説明

光触媒体分散液

【課題】 分散媒中に分散された光触媒酸化チタン粒子と光触媒酸化タングステン粒子との凝集が抑制されて固液分離を起こしにくく、優れた光触媒活性を発現しうる光触媒体分散液を提供する。
【解決手段】 光触媒酸化チタン粒子および光触媒酸化タングステン粒子が分散媒中に分散されてなり、光触媒酸化チタン粒子および光触媒酸化タングステン粒子は表面が互いに同じ極性に帯電しており、さらに、この光触媒酸化チタン粒子および光触媒酸化タングステン粒子と同じ極性に帯電するジルコニウム化合物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒体として光触媒酸化チタン粒子と光触媒酸化タングステン粒子とを含む光触媒体分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体にバンドギャップ以上のエネルギーを持つ光を照射すると、価電子帯の電子が伝導帯に励起され、価電子帯に正孔が、伝導帯に電子が、それぞれ生成する。かかる正孔および電子は、それぞれ強い酸化力と還元力を有することから、半導体に接触した分子種に酸化還元作用を及ぼす。この酸化還元作用は光触媒作用と呼ばれており、かかる光触媒作用を示し得る半導体は、光触媒体と呼ばれている。このような光触媒体としては、光触媒酸化チタン粒子や光触媒酸化タングステン粒子などの粒子状のものが知られている。
【0003】
光触媒酸化チタン粒子や光触媒酸化タングステン粒子は、通常、分散媒中に分散させ、光触媒体分散液として光触媒体層の形成に利用されており、例えば、光触媒酸化チタン粒子および光触媒酸化タングステン粒子を分散媒中に分散させた光触媒体分散液が開示されている(特許文献1)。かかる光触媒体分散液を基材の表面に塗布することにより、基材表面に、光触媒酸化チタン粒子および光触媒酸化タングステン粒子を含み、光触媒作用を示す光触媒体層を容易に形成することができる。
【0004】
【特許文献1】特開2005−231935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、光触媒酸化チタン粒子および光触媒酸化タングステン粒子を分散媒中に分散させた従来の光触媒体分散液は、粒子が互いに凝集して固液分離し易いという問題があり、しかも、従来の光触媒体分散液を用いて形成された光触媒体層では、揮発性有機化合物を分解するに際し、充分に満足しうるだけの光触媒活性が得られなかった。
【0006】
そこで、本発明の課題は、分散媒中に分散された光触媒酸化チタン粒子と光触媒酸化タングステン粒子との凝集が抑制されて固液分離を起こしにくく、優れた光触媒活性を発現しうる光触媒体分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究を重ねた。その結果、光触媒酸化チタン粒子と光触媒酸化タングステン粒子とが分散媒中で凝集し易いのは、一般に、光触媒酸化チタン粒子の表面はプラスに、光触媒酸化タングステン粒子の表面はマイナスにそれぞれ帯電しているからであり、光触媒酸化チタン粒子および光触媒酸化タングステン粒子の表面を互いに同じ極性、すなわち共にプラスに帯電させるか、共にマイナスに帯電させることにより、凝集が抑制されて固液分離を起こしにくい光触媒体分散液となること、さらに、この光触媒体分散液中の光触媒酸化チタン粒子および光触媒酸化タングステン粒子と同じ極性に帯電するジルコニウム化合物を含有させると、形成される塗膜の光触媒活性が格段に向上することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明の光触媒体分散液は、光触媒酸化チタン粒子および光触媒酸化タングステン粒子が分散媒中に分散されてなり、光触媒酸化チタン粒子および光触媒酸化タングステン粒子は表面が互いに同じ極性に帯電しており、さらに、この光触媒酸化チタン粒子および光触媒酸化タングステン粒子と同じ極性に帯電するジルコニウム化合物を含むことを特徴とする。
本発明の光触媒機能製品の製造方法は、基材の表面に前記本発明の光触媒体分散液を塗布し、分散媒を揮発させることを特徴とする。
本発明の揮発性有機化合物の分解方法は、基材の表面に前記本発明の光触媒体分散液を塗布し、分散媒を揮発させて光触媒体層を形成し、この光触媒体層と気相中に含まれる揮発性有機化合物とを光照射下で接触させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、分散媒中に分散された光触媒酸化チタン粒子と光触媒酸化タングステン粒子との凝集が抑制されて固液分離を起こしにくく、しかも、優れた光触媒活性を発現しうる光触媒体分散液を提供することができる。すなわち、本発明の光触媒体分散液は、分散媒中に分散された光触媒酸化チタン粒子および光触媒酸化タングステン粒子の表面が互いに同じ極性に帯電しており、さらに光触媒活性向上のために含有させるジルコニウム化合物もこれら光触媒酸化チタン粒子および光触媒酸化タングステン粒子と同じ極性に帯電するものであるので、互いに凝集することがなく、このため固液分離することがない。このような本発明の光触媒体分散液は、粒子を互いに凝集させることなく基材に塗布することができるものであり、しかもジルコニウム化合物をも含有するため、これを用いて形成される塗膜は、高い光触媒活性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(光触媒体分散液)
本発明の光触媒体分散液は、光触媒酸化チタン粒子(以下、単に「酸化チタン粒子」と称することもある)および光触媒酸化タングステン粒子(以下、単に「酸化タングステン粒子」と称することもある)が分散媒中に分散されたものである。
本発明の光触媒体分散液を構成する酸化チタン粒子は、光触媒作用を示す粒子状の酸化チタンであれば、特に制限はされないが、例えば、メタチタン酸粒子、結晶型がアナターゼ型、ブルッカイト型、ルチル型などである二酸化チタン〔TiO2〕粒子等が挙げられる。なお、酸化チタン粒子は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0011】
