説明

光触媒用集電電極、光反応素子および光触媒反応装置、並びに光電気化学反応実行方法

【課題】 光触媒体に接触して設けられ、生成されるキャリアを効率よく収集することのできる光触媒用集電電極、光反応素子、光触媒反応装置および光電気化学反応実行方法の提供。
【解決手段】 光触媒用集電電極27は、光触媒作用により光電気化学反応が生じる光触媒体に接触して、式:(ρi/d)rによって規定される降下電圧の指標E(V)が0.2V以下とされる状態に設けられていることを特徴とする。ただし、ρは光触媒体の比抵抗(Ωcm2 )、dは光触媒体に励起光が照射されることにより光触媒作用を呈する光吸収層20Aにより生じた電流が流れる層の厚み(cm)、iは光触媒体に当該励起光が照射されることにより前記光吸収層において光触媒用集電電極との間に単位幅1(cm)で流れる電流(A)、rは光触媒体の光吸収層における任意の点のうち、光触媒用集電電極との最短距離が最大である一点に係る当該最短距離(cm)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を受けて光電気化学反応の触媒作用を発現させる光触媒体に対して設けられる光触媒用集電電極、この光触媒用集電電極を有する光反応素子および光触媒反応装置、並びに光電気化学反応実行方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光触媒を利用して、例えばエネルギー分野においては光照射によって酸化反応や還元反応などの光電気化学反応によって水を電気分解して水素ガスなどのエネルギー源物質を生成させたり、また環境分野においては光照射によって有害物質や有機物を分解することが広く行われている。
例えば、光触媒を利用した水の電気分解においては、少なくとも一方が光触媒よりなる一対の電極を用いて、一方の電極において酸化反応が行われて酸素ガスが生成されると共に他方の電極において還元反応が行われて水素ガスが生成される。このように水の電気分解を行って水素ガスを得る反応装置においては、例えばガスの分別収集のために酸化反応を生ずる電極と還元反応を生ずる電極とが空間的に分離された状態とする必要がある。
【0003】
このような反応装置においては、光触媒よりなる電極に光が照射されることにより、電子(e- )および正孔(h+ )のキャリア対が生成され、当該光触媒よりなる一方の電極の表面において例えば電子(e- )によって酸化反応を生じると共に、他方の電極の表面において正孔(h+ )によって還元反応を生じるよう、当該正孔(h+ )は、電気的に接続された他方の電極に移動される必要がある。
【0004】
通常、 光触媒体において生成されたキャリアの収集を行う集電電極は、光触媒体の例えば端部の一部分に接触するよう形成されている。
しかしながら、このような状態に形成された集電電極においては、特に光触媒体が抵抗率の高いものである場合には、生成されたキャリアが集電電極に到達することが阻害されて、生成したキャリアについて十分な収集効率が得られず、また、光触媒体が結晶欠陥密度の高いものである場合にも、生成されたキャリアが集電電極に到達する前に再結合されて当該キャリアが消滅してしまうおそれがあり、生成したキャリアについて十分な収集効率が得られないことがある。
【0005】
一方、キャリアを収集して外部へ導出させる集電電極としては、例えば、光起電力素子に対して設けられたものが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
然るに、これらは半導体接合を用いた光起電力素子を対象としたものであり、光触媒を電極として利用して光電気化学反応の半反応を行う場合の当該光触媒におけるキャリアの収集効率を規定したものは今までになかった。
【特許文献1】特開2005−101427号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような事情を考慮してなされたものであって、その目的は、光触媒体に接触して設けられるものであって、光照射によって光触媒体において生成されるキャリアを効率よく収集することのできる光触媒用集電電極を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、光照射によって光触媒体において生成されるキャリアを効率よく収集することのできる光反応素子、およびこの光反応素子を有する光触媒反応装置、並びに光電気化学反応実行方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の光触媒用集電電極は、光触媒作用により光電気化学反応が生じる光触媒体に接触して設けられる光触媒用集電電極であって、下記式(1)によって規定される降下電圧の指標Eが0.2V以下とされる状態に設けられていることを特徴とする。
