせると同時に、測定光によって担持体を通過する光の透過率を測定し、検知しうるようにしたことを特徴とする、光触媒活性度評価・測定方法。
(2) 前記光触媒反応励起用波長光が紫外光であり、光透過率測定用波長光が可視光である、(1)記載の光触媒活性度評価・測定方法。
(3) 前記光触媒反応励起用波長光と光透過率測定用波長光とを一系統に統合して照射する手段がハーフミラーである、(1)記載の光触媒活性度評価・測定方法。
(4) 前記セルおよび光触媒担持体が、光透過率の高い透明ガラス製または合成樹脂製である、(1)記載の光触媒活性度評価・測定方法。
(5) 前記光照射から光透過率を測定して触媒活性を計算し、求めるまでの工程管理、データ管理、データ計算を、コンピューターによって制御し、自動的に行わせるようにした、(1)記載の光触媒活性度評価・測定方法。
(6) 前記光触媒が二酸化チタンである、(1)ないし(5)記載の何れか1項に記載の光触媒活性度評価・測定方法。
【0018】
(7) 銀イオン光還元法による光触媒評価・測定装置において、光触媒反応励起用波長光を発振する第1の光源からの光と光透過率測定用波長光を発振する第2の光源からの光とをまとめて一系統の光に統合して照射する手段と、銀イオンを含む水溶液を満たしてなる光透過型反応セルと、光透過型反応セル内に立設し、浸漬した、光入射面に光触媒が塗布されてなる透明な材料からなる光触媒担持体と、光触媒担持体および光透過型セルを透過する光を検出する光透過率測定器とを有してなる、銀イオン光還元法による光触媒評価・測定装置。
(8) 前記光触媒反応励起用波長光が紫外光であり、前記光透過率測定用波長光が可視光である、(7)記載の銀イオン光還元法による光触媒評価・測定装置。
(9) 光触媒反応励起用波長光を発振する第1の光源からの光と光透過率測定用波長光を発振する第2の光源からの光とをまとめて一系統の光に統合して照射する手段が、ハーフミラーである、(7)記載の銀イオン光還元法による光触媒評価・測定装置。
(10) 前記光透過型反応セルおよび光触媒担持体が、光透過率の高い透明ガラス製または合成樹脂製のいずれかである、(7)記載の光触媒活性度評価・測定装置。
(11) 前記光照射から光透過率を測定して触媒活性を計算し、求めるまでの工程管理、データ管理、データ計算を、コンピューターによって制御し、自動的に行わせるようにした、(7)記載の光触媒活性度評価・測定装置。
(12) 前記光触媒が二酸化チタンである、(7)ないし(11)記載の何れか1項に記載の光触媒活性度評価・測定装置。
【発明の効果】
【0019】
従来の銀イオンの光還元法においては、一定時間の紫外光照射により光触媒反応を誘起し、試料表面に銀の薄膜を成長させる工程(数秒〜数分)と、試料の可視光線の透過率を測定する工程(数十秒〜数分)とを別々の装置で実施していた。 そのため、自動化は困難であり、作業者がつききりで必要なデータ点数だけ、上記2工程を繰り返していた。このためデータの点数を多く求められるような高精度評価実施の場合は数時間つききりで上記2工程を繰り返すという膨大な作業をこなしていた。より具体的な作業内容は、試料を硝酸銀水溶液に挿入→光触媒反応励起光を一定時間照射→試料を取り出して水溶液を除去→可視光透過率の測定装置へ試料を設置→可視光透過率測定→試料を取り出す→硝酸銀水溶液に挿入、といったサイクルをデータ点数分行っていた。20点のデータであれば20回繰り返すことになる。
これに対して本発明によれば前述のように光触媒反応の励起用光源と可視光透過率測定用光源を一系統に統合することにより、励起光照射による光触媒反応誘起と可視光透過率測定が同時に実施され、作業者の作業量は激減する。一試料の評価に際して作業者が実施する作業は、試料を石英セルに入れる→石英セルに硝酸銀水溶液を満たす→石英セルを後分光型紫外・可視分光装置、透過率測定装置等に設置する→制御・データ蓄積用計算機による一定時間可視光測定を繰り返すプログラムを起動する、で完了であり、この作業はデータ点数によらず一度のみである。これは光触媒反応の励起用光源と可視光透過率測定用