メタチタン酸粒子は、例えば、(1−i)硫酸チタニルの水溶液を加熱して加水分解する方法により得ることができる。
二酸化チタン粒子は、例えば、(1−ii)硫酸チタニルまたは塩化チタンの水溶液を加熱することなく、これに塩基を加えることにより沈殿物を得、得られた沈殿物を焼成する方法、(1−iii)チタンアルコキシドに水、酸の水溶液または塩基の水溶液を加えて沈殿物を得、得られた沈殿物を焼成する方法、(1−iv)メタチタン酸を焼成する方法、などによって得ることができる。これらの方法で得られる二酸化チタン粒子は、焼成する際の焼成温度や焼成時間を調整することにより、アナターゼ型、ブルッカイト型またはルチル型など、所望の結晶型にすることができる。
【0012】
酸化チタン粒子の粒子径は、特に制限されないが、光触媒作用の観点からは、平均分散粒子径で、通常20〜150nm、好ましくは40〜100nmである。
酸化チタン粒子のBET比表面積は、特に制限されないが、光触媒作用の観点からは、通常100〜500m2/g、好ましくは300〜400m2/gである。
【0013】
本発明の光触媒体分散液を構成する酸化タングステン粒子は、光触媒作用を示す粒子状の酸化タングステンであれば、特に制限はされないが、例えば、三酸化タングステン〔WO3〕粒子等が挙げられる。なお、酸化タングステン粒子は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
三酸化タングステン粒子は、例えば、(2−i)タングステン酸塩の水溶液に酸を加えることにより、沈殿物としてタングステン酸を得、得られたタングステン酸を焼成する方法、(2−ii)メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウムを加熱することにより熱分解する方法、などによって得ることができる。
【0014】
酸化タングステン粒子の粒子径は、特に制限されないが、光触媒作用の観点からは、平均分散粒子径で、通常50〜200nm、好ましくは80〜130nmである。
酸化タングステン粒子のBET比表面積は、特に制限されないが、光触媒作用の観点からは、通常5〜100m2/g、好ましくは20〜50m2/gである。
【0015】
本発明の光触媒体分散液において、前記酸化チタン粒子と前記酸化タングステン粒子との比率(酸化チタン粒子:酸化タングステン粒子)は、質量比で、通常4:1〜1:8、好ましくは2:3〜3:2である。
【0016】
本発明の光触媒体分散液においては、光触媒酸化チタン粒子および光触媒酸化タングステン粒子は表面が互いに同じ極性に帯電しており、具体的には、粒子表面が共にプラスに帯電しているか、または粒子表面が共にマイナスに帯電している。これにより、分散液中の酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子との凝集が抑制され、固液分離を起こしにくくなる。
【0017】
一般に、上述した(1−i)の方法により得たメタチタン酸粒子や、(1−ii)〜(1−iv)の方法により得た二酸化チタン粒子は、その表面がプラスに帯電している。これに対して、上述した(2−i)や(2−ii)の方法により得た三酸化タングステン粒子は、その表面がマイナスに帯電している。このため、表面がプラスに帯電している上述の酸化チタン粒子と、表面がマイナスに帯電している上述の酸化タングステン粒子とを用いる場合は、例えば、酸化チタン粒子の表面をマイナスに帯電させてから、酸化タングステン粒子と混合するようにすればよい。
【0018】
表面がプラスに帯電した酸化チタン粒子の表面をマイナスに帯電させるには、該酸化チタン粒子を、あらかじめ、その表面をマイナスに帯電させうる表面処理剤を後述する分散媒に溶解させた溶液中に分散させればよい。これにより、溶液中に溶解した表面処理剤が酸化チタン粒子の表面に吸着し、粒子表面をマイナスに帯電させることができる。
【0019】
粒子表面をマイナスに帯電させうる表面処理剤としては、例えば、ジカルボン酸、トリカルボン酸などのような多価カルボン酸、リン酸などが挙げられる。具体的には、ジカルボン酸としては例えば蓚酸などが、トリカルボン酸としては例えばクエン酸などが挙げられる。また、前記多価カルボン酸やリン酸としては、遊離酸を用いてもよいし、塩を用いてもよい。塩としては、例えばアンモニウム塩などが挙げられる。かかる表面処理剤としては、特に、蓚酸、蓚酸アンモニウムなどが好ましい。
前記表面処理剤の使用量は、TiO2換算の光触媒酸化チタン粒子に対して、表面を充分に帯電させる点で、通常0.001モル倍以上、好ましくは0.02モル倍以上であり、経済性の点で、通常0.5モル倍以下、好ましくは0.3モル倍以下である。
【0020】
酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子の表面の帯電は、それぞれ、溶媒中に分散させたときのゼータ電位を測定することにより判定できる。ゼータ電位の測定に用いられる溶媒としては、例えば、塩酸を加えて水素イオン濃度をpH3.0とした塩化ナトリウム水溶液(塩化ナトリウム濃度0.01モル/L)が用いられる。この溶媒の使用量は、酸化チタン粒子または酸化タングステン粒子に対して、通常10000質量倍〜1000000質量倍である。
【0021】
本発明の光触媒体分散液においては、さらに、前記光触媒酸化チタン粒子および光触媒酸化タングステン粒子と同じ極性に帯電するジルコニウム化合物を含む。このように、ジルコニウム化合物を含有させることにより、本発明の光触媒体分散液を塗布して形成される塗膜の光触媒活性をより向上させることができ、しかも、該ジルコニウム化合物は前記酸化チタン粒子および前記酸化タングステン粒子と同じ極性に帯電するものであるので、ジルコニウム化合物の添加によって粒子の凝集ひいては分散液の固液分離を招くおそれもない。
なお、ジルコニウム化合物の帯電(極性)は、例えば、ゼータ電位を測定することにより判定できる。ゼータ電位の測定に際しては、ジルコニウム化合物の形態に応じた手法を適宜採用すればよく、例えば粒子状であれば溶媒中に分散させて測定すればよい。
【0022】