式(1) 降下電圧の指標E(V)=(ρi/d)r
〔ただし、上記式(1)において、
ρは、光触媒体の比抵抗(Ωcm2 )、
dは、光触媒体に励起光が照射されることにより光触媒作用を呈する光吸収層により生じた電流が流れる層の厚み(cm)、
iは、光触媒体に当該励起光が照射されることにより前記光吸収層において光触媒用集
電電極との間に単位幅1(cm)で流れる電流(A)、
rは、光触媒体の光吸収層における任意の点のうち、光触媒用集電電極との最短距離が最大である一点に係る当該最短距離(cm)である。〕
【0009】
このような光触媒用集電電極は、光触媒体において光が照射されるべき光照射領域を連続して囲む形状とすることができる。
また、光触媒体において光が照射されるべき光照射領域を、一箇所の不連続箇所を除いて連続して囲む形状とすることができる。
さらに、このような光触媒用集電電極は、光触媒体において光が照射されるべき光照射領域に沿って配置された、互いに導電部材を介して電気的に接続された複数の電極部分よりなる形状とすることができる。この光触媒用集電電極においては、電気的に接続された2つの電極部分間の導電部材における電気抵抗が、1Ω以下であることが好ましい。
【0010】
これらの光触媒用集電電極は、光照射領域の周りを囲む環状形状であってもよく、また、光照射領域内における光触媒作用を呈する面に露出した状態に設けられていてもよい。この場合、光触媒用集電電極における光触媒体と接触する部分以外の部分は、SiOx やSiNx などの誘電体や絶縁体などよりなる覆いを設けることによって電解液などの被接触体と電気的に絶縁した状態とされる。
【0011】
本発明の光触媒用集電電極においては、光触媒体が窒化物半導体化合物、酸化物半導体化合物、および酸窒化物半導体化合物のいずれかよりなることが好ましい。
【0012】
本発明の光反応素子は、板状の絶縁性基体の一面上に層状の光触媒体が形成され、当該光触媒体の表面上に上記の光触媒用集電電極が設けられていることを特徴とする。
また、本発明の光反応素子は、板状の導電性基体の一面上に層状の光触媒体が形成され、前記導電性基体が上記の光触媒用集電電極として機能することを特徴とする。
【0013】
本発明の光触媒反応装置は、一対の電極を有し、
光触媒作用により光電気化学反応が生じる光触媒反応装置であって、
これらのうち少なくとも一方の電極が、上記の光触媒用集電電極を有する光反応素子よりなり、当該光触媒用集電電極を介して他方の電極に電気的に接続されており、
前記光反応素子の光触媒体に光が照射されることにより、当該光触媒体における当該光が照射される光照射面またはその反対面の少なくともいずれか一方において光電気化学反応が生じるものであることを特徴とする。
【0014】
この光触媒反応装置においては、光の照射は、一対の電極間に電圧が印加された状態において行われる構成とすることもできる。
【0015】
本発明の光電気化学反応実行方法は、上記の光触媒用集電電極を有する光反応素子を用い、当該光反応素子の光触媒体に光を照射し、当該光触媒体において光電気化学反応を生じさせることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の光触媒用集電電極によれば、光触媒体の光吸収層に対して特定の条件を満たす位置、形状に形成されたものであるので、光照射によって生成されたキャリアを高い効率で収集することができる。
【0017】
このような光触媒用集電電極は、例えば電気抵抗が大きい光触媒体や、電気抵抗が小さくても結晶欠陥密度が高くキャリアの再結合が促進された光触媒体や、厚みが極めて小さい光触媒体に対して設けた場合であっても、実用上、必要な電流を得ることができる。
【0018】
本発明の光反応素子によれば、光触媒体の光吸収層に対して特定の条件を満たす位置、形状に形成された光触媒用集電電極を有するので、光照射によって生成されたキャリアを高い効率で収集することができる。
【0019】
本発明の光触媒反応装置および光電気化学反応実行方法によれば、光触媒体の光吸収層に対して特定の条件を満たす位置、形状に形成された光触媒用集電電極を有するので、光照射によって生成されたキャリアを高い効率で収集することができて一方の電極である光触媒体から他方の電極に高い効率で収集されたキャリアが移動され、結局、光照射により高い光変換効率で酸化還元反応などの光電気化学反応を生じさせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0021】
図1は、本発明の光触媒反応装置の構成の一例を示す模式的断面図であり、図2は、本発明の光触媒用集電電極が設けられた光反応素子の構成の一例を示すものであって、(a)が平面図、(b)がA−A線拡大断面図である。
【0022】
<光触媒反応装置>
この光触媒反応装置11は、電解液に接触した状態とされて互いに電気的に接続された一対の電極のうちの一方の電極が、本発明の光触媒用集電電極27が設けられてなる光触媒体20よりなるものである。
【0023】
光触媒反応装置11は、具体的には、酸化槽12Aおよび還元槽12Bが各々の下部において接続チューブ12Cによって連通されると共に、酸化槽12Aおよび還元槽12Bの各々の上部においてこれらと連通した状態に上方に伸びたガス収集管12E,12Fが設けられ、これにより、電解液によって満たされた電解液槽12が構成されている。電解液は、例えば水(H2 O)、塩酸/水酸化カリウム/塩化カリウム水溶液(HCl/KOH/KCl)などとすることができる。
また、酸化槽12Aにおいては、光反応素子10が、酸化槽12Aの周壁に形成された開口15が当該光反応素子10の光触媒体20の励起光Lが照射されるべき光照射面である一面Rが電解液に接触するよう水密に塞がれた状態にO−リング16を介して設けられていると共に、還元槽12Bにおいては、その底部を貫通して上方に伸びる状態に、金属電極18が挿入されており、この光反応素子10の光触媒体20と金属電極18とは、光触媒用集電電極27およびポテンショスタッド19を介して電気的に接続されている。さらに、必要に応じて、酸化槽12Aにおいてはその底部を貫通して上方に伸びる状態に、一面Rの電位を測定するための例えば銀/塩化銀/塩化ナトリウム電極よりなる参照電極17が挿入されている。
この酸化槽12Aの周壁における開口15と対向する部分には、光源(図示せず)からの励起光Lを電解液を介して光反応素子10の一面Rに照射するための光透過用窓12Dが形成されている。
図2において、19aは、光反応素子10の光触媒体20と金属電極18との間に電圧を印加する場合に用いる電圧印加用電源である。
【0024】
ここに、本発明の光触媒用集電電極27は、光触媒体20に対して接触して設けられるものであって、光触媒体20において生成されるキャリアを当該光触媒体20の外部に導出する機能を有する。
【0025】
このような光触媒用集電電極27が設けられる光触媒体20は、例えば単層または多層の薄層状のものであって、その一面Rに励起光Lが照射されることによって、当該一面Rを有する光吸収層20Aにおいて電荷(キャリア)が生成されるものである。
この光吸収層20Aは、光触媒体20のうちの、励起光Lが照射されることによって光触媒作用を呈する層状の部分であり、励起光Lの種類や強度によりその厚みが決定されるものである。
【0026】
この光吸収層20Aは、厚みすなわち一面Rからの深さが、0.01〜0.5μm、好ましくは0.01〜0.2μm、さらに好ましくは0.01〜0.1μmである。
【0027】
このような光触媒体20としては、例えば、AlN、GaN、InN、(Alx Ga1-x y In1-y N(0≦x≦1、0≦y≦1)などの窒化物半導体化合物;TiO2 、SrTiO3 、ZrO2 、K4 Nb6 17、NaTaO3 などの酸化物半導体化合物;TiOx 2-x (0<x≦2)などの酸窒化物半導体化合物などの例えばn型やp型の半導体化合物を挙げることができる。
【0028】
この光触媒体20は、抵抗率が1×10-3Ωcm〜5×101 Ωcmであることが好ましい。また、例えばvan der Pauw法によって測定したキャリア濃度が1×1017/cm〜5×1018/cmとされるものとすることができる。
【0029】
この光触媒体20を構成する化合物は、n型、p型の半導体化合物に限定されるものではなく、pn接合型などの半導体化合物であってもよく、また、キャリア濃度段差を有するような積層構造や、単結晶性の異なる複数の層の積層構造、あるいは組成の異なる化合物よりなる複数の層の積層構造などの多層構造のものであってもよい。