光源を一系統に統合したことにより装置間の試料の移動が不要となり、計算機による自動繰り返し測定の恩恵を受けることが可能となったからである。作業量を従来と比較してみれば桁違いに本発明の作業量が少なく合理的であることがわかる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明を、図面および実施例に基づいて具体的に説明する。ただしこれらは、あくまでも本発明を理解するための一助として開示するための具体的態様例であって、本発明はこれによって限定されない。
【0021】
図1は、本発明の光触媒活性度測定評価方法を実施する、励起用光源と可視光透過率測定用光源を統合して装置の概念を示す光触媒活性の評価装置の模式図である。光触媒反応励起用波長光を発振する光源1からの光と可視光透過率測定用波長光を発振する光源2からの光をハーフミラーを用いて、光触媒反応励起および可視光透過率測定双方に有効な光を統一した光4を合成する。
【0022】
むろん光触媒材料と光源等の組み合わせによっては単一の光源をもってして光触媒反応を励起し、且つ可視光透過率測定に有効な光を発生しうる場合がありうる。この場合は単一の光源のみを用いた構成(図示外)でも有効である。
【0023】
まず、評価しようとする光触媒をガラス等基体8表面に各種手段によってコーティングし、光触媒層7を形成する。この試料層7は硝酸銀水溶液等9を満たした石英製等からなる光触媒反応励起光および可視光透過率測定用光の双方に対して透過性材料からなるセル5中に設置され、図示したように光触媒反応励起用光および可視光透過率測定用光を含む光を、石英セルの外側から照射する。照射した光は、石英セル5、硝酸銀等水溶液9、光触媒コーティング膜7、ガラス等基体8、硝酸銀水溶液9、石英セル5の順に通過するように設置する。設置の際、試料の設置を裏表を逆にすると、光触媒コーティング膜7内で光触媒反応励起光1が吸収を受けてしまい、光触媒コーティング膜の表面での光触媒反応に寄与する光量が低くなり、感度の低下や最悪の場合は測定不能を引き起こすため好ましくない。
【0024】
なお、この手法ではコーティング膜に基づいて説明したが、使用される光触媒は、バルクの試料においても有効であることは言うまでもない。可視光線が透過しさえすれば光触媒活性測定が可能であることを付記しておく。
【0025】
上記したように試料の設置を完了し、光触媒反応励起および可視光透過率測定用の双方を含む光4の照射開始直後においては光触媒反応(この場合は硝酸銀水溶液9中の銀イオン(図示外)の還元による銀薄膜6の形成は開始されたばかりであり、可視光線の透過率は高く、石英セルを通過してきた光線10はほとんど吸収を受けていないため透過率(光強度)測定検出器11で測定された可視光線の強度は強い。この照射開始直後の強度を100%と定義し、制御・データ蓄積用計算機12に自動的に記録する。
【0026】
この透過率(光強度)測定検出器11とその制御・データ蓄積用計算機12は照射開始直後から一定時間ごとに可視光線の強度を自動的に測定記録するよう設定しておく。時間の経過とともに光触媒反応励起および可視光透過率測定用の双方を含む有効な光4が照射されている光触媒コーティング膜7の表面において銀イオン(図示外)の還元による銀薄膜6の形成が進行する。銀薄膜は可視光線の透過を妨げるため銀薄膜の膜厚の増加とともに石英セルを通過する光線10の強度は減少する。すなわち測定経過時間に対して可視光線の透過強度(透過率)は減少し、その様子は透過率(光強度)測定検出器11とその制御・データ蓄積用計算機12が記録する。光触媒活性の高いコーティング膜ほど銀イオン(図示外)の還元による銀薄膜6の形成速度が速く、石英セルを通過する可視光線10の
強度の減少が早い。すなわちこの石英セルを通過する可視光線10の強度の減少の速度が評価すべきコーティング膜7の光触媒活性に対応する。
【0027】
さらに、現在光触媒材料として圧倒的に広く用いられており、最も光触媒活性評価のニーズが高いガラス等の透明基板上にコーティングされた二酸化チタン光触媒薄膜の光触媒活性評価には、一般に広く市販されている後分光型紫外・可視分光装置や透過率測定装置13をそのまま全く手を加えることなく本発明の実現手段として採用することができる。ここに、後分光型紫外・可視分光装置あるいは透過率測定装置とは、紫外・可視光に対する分光装置、あるいは透過率測定装置であり、その光源が発するすべての波長範囲の光線をすべて同時に試料に照射し、分光を行う場合、試料から出た後の光に対して行うタイプの分光装置あるいは透過率測定装置をして、後分光型紫外・可視分光装置あるいは透過率測定装置と称する。