ジルコニウム化合物としては、具体的には、例えば、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、水和酸化ジルコニウム、オキシ水酸化ジルコニウム、水和硝酸ジルコニウム、水和オキシ塩化ジルコニウム、蓚酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシド、ジルコニウムジブトキシドアセチルアセトナート、ジルコニウムジブトキシドラクテート、ジルコニウムブトキシドの加水分解生成物、ジルコニウムイソプロポキシドの加水分解生成物などが挙げられ、これらの中でも、蓚酸ジルコニウムが好ましい。蓚酸ジルコニウムは、通常、マイナスに帯電するものであり、マイナスに帯電する酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子とともに使用することができる。
なお、ジルコニウム化合物は、前記光触媒酸化チタン粒子および前記光触媒酸化タングステン粒子と同じ極性に帯電するものであれば、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0023】
ジルコニウム化合物として好適な蓚酸ジルコニウムは、1モルのZrに対して1.2〜5.0モルの蓚酸を反応させてなるものであることが好ましく、より好ましくは、1モルのZrに対して1.4〜2.0モルの蓚酸を反応させてなるものであるのがよい。ジルコニウムに対する蓚酸のモル比(蓚酸/Zr(モル比))の値が1.2より小さいと、蓚酸ジルコニウムの合成反応が困難となるおそれがあり、一方、5.0より大きいと、反応生成物に過剰量の蓚酸が含まれることになるので、蓚酸ジルコニウムの酸性度が過度に高くなって、取り扱ううえで不具合が生じるおそれがある。
【0024】
本発明の光触媒体分散液において、ジルコニウム化合物の含有量は、酸化物(ZrO2)換算で、光触媒酸化チタン粒子と光触媒酸化タングステン粒子の合計量に対して、通常、0.02〜0.3質量倍、好ましくは0.08〜0.15質量倍である。ジルコニウム化合物の含有量が前記範囲よりも少ないと、光触媒活性の向上効果が充分に得られない傾向があり、一方、前記範囲よりも多いと、酸化チタン粒子や酸化タングステン粒子の表面が多量のジルコニウム化合物で覆われることになり、酸化チタン粒子や酸化タングステン粒子が吸収する光の量が少なくなるため、光触媒活性が低下するおそれがある。
【0025】
本発明の光触媒体分散液に用いられる分散媒は、ジルコニウム化合物を溶解もしくは分散させうるものであれば、特に制限はなく、通常、水を主成分とする水性媒体、具体的には、水を50質量%以上の割合で含むものが用いられ、水を単独で用いてもよいし、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒であってもよい。水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの水溶性アルコール溶媒のほか、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。
【0026】
本発明の光触媒体分散液においては、分散媒の含有量は、酸化チタン粒子、酸化タングステン粒子およびジルコニウム化合物の合計量に対して、通常5〜200質量倍、好ましくは10〜100質量倍である。分散媒が5質量倍未満であると、酸化チタン粒子、酸化タングステン粒子およびジルコニウム化合物が沈降し易くなり、一方、200質量倍を超えると、容積効率の点で不利となるので、いずれも好ましくない。
【0027】
本発明の光触媒体分散液は、電子吸引性物質またはその前駆体をも含有していてもよい。電子吸引性物質とは、光触媒体(すなわち、酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子)の表面に担持されて電子吸引性を発揮しうる化合物であり、電子吸引性物質の前駆体とは、光触媒体の表面で電子吸引性物質に遷移しうる化合物(例えば、光照射により電子吸引性物質に還元されうる化合物)である。電子吸引性物質が光触媒体の表面に担持されて存在すると、光の照射により伝導帯に励起された電子と価電子帯に生成した正孔との再結合が抑制され、光触媒作用をより高めることができる。
【0028】
前記電子吸引性物質またはその前駆体は、Cu、Pt、Au、Pd、Ag、Fe、Nb、Ru、Ir、RhおよびCoからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属原子を含有してなるものであることが好ましい。より好ましくは、Cu、Pt、AuおよびPdのうちの1種以上の金属原子を含有してなるものである。例えば、前記電子吸引性物質としては、前記金属原子からなる金属、もしくは、これらの金属の酸化物や水酸化物等が挙げられ、電子吸引性物質の前駆体としては、前記金属原子からなる金属の硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、有機酸塩、炭酸塩、りん酸塩等が挙げられる。
【0029】
電子吸引性物質の好ましい具体例としては、Cu、Pt、Au、Pd等の金属が挙げられる。また、電子吸引性物質の前駆体の好ましい具体例としては、Cuを含む前駆体として、硝酸銅〔Cu(NO3)2〕、硫酸銅〔Cu(SO4)2〕、塩化銅〔CuCl2、CuCl〕、臭化銅〔CuBr2、CuBr〕、沃化銅〔CuI〕、沃素酸銅〔CuI26〕、塩化アンモニウム銅〔Cu(NH4)2Cl4〕、オキシ塩化銅〔Cu2Cl(OH)3〕、酢酸銅〔CH3COOCu、(CH3COO)2Cu〕、蟻酸銅〔(HCOO)2Cu〕、炭酸銅〔CuCO3〕、蓚酸銅〔CuC24〕、クエン酸銅〔Cu2647〕、リン酸銅〔CuPO4〕等が;Ptを含む前駆体として、塩化白金〔PtCl2、PtCl4〕、臭化白金〔PtBr2、PtBr4〕、沃化白金〔PtI2、PtI4〕、塩化白金カリウム〔K2(PtCl4)〕、ヘキサクロロ白金酸〔H2PtCl6〕、亜硫酸白金〔H3Pt(SO3)2OH〕、酸化白金〔PtO2〕、塩化テトラアンミン白金〔Pt(NH3)4Cl2〕、炭酸水素テトラアンミン白金〔C21446Pt〕、テトラアンミン白金リン酸水素〔Pt(NH3)4HPO4〕、水酸化テトラアンミン白金〔Pt(NH3)4(OH)2〕、硝酸テトラアンミン白金〔Pt(NO3)2(NH3)4〕、テトラアンミン白金テトラクロロ白金〔(Pt(NH3)4)(PtCl4)〕等が;Auを含む前駆体として、塩化金〔AuCl〕、臭化金〔AuBr〕、沃化金〔AuI〕、水酸化金〔Au(OH)2〕、テトラクロロ金酸〔HAuCl4〕、テトラクロロ金酸カリウム〔KAuCl4〕、テトラブロモ金酸カリウム〔KAuBr4〕、酸化金〔Au23〕等が;Pdを含む前駆体として、例えば、酢酸パラジウム〔(CH3COO)2Pd〕、塩化パラジウム〔PdCl2〕、臭化パラジウム〔PdBr2〕、沃化パラジウム〔PdI2〕、水酸化パラジウム〔Pd(OH)2〕、硝酸パラジウム〔Pd(NO3)2〕、酸化パラジウム〔PdO〕、硫酸パラジウム〔PdSO4〕、テトラクロロパラジウム酸カリウム〔K2(PdCl4)〕、テトラブロモパラジウム酸カリウム〔K2(PdBr4)〕等が;それぞれ挙げられる。なお、電子吸引性物質またはその前駆体は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、1種以上の電子吸引性物質と1種以上の前駆体とを併用してもよいことは勿論である。
【0030】
前記電子吸引性物質またはその前駆体を含有させる場合、その含有量は、金属原子換算で、酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子の合計量100質量部に対して、通常0.005〜0.6質量部、好ましくは0.01〜0.4質量部である。電子吸引性物質またはその前駆体が0.005質量部未満であると、電子吸引性物質による光触媒活性の向上効果が充分に得られないおそれがあり、一方、0.6質量部を超えると、却って光触媒作用が低下するおそれがある。
【0031】
本発明の光触媒体分散液は、酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子の表面の帯電やジルコニウム化合物の帯電を変更しない範囲で、従来公知の各種添加剤を含んでいてもよい。なお、添加剤は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
前記添加剤としては、例えば、光触媒作用を向上させる目的で添加されるものが挙げられる。このような光触媒作用向上効果を目的とした添加剤としては、具体的には、非晶質シリカ、シリカゾル、水ガラス、オルガノポリシロキサンなどの珪素化合物;非晶質アルミナ、アルミナゾル、水酸化アルミニウムなどのアルミニウム化合物;ゼオライト、カオリナイトのようなアルミノ珪酸塩;酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物;リン酸カルシウム、モレキュラーシーブ、活性炭、有機ポリシロキサン化合物の重縮合物、リン酸塩、フッ素系ポリマー、シリコン系ポリマー、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂;等が挙げられる。
【0033】
また、前記添加剤としては、光触媒体分散液を基材表面に塗布した際に光触媒体(酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子)をより強固に基材の表面に保持させるためのバインダー等を用いることもできる(例えば、特開平8−67835号公報、特開平9−25437号公報、特開平10−183061号公報、特開平10−183062号公報、特開平10−168349号公報、特開平10−225658号公報、特開平11−1620号公報、特開平11−1661号公報、特開2004−059686号公報、特開2004−107381号公報、特開2004−256590号公報、特開2004−359902号公報、特開2005−113028号公報、特開2005−230661号公報、特開2007−161824号公報など参照)。
【0034】
本発明の光触媒体分散液は、その水素イオン濃度が、通常pH0.5〜pH8.0、好ましくはpH1.0〜pH7.0である。水素イオン濃度がpH0.5未満であると、酸性が強すぎて取扱いが面倒であり、一方、pH8.0を超えると、酸化タングステン粒子が溶解するおそれがあるので、いずれも好ましくない。光触媒体分散液の水素イオン濃度は、通常、酸を加えることにより調整すればよい。水素イオン濃度の調整に用いることのできる酸としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸、リン酸、ギ酸、酢酸、蓚酸等が挙げられる。
【0035】
本発明の光触媒体分散液の製造方法は、上述した各含有成分(表面が互いに同じ極性に帯電した酸化チタン粒子、酸化タングステン粒子およびジルコニウム化合物と分散媒等)を混合し、分散させうる方法であればよく、各含有成分の混合順序などに特に制限はない。
【0036】
酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子とは、それぞれ、そのまま(粒子の状態で)混合してもよいが、通常は、両方または一方を、あらかじめ分散媒(分散媒に表面処理剤等を溶解させた溶液であってもよい)中に分散させて、酸化チタン粒子分散液または酸化タングステン粒子分散液としたのちに混合する。酸化チタン粒子分散液や酸化タングステン粒子分散液には、例えば媒体撹拌式分散機を用いるなど通常の方法により分散処理を施すことが好ましい。
なお、酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子の少なくとも一方を分散液とする場合、各分散液に用いる分散媒の種類や使用量は、最終的に得られる光触媒体分散液における分散媒の組成等を考慮して適宜設定すればよい。
【0037】
前記ジルコニウム化合物は、どの段階で添加してもよく、例えば、酸化チタン粒子分散液および酸化タングステン粒子分散液のいずれか一方もしくは両方に添加してもよいし、酸化チタン粒子(または酸化チタン粒子分散液)と酸化タングステン粒子(または酸化タングステン粒子分散液)とを混合したのちに、得られた分散液に添加するようにしてもよい。また、ジルコニウム化合物を添加する際には、どのような形態で添加してもよく、例えば、あらかじめ適当な溶媒に溶解もしくは分散させた状態で添加することができる。