以下においては、この光触媒体20はn型の半導体よりなる場合について説明する。
【0030】
光触媒反応装置11においては、一方の電極である光触媒体20における光が照射されるべき一面Rのみが電解液に接触されている。そして、この電解液に接触された一面Rにおいては、光照射により生成された電荷(キャリア)を介して当該電解液に対して光触媒作用が発揮されて光電気化学反応を生じる。
具体的には、この光触媒反応装置11においては、光触媒体20に対応する他方の電極が、例えば白金などの金属よりなる金属電極18によって構成されており、これにより、一方の電極である光触媒体20の一面Rが酸化反応が行われる陽極とされ、他方の電極である金属電極18が、その表面において一方の電極の一面Rにおける電気化学反応に対応する反応、すなわち還元反応が行われる陰極とされている。
【0031】
この光触媒反応装置11においては、光触媒体20の一面Rに光が照射されることにより、当該一面Rにおいて酸化反応が生じると共に、金属電極18の表面において還元反応が生じる。
ここに、上述のような光触媒体20の一面Rに光を照射させることに加えて、一対の電極間に適宜の大きさの電圧を印加することにより、光触媒体20における酸化反応および金属電極18における還元反応が促進される。
【0032】
光触媒体20の一面Rに励起光Lを照射する光源としては、当該光触媒体20を構成する化合物のバンドギャップより大きいエネルギーを持つ光を放射するものであれば特に限定されず、太陽、水銀ランプ、キセノンランプ、白熱灯、蛍光灯、LED、レーザーなどを用いることができる。
例えば、光触媒体20を構成する化合物が窒化ガリウム(GaN)である場合には、バンドギャップが3.4eVであるので、365nm以下の光が照射されればよい。
【0033】
そして、本発明の光触媒用集電電極27は、光触媒体20に対して、接触状態において、下記式(1)によって規定される降下電圧の指標Eの値が0.2V以下、好ましくは0.15V以下、さらに好ましくは0.1V以下とされるよう、設けられている。
式(1) 降下電圧の指標E(V)=(ρi/d)r
【0034】
上記式(1)において、ρは、光触媒体20の比抵抗(Ωcm2 )であり、dは、光触媒体20に励起光が照射されることにより光触媒作用を呈する光吸収層20Aで生成されるキャリアを導電する層の厚み(cm)であり、iは、光触媒体20に当該励起光が照射
されることにより前記光吸収層において光触媒用集電電極との間に単位幅1(cm)で流れる電流(A)であり、rは、図3に示されるように、光触媒体20の光吸収層20Aにおける任意の点のうち、光触媒用集電電極27との最短距離が最大である一点(以下、「最離間点」ともいう。)Mに係る当該最短距離(cm)である。
降下電圧の指標Eは、最離間点Mから、この最離間点Mを中心とした半径rの円の外周縁上の電極端部点Nへの電流の流れ難さの程度を示すものである。
【0035】
ここに、光触媒体20に照射される励起光は、例えば励起光として太陽光を用いる場合には、太陽光スペクトルを有する100mW/cm2 のエネルギー量の光とされ、例えば励起光として水銀ランプ、キセノンランプなどよりの人工的な光を用いる場合には、これらのランプが各々有するスペクトルの全光量よりなる光とされる。
【0036】
上記式(1)で規定される降下電圧の指標Eの値が過大であると、光触媒用集電電極27が、光吸収層20Aにおいて生成されたキャリアを高い効率で収集することができないものとなってしまう。
【0037】
このような光触媒用集電電極27は、具体的には、例えば光触媒体20の一面R上において光が照射されるべき光照射領域の周りを連続して囲む円環状や角型などの形状のものとすることができる。
【0038】
光触媒体20における最離間点Mに係る当該最短距離r(cm)は、例えば2cm以下であることが好ましく、さらに好ましくは1cm以下、特に好ましくは0.5cm以下、最も好ましくは0.2cm以下とされる。光触媒体20における最離間点Mがこの範囲にあることにより、光触媒用集電電極27および光触媒体20間のキャリアの移動距離が十分に小さいものとなって降下電圧の指標Eの値が十分に低くなり、キャリアについて高い収集効率が得られる。
【0039】
光触媒用集電電極27を形成する材料(以下、「集電電極形成材料」ともいう。)は、その材質の比抵抗が、光触媒体20を形成する材料の比抵抗よりも低いものとされる。