【0028】
このタイプの装置においては、試料は紫外から可視にかけての光線を常に照射されているために光触媒反応の進行と透過率測定を同時進行させることができる。特に限定するものではないが、後分光型紫外・可視分光装置の一例としては島津製作所製Multispec1500型があげられる。この市販の装置を使用するときは、本発明を実施する装置は、後分光型紫外・可視分光装置13、石英セル5、硝酸銀水溶液等9があれば試料の光触媒活性測定が可能である。
【0029】
実施例;
本発明を実際にガラス基板上にスパッタリング法を用いて成膜した二酸化チタンコーティング薄膜の光触媒活性測定に適用した場合を実施例として示す。
試料は、ガラス基板上にスパッタリング装置を用いて形成した二酸化チタンコーティング薄膜であり、ガラス基板8の厚みは0.5ミリメートル、二酸化チタンコーティング層7の厚みは400ナノメートル程度である。この試料を光路長2ミリメートルの石英セル中に挿入して0.01モル/リットルの濃度の硝酸銀水溶液を満たした。本実施例においては市販され、品質が均一で保証されている後分光型紫外・可視分光装置13(島津製作所製、Multispec1500型)を光線の照射および透過率の測定を兼用する装置として使用した。同装置の光源構成から光触媒反応励起を主に担う光源1としては重水素ランプを、また、可視光透過率測定を主に担う光源としてはハロゲンランプを使用し、両光源からの光を、ハーフミラー3を介して合成し、試料7、8、硝酸銀水溶液9を内包する石英セル5に向けて照射した。
【0030】
この後分光型紫外・可視分光装置13には、光源制御機構(図示外)が設けられ、これによって、光源から照射される光の波長や、強度、光量が常に安定に維持照射され、充分な精度で光照射が実行され、本発明の信頼性が担保される。すなわち、本発明を実施するにおいては、光照射条件が変動したりすると、得られたデータは、信頼性を欠く事になるので、光照射条件が変動しないものを選択することが非常に重要である。本実施例の場合、石英セル位置における紫外線強度を、ミノルタUM−10+UM−360型紫外光強度測定装置で測定したところ、3マイクロワット/平方センチメートルであった。その安定性、再現性とも十分なものであった。さらに、透過率測定に関しても光源の安定性以上に重要なファクターである点では変わりはない。そのため、透過率を測定する装置11は、発明を実施し、触媒を評価するうえでは、重要であり、心臓部といっても過言ではなく、信頼性の高いものを準備すべきである。
【0031】
得られた測定データは、コンピューター12によって一元的に管理され、光触媒の活性度が自動的に演算され、求められる。以上によって、本発明は、従来法に比して、その作業要領は、大幅に簡素化され、試料を石英セルにセットするとから、光触媒活性度を演算し、求めるまでに要する時間は、極めて短縮された。しかも、従来法では、自動化が困難
であったのに対し、本発明は、自動化が可能となったことから、測定者の負担が大幅に軽減された。
【0032】
図2に光触媒活性コーティングを施したガラス基板と比較のために光触媒活性コーティング層を有しない単なるガラス基板に対する光触媒活性測定結果を示してある。図2において横軸は測定時間(作業時間とは異なる、本発明においては試料セットしてからプログラム起動までが作業であり、それ以降の測定は自動的に分光装置が実施する)縦軸が透過率を示している。単なるガラスの基板は当然であるが光触媒活性を示さず、透過率は100パーセント位置で一定であるが、コーティングを施した試料に関しては光触媒効果による銀薄膜の析出により試料の透過率が減少する様子を極めて鮮明に感度高くとらえていることがわかる。また測定点の連続性から極めて光源の安定性が高いことが裏付けられ、信頼性の高い測定結果であることが証明された。
【0033】