【0038】
例えば、表面がプラスに帯電している酸化チタン粒子を、適当な分散媒に前記表面処理剤を溶解させた溶液中に分散させることにより粒子表面をマイナスに帯電させた後、必要に応じて分散処理を施し、これを、表面がマイナスに帯電している酸化タングステン粒子を適当な分散媒中に分散させた分散液と混合し、さらに、マイナスに帯電するジルコニウム化合物を溶解もしくは分散させた液を混合することにより、本発明の光触媒体分散液を得ることができる。
【0039】
本発明の光触媒体分散液に前記電子吸引性物質またはその前駆体を含有させる場合には、電子吸引性物質またはその前駆体の添加は、どの段階で行なってもよく、例えば、酸化チタン粒子分散液に対して行ってもよいし、酸化タングステン粒子分散液に対して行ってもよいし、酸化チタン粒子(または酸化チタン粒子分散液)と酸化タングステン粒子(または酸化タングステン粒子分散液)とを混合した後の分散液に対して行ってもよいし、ジルコニウム化合物を溶解もしくは分散させた液に対して行ってもよいが、好ましくは、電子吸引性物質またはその前駆体は酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子とを含む分散液に対して添加し、その後、ジルコニウム化合物を溶解もしくは分散させた液を添加するのがよい。
【0040】
前記電子吸引性物質の前駆体を添加した場合には、その添加後に光照射を行ってもよい。光照射を行うことにより、光励起によって生成した電子によって前駆体が還元されて電子吸引性物質となり、光触媒体粒子(酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子)の表面に担持される。なお、前記前駆体を添加した場合に、たとえ光照射を行なわなくても、得られた光触媒体分散液により形成された光触媒体層に光が照射された時点で電子吸引性物質へ変換されることになるので、その光触媒能が損なわれることはない。
前記光照射で照射する光としては、特に制限はなく、可視光線でもよいし、紫外線でもよい。また、前記光照射は、前記前駆体の添加後であれば、どの段階で行なってもよい。
【0041】
本発明の光触媒体分散液に上述した各種添加剤を含有させる場合には、各種添加剤の添加はどの段階で行なってもよいが、例えば、酸化チタン粒子(酸化チタン粒子分散液)と酸化タングステン粒子(酸化タングステン粒子分散液)とジルコニウム化合物(ジルコニウム化合物を溶解もしくは分散させた液)とを混合した後に行なうことが好ましい。
【0042】
(光触媒機能製品の製造方法)
本発明の光触媒機能製品の製造方法は、上述した本発明の光触媒体分散液を基材の表面に塗布し、分散媒を揮発させるものである。この方法により、光触媒酸化チタン粒子、光触媒酸化タングステン粒子およびジルコニウム化合物を含み光触媒作用を示す光触媒体層を、表面に備えた光触媒機能製品を製造できる。ここで、前記光触媒体分散液が電子吸引性物質またはその前駆体を含む場合には、光触媒体層を構成する光触媒酸化チタン粒子および光触媒酸化タングステン粒子の表面に電子吸引性物質またはその前駆体が担持される。担持された電子吸引性物質の前駆体は、担持されたのち、例えば光が照射されることなどによって電子吸引性物質に遷移する。
【0043】
基材(製品)の表面に光触媒体層を形成するにあたり、光触媒体分散液の塗布は、従来公知の方法を適宜採用して行えばよい。光触媒体層の膜厚は、特に制限されるものではなく、通常、その用途等に応じて、数百nm〜数mmまで適宜設定すればよい。また、塗布後に分散媒を揮発させる方法についても、特に制限はなく、従来公知の方法を適宜採用することができる。
【0044】
光触媒体層は、基材(製品)の内表面または外表面であれば、どの部分に形成されていてもよいが、例えば、光(可視光線)が照射される面であって、かつ悪臭物質が発生する箇所と連続または断続して空間的につながる面に形成されていることが好ましい。なお、基材(製品)の材質は、形成される光触媒体層を実用に耐えうる強度で保持できる限り、特に制限されるものではなく、例えば、プラスチック、金属、セラミックス、木材、コンクリート、紙など、あらゆる材料からなる製品を対象にすることができる。
【0045】
本発明にかかる光触媒機能製品の具体例としては、例えば、天井材、タイル、ガラス、壁紙、壁材、床等の建築資材、自動車内装材(自動車用インストルメントパネル、自動車用シート、自動車用天井材)、衣類やカーテン等の繊維製品などが挙げられる。
【0046】
(揮発性有機化合物の分解方法)
本発明の揮発性有機化合物の分解方法は、基材の表面に上述した本発明の光触媒体分散液を塗布し、分散媒を揮発させて光触媒体層を形成し、この光触媒体層と気相中に含まれる揮発性有機化合物とを光照射下で接触させるものである。ここで、形成する光触媒体層は、上述した本発明の光触媒機能製品の製造方法によって形成される光触媒体層と同様であり、蛍光灯やナトリウムランプのような可視光源からの光照射により高い触媒作用を示す。したがって、この光触媒体層と気相中に含まれる揮発性有機化合物とを光照射下で接触させることにより、揮発性有機化合物を分解することができる。具体的には、照明のある屋内住環境に前記光触媒体層を形成するか、もしくは前記光触媒機能製品を照明のある屋内住環境に設置すれば、屋内照明による光照射により、揮発性有機化合物を分解することができる。
【0047】
本発明によって分解することのできる揮発性有機化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノールなどのアルコール類;ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒドなどのアルデヒド類;ギ酸、酢酸、プロピオン酸などのカルボン酸類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルベンゼン、トリメチルベンゼン、エチルベンゼン、スチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クレゾール、アニリンなどの芳香族化合物;ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロホルムなどの有機塩素化合物;などが挙げられる。さらには、本発明によれば、黄色ブドウ球菌や大腸菌等の病原菌を死滅させることも可能である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例によって限定されるものではない。