また、集電電極形成材料は、光触媒体20との接触箇所において、ショットキーバリアなどの電流に対する障壁の形成されないもの、すなわち光触媒体20といわゆるオーミック的な接触が形成されるものとされる必要がある。具体的には、この集電電極形成材料は、光触媒体20を形成する化合物が例えば窒化ガリウム(GaN)であった場合には、この窒化ガリウムよりなる光触媒体20の表面上に例えば薄膜状のチタン(Ti)層27bをスクリーン印刷法やスパッタ法、真空蒸着法などにより形成させ、さらにこのチタン層27b上に、例えば銅線などよりなるリード線29の接着性の観点から、薄膜状の金層27aをスクリーン印刷法やスパッタ法、真空蒸着法などにより形成させて、必要に応じて熱処理を加えて構成されたものとすることができる。
図1において、28は、金層27aにリード線29を接着するためのはんだである。
【0040】
ここに、「オーミック的な接触が形成される」とは、最離間点Mおよび電極端部点N間において測定される印加電圧と電流との関係が、ゼロバイアス付近において直線的な関係からずれている領域における印加電圧の幅が実用上1V以下であることをいい、このゼロバイアス付近において直線的な関係からずれている領域における印加電圧の幅は好ましくは0.5V以下、さらに好ましくは0.2V以下である。
【0041】
本発明の光反応素子10は、例えば板状の絶縁性の基体25の一面上に例えばバッファ層21を介して上記の光触媒体20が積層され、この光触媒体20における光が照射されるべき一面R上に光触媒用集電電極27が形成されたものである。
【0042】
光反応素子10における光触媒体20の厚さは、例えば1.5〜4.0μmである。
【0043】
このような光触媒体20は、例えば有機金属気相成長法(MOVPE法)や水素化物気相成長法(HVPE法)による常圧結晶成長法や減圧結晶成長法などの公知の結晶成長法を用いて得ることができる。
【0044】
上記の光触媒反応装置11においては、以下のように光電気化学反応が実行される。すなわち、例えば電解液が水(H2 O)である場合には、まず、光源から光Lが光透過用窓12Dを介して光反応素子10の一面Rに照射されることによって光吸収層20Aにおいて電子(e- )および正孔(h+ )が生成され、この一面Rの電解液に接触した領域において正孔(h+ )によって電解液中の水酸化物イオン(OH- )または水(H2 O)が酸化される酸化反応が生じると共に、光吸収層20Aから光触媒用集電電極27に収集された電子(e- )がポテンショスタット19を介して移動し、金属電極18の表面における電解液と接触された領域において移動された電子(e- )によって電解液中の水素イオン(H+ )または水(H2 O)が還元される還元反応が生じる。
その結果、酸化槽12Aの光反応素子10においては酸素ガスが、還元槽12Bの金属電極18においては水素ガスが生じ、これらの酸素ガスおよび水素ガスは、各々ガス収集管12E,12Fに収集される。
【0045】
以上の光触媒用集電電極27によれば、光触媒体20の光吸収層20Aに対して特定の条件を満たす位置、形状に形成されたものであるので、光照射によって生成されたキャリアを高い効率で収集することができる。
【0046】
また、以上の光反応素子10によれば、光触媒体20の光吸収層20Aに対して特定の条件を満たす位置、形状に形成された光触媒用集電電極27を有するので、光照射によって生成されたキャリアを高い効率で収集することができる。
【0047】
さらに、以上の光触媒反応装置11および光電気化学反応実行方法によれば、光触媒体20の光吸収層20Aに対して特定の条件を満たす位置、形状に形成された光触媒用集電電極27を有するので、光照射によって生成されたキャリアを高い効率で収集することができて一方の電極である光反応素子10から他方の電極である金属電極18に高い効率で収集されたキャリアが移動され、結局、この光反応素子10および金属電極18の電解液と接触された表面において高い光変換効率で酸化還元反応などの光電気化学反応を生じさせることができる。
【0048】
以上の光触媒用集電電極、光反応素子および光触媒反応装置においては、例えば以下(1)〜(11)に示す種々の変更を加えることができる。
【0049】
(1)光触媒用集電電極は、円環状や角型などの形状のものに限定されず、図4(イ)に示されるように、例えば光触媒体20における光照射領域を一箇所の不連続箇所27αを除いて連続して囲む形状とすることもできる。