また120分の測定時間に対して測定点数は600点(一分あたり5回)とした。従来の従来の銀イオンの光還元法の測定法においては通常1測定点数を得るのに必ず1サイクルの作業(試料を硝酸銀水溶液に挿入→光触媒反応励起光を一定時間照射→試料を取り出して水溶液を除去→可視光透過率の測定装置へ試料を設置→可視光透過率測定→試料を取り出す→硝酸銀水溶液に挿入、熟練しても照射時間等切り詰められない時間があり最低でも1サイクル5分は必要)が必要であるためこのデータを従来の手法でとろうとした場合の作業量は5分×600=50時間という非現実的な数字となる。
【0034】
以上述べたように、本発明は、従来の銀イオンの光還元法と比較すると、一試料の評価に要する作業者の作業量(時間)を飛躍的に削減することができたものであり、その意義は極めて大きい。さらに要約して述べると、本発明によれば前述のように光触媒反応の励起用光源と可視光透過率測定用光源を一系統に統合することにより、励起光照射による光触媒反応誘起と可視光透過率測定が同時に実施され、作業者の作業量は激減する。一試料の評価に際して作業者が実施する作業は、試料を石英セルに入れる→石英セルに硝酸銀水溶液を満たす→石英セルを後分光型紫外・可視分光装置、透過率測定装置等に設置する→制御・データ蓄積用計算機による一定時間可視光測定を繰り返すプログラムを起動する、で完了であり、この作業はデータ点数によらず一度のみである。これは光触媒反応の励起用光源と可視光透過率測定用光源を一系統に統合したことにより装置間の試料の移動が不要となり、計算機による自動繰り返し測定の恩恵を受けることが可能となったからである。作業量を従来と比較してみれば桁違いに本発明の作業量が少なく合理的であることがわかる。
【0035】
従来の銀イオンの光還元法においては一試料の測定の作業時間を現実的な値に維持することが必要であったためせいぜい一試料あたり数10プロット程度のデータ点数を持って高精度測定と称してきた。しかしながら本発明をもってすればデータ点数の多寡は作業時間とは無関係であり、制御・データ蓄積用計算機の計算速度および記憶容量に依存するのみである。近年の計算機をもってすれば容易に一試料あたりのデータ点数を数100点以上とすることに全く支障をきたさないため作業時間の劇的短縮のみならず測定精度においても本発明は従来の手法を大きく凌駕する。
【0036】
さらに現在光触媒材料として圧倒的に広く用いられており、最も光触媒活性評価のニーズが高いガラス等の透明基板上にコーティングされた二酸化チタン光触媒薄膜の光触媒活性評価には一般に広く市販されている後分光型紫外・可視分光装置や透過率測定装置(13)をそのまま全く手を加えることなく本発明の実現手段全体として採用することができることも大きな長所となる。現在世界中の多数の研究機関、民間企業等において光触媒材料は広く研究されている。しかしながら光触媒材料の研究は比較的新しく、光触媒活性の客観的、定量的な評価基準は定まっておらず、各機関ごとに異なる手法、装置によって光
触媒活性の評価を行っているのが現状である。すなわち現状では光触媒活性を外部機関と比較する場合において客観的基準が存在しないため触媒活性比較は極めて困難である。
【0037】
この光触媒活性評価の客観的基準となりうる評価法および装置に求められる条件は、高精度・高感度であること、再現性が良くオペレーター依存性や環境依存性がないこと、簡便な(作業時間、測定時間が少ない)手法であること、全く同じ仕様の測定装置が容易に手に入ること、などが挙げられる。本発明は、これらの条件を充分に満たしているものであり、今後、光触媒の活性度評価・測定法として世界基準に採用される可能性が大である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
光を利用する技術が盛んになるにつれ、光触媒の研究、開発も今後ますます盛んになることが予想される。これによって、これまでは、光触媒活性につき統一した適正な評価法がなく、光触媒の発展を阻害する要因となっていたところ、本発明によってこれを打破し、明確で、再現性の取れた評価・測定法を提供した意義は極めて大きい。今後、本発明は光触媒の研究、開発に大いに利用され、その発展のみならず、広く産業の発展に大いに寄与するものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】光触媒反応の励起用光源と可視光透過率測定用光源とを統合した本発明の光触媒活性評価・測定装置の模式図。