なお、実施例および比較例における各物性の測定およびその光触媒活性の評価については、以下の方法で行った。
【0049】
<結晶型>
X線回折装置(リガク社製「RINT2000/PC」)を用いてX線回折スペクトルを測定し、そのスペクトルから結晶型を決定した。
【0050】
<BET比表面積>
比表面積測定装置(湯浅アイオニクス社製「モノソーブ」)を用いて窒素吸着法により測定した。
【0051】
<平均分散粒子径>
サブミクロン粒度分布測定装置(コールター社製「N4Plus」)を用いて試料の粒度分布を測定し、この装置に付属のソフトにより自動的に単分散モード解析して得られた結果を、平均分散粒子径(nm)とした。
【0052】
<酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子のゼータ電位>
レーザーゼータ電位計(大塚電子(株)製「ELS−6000」)を用い、塩酸を加えて水素イオン濃度をpH3.0に調整した塩化ナトリウム水溶液(塩化ナトリウム濃度0.01モル/L)中に光触媒酸化チタン粒子または光触媒酸化タングステン粒子を分散させて、ゼータ電位を測定した。光触媒酸化チタン粒子または光触媒酸化タングステン粒子のそれぞれの使用量に対する塩化ナトリウム水溶液の使用量は、250000質量倍とした。このゼータ電位がプラスであれば、粒子の表面はプラスに帯電しており、マイナスであれば、粒子の表面はマイナスに帯電している。
【0053】
<蓚酸ジルコニウムのゼータ電位>
ゼータ電位測定装置(大塚電子(株)製「ELSZ−2」)を用い、ゾル状の蓚酸ジルコニウムのゼータ電位を測定した。このゼータ電位がプラスであれば、蓚酸ジルコニウムはプラスに帯電しており、マイナスであれば、蓚酸ジルコニウムはマイナスに帯電している。
【0054】
<光触媒活性の評価>
光触媒活性は、蛍光灯の光の照射下でのアセトアルデヒドの分解反応における一次反応速度定数を測定することにより評価した。
まず、光触媒活性測定用の試料を作製した。すなわち、ガラス製シャーレ(外径70mm、内径66mm、高さ14mm、容量約48mL)に、得られた光触媒体分散液を、底面の単位面積あたりの固形分換算の滴下量が1g/m2となるように滴下し、シャーレの底面全体に均一となるように展開した。次いで、このシャーレを110℃の乾燥機内で大気中1時間保持することにより乾燥させて、ガラス製シャーレの底面に光触媒体層を形成した。この光触媒体層に、紫外線強度が2mW/cm2となるようにブラックライトからの紫外線を16時間照射して、これを光触媒活性測定用サンプルとした。
【0055】
次に、この光触媒活性測定用サンプルをガスバッグ(内容積1L)に入れて密閉し、次いで、このガスバッグ内を真空にした後、酸素と窒素との体積比が1:4である混合ガス600mLを封入し、さらにその中に、ガスバッグ内のアセトアルデヒド濃度が50ppm(体積比)となるように濃度1%(体積比)でアセトアルデヒドを含む窒素ガスを封入して、暗所で室温下、1時間保持した。その後、市販の白色蛍光灯を光源とし、測定サンプル近傍での照度が1000ルクス(ミノルタ社製照度計「T−10」で測定)となるようにガスバッグの外から蛍光灯の光を照射し、アセトアルデヒドの分解反応を行った。このとき、測定サンプル近傍の紫外光の強度は6.5μW/cm2(トプコン社製紫外線強度計「UVR−2」に、同社製受光部「UD−36」を取り付けて測定)であった。蛍光灯の光照射を開始してから1.5時間毎にガスバッグ内のガスをサンプリングし、アセトアルデヒドの濃度をガスクロマトグラフ(島津製作所社製「GC−14A」)にて測定した。そして、照射時間に対するアセトアルデヒドの残存濃度から一次反応速度定数を算出し、これをアセトアルデヒド分解能として評価した。この一次反応速度定数が大きいほど、アセトアルデヒドの分解能(すなわち光触媒活性)は高い。
【0056】
(製造例1−光触媒酸化チタン粒子分散液の調製)
光触媒酸化チタン粒子として、硫酸チタニルの水溶液を加水分解し、濾取して得られたメタチタン酸の固形物(ケーキ)(TiO2換算でチタン成分を45質量%含有)を用いた。このメタチタン酸の固形物(ケーキ)2.2kgを、蓚酸二水和物(和光純薬工業製)158gを水1.88kgに溶解させることにより調製した蓚酸水溶液中に加え、混合して混合物を得た。この混合物における蓚酸の含有量は、メタチタン酸1モルに対して0.1モルである。
【0057】
上記で得られた混合物を、媒体攪拌式分散機(コトブキ技研社製「ウルトラアペックスミル UAM−1 1009」)を用いて下記の条件で分散処理して、光触媒酸化チタン粒子分散液を得た。この光触媒酸化チタン粒子分散液100質量部中に含まれる光触媒酸化チタン粒子は23質量部である(固形分濃度は23質量%)。
分散媒体:直径0.05mmのジルコニア製ビーズ1.85kg
攪拌速度:周速12.6m/秒
流速:0.25L/分
水の添加:処理開始17分後に水5kgを追加添加
処理時間:合計約90分
【0058】
得られた光触媒酸化チタン粒子分散液における光触媒酸化チタン粒子の平均分散粒子径は55nmであり、分散液中の光触媒酸化チタン粒子のゼータ電位は−10.5mVであった。また、得られた分散液の水素イオン濃度はpH1.5であった。この光触媒酸化チタン粒子分散液の一部を真空乾燥して固形分を得たところ、該固形分のBET比表面積は301m2/gであった。なお、分散処理の前の混合物中の固形分と、分散処理の後の分散液中の固形分とについて、X線回折スペクトルをそれぞれ測定して比較したところ、どちらも結晶型はアナターゼ型であり、分散処理による結晶型の変化は見られなかった。
【0059】