この不連続箇所27αの幅、すなわち光触媒用集電電極27の先端271と後端272との距離は、20mm以下であることが好ましく、さらに好ましくは10mm以下、特に好ましくは5mm以下、最も好ましくは2mm以下とされる。
(2)光触媒用集電電極は、光触媒体20における光照射領域に沿って配置された、図4(ロ)、(ハ)に示されるように、互いに導電部材Wを介して電気的に接続された複数の電極部分よりなるものであってもよい。図4(ロ)は2つの電極部分からなるものを示し、図4(ハ)は4つの電極部分からなるものを示す。
このような光触媒用集電電極においては、電気的に接続された隣接する2つの電極部分間の導電部材Wにおける電気抵抗が、1Ω以下とされ、具体的には、例えば導電部材Wを一般的な金属などの導線により構成することができる。
この光触媒用集電電極を構成する電極部分の数は、上記の条件を満たせばいくつであってもよい。
隣接する2つの電極部分間の距離は、好ましくは20mm以下、さらに好ましくは10mm以下、特に好ましくは5mm以下、最も好ましくは2mm以下とされる。
【0050】
(3)光触媒用集電電極は、最離間点Mに係る最短距離rを小さくするために、光照射領域内における光触媒作用を呈する面に露出した状態に設けられていてもよい。この場合、光触媒用集電電極における光触媒体と接触する部分以外の部分は、SiOx やSiNx などの誘電体や絶縁体などによって被覆されて電解液などの被接触体と電気的に絶縁した状態とされる。
【0051】
(4)光反応素子は、絶縁性の基体25上に積層された光触媒体20の表面上に光触媒用集電電極27を形成させて構成することに限定されず、導電性の基体上に光触媒体20を積層させ、前記導電性の基体を光触媒用集電電極として機能させる構成とすることもできる。
このような光触媒用集電電極として機能する基体25においては、図5に示されるように、降下電圧の指標Eに係るrは、当然のことながら、最短距離が面方向と垂直方向の距離の両方が含まれた形として規定される。
【0052】
(5)光反応素子は、光触媒体20の基体に接触されるべき裏面に励起光Lを照射することができるよう、当該基体を光透過性を有するものとして構成してもよい。
このように光透過性の基体を有する光反応素子は、当該光反応素子における光触媒体20の表面および/または裏面に励起光Lを照射するものとして構成することができる。
例えば光触媒用集電電極が光触媒体の表面上に形成される場合に用いられる絶縁性の光透過性の基体としては、石英ガラスなどを挙げることができ、例えば基体が光触媒用集電電極として機能するよう構成する場合に用いられる導電性の光透過性の基体としては、ITOなどの導電性ガラスなどを挙げることができる。
【0053】
(6)光反応素子は、絶縁性の基体の両面上に光触媒体を積層させ、各々の光触媒体の表面上にそれぞれ光触媒用集電電極を形成させて構成することもでき、導電性の基体の両面上に光触媒体を積層させ、前記導電性の基体を光触媒用集電電極として機能させる構成としてもよい。
このように基体の両面上に光触媒体を有する光反応素子は、各々の光触媒体の表面に励起光Lを照射するものとして構成することができる。
【0054】
(7)光触媒反応装置は、一対の電極としてn型の窒化物半導体よりなる光触媒体20および金属電極18を用いることに限定されず、p型の窒化物半導体よりなる光触媒体(以下、「p型光触媒体」ともいう。)および金属電極を用いることもできる。この場合、p型光触媒体が陰極として機能して還元反応が生じると共に金属電極が陽極として機能して酸化反応が生じる。
【0055】
(8)光触媒反応装置は、一対の電極としてn型の窒化物半導体よりなる光触媒体(以下、「n型光触媒体」ともいう。)およびp型光触媒体を用いることもできる。この場合、n型光触媒体が陽極として機能して酸化反応が生じると共にp型光触媒体が陰極として機能して還元反応が生じる。
【0056】
(9)光触媒反応装置においては、光反応素子の基体が光透過性を有するものである場合には、励起光Lを、電解液に接触された光触媒体20の表面に当該電解液を介して照射されることに限定されず、基体に接触された裏面に照射させる構成とすることもできる。
【0057】
(10)光触媒反応装置は、一方の電極である光触媒体20のみが電解液に接触した構成に限定されず、光触媒体20を有する光反応素子10全体が電解液に浸漬された構成であってもよい。
【0058】
(11)光触媒反応装置は、これを構成する光反応素子10の光触媒体20が接触されるべき電解質が液体状のものに限定されず、例えば気体状や固体状の電解質であってもよい。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