【図2】ガラス基板上にコーティングした膜状二酸化チタン光触媒の触媒活性測定結果を示す図。
【符号の説明】
【0040】
1:光触媒反応励起光源。
2:可視光透過率測定光源。
3:ハーフミラー。
4:1、2各光源の合成光。
5:石英セル。
6:光触媒反応で析出した銀の薄膜。
7:光触媒効果を示すコーティング層。
8:ガラス等基体。
9:硝酸銀水溶液。
10:銀薄膜による吸収で強度の下がった各光源から合成光。
11:透過率(光強度)測定検出器。
12:制御・データ蓄積用計算機。
13:後分光型紫外・可視分光/透過率測定装置。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀イオン光還元法による光触媒活性度評価・測定方法において、銀イオンを含む水溶液を満たした光透過セル中に表面に光触媒を塗布担持した光透過性材料からなる担持体を立設して、浸漬し、セルの外側からこの担持体に向けて光触媒反応励起用波長光と光透過率測定用波長光とを一系統に統合して光を照射し、励起光によって光触媒塗布面において銀イオン還元反応を生じさせると同時に、測定光によって担持体を通過する光の透過率を測定し、検知しうるようにしたことを特徴とする、光触媒活性度評価・測定方法。
【請求項2】
前記光触媒反応励起用波長光が紫外光であり、光透過率測定用波長光が可視光である、請求項1記載の光触媒活性度評価・測定方法。
【請求項3】
前記光触媒反応励起用波長光と光透過率測定用波長光とを一系統に統合して照射する手段がハーフミラーである、請求項1記載の光触媒活性度評価・測定方法。
【請求項4】
前記セルおよび光触媒担持体が、光透過率の高い透明ガラス製または合成樹脂製である、請求項1記載の光触媒活性度評価・測定方法。
【請求項5】
前記光照射から光透過率を測定して触媒活性を計算し、求めるまでの工程管理、データ管理、データ計算を、コンピューターによって制御し、自動的に行わせるようにした、請求項1記載の光触媒活性度評価・測定方法。
【請求項6】
前記光触媒が二酸化チタンである、請求項1ないし5記載の何れか1項に記載の光触媒活性度評価・測定方法。
【請求項7】
銀イオン光還元法による光触媒評価・測定装置において、光触媒反応励起用波長光を発振する第1の光源からの光と光透過率測定用波長光を発振する第2の光源からの光とをまとめて一系統の光に統合して照射する手段と、銀イオンを含む水溶液を満たしてなる光透過型反応セルと、光透過型反応セル内に立設し、浸漬した、光入射面に光触媒が塗布されてなる透明な材料からなる光触媒担持体と、光触媒担持体および光透過型セルを透過する光を検出する光透過率測定器とを有してなる、銀イオン光還元法による光触媒評価・測定装置。
【請求項8】
前記光触媒反応励起用波長光が紫外光であり、前記光透過率測定用波長光が可視光である、請求項7記載の銀イオン光還元法による光触媒評価・測定装置。
【請求項9】
光触媒反応励起用波長光を発振する第1の光源からの光と光透過率測定用波長光を発振する第2の光源からの光とをまとめて一系統の光に統合して照射する手段が、ハーフミラーである、請求項7記載の銀イオン光還元法による光触媒評価・測定装置。
【請求項10】
前記光透過型反応セルおよび光触媒担持体が、光透過率の高い透明ガラス製または合成樹脂製のいずれかである、請求項7記載の光触媒活性度評価・測定装置。
【請求項11】
前記光照射から光透過率を測定して触媒活性を計算し、求めるまでの工程管理、データ管理、データ計算を、コンピューターによって制御し、自動的に行わせるようにした、請求項7記載の光触媒活性度評価・測定装置。
【請求項12】
前記光触媒が二酸化チタンである、請求項7ないし11記載の何れか1項に記載の光触媒活性度評価・測定装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−208180(P2006−208180A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−20195(P2005−20195)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】