(製造例2−光触媒酸化タングステン粒子分散液の調製)
光触媒酸化タングステン粒子である酸化タングステン粉末(高純度化学社製;純度99.99%)1kgをイオン交換水4kg中に加え、混合して混合物を得た。
上記で得られた混合物を、媒体攪拌式分散機(コトブキ技研社製「ウルトラアペックスミル UAM−1 1009」)を用いて下記の条件で分散処理して、光触媒酸化タングステン粒子分散液を得た。
分散媒体:直径0.05mmのジルコニア製ビーズ1.85kg
攪拌速度:周速12.6m/秒
流速:0.25L/分
処理時間:合計約50分
【0060】
得られた光触媒酸化タングステン粒子分散液における光触媒酸化タングステン粒子の平均分散粒子径は96nmであり、分散液中の光触媒酸化タングステン粒子のゼータ電位は−25.5mVであった。また、得られた分散液の水素イオン濃度はpH2.2であった。この光触媒酸化タングステン粒子分散液の一部を真空乾燥して固形分を得たところ、該固形分のBET比表面積は37m2/gであった。なお、分散処理の前の混合物中の固形分と、分散処理の後の分散液中の固形分とについて、X線回折スペクトルをそれぞれ測定して比較したところ、どちらも結晶型はWO3であり、分散処理による結晶型の変化は見られなかった。
【0061】
(製造例3−蓚酸ジルコニウム(a)の調製)
水酸化ジルコニウム100g(ZrO2換算で31g)を純水100g中に添加し、充分に撹拌して分散液とした。次に、この分散液に、1回目の蓚酸添加として蓚酸二水和物31.7g(蓚酸/Zr(モル比)=1.0に相当)を添加し、90℃で15分間加熱した。次いで、2回目の蓚酸添加として蓚酸二水和物15.8g(蓚酸/Zr(モル比)=0.5に相当)を添加し、90℃で15分間加熱して、ゾル状の蓚酸ジルコニウム(a)を得た。この蓚酸ジルコニウム中の蓚酸/Zr(モル比)は1.5であった。また、この蓚酸ジルコニウムのゼータ電位は−61mVであった。
【0062】
(製造例4−蓚酸ジルコニウム(b)の調製)
製造例1で得られたゾル状の蓚酸ジルコニウム(a)100g(ZrO2換算で約12g)に純水500gを加えた後、限外ろ過膜(分画分子量:6000)を用いて限外ろ過を行う操作を4回繰り返すことにより500gの分散媒を除去して、100gのゾル状の蓚酸ジルコニウム(b)を得た。この蓚酸ジルコニウム中の蓚酸/Zr(モル比)は、限外ろ過によって除去した分散媒の蓚酸濃度から計算したところ、1.3であった。また、この蓚酸ジルコニウムのゼータ電位は−48mVであった。
【0063】
(実施例1)
製造例1で得た光触媒酸化チタン粒子分散液と、製造例2で得た光触媒酸化タングステン粒子分散液とを、光触媒酸化チタン粒子と光触媒酸化タングステン粒子との比率が1:1(質量比)となるように混合し、得られた混合液100質量部に対してヘキサクロロ白金酸(H2PtCl6)の水溶液(白金原子換算での含有量0.4質量%)を加えた。このとき、ヘキサクロロ白金酸の使用量は、白金原子換算で、光触媒酸化チタン粒子および光触媒酸化タングステン粒子の合計量100質量部に対して0.1質量部とした。次いで、さらに製造例3で得た蓚酸ジルコニウム(a)を、ZrO2換算で、光触媒酸化チタン粒子および光触媒酸化タングステン粒子の合計量に対して0.05質量倍となるように混合して、光触媒体分散液を得た。この光触媒体分散液100質量部中、光触媒酸化チタン粒子と光触媒酸化タングステン粒子との合計量は4.76質量部であり、蓚酸ジルコニウムの量は、ZrO2換算で0.24質量部であった。
得られた光触媒体分散液を20℃で6時間保管したところ、保管中に固液分離は見られなかった。また、得られた光触媒体分散液を用いて形成した光触媒体層の光触媒活性を評価したところ、一次反応速度定数は0.490h-1であった。
【0064】
(実施例2)
実施例1において、蓚酸ジルコニウム(a)の使用量を、ZrO2換算で、光触媒酸化チタン粒子および光触媒酸化タングステン粒子の合計量に対して0.1質量倍に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、光触媒体分散液を得た。この光触媒体分散液100質量部中、光触媒酸化チタン粒子と光触媒酸化タングステン粒子との合計量は4.55質量部であり、蓚酸ジルコニウムの量は、ZrO2換算で0.45質量部であった。
得られた光触媒体分散液を20℃で6時間保管したところ、保管中に固液分離は見られなかった。また、得られた光触媒体分散液を用いて形成した光触媒体層の光触媒活性を評価したところ、一次反応速度定数は0.606h-1であった。
【0065】
(実施例3)
実施例1において、蓚酸ジルコニウム(a)の使用量を、ZrO2換算で、光触媒酸化チタン粒子および光触媒酸化タングステン粒子の合計量に対して0.2質量倍に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、光触媒体分散液を得た。この光触媒体分散液100質量部中、光触媒酸化チタン粒子と光触媒酸化タングステン粒子との合計量は4.16質量部であり、蓚酸ジルコニウムの量は、ZrO2換算で0.84質量部であった。
得られた光触媒体分散液を20℃で6時間保管したところ、保管中に固液分離は見られなかった。また、得られた光触媒体分散液を用いて形成した光触媒体層の光触媒活性を評価したところ、一次反応速度定数は0.508h-1であった。
【0066】
(実施例4)
実施例1において、蓚酸ジルコニウム(a)に代えて製造例4で得た蓚酸ジルコニウム(b)を、ZrO2換算で、光触媒酸化チタン粒子および光触媒酸化タングステン粒子の合計量に対して0.05質量倍となるように用いたこと以外は、実施例1と同様にして、光触媒体分散液を得た。この光触媒体分散液100質量部中、光触媒酸化チタン粒子と光触媒酸化タングステン粒子との合計量は4.76質量部であり、蓚酸ジルコニウムの量は、ZrO2換算で0.24質量部であった。
得られた光触媒体分散液を20℃で6時間保管したところ、保管中に固液分離は見られなかった。また、得られた光触媒体分散液を用いて形成した光触媒体層の光触媒活性を評価したところ、一次反応速度定数は0.346h-1であった。
【0067】
(実施例5)