〔光反応素子の製造例1〕
図2に示す構成に従って光反応素子を作製した。すなわち、まず、100kPaでサファイアよりなる板状の基体を水素ガス中にて1100℃で10分間アニールし、その後基体の温度を520℃まで下げ、この基体の(0001)+c面上に、トリメチルガリウム(TMGa)およびアンモニア(NH3 )を水素ガスをキャリアガスとして継続的に供給し、10分間、窒化ガリウム(GaN)よりなる50nmの厚みのバッファ層を成長させた。
次に、基体の温度を1040℃まで上昇させ、バッファ層の表面上に、トリメチルガリウム(TMGa)およびアンモニア(NH3 )を水素ガスをキャリアガスとして継続的に供給すると共に10ppmの水素希釈シラン(SiH4 )を2sccmの流量で継続的に供給し、60分間、ケイ素原子(Si)をドープした窒化ガリウム(GaN)よりなる厚み2.2μmの光触媒体を成長させた。
さらに、光触媒体の表面上に、真空蒸着法によって図2(a)に示す20mmφの環状形状に薄膜状の厚さ10nmのチタン層を形成させ、続いてこのチタン層上に真空蒸着法によって薄膜状の厚さ50nmの金層を形成することにより光触媒用集電電極を形成させ、これによりn型の光反応素子を得た。
この光反応素子についての降下電圧の指標Eの値は、0.09Vであった。
【0061】
〔比較用光反応素子の製造例1〕
環状形状とする代わりに、図6に示す点状の、最離間点Mに係る当該最短距離rが25mmである光触媒用集電電極(27A)を1つ形成させたことの他は光反応素子の製造例1と同様にして、比較用の光反応素子(10A)を得た。
この比較用の光反応素子(10A)についての降下電圧の指標Eの値は、0.23Vであった。
【0062】
<実施例1、比較例1>
図1に従って、光触媒反応装置を製造した。
具体的には、この光反応素子および比較用光反応素子を陽極として用い、光触媒用集電電極を設けた面を触媒反応面として使用し、この光触媒用集電電極からインジウム製のはんだによって接着した銅製のリード線により、陰極と電気的に接続した。陰極としては白金電極を用い、さらに、銀/塩化銀/塩化ナトリウム電極を参照電極として用いると共に、電解液として1mol/LHClを用い、光触媒反応装置および比較用光触媒反応装置を製造した。
触媒反応面を構成する面の中央部分における直径10mmの円形領域に150Wのキセノンランプの光源より光が照射される構成とした。
【0063】
[光電気化学反応テスト]
以上の光触媒反応装置および比較用光触媒反応装置のそれぞれを用いて、太陽光を照射した状態において印加電圧(V)に対し、電流値が安定したときの光誘起電流密度(mA/cm2 )を測定した。結果を図7に示す。
図7においては、光触媒反応装置および比較用光触媒反応装置に係る結果を、それぞれ(a)および(b)として示した。
【0064】
図7の結果から明らかなように、実施例1に係る光触媒反応装置においては、ゼロバイアス付近においても大きな光誘起電流密度が得られる、すなわち光触媒用集電電極による高い集電効率が確認された。
一方、比較例1に係る一点電極よりなる比較用光触媒反応装置においては、太陽光の照射と共に電圧の印加を行っても極めて小さい光誘起電流密度しか得られなかった。(ゼロバイアスでの光誘起電流密度が小さく、すなわち光触媒用集電電極による集電効率が低いことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の光触媒反応装置の構成の一例を示す模式的断面図である。
【図2】本発明の光触媒用集電電極が設けられた光反応素子の構成の一例を示すものであって、(a)が平面図、(b)がA−A線拡大断面図である。
【図3】光触媒用集電電極が光触媒体の表面上に専用に設けられた場合における、光触媒体の光吸収層の最離間点を模式的に示す平面図である。
【図4】本発明の光触媒用集電電極の形状の他の例を示す平面図である。
【図5】光反応素子の基体が光触媒用集電電極として機能している場合における、光触媒体の光吸収層の最離間点を模式的に示す断面図である。
【図6】比較例1に係る光触媒用集電電極の形状を示す概略説明図である。
【図7】実施例1および比較例1に係る光反応素子に対して光照射を行った状態における、光誘起電流密度と印加電圧との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0066】