実施例1において、蓚酸ジルコニウム(a)に代えて製造例4で得た蓚酸ジルコニウム(b)を、ZrO2換算で、光触媒酸化チタン粒子および光触媒酸化タングステン粒子の合計量に対して0.1質量倍となるように用いたこと以外は、実施例1と同様にして、光触媒体分散液を得た。この光触媒体分散液100質量部中、光触媒酸化チタン粒子と光触媒酸化タングステン粒子との合計量は4.55質量部であり、蓚酸ジルコニウムの量は、ZrO2換算で0.45質量部であった。
得られた光触媒体分散液を20℃で6時間保管したところ、保管中に固液分離は見られなかった。また、得られた光触媒体分散液を用いて形成した光触媒体層の光触媒活性を評価したところ、一次反応速度定数は0.337h-1であった。
【0068】
(実施例6)
実施例1において、蓚酸ジルコニウム(a)に代えて製造例4で得た蓚酸ジルコニウム(b)を、ZrO2換算で、光触媒酸化チタン粒子および光触媒酸化タングステン粒子の合計量に対して0.2質量倍となるように用いたこと以外は、実施例1と同様にして、光触媒体分散液を得た。この光触媒体分散液100質量部中、光触媒酸化チタン粒子と光触媒酸化タングステン粒子との合計量は4.16質量部であり、蓚酸ジルコニウムの量は、ZrO2換算で0.84質量部であった。
得られた光触媒体分散液を20℃で6時間保管したところ、保管中に固液分離は見られなかった。また、得られた光触媒体分散液を用いて形成した光触媒体層の光触媒活性を評価したところ、一次反応速度定数は0.385h-1であった。
【0069】
(比較例1)
実施例1において、蓚酸ジルコニウム(a)を添加しないこと以外は、実施例1と同様にして、光触媒体分散液を得た。この光触媒体分散液100質量部中、光触媒酸化チタン粒子と光触媒酸化タングステン粒子との合計量は5.0質量部であった。
得られた光触媒体分散液を20℃で6時間保管したところ、保管中に固液分離は見られなかった。また、得られた光触媒体分散液を用いて形成した光触媒体層の光触媒活性を評価したところ、一次反応速度定数は0.295h-1であった。
【0070】
(比較例2)
実施例1において、製造例1で得た光触媒酸化チタン粒子分散液に代えて、市販の酸化チタン粒子分散液(石原産業社製「STS−01」;硝酸含有、平均分散粒径:50nm、固形分濃度:30質量%)を製造例1で得た光触媒酸化チタン粒子分散液と同じ固形分濃度になるよう水で希釈して用いたこと以外は、実施例1と同様にして、光触媒体分散液を得た。この光触媒体分散液100質量部中、光触媒酸化チタン粒子と光触媒酸化タングステン粒子との合計量は4.76質量部であり、蓚酸ジルコニウムの量は、ZrO2換算で0.24質量部であった。なお、ここで用いた酸化チタン粒子分散液(STS−01)に含まれる酸化チタン粒子のゼータ電位は+40.1mVであった。
得られた光触媒体分散液を20℃で6時間保管したところ、保管中に凝集粒子が生成し、固液分離が起こった。
【0071】
(比較例3)
実施例2において、製造例1で得た光触媒酸化チタン粒子分散液に代えて、比較例2と同じ市販の酸化チタン粒子分散液(STS−01)を製造例1で得た光触媒酸化チタン粒子分散液と同じ固形分濃度になるよう水で希釈して用いたこと以外は、実施例2と同様にして、光触媒体分散液を得た。この光触媒体分散液100質量部中、光触媒酸化チタン粒子と光触媒酸化タングステン粒子との合計量は4.55質量部であり、蓚酸ジルコニウムの量は、ZrO2換算で0.45質量部であった。
得られた光触媒体分散液を20℃で6時間保管したところ、保管中に凝集粒子が生成し、固液分離が起こった。
【0072】
(比較例4)
実施例3において、製造例1で得た光触媒酸化チタン粒子分散液に代えて、比較例2と同じ市販の酸化チタン粒子分散液(STS−01)を製造例1で得た光触媒酸化チタン粒子分散液と同じ固形分濃度になるよう水で希釈して用いたこと以外は、実施例3と同様にして、光触媒体分散液を得た。この光触媒体分散液100質量部中、光触媒酸化チタン粒子と光触媒酸化タングステン粒子との合計量は4.16質量部であり、蓚酸ジルコニウムの量は、ZrO2換算で0.84質量部であった。
得られた光触媒体分散液を20℃で6時間保管したところ、保管中に凝集粒子が生成し、固液分離が起こった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒酸化チタン粒子および光触媒酸化タングステン粒子が分散媒中に分散されてなり、光触媒酸化チタン粒子および光触媒酸化タングステン粒子は表面が互いに同じ極性に帯電しており、さらに、この光触媒酸化チタン粒子および光触媒酸化タングステン粒子と同じ極性に帯電するジルコニウム化合物を含むことを特徴とする光触媒体分散液。
【請求項2】
電子吸引性物質またはその前駆体を含有する請求項1に記載の光触媒体分散液。
【請求項3】
電子吸引性物質またはその前駆体が、Cu、Pt、Au、Pd、Ag、Fe、Nb、Ru、Ir、RhおよびCoから選ばれる少なくとも1種の金属原子を含有してなるものである請求項1または2に記載の光触媒体分散液。
【請求項4】
ジルコニウム化合物の酸化物換算での含有量が、光触媒酸化チタン粒子および光触媒酸化タングステン粒子の合計量に対して0.02〜0.3質量倍である請求項1〜3のいずれかに記載の光触媒体分散液。
【請求項5】
ジルコニウム化合物が蓚酸ジルコニウムである請求項1〜4のいずれかに記載の光触媒体分散液。
【請求項6】
基材の表面に請求項1〜5のいずれかに記載の光触媒体分散液を塗布し、分散媒を揮発させることを特徴とする光触媒機能製品の製造方法。
【請求項7】
基材の表面に請求項1〜5のいずれかに記載の光触媒体分散液を塗布し、分散媒を揮発させて光触媒体層を形成し、この光触媒体層と気相中に含まれる揮発性有機化合物とを光照射下で接触させることを特徴とする揮発性有機化合物の分解方法。

【公開番号】特開2010−120805(P2010−120805A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295396(P2008−295396)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】