10,10A 光反応素子
11 光触媒反応装置
12 電解液槽
12A 酸化槽
12B 還元槽
12C 接続チューブ
12D 光透過用窓
12E,12F ガス収集管
15 開口
16 O−リング
17 参照電極
18 金属電極
19 ポテンショスタット
19a 電圧印加用電源
20 光触媒体
20A 光吸収層
21 バッファ層
25 基体
27,27A 光触媒用集電電極
271 先端
272 後端
27α 不連続箇所
27a 金層
27b チタン層
28 はんだ
29 リード線
L 光
R 一面
W 導電部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒作用により光電気化学反応が生じる光触媒体に接触して設けられる光触媒用集電電極であって、下記式(1)によって規定される降下電圧の指標Eが0.2V以下とされる状態に設けられていることを特徴とする光触媒用集電電極。
式(1) 降下電圧の指標E(V)=(ρi/d)r
〔ただし、上記式(1)において、
ρは、光触媒体の比抵抗(Ωcm2 )、
dは、光触媒体に励起光が照射されることにより光触媒作用を呈する光吸収層により生じた電流が流れる層の厚み(cm)、
iは、光触媒体に当該励起光が照射されることにより前記光吸収層において光触媒用集
電電極との間に単位幅1(cm)で流れる電流(A)、
rは、光触媒体の光吸収層における任意の点のうち、光触媒用集電電極との最短距離が最大である一点に係る当該最短距離(cm)である。〕
【請求項2】
光触媒体において光が照射されるべき光照射領域を連続して囲む形状であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒用集電電極。
【請求項3】
光触媒体において光が照射されるべき光照射領域を、一箇所の不連続箇所を除いて連続して囲む形状であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒用集電電極。
【請求項4】
光触媒体において光が照射されるべき光照射領域に沿って配置された、互いに導電部材を介して電気的に接続された複数の電極部分よりなることを特徴とする請求項1に記載の光触媒用集電電極。
【請求項5】
電気的に接続された2つの電極部分間の導電部材における電気抵抗が、1Ω以下であることを特徴とする請求項4に記載の光触媒用集電電極。
【請求項6】
光触媒体が窒化物半導体化合物、酸化物半導体化合物、および酸窒化物半導体化合物のいずれかよりなることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の光触媒用集電電極。
【請求項7】
板状の絶縁性基体の一面上に層状の光触媒体が形成され、当該光触媒体の表面上に請求項1〜請求項6のいずれかに記載の光触媒用集電電極が設けられていることを特徴とする光反応素子。
【請求項8】
板状の導電性基体の一面上に層状の光触媒体が形成され、前記導電性基体が請求項1または請求項5に記載の光触媒用集電電極として機能することを特徴とする光反応素子。
【請求項9】
一対の電極を有し、
光触媒作用により光電気化学反応が生じる光触媒反応装置であって、
これらのうち少なくとも一方の電極が、請求項1〜請求項6のいずれかに記載の光触媒用集電電極を有する光反応素子よりなり、当該光触媒用集電電極を介して他方の電極に電気的に接続されており、
前記光反応素子の光触媒体に光が照射されることにより、当該光触媒体における当該光が照射される光照射面またはその反対面の少なくともいずれか一方において光電気化学反応が生じるものであることを特徴とする光触媒反応装置。
【請求項10】
光の照射は、一対の電極間に電圧が印加された状態において行われることを特徴とする請求項9に記載の光触媒反応装置。
【請求項11】
請求項1〜請求項6のいずれかに記載の光触媒用集電電極を有する光反応素子を用い、当該光反応素子の光触媒体に光を照射し、当該光触媒体において光電気化学反応を生じさせることを特徴とする光電気化学反応実行方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−107043(P2007−107043A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298397(P2005−298397)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】